説明

固体高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】多孔質膜の細孔にプロトン伝導性高分子物質を充填したメタノール透過性の低い、DMFC用として有効な固体高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】イオン穿孔で形成された細孔径が0.3μm以下であり、弾性率が1000MPa以上のポリイミドなどの廉価な多孔質膜に、少なくともプロトン酸基を有するモノマー由来の単位と分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマー由来の単位とのモル比が95:5〜50:50であるプロトン伝導性を有する高分子物質を充填した電解質膜であり、複雑なプロセスを必要とせず、メタノール透過性の小さい固体高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特にダイレクトメタノール型燃料電池に用いられる固体高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話では、電池の高容量化が望まれているが、二次電池の高容量化は困難である。そのためメタノール燃料を用いたダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が注目されている。
【0003】
DMFCは液体燃料を水素等に改質することなくそのまま利用できるため、コンパクト化が可能等の長所があり、現在実用化に向けて鋭意研究されている。しかし、プロトン伝導性高分子電解質膜のメタノール透過性が大きいこと、及びアノード触媒のメタノール酸化活性が小さいことが実用化に向けて課題となっている。
【0004】
従来、プロトン伝導性高分子電解質膜としては、フッ素樹脂系のパーフルオロスルホン酸膜Nafion(DuPont社製、登録商標)等が一般に用いられてきた。しかし、メタノールを燃料に用い、直接供給するDMFCにおいては、ナフィオンのメタノール透過性が大きいため、メタノールのクロスオーバーにより出力が低下する問題がある。電解質膜のメタノール透過度を小さくするため、ナフィオン膜の改質(例えば、L.J.Hobson et al., Journal of Material Chemistry 12(6), 1650, 2002(非特許文献1))、炭化水素系材料(例えば、B.Yang and A.Manthiram, Electrochemical and Solid−State Letters, 6(11), A229, 2003(非特許文献2))、フッ素系樹脂フィルムにスチレンを放射線グラフトした膜(例えば、T.Hatanaka et al., Fuel 81(17), 2173, 2002(非特許文献3))等、パーフルオロスルホン酸系以外の電解質が検討されているが、メタノール透過性を十分抑制できているとはいい難い。
【0005】
メタノール透過抑制のため、上記の膜の他に、プロトン伝導性高分子物質を多孔質膜に充填した細孔フィリング型電解質膜が提案されている。一般に、電解質膜はプロトンを伝導させると同時に水やメタノールを吸収するため、膨潤しその体積を増加させる。プロトン伝導性の電解質を、プロトン伝導の機能を持たない多孔質基材によって、電解質の膨潤を抑制し、メタノール透過を低減できる可能性があり、注目されている。例えば、「山内他、第45回電池討論会講演要旨集、562、2004(非特許文献4)」では、多孔質膜に耐熱性ポリエチレン、電解質にポリアクリルアミド−t−ブチルスルホン酸を用いて作製した膜の特性が記載されている。Nafion(登録商標)に比べメタノール透過性は小さくなっており、細孔フィリングの効果は見られるものの、Nafion(登録商標)の1/5程度にとどまっており、メタノール透過性が十分低減されているとはいい難い。また、多孔質基材が弾性率の小さいポリエチレンであることから、電解質の膨潤に伴い基材を抑制する効果も小さいものとなっている。その他の多孔質基材として、例えば網目状に細孔を持つ多孔質ポリイミド膜(宇部興産社製、平均細孔径0.35μm)を用いた例が、例えば「特開2005−071609号公報(特許文献1)」や「周他、第45回電池討論会講演要旨集、564、2004(非特許文献5)」に示されている。充填する電解質としてポリアクリルアミド−t−ブチルスルホン酸や炭化水素系のスルホン化ポリエーテルスルホンを用いるなど、電解質種を変えることによってメタノール透過の抑制が検討されている。ポリアクリルアミド−t−ブチルスルホン酸に比べ炭化水素系電解質は膨潤は小さく、メタノール透過性は小さくなるが、予めスルホン化したモノマーの合成が必要になるなどプロセスが長くなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−071609号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.J.Hobson et al., Journal of Material Chemistry 12(6), 1650, 2002
【非特許文献2】B.Yang and A.Manthiram, Electrochemical and Solid−State Letters, 6(11), A229, 2003
【非特許文献3】T.Hatanaka et al., Fuel 81(17), 2173, 2002
【非特許文献4】山内他、第45回電池討論会講演要旨集、562、2004
【非特許文献5】周他、第45回電池討論会講演要旨集、564、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、細孔径の制御された多孔質膜に電解質膜が充填された膜で、メタノール透過性の低い、DMFC用として有効な固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ポリアクリルアミド−t−ブチルスルホン酸を充填した多孔質膜でも、その細孔径を制御することによってメタノール透過性を十分小さくでき、平均細孔径を0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下としたとき著しくメタノール透過性が小さくなることを見出した。更に電解質として分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーを加えてやることによって、電解質の細孔内充填率を高くすることができ、よりメタノール透過性を小さくすることができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は、下記の固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供する。
