説明

固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体

一般式(3):


(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態を有するときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを、膜及び触媒バインダーの少なくとも一方に用いる、固体高分子型燃料電池用膜/電極接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の側鎖構造を有し特定の分子量の範囲のフッ素化スルホン酸ポリマーが、優れた化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)、高耐熱性、高プロトン伝導性とともに高機械的強度と小さな乾湿寸法変化を併せ持つ材料となるという発見に基づくものであり、該フッ素化スルホン酸ポリマーを膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いることを特徴とした、耐久性に優れ、特に高温領域での運転に適した固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体、およびその関連部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質として固体高分子隔膜を用いた燃料電池が、小型軽量化が可能であり、かつ、比較的低温でも高い出力密度が得られることから注目され、開発が加速されている。
このような目的に用いられる固体高分子材料には、優れたプロトン伝導度、適度な保水性、水素ガス、酸素ガス等に対するガスバリア性等が要求される。このような要件を満たす材料として、スルホン酸基、ホスホン酸基等を有する高分子が種々検討され、多くの材料が提案されてきている(例えば、O.Savadogo、Jounal of New Materials for Electrochemical Systems I、47−66(1998)など参照)。
しかし、実際の燃料電池運転条件下では、電極において高い酸化力を有する活性酸素種が発生し、特に、長期にわたり燃料電池を安定に運転させるためには、このような過酷な酸化雰囲気下での耐久性が要求される。現在までに提案されている多くの炭化水素系材料は、燃料電池の運転の初期特性に関しては優れた特性を示すものも報告されているが、耐酸化性に問題がある。
このため、現在、実用化に向けた検討としては、下記一般式(1):

(式中、k/l=3〜10、m=2、n=0,1)
で表されるパーフルオロスルホン酸ポリマーが主に採用されている。
このポリマーは、下記一般式(2):

(式中、m、nは一般式(1)と同じ)
で表されるパーフルオロビニルエーテルモノマーと、テトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体を製膜した後、加水分解反応を施すことによって得られる。
ところが最近、このようなパーフルオロスルホン酸ポリマー膜でさえ、燃料電池の過酷な運転条件下では次第に分解し、運転中の排水中にフッ化物イオンを溶出していることがわかり、その解決策が求められていた。しかしながら、これまでのところ、このような燃料電池作動条件下でのパーフルオロスルホン酸ポリマーの分解の問題を解決する化学的安定性に優れたフッ素化スルホン酸ポリマーの構造は報告されていないし、ましてや、その高化学的安定性ポリマーを用い、さらに機械的安定性と寸法安定性にも優れた高耐久性燃料電池用膜はこれまで報告されていない。
ところで、日本国特開昭57−25331号明細書には、それ以前に主として用いられていた、一般式(1)においてn=1、m=2の電解質膜に比べ、膨潤率の低い優れた膜として、当量重量(EW)で表されるイオン交換容量が800〜1500g/当量、後述する水和積(Hydration Product)が22,000より小さい膜が提案されている。その例としては、例えば一般式(1)において、n=0、m=1〜6に相当する構造が例示されており、好ましい範囲はm=2,3とされている。ただし、該明細書には、mが4以上のポリマーの具体例およびその特性については何の説明もされていない。ましてやmの違いによるポリマーの化学的安定性や耐酸化性の差異については全く言及されていなかった。また、日本国特開昭63−297406号明細書には、同様にEWが800g/当量より小さく、水和積が29,000より小さい膜が提案され、その例としてやはり一般式(1)においてn=0、m=1〜4に相当する構造が示されていた。しかし、当該明細書においても、m=4の構造のポリマーについては何の具体的な説明も無く、化学的安定性や耐酸化性についても何ら示唆する記載はなかった。
尚、日本国特開2000−268834号明細書には、一般式(1)においてm=3、n=0のポリマーが燃料電池用膜として、日本国特開平6−333574号明細書には触媒バインダーとして用いることが記載されている。しかしながらこのポリマーの、化学的安定性、耐酸化性、乾湿寸法安定性あるいは、燃料電池運転条件下での分解性等については何の報告もされていない。さらにこのポリマーの原料モノマーの製造方法は、きわめて煩雑な多段の製造方法しか知られていなかった。
また、日本国特開昭58−93728号明細書には一般式(1)においてm=4、n=0であり、当量重量(EW)で表されるイオン交換容量が990g/当量のポリマーが食塩電解用イオン交換膜材料として記載されており、日本国特開2001−194798号明細書には一般式(1)においてm=4、n=1であり、EWが1,044g/当量のポリマーが反射防止膜材料として記載されているが、いずれのポリマーも燃料電池用材料としての使用例は報告されていない。さらに、いずれの明細書においても、高プロトン伝導性のため燃料電池材料として特に有用なEWの小さなポリマーは報告されていない。また、一般式(1)においてm=5、n=1のポリマーは、日本国特表2002−533877号明細書に記載されているが、その特性や耐酸化性等については何の説明もされていない。
最近の国際出願公開公報WO2004/062019号明細書において、一般式(1)においてm=4、n=0のポリマーを用いた燃料電池用膜についての記載があり、当該ポリマーを用いることにより、EWが高く(イオン交換基密度が小さく)、且つ水和積も高い値を有する膜が実現可能であり、その膜が燃料電池用膜に適していると述べられている。より具体的には、EWが800〜1,200g/当量の範囲、水和積が22,000以上の膜が好ましいとされている。尚、水和積とは該明細書等に定義されたパラメーターであって、膜が吸収した、スルホン酸基1当量あたりの水の当量数と、EWとの積である。水の吸収量は、膜を沸騰水中に保持して測定される。当該明細書では、この膜は、EWが高いので機械的特性に優れており、かつ水和積が高いのでプロトン伝導性にも優れていると主張されている。
確かに、当該明細書の記載のように、高EWの膜で高いイオン伝導度を得ようとすれば大きな水和積が必要となるが、このような水和積の大きな膜は乾燥状態と湿潤状態での膜サイズの変化が極めて大きくなってしまう。したがって、この膜を燃料電池用膜として使用する場合には、以下のような問題があるので、この膜による長時間運転が可能で実用的な高耐久性燃料電池用膜の実現は困難である。
・湿度による寸法変化が大きいので、膜−電極接合体および燃料電池スタック組み立て工程の管理が困難であるし、得られた製品の品質管理も困難である。
・この膜を組み込んだ燃料電池用膜−電極接合体においては、燃料電池のオン−オフサイクル運転時の湿度変化に対応して膜寸法が大きく変化するので、膜−電極接合体の構造を安定に維持出来ず、短時間で膜−電極接合体の構造が破壊されてしまう。
・高水和積の膜が吸水したときには、膜強度は大きく低下する。したがって、燃料電池運転時には、膜強度の低下と上記の膜寸法変化の二つの効果により膜−電極接合体が極めて破損されやすくなる。
・高EWの膜では、高水和積であっても特別に高いプロトン伝導度は得られず、実用的なプロトン伝導を実現するためには膜厚を薄くする必要がある。その場合、上記のように、湿潤時に膜強度が低下するので、この膜は実用的な強度が実現できない。
また該明細書には、当該ポリマーの化学的安定性、耐熱性、耐酸化性、および燃料電池運転条件下での分解性については何ら述べられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、プロトン伝導性、化学的安定性、耐酸化性、耐熱性に優れたフッ素化スルホン酸ポリマーを膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いた、耐久性に優れ、特に高温領域での運転に適した固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体を提供するものである。さらに詳しくは、該フッ素化スルホン酸ポリマーを固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いることにより、高いイオン伝導度と高い機械的強度ならびに良好な寸法安定性を維持しつつ、高温運転条件下でもポリマーの分解が少なく、長期間安定して使用できる固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記のような従来公知の材料の問題点を解決する燃料電池用の固体電解質膜あるいは触媒のバインダーポリマーに適したフッ素化スルホン酸ポリマーを見出すべく、幅広くポリマー構造および分子量とポリマー特性あるいは膜特性の関係を調べた。その結果、本発明者等は、特定の側鎖構造を有し、かつ、特定の分子量以上(あるいは特定の溶融流動性以下)であり、好ましくは、さらにEW、水和積、あるいはそれらの積が特定の値以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーが、燃料電池用材料として有用な事を見出し、本発明を完成させた。
なお、本発明者等が当該基本コンセプトを発明した後に、上記の国際出願公開公報WO2004/062019号広報が公開された。該公開広報に開示の膜を構成するポリマーの構造は、本願に使用されるポリマー構造に含まれるが、該公開広報では、当該ポリマーを用いることにより、EWが高く、且つ水和積も高い値を有する膜が実現可能であり、その膜が燃料電池用膜に適していると述べられている。すなわち、該公開広報に記載の膜材料は、上記の本願の材料とは全く逆のコンセプトに基づく材料であり、当然のことながら、本願の燃料電池用材料の要件を満たさない。
したがって、燃料電池用固体電解質ポリマーに要求される各種の要求特性を併せ持つ本願に記載のポリマーおよびそれから誘導される製品は、本発明者等の幅広い検討により初めて実現されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0006】
1.下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを、膜および触媒バインダーの少なくとも一方の固体電解質ポリマーとして用いることを特徴とした、固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体。
2.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項1に記載の膜−電極接合体。
3.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
4.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
5.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
6.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
7.フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
8.一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
9.一般式(4)において、pが4または6である、請求項8に記載の膜−電極接合体。
10.23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用した、請求項1〜9のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
11.23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用した、請求項1〜9のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
12.請求項1〜11のいずれか一項に記載の膜−電極接合体であって、フッ素化スルホン酸ポリマーが一般式(4)においてpが4であるモノマーユニットを有し、水に含浸させて測定した小角X線の2θが3°の散乱強度(I)と、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)が100以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用することを特徴とした膜−電極接合体。
13.下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーからなる、固体高分子型燃料電池用膜。
14.請求項13に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーを60質量%以上含んでなる固体高分子型燃料電池用膜。
15.請求項13に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーを60質量%以上含有し、さらに、芳香族基含有ポリマー、塩基性基含有ポリマーおよび補強材から選ばれる少なくとも一種を0.1質量%以上、40質量%未満の範囲で含有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜。
16.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量と水和積との積が2×10〜23×10の範囲内である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
17.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、水和積が2,000以上、22,000未満である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
18.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項13〜17のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
19.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項13〜18のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
20.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項13〜19のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
21.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項13〜20のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
22.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項13〜21のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
23.フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項13〜22のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
24.一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項13〜23のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
25.一般式(4)において、pが4または6である、請求項24に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
26.23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であることを特徴とした、請求項13〜25のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
27.23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とした、請求項13〜25のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
28.請求項13〜27のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜であって、フッ素化スルホン酸ポリマーが一般式(4)においてpが4であるモノマーユニットを有し、水に含浸させて測定した小角X線の2θが3°の散乱強度(I)と、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)が100以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーであることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜。
29.請求項13〜28のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜を用いることを特徴とした、固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体。
30.一般式(4)において、p=6であるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマー。
31.下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを0.1〜50質量%含有することを特徴とする、フッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
32.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項31に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
33.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項31〜32のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
34.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項31〜33のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
35.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項31〜34のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
36.一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項31〜35のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
37.フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項31〜36のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
38.一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項31〜37のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
39.一般式(4)において、pが4または6である、請求項38に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
40.フッ素化スルホン酸ポリマーの23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であることを特徴とした、請求項31〜39のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
41.フッ素化スルホン酸ポリマーの23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とした、請求項31〜40のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
42.請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を用い、キャスト成膜することを特徴とする、フッ素化スルホン酸ポリマー膜の製造方法。
43.キャスト成膜後、ガラス転移温度以上の温度でアニール処理することを特徴とする、請求項42に記載のフッ素化スルホン酸ポリマー膜の製造方法。
44.請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を触媒と混合し、基材上に塗布、次いで乾燥することを特徴とする、高分子固体電解質含有ガス拡散電極の製造方法。
45.高分子固体電解質を含まないガス拡散電極に、請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を含浸させ、次いで乾燥させることを特徴とする、高分子固体電解質含有ガス拡散電極の製造方法。
46.請求項1〜12および請求項29のいずれか一項に記載の膜−電極接合体を用いてなる燃料電池を80℃以上で運転することを特徴とする、燃料電池の運転方法。
【発明の効果】
【0007】
下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、運転中の分解が少ないことから、固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体の膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いることで、長期間安定して使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、化学的安定性、耐熱性、耐酸化性に優れた特定の構造のフッ素化スルホン酸ポリマーを、膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いることを特徴とした高耐久性の固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体に関するものである。またさらに、本発明は、該高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーの中の特定の構造のポリマーを用いて成膜された特定の特性を示す高分子固体電解質膜が高耐久性の燃料電池用膜になるという発明に関するものである。したがって、本発明の固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体を用いてOCV(開回路電圧)加速試験等の燃料電池としての各種加速試験を実施したときには、優れた耐久性が実現される。
本発明者らは、燃料電池運転条件下で長期間安定に使用できる高安定性の高分子固体電解質材料を見出すべく、フッ素化スルホン酸ポリマーの構造を幅広く検討した。その結果、本発明者らは、以下の一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーが燃料電池用の高分子固体電解質材料に適した高い化学的安定性、耐熱性、耐酸化性を示すことを見出した。
以下に、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーについて説明する。
【0009】
<ポリマー構造>
まず、一般式(3)において、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基であればよく、環構造を有するものでもよいが、エーテル基とスルホン酸基との間の炭素鎖長が4〜10個であるものが好ましい。特に一般式(3)としては下記一般式(5):

