説明

固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液

【課題】シリコンの加工性に優れる固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を提供する。
【解決手段】(A)グリコール類及び水を含有し、25℃における粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの製造コスト低減を図るため、シリコンウエハの大口径化が急速に進みつつあり、シリコンウエハの切断加工技術の向上が重要となっている。当該切断加工技術としては、例えば、切断ロスが少なく加工能率の良いワイヤ工具(ワイヤソー)による切断方式がある。ワイヤソーによる切断方式には、遊離砥粒方式と固定砥粒方式とがあるが、遊離砥粒方式にあっては、(1)加工液として、油剤に砥粒を分散させたスラリーを使用するため切断ワークや周辺環境の汚染が著しい、(2)切断時に発生する切断屑を多量に含んだスラリーの廃棄が必要、(3)遊離砥粒と切断屑との分離が困難である、(4)ワイヤ走行速度に制限があり加工能率向上に限界がある、などの問題が指摘されている。このような問題を解決すべく、ピアノ線等のワイヤ表面に、電着やレジンボンド等により砥粒を固定した固定砥粒型のワイヤソーの検討がなされている。例えば、特許文献1には、30〜60μm以下の砥粒をレジンボンド固定した固定砥粒ワイヤソーが開示されており、これを1000〜2500m/minの線速で走行させて、脆性材料を切断することにより、高能率な切断を可能としている。
【0003】
一方、固定砥粒ワイヤソーを用いて脆性材料を切断加工する際には、潤滑、冷却、切断屑の分散等を目的として、同時に加工液を用いる。当該加工液は、引火性の問題や作業環境の改善、加工後の洗浄工程の簡略化や廃液処理等に鑑みれば、水溶性のものを用いることが好ましい。また、被切断材がシリコンである場合には下記の問題がある。すなわち、シリコンは反応性が高く、切断加工中に酸やアルカリと反応して水素ガスを発生する場合があり、水溶性の加工液を用いると作業時に着火の虞がある。従って、シリコン反応性が抑制された加工液であることが好ましい。このような観点から、特許文献2には、(A)グリコール類を含有する固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−054850号公報
【特許文献2】特開2003−082334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2においては、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液組成物中にグリコール類や任意にその他成分を含有させることにより、希土類磁石以外の加工材料の切断加工に適するとともに、シリコンの切断加工にも適し、且つ、シリコンとの反応を抑制することができる、とされている。しかしながら、近年の需要に鑑みれば、シリコンウエハをさらに精度高く加工することができる加工液とすることが好ましい。また、特許文献2に開示された固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液組成物にあっては、シリコンの切断屑が混入した場合の加工液の安定性が十分とは言えず、シリコン加工性に影響を及ぼす場合があることが分かった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、シリコンの加工性に優れる固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(1)切断加工時のワイヤにかかる負荷等を適切に調節し、ワイヤの破断やワイヤの滑りを抑制することで、シリコンの加工性を向上させることができるものと考えられる。ワイヤの破断やワイヤ滑りを抑制する観点で、加工液の種々のパラメータを検討した結果、加工液には適正粘度が存在することを知見した。すなわち、粘度が低すぎるとワイヤの切断が発生し、粘度が高すぎるとワイヤの滑りが発生し、シリコンの加工性が十分でなくなる。
(2)シリコン切り屑が混入した場合において、加工液の液性状が不安定となって液粘度が上昇する場合があることを知見した。液粘度が上昇すると、上記のようにワイヤの滑りが生じ、加工性の低下が懸念される他、液寿命の低下も懸念される。
(3)シリコン切り屑が混入した場合において、加工液の液性状を安定させるためには、シリコンと加工液との反応を抑制することが効果的であると考えられる。シリコンとの反応を抑制する観点で、加工液の種々のパラメータを検討した結果、加工液には適正pHが存在することを知見した。すなわち、所定範囲のpHとすることにより、シリコンとの反応をさらに抑制することができる。これにより、加工液の液性状を安定化でき、液粘度を適正に維持できるので、シリコン加工性を向上させることができるとともに、液寿命の低下を抑制することができる。
(4)加工液粘度やpHの調整について検討した結果、加工液中に酸及び塩基を添加することが好ましいことを知見した。特に酸成分として、カルボン酸、好ましくは炭素数7以下のカルボン酸を添加することで、シリコン加工性をさらに向上させることができる。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、以下の構成をとる。すなわち、
本発明は、(A)グリコール類及び水を含有し、25℃における粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液である。本発明において、25℃における上記粘度が5mPa・s以上25mPa・s以下であることが好ましい。
【0009】
本発明において、「粘度」とは、B型回転粘度計によって測定された粘度を意味する。「グリコール類及び水を含有し」とは、本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液が、グリコール類及び水のみからなっていてもよいし、他の成分を含んでいてもよい概念である。
【0010】
