説明

固形培地

【課題】培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長するような生育傾向となり、土壌に移植しやすく、順化効率の良い植物組織を生育できるゲル状固形培地を提供する。更には、植物を培地に対して垂直方向に植え付けることが可能となり、更には、滅菌時における培地の焦げも有意に抑制することができるために、植物培養が簡便となる固形培地を提供する。
【解決手段】固形培地のゲル化剤としてネイティブ型ジェランガム、或いは、ネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物組織や微生物の培養に使用する固形培地に関する。詳細には、植物組織を培養した後、土壌に移植しやすく、順化効率の良い植物組織を生育することができる固形培地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物や微生物を培養する培地のゲル化剤としては、寒天、脱アシル型ジェランガムなどが用いられている(特許文献1,特許文献2参照)。植物培養する際、これらゲル化剤を主成分としたゲル状の固形培地で無菌培養した後、順化用の培地や土壌に順化させるが、培養した植物の根から水洗いによってゲル状の培地を除去して順化用の培地や土壌に植え付ける方法が一般に採られている。
【0003】
この際、培養ゲル培地の除去が不十分であると、順化時に微生物が繁殖して植物を侵すことがある一方で、この除去を徹底的に行うと、培養根を痛めてしまい、その後の順化に影響を与えるという問題点がある。脱アシル型ジェランガムをゲル状培地のゲル化剤に使用した場合、透明なゲルとなるため植物の発育の程度が分かり易く、また、シュート(茎頂を含む)や根の伸長が良好であるという利点がある。その一方で、根の分枝が少なく、根も細く長く生長する傾向にあり、前記培養ゲル培地の除去を行う際、根を損傷しやすくなるという問題点があった。こうしたことより、培養した根は分枝が多く、太く短い形状に生長することが理想であり、このような生育傾向となるゲル状固形培地が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−236833号公報
【特許文献2】特開平9−47173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長するような生育傾向となるゲル状固形培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、固形培地のゲル化剤にネイティブ型ジェランガムを使用した固形培地で植物培養を行ったところ、培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長することを見出した。更には、固形培地のゲル化剤にネイティブ型ジェランガムのみを使用した場合には、培地調製時の培地溶液の粘度が高く、加熱により一部が焦げ、培地が淡茶色になる傾向があったり、植物を培地に対して垂直方向に植え付けるのが難しくなったりする傾向があったが、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムを併用して使用することにより、培地調製時の粘度を低減させ、加熱時の培地の焦げもなくなり、同時に植物を培地に垂直方向に容易に植え付けることができ更に良好になることを見いだした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長するような生育傾向となるためゲル培地の除去が容易になり、土壌に移植しやすく、順化効率の良い植物組織を生育できるゲル状固形培地を提供することができる。更には、培地調製時における培地の焦げも有為に抑制することができ、更には、植物を培地に対して垂直方向に植え付けることが可能となるために、植物培養が簡便となる固形培地を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の固形培地は、ゲル化剤としてネイティブ型ジェランガムを使用することを特徴とする。
【0009】
本発明で使用するネイティブ型ジェランガムは、Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類であり、1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類の、1−3結合したグルコースに1構成単位当たりグリセリル基1残基とアセチル基が平均1/2残基結合したものである。1構成単位辺りカルボキシル基1残基を有する。
【0010】
ネイティブ型ジェランガムの商業的に入手可能な製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の、ケルコゲル[商標:CPケルコ社]LT−100、ケルコゲル[商標:CPケルコ社]HM及びケルコゲル[商標:CPケルコ社]HT、ゲルアップ[商標:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社]MOTなどを挙げることができる。ネイティブ型ジェランガムの固形培地に対する添加量としては、0.3〜2.0重量%、好ましくは、0.5〜1.5重量%、更に好ましくは、0.5〜1.0重量%を挙げることができる。添加量が0.3重量%を下回ると、ゲル化剤としての機能を発揮することが難しくなり、また、2.0重量%を超えると、培地が固くなり過ぎて、培地から培養植物を取り出すことが難しくなるからである。