(式中、a、bおよびcは、それぞれ1〜10の範囲の整数であり、a+b+c=4〜10である。Rf、Rf、Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、(CF(CFRf(CRfRf基全体の炭素の合計は4〜10である。)
で表される構造が好ましい。一般式(5)において、(CF)、(CFRf)、(CRfRf)の各ユニットは、どのような並びであってもよく、またRf、Rf、Rfはそれぞれ結合して環構造を形成していてもよい。一般式(5)において、a+b+cは好ましくは4〜8であり、さらに好ましくは4〜6である。
またさらには、一般式(3)としては下記一般式(4):

(式中、p=4〜10の整数)
で表される構造がさらに好ましい。一般式(4)において、pは4〜10の整数であり、4〜8がより好ましく、4〜6が最も好ましい。尚、一般式(4)において、p=2のポリマーは、耐酸化性が不十分であり燃料電池用の高分子固体電解質材料としては適さない。また、p=3のポリマーのポリマーは、p=2のポリマーに比べれば多少耐酸化性に優れるものの、pが4以上のポリマーに比べればその効果は全く不十分である。
さらには、p=3のポリマーの原料ビニルモノマーを製造する際には、最終工程であるビニル化反応工程での副反応(環化反応)が顕著であるため収率が低く(50%以下)、実用的な製造プロセスではない。一方、一般式(4)においてpが11以上の場合には、ガラス転移温度が低下するためと、またさらにモノマーの製造および取り扱いが困難であるので当該ポリマーを工業的に使用するには不都合である。
以下に、一般式(3)中の−Rf−SOHで表される基、あるいは、一般式(4)中の−(CF−SOHで表される基の具体例を示す。
−CFCFCFCFSO
−CFCFCFCFCFSO
−CFCFCFCFCFCFSO
−CFCFCFCFCFCFCFSO
この中で、−CFCFCFCFCFCFSOHの基を有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、本発明の中で初めて合成された新規化合物であり、本発明に含まれる。
一般式(3)あるいは一般式(4)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは好ましくは、1種または2種以上の他のビニルモノマーとのコポリマーである。このコモノマーとしては化学的安定性に優れるのでフッ素化ビニルモノマーが好ましく、パーフルオロビニルモノマーがさらに好ましい。具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロエチレン等が挙げられ、TFEやCTFEが好ましく、TFEがより好ましい。一方、TFE等との2成分に加えて、物性調整の目的で、パーフルオロオレフィン、パーフルオロビニルアルキルエーテル、パーフルオロ−1,3−ジオキソール等のパーフルオロモノマーを加えた3成分以上のコポリマーとしてもよい。また、一般にポリマー末端には連鎖移動反応や停止反応に由来する、カルボン酸基や炭素−水素結合等の不安定基を有しているが、当該ポリマーの末端をフッ素化処理することにより、これらの基を安定化することにより、当該ポリマーの熱安定性や耐酸化性をさらに向上させることができる。
以下に、一般式(3)あるいは一般式(4)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーの具体例を示す。

(k/l=2.2〜9.2)

