説明

固有受容機能を評価するための方法および装置

本発明は被験体の固有受容を評価するための方法および装置に関する。本発明の装置の1つの態様は、被験体の一対の肢に取り付け可能な2つの関節接合部材を含み、かつ二次元または三次元空間内の各肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを提供する。装置は、注視方向をモニターするための手段を含んでいてもよい。装置はロボットリンク機構を含んでいてもよい。方法の1つの態様は、被験体がマッチングタスクを行う際に、被験体の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得する段階を含む。別の態様は、被験体が肢の知覚ロケーションの方を見る際に、被験体の注視方向に関するデータと一緒に被験体の肢のロケーションに関するデータを取得する段階を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その内容が参照によりすべて本明細書に組み入れられる、2006年11月2日に提出された米国特許仮出願第60/856,015号の提出日の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、肢の固有受容(位置覚(position sense)および運動覚(kinesthesia))ならびに運動制御に関する感覚情報処理の障害を検出、定量化、および/または治療するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
筋肉、関節、および皮膚の機械受容器(mechanoreceptor)により提供される肢からの感覚情報は、広範な感覚機能および運動機能に使われる。具体的には、この感覚情報は、視覚など他の感覚モダリティーおよび運動司令の内部フィードバックと組み合わされて、身体および肢に関する知覚情報を提供し(Haggard and Wolpert, 2005)、これには位置覚および運動覚も含まれる。これらの知覚的特徴は時として身体図式(body scheme)または身体像と呼ばれる。
【0004】
肢からの感覚フィードバックもまた運動パフォーマンスの誤差の補正に重要であり、これはオンライン制御と呼ばれる(Scott, 2004)。短潜時の脊髄反射は関節速度に匹敵するものの、長潜時反応(約80 ms)が肢の力学に関与し(Soechting and Lacquiniti, 1988)、且つ機械的負荷の影響を組み込むよう順応可能であること(Burdet et al., 2001; Wang et al., 2001)が示されている。さらに、感覚情報は状況依存的な運動反応を指示するのにも使われる。例えば、肢を押す小さな摂動が、合図となる行動に応じて、素早く押すかまたは引く運動反応を誘発する可能性のあることが示されている(Evarts and Tanji, 1976)。このように感覚情報は広範な運動作用に重要である。
【0005】
運動制御のための感覚情報の別の重要な役割として、運動調節のための役割がある。例えば、タスクの反復試行中に、予期しない機械的負荷によって最初に肢の軌道が変化することがある。しかし、被験体はその負荷を伴った数回の試行後に自分の運動パターンを修正することができ、これにより元の肢の軌道が実質的に回復する(Lackner and DiZio, 1994; Shadmehr and Mussa-Ivaldi, 1994)。負荷が不意に取り除かれると、また肢の軌道に逸脱が生じ、そしてこの逸脱は負荷導入時に観察された摂動の鏡像である。最近の研究が示唆するところによれば、与えられた動作に対して運動パターンを更新するためのこの調節処理は、その前の試行の運動パフォーマンスの誤差に強く依存しており(Schiedt et al., 2001)、このことは、与えられた動作からの感覚フィードバックがそのすぐ次の動作にどのように影響するかを示している。
【0006】
感覚運動機能および認知機能の臨床評価は、特定の疾患または傷害の診断から機能不全を改善するためのリハビリテーション方策の管理およびモニタリングまで、患者治療のすべての局面において非常に重要な役割を果たす(Van Dursen and Brent, 1997)。固有受容に関する最も一般的な臨床評価技法は改良Nottingham感覚評価である(Lincoln, 1998)。この技法において、医師は被験体の患肢の関節を位置決めし、健肢でその位置を反映するよう被験体に指示し、そして被験体のパフォーマンスをスコア化する(スコア0〜3)。一般的な固有受容検査である母指さがし試験(TLT)では、検者が被験体の患手をある位置で保持し、被験体に眼を閉じたまま健手で患手の母指をつかませる(Hirayama et al., 1999; Rand et al., 2001)。患手を異なる位置で保持してこれを繰返し、そして被験体のパフォーマンスをスケールに基づいてスコア化する(スコア0〜3)。
【0007】
これら固有受容検査に伴う主要な課題は、これら検査が本来的に主観的であり且つ分解能が限られていることである。最近の研究では、Fugle-Meyer評価法の感覚サブスケール(これも主観的測定に基づくものである)は、有意な天井効果を示し且つ臨床的に意味のある変化に対する妥当性および応答性が低いため臨床使用に推奨できない、と結論されている(Lin et al., 2004)。天井効果は、必ずしも完全な感覚がなくても多くの患者が最高得点を達成することを示唆している。
【0008】
位置覚に関するいくつかの定量的検査では、いくつかの肢関節角度を能動的または受動的に達成する被験体の能力を測定する(Alvemalm et al., 1996; Carey et al., 1996; Elfant, 1977; Carey et al., 2002)。例えば、手首位置覚検査(WPST)は、脳卒中のあった人の手首位置覚の定量的測定値を提供する(Carey et al., 1996; Carey et al., 2002)。WPSTは2つの分度器スケールを備えた箱状の装置である。箱の上には、手首の動作の軸とアライメントした分度器(これは被験体に見える)の上方にポインターがある。箱の中には検者用の分度器スケールもある(これは被験体から隠されている)。被験体は、手首の動作を許容するレバーに取り付けられた前腕用スプリントおよび手用スプリントに腕を置く。検者は、比較的一定の速度でレバーを異なる検査位置に動かすことによって手首の動作を起こさせる。被験体は自分の手首の位置およびレバーを見ることができない。被験体は、ポインターが手首角度と一致すると思うところまで他方の手でポインターを動かすかまたは検者にポインターを動かすよう指示することによって、手首位置に関する自分の判断を示す。検者は(隠された分度器による)実際の角度と(ポインターによる)知覚された角度との差を記録する。これと同様に、Michigan大学のBrownらの研究では、被験体の手とインターフェースして固有受容を評価する装置が提供されている(http://www.kines.umich.edu/research/chmr/mcl.html)。
【0009】
このような検査の別の例として、1つの動作方向における肩の位置覚を評価するのに使用された、Lonnら(1999)の全自動システムがある。異なる開始位置および標的位置に対応するためのサーボモーターおよびギヤボックスを備えた、モーター式のリグ機器が使用された。口頭による指示を受け取り且つ音の手がかりを最小にするため、被験体にはイヤホンが与えられた。モーターがあらかじめ指定された標的位置までリグを回転させ、次にリグを開始位置まで戻す。次に被験体はその標的位置を反復することを試み、マッチする位置を登録しているボタンを押す。各々の応答と標的との間の誤差の程度としてスコアが測定される。
【0010】
そして、中手指節関節の位置覚変化を定量化するための固有受容測定器(Proprioceptometer)も設計された(Wycherley et al., 2005)。これはWPSTと同様、上部に分度器およびシルエット(矢印)(これらは被験体に見える)、そして中央に検者用スケール(これは被験体から隠されている)を備えた、箱状の装置である。被験体の示指は箱の中に隔離されて被験体の視野から外れている。被験体は、あらかじめ定められた順序で動くシルエットの位置に示指をマッチングするよう指示される。検者は、知覚された角度と実際の角度との差を記録する。Wycherleyらの研究(2005)では12名の健常な被験体で検査が行われ、この群において優れた再検査信頼性が見られた。ただし妥当性は未知である。この検査の長所としては、持ち運び可能な機器であり且つ短時間(15分)で実施できることがある。しかし、この検査の短所は、手に大きな変形がある人は装置の使用が困難である可能性があることである。
【0011】
以上に述べた定量的システムのすべてに関する問題点は、単一の次元且つ単一の関節の動きに限定されていることである。しかし、肢全体の運動タスクを発生させる能力は、複数の関節の感覚機能を必要とする。さらに、障害は個々の関節の感覚障害のみを反映するのではなく、肢と身体に対する空間内の肢のロケーション(location)との関係の障害も反映している可能性がある(Haggard and Wolpert, 2005)。
【0012】