【0011】
ネイティブ型ジェランガムを固形培地用ゲル化剤として使用することで、培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長するような生育傾向となるように植物を培養することができる。但し、ネイティブ型ジェランガムを使用した場合、培地調製時に焦げが生じる傾向があったり、植物を培地に対して垂直方向に植え付けることが難しくなる傾向があった。本発明では、固形培地用ゲル化剤として、ネイティブ型ジェランガムに加えて脱アシル型ジェランガムを併用することにより、前記課題を解決することができる。
【0012】
脱アシル型ジェランガムも、ネイティブ型ジェランガムと同様に、Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類であり、脱アシル型ジェランガムは、1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類であり、1構成単位辺りカルボキシル基1残基を有するものである。脱アシル型ジェランガムの商業的に入手可能な製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のゲルアップ[商標]K−S、ケルコゲル[同]などを挙げることができる。脱アシル型ジェランガムの固形培地に対する添加量としては、0.05〜0.5重量%、好ましくは、0.1〜0.3重量%、更に好ましくは、0.15〜0.25重量%を挙げることができる。また、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの固形培地中の配合割合としては、重量比で、20:1〜1:9を挙げることができる。
【0013】
なお、本発明で使用される培地としては、例えばNitch培地、LS培地、ムラシゲ−スクーグ(Murashige-Skoog)培地(以下、「MS培地」という)(T.Murashige, et al.,:Physiol. Plant., 15, 473, 1962.尿 revised medium for rapid growth and bio assays with tabacco tissue cultures.煤j、B5培地、GA培地、EM培地等を挙げることができる。好ましくはMS培地である。
【0014】
なお、当該培地は、植物成長調節物質を配合して使用しても良い。ここで植物成長調節物質としては、特に制限されないが、例えばインドール−3−酢酸(IAA)、α−ナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、インドール−3−酪酸(IBA)等のオーキシン;ゼアチン、カイネチン、6−ベンジルアミノプリン(BA)、6-(3-メチル-2-ブテニルアミノ)-プリン(2iP)等のサイトカイニンを挙げることができる。これらの植物成長調節物質は、1種単独で使用してもよいし、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、上記オーキシンまたはサイトカイニンの培地への配合量は、0.00005〜0.05 mM、好ましくは 0.0005〜0.04 mM、より好ましくは0.0025〜0.025 mMの範囲を挙げることができる。植物成長調節物質として好ましくはオーキシンであり、またオーキシンの中でも特に好ましくはα−ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール−3−酪酸(IBA)である。
【0015】
本発明の固形培地の調製方法としては、前記MS培地等の液体培地にネイティブ型ジェランガムと必要に応じて脱アシル型ジェランガムを加え、加熱溶解し、ガラス試験管などの培養容器に分注した後、アルミホイルやアルミキャップなどで容器に蓋をして、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌したのち、放冷してゲル状の固体培地を調製する。ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムは事前に混合してから培地を作成しても良いし、個々に加えて培地を作成しても構わない。
【0016】
また、調製した固体培地に植物を植え付ける方法としては、無菌状態で植え付けを行うことが好ましく、例えば、クリーンベンチ内で作成した培地に移植する方法を挙げることができる。また、調製したシュート(茎頂を含む)を、培地に1本ずつ植え付けることが好ましく、一定の日照条件で培養する方法を挙げることができる。
【0017】
日照条件としては、波長300〜700 nmの光を500〜30,000 lux程度、好ましくは1,000〜20,000 lux程度、より好ましくは2,000〜10,000 lux程度照射する方法を挙げることができる。1日の照射時間は、特に制限されない。好ましくは1日3時間以上、より好ましくは1日8時間以上、より好ましくは1日12〜24時間程度である。
【0018】
