説明

固体高分子電解質材料及び当該固体高分子電解質材料の製造方法

【課題】ラジカル耐性及び機械的特性に優れた固体高分子電解質材料を提供する。
【解決手段】フルオレン構造を有する繰り返し単位(I)、並びに、フルオレン構造を有する繰り返し単位(IIa)、フルオレン構造を有する繰り返し単位(IIb)及びフルオレン構造を有する繰り返し単位(IIc)からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロトン伝導性基含有繰り返し単位(II)が直接連結してなることを特徴とする、固体高分子電解質材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル耐性及び機械的特性に優れる固体高分子電解質材料及び当該固体高分子電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e …(1)
(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0004】
また、酸素を酸化剤とした場合、カソードでは(2)式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → HO …(2)
カソードで生成した水は、主としてガス拡散層を通り、外部へと排出される。このように、燃料電池では、水以外の排出物がなく、クリーンな発電装置である。
【0005】
固体高分子電解質型燃料電池の場合、燃料及び酸化剤は、通常気体状態(燃料ガス、酸化剤ガス)で燃料電池へ連続的に供給される。それらの気体は、導電体である担体に担持された触媒粒子及びイオン伝導路を確保する高分子電解質との接面である三相界面まで導入され、前記反応が進行する。従って、通常燃料電池の電極には、触媒粒子に均一に高分子電解質を混ぜ合わせた多孔質の触媒層を含む電極を用いることが知られている。
【0006】
前記高分子電解質には、フッ素原子が炭素主鎖の周囲を取り巻いていることから、化学的安定性の高いパーフルオロスルホン酸ポリマーが従来用いられてきた。しかし、パーフルオロスルホン酸ポリマーは原料となるモノマーの製造コストが高く、しかも100℃近辺に軟化点が存在するため、100℃を超える温度条件下では、機械的強度を保てなくなるおそれがある。また、フッ素を含む点で廃棄処理が困難であり、環境負荷が高い。
【0007】
近年、前記パーフルオロスルホン酸ポリマーに替わる新しい高分子電解質として、炭化水素系高分子電解質の研究が盛んに行われている。特許文献1は、廉価で環境負荷の低いスルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトン(sPEEK)を燃料電池内の高分子電解質材料として用い、パーフルオロスルホン酸ポリマーの代替物としての利用を提唱している。また、特許文献2では、スルホン酸基含有ポリイミドを燃料電池の電解質膜に用いることにより、乾燥時及び吸水時においても機械的特性に優れる電解質膜の作製を目標としている。
【0008】
【特許文献1】特表2001−525471号公報
【特許文献2】特開2005−15541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記スルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトン及び前記スルホン酸基含有ポリイミドは、いずれもその重合時に際し、カルボニル基やエーテル基、イミド基などのヘテロ原子含有基によってモノマー同士が重合するため、前記ヘテロ原子含有基はポリマーの構成要素として不可欠である。しかし、前記ヘテロ原子含有基は炭化水素基と異なり、燃料電池作動中に発生する酸素ラジカル又はヒドロキシラジカルに対して不安定であるため、ラジカルの攻撃によってポリマー鎖が切断され、機械的特性の劣化が起こる恐れがあった。したがって重合部位、すなわち繰り返し単位の連鎖を形成する連結構造中に、前記ヘテロ原子含有基を含むポリマーは、燃料電池の電解質膜に用いるにはラジカル耐性及び機械的特性の観点から不適当であった。さらに、前記ヘテロ原子含有基を含むポリマーは、燃料電池の触媒層中のアイオノマーとして用いるとしても、上記ラジカルがアイオノマーのポリマー鎖を切断するため、アイオノマーが有するプロトン伝導性が低下し、電解質膜と触媒担体間の円滑なプロトン輸送が妨げられてしまう恐れがあった。
特に自動車に用いられる燃料電池は、当該燃料電池の多数回の起動・停止に対し上記ラジカルが発生しやすく、また、寒冷地・温暖地問わず安定した性能が要求されることから、よりラジカル耐性及び機械的特性に優れる固体高分子電解質材料が求められる。
【0010】
本発明者らは、燃料電池に用いる電解質樹脂には、重合部位に前記ヘテロ原子含有基を含まない炭化水素系高分子であることが化学構造上望ましいと考えた。
本発明は、より強固な重合部位を有する高分子電解質材料であって、特に、ラジカル耐性及び機械的特性に優れる燃料電池の触媒層又は電解質膜として利用される新規高分子電解質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体高分子電解質材料は、式(1)
【0012】
【化1】

で表される繰り返し単位(I)、並びに、式(2)
【0013】
【化2】

で表される繰り返し単位(IIa)、及び式(3)
【0014】
【化3】

で表される繰り返し単位(IIb)、及び式(4)
【0015】
【化4】

で表される繰り返し単位(IIc)からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロトン伝導性基含有繰り返し単位(II)が直接連結してなることを特徴とする。
(上記式(1)〜式(4)中の符号R〜R15cの意味は次の通りである:式(1)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R3a〜R3c及びR4a〜R4cは互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(2)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R7a〜R7c及びR8a〜R8cは互いに独立であり、これらR7a〜R7c及びR8a〜R8cのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(3)において、Rは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R10a〜R10eは互いに独立であり、これらR10a〜R10eのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R11a〜R11c及びR12a〜R12cは互いに独立であり、これらR11a〜R11c及びR12a〜R12cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(4)において、R13a〜R13hは互いに独立であり、これらR13a〜R13hのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R14a〜R14c及びR15a〜R15cは互いに独立であり、これらR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。)
【0016】
【化5】

