説明

固定密封構造

【課題】間隙寸法が小から大まで広い範囲で相違する箇所に適用できる密封構造を提供する。
【解決手段】シール材Sを有し、このシール材Sは圧縮シール部5と、自封シール部7とを、一体として具備し、自封シール部7はV字型であって、シール溝2の開口部24から大きく突出したメインリップ部9を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の固定部位の密封に用いられる密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の固定部位の密封には、図5,図6に示すゴム製のOリング40やUパッキン41が広く使用されている(特許文献1参照)。
即ち、第1部材45のシール溝42に、Oリング40又はUパッキン41を装着して、第2部材46との間を密封していた。
【0003】
ところで、一般に、各種Oリング40やUパッキン41に対応するシール溝42の寸法、及び、第1部材45と第2部材46との間隙寸法(クリアランス)ΔGは、その“適正値”が、規格やカタログ等で規定されている。つまり、図5(A),図6(A)に示すような間隙寸法ΔGを“適正値”として規定して、潰し代を適切に確保することで、十分なシール性(密封性能)を発揮させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、実際の使用現場に於ては、図5(B),図6(B)に示すように、間隙寸法(クリアランス)ΔGが前記“適正値”を越える場合が発生する。例えば、図5(B),図6(B)に於て、第1部材45が円形外周面を有する部材(ピストン等)であり、第2部材46が円形内周面を有するハウジングである場合、一の外径寸法の第1部材45に対して、内径が過大寸法のハウジングを使用せねばならないことがあるが、これでは、適正な潰し代ΔH(図5(A),図6(A)参照)が確保されなくなり、矢印Fにて示した洩れを発生するに至る。
【0006】
このような問題を解決するためには、Oリング40の線径を見直し、又は、Uパッキン41の寸法を見直す必要があり、あるいは、シール溝42の寸法を見直す等の対策を必要とし、コストと時間が掛る等の問題があった。
また、例えば配管用継手用密封構造として、相違する配管内径であれば、それに対応したサイズのOリング40又はUパッキン41を要し、シールの種類が多くなるという問題があった。あるいは、第2部材46が肉薄の円筒体や平板等の場合に、圧力を受けて大きく変形して、間隙寸法(クリアランス)ΔGが、図5(B),図6(B)のように増大して、洩れFを発生することもある。
【0007】
そこで、本発明は、上述の従来の問題点を解決して、間隙寸法(クリアランス)ΔGが少々大きくとも、確実かつ安定して、密封することが可能な固定密封構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に係る固定密封構造は、横断面矩形のシール溝を有する第1部材と、上記第1部材に対応して配設される第2部材と、上記シール溝に装着されて上記第1部材と第2部材の間を密封するシール材とを、備えた固定密封構造に於て;上記シール材は;上記シール溝の背圧側壁面寄りに配設されて、シール溝装着未圧縮状態下で、上記シール溝の開口部から突出する丸山部を有すると共に、使用状態下で、上記シール溝の溝底壁面と上記第2部材によって圧縮弾性変形して密封可能となる圧縮シール部と;上記シール溝の溝底壁面に沿うように接触する溝底リップ部と、シール溝装着未圧縮状態下で、該溝底リップ部の背圧寄り端部から傾斜状に延伸して、上記丸山部よりも大きく上記開口部から突出するメインリップ部とから成る、自由状態下でV字型の自封シール部と;を一体として具備している。
【0009】
また、上記メインリップ部の基部と、上記圧縮シール部の丸山部の裾部との連設部位に、小凹窪部を形成したものである。
また、上記第1部材と第2部材の間隙寸法が小さい状態下では主として上記圧縮シール部にて密封作用を行うと共に、上記間隙寸法が大きい状態下では主として上記自封シール部にて密封作用を行うように構成した。
