説明

固体高分子形燃料電池用電解質膜及びその製造方法

【課題】供給ガスの加湿条件によらず、高い発電性能を有し、長期間にわたって安定した発電が可能な固体高分子形燃料電池用の電解質膜の提供。
【解決手段】プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜からなる電解質膜であって、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含み、かつ温度80℃、相対湿度95%の条件で測定した導電率が0.15〜1S/cm、温度80℃、相対湿度30%の条件で測定した導電率が0.01〜0.2S/cmである固体高分子形燃料電池用電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期の出力電圧が高く、長期に渡って高い出力電圧を得られる固体高分子形燃料電池用の電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、原料となるガスの反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換する電池であり、水素・酸素燃料電池は、その反応生成物が原理的に水のみであり地球環境への影響がほとんどない。なかでも電解質として固体高分子膜を使用する固体高分子形燃料電池は、高いイオン導電性を有する高分子電解質膜が開発され、常温でも作動でき、高出力密度が得られるため、近年のエネルギー、地球環境問題への社会的要請の高まりとともに、電気自動車用等の移動車両や、小型コージェネレーションシステムの電源として大きな期待が寄せられている。
【0003】
固体高分子形燃料電池では、通常、固体高分子電解質としてプロトン導電性のイオン交換膜が使用され、特にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜が基本特性に優れている。固体高分子形燃料電池では、イオン交換膜の両面にガス拡散性の電極層を配置し、燃料である水素を含むガス及び酸化剤となる酸素を含むガス(空気等)を、それぞれアノード及びカソードに供給することにより発電を行う。
【0004】
固体高分子形燃料電池のカソードにおける酸素の還元反応は過酸化水素(H)を経由して反応が進行することから、触媒層中で生成する過酸化水素又は過酸化物ラジカルによって、電解質膜の劣化を引き起こす可能性が懸念されている。また、アノードには、カソードから酸素分子が膜内を透過してくるため、同様に過酸化水素又は過酸化物ラジカルを生成することも懸念される。特に炭化水素系膜を固体高分子電解質膜とする場合は、ラジカルに対する安定性に乏しく、長期間にわたる運転においては大きな問題となっていた。
【0005】
例えば、固体高分子形燃料電池が初めて実用化されたのは、米国のジェミニ宇宙船の電源として採用された時であり、この時にはスチレン−ジビニルベンゼン重合体をスルホン化した膜が電解質膜として使用されたが、長期間にわたる耐久性には問題があった。この問題を解決する手段として、骨格ポリマーとしてポリフェニレンやポリイミドを用いてスルホン酸基を導入した構造のものなどが検討されたが、耐久性は改善はされるが不十分であり、また相対湿度が低くなると著しく導電率が低下するため、低加湿下でのセル電圧低下を起こすという問題があった(非特許文献1〜3参照)。この他、耐久性を改善する技術としては、高分子電解質膜中に過酸化水素を接触分解できる遷移金属酸化物又はフェノール性水酸基を有する化合物を添加する方法(特許文献1参照)や、高分子電解質膜内に触媒金属粒子を担持し、過酸化水素を分解する方法(特許文献2参照)が知られている。しかし、これらの技術は、生成する過酸化水素を分解する技術であり、イオン交換膜自体の分解の抑制を試みるものではないため、初期的には改善の効果があるものの、長期間にわたる耐久性には大きな問題が生じる可能性があった。またコスト的にも高くなるという問題があった。
【0006】
一方、炭化水素系の重合体に対し、ラジカルに対する安定性が格段に優れる重合体として、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜が知られている。近年、これらのパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜を用いた固体高分子形燃料電池は、自動車用、住宅用市場等の電源として期待され、実用化への要望が高まり開発が加速している。これらの用途では、特に高い効率での運転が要求されるため、より高い電圧での運転が望まれると同時に低コスト化が望まれている。また、燃料電池システム全体の効率の点から低加湿又は無加湿での運転やより高温での運転が要求されることも多い。
【0007】
しかし、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜を用いた燃料電池においても、低温高加湿下での運転では安定性が非常に高いものの、低加湿や高温の運転条件においては、電圧劣化が大きいことが報告されている(非特許文献4、5参照)。すなわち、低加湿又は無加湿での運転条件においては、通常用いられているスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜においても、過酸化水素又は過酸化物ラジカルにより電解質膜の劣化が進行し、高温の場合にはその劣化進行とともに膜のクリープが生じて電圧低下を加速するものと考えられる。
【0008】
スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜を用いて、この問題を解決しようとする試みとして、スルホン酸基の部分をパーフルオロアルキルビススルホンアミドナトリウム塩などで架橋し、高温におけるクリープ発生を抑制する手法(特許文献3参照)が提案されているが、導電率が十分でなく発電特性が不十分となる問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2001−118591号公報(請求項1、2頁2〜9行)
