説明

固形有機性廃棄物の処理方法およびその装置

【課題】固形有機性廃棄物を効率良く処理できる廃棄物処理システムを提供する。
【解決手段】固形有機性廃棄物をメタン発酵槽5でメタン発酵してメタン発酵液とする。メタン発酵液の少なくとも一部をアンモニアストリッピング装置6に移送して40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温してアンモニアストリッピングしてアンモニア除去液とする。アンモニア除去液を返送ライン11にてメタン発酵槽5より前段の混合槽3に返送する。返送後の固形有機性廃棄物の温度が、酸発酵槽4での可溶化処理およびメタン発酵槽5でのメタン発酵処理のそれぞれに適した温度となる。酸発酵槽4にて効率良く可溶化できるとともに、固形有機性廃棄物中の固形分を再分解できる。固形有機性廃棄物の分解効率を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形有機性廃棄物を処理する固形有機性廃棄物の処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の固形有機性廃棄物の処理方法としては、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させる処理工程で発生するメタンガスによってエネルギを回収できる点から、メタン発酵を用いた処理方法が注目されている。そして、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させる場合には、メタン発酵させるメタン発酵槽を備えており、このメタン発酵槽の前段には、投入量調整、投入濃度調整あるいは各種の固形有機性廃棄物の混合を主な目的として、3日分程度の容量を有する投入調整槽を設置させる構成が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
また、この種のメタン発酵を用いた固形有機性廃棄物の処理方法としては、し尿処理施設から発生する余剰汚泥と生ごみとをメタン発酵させる施設において、生ごみのみをメタン発酵槽の前段に設置した混合槽に一旦貯留させるとともに、余剰汚泥を直接メタン発酵槽へ投入させる構成も知られている(例えば、非特許文献2参照。)。さらに、この種のメタン発酵を用いた固形有機性廃棄物の処理方法としては、処理効率を高めるために可溶化処理させる酸発酵槽を、メタン発酵槽の前段に設置する構成や、この酸発酵槽にて発酵させた発酵液を循環させる構成などが知られている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0004】
一般に、生ごみなどはメタン発酵での分解率が高いのに対し、糞尿や水処理施設から発生する余剰汚泥などは分解率が低い。そこで、これら糞尿などの水処理施設から発生する余剰汚泥を、メタン発酵の前に70℃〜90℃程度の高温にして数分程度の処理時間を目安として生物学的に可溶化させて高温改質処理する構成(例えば、特許文献1参照。)や、これら糞尿や余剰汚泥などの有機性汚泥をアルカリ性にするとともに、この有機性汚泥の温度を50℃〜100℃に維持して可溶化させる構成(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【0005】
そして、これら糞尿などの余剰汚泥をメタン発酵させる場合には、この余剰汚泥の最適温度が高温メタン発酵の場合に50℃〜60℃程度であるとともに、中温メタン発酵の場合に35℃〜40℃程度である。さらに、これら糞尿や余剰汚泥などの固形有機性廃棄物をメタン発酵させる場合には、この固形有機性廃棄物中に含まれるタンパク質などの分解に伴って、メタン発酵後のメタン発酵液中にアンモニアが生成される。そして、このアンモニアは、水域に流出した場合に富栄養化の原因物質の一つとなるから、何らかの処理で除去する必要がある。
【0006】
そして、このアンモニアの除去方法としては、微生物による硝化脱窒素反応によってアンモニアを窒素ガスに変換する構成や、メタン発酵液中に含まれるアンモニアを気相部に移行させる構成などが知られている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、このアンモニアが高濃度の場合にはメタン発酵に阻害を及ぼすので、メタン発酵液の循環ラインに、このメタン発酵液中に含まれるアンモニアを気相部に移行させて、この高濃度のアンモニアによるメタン発酵の阻害を回避させる構成などが知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
また、このメタン発酵液中のアンモニアを除去する方法としては、このメタン発酵液中のアンモニアが反応式:NH+OH→NH+HOによるため、このメタン発酵液のpHを上げることによって、このメタン発酵液中のアンモニウムイオン(NH4)をアンモニアガスとして放散させる。さらに、このメタン発酵液の温度を上げた場合には、このメタン発酵液中の遊離アンモニア(NH)の溶解度が減少するため、アンモニアガスを放散させて、このメタン発酵液中のアンモニアを気相部へ除去させるアンモニアストリッピング処理が知られている。そして、このアンモニアストリッピング処理では、吹き込む気体の量と処理するメタン発酵液の量との比である気液比が、アンモニア除去率に影響を及ぼす重要な要素であるので、この気液比を通常数千倍の値とされている(例えば、特許文献5参照。)。
【0008】
さらに、このアンモニアストリッピング処理によって発生するアンモニアを含有する気体の処理方法としては、触媒を用いて窒素ガスと水とに分解処理する方法(例えば、特許文献6参照。)や、直接燃焼法と脱硝触媒とを組み合わせて窒素ガスと水とに分解する方法(例えば、非特許文献4参照。)などが知られている。
【特許文献1】特開平10−235317号(第1−5頁)
【特許文献2】特許第2659895号公報(第1−8頁)
【特許文献3】特開平11−77024号公報(第1−5頁)
【特許文献4】特開2001−137812号公報(第1−12頁、図1)
【特許文献5】特開2004−230338号公報(第1−4頁)
【特許文献6】特開2001−9281号公報(第1−9頁)
【非特許文献1】「汚泥再生処理センタ等施設整備の計画・設計要領」,社団法人全国都市清掃会議,平成13年9月25日,p.273
【非特許文献2】「汚泥再生処理センタ等の基盤整備促進に関する研究報告書(平成13年度)」,財団法人廃棄物研究財団,平成14年8月,p.65
【非特許文献3】水野修、外3名,「二相循環式メタン発酵システムによる食品廃棄物の高速処理」,講演集,第37回日本水環境学会年会,平成15年3月6日,p.409
【非特許文献4】技術資料 小型脱硝装置、[online]、株式会社日本触媒、[平成17年1月28日検索]、インターネット<URL:http://www.shokubai.co.jp/main/04produc/syohin/kogata.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、糞尿などの水処理施設から発生する余剰汚泥を、メタン発酵の前に高温にして生物学的に可溶化させて高温改質処理する場合には、この余剰汚泥のメタン発酵前の温度を、70℃〜90℃程度が適しており、このメタン発酵前の加温の温度は、このメタン発酵前の余剰汚泥の温度が90℃程度の場合には、この加温の処理時間は数分程度が目安とされている。
【0010】
ところが、上述のように、メタン発酵時の余剰汚泥の最適温度は、高温メタン発酵の場合に50℃〜60℃程度であるとともに、中温メタン発酵の場合に35℃〜40℃程度である。したがって、これらメタン発酵の前段で高温改質処理する場合には、余剰汚泥を放冷させたり、熱交換器を設けて熱交換させて冷却させたりする必要があるから、この余剰汚泥を効率良くメタン発酵させることが容易ではないという問題を有している。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、固形有機性廃棄物を効率良くメタン発酵できる固形有機性廃棄物の処理方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の固形有機性廃棄物の処理方法は、固形有機性廃棄物をメタン発酵処理してメタン発酵液とするメタン発酵工程と、このメタン発酵工程にて処理されたメタン発酵液の少なくとも一部を40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温する加温工程と、この加温工程にて加温された前記メタン発酵液を前記メタン発酵工程に返送する返送工程とを具備したものである。
【0013】
そして、固形有機性廃棄物をメタン発酵工程にてメタン発酵処理してメタン発酵液にしてから、このメタン発酵液の少なくとも一部を加温工程にて40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温した後に、この加温工程にて加温されたメタン発酵液を返送工程にてメタン発酵工程に返送させる。この結果、加温工程にて加温されたメタン発酵液を返送工程にて固形有機性廃棄物へと返送させることにより、この固形有機性廃棄物の温度がメタン発酵に適した温度となる。さらに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を40分以上滞留させて加温することによって、このメタン発酵液を効率良く可溶化できるとともに、このメタン発酵液中の固形分が再分解されるので、このメタン発酵液の分解効率が向上する。したがって、この固形有機性廃棄物を効率良くメタン発酵できるとともに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を効率良く分解できるので、この固形有機性廃棄物を効率良く処理できる。
【0014】
