説明

固定砥粒ソーワイヤー用電着液

【課題】砥粒が多く付着したソーワイヤーを高速で製造することのできるソーワイヤー用電着液を提供することを目的とする。
【解決手段】砥粒を100質量部以上10000質量部以下、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの少なくとも一方のコロイド粒子を50質量部以上100質量部以下含有し、電気伝導度が10mS/cm未満であることを特徴とするソーワイヤー用電着液により上記目的が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒ソーワイヤー用の電着液に関する。本発明に係る固定砥粒ソーワイヤー用電着液を用いると、ダイヤモンド等の硬質砥粒を高速で金属芯線の表面に固定させることができる。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池や各種の半導体デバイスを製造するに際して、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、サファイア、水晶等からなる柱状または塊状の素材インゴットが、スライシング加工により所望の厚さ寸法のウエに切断される。
【0003】
このような高硬度かつ高脆性材料を高精度かつ安価に切断するための加工方法として、細い金属ワイヤーを使用し、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)からなる砥粒を素材インゴットの切断面に供給しながら切断する、遊離砥粒方式の切断加工が一般的に行われてきた。
【0004】
しかし、遊離砥粒方式では加工時間が長時間となるほか、径の大きな素材インゴットを切断する場合には、素材インゴットの中心部まで砥粒を供給することが困難であり、金属ワイヤーの消費量も嵩んでいた。そこで、近年では、金属ワイヤー(金属芯線)の外周面に砥粒を予め固定しておくことにより、遊離砥粒を供給せずに高速に切断することができる固定砥粒型ソーワイヤーの開発が試みられている。
【0005】
ところで、固定砥粒型ソーワイヤーにおいては、金属芯線と砥粒との密着性が切断性や耐久性に大きく影響する。そこで、砥粒を金属芯線に強固に接合して砥粒の脱落を防止するために種々の技術が検討されている。
【0006】
特許文献1は、金属芯線に軟質めっき層と硬質めっき層とを設け、砥粒を両めっき層の間に固着させたソーワイヤーを提案している。
また、特許文献2は、予め金属めっき層が形成された砥粒を、金属芯線の上に形成しためっき層で金属芯線の上に固定したソーワイヤーを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9―150314号公報
【特許文献2】特開2006―181701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1が提案するように、金属芯線と砥粒との間に軟質金属めっき層を設けると、切断加工時に砥粒が軟質金属めっき層に沈み込んでその下に設けられた金属芯線を傷つけ、ソーワイヤーが断線する虞があった。
【0009】
また、特許文献2のように金属芯線をめっきしながら、めっき液中に分散した砥粒を付着させる所謂分散めっき法の場合、高濃度に含まれるめっき金属塩のために液の電気伝導度が非常に高く、したがって電解槽内の電場強度(電位差)を高めることができなかった。
【0010】
本発明者らは、砥粒が金属芯線表面へ電気泳動する速度は電場強度(V/cm)に比例するため、電気伝導度の高いめっき浴では砥粒の電着速度を高めることができないことを見出した。具体的には、無理にめっき電圧を高めると、金属芯線表面へのめっき金属イオンの供給が間に合わなくなり、金属芯線表面の水素ガスの発生やめっきヤケによる砥粒の密着不良を引き起こす。このため、印加可能なめっき電圧には限界があり、砥粒の電着速度にも限界があった。したがって、例えば特許文献2のような従来の分散めっき方法ではソーワイヤーへの砥粒の電着速度には本質的な限界があったことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明は、砥粒が多く付着したソーワイヤーを高速で製造することのできるソーワイヤー用電着液を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば以下が提供される。
(1) 砥粒を100質量部以上10000質量部以下、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの少なくとも一方のコロイド粒子を50質量部以上100質量部以下含有し、電気伝導度が10mS/cm未満であることを特徴とするソーワイヤー用電着液。
(2) (1)に記載のソーワイヤー用電着液であって、
水溶性リン化合物を含有することを特徴とする。
