説明

固定化触媒膜の製造方法、固定化触媒膜および膜透過反応方法

【課題】本発明の課題は、均質な固定化酵素膜を製造することができる固定化触媒膜の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る固定化触媒膜100の製造方法は、準備工程および生成工程を備える。準備工程では、第1溶液が準備される。この第1溶液では、少なくとも触媒200、ポリカチオン化合物310、ポリアニオン化合物320およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤が溶媒に溶解されている。膜形成工程では、第1溶液が膜上に供給され、第1溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および溶媒が選択的に膜透過させられて、その膜上に、固定化触媒膜が形成される。固定化触媒膜では、ポリカチオン化合物およびポリイオン化合物からなるポリイオンコンプレックス中に触媒が固定化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化触媒膜、この固定化触媒膜の製造方法、この固定化触媒膜を用いた膜透過反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療および分析などの分野において、高価で貴重な酵素が触媒として用いられることがある。この酵素を繰り返し用いるために、共有結合法、イオン結合法、物理吸着法、架橋法、包括法などにより酵素を担体に固定化することが行われている。なお、この担体に固定化された酵素を固定化酵素という。
【0003】
例えば、特許文献1には、イオン結合法と包括法とを組み合わせた複合法で酵素を担体に固定化させる酵素固定化方法が開示されている。この酵素固定化方法では、ポリカチオン化合物が溶解した水溶液と、ポリアニオン化合物が溶解した水溶液とが混合されてポリイオンコンプレックスが沈殿し、このポリイオンコンプレックス中に酵素が固定化される。この酵素固定化方法は、酵素の固定化が水溶液系で行われるため、酵素活性の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−127957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の酵素固定化方法では、均質な固定化酵素膜を製造することは極めて難しい。
【0006】
本発明の課題は、均質な固定化酵素膜を製造することができる固定化触媒膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)
本発明に係る固定化触媒膜の製造方法は、第1準備工程および膜形成工程を備える。第1準備工程では、第1溶液が準備される。この第1溶液では、少なくとも触媒、ポリカチオン化合物、ポリアニオン化合物およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤が溶媒に溶解されている。膜形成工程では、第1溶液が膜に供給され、第1溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および溶媒が選択的に膜透過されて、膜上に固定化触媒膜が形成される。なお、この固定化触媒膜では、ポリカチオン化合物およびポリイオン化合物からなるポリイオンコンプレックス中に触媒が固定化されている。なお、膜透過方法としては、一次側(第1溶液供給側)を不活性ガス等のガスにより加圧するガス加圧方法が採用されるのが好ましい。また、溶媒は、緩衝液であってもかまわない。
【0008】
この固定化触媒膜の製造方法では、第1溶液が膜に供給され、第1溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および溶媒が選択的に膜透過されて、膜上に固定化触媒膜が形成される。このため、この固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、膜上に、均質な固定化酵素膜を製造することができる。
【0009】
(2)
上述(1)の固定化触媒膜の製造方法において、第1準備工程では、異種の触媒を含む複数の第1溶液が準備されるのが好ましい。そして、膜形成工程では、n番目の固定化触媒層の形成後に、第1溶液がn番目の固定化触媒層上に供給され、第1溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および溶媒が選択的に膜透過されて、n番目の固定化触媒層上に(n+1)番目の固定化触媒層が形成され、多層構造の固定化触媒膜が形成される。なお、ここで、nは1以上の整数である。また、ここで、n番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒により生成される生成物を、(n+1)番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒によって分解することができるように、または、他の化合物と反応させて新たな化合物を合成することができるように、nおよび(n+1)番目の固定化触媒層にそれぞれ異種の触媒を配置させるのが好ましい。なお、(n+1)番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒により生成される生成物を、n番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒によって分解することができるように、または、他の化合物と反応させて新たな化合物を合成することができるように、nおよび(n+1)番目の固定化触媒層にそれぞれ異種の触媒を配置させてもかまわない(このとき、固定化触媒膜は逆さまに配置される)。
【0010】
このため、この固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、多層構造を有する均質な固定化触媒膜を得ることができるようになると共に、例えば、n番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒により生成される生成物を、(n+1)番目の固定化触媒層に存在する固定化触媒によって分解させること、または、他の化合物と反応させて新たな化合物を合成することができる。
【0011】
(3)
本発明に係る固定化触媒膜では、ポリイオンコンプレックス中に触媒が遍在するように触媒がポリイオンコンプレックスに固定化される。なお、この固定化触媒膜が多層構造を有する場合、少なくとも2つの層のポリイオンコンプレックス中に触媒が遍在するように触媒が各ポリイオンコンプレックスに固定化される。
【0012】
このため、この固定化触媒膜中に基質を供給すると、基質の分解および化合物の合成の少なくとも一方が満遍なく促される。また、このような固定化触媒膜では、最終生成物を連続的に固定化触媒膜外に排出することができ、生成物と触媒とを容易に分離させることができる。したがって、このような固定化触媒膜では、最終生成物を連続的に効率よく製造することができる。
【0013】
(4)
