説明

固定化mRNA−ピューロマイシン連結体及びその用途

本発明の課題は、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、この連結体を含むmRNAビーズ又はmRNAチップ、このmRNAチップから作製されるプロテインチップ、mRNAビーズ又はmRNAチップを用いた診断キット、mRNA又はタンパク質の固相固定化法、タンパク質の固相合成法、前記固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を用いるタンパク質と分子との相互作用を解析する方法等によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、固定化mRNA/DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体、及びこれらの用途に関する。本発明は、より詳しくは、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、この連結体を含むmRNAビーズ又はmRNAチップ、このmRNAチップから作製されるプロテインチップ、mRNAビーズ又はmRNAチップを用いた診断キット、固定化mRNA/DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体、mRNA又はタンパク質の固相固定化法、タンパク質の固相合成法、前記固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を用いるタンパク質と分子との相互作用を解析する方法等に関する。
【背景技術】
最近のゲノム科学の領域においては、遺伝子配列を明らかにするという「構造解析」から遺伝子の発現産物による「機能解析」へと研究テーマがシフトしている。遺伝子の機能を具現するのは、基本的に、タンパク質などの発現産物だからである。ゆえに、遺伝子の機能解析にはタンパク質の解析が必須となる。タンパク質の機能解析は、例えば、タンパク質−タンパク質相互作用やタンパク質−核酸相互作用等の解析による生化学的機能解析を通して行われている。
タンパク質−タンパク質相互作用の解析法としては、イーストツーハイブリッド法(Chien,C.T.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,9578−9582(1991))、ファージディスプレー法(Smith,G.P.,Science,228,pp.1315−1317(1985))、GST−融合タンパク質プルダウン法、免疫共沈法等が知られている。タンパク質−核酸相互作用の解析法としては、電気泳動移動度シフトアッセイ法(Revzin,A.,et al.,Anal.Biochem.,153,172(1986))、DNaseIフットプリント法(Calas,D.,et al.,Nucleic Acids Res.,5,3157(1978))、メチル化緩衝法等が知られている。
また、ピューロマイシンの特異的性質を利用したin vitro virus法(Nemoto et al.,FEBS Lett.414,405(1997);Tabuchi et al.,FEBS Lett.508,309(2001)等参照)を用いてタンパク質相互作用の解析方法も開発されている(WO01/016600号公報参照)。
一方、DNAをガラス基板上に合成したDNAチップやタンパク質を基板上に並べたタンパク質チップは、ゲノム解析ツールや遺伝子機能解析ツールとして極めて重要である。また、抗体を含むタンパク質を基板上に機能を失わせずに固定化したものはセンサーチップとしても今後広い範囲にわたる用途が予想される。しかし、タンパク質はDNAに比べて不安定なため長期保存ができず、チップ化した際の取り扱いが極めて難しいという問題がある。
【発明の開示】
上記したように、種々の遺伝子機能解析手法が開発されてきたが、現在でも、遺伝子機能解析をより効率良くより迅速に行うためのツールの開発が望まれている。特にタンパク質の機能を安定に保持したままの発現法、固定化方法の開発が望まれている。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。まず本発明者らは、種々のアミノ酸配列からなるタンパク質と標的物質との相互作用を容易に判定可能なツールの開発を行った。即ち本発明者らは、標的物質との相互作用を判定すべき被検タンパク質をコードする核酸分子(mRNA)と、該タンパク質を合成する際に連結部としての役割を担うピューロマイシンとの連結体が、固相に固定された構造からなる「固定化mRNA−ピューロマインシン連結体」を作製した。
上記の固定化mRNA−ピューロマインシン連結体を翻訳系と接触させることにより、固相上においてタンパク質を合成させることが可能である。合成されたタンパク質は、ピューロマイシンを介して固相に固定される。
上記の固定化mRNA−ピューロマインシン連結体の好ましい態様としては、チップ等の基板上へ固定化されたマイクロアレイ用チップ(mRNAチップ)を例示することができる。当該チップを用いて、翻訳系と接触させることにより適宜、プロテインチップを作製することが可能である。通常、プロテイン(タンパク質)チップは、タンパク質が不安定であることから、保存上あるいは取り扱い上に問題がある。本発明の好ましい態様においては、タンパク質の代わりに比較的安定なmRNAの形でチップ化し、例えば、使用する直前に翻訳系と接触させることにより、該チップをプロテインチップへ変換させることが可能である。即ち、本発明は、不安定なタンパク質の代わりに比較的安定なmRNAの形で固相上へ固定化させた、タンパク質相互作用解析ツールを提供する。
また、上記固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系へ供して合成される該mRNAの翻訳産物のタンパク質が、該ピューロマイシンと結合した「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」は、タンパク質と相互作用し得る分子の解析あるいはスクリーニングに利用することができ、非常に有用である。
さらに本発明者らは、上記「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を、逆転写反応系へ供することにより、該mRNAの逆転写産物の相補的DNAが連結した「固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」の作製に成功した。通常、RNAに比べてDNAはより安定であることから、タンパク質相互作用解析において、該連結体を被検分子と接触させる際に、該「固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」は非常に有用である。
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたもので、次に示すような、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、この連結体を含むmRNAビーズ又はmRNAチップ、このmRNAチップから作製されるプロテインチップ、mRNAビーズ又はmRNAチップを用いた診断キット、固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体、mRNA又はタンパク質の固相固定化法、タンパク質の固相合成法、前記固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を用いるタンパク質と分子との相互作用を解析する方法等を提供する。より具体的には、本発明は、
〔1〕 mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体を固相に固定してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、
〔2〕 前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、mRNAの3’末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を連結したものである〔1〕に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、
〔3〕 前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、前記スペーサーに設けた固相結合部位を介して固相に結合されている、〔1〕又は〔2〕に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、