(上記式(5)中、Zは単結合、又は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基であり、Xはプロトン伝導性基である。)
【0017】
このような構成の固体高分子電解質材料は、モノマー間の結合において炭素‐炭素結合を採用しているため、ラジカル耐性が高く、且つ、モノマー同士を強固に結合することができる。したがって、燃料電池作動時にポリマー鎖が切断される恐れがなく、機械的特性に優れる燃料電池用材料を構成することができる。
【0018】
本発明の固体高分子電解質材料は、前記式(5)中の‐Xが‐SOHであることが好ましい。
【0019】
このような構成の固体高分子電解質材料は、プロトン伝導性基としてスルホン酸基を含むことにより、より高いプロトン伝導性を達成することができる。
【0020】
本発明の固体高分子電解質材料は、前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合が、モル百分率で表した時に、10〜50モル%であることが好ましい。
【0021】
このような構成の固体高分子電解質材料は、プロトン伝導性基を含む前記繰り返し単位を10モル%以上の割合で含むことにより、高いプロトン伝導性を達成することができる。また、プロトン伝導性基を含む前記繰り返し単位を50モル%以下の割合で含むことにより、吸水した際に溶解せず、安定した形状保持性を保つことができる。
【0022】
本発明の固体高分子電解質材料の一形態は、前記式(1)乃至(4)で表される繰り返し単位が、当該繰り返し単位に含まれるフルオレン構造の、2位及び7位において隣り合う繰り返し単位との間に炭素‐炭素結合を有するという構成をとることができる。
【0023】
このような構成の固体高分子電解質材料は、既に市販されている2位及び7位にハロゲン原子を有するフルオレンから合成することができるため、比較的低いコストで入手することができる。
【0024】
本発明の固体高分子電解質材料は、重量平均分子量が1000以上であることが好ましい。
【0025】
このような構成の固体高分子電解質材料は、ポリマーとして機械的特性に優れた燃料電池用材料を構成することができる。
【0026】
本発明の固体高分子電解質材料の製造方法は、フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれハロゲン原子1つに置換されている第1のフルオレン誘導体モノマーと、フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれホウ素含有基1つに置換されている第2のフルオレン誘導体モノマーとを重合してフルオレンポリマーを合成する工程と、重合前の第1及び/又は第2のフルオレン誘導体モノマー、又は重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
このような構成の固体高分子電解質材料の製造方法は、本発明に係る固体高分子電解質材料を製造することができる。また、重合前/重合後に限らずプロトン伝導性基を導入することができることから、フルオレン構造に合わせて最適な固体高分子電解質材料の製造工程の順序を選ぶことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来用いられてきた重合部位としての前記ヘテロ原子含有基に替えて、モノマー間の結合において炭素‐炭素結合を採用しているため、ラジカル耐性及び機械的特性に優れた固体高分子電解質材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1.固体高分子電解質材料の構造及び性質
本発明の固体高分子電解質材料は、式(1)
【0030】
【化6】

で表される繰り返し単位(I)、並びに、式(2)
【0031】
【化7】

で表される繰り返し単位(IIa)、及び式(3)
【0032】
【化8】

で表される繰り返し単位(IIb)、及び式(4)
【0033】
【化9】

で表される繰り返し単位(IIc)からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロトン伝導性基含有繰り返し単位(II)が直接連結してなることを特徴とする。
(上記式(1)〜式(4)中の符号R〜R15cの意味は次の通りである:式(1)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R3a〜R3c及びR4a〜R4cは互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(2)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R7a〜R7c及びR8a〜R8cは互いに独立であり、これらR7a〜R7c及びR8a〜R8cのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(3)において、Rは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R10a〜R10eは互いに独立であり、これらR10a〜R10eのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R11a〜R11c及びR12a〜R12cは互いに独立であり、これらR11a〜R11c及びR12a〜R12cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(4)において、R13a〜R13hは互いに独立であり、これらR13a〜R13hのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R14a〜R14c及びR15a〜R15cは互いに独立であり、これらR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。)
【0034】
【化10】