肢の運動パフォーマンスを測定するため多数の機器が提唱されている。例えば、2000年12月5日に発行されたScottの米国特許第6,155,993号は、手および関節の動きを含めた肢の動作を定量化できそして肢の動作に抵抗するため関節に基づく力を提供するロボット機器に関する。1993年4月13日に発行されたMaxwellの米国特許第5,210,772号は、被験体の肢に取り付けられそして肢の動作に抵抗する力を提供する複合的なリンク機構に関する。1995年11月14日に発行されたHoganらの米国特許第5,466,213号は、被験体の手とインターフェースしそして一連の動作を通じて腕を誘導するコンピュータ制御された機械式リンク機構を含むロボットセラピストに関する。1998年11月3日に発行されたReinkensmeyerの米国特許第5,830,160号は、直線経路に沿った肢の動作を許容するガイドを含むシステムに関する。2004年2月17日に発行されたBrownの米国特許第6,692,449号は、動いている肢の位置を評価するためのシステムに関する。これらのシステムは運動パフォーマンスを定量化するのに有用であるかまたは肢の動作障害がある人の運動リハビリテーションプログラムを提供できる可能性があるが、肢の感覚障害に関する情報を容易に提供することはない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は1つの局面において、被験体の肢の対の第一の肢と連結するための第一の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で肢を所望の幾何学的配置(geometry)および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて肢を動かすよう適合した、第一の関節接合部材(articulating member)と;被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合した、第二の関節接合部材と;二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段と;二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段とを含む、被験体の肢に関する固有受容データを取得するための装置を提供する。
【0014】
第一の関節接合部材が二次元または三次元空間内で第一の肢を位置および/またはロケーションまで誘導するよう、第一の関節接合部材が駆動システムを含んでいてもよい。別の態様において、第一の関節接合部材および第二の関節接合部材の各々が機械式リンク機構を含む。別の態様において、第一の関節接合部材および第二の関節接合部材はそれぞれ第一および第二の機械式リンク機構を含み、各リンク機構は4つの関節で接続された4つのリンクを持ち、各関節は軸周囲の関節接合を持ち、4つの関節接合の軸は実質的に平行であり、第一の肢連結手段および第二の肢連結手段の各々が肢の2つの関節の回転中心とリンク機構の2つの関節の回転中心とのアライメントを維持する。
【0015】
二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段は、第一のリンク機構の関節のうち少なくとも1つの角度位置に関係するデータを取得するための手段を含んでいてもよい;そして、二次元または三次元空間内の第二の肢の位置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段は、第二のリンク機構の関節のうち少なくとも1つの角度位置に関係するデータを取得するための手段を含んでいてもよい。
【0016】
第一および第二の肢は腕または脚であってもよい。第一および第二の肢が腕である場合、第一および第二の連結手段は、各腕の肩関節および肘関節の回転中心が第一および第二のリンク機構の2つの軸の回転中心とアライメント状態に保たれるよう、前腕および上腕を対応するリンク機構のリンクに連結する。
【0017】
装置は、二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータと比較するための手段をさらに含んでいてもよい。
【0018】
本発明は別の局面において、被験体の肢の対の第一の肢と連結するための第一の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて肢を動かすよう適合した、第一の関節接合部材を提供する段階と;被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合した、第二の関節接合部材を提供する段階と;二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階と;二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階とを含む、被験体の肢に関する固有受容データを取得するための方法を提供する。
【0019】
第一の肢のデータは二次元または三次元空間内の第一の肢の一部のロケーションに関するものであってもよく、第二の肢のデータは二次元または三次元空間内の第二の肢の一部のロケーションに関するものであってもよい。1つの態様において、第二の肢の一部は第一の肢の一部に対応する。別の態様において、第一の肢のデータは二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置に関し、第二の肢のデータは二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置に関する。
【0020】
第一の肢のデータは二次元または三次元空間内の第一の肢の軌道に関するデータを含んでいてもよく、第二の肢のデータは二次元または三次元空間内の第二の肢の軌道に関するデータを含んでいてもよい。
【0021】
本発明の別の局面は、被験体の固有受容を評価するための方法であって、マッチングタスク(matching task)を行う被験体の固有受容データを本明細書に説明する方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の肢に関する固有受容についての情報を提供する方法に関する。
【0022】
本発明の別の局面は、被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを本明細書に説明する方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する方法に関する。
【0023】
本発明の別の局面は、被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを本明細書に説明する方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する方法に関する。
【0024】
本発明はさらなる態様において、被験体の肢の対の第一の肢と連結するための第一の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて肢を動かすよう適合した、第一の関節接合部材と;被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合した、第二の関節接合部材と;二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段と;二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置に関する。
【0025】
第一の関節接合部材が第一の肢を二次元または三次元空間内の位置および/もしくはロケーションまで誘導する且つ/または動きを通じて誘導するよう、第一の関節接合部材が駆動システムを含んでいてもよい。
【0026】
装置は、二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを、二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータと比較するための手段をさらに含んでいてもよい。
【0027】
本発明はさらなる態様において、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて肢を動かすよう適合した第一の関節接合部材に、被験体の肢の対の第一の肢を連結する段階と;二次元または三次元空間内で被験体の肢の対の第二の肢により動かされるよう適合した第二の関節接合部材に第二の肢を連結する段階と;二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階と;二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するため方法に関する。
【0028】
第一の肢のデータは二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の位置、ロケーション、幾何学的配置、および/または軌道に関するデータを含んでいてもよく、第二の肢のデータは二次元または三次元空間内の第二の肢またはその一部の位置、ロケーション、幾何学的配置、および/または軌道に関するデータを含んでいてもよい。
【0029】
本発明はさらなる態様において、被験体の固有受容を評価するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを前述の方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の肢に関する固有受容についての情報を提供する方法に関する。
【0030】
本発明はさらなる態様において、被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを前述の方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する方法に関する。