(k/l=1.2〜8.2)
尚、前述の国際出願公開公報WO2004/062019号明細書および日本国特開昭58−93728号明細書に記載の一般式(1)においてm=4、n=0のポリマーは、本発明に使用される高安定性の一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーに含まれるが、これらの明細書においては、該ポリマーの化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)、耐熱性(高ガラス転移温度)については何の説明もない。すなわち、上記の一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーポリマーの高い化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)と耐熱性(高ガラス転移温度)は本発明者等により初めて確認された特性である。
さらに、本発明者らは、高い化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)と耐熱性(高ガラス転移温度)が確認された前述の一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーを用いた高耐久性の燃料電池用材料を開発すべく、該フッ素化スルホン酸ポリマーの特性を詳細に検討した。
その結果、本発明者らは、該フッ素化スルホン酸ポリマーの分子量が一定値以上(すなわち、溶融流動性が一定値以下)の場合に、前述の化学的安定性と耐熱性を維持したまま、高機械的強度と小さな乾湿寸法変化を併せ持つ材料が得られ、高耐久性の固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体の膜や触媒バインダーになることを見出した。フッ素化スルホン酸ポリマーの分子量の尺度としては、通常は該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)で評価される。該フッ素化スルホン酸ポリマーが上記の燃料電池用材料に適した特性を発現するためには、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下とすることが必要であり、好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは60g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、さらに好ましくは20g/10分以下であり、特に好ましくは10g/10分以下である。MFRは、ここでは荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件下で測定した値である。なお、上記のように、本願に適したフッ素化スルホン酸ポリマーは、−SOH基を−SOFとした形態のときのMFRが一定値以下のものであればよいので、その中には、架橋ポリマー構造のポリマーも含まれる。
尚、MFRが低すぎると溶融成膜が困難になったり、キャスト膜作成等のための溶液または分散液の作成が困難になるので、MFRの下限は好ましくは0.00001g/10分であり、より好ましくは0.0001g/10分であり、さらに好ましくは0.001g/10分であり、特に好ましくは0.01g/10分である。
以上のように、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいては、そのMFRが100g/10分以上の場合には、乾湿寸法変化、熱水溶解性、各種機械的強度等の燃料電池用固体電解質ポリマーに求められる要求特性が不十分である。一方、該ポリマーのMFRが特定の値以上(例えば、100g/10分以上)である場合には、該ポリマーは上記の要求特性を満足することが確認された。すなわち、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有する構造であり、かつそのMFRが特定の値以上であるフッ素化スルホン酸ポリマーが、高い化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)と耐熱性(高ガラス転移温度)に加えて、良好な物理的特性(低乾湿寸法変化、耐熱水溶解性、各種機械的強度等)も併せ持ち、燃料電池用固体電解質ポリマーとして、極めて優れた材料であることが確認された。
以下に、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのMFRの値と各種特性の関係について、さらに詳しく説明する。
a−1)含水率、水和積
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、MFRの値が100g/10分を超えると、含水率が急激に増加し、それに伴い、水和積の値も急増する。含水率が大きなポリマーは、後述するように乾湿寸法変化が大きくなる、熱水に溶解し易くなる、膨潤膜の機械的強度が弱くなる等の理由により、燃料電池用固体電解質ポリマーとしては適さない。具体例として、一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーのMFRと水和積の関係について図2に示す。
a−2)低乾湿寸法変化
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、MFRの値が100g/10分を超えると、その値が増加するにしたがって、乾湿寸法変化や含水率や水和積の値が急激に増加することが分かった。例えば、EWが800〜900あるいは1,000付近の一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーにおいては、MFRが100g/10分を越すと急激に乾湿寸法変化が増加し、MFRが700g/10分付近ではMFRが100g/10分以下の場合に比べて乾湿寸法変化の値は2倍程度まで増加する。ここで、乾湿寸法変化とは、100℃熱水処理(水和積測定時のもの)後の面積の、乾燥時の面積に対する増加率である。乾湿寸法変化が大きすぎると、燃料電池として運転中に、セル中で膜が折れ曲がったり、さらには折り畳まれたりして運転効率が悪くなる。また、セルのエッジ付近では、パッキングで押さえられている部分とフリーな部分とで膨潤率差が大きくなり、膜切れの原因となる。
a−3)耐熱水溶解性
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、MFRの値が100g/10分を超えると、その値が増加すると急激に熱水への溶解性も高くなることがわかった。該ポリマーの熱水への溶解性が高くなるということは、燃料電池の運転中に該ポリマーが溶出してしまうことを意味している。実際の燃料電池運転中のセルにおいては、リークした水素と酸素との反応が起こった場合等の様々の要因で、局所的にMEAが高温に晒されることがあるので、燃料電池用固体電解質ポリマーとしては、このような高温においても水に溶けにくいことが要求される。
尚、本発明においては、該ポリマーの熱水への溶解性は、乾燥ポリマーを、耐圧容器中、160℃、3時間処理した後に再乾燥し、熱水処理による質量減少の値で表す。本発明のポリマーとしては、上記熱水処理における質量減少が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、4%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが最も好ましい。
a−4)流動化温度
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、MFRの値が100g/10分を超えると、その値が増加するに従って急激にポリマーの流動化温度も低下することが分かった。ここでは流動化温度とは、温度を上昇させながら弾性率を測定したときに、弾性率の値が急激に低下する温度あるいは破断が起った温度を指し、具体的には動的粘弾性の温度分散を、周波数35Hzで測定した結果から求めたものを採用する。実際、膜とガス拡散電極とを接合してMEAを作成する際、一般的には接合性をよくするために膜のガラス転移温度以上に加熱した状態でプレスすることが多いが、該ポリマーの流動化温度が低いと接合時に膜や触媒バインダーとして使用されている該ポリマーがダメージを受けることになる。例えば、EWが1,000前後の、一般式(6)で表されるポリマーでは、MFRの値が100g/10分以下の場合には流動化温度は250℃付近の高い値を示すが、MFRが増加すると流動化温度は次第に低下し、MFRが500g/10分付近では180℃程度まで下がってしまう。
a−5)熱水中突刺し強度
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、MFRが100g/10分を超えると、膜として用いた場合に特に湿潤時の強度が低下する。例えば、MFRが大きくなると、該ポリマーの80℃での水中での突き刺し強度が著しく低下する。実際のセル中では、膜は、運転温度で湿潤した状態で、常に触媒層の凹凸の圧迫を受けており、突き刺し強度が低いと膜の劣化が激しくなる。例えば、EWが800〜850付近の一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーで比べると、MFRが700g/10分付近ではMFRが10g/10分付近の場合に比べて突き刺し強度が1/4程度まで低下する。
上述のように、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書には、一般式(1)においてm=4、n=0のポリマー(すなわち、一般式(6)で表されるポリマー)を用いた燃料電池用膜については、EWが高く、且つ水和積(HP)も22,000以上の高い値を有する膜が、高い機械的強度を有しながら高いイオン伝導度を有するので燃料電池用膜として好ましいとされている。しかしながら、該明細書に記載の水和積の大きな膜は乾燥状態と湿潤状態での膜サイズの変化が極めて大きく、かつ湿潤時の膜強度が極めて弱くなることがわかった。またさらに、高EWの膜では高いプロトン伝導度も実現できない。したがって、該明細書に記載の膜では、良好な電池特性を示し、かつ高耐久性の燃料電池用膜は実現できない。尚、水和積(HP)とは該明細書等に定義されたパラメーターであって、膜が吸収した、スルホン酸基1当量あたりの水の当量数と、EWとの積である。水の吸収量は、膜を沸騰水中に保持して測定される。
以下に、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書に記載のポリマーおよびその膜について、さらに詳しく説明する。
該明細書の実施例には、水和積40,000付近のポリマーからなる膜2件と、水和積25,000付近のポリマーからなる膜4件が示されている。このような水和積(HP)の大きな膜は、乾燥状態と湿潤状態での膜サイズの変化が極めて大きくなってしまうので、すでに<従来技術>の章で説明したように各種の問題点を抱えている。
尚、これらの実施例のポリマーのMFRは該明細書には記載されていないが、上記のa−2)に記載のMFRと水和積の関係を示す図2より、水和積40,000付近のポリマーのMFRは500g/10分以上であり、また、水和積25,000付近のポリマーのMFRは200g/10分以上であることが分かる。このように、該明細書の実施例に記載されているポリマーは、いずれも非常に大きなMFRのポリマーであり、本願のポリマーの要件である「MFRが100g/10分以下」から大きく外れている。したがって、該明細書の実施例に記載の膜は、いずれも、前述のように燃料電池用膜には適さない。
尚、該明細書には、燃料電池用膜に適した膜が例示されていないだけでなく、一般式(3)、あるいは、一般式(4)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのMFR、および、MFRの重要性については何の説明もされていない。したがって、「一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、MFRが100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーが、燃料電池用固体電解質ポリマーに適する」という本願の発明は、本発明者等の検討により初めて実現されものである。
さらに、本発明者らは、前述の一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマー(一般式(1)においてm=4、n=0であるポリマーを包含する)を用いた高耐久性の燃料電池用膜を開発すべく、該フッ素化スルホン酸ポリマーの特性と成膜条件および得られた膜の特性の関係を詳細に検討した。その結果、本発明者らは、1)前述のように、該フッ素化スルホン酸ポリマーのMFRが一定値以下(例えば、100g/10分以下)であるポリマーを使用し、かつ、好ましくは2)[原料ポリマーのEW]と[得られた膜の水和積]の積が2×10〜23×10の範囲である場合に、燃料電池用膜に求められる高プロトン伝導性、乾湿寸法変化小、水膨潤時の機械的強度大の要求特性を併せ持つ膜を実現出来ることを見出し本発明を完成させた。すなわち、EWと水和積との積とは、プロトン伝導性、乾湿寸法変化、水膨潤時の機械的強度の各要求特性を一元的に表したパラメーターである。
なお、該燃料電池膜においては、上記2)に記載のEWと水和積の条件が満たされても、上記1)に記載の特定のMFR以下(特定の分子量以上)であるという条件を満たさないと、得られた膜は上記の燃料電池用膜の要求特性を満たすことは出来ない。
上記のように、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書に記載されている高水和積でかつ高EWの膜を燃料電池用膜に使用した場合には、良好な電池特性が実現できないし、また、高耐久性も実現出来ない。ちなみに、前述の、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書に例示されている膜のEWと水和積との積が25×10〜39×10の範囲である。したがって、これらの例示ポリマーは、本発明の2)の条件から外れており、上記の燃料電池膜の要求特性を満たすことは出来ず、燃料電池用膜に必要な特性を発現できない。尚、これらの例示ポリマーが2)の条件から外れているのは、MFRが1)の範囲を外れているためと考えられる。
このような国際出願公開公報WO2004/062019号明細書に記載の高水和積でかつ高EWの燃料電池用膜に対して、本発明は、該フッ素化スルホン酸のMFRが一定値以上のポリマーを使用した場合には、EWと水和積の積が一定値以下である膜(すなわち、EWと水和積の両方が大きくない膜)が燃料電池用膜に適した特性を示し、高耐久性膜を可能にするという発見に関するものである。したがって、本発明は、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書とは全く反対の発想で高性能の燃料電池用膜を実現したものである。
以下に、本発明に使用される燃料電池用膜のEWと水和積について説明する。
【0010】
<EWと水和積の積>
本発明者等が、様々なEWと水和積の膜について幅広くその特性を比較検討した結果、EWと水和積との積が大きすぎると、プロトン伝導度は高くなるものの、膜の乾湿寸法変化が大きすぎてセルを正確に組むことが困難であり、また湿潤膜の機械的強度が不足するために充分な耐久性が得られないことがわかった。
一方でEWと水和積との積が小さすぎると、膜の乾湿寸法変化は小さく、湿潤膜の機械的強度も高くなるものの、充分なプロトン伝導度が得られないことから、EWと水和積との積には好ましい適性値が存在することがわかった。すなわち、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーを膜として用いる場合には、EWと水和積との積は2×10〜23×10の範囲であることが好ましい。EWと水和積の積の上限は、より好ましくは22×10であり、さらに好ましくは21×10であり、特に好ましくは20×10である。また、EWと水和積の積の下限は、より好ましくは3×10であり、さらに好ましくは4×10であり、特に好ましくは5×10である。
【0011】
<水和積>
さらに、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーを膜として用いる場合、
水和積の上限は、好ましくは22,000未満であり、より好ましくは21,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下であり、さらに好ましくは19,000以下であり、特に好ましくは18,000以下である。また水和積の下限は、好ましくは2,000であり、より好ましくは3,500であり、特に好ましくは5,000である。
なお、EWと水和積の積が上記の2×10〜23×10の範囲に収まっている場合には、水和積の値は、必ずしも、この範囲内でなくてもよい。
EWと水和積との積の値、あるいは水和積の値が、上記の好ましい範囲にある膜材料を製造するためには、特定の条件を満たす必要がある。その一つが成膜条件であり、もう一つがポリマーの分子量要件である。
【0012】
<成膜条件>
まず、成膜条件について説明する。EWと水和積との積が一定値以内の膜、あるいは水和積の値が一定値以内の膜を製造する方法としては、a)スルホン酸基が−SOF基のポリマー形態でプレス成膜あるいは押し出し成膜等の溶融成膜を行い、ついでケン化、酸処理する方法、あるいはb)スルホン酸ポリマーの溶液または分散液からキャスト成膜し、成膜後に充分に高い温度でアニール処理する方法が挙げられる。なお、このようにして得られた膜を、さらに様々な条件下で延伸して寸法安定性や機械的強度を改善することも可能である。
キャスト膜のアニール温度は該スルホン酸ポリマーのTg以上であればよいが、Tgとの温度差は大きいほうが好ましく、具体的な温度で示せば、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上、さらに好ましくは190℃以上、特に好ましくは200℃以上である。一方、アニール温度が高すぎるとポリマーが分解するので、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。また、アニール時間については、特に制限は無いが、効果的にアニールするためには、好ましくは10秒以上、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上の条件が使用される。アニール時間の上限は特に無いが、経済的な製造工程を実現するためには、好ましくは24時間以内、5時間以内、1時間以内、30分以内あるいは10分以内の条件が採用される。キャスト膜のアニール温度あるいはアニール時間が十分でないと、得られた膜の水和積が大きくなってしまい、したがって湿潤時の機械的強度や寸法安定性に劣る膜になってしまう。
【0013】
<ポリマーの分子量>
一方、このような成膜方法をとってもポリマーの分子量が十分に大きくない場合(すなわちMFRが一定値より大きい場合、例えば100g/10分より大きい場合)には、EWと水和積との積、あるいは水和積の値は適正な範囲には入らないし、燃料電池用膜の材料として十分な強度と寸法安定性も得られない。特に、EWが低い値の場合(例えばEWが1,000未満、950未満、900未満、850未満、800未満の場合)には、EWと水和積との積、あるいは水和積の値が適正な範囲に入り、燃料電池用固体電解質ポリマーに適した特性を発現するには、ポリマーの分子量が十分に大きく、かつ、キャスト成膜の場合には十分な温度でのアニールが必要である。
すなわち、本発明者等の検討により、該フッ素化スルホン酸ポリマーからなる燃料電池用膜においては、EWが低い膜でも、十分に高い分子量を有したポリマー(特定のMFR以下のポリマー)を使用し、かつ、キャスト成膜の場合には十分な温度でアニールした膜は、高い強度と良好な乾湿寸法安定性を示すことが見出された。さらに、この膜は低EWであるから高いプロトン伝導性も備えているし、前述のように化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)と耐熱性(高ガラス転移温度)も備えている。したがって、このようにして製造された膜は、良好な電池特性を示し、かつ高温領域の運転でも長期間安定した性能を示す燃料電池用膜であり、本発明により初めて実現された高性能膜である。
【0014】
<EW>
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーを、固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いる際には、スルホン酸基密度はは高いほうが(すなわち、イオン交換容量は低いほうが)プロトン伝導度が高いのでこのましい。したがって、イオン交換容量をポリマーの重量をスルホン酸基のモル数で割った値である当量重量(EW)で表すと、EWは、好ましくは1,300g/当量以下、より好ましくは1,200g/当量以下、より好ましくは1,100g/当量以下、より好ましくは1,000g/当量以下、より好ましくは950g/当量以下、より好ましくは900g/当量以下、より好ましくは890g/当量以下、より好ましくは850g/当量以下、より好ましくは800g/当量未満、より好ましくは790g/当量以下、より好ましくは780g/当量以下、特に好ましくは760g/当量以下である。ただし、EWの値が小さすぎると、膜の膨潤時の機械的強度が低下したり、水への溶解が問題になる場合があるので、EWは、600g/当量以上が好ましく、640g/当量以上がより好ましく、680g/当量以上が最も好ましい。なお、EWが上記の範囲内にあっても、該ポリマーあるいは該ポリマーからなる膜が優れた機械的強度や湿潤時の寸法安定性を発現するためには、MFR、EWと水和積の積、あるいは水和積の値は上記の範囲内であることが好ましい。
【0015】
<ガラス転移温度>
燃料電池の運転は、活性化過電圧が小さいことから、また、特に自動車用途の場合はラジエーターをコンパクトにできることから運転温度は高いほうが好ましい。また、高温領域で燃料電池を安定して運転するためには、燃料電池用膜用ポリマーや触媒バインダー用ポリマー等のポリマー材料のガラス転移温度は燃料電池の運転温度よりもなるべく高いほうが好ましい。しかしながら、現在主として用いられている、一般式(1)においてn=1のポリマーは、ガラス転移温度が120℃あるいはそれ以下の温度でしかないため、運転温度を高く設定できない。しかしながら、本発明者らの検討により、本発明で用いられる、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度は、側鎖構造が長くなっても高いガラス転移温度を示すことが確認された。すなわち、当該ポリマーは、前述のように優れた化学的安定性、耐熱性、耐酸化性を示すだけでなく、さらに高いガラス転移温度を示すので高温運転に適した機械的特性も備えていることが分かった。本発明に使用される一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度は、130℃以上であることが好ましく、より好ましくは140℃以上である。尚、本発明におけるガラス転移温度とは、該ポリマーの動的粘弾性を周波数35Hzで測定したときの最大損失正接の温度で表される。
【0016】
<熱分解温度/耐酸化性>
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、不活性ガス中の熱質量分析(TGA)において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が、好ましくは340℃以上であり、より好ましくは350℃以上であり、より好ましくは360℃以上であり、より好ましくは370℃であり、より好ましくは380℃であり、最も好ましくは385℃以上である。この場合の不活性ガスとは、アルゴンや窒素等であり、好ましくはアルゴンである。また、この場合、酸素濃度が1000ppm以下になってから測定を開始することが好ましい。また、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が、好ましくは330℃以上であり、より好ましくは335℃以上であり、より好ましくは340℃以上であり、より好ましくは345℃以上であり、より好ましくは350℃以上であり、最も好ましくは355℃以上である。一方、同TGAにおいて、不活性ガス中で10度/分で昇温したときの熱分解開始温度の上限は500℃であり、空気中で10度/分で昇温したときの熱分解開始温度の上限は450℃である。尚、本発明における熱分解開始温度は、不活性ガス中、または空気中のTGAにおいて、10度/分で昇温したときの温度−質量曲線を求め、熱分解開始前の曲線の接線と、熱分解開始後の曲線の接線との交点の温度として求められる。
尚、一般にスルホン酸ポリマーは吸湿性が高く、TGA測定においておおよそ200℃までに質量減少が観察されることがあるが、これは吸着水の脱離によるもので、分解ではないので、実質的には200℃以上のTGA挙動について考慮すればよい。
また、上記熱分解開始温度は、市販Nafion(米国デュポン社登録商標)117膜(一般式(1)においてn=1、m=2であり、イオン交換容量が1,100g/当量のフッ素化スルホン酸ポリマー)、あるいは一般式(1)においてn=1、m=2、イオン交換容量が900〜1,000g/当量のフッ素化スルホン酸ポリマーに比べ、20度以上高いことが好ましく、30度以上高いことがさらに好ましく、40度以上高いことが最も好ましい。
【0017】
<高温での酸化分解によるフッ化物イオンの生成量>
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜状形態において、200℃で、80℃水飽和空気と8時間に渡り接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、好ましくは元のポリマー中の全フッ素の0.2質量%以下である。具体的に説明すると、該フッ素化スルホン酸ポリマーの、膜厚約50μmの膜状物を3cm×3cm(質量にして約0.1g)に切り出し、内径5mm長さ5cmのSUS製試料管に入れ、両端にそれぞれSUSおよびPTFEの配管を接続する。試料管全体を200℃のオーブンに入れ、SUS配管を通じて、配管の途中で80℃に加温した水のバブラーを通すことで加湿した空気を20ml/分で流す。出口側のPTFE配管は、8mlの希NaOH水溶液(6×10−3N)に導入し、分解物を8時間に渡り捕集し、この捕集液中のフッ化物イオンをイオンクロマトで定量する。当該捕集液中のフッ化物イオンの量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは、0.05質量%以下である。尚、この際、ポリマー中の不純物等の影響で、分解試験初期に比較的高濃度のフッ化物イオンが捕集されることがあるが、その場合には、時間あたりの捕集量が安定してから8時間の捕集量を求めればよい。また、捕集量が安定してからの時間あたりの捕集量を8時間あたりに換算してもよい。
また、上記捕集量は、市販Nafion(登録商標)117膜、あるいは一般式(1)においてn=1、m=2、イオン交換容量が900〜1000g/当量、膜厚50μmの膜において同様の試験を行った場合の1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがさらに好ましく、1/4以下であることが特に好ましい。
尚、上記試験は、官能基末端が−SOF型のポリマーについて、プレスや押し出し等の溶融成膜を行い、次いでケン化、酸処理して官能基末端を−SOH型に変換した後、充分に水洗したものについて行うことが好ましい。
なお、本願に使用されるフッ素化スルホン酸ポリマーとしては、溶液重合や乳化重合で製造されたポリマーをそのまま使用しても良いが、重合で得られたポリマーをフッ素ガスで処理したポリマーはより高い安定性を示すので好ましい。
【0018】
<分解反応の活性化エネルギー>
また、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として好ましくは40kcal/当量以上、さらに好ましくは41kcal/当量以上、最も好ましくは42kcal/当量以上である。尚、該フッ素化スルホン酸ポリマーの密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーの上限は80kcal/当量である。
以下に、該フッ素化スルホン酸ポリマーの安定性のパラメターとなり得る「熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギー」について説明する。
まず、該フッ素化されたスルホン酸ポリマー中のスルホン酸基の水素原子がOHラジカルや一重項酸素等の活性酸素種の作用により、ラジカル的に引き抜かれ、次いで生成した−SOラジカルが側鎖や主鎖を攻撃して分解が進行する場合の活性化エネルギーを計算する。ここで、想定される各分解過程に沿ったエネルギー計算を行い、その過程の中の最大値を与える段階を律速段階反応とし、そのときのエネルギー値を「熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギー」と定義する。本発明者等は、このようにして算出された「熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギー」が、上記範囲内にあるフッ素化スルホン酸ポリマーが、熱酸化分解試験におけるフッ化物イオンの溶出量が極めて少ないことを見出した。
但し、本計算における活性酸素種としては、OHラジカルを想定して計算すればよい。
尚、ポリマーそのものではこのような計算が困難なので、構造を簡略化したモデル化合物での計算で代替する。例えばスペーサーを介して側鎖末端に−SOH基を有するパーフルオロ付加重合体の場合、(CFCF−基を主鎖モデルとし、(CFCF−(スペーサー)−SOHの構造の化合物をモデル化合物として計算に用いることができる。
本計算の計算プログラムとしては、米国Accelrys社製DMol3を用い、基底関数としてDNP、電子交換相関ポテンシャルとしてPW91型の勾配補正ポテンシャルを用い。
ところで本計算における熱酸化分解反応とは、上記のようにスルホン酸基が活性酸素種と反応して生成した−SOラジカルが側鎖や主鎖を攻撃することで分解が進行すると仮定するが、攻撃する位置は化合物の構造によって異なる。律速段階反応の活性化エネルギーは、それぞれの位置を攻撃した場合について計算し、その中の最小値を与える攻撃位置を反応点と定め、その場合の値を本発明における活性化エネルギー値とすることができる。
尚、この反応点は、構造によってはほぼ特定され、例えば側鎖末端にスルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテル由来のポリマーの場合、エーテル基のスルホン酸側の付け根が反応点となるとして計算してよい。この場合の熱酸化分解反応を、具体的なモデル化合物としてスペーサー部が(CFである化合物の例を用いて示すと以下のようになる。