(上記式(5)中、Zは単結合、又は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基であり、Xはプロトン伝導性基である。)
【0035】
上記式(1)乃至(4)に示される繰り返し単位であるフルオレン構造の重合位置は、当該フルオレン構造の1位乃至4位のいずれか1か所、及び当該フルオレンの5位乃至8位のいずれか1か所の合計2か所であればどこでもよく、繰り返し単位ごとに重合位置が異なっていても構わない。ただし、前記重合位置が、前記フルオレンの1位乃至4位のいずれか2か所のみ、又は、前記フルオレンの5位乃至8位のいずれか2か所のみというものは除外する。
なお、前記固体高分子電解質材料の原料となる、9位無置換又は9位に置換基を有し、且つ、2位と7位にハロゲン原子を有するフルオレン誘導体はいずれも市販されており、したがって、当該フルオレン誘導体を用いて合成される、2位及び7位において他のフルオレンモノマーと炭素‐炭素結合を有する前記固体高分子電解質材料は、比較的安価に合成できるという利点がある。
【0036】
式(5)に示される構造を有するプロトン伝導性基含有基は、プロトン伝導性基とフルオレン構造とが単結合で結ばれていてもよいし、又は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基で結ばれていてもよい。
式(5)中のZが単結合でない場合は、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であるのが最も好ましい。この場合には、溶解性とイオン交換容量の向上という理由から、Zが単結合である以外に最適なプロトン伝導性基含有基を構成することができる。
なお、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基は、直鎖・分枝鎖・環状を問わないが、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはブチル基、オクチル基、2‐エチルヘキシル基である。また、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはフェニル基、トルイル基、ナフチル基である。
さらに、式(5)に示すZは、単結合、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基のうち、単結合であるのが最も好ましい。
【0037】
上記式(5)において‐Xとして示されているプロトン伝導性基は、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基の中から選ぶことができ、より高いプロトン伝導性を達成するために、スルホン酸基を用いるのが好ましい。
【0038】
上記式(2)乃至(4)に示される繰り返し単位が有するプロトン伝導性基含有基は、式(2)の繰り返し単位に関してはR7a〜R7c及びR8a〜R8cのうち少なくとも1つ、式(3)の繰り返し単位に関してはR10a〜R10eのうち少なくとも1つ、式(4)の繰り返し単位に関してはR13a〜R13hのうち少なくとも1つであればよく、繰り返し単位ごとにフルオレン構造に対する結合位置が異なっていても構わない。ただし、式(2)の繰り返し単位に関しては、前記重合位置とは異なる位置にプロトン伝導性基含有基が結合していなければならない。
なお、式(3)の繰り返し単位に関しては、R10a〜R10eの他に、R11a〜R11c及びR12a〜R12cがプロトン伝導性基含有基であってもよい。ただしこの場合は、式(3)の繰り返し単位に関して、前記重合位置とは異なる位置にプロトン伝導性基含有基が結合していなければならない。
また、式(4)の繰り返し単位に関しては、R13a〜R13hの他に、R14a〜R14c及びR15a〜R15cがプロトン伝導性基含有基であってもよい。ただしこの場合は、式(4)の繰り返し単位に関して、前記重合位置とは異なる位置にプロトン伝導性基含有基が結合していなければならない。
【0039】
なお、繰り返し単位ごとに、異なる種類の‐X(プロトン伝導性基)及び/又は異なる種類の‐Z‐(単結合又は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基)を有するプロトン伝導性基含有基を含んでいてもよい。
【0040】
上記式(2)に示される繰り返し単位におけるプロトン伝導性基含有基の数は、当該繰り返し単位に1〜4個であるのが好ましい。これは溶解性とイオン交換容量の向上という理由からである。また、上記式(3)に示される繰り返し単位におけるプロトン伝導性基含有基の数は、当該繰り返し単位に1〜4個であるのが好ましい。これは溶解性とイオン交換容量の向上という理由からである。さらに、上記式(4)に示される繰り返し単位におけるプロトン伝導性基含有基の数は、当該繰り返し単位に1〜4個であるのが好ましい。これは溶解性とイオン交換容量の向上という理由からである。
【0041】
上記式(1)に示される繰り返し単位中、R及びRは互いに独立であり、また、上記式(2)に示される繰り返し単位中、R及びRは互いに独立である。
及びR、R及びR、並びに上記式(3)に示される繰り返し単位中のRは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
及びR、R及びR、並びにRは、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であるのが最も好ましい。この場合は、溶解性とイオン交換容量の向上という理由から、最適なフルオレン構造を有する繰り返し単位を構成することができる。
なお、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基は、直鎖・分枝鎖・環状を問わないが、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはブチル基、オクチル基、2‐エチルヘキシル基である。また、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはフェニル基、トルイル基、ナフチル基である。
【0042】
上記式(1)に示される繰り返し単位中、R3a〜R3c及びR4a〜R4cは互いに独立である。
3a〜R3c及びR4a〜R4cは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
3a〜R3c及びR4a〜R4cは、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であるのが最も好ましい。この場合は、溶解性とイオン交換容量の向上という理由から、R3a〜R3c及びR4a〜R4cが水素原子である以外に最適なフルオレン構造を有する繰り返し単位を構成することができる。
なお、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基は、直鎖・分枝鎖・環状を問わないが、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはブチル基、オクチル基、2‐エチルヘキシル基である。また、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはフェニル基、トルイル基、ナフチル基である。
さらに、R3a〜R3c及びR4a〜R4cは、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基のうち、水素原子であるのが最も好ましい。
【0043】
上記式(2)に示される繰り返し単位中、R7a〜R7c及びR8a〜R8cは互いに独立であり、上記式(3)に示される繰り返し単位中、R10a〜R10eは互いに独立であり、またR11a〜R11c及びR12a〜R12cは互いに独立であり、上記式(4)に示される繰り返し単位中、R13a〜R13hは互いに独立であり、またR14a〜R14c及びR15a〜R15cは互いに独立である。
7a〜R7c及びR8a〜R8cのうち少なくとも1つ、又はR10a〜R10eのうち少なくとも1つ、又はR13a〜R13hのうち少なくとも1つは上記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
11a〜R11c及びR12a〜R12c、並びにR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、上記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
7a〜R7c及びR8a〜R8c、R10a〜R10e、R11a〜R11c及びR12a〜R12c、R13a〜R13h並びにR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、水素原子又はプロトン伝導性基含有基でない場合には、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であるのが最も好ましい。この場合は、溶解性とイオン交換容量の向上という理由から、R7a〜R7c及びR8a〜R8c、R10a〜R10e、R11a〜R11c及びR12a〜R12c、R13a〜R13h並びにR14a〜R14c及びR15a〜R15cが水素原子又はプロトン伝導性基含有基である以外に最適なフルオレン構造を有する繰り返し単位を構成することができる。
なお、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基は、直鎖・分枝鎖・環状を問わないが、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはブチル基、オクチル基、2‐エチルヘキシル基である。また、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を含まないものとし、好ましくはフェニル基、トルイル基、ナフチル基である。
さらに、R7a〜R7c及びR8a〜R8c、R10a〜R10e、R11a〜R11c及びR12a〜R12c並びにR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基のうち、水素原子であるのが最も好ましい。
なお、R7a〜R7c及びR8a〜R8c、R10a〜R10e、R11a〜R11c及びR12a〜R12c、R13a〜R13h並びにR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、そのうち上述した好ましい数だけ、プロトン伝導性基含有基であればよい。
【0044】
前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合が、モル百分率で表した時に、10〜50モル%であることが好ましい。前記比が10モル%未満の固体高分子電解質材料は、プロトン伝導性基を十分量有しないため、十分なプロトン伝導能を発揮することができない。また、前記比が50モル%を超える固体高分子電解質材料は、一定量を超えたプロトン伝導性基を有するため、吸水した際に流動性が高い状態となり、形状保持性を保つことができない。なお、前記含有割合は、10〜30モル%であることが最も好ましい。
【0045】
本発明の固体高分子電解質材料の連結の順番に関しては、上記式(1)乃至(4)に示される繰り返し単位が、どのような順番で何回ずつ連結されていても構わない。たとえば、一定数同じ繰り返し単位が連結されたブロックが、互いに共重合するブロック共重合体であってもよいし、あるいは異なる繰り返し単位が交互に重合する交互共重合体であってもよい。また、繰り返し単位の配列に全く秩序が無いランダム共重合体であってもよい。
また、本発明の固体高分子電解質材料の連結において、上記式(1)乃至(4)に示される繰り返し単位は直接炭素‐炭素結合で連結することとし、繰り返し単位の間にはいずれの原子も介在させないこととする。
なお、本発明の固体高分子電解質材料であるポリマーの末端基は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であるのが好ましいが、両末端基が異なる基であってもよい。化学的安定性の観点から、両末端基がフェニル基であるのが最も好ましい。
さらに、前記末端基以外はすべて上記式(1)乃至(4)に示される繰り返し単位で構成されることが必要である。
【0046】
また、前記固体高分子電解質材料の重量平均分子量は、1000以上であるのが好ましい。仮に重量平均分子量が1000未満であるとすると、ポリマーとしての優れた機械的特性を発揮することができなくなってしまうからである。なお、重量平均分子量は、1200以上であるのが最も好ましい。
【0047】
以下、本発明の固体高分子電解質材料の典型例について詳細に説明する。式(6)は、本発明の固体高分子電解質材料の典型例であり、上記式(1)で示される繰り返し単位と、上記式(2)で示される繰り返し単位との共重合体である。
【0048】
【化11】

【0049】
上記式(6)に示される典型例は、上記式(1)で示される繰り返し単位が一定数連結したブロックと、上記式(2)で示される繰り返し単位とが一定数連結したブロックとが、互いに共重合したブロック共重合体である。
上記式(1)及び(2)中のR、R、R、Rはそれぞれ上記式(6)中のR、R、R、Rに対応し、式(2)中のR7a〜R7c及びR8a〜R8cのいずれか1つが、上記式(6)中のプロトン伝導性基含有基Xに対応し、式(2)中のR7a〜R7c及びR8a〜R8cの残りと式(1)中のR3a〜R3c及びR4a〜R4cが、上記式(6)中で記述が省略された水素原子に対応している。
さらに、上記式(6)中のXはプロトン伝導性基であり、これは、上記式(5)中においてZが単結合であるプロトン伝導性基含有基である場合に対応している。
共重合体の末端基であるR21〜R22は、上述のように、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であるのが好ましいが、R21〜R22のどちらもフェニル基であるのが最も好ましい。
【0050】
上記式(6)中の重合度x、y、zは、上述した前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合、及び重量平均分子量の観点から、x=1〜5、y=1〜5、y=1〜5であるのが好ましい。
【0051】
以下、本発明の固体高分子電解質材料の第2の典型例について詳細に説明する。式(7)は、本発明の固体高分子電解質材料の第2の典型例であり、上記式(1)で示される繰り返し単位と、上記式(3)で示される繰り返し単位との共重合体である。
【0052】
【化12】