【0031】
本発明はさらなる態様において、被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項4記載の方法に基づいて取得する段階と、2つの肢について取得されたデータを比較する段階とを含み、この比較が被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する方法に関する。
【0032】
本発明はさらなる態様において、被験体の肢の対の第一の肢と連結するための連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で第一の肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて第一の肢を動かすよう適合した、関節接合部材と;二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段と;被験体の注視方向(gaze direction)をモニターし且つ被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと関連付けるための手段とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置に関する。
【0033】
関節接合部材が二次元または三次元空間内で第一の肢を位置および/もしくはロケーションまで誘導する且つ/または動きを通じて誘導するよう、関節接合部材が駆動システムを含んでいてもよい。
【0034】
装置は、被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合した、第二の関節接合部材と;二次元または三次元空間内の第二の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段とをさらに含んでいてもよい。
【0035】
本発明はさらなる態様において、被験体が肢の対の第一の肢を見ることを防ぎながら、二次元または三次元空間内で第一の肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保ち且つ/または二次元または三次元空間内の所望の動きを通じて第一の肢を動かす関節接合部材に、被験体の第一の肢を連結する段階と;二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階と;被験体が第一の肢またはその一部の知覚ロケーションの方を見る際に被験体の注視方向をモニターする段階と;被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと関連付ける段階とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法に関する。
【0036】
方法は、二次元または三次元空間内で被験体の肢の対の第二の肢により動かされるよう適合した第二の関節接合部材に第二の肢を連結する段階と;被験体が第二の肢を第一の肢の知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションまで動かすかまたは第一の肢の知覚された動きを通じて動かす際に、二次元または三次元空間内の第二の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階とをさらに含んでいてもよい。方法は、被験体が二次元または三次元空間内の第二の肢またはその一部の位置、ロケーション、および/または動作の方を見る際に、注視方向をモニターする段階をさらに含んでいてもよい。
【0037】
本発明はさらなる態様において、被験体の固有受容を評価するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを前述の方法に基づいて取得する段階を含み、被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと関連付ける段階が被験体の肢に関連する固有受容についての情報を提供する方法に関する。
【0038】
本発明はさらなる態様において、被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを前述の方法に基づいて取得する段階を含み、被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと関連付ける段階が被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する方法に関する。
【0039】
本発明はさらなる態様において、被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法であって、マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを前述の方法に基づいて取得する段階を含み、被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと関連付ける段階が被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する方法に関する。
【0040】
1つの態様において、第一の肢を動かす段階は、被験体以外の人が手動で肢を動かす段階を含んでいてもよい。別の態様において、第一の肢を動かす段階は、ロボットリンク機構(robotic linkage)を使って肢を動かす段階を含んでいてもよい。同方法は、マッチングタスクを行う被験体;ならびに、被験体の第二の肢またはその対応する部分の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の別の局面は、被験体の肢の対の第一の肢に取り付き二次元または三次元空間内で動くことができる第一のマーカーと;被験体の肢の対の第二の肢に取り付き二次元または三次元空間内で動くことができる第二のマーカーと;二次元または三次元空間内で第一および第二のマーカーを検出するための手段とを含み;検出が、二次元または三次元空間内の第一および第二のマーカーのロケーションおよび/または動きを決定することを含む、被験体の肢に関する固有受容データを取得するための装置に関する。装置は、二次元または三次元空間内の第一および第二のマーカーのロケーションおよび/または動きを比較するための手段をさらに含んでいてもよい。
【0042】
本発明の別の局面は、被験体の肢の対の第一の肢に取り付き各々が二次元または三次元空間内で独立に動くことができるマーカーの第一の群と;被験体の肢の対の第二の肢に取り付き各々が二次元または三次元空間内で独立に動くことができるマーカーの第二の群と;二次元または三次元空間内で第一および第二のマーカー群の各マーカーを検出するための手段とを含み;検出が、二次元または三次元空間内の第一および第二のマーカーのロケーションおよび/もしくは幾何学的配置ならびに/または動きを決定することを含み;各マーカー群が少なくとも2つのマーカーを含む、被験体の肢に関する固有受容データを取得するための装置に関する。装置は、二次元または三次元空間内の第一および第二のマーカー群のロケーションおよび/もしくは幾何学的配置ならびに/または動きを比較するための手段をさらに含んでいてもよい。
【0043】
別の態様は、被験体の肢の対の第一の肢に取り付くよう適合し二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーと;被験体の肢の対の第二の肢に取り付くよう適合し二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーと;二次元または三次元空間内の各マーカーの位置、ロケーション、および/または動作を検出するための手段とを含み;二次元または三次元空間内でのマーカーの位置、ロケーション、および/または動作が、そのマーカーが取り付けられた肢の一部の二次元または三次元空間内での位置、ロケーション、および/または動作に対応する、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置に関する。
【0044】
この態様において、1つまたは複数のマーカーは、受動的マーカー、能動的マーカー、および/またはその組合せであってもよい。装置は、肢に取り付く少なくとも1つの機械式リンク機構をさらに含んでいてもよい。
【0045】
別の態様は、被験体が肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きを見ることを伴わずに二次元または三次元空間内の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段と;二次元または三次元空間内の被験体の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きを表示するためのディスプレイと;被験体により知覚された肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きをディスプレイに示すための手段とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置に関する。
【0046】