[1]多孔質膜の細孔の中に、プロトン伝導性を有する高分子物質を充填した電解質膜であり、該多孔質膜の細孔はイオン穿孔により形成された細孔であり、その平均細孔径が0.3μm以下であることを特徴とする固体高分子電解質膜。
[2]多孔質膜中に充填したプロトン伝導性を有する高分子物質が、少なくともプロトン酸基を有するモノマー由来の単位と分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマー由来の単位とを含むことを特徴とする[1]記載の固体高分子電解質膜。
[3]プロトン酸基を有するモノマー由来の単位と分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマー由来の単位とのモル比が95:5〜50:50であることを特徴とする[2]記載の固体高分子電解質膜。
[4]イオン穿孔により形成された細孔の平均細孔径が0.1μm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[5]イオン穿孔により形成した細孔の数が1×106〜1×1010個/cm2であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[6]多孔質膜の弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[7]多孔質膜がポリイミドであることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[8]多孔質膜中に充填した高分子物質中に架橋剤を含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[9]少なくともプロトン酸基を有するモノマーと分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーとを含む水溶液に多孔質膜を含浸し、該多孔質膜の細孔内にモノマー水溶液を充填した後、ゲル化させることによって、細孔中にプロトン伝導性高分子物質を充填する方法であって、高分子物質を形成するモノマーの水溶液中の濃度が60質量%以上であることを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
[10]プロトン酸基を有するモノマーと分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーとのモル比が95:5〜50:50であることを特徴とする[9]記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[11]モノマー水溶液中に架橋剤を含むことを特徴とする[9]又は[10]記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[12]濃度が60質量%以上のモノマー水溶液に多孔質膜を含浸し、該多孔質膜の細孔内にモノマー水溶液を充填後、ゲル化させる工程を複数回行うことを特徴とする[9]〜[11]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[13]多孔質膜が平均細孔径0.3μm以下のイオン穿孔膜であることを特徴とする[9]〜[12]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[14]多孔質膜が平均細孔径0.1μm以下のイオン穿孔膜であることを特徴とする[9]〜[12]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[15]多孔質膜のイオン穿孔により形成した細孔の数が1×106〜1×1010個/cm2であることを特徴とする[13]又は[14]記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[16]多孔質膜の弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする[9]〜[15]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[17]多孔質膜がポリイミドであることを特徴とする[9]〜[16]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、廉価なモノマーを用い、複雑なプロセスを必要とせず、メタノール透過性の小さい固体高分子電解質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】多孔質膜の平均細孔径とメタノール透過係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の固体高分子電解質膜は、多孔質の膜に電解質を充填することによって得ることができる。電解質の膨潤を抑制しメタノール透過性を小さくするには、できるだけ小さい細孔径の穴を持つ多孔質膜に、できるだけ多くの電解質を充填することが好ましい。
【0014】
上記要請を満たす多孔質膜として、細孔をイオントラッキング法により設けたイオン穿孔膜を挙げることができる。イオントラッキング法とは、細孔を設けるフィルムに加速イオンビームを照射する方法であり、これを化学処理することにより照射面に対し垂直な穴を持つイオン穿孔膜が得られる。イオンビーム照射の条件や化学処理の条件によって、細孔径や細孔の数を容易に制御することができるため、電解質膜のメタノール透過性低減に対し適した多孔質膜を得ることができる。
【0015】
電解質を充填する平均細孔径は0.01〜30μmの範囲で制御することが可能であるが、電解質充填後のメタノール透過を抑制する目的より0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.04μm以下が望ましい。平均細孔径が0.3μmより大きくなると、細孔内での電解質膨潤抑制の効果が十分でないため、メタノール透過抑制の効果は小さくなる。下限は0.01μmであり、それより小さくなると平均細孔径の制御が困難であり、かつ電解質を充填することが困難となる。なお、この平均細孔径の測定方法は走査電子顕微鏡観察によるものである。
【0016】
多孔質膜に設ける細孔の数は、1×106〜1×1010個/cm2、好ましくは1×107〜5×109個/cm2、より好ましくは2×107〜1×109個/cm2が望ましい。1×106個/cm2より少ないと膜全体に占める電解質の割合が小さくなり、単位面積当たりのイオン伝導度が小さくなる。また、1×1010個/cm2より多いと膜の強度が低下し、破れやすくなるおそれがある。なお、細孔数の測定方法は走査電子顕微鏡観察によるものである。
【0017】
多孔質膜の材料としては、その弾性率が1000MPa以上、好ましくは2000MPa以上、より好ましくは3000MPa以上であることが好ましい。弾性率が1000MPaより小さいと、電解質を充填した状態で水やメタノール、メタノール水によって膨潤した時、多孔質膜のサイズが大きくなり、メタノール透過抑制の効果が小さくなるおそれがある。なお、弾性率の測定方法は引張り試験によるものである。