(式中、qは2以上の整数)
【0019】
<イオン伝導度>
一般式(3)あるいは、一般式(4)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーは、固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いるので、そのイオン伝導度は高いほうが好ましい。本願に使用されるフッ素化スルホン酸ポリマーとしては、具体的には膜形状で測定したときの該フッ素化スルホン酸ポリマーの23℃の水中におけるイオン伝導度は0.06S/cm以上が好ましく、0.08S/cm以上であることがより好ましく、0.09S/cm以上であることがさらに好ましく、0.1S/cm以上であることが特に好ましい。
なお、本願においては、膜およびポリマーのイオン伝導度とは、特に注釈がない限りは、各種の成膜法で作製した当該膜あるいは当該ポリマーの膜について、23℃の水中で測定したプロトン伝導度を意味する。
【0020】
<含水率>
一方、高いイオン伝導度と湿潤時の機械的強度を両立させるためには、含水率は特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、80℃における含水率の下限が、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、18質量%以上が特に好ましい。一方、80℃における含水率が大きすぎると、乾燥/湿潤状態間の寸法変化が大きすぎるので、上限は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。80℃における含水率とは、80℃の熱水中に30分間浸漬し、表面水を拭き取った後の質量の、乾燥ポリマー質量からの増加分を、乾燥ポリマー質量で除した値のパーセント値として表される。
同様に、水和積の測定の際に求められる、100℃における吸収水量についても特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、100℃における吸収水量の下限が、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が特に好ましい。一方上限は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。100℃における含水率とは、日本国特開昭57−25331号明細書に記載の方法に従い、110℃で16時間乾燥した乾燥ポリマーを100℃の熱水中に30分間浸漬した後、取り出して室温の水中に5分間保持し、膜を取り出して表面水をすばやく拭き取った後の質量を測定した。表面水を拭き取った後の質量の、乾燥ポリマー質量からの増加分を、乾燥ポリマー質量で除した値のパーセント値として表される。尚、本明細書においては、80℃における水の吸収量を「含水率」、100℃における水の吸収量を「吸収水量」として表した。
【0021】
<小角X線散乱(SAXS)>
ところで本発明者らは、燃料電池用固体電解質ポリマーとしての特性(水膨潤膜の機械的強度、乾湿寸法安定性等)に優れているポリマーは、その特性が不良のポリマーに比べて、水に含浸させて測定した小角X線の、2θが1°以下の散乱強度が極めて小さいことを見出した。その理由は定かではないが、2θが1°以下の散乱はポリマー中に存在する大きな水ドメインに由来すると推定され、そのような大きな水ドメインの量が上記のような強度等の物性に反映されているものと考えられる。すなわち、大きな水ドメインはプロトン伝導に直接関与しないばかりでなく、多すぎると強度低下も引き起こすと考えられる。従って、2θが1°以下の散乱強度は小さいことが好ましく、例えば一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーの場合、2θが3°の散乱強度(I)を規準として、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)を取ると100以下であることが好ましい。より好ましくは90以下であり、さらに好ましくは80以下であり、さらに好ましくは70以下であり、特に好ましくは60以下である。
散乱強度比I/Iは、含水した膜に対し小角X線散乱測定を行うことにより求めることができる。具体的には、測定装置にはCuKα線を線源とし測定可能な散乱角2θが少なくとも0.3°<2θ<3°より広いX線散乱装置を用いる。検出器には位置敏感型比例計数管、イメージングプレート等、各散乱角における散乱強度を定量的に検出できる装置を用いる。散乱測定は膜を純水、もしくはイオン交換水に浸した状態で25℃において行う。X線は膜面に垂直方向から入射する。得られた測定結果についてはいわゆる空セルからの散乱補正、及びスリット補正等を行い、得られた結果が測定系、測定条件によらないようにする。こうして得られた散乱強度分布から2θ=0.3°、3°における散乱強度を得ることにより散乱強度比I/Iを求めることができる。
<モノマー合成法>
尚、一般式(4)で表されるモノマー単位の原料となる下記一般式(8):
CF=CFO(CFSOF (8)
(式中、p=4〜10の整数)
で表されるモノマーは、例えば以下の方法で合成することができる。その1つは、下記一般式(9):
X(CFOCF=CF (9)
(式中、X=Br,I、pは一般式(8)と同じ)
で表される化合物について、その2重結合が塩素付加で保護または非保護の状態で、亜ジチオン酸塩またはチオシアン酸塩から選ばれる化合物と反応させ、次いで塩素と反応させることでXをSOCl基に変換し、さらにNaFやKF等のフッ化物塩化合物と反応させることでSOF基に変換し、2重結合が保護されている場合にはさらに亜鉛等を用いて脱塩素反応することで合成することができる。
別の合成法は、D.J.Burtonら、Journal of Fluorine Chemistry、60巻、93〜100(1993)に記載された方法等で合成された下記一般式(10):
I(CFSOF (10)
(式中、pは一般式(8)と同じ)
で表される化合物を発煙硫酸等で酸化して下記一般式(11):
FCO(CFp−1SOF (11)
(式中、pは一般式(8)と同じ)
で表される化合物を得、さらにKF等を触媒としてヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)と反応させて下記一般式(12):

(式中、pは一般式(8)と同じ)
で表される化合物を得る。これをKCO等のアルカリ性化合物と反応させた後、加熱脱炭酸反応により一般式(8)のモノマーを得るというものである。
一般式(11)の化合物はまた、日本国特開昭57−164991号明細書等に記載された方法により、相当する環状炭化水素系化合物(環状スルトン化合物)前駆体の電解フッ素化反応により合成することもできる。さらには、一般式(11)の化合物に対応する骨格構造を含有する環状あるいは非環状の炭化水素系化合物前駆体、あるいは、一般式(11)の化合物に対応する骨格構造を含有する部分フッ素化合物前駆体の直接フッ素化によっても合成することができる。
【0022】
<燃料電池用膜としての使用方法>
本発明の固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体においては、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有し、かつ−SOH基を−SOFとした形態のときのMFRが100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーが、膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いられる。
まず、該ポリマーが、膜材料として用いる場合について説明する。
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーからなる膜もまた本発明に含まれる。
該フッ素化スルホン酸ポリマーを膜として用いる場合、その膜厚は5〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、20〜100μmが最も好ましい。膜厚が200μmを越えると、燃料電池用膜として用いた場合に電気抵抗が高くなり、燃料電池の性能が低下する場合がある。膜厚が5μm未満の場合、膜の強度が小さく、燃料電池用膜として用いた場合に燃料ガスの透過量が多くなり、性能が低下する場合がある。
該フッ素化スルホン酸ポリマーを膜として用いる場合、通常は一般式(13):