この態様において、二次元または三次元空間内の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段は、被験体の肢と連結するための連結手段を持つ関節接合部材を含んでいてもよい。二次元または三次元空間内の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得するための手段は、被験体の肢の対の第一の肢に取り付くよう適合し二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーと;二次元または三次元空間内の各マーカーの位置、ロケーション、および/または動作を検出するための手段とを含んでいてもよい。
【0047】
別の態様は、被験体の肢の対の第一の肢に取り付くよう適合し二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーと;二次元または三次元空間内の各マーカーの位置、ロケーション、および/または動作を検出するための手段と;被験体の注視方向をモニターし且つ被験体の注視方向を1つまたは複数のマーカーから検出された二次元または三次元空間内の肢またはその一部の位置、ロケーション、および/または動作と関連付けるための手段とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置に関する。
【0048】
本発明の別の局面は、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法に関する。1つの態様において、同方法は、二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーを被験体の肢の対の第一の肢に取り付ける段階と;二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーを被験体の肢の対の第二の肢に取り付ける段階と;二次元または三次元空間内の各肢の各マーカーの位置、ロケーション、および/または動作を検出する段階であって、二次元または三次元空間内のマーカーの位置、ロケーション、および/または動作が、そのマーカーが取り付けられた肢の一部の二次元または三次元空間内の位置、ロケーション、および/または動作に対応する段階と;二次元または三次元空間内の第一の肢および第二の肢の位置、ロケーション、および/または動作を比較する段階であって、比較の結果が肢またはその一部に関する固有受容データを提供する段階とを含む。
【0049】
別の態様は、被験体が肢の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きを見ることを伴わずに二次元または三次元空間内の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きに関するデータを取得する段階と;二次元または三次元空間内の被験体の肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きを表示する段階と;被験体により知覚された肢またはその一部の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きをディスプレイに示す段階とを含み;二次元または三次元空間内の肢またはその一部の実際の幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きと知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションならびに/または動きとの比較が肢またはその一部に関する固有受容データを提供する、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法に関する。
【0050】
別の態様は、二次元または三次元空間内で動くことができる有線または無線の1つまたは複数のマーカーを被験体の肢の対の第一の肢に取り付ける段階と;二次元または三次元空間内の各マーカーの位置、ロケーション、および/または動作を検出する段階と;被験体が二次元または三次元空間内の肢またはその一部の知覚された位置、ロケーション、および/または動作を見る際に被験体の注視方向をモニターする段階と;被験体の注視方向を1つまたは複数のマーカーから検出された二次元または三次元空間内の肢またはその一部の位置、ロケーション、および/または動作と関連付ける段階とを含み;関連付ける段階が肢またはその一部に関する固有受容データを提供する、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法に関する。
【0051】
本発明のさらなる局面は、本明細書に説明する方法および装置のうち任意のものを含む、被験体の固有受容を評価するための方法、被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法、被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を診断および/または検出するための方法、ならびに被験体の身体図式の障害を評価または検出するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
次に、添付の図面を参照しながら、本発明の態様を実施例によって説明する。
【図1】本発明の1つの態様に基づいて固有受容機能を評価するのに使われる装置を概略的に示した図である。左側(AおよびB)は装置単体の頭上図および側面図であり、ロボットリンク機構および座席が示されている。右側(AおよびB)は装置に着席した被験体を示している頭上図および側面図である。装置はすべてのサイズの被験体を収容でき且つ被験体を装置へおよび装置から容易に移送できるよう、十分に調節可能である。
【図2】図1の装置で取得されたデータであり、手の9つのロケーションについて左手のロケーションを右手でマッチングする能力に関する、対照被験体(A, KEN)および2名の脳卒中被験体(B, CSおよびC, JLM)のデータである。データは各ロケーションについて5回反復したものである。脳卒中被験体は左腕に麻痺があり右腕は麻痺がなかった。対照被験体は脳卒中被験体と比較して手のロケーションを他方の手で再現することが一貫して良好であった。脳卒中被験体CSは手の知覚ロケーションが広い分散を示し、脳卒中被験体JLMは手のロケーションがすべて正中線付近であると知覚した。
【図3】図1の装置を使用し、図2の対照被験体および脳卒中被験体について、右腕および左腕の幾何学的配置および手のロケーションの直交座標および関節座標を比較した図である。データは左手に対してプロットされており、対角線は、左手または左腕の幾何学的配置の実際のロケーションと知覚ロケーションとのマッチが完全であることを示す。(A)では、ロボットリンク機構が左腕(脳卒中被験体の麻痺肢)を動かし、被験体はその幾何学的配置を右腕でマッチングした。Xの幾何学的配置の正値は正中線付近であり、負値は側方である。(B)は手のYロケーション(離れるほど正値)を示している。CおよびDは肩および肘の角度を示している。
【図4】図1の装置を使用し、対照被験体および9名の脳卒中被験体について、腕の9つの幾何学的配置における腕の幾何学的配置のマッチングの絶対誤差を示したプロット図である。X軸は非麻痺肢をロボットリンク機構で動かし麻痺腕をマッチングに使った場合を示し、Y軸は麻痺腕を動かし非麻痺腕をマッチングに使った場合を示している。対照被験体のデータは「非麻痺」肢が利き腕(右腕)であり「麻痺肢」が非利き腕(左腕)であるとして示されている。脳卒中被験体にはHM、RB、JR、MS、FC、BS、JLM、GB、およびJLが含まれる。対照被験体には若年(20〜30歳)および年齢をマッチさせた対照者が含まれる。
【図5】腕の9つの幾何学的配置について肢の幾何学的配置のマッチングの分散を示したプロット図である。X方向のばらつきにY方向のばらつきを掛け、次に、検査した腕の9つの幾何学的配置について平均を取った。軸および被験体は図4と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
好ましい態様の詳細な説明
固有受容感覚、関節感覚、触覚、前庭感覚、視覚、および聴覚のうち1つもしくは複数により提供される情報、ならびに/または、運動覚、筋系、姿勢、および平衡のうち1つもしくは複数に関する情報、そして身体努力の感覚からくる情報、運動指令から生成される情報、ならびに物体との接触および身体部位間の接触からくる情報は、身体知覚(すなわち身体またはその一部の知覚的表現(Lackner, 1988))に寄与する。この身体知覚は時として身体図式(または身体スキーマ(body schema))または身体像と呼ばれる。本開示の目的について、「固有受容(proprioception)」という用語は、先に列挙した任意の知覚情報から取得されてもよい、身体またはその一部の相対的な位置または動きの感覚(運動覚)を概ね指すために使われ、そして身体図式(または身体スキーマ)および身体像という用語を包含する。したがって、本説明では固有受容系の評価に焦点を当てているが、認識される点として、このアプローチは、身体図式および身体像などであるがそれに限定されるわけではない関連概念の障害も評価する。
【0054】
人が脳卒中または外傷などによる脳傷害を患った場合、1つまたは複数の肢に関する感覚処理に障害が生じることが多い(Teasell et al., 2003)。感覚障害は運動の協調性および学習の困難につながることもあり、これは、これらの処理における感覚フィードバックの重要性によるものである。感覚障害および運動障害の両者に対する有効な治療は肢の感覚障害に関する詳しい知識で増強できる可能性があるが、今日までに提唱されているかまたは現在利用可能である器具はいずれも、必要なデータを提供する能力がない。