培養温度は制限されないが、通常20〜30℃好ましくは23〜28℃より好ましくは25℃後である。培養時間は、2週間以上、好ましくは4週間以上、好ましくは4〜5週間を挙げることができる。また、通気性も制限されず、例えば、培養容器をアルミホイルなどで封をした状態としてもよく、または、アルミホイルに通気口を設けて、通気性のある状態としてもよい。なお、これらの培養条件に限定されるものではなく、かかる条件を目安に、適宜条件を変更調整することができる。例えば、24℃14時間照明/日(50μEm−2−1)で4週間培養などの条件を挙げることができる。
【0019】
斯くして培養生育した培養植物は、培養した根は分枝が多く、太く短い形状に生長する生育傾向となるため、培養根から培養ゲル培地の除去する際、培養根を痛めることなく容易に除去できるようになる。そのため、土壌に植え付けしやすく、順化効率の高い培養をおこなうことができる。
【実施例】
【0020】
以下、実験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、文中、「部」は「重量部」とし、「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0021】
実験例1:ネイティブ型ジェランガム添加固形培地
(1)ゲル状固形培地の調製
Murashige-Skoog培地(ムラシゲ−スクーグ液体培地(MS液体培地)(日本製薬(株))に対して、表1に掲げる配合にて、実施例品ネイティブ型ジェランガム(ケルコゲルHT*)(0.5、1.0、2.0 %)、または比較例品脱アシル型ジェランガム(製品名 0.2 %)を加え、加熱溶解し、130 mm高×40 mm径ガラス試験管に各30 mlずつ分注した。アルミホイルでガラス試験管に蓋をし、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌して、ゲル状固形培地を調製した(実1〜3,比2)。
【0022】
また、他の比較例品として、フロリアライト(植物性繊維とバーミキュライトを主成分とする植物支持体、日清紡(株)製)を支持材に用いる場合、ガラス試験管に調製したMS液体培地(25 ml)およびフロリアライト(8 cm3の固まり 4個分)を入れ、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌して、ゲル状固形培地を調製した(比1)。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)植物[Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)の培養
無菌培養植物体[Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)を、クリーンベンチ内で(1)で作成した培地に移植した。なお、調製したシュート(茎頂を含む)は、培地に1本ずつ植え付け、24℃、14時間照明/日(50 μEm-2S-1)で4週間培養した。
【0025】
(3)結果
図1及び図2に示す通り、Loberia cardinalis(ロベリアカージナリス)を4週間培養した結果、ネイティブ型ジェランガムを培地のゲル化剤に用いた実1〜3は、シュートおよび根の伸長は、比1〜2のフロリアライトや脱アシル型ジェランガムを使用した場合と比較して抑制されたが、根数が比較例よりも多く、太い根が形成し、順化が良好であった。ネイティブ型ジェランガムを使用した培地の実1〜3は、培地からの培養植物体の取り出しは、容易であった。
【0026】
但し、ネイティブ型ジェランガム0.5%および1.0%添加品は、植物体を移植する際に、ゲルが軟らかいため、植物体をゲルに垂直に植え付けられず、植物が伸長する際に湾曲した。ネイティブ型ジェランガムを培地用ゲル化剤に使用すると、粘性が非常に高く、加熱によりゲルの一部が焦げ、培地が淡茶色に変色した。また、試験管への分注が脱アシル型ジェランガムと比較して難しかった。
【0027】
実験例2:ネイティブ型及び脱アシル型ジェランガムの併用(1)
ネイティブ型ジェランガムの植物組織培養への利用が実験例1の実験より可能と判明したが、ネイティブ型ジェランガムのみを用いた場合、培地作成がこれまでの固形化剤と比較して繁雑であった。また、植物が垂直に生育しない、茎が赤色化する等の問題が発生した。これは、ネイティブ型ジェランガムを用いると植物にストレスがかかっていることが考えられた。そこで、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムを混合し、植物体の生育に影響があるか検討を行った。
【0028】
(1)ゲル状固形培地の調製
調製したMS液体培地に表2に掲げる配合にて、ネイティブ型ジェランガム(1.0、1.2、1.5 %)、脱アシル型ジェランガム(0.2 %)それぞれ単独で使用、または、ネイティブ型ジェランガム(0.5、1.0 %)と脱アシル型ジェランガム(0.1 %)の混合したものを加え、培地を加熱溶解し、ガラス試験管に分注した。アルミホイルでガラス試験管に蓋をし、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌して、ゲル状固形培地を調製した(実4〜8,比3)。
【0029】
【表2】

【0030】
