固相及び触媒で可能な自動同位体希釈並びに種別同位体希釈質量分析
【解決手段】質量分析を行なう前に、固相及び/又はマイクロ波同位体比平衡及び測定を用いて、濃縮同位体種及び天然同位体種を平衡化する方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、米国仮出願第60/873,383号、2006年12月7日出願、発明の名称「マイクロ波放射を用いた平衡化法」の優先権を主張する。その内容は本文での引用を以って本願に組み込まれるものとする。
本発明は、濃縮同位体種の固相固定化と、天然種及び標識同位体種の同位体の対象分析物種の平衡化(equilibration)とそれらの同時抽出(simultaneous extraction)、分離及び/又は選択とを用いて、濃縮同位体及び標識種及び天然同位体種の平衡化を改良する方法に関するもので、IDMS及びSIDMSの可搬性(portability)を改善し、効率、平衡化及び自動化を改善する他の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IDMS及びSIDMSは、濃縮同位体平衡に基づいて、種の被分析物(analyte)を正確に測定することができる。同位体希釈質量分析(IDMS)及び種別同位体希釈質量分析(SIDMS)を記載した特許として、例えば、米国特許第5414259号、米国特許第6790673B1号、米国特許第6974951B1号、米国特許第5883349号、米国特許第5830417号、米国特許第7005635B2号、米国特許第7220383号があり、また、米国特許公開第2002/0198230A1号は測定用試料を調製し、試料中に存在する化学種を測定する方法を開示しており、化学種のバルク化学濃度をオンラインで測定なし、感度、精度及び効率の向上が達成される。これら特許の開示は、明示的な引用を以て本願に組み込まれるものとする。
【発明の概要】
【0003】
質量分析を行なう前に、固相同位体比平衡及び測定を用いて濃縮同位体種及び天然同位体種を触媒平衡化(catalyzed equilibration)する方法を開示する。この発明は、対象分析物の確定的(definitive)、定性的(qualitative)及び定量的(quantitative)分析を行なうために、分子、原子及び種分けされた(speciated)試料を定量的及び定性的に調製することに基礎を置くものである。本発明の方法は、固相を利用することで平衡を改善するものであり、この固相は、同時平衡により、液相及び気相よりも多くの利点を有し、当該分野で既知のIDMS及びSIDMSの自動化を可能にする。特徴とする点は、固相を利用したことであり、固定化された濃縮同位体試薬(reagents)、同位体が濃縮された分子製造試薬、固相及び固定化相における平衡プロセスである。アルゴリズムを用いて、濃度が数学的に決定され、質量分析データに校正曲線(calibration curves)を適用しなくても、種のシフトは直接補正される。試料の調製は固相で行われるので、被分析物の平衡及び分離に必要な時間は、従来の液体/熱平衡及び分離プロトコルと比べて、有意に減少する。固相同位体のスパイキング及び平衡化のために作られた試薬及び生成物は、長い期間に亘って安定であるので、現場での試料調製(on-site sample preparation)が可能であり、保存又は輸送中における試薬及び/又は試料の劣化に関連する保管及び流通管理認証の問題が改善される。固相同位体のスパイキング及び平衡化により、試料の調製及び操作ステップの幾つかが排除されるので、現場作業者及び検査機関の分析者にとって、反応性・毒性物質の取扱いを、現場でスパイキング及び平衡化する態様で行なうことができるので、大量の試薬溶液として取り扱う場合よりも安全である。試料の被分析物と同位体が濃縮及び平衡化された試薬の標識は、液相及び/又は気相での分析において溶出するか、あるいは質量分析計への表面イオン化により固相中で直接分析される。固相同位体のスパイキング及び高速の平衡化により、コスト効率が高く、ハイスループットで高信頼性の試料調製並びに高レベルの自動化及びミニチュア化のサブシステムを含む分析システムを作製する能力が向上し、これにより、可搬性にすぐれ、現場配置が可能で、精度が高く、エラー率の少ない、実証的な分析及び検出システムの作製が可能となる。このように現場配置可能であることは、環境科学捜査、国家防衛、産業規制の遵守、生物化学、臨床研究及び臨床診断目的に極めて有用であろう。国家防衛及び安全への適用例として、消失性物質(fugitive agents)について複数地点で飲料水をネットワーク監視すること、軍隊の保護のために、戦場で大気/水/表面を分析することが挙げられる。これらのシステムはまた、人間の疾病の危険性を、環境からの工業的毒性物質及び食物に対する曝露の関数として評価するのに有用であり、これは環境衛生の成長分野である。最終的に、このようなシステムは、自閉症のような病気、幾種類もの癌、アルツハイマー、パーキンソン病及び糖尿病のような免疫変性疾患の発病を予測し、あるいは進行速度を遅らせるツールになるものと考える。上記の両概念を利用した最終的な研究について、以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、SPI-SPEによって平衡化及び分離された含酸素化合物(oxygenates)をGC-MSによって記載され分析された結果を示している。
【0005】
【図2】図2は、表示された含酸素化合物でスパイクされ、GC-MSによって記載され分析されたもので、カラム上で平衡化及び分離されたPAG-5カラムにおける結果である。
【0006】
【図3】図3は、Agilent Evidexを6ml、C-13の同位体的IDMSが予めスパイクされたモルヒネ0.5gを使用し、PSI-SPEカラムに試料モルヒネと平衡化された血清由来のモルヒネである。
【0007】
