説明

固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラム

【課題】入力がノイズの多いものであっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることのできる固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラムの提供。
【解決手段】ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンス(Mode Amplitude Coherence、以下「MAC」という。)を求める工程と、前記固有モードのMACに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程とを有する固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラムに係り、特に、入力が地震波のようにノイズの多いものであっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることのできる固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建造物などの構造物の各所に地震計などの振動計を設置して振動状態を測定する所謂振動計測は古くから行われている。振動計測は、建造物が耐震基準を満たしているか否かを検査する手段としてだけでなく、地震にあった建造物が致命的な損傷を受けていないか否かを検証する手段としても使用される。
【0003】
構造物の振動特性として重要な意味を持つ固有振動数や固有振動モード形状などの固有振動モードを特定する方法としては、以下の2つの手法が一般的であった。
(1)入力から出力への伝達関数(入力がホワイトノイズと看做せる場合には、出力のスペクトル)からピークとなる振動数を特定する方法(ピークピッキング法)、
(2)入力と出力との関係を分析し、カーブフィッティングやモーダル解析などの手法を用いてモードを特定する方法。
【0004】
(1)の手法は、簡易ではあるが、入力にノイズが含まれる場合、固有振動モードに相当する振動数においても伝達関数のピークが現れ、どのピークが固有振動モードに対応する振動数かの判別が困難であるという問題がある。
【0005】
(2)の手法は、ノイズを確率統計論的に処理できるゆえに、(1)の手法に比較してノイズには強いが、パラメータの最適な調整方法が確立されていない故に、分析者のノウハウや経験に依存する部分が大きかった。
【0006】
たとえば、モーダル解析の手法には、ERA(Eigensystem Realisation Algorithm)法がある(非特許文献1、2)。
【非特許文献1】Jar-Nan Juang and Richard S. Pappa, An Eigensystem Realization Algorithm for Modal Parameter Identification and Model Reduction, J. Guidance, U.S.A., Vol8, No.5, September-October, 1985
【非特許文献2】Shirley J. Dyke, Jean M. Caicedo, and Erik A. Johnson, Monitoring of a Benchmark Structure for Damage Identification, 前記ERA法においては、ある構造物について出力データからr行s列のハンケル行列Hを構成し、これを特異値分解してシステム行列A、B、C、Dを求める。ここでシステム行列A、B、C、Dは、以下の式 x(k+1)=Ax(k)+Bu(k) y(k)=Cx(k)+Du(k)で与えられる。なお、x、u、yは、夫々状態ベクトル、入力ベクトル、出力ベクトルを示す。
【0007】
そして、行列Aを固有値解析して離散時間領域での極を求め、これを連続時間領域に変換することによってi次複素モード固有値λを求める。更に、行列Aの固有ベクトルに左から行列Cを乗じてi次複素モードベクトルφを求める。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記ERA法においては、ハンケル行列の行数iと列数j、および特異値分解の次数kを任意に設定できるが、ハンケル行列の行数と列数、および特異値分解の次数の選び方によって得られる固有振動モードの値が大きく異なり、しかもどの値が正しいのか全く判別できない。したがって、入力が地震波のようにノイズを多く含む場合には、得られた固有振動モード構造物の振動特性に基づくものなのか、ノイズに基づくものなのかが全く区別できない。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、出力がノイズの多いものであっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることのできる固有振動モード抽出方法、固有振動モード抽出装置、および固有振動モード抽出用プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンス(Modal Amplitude Coherence、以下「MAC」という。)を求める工程と、前記固有モードのMACに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程とを有することを特徴とする固有振動モード抽出方法に関する。
【0011】
前記固有振動モード抽出方法においては、前記入力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのMACを求める。そして、前記MACに基づいて前記固有モードを前記出力に対応するものとノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを前記構造物の固有振動モードとする
MACは、0以上1以下の実数であり、MACが1に近いほど、前記MACに対応する固有モードは前記構造物の実際の固有振動モードに近く、MACが0に近いほど、前記MACに対応する固有モードはノイズに由来するものと看做すことができる。前記固有振動モード抽出方法においては、前記の考え方に基づき、MACが1に近い固有モードについては前記構造物の実際の固有振動モードと看做し、MACが0に近い固有モードについてはノイズに起因するものと看做して排除する。
【0012】
したがって、前記固有振動モード抽出方法によれば、得られる固有モードを、前記構造物の固有の振動特性によるものとノイズによるものとに明確に分別できるから、出力が地震波のようにノイズが多い場合であっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることができる。
【0013】
前記固有振動モード抽出方法において対象となる構造物には、オフィスビルやマンションなどの建築物のほか、橋梁やプラント、鉄道車両、および航空機などの各種構造体が含まれる。前記構造物に入力される入力としては、地震波のようなランダム入力、インパルス入力、および正弦波や矩形波のような規則波入力などがある。また、前記固有振動モード抽出方法で抽出できる固有振動モードとしては、固有振動数、モード形状、および減衰定数などがある。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記固有モードおよびMACを求める工程が、ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を定める工程と、前記出力データに基づいて前記組(r,s,n)の夫々についてr行s列のハンケル行列を作成する工程と、作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのMACを求める工程とを有する請求項1に記載の固有振動モード抽出方法に関する。
【0015】
前記固有振動モード抽出方法においては、ある構造物について、求めるべき固有振動モードの次数nに応じ、自然数の組(r,s,n)を設定する。但しnはs以下の自然数である。
【0016】
そして、組(r,s,n)の夫々についてハンケル行列Hrsを立て、ERA法に従って固有モードとMACを求める。
【0017】
前記[背景技術]の欄でも述べたように、構造物の伝達関数は、
x(k+1)=Ax(k)+Bu(k)・・・(1)
y(k)=Cx(k)+Du(k) ・・・(2)
で与えられる。なお、x、u、yは、夫々状態ベクトル、入力ベクトル、出力ベクトルを示す。
【0018】
前記式(1)および式(2)から、前記伝達関数の時間領域は、以下のマルコフパラメータ
Y(k)=CAk−1B ・・・(3)
を用いて、以下の式(4)で与えられるr行s列のハンケル行列Hrs(k−1)
【0019】
【数1】