(式中、Rfは一般式(3)と同じ。)
で表されるモノマーユニットを含むSOF型の(コ)ポリマーを得、プレス成膜、押し出し成膜等の各種の溶融成膜法で成膜してから、ケン化および酸処理等の方法でスルホン酸基に変換して使用される。また、各種の方法で製造したスルホン酸基型のポリマーを溶液または分散液とし、それを用いてキャスト法により成膜してもよい。キャスト法で成膜する場合、乾燥温度が低すぎると膜強度が不足するので、乾燥後、適当な温度でアニール処理することが好ましい。尚、アニール条件の好ましい条件は、上述の成膜条件についての説明箇所に記載した通りである。
該フッ素化スルホン酸ポリマーを膜材料として使用する場合、該フッ素化スルホン酸ポリマーを単独で用いてもよいが、膜の補強や特性調整のため、他の材料と複合させてもよい。例えば補強の目的ではPTFE等のフッ素系樹脂等の有機フィラー、シリカやアルミナ等の粉末状やウイスカー状等の各種の無機フイラーを混合することができる。あるいはPTFE等のフッ素系樹脂や各種の芳香族系や非芳香族系のエンジニアリング樹脂の織布、不織布、繊維等を芯材として用いることもできるし、PTFE等のフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂の多孔膜に該フッ素化スルホン酸ポリマーを含浸したものを膜としてもよい。一方、耐久性や膨潤性を調整する目的で、ポリイミド、ポリフェニレンエーテルやポリフェニレンスルフィドのような芳香族基含有ポリマーやポリベンズイミダゾールで代表される各種の塩基性基含有ポリマー等の他のポリマーを混合してもよい。
いずれにしても、他の材料を複合する場合、高いプロトン伝導度を保持するためには該フッ素化スルホン酸ポリマーの比率は60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、上記の芳香族基含有ポリマー、塩基性基含有ポリマー、あるいは、上記の有機フィラー、無機フィラー、織布状や不織布状あるいは繊維状の芯材、多孔膜等の補強材から選ばれる他の材料と複合化する場合には、芳香族基含有ポリマー、塩基性基含有ポリマーおよび補強材から選ばれる少なくとも一種を0.1質量%以上、40質量%未満の範囲で含有することが好ましい。該フッ素化スルホン酸ポリマーと複合化する他の材料の量が0.1質量%未満だと添加効果が少ないので好ましくなく、また40質量%以上だと、該複合化膜のイオン伝導度が低くなるので好ましくない。
【0023】
<溶液>
該フッ素化スルホン酸ポリマーからなるキャスト膜を製造する場合や、触媒バインダーとして用いる場合、該フッ素化スルホン酸ポリマーはその溶液または分散液として用いられる。ところで一般式(1)においてn=1/m=2のポリマーの場合、見かけ上無色透明の溶液状のものが分散液として市販されており、事実、該ポリマーの溶液ではなく分散液であることが知られている。該フッ素化スルホン酸ポリマーの場合も、同様の溶液状のものを作成することが可能であるため、本発明においては、見かけ上無色透明の溶液状のものについては「溶液または分散液」と称する。いずれにしても、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを0.1〜50質量%含有する、フッ素化スルホン酸ポリマーの「溶液または分散液」は新規なものであるので、本発明に含まれるものである。
該フッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液の溶媒としては、水、エタノールやプロパノール等のアルコール類等が、単独または混合溶媒として用いられる。あるいは含フッ素アルコールやパーフルオロ炭化水素等のフッ素系化合物が、単独または混合溶媒として用いられる。該溶液または分散液を製造する方法としては、一般には該フッ素化スルホン酸ポリマーと、例えば水とアルコール類との混合溶媒を圧力容器に入れ、150〜250℃で加熱攪拌(以下、溶解処理と称する)することで得られる。通常、溶解処理するときのポリマー濃度は1〜20質量%であるが、溶解処理した後に希釈や濃縮することにより、該溶液または分散液中のポリマー濃度は、0.1〜50質量%で用いられる。好ましくは1〜40質量%であり、さらに好ましくは5〜30質量%である。また、一旦溶液または分散液にしてしまえば、水単独やジメチルアセトアミド等のように、直接溶解処理しても溶液または分散液が得られない系においても、溶媒置換することで溶液または分散液を得ることが可能である。
【0024】
<MEA>
次に、該フッ素化スルホン酸ポリマーを用いた固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体(以下、MEA(Membrane Electrode Assembly)と略記する)について説明する。このMEAは、電解質となる膜と、この膜に接合されるガス拡散電極とで構成される。
ガス拡散電極は、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体で、燃料電池用の場合、一般にはさらに触媒バインダーとしてのプロトン伝導性ポリマーを含む。電極触媒は触媒金属を担持した導電材からなり、必要により撥水剤が含まれている。
触媒金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムあるいはそれらの合金等が用いられるが、多くの場合、白金またはその合金が用いられる。触媒の担持量は、電極が形成された状態で0.01〜10mg/cm程度である。導電材としては、各種金属や各種炭素材料が用いられ、カーボンブラック、グラファイト等が好ましい。
該フッ素化スルホン酸ポリマーは、この触媒バインダーとして用いることができる。該フッ素化スルホン酸ポリマーを触媒バインダーとして用いたガス拡散電極は次のような方法で製造することができる。まず1つの方法は、該フッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液と、触媒を担持した導電材とを混合し、得られたスラリーをスクリーン印刷やスプレー法等の方法で、PTFEシート等の適当な基材上に薄層状に塗布し、乾燥させるものである。また別の方法は、プロトン伝導性ポリマーを含まないガス拡散電極に、該フッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を含浸させ、次いで乾燥させるというものである。当該乾燥操作時においては、成膜時と同様に、高温でアニール処理することが有効である。この場合のアニール条件(温度、時間)の好ましい範囲は、上述の成膜時のアニール条件と同様である。
該フッ素化スルホン酸ポリマーは、膜および触媒バインダーのいずれかまたは両方に、単独のポリマーまたはポリマー混合物として用いられる。
膜とガス拡散電極との接合は、加圧、加温できる装置を用いて実施される。一般的には、例えば、ホットプレス機、ロールプレス機等により行われる。その際のプレス温度は、膜のガラス転移温度以上であればよく、一般的には130〜250℃である。好ましくは170〜250℃である。プレス圧力は、使用するガス拡散電極の固さに依存するが、通常5〜200kg/cm、好ましくは20〜100kg/cmである。
以上のように形成された本発明のMEAは、燃料電池として組み込まれる。本発明のMEAを用いた燃料電池は、比較的高い温度で作動させる方が、電極の触媒活性が上がり、電極過電圧が低下するために好ましい。一方、膜は水分がないと機能しないため、水分管理が可能な温度で作動させる必要があるので、あまり高温では燃料電池の運転が困難になる。したがって、燃料電池の作動温度の好ましい範囲は室温〜150℃であり、好ましくは室温〜120℃、より好ましくは室温〜100℃である。本発明のMEAを用いた燃料電池の最大の特長は、Nafion(登録商標)膜等、一般式(1)においてn=1,m=2の従来膜で通常運転されている70〜80℃の温度領域や80〜90℃の温度領域ではこれらの従来膜と同等以上の性能を示すと共に、90℃以上あるいは95℃以上の高温領域でも安定して運転できることである。尚、当然のことながら、本発明のMEAを用いた燃料電池は、室温付近の温和な条件下で運転することも可能であるし、燃料電池作動開始時などに一時的に室温以下の低温で運転してもかまわない。
本発明のMEAは、上述のように燃料電池として組み込み、長期運転させた場合に優れた耐久性を示す。尚、一般にはそのような耐久性をより短期間に評価するために、種々の加速試験が提案されているが、本発明のMEAを用いた燃料電池は、そのような加速試験においても優れた耐久性を示す。一例として、高温低加湿条件下における耐久性を加速評価する方法としてOCV加速試験がある。OCVとは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)の意味で、このOCV加速試験は、高分子電解質膜をOCV状態に維持することで、化学的劣化を促進させることを意図した加速試験である。
尚、OCV加速試験の詳細は、平成14年度日本国新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「固体高分子型燃料電池の研究開発(膜加速評価技術の確立等に関するもの)」日本国旭化成(株)成果報告書p.55〜57に記載されている。本発明においては、セル温度100℃、水素ガス、空気ガスとも50℃加湿条件で試験し、水素ガス透過率がOCV試験前の値の10倍に達した時間を耐久性時間として評価し、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーからなる膜が優れた耐久性を示すことが確認された。すなわち、一般式(1)においてn=1のポリマーからなる膜の場合には、そのTgが低いためにmの値にかかわらず低い耐久性しか示さず、またn=0のポリマーからなる膜の場合にはm=2の低い耐久性に対して、m=3では改善効果が充分ではなく、m=4以上で初めて高い耐久性を発揮するのである。
また、別途長期耐久性試験として、例えばセル温度100℃、水素ガス、空気ガスとも60℃加湿、アノード側0.3MPa、カソード側0.15MPaで加圧した状態で、電流密度0.3A/cmで連続運転場合においても、一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーからなる膜は、一般式(1)においてn=1/m=2のポリマーからなる膜や、n=0/m=2のポリマーからなる膜に比べて優れた耐久性を示すことが確認された。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0026】
参考例1
CF=CFOCFCFCFCFSOFの合成(その1)
2リットルのオートクレーブに、900gのICFCFCFCOF、39mlのテトラグライム、390mlのアジポニトリル、15gのフッ化カリウムを入れ、0℃で攪拌しながら、633gのヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)を、15時間かけて導入した。反応後、過剰のHFPOを放圧し、内容物を分液して下層部分を取り出した。得られた液を蒸留して、1066gのICFCFCFCFOCF(CF)COFを得た。
沸点:77℃(14kPa)
19F−NMR δ(CFCl基準):24.7(1F),−62.3(2F),−79.9(1F),−83.7(3F),−87.2(1F),−114.8(2F),−125.7(2F),−131.7ppm(1F)
メカニカルスターラー、還流冷却器を取り付けた1リットルの三口フラスコに、276gの乾燥した炭酸カリウムを入れておき、120℃で、490gのICFCFCFCFOCF(CF)COFを滴下した。滴下終了後、そのまま1時間攪拌を続けた。次に、還流冷却器を蒸留ヘッドに付け替え、系内を20kPaに保ちながら180℃に加熱した。液体が留出しなくなるまで加熱を続け、捕集した液体は蒸留精製して、335gのCF=CFOCFCFCFCFIを得た。
沸点:79℃(21kPa)
19F−NMR δ(CFCl基準):−63.4(2F),−85.5(2F),−113.7(1F),−114.0(2F),−122.1(1F),−124.6(2F),−136.4ppm(1F)
次に、ガス吹き込み管、還流冷却器を付けた1リットルのフラスコに、335gのCF=CFOCFCFCFCFIを入れておき、30〜60℃で塩素ガスを吹き込んだ。原料が消失するまで吹き込みを続け、388gの粗CFClCFClOCFCFCFCFIを得た。
3リットルのフラスコに、1500mlの水−アセトニトリル(1:1、体積比)に溶かした200gの亜次チオン酸ナトリウムを入れておき、室温で388gの粗CFClCFClOCFCFCFCFIを滴下した。そのまま2時間攪拌を続けた後、生成物を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル相から溶媒を留去し、375gの粗CFClCFClOCFCFCFCFSONaを得た。
上記粗CFClCFClOCFCFCFCFSONa375gを700mlの水に溶かしておき、0℃で塩素ガスを吹き込んだ。原料消失後、下層に遊離した液を抜き出し、蒸留して、262gのCFClCFClOCFCFCFCFSOClを得た。
得られた262gのCFClCFClOCFCFCFCFSOClを1リットルのアセトニトリルに溶かしておき、130gのKFを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。反応混合物に水を加え、下層に遊離した液を分離し、そのまま蒸留して、152gのCFClCFClOCFCFCFCFSOFを得た。
152gのCFClCFClOCFCFCFCFSOFを300mlのエタノールに溶かしておき、事前に希塩酸で洗浄し、乾燥しておいた亜鉛粉末29gを加え、80℃で1.5時間反応させた。室温まで放冷後、濾過、水洗してから蒸留し、110gのCF=CFOCFCFCFCFSOFを得た。
沸点:91.8℃(40.4kPa)
19F−NMR δ(CFCl基準):43.8(1F),−86.9(2F),−110.0(2F),−116.8(1F),−122.2(2F),−124.3(1F),−126.9(2F),−138.4ppm(1F)
GC−MS(EI):m/z 283,169,131,119,100,69,67
【0027】
参考例2
CF=CFOCFCFCFCFSOFの合成(その2)
還流塔、攪拌機を備えた2Lの4つ口フラスコにI(CFI300gとアセトン675mL、水225mLを入れ、フラスコを氷浴につけ、Na86.7gを少しずつ加えた。3時間攪拌した後、反応混合物を19F−NMRで測定すると、I(CFSONaが35.3mol%、NaOS(CFSONaが8.1mol%生成していた。該反応混合物からエバポレーターでアセトンとI(CFIを減圧留去した後、水300mLを加え、酢酸エチルで3回抽出した。この酢酸エチル溶液を減圧濃縮すると茶色固体が得られた。この固体は19F−NMRよりI(CFSONaであることがわかった(収率35.3%)。
ガス吹き込み管を備えた1Lの4つ口フラスコに、上記I(CFSONaを含む粘凋な液体を移し、さらに水300mLを加えた。3つ口フラスコを氷浴につけ、塩素を吹き込んでいくと、2層に分離した。下層を分液すると、I(CFSOClを含む液体が99.2g得られた(該I(CFSONaを基準とした場合、収率99.6%)。
還流塔を備えた500mLフラスコに、上記で得られたI(CFSOCl99.2gにKF40.4gとアセトニトリル200mLを加え、50℃で2時間攪拌した。反応終了後、反応混合物に水を加えると2層に分離した。下層を分液すると、I(CFSOFを含む液体が86.5g(収率90.9%)得られた。
上記で得られたI(CFSOF86.5gに60%の発煙硫酸225gを加え、常圧下、60℃で19時間加熱した後、室温に静置すると、反応混合物は2層に分離し、転化率は89%に到達した。上層を分液後、濃硫酸で洗浄した後、蒸留精製(沸点70℃/75kPa)を行うと、36.2gの液体が得られた。この液体は19F−NMRによりFOC(CFSOFであることがわかった(収率61.3%)。
19F−NMR δ(CFCl基準):44.3ppm(1F)、22.5ppm(1F)、−109.8ppm(2F)、−119.5ppm(2F)、−122.4ppm(2F)
100mLのオートクレーブに、FOC(CFSOF66.4g、テトラグライム3mL、アジポニトリル30mL、フッ化カリウム1.8gを入れ、0℃で攪拌しながら、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)39gを導入した。導入開始から5時間後、ゲージ圧が0MPaになった時点で反応混合物を静置すると2層に分離した。下層を分液後、減圧蒸留(沸点91℃/23kPa)により、CFCF(COF)O(CFSOFが87.1g(収率82.2%)得られた。
窒素気流下、滴下ロート、リービッヒ冷却管、捕集フラスコを備えた200mLの4つ口フラスコにあらかじめ乾燥させた炭酸カリウム11.16gと、無水1,2−ジメトキシエタン20mLを入れ、40℃のオイルバスで加熱しながら、上記CFCF(COF)O(CFSOF30gをゆっくり滴下した。発泡が止まってからさらに50℃で1.5時間攪拌後、19F−NMRにより完全に原料が中和され、CFCF(COK)O(CFSOFに変換したことを確認した。この反応混合物から1,2−ジメトキシエタンを減圧留去し、さらに残渣を140℃に加熱して減圧下で乾燥させた。乾燥させたCFCF(COK)O(CFSOFを含む残渣を減圧(12kPa)下、170℃に加熱すると脱炭酸反応が起こり、液体が留出し始めた。さらに徐々に温度を上げていき、最終的には185℃まで上昇させた。得られた液体は蒸留精製(沸点57℃/13.3kPa)により、CF=CFO(CFSOFが20.6g(収率80.6%)得られた。19F−NMR δ(CFCl基準):43.8ppm(1F)、−87.0ppm(2F)、−110.0ppm(2F)、−116.9ppm(1F)、−122.2ppm(2F)、−124.4ppm(1F)、−127.0ppm(2F)、−138.4ppm(1F)
【0028】
参考例3
CF=CFOCFCFCFCFCFCFSOFの合成
還流塔、攪拌機を備えた2Lの3つ口フラスコにI(CFI122gとアセトン450mL、水50mLを入れ、フラスコを氷浴につけ、Na48gを少しずつ加えた後、25℃で2時間攪拌した。反応混合物を19F−NMRで測定すると、I(CFSONaが68mol%、NaOS(CFSONaが6mol%生成していた。
