説明

固相アフィニティー結合アッセイのための、微小流体デバイスおよび表面修飾プロセス

【課題】固相アフィニティー結合アッセイを使用する、流体中の1つ以上の分析物の検出において使用するための微小流体デバイスを提供すること。固相上に固定化された捕獲分子の濃度勾配の形成のための方法およびデバイスを提供すること。
【解決手段】本発明は、固相アフィニティー結合アッセイを使用して流体中の1つ以上の分析物を検出するための、ポンプ(230)に接続される流体入口(105)およびサンプルレザバ(220)を有する微小流体デバイスを含む。本発明は、固相アフィニティー結合アッセイを使用して、流体中の1つ以上の分析物を検出する際に使用するための、微小流体デバイスを提供する。このデバイスは、複数の分析物の並行かつ定量的な検出のための、実用的で、使用が容易であり、携帯可能であり、安価で頑丈な分析システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2001年12月5日出願の米国仮特許出願番号60/337,606(これは、本明細書中の開示と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が参考として援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(政府資金の源)
この研究は、米国政府によって一部資金提供された。米国政府は、本明細書中に開示される発明の特定の局面に対して、いくらかの権利を有し得る。
【0003】
(背景)
固相アフィニティー結合アッセイは、流体サンプルからの化学的分析物および生物学的分析物の検出のための、最も多用途かつ迅速な方法であり続ける。しかし、これらの診断的アッセイの野外の配備および現場処置の使用は、機器および試験デバイスの費用、複雑な作業パラメータおよびプロトコル、ならびに生物学的試薬(その分解は、乏しいアッセイ性能を導く)の強力な保存のための方法の欠如に起因して、歴史的に非現実的であった。
【0004】
微小流体デバイスが、これらの問題の多くに対する解決を提供する。微小流体システムおよびその使用方法は、詳細に記載されている(Verpoorte,E.,Electrophoresis,2002 23(5),677−712;Lichtenberg,J.ら、Talant,2002.56(2),233−266;Beebe,D.J.ら、Annual Review of Biomedical Engineering,2002,4,261−286;Wang,J.,Electrophoresis,2002,23(5),713−718;Becker,H.およびL.E.Locascio,Talanta,2002,56(2),267−287;Chovan,T.およびA.Guttman,Trends in Biotechnology,2002.20(3),116−122;Becker,H.およびC.Gartner,Electrophoresis,2000,21(1),12−26;McDonald,J.C.ら、Electrophoresis,2000,21(1),27−40;Weigl,B.H.およびP.Yager,Science,1999,283(5400),346−347;ならびにShoji,S.,Microsystem Technology in Chemistry and Life Science.1998,163−188;米国特許第5,932,100号;同第5,922,210号;同第5,747,349号;同第5,972,710号;同第5,748,827号;同第5,726,751号;同第5,726,404号;同第5,716,852号;同第6,159,739号;同第5,971,158号;同第5,974,867号;同第6,007,775号;同第6,221,677号;同第5,948,684号;同第6,067,157号;同第6,482,306号;同第6,408,884号;同第6,415,821号;ならびに米国特許出願番号09/703,764(2000年11月11日出願);同09/724,308(2000年11月28日出願);同09/675,550(2000年9月27日出願);同09/863,835(2001年5月22日出願);同09/428,839(1999年10月28日出願);同09/723,823(2000年11月28日出願);同09/503,563(2000年2月14日出願);同09/574,797(2000年5月19日出願);同09/579,666(2000年5月26日出願);および同09/956,467(2001年9月18日出願);これらは全て、本明細書と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が参考として援用される)。
【0005】
流体ストリーム中の分析物の検出における使用のための微小流体システムは、広範に研究されている(例えば、米国特許第5,747,349号;同第5,716,852号;同第6,007,775号;同第5,984,684号;および米国特許出願番号09/503,563(2000年2月14日出願);同09/574,797(2000年5月19日出願);同09/863,835(2000年5月22日出願);および同09/724,308(2000年11月28日出願))。1つの流体相分析物検出システムは、検出デバイスに対して外部の複数の試薬供給源の必要性を排除する、微小流体デバイスにおけるアッセイ試薬の、固体状態での貯蔵および保存ための方法を利用する(米国特許第6,007,775号(本明細書と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が援用される))。電気泳動、等電集束法および横行電気泳動を使用する、微小流体チャネル中の分子の動電学的制御または輸送のための方法およびデバイスもまた、研究されている(例えば、Harrison,D.J.ら、Sensors and Actuators B:Chemical,10(2),107−116;および米国特許出願番号09/579,666(2000年5月26日出願))。
【0006】
積層技術を使用した微小流体システムの設計は、多チャネル分析および種々の程度の複雑さの3次元微小流体システムの形成を可能にする(Jandik,P.ら、Journal of Chromatography A,2002,954:33−40;Cabrera,C.(2002)「Microfluidic Electrochemical Flow Cells:Design,Fabrication,and Characterization」,Thesis,2002 Department of Bioengineering.Seattle,University of Washington;Cabrera,C.R.ら、Analytical Chemistry,2002,73(3),658−666;Holl,M.ら、「Design of a Microfluidic Electrochemical Flow Cell」,Electrophoresis,2000(寄稿);Holl,M.R.ら、「Microfluidic device and methods for continuous−flow transverse electrokinetic separations」,Electrophoresis(寄稿);Yager,P.ら、「Design of Microfluidic Sample Preconditioning Systems for Detection of Biological Agents in Environmental Samples」,SPIE,Santa Clara,CA;Yager,P.ら、「Analytical Devices Based on Transverse Transport in Microchannels」;Micro Total Analysis Systems 2000,University of Twente,the Netherlands,Kluwer Academic Publishers;Anderson;McDonald,J.C.およびWhitesides,G.M.,Accounts of Chemical Research,35(7),491−499;ならびにMcDonald,J.C.ら、Electrophoresis,21,27−40;これらは全て、本明細書と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が援用される)。
【0007】
固相微小流体アフィニティー結合アッセイはまた、微小流体デバイス内での分析物結合を検出するための、表面プラズモン共鳴(SPR)技術の使用について、探査されてきた(Jung,L.S.ら、Sensors and Actuators,1999,54,137−144;Lyon,L.A.ら、Sensors and Actuators B,1999,54,118−124;Naimushin,A.N.ら、「Detection of Staphylococcus Aureus Enterotoxin B in Femtomolar Amounts by a Miniature Integrated Two−channel SPR Sensor」,Biosensors & Bioelectronics,2002(印刷中);Place,J.F.ら、Biosensors,1985,1,321−353(これらは全て、本明細書と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が援用される))。他のSPR検出デバイスがまた、単一または複数の分析物の検出のために記載されている(米国特許第5,815,278号;同第5,822,073号;同第5,991,048号;同第5,858,799号;ならびに米国特許出願番号09/566,772(2000年5月8日出願);同60/132,893(1999年5月6日出願);同60/132,895(1999年5月6日出願);および60/132,894(1999年5月6日出願)(これらは全て、本明細書と矛盾しない程度まで、本明細書中でその全体が援用される))。
【0008】
固相アフィニティー結合アッセイにおいて、並行して複数の分析物を検出することがしばしば所望される。この並行検出は、しばしば、結合表面上の捕捉分子の沈着および/またはパターン形成のための複雑なプロトコルを含む。このようなアッセイは、しばしば、例えば、固相に結合した捕捉分子の最適な濃度を決定するための、過剰な開発努力を必要とする。
【0009】
制御された病院環境および臨床環境から、軍隊員によって経験されるしばしば極端な環境までの、種々の試験条件において定量的バイオアッセイを実施するための、単純で、使用の容易な、実用的で、安価で、コンパクトな、携帯可能な、多用途の安価なデバイスについての長期の必要性が、生物学的アッセイおよび化学的アッセイの分野に存在する。理想的には、このようなデバイスは、複数の分析物の並行分析を実施し、そして最適なアッセイパラメータを決定するための最小の開発努力を必要とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、固相アフィニティー結合アッセイを使用する、流体中の1つ以上の分析物の検出において使用するための微小流体デバイスを提供する。このデバイスは、複数の分析物の並行した定量的検出のための、実用的で、使用の容易な、携帯可能で、安価な、丈夫な分析システムを提供する。さらに、本発明は、固相上に固定化された捕獲分子の濃度勾配の形成のための方法およびデバイスを提供する。