また、上記間隙寸法が大きい状態下で受圧した際、上記自封シール部のメインリップ部の上記基部が、上記圧縮シール部の丸山部に寄り掛って背面支持されて該メインリップ部は横断面膝折曲型として密封作用をなすように構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1部材と第2部材の間隙寸法が、小さい値から大きな値まで大きく変化しても、常に安定して優れた密封性能を発揮できる。しかも、円筒状クリアランス(間隙)部位、及び、平坦面状クリアランス部位のいずれにも好適であり、例えば、ピストンとハウジングの間、及び、フランジと平面状蓋との間のいずれの密封にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の一形態を示す自由状態のシール材の横断面説明図である。
【図2】装着未圧縮状態を示す横断面図である。
【図3】クリアランス(間隙)が小さい場合の使用状態を示す横断面図である。
【図4】クリアランス(間隙)が大きい場合の使用状態を示す横断面図である。
【図5】一つの従来例を示す説明用横断面図である。
【図6】他の従来例を示す説明用横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1〜図4に於て、2は横断面矩形のシール溝であって、このシール溝2が凹設された部材を第1部材11と呼ぶ。この第1部材11に対応して配設される部材を第2部材12と呼ぶ。第1部材11のシール溝2にシール材Sが装着されて、第1部材11と第2部材12の間の間隙部3が密封される。
【0013】
第1部材11がピストン等の円形外周面を有し、第2部材12がハウジング等の円形内周面を有しており、ラジアル外方へ開口したシール溝2が形成されている。あるいは、逆に、第1部材11がハウジング等の円形内周面を有し、第2部材12がピストン等の円形外周面を有しており、ラジアル内方へ開口したシール溝2が形成されている。又は、第1部材11と第2部材12のいずれか一方がフランジ等の平面状対応面を有し、他方が蓋板等の平面状対応面を有し、全体が円形や楕円形や多角形状のシール溝2が、第1部材11の平面状対応面に形成される。
そして、シール材Sは、ゴムや軟質プラスチック等の弾性材から成り、シール溝2の背圧側壁面21寄りに配設される圧縮シール部5と、密封流体側(受圧側)Pへ開脚状のV字型の自封シール部7とを、一体に有する。
【0014】
上記圧縮シール部5は、図2に示すようなシール溝装着未圧縮状態下で、シール溝2の開口部24から突出する丸山部14と、その丸山部14の底部に連設された横断面矩形の基部15と、から成る。この圧縮シール部5は、図3に示すように、間隙部3が零乃至小さい場合の使用状態下で、丸山部14が第2部材12の当接面12Aにて押圧され密封作用をなす。即ち、圧縮シール部5は、図3に示すような使用状態下で、シール溝2の溝底壁面22と第2部材12によって、圧縮面圧P0を受けて圧縮弾性変形し、密封可能である。
【0015】
圧縮シール部5の横断面形状は、長円形を短軸にて切断した半長円形状、乃至、競技トラック形状から一方の弯曲部を切断除去した形状として、シール溝2の背圧側壁面21に沿って縦長状に装着されている。このように圧縮シール部5は、従来の図5に示したOリング40と同様の圧縮シール機能を発揮する部位に相当する。但し、間隙部3が適正値乃至その近傍である場合に、上記圧縮シール機能を圧縮シール部5が発揮する。
また、V字型の自封シール部7は、シール溝2の溝底壁面22に沿うように接触する溝底リップ部8と、(図2に示す)シール溝装着未圧縮状態下で、上記溝底リップ部8の背圧寄り端部(基端部)8Aから傾斜状に延伸して、丸山部14よりも大きくシール溝2の開口部24から突出するメインリップ部9と、から成る。
【0016】
図1に示すように、メインリップ部9と溝底リップ部8のなす角度をθとすると、30°≦θ≦60°とするのが望ましい。シール溝2の深さ寸法H0 と幅寸法Wの比は、(10:25)〜(10:35)に設定して、溝底壁面22が側壁面21,23に比して十分に大きい。言い換えると扁平矩形状にシール溝2が凹設される。これに対応するように、溝底リップ部8とメインリップ部9は、横断面に於て、肉厚が薄く、長さが大に設定される。
また、メインリップ部9の基部9Aと、圧縮シール部5の丸山部14の裾部14Aとの連設部位に、小凹窪部16が形成され、(後述する)図4に示すようなメインリップ部9の大きい変形を安定して行わしめる。