【図4】図4は、カラム上で天然種と平衡化された同位体濃縮PSI-SPEを用いた1,4-ジオキサン及び1,4-ジクロロエタンである。
【0008】
【図5】図5は、ウェル試料のモニタリングにおける生分解の結果を示している。全ての濃度はppbで表され、誤差は90%CL、n=3である。
【0009】
【図6】図6は、校正標準と校正カートリッジとの対比を示す。試薬水は2ppmでスパイクされ、誤差は95%CL、n=4である。
【0010】
【図7】図7は、校正標準と校正カートリッジとの対比を示す。
【0011】
【図8】図8は、RFの比較を示しており、校正RFとRF=1との対比である。
【0012】
【図9】図9は、マイクロタイタープレート(平面図)であり、8×12(96ウェル)型の質量分析(IDMS及び/又はSIDMS)ELISAであって、濃縮同位体修正された異なる2種類の結合抗原が交互に列をなしている。
【0013】
【図10】図10は、マイクロタイタープレートの表面修正された固相支持体(側面図)であり、濃縮同位体が結合された異なる2種類の抗原が交互に列をなしている。同位体濃縮抗原のうちの一方は、天然同位体試料を用いたELISAの実施に先立って、固体表面の一部として準備される。なお、同位体が予め装填された(preloaded)抗原が固相に存在していない場合は、濃縮抗原と非濃縮抗原は両方とも、ELISAの実施中、抗体に結合されたとき迅速に平衡化される。
【0014】
【図11】図11は、マイクロタイタープレートの表面修正された固相支持体(側面図)であり、抗体の一部には、同位体濃縮抗原が既に結合されている。ELISAの測定は、これら2組の抗原の比に応じて、試料中に存在する同位体濃縮抗原の結合度を測定することによって行われる。
【0015】
【図12】図12は、マイクロタイタープレートについて、サンドイッチシステムを用いて表面修正された固相支持体(側面図)であり、2種類の抗体と抗原の分析は、同位体濃縮抗原を使用し、2つの濃縮同位体スパイクの比を計測している。
【0016】
【図13】図13は、マイクロタイタープレートの表面修正されたSELDIプレート(側面図)を示しており、天然バイオマーカーと同位体濃縮されたバイオマーカーとが2つの分離した列をなしている。
【0017】
【図14】図14は、SELDI又はELISAに用いられた8ウェルの平面図である。
【0018】
【図15】図15は、固相表面修正されたプレートを示しており、該プレートには、結合蛋白質分析物バイオマーカー又はヌクレオチドプローブ(両方とも、濃縮された天然のもの)が高密度マイクロアレイフォーマットに交互に16列に配列されている。定量化は、多変量(multi-variant)バイオマーカー又はヌクレオチド(両方とも、濃縮された天然のもの)を使用し、IDMS及び/又はSIDMSの直接比アルゴリズムを適用することで行なわれる。
【0019】
【図16】図16は、質量分析の読出し図で、血液について、メチル水銀、エチル水銀、無機水銀及び金属水銀に対する、同位体濃縮された特定種のスパイキングを示している。
【0020】
【図17】図17は、質量分析の読出し図で、水試料は、ESI-TOF-MSのポジティブモードにて、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nを含有していることを示している。
【0021】
【図18】図18は、質量分析の読出し図で、水試料は、ESI-TOF-MSのネガティブモードにて、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nを含有していることを示している。
【0022】
【図19】図19は、ポジティブイオンモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3のアジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てがm/z88、同位体のピークは全てがm/z89である。
【0023】
【図20】図20は、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第1アジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てが107、混合物のピークは108、同位体のピークは全てが109であり、定量化のための比は1:2乃至1:3である。
【0024】
【図21】図21は、質量分析の読出し図で、分子種と定量化のこの組合せで表される多くの同時比率は、定量化のために複数の式と複数の比がが必要であることを示している。得られたグラフは、ネガティブモードで、DI H2O中、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nの値である。各グラフはアジドのピークが2以上ある。
【0025】
【図22】図22は、質量分析の読出し図で、天然アジドNa3(N3)4-(一番左のピーク)と、N15同位体及び比を種々変えたアジドNa3(N3)4-の類似体で3つの対応する同位体濃縮標識類似体との間での新たな比率関係と複数のピークを示している。このグラフは、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第3アジ化ナトリウムイオンの1つを拡大したもので、天然物のピークは全てが237であり、混合物のピークは238、239及び240であり、(2×15N)同位体のピークは241である。
【0026】
【図23】図23は、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第4アジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てが302であり、混合物のピークは303、304、305及び306であり、同位体のピークは全てが307である。
【0027】