請求項2記載の固形有機性廃棄物の処理方法は、請求項1記載の固形有機性廃棄物の処理方法において、加温工程は、加温されたメタン発酵液に、このメタン発酵液1000kgに対して200Nm以上400Nm以下の空気を吹き込んで、前記メタン発酵液中のアンモニアを除去するアンモニアストリッピング工程であるものである。
【0015】
そして、加温されたメタン発酵液に、このメタン発酵液1000kgに対して200Nm以上400Nm以下の空気を吹き込んで、このメタン発酵液中のアンモニアをアンモニアストリッピング工程にて除去する。この結果、このメタン発酵液中のアンモニアをアンモニアガスとして除去できるともに、このメタン発酵液中の嫌気性細菌を殺菌でき、この殺菌された嫌気性細菌を返送工程にて返送することによって、この殺菌された嫌気性細菌が再分解されて処理される。したがって、固体有機性廃棄物およびメタン発酵液それぞれの分解効率を向上できるとともに、アンモニアストリッピング工程での処理効率を向上できる。
【0016】
請求項3記載の固形有機性廃棄物の処理方法は、請求項2記載の固形有機性廃棄物の処理方法において、アンモニアストリッピング工程にてアンモニアが除去されたメタン発酵液に水酸化ナトリウムを添加して可溶化する可溶化工程を具備し、返送工程は、前記可溶化工程にて可溶化されたメタン発酵液を固形有機性廃棄物へと返送させて混合させるものである。
【0017】
そして、アンモニアストリッピング工程でメタン発酵液からアンモニアを除去する際に、このメタン発酵液から炭酸イオンが除去されるので、このメタン発酵液のアルカリ度が減少してしまう。そこで、アンモニアストリッピング工程にてアンモニアを除去したメタン発酵液に水酸化ナトリウムを添加して可溶化工程にて可溶化してから、この可溶化したメタン発酵液を返送工程にて固形有機性廃棄物へと返送して混合させる。この結果、少量の水酸化ナトリウムの添加でメタン発酵液のアルカリ度を上昇できるとともに、加温工程と水酸化ナトリウムの添加によるアルカリ処理とが併用される。したがって、このメタン発酵液の分解効率を効率良く向上できるとともに、このメタン発酵液から生成される汚泥量を削減できる。
【0018】
請求項4記載の固形有機性廃棄物の処理方法は、請求項2または3記載の固形有機性廃棄物の処理方法において、アンモニアストリッピング工程にてメタン発酵液から分離させたアンモニアを含有する気体を、メタン発酵工程で発生したメタンガスに混合して燃焼させるガス燃焼工程を具備したものである。
【0019】
そして、アンモニアストリッピング工程にてメタン発酵液から分離させたアンモニアを含有する気体を、メタン発酵工程で発生したメタンガスに混合してガス燃焼工程にて燃焼させることにより、メタン発酵液から分離されたアンモニアの燃焼熱とともに、メタン発酵工程で発生したメタンガスの燃焼熱を利用して、メタン発酵液を加温できるから、アンモニアストリッピング工程で使用したエネルギを有効に利用できる。
【0020】
請求項5記載の固形有機性廃棄物の処理方法は、請求項1ないし4いずれか記載の固形有機性廃棄物の処理方法において、加温工程にて加温されたメタン発酵液は、固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍以上2.0倍以下の比率で前記固形有機性廃棄物に混合するものである。
【0021】
そして、加温工程にて加温されたメタン発酵液を、アンモニアストリッピング工程にて固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍未満の固形有機性廃棄物に混合させた場合には、アンモニアストリッピング工程が効率良くできない。また、このメタン発酵液を固形有機性廃棄物に対して質量で2.0倍より多く固形有機性廃棄物に混合させた場合には、この固形有機性廃棄物の処理量に対してメタン発酵液の処理量が多くなるので、アンモニアストリッピング工程で用いたエネルギが無駄になってしまう。そこで、加温工程にて加温されたメタン発酵液を、アンモニアストリッピング工程にて固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍以上2.0倍以下の比率で固形有機性廃棄物に混合させることにより、アンモニアストリッピング工程を効率良くできるとともに、このアンモニアストリッピング工程で用いたエネルギを効率良く利用でき、これら固形有機性混合物とメタン発酵液との混合後の総固形物濃度が適正値となるので、これら固形有機性混合物およびメタン発酵液それぞれの処理効率を向上できる。
【0022】
請求項6記載の固形有機性廃棄物の処理装置は、固形有機性廃棄物をメタン発酵処理してメタン発酵液とするメタン発酵手段と、このメタン発酵手段にて処理されたメタン発酵液の少なくとも一部を40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温する加温手段と、この加温手段にて加温された前記メタン発酵液を前記メタン発酵工程に返送する返送手段とを具備したものである。
【0023】
そして、固形有機性廃棄物をメタン発酵手段でメタン発酵処理してメタン発酵液にしてから、このメタン発酵液の少なくとも一部を加温手段で40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温した後に、この加温手段で加温したメタン発酵液を返送手段でメタン発酵工程に返送させる。この結果、加温手段で加温したメタン発酵液を返送手段で固形有機性廃棄物へと返送させることにより、この固形有機性廃棄物の温度がメタン発酵に適した温度となる。さらに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を40分以上滞留させて加温することによって、このメタン発酵液を効率良く可溶化できるとともに、このメタン発酵液中の固形分が再分解されるので、このメタン発酵液の分解効率が向上する。したがって、この固形有機性廃棄物を効率良くメタン発酵できるとともに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を効率良く分解できるので、この固形有機性廃棄物を効率良く処理できる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の固形有機性廃棄物の処理方法によれば、固形有機性廃棄物をメタン発酵工程にてメタン発酵処理してメタン発酵液にしてから、このメタン発酵液の少なくとも一部を加温工程にて40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温した後に、この加温工程にて加温されたメタン発酵液を返送工程にてメタン発酵工程に返送させることにより、メタン発酵液が返送された後の固形有機性廃棄物の温度がメタン発酵に適した温度にできる。さらに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を40分以上滞留させて加温することによって、このメタン発酵液を効率良く可溶化できるとともに、このメタン発酵液中の固形分を再分解できるので、このメタン発酵液の分解効率を向上できるから、この固形有機性廃棄物を効率良くメタン発酵できるとともに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を効率良く分解できるので、この固形有機性廃棄物を効率良く処理できる。
【0025】
請求項2記載の固形有機性廃棄物の処理方法によれば、加温されたメタン発酵液に、このメタン発酵液1000kgに対して200Nm以上400Nm以下の空気を吹き込んで、このメタン発酵液中のアンモニアをアンモニアストリッピング工程にて除去することにより、このメタン発酵液中のアンモニアをアンモニアガスとして除去できるともに、このメタン発酵液中の嫌気性細菌を殺菌でき、この殺菌された嫌気性細菌を返送工程にて返送することによって、この殺菌された嫌気性細菌を再分解させて処理できるから、固体有機性廃棄物およびメタン発酵液それぞれの分解効率を向上できるとともに、アンモニアストリッピング工程での処理効率を向上できる。
【0026】
請求項3記載の固形有機性廃棄物の処理方法によれば、アンモニアストリッピング工程にてアンモニアを除去したメタン発酵液に水酸化ナトリウムを添加して可溶化工程にて可溶化してから、この可溶化したメタン発酵液を返送工程にて固形有機性廃棄物へと返送させて混合させることにより、少量の水酸化ナトリウムの添加でメタン発酵液のアルカリ度を上昇できるとともに、加温工程と水酸化ナトリウムの添加によるアルカリ処理とを併用できるから、このメタン発酵液の分解効率を効率良く向上できるとともに、このメタン発酵液から生成される汚泥量を削減できる。
【0027】
請求項4記載の固形有機性廃棄物の処理方法によれば、アンモニアストリッピング工程にてメタン発酵液から分離させたアンモニアを含有する気体を、メタン発酵工程で発生したメタンガスに混合してガス燃焼工程にて燃焼させることにより、メタン発酵液から分離されたアンモニアの燃焼熱とともに、メタン発酵工程で発生したメタンガスの燃焼熱を利用してメタン発酵液を加温できるから、アンモニアストリッピング工程で使用したエネルギを有効に利用できる。
【0028】
請求項5記載の固形有機性廃棄物の処理方法によれば、加温工程にて加温されたメタン発酵液を、固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍以上2.0倍以下の比率で混合させることにより、アンモニアストリッピング工程を効率良くできるとともに、このアンモニアストリッピング工程で用いたエネルギを効率良く利用でき、これら固形有機性混合物とメタン発酵液との混合後の総固形物濃度を適正値にできるから、これら固形有機性混合物およびメタン発酵液それぞれの処理効率を向上できる。
【0029】