本発明において、加工液のpHが5.0以上7.5以下、より好ましくは5.5以上6.5以下に調整されてなることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、さらに、(B)カルボン酸と(C)水に溶解して塩基性を示す化合物とを含有していることが好ましい。
【0012】
(B)カルボン酸を含有してなる本発明において、当該(B)カルボン酸の炭素数が7以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、(A)グリコール類と、(B)カルボン酸と、(C)水に溶解して塩基性を示す化合物と、の合計を100質量%として、(A)グリコール類が1質量%以上95質量%以下、(B)カルボン酸が0.01質量%以上60質量%以下、(C)水に溶解して塩基性を示す化合物が0.01質量%以上60質量%以下含有されるとともに、(B)カルボン酸と(C)水に溶解して塩基性を示す化合物とが合計で0.02質量%以上60質量%以下含有されてなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液は、シリコン材料の切断加工に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、切断加工の際、加工時間が短縮されるとともに、シリコンウエハの切断精度を向上させることができる。従って、固定砥粒ワイヤソーによる切断加工において、特に、シリコン加工性に優れる固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の評価方法の一つを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液(以下、単に「水溶性加工液」という。)には、(A)グリコール類及び水が含まれ、さらに任意に、(B)カルボン酸及び(C)水に溶解して塩基性を示す化合物や、その他成分が含まれ得る。以下、各成分について詳述する。
【0018】
(A)グリコール類
本発明の水溶性加工液には、(A)グリコール類が含有される。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合物、及びポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの共重合物等のグリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレン共重合物のモノアルキルエーテル等の水溶性グリコール類が挙げられる。上記例示したグリコール類のうち、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールを用いることが好ましく、特にプロピレングリコール、又はポリエチレングリコールを用いることが好ましい。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記2種以上の成分からなる共重合体として用いてもよい。上記グリコール類の分子量は好ましくは70〜100,000、より好ましくは76〜10,000である。分子量がこの範囲にあれば、シリコン加工性を一層向上させることができる。
【0019】
本発明の水溶性加工液において、(A)グリコール類は、加工液全体基準で1質量%以上95質量%以下含有されることが好ましく、30質量%以上95質量%以下含有されることがより好ましく、50質量%以上95質量%以下含有されることが特に好ましい。(A)グリコール類の含有量をこのようにすることで、加工中の粘度上昇を防止することができる。
【0020】
本発明の水溶性加工液は、上記(A)グリコール類及び水を含有するものであり、上記(A)グリコール類と残部が水のみからなるものであればよいが、さらに添加剤等の他の成分を含有してもよい。また、(B)カルボン酸や(C)水に溶解して塩基性を示す化合物をさらに含有することが好ましい。
【0021】
(B)カルボン酸
本発明の水溶性加工液には、(A)グリコール類及び水に加えて、さらに(B)カルボン酸が含有されることが好ましい。(B)カルボン酸としては、炭素数が7以下のカルボン酸を用いることが好ましく、炭素数が7以下のカルボン酸を用いることがより好ましく、炭素数が2以上6以下のカルボン酸を用いることがさらに好ましく、炭素数が6のカルボン酸を用いることが特に好ましい。(B)カルボン酸の具体例としては、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、アジピン酸、蓚酸、酢酸を用いることが好ましくクエン酸、コハク酸を用いることがより好ましく、クエン酸を用いることが特に好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数が7以下のカルボン酸を用いることで、切断加工中、シリコン切断屑が混入した場合に、液安定性を好適に維持することができ、さらにシリコン加工性に優れる水溶性加工液とすることができる。
【0022】
本発明の水溶性加工液において、(B)カルボン酸は、加工液全体基準で、0.01質量%以上60質量%以下含有されることが好ましく、0.05質量%以上10質量%以下含有されることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下含有されることが特に好ましい。(B)カルボン酸の含有量をこのようにすることで、シリコン切断屑が混入した場合に、液安定性を好適に維持することができ、さらにシリコン加工性に優れる水溶性加工液とすることができる。
【0023】
(C)水に溶解して塩基性を示す化合物