上述(3)の固定化触媒膜は多層構造を有するのが好ましい。そして、この固定化触媒膜では、少なくとも2つの層のポリイオンコンプレックス中に異種の触媒がそれぞれ固定化される。なお、ここでは、溶媒流れ方向上流側の層に存在する固定化触媒により生成される生成物を、溶媒流れ方向下流側の層に存在する固定化触媒によって分解することができるように、または、他の化合物と反応させて新たな化合物を合成することができるように、異種の触媒を配置させるのが好ましい。
【0014】
このため、この固定化触媒膜では、異なる複数の分解反応または合成反応を連続的に実行することができる。したがって、この固定化触媒膜では、効率よく最終生成物を得ることができる。
【0015】
(5)
本発明に係る膜透過反応方法は、第2準備工程および第1膜透過反応工程を備える。第2準備工程では、第2溶液が準備される。この第2溶液には、少なくとも1種類の基質が含まれる。第1膜透過反応工程では、上述(3)の固定化触媒膜中に第2溶液が供給されて化合物(基質を含む)の分解および化合物の合成の少なくとも一方が行われながら、最終生成物が固定化触媒膜外に排出される。
【0016】
このため、この膜透過反応方法では、化合物(基質を含む)の分解および化合物の合成の少なくとも一方が満遍なく促される。また、この膜透過反応方法では、最終生成物を連続的に固定化触媒膜外に排出することができ、生成物と触媒とを容易に分離させることができる。したがって、この膜透過反応方法を利用すれば、最終生成物を連続的に効率よく得ることができる。
【0017】
(6)
本発明に係る膜透過反応方法は、第3準備工程および第2膜透過反応工程を備える。第3準備工程では、第3溶液が準備される。この第3溶液には、少なくとも1種類の基質が含まれる。第1膜透過反応工程では、上述(4)の固定化触媒膜中に第3溶液が供給されて各層において化合物(基質を含む)の分解または化合物の合成が行われながら、最終生成物が固定化触媒膜外に排出される。
【0018】
このため、この膜透過反応方法では、異なる複数の分解反応または合成反応を連続的に実行することができる。したがって、この膜透過反応方法を利用すれば、効率よく最終生成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、均質な固定化酵素膜を製造することができる。
また、本発明に係る固定化触媒膜の製造方法により得られる固定化酵素膜を利用すれば、化合物の分解および化合物の合成の少なくとも一方が満遍なく促されると共に、最終生成物を連続的に固定化触媒膜外に排出することができ、生成物と触媒とを容易に分離させることができる。したがって、このような固定化触媒膜では、最終生成物を連続的に効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る固定化触媒膜の断面図である。
【図2】混合溶液を限外ろ過している状態を示した断面図である。
【図3】混合溶液を限外ろ過し終わった状態を示した断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る固定化触媒膜の断面図である。
【図5】混合溶液を第1の層に押し付けている状態を示した断面図である。
【図6】混合溶液を第1の層に押し付け終わった状態を示した断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の変形例に係る固定化触媒膜の断面図である。
【図8】混合溶液を第2の層に押し付けている状態を示した断面図である。
【図9】混合溶液を第2の層に押し付け終わった状態を示した断面図である。
【図10】実施例1に係る固定化触媒膜中に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図11】実施例1に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図12】参考例1に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図13】実施例2に係る固定化触媒膜に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図14】実施例2に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図15】参考例2に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図16】実施例3に係る固定化触媒膜に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図17】実施例3に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図18】参考例3に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図19】実施例4に係る固定化触媒膜に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図20】実施例4に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図21】実施例5に係る固定化触媒膜に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図22】実施例5に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【図23】実施例6に係る固定化触媒膜に基質溶液を供給している状態を示した断面図である。
【図24】実施例6に係る基質から生成される生成物の転化率の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
−第1実施形態−
本発明の第1実施形態に係る固定化触媒膜100は、図1に示されるように、主に、触媒200およびポリイオンコンプレックス300から構成されている。この固定化触媒膜100では、ポリイオンコンプレックス300中に触媒200が遍在するよう触媒200がポリイオンコンプレックス300に固定化されている。なお、このポリイオンコンプレックス300は、ポリカチオン化合物310とポリアニオン化合物320とのイオン結合によって形成されている。
【0022】
触媒200としては、例えば、酵素、酵母などの生体触媒が用いられる。
酵素としては、例えば、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ等が挙げられる。より具体的には、アミラーゼ、セルラーゼ、マルターゼ、カテコールオキシダーゼ(チロシナーゼ)、トリプトファナーゼ、フマラーゼ、ウレアーゼ等が酵素として挙げられる。酵母としては、例えば、パン酵母、ワイン酵母、ビール酵母などが挙げられる。
【0023】
ポリカチオン化合物310としては、例えば、キトサン塩、四級化キトサン塩(アミノ基が第四級アンモニウムイオン化されたキトサンの塩)、ポリビニルピリジン塩、四級化ポリビニルピリジン塩(アミノ基が第四級アンモニウムイオン化されたポリビニルピリジンの塩)、ポリ−L−リシン塩、ポリアリルアミン塩、ポリビニルイミダゾール塩、ポリエチレンイミン塩、ポリビニルピロリドン塩などが用いられる。また、ポリアニオン化合物320としては、例えば、カルボキシメチルセルロース塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリフルオロスルホン酸塩、ポリアルギン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリエチレンスルホン酸塩などが用いられる。