【0017】
図3に示すように、第1部材11と第2部材12の間の間隙寸法ΔGが小さい状態(適正値乃至その近傍値)では、主として圧縮シール部5にて(シール材Sとしての)密封作用を行う。このとき図3に矢印P0 にて示した圧縮面圧を受けて、圧縮シール部5が(従来のOリングのような)密封作用を行う。
ところが、図4に示すように、間隙寸法ΔGが大きい状態下では主として自封シール部7のメインリップ部9にて密封作用を行う。
【0018】
ところで、図2に示すように、自由状態下で、圧縮シール部5の高さ寸法H1 よりも、自封シール部7の高さ寸法H2 を十分大きく設定している。従って、図4に示す状態では、丸山部14が第2部材12から遊離し、自封シール部7のメインリップ部9が密封作用を行っている。
詳しく説明すれば、図4に於て、間隙寸法ΔGが大きい状態下で密封流体側Pから圧力pが作用すると、自封シール部7のメインリップ部9の基部9Aが、圧縮シール部5の丸山部14に寄り掛って、基部9Aは丸山部14に背面から支持され、メインリップ部9は横断面膝折曲型として、密封作用をなす。
【0019】
メインリップ部9は、折曲角部に想到する膝部10が、丸山部14の頂部と第2部材12との間隙部17に侵入して、矢印Fにて示すように、基部9Aは、丸山部14の受圧側Pの面に圧接しつつ支持される。このとき、膝部10から先端部9Bは、第2部材12に密に接触する。このように、間隙寸法ΔGが大きいとき、メインリップ部9がシールポイントになる。
リップ部8,9は、図3に示すように、シール溝2内に収容される必要があるため、薄肉に形成され、受圧時にそり返りやすくなるが、図4に示すように、丸山部14にて背面受持されるので、(そり返りが防止されて)図4に示すような横断面膝折曲姿勢をもって、密封作用をなすことができる。そして、前記小凹窪部16が、メインリップ部9の基部9Aに設けたことで、メインリップ部9が一定方向に変形して、図4の状態になる。
なお、図1に於て、星印19は、図4の膝部10の予定部を示すが、第1部材11と第2部材12の間隙寸法ΔGの大小に対応して、この星印19の位置は自由に変動する。
【0020】
また、メインリップ部9の厚さ寸法T9 は、シール溝2の深さ寸法H0 及び丸山部14の幅寸法W14に対して、以下の関係式が同時に成立するように設定する。
9 <W14
0 ×25%≦T9 ≦H0 ×50%
上式のように設定する理由は、背面支持する丸山部14の剛性・強度を維持する必要があり、また、シール溝2内に収容できると共に、メインリップ部9が適度の強度と剛性を備えて、流体圧力pに負けて座屈やそり返り等の異常変形を防止し、かつ、図4に示すような横断面膝折曲型にスムースに安定して変形させるためである。
【0021】
本発明は以上説明したように、横断面矩形のシール溝2を有する第1部材11と、上記第1部材11に対応して配設される第2部材12と、上記シール溝2に装着されて上記第1部材11と第2部材12の間を密封するシール材Sとを、備えた固定密封構造に於て;上記シール材Sは;上記シール溝2の背圧側壁面21寄りに配設されて、シール溝装着未圧縮状態下で、上記シール溝2の開口部24から突出する丸山部14を有すると共に、使用状態下で、上記シール溝2の溝底壁面22と上記第2部材12によって圧縮弾性変形して密封可能となる圧縮シール部5と;上記シール溝2の溝底壁面22に沿うように接触する溝底リップ部8と、シール溝装着未圧縮状態下で、該溝底リップ部8の背圧寄り端部8Aから傾斜状に延伸して、上記丸山部14よりも大きく上記開口部24から突出するメインリップ部9とから成る、自由状態下でV字型の自封シール部7と;を一体として具備している構成であるので、圧縮シール部5と自封シール部7の役割分担を巧妙に組合せて、クリアランス(間隙寸法)ΔGが小さい場合から大きい場合にわたって、優れた密封性能を発揮でき、円形周面間の密封から、平面間の密封まで応用範囲も広い。