請求項6記載の固形有機性廃棄物の処理装置によれば、固形有機性廃棄物をメタン発酵手段でメタン発酵処理してメタン発酵液にしてから、このメタン発酵液の少なくとも一部を加温手段で40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温した後に、この加温手段で加温したメタン発酵液を返送手段でメタン発酵工程に返送させることにより、メタン発酵液が返送された後の固形有機性廃棄物の温度がメタン発酵に適した温度にできる。さらに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を40分以上滞留させて加温することによって、このメタン発酵液を効率良く可溶化できるとともに、このメタン発酵液中の固形分を再分解できるので、このメタン発酵液の分解効率を向上できるから、この固形有機性廃棄物を効率良くメタン発酵できるとともに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させたメタン発酵液を効率良く分解できるので、この固形有機性廃棄物を効率良く処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の固形有機性廃棄物の処理装置の第1の実施の形態の構成を図1を参照して説明する。
【0031】
図1において、1は固形有機性廃棄物の処理装置としての廃棄物処理システムである。この廃棄物処理システム1は、廃棄物処理装置としての固形有機性廃棄物処理システムでもある。そして、この廃棄物処理システム1にて処理する固形有機性廃棄物としては、メタン発酵処理できる全ての廃棄物である。具体的に、この固形有機性廃棄物としては、生ごみ、厨芥、農業水産廃棄物、食品加工廃棄物、下水、および図示しない屎尿処理施設で発生する余剰汚泥などがある。
【0032】
そして、廃棄物処理システム1は、固形有機性廃棄物を破砕するとともに、この固形有機性廃棄物中の夾雑物を除去する前処理手段2を備えている。この前処理手段2は、例えば歯幅が20mm±5mm程度の2軸、3軸あるいは4軸の図示しない破砕軸を有している。すなわち、この前処理手段2は、前処理工程であって、図示しない収集車などにて収集された生ごみなどの固形有機性廃棄物を破砕するとともに、この固形有機性廃棄物に含まれているメタン発酵処理に適さないプラスチック類などの夾雑物を除去する。
【0033】
さらに、この前処理手段2には、この前処理手段2にて前処理された固形有機性廃棄物を処理する混合槽3が接続されて取り付けられている。この混合槽3は、前処理手段2にて前処理工程を受けた固形有機性廃棄物が移送されるとともに、後述のアンモニアストリッピング装置6にてアンモニア除去処理を受けたアンモニアストリッピング処理液としてのアンモニアストリッピング処理汚泥であるアンモニア除去液が移送される。すなわち、この混合槽3は、前処理手段2にて前処理された固形有機性廃棄物と、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニア除去処理されたアンモニア除去液とを混合して、所定の総固形物濃度(Total Solids:TS濃度)、例えば10〜15%程度、より好ましくは10%〜13%のスラリ状の液状有機性廃棄物に調整する。
【0034】
また、この混合槽3には、この混合槽3にて調整された液状有機性廃棄物を処理する酸発酵槽4が取り付けられている。この酸発酵槽4には、混合槽3にて調整された液状有機性廃棄物が移送され、この液状有機性廃棄物を高温改質処理して可溶化処理する可溶化処理手段である。具体的に、この酸発酵槽4は、この酸発酵槽4に移送されて貯留されている液状有機性廃棄物の液温を例えば55℃以上60℃以下の高温に保温する図示しない保温手段と、この酸発酵槽4に貯留されている液状有機性廃棄物を攪拌させる図示しない攪拌手段を備えている。そして、この酸発酵槽4は、液状有機性廃棄物を1日以上、より好ましくは3日以上滞留させて、この液状有機性廃棄物を可溶化させて可溶化液とする。
【0035】
ここで、この酸発酵槽4へと移送される液状有機性廃棄物以前の固形有機性廃棄物中に、例えば鉄(Fe)、ニッケル(Ni)あるいはコバルト(Co)などの微生物に必要な微量元素である栄養塩が不足している場合には、これら栄養塩を図示しない添加手段にて酸発酵槽4に添加することが望ましい。
【0036】
さらに、この酸発酵槽4には、この酸発酵槽4にて可溶化された可溶化液をメタン発酵処理するメタン発酵手段としてのメタン発酵槽5が取り付けられている。このメタン発酵槽5は、酸発酵槽4にて可溶化され、この酸発酵槽4内に貯留されている可溶化液が移送されるメタン発酵工程である。そして、このメタン発酵槽5は、このメタン発酵槽5へと移送された可溶化液の液温をメタン発酵に適した温度に維持する図示しない温度調整手段を備えている。この温度調整手段は、メタン発酵槽5にて可溶化液を中温メタン発酵させる場合には、この可溶化液の液温を35℃±5℃に維持し、このメタン発酵槽5にて可溶化液を高温メタン発酵させる場合には、この可溶化液の液温を55℃±5℃に維持する。
【0037】
また、このメタン発酵槽5は、このメタン発酵槽5に貯留されている可溶化液を攪拌させる図示しない攪拌手段を備えている。そして、このメタン発酵槽5では、このメタン発酵槽5内に貯留されている可溶化液の温度を調整しつつ攪拌して、この可溶化液をメタン発酵処理してメタン発酵処理液としての発酵液とする。さらに、このメタン発酵槽5では、このメタン発酵槽5での可溶化液のメタン発酵処理によって、このメタン発酵槽5からメタン(CH)と二酸化炭素(CO)とを主成分としたバイオガスが発生する。そして、このバイオガスは、図示しないバイオガスホルダに貯留される。
【0038】
さらに、このメタン発酵槽5には、このメタン発酵槽5にて処理された発酵液をアンモニアストリッピングさせる窒素除去装置としての加温手段であるアンモニアストリッピング装置6が取り付けられている。ここで、このアンモニアストリッピング装置6は、窒素化合物除去装置としてのアンモニア除去装置である。また、このメタン発酵槽5には、このメタン発酵槽5にて処理された発酵液を処理する発酵液処理手段7が取り付けられている。そして、これらアンモニアストリッピング装置6および発酵液処理手段7には、メタン発酵槽5にて処理された発酵液の一部がアンモニアストリッピング装置6へと移送されるとともに、このアンモニアストリッピング装置6には移送されない残りの発酵液が発酵液処理手段7へと移送される。
【0039】
ここで、このアンモニアストリッピング装置6への発酵液の移送量は、対象とした固形有機性廃棄物の性状によって決定される。具体的に、この固形有機性廃棄物が、生ごみなどの食品廃棄物の場合には、アンモニアストリッピング装置6の図示しない反応槽内の流動性を確保する観点などから、処理する固形有機性廃棄物とほぼ同量程度の発酵液をアンモニアストリッピング装置6へと移送させるのが好ましい。
【0040】
一方、メタン発酵槽5でのメタン発酵処理にて発生しバイオガスホルダに貯留されたバイオガスは、必要に応じて脱硫やシロキサン除去などの処理を経てから燃焼装置としてのガス利用手段8で利用される。ここで、このシロキサン除去とは、バイオガス中に含まれている有害成分であるシロキサンを取り除いて除去することである。さらに、このガス利用手段8としては、ガスエンジン、ガスタービンなどの発電装置、あるいはボイラなどの、通常のメタン発酵施設にて使用される設備が用いられる。
【0041】
そして、このガス利用手段8には、メタン発酵槽5およびアンモニアストリッピング装置6に接続されている。具体的に、このガス利用手段8は、メタン発酵槽5にて発生したバイオガスとともにアンモニアストリッピング装置6にて発生したアンモニアガスを含む気体を燃焼させるガス燃焼行程として利用されている。さらに、このガス利用手段でメタンガスを燃焼させた場合には、反応式:CH+2O→CO+HOによってメタンガスが燃焼される。
【0042】
さらに、アンモニアストリッピング装置6では、このアンモニアストリッピング装置6で空気を用いてアンモニアストリッピング処理を行った場合には、このアンモニアストリッピング装置6から、ほぼ窒素(N)が79%で、酸素(O)が19%で、アンモニア(NH)が1%で、二酸化炭素(CO)が1%である組成のガスが排出される。一方、メタン発酵槽5から発生するバイオガスに含まれるメタンガスの濃度は、50%以上60%以下である。このメタン発酵槽5から発生するバイオガス中のメタンを完全燃焼させるためには、このバイオガス:1Nmに対して5,6倍以上の量のアンモニアストリッピング装置6から排出される気体が必要となる。
【0043】
ここで、固形有機性廃棄物、すなわちメタン発酵処理液としてのメタン発酵液1000kg(1トン)から発生するバイオガスの量は、60Nm以上180Nm以下であるため、このバイオガスを燃焼させるためには、アンモニアストリッピング装置6から排出される気体が、300Nm以上900Nm以下の量ほど必要となる。さらに、アンモニアストリッピング装置6での気液比は、200以上400以下であり、メタン発酵液1トンの処理に伴って発生する気体の量は、200Nm以上400Nm以下である。
【0044】
このため、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて排出される気体の量では、メタン発酵槽5から発生するバイオガスを完全燃焼させるためには酸素が不足してしまう。そこで、この燃焼に不足する分の酸素を有する空気をバイオガスに混合させて対応して、ガス利用手段8にてバイオガスを完全燃焼させる。このとき、バイオガスとアンモニアストリッピング装置6から排出される気体とを事前に混合すると、この混合後のメタン濃度が爆発限界である5%以上14%以下となる場合があるから、これらバイオガスと気体とを事前に混合しない方が良い。したがって、アンモニアストリッピング装置6から排出される気体は、空気と混合してからガス利用手段8へと供給し、この気体をバイオガスに事前に混合させない。なお、アンモニアガスの爆発限界は15%以上28%以下であるため、アンモニアストリッピング装置6から排出される気体を事前に空気と混合しても問題がない。
【0045】