【0024】
<固定化触媒膜の製造方法>
ポリカチオン化合物310およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第1の水溶液と、ポリアニオン化合物320およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第2の水溶液とを準備する。ポリイオンコンプレックス形成阻害剤としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が用いられる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等がポリイオンコンプレックス形成阻害剤として挙げられる。第1の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤は、第2の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と同じ種類の塩であることが好ましいが、異なる種類の塩であってもよい。
【0025】
なお、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤として塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムが用いられる場合、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤の濃度は、水溶液全体に対して9.5重量%以上であることが好ましい(なお、かかる場合、水溶液には、1重量%程度のポリカチオン化合物またはポリアニオン化合物が添加されている)。また、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤としてヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが用いられる場合、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤の濃度は、水溶液全体に対して20重量%以上であることが好ましい(なお、かかる場合、水溶液には、1重量%程度のポリカチオン化合物またはポリアニオン化合物が添加されている)。なお、上記ポリイオンコンプレックス形成阻害剤の濃度は、あくまでも目安に過ぎない。ポリイオンコンプレックス形成阻害剤の適切な濃度は、当業者であれば、簡単な実験を行うことにより容易に求めることができる。
【0026】
第1の水溶液と第2の水溶液とを混合した後、その水溶液に触媒200を添加して、混合溶液400を調製する。なお、このとき、混合溶液400では、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤により、ポリカチオン化合物310とポリアニオン化合物320とからポリイオンコンプレックスが形成されることがない。つまり、この混合溶液400には、ポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320が溶解している。なお、この混合溶液400において、ポリカチオン化合物310の添加量は、ポリアニオン化合物320の添加量と同じ量であってもよいし、異なる量であってもよい。なお、この添加量比はポリイオンコンプレックスの網目構造に大きく影響する。
【0027】
図2に示されるように、限外ろ過膜600がセットされた限外ろ過装置500に混合溶液400を投入する。なお、限外ろ過膜600は、混合溶液400中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および水を選択的に透過させる多孔質膜である。また、図2には、平板状の限外ろ過膜600が図示されているが、限外ろ過膜として、管状の限外ろ過膜や中空糸繊維状の限外ろ過膜などが採用されてもよい。なお、かかる場合、それぞれの形状の限外ろ過膜に適した限外ろ過装置が用意される必要がある。そして、限外ろ過装置500では、混合溶液400の上部空間に不活性ガスが供給されると、混合溶液400が限外ろ過膜600に向かって押し付けられ、混合溶液400が限外ろ過される。このとき、混合溶液400からろ液410が分離する。なお、このろ液410には、主にポリイオンコンプレックス形成阻害剤および水が含まれる。
【0028】
限外ろ過が終了すると、図3に示されるように、ろ過膜600上に固定化触媒膜100が形成される。固定化触媒膜100では、均質なポリイオンコンプレックス300に触媒200が包括されている。その後、限外ろ過装置500に緩衝液が投入される。そして、緩衝液の上部空間に不活性ガスが供給されると、緩衝液が固定化触媒膜100に向かって押し付けられ、緩衝液が固定化触媒膜100を透過する。この処理により、固定化触媒膜100からポリイオンコンプレックス形成阻害剤が洗い出される。このようにして固定化触媒膜100が得られる。なお、緩衝液としては、例えば、酢酸系やリン酸系の緩衝液が用いられる。
【0029】
なお、ここでは、固定化触媒膜100を形成するために限外ろ過膜が用いられたが、膜は、混合溶液400中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および溶媒を選択的に透過させる膜であればよく、限外ろ過膜に代えて高分子緻密膜が用いられてもかまわない。
【0030】
<固定化触媒膜の使用方法>
限外ろ過装置500に固定化触媒膜100をセットし、基質を含む基質溶液をその限外ろ過装置500に投入する。次いで、基質溶液の上部空間に不活性ガスを供給して基質溶液を固定化触媒膜100に押し付けると、基質溶液が固定化触媒膜100中に浸透する。そして、基質溶液が固定化触媒膜100に浸透すると、基質溶液中の基質は固定化触媒膜100中の触媒200と接触する。この結果、触媒200により、「基質の分解反応」や、「基質を原料とする合成反応」が促される。そして、触媒200により生成された生成物は、溶媒(緩衝液)の流れにのって固定化触媒膜100を透過し、固定化触媒膜100の系外に排出される。
【0031】
基質を分解する反応としては、例えば、澱粉(基質)をアミラーゼ(触媒)によってマルトースに分解する反応、マルトース(基質)をマルターゼ(触媒)によってグルコースに分解する反応、グルコース(基質)をチマーゼ(触媒)によってエタノールに分解する反応、スクロース(基質)をインベルターゼ(触媒)によってグルコースに分解する反応、尿素(基質)をウレアーゼ(触媒)によって二酸化炭素とアンモニアに分解する反応が挙げられる。
【0032】
化合物を合成する反応としては、例えば、フェノール、ピルビン酸およびアンモニア(基質)をβ−チロシナーゼ(触媒)によってL−チロシンに合成する反応、インドール、ピルビン酸およびアンモニア(基質)をトリプトファナーゼ(触媒)によってL−トリプトファンに合成する反応、フマル酸および水(基質)をフマラーゼ(触媒)によってL−リンゴ酸に合成する反応が挙げられる。