〔4〕 前記スペーサーが、ポリヌクレオチド、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むものである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、
〔5〕 前記固相が、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、ガラス容器、プラスチック容器及びメンブレンから選択される、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系へ供して合成される該mRNAの翻訳産物のタンパク質が、該連結体におけるピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を介して連結してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体、
〔7〕 〔6〕に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を、逆転写反応系へ供して合成される該mRNAの相補的DNAが、該連結体と結合してなる、固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体、
〔8〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体をマイクロアレイ用基板に固定してなる、mRNAチップ、
〔9〕 〔8〕記載のmRNAチップを用いて作製されるプロテインチップ、
〔10〕 mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体がビーズに固定してなるmRNAビーズ、
〔11〕 〔8〕記載のmRNAチップ又は〔10〕記載のmRNAビーズ、及び無細胞翻訳系を含むタンパク質相互作用解析用キット、
〔12〕 (a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、及び、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程
を含む、mRNAを固相に固定化する方法、
〔13〕 (a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程;及び
(c)該mRNA−ピューロマイシン連結体と翻訳系とを接触させることによって、タンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を固相に固定化する方法、
〔14〕 (a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程;及び
(c)該mRNA−ピューロマイシン連結体と翻訳系とを接触させることによって、タンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を固相で合成する方法、
〔15〕 タンパク質と分子との相互作用を解析する方法であって、
(a)一以上の、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体と、翻訳系とを接触させて、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたタンパク質と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(c)該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程;
を含む上記解析方法、
〔16〕 タンパク質と分子との相互作用を解析する方法であって、
(a)一以上の、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体と、翻訳系とを接触させて、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と、逆転写反応系とを接触させて、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程;
(c)工程(b)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(d)該連結体におけるタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程;
を含む上記解析方法、
〔17〕 さらに、相互作用していると判断されたタンパク質及び/又は標的物質を同定する工程を含む、前記〔15〕又は〔16〕に記載の解析方法、
を、提供するものである。
以下、本発明をその実施態様に基づいて詳細に説明する。
1.固定化mRNA−ピューロマイシン連結体
本発明の第1の態様は、mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体を固相に固定してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体(以下、「固定化mRNA−PM連結体」ともいう)に関する。
本発明で用いられるmRNAは、配列未知のもの、配列既知のものの両者を含む。すなわち、本発明のmRNA−PM連結体を用いて配列既知のタンパク質に結合する物質を探索あるいは定量する場合は、配列既知のタンパク質をコードする核酸配列を有するmRNAを用いる。逆に、本発明のmRNA−PM連結体を用いて配列未知のタンパク質の機能を解析する場合は、配列未知のタンパク質をコードする核酸配列を有するmRNAを用いることができる。ここで用いられる、mRNAは、例えば、配列既知の各種レセプタータンパク質をコードするmRNA、各種抗体又はその断片をコードするmRNA、各種酵素をコードするmRNA、各種遺伝子ライブラリー中のDNAから転写される配列未知のmRNA、有機合成によってランダムに合成された配列を有するDNAから転写されたランダムな配列を有するmRNAなどから選択される。
本発明のmRNA−PM連結体は、通常、mRNAの3’末端にスペーサーを介してピューロマイシンを連結したものである。ここで、ピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物は、固相に固定されたmRNA−PM連結体を翻訳系に投入してタンパク質を合成する際に、mRNAと翻訳されたタンパク質とを連結するヒンジあるいは連結部の役割をする。すなわち、mRNAにスペーサーを介してピューロマイシンを結合したものと翻訳系を接触させると、そのmRNAがピューロマイシンを介して翻訳されたタンパク質と結合したIn vitro virusビリオンが生成することが知られている(Nemoto et al.,FEBS Lett.414,405(1997)参照)。ピューロマイシン(Puromycin)は、その3’末端がアミノアシルtRNAに化学構造骨格が類似している、下記式(I):

に示される化合物で、翻訳系でタンパク質の合成が行われた際に、合成されたタンパク質のC末端に結合する能力を有する。本明細書中、「ピューロマイシン様化合物」とは、その3’末端がアミノアシルtRNAに化学構造骨格が類似し、翻訳系でタンパク質の合成が行われた際に、合成されたタンパク質のC末端に結合する能力を有する化合物をいう。
ピューロマイシン様化合物としては、3’−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3’−N−Aminoacylpuromycin aminonucleoside、PANS−アミノ酸)、例えば、アミノ酸部がグリシンのPANS−Gly、アミノ酸部がバリンのPANS−Val、アミノ酸部がアラニンのPANS−Ala、その他、アミノ酸部が全ての各アミノ酸に対応するPANS−アミノ酸化合物が挙げられる。また、3’−アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合して形成されるアミド結合で連結した3’−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3’−Aminoacyladenosine aminonucleoside、AANS−アミノ酸)、たとえば、アミノ酸部がグリシンのAANS−Gly、アミノ酸部がバリンのAANS−Val、アミノ酸部がアラニンのAANS−Ala、その他、アミノ酸部が全アミノ酸の各アミノ酸に対応するAANS−アミノ酸化合物を使用できる。また、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども使用できる。なお、上記ピューロマイシン以外に好ましく用いられるピューロマイシン様化合物は、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)、デオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)などであり、下記にその化学構造式を示す。



