説明

固体高分子型燃料電池用電極触媒

【課題】 本発明は、耐CO被毒性および触媒活性に優れ、固体高分子型燃料電池用電極触媒、特にメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池の燃料極に用いるに好適な電極触媒を提供するものである。
【解決手段】 本発明は、貴金属とマンガン酸化物、特にMnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物とを導電性担体に担持して電極触媒とする。好ましくは、貴金属、マンガン酸化物および導電性炭素材料の総質量に対し、1〜15質量%であり、貴金属は白金および/またはルテニウムである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用電極触媒に関し、詳しくは高い耐一酸化炭素(CO)被毒性と触媒活性とを有し、固体高分子型燃料電池の燃料極に使用するに好適な電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学反応を利用してその化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電システムである。現状の石油や天然ガスを燃焼し、その熱エネルギーを電気エネルギーに変換する現状のシステムに比べて、発電効率が高く、NOxやSOxが排出されないため、次世代のクリーンエネルギーとして注目されている。燃料電池は、電解質の種類からリン酸型燃料電池、溶融炭酸型燃料電池、固体高分子型燃料電池、固体酸化物型燃料電池に分類することができる。そのなかでも固体高分子型燃料電池は、他の燃料電池より低い温度領域において発電させることができ、小型化が容易なことから自動車用電源、家庭用電源、携帯用電源など種々の用途に適用できる可能性がある。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、水素イオン導電性を示す固体高分子型電解質膜(例えば、米国デュポン社製のナフィオン膜)の両側に触媒と水素イオン導電性高分子電解質とを含んだ触媒層とその外面に通気性および導電性を併せ持つガス拡散層(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などで撥水処理を行ったカーボンペーパーやカーボンクロス等)が設けられている。触媒層とガス拡散層とを合わせて電極と呼び、固体高分子電解質膜膜の両側に燃料極および空気極を設けた電極−固体高分子型電解質膜を基本単位とする。燃料極に水素やメタノールなどの燃料を、空気極に酸素や空気を供給し、燃料またはガスと固体高分子電解質膜と電極の3層界面において反応を進行させることにより電気を取り出すことができる。
【0004】
燃料極および空気極において使用される触媒としては、カーボンブラックなどの導電性担体に白金などを担持したものが主流となっている。空気極では酸素還元能が高い触媒が求められており、また、燃料極では、耐CO被毒性が高く、なおかつ触媒活性の高い触媒が求められている。一酸化炭素による被毒が少ない触媒として、例えば、白金−ルテニウム(非特許文献1)、白金−タングステン(特許文献1)、白金−モリブデン(特許文献2)、白金−ニッケルおよびコバルト(特許文献3)などの合金系触媒が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−15122号公報
【特許文献2】特開平7−299359号公報
【特許文献3】特開平6−176766号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・エレクトロアナリティカル・ケミストリー(Journal of Electroanalytical Chemistry)Vol.60,p267−273(1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
改質ガスのような一酸化炭素を含有した水素、あるいはメタノールを燃料とする燃料電池の燃料極においては、一酸化炭素により電極触媒が被毒され、結果として、長期にわたり安定した電力が得られなくなるという問題が生じる。特に、メタノールを用いた場合、メタノールの酸化反応が律速となる。このため、燃料極に使用する電極触媒としては、耐CO被毒性に優れ、なおかつ触媒活性に優れた電極触媒が望まれている。しかし、従来の電極触媒では、このような条件を十分満たすに至っていない。本発明はこのような状況の下になされたものであり、その目的とするところは、耐CO被毒性および触媒活性に優れた固体高分子型燃料電池用電極触媒、特に固体高分子型燃料電池の燃料極に用いるに好適な電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、触媒活性成分として、従来の電極触媒に用いられている白金系合金触媒の代わりに、貴金属とマンガン酸化物との組合せを用いることにより、特にマンガン酸化物として、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物を用いることにより、前記課題が解決できることがわかった。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、次のとおりのものである。
