説明

固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法、及び、固体高分子型燃料電池用セパレータ

【課題】水溶性有機物や水溶性イオンの溶出も少ない固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法、及び、この方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】黒鉛と結合材とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形してなる固体高分子型燃料電池用セパレータ1の製造方法において、前記結合材がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂又はフェノールノボラック型樹脂を含有すると共に硬化剤としてトリフェニルホスフィン又はイミダゾールを含有し、黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有することを特徴とするもので、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータ1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法、及び、この方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、複数の単位セルを数十乃至数百個直接重ねて所定の電圧を得ている。単位セルは、最も基本的な構造の場合、例えば、「セパレータ/アノード/固体高分子膜/カソード/セパレータ」という構成で電解質を介して一対の電極を接触させ、これら電極のうちの一方に燃料を、他方に酸化剤を供給し、燃料の酸化を電池内で電気化学的に行うことにより、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。この燃料電池には電解質によりいくつかのタイプがあるが、近年、高出力が得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が注目されている。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池は、図3に示したように、左右両側面に複数個の凸部(リブ)1aを備えた2枚の燃料電池セパレータ1と、これらセパレータ間に固体高分子電解質膜2と、ガス拡散電極(燃料電極3と酸化剤電極4)とを介在させてなる単電池(単位セル)9を数十個乃至数百個並設してなる電池本体(セルスタック)から構成されている。
【0004】
この固体高分子型燃料電池は、燃料電極に流体である水素ガス5を、酸化剤電極4に流体である酸素ガス(または空気)6を供給することにより、外部回路より電流を取り出すものであるが、この際、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。
燃料電極反応 :H→2H+2e…(1)
酸化剤電極反応:2H+2e+1/2O→HO (2)
全体反応 :H+1/2O→H
即ち、燃料電極3上で水素(H)はプロトン(H)となり、このプロトンが固体高分子電解質膜中を酸化剤電極4上まで移動し、酸化剤電極4上で酸素(O)と反応して水(HO)7を生ずる。従って、固体高分子型燃料電池の運転には、反応ガスの供給と排出、電流の取り出しが必要となる。また、固体高分子型燃料電池は、通常、室温乃至120℃以下の範囲での湿潤雰囲気下での運転が想定されており、そのため水を液体状態で扱うことになるので、燃料電極3への水の補給管理と酸化剤電極4からの水の排出が必要となる。
【0005】
このような燃料電池を構成する部品のうち、燃料電池セパレータ1は、図3に示したように、薄肉の板状体の片面又は両面に複数個のガス供給排出用溝8を有する形状を有しており、燃料電池内を流れる燃料ガスである水素ガス5、酸化剤ガスである酸素ガス(または空気)6及び冷却水が混合しないように分離する働きを有すると共に、燃料電池セルで発電した電気エネルギーを外部へ伝達したり、燃料電池セルで生じた熱を外部へ放熱するという重要な役割を担っている。
【0006】
一方、かかる燃料電池のセパレータに関しては、一般に、以下のような特性が要求される。即ち、(1)高導電性、(2)腐食性電解質に対する耐久性、(3)ガスを分離するための気密性、(4)燃料電池に組み立て時のボルトとナットによる締め付けでセパレータに割れやヒビが生じない強度、更には機械的強度を有すること、特に自動車等の移動用電源として用いる場合には優れた耐振動性及び耐衝撃性を有すること(5)複雑な形状を形成するための成形性、(6)低コスト性、(7)耐膨潤性(水やリン酸液に浸しても膨潤しないもの)、(8)耐熱性(反応時の発熱に耐えるもの)等である。
【0007】
かかる固体高分子型燃料電池のセパレータの構成素材としては、従来より、生産性やコストの面から有利な各種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を結合材(バインダー)として用いた炭素複合材料が提案されている。
【0008】
また、特開2000−348740号公報では、長期安定性に優れた燃料電池のセパレータとして、黒鉛及び熱硬化性樹脂を成分とする樹脂成形体においてその樹脂成形体中に含まれる不純物濃度が100ppm以下にすることが提案されている。
【0009】
しかしながら、このような熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を結合材として用いた炭素複合材料からなる燃料電池セパレータは、従前より使用されていたグラファイト板を機械加工して製造するセパレータよりも、生産性やコストの面では優れているものの、機械的強度、耐薬品性、ガス透過性、寸法安定性、特に不純物の溶出の性能面において十分満足できるものではないのが現状であり、燃料電池用セパレータとしての特性がより優れ、且つ、バランスの優れた燃料電池用セパレータ部材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−348740号公報(第3頁 段落[0015])