【0020】
で示される。
【0021】
ここで、ハンケル行列Hrs(k−1)をハンケル行列Hrs(k)で置き換えると、式(5)
【0022】
【数2】

【0023】
の形に書き直すことができる。但し式(5)中、行列VおよびWは、夫々式(6)および式(7)で表される行列である。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、次式の関係を満たす行列H
【0026】
【数4】

【0027】
が存在すると仮定すると、行列Hは、ハンケル行列Hrs(0)を用いて
【0028】
【数5】

【0029】
と変形できる。
【0030】
行列Hの一般解は、以下の式(10)
【0031】
【数6】

【0032】
で与えられる。ここで、行列Pはrp行n列の、行列Qはms行n列のアイソメトリック行列であり、Dは、対角要素としてハンケル行列Hrs(0)の固有値[d,d,d,d,・・・,d]を有する。
【0033】
したがって、ハンケル行列Hrs(0)は式(11)
rs(0)=PDQ=[PD][Q]=P・・・(11)
と変形できる。
【0034】
ここで、行列Pd、行列Q、行列V、行列Wは何れも次数および列数がnである。式(5)においてk=0とすると、ハンケル行列Hrs(0)は式(12)のように変形される。
【0035】
=Hrs(0)=P ・・・(12)
式(12)の両辺に左からPを掛けて行列Qについて解くと、行列Qは、
=(P−1=TW・・・(13)
と表される。
【0036】
ここで、U=WQ(QQ)−1=WQと置くと、式(13)からTU=Iとなるから、
[Q(P−1]V=I ・・・(14)
したがって、行列Hは、
=[Q][(P−1]=[Q][D−1]=QP・・・(15)
となる。
【0037】
式(3)、(5)、(6)、(7)、(8)、(15)から、マルコフパラメータY(k+1)=CABは、
Y(k+1)=Ers(k)E=E
=EPD1/2[D−1/2rs(1)QD−1/21/2QTE・・・(16)
と表される。ここで、E=[I,0,・・・0]、E=[I,0,・・・0](但し、Iは単位行列であり、0は零行列である。)である。
【0038】
式(16)と式(1)および(2)とを比較すると、行列EPD1/2は前記伝達関数のCに、行列[D−1/2rs(1)QD−1/2]はAに、D1/2QTEはBに対応することがわかる。したがって、前記伝達関数(1)、(2)は、
X(k+1)=[D−1/2rs(1)QD−1/2]x(k)+D1/2QTEu(k)
・・・(17)
y(k)=EPD1/2x(k) ・・・(18)
と書き直すことができる。
【0039】
前記行列[D−1/2rs(1)QD−1/2]の一般形である行列[D−1/2rs(k)QD−1/2]を特異値分解して、次式:
φ−1[D−1/2rs(k)QD−1/2]φ=z ・・・(20)
を満たす固有値zおよび固有ベクトルφを求める。
【0040】
前記固有値zおよび固有ベクトルφと式(17)、(18)の伝達関数とから、3個の数式の組
[z,φ−11/2,EPD1/2φ]
が求められる。zから固有振動数が求められ、行列φ−11/2は初期モード振幅と、行列EPD1/2φはモード形状と称される。なお、固有値zは、
【0041】
【数7】