(1)貴金属とマンガン酸化物と導電性担体とを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(2)マンガン酸化物が、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物である上記(1)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(3)導電性担体が導電性炭素材料である上記(1)または(2)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(4)マンガン酸化物の含有量が、貴金属、マンガン酸化物および導電性炭素材料の総質量に対し、1〜15質量%である上記(3)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(5)貴金属が白金および/またはルテニウムである上記(1)ないし(4)のいずれかの固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」という。)は、耐CO被毒性と触媒活性とに優れていることから、この電極触媒を用いることにより、長期にわたり安定して高い電力を得ることが可能となる。このため、本発明の電極触媒は、特にメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池の燃料極用電極触媒として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の電極触媒を構成する成分の一つである貴金属成分としては、電極触媒に一般に用いられている貴金属であればいずれでもよく、例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、金および銀を挙げることができる。これらは単独でも、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、白金および/またはルテニウム、特に白金、あるいは白金とルテニウムとの組合せが好適に用いられる。
【0010】
他の構成成分であるマンガン酸化物成分としては、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物が好適に用いられる。このMnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物の具体例としては、MnO、Mn、MnおよびMnO、あるいはこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらのなかでも、MnO、MnおよびMnO、あるいはこれらの混合物が好適に用いられる。さらには、MnOx(x=1/1〜3/2)で表されるマンガン酸化物100質量%からなるもの、あるいはMnOx(x=1/1〜3/2)で表されるマンガン酸化物とMnOとの混合物であって、前者の含量が70質量%以上、好ましくは75質量%以上のものが好適に用いられる。
【0011】
なお、本発明の電極触媒は、その耐CO被毒性および触媒活性を損なわない範囲において、マンガン酸化物成分として、上記MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物以外のマンガン酸化物を含んでいてもよい。具体的には、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物を、マンガン酸化物の総質量基準で、90質量%以上、好ましくは95質量%以上の割合で含有するものであれば、いずれも使用することができる。
【0012】
上記マンガン酸化物の平均粒子径については、透過型電子顕微鏡写真(TEM−EDS)によって測定した平均粒子径が60〜180nmの範囲にあるのが好ましく、より好ましくは60〜150nmである。その理由は、未だ解明されていないが、マンガン酸化物の粒子を微細にすることにより、メタノールの酸化反応に寄与するマンガン酸化物が増えたことにより、貴金属、特に白金への一酸化炭素の吸着が低減され、メタノールの酸化に係わる反応速度が向上したためと考えられる。なお、TEM−EDSにおいてマンガン酸化物と認められる粒子の形状は球形であり、上記「マンガン酸化物の平均粒子径」とは、これら球状のマンガン酸化物粒子100個の粒子径を測定して算出したものである。
【0013】
本発明の電極触媒は、上記貴金属成分とマンガン酸化物とを含むものであるが、この電極触媒の性能を損なわない限り、他の金属成分を含んでいてもよい。具体的には、例えば、ケイ素、タンタル、セリウム、ランタン、インジウム、コバルト、ニッケル、タングステン、ニオブ、ガリウム、バナジウム、鉄などを、金属または酸化物の形態で含んでいてもよい。これらは単独でも、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明の電極触媒は、貴金属成分、マンガン酸化物成分、あるいはさらに必要に応じて用いられる他の金属成分を導電性担体に担持して得られる。この導電性担体としては、必要な導電性を有し、電極触媒の担体として使用可能なものであればいずれもよい。具体的には、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの導電性炭素材料を挙げることができる。そのほか、チタンとケイ素、ジルコニウム、タングステン、鉄、セリウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種とのチタン系複合酸化物(特願2005−10186)やチタン酸塩(特願2005−79094)など、導電性炭素材料との併用によって十分な導電性を有するようになるものも使用することができる。したがって、本発明の「導電性担体」とは、導電性炭素材料とチタン系複合酸化物との混合物や、導電性炭素材料とチタン酸塩との混合物をも包含するものである。これら導電性担体のなかでも、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの導電性炭素材料が好適に用いられる。この導電性炭素材料としては、100〜1600m/g、好ましくは200〜1500m/gのBET比表面積を有するものが好適に用いられる。
【0015】
本発明の電極触媒における、貴金属成分およびマンガン酸化物成分の担持量については、目的とする高い耐CO被毒性と触媒活性とが得られるように適宜決定することができる。具体的には、例えば、貴金属成分の担持量は、電極触媒の総質量(貴金属+マンガン酸化物+担体)に対し、20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%とするのがよい。マンガン酸化物成分の担持量は、電極触媒の総質量に対し、1〜15質量%、好ましくは2〜13質量%とするのがよい。マンガン酸化物の担持量が15質量%を超えると、電極触媒の耐CO被毒性および触媒活性が低下する傾向にある。一方、1質量%より少ないと、十分な添加効果が得られなくなる。任意に用いられる他の金属成分の担持量は、電極触媒の総質量(貴金属+マンガン酸化物+担体+他の金属または酸化物)に対し、1〜10質量%、好ましくは2〜10質量%である。