【特許文献2】特開2000−100453号公報(第4頁 段落[0019]〜第5頁 段落[0028])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事由に鑑み、なされたもので、本発明の目的は、上記に挙げた諸特性に加えて、水溶性有機物や水溶性イオンの溶出も少ない固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法、及び、この方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、黒鉛と結合材とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形してなる固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記結合材がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂又はフェノールノボラック型樹脂を含有すると共に硬化剤としてトリフェニルホスフィン又はイミダゾールを含有し、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記プロトン性溶媒が、水、アルコール類、低級カルボン酸類、或いは、これらの混合物であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1または請求項2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の全有機炭素濃度(totalorganic carbon[TOC])が100ppm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項4記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の電気伝導度が、2mS/cm以下であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項5記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材がエポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも一種類の熱硬化性樹脂を含んでなることを特徴とするものである。
【0017】
請求項6記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項5記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程の前に、150℃〜250℃の温度領域で、1時間〜12時間程度のアフターキュアを行なうことを特徴とするものである。
【0018】
請求項7記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項5または請求項6記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材がエポキシ樹脂と、フェノール樹脂とを含んでなり、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール樹脂を0.85〜1.15当量含有することを特徴とするものである。
【0019】
請求項8記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材が直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでなることを特徴とするものである。
【0020】
請求項9記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材が下記一般式(1)で示される無機イオン交換材を含有することを特徴とするものである。
【0021】
SbBi(OH)(NO・nHO …(1)
〔但し、式中のa、mはそれぞれ1〜2、cは1〜7、dは0.2〜3、eは0.05〜3、nは0〜2である。〕
請求項10記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの発明にあっては、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法により製造したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、黒鉛と結合材とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形してなる固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記結合材がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂又はフェノールノボラック型樹脂を含有すると共に硬化剤としてトリフェニルホスフィン又はイミダゾールを含有し、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有することを特徴とするので、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0023】
請求項2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記プロトン性溶媒が、水、アルコール類、低級カルボン酸類、或いは、これらの混合物であることを特徴とするので、請求項1記載の発明の効果に加えて、簡便に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0024】
請求項3記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1または請求項2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の全有機炭素濃度(TOC)が100ppm以下であることを特徴とするので、請求項1または請求項2記載の発明の効果に加えて、確実に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0025】
請求項4記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の電気伝導度が、2mS/cm以下であることを特徴とするので、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0026】
請求項5記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材がエポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも一種類の熱硬化性樹脂を含んでなることを特徴とするので、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、得られる固体高分子型燃料電池用セパレータの腐食性電解質に対する耐久性、耐膨潤性、及び耐熱性等を確保し得るという優れた効果を奏する。
【0027】