【特許文献2】特開平6−103992号公報(問題を解決するための手段、2頁3
【特許文献3】特開2000−188013号公報(3頁段落0020〜0022)
【非特許文献1】第53回高分子討論会予稿集、4854頁2〜4行及び4855頁7〜17行
【非特許文献2】第53回高分子討論会予稿集、4847頁6〜9行
【非特許文献3】第54回高分子学会年次大会予稿集、1434頁図23〜37行)
【非特許文献4】新エネルギー・産業技術総合開発機構主催 平成12年度固体高分子形燃料電池研究開発成果報告会要旨集、56頁16〜24行
【非特許文献5】The Electrochemical Society, 206th Meeting Abstract、No.1884、図1
【非特許文献6】The Electrochemical Society, 207th Meeting Abstract、No.763、図3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、車載用、住宅用市場等への固体高分子形燃料電池の実用化において、十分に高いエネルギー効率での発電が可能であり、供給ガスの加湿温度(露点)がセル温度よりも低い低加湿又は無加湿での運転、セル温度に近い温度で加湿する高加湿での運転のどちらにおいても、高い発電性能を有し、かつ長期間にわたって安定した発電が可能な固体高分子形燃料電池用膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、陽イオン交換膜を用いた燃料電池において、高温での低加湿又は無加湿での運転条件における膜の劣化防止及び高いセル電圧発現を目的に鋭意検討し、膜中に特定のイオンを含有させ、かつ特定の導電率となるような膜を電解質として用いることにより、高いセル電圧と高い耐久性を両立できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜からなる電解質膜であって、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含み、かつ温度80℃、相対湿度95%の条件で測定した導電率が0.15〜1S/cm、温度80℃、相対湿度30%の条件で測定した導電率が0.01〜0.2S/cmであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜を提供する。
【0013】
ここで、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上は、イオンとして含まれることが好ましく、プロトン導電性のイオン交換基とイオン交換されていることが好ましい。なお、セリウムイオンは+3価又は+4価の状態を、またマンガンイオンは+2価又は+3価の状態を取り得るが、本発明では特に限定されない。また、ここで陽イオン交換膜に含まれるイオン交換基とは、スルホン酸基、スルホンイミド基、ホスホン酸基等を示し、本発明では特にスルホン酸基が好ましい。
【0014】
さらに本発明は、上述の特性を有する電解質膜の製造方法であって、イオン交換基を有するポリマーを溶媒中に溶解又は分散させた後、セリウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選ばれる1種以上を溶解させて、液状組成物を得た後、キャスト製膜することにより、前記電解質膜を作製することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法を提供する。
【0015】
この方法によれば、セリウム原子又はマンガン原子を、得られる膜中に均一に存在させることができる。また、膜中に含まれるセリウム原子又はマンガン原子の量も容易に調整することができる。
【0016】
また本発明は、上述の特性を有する電解質膜の製造方法であって、イオン交換基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜を、セリウムイオン又はマンガンイオンを含む水溶液中に浸漬することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法を提供する。この方法によれば、膜中にセリウムイオン又はマンガンイオンを容易な方法で含有させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電解質膜は、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有するとともに、この電解質膜を備える固体高分子形燃料電池は高いセル電圧を示す。通常、膜中にプロトン導電に寄与しないイオンや化合物が存在すると、存在しない場合に比べ、通常膜の抵抗が高くなるが、本発明ではその点についても十分に考慮している。すなわち、本発明の電解質膜は高い導電率を有しており、相対湿度が低い条件で運転させた場合にも導電率の低下が少ないため、広い湿度の条件範囲において高いセル電圧を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の電解質膜は、プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜からなり、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含む電解質膜であり、温度80℃、相対湿度95%の条件で測定した導電率が0.15〜1S/cm、温度80℃、相対湿度30%の条件で測定した導電率が0.01〜0.2S/cmである。膜の導電率は、温度80℃、相対湿度95%の条件では特に0.2〜0.8S/cm、さらには0.3〜0.7S/cmが好ましい。この条件において導電率が0.15S/cmより低いと、発電のセル電圧が低く、好ましくない。1S/cmより高いと、セル電圧は高くなり好ましいが、高加湿の条件下で膜を構成するポリマーが水に溶解しやすくなって溶出の問題が発生し、耐久性が低くなるので好ましくない。0.2〜0.8S/cmであると、高加湿の条件下でのセル電圧と耐溶出性がさらに優れ、0.3〜0.7S/cmであると、上記特性に加えてポリマーの機械的強度も著しい低下を起こさず、クリープ耐性にも優れるのでより好ましい。