(2)植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)の培養
実験例1の実験方法と同様な操作を行った。
【0031】
(3)結果
図3より、ネイティブ型ジェランガムのみ添加の実4〜6は、培養植物の根の伸長が、脱アシル型ジェランガムのみ添加の比3と比べて抑制されているものの、根数が比較例よりも多く、太い根が形成し、順化が良好であった。しかし、加熱による培地の変色や、試験管への分注が前述と同様に通常よりも困難という問題があったが、ネイティブ型ジェランガムに脱アシル型ジェランガムを混合した実7〜8は、加熱融解時に培地の変色は認められず、また、試験管への分注もネイティブ型ジェランガム単独よりも分注しやすかった。
【0032】
培養後の根の伸長においては、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムを混合した実7〜8は、ネイティブ型ジェランガムのみ添加の実4〜6よりも、良好な伸長が認められ、また、根数も他のゲルを使用した培地の結果と変わらず、順化に適した太い根を形成していた(図4)。両ゲル化剤を混合した培地では、ネイティブ型ジェランガムの濃度による植物の生育に対する差は認められなかった。また、地上部の湾曲も認められなかった。しかし、4週間培養した植物体を試験管から取り出す際、ネイティブ型ジェランガムが0.5%では、掌で試験管を軽く叩くと、簡単に培地が崩れたが、ネイティブ型ジェランガムを1%にした場合、同様にしても培地が崩れにくく、ネイティブ型ジェランガムを0.5%添加した時の方が、植物体を傷つけずに取り出すことができた。
【0033】
実験例3:ネイティブ型及び脱アシル型ジェランガムの併用(2)
ネイティブ型ジェランガムおよび脱アシル型ジェランガムを混合して培地に用いることにより、発根状態が良好である結果が得られた。今回は、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムを直前に混合した場合と、添加前にネイティブ型ジェランガムおよび脱アシル型ジェランガムを乳鉢を用いて、より細かく粉砕し、混合しておいた場合について実験を行い、調製済みのものを用いても植物の生育に影響がないか検討した。
【0034】
(1)ゲル状固形培地の調製
調製したMS液体培地に表3に掲げる配合にて、脱アシル型ジェランガム(0.2 %)、寒天(1.0 %)、ネイティブ型ジェランガム(0.5 %)および寒天(0.5 %)、または、ネイティブ型ジェランガム(0.5、1.0 %)と脱アシル型ジェランガム(0.1 %)の混合したものを加え、加熱溶解し、ガラス試験管に分注した。アルミホイルでガラス試験管に蓋をし、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌した。以下は実験例1の実験方法と同様な操作を行った。
【0035】
【表3】

【0036】
(2)植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)の培養
実験例1の実験方法と同様な操作を行った。
【0037】
(3)結果
比4(0.2% 脱アシル型ジェランガム)、比5(1% 寒天)、実13(0.5%寒天および0.5% ネイティブ型ジェランガム)、実10〜12(0.5%ネイティブ型ジェランガムおよび0.5% 脱アシル型ジェランガム(直前に混合、事前に混合し乳鉢ですりつぶしたもの、各々を乳鉢ですりつぶし混合したもの))を培地に加え、Loberia cardinalisを4週間培養した結果、シュートの生育に差は認められなかった。
【0038】
根においては、ネイティブ型ジェランガムを添加した実10〜13の場合、根の伸長が抑制されたが、主根数ではあまり差が認められなかった。また、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの混合培地において、事前に混合し、乳鉢で細かく粉砕しても植物体の生育に大きな影響を与えなかったことから、培地を調製する毎に、固形化剤を混合するのではなく、事前に調製済みのものを作成しておいても問題がないことが分かった。試験管から植物体を取り出す際、ネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムの混合したものが最も取り出しやすかった。
【0039】
実験例4:他の植物への影響
ネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムを混合して培地に用いた培養がLobelia cardinalisの順化苗作成には良好であることが分かった。さらに、混合比率を変えて、最適条件を検討した。また、他の植物についても検討を行った。
【0040】
(1)ゲル状固形培地の調製
調製したMSまたは1/2MS(主要無機塩類が1/2濃度)液体培地に表4に掲げる配合にて、ネイティブ型ジェランガム(0.25、0.5、0.75、1.0 %)と脱アシル型ジェランガム(0.05、0.1、0.15 %)の混合したもの、寒天(1 %)、または、脱アシル型ジェランガム(0.2 %)を加え、沸騰させて溶解し、ガラス試験管に分注した。アルミホイルでガラス試験管に蓋をし、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌した。