請求項6記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項5記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程の前に、150℃〜250℃の温度領域で、1時間〜12時間程度のアフターキュアを行なうことを特徴とするので、請求項5記載の発明の効果に加えて、不純物、特に未硬化熱硬化性樹脂組成物に由来する有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0028】
請求項7記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項5または請求項6記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材がエポキシ樹脂と、フェノール樹脂とを含んでなり、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール樹脂を0.85〜1.15当量含有することを特徴とするので、請求項5または請求項6記載の発明の効果に加えて、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0029】
請求項8記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材が直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでなることを特徴とするので、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることができるという優れた効果を奏する。
【0030】
請求項9記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法において、前記結合材が下記一般式(1)で示される無機イオン交換材を含有することを特徴とするので、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発明の効果に加えて、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られるという優れた効果を奏する。
【0031】
SbBi(OH)(NO・nHO …(1)
〔但し、式中のa、mはそれぞれ1〜2、cは1〜7、dは0.2〜3、eは0.05〜3、nは0〜2である。〕
請求項10記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの発明にあっては、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法により製造したことを特徴とするので、特に、得られた固体高分子型燃料電池用セパレータが、不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータとなるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】セパレータ金型の概略を示す断面図である。
【図2】接触抵抗の測定方法の概略を示す概念図である。
【図3】固体高分子型燃料電池の単電池(単位セル)の概略を示す斜視図である。
【図4】固体高分子型燃料電池用セパレータの概略を示すもので、(a)は、両面に、ガス供給排出用溝8を有するものの斜視図、(b)は、片面のみに、ガス供給排出用溝8を有するものの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を実施例を交え、説明する。すなわち、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法は、黒鉛と結合材(バインダー)とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形した後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有するものである。この結果、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることができる。この場合において、結合材が10質量%未満になると成形性が低下し30質量%を超えると導電性が低下し燃料電池用セパレータとして使用できなくなる。
【0034】
一方、使用可能なプロトン性溶媒としては、水、アルコール類、低級カルボン酸類、或いは、これらの混合物を例示でき、さらに具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、アルコキシエタノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等、及び、これらの混合物が例示可能であるが、これらのみに限定されるものではない。
【0035】
洗浄回数についても、特に、限定はなく、複数回の洗浄が可能であり、また、この際、種類、成分比の異なるプロトン性溶媒で、順次洗浄するようにしてもよい。但し、この場合において、最終洗浄時には、水、メタノール、エタノール或いは、これらの混合物等の比較的低沸点(例えば、沸点100℃程度以下)のものを使用すれば、その後の乾燥が容易で、特に、好都合である。
【0036】
かかる洗浄工程を経ることにより、簡便に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることとなる。この結果、固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の全有機炭素濃度(TOC)が100ppm以下とすることも可能であり、このような固体高分子型燃料電池用セパレータは、確実に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータであるといえる。すなわち、この全有機炭素濃度(TOC)が、100ppm以下であれば、固体高分子型燃料電池としての特性を維持できるが、これが、100ppmを超えるとイオン交換膜の被毒等の問題が顕在化することとなるからである。
【0037】
一方、イオン交換膜の被毒を防止するという観点からは、水溶性有機物系不純物のみならず、イオン系不純物も、低減することが必要とされる。この意味において、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の電気伝導度が、2mS/cm以下とすることができるので、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることも可能となる。
【0038】