【0053】
上記式(7)に示される典型例は、上記式(1)で示される繰り返し単位と、上記式(3)で示される繰り返し単位とが交互に重合した交互共重合体である。
上記式(1)及び(3)中のR、R、Rはそれぞれ上記式(7)中のR、R、Rに対応し、式(3)中のR10a〜R10eのいずれか1つが、上記式(7)中のプロトン伝導性基含有基‐Z‐Xに対応し、式(3)中のR10a〜R10eの残りとR11a〜R11c及びR12a〜R12c、及び式(1)中のR3a〜R3c及びR4a〜R4cが、上記式(7)中で記述が省略された水素原子に対応している。
さらに、上記式(7)中のZは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基であり、上記式(7)中のXはプロトン伝導性基である。
共重合体の末端基であるR23〜R24は、上述のように、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であるのが好ましいが、R23〜R24のどちらもフェニル基であるのが最も好ましい。
【0054】
上記式(7)中の重合度mは、上述した前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合、及び重量平均分子量の観点から、m=2〜6であるのが好ましい。
【0055】
以下、本発明の固体高分子電解質材料の第3の典型例について詳細に説明する。式(8)は、本発明の固体高分子電解質材料の第3の典型例であり、上記式(1)、(3)及び(4)で示される繰り返し単位で構成される共重合体である。
【0056】
【化13】

【0057】
上記式(8)に示される第3の典型例は、上記式(1)、(3)及び(4)で示される繰り返し単位の配列に全く秩序が無いランダム共重合体である。
上記式(1)及び(3)中のR、R、Rはそれぞれ上記式(8)中のR、R、Rに対応し、式(3)中のR10a〜R10eのいずれか1つが、上記式(7)中のプロトン伝導性基含有基‐Z‐Xに対応し、式(4)中のR13a〜R13hのいずれか1つが、上記式(8)中のプロトン伝導性基含有基‐Xに対応し、式(3)中のR10a〜R10eの残り及びR11a〜R11c及びR12a〜R12c、式(4)中のR13a〜R13hの残り及びR14a〜R14c及びR15a〜R15c、並びに式(1)中のR3a〜R3c及びR4a〜R4cが、上記式(8)中で記述が省略された水素原子に対応している。
さらに、上記式(8)中のZは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基であり、上記式(8)中のX、Xはプロトン伝導性基である。なお、X、Xは同じプロトン伝導性基であってもよいし、異なるプロトン伝導性基であってもよい。
共重合体の末端基であるR25〜R26は、上述のように、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であるのが好ましいが、R25〜R26のどちらもフェニル基であるのが最も好ましい。
【0058】
上記式(8)中の重合度a、b、cは、それぞれ0以上の整数からなるランダムな数列である{a}=(a,a,・・・a)、{b}=(b,b,・・・b)、{c}=(c,c,・・・c)からそれぞれ選ばれる数である。したがってこの場合重合度を規定することはできないが、上記式(8)に示されるランダム共重合体が結果的に、前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合が、モル百分率で表した時に、10〜50モル%であり、さらに共重合体の重量平均分子量が1000以上であるのが好ましい。
【0059】
このような構成の固体高分子電解質材料は、モノマー間の結合において炭素‐炭素結合を採用しているため、従来のヘテロ原子含有基を介してモノマー間が結合している固体高分子電解質材料と比較してラジカル耐性が高く、且つ、モノマー同士を強固に結合することができる。このラジカル耐性は、後述するフェントン試験によっても確認することができる。したがって、燃料電池作動時に発生する酸素ラジカル又はヒドロキシラジカルによってポリマー鎖が切断される恐れがなく、機械的特性に優れる燃料電池用材料を構成することができる。
また、プロトン伝導性基としてスルホン酸基を含むことにより、より高いプロトン伝導性を達成することができる。
さらに、プロトン伝導性基を含む前記繰り返し単位を10モル%以上の割合で含むことにより、高いプロトン伝導性を達成することができる。また、プロトン伝導性基を含む前記繰り返し単位を50モル%以下の割合で含むことにより、吸水した際に溶解せず、安定した形状保持性を保つことができる。
また、このような構成の固体高分子電解質材料は、市販されている2位及び7位にハロゲン原子を有するフルオレンから合成することも可能なため、比較的安いコストで入手することができる。
さらに、本発明の固体高分子電解質材料は、上述の重量平均分子量を有するため、ポリマーとして機械的特性に優れた燃料電池用材料を構成することができる。
【0060】
2.固体高分子電解質材料の製造方法
本発明の固体高分子電解質材料の製造方法は、フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれハロゲン原子1つに置換されている第1のフルオレン誘導体モノマーと、フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれホウ素含有基1つに置換されている第2のフルオレン誘導体モノマーとを重合してフルオレンポリマーを合成する工程と、重合前の第1及び/又は第2のフルオレン誘導体モノマー、又は重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程と、を有することを特徴とする。
【0061】
前記第1のフルオレン誘導体モノマーが有する2つのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子の中から選ぶことができ、2つのハロゲン原子が互いに異なる原子であっても構わないが、2つとも臭素原子であるのが好ましい。
【0062】
前記第2のフルオレン誘導体モノマーが有する2つのホウ素含有基は、ホウ酸基、ホウ酸エステル基、ホウ素基の中から選ぶことができ、2つのホウ素含有基が互いに異なる基であっても構わないが、2つともホウ酸エステル基であるのが好ましい。
【0063】
プロトン伝導性基を導入する工程は、フルオレンポリマーを合成した後でもよいし、重合前のフルオレン誘導体モノマーの状態でもよい。ただし、重合前のフルオレン誘導体モノマーにプロトン伝導基を導入しその後重合させる手法は、後述するように本発明の好ましい重合反応が塩基又は塩基性塩を加えることが好ましい反応であるため、重合反応時に当該塩基又は塩基性塩によって酸であるプロトン伝導基が損なわれ、製造後の固体高分子電解質材料のプロトン伝導性が低くなってしまう恐れがある。このような観点から、フルオレンポリマーを合成した後にプロトン伝導性基を導入するのが好ましい。
【0064】
2つのホウ素含有基を有する前記第2のフルオレン誘導体モノマーは、2つのハロゲン原子を有する前記第1のフルオレン誘導体モノマーから少なくとも1段階の反応工程を経て合成することができる。
下記式(9)は、フルオレン化合物2及びフルオレン化合物3の合成方法を示した式である。なお当該合成方法は、例えば、Reynolds,J.R. et al. Macromolecules 2005,38,7636に記載された手法を用いることができる。
【0065】
【化14】