(3) pHが5以上10以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のソーワイヤー用電着液。
(4) 前記コロイド粒子は負の電荷を有することを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載のソーワイヤー用電着液。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るソーワイヤー用電着液によれば、ソーワイヤーの金属芯線とソーワイヤー用電着液を貯留する電着槽との間に電圧を印可することにより、帯電したコロイド粒子が金属芯線の表面に析出する。同時に、砥粒に付着したコロイド粒子が金属芯線に引っ張られ、また、金属芯線に向かうコロイド粒子が砥粒を押圧することで、砥粒が金属芯線の表面に付着し、同時に析出したコロイド粒子が金属酸化物層を形成し、砥粒を金属芯線の表面に固定する。このとき、ソーワイヤー用電着液の電気伝導度が10mS/cm未満と相対的に低く設定されていることにより、高い電場強度を付与しても金属の溶出やガス発生などの副反応をほとんど起こさずにコロイド粒子と砥粒を高速で金属芯線に電析させることができる。また、低い電気伝導度によりコロイド粒子や砥粒の分散性も優れたものとなり、浴液をより安定した状態で管理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、TiやZrの酸化物または水和酸化物粒子それぞれを帯電させて分散させた液中に砥粒が混合された混合液をソーワイヤー用電着液とし、このソーワイヤー用電着液に金属芯線を浸漬して金属芯線に電圧を印可すると、砥粒がTiやZrの酸化物又は水和酸化物とともに金属芯線の表面に高速で金属酸化物として析出することを見出し、本発明に至った。また、コロイド粒子の分散や析出には、リン酸や縮合リン酸等の水溶性リン化合物の添加が効果的であることを見出すとともに、コロイドの電荷や電着液のpHが砥粒の付着性に影響を及ぼすこと、また、砥粒とコロイド粒子の成分比が密着性に影響を与えることを見出した。
【0015】
本発明に係るソーワイヤー用電着液は、媒質としての水と、酸化チタンコロイド粒子または酸化ジルコニウムコロイド粒子(以下、併せて単にコロイド粒子とも呼ぶ)の少なくとも一方を50質量部以上100質量部以下含有するコロイド分散液と、100質量部以上10000質量部以下のダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)等からなる砥粒とを含有している。
【0016】
本発明に用いられる酸化チタンの種類としては、アナターゼ型二酸化チタン(メタチタン酸を含む)及びオルソチタン酸(アモルファス)が好ましい。また、ルチル型など他の二酸化チタンを用いても良い。酸化ジルコニウムは、特に限定されないが、アモルファス又は単斜晶あるいは立方晶等の結晶性のものが好ましい。
【0017】
これらのコロイド粒子は、塩化チタン、オキシ塩化チタン、硫酸チタン及び硫酸チタニルなどの無機チタン化合物を水に溶解し、塩酸や硝酸などの触媒を必要に応じて添加し、常温または加熱により加水分解することにより得られる。また、別の方法として、チタニウムアルコキシド、チタニウムアセチルアセトネートなどの有機チタン化合物の加水分解によっても得ることができる。
【0018】
また、酸化ジルコニウム粒子の原料としては、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、ジルコニウムアルコキシド、あるいは結晶性の酸化ジルコニウムゾルなどが使用できるが、これら原料に限定されない。
【0019】
このように酸性溶液中で得られた酸化チタンコロイド粒子あるいは酸化ジルコニウム粒子は正に帯電している。しかし、本発明のソーワイヤー用電着液に用いるコロイド粒子は、酸性〜中性のコロイド分散液中において負に帯電していることが好ましい。酸性〜中性のコロイド分散液中でこれらコロイド粒子が正に帯電していると、コロイド粒子が凝集し、分散が不安定となるためである。
【0020】
そこで、上述の酸性のコロイド分散液に、アルカリ性成分を添加してコロイド分散液のpHを以上にするとともに、水溶性リン化合物を添加して酸化チタン粒子あるいは酸化ジルコニウム粒子を負に帯電させることが好ましい。
【0021】
水溶性リン化合物としては、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸やそのアルカリ塩を使用することができ、その好ましい濃度は1質量部以上20質量部以下である。水溶性リン化合物は水に溶けて負のリン酸イオンとなり(PO3−)、リン酸イオンがコロイド粒子に付着しコロイド粒子の負の電荷を高めて(コロイド粒子相互の反発力を高めて)、コロイド粒子をコロイド分散液中に安定的に分散させることができる。なお、コロイド粒子の帯電の正負は、ゼータ電位測定装置等によって容易に測定することができる。本発明に係るソーワイヤー用電着液においては、コロイド粒子は−50mV以下の電位で帯電していることが好ましい。
