説明

固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびその製造方法

【課題】広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、および該膜電極接合体を容易に製造できる方法を提供する。
【解決手段】触媒層11の少なくとも一方が、電極触媒、繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、電極触媒が、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gであるカーボン担体に、白金または白金合金が担持された電極触媒であり、繊維状炭素が、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されていない繊維状炭素であり、電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)が、7/3〜1/9(質量比)である、膜電極接合体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素および酸素を用いる燃料電池は、電極反応による反応生成物が原理的に水のみであることから、環境への悪影響がほとんどない発電システムとして注目されている。なかでも、プロトン導電性のイオン交換膜を電解質膜として用いた固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、出力密度が高く、かつ小型化が可能なため、車載用電源等として有望視されている。
固体高分子形燃料電池は、作動温度が低い(50〜120℃)という特徴を有するものの、そのために排熱を補機動力等に有効利用しにくいという問題を有する。該問題を補う意味でも、固体高分子形燃料電池には、水素および酸素の利用率が高いこと、すなわち、高いエネルギー効率および高い出力密度が要求されている。
【0003】
該要求に応えるため、固体高分子形燃料電池の触媒層に含ませる電極触媒として、比表面積の大きな担体カーボン上に、白金、白金合金等の触媒金属微粒子を高分散に担持した電極触媒が用いられている。該電極触媒を用いることにより、電極における反応面積が拡大し、高出力化が可能となる。
しかし、該電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池は、以下の理由から、長期間作動させるとしだいに電圧が低下するという問題を有する。
【0004】
すなわち、自動車用、家庭用、コージェネ用等の燃料電池の作動においては、通常の発電下におけるカソードの電位は、0.6V以上である。また、燃料電池の起動停止時においては、アノード側に微量の空気が混入し、その結果、カソードの電位が1.2V以上になる。そして、カソードの電位が0.6V以上の状態においては、下式に示す酸化反応が起きるため、担体カーボンが酸化腐食してしまう。
C+H2O→CO+2H++2e-:0.52V、
C+2H2O→CO2+4H++4e-:0.21V。
【0005】
一方、アノードにおいては、水素の供給が不充分となった場合、所定の電流密度を維持するため、水素の酸化反応の代わりに、水の電気分解反応やカーボン担体の酸化反応が起こる可能性がある。
以上のように、カーボン担体の酸化反応が進行し、カーボン担体が酸化腐食(ガス化)してしまうと、担持されていた触媒金属微粒子が、触媒層のイオン交換樹脂中に遊離、凝集してしまい、触媒層の発電特性が低下する。その結果、固体高分子形燃料電池の電圧が低下する。該問題は、高い電流密度を維持しようとするときに顕著になる。
【0006】
カーボン担体の酸化が抑制された電極触媒としては、以下の電極触媒が提案されている。
(1)2000℃以上の高温で処理することによってカーボンのグラファイト化度が高められ、耐酸化性が向上したカーボン担体を用いた電極触媒。
(2)グラファイト化度を高めたカーボン担体を用いた電極触媒に造孔剤を混合した電極触媒(特許文献1)。
(3)触媒の利用率の異なる電極触媒を混合し、その犠牲的腐食効果を利用した電極触媒(特許文献2)。
【0007】
しかし、(1)の電極触媒は、高温処理によって比表面積が小さくなるため、カーボン担体上における触媒金属微粒子の分散性が悪くなり、その結果、触媒層の発電特性が低下する問題を有する。
(2)、(3)の電極触媒を用いた触媒層は、初期の発電特性が必ずしも高いとはいえず、また、電極(触媒層)の形成に複雑な操作を要する等の問題を有する。
【0008】
なお、触媒層の発電特性を向上させるために、触媒層に気相成長炭素繊維を混合することが特許文献3に記載されている。しかし、該気相成長炭素繊維を混合する理由は、触媒層内の水による濡れを制御し、その結果、触媒層の発電特性を向上させるためであって、カーボン担体の酸化を抑制するためではない。そのため、導電性粉粒体(電極触媒に相当する。)と気相成長炭素繊維(繊維状炭素に相当する。)との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、9.99/0.01〜7/3(質量比)である。
【特許文献1】特開2005−26174号公報
【特許文献2】特開2005−190712号公報
【特許文献3】特許第3608053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、および該膜電極接合体を容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、触媒層およびガス拡散層を有するアノードと、触媒層およびガス拡散層を有するカソードと、アノードとカソードとの間に介在する電解質膜とを具備し、前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方の触媒層が、電極触媒、繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、前記電極触媒は、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gであるカーボン担体に、白金または白金合金が担持されており、前記繊維状炭素は、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されておらず、前記触媒層中の前記電極触媒と前記繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)が、7/3〜1/9(質量比)であることを特徴とする。
前記繊維状炭素の繊維径は、1〜150nmであることが好ましい。
【0011】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法は、触媒層およびガス拡散層を有するアノードと、触媒層およびガス拡散層を有するカソードと、アノードとカソードとの間に介在する電解質膜とを具備する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法において、少なくとも一方の触媒層を、下記塗工液を基材上に塗工することにより形成することを特徴とする。