【図24】図24は、ポジティブモードで100ppmのK13C15Nでスパイクされた100ppm(μg/g)のKCNの第4シアン化カリウム種イオンについて、ナノESI-TOF-MSによる拡張された質量分析の読出し図で、天然物のピークは全てが299であり、同位体濃縮シアン化カリウムのピークは301、303及び305であり、同位体のピークは全てが307であって、各々は同位体及び天然の炭素と窒素との混合が注釈されている。
【0028】
【図25】図25は、固相スパイキングと平衡を示すフローチャートである。
【0029】
【図26】図26は、濃縮同位体のスパイキングと平衡化の方法を示すフローチャートである。
【0030】
【図27】図27は、同位体の理論的オーバレイと、ESI-TOF-MSをm/z338(ESI-TOFによるメチル水銀とシステイン)で使用したメチル水銀のスペクトル測定値とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この明細書において、定量的に分析されるべき種を含む試料に関して「種(species)」という語が用いられるが、この語は、化学種、イオン種、分子種、有機種等の錯体種、有機金属種、金属含有蛋白質等の複合種、異質及び均質な炭素種の他、本発明の化学的定性的及び定量的種別分析に適した他の種を含むあらゆる種を意味するものとする。
【0032】
{課題及び解決に関する説明}
現在、試料の調製は、測定に先行して行われなければならない。IDMS及び/又はSIDMS(特定種同位体希釈質量分析計-SSIDMSを含む)のどれを使用する場合も、最初に、濃縮同位体種と被分析種の天然種との平衡化を達成することが必要である。もしこのステップに数日あるいは数時間かかり、機器分析及び自動化の時間がほんの数秒で済むのであれば、IDMS及び/又はSIDMSの自動化で使用することを妨げる時間差があるということである。もし試料を抽出、分離、あるいは操作をしなければならない場合、自動化可能な方法は、平衡化の速度を速めると共に抽出及び/又は分離を実行することが必要である。IDMS/SIDMSの平衡化及び自動化の促進により、効率の最適化、再現性及び時間節約がもたらされるが、前記の方法では、これまで具体的に達成されていない。本発明はこの課題に取り組んだ結果、毒性物質取扱いの安定性及び安全性を得ることができた。このことは、国土防衛、国土安全、環境及び環境科学捜査、生命科学並びに産業規則の遵守等の分野で適用する上で特に重要なことである。
【0033】
天然で安定な濃縮同位体種の類似体(さらには、放射性種についても)の平衡化は、同位体希釈(ID)と種別(speciated)同位体希釈(SID)を使用して、質量分析計で同位体比を求めるのに必要である。同位体希釈と種別同位体希釈を用いると、定性的及び定量的な質量分析を直接行なうことが可能となり、分析対象種について非常に正確な分析的定量分析を達成できる。このように、高精度で不変の同位体濃縮種及び天然同位体種の平衡化は、質量分析計による同位体希釈及び種別同位体希釈法の適用前に行われることが絶対的条件である。現在実施されている平衡化は、標準の熱的方法を用いて数時間あるいは数日を要する。これら従来法の例の幾つかを後で説明する。濃縮同位体溶液は、希薄であるため、安定性を有しないか、あるいは溶液中の複数種は使用前に濃縮同位体と相互作用する可能性がある。濃縮同位体は、安定した濃度で安全に輸送することはできない。本発明の前までは、IDMS及びSIDMS法は、高等教育を受け、技能及び経験を持つ一部の人々のための手段に過ぎなかった。経験や技術が不足する人々には、定量化を達成するためにどのようにして適切に種を抽出し、スパイク及び平衡化すればよいかが分からないことがある。経験不足の分析者にとって、輸送、保管、取扱い、現場での使用、検査機関(laboratory)での使用、量的移送、試料との平衡化、被分析物の抽出、被分析物又はマトリックスの分離、被分析物の濃度計算が問題になることがあった。本発明は、濃縮同位体スパイクの安定性、スパイクされた分析対象種、使い易さ、平衡化及び自動化を含む重要手順の信頼性を改善する方法を提供するものである。本発明により、最小限の技術しかもたない作業者でもIDMS及びSIDMSの使用が一般的に可能となり、大量の試料について、迅速かつ信頼性の高い分析がしばしば必要とされる民間検査機関のハイスループットな要請に応えるものである。
【0034】
マトリックスから被分析物を分離するのに固相吸着剤を使用することは、19世紀半ば頃に近代クロマトグラフ分析法が開発されて以降から知られている。この明細書に開示するように、濃縮された安定な同位体種を平衡化して、マトリックスと被分析物を分離するのに固相吸着剤を使用すると、IDMS及びSIDMSの適用性及び有用性を高めることができるが、これまで、このようなことは行われていなかった。本発明では、様々な異なる特性を有する固相材料を使用して、濃縮同位体種を保持し(hold)、保持された濃縮同位体種を試料の調製、保管あるいは安全目的のために検査機関や現場に送給するもので、スパイクは、操作を必要とする試薬溶液の中ではなく、固相中に既に存在している。濃縮同位体種を保持するのに用いられる固相は、被分析物種を抽出するのに用いられることもできる。
【0035】