【0022】
また、コロイド分散液のpHを5以上にするために添加するアルカリ性成分としては、アンモニウム化合物、アルカリ金属化合物及びアミン類の中から選ばれた少なくとも1種のアルカリ性成分を含むことが好ましい。アンモニウム化合物としては水酸化アンモニウム(アンモニア水)、アルカリ金属化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、珪酸ナトリウム、アミン類の中から選ばれたアルカリ成分としてはエチレンジアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンなどを例示することができる。
【0023】
なお、水溶性リン化合物とアルカリ性成分として、例えばピロリン酸アンモニウムや乳酸アンモニウムなどの、コロイド粒子を安定的に分散させるリン化合物であり、かつ、コロイド分散液をアルカリ性にするアルカリ性成分でもある化合物を使用することもできる。
【0024】
このようなアルカリ成分を酸性のコロイド分散液に添加することにより、コロイド分散液中に残存している塩酸イオンや硫酸イオンなどの酸性イオンを中和してpHを5以上に調整することができる。なお、コロイド分散液のpHは5以上10以下の範囲に調整することが好ましい。pHが5未満ではコロイド粒子をコロイド分散液中に均一に分散させることができない。一方、pHが10より大きいと、金属芯線に砥粒を付着させる工程で金属芯線が溶解するので好ましくない。なお、添加するアルカリ性成分は、1質量部以上50質量部以下を添加することが好ましい。
【0025】
また、コロイド粒子の粒子径は、1nm以上500nm以下とすることが好ましく、また、3nm以上120nm以下とすることが好ましい。コロイド粒子が小さすぎるとコロイド粒子が時間の経過とともに凝集しやすくなり析出量が安定せず、コロイド粒子が大きすぎるとコロイド粒子が沈殿しやすくなるためである。コロイド分散液をホモミキサー等の攪拌機で所定時間処理することにより所望の粒子径のコロイド粒子を得ることができる。
【0026】
また、コロイド分散液の電気伝導度は、0より大きく10mS/cm未満が好ましく、より好ましい範囲は0.05mS/cm以上5mS/cm以下である。このように、コロイド分散液の電気伝導度を相対的に低い値に設定することにより、多量のコロイド粒子を安定的に分散させることができ、多くの砥粒を速く金属芯線に付着させることができる。
【0027】
なお、電気伝導度が0.05mS/cm未満では、コロイド分散液中の不純物により酸化チタン又は酸化ジルコニウムの析出量を安定的に制御することが困難な場合がある。また、10mS/cmより大きいと金属芯線のソーワイヤー用電着液への溶出量が大きくなるので好ましくない。電気伝導度は、イオン交換膜を介してコロイド分散液を純水と接触させる等の脱塩処理を行うことにより下げることができる。また電気伝導度が大きすぎる場合は、透析やコロイド分散液の上澄みのオートドレーンにより電気伝導度を低下させることができる。
【0028】
以上のようにして調製されたコロイド分散液に、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)等からなる平均粒子径が1〜60μmの砥粒を混入させることにより、本発明のソーワイヤー用電着液が得られる。なお、添加する砥粒20の平均粒径が1μm未満であると、得られるソーワイヤーの切削性能が不十分であり、平均粒径が60μmより大きいと金属芯線に付着させることが困難となる。
【0029】
なお、ソーワイヤー用電着液に含まれるその他の成分としては、使用するチタン原料によって、塩素イオン、硫酸イオン、アルコールなどが含まれるが、残余の成分が実質上水からなるものである。また、二酸化チタンからなるコロイド粒子を用いる場合には、補助溶剤として水の一部をアルコール、グリコール、グリコールエーテル又はケトン等の水溶性溶剤に置き換えてもよい。この場合、シリカゾルやアルキルトリメトキシシランなどのシラン誘導体などをバインダーとして添加し、金属芯線表面に形成される金属酸化物層の硬度や耐摩耗性等の塗膜特性を向上させてもよい。
【0030】
以上のように調製されたソーワイヤー用電着液で満たされた電着槽に金属芯線を浸漬し、金属芯線と電着槽の間に電圧を付与すると、電荷を帯びたコロイド粒子が金属芯線に引き寄せられ、金属芯線の表面でコロイド粒子が析出し金属酸化物層が形成される。また、コロイド粒子が析出する過程で、砥粒も金属芯線の表面に付着し、付着した砥粒が金属酸化物層により金属芯線の表面に固定される。コロイド粒子が金属芯線に引き寄せられる過程で砥粒がコロイド粒子に押されたり、あるいは、砥粒に付着したコロイド粒子が金属芯線に引き寄せられることにより、砥粒が金属芯線に付着すると考えられている。