【0011】
具体的には、本発明は、流体サンプル中の分析物の存在を検出するための微小流体デバイスを提供し、このデバイスは、以下を備える:
a)底部壁、2つの側壁および上部壁を備え、そして上流端部および下流端部を有する、微小流体チャネル;
b)この微小流体チャネルと流体接続した、流体入口;
c)この流体入口の下流の微小流体チャネルの壁のうち1つの上の、貯蔵領域;
d)この貯蔵領域中に固定された、少なくとも1つの固体試薬プラグであって、このプラグは、この分析物に結合するための親和性を有するマトリックスおよび試薬を含む、固体試薬プラグ;および
e)この流体入口および貯蔵領域の下流の微小流体チャネル内の検出領域であって、ここで、この試薬は、この微小流体チャネルの結合壁に結合する、検出領域。
【0012】
本発明のデバイスの多数の実施形態が存在し、その中には、貯蔵領域が上記貯蔵領域に固定された複数の固体試薬プラグを含むもの、各試薬プラグが1つまたは複数の試薬を含むもの、が挙げられる。貯蔵領域は、1つ以上の微小流体チャネル壁上に、並行したアレイでか、連続アレイでか、または2次元(2−D)アレイで、整列され得る。さらに、微小流体チャネルは、1つ以上の支流チャネルから微小流体チャネルへの、1つ以上のさらなる入口を備え得る。貯蔵領域は、楕円形、丸型、三角形、方形、星型、台形または長方形が挙げられるがこれらに限定されない、任意の形状であり得る。貯蔵領域は、壁の一部を満たし得るか、流体フローの方向に対して垂直な壁全部を横切り得るか、または1つより多い壁を横切り得る。
【0013】
貯蔵領域は、位置づけられた1つ以上の壁内のキャビティーであって、固体試薬プラグが、微小流体チャネル中を流れるキャリア流体によって溶解されるかまたはこの流体中に拡散するのを可能にし得るか、あるいは貯蔵領域は、固体試薬プラグが固定化される1つ以上の壁の表面上のスポットであり得る。キャビティーは、任意の形状であり得、そして例えば、均一であり得るか、または頂部から底部へと変動し得る。試薬は、マトリックスによって取り囲まれ得、そして流体中で可溶性の場合には、流れる流体によって溶解されるか、または流体中に不溶性の場合には、流れるキャリア流体中に懸濁されるかのいずれかであり得る。
【0014】
本発明の1実施形態において、微量流体チャネルの結合壁は、1つ以上の試薬に特異的に結合するように適合されるコーティングを、さらに備える。あるいは、コーティングは、これらの試薬のうちの1つであり得る。あるいは、試薬は、物理吸着によって、未処理の結合壁に「受動的に」結合する。本発明のいくつかの実施形態において、試薬は、1つ以上の目的の分析物に対して結合親和性を有する捕捉分子である。1つ以上の試薬はまた、連結試薬であり得、これは、結合壁と別の試薬との間の架橋として作用し得る。
【0015】
他の実施形態において、検出領域における壁のうちの1つの少なくとも一部は、以下からなる群より選択される検出システムを用いた問い合わせのために適合される:光吸収、蛍光強度、蛍光位置、表面プラズモン共鳴(SPR)、SPR顕微鏡、燐光、化学発光、電気化学発光、全反射減衰、格子共鳴、電気化学的検出、音響検出、およびこれらの組み合わせ。任意のこれらの検出スキームは、単一の検出器または検出器のアレイを利用し得る。特に、電気化学的検出および音響検出は、個々のセンサ(電極および音響検出器)または微小流体チャネルの1つ以上の壁中もしくは壁上に一体化された検出器のアレイを利用し得る。
【0016】
光学測定について、検出領域の壁の1つの少なくとも一部が、光に対して透明である。表面プラズモン共鳴技術について、分析物が結合する壁の少なくとも一部が、表面プラズモンを支持し得る金属のフィルムで覆われる。このような金属フィルム、および固体支持体上のこれらの蒸着/コーティングは、当該分野で周知である。
【0017】
他の実施形態において、微小流体チャネルの2つの対向する壁の少なくとも一部は、電極を備える。これらの電極は、当該分野で公知の任意の方法(蒸着(evaporative deposition)、電気メッキ、無電解蒸着、またはプレカット金属部品の交換によるものを含む)によって、微小流体チャネルの壁に形成され得る。一実施形態において、これらの電極は、貯蔵領域の下流かつ検出領域の上流に、好ましくはこれらの電極の1つが結合壁と同じ壁上にあるように、配置される。あるいは、表面プラズモン共鳴検出に適合された金属コーティング結合壁は、2つの電極の内の1つとして働く。他の実施形態において、2つより多い電極が、電気化学的検出のためのアレイにおいて使用される。その上に電極を有する壁の各々は、互いから分離された1つ、2つ、3つまたはそれ以上の電極を有し得、ここで、所定の壁上にある電極の全ては、互いに電気的に接続されて、電極群を形成する。この電極群はまた、単一の電極または反対側の壁の電極群に電気的に接続され得る。
【0018】
本発明は、微小流体デバイス中に試薬を貯蔵するための方法をさらに提供し、この方法は、以下の工程:
a)微小流体デバイスを提供する工程であって、この微小流体デバイスは、以下:
i)底部壁、2つの側壁および上部壁を備え、上流端および下流端を有する微小流体チャネル;および
ii)流体入口の下流の微小流体チャネルの壁の1つの上の貯蔵領域、
備える、工程;
b)試薬およびマトリクス物質を含む第1の試薬領域を形成する工程;
c)この貯蔵領域に試薬溶液を配置する工程;ならびに
d)この貯蔵領域中の試薬溶液を、流体から固体に変換して、固体試薬プラグを形成し、そして本発明の微小流体デバイスを形成する工程、
を包含する。
【0019】
工程b〜dは、貯蔵領域中の2つ以上の固体試薬プラグを形成するために、少なくとも1回繰り返され得る。この固体試薬プラグは、同じスポット上もしくは同じキャビティ内に配置されて、層状プラグを形成し得るか、またはこれらは異なるスポットもしくは異なるキャビティに配置され得る。
【0020】
試薬溶液を固体プラグに変換する工程は、試薬溶液(これは、試薬(単数または複数)およびマトリクス成分(単数または複数)を含む)の脱水を包含する。脱水は、水のいくらかまたは全てを試薬溶液から制御された様式で除去する任意の方法によってなされ得る。方法は、低湿度空気中、または真空中で、オーブン中、フード中、あるいはそれらの任意の組合せにおける簡単な貯蔵を包含する。脱水の際、この試薬溶液中の1つ以上のマトリクス形成化合物は、試薬の周りから除去された水和水を置換する。他のマトリクス成分が、脱水されると、脱水された試薬に入るゲル様固体を形成するために使用され得る。あるいは、ヒドロゲル形成組成物が、マトリクス成分として使用され得、そして試薬溶液を固体試薬プラグに変換する工程は、ゲル化を包含し、ここで、この固体試薬プラグは、ヒドロゲルである。適切なヒドロゲル組成物としては、アルギネート、またはゲル化に必要な成分を含まない緩衝液に曝露された場合に溶解を受ける他のヒドロゲルが挙げられる。
【0021】
この試薬溶液は、当該分野で公知の任意の方法(ピンツールの使用、キャピラリー管の使用またはインクジェット印刷技術の使用が挙げられるが、これらに限定されない)を使用して、微小流体チャネルの貯蔵領域に配置され得る。
【0022】
本発明の一実施形態において、この試薬溶液は、モニタリング剤(例えば、Prodan(6−プロピオニル−2−ジメチルアミノナフタレン))、または当該分野で公知の別の指示薬をさらに含み、この指示薬の光学特性は、その環境の水和の程度に応答して変化し、従って、流体からモニタリングされる固体への試薬溶液の変換を可能にする。
【0023】
さらに別の実施形態において、すでに脱水された固体試薬プラグが、導入され、そして微小流体デバイス上の貯蔵領域に固定され得る。
【0024】
本発明はまた、微小流体チャネル中に試薬を固定するための方法を提供し、この方法は、以下の工程:
a)固体試薬プラグを備える本発明の微小流体デバイスを提供する工程;
b)流体を、入口を通してこの微小流体チャネルに流す工程;および
c)この固体試薬プラグ中の試薬を取り巻くマトリクスを、流動溶液に溶解し、それにより、この溶解または懸濁された試薬は、この流動流体中でプラグを形成し、そして検出領域に運ばれ、そして結合壁に固定される、工程、
を包含する。
【0025】
この固定化の方法のいくつかの実施形態において、固定された試薬の濃度勾配が、結合壁において形成される。
【0026】
この方法が、1つより多い貯蔵領域を有する微小流体デバイスを用いて実施される場合、この貯蔵領域は、固体試薬プラグの溶解によって形成されたプラグが互いに分離され、かつ固定された試薬がこの結合壁上で重ならないように、配置され得る。あるいは、この貯蔵領域は、このプラグのある程度の部分が、マイクロチャネルの長さのいくらかまたは全てに沿って重なり、かつ固定された試薬もまた、結合壁の少なくとも一部にそって重なるように、配置され得る。
【0027】
本発明はまた、本発明の微小流体デバイスの任意のものを使用して、流体サンプル中の分析物を検出するための方法を提供し、この方法は、以下の工程:
a)本発明の微小流体デバイスを提供する工程であって、この微小流体デバイスは、マトリクスを含む固体試薬プラグ、およびこの分析物に対する親和性を有する捕獲分子である試薬を含む、工程;
b)第1の流体をこの微小流体デバイスに流す工程;
c)この固体試薬プラグを、流動流体を用いて溶解する工程であって、それによりこの固体試薬プラグは、第1の流体に溶解し、そしてこの溶解または懸濁された試薬は、検出領域に運ばれ、そして結合壁に固定される、工程;
d)サンプル流体をこの微小流体デバイスに流す工程であって、このサンプル流体は、検出される分析物を含み、それによりこの分析物は、捕獲試薬に結合される、工程;ならびに
e)結合した分析物を検出する工程、
を包含する。
【0028】
この方法が、1つより多い貯蔵領域を有する微小流体デバイスと共に使用される場合、これらの貯蔵領域の各々は、異なる分析物に対する親和性を有する異なる捕獲試薬を含み、それにより、複数の分析物の同時検出を可能にする。この方法は、サンプル流体中の分析物の濃度を決定する工程をさらに包含し得る。
【0029】
第2の結合試薬を含むさらなる試薬もまた、使用され得る。これらの試薬を含むプラグの溶解は、分析物の結合が生じた後まで遅らされ得るか、または第2の入口を介して微小流体チャネルに連結された分岐チャネルを有する微小流体デバイスの場合、この第2の結合試薬を含む固体試薬プラグは、この分岐チャネル中に位置し得、そして流体がこの分岐チャネルおよび第2の入口を通って微小流体チャネルまで流されるまで、溶解しない。あるいは、第2の試薬は、捕獲試薬と同じ(例えば、キャビティ中で下層を形成する固体試薬プラグ(ここで上層は、捕獲分子を有する固体試薬プラグを含む)と同じ)貯蔵領域に貯蔵され得る。
【0030】
さらに、検出方法は、以下からなる群から選択される方法を使用する:光吸収測定、蛍光強度測定;結合壁に沿った位置の関数としての蛍光強度測定、表面プラズモン共鳴、表面プラズモン共鳴顕微鏡、リン光、化学発光、電気化学発光、減衰全反射法、格子共鳴、電気化学検出、音響検出およびそれらの組合せ。当該分野で公知の他の検出方法はまた、本発明の微小流体デバイスと共に使用するために適合され得る。
【0031】
本発明は、以下を備える分析物検出システムをさらに提供する:
a)本発明の微小流体デバイスの実施形態のいずれか;
c)サンプル源および本発明の微小流体チャネルの入口と流体連結した流体処理システム;ならびに