【0019】
また、温度80℃、相対湿度30%の条件で測定した場合の膜の導電率は、特に0.02〜0.18S/cm、さらには0.03〜0.15S/cmであることが好ましい。燃料電池の稼働条件としては、相対湿度30%程度の低加湿の運転条件となることもあり、この条件で膜の導電率が0.01S/cmより低いと抵抗が著しく高くなり発電のセル電圧が極端に低くなり、好ましくない。一方、この条件において膜の導電率が0.2S/cmより高いと、セル電圧は高くなり好ましいが、ポリマー材料自体の強度が著しく低下し、耐久性が低くなるので好ましくない。この条件下での膜の導電率が0.02〜0.18S/cmであると、低加湿の条件下でのセル電圧と耐溶出性に優れるので好ましく、さらに0.03〜0.15S/cmであると、上記特性に加えてクリープ耐性にも優れるのでより好ましい。
【0020】
本発明で使用するイオン交換基を有するポリマーのイオン交換容量は、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含んだ状態で、導電率が温度80℃、相対湿度95%の条件で0.15〜1S/cm、温度80℃、相対湿度30%の条件で0.01〜0.2S/cmとなるように選定する必要がある。そのため、0.95〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、特に1.25〜2.0ミリ当量/g乾燥樹脂、さらには1.3〜1.8ミリ当量/g乾燥樹脂であることが好ましい。
【0021】
イオン交換容量が0.95ミリ当量/g乾燥樹脂より小さいと、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含有させると上記の導電率の下限より低くなる場合がある。また、イオン交換容量が2.5ミリ当量/g乾燥樹脂より大きいと、分子量を高くすることが難しく機械的強度が低くなる他、水に対する溶解性が高くなり、運転中に溶出する問題も発生するおそれがあるので好ましくない。イオン交換容量が1.25〜2.0ミリ当量/g乾燥樹脂であると、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上の含有量も適度に制御でき、耐久性に優れる電解質膜ができるので好ましい。1.3〜1.8ミリ当量/g乾燥樹脂であると、上記の特性に加えて、電解質膜を構成するポリマーの重合時の分離精製処理工程の効率が著しく低下することがなく好ましい。
【0022】
本発明におけるイオン交換基を有するポリマーとしては特に限定されないが、イオン交換基としてはスルホン酸基が好ましく、耐久性の観点から当該ポリマーは含フッ素重合体であることが好ましく、特にパーフルオロカーボン重合体(エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が好ましい。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体としては特に限定されないが、CF=CF−(OCFCFX)−O−(CF−SOHで表されるパーフルオロビニル化合物(mは0〜3の整数を示し、nは1〜12の整数を示し、pは0又は1を示し、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基を示す。)に基づく重合単位と、テトラフルオロエチレンに基づく重合単位とを含む共重合体であることが好ましい。
【0023】
上記パーフルオロビニル化合物の好ましい例をより具体的に示すと、下記式(i)〜(iii)で表される化合物が挙げられる。ただし、下記式中、qは1〜8の整数、rは1〜8の整数、tは1〜3の整数を示す。
【0024】
【化1】

【0025】
スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体を用いる場合、重合後にフッ素化処理することによりポリマーの末端がフッ素化処理されたものを用いてもよい。パーフルオロカーボンモノマーを用いて重合した場合でも、重合開始剤、溶媒その他の影響により、通常は重合体の末端には炭化水素基や酸素を含む炭化水素基が存在する。ここでポリマーの末端がフッ素化されていると、より過酸化水素や過酸化物ラジカルに対する安定性が優れるため耐久性が向上する。
【0026】
本発明の電解質膜は、膜中にセリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上が存在することにより、耐久性に優れる。これは過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有するためと考えられる。ラジカル耐性に優れる理由は明確ではないが、セリウムイオン又はマンガンイオンが含まれる場合は、当該イオンと−SO等の陽イオンと結合する基との相互作用が、過酸化水素又は過酸化物ラジカル耐性を効果的に向上させていると推定される。そして、セリウム化合物又はマンガン化合物の状態で膜中に含有される場合でも、わずかな解離により生じるセリウムイオン又はマンガンイオンと−SO等との相互作用があり得ると考えられる。
【0027】
このようなことから、膜中におけるセリウム原子又はマンガン原子の存在形態は特に限定されないが、例えば、セリウムイオン、マンガンイオン、セリウム化合物、マンガン化合物等の形態があり、特にセリウムイオン又はマンガンイオンの形態が好ましい。なお、単体金属及び合金の形態は、電解質膜が短絡する可能性があるので好ましくない。
【0028】