上記したように、燃料電池のセパレータに関しては、腐食性電解質に対する耐久性、耐膨潤性、耐熱性(反応時の発熱に耐えるもの)等が要求される。かかる固体高分子型燃料電池のセパレータの構成素材としては、従来より、生産性やコストの面から有利な各種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を結合材(バインダー)として用いた炭素複合材料が提案されているが、同時に、構成材料の選択に際して、イオン系不純物の低減にも留意することが、必要とされる。
【0039】
ここで、結合材として、熱硬化性樹脂を使用する場合には、エポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも一種類の熱硬化性樹脂を含んでなるものを使用すれば、得られる固体高分子型燃料電池用セパレータの腐食性電解質に対する耐久性、耐膨潤性、及び耐熱性等を確保することができる。
【0040】
さらに、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程の前に、150℃〜250℃の温度領域で、1時間〜12時間程度のアフターキュア(後硬化)を行なうようにすれば、不純物、特に未硬化熱硬化性樹脂組成物に由来する有機物系不純物の溶出が、さらに少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることとなる。
【0041】
一方、結合材として使用する樹脂材料の流動性はその樹脂材料の溶融粘度、硬化挙動、充填材の種類や量により左右されることが知られているが、特にエポキシ樹脂においては、低粘度の樹脂を選択することによって、成形性を維持し黒鉛を高充填化できる。
【0042】
エポキシ樹脂の硬化剤は、上記課題解決に寄与し得る限りにおいて、公知のものが使用できる。これについても、質量換算した値でナトリウムイオン及び塩素イオンの含有率が、5ppm以下であることが好ましい。これらの含有率が、5ppmを超えると燃料電池として特性低下が発生する恐れがあるからである。
【0043】
また、上記結合材として、使用可能な熱硬化ポリイミド樹脂としては、ビスマレイミド樹脂等を例示することができる。これにより成形品の耐熱性を高めることができる。これらについても高純度のものが好ましいことは勿論である。
【0044】
さらに、上記結合材として用いられるフェノール樹脂としては、特に、制限はないが、開環重合するフェノール樹脂が好適である。かかる開環重合するフェノール樹脂としては、例えば、特開2000−100453号公報(段落[0019]〜段落[0028])に開示されているようなジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂等が例示できる。
【0045】
すなわち、このような開環重合するフェノール樹脂は、その成形工程においても、縮合反応に伴う縮合水等の揮発成分が発生しないので、成形品中にボイドの発生を低減し得るからである。これらのフェノール樹脂についても、質量換算した値でナトリウムイオン及び塩素イオンの含有率が、5ppm以下であることが好ましい。これらの含有率が、5ppmを超えると燃料電池として特性低下が発生する恐れがあるからである。したがって、結合材として、かかる開環重合するフェノール樹脂を使用すれば、成形時のボイド等の発生を抑制し得ることとなる。
【0046】
さらに、上記結合材として、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂とを含んでなり、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール樹脂を0.85〜1.15当量含有する樹脂組成のものを使用すると、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることが明らかとなった。
【0047】
一方、本発明では、結合材として、熱可塑性樹脂もその構成材料とでき、例えば、直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、直鎖型PAS樹脂と記すことがある)を少なくとも含む一種の熱可塑性樹脂を使用することができる。かかる直鎖型PAS樹脂は、溶融粘度が低く、黒鉛を高充填化でき、イオン性不純物が少なく、また耐薬品性に優れる点で特に好ましい。
【0048】
直鎖型PAS樹脂は、繰り返し単位 −Ar− (但し、Arはアリール基)を主構成単位とするポリマーであって、その代表的物質は、構造式 −Ph−S− (但し、Phはフェニル基)で示される繰り返し単位を70モル質量%以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂である。
【0049】
PPS樹脂は、一般に、その製造方法により、実質上、架橋型、半架橋型、直鎖型等に分類されるが、本発明においては、直鎖型のものが、機械的強度とイオン性不純物量の点で、優れている為好適に使用可能である。特に、融点が260℃以上、溶融粘度が、パラレルプレート法により、温度300℃、角速度100rad/sの条件で、1〜30Pa・sであるものが好適に用いられる。パラレルプレート法は、厚み1mm×直径25mmのペレットをハンドプレスで作製し、直径25mmの下部のパラレルプレート上にペレットを置いて上部パラレルプレートを降ろして挟み、300℃で10分間保持した後に測定をすることによって行なわれるものであり、例えば、レオメトリックサイエンティフィック社製、アレス(商品名)等で好適に測定することができる。
【0050】
さらに、本発明で用いる直鎖型PAS樹脂は、純水で抽出した抽出水中の電気伝導度が、50mS/cm以下が望ましく、特に、同電気伝導度が、2mS/cm以下が好適である。一方、その下限については、理想的には0mS/cmであるが、実用上の下限は0.01mS/cm程度となる。
【0051】
いずれにしても、純水で抽出した抽出水中の電気伝導度が、50mS/cm以上になると、耐湿信頼性が悪化する場合があるので好ましくない。特に、かかる電気伝導度に悪影響を及ぼすイオン性不純物について、具体的には、純水で抽出した抽出水中のナトリウムイオンや塩素イオン等の含有量は、ナトリウムイオン、塩素イオンともに質量換算した値で5ppm以下で好適に使用可能である。一方、その下限については、理想的には質量換算した値で0ppmであるが、実用上の下限はナトリウムイオン、塩素イオンともに0.1ppm程度となる。
【0052】
いずれにしても、純水で抽出した抽出水中のナトリウムイオン、或いは、塩素イオンの含有量が、5ppmを超えると燃料電池としての特性低下が懸念され、好ましくない。このことは、換言すれば、水溶性イオン系不純物を充分に低減した直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでなる結合材を使用すれば、水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることができることとなる。