本発明のmRNA−PM連結体においては、mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物(以下、単に「ピューロマイシン」と称する)は、通常、スペーサーを介して連結される。また、この連結体は、通常、このスペーサーに設けられた固相結合部位を介して固相に固定化される。スペーサーは、主として、ピューロマイシンをリボソームのAサイトと呼ばれる部位に効率良く取り込ませるために用いられる。したがって、スペーサーとしては、そのような性質を有する限り特に限定されないが、柔軟性があり、親水性で、側鎖の少ない単純な構造を有する骨格を有するものが好ましい。具体的には、ここで用いられるスペーサーとして、これらに限定されないが、ポリヌクレオチド(DNA含む)、ポリエチレンなどのポリアルキレン、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ペプチド核酸(PNA)、ポリスチレン等の直鎖状物質又はこれらの組合せを主骨格として含むものが好ましく用いられる。上記直鎖上物質を組み合わせて用いる際は、適宜、それらを適当な連結基(−NH−、−CO−、−O−、−NHCO−、−CONH−、−NHNH−、−(CH−[nは例えば1〜10、好ましくは1〜3]、−S−、−SO−など)で化学的に連結することができる。
mRNAとスペーサーとの連結は、公知の手法を用いて直接的又は間接的に、化学的又は物理的に行うことができる。例えば、DNAをスペーサーとして用いる場合は、mRNAの3’末端にそのDNAスペーサーの末端と相補的な配列を設けておくことにより、両者を連結することができる。また、スペーサーとピューロマイシンを連結する場合は、通常、公知の化学的手法によって連結される。
なお、タンパク質を合成した後に、mRNA−PM−タンパク質の複合体を固相から切り離す必要がある場合は、スペーサー中に切断可能部位を設けると好ましい。DNAをスペーサーの一部に用いた場合は、そのような切断可能部位として、DNA鎖中に制限酵素認識部位を設けることができる。このような制限酵素認識部位をもつスペーサーを用いた場合は、タンパク質合成後など所望の時に、制限酵素(例えば、AluI、BamHI、EcoRI、HindII、HindIII、PvuIIなど)を投入することによって、mRNA−PM−タンパク質の複合体を固相から切り離すことができる。制限酵素認識部位とその部位を切断する酵素の組合せは公知である(New England BioLabs 2000・01 Catalog & Technical reference等参照)。
なお、本発明のmRNA−PM連結体には、必要に応じて標識物質を結合させることによって標識することができる。そのような標識物質は、蛍光性物質、放射性標識物質などから適宜選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えば活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホアミダイドに変換可能な水酸基、あるいはアミノ基など)を持ち、スペーサー又はピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物に連結可能な種々の蛍光色素を用いることができる。適当な標識物質としては、例えばフルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質;H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体などが挙げられる。
2.mRNAの固相固定化方法
本発明の別の態様によれば、上記のmRNA−PM連結体を用いて、mRNAを固相に固定化する方法が提供される。すなわち、本発明のmRNAの固相固定化法は、
(a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−PM連結体を調製する工程、及び、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−PM連結体を固相に固定する工程
を含む。
mRNA−PM連結体が固定される固相は特に限定されず、その連結体が使用される目的に応じて適宜選択される。本発明で用いられる固相としては、生体分子を固定する担体となるものを用いることができ、例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。なお、本明細書では、上記mRNA−PM連結体がビーズに固定されたものを「mRNAビーズ」という。本発明の好ましい態様においては、mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体がビーズに固定してなるmRNAビーズを提供する。
本発明のmRNA−PM連結体は、mRNAが翻訳系と接触する際に、その翻訳の障害とならないように固相に固定されれば、その固定化手段は特に限定されない。通常は、mRNAとPMを連結するスペーサーに固相結合部位を設け、その固相結合部位を、固相に結合させた「固相結合部位認識部位」を介して、mRNA−PM連結体を固相に固定する。固相結合部位は、mRNA−PM連結体を所望の固相に結合し得るものであれば特に限定されない。例えば、このような固相結合部位として、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(例えば、リガンド、抗体など)が用いられ、この場合は、固相表面には固相結合部位認識部位として、その分子と結合する特定のポリペプチドを結合させておく。固相結合部位/固相結合部位認識部位の組合せの例としては、例えば、アビジン及びストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの、各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。これらの中で、固相結合部位/固相結合部位認識部位の組合せとしては、アビジン及びストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、抗体/抗原分子(エピトープ)などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組合せが最も好ましい。
上記タンパク質の固相表面への結合は、公知の方法を用いることができる。そのような公知の方法としては、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン−2,4−ジイソシアネート、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を挙げることができる(P.M.Abdella,P.K.Smith,G.P.Royer,A New Cleavable Reagent for Cross−Linking and Reversible Immobilization of Proteins,Biochem.Biophys.Res.Commun.,87,734(1979)等参照)。
なお、上記組合せは、固相結合部位と固相結合部位認識部位とを逆転させて用いることもできる。上記の固定化手段は、2つの相互に親和性を有する物質を利用した固定化方法であるが、固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料であれば、必要に応じて、公知の手法を用いてスペーサーの一部を直接それらの固相に共有結合させることもできる(Qiagen社、LiquiChip Applications Handbook等参照)。なお、本発明においては、固定手段については上記の方法に限定されることなく、当業者に公知である如何なる固定手段をも利用することができる。
3.タンパク質の固相固定化方法及びタンパク質の固相合成方法
本発明の別の態様によれば、タンパク質の固相固定化又は固相合成法であって、上記(b)工程の後に、(c)該mRNA−PM連結体と翻訳系とを接触させることにより(例えば、該連結体に翻訳系を投入、あるいは該連結体を翻訳系に投入)、タンパク質を合成する工程を含む、タンパク質の固相固定化又は合成法が提供される。工程(b)において、mRNA−PM連結体が固相に固定されているので、この連結体を翻訳系に投入した際に、前述のin vitro virus法の対応づけ技術を利用して、合成されたタンパク質がピューロマイシンを介して固相に固定化されるのである。