【0033】
<本実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法および固定化触媒膜の効果>
(1)
本実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法では、混合溶液400が限外ろ過膜600に供給され、混合溶液400中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤および水が選択的に膜透過されて、限外ろ過膜600上に固定化触媒膜100が形成される。このため、この固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、限外ろ過膜600上に、均質な固定化酵素膜100を製造することができる。
【0034】
(2)
本実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法では、混合溶液400の溶媒として水が用いられる。このため、生体触媒である酵素や酵母の活性が低下することを抑制することができる。
【0035】
(3)
本実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、ポリイオンコンプレックス300中に触媒200が遍在する固定化触媒膜100を得ることができる。このため、この固定化触媒膜100中に基質を供給すると、基質の分解および化合物の合成の少なくとも一方が満遍なく促される。また、このような固定化触媒膜100では、最終生成物を連続的に固定化触媒膜100外に排出することができ、生成物と触媒200とを容易に分離させることができる。したがって、このような固定化触媒膜100では、最終生成物を連続的に効率よく製造することができる。
【0036】
−第2実施形態−
本発明の第2実施形態に係る触媒膜101について説明する。なお、第1実施形態に係る固定化触媒膜100は1層構造物であったが、第2実施形態に係る固定化触媒膜101は、多層構造を有する。なお、第2実施形態では、上記の第1実施形態と同じ構成については、第1実施形態と同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0037】
第2実施形態に係る固定化触媒膜101は、図4に示されるように、第1の層110および第2の層120を備える。第1の層110は、主に、触媒200およびポリイオンコンプレックス300から構成されている。また、第2の層120は、主に、触媒210およびポリイオンコンプレックス300から構成されている。なお、本実施形態において、触媒210は、触媒200と異なる種類の触媒であるのが好ましい。ただし、触媒210は、反応時間を長くする等の目的で、触媒200と同じ種類の触媒とされてもかまわない。なお、第2の層120中のポリイオンコンプレックス300は、第1の層110のポリイオンコンプレックス300と同じポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320から形成されてもよいし、第1の層110のポリイオンコンプレックス300と異なるポリカチオン化合物およびポリアニオン化合物から形成されてもよい。
【0038】
<触媒膜の製造方法>
先ず、第1の層110を、上記の第1実施形態の触媒膜100と同様の方法で得る(図2、3参照)。なお、この段階で、緩衝液によって第1の層110からポリイオンコンプレックス形成阻害剤を洗い出してもよいし、洗い出さなくてもよい。
【0039】
次に、第2の層120を得るために、ポリカチオン化合物310およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第1の水溶液と、ポリアニオン化合物320およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第2の水溶液とを準備する。第1の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤は、第2の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と同じ種類の塩であることが好ましいが、異なる種類の塩であってもよい。また、第2の層120形成用の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤は、第1の層110形成用の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と同じ種類であってもよいし、第1の層110形成用の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と異なる種類であってもよい。
【0040】
第1の水溶液と第2の水溶液とを混合した後、その水溶液に触媒210を添加して、混合溶液401を調製する。なお、このとき、混合溶液401では、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤により、ポリカチオン化合物310とポリアニオン化合物320とからポリイオンコンプレックスが形成されることがない。つまり、この混合溶液401には、ポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320が溶解している。なお、この混合溶液401において、ポリカチオン化合物310の添加量は、ポリアニオン化合物320の添加量と同じ量であってもよいし、異なる量であってもよい。なお、この添加量比はポリイオンコンプレックスの網目構造に大きく影響する。
【0041】
図5に示されるように、限外ろ過膜600上に第1の層110が形成された後に、限外ろ過装置500に混合溶液401を投入する。そして、限外ろ過装置500では、混合溶液401の上部空間に不活性ガスが供給されると、混合溶液401が第1の層110に向かって押し付けられる。このとき、混合溶液401から透過液411が分離する。なお、この透過液411には、主にポリイオンコンプレックス形成阻害剤および水が含まれる。
【0042】
上記処理が完了すると、図6に示されるように、第1の層110上に第2の層120が形成される。この第2層120では、第1の層110と同様に、均質なポリイオンコンプレックス300に触媒210が包括されている。また、この第2の層120は、第1の層110と密着している。その後、限外ろ過装置500に緩衝液が投入される。そして、緩衝液の上部空間に不活性ガスが供給されると、緩衝液が第2の層120に向かって押し付けられ、緩衝液が各層110,120を透過する。この処理により、各層110,120からポリイオンコンプレックス形成阻害剤が洗い出される。このようにして2層構造の固定化触媒膜101が得られる。なお、緩衝液としては、例えば、酢酸系やリン酸系の緩衝液が用いられる。
【0043】
<触媒膜の使用方法>