【0042】
によってs平面における固有値sに転写される。ここで、Δτはデータサンプリング間隔であり、jは自然数である。前記構造物の減衰定数および固有振動数は、夫々前記固有値sの実部および虚部によって与えられる。
【0043】
ここで、構造物への入力が、
行列φ−11/2=[b,b,b.・・・b]・・・(22)
とすると、ベクトルb(j=1〜nの何れかの整数である。)は、構造物の系の固有値sに対応するから、ベクトルq
=[b,exp(tΔτs),・・・,exp(ts−1Δτs)]
・・・(23)
と定義すると、
行列φ−11/2=[q,q,q,・・・q] ・・・(24)
となる。
【0044】
したがって、j次のMAC(モード振幅コヒーレンス)は、以下の式
【0045】
【数8】

【0046】
によって求められる。
【0047】
このようにして求められたMACが1に近い程、固有モード、即ち固有振動数、減衰定数、およびモード形状は真の値に近く、MACが0に近いほど、固有モード、即ち固有振動数、減衰定数、およびモード形状はノイズに起因するものと判定される。
【0048】
そこで、前記固有振動モード抽出方法においては、自然数からなる複数の組(r,s,n)の夫々について上記の操作を行って固有モードとMACとを求めたあと、求めたMACが1に近い固有モードは前記構造物の固有振動特性に起因するもの、言い換えれば入力uに対応する出力であり、前記MACが0に近い固有モードはノイズに起因するものとし、前者を前記構造物の固有振動モードとする。
【0049】
請求項3に記載の発明は、前記固有モードのMACに基づいて前記固有モードを入力に対応する出力とノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程においては、前記固有モードおよびMACを求める工程において求められた固有モードを近接する値ごとに群に分け、夫々の群において前記固有モードに対応するMACで重み付け平均して固有振動モードを求める請求項2に記載の固有振動モード抽出方法に関する。
【0050】
固有振動モード抽出方法においては、近接する値ごとに群に分けられた固有振動モードをMACで重み付け平均しているから、構造物の固有振動モードとして求められる値にMACの値の大きさを反映させることができる。即ち、MACの大きな固有振動モードの値は、構造物の固有振動モードの値により大きく反映されるが、MACの小さな、言い換えればノイズに由来する固有振動モードの値は小さくしか反映されない。
【0051】
MACによる重み付けは、MACに比例した重み付けおよびMACの2乗(n=1、2、3、4、5、・・・)に比例した重み付けの何れであってもよい。MACの2乗(n=1、2、3、4、5、・・・)に比例した重み付けとしては、具体的には、MACの2乗に比例した重み付け、MACの4乗に比例した重み付け、MACの8乗に比例した重み付け、MACの16乗に比例した重み付け、MACの32乗に比例した重み付けなどがある。MACの2乗に比例した重み付けにおいては、nが大きくなればなるほどノイズによる影響を小さくすることができる。
【0052】
請求項4に記載の発明は、前記固有モードのMACに基づいて前記固有モードを入力に対応する出力とノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程においては、前記固有モードおよびMACを求める工程において求められた固有モードを近接する値ごとに群に分け、夫々の群において前記特異値分解によって算定されたMACが所定値以上の固有モードのみを単純平均して固有値モードとする請求項2に記載の固有振動モード抽出方法に関する。
【0053】
前記固有振動モード抽出方法は、MACが0に近い固有モードはノイズに由来すると考えられることに基づき、所定値未満の固有振動モードはノイズに由来するものとして切り捨てるものである。したがって、固有振動モードを抽出するためのアルゴリズムを簡略化できる。
【0054】
請求項5に記載の発明は、ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのMACを求める固有モード算出手段と、前記固有モード算出手段で算出したMACに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に基づくものとノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする固有モード分別手段とを有することを特徴とする固有振動モード抽出装置に関する。
【0055】
前記固有振動モード抽出装置においては、前記固有モード算出手段において前記出力データを固有値解析して固有モードおよびMACを求め、次いで固有モード分別手段において前記MACに基づいて固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別し、前記構造物の振動特性に起因するとされた固有モードを前記構造物の固有振動モードであると判定する。
【0056】
固有モード分別手段において固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別する基準は、請求項1のところで述べたとおりである。
【0057】
したがって前記固有振動モード抽出装置によれば、出力が地震波のようにノイズの多い場合であっても高い信頼性で前記構造物の固有振動モードを求めることができる。
【0058】
前記固有振動モード抽出装置が対象とする構造物および前記構造物への入力の種類については請求項1に述べたとおりである。
【0059】