さらに、ガス利用手段8には、このガス利用手段8にて燃焼された後の気体である排ガスが導入される触媒還元装置9が接続されている。この触媒還元装置9は、ガス利用手段8での気体の燃焼により発生した窒素酸化物を処理するものであり、このガス利用手段8から排出される排ガスが導入される。そして、この触媒還元装置9には、アンモニアストリッピング装置6にて発生したアンモニアガスを含む気体の一部が導入される。そして、この触媒還元装置9は、ガス利用手段8から排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物としてのアンモニアを触媒を用いて無害な窒素、すなわち炭酸ガスと水とに分解してから必要な処理をした後に大気へと放出させる。すなわち、この触媒還元装置は、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて得られるアンモニアを利用した触媒脱硝法を用いて、ガス利用手段から排気された排ガスを分解して無害化させる。
【0046】
ここで、このアンモニアストリッピング装置6へと移送された発酵液の加温には、ガス利用手段8での燃焼後の気体との図示しない熱交換機を介した間接加熱法や、このガス利用手段8において発生する水蒸気の少なくとも一部をアンモニアストリッピング装置6へ導入させることなどを利用できる。そして、このアンモニアストリッピング装置6では、このアンモニアストリッピング装置6へと移送された発酵液を反応槽に40分以上滞留させるとともに、この発酵液を70℃以上90℃以下の温度に加温して、この発酵液中の窒素化合物を除去してアンモニアストリッピングしてアンモニアストリッピング処理液としてのアンモニア除去液とする。
【0047】
さらに、このアンモニアストリッピング装置6は、返送手段としての返送ライン11を介して混合槽3に接続されている。そして、このアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピングされて加温されたアンモニア除去液は、返送工程として返送ライン11を介してメタン発酵槽5より前段の混合槽3へと返送される。このとき、このアンモニアストリッピング装置6にて加温されたアンモニア除去液は、混合槽3へと移送される固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍以上2.0倍以下の比率で、この混合槽3へと返送されて、この混合槽3中の固形有機性廃棄物に混合される。
【0048】
次に、上記第1の実施の形態の作用について説明する。
【0049】
まず、水処理施設から発生する余剰汚泥などの固形有機性廃棄物を、メタン発酵槽5の前段で高温改質処理する場合には、この固液有機性廃棄物の温度を70℃以上90℃以下とするとともに、この固形有機性廃棄物の温度が90℃の場合には、この固形有機性廃棄物を高温改質処理する際の処理時間を数分程度とする。
【0050】
これに対し、この固形有機性廃棄物をメタン発酵槽5にてメタン発酵処理する際の、この固形有機性廃棄物の最適温度は、この固形有機性廃棄物を高温メタン発酵させる場合で50℃以上60℃以下程度、この固形有機性廃棄物を中温メタン発酵処理させる場合で35℃以上40℃以下程度である。よって、このメタン発酵槽5でのメタン発酵処理の前段で、固形有機性廃棄物を高温改質処理する場合には、この固形有機性廃棄物をメタン発酵処理する前に放冷させたり、図示しない熱交換器を設けて冷却したりする必要がある。
【0051】
一方、この固形有機性廃棄物をメタン発酵槽5にてメタン発酵処理させたメタン発酵液を、このメタン発酵槽5の前段に返送する場合には、このメタン発酵槽5でメタン発酵させたメタン発酵液を70℃以上90℃以下の温度に加温して高温改質処理する場合には、固形有機性廃棄物の温度が一般に5℃以上25℃以下程度であることから、例えば、このメタン発酵液と固形有機性廃棄物とを質量比で1:1程度に混合した場合には、これらメタン発酵液と固形有機性廃棄物とを混合させた後の混合液の温度が、後段の酸発酵槽4での可溶化処理に適しているとともに、メタン発酵槽でのメタン発酵処理に適した35℃以上60℃以下程度となる。
【0052】
さらに、このメタン発酵槽5にてメタン発酵された後のメタン発酵液の微生物相は、活性汚泥などと異なり古細菌類が主体である。そして、この古細菌類は、一般に熱に強い細菌が多く、メタン発酵液を対象とした場合には、90℃で数分程度の処理時間では分解効率やガス発生量の向上などが期待できない。また、このメタン発酵液を85℃に加熱して30分程度の処理時間としても、このメタン発酵液からのガス発生量を向上できない。
【0053】
また、このメタン発酵液を対象とした熱改質処理には、このメタン発酵液を40分以上の間、より好ましくは60分以上90分以下程度の処理時間が必要である。そして、このメタン発酵液からのガス発生量を向上させるためには、このメタン発酵液を固液分離することなく、このメタン発酵液をメタン発酵させたメタン発酵槽5より前段に、このメタン発酵液を返送することが好ましい。すなわち、このメタン発酵液を固液分離することなく熱処理することによって、このメタン発酵液中の固形分が再分解されて、このメタン発酵液の分解効率を向上できる。
【0054】
次いで、メタン発酵槽5より前段へと返送されるメタン発酵液を、混合槽3へと返送させる前に、アンモニアストリッピング装置6にて70℃以上90℃以下の温度に加温することもできる。よって、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6へと移送させてアンモニアストリッピング処理してから返送ライン11にて混合槽3へと返送することも考えられる。すなわち、70℃以上90℃以下の温度に加温したメタン発酵液に空気を接触させると、このメタン発酵液のアンモニアストリッピング処理にて発生する気体の溶解度が低下することや、空気中のアンモニアガス分圧が低いことなどが要因となって、このメタン発酵液中のアンモニアがアンモニアガスとして気相側に移行して除去できる。
【0055】
さらに、このメタン発酵液中のメタン生成細菌は、酸素の存在下で生息することが不可能な偏性嫌気性生菌である。したがって、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6でアンモニアストリッピングさせる際に空気を用いることによって、この空気に含まれている酸素をメタン発酵液中のメタン生成細菌に接触させて、このメタン生成細菌を殺菌できる。さらに、この殺菌されたメタン生成細菌は、アンモニアストリッピング装置6からメタン発酵槽5の前工程である混合槽3へと返送されて再分解されるため、廃棄物処理システム1全体の分解効率を向上できる。
【0056】
また、このメタン発酵液には、アンモニウムイオン(NH4)および重炭酸イオン(HCO)のそれぞれが高濃度で含まれている。そして、このメタン発酵液中のアンモニウムイオン濃度は、固形有機性廃棄物の性状によって異なるが、一般的に窒素換算で1000mg−N/L以上4000mg−N/L以下である。さらに、このメタン発酵液のアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理の除去率に関する因子としては、このメタン発酵液の滞留時間や通気方法などがある。
【0057】
そして、このメタン発酵液と空気との気液比を上げれば、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理効率が向上するが、結果としてアンモニア濃度の低い気体が多量に発生してしまい。この気体の処理が容易ではなくなるので好ましくない。さらに、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて発生するアンモニアを含有する気体を処理する観点から、メタン発酵液1000kgに対して吹き込む空気量を200Nm以上400Nm以下とすることが好ましい。
【0058】
次いで、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理は、このアンモニアストリッピング装置6へと移送されるメタン発酵液の液温上昇のためのランニングコストが高い。そして、このメタン発酵液の液温上昇に用いたエネルギを回収するために、図示しない熱交換器などをアンモニアストリッピング装置6に設置するのが一般的であるが、この場合にはアンモニアストリッピング装置6が複雑となりイニシャルコストが高くなってしまう。
【0059】
これに対し、このアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピングした後にメタン発酵槽5より前段の混合槽3へと返送されるメタン発酵液に対して、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理するため、このアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピングされた後のアンモニア除去液を混合させた後の固形有機性廃棄物の温度が、酸発酵槽4での発酵処理に適した温度となる。すなわち、このアンモニアストリッピング装置6で使用したエネルギを、熱交換器などを用いることなく有効利用できる。このため、廃棄物処理システム1全体の熱交換器の口数を減らすことができる。
【0060】
さらに、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理では、アンモニアガスを含有した気体が発生し、このアンモニアガスを含有した気体の処理が容易ではない。そして、この気体中のアンモニアガスの処理方法としては、触媒還元装置9にて触媒を用いてアンモニアガスを炭酸ガスと水とに分解させる。このとき、この触媒還元装置9の触媒の動作温度が300℃以上400℃以下である。さらに、アンモニアの自燃時の熱のみで触媒還元装置9にてアンモニアガスを炭酸ガスと水とに分解処理させる場合には、このアンモニアガスを含有した気体中のアンモニアガスの濃度が4%以上であることが必要である。
【0061】