上記(c)工程では、mRNA−PM連結体を翻訳系と接触させることによって、タンパク質の合成を行う。ここで用いることができる翻訳系としては、無細胞翻訳系又は生細胞などが挙げられる。無細胞翻訳系としては、原核又は真核生物の抽出物により構成される無細胞翻訳系、例えば大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などが使用できる(Lamfrom H,Grunberg−Manago M.Ambiguities of translation of poly U in the rabbit reticulocyte system.Biochem Biophys Res Commun.1967 27(1):1−6等参照)。生細胞翻訳系としては、原核又は真核生物、例えば大腸菌の細胞などが使用できる。本発明においては、取り扱いの容易さから、無細胞系を使用することが好ましい。
ここで、図1に基づいて、本発明のmRNA−ピューロマイシン連結体を用いたタンパク質の固定化について簡単に説明する。図1aは保存時の固定化mRNA−PM連結体を示す図、図1bは無細胞翻訳系を投入し、タンパク質が合成されている状態を示す図、図1cはタンパク質の合成が終了した状態を示す図である。図1aに示すように、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体1は、mRNA1aとピューロマイシン1bが、DNAスペーサー1cを介して連結されたもので、固相結合部位1dを介して固相2に結合されている。固相2は、後に、無細胞翻訳系を投入することを考慮して容器の形状をしている。図1bに示すように、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体1に、無細胞翻訳系3を投入すると、mRNAと無細胞翻訳系を利用した翻訳反応によって、そのmRNAの核酸配列に対応するタンパク質4が合成される。翻訳終了後は、不要な無細胞翻訳系3の成分を除去し、タンパク質4がピューロマイシン1bに結合した、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質複合体が、固相2に固定された状態で形成される。なお、このようなmRNA−ピューロマイシン−タンパク質複合体(連結体)に、例えば、標的物質を接触させることによって、合成されたタンパク質と結合し得る標的物質をスクリーニングすることができる。
4.mRNAチップ及びプロテインチップ
本発明の別の態様によれば、上記した固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を複数含むmRNAチップ(mRNAマイクロアレイ)に関する。即ち本発明は、本発明の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体をマイクロアレイ用基板に固定してなる、mRNAチップを提供する。このmRNAチップは、上述したmRNA−PM連結体を複数基板上に固定化したものである。なお、上記「複数」とは、特にその上限の値は制限されるものではないが、通常マイクロアレイとして用いられるチップ上に固定可能な実用的な数を指す。このmRNAチップを翻訳系に投入することにより、あるいは、翻訳系をmRNAチップに投入することにより、上述のタンパク質合成がチップ上で起こり、各タンパク質が固相に結合した、いわゆるプロテインチップが作製される。このようにして作製されるプロテインチップもまた、本発明に含まれる。
本発明のmRNAチップにおいては、機能既知のタンパク質をコードするmRNA複数を、mRNA−PM連結体として固相に固定してもよいし、機能未知のタンパク質をコードするmRNA複数をmRNA−ピューロマイシン連結体として固相に固定してもよい。例えば、疾病に関与する機能既知のタンパク質をコードするmRNAを複数チップに固定する場合は、例えば、疾病の診断用mRNAチップ、タンパク質相互作用解析用mRNAチップ等とすることができる。診断用チップとして用いる場合は、ある特定の疾病の診断マーカーと結合するタンパク質をコードするmRNAをそれぞれプレートの所定の位置に固定しておく。そして、診断を行う直前にこのプレートに無細胞翻訳系を投入して、プレート上の所定の位置に所望の診断マーカーと結合するタンパク質を合成し、固定する。このようにすれば、診断の直前にプロテインチップを作製することができる。プロテインチップは、その保存上あるいは取り扱い上に問題がある。不安定なプロテインの代わりに安定なmRNAの形でチップ化した点は、本発明の特徴の一つと言える。ゆえに、mRNAの固相固定化及びタンパク質の合成・固定化以外の技術(例えば、使用するプレートの材料・サイズ、使用するプロテインの種類・配置、プロテインチップを用いたタンパク質の機能解析方法等)は、公知のプロテインチップの技術をそのまま利用することができる(Kukar T,Eckenrode S,Gu Y,Lian W,Megginson M,She JX,Wu D.Protein microarrays to detect protein−protein interactions using red and green fluorescent proteins.Anal Biochem.2002;306(1):50−4等参照)。なお、上記mRNAビーズ又は上記mRNAチップと無細胞翻訳系を含む診断キット、あるいは、タンパク質相互作用解析用キットも本発明の範囲内である。このようなmRNAチップを用いることによって、タンパク質−タンパク質相互作用、DNA−タンパク質相互作用、リガンドの探索、疾病マーカーの探索、疾病の診断、薬効評価、薬物動態の評価などに利用することができる。
また、本発明の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系と接触させることによって合成されるタンパク質が、上記連結体へ付加された構造からなる連結体(「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」と記載する)も、本発明に含まれる。即ち本発明は、本発明の「固定化mRNA−ピューロマイシン連結体」を翻訳系へ供して合成される該mRNAの翻訳産物のタンパク質(ポリペプチド)が、該連結体におけるピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を介して連結してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体に関する。該連結体は、例えば、後述の「タンパク質と標的分子との相互作用を解析する方法」に好適に用いることができる。また上記連結体の一つの態様としては、上述のように、固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体がマイクロアレイ用基板へ固定された構造のプロテインチップを例示することができる。
また本発明の好ましい態様においては、上記「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を、逆転写反応系へ供する(逆転写反応系と接触させる)ことにより、該mRNAの逆転写産物である相補的DNA(該mRNAとハイブリダイズするDNA)を合成することが可能である。例えば、本発明の上記スペーサーとして、mRNAの3’末端配列と相補的な配列を含むDNAスペーサーを用いる場合、該相補的な配列が該mRNAの逆転写反応においてプライマーとして機能することが期待される。即ち、該mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を逆転写反応系へ供することにより、該プライマーを合成起点とするDNA合成反応が開始され、該mRNAと相補的な配列からなるDNAが合成される。このようにして合成されるDNAを含む連結体(「DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」と記載する)もまた、本発明に含まれる。即ち本発明は、本発明の「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を、逆転写反応系へ供して合成される該mRNAの相補的DNAが、該連結体と結合してなる、固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を提供する。
本発明の上記連結体においてピューロマイシンと連結される核酸分子は、通常、mRNAと該mRNAの相補的DNAとの二本鎖核酸分子であるが、当該核酸分子におけるmRNAは、その後のヌクレアーゼ反応等によって消化されていてもよい。即ち、一本鎖の(mRNAと相補的)DNA分子がピューロマイシンと連結された構造からなる「固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」もまた、本発明の連結体の一つの態様である。さらに、本発明の上記連結体において、ピューロマイシンと連結される核酸分子は、該DNAと相補性を有するDNAからなる二本鎖DNAであってもよい。