請求項6に記載の発明は、前記固有モード算定手段が、ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて任意に定められた3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力された組(r,s,n)に対応するr行s列のハンケル行列を作成する第1演算手段と、前記第1演算手段で作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを算定する第2演算手段とを有する請求項5に記載の固有振動モード抽出装置に関する。
【0060】
前記固有振動モード抽出装置においては、前記固有モード算定手段に3個の自然数からなる組(r,s,n)を複数個入力すると、前記第1演算手段においては、入力された組(r,s,n)の夫々についてr行s列のハンケル行列Hrsを作成する。そして、第2演算手段においては、前記第1演算手段で作成されたハンケル行列Hrsの夫々について請求項2に記載した手順に従って変形および特異値分解して固有モードおよびMACを求める。
【0061】
固有モード分別手段においては、このようにして求められたMACに基づいて固有モードを構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別する。
【0062】
請求項7に記載の発明は、前記固有モード分別手段が、前記固有モード算定手段の備える第2演算手段で算出された固有モードを近接する値ごとに群に分け、夫々の群において前記固有モードに対応するモード振幅コヒーレンスで重み付け平均して固有振動モードを求める請求項6に記載の固有振動モード抽出装置に関する。
【0063】
前記固有振動モード抽出装置においては、請求項3に係る固有振動モード抽出方法と同様に、MACの2乗に比例した重み付けを行っているから、nが大きくなればなるほどノイズによる影響を小さくすることができる。
【0064】
請求項8に記載の発明は、前記固有モード分別手段が、前記固有モード算定手段の備える前記第2演算手段で算出された固有モードを近接する値ごとに群に分け、夫々の群において前記固有モードに対応するモード振幅コヒーレンスが所定値以上の固有モードのみを単純平均して固有振動モードとする請求項6に記載の固有振動モード抽出装置に関する。
【0065】
前記固有振動モード抽出装置においては、前記固有モード分別手段において、請求項4に係る固有振動モード抽出方法と同様に、MACが0に近い固有モードはノイズに由来するとの考え方に基づき、所定値未満の固有振動モードはノイズに由来するものとして省略している。したがって、固有振動モードを抽出するためのアルゴリズムを簡略化できる。
【0066】
請求項9に記載の発明は、ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップと、前記固有モードのモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に基づくものとノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとするステップとをコンピュータに実行させるための固有振動モード抽出用プログラムに関する。
【0067】
前記固有振動モード抽出用プログラムをコンピュータにインストールすることにより、請求項1に記載の固有振動モード抽出方法を実行させることができる。
【0068】
これにより、得られる固有モードを、前記構造物の固有の振動特性によるものとノイズによるものとに明確に分別できるから、出力が地震波のようにノイズが多い場合であっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることができる。
【0069】
請求項10に記載の発明は、前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップにおいては、ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を定めるステップと、前記出力データに基づいて前記自然数の複数の組(r,s,n)の夫々についてr行s列のハンケル行列を作成するステップと、作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップとをコンピュータに実行させる請求項9に記載の固有振動モード抽出用プログラムに関する。
【0070】
前記固有振動モード抽出用プログラムをコンピュータにインストールすることにより、請求項2に記載の固有振動モード抽出方法を実行させることができる。
【発明の効果】
【0071】
以上説明したように本発明によれば、出力がノイズの多いものであっても高い信頼性で各種構造物の固有振動モードを求めることのできる固有振動モード抽出方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
1.実施形態1
ある4層の建物の夫々の層にランダム波を入力したときの出力に基づいてERA法によって固有モードおよびMACを求め、前記前記固有モードと前記MACとに基づいて前記建物の固有振動モードとして固有振動数およびモード形状を求め、前記建物の各層の質量、減衰定数、および剛性からモード解析によって求めた固有振動モードと比較した。
【0073】
前記建物は、図1に示すように、1層から4層までの各層の質量がm、m、m、mであり、減衰定数がc、c、c、cであり、剛性がk、k、k、kであるとする。そして、図2に示すように、各階にランダム波が入力されたものとする。
【0074】
前記建物は、図1に示すように、地面と質量mと質量mと質量mと質量mとが、夫々減衰定数c、c、c、cおよび剛性k、k、k、kの棒で連結された剪断串団子状の構造体として考えられる。
【0075】
したがって、前記建造物の運動方程式は、以下の行列式(26)
【0076】
【数9】