本発明に用いられる固相は、イオン交換、吸着媒体、固相抽出樹脂、樹脂結合固相、表面改質フィルター、固定化液体抽出(ILE)に用いられる二状態液体(dual-state liquids)、そして固相マイクロ抽出(SPME)等によるファイバーからなる群から選択される。同位体濃縮分子あるいはイオン種は、固相、クロマトグラフィー又は抽出材料に対して、化学的又は物理的に、安定化され、又は捕獲され、又は保持される。分析対象の種が含まれる試料は、対象である天然試料材料と共に添加され、使用される媒体の適当な機構により、種は媒体に保持される。このプロセスは、平衡関係で溶出した濃縮種と天然種の両方の種と逆転されることができる。この場合、種は平衡化されるようになり、対象種が固定相又は固相抽出媒体若しくはクロマトグラフィー媒体から溶出されると、試料混合物は、ID及びSID質量分析に直ちに使用可能な平衡化同位体濃縮材料と天然同位体材料との複合物である。これらの場合、イオン化法は、溶液又は気相に対して特異的であり、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、ナノESI、大気圧化学イオン化(APCI)、電子衝撃(EI)、誘導結合プラズマ(ICP)、マイクロ波誘導プラズマ(MIP)及びその他のイオン化法がある。両方の種は、分子が同じで化学的性質及び親和性は同じであるが、同位体比が異なるので、本発明では、平衡化を遅延、抑制又は妨害するマトリックスを取り除き、平衡状態を作り出す両被分析物の固相媒体上に前記マトリックスを載置することにより、溶出した溶液中での平衡化速度を速めるものである。希薄すぎるため、固相支持材料がなければ輸送できないか又は不安定となるような少量又は低濃度の場合でも、本発明の一実施例では、現場又は現場に近い位置での使用が可能である。他の実施例において、濃縮同位体と天然のものが平衡化された被分析物は固相支持材料上に生成するから、固相上で平衡化された試料の種を分析現場へ輸送又は搬送することが可能である。被分析物は、ここでは、濃縮物及びニュートラルの両方とも平衡化されているが、将来のいつかに溶出されるか、又は後の分析のためにアーカイブとして保管される。この実施例は、輸送、貯蔵又はアーカイブ保管ができるように、安定状態で保存される平衡化スパイク及び天然試料を作るものである。
【0036】
他の実施例では、平衡化された被分析物に固相を利用し、対象とする濃縮及び天然の被分析物を表面イオン化することにより、直接、イオン化を誘起するものである。表面イオン化のためのイオン化法として、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、レーザー切断(LA)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、免疫化学的分析(ICA)、表面強化レーザー脱離イオン化(SELDI)がある。
【0037】
固相分離及びハイスループット自動化が行なわれる前に、溶液中の種の平衡化速度を速める方法は、マイクロ波強化化学的方法によるマイクロ波平衡化の促進であり、これは熱伝導法及び熱対流法とは対照をなす。例えば2450MHzのマイクロ波帯域から選択されるマイクロ波エネルギーは、あらゆるイオン及び永久双極子に分子回転及びイオン伝導をもたらして、表面からの脱離が速められ、天然種及び濃縮同位体種の類似体(analogues)のイオン平衡及び分子平衡が促進される。これらは、抽出及び分解等の試料調製ステップ中に実行される。このように複合化された試料調製処理により、種の一様な平衡化を、同時に、かつ、はるかに短い分析サイクル時間(試料の調製、操作、分析)にて実現できる。この同時抽出及び平衡化は、固相抽出での平衡化ステップ(上述)と組み合わせることで、両プロセスが促進される。分析サイクル時間が24時間から600秒より短い時間にまで短縮することできる例もいくつかある。この複合化された同時抽出・平衡化ステップは超高速反応を可能にし、これによって、病院、診療所及び民間検査機関におけるハイスループットな適用の自動化や、自国の安全保障・防衛等の設定において略リアルタイムの適用に必要な条件を充足させることができる。
【0038】
これらの新たな改善は、複数の実施例において具体化されており、それらをこの明細書の中に記載する。
【0039】
ここに開示する主たる方法は、濃縮同位体標識、濃縮同位体種−類似体、天然種−類似体について、予め吸収された固相固定化し、これを用いて、分析対象種の平衡化を迅速に行なうことであり、溶液中又は気相状態の同位体種について、マイクロ波印加により化学的有意に加速された平衡化を行うことである。
【0040】
固相分離とマイクロ波印加による化学的方法自体は既に知られているが、IDMS及びSIDMSを行なうために、平衡化、安定化、現場での使用、自動化、並びに平衡化された種の保管及び送給の効率を促進するために用いられたことはこれまでなかった。
【0041】
IDMS法及びSIDMS法は、同位体比の測定を利用するものであるから、校正曲線、機器の安定性及び検出器の信号ドリフトに関連する問題は排除される。それゆえ、これら2種類の同位体希釈法における重要なステップは、同位体濃縮スパイクと試料内に存在する被分析物の平衡である。平衡が達成されると、スパイクされた(同位体標識されるか又は濃縮された種−類似体)材料は、理想的標準として作用する。これは、同位体比だけが測定され、外部校正は必要でないことによる。これにより、標的被分析物について正確かつ再現可能な測定を常に確実に行なうことができる。IDMS及びSIDMSの理想標準としてのスパイク物質の役割は、質量分析検出中における機器ドリフト及びマトリックス効果に関連する問題を排除することでもある。種からの全ての同位体は全く同じ方法においてこれらの問題を抱えているからである[Ruiz Encinar, J.; Rodriguez-Gonzalez, P.; Garcia-Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Trenes in Analytical Chemistry, 2003, 22(2), 108-114を参照]。
【0042】
もしスパイクが試料と完全に平衡化されていなければ、そのスパイクに対しては抽出効率が異なることになり、測定誤差が生じる。液体試料の場合、平衡化の際に緩やかな撹拌で十分であるが、固体試料の場合は、被分析物は表面に吸収されると共に試料マトリクスの格子内部にも含まれることになるので、平衡化に問題のあることは分かっている。対象の種が固相試料中に存在し、添加されたスパイクが溶液中にある場合、同位体平衡化を確実に行う方法は、元の種を、固体から適当な溶媒へ定量的に抽出することであり、そこでは液体スパイクとの平衡化は単純である[Rodriguez-Gonzalez, P.; Marchante-Gayon, J.M.; Garcia-Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Spectrochimica Acta, Part B, 2005, 60, 151-207を参照]。
