説明

固液分離膜の保管方法

【課題】 下水等の汚水を生物処理槽内で活性汚泥処理した活性汚泥処理水を固液分離するに使用された固液分離膜について、膜へ損傷を与えず、膜性能を低下させないで乾燥保管する方法を提供する。
【解決手段】 活性汚泥と処理水を固液分離する装置内に設置されて使用された分離膜を乾燥状態で保管する際、分離膜を洗浄液により洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液により膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥と処理水を固液膜分離する装置内に設置されて使用された分離膜を、運転休止後に保管する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性汚泥と処理水を膜により固液分離させる膜分離活性汚泥法は、下水や廃水を浄化処理する設備において使われてきている。このような膜分離活性汚泥法を行う設備は、年中稼働させる設備もあるが、リゾート地での廃水処理に使用される場合のように1年間のうちの特定期間に数ヶ月程度しか稼働させないといった設備もある。しかしながら、使用する分離膜の種類によっては、一度水中に設置させてしまうと、固液分離性能を保持するために、その後は湿潤状態で保つことが必要な場合がある。すなわち、このような分離膜の場合、乾燥状態にすることにより膜表面構造に悪影響を及ぼし、膜性能の低下などをおこす。従って、上記のような膜処理設備においては、設備の稼働しない時期には、膜に損傷等を与えないでかつ再稼働時には高い膜性能を発揮できるような状態で保管しておくことが望まれている。
【0003】
そこで、実際の保管方法としては、運転休止した後にも槽内に水を貯めておき、その中に分離膜エレメントを保管することが考えられる。しかしながら、冬期には低温により槽内の水が凍結してしまい、凍結時の水膨張により分離膜自身に悪影響を及ぼす懸念がある。その他の保管方法としては、分離膜の膜面を乾燥させないように、膜エレメント全体を密閉した非透水性ポリマ袋などに入れて保管することも考えられる。しかし、密閉袋の準備や梱包作業などが煩雑であり、現実的ではない。
【0004】
また、分離膜を湿潤状態で長期間保管するための保存液として、
安息香酸及び/又は安息香酸塩を0.05〜0.5質量%の範囲で含む水溶液が特許文献1で提案されている。この保存液は安全性が高く、細菌や黴に対する殺菌効果が高いものであるが、分離膜を浸漬させて保存することが必要であり、活性汚泥処理水の固液分離装置内に設置されて使用された分離膜の保管には適用困難である。
【0005】
さらにまた、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホンからなる湿潤半透膜を製造した後、乾燥させて保管するための方法として、グリセリン等の多価アルコールの水溶液で処理した後に乾燥して保管する方法が特許文献2で開示されている。しかし、この乾燥保管方法は、製造後の未使用の逆浸透膜を保管することを目的としたものであり、この方法をそのまま、使用済みの固液分離膜の乾燥保管に適用することは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開2007−63222号公報
【特許文献2】特開昭58−156307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、活性汚泥と処理水を固液膜分離する装置内に設置されて使用された分離膜を、運転休止後に乾燥状態で保管するに際し、分離膜へ損傷を与えず、膜性能を低下させない、膜保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の固液分離膜の保管方法は、次のとおり特定される。
1.活性汚泥と処理水を固液膜分離する装置内に設置されて使用された分離膜を乾燥状態で保管する際、分離膜を洗浄液により洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液により膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管することを特徴とする固液分離膜の保管方法。