これに対し、メタン発酵液の窒素濃度が1000mg/L以上4000mg/L以下で、このメタン発酵液と空気との気液比が200以上400以下でアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理されるため、このアンモニアストリッピング処理によって発生する気体中のアンモニアガス濃度が4%以下となってしまうから、この気体をアンモニアの自燃の熱のみでは処理できない。
【0062】
そこで、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて発生する気体を、メタン発酵槽5でのメタン発酵時に発生しメタンおよび二酸化炭素を主成分とするバイオガスとともにガス利用手段8にて燃焼処理させる構成とした。ここで、固形有機性廃棄物の処理に伴ってメタン発酵槽5から発生するバイオガスの量は、対象となる固形有機性廃棄物の性状にもよるが、処理量1トン当たり約60Nm以上180Nm以下程度である。さらに、メタン発酵液と空気との気液比を下げて、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理させれば、このアンモニアストリッピング処理にて発生する気体中のアンモニアガス濃度を4%以上にできるが、このメタン発酵液からの窒素除去率が減少してしまう。
【0063】
さらに、このガス利用手段8にてバイオガスとともに、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて発生するアンモニアガスを燃焼させるため、このアンモニアの燃焼に由来する窒素酸化物が生成される。そして、この窒素酸化物を、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にて発生する触媒還元装置9にて炭酸ガスと水とに分解させる。
【0064】
このとき、この触媒還元装置9から排出される炭酸ガスの温度が350℃以上400℃以下程度の温度であるから、この炭酸ガスをそのまま大気に放出させるのではなく、熱の有効利用の観点から、図示しない熱交換器にて炭酸ガスから熱を回収して、この回収した熱でメタン発酵液や、可溶化液の温度などを加温するとよい。
【0065】
さらに、これら触媒還元装置9から排出される炭酸ガスやガス利用手段8から排出される排ガス中には、それぞれ酸素ガスが数%以上含まれている。そして、メタン発酵槽5で可溶化液をメタン発酵させる際のメタン生成を担うメタン生成細菌は、偏性嫌気性細菌、すなわち遊離酸素の存在下では生存が困難な細菌である。このため、このメタン発酵槽5単独で固形有機性廃棄物を処理する場合には、ガス利用手段8から排出される排ガスや触媒還元装置9から排出される炭酸ガスなどを直接有効利用することは容易ではないから、これら排ガスあるいは炭酸ガスから熱交換器を介してエネルギを回収する必要があった。
【0066】
一方、酸発酵槽4での酸発酵工程は、通性嫌気性菌でも可能である。これに対し、固形有機性廃棄物を高温改質させる高温改質工程は、この固形有機性廃棄物を物理化学的に処理する工程であるため、遊離酸素の影響を受けない。したがって、メタン発酵槽5以外の酸発酵槽4、混合槽3あるいはこれらの間へと、ガス利用手段8や触媒還元装置9から排出される気体を図示しない配管を介して直接導入させて、これら酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物や混合槽3内の固形有機性廃棄物を加温できる。
【0067】
なお、ガス利用手段8ではバイオガスとともにアンモニアを燃焼させるので、このバイオガスの燃焼熱以外にアンモニアの燃焼熱をも利用できるので、このガス利用手段にてバイオガスのみを燃焼させる場合に比べると、従来利用されていなかったアンモニアの燃焼熱に基づくエネルギをも有効利用できる合理的な廃棄物処理システム1を構築できる。
【0068】
さらに、上記第1の実施の形態では、ガス利用手段8から排出される排ガス中の窒素酸化物を触媒還元装置9にて炭酸ガスと水とに分解したが、このガス利用手段8から排出される排ガスを直接利用して、酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物や混合槽3内の固形有機性廃棄物を加温することもできる。具体的に、このガス利用手段8から排出される排ガスを直接利用する場合には、この排ガス中に含まれる窒素酸化物を液相に溶解させて亜硝酸および硝酸とさせる。
【0069】
そして、この混合槽3内の固形有機性廃棄物や、酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物中に存在する微生物には、亜硝酸あるいは硝酸の結合酸素を利用して固形有機性廃棄物を分解させる細菌も含まれるため、この固形有機性廃棄物の処理をより向上できる。また、これら混合槽3あるいは酸発酵槽4においては、これら混合槽3内の固形有機性廃棄物や酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物中の亜硝酸および硝酸を無害な窒素ガスヘと変換できる。
【0070】
さらに、アンモニアストリッピング装置6でアンモニアストリッピング処理するメタン発酵液を、ガス利用手段8にて燃焼させた後の高温の排ガスで加温することも考えられるが、この排ガス中の炭酸ガスの分圧が高いと、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアの除去効率が低下してしまうとともに、メタン発酵液と排ガスとの気液比の調整が容易ではないことなどから、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理には、空気を用いることが好ましい。
【0071】
次いで、メタン発酵液と固形有機性廃棄物とを混合した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵する場合には、これらメタン発酵液と固形有機性廃棄物とを混合した後の混合液の流動性が重要であり、この混合液の総固形物濃度(TS濃度)を10%以上15%以下の割合となるように混合させると良い。具体的には、この混合液の加温されたメタン発酵液と固形有機性廃棄物との混合比率を、質量比で0.5以上2.0以下の範囲とすると良い。
【0072】
すなわち、この混合液のメタン発酵液と固形有機性廃棄物との混合比が質量比で0.5未満の場合には、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理のアンモニア除去効率が低くなってしまう。これに対し、この混合液のメタン発酵液と固形有機性廃棄物との混合比が質量比で2.0より大きい場合には、固形有機性廃棄物の処理量に対してメタン発酵槽5の規模が大きくなってしまうという問題が生じるとともに、アンモニアストリッピング装置6で用いたエネルギを回収する面でもロスが生じるなどの問題が生じるので現実的でない。この結果、加温されたメタン発酵液と固形有機性廃棄物との混合比率を質量比で0.5以上2.0以下の範囲とすることによって、混合後の混合液の総固形物濃度(TS濃度)を10%以上15%以下とできるから、この混合液をメタン発酵槽5にて効率良くメタン発酵処理できる。
【0073】
上述したように、上記第1の実施の形態によれば、固形有機性廃棄物から夾雑物を除去して可溶化した液状有機性廃棄物をメタン発酵槽5にてメタン発酵してメタン発酵液としてから、このメタン発酵液の少なくとも一部をアンモニアストリッピング装置6にて40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温してアンモニアストリッピングさせたアンモニア除去液を、返送ライン11を介してメタン発酵槽5より前段の混合槽3へと返送させる構成とした。この結果、アンモニアストリッピング装置6で加温されたアンモニア除去液を、返送ライン11を介して混合槽3へと返送して、この混合槽3内の固形有機性廃棄物に混合させることにより、この固形有機性廃棄物の温度が、酸発酵槽4での可溶化処理およびメタン発酵槽5でのメタン発酵処理のそれぞれに適した温度となる。
【0074】
さらに、この固形有機性廃棄物をメタン発酵させた後のメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にて40分以上滞留させて加温してアンモニア除去液とすることによって、このアンモニア除去液が混合された液状有機性廃棄物を酸発酵槽4にて効率良く可溶化できるとともに、この液状有機性廃棄物中の固形分を再分解できるので、このメタン発酵液の分解効率を向上できる。したがって、固形有機性廃棄物から夾雑物を除去して可溶化した液状有機性廃棄物を、メタン発酵槽5にて効率良くメタン発酵できるとともに、このメタン発酵槽5にてメタン発酵させたメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にて効率良く分解できるとともに、このアンモニアストリッピング装置にてアンモニアを除去したアンモニア除去液を酸発酵槽4にて効率良く分解できるので、廃棄物処理システム1による固形有機性廃棄物の処理効率を向上できる。
【0075】
また、メタン発酵槽5にてメタン発酵されアンモニアストリッピング装置6へと移送されて加温されたメタン発酵液1トンに対して200Nm以上400Nm以下の空気を吹き込んで、このメタン発酵液中のアンモニアをアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理で除去する構成とした。この結果、このアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理で、メタン発酵液中のアンモニアをアンモニアガスとして除去できる。
【0076】
さらに、このメタン発酵液中の嫌気性細菌を殺菌でき、この殺菌された嫌気性細菌が返送ライン11を介して混合槽3へと返送されるので、この殺菌された嫌気性細菌が酸発酵槽4やメタン発酵槽5にて再分解して処理できる。したがって、固体有機性廃棄物、メタン発酵液およびアンモニア除去液それぞれの分解効率を向上できるとともに、アンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理でのメタン発酵液の処理効率を向上できる。