限外ろ過装置500に固定化触媒膜101をセットし、基質を含む基質溶液をその限外ろ過装置500に投入する。次いで、基質溶液の上部空間に不活性ガスを供給して基質溶液を固定化触媒膜101に押し付けると、基質溶液が固定化触媒膜101中に浸透する。そして、基質溶液が固定化触媒膜101に浸透すると、基質溶液中の基質は、第2の層120中の触媒210と接触する。この結果、触媒210により、「基質の分解反応」や、「基質を原料とする合成反応」が促され、基質とは異なる化合物が生成する。その後、その化合物は、第1の層110中の触媒200と接触する。この結果、触媒200により、「化合物の分解反応」や、「化合物を原料とする合成反応」が促され、さらに異なる化合物が生成する。つまり、この固定化触媒膜101では、分解反応や合成反応が2段階で生じる。そして、触媒200により生成された生成物は、溶媒(緩衝液)の流れにのって固定化触媒膜101の第1の層110を透過し、固定化触媒膜100の系外に排出される。
【0044】
<本実施形態における効果>
(1)
本実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法を利用すれば、多層構造を有する均質な固定化触媒膜を得ることができるようになる。
【0045】
(2)
本実施形態に係る固定化触媒膜101は、第1の層110および第2の層120を有する多層構造体である。そして、この固定化触媒膜101では、種類の異なる触媒200,210が各層110,120のポリイオンコンプレックス300中にそれぞれ固定化されている。このため、この固定化触媒膜101では、第2の層120に存在する触媒210により生成される生成物を、第1の層110に存在する触媒200によって分解すること、または、他の化合物と反応させて新たな化合物を合成することができる。
【0046】
<変形例>
(A)
固定化触媒膜102は、図7に示されるように、上記の第1の層110および第2の層120に加えて、第3の層130を有していてもよい。なお、図7において、第3の層130は、第2の層110の上に形成されている。なお、固定化触媒膜102は、4層以上の多層構造体であってもかまわない。
【0047】
第3の層130は、主に、触媒220およびポリイオンコンプレックス300から構成されている。なお、本変形例において、触媒220は、触媒200および触媒210と異なる種類の触媒であるのが好ましい。ただし、触媒220は、反応時間を長くする等の目的で、触媒200および触媒210の少なくとも一方の触媒と同じ種類の触媒とされてもかまわない。なお、第3の層130のポリイオンコンプレックス300は、各層110,120のポリイオンコンプレックス300と同じポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320から形成されてもよいし、各層110,120のポリイオンコンプレックス300と異なるポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320から形成されてもよい。
【0048】
<固定化触媒膜の製造方法>
先ず、第1の層110および第2の層120を、上記の第2実施形態の固定化触媒膜101と同様の方法で得る(図2、3、5および6参照)。なお、この段階で、緩衝液によって第1の層110および第2の層120中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤を洗い出してもよいし、洗い出さなくてもよい。
【0049】
次に、第3の層130を得るために、ポリカチオン化合物310およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第1の水溶液と、ポリアニオン化合物320およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を緩衝液に溶解させた第2の水溶液とを準備する。第2の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤は、第1の水溶液のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と同じ種類の塩であることが好ましいが、異なる種類の塩であってもよい。また、第3の層130形成用の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤は、第1の層110形成用の混合溶液および第2の層120形成用の混合溶液の少なくとも一方の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と同じ種類であってもよいし、第1の層110形成用の混合溶液および第2の層120形成用の混合溶液中のポリイオンコンプレックス形成阻害剤と異なる種類であってもよい。
【0050】
第1の水溶液と第2の水溶液とを混合した後、その水溶液に触媒220を添加して、混合溶液402を調製する。なお、このとき、混合溶液402では、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤により、ポリカチオン化合物310とポリアニオン化合物320とからポリイオンコンプレックスが形成されることがない。つまり、この混合溶液402には、ポリカチオン化合物310およびポリアニオン化合物320が溶解している。なお、この混合溶液402において、ポリカチオン化合物310の添加量は、ポリアニオン化合物320の添加量と同じ量であってもよいし、異なる量であってもよい。なお、この添加量比はポリイオンコンプレックスの網目構造に大きく影響する。
【0051】
図8に示されるように、限外ろ過膜600上に第1の層110および第2の層120が形成された後に、限外ろ過装置500に混合溶液402を投入する。そして、限外ろ過装置500では、混合溶液402の上部空間に不活性ガスが供給されると、混合溶液402が第2の層120に向かって押し付けられる。このとき、混合溶液402から透過液412が分離する。なお、この透過液412には、主にポリイオンコンプレックス形成阻害剤および水が含まれる。
【0052】
上記処理が完了すると、図9に示されるように、第2の層120上に第3の層130が形成される。この第3の層130では、第1の層110および第2の層120と同様に、均質なポリイオンコンプレックス300に触媒220が包括されている。また、この第3の層130は、第2の層120と密着している。その後、限外ろ過装置500に緩衝液が投入される。そして、緩衝液の上部空間に不活性ガスが供給されると、緩衝液が第3の層130に向かって押し付けられ、緩衝液が各層110,120,130を透過する。この処理により、各層110,120,130からポリイオンコンプレックス形成阻害剤が洗い出される。このようにして3層構造の固定化触媒膜102が得られる。なお、緩衝液としては、例えば、酢酸系やリン酸系の緩衝液が用いられる。
【0053】
<触媒膜の使用方法>