【0053】
一方、本発明で使用する黒鉛組成物における黒鉛の役割は、電気比抵抗を低減してセパレータの導電性を向上させることにあり、使用可能な黒鉛としては高い導電性を示すものであれば制限はなく、各種黒鉛、例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化したもの、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化したものの他、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等が例示可能である。
【0054】
また、これら各種黒鉛についても、これが精製された天然黒鉛、または人造黒鉛であれば、灰分やイオン性不純物が少ない点で好ましい。すなわち、黒鉛における灰分が0.05%以下で、かつ抽出水中のイオン性不純物が、質量換算した値でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。灰分が0.05%を超えると燃料電池として特性低下が発生する恐れがある。抽出水中のイオン性不純物が、樹脂質量換算した値でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppmを越える燃料電池として特性低下が発生する恐れがある。
【0055】
以上、述べたように、結合材の構成材料中の水溶性イオン系不純物を低減するためには、上記したように、予め、充分に水溶性イオン系不純物を低減した構成材料を選択するとともに、かかる構成材料中に、微量に残存する水溶性イオン系不純物を吸着、捕捉して、溶出しないようにする方策も有効である。すなわち、このような水溶性イオン系不純物を吸着、捕捉する物質(捕捉材)を結合材の構成材料中に配合しておいて、結合材の構成材料中に残存する水溶性イオン系不純物を吸着、捕捉しようというものである。かかる捕捉材としては、無機イオン交換物質が例示され、さらに具体的には、ゼオライト、ハイドロタルサイト、チタニアや下記一般式(1)で示されるもの等が例示可能であるが、中でも上記一般式で示される無機イオン交換材が好適である。
【0056】
SbBi(OH)(NO・nHO …(1)
〔但し、式中のa、mはそれぞれ1〜2、cは1〜7、dは0.2〜3、eは0.05〜3、nは0〜2である。〕
すなわち、結合材が上記一般式(1)で示される無機イオン交換材を含有するようにすれば、水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることとなる。さらに具体的には、この無機イオン交換体がイオン性不純物や加水分解してくるイオンを吸着、捕捉して、結合材中の樹脂成分の耐湿信頼性の低下を防ぐ役割を担うこととなるが、かかる無機イオン交換体の配合量は、結合材100質量部に対して、0.5〜5.0質量部程度の範囲が好ましい。すなわち、無機イオン交換体の配合量が、0.5質量部程度未満であると、イオンの吸着、捕捉の効果を十分に得ることができない。しかし、逆に無機イオン交換体の配合量が5.0質量部程度を越えると、無機イオン交換体がイオン化するため、逆に、信頼性の低下を招来するおそれもある。
【0057】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法にあっては、重要な電気伝導度の評価は、成形後の成形品の接触抵抗を測定することにより達成可能である。具体的には、図2(後述)に示すようにして測定可能である。
【0058】
また、水溶性イオンである塩素、ナトリウムが5ppm以下であることが好ましい。これらが、5ppmを超えると燃料電池として特性低下が発生し5ppm以下であると特性低下が発生しない。
【0059】
このように、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータにおいては、特に、得られた固体高分子型燃料電池用セパレータが、不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータとすることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂EOCN−1020(日本化薬(株)製)12.9質量部、フェノールノボラック樹脂PSM−6200(群栄化学(株)製)6.67質量部、硬化剤トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.13質量部、人造黒鉛粉SGS60((株)中越黒鉛工業所製、平均粒径60μm)80質量部を含んでなる樹脂組成物(黒鉛組成物)を表1に示す量で配合した後、これを、95℃に加熱したプラネタリーミキサーで混練した。得られた混練物を粉砕し、得られた粉砕物を図1に示すようなセパレータ金型10に入れ、温度175℃、圧力350kg/cmの条件で20分間成形して得た成形体Bをメタノール200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA1(比表面積:約20cm/g)を得た。
【0062】
(実施例2)
上記実施例1で得られた成形体とまったく同様にして得た成形体Bを水200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA2を得た。
【0063】
(実施例3)
上記実施例1で得られた成形体とまったく同様にして得た成形体Bをメタノール水溶液(50質量%)200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA3を得た。
【0064】
(実施例4)
上記実施例1で得られた成形体とまったく同様にして得た成形体Bを酢酸水溶液(5質量%)200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、さらに、水200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA4を得た。
【0065】
(実施例5)
上記実施例1で得られた成形体Bとまったく同様にして得た成形体Bを175℃、3時間加熱するアフターキュアを施して、成形体Cとした後、メタノール200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA5を得た。
【0066】
(実施例6)
上記実施例5で得られた成形体Cとまったく同様にして得たアフターキュア後の成形体Cを水200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA6を得た。