2. 分離膜が設置されている固液膜分離装置の膜二次側から洗浄液を流入させて静置洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液を膜二次側から注入して膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管することを特徴とする、上記1記載の固液分離膜の保管方法。
3. 運転休止後に固液膜分離装置から取出された分離膜エレメントを、洗浄液に浸漬させて洗浄を行い、ついで、親水化液を含む水溶液に浸漬させて親水化させた後、乾燥し、保管することを特徴とする、上記1記載の固液分離膜の保管方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明法を適用すると、下水や工場廃水などの有機性汚水等の原水を生物処理槽内で活性汚泥処理し、活性汚泥を含む処理混合液を処理槽内で浸漬型分離膜により膜分離処理し、浸漬型分離膜の下部より曝気する形態をとる膜分離活性汚泥処理の設備を休止させる際に、活性汚泥処理水の固液膜分離装置内に設置されて使用されていた分離膜を乾燥状態で保管させることができ、かつ、乾燥保管時に分離膜表面に膜の乾燥に伴う損傷を与えることがなく、しかも再稼働時には高い膜性能を発揮することができる状態で保管することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の分離膜の乾燥保管方法は、下水や工場廃水などの有機性汚水等の原水を生物処理槽内で活性汚泥処理し、活性汚泥を含む処理混合液を処理槽内で浸漬型分離膜により膜分離処理し、浸漬型分離膜の下部より曝気する形態をとる膜分離活性汚泥処理の設備において水中に浸漬されて使用されていた分離膜に対し適用される。
【0011】
本発明法を適用することができる廃水処理装置の一例を図1に示す。この廃水処理装置は、活性汚泥を投入し生物処理を行う曝気槽(生物処理槽)2と、その曝気槽2に原水(廃水)1を供給する原水供給ポンプ3と、生物処理された活性汚泥混合液を固液分離する膜分離装置4と、膜分離装置で固液分離された膜透過液を吸引する吸引ポンプ5と、曝気槽内の余剰汚泥を引き抜く汚泥引き抜きポンプ6が設けられている。膜分離装置4は曝気槽2内の液中に浸漬されており、その膜分離装置の下方には、空気を供給し、好気処理を進行させるとともに、膜面の洗浄を行うための微細気泡を発生させる散気装置8が設けられ、この散気装置には空気供給装置7により空気が供給されている。
【0012】
曝気槽2としては、活性汚泥を貯え、膜分離装置4を被処理水と活性汚泥の混合液に浸漬することができれば、大きさや材質等は特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。また、曝気槽の内部が複数に分割された槽構造でもよいし、その複数に分割されている槽のうちの一部の槽内に膜分離装置4を浸漬することにしてもよい。
【0013】
原水供給ポンプ3は、原水(廃水)1を曝気槽2に送液することができるポンプであれば特に制限されるものではなく、渦巻ポンプ、ディフューザーポンプ、渦巻斜流ポンプ、斜流ポンプ、ピストンポンプ、プランジャポンプ、ダイアフラムポンプ、歯車ポンプ、スクリューポンプ、ベーンポンプ、カスケードポンプ、ジェットポンプなどを用いることができる。
【0014】
膜分離装置4は、固液分離膜が配設されている装置であり、その分離膜としては、中空糸膜タイプ、平膜タイプのものがある。ろ過膜(分離膜)の取り扱い性や物理的耐久性を向上させるためには、例えば、フレームの両面にろ過水流路材を挟んで平膜を接着した構造の平膜エレメントを備えていることが望ましい。平膜エレメントの構造は上記に限定されるものではない。
【0015】
吸引ポンプ5は、膜分離装置4による膜ろ過固液分離に必要な吸引力を与えるために、膜ろ過透過水を吸引するポンプであり、特に形状を制限されるものではないが、通常は減圧状態から300kPa以下で運転されるポンプが使用される。また、吸引ポンプの代わりに、自然水頭差を駆動力として膜ろ過を行うことも可能である。
【0016】
汚泥引き抜きポンプ6は、曝気槽内のMLSS濃度を一定に保つために、余剰な汚泥を定期的に引き抜くためのポンプである。粘性の高い汚泥を送液できるものであれば、特に制限されるものではない。膜分離活性汚泥法におけるMLSS濃度は3,000〜20,000mg/L程度であるが、より安定した膜ろ過流束を保つためのMLSS濃度は5,000〜15,000mg/L程度である。