例えば、セリウムイオン又はマンガンイオン(以下、セリウムイオン等という。)の場合は、イオンとして存在すれば電解質膜中にどのような状態で存在してもよいが、例えばイオン交換膜中のイオン交換基の一部がセリウムイオン等でイオン交換された状態で存在する。また、セリウムイオン等を均一に含有している必要はない。2層以上の層からなるイオン交換膜(積層膜)であってその全ての層ではなく少なくとも1層がセリウムイオン等でイオン交換されていてもよいし、電解質膜自体は1層であってもセリウムイオン等のイオンの濃度が膜厚方向に不均一になっていてもよい。したがって、特にアノード側について過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する耐久性を高める必要がある場合は、アノードに一番近い部分にセリウムイオン等の濃度を高めた構成とすることもできる。
【0029】
さらに、セリウムイオン等のイオンの濃度は電解質膜の面内に不均一になっていてもよい。例えば、水素ガス供給入口付近で過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する耐久性を高める必要がある場合は、その付近の部分にセリウムイオン等の濃度を高めた構成とすることもできるし、劣化が予測される特定部分について電解質膜のセリウムイオン等の濃度を高めた構成とすることもできる。
【0030】
プロトン導電性を有するイオン交換基を有するポリマー中にセリウムイオン等を含有させて本発明の電解質膜を得る方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)プロトン導電性を有するイオン交換基を有するポリマーの分散液中に、当該分散液に溶解可能なセリウム化合物又はマンガン化合物からなる群から選択される1種以上を混合した後、得られた液を用いてキャスト製膜し、電解質膜を作製する方法。
(2)セリウムイオン等が含まれる溶液中にプロトン導電性を有するイオン交換基を有するポリマーからなる膜を浸漬する方法。
(3)セリウム又はマンガンの有機金属錯塩をプロトン導電性を有するイオン交換基を有するポリマーからなる膜と接触させてセリウムイオン等を含有させる方法等。
量産性を考慮すると上記(1)の方法が工程が最も簡便であり好ましい。
【0031】
上記の方法によって得られる電解質膜は、プロトン導電性のイオン交換基の一部がセリウムイオン等によりイオン交換されていると考えられる。
【0032】
ここでセリウムイオンは+3価でも+4価でもよく、セリウムイオンを含む溶液を得るために液状媒体(例えば、水、アルコール等)に溶解可能なセリウム化合物が使用される。+3価のセリウムイオンを含む塩を具体的に挙げると、例えば、炭酸セリウム(Ce(CO・8HO)、酢酸セリウム(Ce(CHCOO)・HO)、塩化セリウム(CeCl・6HO)、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)、硫酸セリウム(Ce(SO・8HO)等が挙げられる。+4価のセリウムイオンを含む塩としては、例えば、硫酸セリウム(Ce(SO・4HO)、硝酸二アンモニウムセリウム(Ce(NH(NO)、硫酸四アンモニウムセリウム(Ce(NH(SO)・4HO)等が挙げられる。またセリウムの有機金属錯塩としてはセリウムアセチルアセトナート(Ce(CHCOCHCOCH・3HO)等が挙げられる。
【0033】
マンガンイオンの場合は、価数は+2価でも+3価でもよく、マンガンイオンを含む溶液を得るために液状媒体に溶解可能なマンガン化合物が使用される。+2価のマンガンイオンを含む塩を具体的に挙げると、例えば、酢酸マンガン(Mn(CHCOO)・4HO)、塩化マンガン(MnCl・4HO)、硝酸マンガン(Mn(NO・6HO)、硫酸マンガン(MnSO・5HO)等が挙げられる。+3価のマンガンイオンを含む塩としては、例えば、酢酸マンガン(Mn(CHCOO)・2HO)等が挙げられる。またマンガンの有機金属錯塩としてはマンガンアセチルアセトナート(Mn(CHCOCHCOCH)等が挙げられる。
【0034】
上記の化合物のなかでも、上記(1)の製法により電解質膜を作製する場合、プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーの分散液に溶解可能なセリウム化合物又はマンガン化合物からなる群から選択される1種以上としては、炭酸セリウム又は炭酸マンガンが好ましい。強酸性のイオン交換基を有するポリマーの分散液中に炭酸セリウム等は溶解し、セリウムイオン等を生じると同時に、炭酸はガスとして除去できるので好ましい。また、上記(2)の製法により電解質膜を作製する場合は、硝酸セリウム、硫酸セリウム、硝酸マンガン又は硫酸マンガンの水溶液を用いると、取扱いが容易であり好ましい。これらの水溶液でプロトン導電性を有するイオン交換基を有するポリマーをイオン交換した際に生成する硝酸又は硫酸は、容易に水溶液中に溶解し、除去できる。
【0035】
電解質膜中に含まれるセリウムイオンの数は、膜中の−SO基の0.3〜20%であることが好ましい(以下、この割合を「セリウムイオンの含有率」という。)。これは、セリウムイオンが3価であってCe3+が3個の−SO基と完全に結合している場合には、セリウムイオンでイオン交換されたスルホン酸基が、スルホン酸基とセリウムイオンでイオン交換されたスルホン酸基との合量の0.9〜60モル%であることと同義である。セリウムイオンの含有率は、より好ましくは0.7〜16%、さらに好ましくは1〜13%である。
【0036】
セリウムイオンの含有率が低すぎると、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する十分な安定性が確保できないおそれがある。また、セリウムイオンの含有率が高すぎると、プロトンの十分な伝導性を確保することができず、膜抵抗が増大して上記導電率の範囲を満たさないおそれがある。
【0037】
一方、セリウムイオンが含まれる場合、電解質膜中に含まれるマンガンイオンの数は、電解質膜がスルホン酸基を有するポリマーからなる場合は、膜中の−SO基の0.5〜30%であることが好ましい(以下、この割合を「マンガンイオンの含有率」という。)。これは、マンガンイオンが+2価であってMn2+が完全に2個の−SO基と結合している場合には、マンガンイオンでイオン交換されたスルホン酸基が、スルホン酸基とマンガンイオンでイオン交換されたスルホン酸基との合量の1〜60モル%であることと同義である。マンガンイオンの含有率は、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは1.5〜20%である。