【0066】
上記式(9)において、Xはハロゲン原子を、Zは酸素原子及びホウ素原子と共にホウ酸エステルを構成する原子または基を意味する。また、R〜Rは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rc1〜Rc3及びRd1〜Rd3は互いに独立であり、プロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
反応工程Aでは、第1のフルオレン誘導体モノマー1の2つのハロゲン原子を、それぞれホウ酸エステル基に置換し、フルオレンモノマー2を合成する。まず、反応物であるハロゲン化物に、副反応を避けるためごく低温でアルキルリチウムを反応させる。顕著な副反応がなければ、室温での反応も差し支えない。アルキルリチウムとしては、n‐ブチルリチウム、iso‐ブチルリチウム、tert‐ブチルリチウム等が挙げられる。続いてホウ酸エステルをごく低温で加えることで、反応物のハロゲン基に代えてホウ酸エステルを導入することができる。顕著な副反応がなければ室温または還流での反応も差し支えない。ホウ酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、及びブチルエステル等のアルキルホウ酸エステル、フェニルホウ酸エステル等のアリールホウ酸エステル、さらに両者が混合されたアルキルアリールホウ酸エステルといった様々なホウ酸エステルを用いることができる。反応液を濃縮・乾燥後、得られた粗生成物を再結晶することで精製できる。ホウ酸エステルを導入できる他の手法として、グリニャール試薬を用いる方法を挙げることができるが、精製が煩雑なグリニャール試薬を用いる手法に比較して本明細書記載の手法が簡便で優れている。
反応工程Bでは、前記モノマー2の2つのホウ酸エステル基を、それぞれ環状のアルキルホウ酸エステルへと変換し、環状のアルキルホウ酸エステルが2つ導入されたフルオレン化合物3を合成する。まず、アルキルホウ酸エステルを適切な溶媒、例えばTHFに溶解し、続いてグリコールを添加する。グリコールとしては、エチレングリコール、1,2‐プロピレングリコール、1,3‐プロピレングリコール等を挙げることができる。反応の進行には触媒量の酸を添加することが適切で、例えば、塩酸や硝酸の共存下で加熱する。不都合な副反応が起きなければ、温和な加熱であっても還流であっても差し支えない。反応液を濃縮・乾燥後、得られた粗生成物を再結晶することで精製できる。環状のアルキルホウ酸エステルに変換する理由は、このモノマー重合反応中の良好な安定性にある。例えば、フルオレンに導入されたホウ酸エステルがジメチルホウ酸エステルである場合に比較してエチレンホウ酸エステルである場合の方が、重合反応中の不都合な副反応が起きにくい。
なお、本発明に係るポリマー合成反応においては、2つのホウ素含有基を有する前記第2のフルオレン誘導体モノマーとして、前記モノマー2及び前記モノマー3のいずれも用いることができ、また、前記モノマー2及び前記モノマー3を混合して用いることもできる。この内、前記モノマー3を単独で前記第2のフルオレン誘導体モノマーとして用いるのが好ましい。
【0067】
下記式(10)は、ハロゲン原子を有する第1のフルオレン誘導体モノマーと、ホウ素含有基を有する第2のフルオレン誘導体モノマーとを重合してフルオレンポリマーを合成する工程を示した式である。なお当該合成方法は、例えば、Jenekhe,S.A. et al. Macromolecules 2005,38,7983に記載された手法を用いることができる。
【0068】
【化15】

【0069】
上記式(10)において、第1のフルオレン誘導体モノマー1のXはハロゲン原子を、第2のフルオレン誘導体モノマー4のMはホウ素含有基を意味する。
また、上記式(10)のR〜R、Rc1〜Rc3及びRd1〜Rd3は式(9)のR〜R、Rc1〜Rc3及びRd1〜Rd3にそれぞれ対応している。また、R〜Rは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rg1〜Rg3及びRh1〜Rh3は互いに独立であり、プロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
なお、Ri1〜Ri2は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、Rは、Ri1〜Ri2の内いずれか1つから選択される基である。
【0070】
式(10)で示されるポリマー合成反応は、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応である。当該遷移金属触媒中の遷移金属としては、パラジウム、ロジウム、鉄、コバルト、ニッケル、金、プラチナ、ルテニウムを用いることができるが、この内ホウ素含有基を有する芳香族基と、ハロゲン原子を有する芳香族基とのクロスカップリング反応において、最も用いられ信頼度の高いパラジウムを用いるのが好ましい。
また、遷移金属を触媒として用いる場合、遷移金属の炭素原子‐ハロゲン原子間結合への酸化的付加、及び生成物であるカップリング体からの遷移金属の還元的脱離を効率よく行うために、当該遷移金属を配位子で修飾するのが好ましい。当該配位子としてはトリフェニルホスフィン、ジベンジリデンアセトン、アセテート、BINAP、シクロオクタジエン等を用いることができる。酸化状態の遷移金属、及び還元状態の遷移金属のどちらも安定に保ち、効率のよい触媒サイクルを設計するという観点から、配位子としてはトリフェニルホスフィンを用いるのが好ましい。
以上のことから、遷移金属触媒としては、遷移金属としてパラジウム、配位子としてトリフェニルホスフィンを用いた、テトラキス(トリストリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を用いるのが最も好ましい。
また、クロスカップリング反応において、ホウ素含有基の活性化に塩基又は塩基性塩を用いることが好ましく、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等の塩基性塩を用いることができる。この内、塩基性塩である炭酸ナトリウムを用いるのが最も好ましい。
【0071】
反応に用いる溶媒は、上述したポリマー合成反応を妨げず、且つ、前記モノマー1及び前記モノマー4、遷移金属触媒、塩基及び塩基性塩をすべて溶解することができるのが好ましく、炭化水素系有機溶媒及び水又はこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。炭化水素系有機溶媒としてはベンゼン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、エチルベンゼン等が挙げられる。
またこの反応において、有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合、有機溶媒と水を混合し易くし、有機層中の分子と水層中の分子との相互作用を起こし易くするために、添加剤として界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の例としては、Aliquat336(商品名。ヘンケル社(独)製)またはトリカプリルアンモニウムクロリド、トリドデシルアンモニウムクロリド、TritonX‐100(商品名。ユニオンカーバイド社(米)製)またはポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、TritonX‐114(商品名。ユニオンカーバイド社(米)製)またはポリオキシエチレンイソオクチルシクロヘキシルエーテルを挙げることができ、この内Aliquat336を用いるのが好ましい。
【0072】
本反応において遷移金属触媒は、まず初めに前記第1のフルオレン誘導体モノマー1の炭素原子‐ハロゲン原子間結合への酸化的付加を起こす。続いて、前記モノマー1中に遷移金属触媒が酸化的付加を起こした部分と、前記第2のフルオレン誘導体モノマー4中のホウ素含有基とが、1対1で反応を起こし、モノマー同士の重合が完成する。そのため反応生成物は、前記モノマー1及び前記モノマー4が交互に重合したものとなる。
【0073】
なお、式(10)に示されるように、反応終了時において、ハロゲン原子を有するRi1‐Xを反応容器に加え、その後ホウ素含有基を有するRi2‐Mを加えることによって、ポリマーの両末端において残存しているハロゲン原子又はホウ素含有基を、Ri1又はRi2に置換することができる。この時、ポリマーの末端のハロゲン原子はRi2に置換され、ポリマーの末端のホウ素含有基はRi1に置換される。なお、Ri1‐X及びRi2‐Mを加える順番は逆でも良いが、同時に加えてはならない。また、Ri1‐X及びRi2‐Mのいずれか一方を加えた後、時間を空けて、もう一方を加えるのが好ましい。
このように反応終了時における後処理の結果、フルオレンポリマー5が合成される。
【0074】
下記式(11)は、重合前の第1及び/又は第2のフルオレン誘導体モノマーにプロトン伝導性基を導入する工程を示した式である。なお、当該合成方法は、例えば、Watanabe,M. et al. Macromolecules 2005,38,7121に記載された手法を用いることができる。
【0075】
【化16】