d)検出領域と光学連結された検出システム。
【0032】
この分析物検出システムは、光源および検出器に連結され、必要に応じて流体処理システムに連結されたコンピューターを必要に応じてさらに備える。
【0033】
流体処理システムは、流体を、微小流体チャネルの入口まで送達し、そしてチャネルを通してこの流体を流し得る、当該分野で公知の任意の流体処理システムであり得る。この方法の一実施形態において、この流体処理システムは、容積式ポンプである。他の流体処理システムとしては、静水圧ヘッド、界面動電ポンピング手段、または微小流体デバイス自体に対して内部または外部の広範な機械式ポンプの任意のものが挙げられる。
【0034】
この分析物検出システムは、検出システムおよび/または流体処理システムと光連結した微小流体デバイスを固定し、そして検出領域を検出システムに対して必要に応じて変換するための、デバイスホルダーをさらに備え得る。
【0035】
分析物検出システムの一実施形態において、結合壁の少なくとも一部は、金属でコーティングされて、金属製の内側表面が形成され、そして光学検出システムは、以下:
a)プリズムを介してこの結合壁に連結された光源であって、それにより表面プラズモン波は、この結合壁の金属製の内側表面において励起される、光源;および
b)このプリズムを介して結合壁の金属製の表面から反射する光を検出するように配置された検出器、
を備える。
【0036】
あるいは、検出領域の少なくとも1つの壁は、光に対して透明であり、そして光学検出システムは、以下:
a)この検出領域に光学的に連結された光源;および
b)この検出領域に光学的に連結された検出器、
を備える。
【0037】
また、本発明の微小流体デバイスを作製する方法が提供され、この方法は、以下の工程:
a)第1の基板層を提供する工程;
c)第1の基板層と接触する第2の層を提供する工程であって、この第2の層は入口、底部壁および2つの側壁を有する微小流体チャネルを備える、工程;
d)第3の層が上部壁を形成するように第2の層と接触する第3の層を提供する工程;ならびに
e)流体入口の下流の壁の1つに固体試薬プラグを固定して、貯蔵領域を形成する工程、
を包含する。
【0038】
この方法は、基板層と第2の層との間に配置されるさらなる層を提供する工程をさらに包含し得、ここで、このさらなる層は、キャビティが上に配置された基板を備え、この第2の層はさらに、さらなる層内に沿って穴部を備える。
上記に加えて、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
流体サンプル中の分析物の存在を検出するための微小流体デバイスであって、以下:
a)底部壁、2つの側壁および上部壁を備え、かつ上流端および下流端を有する、微小流体チャネル;
b)該微小流体チャネルと流体連絡する流体入口;
c)該流体入口の下流の該微小流体チャネルの壁の1つの上の貯蔵領域;
d)該貯蔵領域中に固定される少なくとも1つの固体試薬プラグであって、該プラグは、マトリクス物質および該分析物に結合するための親和性を有する試薬を含む、プラグ;ならびに
e)該流体入口および該貯蔵領域の下流の該微小流体チャネル内の検出領域であって、ここで、該試薬は、該微小流体チャネルの結合壁に結合する、検出領域、
を備える、微小流体デバイス。
(項目2)
前記検出領域が、前記結合壁に結合した連結試薬をさらに含む、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目3)
前記微小流体チャネルが、金属、ポリマー、ガラス、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される材料から作製される、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目4)
前記検出領域内の少なくとも1つの壁が透明である、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目5)
前記結合壁の少なくとも一部が金属でコーティングされている、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目6)
前記結合壁に対向する壁もまた、金属を含み、そして該2つの金属壁が、互いに電気接続され得る、項目5に記載の微小流体デバイス。
(項目7)
前記貯蔵領域は、該貯蔵領域中の前記固体試薬が、前記微小流体チャネル内を流れる流体中に拡散するのを可能にするように配置されるキャビティである、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目8)
前記貯蔵領域がスポットであり、該スポット上で、前記固体試薬が固定される、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目9)
項目1に記載の微小流体デバイスであって、前記入口の下流の前記微小流体チャネルの壁の1つの上に第2の貯蔵領域をさらに備え、該第2の貯蔵領域は、第2の試薬を、キャリア流体流れと流体連絡する層流チャネル中に導入するためのものである、微小流体デバイス。
(項目10)
前記第2の貯蔵領域は、前記第1の貯蔵領域の下流に配置される、項目9に記載の微小流体デバイス。
(項目11)
前記第2の貯蔵領域は、前記第1の貯蔵領域と平行に配置される、項目9に記載の微小流体デバイス。
(項目12)
項目1に記載の微小流体デバイスであって、前記流体入口の下流の前記微小流体チャネルと接続される複数の貯蔵領域を備え、該複数の貯蔵領域は、第2の試薬および引き続く試薬を、流体流れと接触している該微小流体チャネル中に導入するためのものであり、該貯蔵領域は、互いに平行に配置されている、微小流体デバイス。
(項目13)
項目1に記載の微小流体デバイスであって、前記流体入口の下流の前記微小流体チャネルと接続される複数の貯蔵領域を備え、該複数の貯蔵領域は、第2の試薬および引き続く試薬を、流体流れと接触している該微小流体チャネル中に導入するためのものであり、該貯蔵領域は、互いに連なって配置されている、微小流体デバイス。
(項目14)
項目1に記載の微小流体デバイスであって、前記流体入口の下流の前記微小流体チャネルと接続される複数の貯蔵領域をさらに備え、該複数の貯蔵領域は、第2の試薬および引き続く試薬を、流体流れと接触している該微小流体チャネル中に導入するためのものであり、該貯蔵領域は、互いにアレイ状に配置されている、微小流体デバイス。
(項目15)
項目1に記載の微小流体デバイスであって、該微小流体デバイスは、以下:
a)前記微小流体チャネルへの第2の入口であって、該微小流体チャネルは、分枝微小流体チャネルと流体連絡している、第2の入口;
b)該分枝微小チャネル内に配置される第2の貯蔵領域であって、該第2の貯蔵領域の上流で該分枝チャネルが該微小流体チャネルと結合している、第2の貯蔵領域;ならびに
c)該第2の貯蔵領域中で固定される第2の固体試薬プラグであって、該第2の試薬プラグは、前記分析物に対する親和性を有する第2のレポーター分子を含む、第2の固体試薬プラグ、
をさらに備える、微小流体デバイス。
(項目16)
前記固体試薬プラグが、流速モニタリング化合物、溶解速度モニタリング化合物、およびpH指示薬からなる群から選択される第2の試薬を含む、項目1に記載の微小流体デバイス。
(項目17)
微小流体デバイスであって、以下:
a)底部壁、2つの側壁および上部壁を備え、かつ上流端および下流端を有する、微小流体チャネル;
b)該微小流体チャネルと流体連絡する流体入口;
c)該流体入口の下流の該微小流体チャネルの壁の1つの上の貯蔵領域;
d)該貯蔵領域中に固定される少なくとも1つの固体試薬プラグであって、該プラグは、試薬を取り囲むマトリクス物質を含み、ここで、該試薬は、流速モニタリング化合物、溶解速度モニタリング化合物、およびpH指示薬からなる群から選択される、固体試薬プラグ、
を備える、微小流体デバイス。
(項目18)
微小流体デバイス中に試薬を貯蔵するための方法であって、該方法は、以下:
a)微小流体デバイスを提供する工程;
b)該試薬およびマトリクス形成物質を含む第1の試薬溶液を形成する工程;
c)該微小流体デバイス上の貯蔵領域中に該試薬溶液を堆積する工程;および
d)該貯蔵領域中の該試薬溶液を流体から固体に変換して、固体試薬プラグを形成し、そして項目1に記載の微小流体デバイスを形成する、工程
を包含する、方法。
(項目19)
前記変換をモニタリングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目20)
微小流体チャネル中の試薬を固定化するための方法であって、該方法は、以下:
a)項目1に記載の微小流体デバイスを提供する工程;
b)前記入口を通して、流体を該微小流体チャネルに流す工程;
c)前記固体試薬プラグを、該流れている流体中に溶解させる工程、
を包含し、それによって該溶解または懸濁された試薬は、前記検出領域に輸送され、そして前記結合壁上で固定化される、
方法。
(項目21)
前記試薬が捕捉試薬である、項目20に記載の方法。
(項目22)
項目20に記載の方法であって、該方法によって、前記固定化された試薬が、前記結合壁上に濃度勾配を形成する、方法。
(項目23)
項目20に記載の方法であって、前記微小流体デバイスが、前記結合壁に結合した連結試薬をさらに含み、そして前記固定化する工程が、該連結試薬を介した前記底部壁への該試薬の結合を包含する、方法。
(項目24)
項目20に記載の方法であって、前記試薬がビオチン化され、そして前記連結試薬が、アビジン、ストレプトアビジン、およびこれら由来の操作された分枝からなる群から選択される、方法。
(項目25)
前記マトリクス物質が、水の非存在下で生体分子の水和の水を置換し得る炭水化物を含む、項目20に記載の方法。
(項目26)
前記マトリクス物質がトレハロースである、項目20に記載の方法。
(項目27)
前記マトリクス物質がデキストランをさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目28)
項目1に記載の微小流体デバイスを使用してサンプル中の分析物を検出する方法であって、該方法は、以下:
a)項目1に記載の微小流体デバイスを提供する工程;
b)第1の溶液を、該微小流体デバイス中に流す工程;
c)前記固体試薬プラグを、該流れている溶液で溶解する工程であって、該試薬は、該分析物に対する親和性を有する捕捉試薬である、工程;
d)該溶解された試薬を、前記検出領域に輸送する工程;
e)該試薬を、該検出領域内の底部壁に固定化する工程;
f)サンプル溶液を、該微小流体デバイス中に流す工程であって、該サンプル溶液は、検出されるべき分析物を含む、工程;
g)該分析物を、該捕捉試薬に結合する工程;および
h)該結合された分析物を検出する工程、
を包含する、方法。
(項目29)
前記サンプル中の分析物の濃度を決定する工程をさらに包含する、項目28に記載の方法。
(項目30)
項目28に記載の方法であって、前記検出する工程が、以下:光吸収、蛍光強度、蛍光強度位置、表面プラズモン共鳴、表面プラズモン共鳴顕微鏡、リン光、化学発光、電気化学発光、電気化学、音響およびこらの組合せからなる群から選択される方法を使用して検出することを包含する、方法。
(項目31)
分析物検出システムであって、該システムは、以下:
a)項目1に記載の微小流体デバイス;
c)サンプル供給源および前記入口と流体連絡した、流体処理システム;
d)検出システムであって、光源および前記検出領域と光学連結された検出器を備える、検出システム;ならびに