【0043】
Cloug,R.らは、スパイクと、全水銀及びメチル水銀の分析用試料との平衡化について、2種類の認証基準材料における時間効果を実施した。彼らの研究過程での観察結果によれば、スパイクを試料に添加して、高濃度の硝酸又は水:エタノールが50:50(v/v)で0.01%の2-メルカプトエタノールを用いて室温(25℃)で最大3000分間撹拌した場合は、平衡化プロセスが100%に達することは決してないということである。一方、平衡化の達成が可能であるのは、混合物が家庭用電子レンジで650Wで2分間加熱した場合のみである。しかしながらこの場合は、マイクロ波による分解及び/抽出前に平衡化できるように、スパイクされた試料は室温で24時間維持されることになる[Clough, R.; Belt, S.T.; Evans, E.H.; Fairman, B.; Catterick, T. Anal. Chim. Acta, 2003, 500, 155-170を参照]。
【0044】
Yang,Luらは、熱対流と熱伝導によるクロム種の平衡化には6時間以上を要するので、分析工程は1日遅延することを見い出した。彼らは、95℃でのアルカリ条件を用いているが、これは、EPA3060A抽出法と化学的に同じである。
【0045】
正確な同位体希釈分析には、スパイクと対象分析物との間で同位体平衡が必要である。スパイク及び被分析物、有機スズ及びモノメチル水銀について、迅速な可溶化及び安定化と迅速な平衡化を実現するために、生体試料に対して、焦点を絞った(open focused)マイクロ波支援抽出法が適用された。可溶化及び安定化は、70℃で5分以内に完了した。次に、GC-MSのキャピラリークロマトグラフィーカラムについて9分間の分離が行われた[Monperrus, M.; Rodriguez Martin-Doimeadios, R.C.; Scancar, J.; Amouroux, D.j Donard, O.F.X. Anal. Chem. 2003, 75, 4095-4102; Moreno, MJ.; Arjona, J.P.; Rodriguez-Gonzalez, P.; Homme, H.P.; Amouroux, D.; Donard, O.F.X. J. Mass Spectrom.2006, 41, 1491-1497を参照]。
【0046】
Rodriguez-Gonzalez,P.らは、例えば、マイクロ波支援抽出、機械振動(machine shaking)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)によるアルカリ加水分解、生体物質由来のブチルスズ化合物の酵素消化等の異なる抽出法に関する研究を行なっている。彼らにより、TMAH及び酵素消化について、広範囲に亘る種の分解と平衡不足が観察されている。また、酢酸メタノール混合物を用いたマイクロ波支援抽出が、分解の低さ、同位体平衡化の迅速性及び定量回収の点で最も良い結果が得られたことが報告されている。彼らはまた自身の研究の中で、必要とされる同位体平衡化の完全達成は、自然発生した有機スズ化合物が固体マトリクスから溶液に完全に放出された後にのみ実現されたことを報告している[Rodriguez-Gonzalez, P.; Garcia Alonso, JJ. ; Sanz-Medel, A. J. Anal. Atom. Spectrom. 2004, 19, 767-772を参照]。
【0047】
ムール貝(mussel)の組織の生体外(in vitro)での胃腸消化が、3種類のブチルスズ化合物に対する種特異性同位体希釈分析との組合せにおいて実施された。しかしながら、内因性種と濃縮同位体スパイク種との間で同位体平衡化の不足に由来するあらゆる問題を回避するために、同位体へのスパイクは消化プロセスの後に行われている[Rodriguez-Gonzalez, P.; Encinar, J.R.; Garcia Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Anal. Bioanal. Chem. 2005, 381, 380-387を参照]。
【0048】
カワノらは、生体試料中のセレニウム測定において、スパイク平衡化に対して異なる加熱パラメータの研究を行なっている。彼らはスパイクを被分析物試料と平衡化するために熱分解段階直前に、インサイチュー溶解を行なっている[Kawano, T.; Nishide, A.; Okutsu, K.; Minami, H.; Zhang, Q.; Inoue, S.; Atsuya, I. Spectrochim. Acta, 2005, 6OB, 327-331を参照]。
【0049】
Valkiersらは、質量分析計による比の測定に際し、質量分析計内部の気相中の二酸化炭素ガス混合物における炭素及び酸素の同位体について研究を行なっている[Valkiers, S.; Varlam, M.; Rube, K.; Berglund, M.; Taylor, P.; Wang, J.; Milton, M.; De Bievre, P. International Journal of Mass Spectrometry, 2007, 263, 195-203を参照]。
【0050】
ChenZ,とその共働者達は、ヒト血清中のカルシウム同位体平衡化に対する時間と酸濃度の影響について研究を行なっている。この科学文献では、既知の試料を1時間以内で平衡化するには、少なくとも0.22モル/HNO3が必要であり、未知の試料の場合は、少なくとも6時間が好ましいことが報告されている[Chen, Z.; Griffin, IJ.; Kriseman, Y.L.; Liang, L.K.; Abrams, S.A. Clinical Chemistry, 2003, 49(12), 2050-2055を参照]。