限外ろ過装置500に固定化触媒膜102をセットし、基質を含む基質溶液をその限外ろ過装置500に投入する。次いで、基質溶液の上部空間に不活性ガスを供給して基質溶液を固定化触媒膜102に押し付けると、基質溶液が固定化触媒膜101中に浸透する。そして、基質溶液が固定化触媒膜102に浸透すると、基質溶液中の基質は、第3の層130中の触媒220と接触する。この結果、触媒220により、「基質の分解反応」や、「基質を原料とする合成反応」が促され、基質とは異なる化合物が生成する。次に、その化合物は、第2の層120中の触媒210と接触する。この結果、触媒210により、「化合物の分解反応」や、「化合物を原料とする合成反応」が促され、さらに異なる化合物が生成する。その後、その化合物は、第1の層110中の触媒200と接触する。この結果、触媒200により、「化合物の分解反応」や、「化合物を原料とする合成反応」が促され、さらに異なる化合物が生成する。つまり、この固定化触媒膜102では、分解反応や合成反応が3段階で生じる。そして、触媒200により生成された生成物は、溶媒(緩衝液)の流れにのって固定化触媒膜102の第1の層110を透過し、固定化触媒膜100の系外に排出される。
【0054】
(B)
先の実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法では、第1の層110および第2の層120が連続的に形成されたが、第1の層110および第2の層120が個別に作製されてもかまわない。なお、かかる場合、第1の層110と、第2の層120とを湿潤状態で積み重ねて使用することにより、固定化触媒膜101と同様の機能を発現することができる。
【0055】
(C)
先の実施形態に係る固定化触媒膜の製造方法では、第1の層110と第2の層120とが密着するように固定化触媒膜101が形成されたが、第1の層110と第2の層120との間に、ポリイオンコンプレックスのみから成る層(つまり、触媒を含まない)が形成されてもかまわない。
【0056】
次に、実施例を示して上記実施形態に係る固定化触媒膜100,101,102をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例によって何ら限定されない。
【実施例1】
【0057】
<固定化触媒膜の作製>
ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒200であるα−アミラーゼ(エムピーバイオメディカルズ社製、一級試薬)0.03gを添加して、混合溶液400を調製した。
【0058】
図2に示されるように、限外ろ過膜600がセットされた限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500に混合溶液400を投入した後、混合溶液400の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液400を限外ろ過膜600に向かって押し付け、混合溶液400を限外ろ過した。
【0059】
限外ろ過完了後、図3に示されるように、限外ろ過膜600上に固定化触媒膜100が形成された。次いで、限外ろ過装置500に20gの酢酸緩衝液を投入した後、酢酸緩衝液の上部空間に窒素ガスを供給して、酢酸緩衝液を固定化触媒膜100に向かって押し付け、固定化触媒膜100に酢酸緩衝液を透過させた。なお、この固定化触媒膜100は乾燥されることはなく湿潤状態で使用された。
【0060】
<固定化触媒膜を用いた基質の分解>
図10に示されるように、固定化触媒膜100を限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500にセットした。また、pH5.9の澱粉水溶液700を準備した。基質である澱粉(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)710は、澱粉水溶液全体に対して1重量%となるように添加された。限外ろ過装置500に澱粉水溶液700を投入し、澱粉水溶液700の上部空間に窒素ガスを供給することにより0.2MPaの圧力で澱粉水溶液700を固定化触媒膜100に押し付け、澱粉水溶液700を固定化触媒膜100に浸透させた。なお、このとき、澱粉水溶液700の温度を30℃に調整した。その結果、固定化触媒膜100中のα−アミラーゼにより澱粉710が分解されて、マルトース711およびグルコース712が生成した(図11参照)。
【0061】
なお、固定化触媒100の二次側(溶媒透過側)の液中のマルトース711およびグルコース712の濃度は、高速液体クロマトグラフイー(株式会社島津製作所製)を用いて検量線法により定量した。なお、測定条件は以下の通りであった。
・送液ユニット :LC−10AD VP
・カラムオーブン :CTO−10A VP
・デガッサー :DGV−12A
・示差屈折計検出器:RID−10A
・カラム名称 :Asahipak NH2P−50 4E(昭和電工株式会社製)
・移動相 :75重量%アセトニトリル水溶液
・移動相速度 :1mL/分
・環境温度 :30℃
【0062】
(参考例1)
pH5.9の澱粉水溶液を準備した。基質である澱粉(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)は、澱粉水溶液全体に対して1重量%となるように添加された。そして、この澱粉水溶液にα−アミラーゼ(エムピーバイオメディカルズ社製、一級試薬)を添加した後、この澱粉水溶液を30℃に保ちながら放置した。その結果、α−アミラーゼにより澱粉が分解されて、マルトースおよびグルコースが生成した(図12参照)。
【実施例2】
【0063】
触媒200をマルターゼ(東京化成工業株式会社製、一級試薬)に代えた以外は実施例1と同様にして固定化触媒膜100aを得た。また、pH5.9のマルトース水溶液701を準備した。なお、基質であるマルトース(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)711は、マルトース水溶液全体に対して1重量%となるように添加された。そして、図13に示されるように、実施例1と同様にして、マルトース水溶液701を固定化触媒膜100aに浸透させた。その結果、固定化触媒膜100a中のマルターゼによりマルトース711が分解されて、グルコース712が生成した(図14参照)。
【0064】
(参考例2)
基質をマルトース(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)に代えた以外は参考例1と同様にしてマルトース水溶液を得た。そして、このマルトース水溶液に0.05gのマルターゼ(東京化成工業株式会社製、一級試薬)を添加した後、参考例1と同様に、このマルトース水溶液を30℃に保ちながら放置した。その結果、マルターゼによりマルトースが分解されて、グルコースが生成した(図15参照)。
【実施例3】
【0065】
触媒200をパン酵母(オリエンタル酵母工業株式会社製)に代えた以外は実施例1と同様にして固定化触媒膜100bを得た。また、pH5.9のグルコース水溶液702と、pH5.0のグルコース水溶液702とを準備した。なお、基質であるグルコース(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)712は、グルコース水溶液全体に対して1重量%となるように添加された。そして、図16に示されるように、実施例1と同様にして、上記2種類のグルコース水溶液702を別々の固定化触媒膜100bにそれぞれ浸透させた。その結果、固定化触媒膜100b中のパン酵母によりグルコース712が分解されて、エタノール713が生成した(図17参照)。
【0066】