【0055】
本発明の第一の局面では、二次元または三次元空間内の肢の対の第一の肢かまたはその肢の一部のロケーション、幾何学的配置、および/または動き(例えば軌道)を知覚するための個人の能力と、二次元または三次元空間内の対応するロケーションおよび/もしくは幾何学的配置ならびに/または軌道まで他の肢を動かすための同個人の能力とに関するデータを取得するための装置が提供される。したがって同装置は、固有受容、すなわち、個人の近位肢についての位置覚および運動覚を調べるのに有用である。例えば同装置は、肢に関する感覚情報が広範な感覚機能および運動機能にどのように使われているかを研究するのに使ってもよい。同装置は正常な健常人からそのようなデータを取得するのにも有用であるが、脳傷害および/または神経疾患を伴う個人の診断、治療、管理、療法のうち1つまたは複数を補助する可能性があることから、そのような個人からそのようなデータを取得するのにも特に有用である。
【0056】
本出願の目的について、「関節位置覚」という用語は関節の位置の感覚を指し、「運動覚」という用語は身体セグメントの動きの感覚を指す(Lackner and DiZio, 2000)。
【0057】
本明細書において、「幾何学的配置」という用語は、肢の姿勢、すなわち、結果としてその肢が特定の姿勢または構成に保たれるような肢の関節の相対角度を指すことが意図されている。
【0058】
本明細書において、「ロケーション」という用語は、空間内の点を指すことが意図されている。そのような点は、二次元または三次元空間に対応する2軸または3軸の直交座標系などの座標系内で記述されてもよい。肢については、手、母指、もしくは指などの関心対象部分か、または、手首、肘、もしくは肩などの関心対象関節が、任意の特定の時点において空間内の特定のロケーションを占有する。
【0059】
本明細書において、「注視方向」または「眼の注視方向(eye gaze direction)」という用語は、被験体が見ている方向を指すことが意図されている。
【0060】
本発明の装置の1つの態様は、被験体の肢の対に取り付き、そして、第二の肢または両肢の動き、ロケーション、および幾何学的配置のうち少なくとも1つを測定しながら第一の肢が動くことを許容する器具に関する。器具は、肢の対の第一および第二の肢に取り付くための第一および第二の部分を含み、これらの部分は同じかもしくは対称であってもよく、またはそうでなくてもよい。受動的な肢と呼ばれることもある第一の肢または第一の肢の一部は、二次元または三次元空間内のさまざまな幾何学的配置および/もしくはロケーションまで、ならびに/または可動域を通じて、受動的に(すなわち、被験体が第一の肢を動かすのではなくて)動かされる。第一の肢の動作は、医師または研究者が肢を手動で動かすことによって実現してもよく、または、装置がモーター駆動されている場合は、装置で肢を誘導することによって実現してもよい。後者の場合、装置は、二次元または三次元空間内の一連の動き、幾何学的配置、および/またはロケーションを通じて肢を誘導するようコンピュータ制御およびプログラミングされていてもよい。第一の肢が所望の動きを完了するかまたは所望のロケーションおよび/もしくは幾何学的配置に来て静止したら、次に被験体はその動き、ロケーション、および/または幾何学的配置を第二の肢でまねるかまたは一致させることを試みる。これは「マッチングタスク」と呼ばれることがある。装置は、被験体が第一の(受動的な)肢の動き、幾何学的配置、および/またはロケーションを知覚する能力と、その情報を使ってその動き、幾何学的配置、および/またはロケーションを第二の肢でマッチングする能力とについて、定量的な情報を提供する。
【0061】
したがって、本発明は、1つの一般化された態様において、被験体の肢の対の第一の肢と連結するための第一の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ、二次元または三次元空間内で肢を所望の幾何学的配置および/または所望のロケーションに保つことができる第一の関節接合部材と;被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持ち、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合した、第二の関節接合部材と;二次元または三次元空間内の第一の肢の動作、軌道、幾何学的配置、および/またはロケーションに関するデータを取得するための手段と;二次元または三次元空間内の第二の肢の動作、軌道、幾何学的配置、および/またはロケーションに関するデータを取得するための手段とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置であってもよい。
【0062】
別の態様において、装置は、例えば肩、肘、手首、手、母指、または臀部、膝、足首、足指など所望の点で肢に取り付く、反射鏡またはタグなどの、有線または無線の1つまたは複数のマーカーを含む。特定の態様において、マーカーは、出力信号を出さないという意味において受動的であってもよい。そのようなマーカーは、ビデオカメラまたは他の好適な機器によって検出できるよう、マーカーに入射する光または他の信号(例えば可視光、赤外線、電波(RF))を反射してもよい。他の態様において、マーカーは、ビデオカメラまたは他の好適な機器によって検出されるよう、光を使う出力信号(例えば可視光、赤外線)または電波(RF)を出すという意味において、能動的であってもよい。出力信号は二次元または三次元空間内のマーカーのロケーションを示す情報を提供してもよい。そのようなマーカーにより、肢またはその一部の幾何学的配置、ロケーション、および/または軌道を二次元または三次元空間内でモニターすることが可能になる。マーカーを検出する段階は、受動的マーカーの場合のように二次元または三次元空間内のマーカーのロケーションを決定する段階を含んでいてもよく、または、そのマーカーについてのロケーション情報を提供する、能動的マーカーからの信号を、単純に受け取る段階を含んでいてもよい。例えば装置は、肢の所望の部分に取り付けられるそのような1つのマーカーと、マーカーを検出するためのビデオカメラなどの単一の機器とを含んでいてもよい。そのような装置は、そのマーカーについて、そしてひいてはマーカーが取り付けられた肢の部分について、2つの自由度の情報を提供する。第一のビデオカメラと異なる角度に第二のビデオカメラを追加するとマーカーについて3つの自由度が提供される。さらに、肢の他の部分にマーカーを追加することは、関節角度、肢の幾何学的配置、および肢の軌道のモニタリングに役立つ。そのようなマーカーを用いる装置は、肢に取り付く機械式リンク機構も含んでいてもよく、または含んでいなくてもよい。
【0063】
1つの態様において、装置は、肢の単一の部分のみに対応するデータを提供してもよい。例えば、肢が腕である場合、その部分は手、指、もしくは母指であってもよく、または、手首、肘、もしくは肩など、2つまたはそれ以上の機械的自由度を伴う関節であってもよい。この点について、装置は、1995年11月14日に発行されたHoganらの米国特許第5,466,213号に開示されているような、被験体の手のロケーションに関する情報を提供する「エンドエフェクタ」ロボットリンク機構を含んでいてもよい。しかし本発明者らは、肢の複数の部分および/またはより多くの自由度を考慮することによって得られうる、より包括的な情報から、固有受容機能のよりよい理解が得られると認識している。したがって、別の態様において、装置は、腕の1つもしくは複数の関節、または、腕の1つもしくは複数の関節および手など、肢の複数の部分に対応するデータを提供してもよい。平面(すなわち二次元)の操作について、そのような態様は、2000年12月5日に発行されたScottの米国特許第6,155,993号に開示されているようなロボットリンク機構を含んでいてもよく、そして、肩および肘の角度ならびに手のロケーションについての情報を提供してもよい。無論、本発明が腕での使用に限定されることはなく、足に使用されてもよいことが理解されるであろう。
【0064】
別の態様において、装置は三次元のデータを提供する。例えば装置は、その中に肢が連結される三次元外骨格を含んでいてもよい。そのような装置はより多くの自由度を提供し、そしてひいてはより多くの情報を提供する。
【0065】
本発明に基づく装置は臨床用および研究用の用途を持つ。例えば、位置覚および運動覚のうち1つまたは複数を評価するのに本装置を使用してもよい。装置は、調べている肢の対のいずれかまたは両方の肢を被験体が見ることを許容するかまたは妨げるように構成されていてもよい。1つまたは両方の肢を被験体が見ることを妨げるとマッチングタスクの難度が増し、したがって、身体図式および視覚と固有受容との統合の障害を定量化することにより被験体の能力、状態、または感覚欠損に関して追加の情報が提供される。外傷または脳卒中などを患った被験体のリハビリテーションに装置を使用してもよい。
【0066】
前述のように、肢の感覚機能の標準的な臨床評価法は、定量的で客観的な計測を提供せず、且つ/または、単一の自由度での単一の関節の測定に限定されている。従来の臨床的計測を補うため、信頼性があり定量的な肢の固有受容の計測に対するニーズが存在する。本発明に基づく装置は、肢の感覚機能に関する広範な障害の理解を高め、その診断および治療に役立つ。本発明を使って、位置覚および運動覚を含めた、感覚系の広範な特徴を評価することができる。さらに、本明細書に説明するような装置の使用は、被験体を評価して正常被験体の定量的標準を確立するのに役立ち、且つ、さまざまな患者母集団の運動欠損の計測を提供する。その結果は、例えばこれら疾患の治療などに向けたプログラムについて、および治療的処置介入の有効性に関する現在進行中の評価について、その基礎となる。