【0051】
Hunkeler,D.とAravena,R.は、塩化メタン、エタン及び水性試料中のエタンにおける炭素同位体比の抽出及び平衡化のために、直接固相マイクロ抽出(dSPME)及びヘッドスペース・マイクロ抽出(hSPME)について研究を行なっており、炭素同位体比は、dSPMEとhSPMEにより、水性相及びSMPEファイバー上で少なくとも0.40外れることを明らかにした。一方、ヘッドスペース法の平衡化では、気相中の分子は水性相の分子と較べて最大1.46まで13C濃度が濃化された[Hunkeler, D.; Aravena, R. Environ. Sci. Technol. 2000, 34(13), 2839-2844を参照]。
【0052】
Crowther,John R.は、ELISAのガイドブックの中で、蛍光発光などの光学的方法によって、蛋白質、抗原及び抗体を同定し、それらを標準的な質量分析法で得られた結果と比較するために、ELISAの固定相をどのように使用すればよいかを明らかにしている。このガイドブックには、ELISA法について、同位体の質量分析法によって被分析物を測定することは一切記載されていない。文献には、ELISAと従来の質量分析との比較は一般的に行われているが、定量化のためにELISAのIDMSとSIDMSを用いることは行われていない[The ELISA Guidebook by John R. Crowther, Humana Press New Jersey, 2001を参照]。
【0053】
<発明の概要>
質量分析を行なう前に、固相同位体比平衡と測定を用いて、濃縮同位体種と天然同位体種の触媒平衡化を行なう方法について開示する。本発明が基礎とするのは、対象とする分析物について確定的、定性的及び定量的な分析を行なうための試料の調製であり、該試料は、分子であり、元素であり、種分けされ、定性的及び定量的である。この方法は、液相や気相よりも多くの利点をもつ固相を利用することにより、同時平衡化を通じて平衡化を改善するもので、当該分野で公知のIDMS及びSIDMS分析の自動化を可能にする。特徴とする点は、固相と固定化された同位体試薬、同位体濃縮分子で作製された試薬を使用することであり、固相及び固定化相での平衡化プロセスである。質量分析データに適用される校正曲線は用いずに、アルゴリズムを用いて、濃度を数学的に決定し、種のシフト校正を行なうものである。固相で試料の調製を行なうので、被分析物を平衡化し分離するのに要する時間は、従来の液体/熱平衡及び分離プロトコルと比べて有意に短縮される。固相同位体のスパイキング及び平衡化のために作られた試薬と製品は、より長時間にわたって安定である。従って、現場で試料調製を行なうことが可能であり、また、保管又は輸送過程における試薬及び/又は試料の劣化に関連する一連の管理保証(storage and chain of custody)問題が改善される。現場でスパイキング及び平衡化を行なう場合、現場作業者や検査機関の分析者達にとっては、固相同位体のスパイキングおよび平衡化を行なうことにより、試料の調製および操作ステップの幾つかを排除できるので、大量の試薬溶液の場合よりも、反応性・毒性物質の取扱いをより安全に行なうことができる。分析用試料と同位体が濃縮および平衡化された標識試薬は、溶出されて液相および/又は気相で分析が行われるか、あるいは質量分析計内の表面イオン化により固相中で直接分析される。固相同位体のスパイキングおよび高速平衡化により、コスト効率が向上し、ハイスループットで高信頼性の試料調製並びに高レベルの自動化およびミニチュア化のサブシステムを含む分析システムを作製する能力が向上し、これにより可搬性に優れ、現場配置が可能で、精度が高く、エラー率の少ない、実証的な分析および検出システムの作製が可能となる。このように現場配置が可能であることは、環境科学捜査、国家防衛、産業規制の遵守、生物化学、臨床研究および臨床診断目的に極めて有用であろう。国家防衛および安全保障への適用例として、消失性物質について複数地点で飲料水をネットワーク監視することや、軍隊の保護のために、戦場で大気/水/表面を分析することが挙げられる。これらのシステムはまた、人間の疾病の危険性を環境や食物からの工業的毒性物質に対する曝露の関数として判断するのに有用であり、これは環境衛生の成長分野である。最終的に、このようなシステムは自閉症のような病気、幾種類かの癌、アルツハイマー、パーキンソン病および糖尿病などの免疫変性疾患の発病を予測し、あるいは進行速度を遅らせるツールになるものと考える。上記の両概念を利用した最終的な研究について、以下に記載する。
【0054】
{発明の詳細な説明}
前記課題は、Luらの最近の文献の中に、酵母中のCr(VI)及びCr(III)に対する同位体平衡の時間が12時間以下であることが記載されている。このデータは、本発明の課題を直接解決することを示している。この文献は、同位体と天然種を平衡化するのにマイクロ波と標準熱方法を使用するときの差異が当業者には理解されていない、と記載している。この文献は、EPA方法6800の使用と成功を論じているが、発明者らはさらなる改善を加えるものである。
【0055】
さらなる適用例として、反応をスピードアップさせるために、マイクロ流体デバイスにマイクロ波を実装することが記載されており、これは、より短い時間枠及び高速反応による反応迅速化の要請と一致する。アジレント(Agilent)のチップキューブマイクロ流体デバイスを以下に示すが、これは、例えば、このデバイスのある部分に例えば同軸マイクロ波を放射することで、例えば反応速度、抽出及び/又は平衡を高めることができる。カラムが予め吸着されたスパイキング及び/又はマイクロ波強化を利用したマイクロ流体工学は全て、本発明に包含される。
【0056】