e)該光源および該検出器に接続され、必要に応じて該流体処理システムに接続される、コンピューター、
を備える、分析物検出システム。
(項目32)
前記検出領域と光学連結された前記微小流体デバイスを固定するためのデバイスホルダーをさらに備える、項目31に記載の分析物検出システム。
(項目33)
前記デバイスホルダーが、並進ステージをさらに備え、それによって、該検出領域が、前記検出システムに対して移動可能である、項目31に記載の分析物検出システム。
(項目34)
項目31に記載の分析物検出システムであって、前記結合壁の少なくとも一部が金属でコーティングされており、そして前記光学検出システムが、以下:
a)プリズムを介して該結合壁に接続される光源であって、それによって、表面プラズモン波が該結合壁の金属性の内部表面で励起される、光源;および
b)該プリズムを通して該結合壁の金属性表面から反射される光を検出するように配置される、検出器、
を備える、分析物検出システム。
(項目35)
前記検出領域の少なくとも1つの壁が光に対して透明である、項目31に記載の分析物検出システム。
(項目36)
項目35に記載の分析物検出システムであって、前記光学検出システムは、以下:
a)前記透明な壁を通して、前記検出領域に光学的に接続される、光源;および
b)該透明な壁を通して該検出領域に光学的に接続される、検出器、
を備える、分析物検出システム。
(項目37)
項目1に記載の微小流体デバイスを作製する方法であって、該方法は、以下:
a)第1の基板層を提供する工程;
c)該基板層と接触する第2の層を提供する工程であって、ここで、該第2の層は、入口、前記底部壁および前記2つの側壁を有する微小流体チャネルを備える、工程;
d)該第2の層と接触して第3の層を提供する工程であって、その結果、該第3の層は前記上部壁を形成する、工程;ならびに
e)前記固体試薬プラグを前記流体入口の下流の前記壁の1つに固定化して、前記貯蔵領域を形成する、工程、
を包含する,方法。
(項目38)
項目37に記載の方法であって、該方法は、前記基板層と前記第2の層との間に配置されるさらなる層を備え、該さらなる層は、その上に配置されるキャビティーを有する基板を備え、ここで、該第2の層は、該さらなる層と整列する穴をさらに備える、方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(発明の詳細な説明)
本明細書中で使用される場合、用語「微小流体」は、フローチャネル、またはフローチャネルを備えるデバイスをいい、ここで、このチャネルの寸法の少なくとも1つは1mm未満である。フローは、微小流体デバイスにおいて「層状」であり、このチャネル内のフローについてのレイノルズ数が約1未満(好ましくは、0.1未満)であるようなサイズの微小流体チャネルを備える。レイノルズ数は、粘性に対する慣性の比率である。低レイノルズ数は、慣性および乱流が本質的に無視できることを意味する。フローは、1より大きいレイノルズ数で層状になり得る。しかし、フローパターンが乱される場合(例えば、流れのフロー速度が変更するか、または流れの粘性が変更される場合)、このようなシステムは、乱流が生じる傾向がある。本発明のデバイスにおいて使用される微小流体チャネルは、一直線でも回旋されていてもよい。
【0040】
本明細書中で使用される場合、用語「固相アフィニティー結合アッセイ」は、目的の分析物が固体基板に結合される任意のアフィニティーアッセイをいう。代表的な固相アフィニティー結合アッセイとしては、免疫アッセイ(分析物捕捉、サンドイッチ、競合、および他のアッセイ)ならびに核酸結合アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。他のアッセイとしては、タンパク質アレイを使用する機能的タンパク質複合体アッセイが挙げられ、このアッセイでは、他による結合の標的と考えられる一連のタンパク質(未知のタンパク質)が、表面にわたってスポットとしてアレイン状にされる。この未知のタンパク質は、アレイン状にされた標的タンパク質に引き合わせられ、結合(タンパク質複合体の形成)が検出される。固相アッセイはまた、特定のDNA配列を固相上にアレイン状にすること、タンパク質を引き合わせること、およびそのDNA配列に結合するタンパク質を検出することによってタンパク質が遺伝子のプロモーター配列に結合することを決定するために使用される。多くの他の固層アッセイが当該分野で公知であり、これは、本発明のデバイスおよび方法を用いて実施され得る。
【0041】
「入口」は、微小流体チャネル内への開口部を含む。入口は、微小流体チャネルから分岐チャネルまで流体的に接続され(この分岐チャネルは主要な微小流体チャネルから離れる分岐チャネルである)、そしてまた、管、シリンジ、ポンプなどに接続される(これらは、微小流体デバイスに流体を注入するか、そうでなければ流体を導入するための手段を提供する)。出口は、微小流体チャネルから外への開口部を含み、また、回収ポート、吸収性物質および/または出口から流体を取り除くための手段(流体のための容器、フローを誘導するための手段(例えば、キャピラリー作用、圧力、重力、および他の当該分野で公知の手段)を含む)に接続され得る。
【0042】
本明細書中で使用される場合、用語「複数」は、1より大きい数をいう。
【0043】
用語「流体」は、それが保存される容器の形状を容易にとる任意の物質をいう。流体は、ガスおよび液体を含む。
【0044】
用語「に流体接続する」または「に流体連絡する」とは、流体が、互いに流体接続する2つ以上のエレメント間を流れ得ることを意味する。
【0045】
「試薬」は、任意の化学化合物、生物学的分子、またはそれらの組み合わせを含む。試薬としては、アフィニティー結合アッセイにおいて利用される種または本発明の微小流体デバイスの作動をモニタリングするために利用される種が挙げられる。試薬としては、捕捉分子、連結分子、二次的な結合分子、およびレポーター分子が挙げられるが、これらに限定されない。「捕捉分子」または「捕捉試薬」は、任意の分子であり、これらとしては、目的の分析物分子に対する結合親和性を有する生体分子および生体高分子(薬物、酵素的インヒビター、ホルモン、抗体および他のタンパク質、ならびに核酸プローブが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。「二次的な結合分子」もまた、分析物分子に対する結合親和性を有し、これはしばしばサンドイッチ型アフィニティー結合アッセイにおいて使用される。「レポーター分子」は、固層アフィニティー結合アッセイにおける分析物の検出を促進するために使用される任意の分子であり、これらとしては、光学的吸収物質、蛍光物質、リン光物質、化学発光物質、および電気化学発光物質、ならびに発光団が挙げられ得る。試薬としてはまた、較正化学物質(例えば、目的の分析物の内部標準)、微小流体デバイス内の流速および固体試薬プラグの溶解速度をモニタリングするための化学物質、pH指示薬、ならびに微小流体デバイスまたはアフィニティー結合アッセイにおいて代表的に使用される他の試薬が挙げられる。試薬としてはまた、ポリマー、金属性、あるいはフローまたは固体試薬プラグ溶解をモニタリングするために使用される他のミクロスフィアまたはナノ粒子のような粒子状物質が挙げられ得る。粒子状試薬はまた、化学反応基、または粒子表面に固定されたか、もしくは粒子内に埋め込まれた他の結合基を有し得る。このような粒子状試薬は、固体試薬プラグ上を流れる流体に溶解するか、またはマトリクス物質が溶解するような流体に懸濁される。
【0046】
用語「固体」は、流れないか、または流体でない物質をいう。固体はまた、その流れを妨げるために十分な液体が取り除かれている物質をいう。物質は、固体としてみなされるために完全に脱水(全ての水分が除去される)される必要はない。
【0047】
用語「マトリクス」または「マトリクス形成」とは、非試薬化学物質または非試薬物質の全てをいい、試薬溶液、またはその固体形態、試薬プラグを含む。マトリクスは、脱水の際、分子規模で試薬の周りの水和水を置換するか、またはバルク規模で脱水された試薬を包むガラス様固体を形成するかのいずれかによって試薬を取り囲む化学物質を含む。このマトリクスとしては、とりわけ保存剤(例えば、トレハロース)、ガラス形成炭水化物(例えば、デキストラン)、ならびにヒドロゲル形成組成物が挙げられる。マトリクス物質は、不活性(すなわち、その周りの試薬と反応しない)であることが好ましい。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「保存剤」は、試薬の溶液から水を除去する際に、試薬を取り囲む水和水と置換し得るか、そうでなければ貯蔵の間の試薬の機能および/または実行可能性を維持し得る、任意の化合物または化学化合物の混合物をいう。
【0049】
固体試薬プラグの溶解を言及して使用される場合、用語「溶解」は、固体試薬プラグが再水和されること、マトリクス物質が溶解すること、および試薬が溶解される(再水和する流体に可溶性である場合)か、再水和する流体に懸濁されるかのいずれかであることを意味する。
【0050】
本明細書中で使用される場合、用語「分析物」は、化学化合物、低分子、粒子、イオン、細胞、ウイルス、真菌、細菌、および生体分子および生体高分子(例えば、核酸、抗体およびタンパク質)、ならびに検出するのに望ましい存在または量の他の物質をいう。本明細書中で使用される場合、用語「生体分子」は、用語「生体高分子」を含むことが意図される。
【0051】
用語「貯蔵領域」は、試薬が貯蔵される微小流体チャネルの1つ以上の壁上の領域をいう。この貯蔵領域は、1つ以上の壁上に形成されたスポットであるか、または1つ以上の壁内のキャビティであり得、そしてこれは任意の形状であり得る。
【0052】
「結合壁」は、固層アフィニティー結合アッセイが実施される微小流体チャネル上の1つ以上の壁である。
【0053】
「検出領域」は、貯蔵領域の下流の、結合壁を備える微小流体チャネルの一部分である。分析検出方法において、この検出領域は、結合壁に結合する分析物を検出するためか、または分析物が結合しない領域からのコントロールシグナルを検出するために使用される。
【0054】
微小流体チャネルにおける構造の相対的整列に対して使用する場合、用語「平行」は、その構造が、フロー方向に対して垂直方向に1つ以上の微小チャネル壁を横切って整列されることを意味する。
【0055】
微小流体チャネルにおける構造の相対的整列に対して使用する場合、用語「直列(series)」は、その構造が、流体フローと同じ方向に微小チャネル壁に対して整列されることを意味する。
【0056】
用語「アレイ」または「二次元アレイ」は、本明細書中で、複数の要素(例えば、捕捉分子、固体試薬プラグ、電極、検出器など)が、規定の位置において微小流体チャネル内または微小流体チャネル上に配置されていることを示すために使用される。
【0057】
用語「検出システム」は、検出領域における結合壁に結合した分析物の検出に必要な要素を含む。光学検出システムは、例えば、少なくとも1つの光源、少なくとも1つの検出器、ならびにフィルタ、レンズ、プリズムおよび他の光学構成要素全てを含む。この検出システムは、必要に応じて、光学制御、検出器からのデータ収集、および/またはデータ分析のためのコンピューターを含み得る。電気検出システムは、溶液中の化学物質からのまたはその化学物質への電荷の移動のための電極、およびそのアレイにおける電極の各々を通って流れる電位もしくは電流のいずれか、またはその両方を測定するための回路を含む。さらに、電気検出システムは、その電流または電圧を、引き続くディスプレイおよび分析のためのデジタル化されたシグナルに変換する電気システムのいくつかの形態を含む。