【0067】
本発明は、上肢の固有受容機能を研究するためのパラダイムに対して基礎を提供する。具体的には、本発明を使って正常および異常な感覚機能を比較および対比できる。装置は、指示された任意の空間内ロケーションまたは肢位置/構成まで動くことができ(受動的な肢)、そして他の肢が鏡像ロケーションまで動くことを許容する。装置は各肢の手の位置および関節角度を測定できる。装置はまた、被験体が他の肢で平行の動きを行うことを試みなければならないよう、指定された軌道を通って肢を動かすこともできる。視覚情報と固有受容情報との相互作用を観察するため、受動的に動かされる肢および/または能動的な肢の視認を伴ってまたは伴わずにそのようなタスクを行ってもよい。
【0068】
本発明の別の局面において、被験体の固有受容を評価するためのマッチングタスクが提供される。マッチングタスクの1つの態様では、被験体の1つの肢が特定の幾何学的配置まで動かされてその幾何学的配置に保たれ、そして対応する肢でその幾何学的配置をマッチングする被験体の能力が評価される。別の態様では、被験体の1つの肢の一部が特定のロケーションまで動かされてそのロケーションに保たれ、そして、対応する肢の同じ部分を同じロケーションかまたは(例えば軸の周りなどの)相対的なロケーションまで動かす被験体の能力が評価される。別の態様では、被験体が肢の幾何学的配置および肢の一部のロケーションの両方をマッチングしなければならないよう、前述の2つのタスクが組み合わされる。さらなる態様において、タスクは、被験体の1つの肢が軌道を通って動かされ、そして被験体はそれと同時かまたは第一の肢が動くことを止めた後にその軌道の動作を対応する肢でマッチングしなければならないという、動くマッチングタスクである。この態様は、肢が軌道を通って動く際の肢の幾何学的配の変化を被験体がマッチングすること、または、肢の一部のみの軌道を対応する肢の同じ部分でマッチングすることを含んでいてもよい。
【0069】
別の態様は、被験体の感覚欠損を評価するために注視方向が使われる、装置および方法に関する。この態様において、第一の肢またはその一部、例えば手などが、被験体がその肢または手を見ることができない状態で、1つのロケーションまで動かされる。次に、被験体が肢または手の知覚ロケーションのほうを見る際に、被験体の注視方向がモニターされる。前述のように、肢は例えば医師などによって手動で動かされてもよく、または例えばロボットリンク機構などによってロボット的に動かされてもよい。このタスクは、被験体が対応する(第二の)肢を第一の肢の知覚ロケーションの方に伸ばすことを含んでいてもまたは含んでいなくてもよい。注視方向に関する情報は当技術分野において公知の技法を使って取得してもよく(例えばAriff, 2002; Morimoto et al., 2002; Amir et al., 米国特許出願公開公報第2003/0098954 A1号, May 29, 2003を参照されたい)、そして、例えば図1のようなロボットリンク機構など、本明細書に説明するように固有受容データを取得するために使われる装置は、注視方向データを取得するのに必要なハードウェアおよびソフトウェアをさらに含んでいてもよい。注視方向は、第一の肢、第二の肢、または両方の肢の知覚ロケーションを見ている被験体について取得してもよい。この局面は、被験体の身体図式に対する眼球運動系および感覚運動系の寄与を分けることに役立ち、そして、これらの系のうち1つにおける感覚欠損を分離できる可能性をもたらす。
【0070】
別の態様は、注視方向および前述のようなマーカーを使って被験体の感覚欠損が評価される、マッチングタスクのための装置および方法に関する。この態様では、前述のように第一の肢またはその一部の上にマーカーが置かれる。被験体が肢を見ることができない状態で肢があるロケーションまで動かされる。次に被験体は肢またはその一部のロケーションの方を見るよう指示され、そして、被験体が肢の知覚ロケーションの方を見る際に被験体の注視方向がモニターされる。前述のように、肢は例えば医師などによって手動で動かされてもよく、または例えばロボットリンク機構などによってロボット的に動かされてもよい。このタスクは、被験体が対応する肢を第一の肢の知覚ロケーションの方に伸ばすことを含んでいてもまたは含んでいなくてもよい。次に、マーカーから取得された、肢の実際の位置またはロケーションに関する情報が、被験体の注視方向と比較される。
【0071】
さらなる態様は、被験体が肢を見ることができるかまたはできない状態で第一の肢またはその一部があるロケーションまで動かされ、次に被験体はジョイスティック、マウス、または他のポインティングデバイスを使ってカーソルまたは他の視覚的インジケータを第一の肢の知覚ロケーションまで動かし、そして第一の肢の知覚ロケーションにあるカーソルのロケーションを表示できる(二次元または三次元の)バーチャルリアリティディスプレイがある、マッチングタスクのための装置および方法に関する。あるいは、被験体は、カーソルまたは他の視覚的インジケータを第一の肢の知覚ロケーションまで動かすため、ジョイスティック、マウス、または他のポインティングデバイスを操作している医師に口頭で指示を出してもよい。前述のように、肢は例えば医師などによって手動で動かされてもよく、または例えばロボットリンク機構などによってロボット的に動かされてもよい。このタスクは、被験体が対応する肢を第一の肢の知覚ロケーションまたは鏡像ロケーションの方に伸ばすことを含んでいてもまたは含んでいなくてもよい。この態様では、肢の実際の位置に対してカーソルのロケーションが検出および測定される。
【0072】
本出願で引用する、全ての参考文献および公表されている特許文書の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0073】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、これら実施例は非限定的なものとして理解されるべきである。
【0074】
実施例
以下の実施例は、第一および第二のロボットリンク機構を持つ装置が、被験体の第一および第二の腕の上腕部および前腕部に取り付くよう構成された、本発明の態様を説明する。この実施例では、対照被験体および脳卒中被験体が両側の肢のマッチングタスクを行う能力を評価した。このことは、被験体が自分の腕を見ることができない状態で行われた。ロボットリンク機構が麻痺肢を空間ロケーションおよび幾何学的配置まで動かし、そして被験体はこの肢の位置および幾何学的配置を非麻痺肢でマッチングするよう求められた。
【0075】
注意されるべき点として、タスクは、装置が非麻痺肢を動かしそして被験体が自分の麻痺肢で能動的にマッチングすることによって行ってもよい。同様に、このタスクは、いずれかまたは両方の肢の視認を伴ってまたは伴わずに行ってもよい。
【0076】
装置
装置は、被験体の各肢の上腕および前腕に取り付けられる機械式リンク機構で構成された(図1AおよびBを参照)。このリンク機構は2000年12月5日に発行されたScottの米国特許第6,155,993号に詳しく説明されており、本明細書では簡単に説明するのみとする。機械式リンク機構10または20は、被験体が肩関節および肘関節の屈曲動作および伸展動作の組合せを行って自分の手を水平面内の任意のロケーションまで動かすことを許容した。リンク機構は、機械的に駆動されて、いずれかの肢を水平面内の任意のロケーションまで動かすこともできる。各リンク機構は、その関節接合関節の1つにより、リンク機構を被験体と適切にアライメントするハウジングまたは支持体などの剛構造12、22に取り付けられる。腕の場合、その関節接合関節の回転中心を被験体の肩の回転中心とアライメントしたときに適切なアライメントが実現された。剛構造はリンク機構を空間内の固定点に有効にアンカーし、これによりその点を回るようにリンク機構を操作することが可能になった。そして、リンク機構を取り付けた被験体も座位など好適な位置に留まることによって静止状態に保たれたとき、被験体の肩とその関節接合関節との間の相対運動が最小限になった。リンク機構の関節の摩擦はごくわずかであった。リンク機構は、その関節を被験体の腕の肩関節および肘関節の回転中心とアライメントできるように調節可能であった。リンク機構に取り付けられたカップリングが上腕および前腕をリンク機構に固定した。望ましい場合は、被験体の快適性を高めるため、独立気泡フォームなどの好適な材料でカップリングに詰め物をしてもよい。被験体が肢を見ることを妨げるため、任意で不透明バリア30(図1に半透明で示されている)を使ってもよい。
【0077】
肩関節および肘関節の位置および動きは直接操作することができた。第一および第二のトルクモーター(Parker, Compumotor SM233A)を用い、そして、第一のモーターが上腕に作用し第二のモーターが間接的に前腕に作用するよう、タイミングベルトが各モーターを機械式リンク機構に接続した。プログラマブル制御カード(Delta Tau, PMAC-Lite-PCI)を介してモーター増幅器(Parker, Compumotor GV-L3E)に電気的に接続されたメインコンピュータがモーターを制御し、且つモーターからデータを読み取った。
【0078】
図1に示されているように、リンク機構は本質的に平行四辺形(すなわち、両組の対辺が互いに平行である四辺形)であった。カップリングが上腕および前腕をリンク機構に固定した。異なるサイズの被験体を収容できるよう、カップリングの位置は対応するリンクの長さに沿って調節可能であった。