本発明の水溶性加工液が(A)グリコール類に加えて(B)カルボン酸を含有する形態においては、さらに、(C)水に溶解して塩基性を示す化合物(以下、「(C)塩基性化合物」という。)が含有されることが好ましい。(C)塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属元素を含有する化合物、アルカノールアミン、アルキルアミン及びアンモニア等が挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、アルカリ金属元素を含有する化合物を用いることが好ましい。アルカリ金属元素を含有する化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等を挙げることができ、特に水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の水溶性加工液において、(C)塩基性化合物は、加工液全体基準で、0.01質量%以上60質量%以下含有されることが好ましく、0.05質量%以上10質量%以下含有されることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下含有されることが特に好ましい。特に、上記(B)カルボン酸の含有量を指標として、(B)カルボン酸と(C)塩基性化合物とにより、pHが適正な範囲になるよう調整することが好ましい。(C)塩基性化合物の含有量をこのようにすることでシリコン切断屑が混入した場合に、液安定性を好適に維持することができ、さらにシリコン加工性に優れる水溶性加工液とすることができる。
【0025】
また、上記(B)カルボン酸及び(C)塩基性化合物に替えて、(B)カルボン酸と、(C)塩基性化合物と、から形成された塩(以下、「(D)塩」という場合がある。)を含有させることもできる。(D)塩の含有量については、(B)カルボン酸及び(C)塩基性化合物換算で、上記の含有量となるように含有されることが好ましい。(D)塩の例としては、カルボン酸のアルカリ金属塩やカルボン酸のアミン塩等が挙げられる。
【0026】
本発明の水溶性加工液において、上記(B)カルボン酸と(C)塩基性化合物との合計の含有量については、加工液全体基準で0.02質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。このようにすれば、加工液のシリコン反応性を抑えることができ、液安定性に優れるとともにシリコン加工性に優れる加工液とすることができる。
【0027】
さらに、(A)グリコール類、(B)カルボン酸、及び(C)塩基性化合物の合計を100質量%とした場合の当該(A)グリコール類、(B)カルボン酸、及び(C)塩基性化合物の割合は、(A)グリコール類が30質量%以上95質量%以下、(B)カルボン酸が0.1質量%以上5質量%以下、(C)塩基性化合物が0.1質量%以上5質量%以下、残部が水となるように混合されることが好ましい。また、上記(A)グリコール類、(B)カルボン酸、及び(C)塩基性化合物の量を調整し、加工液のpHが5.0以上7.5以下に調整されてなることが好ましく、このようにすれば、切断加工中、シリコン切断屑が混入した場合に、液安定性を好適に維持することができ、さらにシリコン加工性に優れる水溶性加工液とすることが特に効果的である。
【0028】
(E)その他成分
本発明の水溶性加工液において、上記(A)グリコール類及び水、並びに、任意に含まれる(B)カルボン酸及び(C)塩基性化合物若しくは(D)塩の他に、(E)その他の成分が含まれていてもよい。例えば、加工材料に対して腐食、変色等の悪影響を及ぼさず、且つ、混合後の系の安定性に影響を及ぼさないような種々の添加剤を、加工性能に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。例えば、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、酸化防止剤等を添加することができる。粘度調整剤としては、公知の粘度調整剤を特に限定することなく用いることができるが、水に可溶なものが好ましい。また、pH調整剤としては、無機塩基(前記の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(前記のアルカノールアミン、アルキルアミン等)、無機酸(塩酸、硫酸等)、有機酸(前記のカルボン酸等)を用いることができる。消泡剤、酸化防止剤等については、公知のものを特に限定することなく用いることができるが、これらも水に可溶であることが好ましい。
【0029】
本発明の水溶性加工液は、上記の成分が含有されてなる。また、本発明の水溶性加工液は、切断加工の作業環境に応じて、必要に応じて水により希釈して用いてもよい。すなわち、水を除いた上記(A)成分等からなる濃縮組成物を混合・作製し、現場の切断加工作業時に適宜水で希釈し、作業環境、状況に応じて、適切な水溶性加工液に調整して用いることもできる。また、ある程度の水を含む上記(A)成分等からなる濃縮組成物を混合・作製し、現場の切断加工作業時にさらに水で希釈してもよい。
【0030】
本発明の水溶性加工液は、切断加工に用いる際の粘度(すなわち、希釈をせずそのまま加工液を切断加工に用いる場合は当該希釈前の加工液粘度、また、希釈を行ったのち切断加工に用いる場合は当該希釈後の加工液粘度)が、25℃において3mPa・s以上50mPa・s以下となるように調整される。「粘度」とは、B型回転式粘度計によって測定された粘度のことである。水溶性加工液の25℃における粘度は、3mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以上30mPa・s以下であることがより好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下であることが特に好ましい。水溶性加工液の粘度をこの範囲とすれば、固定砥粒ワイヤソーによる切断加工に用いる際、特にシリコン加工性に優れる水溶性加工液とすることができる。粘度の調整については、上記の(A)グリコール類の含有量や、(B)カルボン酸及び(C)水に溶解して塩基性を示す化合物の含有量、また、その他添加剤(粘度調整剤)等により適宜調整され得る。
【0031】
また、本発明の水溶性加工液は、上記粘度の他、pHが5.0以上7.5以下となるように調整されて用いられることが好ましい。特に、pHは、5.5以上6.5以下とすることが好ましい。pHをこの範囲とすれば、切断加工後、切断屑としてシリコンが加工液に混入した場合であっても、シリコンと加工液との反応を抑制することができるとともに、加工液を安定化することができる。従って、加工液の粘度上昇や液寿命の低下を抑制することができ、シリコン加工性にさらに優れる水溶性加工液とすることができる。pHの調整については、上記の(A)グリコール類の含有量や、(B)カルボン酸及び(C)水に溶解して塩基性を示す化合物の含有量、また、その他添加剤(pH調整剤)等により適宜調整され得る。