【0041】
【表4】

【0042】
(2)植物の培養
植物:無菌培養植物は、以下のものを使用した。
使用植物:
Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)
Glycyrrhiza inflata(カンゾウ)
Ipomoea batatas(サツマイモ:農林5号)
【0043】
Glycyrrhiza inflata(カンゾウ)においては、アルミホイルに穴を開け、MilliSeal(MILLPORE)でシールをした通気性を向上したもので蓋をした。以降の方法は実験例1の実験方法と同様な操作を行った。
【0044】
(3)結果
(3)-1 Lobelia cardinalis
5週間培養後、観察を行った結果、シュートおよび根の伸長は、ネイティブ型ジェランガムの含有比率が高くなるにつれて、若干ではあるが抑制された。また、根数もネイティブ型ジェランガム含有比率が高くなるにつれて少なくなった。根数(太い根)については、ネイティブ型ジェランガムが0.5%以上含まれた培地で通常用いている0.2%脱アシル型ジェランガムよりも多い、または同程度の本数であった。
【0045】
また、試験管から植物体を取り出した際、ネイティブ型ジェランガムが0.75%の濃度までは試験管を掌で軽く叩くことで、ゲルが崩れ、植物体を容易に取り出せたが、ネイティブ型ジェランガムが1%濃度であると、ゲルが崩れにくく、若干取り出しにくかった。
【0046】
(3)-2 Glycyrrhiza inflata
2週間培養後、観察を行ったが、シュートおよび根の生育に大きな差は認められなかった。さらに培養5週目に観察を行った結果、シュート伸長には差が認められなかったが、根において固形化剤の違いによる差が認められた。ネイティブ型ジェランガムの含有比率が高くなるにつれ、根の分枝が良好であった。
【0047】
(3)-3 Ipomoea batatas
順化苗を作成するためには、根の長さが短すぎても長過ぎてもよくない。通常の培養には、固形化剤に寒天や脱アシル型ジェランガムのみを使用しているが、根の伸長が良好なため、ネイティブ型ジェランガムを用いることで根の伸長抑制を起こすことが可能か検討を行った。
【0048】
1週間培養後、観察を行ったが、他の植物と比較してどの培地においても根の伸長は良好であった。培養3週目に観察および収穫を行った結果、脱アシル型ジェランガムや寒天、0.25%および0.5%ネイティブ型ジェランガムが含まれている培地で生育した植物体で、側根の形成が活発であった。これらの植物体を収穫し、測定した結果、シュートおよび根の伸長はネイティブ型ジェランガムが多く含有されている方が若干ではあるが、生育が抑制された。また、側根数も抑制された。ネイティブ型ジェランガムおよびジェランガム混合したゲル化剤を用いた方が、順化に適した苗が作出できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、培養植物の根の分枝が多く、太く短い形状に生長するような生育傾向となるため、土壌に移植しやすく、順化効率の良い植物組織を生育できるゲル状固形培地を提供することができる。更には、植物を培地に対して垂直方向に植え付けることが可能となり、更には、滅菌時における培地の焦げも有意に抑制することができるために、植物培養が簡便となる固形培地を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実験例1の実1〜3,比1〜2の培地にて4週間培養した植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)を培地から取りだした状態の写真である。
【図2】実験例1の実1〜3,比1〜2の培地にて4週間培養した植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)について、地上のシュートの長さ、地下の根の長さ及び根の分岐の本数について表したグラフである。
【図3】実験例2の実4〜8,比3の培地にて4週間培養した植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)の状態の写真である。
【図4】実験例2の実7〜8の培地にて4週間培養した植物Lobelia cardinalis(ロベリアカージナリス)を培地から取りだした状態の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤としてネイティブ型ジェランガムを使用することを特徴とする固形培地。
【請求項2】
ゲル化剤として、ネイティブ型ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムを使用することを特徴とする固形培地。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−254832(P2006−254832A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78793(P2005−78793)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】