また、大きな間隙寸法ΔGに於ても、巧妙に密封可能であるから、例えば、正規(適正)な径寸法の第2部材12にて優れた密封性能を発揮することの他に、間隙寸法ΔGが過大となるような非正規(不適正)な径寸法の第2部材12に対しても確実な密封性能を発揮できる。これによって、例えば、配管用管継手部のシールとして、異なる内径配管に対しても、1サイズのシール材にて対応でき、コスト低減、及び、在庫管理の容易化等の効果が得られる。あるいは、相手部材(第2部材12)の肉厚が薄く、加圧時に膨らむような変形を生じて、間隙寸法ΔGが増大しても、密封性を発揮して、外部漏洩を防止する。
【0022】
また、上記メインリップ部9の基部9Aと、上記圧縮シール部5の丸山部14の裾部14Aとの連設部位に、小凹窪部16を形成した構成であるので、メインリップ部9は受圧持に一定の方向に確実に変形して、図4に示すように、丸山部14と第2部材12との間隙部17を閉鎖し、優れたシール性を発揮する。
【0023】
また、上記第1部材11と第2部材12の間隙寸法ΔGが小さい状態下では主として上記圧縮シール部5にて密封作用を行うと共に、上記間隙寸法ΔGが大きい状態下では主として上記自封シール部7にて密封作用を行うように構成したので、1個のシール材Sをもって、間隙寸法ΔGの大小変化に順応できて、安定して優秀な密封性能を発揮する。
また、上記間隙寸法ΔGが大きい状態下で受圧した際、上記自封シール部7のメインリップ部9の上記基部9Aが、上記圧縮シール部5の丸山部14に寄り掛って背面支持されて該メインリップ部9は横断面膝折曲型として密封作用をなすように構成したので、間隙寸法ΔGが大きい場合、メインリップ部9は、柔軟に膝折曲型に弾性変形できると共に、その膝折曲型の姿勢を安定して保持できる。
【符号の説明】
【0024】
2 シール溝
5 圧縮シール部
7 自封シール部
8 溝底リップ部
8A 背圧寄り端部
9 メインリップ部
9A 基部
11 第1部材
12 大2部材
14 丸山部
14A 裾部
16 小凹窪部
21 背圧側壁面
22 溝底壁面
24 開口部
S シール材
ΔG 間隙寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面矩形のシール溝(2)を有する第1部材(11)と、上記第1部材(11)に対応して配設される第2部材(12)と、上記シール溝(2)に装着されて上記第1部材(11)と第2部材(12)の間を密封するシール材(S)とを、備えた固定密封構造に於て、
上記シール材(S)は、
上記シール溝(2)の背圧側壁面(21)寄りに配設されて、シール溝装着未圧縮状態下で、上記シール溝(2)の開口部(24)から突出する丸山部(14)を有すると共に、使用状態下で、上記シール溝(2)の溝底壁面(22)と上記第2部材(12)によって圧縮弾性変形して密封可能となる圧縮シール部(5)と、
上記シール溝(2)の溝底壁面(22)に沿うように接触する溝底リップ部(8)と、シール溝装着未圧縮状態下で、該溝底リップ部(8)の背圧寄り端部(8A)から傾斜状に延伸して、上記丸山部(14)よりも大きく上記開口部(24)から突出するメインリップ部(9)とから成る、自由状態下でV字型の自封シール部(7)と、
を一体として具備していることを特徴とする固定密封構造。
【請求項2】
上記メインリップ部(9)の基部(9A)と、上記圧縮シール部(5)の丸山部(14)の裾部(14A)との連設部位に、小凹窪部(16)を形成した請求項1記載の固定密封構造。
【請求項3】
上記第1部材(11)と第2部材(12)の間隙寸法(ΔG)が小さい状態下では主として上記圧縮シール部(5)にて密封作用を行うと共に、上記間隙寸法(ΔG)が大きい状態下では主として上記自封シール部(7)にて密封作用を行うように構成した請求項1又は2記載の固定密封構造。
【請求項4】
上記間隙寸法(ΔG)が大きい状態下で受圧した際、上記自封シール部(7)のメインリップ部(9)の上記基部(9A)が、上記圧縮シール部(5)の丸山部(14)に寄り掛って背面支持されて該メインリップ部(9)は横断面膝折曲型として密封作用をなす請求項2又は3記載の固定密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−256885(P2011−256885A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129065(P2010−129065)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】