【0038】
マンガンイオンの含有率が低すぎると、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する十分な安定性が確保できないおそれがある。またマンガンイオンの含有率が高すぎると、プロトンの十分な伝導性を確保することができず、膜抵抗が増大して上記導電率の範囲を満たさないおそれがある。
【0039】
なお、本発明の電解質膜が積層膜からなる複層膜である場合や、単層膜であってもセリウムイオン等が膜厚方向に不均一に存在する場合は、電解質膜全体の平均セリウムイオン含有率(マンガンイオン含有率)が上記の範囲に入っていればよく、セリウムイオン等の濃度が高い領域の含有率は上述の範囲より高くてもよい。
【0040】
ここで複層膜である場合の作製方法としては、例えば上述の(1)〜(3)のいずれかの方法によりセリウムイオン等を含む陽イオン交換膜を作製しておき、セリウムイオン等を含まないイオン交換膜と積層する工程を経て作製することが好ましいが、特に限定されない。単層膜であってセリウムイオン等の濃度が膜厚方向に不均一である膜の作製方法としては、例えば上述の(2)の方法によりセリウムイオン等を含む陽イオン交換膜を作製する際に、片側から短時間溶液を接触させるか、又はセリウムイオン等を含む溶液を片側から塗布乾燥することで得ることができるが、特に限定されない。
【0041】
セリウムイオン等の濃度が膜厚方向に不均一である場合、膜がアノードと接する面に近い側でセリウムイオン等の濃度が高くなっていると好ましい。濃度が膜厚方向に不均一である場合、セリウムイオン等の濃度については、膜厚方向全体にわたっての平均値CAveが上記の好ましい濃度範囲に入っていればよい。すなわち、セリウムイオン等の濃度の異なる層がn層ある積層膜の場合、その体積分率をφ、φ、・・・φとし、各層のセリウムイオン濃度をC、C、・・・Cとすると、平均濃度CAveは以下の式で表される。
Ave=C×φ+C×φ+・・・+C×φ
すなわち、スルホン酸基を有する電解質膜では、CAveが、セリウムイオンの場合、0.3〜20%、マンガンイオンの場合、0.5〜30%であることが好ましい。単層膜で濃度が膜厚方向に変化する場合や膜厚方向に徐々に濃度が変化している場合は、その濃度の積分値を用いて計算した平均濃度が上記の好ましい濃度範囲にあることが好ましい。
【0042】
また、本発明の電解質膜の面内においてセリウムイオン等の不均一な濃度分布がある場合においても、電解質膜全体の平均含有率が上記の範囲に入っていればよく、セリウムイオン等の濃度が高い領域の含有率は上述の範囲より高くてもよい。
【0043】
電解質膜の特定部分にセリウムイオン等を多く存在させた膜の作製方法としては、例えば上述の(1)の方法において、セリウムイオン等を含み、その含有率が異なる2種以上のプロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーの分散液を用いて分割ダイ塗工する方法がある。ここで分割ダイ塗工とは、ダイの塗工液のマニホールドからダイリップにかけて仕切りを設け、2種以上の塗工液をそれぞれ仕切りで区切られた異なるマニホールドに供給し、ダイ塗工の際2種以上の塗工液が同時にそれぞれ区切られたダイリップから排出されて塗工する方法をいう。この場合、仕切りをダイの幅方向に垂直又は斜め方向に設けると、得られる膜においてセリウムイオンの濃度が異なる領域ができる。また、上述の(2)の方法においてセリウムイオン等を含む陽イオン交換膜を作製する際に、一部をマスキングして浸漬する方法を用いることもできるが、特に限定されない。
【0044】
セリウムイオン等の濃度が面内方向で不均一である場合は、アノード側の原料ガスである水素の入口付近でその濃度が高くなっていると好ましく、またその他の部分でも劣化が生じやすい部分でその濃度が高くなっていると好ましい。具体的には、例えばセリウムイオン等を含みその濃度が異なる2種以上のプロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーの分散液を準備し、ダイコートの幅方向に濃度が段階的に変化するように溶液を供給して、キャスト製膜する。これにより、面内方向でセリウムイオン等が一方向において徐々に濃度が高くなっている濃度分布を有する膜が得られる。そして、得られた膜に電極を熱転写し、電解質膜中のセリウムイオン濃度が高い部分が水素ガスの入口に近くなるようにセットする。
【0045】
セリウムイオン等の濃度については、面内全体にわたっての平均値C’Aveが上記の好ましい濃度範囲に入っていればよい。すなわち、セリウムイオン等の濃度の異なる領域がn個ある面内分割膜の場合、その面積分率をS、S、・・・Sとし、各面の濃度をC’、C’、・・・C’とすると、平均濃度は以下の式で表される。
C’Ave=C’×S+C’×S+・・・+C’×S
すなわち、スルホン酸基を有する電解質膜では、C’Aveが、セリウムイオンの場合、0.3〜20%、マンガンイオンの場合、0.5〜30%であることが好ましい。単一面の膜で、濃度が傾斜的に変化する場合は、その濃度の積分値を用いて計算した平均濃度が上記の好ましい濃度範囲にあることが好ましい。
【0046】
電解質膜中にセリウム化合物又はマンガン化合物(以下、「セリウム化合物等」という。)を含有させることによっても、電解質膜の耐久性を向上させることができる。セリウム化合物等が水溶性の場合は、上述のように膜中でイオンとして存在すると考えられるが、セリウム化合物等が水に難溶性であっても本発明の電解質膜は過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有し、耐久性に優れる。その理由は明確ではないが、以下のいずれかの機構を考えている。1つには、難溶性セリウム化合物等が膜中で解離する、又は部分的に溶解することによりセリウムイオン等が生成し、酸性基の一部がセリウムイオン等でイオン交換され、当該イオンが電解質膜の過酸化水素又は過酸化物ラジカル耐性を効果的に向上させていると考えられる。もう一つとしては、難溶性セリウム化合物等の中のセリウム元素等が、触媒層から膜中に拡散してくる過酸化水素を効果的に分解する機能を有していると考えられる。