反応混合物からアセトンと水を留去した後、残渣にHFC−43−10mee300mLを加え、固形物をろ過した。ろ液からHFC−43−10meeを減圧留去させると、I(CFIが31.6g回収された。一方、固形物に500mLの水を加えた後、酢酸エチルで3回抽出した後、酢酸エチル溶液を減圧濃縮すると固体が得られた。この固体は、19F−NMRによりI(CFSONaであることがわかった。
ガス吹き込み管を備えたILの3つ口フラスコに、上記I(CFSONaを移し、水300mLを加え、フラスコを氷浴につけ、塩素を吹き込んでいくと、2層に分離した。下層を分液すると、75.1gのI(CFSOClが得られた(収率95.2%)。
還流塔を備えた500mLフラスコに、上記で得られたI(CFSOCl75.1gにKF24.8gとアセトニトリル150mLを加え、50℃で2時間攪拌した。反応終了後、反応混合物に水を加えると2層に分離した。下層を分液すると、66.8gのI(CFSOF(収率91.9%)が得られた。
I(CFSOF129gに60%の発煙硫酸269gを加え、常圧下、60℃でさらに80℃で8.5時間加熱すると、反応混合物は2層に分離し、転化率は100%に到達した。上層を分液後、濃硫酸で洗浄すると89gの液体が得られた。この液体は、19F−NMRにより、FOC(CFSOFであることがわかった(収率93%)。
19F−NMR 44.3ppm(1F)、22.5ppm(1F)、−109.7ppm(2F)、−120.0ppm(2F)、−121.8ppm(2F)、−122.5ppm(2F)、−124.1ppm(2F)
100mLのオートクレーブに、FOC(CFSOF79g、テトラグライム3.5ml、アジポニトリル35ml、1.45gのフッ化カリウムを入れ、0℃で攪拌しながら、41.4gのHFPOを7時間かけて導入した。この時点で転化率が64%だったので、さらに3.5mlのテトラグライムを加え、0℃で攪拌しながら、24.2gのHFPOを3.5時間かけて導入した。反応後、過剰のHFPOを放圧し、内容物を分液して下層部分を取り出した。転化率は96%に達した。得られた液を蒸留して、CFCF(COF)O(CFSOF91.6g(収率81%)を得た。
窒素気流中、滴下ロートを備えた200mLの3つ口フラスコに乾燥した炭酸カリウム31.9gと、無水1,2−ジメトキシエタン1000mlを入れ、室温で上記CFCF(COF)O(CFSOF120gをゆっくり滴下した。
そのまま室温で1時間攪拌し、さらに50℃で1時間攪拌後、19F−NMRより完全に原料が中和され、CFCF(COK)O(CFSOFに変換したことを確認した。反応液をろ過した後、ろ液から1,2−ジメトキシエタンを減圧留去し、残渣を100℃に加熱して減圧下で乾燥させ、122.2gのCFCF(COK)O(CFSOFを得た(収率96%)。
蒸留塔を備えた200mlの3つ口フラスコにCFCF(COK)O(CFSOF82gを入れ、減圧(22〜1.0kPa)下、180〜200℃で5.25時間加熱すると、脱炭酸反応が起こり、63.3gの液体が留出した。さらに得られた液体は蒸留精製により、51.2gのCF=CFO(CFSOFを得た(収率76%)。
19F−NMR 43.8ppm(1F)、−86.9ppm(2F)、−110.0ppm(2F)、−117.1ppm(1F)、−121.9ppm(2F)、−123.4ppm(2F)、−124.0ppm(2F)、−124.7ppm(1F)、−127.3ppm(2F)、−138.4ppm(1F)
実施例1
ステンレス製200mlオートクレーブに、75gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、75gのHFC43−10mee(CFCHFCHFCFCF)を入れた。容器内を充分に窒素置換した後、さらにテトラフルオロエチレン(TFE)で置換した。ここで重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液(冷凍庫に保管してあったもの)0.3gを入れ、TFEで0.33MPaに加圧した。35℃で攪拌しながら圧力0.33MPaを維持するように適宜TFEを追加圧入した。途中で(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.15gを追加注入した。4.5時間後放圧し、次いで重合混合液にメタノールを加えて濾過し、分離された固形物をHFC43−10mee/メタノール混合液(2/1、体積比)で洗浄、乾燥して7.83gの白色固体を得た。
この固体のIRスペクトルを測定したところ、SOF基に由来するピークが観察され、SOF基が含まれていることが確認できた。また、19F−NMRスペクトルを測定した結果、CF=CFOCFCFCFCFSOFモノマー単位とTFEモノマー単位を含む共重合体であることが確認された。
このポリマーのメルトフローレート(MFR)は、米国Dynisco社製D4002メルトインデックステスターを用い、温度270℃、荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件下で測定し、6.46g/10分であった。
この共重合体を270℃にてプレスし、厚さ50μmの膜状の成型体を得た。
上記膜を、KOH/ジメチルスルホキシド/水(30:15:55/質量比)中、90℃で1時間浸漬してケン化反応を行った。次いで、水洗後、4N硫酸中、90℃で1時間浸漬し、水洗、乾燥して当量重量(EW)829g/当量の膜(A膜)を得た。
A膜の23℃の水中でのプロトン伝導度を測定したところ、0.12S/cmであった。尚、プロトン伝導度は、膜サンプルを1×6cmに切り出し、23℃の脱イオン水中、6端子法で測定した。以下の、実施例および比較例のプロトン伝導度も、同様の方法で測定した。
また、A膜を80℃の熱水中に30分間浸漬し、表面水をすばやく拭き取った後の質量の、乾燥ポリマー質量からの増加分を、乾燥ポリマー質量で除した値のパーセント値(含水率)を求めたところ、26%であった。
A膜を30mm×3mmの長方形に切断したものを試験片とし、日本国A&D社製動的粘弾性測定装置RHEOVIBLON DDV−01−FPを用い、室温〜300℃、周波数35Hzの条件下で動的的粘弾性の温度依存性を測定した。その結果求められた最大損失正接(Tg)は、145℃であった。また、この膜は測定中、193℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
A膜ポリマーについて、日本国島津製作所社製、島津熱重量測定装置TGA−50を用い、アルゴン中及び空気中、昇温速度10度/分でTGAを測定した。アルゴン及び空気の流量は50ml/分とした。また、アルゴン中の場合、酸素濃度が1000ppm以下になってから測定を開始した。測定結果から温度−質量曲線を求め、熱分解開始前の曲線の接線と、熱分解開始後の曲線の接線との交点を熱分解開始温度とした。その結果、アルゴン中での熱分解開始温度は393℃、空気中での熱分解開始温度は362℃であった。
【0029】
(水和積の測定)
日本国特開昭57−25331号明細書に記載の方法に従い110℃で16時間乾燥して乾燥重量を測定した上記A膜を沸騰水中に30分間浸漬した後、取り出して、国際出願公開公報WO2004/062019号明細書に記載の方法に従い室温の水中に5分間保持した。膜を取り出し、表面水をすばやく拭き取った後の質量を測定した。増加した質量から吸収水量(A膜の場合52質量%)を求め、スルホン酸基の当量当たりの水のモル数を求め、EW値と掛け合わせることで水和積を算出した。その結果、A膜の水輪積は19,900であり、水和積×EWは16.5×10であった。尚、この場合の乾湿寸法変化は、乾燥時の面積に対する湿潤時の面積の増加率で表すと、53%であった。(耐熱水試験)
ガラス内筒を備えた耐圧容器に、膜サンプルと水を入れ、160℃のオイルバスで3時間加熱した。放冷後、膜を取り出し、乾燥後に質量を測定したが、質量は変化していなかった。
(80℃水中突き刺し試験)
測定は予め80℃で1時間、水中で膨潤させた膜をSUSのリングに挟んで固定し、80℃ウォーターバス内に設置して突き刺した。測定装置は、日本国KATO TECH社製KES−G5ハンディー圧縮試験機を用い、針の曲率半径0.5mm、侵入速度2mm/secの条件で測定した。その結果、この膜の突き刺し強度は、湿潤膜厚50μm換算で190gfであった。
(小角X線散乱測定)
小角X線散乱は、日本国リガク社製CFC付ナノスケール小角散乱装置を用いて測定した。膜は純水に浸した状態で測定した。X線は膜面に対して垂直方向から入射した。得られたスペクトルから、2θが3°の散乱強度(I)と、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)を求めたところ、9.3であった。
【0030】
実施例2
実施例1と同じ容器に、50gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、100gのHFC43−10mee、0.4gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.225MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で6.8時間重合を行い(途中で(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.2gを2回追加注入した)、10.46gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは14.5g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜(B膜)のイオン交換容量は、860g/当量であった。また、23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.11S/cm、80℃の熱水中の含水率は22%、Tgは150℃であった。
このスルホン酸ポリマーについて、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は395℃、空気中での熱分解開始温度は364℃であった。
実施例1と同様の方法で測定したB膜の吸収水量は48質量%であり、これから求められる水和積は19,800、水和積×EWは17.0×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は46%であった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、37であった。
【0031】
実施例3
実施例1と同じ容器に、50gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、100gのHFC43−10mee、0.36gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.325MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で2.9時間重合を行い(重合開始剤の追加注入なし)、13.52gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは0.11g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜(C膜)のイオン交換容量は、1,080g/当量であった。また、23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.068S/cm、80℃の熱水中の含水率は10%、Tgは155℃であった。
このスルホン酸ポリマーについて、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は390℃、空気中での熱分解開始温度は367℃であった。
実施例1と同様の方法で測定したC膜の吸収水量は25質量%であり、これから求められる水和積は16,200、水和積×EWは17.5×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は27%であった。
【0032】
実施例4
ステンレス製200mlオートクレーブに、12.75gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、39gのHFC43−10meeを入れた。容器内を充分に窒素置換した後、重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.6gを入れ、テトラフルオロエチレン(TFE)で0.3MPaに加圧した。23℃で攪拌しながら0.3MPaを維持するように、適宜TFEを追加圧入した。1.5時間後、放圧し、次いで、重合混合液にメタノールを加えて濾過し、固形物をHFC43−10mee、メタノールで洗浄、乾燥して2.42gの白色固体を得た。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜(D膜)のイオン交換容量は、1,300g/当量であった。また、23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.044S/cm、80℃の熱水中の含水率は7%、Tgは156℃であった。
実施例1と同様の方法で測定したE膜の吸収水量は16質量%であり、これから求められる水和積は15,000、水和積×EWは19.5×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は19%であった。
【0033】
実施例5
実施例1と同じ容器に、75gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、75gのHFC43−10mee、0.27gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.33MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で6.8時間重合を行い(途中で(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.14gを2回追加注入した)、9.19gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは9.0g/10分あった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜(E膜)のイオン交換容量は、780g/当量であった。また、23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.14S/cm、80℃の熱水中の含水率は47%、Tgは145℃であった。
実施例1と同様の方法で測定したE膜の吸収水量は62質量%であり、これから求められる水和積は21,000、水和積×EWは16.4×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は49%であった。
【0034】
実施例6
ステンレス製200mlオートクレーブに、30gのCF=CFOCFCFCFCFCFCFSOF、30gのHFC43−10meeを入れた。容器内を充分に窒素置換した後、重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液1.0gを入れた。テトラフルオロエチレン(TFE)で置換した後、さらにTFEで0.2MPaに加圧した。25℃で攪拌しながら0.2MPaを維持するように、適宜TFEを追加圧入した。6時間後放圧し、次いで重合混合液にメタノールを加えて濾過し、固形物をHFC43−10meeで洗浄、乾燥して7.11gの白色固体を得た。
この固体のIRスペクトルを測定したところ、SOF基に由来するピークが観察され、SOF基が含まれていることが確認できた。また、19F−NMRスペクトルを測定した結果、CF=CFOCFCFCFCFCFCFSOFモノマー単位とTFEモノマー単位を含む共重合体であることが確認された。このポリマーのMFRは9.5g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜(F膜)のイオン交換容量は、870g/当量であった。また、23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.12S/cm、80℃の熱水中の含水率は31%、Tgは142℃であった。
このスルホン酸ポリマーについて、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は385℃、空気中での熱分解開始温度は373℃であった。
実施例1と同様の方法で測定したF膜の吸収水量は51質量%であり、これから求められる水和積は21,400、水和積×EWは18.6×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は53%であった。
【0035】
実施例7
実施例1〜3、および実施例5〜6で得た膜(A、B、C、E、F膜)を3cm×3cm(0.1g)に切り出し、内径5mm長さ5cmのSUS製試料管に入れ、入口側にSUS配管を、出口側にPTFEの配管をそれぞれ接続した。試料管全体を200℃のオーブンに入れ、SUS配管を通じて空気を20ml/分で流した。この際、配管の途中で80℃に加温した水のバブラーを通すことで空気を加湿した。出口側のPTFE配管は、8mlの希NaOH水溶液(6×10−3N)に導入し、分解物を1時間ずつ、8時間に渡り捕集を続けた。
各1時間毎の捕集液について、イオンクロマトを測定したところフッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定していた。4時間目以降の測定値から求められた8時間あたりでのフッ化物イオンの生成量は、以下の通りであった。
A膜:元のポリマー中の全フッ素の0.080質量%
B膜:元のポリマー中の全フッ素の0.057質量%
C膜:元のポリマー中の全フッ素の0.055質量%
E膜:元のポリマー中の全フッ素の0.075質量%
F膜:元のポリマー中の全フッ素の0.083質量%
【0036】
比較例1
下記式(14):