なお、本発明において「逆転写反応系」とは、mRNAを鋳型としてDNAを合成する所謂「逆転写」を司る反応系をいい、当該反応系は通常、逆転写酵素を含有する。本発明の逆転写反応は、当業者においては、適宜実施することが可能である。より具体的には、後述の実施例に記載の方法により行うことができる。
5.タンパク質と分子との相互作用を解析する方法
本発明の別の態様によれば、上記したmRNA−PM連結体を用いたタンパク質と分子との相互作用を解析する方法が提供される。この解析方法は、
(a)一以上の本発明の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を、翻訳系に投入し、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたタンパク質と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(c)該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程を含む。
この解析方法は、例えば、(i)配列既知のタンパク質に作用する物質をスクリーニングする場合、(ii)ある特定の物質(例えば、リガンド)が結合する配列未知のタンパク質をスクリーニングする場合等に用いることができる。例えば、(i)の場合は、配列既知のタンパク質(例えばオーファンレセプタータンパク質)をコードする核酸配列を有するmRNAとピューロマイシンとの連結体を複数用意しておき(すなわち、複数のオーファンレセプタータンパク質に対応するmRNAをそれぞれ有するmRNA−PM連結体を複数用意)、これを翻訳系に投入する。すると、各mRNA−PM連結体のmRNAから複数のオーファンレセプタータンパク質が合成される。各オーファンレセプタータンパク質は、固相に固定されたmRNA−PM連結体のピューロマイシンにC末端が結合することによって固定される。必要に応じて、不要な成分を洗浄除去し、これに標的物質及びバッファー等を加えて、標的物質をオーファンレセプタータンパク質に結合させることによって、結合実験を行う。(ii)の場合は、例えば、ある遺伝子ライブラリーから複数のmRNAを取得し、複数のmRNAとピューロマイシンとの連結体を作成し、固相に固定する。以下、同様にタンパク質の合成を行い、標的物質をそのタンパク質に接触させて結合実験を行う。
上記工程(b)においては、工程(a)において合成されたタンパク質と一以上の標的物質とを接触させる。ここで用いられる「標的物質」とは、本発明において合成されるタンパク質と相互作用するか否か調べるための物質を意味し、具体的にはタンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。
タンパク質としては、特に制限はなく、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳、精製されたタンパク質を用いることができる。
核酸としては、特に制限されることはなく、DNAあるいはRNAも用いることができる。また、塩基配列あるいは機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、及び塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
糖鎖としては、特に制限はなく、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
低分子化合物としては、特に制限されず、機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
なお、これら標的物質とタンパク質との「相互作用」とは、通常は、タンパク質と標的分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子の間の結合及び解離、酵素と基質の間の結合及び解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、あるいは糖鎖とタンパク質との間の結合及び解離が挙げられる。
ここで用いられる標的物質は、必要に応じて標識物質により標識して用いることができる。必要に応じて標識物質を結合させることによって標識することができる。そのような標識物質は、蛍光性物質、放射性標識物質などから適宜選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えば活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホアミダイドに変換可能な水酸基、あるいはアミノ基など)を持ち、標的物質に連結可能な種々の蛍光色素を用いることができる。適当な標識物質としては、例えばフルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質;H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体などが挙げられる。これらの標識物質は、標的物質と固定化タンパク質との間の相互作用に基づいて発生される信号の変化の測定又は解析方法に適したものが適宜用いられる。上記標識物質の標的物質への結合は、公知の手法に基づいて行うことができる。
次いで、本解析方法によれば、工程(c)において、該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する。該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かの測定は、両分子間の相互作用に基づいて発生される信号の変化を測定、検出することにより行う。そのような測定手法としては、例えば、表面プラズモン共鳴法(Cullen,D.C.,et al.,Biosensors,3(4),211−225(1987−88))、エバネッセント場分子イメージング法(Funatsu,T.,et al.,Nature,374,555−559(1995))、蛍光イメージングアナライズ法、固相酵素免疫検定法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA):Crowther,J.R.,Methods in Molecular Biology,42(1995))、蛍光偏光解消法(Perran,J.,et al.,J.Phys.Rad.,1,390−401(1926))、及び蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy(FCS):Eigen,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,5740−5747(1994))等が挙げられる。
本発明の解析方法においては、必要に応じて、さらに、工程(c)において相互作用していると判断されたタンパク質−標的物質結合体中の、タンパク質及び/又は標的物質を同定する。タンパク質の同定は、通常のアミノ酸配列シークエンサーで行うこともできるし、該タンパク質に結合しているmRNAからDNAを逆転写し、得られたDNAの塩基配列を解析することによって行うこともできる。標的物質の同定は、NMR、IR、各種質量分析などによって行うことができる。なお、本発明のmRNAチップ及びプロテインチップを用いて、タンパク質−タンパク質間相互作用を解析する場合は、通常のプロテインチップ上のサンプル解析と同様に、飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF MS)を用いることができる。
また本発明の上記方法は、上記工程(a)に続いて、工程(a)において合成されるmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を逆転写反応系へ供することにより、該連結体におけるmRNAと相補的なDNAを含有する連結体(DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体)を作製し、上述のその後の工程を実施させてもよい。即ち本発明の好ましい態様においては、以下の工程を含むタンパク質と分子との相互作用を解析する方法を提供する。
(a)一以上の、本発明のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体と、翻訳系とを接触させて、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と、逆転写反応系とを接触させて、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程;
(c)工程(b)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(d)該連結体におけるタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程;