【0076】
上記式(11)において、Aはハロゲン原子又はホウ素含有基からなる群から選択される基である。
また、R〜Rは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rl1〜Rl3及びRm1〜Rm3は互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rl4〜Rl6及びRm4〜Rm6は互いに独立であり、Rl4〜Rl6及びRm4〜Rm6の内いくつかの基がプロトン伝導性基含有基である他は、Rl1〜Rl3及びRm1〜Rm3に対応している。
【0077】
上記式(11)において導入されるプロトン伝導性基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基があるが、プロトン伝導性の観点からスルホン酸基が好ましい。
また、プロトン伝導性基導入反応において、スルホン酸基を導入する場合は、クロロスルホン酸、発煙硫酸、濃硫酸を用いることができ、リン酸基を導入する場合は、臭素で臭素化後、グリニャール試薬を加え、その後リン酸エステルを加えてさらに加水分解する手法や、臭素で臭素化後、グリニャール試薬を加え、その後オキシ塩化リンを加えてさらに加水分解する手法を用いることができ、カルボキシル基を導入する場合は、フリーデル‐クラフツ反応で塩化アルミニウムを触媒としてアセチルクロリドを加えた後、次亜塩素酸を加える手法や、フリーデル‐クラフツ反応で塩化アルミニウムを触媒としてクロロ炭酸エチルを加えた後、加水分解する手法や、臭素で臭素化後、グリニャール試薬を加え、その後二酸化炭素を導入する手法を用いることができる。
【0078】
なおこの時、Rが芳香族炭化水素基であり、且つ、Rの有するベンゼン環がフルオレン構造に直接連結している前記モノマー6を用いた場合に、プロトン伝導性基導入反応によって下記式(12)に示すようなフルオレン誘導体モノマー8を得ることもできる。
【0079】
【化17】

(式(12)中、A、R、Rl4〜Rl6及びRm4〜Rm6は、式(11)のA、R、Rl4〜Rl6及びRm4〜Rm6にそれぞれ対応している。また、Rk1〜Rk5は互いに独立であり、少なくとも1つはプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。)
【0080】
下記式(13)は、重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程を示した式である。なお、当該合成方法は、例えば上述したようなWatanabe,M. et al. Macromolecules 2005,38,7121に記載された手法を用いることができる。
【0081】
【化18】

【0082】
上記式(13)において、R〜Rは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rp1〜Rp3及びRq1〜Rq3は互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rp4〜Rp6及びRq4〜Rq6は互いに独立であり、プロトン伝導性基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。さらに、Rは上記式(10)中のRに対応している。
ポリマー9は、同一の繰り返し単位が重合してできていてもよいし、異なる繰り返し単位が重合していてもよい。また、ポリマー10は、プロトン伝導性基導入反応において置換されたプロトン伝導性基の他は、全ての基がポリマー9に対応するものとする。
プロトン導入反応は、上述したものを用いることができる。
【0083】
なおこの時、Rが芳香族炭化水素基であり、且つ、Rの有するベンゼン環がフルオレン構造に直接連結している繰り返し単位を有する前記ポリマー9を用いた場合に、プロトン伝導性基導入反応によって下記式(14)に示すような繰り返し単位を有するポリマーを得ることもできる。
【0084】
【化19】

(式(14)中、R、Rp4〜Rp6及びRq4〜Rq6は、式(13)のR、Rp4〜Rp6及びRq4〜Rq6にそれぞれ対応している。また、Ro1〜Ro5は互いに独立であり、少なくとも1つはプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。)
【0085】
なお、前記第1のフルオレン誘導体モノマー及び前記第2のフルオレン誘導体モノマーの9位の置換基は、下記式(15)に示すように自由に導入することができる。
【0086】
【化20】

【0087】
上記式(15)において、Rr1〜Rr3及びRs1〜Rs3は互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。また、Xはハロゲン原子であり、Rは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。
【0088】
フルオレンの9位に置換基を有しないフルオレンモノマー11を適切な溶媒に溶かした後、当該モノマー11の当量に比して2.05当量の水素化ナトリウムを加えてフルオレンジアニオン12を合成する。この時、気体である水素の発生が完全に収まるまで待つ必要がある。さらに、当該モノマー11の当量に比して2.10当量のハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリールR‐Xを加えることで前記ジアニオン12の9位のジアニオン部位がハロゲンに求核置換反応を起こし、9位に望む置換基を有するフルオレン13を得ることができる。
【0089】
また、フルオレンの9位には、下記式(16)に示すように、2つの異なる置換基を導入することができる。
【0090】
【化21】

【0091】
前記フルオレン11を適切な溶媒に溶かした後、当該モノマー11の当量に比して1.00当量の水素化ナトリウムを加えてフルオレンモノアニオン14を合成する。この時、前記同様気体である水素の発生が完全に収まるまで待つ必要があり、さらに、水素化ナトリウムの当量を厳守する必要がある。続いて、当該モノマー11の当量に比して1.05当量のハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリールRt1‐Xを加えることでフルオレンモノアニオン9の9位のモノアニオン部位がハロゲンに求核置換反応を起こし、9位に望むアルキル基Rt1を有するフルオレン15が得られる。この反応をもう1度、異なるハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリールRt2‐Xを用いて繰り返すことで、フルオレンモノアニオン16を経て、9位に2つの異なる置換基Rt1及びRt2を有するフルオレン17を合成することができる。
【0092】
以下、本発明の固体高分子電解質材料の製造方法の典型例について説明する。式(17)は、本発明の固体高分子電解質材料の製造方法の典型例を示す式であり、ハロゲン原子を有する第1のフルオレン誘導体モノマーと、ホウ素含有基を有する第2のフルオレン誘導体モノマーとを重合してフルオレンポリマーを合成する工程を示した式である。
【0093】
【化22】