【0017】
空気供給装置7は、圧縮空気を送風する装置のことであり、一般にはブロア、コンプレッサ等が用いられる。送風された空気は散気装置8から槽内に気泡として送出され、この気泡により、膜分離装置の分離膜面洗浄が行なわれるとともに、生物処理(好気処理)に必要な酸素が液中に供給される。散気装置8としては、膜面上を洗浄するための気泡を発生させることができる散気管であれば特に限定されるものではないが、塩ビやステンレス配管に空気吐出孔を開けた散気管が通常使用される。その他、多孔性のゴム、セラミック、メンブレンを用いた散気管なども使用することができる。
【0018】
洗浄剤貯留タンク9は、分離膜を洗浄するための薬剤を貯めておくタンクであり、使用する薬剤に対して耐性があるのであれば、特に材質が規定されるものではない。たとえば、ポリエチレン等のプラスチック製のものが使用できる。
【0019】
親水化剤貯留タンク10は、分離膜の膜面を親水化させるための薬剤を貯めておくタンクであり、使用する薬剤に対して耐性があるのであれば、特に材質が規定されるものではない。たとえば、ポリエチレン等のプラスチック製のものが使用できる。
【0020】
本発明法によって、活性汚泥と処理水を固液膜分離する装置内に設置されて使用された分離膜を乾燥状態で保管する際、分離膜を洗浄液により洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液により膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管する。
【0021】
その分離膜の洗浄、親水化処理とは、具体的には、分離膜が設置されている固液分離装置の膜二次側から洗浄液を流入させて静置洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液を膜二次側から注入して膜面を親水化させる方法により行えばよい。この方法を図1の装置において実施する場合、浸漬槽内に活性汚泥混合液が残留したままの状態で、洗浄剤貯留タンク9から、洗浄剤を、分離膜が設置されている固液膜分離装置4の膜二次側に注入し、膜の二次側および膜の表面に付着する汚れを洗浄、除去する。この洗浄は、たとえば有機性物質の汚染に対しては、次亜塩素酸ナトリウムを1,000mg/L〜5,000mg/L程度の濃度で含む水溶液にて洗浄を行えばよい。また、無機性物質の汚染に対しては、シュウ酸を0.1%〜10%程度の濃度で含む水溶液で洗浄を行えばよい。洗浄は、通常、洗浄液を膜二次側に流入させた状態で2〜3時間静置することにより行えばよい。なお、洗浄の方法については、上記以外の方法を採用してもよい。洗浄液中に含有させる洗浄剤の種類、濃度、温度等は、膜に付着している汚れの程度や種類や分離膜の材質等を考慮して選定することが好ましい。洗浄剤含有水による浸漬洗浄をおこなった後に、必要に応じて、水ですすいで洗浄剤を除去してもよい。
【0022】
ついで、親水化剤貯留タンク10から、親水化剤を含む水溶液を分離膜の二次側に注入し、分離膜の親水化処理を行う。親水化処理に用いる薬剤としては、界面活性剤(たとえば、脂肪酸エステル溶液や製品:TRITON X-100(ダウケミカル)など)や多価アルコール(たとえばグリセリン溶液)を使用すればよい。使用している分離膜の材質に対して最適なもの、最適な濃度を選択化することが好ましい。そして親水化処理後は、自然乾燥などにより乾燥させ、その後に保管する。
【0023】
保管に際しては、直射日光を避けて冷暗所に保管する等、分離膜にできる限り損傷を与えないような環境下で保管することが望ましい。
【0024】
上記形態では膜の二次側から、洗浄剤を注入し、さらに、親水化剤を注入する方法を説明したが、他の方法によって洗浄や親水化処理を行ってもよい。
【0025】
例えば、運転休止後に固液膜分離装置から取出された分離膜エレメントを、洗浄液に浸漬させて洗浄を行い、ついで、親水化液を含む水溶液に浸漬させて親水化処理を行うことでもよい。具体的には、分離膜による固液膜分離装置が設置されていた曝気槽内の活性汚泥処理水を排出した後の槽内に洗浄剤を含む水溶液を貯水して洗浄を行い、次いで、槽内を、親水化剤を含む水溶液に置き換えて親水化処理することでもよい。また、別に、洗浄液を貯留させた槽と、親水化剤の液を貯留させた槽とを準備しておき、固液分離装置から取り外した分離膜エレメントをその中に順次浸漬することにより、膜の洗浄、膜の親水化処理を行ってもよい。