【0079】
図1および前述の説明から理解されるであろうとおり、被験体の腕がリンク機構に固定されているとき、被験体は水平面内の広範な動作を通じて自分の腕を動かすことができる。この動作は、腕のいずれの関節にも負荷をかけない状態、すなわち、リンク機構が自由に動く状態で行ってもよい。腕の動作および幾何学的配置(すなわち関節角度)に関する情報は、使用したトルクモーターに組み込まれているエンコーダにより提供された。エンコーダ(図には示していない)はメインコンピュータに電気的に接続されて、角度位置情報(すなわち、モーターシャフトがその軸の周りで回転する際の角度位置)を提供した。第一のモーターは肩関節角度の直接的フィードバックを提供した。肘関節角度は、第一のモーターから取得されたエンコーダ信号を、第二のモーターからのエンコーダ信号から減算することによって計算した。手のロケーションは、肩関節および肘関節の角度ならびに被験体の上腕の長さの測定結果および前腕/手の長さから、三角法を使って計算した。このモーターシステムでは、サーボ制御を使った肢の位置の直接制御も可能であった。
【0080】
メインコンピュータは装置上の種々のセンサーからデータを読み取った。好ましい態様に基づき、関節の角度位置は、例えば1回転あたり8192単位などの分解能でモーターエンコーダから取得された。三角法を使って関節角度から手のロケーションを計算した。肢の幾何学的配置または動作についてさらに情報を取得するため、本装置を他の公知の技法または設備と組み合わせてもよいことが理解されるであろう。例えば、好適な筋電図(EMG)用の設備および技法とともに本装置を使う場合、近位の腕の筋肉の活動を測定してもよい。
【0081】
データ収集
データ収集システムの基礎として、メインコンピュータ上で動く汎用データ収集ソフトウェア(Dexterit-E, BKIN Technologies, カナダ・オンタリオ州Kingston)を使用した。この取得プログラムが、1つの肢に取り付けられたリンク機構の位置を制御し、且つ、両肢のリンク機構の動きを1 kHzでモニターした。筋電活動などの信号を1 kHzでモニターするため、データ収集カード(National Instruments, PCI-6071E)が32の差分アナログ信号を提供した。
【0082】
結果
図2および図3に、患肢(左腕)のロケーションおよび幾何学的配置を非麻痺肢(右腕)でマッチングする、対照被験体および2名の脳卒中被験体の能力を示す。データは右手の位置に基づいて呈示されている。9つの標的を使用し、うち標的1〜3は正中線付近であり標的7〜9は最も側方であった。左手の位置は鏡像転置され、図2において数字で示されている。5回の反復試行が左側のパネルに示されており(図2、生データ)、一方、反復試行全体の平均値および標準誤差が右側のパネル(図2)に白抜きの記号ならびに垂直バーおよび水平バーで示されている。べた塗りのアイコンは、鏡像転置された、左手の対応位置を示す。
【0083】
図3に、図2の対照被験体および脳卒中被験体について、直交座標および関節座標における右腕および左腕の幾何学的配置および手のロケーションの比較を示す。データは左手に対してプロットされており、対角線は、左手または左腕の幾何学的配置の実際のロケーションと知覚ロケーションとのマッチが完全であることを示す。図3Aでは、ロボットリンク機構が左腕(脳卒中被験体の麻痺肢)を動かし、被験体はその幾何学的配置を右腕でマッチングした。Xの幾何学的配置の正値は正中線付近であり、負値は側方である。図3Bは手のYロケーション(離れるほど正値)を示している。図3CおよびDは肩および肘の角度を示している。直交座標または関節座標のいずれかにおいて肢の位置をマッチングする脳卒中被験体の能力を比較することによって、データの興味深い特徴がいくつか明らかになる。
【0084】
第一に、対照被験体は脳卒中被験体と比較して、手のロケーションを空間内の標的に保つことが一貫してよくできた。このことは、9つの空間内標的について手のロケーションのばらつきが小さいことを示す対照被験体のデータから明らかである。
【0085】
患者JLM(右後大脳動脈(PCA)の脳卒中)では、身体に向かうかまたは身体から離れるy次元を識別する能力(図3Bの手のロケーション、右のパネル、離れるほど正値)が、x方向の肢の位置を識別する能力(図3A、右のパネル)より、はるかに優れていた。正中線付近では肢の幾何学的配置のマッチングの誤差が比較的小さいが、側方に行くほど幾何学的配置の誤差が大きいことに注意されたい。脳卒中被験体CS(右中大脳動脈(MCA)の脳卒中)で、ばらつきが大きいこと以外に最も顕著な所見は、肩の角度(20〜30度の角度の過大評価、図3C、中央のパネル)および肘の角度(0〜40度の角度の過小評価、図3D、中央のパネル)の両方において大きな系統的バイアスが見られたことである。これらのデータは、脳卒中被験体の感覚欠損を定量化するための本装置の有用性を示している。
【0086】
注意すべき重要な点として、本発明の方法は、感覚欠損が関節それ自体に関するものか、または、身体に対する肢の全体的な空間ロケーションに関するもっと複雑な欠損を反映しているものかを分けることができる。例えば、肩の動きのみを調べた場合、JMLおよびCSという2名の被験体は、両者とも見かけ上は肩の知覚角度を過大評価すると考えられる。肘のみを調べた場合、CSは肘角度を過小評価するが、患者JLMは系統的誤差を示さないと考えられる。両方の関節を調べ、そしてそれらを一緒に使うことによってのみ、患者JLMの肢の知覚位置の系統的空間障害を検出できる。両関節における少なくとも1つの自由度かまたは(肢全体を空間内で動かすための)肩の2つの自由度を調べると、障害のこれら2つのパターンが区別される。
【0087】
図4および図5に、1つの手のロケーションを他の手でマッチングしたときの各被験体の絶対誤差および分散を示す。すべての脳卒中が感覚機能の低下をもたらすわけではないが、これらの図が示すところによれば、大多数の脳卒中被験体は手のロケーションを他の手でマッチングする能力について絶対誤差が大きく、そして特に分散が大きい。多くの場合、ロボットリンク機構で動かしたのが麻痺肢であろうと非麻痺肢であろうと値の増大が見られ、そしていくつかの場合、被験体は一方または他方のタスクでのみ問題が大きくなる傾向があった(例えばHMとBSとの比較)。別の日に取得された結果の一貫性を示すため、JLMでタスクが2回行われた(JLM1およびJLM2)。
【0088】
同等物
当業者には、本明細書に説明した態様に対する同等物が認識されるかまたは確認可能であろう。そのような同等物は本発明に包含されると考えられ、且つ添付の特許請求の範囲の対象となる。
【0089】
参考文献



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の肢の対の第一の肢と連結するための第一の連結手段を持つ、第一の関節接合部材(articulating member)であって、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ二次元または三次元空間内で該肢を所望の幾何学的配置(geometry)および/もしくは所望のロケーション(location)に保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて該肢を動かすよう適合している、第一の関節接合部材と;
被験体の該肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持つ、第二の関節接合部材であって、二次元または三次元空間内で該第二の肢により動かされるよう適合している、第二の関節接合部材と;
二次元または三次元空間内の該第一の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得するための手段と;
二次元または三次元空間内の該第二の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得するための手段と
を含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置。
【請求項2】
第一の関節接合部材が二次元または三次元空間内で第一の肢をある位置および/もしくはロケーションまで誘導するよう且つ/または動きを通じて誘導するよう、第一の関節接合部材が駆動システムを含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
二次元または三次元空間内の第一の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを、二次元または三次元空間内の第二の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータと比較するための手段をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
第一の関節接合部材に被験体の肢の対の第一の肢を連結する段階であって、第一の関節接合部材は、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ二次元または三次元空間内で該肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて該肢を動かすよう適合している、段階;
第二の関節接合部材に被験体の該肢の対の第二の肢を連結する段階であって、第二の関節接合部材は、二次元または三次元空間内で第二の肢により動かされるよう適合している、段階;