【0032】
固定砥粒ワイヤソーによる切断加工の際、本発明の水溶性加工液を用いることにより、特に、シリコン加工性に優れた切断加工が可能となる。
【0033】
以下、実施例により、本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0034】
(固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液の作製)
プロピレングリコール(和光純薬社製プロピレングリコール)、ポリエチレングリコール200(和光純薬社製ポリエチレングリコール200、平均分子量180〜200)、ポリエチレングリコール300(和光純薬社製ポリエチレングリコール300、平均分子量300)、水、クエン酸(和光純薬社製クエン酸)、コハク酸(和光純薬社製コハク酸)及び水酸化カリウム(和光純薬社製水酸化カリウム)について、表1で示される組成となるように混合し、加工液を作製した。また、各加工液について、25℃粘度及びpHを測定した。尚、表1中の粘度は株式会社東京計器製B型回転粘度計(回転数60rpm)を用いて測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
(性能の評価:多結晶シリコンの切断加工)
被切断材として、25mm角の多結晶シリコンインゴットを用いた。また、固定砥粒ワイヤソーとしては、シングルワイヤソー型切断機(東鋼機械製作所製)を用いた。当該マルチ切断機の運転条件は、表2に表される条件とした。
【0037】
【表2】

【0038】
上記マルチ切断機を用いて被切断材を加工した。具体的には、実施例1〜5、比較例1、2又は参考例1、2にかかる加工液と上記シングルワイヤソー切断機とによって、図1で示されるように、被切断材に10ヵ所溝加工し、当該10ヵ所の溝の切り込み深さの合計を評価の指標とした。加工液は、被切断材の被切断部前後にワイヤに向けと出させた。結果を表3に示す。
【0039】
また、各加工液について、固定砥粒による被切断材の加工時に切断屑としてシリコンが5質量%混入した時点で、当該シリコン5質量%混入の加工液を24時間静置したのち、加工液の粘度を測定し、評価の指標とした。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示されるように、本発明にかかる実施例1〜5については、いずれも切り込み深さが大きく、良好な切断性を有しており、シリコン加工性に優れていた。また、シリコン混入後においても、適切な粘度を維持することができ、液寿命の低下が抑制されるとともにシリコン加工性を向上させることができた。
比較例1、2については、ワイヤが破断又は十分な切り込み深さが得られず、シリコン加工性が十分でなかった。また、比較例1、2については、Si混入後においても、加工液粘度は適正範囲外のままであった。
一方、参考例1については、十分な切り込み深さが得られたものの、加工液pHを7.8と高くしたことにより、シリコン混入後、加工液とシリコンとの反応が生じ、液安定性が低下して、粘度が適切な範囲から外れる結果となった。また、参考例2については、シリコン混入後においても、適切な粘度を維持でき、液安定性が得られたものの、加工液pHを4.3と低くしたことにより、十分な切り込み深さが得られず、加工後ワイヤが破断した。これより、加工液粘度の他、加工液pHについても、シリコン加工性の維持に重要な因子となることが分かった。
【0042】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、シリコンウエハの製造時、固定砥粒ワイヤソーを用いてシリコン材を精度良く切断することが可能な、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリコール類及び水を含有し、25℃における粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【請求項2】
pHが5.0以上7.5以下に調整されてなる、請求項1に記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【請求項3】
さらに、(B)カルボン酸と(C)水に溶解して塩基性を示す化合物とを含有してなる、請求項1又は2に記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【請求項4】
前記(B)カルボン酸の炭素数が7以下である、請求項3に記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【請求項5】
前記(A)グリコール類と、前記(B)カルボン酸と、前記(C)水に溶解して塩基性を示す化合物と、の合計を100質量%として、前記(A)グリコール類が5質量%以上95質量%以下、前記(B)カルボン酸が0.01質量%以上60質量%以下、前記(C)水に溶解して塩基性を示す化合物が0.01質量%以上60質量%以下含有されるとともに、前記(B)カルボン酸と前記(C)水に溶解して塩基性を示す化合物とが合計で、0.02質量%以上60質量%以下含有され、残部が水である請求項3又は4に記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【請求項6】
シリコン材の切断加工に用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。

【図1】
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【公開番号】特開2011−21096(P2011−21096A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166962(P2009−166962)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】