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の固定mRNA−ピューロマイシン連結体を用いてタンパク質を合成・固定化する方法を示す概略図である。
図2は、実施例1及び2で使用した2種類の遺伝子を示す図である。
図3は、ProteinA B−domainまたはGFPのmRNAへ、ピューロマシン付きスペーサーDNAを共有結合させたものの概略図を示す図である。
図4は、実施例1におけるSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図5は、実施例2において、ビーズの上で翻訳させたGFPの蛍光を顕微鏡下で観察した写真である。
【符号の説明】
1:固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、1a:mRNA、
1b:ピューロマイシン、1c:DNAスペーサー、
1d:固相結合部位、2:固相、3:無細胞翻訳系、
4:タンパク質。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
1.スペーサーBioLoop−Puro(以下“PM付きスペーサーDNA”と略す)の合成
Puro−F−S[配列;5’−(S)−TC(F)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−CC−(Puro)−3’、BEX社より購入]10nmolを、100μlの50mMリン酸バッファー(pH7.0)に溶かし、100mM TCEPを1μl加え(final 1mM)、室温で6時間放置し、Puro−F−SのThiolを還元した。架橋反応を行う直前に50mMリン酸バッファー(pH7.0)で平衡化したNAP5(アマシャム、17−0853−02)を用いてTCEP(Tris(2−carboxyethyl)phosphine hydrochloride)を除いた。なお、Puro−F−Sの配列中、(S)は5’−Thiol−Modifier C6、(F)はFluorescein−dT、(Puro)はPuromycin CPG、Spacer18はGlen Research Search社製のスペーサー(18−O−Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1−[(2−cyanoethyl)−(N,N−diisopropyl)]−phosphoramidite)で次の化学構造を有する。

0.2Mリン酸バッファー(pH7.0)100μlに、500pmol/μl Biotin−loop[(56mer)配列;5’−CCCGG TGCAG CTGTT TCATC(T−B)CGGA AACAG CTGCA CCCCC CGCCG CCCCC CG(T)CCT−3’(配列番号1、BEX社より購入),(T):Amino−Modifier C6 dT,(T−B):Biotin−dT(アンダーラインは制限酵素PvuIIのサイトを示す)]20μl、100mM架橋剤EMCS(344−05051;6−Maleimidohexanoic acid N−hydroxysuccinide ester、Dojindo社製)20μl、を加え、良く攪拌した後、37℃で30分放置した後に、未反応のEMCSを取り除いた。沈殿を減圧下で乾燥させた後、0.2Mリン酸バッファー(pH7.0)10μlに溶かし、上記の還元したPuro−F−S(〜10nmol)を加えて4℃で一晩放置した。サンプルに最終で4mMになるようにTCEPを加え室温で15分放置した後、未反応のPuro−F−Sをエタノール沈殿で取り除き、未反応のBiotin−loopを取り除くために以下の条件でHPLC精製を行った。
カラム;nacalai tesque CSOMOSIL 37918−31 10x250mm C18−AR−300(Waters)
BufferA;0.1M TEAA、BufferB;80%アセトニトリル(超純水で希釈したもの)
流速;0.5ml/min(B%:15−35% 33min)
HPLCの分画は18%アクリルアミドゲル(8M尿素、62℃)で解析し、目的の分画を減圧下で乾燥させた後、DEPC処理水で溶かして、10pmol/μlにした。
2.固相上での翻訳(ProteinA B−domain)
2−1 実験に使用する遺伝子のmRNAを合成
5’側にT7、Cap、オメガ配列、Kozak配列、3’末端に6xヒスチジンタグをもち、終止コドンを削ったProteinA B−domain(371bp;配列番号2)及び5’末端にT7、Cap、Kozak配列をもち終止コドンを削ったGFP(Green fluorescent protein)(717bp;配列番号3、Ito,et al.,Biochem Biophys Res Commun.1999:264(2):556−60に記載の変異体)をクローニングし使用した。共に、スペーサーDNAの一部と相補的であるタグ配列(5’側−aggacggggggcggggaaa(配列番号4)、アンダーラインはスペーサー配列と相補的な部分)を含むように設計したプライマーでPCR反応を行うことで、3’末端にタグ配列をもつDNAを得た。PCR反応はTaKaRa ExTaq(TakaraBio社)1ユニットを50μlのPCR反応液に加え、鋳型DNAは1fmol加え、下記プライマーを用い、下記条件で行った。


[条件]熱変性95℃ 2分の後、熱変性95℃ 30秒、
アニーリング69℃ 15秒、伸長反応72℃ 45秒
のサイクルを30回繰返し
得られたDNAの構成を図2に示す。後に、in vitro転写(Promega、P1300)でmRNAを合成した。転写は、プロメガ社のキット付属のプロトコルに従いDNA1μg、20μlスケールで次のように行った。すなわち、37℃で一時間放置した後、キット付属のDNase(RQ1 DNase)を1ユニット加え、さらに37℃で15分放置した。合成の際、プロメガ社のプロトコルに従い、m7G Cap Analog(Promega,P1711)を加えた。5’キャップアナログがついたmRNAは、DNase、フェノール・クロロフォルム処理した後、DS Primer Remover(Edge Biosystems)で精製し定量した。
2−2 mRNAとPM付きスペーサーDNAの結合
5’キャップ及び3’にタグ配列を持ったmRNA 300pmolに、PM付きスペーサーDNAを300pmol、10xLigation Buffer(TaKaRa)6μl、DMSO 2.5μl、を加え55μlになるようDEPC処理水を加えた。熱湯上で85℃から35℃へ20分かけてアニーリングし、15unit T4 Plynucleotide Kinase(TaKaRa、2.5μl)、100unit T4 RNA Ligase(TaKaRa、2.5μl)を加え、25℃45分反応させた。サンプルをRNeasy Mini Kit(Quiagen,74104)で処理した後、さらにDS Primer Removerで精製した。
図3に、ProteinA B−domainまたはGFPのmRNAへ、PM付きスペーサーDNAを共有結合させたものの概略図を示す。図3中、Pはピューロマイシン、FはFITC、Bはビオチン、ATCGuはDNA、RNAシーケンスを示している。大文字で示した部分は制限酵素PvuIIサイト(四角枠で囲った部分)を含むDNA部分、小文字で示した部分はmRNAで、3’末端側のDNAと相補鎖を形成している部分がTag配列に結合している。RNAの3’末端とDNAの5’末端は“T4 RNA Ligase”と示した部分でライゲートされている。
2−3 PM付きスペーサーDNA−mRNA複合体のビーズ上への結合
上記のように合成した、PM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を、直径2.3μm±0.3μmのアビジンビーズ(MAGNOTEX−SA、TaKaRa、9088)へ、添付のプロトコルに基づき以下のようにして結合させた。
60μlのアビジンビーズを200μlの1 x Binding Buffer(添付されたもの)で2回、マグネットスタンドを用いてアビジンビーズを沈殿させ、上清を交換することで洗浄した。洗浄後、沈殿させたビーズへ、上記2−2で合成したPM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を48pmol加え、1 x Binding Buffer(添付されたもの)を合計で120μlになるように加え、10分間室温で静置した。その後、上記のように、200μlの1 x Binding Buffer(添付されたもの)でビーズを洗浄することで、ビーズに結合しなかったPM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を取り除いた。さらに、20 x Translation Mix(Ambion)10μl、DEPC処理水190μlを加え、同様にビーズを洗浄した。