【0077】
また、アンモニアストリッピング装置6にてメタン発酵液から分離させたアンモニアを含有する気体を、メタン発酵槽5でのメタン発酵にて発生したメタンガスに混合してガス利用手段8にて燃焼させる構成とした。この結果、メタン発酵液から分離されたアンモニアの燃焼熱とともに、メタン発酵槽5でのメタン発酵にて発生したメタンガスの燃焼熱を利用して、アンモニアストリッピング装置6への移送されるメタン発酵液や、酸発酵槽4へと移送された液状有機性廃棄物を加温できる。このため、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理で使用したエネルギを有効に利用できる。
【0078】
さらに、アンモニアストリッピング装置6にて加温されたメタン発酵液を、このメタン発酵液に対して質量比で0.5倍未満の割合で返送ライン11を介して混合槽3へと返送させて固形有機性廃棄物に混合させた場合には、このアンモニアストリッピング装置6でのメタン発酵液からのアンモニア除去効率が低くなってしまうので、このアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理を効率良くできない。また、このメタン発酵液を、このメタン発酵液に対して質量比で0.5倍より多い割合で返送ライン11を介して混合槽3へと返送させて固形有機性廃棄物に混合させた場合には、この固形有機性廃棄物の処理量に対してメタン発酵液の処理量が多くなるので、アンモニアストリッピング装置6で用いたエネルギが無駄になってしまう。
【0079】
そこで、このアンモニアストリッピング装置6にて加温されたアンモニア除去液を、固形有機性廃棄物に対して質量比で0.5倍以上2.0倍以下の割合で返送ライン11を介して混合槽3へと返送させて固形有機性廃棄物に混合させる構成とした。この結果、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理を効率良くできるとともに、これら固形有機性混合物とアンモニア除去液とを混合させた後の混合液の総固形物濃度が適正値となるので、これら固形有機性混合物およびアンモニア除去液それぞれの処理効率を向上できる。
【0080】
なお、上記第1の実施の形態では、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理したアンモニア除去液を返送ライン11を介して混合槽3へと直接返送させたが、図2に示す第2の実施の形態のように、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理したアンモニア除去液を可溶化手段としての可溶化処理槽12にて可溶化処理してから返送ライン11を介して混合槽3へと返送させることもできる。
【0081】
このとき、夾雑物の少ない余剰汚泥などの固形有機性廃棄物は、メタン発酵槽5に直接投入することもできる。これに対し、夾雑物を含む生ごみなどの固形有機性廃棄物は、前処理手段2にて夾雑物を除去してから混合槽3へと移送させる。さらに、この混合槽3では、可溶化処理槽12にて可溶化処理された可溶化汚泥と、前処理手段2にて夾雑物が除去された固形有機性廃棄物とが混合される。そして、この混合槽3にて可溶化汚泥と混合された固形有機性廃棄物が酸発酵槽4へと移送される。
【0082】
さらに、夾雑物を除去した後の固形有機性廃棄物の総固形物濃度(TS濃度)は、20%以上15%以下程度あるから攪拌が容易ではない。これに対し、この固形有機物廃棄物に可溶化汚泥を混合させることによって、この混合後の固形有機性廃棄物の総固形物濃度は、10%以上13%以下程度のスラリ状の液状有機性廃棄物となるので、混合槽3より後段の酸発酵槽4やメタン発酵槽5などでの処理が容易となる。
【0083】
また、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理されてメタン発酵液からアンモニアが除去されたアンモニア除去液は、可溶化工程として可溶化処理槽12へと導入されて、強アルカリとしてのアルカリ物質である水酸化ナトリウム(NaOH)が添加される。さらに、このアンモニアストリッピング装置6から排出されるアンモニア除去液の液温は、70℃以上90℃以下程度である。このため、可溶化処理槽12としては、保温性が良いものが好ましい。さらに、この可溶化処理槽12での処理時間は、アンモニアストリッピング装置6での処理時間との合計時間が40分以上となるようにする必要がある。
【0084】
ここで、上記第1の実施の形態の廃棄物処理システム1の場合には、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理にてアルカリ度が低下するため、固形有機性廃棄物中の生ごみなどと余剰汚泥とを分けて処理する必要はない。これに対し、上述のようにアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理されたアンモニア除去液を可溶化処理槽12に導入して水酸化ナトリウムを添加して可溶化汚泥として、この可溶化汚泥のアルカリ度を低下させない場合には、酸発酵槽3での発泡を防止するために固形有機性廃棄物を直接メタン発酵槽5に投入させる必要がある。
【0085】
さらに、ガス利用手段8にて燃焼された後の排ガスは、高温である。このため、この排ガスの少なくとも一部を酸発酵槽4や混合槽3へ導入とさせることによって、この混合槽3内の固形有機性廃棄物や酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物を加温できる。ここで、この排ガスには、燃焼により発生した窒素酸化物が含まれている。そして、この排ガスを酸発酵槽4や混合槽3へと導入することによって、この排ガス中の窒素酸化物が硝酸あるいは亜硝酸として酸発酵槽4内の液状有機性廃棄物や混合槽3内の固形有機性廃棄物中に溶解し、この排ガスから除去される。さらに、これら硝酸あるいは亜硝酸に結合している酸素は、酸発酵槽4中の微生物によって固形有機性廃棄物の分解に利用されるとともに、これら硝酸および亜硝酸は無害な窒素ガスヘと変換される。さらに、これら酸発酵槽4や混合槽3へと導入されなかった排ガスの残りは、上記第1の実施の形態と同様に、触媒還元装置9へと導入して処理しても良い。
【0086】
次に、上記第2の実施の形態の作用を説明する。
【0087】
まず、水酸化ナトリウムは、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理以外に、メタン発酵槽5での可溶化液のメタン発酵処理の分解効率を向上させる目的としても使用される。すなわち、メタン発酵槽5にて可溶化液をメタン発酵させる際のpHが高く温度が高いほうが、メタン発酵処理での可溶化液の分解効率が向上する。
【0088】
そこで、このアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理にてメタン発酵液中からアンモニアが除去される際に、このアンモニアと対となる炭酸イオンがメタン発酵液から除去されるので、このメタン発酵液のアルカリ度が下がってしまう。すなわち、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理によるメタン発酵液のアルカリ度の低下は、このメタン発酵液からのアンモニア除去率によって異なる。
【0089】
具体的に、アンモニア態窒素0.1g/Lが、炭酸カルシウム(CaCO)換算のアルカリ度(mg−CaCO/L)としては0.36g/Lに相当する。そして、アンモニアストリッピング処理前のメタン発酵液の窒素濃度は、1000mg/L以上4000mg/L以下であるため、このメタン発酵液のアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理によるアンモニア除去率が60%の場合には、このメタン発酵液からアンモニアを除去した後のアンモニア除去液のアルカリ度が2000mg/L以上8000mg/L以下程度減少してしまう。
【0090】
したがって、このアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理されたアンモニア除去液のアルカリ度を大幅に減少できるため、少量の水酸化ナトリウムの添加で、アルカリ除去液のpHを上げることができる。また、このアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理後のアンモニア除去液の液温が70℃以上90℃以下と高温である。このため、この高温のアンモニア除去液に水酸化ナトリウムを添加してアルカリ処理して可溶化汚泥としてから返送ライン11へと返送して混合槽3内の固形有機性廃棄物に混合させることによって、この混合槽3より後段の酸発酵槽4での可溶化処理や、メタン発酵槽5でのメタン発酵処理を効率良く分解できるとともに、これら酸発酵槽4での可溶化処理やメタン発酵槽5でのメタン発酵処理にて生成される汚泥量を削減できる。
【0091】
さらに、メタン発酵液中には多量のアンモニアが含まれる。このため、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理する際に、このメタン発酵液のpHを上昇させるために、多量の水酸化ナトリウムが必要であった。また、このアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理では、メタン発酵液をアルカリ性にすることによって窒素除去率が上昇する。
【0092】
ところが、水酸化ナトリウム溶液などのpH調整試薬を添加してメタン発酵液をアルカリ性にしてからアンモニアストリッピング装置6でアンモニアストリッピング処理した場合には、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング処理しても、このメタン発酵液からアンモニアと対になっている炭酸イオンが除去されない。