なお、固定化触媒膜100bの二次側(溶媒透過側)の液中のエタノール713の濃度は、ガスクロマトグラフイー(株式会社島津製作所製、GC−14A)を用いて検量線法により定量した。なお、測定条件は以下の通りであった。
・カラム名称:Thermon−3000 5% SHINCARBON A 60〜80(信和加工株式会社製)
・移動相 :水素,ヘリウム
・移動相速度:0.5kg/cm
・検出器 :熱伝導度型
・環境温度 :50℃
【0067】
(参考例3)
基質をグルコース(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)に代えた以外は参考例1と同様にしてグルコース水溶液を得た。そして、このグルコース水溶液に0.5gのパン酵母(オリエンタル酵母工業株式会社製)を添加した後、参考例1と同様に、このグルコース水溶液を30℃に保ちながら放置した。その結果、グルコースが分解されて、エタノールが生成した(図18参照)。
【実施例4】
【0068】
<固定化触媒膜の製造方法>
(1)第1の層の作製
ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒200であるマルターゼ(東京化成工業株式会社製)0.05gを添加して、混合溶液400を調製した。
【0069】
図2に示されるように、限外ろ過膜600がセットされた限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500に混合溶液400を投入した後、混合溶液400の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液400を限外ろ過膜600に向かって押し付け、混合溶液400を限外ろ過した。
【0070】
限外ろ過完了後、図3に示されるように、限外ろ過膜600上に第1の層110が形成された。
【0071】
(2)第2の層の作製
上記と同様にして、ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒210であるα−アミラーゼ(エムピーバイオメディカルズ社製、一級試薬)を添加して、混合溶液401を調製した。
【0072】
図5に示されるように、第1の層110が形成された限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500に混合溶液401を投入した後、混合溶液401の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液401を第1の層110に向かって押し付けた。
【0073】
上記処理完了後、図6に示されるように、第1の層110上に第2の層120が形成された。次いで、限外ろ過装置500に20gの酢酸緩衝液を投入した後、酢酸緩衝液の上部空間に窒素ガスを供給して、酢酸緩衝液を第2の層120に向かって押し付け、第1の層110および第2の層120に酢酸緩衝液を透過させた。その結果、2層構造の固定化触媒膜101が得られた。なお、この固定化触媒膜101は乾燥されることはなく湿潤状態で使用された。
【0074】
<固定化触媒膜を用いた基質の分解>
図19に示されるように、固定化触媒膜101を限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500にセットした。また、pH5.9の澱粉水溶液700を準備した。基質である澱粉(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)710は、澱粉水溶液全体に対して10重量%となるように添加された。限外ろ過装置500に澱粉水溶液700を投入し、澱粉水溶液700の上部空間に窒素ガスを供給することにより0.2MPaの圧力で澱粉水溶液700を固定化触媒膜101に押し付け、澱粉水溶液700を固定化触媒膜101に浸透させた。なお、このとき、澱粉水溶液700の温度を30℃に調整した。その結果、第2の層120中のα−アミラーゼにより澱粉710が分解されてマルトース711およびグルコース712が生成し、そのマルトース711が第1の層110中のマルターゼにより一部分解されてグルコース712が生成した(図20参照)。
【実施例5】
【0075】
触媒200をパン酵母(オリエンタル酵母工業株式会社製)に代え、触媒210をマルターゼ(東京化成工業株式会社製)に代えた以外は実施例4と同様にして固定化触媒膜101aを得た。また、pH5.9のマルトース水溶液701を準備した。なお、基質であるマルトース(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)711は、マルトース水溶液全体に対して1重量%となるように添加された。そして、図21に示されるように、実施例4と同様にして、マルトース溶液701を固定化触媒膜101aに浸透させた。その結果、第2の層120中のマルトースによりマルトース711が分解されてグルコース712が生成し、そのグルコース712が第1の層110a中のパン酵母により分解されてエタノール713が生成した(図22参照)。
【実施例6】
【0076】
<固定化触媒膜の製造方法>
(1)第1の層の作製
ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒200であるパン酵母(オリエンタル酵母工業株式会社製)を添加して、混合溶液400を調製した。
【0077】
図2に示されるように、限外ろ過膜600がセットされた限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500に混合溶液400を投入した後、混合溶液400の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液400を限外ろ過膜600に向かって押し付け、混合溶液400を限外ろ過した。
【0078】
限外ろ過完了後、図3に示されるように、限外ろ過膜600上に第1の層110が形成された。
【0079】
(2)第2の層の作製
上記と同様にして、ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒210であるマルターゼ(東京化成工業株式会社製、一級試薬)を添加して、混合溶液401を調製した。
【0080】
図5に示されるように、第1の層110が形成された限外ろ過装置500に混合溶液401を投入した後、混合溶液401の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液401を第1の層110に向かって押し付けた。
【0081】
上記処理完了後、図6に示されるように、第1の層110上に第2の層120が形成された。
【0082】
(3)第3の層の作製