2−4 翻訳
上記のビーズをマグネットスタンド上で沈殿させ、無細胞翻訳系(Retic Lysate IVT Kit,Ambion社,1200)を300μl分加え、30℃15分翻訳反応を行った。その後、MgCl、KClをそれぞれ最終で63mM、750mMになるように加えて37℃で1.5時間放置した。サンプルは、約1時間毎に軽く攪拌した。上記のようにビーズを沈殿させ、SUPERase・In(Ambion社、2694)20unitを含んだ1 x Binding Buffer(添付されたもの)200μlで2回ビーズを洗浄した。
2−5 逆転写
洗浄後、上記と同様にして沈殿させたビーズに対して、TaKaRa BIOMEDICALS社添付のプロトコルに従い、80μlのスケールで逆転写酵素M−MLV(TaKaRa、2640A)を用いて42℃10分間、逆転写反応を行った。その後に上記と同様にして、1 x Binding Buffer(添付されたもの)200μlでビーズを洗浄した。
2−6 ビーズからDNA−タンパク質を回収
沈殿させたビーズに対して、添付のプロトコルに従い、40μlのスケールで24unitの制限酵素PvuII(TaKaRa)で37℃1時間放置することでビーズ上のDNA−タンパク質をビーズから切り離す処理を行った。ここでは特に、ビーズとDNA−タンパク質の非特異的な吸着を避けるために、BSAを最終0.1mg/mlになるように加えた。その後、上記と同様にしてビーズを沈殿させ、上清を新しいサンプルチューブに移した。逆転写の際、テンプレートとなったmRNAがDNA−タンパク質のDNAの部分と相補鎖を作ったままなので、その上清にRibonuclease H(Promega,M4281)を2unit加え、37℃、20分反応させることで逆転写後に残っているmRNA部分を分解した。
2−7 Hisタグ精製
Quiagen社のプロトコルに従い、サンプルを等量のLysisバッファー(NaHPO 50mM,NaCl 300mM,imidazole 10mM,Tween20 0.05%,pH8.0)に希釈し、20μlのNi−NTAビーズ(Ni−NTA MagneticAgaroseBeads、QIAGEN社、36111)を加え、室温で40分攪拌しながら放置した。上記と同様にしてマグネットスタンドでNi−NTAビーズを沈殿させ、100μlのWashバッファー(NaHPO 50mM,NaCl 300mM,imidazole 20mM,Tween20 0.05%,pH8.0)で軽く洗浄した。ビーズを沈殿させた後、Eluteバッファー(NaHPO 50mM,NaCl 300mM,imidazole 250mM,Tween20 0.05%,pH8.0)を15μl加え1分間室温で放置し、DNA−タンパク質を溶出させた。同様にしてビーズを沈殿させ、DNA−タンパク質が溶出した上清をとりわけ、6M尿素を含んだ5%SDS−PAGEで解析した。ゲルのバンドは、Molecular imager FX(Bio RAD co.)でFITCの蛍光を可視化することで定量した。得られた結果を図4に示す。
3.固相上でのタンパク質合成(ProteinA B−domain)の結果
図4aは、PM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を無細胞翻訳系に加え、溶液中で(通常どおりに)mRNA−タンパク質の複合体を作成した結果であり、FITCの蛍光を可視化したものである。レーン1は翻訳前、2は翻訳後である。翻訳反応後現れた“RNA virus”と示した位置のバンドは、その分子量から判断して、スペーサーDNAのピューロマイシンを介して、mRNAとそのmRNAがコードするタンパク質が共有結合された複合体であると考えられる。“genome”と記した位置のバンドは、タンパク質が結合していない、スペーサーDNA、mRNAの複合体である。
ビーズ上で翻訳、逆転写反応を行い、制限酵素でビーズから切り離し回収したものも同様に、2本のバンドが観察され(レーン1)、高分子量のバンド(矢じり)が目的とするDNA−タンパク質の共有結合体、低分子量の太いバンドはタンパク質がつかなかったものであると考えられる(図4b)。このことは、タンパク質のC末端側に導入した6 x His−tagで精製した結果、高分子量のバンドのみが溶出されたことから確認される(レーン2、3)。また、この結果は、ここで合成・固定化されたDNA−タンパク質複合体のタンパク質部分は、通常液相で合成されるタンパク質同様、完全長が合成されたことを示すものである。
これらの結果から、固相上に、PM付きスペーサーDNAを介してmRNAを固定し、そこに無細胞翻訳系を加える方法で、そのmRNAがコードしているタンパク質を翻訳直後に自動的に固相上に固定化できることが示された。
なお、SDS−PAGEにおけるFITCの蛍光で可視化したバンドを基に回収されたDNA−タンパク質複合体の量を計測した結果、固相上で合成され制限酵素で切り離し回収した時点でのDNA−タンパク質(図4b矢じり)は、加えたmRNAの0.4%、さらにHis−tag精製し抽出されたもの(図4b“DNA virus”)は、加えたmRNAの0.1%だった。
〔実施列2〕固相上で合成されたタンパク質の機能を検出(GFP)
1.スペーサーがついたmRNAをビーズ上へ固定
実施例1の2−3と同様にPM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体をアビジンビーズに固定した。GFPの蛍光を観察するために、スペーサーDNAは上記2で用いたものとは違い、Puro−S[配列;5’−(S)−TC(F)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−CC−(Puro)−3’、(S):5’−Thiol−Modifier C6、(Puro):Puromycin CPG、BEX社より購入]で同様に合成したものを使用した。アビジンビーズはBangs社の直径460nmのものを使用し、以下のようにしてビーズ上に固定化した。
10μl分のビーズを100μlの0.5 x Binding buffer(50mM Tris HCl pH8.0,0.05% Tween20,500mM NaCl)で2度洗浄した。洗浄は、ビーズを含んだ溶液を15,000rpm 5分間4℃で遠心分離し、上清を液交換することで行った。洗浄したビーズの沈殿に、実施例1の2−2と同様の方法で合成した、8pmolのPM付きスペーサーDNAとGFPのmRNAの複合体を加え、1 x Binding Bufferで40μlになるように希釈し、室温で15分静置してビーズに結合させた。上記のようにして100μlの0.5 x Binding bufferで1度洗浄し、ビーズに結合しなかったmRNAを取り除いた。さらに、20 x TransLationMix(Ambion社)10μl、DEPC処理水190μlを加え、同様にビーズを洗浄した。
2.翻訳
遠心分離で沈殿させたビーズへ無細胞翻訳系(Retic Lysate IVT Kit,Ambion社,1200)を20μl分加え、30℃30分反応させた後、MgCl、KClをそれぞれ最終で63mM、750mMになるように加え、25℃で2時間放置した。サンプルは、約1時間毎に軽く攪拌した。15,000rpm 6分遠心分離によりビーズを沈殿させ、上記と同様にして遠心分離により、リン酸NaClバッファー(50mMリン酸ナトリウムpH7.0、100mM NaCl)で2回ビーズを洗浄した。沈殿させたビーズを20μlリン酸NaClバッファーに懸濁し、氷上で保存した。
3.顕微鏡下での観察
上記のビーズを含む懸濁液を50mMリン酸バッファーpH7.0でさらに1/5に希釈し、活性酸素除去のための酵素系(25mM glucose,2.5μM glucose oxidase,10nM catalase,10mM ditiothreitol)存在下で顕微観察を行った。顕微鏡はNicon、TE2000を用い、473nm 0.35mWの対物エバネッセント照明で励起し、GFPの蛍光を冷却CCDカメラORCA−ER(浜松フォトニクス)で1.04秒の露光で撮影した。ネガティブなコントロールとして、実施例1の3−1及び3−2と同じ方法で並列してビーズにスペーサーDNAのみを同じ濃度で結合させ、同じ条件で観察を行った。観察結果を図5に示す。図5は、ビーズの上で翻訳させたGFPの蛍光を顕微鏡下で観察した写真である。ビーズ(直径460nm)の明視野像に、473nmのレーザーで励起したときの蛍光像を重ね合わせた。図5aは、PM付きスペーサーDNAとGFPのmRNAの複合体8pmolを10μl分のアビジンビーズに結合させ翻訳反応を行ったもの、図5bは、PM付きDNAスペーサーのみ8pmolを10μl分のアビジンビーズに結合させ、同じ条件で翻訳反応を行った結果の顕微観察像を示す。蛍光像は緑の擬似カラーで確認した。