(塗工液)
電極触媒、繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含む塗工液であり、前記電極触媒は、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gであるカーボン担体に、白金または白金合金が担持されており、前記繊維状炭素は、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されておらず、前記触媒層中の前記電極触媒と前記繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)が、7/3〜1/9(質量比)である塗工液。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できる。
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法によれば、広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0014】
<膜電極接合体>
図1は、本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、膜電極接合体と記す。)の一例を示す概略断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で介在する電解質膜15とを具備する。
【0015】
(触媒層)
触媒層11のうち、少なくとも一方の触媒層は、特定の電極触媒、特定の繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、電極触媒と繊維状炭素とが特定の比率である特定の触媒層である。該特定の触媒層は、少なくともカソード14の触媒層11であることが好ましく、アノード13およびカソード14の触媒層11であることが特に好ましい。
【0016】
イオン交換樹脂のイオン交換容量は、導電性およびガス透過性の点から、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.8〜1.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
【0017】
イオン交換樹脂としては、含フッ素重合体、炭化水素系重合体等が挙げられ、耐久性の点から含フッ素重合体が好ましい。
含フッ素重合体としては、パーフルオロカーボン重合体(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)が好ましく、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルに基づく単位とを含む共重合体が特に好ましい。
【0018】
スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルとしては、化合物(1)が好ましい。
CF2=CF(OCF2CFX)m−Op−(CF2n−SO3H ・・・(1)。
ただし、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0または1であり、XはFまたはCF3 である。
【0019】
化合物(1)としては、化合物(1−1)〜(1−3)が好ましい。
CF2=CFO(CF2qSO3H ・・・(1−1)、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2rSO3H ・・・(1−2)、
CF2=CF(OCF2CF(CF3))tO(CF2sSO3H ・・・(1−3)。
ただし、q、r、sは1〜8の整数であり、tは1〜3の整数である。
【0020】
スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の場合、重合後にフッ素化することにより重合体の末端がフッ素化処理されたものであってもよい。重合体の末端がフッ素化されていると、より過酸化水素や過酸化物ラジカルに対する安定性に優れるため、耐久性が向上する。
【0021】
炭化水素系重合体としては、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリベンゾオキサゾール、スルホン化ポリベンゾチアゾール、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンスルホキシド、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトンケトン、スルホン化ポリイミド等が挙げられる。
【0022】
電極触媒は、カーボン担体に、白金または白金合金が担持された電極触媒である。白金または白金合金の担持量は、電極触媒(100質量%)のうち、10〜70質量%が好ましい。
【0023】
カーボン担体は、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gである、アモルファス性の高いカーボン担体である。高い電圧が維持できるという点から、d002 が0.355〜0.380nmであり、かつ比表面積が400〜850m2 /gであるカーボン担体が好ましい。d002 を0.350nm以上とし、かつ比表面積を250m2 /g以上とすることにより、白金または白金合金を高い担持率での担持ができ、初期性能が良好となる。d002 を0.390nm以下とし、かつ比表面積を1500m2 /g以下とすることにより、ミクロ細孔の発達が抑えられ、白金または白金合金を有効に活用できる。
【0024】
カーボン担体のd002 は、粉末X線回折装置を使って測定することができ、電極触媒粉末をサンプルとしてセットし、その回折パターンからカーボン担体のd002 を算出する。カーボン担体の比表面積は、BET比表面積装置によりカーボン表面への窒素吸着により測定することが可能である。
【0025】
電極触媒と含イオン交換樹脂との比率(電極触媒/イオン交換樹脂)は、電極の導電性および撥水性の点から、4/6〜9.5/0.5(質量比)が好ましく、6/4〜8/2が特に好ましい。
【0026】
繊維状炭素は、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されていない繊維状炭素である。電極触媒のカーボン担体が酸化腐食した後であっても、白金または白金合金との接触が取りやすい点から、繊維径が1〜350nmであり、繊維長が50μm以下である繊維状炭素が好ましい。繊維径を500nm以下とすることによって、白金または白金合金との接触が取りやすい。繊維長を100μm以下とすることにより、触媒層(通常は厚さが5〜30μm程度。)から大きく突出することなく、電解質膜のダメージが抑えられる。
【0027】