【0016】
本発明の電極触媒の調製方法には特に制限はなく、例えば、酸化処理工程および還元処理工程を経て調製することができる。具体的には、例えば、水溶性貴金属化合物と水溶液マンガン化合物とを水に溶解し、この混合溶液をカーボンブラックなどの導電性担体に含浸させるか、あるいは最初にマンガン化合物の水溶液を含浸させ、次に貴金属化合物の水溶液を含浸させた後、酸化処理し、次いで還元処理することにより目的とする本発明の電極触媒が得られる。上記水溶性貴金属化合物としては、例えば、ジニトロジアンミン白金、塩化白金、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウムなどを、また水溶性マンガン化合物としては、例えば、硝酸マンガン、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、安息香酸マンガン(II)、ギ酸マンガン(II)、塩化マンガン(II)などを用いることができる。
【0017】
上記酸化処理とは、マンガン化合物を酸化して、主にマンガン酸化物に変換する処理である。具体的には、例えば、硝酸マンガンなどの水溶性マンガン化合物を導電性炭素材料に吸着担持させた後、過酸化水素、過マンガンカリウムなどの酸化剤の添加、あるいは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で200〜650℃の温度で1〜2時間程度加熱することにより、マンガンを酸化物の形態で担体上に担持させることができる。
【0018】
上記還元処理とは、貴金属化合物を貴金属に変換するとともに、マンガン酸化物を、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物に変換する処理である。したがって、この還元処理は、貴金属成分および酸化マンガン成分が、それぞれ、貴金属およびMnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物の形態で担体上に担持されるように、その条件を適宜決定すればよい。この還元処理には、水素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスとの混合ガスなどを用いた還元処理、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンなどを用いた液相還元処理、またはこれら還元処理の組合せなどを用いることができる。具体的には、例えば、水素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスとの混合ガスの還元性雰囲気中で120〜350℃の温度で1〜2時間程度加熱すればよい。
【0019】
上記還元処理を、上記温度範囲の高温下において行うと酸化マンガンの還元が進行してMnOが生成しやすくなり、また低温下において行うとMnOが生成しやすくなるので、還元処理の温度および時間を適宜選択することにより、所望のMnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物を担体上に担持させることができる。
【0020】
本発明の電極触媒における、担体上のマンガン酸化物の形態(MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物の形態で存在すること)は、X線回折法および電子プローブマイクロアナライザーで決定した。また、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物の定量は、新実験化学講座、9巻、313頁(日本化学会編、丸善出版)記載の方法に準じたキレート滴定法により行った。
【0021】
本発明の電極触媒は、各種固体高分子型燃料電池の電極触媒として用いることができるが、その高い耐CO被毒性および触媒活性から、特にメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池の燃料極用電極触媒として好適に用いられる。
【実施例】
【0022】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、%は断りのない限り質量%である。
(実施例1)
<触媒調製>
硝酸マンガン(Mn(NO・6HO)の水溶液(300g−Mn/L)に導電性炭素材料であるカーボンブラック(Chabot社、Black Pearls2000)をpH10になるまで添加した。次に、110で乾燥させた後、ジニトロジアンミン白金および硝酸ルテニウムの混合溶液を含浸させ、110℃で乾燥した後、窒素ガス雰囲気下に550℃で2時間熱処理(酸化処理)した。次に、水素ガスを用いて350℃で2時間還元処理して触媒Aを得た。
【0023】
この触媒Aにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO100%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Aにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Aの触媒活性および耐CO被毒性を下記方法により測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表1に示す。
<触媒活性>
触媒A10mgを5%ナフィオン溶液(Aldrich社製)1mLに添加し、超音波により十分に分散させて触媒ペーストを調製した。この触媒ペースト5μLをグラッシーカーボン電極上に塗布、乾燥して触媒層を作成した。この触媒層をグラッシーカーボン電極上に固定化して試験電極とした。1規定の硫酸水溶液にメタノールを1モル/Lとなるように添加し、この溶液に上記試験電極を浸漬して作用極とし、対極には白金線、参照極には可逆水素電極(RHE)を用い、電位規制法によりメタノール酸化電流と電極電位の関係を測定し、0.7Vvs.RHEにおける酸化電流値を求めて、触媒活性を評価した。酸化電流値が高いほど触媒活性が高いことを示す。