【0067】
(実施例7)
上記実施例5で得られた成形体Cとまったく同様にして得たアフターキュア後の成形体Cをメタノール水溶液(50質量%)200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA7を得た。
【0068】
(実施例8)
上記実施例1で得られた成形体Bとまったく同様にして得た成形体Bを200℃、1時間加熱するアフターキュアを施して、成形体Dとした後、酢酸水溶液(5質量%)200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、さらに、水200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA8を得た。
【0069】
以下、実施例9〜実施例16,参考例17,実施例18についても、下記表2、3に示す配合条件で上記実施例5と同様にして実施した。すなわち、実施例15における無機イオン交換体(IXE−633)、参考例17におけるベンゾオキサジン樹脂についても表3に示す所定量を樹脂組成物(黒鉛組成物)中に配合、混練して、上記実施例5と同様にして実施し、所定のテストピースA9〜A18を得た。
【0070】
(実施例19)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂EOCN−1020(日本化薬(株)製)13.8質量部、フェノールノボラック樹脂PSM−6200(群栄化学(株)製)5.77質量部、硬化剤トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.13質量部、人造黒鉛粉SGS60((株)中越黒鉛工業所製、平均粒径60μm)80質量部を含んでなる樹脂組成物(黒鉛組成物)を表4に示す量で配合した後、これを、95℃に加熱したプラネタリーミキサーで混練した。得られた混練物を粉砕し、得られた粉砕物を図1に示すようなセパレータ金型10に入れ、温度175℃、圧力350kg/cmの条件で20分間成形して得た成形体Eを175℃、3時間加熱するアフターキュアを施して、成形体Fとした後、メタノール200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA19(比表面積:約20cm/g)を得た。
【0071】
(参考例20)
ポリアリーレンスルフィド樹脂LR01G((株)トープレン製、溶融粘度6.0Pa・s [上記パラレルプレート法〔温度300℃、角速度100rad/s〕による])20質量部、人造黒鉛UFG L025(昭和電工(株)製、平均粒径75μm)80質量部を含んでなる樹脂組成物(黒鉛組成物)を配合(表4参照)した後、これを2軸混練押出機で300℃にて溶融混練した。得られた混練物を粉砕し、この粉砕物を金型温度150℃、射出圧力500kg/cmの条件で図1に示すようなセパレータ金型10中に射出成形して得た成形体Gをメタノール200ml中に投入、攪拌して10分間洗浄した後、40℃で24時間乾燥してテストピースA20(比表面積:約20cm/g)を得た。
【0072】
(比較例1)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂EOCN−1020(日本化薬(株)製)12.9質量部、フェノールノボラック樹脂PSM−6200(群栄化学(株)製)6.67質量部、硬化剤トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.13質量部、人造黒鉛粉SGS60((株)中越黒鉛工業所製、平均粒径60μm)80質量部を含んでなる樹脂組成物(黒鉛組成物)を表4に示す量で配合した後、これを、95℃に加熱したプラネタリーミキサーで混練した。得られた混練物を粉砕し、得られた粉砕物を図1に示すようなセパレータ金型10に入れ、温度175℃、圧力350kg/cmの条件で20分間成形してテストピースA21[成形体B](比較例1)を得た。
【0073】
以下、比較例2、比較例3についても、表4に示す配合条件で上記比較例1と同様にして実施し、テストピースA22(比較例2)、テストピースA23(比較例3)を得た。
【0074】
(比較例4)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂EOCN−1020(日本化薬(株)製)12.9質量部、フェノールノボラック樹脂PSM−6200(群栄化学(株)製)6.67質量部、硬化剤トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.13質量部、人造黒鉛粉SGS60((株)中越黒鉛工業所製、平均粒径60μm)80質量部を含んでなる樹脂組成物(黒鉛組成物)を表4に示す量で配合した後、これを、95℃に加熱したプラネタリーミキサーで混練した。得られた混練物を粉砕し、得られた粉砕物を図1に示すようなセパレータ金型10に入れ、温度175℃、圧力350kg/cmの条件で20分間成形して得た成形体Bを175℃、3時間加熱するアフターキュアを施してテストピースA24を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
なお、各実施例、参考例、比較例で配合に用いた原材料等は以下の通りである。
<樹脂>
・クレゾールノボラック系エポキシ樹脂
EOCN−1020(日本化薬(株)製):エポキシ当量199(塩素イオン 2ppm、ナトリウムイオン 2ppm)
YDCN201(東都化成(株)):エポキシ当量200(塩素イオン 7ppm、ナトリウムイオン 8ppm)
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂
830CRP(大日本インキ化学):エポキシ当量171(粘度3000cps(25℃)、塩素イオン 2ppm、ナトリウムイオン 3ppm)
・フェノールノボラック樹脂
PSM6200(群栄化学(株)):OH当量105(塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 1ppm)
・ベンゾオキサジン樹脂
B−m(四国化成工業(株))(粘度 14.5cps(80℃)、塩素イオン 4ppm、ナトリウムイオン 4ppm)
・ポリアリーレンスルフィド樹脂
LR01G((株)トープレン製)(溶融粘度6.0Pa.s[パラレルプレート法〔温度300℃、角速度100rad/s〕による]、塩素イオン 3ppm、ナトリウムイオン 3ppm)
<硬化剤>
・トリフェニルホスフィン
TPP(北興化学(株)製)(塩素イオン 3ppm、ナトリウムイオン 3ppm)
・2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール
2P4MHZ−PW(四国化成工業(株)製)(塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 5ppm)
<黒鉛>
人造黒鉛 SGS60((株)中越黒鉛工業所製)平均粒径:60μm(灰分 0.07%、塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 4ppm)
人造黒鉛 SGP100((株)SEC製)平均粒径:100μm(灰分 0.03%、塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 3ppm)
人造黒鉛 SGP5((株)SEC製)平均粒径:5μm(灰分 0.03%、塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 4ppm)
人造黒鉛 UFG−L025(昭和電工(株)製)平均粒径:75μm(塩素イオン 1ppm、ナトリウムイオン 3ppm)
天然黒鉛 CGC100(日本黒鉛工業(株)製)平均粒径:100μm(灰分0.65%、塩素イオン 10ppm、ナトリウムイオン 14ppm)
<無機イオン交換体>
IXE−633[SbBi1.46.4(OH)0.9(NO0.4・6HO](東亜合成(株)製)
<ワックス>
天然カルナバ H1−100(大日化学(株)製)
エチレンビスモンタン酸アマイド J−900(大日化学(株)製)
上記実施例1〜16、参考例17、実施例18,19、参考例20、比較例1〜4について得られた試料(テストピース[比表面積:約20cm/g]1〜23)についての性能評価、すなわち、この試料の抽出水における全有機炭素濃度(TOC)、電気伝導度、水溶性イオン分析の測定結果、および、固体高分子型燃料電池用セパレータとしての評価、具体的には、接触抵抗の測定結果、および、電圧保持率の測定結果を表5および表6に示す。
【0080】
全有機炭素濃度(TOC)の測定はJIS0551−4.3により行なった。この全有機炭素濃度は、比表面積が、約20cm/gのテストピースである上記実施例1〜16、参考例17、実施例18,19、参考例20、比較例1〜4について得られた試料(テストピースA1〜A24)を90℃で50時間処理した後の水溶液を用いて測定した数値である。測定は、以下のように行った。(1)テストピースをメタノールで1分間洗浄する。(2)テストピースをイオン交換水で1分間洗浄する。(3)ガラスビン中にテストピースとその10倍量(質量比)のイオン交換水を入れ、90℃で50時間保持する。(4)リン酸を添加しpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング製 東レアストロTOC自動分析計 MODEL1800)で有機炭素量を測定することにより、TOCの測定値(ppm)を得た。
【0081】
一方、塩素イオン、ナトリウムイオン等の水溶性イオンの測定は、以下のようにおこなった。すなわち、以上の各実施例、各参考例、各比較例で得られたテストピース(比表面積:約20cm/g)を(1)メタノール(特級)100ml中で、1分間静置する。(2)イオン交換水100ml中で15秒間静置する。(3)新たに用意したイオン交換水100ml中で、95℃で50時間抽出処理したものをイオンクロマトグラフ法[イオンクロマトグラフィ:島津製作所製(CDD−6A)]で測定した値を樹脂質量で換算した値で評価した。一方、電気伝導度は、水溶性イオン測定のための上記抽出水を導電率計[(株)堀場製作所製(ES−12)]で測定して求めた。
【0082】
接触抵抗(mΩcm)の測定方法は、以下のとおりである。すなわち、図2は接触抵抗の測定方法を説明するための概念図であり、テストピースAの上下にカーボンペーパー11を配置し、更にその上下に銅板12を配置し、上下方向に面圧0.5MPaの圧力をかける。2枚のカーボンペーパー11間の電圧を電圧計13で読むと同時に、2枚の銅板12間の電流を電流計14で読んで抵抗(平均値)を計算する。なお、カーボンペーパー11は、東レ(株)製のTGP−H−Mシリーズ(090M:厚さ0.28mm、120M:厚さ0.38mm)を使用した。
【0083】
一方、燃料電池1の長期信頼性を評価するため、表5、6に示すように、上記実施例1〜16、参考例17、実施例18,19、参考例20、比較例1〜4について得られたテストピースA1〜A23を燃料電池セパレータ1として使用して200時間連続発電試験を行った後、電圧を測定して初期電圧に対する電圧保持率を算出した。
【0084】
評価方法は上記実施例1〜16、参考例17、実施例18,19、参考例20、比較例1〜4について得られたテストピースA1〜A24を燃料電池セパレータとして使用して、それぞれイオン交換膜水素極及び酸素極とともに組み立てて、個々に燃料電池を製造した後、外部回路を接続した状態でこれらの燃料電池を連続的に動作させ、起電力の電圧値(V)の経時的な変動の様子をそれぞれ評価した。初期値に対する変化率で表示した。
【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
上記表1〜4に示すように、実施例1〜16、参考例17、実施例18,19、参考例20は、黒鉛と結合材(バインダー)とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形した後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有するものである。この結果、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることができる。かかる洗浄工程を経ることにより、簡便に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることとなる。
【0088】
この結果、固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の全有機炭素濃度(TOC)が100ppm以下とすることも可能であり、このような固体高分子型燃料電池用セパレータは、確実に、不純物、特に水溶性有機物系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータであるといえる。
【0089】
一方、イオン交換膜の被毒を防止するという観点からは、水溶性有機物系不純物のみならず、イオン系不純物も、低減することが必要とされる。この意味において、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法の発明にあっては、固体高分子型燃料電池用セパレータにおける、その抽出水中の電気伝導度が、2mS/cm以下とすることができるので、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることも可能となる。