上記と同様にして、ポリカチオン化合物310である四級化キトサン(日本水産株式会社製のキトサンを既知の方法で第四級アンモニウムイオン化させたもの)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第1の水溶液を準備した。また、ポリアニオン化合物320であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)1.01gと、ポリイオンコンプレックス形成阻害剤である臭化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)11.2gとを100gの酢酸緩衝液(pH5.9)に溶解させた第2の水溶液を準備した。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合させた水溶液に、触媒220であるα−アミラーゼ(エムピーバイオメディカルズ社製、一級試薬)を添加して、混合溶液402を調製した。
【0083】
図8に示されるように、第2の層120が形成された限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500に混合溶液402を投入した後、混合溶液402の上部空間に窒素ガスを供給して、混合溶液402を第2の層120に向かって押し付けた。
【0084】
上記処理完了後、図9に示されるように、第2の層120上に第3の層130が形成された。次いで、限外ろ過装置500に20gの酢酸緩衝液を投入した後、酢酸緩衝液の上部空間に窒素ガスを供給して、酢酸緩衝液を第3の層130に向かって押し付け、第1の層110、第2の層120および第3の層130に酢酸緩衝液を透過させた。その結果、3層構造の固定化触媒膜102が得られた。なお、この固定化触媒膜102は乾燥されることはなく湿潤状態で使用された。
【0085】
<固定化触媒膜を用いた基質の分解>
図23に示されるように、固定化触媒膜102を限外ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製、品名:撹拌型ウルトラホルダー)500にセットした。また、pH5.9の澱粉水溶液700を準備した。基質である澱粉(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)710は、澱粉水溶液全体に対して10重量%となるように添加された。限外ろ過装置500に澱粉水溶液700を投入し、澱粉水溶液700の上部空間に窒素ガスを供給することにより0.2MPaの圧力で澱粉水溶液700を固定化触媒膜102に押し付け、澱粉水溶液700を固定化触媒膜101に浸透させた。なお、このとき、澱粉水溶液700の温度を30℃に調整した。その結果、第3の層130中のα−アミラーゼにより澱粉710が分解されてマルトース711およびグルコース712が生成し、そのマルトース711が第2の層120中のマルターゼにより分解されてグルコース712が生成し、そのグルコースが第1の層110中のパン酵母により分解されてエタノールが生成した(図24参照)。
【実施例7】
【0086】
触媒200をウレアーゼ(フナコシ株式会社製、一級試薬)に代えた以外は実施例1と同様にして固定化触媒膜を得た。また、0.15重量%の尿素水溶液(pH7.4)を準備した。そして、図13に示されるように、実施例1と同様にして、尿素水溶液を固定化触媒膜に浸透させた。その結果、固定化触媒膜中のウレアーゼにより尿素が分解されて、二酸化炭素とアンモニアが生成した。
【0087】
なお、固定化触媒膜の二次側(溶媒透過側)の液中のアンモニア濃度は、高速液体クロマトグラフイー(株式会社島津製作所製)を用いて検量線法により定量した。なお、測定条件は以下の通りであった。
・送液ユニット :LC−10AD VP
・カラムオーブン :CTO−10A VP
・デガッサー :DGV−12A
・示差屈折計検出器:RID−10A
・カラム名称 :Asahipak NH2P−50 4E(昭和電工株式会社製)
・移動相 :75重量%アセトニトリル水溶液
・移動相速度 :1mL/分
・環境温度 :30℃
【0088】
(参考例4)
基質を尿素(和光純薬工業株式会社製、一級試薬)に代えた以外は参考例1と同様にして尿素水溶液を得た。そして、この尿素水溶液にウレアーゼ(フナコシ株式会社製)を添加した後、参考例1と同様に、この尿素水溶液を30℃に保ちながら放置した。その結果、ウレアーゼにより尿素が分解されて、二酸化炭素とアンモニアが生成した。
【符号の説明】
【0089】
100,100a,100b,101,101a,102 固定化触媒膜
200,210,220 触媒
300 ポリイオンコンプレックス
310 ポリカチオン化合物
320 ポリアニオン化合物
400,401,402 混合溶液(第1溶液、第2溶液、第3溶液)
600 限外ろ過膜(膜)
710 澱粉(基質)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも触媒、ポリカチオン化合物、ポリアニオン化合物およびポリイオンコンプレックス形成阻害剤を溶媒に溶解させた第1溶液を準備する第1準備工程と、
前記第1溶液を膜に供給し、前記第1溶液中の前記ポリイオンコンプレックス形成阻害剤および前記溶媒を選択的に膜透過させて、前記膜上に、前記ポリカチオン化合物および前記ポリイオン化合物からなるポリイオンコンプレックス中に前記触媒が固定化された固定化触媒膜を形成する膜形成工程と
を備える、固定化触媒膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1準備工程では、異種の前記触媒を含む複数の前記第1溶液が準備され、
前記膜形成工程では、n番目の前記固定化触媒層の形成後に、前記第1溶液が前記n番目の前記固定化触媒層上に供給され、前記第1溶液中の前記ポリイオンコンプレックス形成阻害剤および前記溶媒が選択的に膜透過させられて、前記n番目の前記固定化触媒層上に(n+1)番目の前記固定化触媒層が形成され、多層構造の固定化触媒膜が形成される
請求項1に記載の固定化触媒膜の製造方法。
【請求項3】
ポリイオンコンプレックス中に触媒が遍在するように前記触媒がポリイオンコンプレックスに固定化される
固定化触媒膜。
【請求項4】
多層構造を有し、少なくとも2つの層の前記ポリイオンコンプレックス中に異種の前記触媒がそれぞれ固定化される
請求項3に記載の固定化触媒膜。
【請求項5】
少なくとも1種類の基質を含む第2溶液を準備する第2準備工程と、
請求項3に記載の固定化触媒膜中に前記第2溶液を供給して化合物の分解および化合物の合成の少なくとも一方を行いながら最終生成物を前記固定化触媒膜外に排出する第1膜透過反応工程と
を備える、膜透過反応方法。
【請求項6】
少なくとも1種類の基質を含む第3溶液を準備する第3準備工程と、
請求項4に記載の固定化触媒膜中に前記第3溶液を供給して各層において化合物の分解または化合物の合成を連続的に行いながら最終生成物を前記固定化触媒膜外に排出する第2膜透過反応工程と
を備える、膜透過反応方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2012−143188(P2012−143188A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3862(P2011−3862)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第56回 高分子研究発表会(神戸)予稿集 発行所:社団法人 高分子学会 発行日:平成22年7月16日
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】