<耐CO被毒性>
500mVvs.RHEの定電位測定を行い、60分経過後のメタノール酸化電流値を求めた。この酸化電流値が高く、また測定開始から0.5分後の酸化電流値と60分後の酸化電流値との変化が小さいほど耐CO被毒性が高いことを示す。この変化率は下記式により求めた。
変化率(%)={(0.5分後の酸化電流値−60分後の酸化電流値)/(0.5分後の酸化電流値)}×100
(実施例2)
実施例1において、還元処理を250℃で1時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Bを得た。この触媒Bにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、Mn100%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Bにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Bの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(Mn)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表1に示す。
(実施例3)
実施例1において、還元処理を180℃で2時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Cを得た。この触媒Cにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、99%以上がMnOであった。したがって、マンガン酸化物は、その99%以上がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Cにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Cの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表1に示す。
(実施例4)
過マンガン酸カリウム水溶液(KMnO、1N)を導電性炭素粉体であるカーボンブラック(Chaboto社製、Black Pearls2000)に含浸した後、110℃で乾燥した。次に、ジニトロジアンミン白金と硝酸ルテニウムとを水に溶解し、この混合溶液を上記粉体に含浸させ、110℃で乾燥した後、窒素ガス雰囲気下に200℃で2時間熱処理した。次に、水素ガスを用いて150℃で2時間還元処理して触媒Eを得た。この触媒Eにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO90%とMnO10%とからなるものであった。したがって、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物は10%であった。この触媒Eにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnO+MnO)の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Eの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO+MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表1に示す。
(比較例1)
ジニトロジアンミン白金と硝酸ルテニウムとを水に溶解し、この溶液にカーボンブラック(Chaboto社製、Black Pearls2000)に含浸させ、110℃で乾燥した後、水素ガスを用いて300℃で2時間還元処理して触媒Mを得た。この触媒Dにおける、白金およびルテニウムの担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%および13%であった。この触媒Dの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例5)
実施例1において、マンガン酸化物(MnO:100%)の担持量が3%、白金の担持量が40%、ルテニウムの担持量が20%となるようにした以外は実施例1と同様にして触媒Fを調製した。触媒Fの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表2に示す。
(実施例6)
実施例1において、マンガン酸化物(MnO:100%)の担持量が6%、白金の担持量が40%、ルテニウムの担持量が20%となるようにした以外は実施例1と同様にして触媒Gを調製した。触媒Gの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表2に示す。
(実施例7)
実施例1において、マンガン酸化物(MnO:100%)の担持量が12%、白金の担持量が40%、ルテニウムの担持量が20%となるようにした以外は実施例1と同様にして触媒Hを調製した。触媒Hの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表2に示す。
(実施例8)
実施例1において、マンガン酸化物(MnO:100%)の担持量が20%、白金の担持量が40%、ルテニウムの担持量が20%となるようにした以外は実施例1と同様にして触媒Iを調製した。触媒Iの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
(実施例9)
実施例1において、水素ガスを用いた還元処理を350℃で0.5時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Jを調製した。この触媒Jにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO100%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Jにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Jの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表3に示す。