【0077】
で表される。
【0078】
これを状態空間モデルで記述すると、以下の行列式(27)
【0079】
【数10】

【0080】
で表される。
【0081】
建造物がn階のとき、行列Aは2n行×2n列なので、本実施形態においては、行列Aは8行×8列である。建造物の固有振動モード(固有値λおよびモード形状)は、行列Aの一般固有値問題を解くことによって求められる。s次の固有値をλとすると、s次の固有振動数fは、以下の式(28)
【0082】
【数11】

【0083】
で与えられる。また、前記建造物の運動方程式(26)および状態空間モデルを示す行列式(27)から前記建築物のモード形状も求められる。
【0084】
次に、前記運動方程式(26)に示される質量M、減衰C、および剛性Kの各行列を構造モデルとしてシミュレーションによって前記建造物の入出力波形を求め、前記入出力波形に基づいてERA法を用いて前記固有建造物の固有振動モード(固有振動数、およびモード形状)を求めた。
【0085】
先ず、ハンケル行列の行数rおよび列数sの組合せを
(50,100)、(50,125)、(50,150)、(50,200)、
(75,100)、(75,150)、(75,200)、(75,300)、
(100,150)、(100,200)、(100,250)、(100,300)、
(150,200)、(150,300)、(150,375)、(150,450)、
(200,300)、(200,400)、(200,500)、(200,600)、
(250,400)、(250,500)、(250,600)、(250,750)、
(300,450)、(300,600)、(300,750)
の27通り設定し、夫々の組合せにつき、請求項2のところで述べた手順に従って前記シミュレーションで求められた出力波形に基づいてハンケル行列Hrsを作成した。作成したハンケル行列Hrsの夫々について10、12、14、16、18の5通りの次数nで特異値分解してモード形状を求めるとともに、固有振動数、およびMACを求めた。但し、r<sであり、n<sと設定した。
【0086】
次いで、前記モード形状および固有振動数を対応するMACの2(nは自然数である。)で重み付けして固有振動モードを求めた。
【0087】
また、MACが一定値(25%、50%、75%、上位10個)以上のモード形状および固有振動数について単純平均して固有振動モードを求めた。
【0088】
このようにして求められた固有振動モード(モード形状および固有振動数)の値Fと、前記建造物の運動方程式(26)および状態空間モデルを示す行列式(27)から求めた固有振動モード(モード形状および固有振動数)の値Fとに基づいて同定誤差(F−F)/Fを求めた。結果を表1および表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
固有振動数およびモード形状の何れについても、MACの2で重み付け平均したときの同定誤差は、MACに関係なく単純平均したときの同定誤差よりも小さく、しかもnが大きくなるにつれて同定誤差が小さくなることが、表1から判る。
【0092】
また、MACが50%未満のデータを捨て、MACが50%以上のデータについて単純平均した場合においても、同定誤差は、MACに関係なく単純平均したときの同定誤差よりも小さくなることがわかる。また、前記同定誤差は、データを捨てる基準となるMACの値が大きくなればなるほど前記同定誤差は小さくなることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の固有振動モード抽出方法は、各種建造物についてだけでなく、鉄道車両、航空機、プラント、船舶、および人工衛星などの各種構造物についても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、実施形態1においてシミュレーションを行った4層の建造物の剪断串団子型モデルを示す説明図である。
【図2】図2は、前記建築物の各層にランダム波が入力されたことを示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求める工程と、
前記固有モードのモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別し、前記構造物の振動特性に起因する固有モードを固有振動モードとする工程と
を有することを特徴とする固有振動モード抽出方法。
【請求項2】
前記固有モードおよびモード振幅コヒーレンスを求める工程は、
ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を定める工程と、
前記出力データに基づいて前記組(r,s,n)の夫々についてr行s列のハンケル行列を作成する工程と、