【0018】
具体的に上記要請を満たす多孔質膜の材料として、ポリプロピレンやポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。弾性率としてはできるだけ大きいことが好ましいが、電解質充填後のイオン伝導度が高いことがDMFCへの適用を考慮した場合、好ましい。そのためには、例えば10〜50μm程度の薄い厚さのフィルムが望ましく、上記厚さのフィルムの入手しやすさを考慮すると、多孔質膜の材料としてはポリイミドが最も好ましい。
【0019】
電解質膜は、上述した多孔質膜の細孔に、イオン伝導性(プロトン伝導性)を有する電解質を充填することで得られるが、少なくともプロトン酸基を有する高分子物質を含む溶液を多孔質膜の細孔に充填、又は少なくともプロトン酸基を有するモノマーを含む溶液を多孔質膜の細孔に充填後、重合させ、溶媒を除去することにより得ることができる。高分子物質の状態では、細孔内により多くの電解質を充填しようとすると溶液中の高分子物質の濃度を高くする必要がある。その場合、溶液の粘度が高くなり、細孔径が0.3μm以下になると入りにくくなる。そのため、本発明においては、モノマー溶液を細孔内に充填した後に重合するほうが好ましい。ここで述べているプロトン酸基とは、プロトンを解離し得る官能基を表し、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸等が含まれる。酸解離能よりプロトン酸としてはスルホン酸が好ましく、スルホン酸を含むモノマーとして、スチレンスルホン酸及びその塩、アリルスルホン酸及びその塩、メタリルスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩を用いることができる。これらのモノマーは、単独で使用してもよく、適宜組み合わせて使用することもできる。但し、これらのモノマーは溶媒に溶解して使用するため、溶液中のモノマー濃度はできるだけ高いほうが、多孔質膜の細孔中にできるだけ多く充填するため、好ましい。溶解度の高いスルホン酸モノマー溶液を得るには、モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、溶媒としてH2Oを用いることが最も好ましく、25℃で約60質量%の飽和水溶液を得ることができる。
【0020】
細孔内に占める高分子物質の割合を高くするため、上記モノマーの水溶液にプロトン酸を持たないモノマーを加えることも可能である。プロトン酸基を持たないモノマーとして、特にモノマー分子内に窒素原子を含む化合物を加えると、飽和した2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のプロトン酸基を有するモノマーが析出することなく、全モノマーの濃度を上げることが可能である。プロトン酸基を持たず窒素原子を含むモノマーとしては、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、4−アクリロイルモルホリン、4−メタクリロイルモルホリン、ビニルピリジン、アクリロニトリル等を挙げることができる。但し、これらはイオン伝導性に寄与しないため、加えすぎると多孔質膜充填後のイオン伝導度が低下するおそれがあり、プロトン酸基を有するモノマーと分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーとのモル比は95:5〜50:50の割合で加えることが望ましい。その結果、水溶液中のモノマー濃度を70質量%まで上げることができ、イオン伝度性を損なわずに細孔中の高分子物質の割合を高くすることができる。これらのモノマーは、単独で使用してもよく、適宜組み合わせて使用することもできる。
【0021】
上記モノマーに加えて、耐久性向上のため、2個以上の官能基を持つ多官能モノマーを架橋剤として加えてもよい。多官能モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホキシド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド等の、ビニル基、アクリル基、メタクリル基を2個以上持つモノマーを挙げることができる。この架橋剤の使用量は全モノマーに対して0.3〜3質量%が好ましい。
【0022】
多孔質膜への電解質の充填は、上に述べたモノマー溶液への多孔質膜の含浸、硬化、乾燥によって行われる。
【0023】
多孔質膜の含浸は、溶液中に浸すだけでもよいが、細孔径が小さくなるに従い、モノマー溶液は細孔内に入りにくくなるため、減圧処理を行うことが好ましい。圧力は使用する溶媒や減圧処理を行う温度に依存するが、多孔質膜を含浸したモノマー水溶液を25℃で減圧処理する場合には5〜10kPaの減圧で処理を行うことが好ましい。10kPaより高い圧力では効果が十分でなく、5kPaより小さい圧力では水が沸騰してしまうおそれがある。
【0024】
細孔内に導入したモノマーの重合は、熱硬化や紫外線あるいは電子線等の放射線照射によって行うことができる。熱硬化の場合は、多孔質膜を溶液に浸漬した状態で加熱してもよいし、又は溶液から多孔質膜を取り出して加熱してもよい。加熱処理の温度は使用するモノマーや溶媒に依存するが、40〜150℃、好ましくは50〜100℃で実施することが好ましい。40℃より低い温度では硬化が十分進行せず、150℃より高い温度では溶媒が沸騰する可能性がある。また加熱処理する時間は1〜24時間、好ましくは3〜16時間とすることが望ましい。1時間未満では硬化が十分進行せず、24時間を超えると硬化はほぼ終了している。必要があれば、溶液中に過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等のラジカル重合開始剤を加えてもよい。紫外線や電子線硬化の場合には、溶液から多孔質膜を取り出した後、紫外線又は電子線を照射すればよい。紫外線硬化の場合は、溶液中に公知である光重合開始剤を加えて充填すればよい。
【0025】
モノマーを重合し、細孔内に高分子電解質ゲルを含んだ多孔質膜を乾燥し、溶媒を除去することによって、固体高分子電解質膜として得ることができる。多孔質膜の表面にゲルが付着している場合には、洗浄又は機械的に除去すればよい。
【0026】
多孔質膜中への高分子電解質の充填は上述の通りなされるが、細孔内の電解質の割合を更に高めるために、これまで述べた操作を複数回(2〜10回、特に2〜5回)繰り返すことで、更に電解質を充填してもよい。
【0027】
このようにして得られた固体高分子電解質膜は、DMFC用の電解質膜として好適に用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