幾つかの元素種及び分子種は、試料のサンプリングから、貯蔵、校正及び測定プロセスの間に転換して他の種を生成する。即ち、劣化した種を他の種に転換する。ところが、これまでの校正は、これらのうちの多くの場合に不可能である。また、定量分析の精度は、例えば、内部標準、標準追加及び同位体希釈等のように用いられる校正プロトコルの種類に依存し、異なる校正技術の使用を通じて、固定誤差及びランダム誤差の両方が導入される。もし次の仮定が正しい場合、外部校正曲線を用いると正確な結果が得られる。その仮定とは、校正標準と試料とが同じマトリクスであること、校正が直線的であること、分析者が所定の誤差範囲内で正確に校正標準を調製したこと、誰が調製した場合でも標準の安定性が知られており、時間、マトリックス、濃度、温度/湿度及び容器材料についてこれら画定された制限内でのみ使用されること、校正の不確かさをさらに悪くするのは未知の測定だけであること、スペクトル及び/又は質量の干渉がないこと、分析用に調製された試料は正又は負の汚染誤差を含まず、サンプリング誤差がないこと、及び、内部標準は試料被分析物と全く同じように作用する(behave)ことである[Gonzalez-Gago A et al, J. Anal. At. Spectrom., 2007, DOI: 10. 103/b705035f; Brown R. J.C., et a], Anal. Chimica Acta, 2007, 587(21), 158-163を参照]。
【0057】
ICP-MSがもたらす結果は5〜10%の範囲で最大精度(即ち、複合マトリックス)である。外部校正に関連する主な問題は、溶液中の被分析物の安定性、試料調製の精度、校正標準の純度、内部標準の選択、機器の不適切なセットアップ、総溶解固形分、非スペクトル的干渉、マトリックスマッチング、標準添加、試料導入、クロマトグラフィー分離、機器の経時的ドリフト、噴霧効率、液滴サイズ、溶液の物理的特性、溶液中の酸分、分析者の知識/経験不足、バックグラウンド補正、質量バイアス、デッドタイム、同重体干渉、多原子干渉である[Vicki, B. Preparation of Calibration Curves: A guide to best practice, LGC, September 2003を参照]。
【0058】
信号強度の一時的変化並びに試料中の分析信号の体系的変化及びマトリクス効果による標準を効率よく補正するために、内部標準の物理的特性はそれらが適用される同位体の物理的特性と注意深く適合させなければならない[Hsiung Chiung-Sheng, et al, Clinical Chemistry, 1997, 43(12), 2303-2311; Entwisle, J. American Laboratory, March 2004, 11-14; Eickhorst, T.; Seubert, A. J. Chromatogr. A, 2004, 1050, 103-109を参照]。
【0059】
標準添加技術は、マトリックスが非常に変化しやすい場合および/又はプラズマ関連効果を補正する内部標準が存在しない場合に用いられる。標準添加技術は、プラズマ関連効果によるマトリックス干渉に対してよりすぐれた可能解決策にはなるが、この技術には線形応答を必要とする。それゆえ、被分析物の各々に対して線形範囲内で機能させることが極めて重要である[Bonnefoy, C. et al, Anal. Bianal. Chem. 2005, 383, 167-173; Melaku, S. et al, Can. J. Anal. Sic. Spectres., 2004, 49(6), 374-384; Panayot, K. et al, Spectrochim. Acta, Part B, 2006, 61, 50-57を参照]。
【0060】
蛋白質バイオマーカーは人間の疾病、特に癌に対する研究および臨床管理において多大な影響を及ぼしてきた。蛋白質バイオマーカー発見にプロテオミクスとゲノミクスを適用することで、何百ものバイオメーカーを1回の発見努力で同定することができた。しかしながら、これら発見ツールがこれまで期待通りに実現されていないのは、定量化と臨床検証が不十分なためである。機能的酵素結合免疫吸着法(ELISA)は、標的分析物の定量化に対する感度と特異性に極めて優れており、ハイスループットで用いられることができる。ELISAは現在、比色・蛍光リーダーを基づいて定量化が行われており、クロマトグラフィー及び質量分析と比較はされているが、これらと組み合わせられたことはない[Whiteaker, J.R.; Zhao, Lei; Zhang, H. Y.; Feng, L.C.; Piening, B.D.; Anderson, L.; Paulovich, A.G. Analytical Biochemistry, 2007, 362, 44-54を参照]。
【0061】
Martens-Lobenhoffer,J.らは、人間の血漿および血清サンプル中の非対称性ジメチルアルギニン濃度(ADMA)の測定に対する評価を、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC-MS)を用いて行ない、その結果を標準の比色ELISA法で得られた結果と比較した。この論文では、ELISAから得られた数値はLC-MSよりも高かったことが報告されており、ELISAはマトリックス依存性であると結論づけられている。彼らはまた、ELISAは血漿内のADMA濃度を2倍多く測定値として表れていたことを記載している[Martens-Lobenhoffer, J.; Westphal, S.; Awiszus, F.; Bode- Boger, S.M.; Luley, C. Clinical Chemistry, 2005, 51, 2188-2189を参照]。
【0062】