【0058】
本発明は、微小流体の原理および固相アフィニティー結合アッセイを利用して、単一または複数の分析物の迅速な、定性的で、かつ/または定量的な並行検出のためのデバイスおよび方法を提供する。
【0059】
(微小流体デバイス上に不安定な生体分子試薬を保存するための方法)
固体基板上のキャビティー中またはスポット上で固体形態(乾燥した、または部分的に乾燥した)において化学的試薬を保存して、その試薬の周りのマトリクスの制御された溶解によって、制御された様式にて流れている流れに入れることが可能である。この方法は、複雑な生体分子(抗体、アビジン、核酸プローブ、または固相アフィニティー結合アッセイにおいて使用される任意の試薬(とりわけ、レポーター分子、低分子基質または酵素インヒビターが挙げられる)を含む)の保存のために使用され得る。保存され得る他の試薬としては、微小流体デバイスの較正のためのポジティブコントロール、微小流体チャネル中で反応を検出する際に有用なpH指示薬、および標識(例えば、微小流体デバイス内の流速、または固体試薬プラグの溶解速度をモニターするために使用される蛍光マーカー)が挙げられる。
【0060】
本発明は、アフィニティー結合アッセイ試薬の保存および防腐、ならびに固相へのそれらの分配および固相上での固定化のための方法を提供する。多くの実施形態において、その試薬は、目的の分析物への結合に対する特異的親和性を有する捕捉分子である。保存された試薬はまた、1つ以上の捕捉分子に対して親和性を有する連結分子であり得る。このような捕捉分子および連結分子は、親和性結合アッセイの分野で周知である。捕捉分子としては、抗体、細胞表面レセプター、他のタンパク質、つなぎ低分子(tethered small molecule)、および核酸プローブが挙げられるが、これらに限定されない。連結分子としては、アビジン、核酸プローブ、および種々の化学連結基が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「アビジン」は、アビジンの公知の形態全て(ネイティブのアビジン、ストレプトアビジン、および任意の他の改変または操作されたアビジン形態を含む)を含む。
【0061】
本発明の1実施形態の微小流体デバイスは、入り口と検出領域との間にデバイスの「入り口」縁部に沿って位置した1つ以上の貯蔵領域を有する、1つ以上の微小流体チャネルを備える。各々の貯蔵領域において、乾燥しているが可溶性の保存剤(例えば、炭水化物(例えば、トレハロースのような糖))のマトリクス中に分散された試薬を含む乾燥固体試薬プラグが位置づけられる。トレハロースおよび関連する糖は、溶液中の生体分子および他の試薬の水和水の代わりとなり、生体分子および他の試薬の脱水(水和水の除去)、ならびに機能を喪失することなく、任意の環境条件下でのそれらの長期保存を可能にする。非還元糖としてのトレハロースは、タンパク質のリジン残基と化学反応を介してタンパク質を修飾し得る還元糖より好ましい。その機能を喪失することなく試薬の長期保存を可能にする、試薬 対 マトリクス中の成分の任意の比が使用され得る。試薬の周りの水和水を置換し得る任意の化合物が、マトリクスの防腐成分として使用され得る。
【0062】
トレハロースのような糖に加えて、マトリクスはまた、デキストランを含み得る。バルキング剤であることに加えて、デキストランは、保存安定性を改善し得る。なぜなら、そのガラス転移温度は、トレハロースより高く(Allison,S.D.ら,J.Pharm.Sci.,2000,89(2),199−214)、固体試薬プラグのより制御可能な溶解を可能にするからである。本発明の好ましい実施形態において、そのマトリクスは、トレハロースおよびデキストランの両方を含む。
【0063】
固体試薬は、以下によって、貯蔵領域中または貯蔵領域の上に固定化される:貯蔵領域(例えば、保存キャビティーの底部)への濃縮試薬溶液(試薬および任意のマトリクス形成成分の濃縮溶液)の送達、続いて、脱水、適切なゲル化組成物を含む溶液のゲル化、またはこの2つの方法の組み合わせによる液体溶液から固体への変換。脱水の方法は、当該分野で周知であり、単純なエバポレーション(または層流フード中でのエバポレーション)、加熱、真空の適用、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。このことにより、捕捉分子が保存スポット上、または保存キャビティー中に硝子様固体プラグとして固定化される。
【0064】
試薬溶液の固体試薬プラグへの変換は、必要に応じて、適切な環境に感度の高いプローブを溶液に入れることによってモニターされ得る。例えば、Prodan(6−プロピオニル−2−ジメチルアミノナフタレン)が、疎水性溶媒ありまたはなしで溶液に添加されて、水除去の関数として蛍光のピークシフトをモニターすることにより、溶液中に存在する含水率を定量し得る。Prodanを含む溶液から水が除去されるにつれ、Prodanに起因する蛍光ピークは、より短い波長にシフトする。他のプローブもまた、そのプローブの検出可能な特性が水和の程度によって変化する限り、使用され得る。
【0065】
乾燥条件(例えば、脱水速度)の制御は、固体試薬プラグの露出した表面の異なるトポロジー(亀裂が入った、滑らかな、でこぼこしている、など)の作成を可能にし得、このトポロジーは、固体試薬プラグを横切る流体流れ、従って、微小流体デバイスを横切る試薬の分配に影響を及ぼし得る。異なる形状のキャビティー(例えば、円筒、矩形、角錐、半球など)を使用することによってそのプラグを横切る流体流に対する類似の影響を達成することもまた可能である。
【0066】
一旦、任意の許容可能な方法によって試薬溶液が固体にされると、その試薬は、保存に関して非常に強い。単一のキャビティー中に互いの頂部に2つ以上のプラグを層状に重ねて、単一のキャビティーから異なる試薬分子の連続的放出を可能にすることが可能であることに留意のこと。複数の試薬プラグはまた、微小流体チャネルの1つ以上の壁上に、平行に、直列に、または二次元アレイ状に配置され得る。
【0067】
そのマトリクスの組成はまた、流体がその上を流れたときに、固体試薬プラグの溶解速度に影響を与えるように変化し得る。例えば、漸増量のデキストランを試薬溶液に追加することにより、溶解に要する時間が増大する。このことは、例えば、試薬の1つが二次結合分子である場合、および捕捉試薬(別の貯蔵領域中に存在するか、またはキャビティー中において二次試薬プラグの上部に層状に重ねられる)が結合壁に固定化され、分析物が捕捉試薬に結合した後まで、二次結合試薬プラグの溶解を遅らせることが所望される場合に特に有用である。
【0068】
それらの意図される目的について試薬分子を使用するために、微小流体チャネルは、流れている、好ましくは水性の、キャリア流体と接触して配置され、この流体は、キャビティー中の固体試薬プラグ上部の空間(存在すれば)を満たし、結果として、マトリクスの溶解を生じる。このマトリクスの溶解の際に、試薬もまた、そのキャリア流体によって溶解されるか、または試薬が不溶性の場合は、そのキャリア流体中に懸濁されるかのいずれかである。
【0069】
(固相上に一定パターンで捕捉分子を固定化するための微小流体法)
多くのセンサシステムの重要な目的は、並行して複数の分析物を検出することである。1つの選択肢は、異なる捕捉分子で表面に異なる検出ゾーンを修飾することである。このことは、しばしば、アレイベースのアプローチといわれる。その検出表面は、異なる化学物質をディスプレイする複数の別個のゾーンを有し得る。アレイ形成法としては、スポッティング、インクジェット印刷、およびリソグラフィー印刷が挙げられる。本発明者らは、捕捉分子の複数のゾーンを生成する新規な方法を提供し、これはまた、それらの捕捉分子の表面濃度の勾配を生成する極めて単純な方法を含み得る。
【0070】
低レイノルズ数条件(層流)において、各保存キャビティー(またはスポット)の開口部を横切る流体流れは、各キャビティーを通る流体の滑らかな流れを生成し、この流れは、キャビティーに埋め込まれた固体試薬プラグのマトリクスを キャビティーの頂部から下へ溶解させる。この流体流れは、移流状の(a plume of)捕捉分子を、例えば、下流に運び、ここで、それら分子は、結合壁に対する結合について、結合壁表面に拡散することによって利用可能になる。いくつかの実施形態において、結合表面は、その試薬分子の結合効率および実行性を増大させるために、試薬分子に曝す前に活性化される。結合の効率は、一部、表面部位の占有に依存する。例えば、清浄な金表面は、タンパク質の天然のまたは人為的に導入された表面チオール基によってタンパク質を捕捉する。代替は、アビジン単層で結合壁を予めコーティングすることであり、このことによって、その後、高い効率でビオチン化試薬分子を捕捉する。他のこのような連結ストラテジーは、当該分野で周知であり、捕捉分子の実行性を減少させ得、最終的には、それらの分析物を結合する能力を減少させ得る表面上の捕捉分子の密集を防止する方法が挙げられる。
【0071】
固体試薬プラグのすぐ上の流れのパターンおよび速度は、プラグが縮小するにつれて変化する。固体試薬プラグの溶解速度(従って、それが含む試薬の移流状の特性)は、キャビティーの形状の改変によって、または異なるマトリクス/試薬混合物を層状に重ねることによって、変化され得る。表面により結合される、キャビティーからの試薬分子の割合は、それらの分子の流速および拡散係数、ならびにそれらの分子を結合する表面の能力に依存する。複数の貯蔵領域の使用により、選択された多数の捕捉分子で結合壁を修飾することを可能にする。
【0072】
図1A〜1Dは、本発明の微小流体デバイスの側面図であり、固相親和性結合アッセイにおけるこのデバイスの使用を例示する。これらの図面は、正確な縮尺ではない。図1Aは、カバープレート135によって形成される頂部壁131、および基板170によって形成される底部壁133を有する微小流体チャネル150を例示する。距離「d」は、流れ方向に対して垂直な方向にあるチャネルの厚みとして規定される。基板170は、単層から形成されてもよく、同じもしくは異なる物質の2つ以上の層から形成される積層構造であってもよい。基板170は、基部160に接着されて、積層構造に固体支持体を加え得る。微小流体チャネル150の壁は、ガラス、シリコン、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、Mylar、および結合のいくつかの形態を使用して互いに接着し得る任意の他の材料(接着剤の使用を含む)のような材料から形成され得る。所望される場合、または特定の光学的検出法に必要な場合、その壁は、その検出システムにおいて使用される光源に対して透過性の材料から作製される。
【0073】