[実施例1]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.1μm、細孔密度1.0×109個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(和光純薬社製)30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド(和光純薬社製)12.86gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度68質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、5kPaで1分保持し、脱泡処理を行った。多孔質膜を溶液に浸漬させたまま、窒素雰囲気下60℃で12時間保持し、ゲル化を行った。膜に付着したゲルを除去後、100℃で減圧乾燥を行い、質量を測定して充填前後での質量増加を確認した。この充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
【0030】
細孔中の充填率は、電解質の密度1.3g/cm2を仮定し、充填前後の質量増加より電解質の体積を算出、また細孔径と細孔数密度から膜中の空孔体積を算出し、
充填率(%)=(電解質体積/空孔体積)×100
より充填率を算出した。その結果、充填率は100%であった。
【0031】
膜のメタノール透過性は、32質量%メタノール水60mLと純水60mLを作製した電解質膜で隔離し、室温で、一定時間毎に、メタノール水側から膜を透過して純水側に出てきたメタノールの濃度をガスクロマトグラフで定量し、時間に対するメタノール濃度増加の傾きからメタノール透過係数を算出した。
【0032】
[実施例2]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.1μm、細孔密度1.0×109個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド3.34gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度62質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は100%であった。
【0033】
[実施例3]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.1μm、細孔密度1.0×109個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、4−アクリロイルモルホリン(和光純薬社製)4.16gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度63質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は100%であった。
【0034】
[実施例4]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.1μm、細孔密度1.0×109個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度60質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は71.1%であった。
【0035】
[実施例5]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.04μm、細孔密度1.0×109個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド12.86gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度68質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は100%であった。
【0036】
[実施例6]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径0.3μm、細孔密度1.5×108個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド12.86gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度68質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は88.9%であった。
【0037】
[比較例1]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ27μm、平均細孔径1.0μm、細孔密度2.2×107個/cm2のポリイミド製イオン穿孔膜(it4ip社製)を用いた。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド12.86gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度68質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は70.3%であった。
【0038】
[比較例2]
多孔質膜として、サイズ5cm×5cm、厚さ23μm、網目状の細孔構造を有する多孔質ポリイミド膜UPILEX−PT(宇部興産社製)を用いた。この膜の平均細孔径を水銀圧入法(ユアサアイオニクス社製PoreMaster−33P型)で求めたところ0.35μmであった。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸30g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.23g、N−イソプロピルアクリルアミド12.86gを水20.2gに溶解し、全モノマー濃度68質量%の溶液を得た。これに多孔質膜を浸漬し、実施例1と同様の手順で充填操作を2回繰り返し、固体高分子電解質膜を作製した。
質量変化より算出した充填率は73.1%であった。
【0039】
[比較例3]
参考としてNafion(登録商標)112(DuPont製)についてもメタノール透過係数を実施例1記載の手順で評価した。
【0040】