【0093】
このため、このメタン発酵液からアンモニアが除去された後のアンモニア除去液のアルカリ度が低下しない。したがって、このアンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理後のアンモニア除去液に、さらに水酸化ナトリウムなどを追加して添加して、このアンモニア除去液のpHを上昇させるためには、同様に多量の水酸化ナトリウムなどのpH調整試薬が必要となる。
【0094】
上述したように、上記第2の実施の形態によれば、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアを除去したアンモニア除去液を可溶化処理槽12へと導入させて水酸化ナトリウムを添加して可溶化処理して可溶化汚泥としてから、この可溶化汚泥を返送ライン11を介して混合槽3へと返送させて、この混合槽3内の固形有機性廃棄物に混合させる構成とした。
【0095】
この結果、少量の水酸化ナトリウムの添加でアンモニア除去液のアルカリ度を上昇させて可溶化汚泥にできるとともに、アンモニアストリッピング装置6による加温と可溶化処理槽12での水酸化ナトリウムの添加によるアルカリ処理とを併用できる。したがって、この可溶化汚泥を混合した固形有機性廃棄物の酸発酵槽4での可溶化効率やメタン発酵槽5でのメタン発酵効率を向上できるので、廃棄物処理システム1による固形有機性廃棄物の分解効率を向上できるとともに、この廃棄物処理システム1にて固形有機性廃棄物から生成される汚泥量を削減できる。
【実施例1】
【0096】
次に、本発明の実施例1について説明する。
【0097】
まず、固形有機性廃棄物をメタン発酵槽5にてメタン発酵させたメタン発酵液を85℃に加温しつつ空気を通気させて、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理した。このとき、このメタン発酵液のアンモニアストリッピング装置6の反応槽での滞留時間を30分とするとともに、この反応槽への空気の通気量を気液比300とした。
【0098】
そして、この空気の反応槽への通気方法を2通りにした。具体的に、第1の通気方法は反応槽上の気相部にのみ空気を通気させて窒素除去処理してアンモニア除去液である処理水1とした。また、第2の通気方法は、反応槽上の気相部に通気を気液比250で通気させて、この反応槽内のメタン発酵液である液相部中にも空気を気液比50で通気させて窒素除去処理してアンモニア除去液である処理水2とした。
【0099】
【表1】

【0100】
この結果、表1に示すように、アンモニアストリッピング装置6にて窒素除去処理する前のメタン発酵液、処理水1および処理水2それぞれのアルカリ度、アンモニア濃度(NH−N)および炭酸濃度(S−IC)のそれぞれを比較すると、アンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理によって、これらアルカリ度、アンモニア濃度および炭酸濃度それぞれの数値が減少することが分かった。
【実施例2】
【0101】
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0102】
まず、固形有機性廃棄物をメタン発酵槽5にてメタン発酵させたのメタン発酵液を70℃、80℃あるいは90℃のそれぞれに加温しつつ、これらメタン発酵液のそれぞれに空気を通気させて、これらメタン発酵液のそれぞれをアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理をした。このとき、これらメタン発酵液のアンモニアストリッピング装置6の反応槽での滞留時間を30分とするとともに、この反応槽への空気の通気量を気液比300とした。
【0103】
そして、このアンモニアストリッピング装置6にて各メタン発酵液をアンモニアストリッピング処理したアンモニア除去液のそれぞれと固形有機性廃棄物とを質量比1:1の割合で混合槽3にて混合して混合液としての廃棄物としてから、これら廃棄物の水力学的な滞留時間を3日とした酸発酵槽4に連続投入させた。この後、これら混合後の廃棄物の温度を5℃、10℃、15℃、20℃および25℃のそれぞれとした場合の酸発酵槽4での液温を測定した。
【0104】
この結果、図3に示すように、この酸発酵槽4での廃棄物の温度は、38℃以上58℃以下であった。したがって、この酸発酵槽4での各廃棄物の温度は、この酸発酵槽4での微生物による固形有機性廃棄物の分解に適した温度であるから、図示しない熱交換器などを用いることなくアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理で使用したエネルギを有効利用できる。
【実施例3】
【0105】
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0106】
まず、下水処理施設より発生する固形有機性廃棄物としての余剰汚泥のTS濃度を8%に調整してから、容積が3Lで液温が55℃となる酸発酵槽4と、容積が12Lで液温が38℃となるメタン発酵槽5とを備えた実験装置を廃棄物処理システム1として用いて、このメタン発酵槽5での余剰汚泥の滞留日数を30日とした条件で、この余剰汚泥をメタン発酵槽5にてメタン発酵処理した。このとき、この廃棄物処理システム1にて実験系と対照系とを連続実験した。
【0107】
そして、実験系では、メタン発酵液の液温を85℃とし、このメタン発酵液に対して気液比300の条件で空気を通気させてアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理させてから、このアンモニアストリッピング処理後のアンモニア除去液を室温付近まで冷却した後に、このアンモニア除去液を余剰汚泥に等しい質量比で混合してから、酸発酵槽4にて可溶化した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵させた。このとき、アンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理前後のメタン発酵液およびアンモニア除去液に、水酸化ナトリウムを添加しなかった。
【0108】
これに対し、対照系では、メタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理せずに、このメタン発酵液を余剰汚泥に等しい質量比で混合してから、酸発酵槽4にて可溶化した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵させた。
【0109】
【表2】

【0110】
この結果、表2に示すように、定常状態時の分析結果から、メタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理することによって、酸発酵槽4でのアルカリ度が低下した。ところが、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理しても、メタン発酵液のTS濃度の分解効率については、ほとんど差が無かった。
【実施例4】
【0111】
次に、本発明の実施例4について説明する。
【0112】
まず、上記実施例3での実験系の連続実験にてメタン発酵槽5内に発生したメタン発酵汚泥であるメタン発酵液10Lを用いて、このメタン発酵液の液温を85℃とし、このメタン発酵液に気液比300の条件で空気を通気させてアンモニアストリッピング装置6にて30分の間アンモニアストリッピング処理してアンモニア除去液とする。この後、このアンモニア除去液の液温を85℃に保持したまま、このアンモニア除去液を30分毎に所定量サンプリングして、加温時間が30分、60分、90分、120分および150分それぞれのアンモニア除去液をサンプル液とした。
【0113】
そして、これらサンプル液の温度が室温付近まで低下してから、これらサンプル液40gをそれぞれバイアル瓶に採取した。この後、これら各バイアル瓶に、メタン発酵液をメタン発酵させる前の余剰汚泥を種汚泥として、この種汚泥40gを添加してから、これらバイアル瓶の上部を窒素ガスでパージして、これらバイアル瓶内の空気を追い出した後に密栓した。さらに、ブランク試験として種汚泥80gをバイアル瓶に採取してから、このバイアル瓶の上部を窒素ガスでパージして、このバイアル瓶内の空気を追い出した後に密栓した。
【0114】
この後、これらバイアル瓶のそれぞれを38℃に保温してから、これらバイアル瓶を振蕩して、これらバイアル瓶内の種汚泥を培養して、これらバイアル瓶内でのガス発生量を測定した。
【0115】
この結果、図4に示すように、加温時間を30分とした条件のサンプル液では、ブランク試験との差がほとんど見られなかった。さらに、メタン発酵処理によるTS濃度の分解率とガス発生量には相関があるため、上述の実施例3での実験系と対照系とでTS濃度の分解率にほとんど差が見られなかったのは、アンモニアストリッピング装置6によるアンモニアストリッピング処理時の処理時間が短かったことに起因することが分かった。
【0116】
一方、メタン発酵液をアンモニアストリッピング処理時に60分間加温処理することによって、このメタン発酵液とブランク試験とのガス発生量の差は、メタン発酵液をアンモニアストリッピング処理時に30分間加温処理した場合の6倍以上であった。すなわち、図4に示すように、このメタン発酵液を60分間加温処理することによって、このメタン発酵液からのバイオガス発生量が急激に増加することが分かる。このことから、アンモニアストリッピング装置6でのメタン発酵液の滞留時間を60分間以上とすることにより、このアンモニアストリッピング装置6でのアンモニアストリッピング処理時のバイオガス発生量を増大できることが分かった。
【実施例5】
【0117】
次に、本発明の実施例5について説明する。
【0118】