微小流体チャネル150における流れは、入り口105から出口106に、左から右である。貯蔵領域120は、底部壁133上にキャビティーとして図示されるが、貯蔵領域はまた、底部壁133上のスポットであり得る。図示されるように、貯蔵領域120は、固体試薬プラグ125を含む。貯蔵領域120の下流の底部壁133の少なくとも一部が、検出領域172を形成し、この領域は、結合壁130の中にある。結合壁130は、底部壁133を金属(好ましくは金)薄層140でコーティングすることにより、必要に応じて形成される。この金属層は、表面プラズモン共鳴検出を用いる使用に適切な任意の厚さである。好ましくは、この層は、金で作製されており、約40nm〜約60nmの厚さである。(これらの図面は、縮尺どおりでないことに留意されたい。実際には、金属層は、貯蔵領域120の縁部に気付く程度の「縁(lip)」を形成しない)。図1Bは、入り口105を通る第一のキャリア流体110での微小流体チャネル150の湿潤化を図示する。キャリア流体110は、貯蔵領域120にわたって流れ、試薬プラグ125のマトリックス成分をキャリア流体110内に溶解させる。キャリア流体が貯蔵領域120の下流に進むにつれて、溶解したまたは懸濁した試薬がキャリア流体内に拡散し、試薬移流(reagent plume)180を生み出す。試薬移流180からの試薬分子が結合壁130に結合して、結合試薬190の濃度勾配を形成する(図1C)。
【0074】
図1Dは、入り口105を通る微小流体チャネル150へのサンプル流体115の導入を図示する。サンプル流体115からの分析物が結合試薬190を通過するにつれて、分析物は、結合試薬に結合して、結合分析物195の層を形成する。それらが結合壁に結合するにつれ分析物分子がサンプル溶液から枯渇されるので、サンプル流体115のラインは、分析物分子の濃度を示す。結果として、結合分析物の濃度勾配もまた、結合壁130上に形成される。結合分析物の検出は、不連続に検出領域172に沿って、または同時に検出領域のいくつかまたは全てに沿って、なされ得る。図1Dはまた、結合分析物の表面プラズモン共鳴(SPR)検出の1つの概要を図示し、ここでは、光源182が、プリズム183を通って金層140に連結される。金層140から反射した光が、検出器184で検出される。この図は、分析物結合の検出について1つの可能性のみを図示する。多数の他の検出方法は、当該分野で公知である。貯蔵領域のすぐ下流で、プラグ中に十分な捕捉分子がある限り、結合表面をその分子で飽和することができる。このような捕捉分子飽和の領域は、より複雑ではあるが、別の方法(例えば、スポッティング)によって容易に作製され得る。しかし、捕捉分子移流が下流に移動するにつれて、移流中の捕捉分子の濃度としての表面滴上の濃度が枯渇されることに留意されたい。このことは、本発明の固定化方法が、捕捉分子が表面上で飽和される領域のみでなく、徐々に、かつ予測可能な制御された様式で、飽和からゼロへ変化するキャビティーからのさらなるゾーンも生じることを可能にする。このような濃度勾配は、固相アフィニティー結合アッセイの設計および利用に非常に有用である。この固相アフィニティー結合アッセイは、しばしば、例えば、捕捉試薬の最適な表面濃度を決定するのに多くの実験を必要とする。捕捉分子の勾配の形成は、結合壁に沿ったいくらかのスポットに最適な濃度が存在することを確実にし、それにより、従来の固相アフィニティー結合アッセイに必要な大量の実験の必要性を克服し、これは、結合表面につき1つのみの濃度を可能にする。
【0075】
図2は、貯蔵領域120からの微小流体デバイス100における流動中の流れに対して導入された結合分子の1つの可能な表面分布を図示する。貯蔵領域120は、表面上のスポット供給源としてここにモデリングされる。流れは、左から右であり、試薬分子の結合密度における差異は、異なる灰色濃淡によって示される。(この図は、もともとカラーで示されたことに留意されたい。異なる強度は、赤(最高濃度)から青(最低濃度)までの色スペクトルによって表される。グレースケールへの変換は、色情報の損失を生じた)。図2において、各貯蔵領域120についての最高密度の領域は、貯蔵領域120の右側の暗領域141である。141の周囲の領域において密度が減少し、最低濃度173の領域への試薬分子の連続的なまたはほぼ連続した表面濃度勾配を形成する。濃度勾配は、結合壁130に結合しない試薬分子のための流動流体中に存在する。図2は、それらのそれぞれの試薬移流の重なりを防ぐように十分に離して貯蔵領域を配置し、従って、結合壁が結合試薬のないままである空隙123を作出することが可能であることを図示する。これらの空隙は、検出参照シグナル、または電極の配置にとって有用である。あるいは、貯蔵領域は、それらの試薬移流が重なるように互いに対して十分に密に配置され得、複雑な混合された表面濃度勾配の作出を可能にする。このような混合された表面濃度勾配は、例えば、密に近接して2つ以上の異なる抗原を有する大きなまたは複雑な分析物を捕捉するために、有用である。これは、捕捉分子層のアフィニティーおよび選択性を改善し得る。試薬移流の重複の一例は、図3中で例示されている。ここは、本発明のその微小流体デバイスの底部壁の平面図である。図3において、貯蔵領域125および126は、それらの試薬移流(それぞれ、181および182)が結合壁130に沿って交差点199で重なり、結合された試薬重なりの領域192を形成するように平行に位置づけられる。この図は、試薬重なりを生じる貯蔵領域の1つのみの配置を図示する。当業者は、多数の他の配置が重なりの程度を変更することが可能であることを認識する。例えば、貯蔵領域125と126とをより密接して一緒に位置づけることは、より高い濃度勾配でより大きく重なることを確実にする。貯蔵領域は、図4A〜4Cにおいて図示されるように、より複雑なアレイ中に配置され得る。これは、微小流体デバイス100における複数の貯蔵領域125−128を示す。上記のように、これらの貯蔵領域は、試薬プラグの溶解時に形成された移流が重なるか、または隔離されたままであるように配置され得る。勾配、重なる勾配の形成、および固体試薬プラグの相対的溶解速度におけるさらなる変形は、プラグからの溶解の期間中流体の流速を変化させることにより達成され得る。いったん捕捉試薬が結合表面に固定化されると、分析物を含むか、または含む疑いのあるサンプル流体が、結合表面を横断して微小流体チャネル中に流される。分析物分子は、固定化された捕捉分子に結合し、そして直接的に検出されるか、または必要に応じてレポーター分子を含む二次結合分子にさらにカップリングされる。従来の固相アフィニティー結合アッセイ(フローセル中で実行するアッセイを含む)では、固定化された捕捉試薬への分析物の結合は、固相に対する分析物の拡散によって制限される。結合表面は、分析物に結合し、そしてそうする際に、表面近くのゾーンにおいて分析物濃度を枯渇する。結合壁の反対の壁近くの分析物は、決して結合壁に到達し得ない。本発明は、単に捕捉表面を横断して流体を流すことによって一般に達成されるよりも、結合壁(例えば、SPR表面)によって分析物の捕捉を加速する方法を提供し、従って、従来のアフィニティー結合アッセイの拡散制限を克服する。
【0076】
(固相アフィニティー結合アッセイにおけるサンプル捕捉効率および速度を増強するための動電学的方法)
センサシステムの流体工学の主要な務めが、有限容量のサンプルを採取し、そして存在するそれだけの分析物を最小限の時間で結合壁に(選択的に)結合させることであると仮定すると、いくつかの問題点がある。非常に少ない分析物分子しか入手できない状況で働いていると仮定してみる。結合分析物により生成されるシグナルを最大にするために、結合壁は小さいものであるべきである(単位領域当たりの分析物分子の数を最大にするために)。流体は、結合を可能にするためにこの表面全体を流れなければならないが、微小流体チャネルは、流れと垂直の方向により厚くなり(図1中のdの値がより大きくなり)、サンプル流体は、分析物分子を遠い壁から表面に拡散させるために、微小流体チャネル中により長く滞留しなければならない。分析物結合を最大にするための1つの解決は、dを最小限にし、サンプル流体の流速を増大させ、単位時間当たりの検出器領域を横断するサンプルの全体の流れの減少を補償することであるが、これは、流体が結合壁付近で費やす時間を減少し、そして結合強度に対する剪断により誘導される効果を生じ得、これは分析物−捕捉試薬結合に不利に影響し得る。別の解決は、サンプル全体および結合壁を単一の迅速に攪拌されたタンク中に置き、そしてこの攪拌を待ち、分析物分子の全てを表面から拡散距離内にくるようにすることである。これは、表面に結合された分析物の全てを得るために、必ずしもではないが、最も迅速な方法である。なぜなら、サンプル中の分析物は、時間と共に断続的に希釈されるからである。動電効果(例えば、微小流体ゾーン電気泳動(μZE)または等電点電気泳動(μIEF)による流れの横断)が、本発明の微小流体デバイスと共に本明細書中で使用され、検出領域における結合壁への分析物の結合を大いに速め、意図された結合表面近辺で目的の分析物分子を濃縮するために、より速いフロースルー速度および/またはより厚いチャネルの使用を可能にする。タンパク質にとっては、結合表面への拡散は、その表面による捕捉の速度において律速の工程であり得る。標的分子が結合表面それ自体上をずっと押し進められなくても、結合速度において大きな増大が見られ得る。なぜなら、捕捉分子に対する拡散の時間は、距離にとても依存するからである。コンピューターモデリングは、これらのシステムにおける流れ、蛋白質電荷、pH、および印加電圧間の相互作用を推定する際に有用であり得る。本発明の微小流体デバイスにおいて流れる分析物の捕捉を加速するための動電効果の使用の一例を、図5に示す。微小流体チャネル150中を流れる分析物粒子117は、結合壁130の上流の電極132(カソード)と134(アノード)との間を通過する。この実施形態では、アノード134とカソード132との間の電位の適用が、アノードに対する分析物の加速を生じ、従って、結合壁130近辺で分析物を濃縮する。動電学の使用における多くの変形は、目的の分析物、および分析物緩衝液濃度に依存して、結合壁で分析物を濃縮するために使用され得る。このような変形は、当該分野で周知である。例えば、緩衝液濃度が強い場合、μZEは、1つの壁までずっとそれらの電気泳動移動度に従って粒子を移動させる。緩衝化が軽度の場合、μIEFは、結合表面に近い平面に分析物を集束させる。また、図5中の電極は、結合壁から離れたものとして示される。しかし、SPRが使用される検出方法である場合、金表面140が、電極の一方として使用され得る(第二の電極は反対側の壁に配置される)か、または電極が、SPR金表面を挟み込み得る。この場合、電極は、捕捉表面近辺で適切に荷電された分析物を濃縮するように作用し、それにより、この方法の感度を増大し、かつ/またはそのスピードを増大する。電極としてのSPR電極の使用がpHにおける過度の局所的な変化を導き、それにより捕捉表面への分析物の結合を変化させる場合、SPR捕捉表面の上流に電極を移動し、それにより濃縮工程および捕捉工程を切り離すことが可能である。
【0077】
(分析物の測定を改善するための捕捉分子のパターン化)
従来のアフィニティ結合アッセイにおいて、捕捉分子の飽和は起こってはならない。その理由は、一旦遊離の分析物の濃度が飽和に必要とされる濃度を超えると、溶液中の分析物濃度に対する情報が利用可能でなくなるからである。平衡イムノアッセイでこの問題を解決する唯一の方法は、対象の分析物に対して低い親和性を有する捕捉分子を使用する(すなわち、取得するかまたは惹起するために大量に消費する)ことである。しかし、表面捕捉層における分析分子の数の増加の比率が知られている場合、捕捉層が最終的には飽和する場合でさえも、1つの型のみの捕捉分子で分析物の濃度を決定することが可能である。この情報を得るために、表面上に1つより多くの密度の捕捉分子を有することが必要である。このことは、本発明によって提供されるような、捕捉分子の表面濃度勾配の形成によって達成される。
【0078】
