説明

固体食品の描画方法

【課題】固体食品の表面に図柄を描く方法として、従来、印刷法やモールドによる成形法があるが、いずれも型や版下を準備することが必要であったり、食用インクを使わざるを得ないなどの問題があった。また、一部もしくは全部が熱によって溶ける粉末を固体食品に載せ、それを加熱して固着させたり、あるいは何らかの糊材を使用するなどによって粉末を固着させる方法もあるが、簡便に且つ精細な図柄を表現できる商業的方法が求められていた。
【解決手段】固体食品の表面に特定の図柄を描くようにレーザー照射を行い、照射部分のみに粘着性物質をしみ出させ、その照射部を覆うように食用粉末を振りかけて照射部のみに粉末を固着させ、それ以外の部分の粉末を除去することによって、何らの糊材も使わず、固着のための加熱作業等も行わずに繊細な図柄を固体食品の表面に描くことができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体食品の表面に絵や文字を描く方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体食品の表面に絵や文字などの図柄を描く方法として一般に使われている代表的な方法には、固体食品の成形時にモールドを用いる方法や、焼印、印刷や転写などの方法がある。これらの方法はいずれも版下や型を作成する必要があり、少量生産には不適である。
【0003】
その他には、インクジェットプリンタを使う方法がある。しかし、この方法では食用インクを使う必要があり、多くの消費者には好まれない。
【0004】
また、熱可塑性の粉末を固体食品に載せて文字や絵柄を表現し、その後に加熱して粉末を溶かし、食品表面に付着させる方法も使われている。
【0005】
その他に、熱可塑性の表面をもつ食品の表面にレーザー光等の集束光線を選択的に照射して加熱変形させ、更にはその部分に流体吹付けや吸引、もしくは機械的加圧などの手段を用いて変形させる方法が提案されている。(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平1−108940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、固体食品、特にマカロンや餅のような菓子類などに図柄を描くには、手書きや印刷などで食用材料を貼付する方法か、焼印、もしくは熱で溶ける性質をもつ材料で図柄を描いた後に加熱して固着させる方法しかなかった。しかし、これらの方法では低コストで少量生産を行うには手間やコストがかかりすぎることや、チョコレートなどの熱可塑性食品では、描画のために加熱することは不可であり、いずれも商業上問題があった。
一方、レーザー照射などの集束光線を使って直接固体食品に描画する場合には、出力が強いと焦げるという問題が発生し、逆に出力を下げると十分視認できるような描画ができないという矛盾が生じ、両者が両立する条件は一般には見いだせない。
このため、例えばチョコレート表面にレーザー照射を使って図柄を表現する方法として、レーザー照射によってチョコレート表面にごく微細な凸凹を作り、このために照射部分の色が異なって見える現象を利用した描画方法が提案されている(特許第3931262号)。
この方法では、特殊な条件下でレーザー照射するだけでチョコレート表面に図柄を表現することができ、風味や食感もほとんど変化しないことが主張されている。
しかしながら、ほとんどの固体食品、特に焼き菓子などの表面は元々凹凸があり、これにレーザー照射をして図柄を描いても、ごく微細な凸凹を作るだけでは図柄は全く見えない。
一方、例えばマカロンやホワイトチョコレートなどのように、材料によってはレーザーのエネルギーによってメイラード反応が生じ、描画部分がやや茶褐色に変化させられるものはあるが、それだけでは十分な視認性が得られない。十分な視認性が得られるほどにレーザー出力を上げて照射すると、照射部分は深く削れるが、同時に焦げが発生し、風味や食感に強く影響してしまうという不都合が生じる。
【0008】
以上の理由から、上記のいずれの方法も商業的に優位に利用可能な固体食品への描画方法とは言えない。そこで本発明は、モールド法や印刷法等によらず、また食品を描画のために再加熱することもなく、繊細で明瞭な絵や文字を固体食品の表面に描く方法およびそれによって製造する固体食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1の発明は、固体食品の表面にパルスレーザーを走査して照射し、その照射面に粉末を固着させて図柄を描くことを特徴とする食品の描画方法およびこれによって製造される食品である。
【0010】
また、請求項2の発明は、固体食品が、その表面が粘着性のない固形食品であることを特徴とする請求項1記載の描画方法およびこれによって製造される食品である。
【0011】
また、請求項3の発明は、粉末を固着させる方法が、単にその粉末をレーザー照射部分に載せるだけであって、糊材など固着のための異材料を使わず、且つ、加熱処理も行わないことを特徴とする請求項1記載の描画方法およびこれによって製造される食品である。
【0012】
請求項1記載の固体食品とは、常温で固体である食品をいう。
【0013】
請求項2記載の粘着性とは、粉末を付着させると固着してしまう性質をいう。
【0014】
請求項3記載の加熱処理とは、固体食品の表面に載せた粉末を固体食品に固着させるために行う方法であって、加熱方法は輻射熱・熱風・電子レンジ加熱等その方法は問わず、加熱によって粉末の全部もしくは一部が溶けることによって固体食品の表面に固着することをいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明者らは、固体食品にレーザーを照射すると、多くの固体食品では内部に含まれる水分や油分などの液体物質が非照射部分にわずかに滲みでてくる現象を見出した。この物質移動によってパルスレーザーの非照射部が部分的に粘着性を帯びることにより、そのままで粉末を固着させることができ、固着させるための糊材等の使用は必要なく、加熱操作などを併用する必要もないことを発見したものである。