まず、上述の実験例3での実験系の連続実験で発生したメタン発酵汚泥であるメタン発酵液10Lを用いて、これらメタン発酵液を液温85℃と加温しつつ、このメタン発酵液に対して空気を気液比300の条件で通気させて、このメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理した。この結果、このメタン発酵液からのアンモニアストリッピング処理による窒素除去率が72%であった。さらに、このアンモニアストリッピング前後のメタン発酵液およびアンモニア除去液それぞれ50mLに対して1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を滴定して、これらメタン発酵液およびアンモニア除去液それぞれのpHの変化を測定した。
【0119】
この結果、図5に示すように、アンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理する前のメタン発酵液と、このアンモニアストリッピング処理した後のアンモニア除去液とを比較すると、このアンモニア除去液の方が、少ない水酸化ナトリウム添加率でpHを上昇できることが分かった。したがって、メタン発酵液をアンモニアストリッピング処理してアンモニア除去液としてから、水酸化ナトリウムを添加することによって、少ない水酸化ナトリウム添加率で効率良くpHを上昇できることが分かった。
【実施例6】
【0120】
次に、本発明の実施例6について説明する。
【0121】
まず、上述の実施例5にて発生したアンモニア除去液に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を所定量添加してからpHを測定した後に密栓し、この状態でアンモニア除去液を20℃、55℃および80℃のそれぞれに保温しつつ1時間反応させた。この後、これらの状態で反応させたアンモニア除去液を遠心分離して、上澄みの化学的酸素要求量(CODcr)を測定した。反応前のアンモニア除去液の全CODcrに対する反応後のアンモニア除去液の上澄みのCODcrの割合を可溶化率として計算した。
【0122】
この結果、図6に示すように、pHが高く液温が高いほど可溶化率が高いことが分かった。したがって、少ない水酸化ナトリウム添加率で効率良くpHを上昇できるとともに、アンモニアストリッピング処理後のアンモニア除去液の液温が70℃以上90℃以下程度と高温であるので、アンモニアストリッピング処理後の可溶化によって効率良くアンモニア除去液を可溶化でき、このアンモニア除去液の分解率を向上できることが分かった。
【実施例7】
【0123】
次に、本発明の実施例7について説明する。
【0124】
まず、下水処理施設より発生する固形有機性廃棄物としての余剰汚泥のTS濃度を8%に調整してから、容積が3Lで液温が55℃となる酸発酵槽4と、容積が12Lで液温が38℃となるメタン発酵槽5とを備えた実験装置を廃棄物処理システム1として用いて、このメタン発酵槽5での余剰汚泥の滞留日数を30日とした条件で、この余剰汚泥をメタン発酵処理した。
【0125】
そして、実験は3条件とした。まず、第1の実験条件では、余剰汚泥をメタン発酵させたメタン発酵液をアンモニアストリッピング装置6にてアンモニアストリッピング処理せずに、このメタン発酵液を余剰汚泥に等しい質量比で混合槽3に混合してから、酸発酵槽4にて可溶化した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵させた(表3中未処理と表記)。
【0126】
次いで、第2の実験条件では、余剰汚泥をメタン発酵させたメタン発酵液の液温を85℃とし、このメタン発酵液に対して気液比300の条件で空気を通気させてアンモニアストリッピング装置6にて60分の間アンモニアストリッピング処理してアンモニア除去液とする。この後、このアンモニア除去液を30分の間液温85℃に保温した後に、室温付近まで冷却する。さらに、この冷却したアンモニア除去液を余剰汚泥に等しい質量比で混合槽3に混合してから、酸発酵槽4にて可溶化した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵させた(表3中90分処理と表記)。
【0127】
また、第3の実験条件では、余剰汚泥をメタン発酵させたメタン発酵液の液温を85℃とし、このメタン発酵液に対して気液比300の条件で空気を通気させてアンモニアストリッピング装置6にて60分の間アンモニアストリッピング処理してアンモニア除去液とする。この後、このアンモニア除去液に対して可溶化処理槽12で水酸化ナトリウムを2g/L添加してから、30分の間液温85℃に保温した後に、室温付近まで冷却する。さらに、この冷却したアンモニア除去液を余剰汚泥に等しい質量比で混合槽3に混合してから、酸発酵槽4にて可溶化した後にメタン発酵槽5にてメタン発酵させた(表3中水酸化ナトリウム添加処理と表記)。
【0128】
【表3】

【0129】
この結果、これら第1ないし第3の実験条件での定常状態時におけるメタン発酵槽での浮遊物質濃度(Suspended Solids:SS)を分析した結果、上述の30分加温処理の実施例3では、実験系と対照系で差が見られなかったが、表3に示すように、90分加熱処理した場合には、未処理の場合に比べSS濃度が低く、分解率が向上することが分かった。また、ストリッピング処理後に水酸化ナトリウムを添加した場合には、さらにSS濃度が低く、分解率が向上することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第1の実施の形態の固形有機性廃棄物の処理装置を示す説明構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の固形有機性廃棄物の処理装置を示す説明構成図である。
【図3】本発明の固形有機性廃棄物の処理装置の実施例1でのアンモニアストリッピング処理時の廃棄物の温度と酸発酵槽の温度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の固形有機性廃棄物の処理装置の実施例2でのアンモニアストリッピング処理時の廃棄物の加温時間とメタン発酵によるガス発生量との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の固形有機性廃棄物の処理装置の実施例3でのアンモニアストリッピング処理前後の水酸化ナトリウム添加率とpHとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の固形有機性廃棄物の処理装置の実施例3でのアンモニアストリッピング処理時のpHと温度を変化させた際の可溶化率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0131】
1 固形有機性廃棄物の処理装置としての廃棄物処理システム
5 メタン発酵手段としてのメタン発酵槽
6 加温手段としてのアンモニアストリッピング装置
11 返送手段としての返送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形有機性廃棄物をメタン発酵処理してメタン発酵液とするメタン発酵工程と、
このメタン発酵工程にて処理されたメタン発酵液の少なくとも一部を40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温する加温工程と、
この加温工程にて加温された前記メタン発酵液を前記メタン発酵工程に返送する返送工程と
を具備したことを特徴とした固形有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
加温工程は、加温されたメタン発酵液に、このメタン発酵液1000kgに対して200Nm以上400Nm以下の空気を吹き込んで、前記メタン発酵液中のアンモニアを除去するアンモニアストリッピング工程である
ことを特徴とした請求項1記載の固形有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
アンモニアストリッピング工程にてアンモニアが除去されたメタン発酵液に水酸化ナトリウムを添加して可溶化する可溶化工程を具備し、
返送工程は、前記可溶化工程にて可溶化されたメタン発酵液を固形有機性廃棄物へと返送させて混合させる
ことを特徴とした請求項2記載の固形有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
アンモニアストリッピング工程にてメタン発酵液から分離させたアンモニアを含有する気体を、メタン発酵工程で発生したメタンガスに混合して燃焼させるガス燃焼工程を具備した
ことを特徴とした請求項2または3記載の固形有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
加温工程にて加温されたメタン発酵液は、固形有機性廃棄物に対して質量で0.5倍以上2.0倍以下の比率で前記固形有機性廃棄物に混合する
ことを特徴とした請求項1ないし4いずれか記載の固形有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
固形有機性廃棄物をメタン発酵処理してメタン発酵液とするメタン発酵手段と、
このメタン発酵手段にて処理されたメタン発酵液の少なくとも一部を40分以上滞留させて70℃以上90℃以下の温度に加温する加温手段と、
この加温手段にて加温された前記メタン発酵液を前記メタン発酵工程に返送する返送手段と
を具備したことを特徴とした固形有機性廃棄物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−218429(P2006−218429A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35630(P2005−35630)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000101374)アタカ工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】