図6は、定常状態に到達する速度論に対する表面捕捉分子の密度の影響の概略図である。左上の、低い捕捉分子260の密度において、分析物分子270による部位飽和の最終の程度は、早期に達成される(左下)。その理由は、表面の隣の薄い層の液体は、定常状態の占拠を達成するのに必要とされる全ての分析物分子を供給し得る。右上において、捕捉部位の数が、近表面液体容積における分析物分子の数に対して高い場合、分析物分子は全て、飽和が達成される前に捕捉され得(右下)、飽和に対するアプローチは、容積から、さらには表面からの拡散輸送により支配される(見かけ上異なる濃度勾配は、もっぱら現実的ではなく、濃度は、1つの縁から捕捉表面まで連続的に変化することに注意されたい)。
【0079】
捕捉分子結合部位の半飽和(分析物の膨大な沈下物の存在下での)は、捕捉分子に対する分析物の親和性によってのみ決定される。これは、(塩濃度、温度などのようなものによってのみ影響される)分子特性である。従来の固相アフィニティ結合アッセイにおいて、可能な限り多くの捕捉分子が、光学的に調査される領域に結合され、その部位の飽和において得られる光学シグナルを最大化する。本発明は、同一の捕捉分子を含むが異なる密度で含む結合壁における複数の領域の存在からの有用な情報の抽出を可能にする。飽和未満密度を用いることによって、光学シグナル強度が減少される場合、デバイスの表面への分析物の到着の速度から取得される濃度情報は、大きな価値を有する。なぜならば、それは、測定が、定常状態が達成されるずっと前になされることを可能にするからである。このアッセイは、フローセルにおける「従来」の固相アフィニティ結合アッセイの時間よりもずっと短い時間で達成され得る。
【0080】
(分析物結合のSPR検出)
本発明の微流体デバイスを用いる固相アフィニティ結合アッセイにおいて特に有用な1つの検出技術は、SPRである。SPRを用いる場合、微流体デバイスの検出領域は、薄い金属(好ましくは、金)でコーティングされる。SPRの多くの異なる構成が当該分野で公知であり、そしてこれらは、本発明の使用に適合され得る(例えば、Jung,L.S.ら,Sensors and Actuators,1999,54,137−144;Lyon,L.A.ら,Sensors and Actuators B,1999,54,118−124;Naimushin,A.N.ら,「Detection of Staphylococcus Aureus Enterotoxin B in Femtomolar Amounts by a Miniature Integrated Two−channel SPR Sensor」,Biosensors & Bioelectronics,2002(印刷中);Place,J.F.ら,Biosensors,1985,1,321−353;米国特許第5,815,278号;同第5,822,073号;同第5,991,048号;同第5,858,799号;および米国特許出願番号09/566,772(2000年5月8日出願);同60/132,893(1999年5月6日出願);同60/132,895(1999年5月6日出願);および同60/132,894(1999年5月6日)を参照のこと(これらの全ては、その全体が、本明細書と不一致にならない程度まで、参考として援用される))。
【0081】
表面プラズモン共鳴顕微鏡の技術はさらに、小領域の結合表面の調査を可能にし、異なる濃度勾配を有する領域の調査を可能にする。SPR顕微鏡は、表面上の空間的に分解される領域を調査するために、拡大平行ビーム(expanded collimated beam)を使用する。これは、RothenhauslerおよびKnoll(Rothenhausler,B.およびKnoll,W;Letters to Nature 332,615−617(1988))により導入され、広範に記載されており(C.E.H.Berger,C.E.H.ら,Review of Scientific Instruments 65,2829−2837(1994);H.E.de Bruijnら,Applied Optics 31,440−442(1992);H.E.de Bruijnら,Applied Optics 32,2426−2430(1993);Hickel W.およびKnoll,W.,Thin Solid Films 187,349−356(1990);Hickel,W.およびKnoll,W.,Thin Solid Films 199,367−373(1991))、そして生物学的分子の科学的調査に使用されている(Brockman,J.M.ら,Annual Reviews of Physical Chemistry 51,41−47(2001))。本発明の微流体デバイスと共に使用するのに好ましい1つのSPRは、米国特許出願番号60/421,917(その全体が、本明細書と不一致にならない程度まで、参考として援用される)に記載されている。
【0082】
(ポイント・オブ・ケア検出システム)
本発明の微流体デバイスの設計は、極めて単純であるので、ポイント・オブ・ケア診断用途または外部移植性を誘導する。微流体検出システムの1つの実施形態において、単一のシリンジポンプ(または他のポンプシステム)が、全ての流体の移動を制御するために使用される。
【0083】
図7に示されるように、このシステムは、本発明の微流体デバイスを含み、その入口105は、最初は湿潤流体を含んでいる単一の排水ポンプ230と流体連通しており、そしてサンプルレザバ220とも流体連通している。このシステムを操作するために、この単一の形態において、ポンプ230のハンドル235は、湿潤流体を微流体チャネル150に押し出すよう下降しており、そこで、流体は試薬栓125を溶解し、そして溶解または懸濁した試薬を結合壁130に運搬する。ハンドル235が引き戻される場合、サンプル流体は、ポンプ230の本体に汲み出される。ハンドル235を2回押すことで、サンプル流体が微流体チャネル150に導入され、そこで、流体は全体に流入し、そして結合壁130に結合された試薬に結合する。このシステムはさらに、光学検出システム(例えば、プリズム183を備え、結合壁として薄い金属フィルム140を用いるSPRシステム)を備える。微流体チャネルへの第2の注入の間、CCDカメラは、SPR画像を記録し、そしてそれらを用いて、サンプル中の分析物の濃度を算出する。安価で廃棄可能なプリズムが使用され得、そして微流体デバイスに永久的に固定されるか、またはデバイスホルダ245が、微流体デバイスとSPR光学装置を整列させるのに使用され得る。この機器は、サンプルコレクター(化学的生物学的ウエハ(CBW)試薬検出のためのエアサンプラー)の下流で使用され得るか、または血液のような流体サンプルを直接吸引し得る。
【0084】
本発明の微流体デバイスは、固体基材(例えば、ガラスまたはシリコン)のエッチングを含む当該分野で公知の任意の方法によってか、またはマイラーおよびポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)のような材料からのポリマー性積層構造の形成によって形成され得る。
【0085】
1つ以上の微流体チャネル壁上のスポットが貯蔵領域を形成するデバイスは、代表的に、以下の層(下から上に向かって):ガラススライド、入口および出口を有する2mm幅均一チャネルを有する6ミルACA(接着剤、キャリア、接着剤)、ならびに10ミルママイラートップシートを備える。
【0086】
貯蔵領域としてキャビティーを含むデバイスは、代表的に、それらの積層構造においてより多くの層を含む。1つの可能な積層構造(吹き出し)を示す1つの一般的な構造(等尺度ではない)が、図11に示される。図11における積層構造は、4つの層を備える。基部160は、このデバイスの全体的な構造上の支持のために使用される。層171は、基部160に接着されており、また、キャビティー120を含み、そして基板170全体の切断によって形成される微流体チャネル150に対する底面壁として機能する。カバープレート135は、基板170上に重ねられて、微流体デバイスの上面壁を形成し、そして必要に応じて、入口105および出口106もまた備える。
【0087】
このような積層構造の2つの例として、以下のマイラー構造およびPDMS構造が挙げられる。
【0088】
マイラー構造は、代表的に、以下の層(下から上に):ガラススライド;円形穴(これは、キャビティーを形成し;この穴は、200μm〜1.5mmの範囲である)を有する6ミルACA;同一サイズの円形穴を有する10ミルマイラー;キャビティーが、入口側のチャネルの約1/6下にくるように配置された入口および出口を有する2mm幅チャネルを有する6ミルACA;10ミルマイラートップシートを備える。
【0089】
PDMS構造は、代表的に、以下の層(上から下に):ガラススライド、200μm幅および200μm深さを有するPDMS、キャビティーが、入口側のチャネルの長さの約1/6下にくるように配置された入口および出口を有する2mm幅チャネルを有する10ミルACA、10ミルマイラートップシートを備える。
【0090】
これらの代表的なデバイスのこれらの説明および図面に記載される積層状層の詳細な厚み、材料、数、および構造は、例示にすぎない。当業者は、他の材料および厚みが、それらが所定のデバイスまたは適用に対する特定の光学的または化学的必要性を満たす限り使用され得ることを認識している。また、本発明の微流体デバイスは、当該分野で公知の他の微流体エレメント(例えば、サンプルプレフィルター、サンプル保存チャネル、フローサイトメーター、電気泳動セパレーターなど)と組み合わせて使用され得る。
【実施例】
【0091】
(1.固体試薬栓の形成および溶解の評価)
異なる重量の保存剤トレハロースおよび/またはデキストランを含有する緩衝液中で、試薬としてフルオレセインを用いるモデルシステムを使用して、本発明の微流体デバイスにおける固体試薬栓の形成および溶解を評価した。以下の溶液セットを、これらの実験に用いた。
【0092】
(A.溶液セットI−フルオレセイン+トレハロース含有緩衝液)
ストック緩衝液/フルオレセイン溶液:2mM KClおよび0.10mM MgClおよび20μMフルオレセインを含有する100mM Tris HNO緩衝液(pH7.8)。ストック緩衝液/フルオレセイン溶液を、Sigma Chemicals Inc.から入手した異なるパーセンテージの結晶トレハロース二水和物と混合し、トレハロースのパーセンテージが、乾燥の進行にどの程度影響を与えるか決定した。最も高い重量%の可能性のあるトレハロースを含有する溶液を使用することが望ましいことが証明された(望まれる乾燥の最終状態に最も近いので(最も水のパーセンテージの低い可能性))。純水中のトレハロースの溶解性は、約40%である。生成された溶液は、2%〜40%のトレハロースの質量パーセンテージを含んだ。
【0093】
(B.溶液セットII−セットIの溶液+デキストラン)
デキストランは所望の生成物の溶解時間を増加させるという仮説を活用して、種々の重量パーセンテージのストック緩衝液/フルオレセイン溶液(上記)、トレハロース、およびデキストラン(Sigma Chemical,Incから入手;平均分子量68,000Da)を含有する溶液を作製した。トレハロースのパーセンテージは、10%〜35%の範囲であり、そしてデキストランのパーセンテージは、1%〜25%の範囲であった。
【0094】
(C.溶液セットIII)
下流のフルオレセイン濃度を定量的に図示するために、高濃度のフルオレセインを含む溶液を作製した。溶液中のストック緩衝液/フルオレセインの濃度は、20μMから400μMに増加した。%デキストランが大きくなると、溶解時間が長くなることを決定し、5%〜25%のデキストランおよび15%〜40%のトレハロースを含む溶液を、ストック緩衝液/フルオレセイン溶液から作製した。