実施例1〜6及び比較例1〜3の固体高分子電解質膜について、充填率及びメタノール透過係数の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜4は平均細孔径0.1μmの多孔質膜を用いた結果であり、N−イソプロピルアクリルアミド又は4−アクリロイルモルホリンを加えた実施例1〜3のほうが、それらを加えていない実施例4に比べ充填率が高く、かつメタノール透過性も小さくなっており、充填率を高めることによってメタノール透過を抑制できる効果を表している。しかしながらN−イソプロピルアクリルアミド又は4−アクリロイルモルホリンを加えていない実施例4においても、比較例3に示すNafion(登録商標)のメタノール透過係数の1/10まで抑制できている。メタノール透過性の細孔径による効果は充填物の組成を合わせた実施例1,5,6及び比較例1で表され、その関係を図1に示す。参考として、比較例3で表されるNafion(登録商標)のメタノール透過係数も示した。平均細孔径の減少に伴いメタノール透過係数は小さくなっており、平均細孔径を0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下とすることで、メタノール透過性をNafion(登録商標)の1/10以下にすることができる。また実施例6と比較例2では、多孔質膜の平均細孔径は同程度であるが、充填率やメタノール透過性が大きく異なっている。実施例6ではイオン穿孔膜を用いているのに対し、比較例2では市販の網目状に細孔が形成された膜を用いている。膜構造による違いに起因するかどうかは不明であるが、比較例2の膜は網目状に細孔を持つため、その平均細孔径には分布があり、細孔サイズの大きい領域では電解質の膨潤が生じ、メタノール透過性を十分小さくできないものと思われる。即ち、細孔をイオン穿孔により形成した膜は、平均細孔径を十分制御でき、メタノール透過性を小さくできるものと思われる。
【0043】
以上より、多孔質膜の細孔をイオン穿孔により形成し、その平均細孔径を0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下とし、電解質膜を充填することによってメタノール透過性がNafion(登録商標)の1/10以下の電解質膜を得ることができる。特に細孔内の充填率を高くするため、スルホン酸基を持つモノマーの他に、分子内に窒素原子がありスルホン酸基を持たないモノマーを用いて充填することが有効であり、メタノール透過性をNafion(登録商標)の1/500まで低下できることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の細孔の中に、プロトン伝導性を有する高分子物質を充填した電解質膜であり、該多孔質膜の細孔はイオン穿孔により形成された細孔であり、その平均細孔径が0.3μm以下であることを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項2】
多孔質膜中に充填したプロトン伝導性を有する高分子物質が、少なくともプロトン酸基を有するモノマー由来の単位と分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマー由来の単位とを含むことを特徴とする請求項1記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
プロトン酸基を有するモノマー由来の単位と分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマー由来の単位とのモル比が95:5〜50:50であることを特徴とする請求項2記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
イオン穿孔により形成された細孔の平均細孔径が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜。
【請求項5】
イオン穿孔により形成した細孔の数が1×106〜1×1010個/cm2であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜。
【請求項6】
多孔質膜の弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜。
【請求項7】
多孔質膜がポリイミドであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜。
【請求項8】
多孔質膜中に充填した高分子物質中に架橋剤を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜。
【請求項9】
少なくともプロトン酸基を有するモノマーと分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーとを含む水溶液に多孔質膜を含浸し、該多孔質膜の細孔内にモノマー水溶液を充填した後、ゲル化させることによって、細孔中にプロトン伝導性高分子物質を充填する方法であって、高分子物質を形成するモノマーの水溶液中の濃度が60質量%以上であることを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
プロトン酸基を有するモノマーと分子内に窒素原子を含みプロトン酸基を有しないモノマーとのモル比が95:5〜50:50であることを特徴とする請求項9記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
モノマー水溶液中に架橋剤を含むことを特徴とする請求項9又は10記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
濃度が60質量%以上のモノマー水溶液に多孔質膜を含浸し、該多孔質膜の細孔内にモノマー水溶液を充填後、ゲル化させる工程を複数回行うことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
多孔質膜が平均細孔径0.3μm以下のイオン穿孔膜であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
多孔質膜が平均細孔径0.1μm以下のイオン穿孔膜であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項15】
多孔質膜のイオン穿孔により形成した細孔の数が1×106〜1×1010個/cm2であることを特徴とする請求項13又は14記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項16】
多孔質膜の弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項17】
多孔質膜がポリイミドであることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか1項記載の固体高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−282863(P2010−282863A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135964(P2009−135964)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】