で表わされる共重合体(k/l=5)を270℃で押し出し成膜(膜厚45μm)したものを、実施例1と同様にケン化、酸処理を行い、イオン交換容量950g/当量の−SOH型の膜(膜厚50μm)を得た。この膜(P膜)の23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.09S/cm、80℃の熱水中の含水率は23%、Tgは123℃であった。
このスルホン酸ポリマーについて、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は316℃、空気中での熱分解開始温度は314℃であった。
この膜を3cm×3cmに切り出し、実施例4と同様に分解試験を行った。同様に測定した各1時間毎の捕集液のフッ化物イオン濃度は4〜6ppmであり、ほぼ一定していた。測定値から求められた8時間でのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー中の全フッ素の0.54質量%であり、実施例7に比べ、1桁高い値であった。
【0037】
比較例2
下記式(15):

で表わされる共重合体(k/l=4.6)を270℃で押し出し成膜(膜厚45μm)したものを、実施例1と同様にケン化、酸処理を行い、イオン交換容量740g/当量の−SOH型の膜(膜厚50μm)を得た。この膜(Q膜)の23℃の水中におけるプロトン伝導度は0.13S/cm、80℃の熱水中の含水率は36%、Tgは148℃であった。
このスルホン酸ポリマーについて、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は314℃、空気中での熱分解開始温度は319℃であった。
この膜を3cm×3cmに切り出し、実施例4と同様に分解試験を行った。同様に測定した各1時間毎の捕集液のフッ化物イオン濃度は4〜6ppmであり、ほぼ一定していた。測定値から求められた8時間でのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー中の全フッ素の0.47質量%であり、実施例7に比べ、1桁高い値であった。
【0038】
比較例3
市販Nafion(登録商標)117膜(米国デュポン社製、一般式(1)においてn=1、m=2であり、イオン交換容量が1,100g/当量のフッ素化スルホン酸ポリマー膜)について、実施例1と同様にTGAを測定した結果、アルゴン中での熱分解開始温度は317℃、空気中での熱分解開始温度は312℃であった。
【0039】
実施例8
計算モデル(A)として(CFCFOCFCFSOH、(B)として(CFCFOCFCFCFSOH、(C)として(CFCFOCFCFCFCFSOH、(D)として(CFCFOCFCFCFCFCFCFSOHのそれぞれとOHラジカルとの反応を設定し、下記式の反応を仮定した密度汎関数法計算を行った。計算プログラムとして米国Accelrys社製DMol3を用い、基底関数としてDNP、電子交換相関ポテンシャルとしてPW91型の勾配補正ポテンシャルを用いた。

その結果、(A)(CFCFOCFCFSOHの熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーは、スルホン酸基を単位として36.51kcal/当量、(B)(CFCFOCFCFCFSOHの場合は38.99kca/当量、(C)(CFCFOCFCFCFCFSOHの場合は43.79kcal/当量、(D)(CFCFOCFCFCFCFCFCFSOHの場合は54.17kcal/当量であった。
尚、実施例1〜5のポリマーは計算モデル(C)に相当し、実施例6のポリマーは計算モデル(D)に相当し、比較例2のポリマーは計算モデル(A)に相当する。すなわち、上記計算結果は、実施例1〜7と比較例2との比較で示した耐熱酸化性の差異の傾向と符合する。
【0040】
実施例9(OCV加速試験)
まず、アノード側ガス拡散電極とカソード側ガス拡散電極を向い合わせて、その間に実施例1および6で得た高分子電解質膜(A、F膜)を挟み込み、評価用セルに組み込んだ。ガス拡散電極としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm、以下同じ)に、下記式(16):

で表される共重合体(EW910g/当量)の、5質量%水−エタノール(1:1,質量比)溶液を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化したものを使用した。ポリマー担持量は0.8mg/cmであった。
この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットして昇温した後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを200cc/minで流してOCV状態に保持した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに加湿してセルへ供給した。
試験条件としては、セル温度100℃、ガス加湿温度は50℃とし、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
上記試験の開始から約10時間ごとに、高分子電解質膜にピンホールを生じたか否かを調べるため、日本国GTRテック(株)製フロー式ガス透過率測定装置GTR−100FAを用いて水素ガス透過率を測定した。評価セルのアノード側を水素ガスで0.15MPaに保持した状態で、カソード側にキャリアガスとしてアルゴンガスを10cc/minで流し、評価セル中をクロスリークによりアノード側からカソード側に透過してきた水素ガスとともにガスクロマトグラフG2800に導入し、水素ガスの透過量を定量化する。水素ガス透過量をX(cc)、補正係数をB(=1.100)、高分子電解質膜の膜厚T(cm)、水素分圧をP(Pa)、高分子電解質膜の水素透過面積をA(cm)、測定時間をD(sec)とした時の水素ガス透過率はL(cc*cm/cm/sec/Pa)は、下記式から計算される。
L=(X×B×T)/(P×A×D)
水素ガス透過率がOCV試験前の値の10倍に達した時点で試験終了とした。
上記評価結果、A膜、F膜とも200hrを超えても水素ガスリークはほとんど認められず、優れた耐久性を示した。
【0041】
比較例4
下記式(17):

で表わされる共重合体(k/l=5)を270℃で押し出し成膜(膜厚45μm)したものを、実施例1と同様にケン化、酸処理を行い、イオン交換容量1000g/当量の−SOH型の膜(膜厚50μm)を得た。この膜をR膜とした。
また、下記式(18):