【0031】
このとき、本発明に係るソーワイヤー用電着液の電気伝導度は10mS/cm以下と低く設定されており、ソーワイヤー用電着液中のイオンが少ないので、多数のコロイド粒子がイオンと結合することなく安定的に電着液中に分散しているので、安定した状態でソーワイヤー用電着液を管理することができる。このようなソーワイヤー用電着液に電場を印加すると、コロイド粒子は高速で電気泳動を開始し、混在する砥粒をソーワイヤー表面へ速やかに運ぶことにより砥粒はコロイド粒子とともに短時間で電着される。また、ソーワイヤー用電着液中のイオンが少ないので、高い電場強度を付与しても金属の溶出やガス発生などの副反応をほとんど起こさずにコロイド粒子と砥粒とを高速で金属芯線に電析させることができる。
【0032】
以下に実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明のソーワイヤー用電着液は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(金属芯線の前処理工程)
ブラスめっきされた直径0.13mmのスチールワイヤー(金属芯線)を前処理として、アルカリ脱脂液(FC−4360 日本パーカライジング(株)社製)を用いて60℃で60秒間アルカリ脱脂した後に水洗し、更に0.1mol/Lの硫酸溶液で室温で10秒間酸洗いした。
【0034】
次に、表1に示すように調製した実施例1〜5及び比較例1〜3のソーワイヤー用電着液を用意した。なお、TiOコロイド分散液及びZrOコロイド分散液はそれぞれ以下のように調製した。
【0035】
【表1】

【0036】
(コロイド分散液の調製)
TiOコロイド分散液
比較例1,2及び実施例1〜3では、酸化チタンコロイドを以下の方法により調製した。塩化チタン水溶液(Ti:15〜16質量% 住友シチックス(株)製)154gを純水500mLで希釈し、室温でアニオン交換膜を介して純水と7時間接触させて溶液中のアニオン成分(塩化物イオン)を減少させる脱イオン処理により酸性のアモルファス酸化チタンコロイド分散液を調製した。この状態では、酸化チタンコロイド粒子は正の電荷を帯びている。
【0037】
さらに、このコロイド分散液に中性〜アルカリ性で有効な分散剤としてポリリン酸2.4gを純水で希釈して添加し、直後にモルホリンを加えてpHを約8に上昇させた。さらにホモミキサーで15分間コロイド粒子を分散させ、限外濾過膜に移して脱イオン水を給水しながら、コロイド分散液の電気伝導度が10mS/cm以下となるまで脱塩処理を行った。
【0038】
このとき、レーザー式粒度分布測定装置により測定された酸化チタンコロイド粒子の分散粒子径は、0.005μm以上0.01μm以下であった。また、酸化チタンコロイド粒子の濃度は、乾燥重量で4質量%であった。
【0039】
ZrOコロイド分散液
比較例3及び実施例4,5では、酸化ジルコニウムコロイド分散液を以下のように調製した。酸化ジルコニウムゾル(pH7.7 ZSL10A 第1希元素化学工業(株)製)を純水で希釈して4質量%の酸化ジルコニウムコロイド分散液を得た。なお、分散剤の添加、水溶性リン化合物の添加、脱塩処理は上述の酸化チタンコロイド分散液と同様に調製した。
【0040】
以上のようにして調製された酸化チタンコロイド分散液及び酸化ジルコニアコロイド分散液に、砥粒として比較例1,2及び実施例1〜3では、平均粒子径が10μmのダイヤモンド粒子を表1に示す濃度となるように添加し、比較例3及び実施例4,5では平均粒子径が5μmのダイヤモンド粒子を表1に示す濃度となるように添加してソーワイヤー用電着液を得た。
【0041】
(ソーワイヤー用電着液の評価)
以上のように調製された実施例1〜5及び比較例1〜3に係るソーワイヤー用電着液を用いて以下の方法でソーワイヤーを作成し、作成したソーワイヤーの性能を評価した。
【0042】
(ソーワイヤーの作成)
実施例1〜5及び比較例1〜3に係るソーワイヤー用電着液で電着槽を満たし、前処理工程が施されたスチールワイヤーを給電ローラー及び液中ローラーで送りながら電着液に浸漬させる。給電ローラーは金属芯線に電圧を付与するためのローラーであり、ソーワイヤー用電着液の液面よりも上方に設けられ、電源ユニットに接続されている。液中ローラーは電着槽中に設けられ、金属芯線を電着液に浸漬させるためのローラーである。また、電着槽の内側には、スチールワイヤーの搬送方向と平行にSUS304製の電極板が設けられている。
【0043】
給電ローラーを負極、電着槽の電極板を正極に接続し、両者の間に20Vの電圧を印可しながら、スチールワイヤーが電着槽に1秒間浸漬されるようにスチールワイヤーを送り、コロイド粒子と共に砥粒をスチールワイヤーに固着させ、ソーワイヤーを得た。
【0044】
また、得られたソーワイヤーを炉内温度150℃の乾燥炉に60秒間入れて加熱乾燥させ、析出した酸化チタンあるいは酸化ジルコニウムを脱水縮合させ、更に強固に砥粒を金属芯線に固着させた。