【0094】
上記式(17)に示される典型例におけるフルオレンポリマーを合成する工程は、第1のフルオレン誘導体モノマーとして臭素原子を有するフルオレンモノマー18を、第2のフルオレン誘導体モノマーとしてホウ酸無水物基を有するフルオレンモノマー19を用い、遷移金属触媒にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を用い、塩基性塩として炭酸ナトリウム水溶液を用い、添加剤として界面活性剤であるAliquat336(商品名。ヘンケル社(独)製)を用いた反応である。また、反応終了時にはブロモベンゼンを加え、10時間後にフェニルホウ酸を加えさらに10時間攪拌することにより、両末端がフェニル基でキャップされたポリマー20が得られる。
上記式(10)中のR、R、R、Rはそれぞれ上記式(17)中のR、R、R、Rに対応し、式(10)中のRc1〜Rc3及びRd1〜Rd3、Rg1〜Rg3及びRh1〜Rh3が、上記式(17)中で記述が省略された水素原子に対応している。
なお、前記ポリマー20の重合度nは、1〜5であるのが好ましい。
【0095】
式(18)は、本発明の固体高分子電解質材料の製造方法の典型例を示す式であり、重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程を示した式である。
【0096】
【化23】

【0097】
上記式(18)に示される重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程は、プロトン伝導性基導入剤としてクロロスルホン酸を用いた反応である。
上記式(13)中のR、Rはそれぞれ上記式(18)中のR、Rに対応し、式(13)中のRp4〜Rp6及びRq4〜Rq6のうち1つがスルホン酸基であり、式(13)中の残りのRp4〜Rp6及びRq4〜Rq6、並びにRp1〜Rp3及びRq1〜Rq3が、上記式(18)中で記述が省略された水素原子に対応している。なお、ポリマー21及びポリマー22は、R、Rに関して異なる繰り返し単位が重合していてもよい。
なお、前記ポリマー22の重合度x、y、zは、x=1〜5、y=1〜5、z=1〜5であるのが好ましい。
【0098】
このような構成の固体高分子電解質材料の製造方法は、本発明に係る固体高分子電解質材料を製造することができる。また、重合前/重合後に限らずプロトン伝導性基を導入することができることから、フルオレン構造に合わせて最適な固体高分子電解質材料の製造工程の順序を選ぶことができる。
【0099】
本発明の固体高分子電解質材料は、燃料電池を構成する材料として用いることができ、ラジカル耐性が高いことから、特に、電極の触媒層に混合するプロトン伝導性物質として用いることが好ましい。合成された実施例からも分かるように、ポリマーの分子量分布が極めて狭い範囲であることから、ポリマー鎖の長さのばらつきが少ないポリマーを合成することができ、したがって、触媒分散性に富んだ触媒層を形成することができる。また、多孔性ポリマー基材に含浸させることにより、触媒層を形成してもよい。
また、本発明の固体高分子電解質材料は、バインダーと混合して製膜し、電解質膜として用いることもできる。
さらに、他の電解質樹脂と混合して、電極中又は電解質膜中に用いることもできる。
【実施例】
【0100】
下記式(19)は、フルオレンジボロン酸エステルモノマー25の合成例を示した式である。
【0101】
【化24】

【0102】
出発物質としては、入手し易い2,7‐ジブロモ‐9,9‐ジメチルフルオレン23(CAS番号27320‐58‐3)を用いる。1.00gの前記フルオレン23(2.86mmol)を、n‐ブチルリチウム0.404g(6.30mmol)と共にTHF50mLに溶かした後、トリメチルボレート0.714g(6.86mmol)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間攪拌した後、反応液を濃縮・乾燥し、得られた粗生成物を再結晶したところ、白色の固体であるフルオレン化合物24が得られた。
【0103】
続いて、1.00gの前記フルオレン化合物24(4.07mmol)を、エチレングリコール0.573g(8.95mmol)、1規定硫酸0.422gと共にTHF50mLに溶解させ、窒素雰囲気下室温で5時間攪拌した後、反応液を濃縮・乾燥し、得られた粗生成物を再結晶したところ、白色の液体であるフルオレン化合物25が0.718g得られた。
【0104】
この単離精製を行った後の前記モノマー25は、高速液体クロマトグラフィ(以下、HPLCと略す)測定(カラム径5mmのMightsylRP‐18(関東化学(株)製)を用いて、アセトニトリル/水=70/30(v/v)、1.0mL/分、40℃、254nmの条件で測定)を行ったところ、図1のHPLC測定チャートに示すように、保持時間2.63分に現れた前記モノマー25のピーク面積比純度は98.2%であった。
また、図2に示すように、前記モノマー25のプロトン核磁気共鳴スペクトル(以下、HNMRと略す)測定(CDCl中)を行ったところ、1.51ppmにフルオレン構造の9位に付加した2つのメチル基上の6つの水素を示すシグナルが、4.42ppmにボロン酸エステルを形成するエチレングリコール上の8つの水素を示すシグナルが、7.81ppm及び7.92ppmにフルオレンの芳香環上の6つの水素を示すシグナルが、それぞれ観測された。
【0105】
下記式(20)は、フルオレンポリマー26の合成例を示した式である。
【0106】
【化25】

【0107】
0.500gの前記フルオレン23(1.42mmol、1.0当量)と、0.474gの前記モノマー25(1.42mmol、1.0当量)とを、テトラキス(トリストリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.0212g(1.3mol%)、2M炭酸カリウム水溶液14.2mL、Aliquat336(商品名。ヘンケル社(独)製)0.123gと共にトルエン15mLに溶解させ、アルゴン雰囲気下105℃で40時間攪拌した後、ブロモベンゼン0.527g(3.12mmol、2.2当量)を加えさらに10時間攪拌し、その後フェニルボロン酸0.490g(3.12mol、2.2当量)を加えまたさらに10時間攪拌して、ポリマー末端のブロモ基及びボロン酸基をフェニル基で置換し、反応を停止させた。反応停止後の原溶液は室温まで冷却した後、有機層を分離して水で洗浄し、メタノールを加えて再沈殿させた。得られた固体をろ過し、乾燥後、アセトンを溶媒としてソックスレー抽出を2日間行った。精製物を60度の通風乾燥器で3時間乾燥させたところ、淡黄色の固体であるフルオレンポリマー26が0.378g得られた。
【0108】
上記精製を行った後の前記ポリマー26に関して、ゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCと略す)測定(カラム径8mmのKF805L(SHODEX(株)製)を用いて、THF、1.0mL/分、40℃、254nmの条件で測定)を行ったところ、図3のGPC測定チャートに示すように、保持時間18分前後に前記フルオレンポリマー26の顕著なピークが観察された。重量平均分子量Mと数平均分子量Mの比から算出された分子量分布指数M/Mは、1.035とほぼ単分散であった。なお、数平均分子量Mは1220、重量平均分子量Mは1263であった。
また、図4に示すように、前記ポリマー26のHNMR測定(THF‐d中)を行ったところ、1.30ppm及び1.41ppmにそれぞれ現れた2つのピークの積分の合計と、7.71ppm及び7.90ppmにそれぞれ現れた2つのピークの積分の合計との比が、1:1となったことから、これらのピークはそれぞれ、フルオレン構造の9位に付加した2つのメチル基上の6つの水素と、フルオレンの芳香環上の6つの水素であると帰属できた。
【0109】
下記式(21)は、スルホン酸ポリマー27の合成方法を示した例である。
【0110】
【化26】