繊維状炭素の繊維径および繊維長は、光学顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)などによる観察により測定することが可能である。
繊維状炭素としては、微細でかつ電子伝導性を有する繊維状炭素が好ましく、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(シングルウォール、ダブルウォール、マルチウォール、カップ積層型等。)等が挙げられる。
【0028】
電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、7/3〜1/9(質量比)であり、6.5/3.5〜1.5/8.5がより好ましく、電極反応を効率よく行え、かつ電極触媒のカーボン担体が酸化腐食を多少受けた後においても、良好な発電特性を維持できる点から、6/4〜2/8がさらに好ましい。電極触媒と繊維状炭素との合計10のうち、繊維状炭素の割合を3以上とすることにより、電極触媒のカーボン担体が酸化腐食した後あっても、白金または白金合金とのと接触が取りやすい。電極触媒と繊維状炭素との合計10のうち、繊維状炭素の割合を9以下とすることにより、電極触媒の割合が充分となり、初期電圧の低下が抑えられる。
【0029】
繊維状炭素は、触媒層中にて互いに絡み合って空孔を形成しやすい。該空孔はガスチャンネルとして機能するため、特に高電流密度下における燃料電池の作動時のフラッディングの問題が解消されるという効果も期待できる。
【0030】
(ガス拡散層)
ガス拡散層12としては、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等が挙げられる。
ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水処理されていることが好ましい。
【0031】
(電解質膜)
電解質膜15としては、イオン交換樹脂膜が挙げられる。
イオン交換樹脂としては、触媒層のイオン交換樹脂と同様のものが挙げられる。
【0032】
<膜電極接合体の製造方法>
本発明の膜電極接合体の製造方法は、上述の特定の触媒層を、後述の塗工液を基材上に塗工することにより形成することを特徴とする方法である。
基材としては、ポリマーフィルム、電解質膜、ガス拡散層が用いられる。
ポリマーフィルムとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフィルムシートが挙げられる。
【0033】
基材としてポリマーフィルムを用いた場合、基材上に形成された触媒層を電解質膜(またはガス拡散層)表面にホットプレス等により転写した後、ポリマーフィルムを剥離し、触媒層とガス拡散層(または電解質膜)とを貼り合わせることにより、膜電極接合体が得られる。
基材として電解質膜を用いた場合、電解質膜上に形成された触媒層とガス拡散層とを貼り合わせることにより、膜電極接合体が得られる。
基材としてガス拡散層を用いた場合、ガス拡散層上に形成された触媒層と電解質膜とを貼り合わせることにより、膜電極接合体が得られる。
【0034】
また、ポリマーフィルム上に塗工液を塗工してアノード(またはカソード)側の触媒層を形成し、該触媒層上に、電解質膜形成用のポリマー溶液を塗工して電解質膜を形成し、該電解質膜上に塗工液を塗工してカソード(またはアノード)側の触媒層を形成し、膜触媒層接合体を得た後、該膜触媒層接合体の両面にガス拡散層を貼り付けることにより、膜電極接合体が得られる。
【0035】
塗工液は、特定の電極触媒、特定の繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、電極触媒と繊維状炭素とが特定の比率である塗工液である。
塗工液は、特定の電極触媒、特定の繊維状炭素およびイオン交換樹脂を溶媒に分散させることにより調製される。
【0036】
溶媒としては、水、アセトン、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、エチレングリコール、ペンタフルオロエタノール、ヘプタフルオロブタノールなどのアルコール類、またはそれらの混合溶媒等が挙げられる。
塗工液には、電極反応で生成する水の排出性を高めること、触媒層自体の形状安定性を保持すること、塗工時の塗工むらの改善、塗工安定性等を高めることを目的として、必要に応じて撥水剤、造孔剤、増粘剤、希釈溶媒等を添加してもよい。
【0037】
塗工液には、塗工安定性を向上させるために、必要に応じて分散処理を施してもよい。分散処理としては、ボールミル粉砕、ホモジェナイザー粉砕、遊星ミル粉砕、超音波粉砕等が挙げられる。
塗工方法としては、アプリケータ、バーコータ、ダイコータ等を用いる方法;スクリーン印刷法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗工液を基材上に塗工した後、乾燥させて触媒層を形成する。塗膜の乾燥温度は、60〜100℃が好ましい。
【0038】
このようにして製造された膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置することにより、固体高分子形燃料電池が得られる。セパレータとしては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
該固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することにより、発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、本発明の膜電極接合体を適用できる。
【0039】
以上説明した本発明の膜電極接合体にあっては、2つの触媒層のうち、少なくとも一方の触媒層が、特定の電極触媒、特定の繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、電極触媒と繊維状炭素とが特定の比率である特定の触媒層であるため、広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できる。
【0040】
すなわち、カソードにおける高電位条件下でカーボン担体の酸化反応が進行してガス化し、白金または白金合金がイオン交換樹脂中に遊離した状態になってしまっても、白金または白金合金と、電子伝導性を有する繊維状炭素との接触が取れているため、電極反応が可能であり、高い電圧を長期間維持できる。また、繊維状炭素は、通常、グラファイト化の度合いが高いため、酸化腐食耐性に非常に優れている。
【0041】
アノードにおいても、水素の供給が不充分となった場合、所定の電流密度を維持するため、水素の酸化反応の代わりに、担体カーボンの酸化反応が起こる可能性がある。本発明においては、カソードと同じように、アノードの触媒層中にも繊維状炭素を混合することにより、上述したカソードと同じ効果が得られる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1、3、4、6は実施例であり、例2、5、7は比較例である。
【0043】
〔例1〕
触媒層(1)の形成:
カーボン担体(d002 0.377nm、比表面積800m2 /g)に白金・コバルト合金(白金/コバルト=46/5(質量比))が担持された触媒(商品名:TEC36E52、田中貴金属工業社製、白金・コバルト合金担持量51質量%)10gを、蒸留水75.1gに添加し、よく撹拌した。さらにエタノール26.0gを添加し、よく撹拌した。これに、共重合体(A)(商品名:フレミオン、旭硝子社製、イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂、テトラフルオロエチレンに基づく単位とCF2=CFOCF(CF3)O(CF22SO3Hに基づく単位とからなる共重合体。)をエタノールに分散させた固形分濃度9質量%の液(以下、共重合体(A)のエタノール分散液と記す。)54.0gを添加し、さらに超音波分散装置を用いて混合、粉砕し、分散液(a)を調製した。
【0044】
気相成長炭素繊維(商品名:VGCF−H、昭和電工社製、繊維径約150nm、繊維長10〜20μm)7.0gにエタノール11.9g、蒸留水47.3gを添加し、よく撹拌した。これに共重合体(A)のエタノール分散液38.9gを添加し、よく撹拌し、さらに超音波分散装置を用いて混合、粉砕し、分散液(b)を調製した。
分散液(a)10.0gと分散液(b)10.0gとを混合、撹拌して、塗工液(1)を調製した。
【0045】
塗工液(1)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(1)を形成した。触媒層(1)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(1)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(1)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2であった。触媒層(1)中に含まれる電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、4.8/5.2(質量比)であった。
【0046】
触媒層(2)の形成:
カーボン担体(d002 0.377nm、比表面積800m2 /g)に白金が担持された触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業社製、白金担持量50質量%)10.0gを、蒸留水67.5gに添加し、よく撹拌した。さらにエタノール22.5gを添加し、よく撹拌した。これに、共重合体(A)のエタノール分散液50.0gを添加し、さらに超音波分散装置を用いて混合、粉砕し、塗工液(2)を調製した。
【0047】
塗工液(2)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(2)を形成した。触媒層(2)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(2)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(2)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2 であった。
【0048】
膜電極接合体の製造:
電解質膜として、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる厚さ30μmのイオン交換膜(商品名:フレミオン、旭硝子社製、イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)を用意した。
電解質膜の一方の表面に、基材フィルム上に形成された触媒層(1)をカソード側の触媒層として配置し、電解質膜の他方の表面に、基材フィルム上に形成された触媒層(2)をアノード側の触媒層として配置した。該積層体をホットプレス法によりプレスし、触媒層を電解質膜に転写した後、基材フィルムを剥離し、電極面積が25cm2 である、電解質膜と触媒層とからなる膜触媒層接合体を得た。
【0049】
膜触媒層接合体を、厚さ350μmのカーボンクロスからなるガス拡散層2枚で挟んで膜電極接合体を得た。該膜電極接合体を発電用セルに組み込み、常圧にて、水素(利用率70%)/空気(利用率40%)を供給し、セル温度80℃にて、電流密度0.2A/cm2 および1.0A/cm2 における初期セル電圧を測定した。ただし、アノード側には露点80℃の水素を供給し、カソード側には露点80℃の空気を供給した。結果を表1に示す。
【0050】
ついで、セル温度95℃にて、アノード側に露点90℃の水素を供給し、カソード側に露点90℃の空気を供給し、外部からポテンショスタットを接続し、カソード側の電位を1.2Vとし、100時間作動させ酸化腐食試験を行った。酸化腐食試験後、セル温度80℃にて、アノード側に露点80℃の水素を供給し、カソード側に露点80℃の空気を供給し、電流密度0.2A/cm2 および1.0A/cm2 におけるセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
〔例2(比較例)〕
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(2)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
〔例3〕
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(1)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
〔例4〕
分散液(a)10gと分散液(b)4.5gとを混合、撹拌して、塗工液(3)を調製した。
塗工液(3)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(3)を形成した。触媒層(3)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(3)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(3)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2 であった。触媒層(3)中に含まれる電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、6.5/3.5(質量比)であった。
【0054】
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(3)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
〔例5(比較例)〕
分散液(a)10gと分散液(b)2.3gとを混合、撹拌して、塗工液(4)を調製した。