作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求める工程と
を有する請求項1に記載の固有振動モード抽出方法。
【請求項3】
前記固有モードのモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを入力に対応する出力とノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程においては、
前記固有モードおよびモード振幅コヒーレンスを求める工程において求められた固有モードを近接する値ごとに群に分け、
夫々の群において前記固有モードに対応するモード振幅コヒーレンスで重み付け平均して固有振動モードを求める
請求項2に記載の固有振動モード抽出方法。
【請求項4】
前記固有モードのモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを入力に対応する出力とノイズに起因するものとに分別し、前記出力に対応する固有モードを固有振動モードとする工程においては、
前記固有モードおよびモード振幅コヒーレンスを求める工程において求められた固有モードを近接する値ごとに群に分け、
夫々の群において前記特異値分解によって算定されたモード振幅コヒーレンスが所定値以上の固有モードのみを単純平均して固有値モードとする
請求項2に記載の固有振動モード抽出方法。
【請求項5】
ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求める固有モード算出手段と、
前記固有モード算出手段で算出したモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に起因するものとノイズに起因するものとに分別し、前者の固有モードを固有振動モードとする固有モード分別手段と
を有することを特徴とする固有振動モード抽出装置。
【請求項6】
前記固有モード算定手段は、
ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて任意に定められた3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された組(r,s,n)に対応するr行s列のハンケル行列を作成する第1演算手段と、
前記第1演算手段で作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを算定する第2演算手段と
を有する請求項5に記載の固有振動モード抽出装置。
【請求項7】
前記固有モード分別手段は、
前記固有モード算定手段の備える第2演算手段で算出された固有モードを近接する値ごとに群に分け、
夫々の群において前記固有モードに対応するモード振幅コヒーレンスで重み付け平均して固有振動モードを求める
請求項6に記載の固有振動モード抽出装置。
【請求項8】
前記固有モード分別手段は、
前記固有モード算定手段の備える前記第2演算手段で算出された固有モードを近接する値ごとに群に分け、
夫々の群において前記固有モードに対応するモード振幅コヒーレンスが所定値以上の固有モードのみを単純平均して固有振動モードとする
請求項6に記載の固有振動モード抽出装置。
【請求項9】
ある構造物にある入力を加えたときの出力データについて固有値解析して前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップと、
前記固有モードのモード振幅コヒーレンスに基づいて前記固有モードを前記構造物の振動特性に基づくものと入力に対応する出力とノイズに起因するものとに分別し、前者の固有モードを固有振動モードとするステップと
をコンピュータに実行させるための固有振動モード抽出用プログラム。
【請求項10】
前記構造物の固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップにおいては、
ある構造物について求めるべき固有振動モードの次数kに応じて3個の自然数からなる複数の組(r,s,n)を定めるステップと、
前記出力データに基づいて前記組(r,s,n)の夫々についてr行s列のハンケル行列を作成するステップと、
作成したr行s列のハンケル行列についてk次の特異値分解を行って固有モードおよび前記固有モードのモード振幅コヒーレンスを求めるステップと
をコンピュータに実行させる請求項9に記載の固有振動モード抽出用プログラム。

【図1】
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【図2】
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