【0090】
さらに、樹脂組成物(黒鉛組成物)を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程の前に、150℃〜250℃の温度領域で、1時間〜12時間程度のアフターキュア(後硬化)を行なうようにすれば、不純物、特に未硬化熱硬化性樹脂組成物に由来する有機物系不純物の溶出が、さらに少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることが判った(実施例5〜16、参考例17、実施例18)。
【0091】
さらに、開環重合するフェノール樹脂としてベンゾオキサジン樹脂であるB−m(四国化成工業(株)製)を用いた参考例17においては、電圧保持率の良好な結果から、成形時のボイド等の発生の低減が推認できた。
【0092】
さらに、実施例5と実施例19との比較から、上記結合材として、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂とを含んでなり、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール樹脂を0.85〜1.15当量含有する樹脂組成のものを使用すると、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることが明らかとなった。
【0093】
一方、参考例20の結果より水溶性イオン系不純物を充分に低減した直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでなる結合材を使用すれば、水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータを得ることができることが判った。
【0094】
さらに、イオン性不純物を捕捉し得る無機イオン交換材であるIXE−633を使用した実施例15の実験結果より、不純物、特に水溶性イオン系不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータが得られることが明らかとなった。
【0095】
このように、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータにおいては、特に、得られた固体高分子型燃料電池用セパレータが、不純物の溶出の少ない固体高分子型燃料電池用セパレータとすることができることが判った。
【符号の説明】
【0096】
1 燃料電池セパレータ
1a 凸部(リブ)
2 固体高分子電解質膜
3 燃料電極
4 酸化剤電極
5 水素ガス
6 酸素ガス(または空気)
7 水[水蒸気](HO)
8 ガス供給排出用溝
9 単電池(単位セル)
10 セパレータ金型
10a セパレータ金型(上型)
10b セパレータ金型(下型)
11 カーボンペーパー
12 銅板
13 電圧計
14 電流計
A1〜A24 テストピース
B 成形体
C 成形体
D 成形体
E 成形体
F 成形体
G 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛と結合材とを含有し、黒鉛と結合材との合計100質量%中、黒鉛を70〜90質量%、結合材を10〜30質量%の割合で含有する黒鉛組成物を成形してなる固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記結合材がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂又はフェノールノボラック型樹脂を含有すると共に硬化剤としてトリフェニルホスフィン又はイミダゾールを含有し、前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記プロトン性溶媒が、水、アルコール類、低級カルボン酸類、或いは、これらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、その抽出水中の全有機炭素濃度が100ppm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、その抽出水中の電気伝導度が、2mS/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記結合材がエポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選ばれる少なくとも一種類の熱硬化性樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記黒鉛組成物を成形する工程の後、プロトン性溶媒で洗浄する工程の前に、150℃〜250℃の温度領域で、1時間〜12時間程度のアフターキュアを行なうことを特徴とする請求項5記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記結合材がエポキシ樹脂と、フェノール樹脂とを含んでなり、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール樹脂を0.85〜1.15当量含有することを特徴とする請求項5または請求項6記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記結合材が直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記結合材が下記一般式(1)で示される無機イオン交換材を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
SbBi(OH)(NO・nHO …(1)
〔但し、式中のa、mはそれぞれ1〜2、cは1〜7、dは0.2〜3、eは0.05〜3、nは0〜2である。〕
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法により製造した固体高分子型燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−224347(P2009−224347A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162082(P2009−162082)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【分割の表示】特願2003−46845(P2003−46845)の分割
【原出願日】平成15年2月25日(2003.2.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】