4.結果
実施例1の結果をさらに、確かなものにするために、同じ方法でGFPをビーズ上で翻訳し、翻訳されたビーズ上のGFPの蛍光をエバネッセント顕微鏡下で直視することを試みた。その結果、PM付きスペーサーDNAのみをビーズに結合させ観察を行ったときに比べて優位に、PM付きスペーサーDNAにGFPのmRNAをつないだ後ビーズに固定し翻訳させたビーズ上に、GFPの蛍光を観察することができた。したがって、目的とするタンパク質が固相で合成され固定されたことが再度確認された。
産業上の利用の可能性
以上説明したように、本発明によれば、mRNA及びタンパク質の固相固定化方法、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体、この連結体を含むmRNAビーズ又はmRNAチップ、このmRNAチップから作製されるプロテインチップなどを提供することができる。このようなmRNAチップは、保存が容易であるから、既存のプロテインチップと比較して極めて取り扱いが容易であるという利点がある。
また本発明は、上記固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系へ供して合成される該mRNAの翻訳産物のタンパク質が、該ピューロマイシンと結合した構造の「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を提供する。該連結体は、タンパク質と相互作用し得る分子の解析あるいはスクリーニングに利用することができる。
さらに本発明は、上記「固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を、逆転写反応系へ供することにより、該mRNAの逆転写産物の相補的DNAが連結した構造の「固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体」を提供する。通常、RNAに比べてDNAはより安定であることから、タンパク質相互作用解析において、該連結体を被検分子と接触させる際に、該連結体は非常に有用である。
また、本発明のmRNAチップは、各種疾病の診断マーカーを認識するタンパク質の合成に用いられるmRNAを固定することによって、各種疾病の診断に利用することができる。さらに、本発明のタンパク質の固相固定化又は合成方法は、タンパク質と分子との相互作用の解析にも好適に利用できる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体を固相に固定してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン連結体。
【請求項2】
前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、mRNAの3’末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を連結したものである請求項1に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体。
【請求項3】
前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、前記スペーサーに設けた固相結合部位を介して固相に結合されている、請求項1又は2に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体。
【請求項4】
前記スペーサーが、ポリヌクレオチド、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体。
【請求項5】
前記固相が、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、ガラス容器、プラスチック容器及びメンブレンから選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系へ供して合成される該mRNAの翻訳産物のタンパク質が、該連結体におけるピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を介して連結してなる、固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体。
【請求項7】
請求項6に記載の固定化mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を、逆転写反応系へ供して合成される該mRNAの相補的DNAが、該連結体と結合してなる、固定化DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体をマイクロアレイ用基板に固定してなる、mRNAチップ。
【請求項9】
請求項8記載のmRNAチップを用いて作製されるプロテインチップ。
【請求項10】
mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物との連結体がビーズに固定してなるmRNAビーズ。
【請求項11】
請求項8記載のmRNAチップ又は請求項10記載のmRNAビーズ、及び無細胞翻訳系を含むタンパク質相互作用解析用キット。
【請求項12】
(a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、及び、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程
を含む、mRNAを固相に固定化する方法。
【請求項13】
(a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程;及び
(c)該mRNA−ピューロマイシン連結体と翻訳系とを接触させることによって、タンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を固相に固定化する方法。
【請求項14】
(a)固相結合部位を設けたスペーサーを介して、mRNAとピューロマイシンを連結して、mRNA−ピューロマイシン連結体を調製する工程、
(b)該スペーサーの固相結合部位を固相に結合させることによって、該mRNA−ピューロマイシン連結体を固相に固定する工程;及び
(c)該mRNA−ピューロマイシン連結体と翻訳系とを接触させることによって、タンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を固相で合成する方法。
【請求項15】
タンパク質と分子との相互作用を解析する方法であって、
(a)一以上の、請求項1〜5のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体と、翻訳系とを接触させて、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたタンパク質と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(c)該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程;
を含む上記解析方法。
【請求項16】
タンパク質と分子との相互作用を解析する方法であって、
(a)一以上の、請求項1〜5のいずれかに記載の固定化mRNA−ピューロマイシン連結体と、翻訳系とを接触させて、固相上でタンパク質を合成する工程;
(b)工程(a)において合成されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と、逆転写反応系とを接触させて、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程;
(c)工程(b)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体と一以上の標的物質とを接触させる工程;及び
(d)該連結体におけるタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する工程;
を含む上記解析方法。
【請求項17】
さらに、相互作用していると判断されたタンパク質及び/又は標的物質を同定する工程を含む、前記請求項15又は16に記載の解析方法。

【国際公開番号】WO2005/001086
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511126(P2005−511126)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009396
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(504212817)有限会社ジーン・フィールド (2)
【Fターム(参考)】