【0111】
5.00gの前記フルオレンポリマー26をクロロホルム270mLに窒素雰囲気下溶解させ、その溶液に1Mクロロスルホン酸クロロホルム溶液26mLを15分以内で滴下した。滴下終了後、室温で12時間攪拌し続けた。この溶液をヘキサンで再沈殿した後、水で洗浄し、濾過後、精製物を60度の通風乾燥器で3時間乾燥させたところ、黄色の固体であるスルホン酸ポリマー27が4.3g得られた。
【0112】
前記ポリマー27のイオン交換容量の測定方法として、まず精秤した前記ポリマー27を精確な濃度が分かっている食塩水に浸漬し攪拌した。30分後攪拌を停止し上澄みを所定量ホールピペットで取り出し、精確な濃度が分かっている水酸化ナトリウム溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定を行ったところ、前記ポリマー27のイオン交換容量が0.738meq/gであることが分かった。
上記イオン交換容量より、分子量1355につき1個スルホン酸基が導入されていることになる。一方、スルホン化前の前記ポリマー26の数平均分子量Mは1220、重量平均分子量Mは1263、スルホン酸基‐SOHの分子量は81.1であることから、ポリマー1分子につきスルホン酸基1個が導入されていると考えて差し支えない。したがって、重合度x=([ポリマーの数平均分子量]−[ポリマーの両末端のフェニル基の分子量]−[スルホン酸基が1個導入された本ポリマーの繰り返し単位の分子量])/[本ポリマーの繰り返し単位の分子量]=(1220−77×2−270)/190=4.90となり、前記ポリマー27において、x=4.90、y=1.00、z=1.00であることが分かった。
【0113】
また、前記ポリマー27の構造式には示されていないが、1つのフルオレン構造に、2つ以上のスルホン化が起きるということもあり得る。しかし、2つ以上のスルホン化が1つのフルオレン構造に実際起きているか否かを厳密に判断するのは難しく、且つ、用いたクロロスルホン酸クロロホルム溶液の濃度から判断して、1つのフルオレン構造に1つ以下のスルホン化が起きる確率の方がより高いことから、便宜上前記ポリマー27の構造式は上記のように記した。
【0114】
本発明の固体高分子電解質材料である前記ポリマー27に関するラジカル耐性を調べるため、フェントン法による耐久試験を行った。3%の過酸化水素を含むフェントン液(Fe2+濃度:4ppm)を60℃に加熱して、前記スルホン酸ポリマー27の固体1.0gを浸した。前記条件は、従来の炭化水素系高分子電解質であれば溶解する条件である。しかし、2時間後の前記固体の重量は1.0gであり、ラジカルによる重量損失はほとんど見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の固体高分子電解質材料の合成中間体である、フルオレンモノマー25のHPLC測定チャートである。
【図2】本発明の固体高分子電解質材料の合成中間体である、フルオレンモノマー25のHNMRチャートである。
【図3】本発明の固体高分子電解質材料の合成中間体である、フルオレンポリマー26のGPC測定チャートである。
【図4】本発明の固体高分子電解質材料の合成中間体である、フルオレンポリマー26のHNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表される繰り返し単位(I)、並びに、式(2)
【化2】

で表される繰り返し単位(IIa)、及び式(3)
【化3】

で表される繰り返し単位(IIb)、及び式(4)
【化4】

で表される繰り返し単位(IIc)からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロトン伝導性基含有繰り返し単位(II)が直接連結してなることを特徴とする、固体高分子電解質材料。
(上記式(1)〜式(4)中の符号R〜R15cの意味は次の通りである:式(1)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R3a〜R3c及びR4a〜R4cは互いに独立であり、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(2)において、R及びRは互いに独立であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R7a〜R7c及びR8a〜R8cは互いに独立であり、これらR7a〜R7c及びR8a〜R8cのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(3)において、Rは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R10a〜R10eは互いに独立であり、これらR10a〜R10eのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R11a〜R11c及びR12a〜R12cは互いに独立であり、これらR11a〜R11c及びR12a〜R12cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である;式(4)において、R13a〜R13hは互いに独立であり、これらR13a〜R13hのうち少なくとも1つは下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基であるが、他は水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基であり、R14a〜R14c及びR15a〜R15cは互いに独立であり、これらR14a〜R14c及びR15a〜R15cは、下記式(5)で表されるプロトン伝導性基含有基、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基及び炭素数6〜15の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基である。)
【化5】

(上記式(5)中、Zは単結合、又は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基若しくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基であり、Xはプロトン伝導性基である。)
【請求項2】
前記式(5)中の‐Xが‐SOHである、請求項1に記載の固体高分子電解質材料。
【請求項3】
前記繰り返し単位(II)の含有量の、前記繰り返し単位(I)と当該繰り返し単位(II)との含有量の合計に対する含有割合が、モル百分率で表した時に、10〜50モル%である、請求項1又は2に記載の固体高分子電解質材料。
【請求項4】
前記式(1)乃至(4)で表される繰り返し単位が、当該繰り返し単位に含まれるフルオレン構造の、2位及び7位において隣り合う繰り返し単位との間に炭素‐炭素結合を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体高分子電解質材料。
【請求項5】
重量平均分子量が1000以上である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の固体高分子電解質材料。
【請求項6】
フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれハロゲン原子1つに置換されている第1のフルオレン誘導体モノマーと、フルオレン構造上の1位乃至4位の水素原子の内いずれか1つ、及び当該フルオレン構造上の5位乃至8位の水素原子の内いずれか1つが、それぞれホウ素含有基1つに置換されている第2のフルオレン誘導体モノマーとを重合してフルオレンポリマーを合成する工程と、
重合前の第1及び/又は第2のフルオレン誘導体モノマー、又は重合後のフルオレンポリマーにプロトン伝導性基を導入する工程と、を有することを特徴とする、固体高分子電解質材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−161610(P2009−161610A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340374(P2007−340374)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】