【0047】
具体的な難溶性セリウム化合物としては、リン酸第一セリウム、リン酸第二セリウム、酸化セリウム、水酸化第一セリウム、水酸化第二セリウム、フッ化セリウム、シュウ酸セリウム、タングステン酸セリウム、ヘテロポリ酸のセリウム塩が挙げられる。難溶性マンガン化合物としては、酸化マンガン(II)、四酸化三マンガン、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、酸化マンガン(VII)等が挙げられる。
【0048】
プロトン導電性の陽イオン交換基を有するポリマー中に難溶性セリウム化合物等を含有させて本発明の電解質膜を得る方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)陽イオン交換基を有するポリマーの溶液又は分散液中に難溶性セリウム化合物等を添加して分散液中に含有させた後、得られた液を用いてキャスト法等により製膜する方法。このとき、難溶性セリウム化合物等は該化合物を高度に分散できる溶媒(分散媒)とあらかじめ混合しておいてから、上記ポリマーの溶液又は分散液と混合してもよい。
【0049】
(2)セリウムイオン等が含まれる溶液中に陽イオン交換基を有するポリマーからなる膜を浸漬してイオンを膜中に含有させた後、リン酸、シュウ酸、NaF、水酸化ナトリウム等の、セリウムイオン等と反応して難溶性セリウム化合物等を形成する物質を含む溶液に浸漬して、難溶性セリウム化合物等を膜中に析出させる方法。
【0050】
(3)陽イオン交換基を有するポリマーの分散液中に該分散液に溶解可能なセリウム化合物等を添加して陽イオン交換基をセリウムイオン等によりイオン交換した後、該分散液にリン酸、シュウ酸、NaF、水酸化ナトリウム等の、セリウムイオン等と反応して難溶性セリウム化合物等を形成する物質又はそれを含む溶液を添加して、該分散液中に難溶性セリウム化合物等を生成させ、得られた液を用いてキャスト法等により製膜する方法。上記ポリマーの分散液中に該分散液に溶解可能なセリウム化合物等としては、例えば酢酸セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウム、酢酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。
【0051】
(4)陽イオン交換基を有するポリマーの前駆体に難溶性セリウム化合物等を添加し、2軸押出し成形による混練、ペレット化、一軸押出し成形によるフィルム化、そして加水分解、酸型化処理により製膜する方法。ここで陽イオン交換基を有するポリマーの前駆体とは、加水分解、酸型化等することにより当該陽イオン交換基に変換可能な官能基を有するポリマーであり、例えば陽イオン交換基がスルホン酸基の場合には、−SOF基を有するポリマーのことをいう。
【0052】
上記の方法のなかでも特に(2)の方法が好ましい。セリウムイオン等の置換量の制御が可能であり、また、製膜時の膜の厚み調整が可能であり均一な厚みの膜を得やすいからである。
【0053】
本発明において、電解質膜中に含まれる難溶性セリウム化合物等の好ましい割合としては、電解質膜全質量の0.3〜80%(質量比)であることが好ましく、より好ましくは0.4〜70%、さらに好ましくは0.5〜50%である。膜中の難溶性セリウム化合物等の含有量がこの範囲よりも少ないと、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する十分な安定性が確保できないおそれがある。また含有量がこの範囲よりも多いと、電流遮蔽が発生するため、膜抵抗が増大して発電特性が低下するおそれがある。
【0054】
本発明の電解質膜は、一部がセリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含む、スルホン酸基を有する含フッ素共重合体のみからなる膜であってもよいが、他の成分を含んでいてもよく、ポリテトラフルオロエチレンやパーフルオロアルキルエーテル等の他の樹脂等の繊維、織布、不織布、多孔体等により補強されている膜であってもよい。
【実施例】
【0055】
[溶液製造例1]
[スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の溶液の調製]
CF=CF/CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOH共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)300gとエタノール420gと水280gとを2Lオートクレーブに仕込み、密閉し、ダブルヘリカル翼にて105℃で6時間混合撹拌後、公称孔径10μmのフィルターでろ過して均一な液(以下、溶液Aという)を得た。溶液Aの固形分濃度は30質量%であった。
【0056】
[溶液製造例2]
[スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の溶液の調製]
CF=CF/CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOH共重合体(イオン交換容量1.3ミリ当量/g乾燥樹脂)20gとエタノール48gと水32gとを0.2Lオートクレーブに仕込み、密閉し、ダブルヘリカル翼にて105℃で6時間混合撹拌後、公称孔径10μmのフィルターでろ過して均一な液(以下、溶液Bという)を得た。溶液Bの固形分濃度は20質量%であった。
【0057】
[溶液製造例3]
[スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の溶液の調製]