(実施例10)
実施例1において、水素ガスを用いた還元処理を350℃で1時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Kを調製した。この触媒Kにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO15%およびMnO85%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Kにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Kの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1におけると同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO+MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表3に示す。
(実施例11)
実施例1において、水素ガスを用いた還元処理を350℃で1.5時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Lを調製した。この触媒Lにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO60%およびMnO40%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Lにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Lの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1と同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO+MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表3に示す。
(実施例12)
実施例1において、水素ガスを用いた還元処理を350℃で2時間行った以外は実施例1と同様にして触媒Mを調製した。この触媒Mにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO80%およびMnO20%からなるものであった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Mにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。触媒Mの触媒活性および耐CO被毒性を実施例1と同様にして測定した。結果を、マンガン酸化物(MnO+MnO)の平均粒子径(TEM−EDSで測定)とともに、表3に示す。
(実施例13)
硝酸マンガン(II)(Mn(NO・6HO)を水に溶解し、この水溶液を導電性炭素粉末であるカーボンブラック(Chabot社、Black Pearls2000)に含浸させた。次に、110で乾燥させた後、窒素ガス雰囲気下に500℃で2時間熱処理を行った。ジニトロジアンミン白金および硝酸ルテニウムを水に溶解し、この混合溶液を上記のカーボン粉体に添加し、さらに、1N硝酸水溶液を加え、粉体スラリーのpHを3に調整した。次に、2%水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加し、還元処理を行った。次に、水素ガスを用いて200℃で2時間還元処理して触媒Nを得た。この触媒Nにおけるマンガン酸化物は、X線回折分析およびキレート滴定分析の結果、MnO100%であった。したがって、マンガン酸化物は全量がMnOx(x=1/1〜2/1)の形態で担持されていた。この触媒Nにおける、白金、ルテニウムおよびマンガン酸化物(MnOx(x=1/1〜2/1))の担持量は、触媒の総質量基準で、それぞれ、37%、13%および6%であった。なお、MnOの粒子径をTEM−EDSで測定したところ80nmであった。電位規制法によりメタノール酸化電流と電極電位との関係を測定したところ、0.7Vvs.RHEにおけるメタノールの酸化電流値は4mAで、500mVの定電位測定における60分後の電流値は0.58mAであった。結果をまとめて表3に示す。
【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、耐CO被毒性および触媒活性に優れ、固体高分子型燃料電池用電極触媒、特にメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池の燃料極に用いるに好適な電極触媒を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属とマンガン酸化物と導電性担体とを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
マンガン酸化物が、MnOx(x=1/1〜2/1)で表されるマンガン酸化物である請求項1記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
導電性担体が導電性炭素材料である請求項1または2記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
マンガン酸化物の含有量が、貴金属、マンガン酸化物および導電性炭素材料の総質量に対し、1〜15質量%である請求項3記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
貴金属が白金および/またはルテニウムである請求項1ないし4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。


【公開番号】特開2006−302822(P2006−302822A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126465(P2005−126465)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】