塗工液(4)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(4)を形成した。触媒層(4)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(4)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(4)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2 であった。触媒層(4)中に含まれる電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、8/2(質量比)であった。
【0056】
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(4)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
〔例6〕
分散液(a)5gと分散液(b)24.9gとを混合、撹拌して、塗工液(5)を調製した。
塗工液(5)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(5)を形成した。触媒層(5)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(5)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(5)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2 であった。触媒層(5)中に含まれる電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、1.5/8.5(質量比)であった。
【0058】
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(5)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
〔例7(比較例)〕
分散液(a)2gと分散液(b)24.2gとを混合、撹拌して、塗工液(6)を調製した。
塗工液(6)を、ポリプロピレン製の基材フィルムの上にダイコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で10分間乾燥させて触媒層(6)を形成した。触媒層(6)を形成する前の基材フィルムのみの質量と、触媒層(6)を形成した後の触媒層および基材フィルムの質量とを測定することにより、触媒層(6)に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、0.2mg/cm2 であった。触媒層(6)中に含まれる電極触媒と繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)は、0.7/9.3(質量比)であった。
【0060】
アノード側およびカソード側の触媒層として、触媒層(6)を用いた以外は、例1と同様にして、電極面積が25cm2 である膜触媒層接合体を作製し、例1と同様に膜電極接合体を作製した。該膜電極接合体について、例1と同様の条件で初期セル電圧を測定した。結果を表1に示す。また、例1と同様の条件で酸化腐食試験を実施し、酸化腐食試験のセル電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
本発明の膜電極接合体を用いると、高電流密度領域においても高い電圧が得られ、また酸化腐食試験後においても良好な発電特性を維持していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の膜電極接合体は、広範囲な電流密度において、高い初期電圧を有し、かつ高い電圧を長期間維持できることから、定置用、自動車用等の種種の電源として用いられる燃料電池にきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10 膜電極接合体
11 触媒層
12 ガス拡散層
13 アノード
14 カソード
15 電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層およびガス拡散層を有するアノードと、
触媒層およびガス拡散層を有するカソードと、
アノードとカソードとの間に介在する電解質膜とを具備し、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方の触媒層が、電極触媒、繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含み、
前記電極触媒は、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gであるカーボン担体に、白金または白金合金が担持されており、
前記繊維状炭素は、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されておらず、
前記触媒層中の前記電極触媒と前記繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)が、7/3〜1/9(質量比)である、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記繊維状炭素の繊維径が、1〜150nmである、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
触媒層およびガス拡散層を有するアノードと、触媒層およびガス拡散層を有するカソードと、アノードとカソードとの間に介在する電解質膜とを具備する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法において、
少なくとも一方の触媒層を、下記塗工液を基材上に塗工することにより形成することを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
(塗工液)
電極触媒、繊維状炭素およびイオン交換樹脂を含む塗工液であり、
前記電極触媒は、[002]面の平均格子面間隔d002 が0.350〜0.390nmであり、かつ比表面積が250〜1500m2 /gであるカーボン担体に、白金または白金合金が担持されており、
前記繊維状炭素は、繊維径が1〜500nmであり、繊維長が100μm以下であり、かつ金属が担持されておらず、
前記触媒層中の前記電極触媒と前記繊維状炭素との比率(電極触媒/繊維状炭素)が、7/3〜1/9(質量比)である塗工液。

【図1】
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【公開番号】特開2007−200762(P2007−200762A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19180(P2006−19180)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】