【0095】
(溶液セットIV:)
下流のフルオレセイン濃度を検出するために、より高い濃度のフルオレセイン濃度が必要であったので、トレハロース/緩衝液ストック溶液中のフルオレセイン濃度を、6mMまで増加させた。第3の溶液セット中で作製されるデキストランおよびトレハロースの重量%の同じ組み合わせを、これらの溶液について使用した。
【0096】
(乾燥)
上記の溶液を、点状にか、またはキャビティー中へのいずれかで、本発明の微小流体デバイス上に堆積させた。キャビティーおよびスポットをピペットマンおよび延ばされたガラスキャピラリーチューブを用いて装填し、約200μm幅の中空投薬「針」を得た。次いで、微小流体デバイスを層状流れフード中に配置し、時間を変化させて乾燥した。
【0097】
改変された変数:溶液組成、溶液滴をキャビティー中またはガラススライド上のいずれに配置するか、キャビティー組成(Mylar、TeflonチューブまたはPDMS)、乾燥時間。層状流れフード中に48時間配置した後に、トレハロースおよびデキストランの両方を含む溶液をガラス様の均一な硬度まで十分に乾燥した。このガラス性生成物は、ガラス上への液滴か、またはキャビティー中の液滴について得られる。デキストランの%が高くなると、ガラス様生成物が多くなる。さらに、乾燥した生成物は、溶液が、Mylar中のキャビティーとは反対に、狭い空孔のTeflonチューブおよびPDMSキャビティー中で乾燥された場合に、より均一であった。
【0098】
(溶解実験)
(溶解標的パラメータ)
(1)乾燥した材料は、約1mm/秒のチャネルにおける流速で、2〜10分の間に溶解しなければならない。
【0099】
(2)この溶解は、再生可能で、予測可能な(好ましくは、成形可能な)、下流の煙条の試薬(フルオレセイン)を生成するべきである。
【0100】
(3)乾燥した材料は、複数の乾燥点が、代表的な幅の微小流体チャネル内に並んで配置され得るのに十分小さい空間内に含まれなければならない。
【0101】
(溶解実験の評価)
(ガラススライド上の液滴)
改変された変数:溶液組成(第1および第2のセットの溶液間)、使用した乾燥工程、液滴のサイズ(0.5μlまで)、チャネルにおける流速(0.1〜1mm/秒)。
【0102】
実験結果:表面上の液滴(約1.5mm幅)は、約20〜90秒で完全に溶解した。デキストラン濃度が高くそして風乾時間が長いと、より長い溶解時間が生じた。溶解は、風乾を使用した場合(これにより、過度の不規則性なしに比較的均一な乾燥材料が生成される)に、最も再生可能であった。
【0103】
(キャビティーにおける液滴)
改変された変数:溶液組成、使用した乾燥工程、キャビティーのサイズ、キャビティーの組成、キャビティーの充填率、チャネルにおける流速。
【0104】
(実験結果:)
Mylerキャビティー:200μmの幅および400μmの深さのキャビティーを使用して、合理的に許容可能な結果が生じた。溶解時間は、3〜10分の範囲であり、そしてより長い時間は、より高いデキストラン濃度に対応した。
【0105】
PDMSキャビティー:PDMSキャビティーは、さらにより再生可能な溶液結果を生じた。なぜなら、おそらく、PDMSが、より滑らかであったからであろう。溶解時間は4〜10分の範囲であった。時間の範囲は、おそらく、不一致の充填プロトコルに起因した。
【0106】
標的パラメータ内の溶解結果を有する最も均一な固体試薬プラグを生成した溶液およびそれを可能にするために使用した方法は、以下:
溶液:約30重量%のトレハロース二水和物、約20重量%のデキストラン(Sigma chamicals,Inc.から入手した;平均分子量68,000)、ならびに約50重量%のストック緩衝液/フルオレセイン溶液(2mM KClおよび10mM MgCl2およびpH7.8において20μMのフルオレセインを含有する100mM Tris HNO3緩衝液)、を含んだ。
【0107】
溶液調製:約1mlの上記溶液を、1.5mlの微小遠心チューブ中で調製した。500μlのストック緩衝液/フルオレセイン溶液を、遠心チューブへピペットでとった。これに、0.3gのトレハロースおよび0.2gのデキストランを加えた。デキストランの完全な溶解のために、わずかに加熱および撹拌が必要であった。
【0108】
図8に図示されるPDMSデバイスを使用して、溶解を測定した。このPDMSデバイスは、上記のものであり、そして以下の工程によって形成した:
1.基板の前処理:フォトレジスト鋳型を、直径4インチのシリコン基板ウェハ上に配置した。この基板は、使用前に酸で処理しなかった。
【0109】
2.シリコンウェハ基板のコーティング:約5mlのNANO SU−8フォトレジストを、シリコンウェハ上に配置し、750rpmで約20秒間回転させた。
【0110】
3.穏やかな焼付け:ウェハをフォトレジストで均一にコーティングした後に、ホットプレート上で焼付けた。工程1:摂氏65度での30分間の焼付け。工程2:摂氏95度での90分間の焼付け。工程3:15分間区域のレベルまで冷却。
【0111】
4.曝露:続いて、フォトレジストを有するウェハを、4分ごとに1分の中断しながら合計時間16分で、近UV(350〜400nm)照射に曝露した。透明マスクを使用して、フォトレジストの部分が、架橋され(曝露された部分のみ)、従って、その部分が、基板の表面に永久に引き上げられるように選択的に選んだ。
【0112】
5.焼付け後:ホットプレートレベルにて。工程1:65℃で15分間。工程2:95℃で25分間。
【0113】
6.展開:MicroChem SU−8展開剤を使用。ウェハを、十分な展開剤を有する容器に配置して、それを覆い、そして5分間撹拌した。次に、使用溶液を新たな溶液に置換して、ウェハをさらに10分間撹拌した。
【0114】
7.リンスおよび乾燥:最後に、ウェハをイソプロピルアルコールでリンスし、次いで、窒素によって乾燥した。顕微鏡下での検査では、リンスされた部分(PDMS「孔」を形成する)は、約200μmの深さであったことが確認された。
【0115】
8.PDMS鋳型の作製:Sylgard製のシリコン弾性体を、10:1(重量比)の比の硬化剤と混合し、標準的なベルジャーデシケーター中で脱気した。完成されたフォトレジスト鋳型を、Petri皿の底部に配置し、PDMSを鋳型に注いだ。その結果、その表面は、フォトレジスト鋳型の高い部分より上で、1mlだけ上昇させた。次いで、Petri皿をさらなる脱気のためにデシケーター中に配置し、次いで、65℃で2時間オーブン中に配置して、PDMSを硬化させた。
【0116】
9.レーザー切断チャネルの作製:チャネルについての設計は、AutoCad上で作製した。Washington Technology CenterにおけるUniversal Laser System CO切断機器を使用して、Fralock,Inc.から入手した6ミルのACAにおいてこのチャネルの輪郭を切断した。
【0117】
キャビティーを有するPDMS四方(片側25mm、ガラススライドと同じサイズ)を形成した後に、頂部のMylarシート以外のPDMSデバイスの各層を、アセンブルした。キャビティーを、ピペットマンの端部上の延びたキャピラリーチューブを使用して、好ましいトレハロース/デキストラン/緩衝剤溶液により充填し、層状流れフードを48時間乾燥させた。乾燥の完了後、Mylar頂部シートを、デバイス上に配置した。
【0118】
(乾燥溶液の溶解試験)
溶解を、Kloehnステッパーモーター駆動ポンプシステムおよびデバイスを保持するための特注マニホールドを使用して試験した。脱イオン水を、約0.5mm/秒の速度で、チャネルを介してキャビティー上を通過させた。COHUカラービデオカメラを使用して、VHSテープに画像を取り込んだ。溶解下流のビデオテープを使用する、流れに対して垂直な強度測定を、10秒、20秒、30秒、1分、1分30秒、2分、2分30秒など、9分30秒まで行った。
【0119】
(結果:)
溶解固体試薬プラグの蛍光微小グラフィック画像を、図9に示す。流れ方向を横切る位置(図9に示される画像の垂直切片)および10.5分までの時間での生の蛍光強度データのグラフを、図10に示す。
【0120】
本明細書に引用される参考文献は、本明細書に不一致でない程度まで、その全体が援用される。
【0121】
当業者は、本明細書に記載される本発明は、特に記載されている以外のバリエーションおよび改変が可能であることを理解する。本発明は、本発明の精神および範囲に入る全てのそのようなバリエーションおよび改変を含むことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1A】図1A〜1Dは、本発明の微小流体デバイスの側面図であり、固相アフィニティー結合アッセイにおけるこのデバイスの使用を示す。
【図1B】図1A〜1Dは、本発明の微小流体デバイスの側面図であり、固相アフィニティー結合アッセイにおけるこのデバイスの使用を示す。
【図1C】図1A〜1Dは、本発明の微小流体デバイスの側面図であり、固相アフィニティー結合アッセイにおけるこのデバイスの使用を示す。
【図1D】図1A〜1Dは、本発明の微小流体デバイスの側面図であり、固相アフィニティー結合アッセイにおけるこのデバイスの使用を示す。
【図2】図2は、貯蔵領域から流体流れに導入される結合分子の、1つの可能性のある表面の分布を示す。
【図3】図3は、本発明のデバイスの1つの実施形態を示し、ここで、貯蔵領域は、この試薬の移流状のもの(plum)(およびこのような結合領域)が重なるように共に十分に密接して配置される。
【図4A】図4A〜4Cは、2次元アレイにおける、3つの可能性のある貯蔵領域の配置を示す。
【図4B】図4A〜4Cは、2次元アレイにおける、3つの可能性のある貯蔵領域の配置を示す。
【図4C】図4A〜4Cは、2次元アレイにおける、3つの可能性のある貯蔵領域の配置を示す。
【図5】図5は、本発明の微小流体デバイスの1つの実施形態を示し、このデバイスは、分析物の動電学的な制御をもたらす電極を組み込んでいる。
【図6】図6は、定常状態に達する速度論に関する表面捕捉分子密度の影響の模式図である。
【図7】図7は、本発明の微小流体デバイスを利用する検出システムの1つの実施形態を示す。
【図8】図8は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)微小流体デバイスの1つの実施形態の顕微鏡写真である。
【図9】図9は、貯蔵領域から溶解したサンプルの蛍光顕微鏡写真画像である。
【図10】図10は、貯蔵キャビティから溶解したサンプルについての微小流体チャネルにおける蛍光強度 対 位置のグラフである。
【図11】図11は、本発明の微小流体デバイスの1つの実施形態を形成するために使用される積層構造の分解図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−304476(P2008−304476A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194197(P2008−194197)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【分割の表示】特願2003−549882(P2003−549882)の分割
【原出願日】平成14年12月5日(2002.12.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】