CF=CF/CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOH共重合体(イオン交換容量1.5ミリ当量/g乾燥樹脂)10gとエタノール54gと水36gとを0.2Lオートクレーブに仕込み、密閉し、ダブルヘリカル翼にて105℃で6時間混合撹拌後、公称孔径10μmのフィルターでろ過して均一な液(以下、溶液Cという)を得る。溶液Cの固形分濃度は10質量%である。
【0058】
[例1]
300mlガラス製丸底フラスコに、溶液Aを100gと、炭酸セリウム水和物(Ce(CO・8HO)を0.5gとを仕込み、PTFE製半月板翼にて、室温で8時間撹拌した。撹拌開始よりCO発生による気泡が発生したが、最終的には均一な透明の液状組成物を得た。得られた液状組成物の固形分濃度は30.1質量%であった。この組成物を100μmのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるシートETFEシート(商品名:アフレックス100N、旭硝子社製、以下ETFEシートという。)上に、ダイコータにてキャスト塗工し、80℃で10分予備乾燥した後、120℃、10分乾燥し、さらに150℃、30分のアニールを施し、膜厚50μmの固体高分子電解質膜を得た。この膜の導電率を測定したところ、80℃、相対湿度95%の条件で0.2S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.018S/cmであった。
【0059】
この高分子電解質膜から、5cm×5cmの大きさの膜を切り出し、乾燥窒素中で16時間放置した後、質量を精秤し0.1規定のHCl水溶液中に含浸して、セリウムイオンを完全に抽出した液を得た。この液をICP分光分析にて測定することで、高分子電解質膜中のセリウムを定量したところ、セリウムの含有率は5モル%であった。
【0060】
次に、白金がカーボン担体(比表面積800m/g)に触媒全質量の50%含まれるように担持された触媒粉末(エヌ・イーケムキャット社製)1.0gに、蒸留水5.1gを混合した。この混合液にCF=CF/CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOH共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)をエタノールに分散させた固形分濃度9質量%の液4.5gを混合した。この混合物をホモジナイザー(商品名:ポリトロン、キネマチカ社製)を使用して混合、粉砕させ、触媒層形成用塗工液を作製した。
【0061】
この塗工液を、ETFEシートの上にバーコータで塗工した後、80℃の乾燥器内で30分間乾燥させてアノード及びカソードの触媒層を各々作製した。なお、触媒層形成前の基材フィルムのみの質量と触媒層形成後の基材フィルムの質量を測定することにより、触媒層に含まれる単位面積あたりの白金の量を算出したところ、アノードでは0.2mg/cm、カソードでは0.4mg/cmであった。
【0062】
次に、上述のセリウムイオンを含有させた高分子電解質膜を用い、この膜の両面に基材フィルム上に形成された触媒層をそれぞれ配置し、ホットプレス法により転写してアノード触媒層及びカソード触媒層を高分子電解質膜の両面にそれぞれ接合した、膜触媒層接合体を得た。なお、電極面積は16cmであった。
【0063】
この膜触媒層接合体を厚さ350μmのカーボンクロスからなるガス拡散層2枚の間に挟んで膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、低加湿での運転条件における電圧測定及び耐久試験を行った。運転条件は、常圧にて、水素(利用率70%)/空気(利用率50%)を供給し、セル温度80℃において電流密度0.2A/cmとし、アノード側は露点64℃、カソード側は露点64℃としてそれぞれ水素及び空気を加湿してセル内に供給し、運転初期のセル電圧を測定した。また、耐久性の加速試験として開回路試験(OCV試験)を行った。試験は、常圧で、電流密度0.2A/cmに相当する水素(利用率70%)及び空気(利用率40%)をそれぞれアノード及びカソードに供給し、セル温度は90℃、アノードガスの露点は60℃、カソードガスの露点は60℃として、発電は行わずに開回路状態で100時間運転し、その間の電圧変化を測定した。結果をそれぞれ表1に示す。
【0064】
[例2]
例1における溶液Aの代わりに、溶液Bを用いて炭酸セリウム水和物(Ce(CO・8HO)0.4gとともに仕込んだ以外は例1と同様にして膜厚50μmの固体高分子電解質膜を得た。この膜の導電率を測定したところ、80℃、相対湿度95%の条件で0.3S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.025S/cmであった。また、高分子電解質膜中のセリウムを定量したところ、セリウムの含有率は5モル%であった。
【0065】
例1と同様にして膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
[例3]
例1における溶液Aの代わりに、溶液Cを用いて炭酸セリウム水和物(Ce(CO・8HO)0.23gとともに仕込む以外は例1と同様にして膜厚50μmの固体高分子電解質膜を得る。この膜の導電率を測定すると、80℃、相対湿度95%の条件で0.36S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.029S/cmとなる。また、高分子電解質膜中のセリウムを定量すると、セリウムの含有率は5モル%となる。
【0067】
例1と同様にして膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、例1と同様の評価を行うと、表1の結果となる。
【0068】
[例4]
例3における添加する炭酸セリウム水和物(Ce(CO・8HO)の量を0.15gとする以外は例3と同様にして膜厚50μmの固体高分子電解質膜を得る。この膜の導電率を測定すると、80℃、相対湿度95%の条件で0.41S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.036S/cmとなる。また、高分子電解質膜中のセリウムを定量すると、セリウムの含有率は3.3モル%となる。