【0016】
本発明で描画した固体食品は、単に表面を削ったり、あるいは凹凸をつけることだけで描画したものとは図柄の視認性が著しく異なり、商品価値の高い製品になる。
【0017】
また、本発明により使用する粉末は、食用粉末であれば何でもよく、その性質を問わない。
【0018】
更には、描く図柄はレーザー照射の走査プログラムを変更することによって任意に且つ迅速に設定可能であって、少量多品種の生産に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、予め固化成形されたマカロン2もしくは餅2a、あるいはホワイトチョコレート2bを炭酸ガスパルスレーザー彫刻装置に置き、予めその制御装置1に設定した画像情報に沿ってレーザー走査装置4とレーザー発光部3を制御してレーザー光5をマカロン2もしくは餅2a、あるいはホワイトチョコレート2bに照射することにより、深さが概ね0.1〜1mmの絵や文字の彫刻6を施す。そのレーザーは、定格出力が25Wのパルスレーザーを使用し、出力を定格の40乃至75%に設定する。
【0020】
彫刻を施したあと、速やかにココア粉末をレーザー照射部分に振りかけ、5乃至10分間常温下で放置する。
【0021】
その後に刷毛などを使って粉末を取り除く。これによって、非描画部分のココア粉末はほぼ全量が除去されるが、レーザー照射部分に付着したココア粉末は固着しており、その部分に残る。
【0022】
これらの実施形態によれば、マカロンや餅などの固体食品の表面はごく短時間パルスレーザー照射に晒されることによって水分や油分など粘着性の液体が滲み出るため、その上に載せたココア粉末などを固着する機能が生じるが、レーザー照射されていない部分は粘着性がないために粉末を固着し得ない、このため、レーザー照射した部分にのみ粉末を残すことができ、鮮やかな図柄を表面に残すことができる。
【0023】
更にはレーザー照射部分に粉末を固着させることにより、レーザー照射で出てくる粘着性物を粉末が完全に覆うため、固体食品自体あるいはそれを入れた容器の内面を汚すこともない。
【0024】
粉末にココア粉末を用い、この方法によって図柄を描いた餅は、焼いてもその図柄はそのまま残り、美観上も優れた製品となる。
【0025】
マカロンなどは、粉末をレーザー照射部に固着させ、それ以外の部分の粉末を除去した後は冷蔵や凍結処理を行っても描画部分が剥がれることはない。
【0026】
一方、ホワイトチョコレートにこの方法で描画した場合、レーザー照射後は描いた図柄はほとんど見えないが、レーザー照射によってホワイトチョコレートに含まれる油脂の一部が溶け、これにココア粉末を載せると容易に固着し、ココア粉末を固着させた後は図柄は極めて鮮明に残る。
【0027】
以下、上記方法が、一般的なレーザー彫刻と異なる点について説明する。レーザーは、金属やガラス、ゴム、木材、皮、紙類などの溶接、切断、もしくは彫刻に広く利用されているが、食品への描画用途にはほとんど使われておらず、チョコレート類の描画に利用した事例の報告例として前述の特許文献にレーザーを使うことが記述されているにすぎない。
その理由として一般的に考えられるのは、一般工業材料のような凹凸や目に見える傷を作る方法でのレーザー描画では、ほとんどの食品は焦げてしまい、風味を著しく損なうことになるからである。これを防ぐには上記特許のように、品質に影響を与えない軽度の照射条件でも図柄を十分表現できる方法が考えられるべきである。
【0028】
レーザーを部分的に照射することにより、多くの固体食品は内部に有する水分や油分等がレーザーの熱エネルギーによって滲み出し、非照射部分のみに粘着性を持つ。表面に粘着性のない固体食品の場合、レーザー照射によってその部分のみに粘着性のある液体を滲み出させることが可能で、これによって他の粉末をその特定の部位にだけ、糊材などを使わずに固着させることができる。
これによれば、極めて繊細な図柄でも正確に粉末を固着させることが可能で、極めて簡便に精細な図柄をごく短時間で描くことができる。しかも余計な粘着性物質は粉末の固着によって覆われてしまい、他の部分を汚すこともない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の一実施例を説明するための装置の概略図である。
【符号の説明】
1 制御装置
2、2a、2b 非描画材料(マカロン、餅、ホワイトチョコレート)
3 レーザー発光部
4 レーザー走査装置
5 レーザー光
6 絵や文字の彫刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体食品の表面にパルスレーザーを走査して照射し、その照射面に粉末を固着させて図柄を描くことを特徴とする食品の描画方法およびこれによって製造される食品。
【請求項2】
固体食品が、その表面が粘着性のない固形食品であることを特徴とする請求項1記載の描画方法およびこれによって製造される食品。
【請求項3】
粉末を固着させる方法が、単にその粉末をレーザー照射部分に載せるだけであって、糊材など固着のための異材料を使わず、且つ、加熱処理も行わないことを特徴とする請求項1記載の描画方法およびこれによって製造される食品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−239765(P2011−239765A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128316(P2010−128316)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(506115905)
【出願人】(510155922)
【Fターム(参考)】