二次元または三次元空間内の該第一の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得する段階;ならびに
二次元または三次元空間内の該第二の肢の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得する段階
を含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法。
【請求項5】
第一の肢のデータが二次元または三次元空間内の該第一の肢の全部または一部のロケーションおよび/または幾何学的配置に関し、且つ第二の肢のデータが二次元または三次元空間内の該第二の肢の全部または一部のロケーションおよび/または幾何学的配置に関する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
第二の肢の一部が第一の肢の一部に対応する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
第一の肢のデータが二次元または三次元空間内の該第一の肢の軌道に関するデータを含み、且つ第二の肢のデータが二次元または三次元空間内の該第二の肢の軌道に関するデータを含む、請求項4記載の方法。
【請求項8】
マッチングタスク(matching task)を行う被験体の固有受容データを請求項4記載の方法に基づいて取得する段階;および
2つの肢について取得されたデータを比較する段階
を含み、該比較が、該被験体の肢に関する固有受容についての情報を提供する、被験体の固有受容を評価するための方法。
【請求項9】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項4記載の方法に基づいて取得する段階;および
2つの肢について取得されたデータを比較する段階
を含み、該比較が、該被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する、被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法。
【請求項10】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項4記載の方法に基づいて取得する段階;および
2つの肢について取得されたデータを比較する段階
を含み、該比較が、該被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する、被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法。
【請求項11】
被験体の肢の対の第一の肢と連結するための連結手段を持つ、関節接合部材であって、二次元または三次元空間内で動くことができ、且つ二次元または三次元空間内で該第一の肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保つよう適合し且つ/または所望の動きを通じて該第一の肢を動かすよう適合している、関節接合部材と;
二次元または三次元空間内の該第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得するための手段と;
被験体の注視方向(gaze direction)をモニターし、且つ該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の該第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けるための手段
とを含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための装置。
【請求項12】
関節接合部材が二次元または三次元空間内で第一の肢をある位置および/もしくはロケーションまで誘導する且つ/または動きを通じて誘導するよう、関節接合部材が駆動システムを含む、請求項11記載の装置。
【請求項13】
被験体の肢の対の第二の肢と連結するための第二の連結手段を持つ、第二の関節接合部材であって、二次元または三次元空間内で該第二の肢により動かされるよう適合している、第二の関節接合部材と;
二次元または三次元空間内の該第二の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得するための手段
とをさらに含む、請求項11記載の装置。
【請求項14】
被験体の肢の対の第一の肢を関節接合部材に連結する段階であって、該関節接合部材は、該第一の肢を該被験体が見ることを防ぎながら、二次元または三次元空間内で該第一の肢を所望の幾何学的配置および/もしくは所望のロケーションに保ち且つ/または二次元または三次元空間内で該第一の肢を所望の動きを通じて動かす、段階;
二次元または三次元空間内の該第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得する段階;
該被験体が該第一の肢またはその一部の知覚ロケーションの方を見る際に該被験体の注視方向をモニターする段階;ならびに
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の該第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付ける段階
を含む、被験体の肢またはその一部に関する固有受容データを取得するための方法。
【請求項15】
被験体の肢の対の第二の肢を第二の関節接合部材に連結する段階であって、第二の関節接合部材は、二次元または三次元空間内で該第二の肢により動かされるよう適合されている、段階;
該被験体が該第二の肢を第一の肢の知覚された幾何学的配置および/もしくはロケーションまで動かすかまたは該第一の肢の知覚された動きを通じて動かす際に、二次元または三次元空間内の該第二の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きに関するデータを取得する段階;ならびに
該被験体が該第一の肢もしくはその一部および/または第二の肢もしくはその一部の知覚ロケーションの方を見る際に該被験体の注視方向をモニターする段階
をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
第二の肢の一部が第一の肢の一部に対応する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項14記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の肢に関連する固有受容についての情報を提供する、
被験体の固有受容を評価するための方法。
【請求項18】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項14記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する、
被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法。
【請求項19】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項14記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する、
被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法。
【請求項20】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項15記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の肢に関連する固有受容についての情報を提供する、
被験体の固有受容を評価するための方法。
【請求項21】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項15記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の脳傷害および/または神経疾患についての情報を提供する、
被験体の脳傷害および/または神経疾患を診断または検出するための方法。
【請求項22】
マッチングタスクを行う被験体の固有受容データを請求項15記載の方法に基づいて取得する段階を含み、
該被験体の注視方向を二次元または三次元空間内の第一の肢またはその一部の幾何学的配置および/またはロケーションおよび/または動きと関連付けることが、該被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題についての情報を提供する、
被験体の肢の動作障害に関連する神経および/または筋肉の問題を検出するための方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−508096(P2010−508096A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534970(P2009−534970)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001969
【国際公開番号】WO2008/052349
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(505458245)クィーンズ ユニバーシティー アット キングストン (11)
【Fターム(参考)】