【実施例】
【0026】
以下では、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に記載の態様に限定されるものではない。
本実施例では、膜分離活性汚泥処理に用いた固液膜分離装置から分離膜エレメントを取り出し、以下の3条件について実施し、比較検討を行なった。
【0027】
(条件1) 薬品による洗浄(2時間)→親水化処理(2時間)→乾燥保管(6ヶ月)→運転再開
(条件2) 薬品による洗浄(2時間)→乾燥保管(6ヶ月)→運転再開
(条件3) 薬品により洗浄(2時間)→乾燥保管(6ヶ月)→親水化処理(2時間)→運転再開
【0028】
条件1を実施した際の具体的な操作手順を、図2のフロー図に示す。また、その際の仕様を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
薬品による洗浄直後と、各条件で運転再開直後とについて、分離膜の透水量を測定した。
透水量の測定: 浸漬槽内の水中に分離膜エレメントを浸漬し、ろ過水取り出し口に一定の水頭差を与えることにより分離膜表面に一定の水圧をかけ、所定時間における透水量を測定する。
【0031】
得られた透水量の値を、薬品洗浄後の透水量に対する比でもって表し、透水性能を比較した。その結果を図3に示す。
【0032】
図3に示す結果のとおり、条件2のように薬品洗浄後にそのまま乾燥保管すると、運転再開後の透水性はもとの半分程度にまで低下してしまった。条件3のように乾燥保管後、再び親水化処理を行ったとしても透水性能は80%程度までしか回復しなかった。一方、本発明法による条件1の操作を行うことにより、透水性能は95%と、ほぼもとの状態にまで回復することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明法は、下水等の汚水を生物処理槽内で活性汚泥処理し、活性汚泥を含む処理混合液を処理槽内で浸漬型分離膜により膜分離処理する膜分離活性汚泥法の膜設備を、季節的に若しくは定期的に運転休止状態とする際に、分離膜の乾燥保管するために適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】固液分離膜を用いた膜分離活性汚泥処理法を実施するための装置の一例を示す装置概略図である。
【図2】実施例における操作手順を示したフロー図である。
【図3】実施例における分離膜の透水性能比を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1:原水(廃水)
2:曝気槽(生物処理槽)
3:原水供給ポンプ
4:膜分離装置
5:吸引ポンプ
6:汚泥引き抜きポンプ
7:空気供給装置
8:散気装置
9:洗浄剤貯留タンク
10:親水化剤貯留タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥と処理水を固液膜分離する装置内に設置されて使用された分離膜を乾燥状態で保管する際、分離膜を洗浄液により洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液により膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管することを特徴とする固液分離膜の保管方法。
【請求項2】
分離膜が設置されている固液膜分離装置の膜二次側から洗浄液を流入させて静置洗浄し、ついで、親水化剤を含む水溶液を膜二次側から注入して膜面を親水化させた後、分離膜を乾燥し、保管することを特徴とする、請求項1記載の固液分離膜の保管方法。
【請求項3】
運転休止後に固液膜分離装置から取出された分離膜エレメントを、洗浄液に浸漬させて洗浄を行い、ついで、親水化液を含む水溶液に浸漬させて親水化させた後、乾燥し、保管することを特徴とする、請求項1記載の固液分離膜の保管方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−214023(P2009−214023A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60609(P2008−60609)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】