【0069】
例1と同様にして膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、例1と同様の評価を行うと、表1の結果となる。
【0070】
[例5]
固体高分子電解質膜として、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる厚さ50μmのイオン交換膜(商品名:フレミオン、旭硝子社製、イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)であって、大きさ5cm×5cm(面積25cm)を使用する。この膜全体の重さを乾燥窒素中で16時間放置した後、乾燥窒素中で測定すると、0.250gである。この膜のスルホン酸基の量は以下の式により求められる。
0.250(g)×1.1(ミリ当量/g乾燥樹脂)=0.275(ミリ当量)。
【0071】
次に、この膜のスルホン酸基量の10%の量に相当するマンガンイオン(+2価)を含むように、硝酸マンガン(Mn(NO・6HO)4.0mgを500mLの蒸留水に溶解し、この中に上記イオン交換膜を浸漬し、室温で40時間、スターラーを用いて撹拌を行ってイオン交換膜のスルホン酸基の一部をマンガンイオンによりイオン交換する。なお、浸漬前後の硝酸マンガン溶液をICP発光分析により分析すると、このイオン交換膜のマンガンイオンの含有率(膜中の−SO基の数に対するマンガンイオンの割合)は5%となる。この膜の導電率を測定すると、80℃、相対湿度95%の条件で0.25S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.02S/cmとなる。
【0072】
例1と同様にして膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、例1と同様の評価を行うと、表1の結果となる。
【0073】
[例6(比較例)]
例1において、セリウムイオンを含有させないイオン交換膜を用いて膜電極接合体を製し、これを発電用セルに組み込み、運転初期のセル電圧及び運転開始後の経過時間とセル電圧との関係を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[例7(比較例)]
例1において用いた溶液Aの代わりに、市販の5%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)を用いて炭酸セリウム水和物(Ce(CO・8HO)0.07gを仕込んだ以外は実施例1と同様にして膜厚50μmの固体高分子電解質膜を得た。この膜の導電率を測定したところ、80℃、相対湿度95%の条件で0.12S/cm、80℃、相対湿度30%の条件で0.009S/cmであった。また、高分子電解質膜中のセリウムを定量したところ、セリウムの含有率は5モル%であった。
【0075】
例1と同様にして膜電極接合体を作製し、これを発電用セルに組み込み、例1と同様の評価を行うと表1に示す結果となる。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜からなる電解質膜であって、セリウム原子及びマンガン原子からなる群から選ばれる1種以上を含み、かつ温度80℃、相対湿度95%の条件で測定した導電率が0.15〜1S/cm、温度80℃、相対湿度30%の条件で測定した導電率が0.01〜0.2S/cmであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
前記陽イオン交換膜の前記イオン交換基の一部がセリウムイオン又はマンガンイオンによりイオン交換されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
前記イオン交換基を有するポリマーは、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体である請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
セリウムイオンが、前記陽イオン交換膜に含まれる−SO基の数の0.3〜20%含まれる請求項3に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
マンガンイオンが、前記陽イオン交換膜に含まれる−SO基の数の0.5〜30%含まれる請求項3に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜の製造方法であって、プロトン導電性のイオン交換基を有するポリマーを溶媒中に溶解又は分散させた後、セリウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選ばれる1種以上をさらに溶解させて、液状組成物を得た後、キャスト製膜することにより、前記電解質膜を作製することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記ポリマーを、水を含む溶媒中に溶解又は分散させた後、セリウムの炭酸塩又はマンガンの炭酸塩を溶解させて前記液状組成物を得る請求項6に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜の製造方法であって、スルホン酸基を有するポリマーからなる陽イオン交換膜を、セリウムイオン又はマンガンイオンを含む水溶液中に浸漬することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2007−95529(P2007−95529A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284237(P2005−284237)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】