【0045】
更に、砥粒が固着された金属芯線に保護層としてニッケルめっき層を電解めっきにより形成した。めっき液として、純水と、200g/Lのスルファミン酸ニッケルと、30g/Lの塩化ニッケル・6水和物、及び30g/Lのホウ酸とを含み、砥粒を含まないニッケルめっき液を調製した。このめっき液をpH4以上5以下に調整して55℃に保ちながら保護層の厚さがダイヤモンド砥粒の平均粒子径を越えないように、電流密度は約20A/dmで電気めっきを行った。なお、めっき液中にコロイド粒子が溶出するとめっき液が劣化するので、前述の乾燥工程によりコロイド粒子を脱水縮合させてコロイド粒子を金属芯線に固定することが好ましい。
【0046】
(ソーワイヤーの評価)
上述のようにして得られたソーワイヤーを、砥粒付着量、密着性、ワークの最大切削速度を評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
砥粒の付着密度は、走査型電子顕微鏡(SEM)で実施例1〜5及び比較例1〜3のソーワイヤーの表面を拡大し、視野内の砥粒の個数を目視で確認したものである。ソーワイヤー上の任意の10点を観察し、1mmあたり100個以上あればA、40以上100未満であればB、1以上40未満であればC、1未満であればDと評価した。
【0049】
ワークの最大切削速度は、実際のソーワイヤーとしての性能を評価するために行った。実施例1〜5及び比較例1〜3のソーワイヤーを50mの長さに切断し、ソーワイヤー切断試験機に30Nの張力を付与した状態で取り付け、60m/minの送り速度でソーワイヤーを送りながらシリコン単結晶のワークを切断し、ワークの最大送り速度を測定した。最大送り速度は、ワークの送り速度を徐々に上げていき、ソーワイヤーが断線する直前の送り速度として測定した。
【0050】
また砥粒の密着性は、上述の条件で作成されたソーワイヤーを、引き抜きダイスを用いて15%程度の冷間伸線加工を施し、砥粒がソーワイヤーのめっき層に打ち込まれており脱落した形跡が認められなかったら○を、脱落が認められたら×と評価した。
【0051】
まず、実施例1〜5と比較例1〜3の砥粒付着量を比較すると、実施例1〜5のソーワイヤーは、比較例1〜3のソーワイヤーよりも多量の砥粒が付着していることが確認できた。実施例1〜5及び比較例1〜3でいずれも金属芯線をソーワイヤー用電着液に浸漬させた時間は同一であるにもかかわらず、実施例1〜5の砥粒の付着密度が大きいことから、実施例1〜5に用いたソーワイヤー用電着液を用いることにより、より効率的に砥粒を金属芯線に固定させることができることがわかった。したがって、本発明に係るソーワイヤー用電着液により、ソーワイヤーの製造速度を向上させることができることが確認できた。
【0052】
また、実施例1,2及び比較例2を比較すると、比較例2が最もソーワイヤー用電着液中の砥粒の濃度が高いにもかかわらず、実施例1,2が比較例2よりも砥粒付着密度及び最大切削速度において優れた結果が得られた。最大切削速度が大きいほど、ソーワイヤーには多くの砥粒が付着していたと考えられることから、ソーワイヤー用電着液中の砥粒の濃度よりも電気伝導度の小ささの方が、砥粒の付着させやすさに与える影響が大きいことが確認できた。
【0053】
したがって、本発明に係るソーワイヤー用電着液を用いれば、多量の砥粒を処理液に添加しなくても高品質のソーワイヤーを高速で製造できるので、処理液のコスト及び処理時間を低減することができ、高品質のソーワイヤーを低コストで提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を100質量部以上10000質量部以下、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの少なくとも一方のコロイド粒子を50質量部以上100質量部以下含有し、電気伝導度が10mS/cm未満であることを特徴とするソーワイヤー用電着液。
【請求項2】
水溶性リン化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のソーワイヤー用電着液。
【請求項3】
pHが5以上10以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のソーワイヤー用電着液。
【請求項4】
前記コロイド粒子は負の電荷を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のソーワイヤー用電着液。

【公開番号】特開2012−192469(P2012−192469A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56727(P2011−56727)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】