で表わされる共重合体(k/l=5)を270℃で押し出し成膜(膜厚45μm)したものを、実施例1と同様にケン化、酸処理を行い、イオン交換容量830g/当量の−SOH型の膜(膜厚50μm)を得た。この膜をS膜とした。
比較例1および比較例2で得られた膜(P,Q膜)、および上記R,S膜について、実施例9と同様にOCV加速試験を行った。その結果、P膜、Q膜はともに20hr、R膜は30hr、S膜は50hrでそれぞれ水素ガスリークが急激に上昇した。すなわち、一般式(1)においてn=1であるP膜、R膜はともに20〜30hrで劣化し、n=0/m=2であるQ膜はやはり20hr、n=0/m=3であるS膜でも多少寿命が延びるが、それでも50hrで劣化した。
【0042】
実施例10
ガラス内筒を備えたステンレス製200mlオートクレーブに、実施例1と同じ方法を繰り返して製造した−SOH型の膜(EW820、−SOF型のMFR3.8)5.0g(乾燥質量)、および水/エタノール(1/1,wt)95gを仕込み、180℃で4時間加熱攪拌した。室温まで放冷後、容器を開けたところ、固体は完全に消失し、均一な溶液状であった。この溶液または分散液をガラスシャーレ上に展開し、60℃で1時間、80℃で1時間乾燥した。次いで200℃で1時間アニールして膜厚50μmのキャスト膜を作成した。
実施例1と同様の方法で測定したこのキャスト膜の吸収水量は48質量%であり、これから求められる水和積は17,900、水和積×EWは14.7×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は32%であった。すなわち実施例1と比べると、200℃で1時間アニールした膜は、プレス膜と比べてほとんど差異は認められなかった
【0043】
実施例11
実施例10で製造した溶液または分散液を用いて、乾燥条件、アニール条件を変えたキャスト膜を作成した。まず、90℃で10分乾燥し、次いで200℃で10分アニールして膜厚30μmのキャスト膜を作成した。この膜の吸収水量は49質量%であり、これから求められる水和積は18,300、水和積×EWは15.0×10であった。この場合の乾湿寸法変化は33%であった。また、60℃で1時間、80℃で1時間乾燥した後、170℃で1時間アニールして膜厚50μmのキャスト膜を作成した。この膜の吸収水量は65質量%であり、これから求められる水和積は24,300、水和積×EWは19.9×10であった。この場合の乾湿寸法変化は47%であった。すなわち、200℃1時間のアニールと、200℃10分のアニールとではほとんど差異は認められなかったが、170℃のアニールでは水和積が上昇していた。
【0044】
実施例12
ガラス内筒を備えたステンレス製200mlオートクレーブに、実施例6で得られた膜2.5g(乾燥質量)、および水/エタノール(1/1,wt)47.5gを仕込み、180℃で4時間加熱攪拌した。室温まで放冷後、容器を開けたところ、固体は完全に消失し、均一な溶液状であった。この溶液または分散液をガラスシャーレ上に展開し、60℃で1時間、80℃で1時間乾燥した。次いで200℃で1時間アニールして膜厚50μmのキャスト膜を作成した。
実施例1と同様の方法で測定したこのキャスト膜の吸収水量は51質量%であり、これから求められる水和積は21,400、水和積×EWは18.6×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は40%であった。
【0045】
実施例13
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、1.0gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.22MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で3時間重合を行い、5.8gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは86.3g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、815g/当量であった。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は60質量%であり、これから求められる水和積は22,200、水和積×EWは18.1×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は55%であった。
この膜について実施例1と同様に160℃で耐熱水試験を行ったところ、試験後の膜の質量は9%減少していた。また、この膜の80℃水中突き刺し試験を実施例1と同様に行ったところ、湿潤膜厚50μm換算で92gfであった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、49であった。
【0046】
実施例14
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、0.8gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.22MPaに加圧した。実施例1と同様に25℃で5.3時間重合を行い、13.3gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは0.03g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、1045g/当量であった。この膜のTgは144℃であり、測定中、243℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は25質量%であり、これから求められる水和積は15,000、水和積×EWは15.7×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は28%であった。また、この膜の80℃水中突き刺し試験を実施例1と同様に行ったところ、湿潤膜厚50μm換算で308gfであった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、38であった。
【0047】
実施例15
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、1.0gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.30MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で2.25時間重合を行い、12.5gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは1.6g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、997g/当量であった。この膜のTgは147℃であり、測定中、249℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は32質量%であり、これから求められる水和積は17,800、水和積×EWは17.7×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は36%であった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、49であった。
【0048】
実施例16(燃料電池評価)
高分子電解質膜の燃料電池耐久性評価は以下のように行った。まず、以下のように電極触媒層を作製する。Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4wt%)1.00gに対し、式(16)で表される共重合体(EW910g/当量)の、5質量%水−エタノール(1:1,質量比)溶液を11質量%に濃縮したポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加して後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cmになる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
このMEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B−1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを260cc/min、カソード側に空気ガスを880cc/minで流し、アノード・カソード共に0.20MPa(絶対圧力)で加圧した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガスは90℃、空気ガスは80℃で加湿してセルへ供給した状態にて、電流電圧曲線を測定して初期特性を調べた。
初期特性を調べた後、耐久性試験をセル温度100℃で行った。アノード、カソード共にガス加湿温度は60℃とした。アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気ガスを102cc/minで流し、アノード側を0.30MPa(絶対圧力)、カソード側を0.15MPa(絶対圧力)で加圧した状態で、電流密度0.3A/cmで発電した。また、10分ごとに1分間、開回路にして電流値を0にし、OCV(開回路電圧)を調べた。
耐久性試験において、高分子電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へ大量にリークするというクロスリークと呼ばれる現象が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(オランダ国Varian社製CP4900)にて測定し、この測定値が著しく上昇した時点で試験終了とした。
上記評価法により、実施例10で作成したキャスト膜について燃料電池評価を行った。その結果、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。
【0049】
実施例17
実施例16と同様の方法で、実施例1で作成した膜について燃料電池評価を行った。その結果、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。
【0050】
実施例18
実施例16と同様の方法で、実施例12で作成した膜について燃料電池評価を行った。その結果、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。
【0051】
比較例5
ガラス内筒を備えたステンレス製200mlオートクレーブに、比較例2で得られた膜5.0g(乾燥質量)、および水/エタノール(1/1,wt)95gを仕込み、180℃で4時間加熱攪拌した。室温まで放冷後、容器を開けたところ、固体は完全に消失し、均一な溶液状であった。この溶液または分散液をガラスシャーレ上に展開し、60℃で1時間、80℃で1時間乾燥した。次いで200℃で1時間アニールして膜厚50μmのキャスト膜を作成した。
実施例16と同様の方法で、この膜について燃料電池評価を行った。その結果、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。一方、耐久性評価では、セル温度100℃で、280hrでクロスリークが急上昇して試験を終了した。以上のように、初期性能は良好なものの、充分な耐久性は得られなかった。
【0052】
実施例19
米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm)に、実施例10で作成した溶液または分散液を、ポリマー担持量が0.8mg/cmとなるように塗布し、大気雰囲気中、140℃で1時間、さらに200℃で30分間乾燥・固定化し、電極評価用のガス拡散電極とした。
比較例1で得られた膜(P膜)と、上記ガス拡散電極を用い、実施例9と同様にOCV加速試験を行った。その結果、60hrで水素ガスリークが急激に上昇した。
【0053】
比較例6
実施例10で作成した溶液または分散液の代わりに、比較例5で作成した溶液または分散液を用いた以外、実施例19と同様にガス拡散電極を作成し、OCV加速試験を行った。その結果、20hrで水素ガスリークが急激に上昇した。
【0054】
実施例20
電極インクを作成する際、式(16)で表される共重合体(EW910g/当量)の、5質量%水−エタノール(1:1,質量比)溶液の代わりに実施例10で得られた溶液または分散液を用いた以外、実施例16と同様に燃料電池評価を行った。その結果、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。
【0055】
実施例21
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、3.1gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液、0.05gのメタノールを実施例1と同様に仕込み、TFEで0.30MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で1.5時間重合を行い、8.0gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは72g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、965g/当量であった。この膜のTgは145℃であり、測定中、234℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は41質量%であり、これから求められる水和積は21,200、水和積×EWは20.5×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は38%であった。この膜について実施例1と同様に160℃で耐熱水試験を行ったところ、試験後の膜の質量は4%減少していた。また、この膜の80℃水中突き刺し試験を実施例1と同様に行ったところ、湿潤膜厚50μm換算で132gfであった。
【0056】
比較例7
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、3.1gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液、0.08gのメタノールを実施例1と同様に仕込み、TFEで0.3MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で1.6時間重合を行い、9.5gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは600g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、1,035g/当量であった。この膜のTgは145℃であり、測定中、178℃で弾性率が急激に低下し、破断した。すなわち、破断温度は実施例13に比べ、著しく低下した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は54質量%であり、これから求められる水和積は32,200、水和積×EWは33.3×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は59%であった。
この膜について実施例1と同様に160℃で耐熱水試験を行ったところ、試験後の膜の質量は32%減少していた。また、この膜の80℃水中突き刺し試験を実施例1と同様に行ったところ、湿潤膜厚50μm換算で44gfであった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、164であった。
【0057】
比較例8
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、5.32gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液を実施例1と同様に仕込み、TFEで0.23MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で1.5時間重合を行い、8.5gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは720g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、843g/当量であった。この膜のTgは142℃であり、測定中、163℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は84質量%であり、これから求められる水和積は33,000、水和積×EWは27.8×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は90%であった。
この膜について実施例1と同様に160℃で耐熱水試験を行ったところ、試験後の膜はぼろぼろに破れており、質量の測定はできなかった。また、この膜の80℃水中突き刺し試験を実施例1と同様に行ったところ、湿潤膜厚50μm換算で48gfであった。
実施例1と同様に小角X線散乱を測定し、散乱強度比I/Iを求めたところ、131であった。
【0058】
比較例9
実施例1と同じ容器に、40gのCF=CFOCFCFCFCFSOF、80gのHFC43−10mee、3.1gの(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液、0.06gのメタノールを実施例1と同様に仕込み、TFEで0.30MPaに加圧した。実施例1と同様に35℃で1.5時間重合を行い、9.4gの白色固体を得た。このポリマーのMFRは204g/10分であった。
このポリマーを実施例1と同様にプレス成膜、ケン化、酸処理を行い、得られた−SOH型の膜のイオン交換容量は、986g/当量であった。この膜のTgは144℃であり、測定中、189℃で弾性率が急激に低下し、破断した。
実施例1と同様の方法で測定したこの膜の吸収水量は43.5質量%であり、これから求められる水和積は23,500、水和積×EWは23.2×10であった。また、この場合の乾湿寸法変化は40%であった。この膜について実施例1と同様に160℃で耐熱水試験を行ったところ、試験後の膜の質量は12%減少していた。
【0059】
実施例22
実施例10で得られた溶液または分散液(1液)にジメチルアセトアミド(以下、DMAcと称する)を添加し、120℃で1時間還流した後、エバポレータで減圧濃縮を行って、ポリマー/DMAc=1.5/98.5(質量比)溶液(2液)を製造した。一方、重量平均分子量が27,000のポリ[2,2’−(m=フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](日本国シグマアルドリッチジャパン(株)社製、以下PBIと称する)をオートクレーブ中、200℃でDMAcに溶解し、さらにDMAcで希釈して、PBI/DMAc=1/99(質量%)の組成の溶液(3液)を作製した。
次に10gの2液に対して1.63gの3液を添加し混合した後、9.7gの1液を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のポリマーとPBIの濃度は、各々5.5質量%と0.14質量%であった。
このキャスト液をガラスシャーレ上に展開し、60℃で1時間、80℃で1時間乾燥した。次いで200℃で1時間アニールして膜厚50μmのキャスト膜を作成した。
この膜を3cm×3cmに切り出し、実施例4と同様に分解試験を行った。同様に測定した各1時間毎の捕集液のフッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定していた。測定値から求められた8時間でのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー中の全フッ素の0.038質量%であった。すなわち、実施例7と比較すると、PBIを添加することで、フッ化物イオンの生成量が半減した。
実施例1、2、3、6、13、14、15、21及び比較例7、8、9で得られたMFRと水和積の関係について図2にまとめて示した。
実施例1、15、および比較例7、8で得られた膜を水に含浸させて測定した小角X線スペクトルは、図3にまとめて示した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、特定の側鎖構造を有し特定の分子量の範囲のフッ素化スルホン酸ポリマーが、優れた化学的安定性(耐酸化性、熱安定性)、高耐熱性、高プロトン伝導性とともに高機械的強度と小さな乾湿寸法変化を併せ持つ材料となるという発見に基づくものであり、該フッ素化スルホン酸ポリマーを膜および触媒バインダーの少なくとも一方に用いることを特徴とした、耐久性に優れ、特に高温領域での運転に適した固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体、およびその関連部材に関して利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、実施例1及び比較例2のフッ素化スルホン酸ポリマーの、空気中でのTGAデータである。
【図2】図2は、一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーの、MFR値と水和積との関係を示したものである。
【図3】図3は、一般式(6)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーからなる膜を水に含浸させて測定した小角X線スペクトルである。図中、Aは実施例1の膜、Bは比較例8の膜、Cは実施例15の膜、Dは比較例7の膜のスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを、膜および触媒バインダーの少なくとも一方の固体電解質ポリマーとして用いることを特徴とした、固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項2】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項3】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項4】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項5】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項6】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項7】
フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項8】
一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項9】
一般式(4)において、pが4または6である、請求項8に記載の膜−電極接合体。
【請求項10】
23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用した、請求項1〜9のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項11】
23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用した、請求項1〜9のいずれか一項に記載の膜−電極接合体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の膜−電極接合体であって、フッ素化スルホン酸ポリマーが一般式(4)においてpが4であるモノマーユニットを有し、水に含浸させて測定した小角X線の2θが3°の散乱強度(I)と、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)が100以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを使用することを特徴とした膜−電極接合体。
【請求項13】
下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーからなる、固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項14】
請求項13に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーを60質量%以上含んでなる固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項15】
請求項13に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーを60質量%以上含有し、さらに、芳香族基含有ポリマー、塩基性基含有ポリマーおよび補強材から選ばれる少なくとも一種を0.1質量%以上、40質量%未満の範囲で含有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項16】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量と水和積との積が2×10〜23×10の範囲内である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項17】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、水和積が2,000以上、22,000未満である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項18】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項13〜17のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項19】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項13〜18のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項20】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項13〜19のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項21】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項13〜20のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項22】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項13〜21のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項23】
フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項13〜22のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項24】
一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項13〜23のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項25】
一般式(4)において、pが4または6である、請求項24に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項26】
23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であることを特徴とした、請求項13〜25のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項27】
23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とした、請求項13〜25のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項28】
27.請求項13〜27のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜であって、フッ素化スルホン酸ポリマーが一般式(4)においてpが4であるモノマーユニットを有し、水に含浸させて測定した小角X線の2θが3°の散乱強度(I)と、2θが0.3°の散乱強度(I)との比(I/I)が100以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーであることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜。
【請求項29】
請求項13〜28のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用膜を用いることを特徴とした、固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項30】
一般式(4)において、p=6であるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマー。
【請求項31】
下記一般式(3):

(式中、Rfは炭素数4〜10の2価のパーフルオロ炭化水素基である。)
で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレート(MFR)が100g/10分以下であるフッ素化スルホン酸ポリマーを0.1〜50質量%含有することを特徴とする、フッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項32】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、イオン交換容量が600〜1,300g/当量である、請求項31に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項33】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーのガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする、請求項31〜32のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項34】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、空気中の熱質量分析において、10度/分で昇温したときの熱分解開始温度が330℃以上、450℃以下であることを特徴とする、請求項31〜33のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項35】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、膜形状、200℃で、80℃水飽和空気と8時間にわたり接触し続けたときのフッ化物イオンの生成量が、元のフッ素化スルホン酸ポリマー中の全フッ素の0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項31〜34のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項36】
一般式(3)で表されるモノマーユニットを有するフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、密度汎関数法計算により得られる、熱酸化分解過程における律速段階反応の活性化エネルギーが、スルホン酸基を単位として40kcal/当量以上、80kcal/当量以下であることを特徴とする、請求項31〜35のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項37】
フッ素化スルホン酸ポリマーが、少なくとも一般式(3)で表されるモノマーユニットとテトラフルオロエチレンユニットを含むことを特徴とする、請求項31〜36のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項38】
一般式(3)で表されるモノマーユニットが、下記一般式(4):

(式中、p=4〜8の整数)
で表されるモノマーユニットである、請求項31〜37のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項39】
一般式(4)において、pが4または6である、請求項38に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項40】
フッ素化スルホン酸ポリマーの23℃の水中におけるイオン伝導度が0.06S/cm以上であることを特徴とした、請求項31〜39のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項41】
フッ素化スルホン酸ポリマーの23℃の水中におけるイオン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とした、請求項31〜40のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液。
【請求項42】
請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を用い、キャスト成膜することを特徴とする、フッ素化スルホン酸ポリマー膜の製造方法。
【請求項43】
キャスト成膜後、ガラス転移温度以上の温度でアニール処理することを特徴とする、請求項42に記載のフッ素化スルホン酸ポリマー膜の製造方法。
【請求項44】
請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を触媒と混合し、基材上に塗布、次いで乾燥することを特徴とする、高分子固体電解質含有ガス拡散電極の製造方法。
【請求項45】
高分子固体電解質を含まないガス拡散電極に、請求項31〜41のいずれか一項に記載のフッ素化スルホン酸ポリマーの溶液または分散液を含浸させ、次いで乾燥させることを特徴とする、高分子固体電解質含有ガス拡散電極の製造方法。
【請求項46】
請求項1〜12および請求項29のいずれか一項に記載の膜−電極接合体を用いてなる燃料電池を80℃以上で運転することを特徴とする、燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/029624
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514065(P2005−514065)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013675
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】