Charissou,A.らも、食物サンプル中のカルボキシメチルリジン(CML)の定量化におけるELISA法について検討し、その結果をガスクロマトグラフィー/質量分析(GC-MS)の結果との比較を行なっている。彼らの研究では、GC-MS定量化のために、従来の内部標準と同位体希釈内部標準の両方が使用され、標準のELISAとの比較が行われている。彼らの報告によれば、ELISAは迅速かつ低コストな方法あるが、粉末試料に用いられた場合はGC-MSと較べて検出限界が低いということである。また一方では、液体と加水分解された乳児用調製物のような複合マトリックスに両方の検出方法を用いると、ELISA法は特異性が不十分で、マトリックス干渉の危険性が高いことが示されている。その他の点では、二つの方法は粉末ミルクサンプルにおいて同様な結果を示した。彼らはまた、ELISA法では、肉製品や揚げ物などの高脂肪分含有サンプル中のCML濃度が過大に表れており、同じものが、GC-MS又はHPLCではCMLは全く含まれていないか、又は低濃度であったことを報告している。ELISAでは、脂質マトリックスについて非特異性干渉(unspecific interferences)である可能性がある[Charissou, A.; Ait- Ameur, L.; Birlouez-Aragon, I. J. Chromatogr. A, 2007, 1140, 189-194.]。同じような知見は、Scholl, P.F.らによっても報告されており、彼らは、人体中のアフラトキシンB1血清アルブミン付加物の測定を、同位体希釈質量分析法および従来のELISAにより行なっている。ELISAで測定したAF-アルブミン付加物の濃度と、IDMSで測定されたアルブミン2mg中のAFB1-リジン付加物の濃度とは親密な相関性があったことが報告されている。しかし、ELISAで測定されたAF-アルブミン付加物濃度はAFB1-リジン付加物濃度よりも平均で2.6倍も高かったのである。彼らはこの論文の中で、ELISAでは、AFB1-リジン以外の他のAF付加物についても測定されているのではないかとの仮説を立てている[Scholl, P.F.; Turner, P.C.; Sutcliffe, A.E.; Sylla, A.; Diallo, M.S.; Friesen, M.D.; Groopman, J.D.; Wild, CP. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006, 15(4), 823-826を参照]。
【0063】
Wolthers, B.G.らは、ヒトの尿からメタネフリン(MA)とノルメタネフリン(NMA)を測定するのにELISA法を使用し、その結果をGC-MSで得られた結果との比較を行なっており、GC-MSは、内部標準と校正曲線が用いられているが、IDMS分析としてのGC-MS内部標準は用いられていない。彼らは、ELISA法で尿内のMAを定量化することは可能であり、クロム親和性細胞種の診断に役立てることができると結論づけている。また彼らは、この簡便なELISA法はどの臨床検査室においても実施できることを提言し、やがては現在実施されている、より複雑なクロマトグラフ法にとって代わるであろうと期待を寄せている[Wolthers, B.G.; Kema, I.P.; Volmer, M.; Wesemann, R.; Westermann, J.; Manz, B. Clinical Chemistry, 1997, 43(1), 114-120を参照]。
【0064】
例示した文献を見ると、研究者らは、ELISAで調べた異なる試料を、多くの質量分析(例えば、GC-MS、HPLC又はIDMS)を含む他の検出法による結果との比較を行なってはいるが、ELISAを質量分析法に向けることについてはこれまで行われていなかったことが伺える。
【0065】
国家防衛及び国家安全保障又は環境科学捜査などに用いられることができる、完全統合された現場/検査機関の例は、別のセクションに記載し、これらの要素全てがどのように組み合わされるかについてはセクションIIIに記載する。
【0066】
{固相平衡、抽出及び分離方法}
<SCFカラムに結合された濃縮種>
発明者の1人は、EPA3200法の調製において、国際原子力機関(IAEA-085)から入手した髪の毛の水銀種の認証基準物質の試料を添加する前に、スルフヒドリル化コットンファイバー(SCF)固相カラムに吸着又は化学的に付着された同位体濃縮水銀種に関する調査を行なった。この調査結果のデータは、固相にスパイキング及び平衡化する発明及び新規な方法の有効性を明らかにする。結果について、SCF固相が異なる水銀種及びスルフヒドリル基と共有結合する前に溶液中で平衡化が行われる従来のIDMS及びSIDMS法と比較した。試料は、両方とも、抽出され、マイクロ波エネルギーでスパイク平衡され、次に、予め吸着された固相種同位体スパイキングと比較した。両方とも正確なデータであることがわかった。ここに記載した供試例は、2組のIAEA-085基準物質のヒトの髪の毛を同一資料として処理することを含んでいる。表1は、従来のEPA6800法SIDMSを実施したときのデータであり、試料は、マイクロ波エネルギーで抽出する前に、同位体濃縮メチル水銀でスパイクした。表2は、同じ標準試料(IAEA-085)からのデータであり、EPAマイクロ波抽出法であるEPA3200法を使用し、スパイクされることなく、第1の新規な方法で処理してメチル水銀を抽出し、次に、SCFカラムに加えたものである。ここでは、スパイクは、現在の技術水準の化学的手順で行われているように、溶液中ではなく、カラム中の流入媒体層(flow-through medium)として装填された固相内で平衡化させた。
【表1】
【0067】
誘導結合プラズマ質量分析計(HPLC-ICP-MS)と結合された高性能液体クロマトグラフィーを用いて分析及びデータ比較を行なった。両プロセスとも、回収率は100%であり、IAEA-085標準基準物質の認証値との比較において同じ精度を達成した。これらのデータは、濃縮同位体スパイク又は濃縮種類似体を送達するステップ、それらをIDMS及び/又はSIDMS用の種と平衡化するステップの重要なステップについて有意の促進を示し、本発明の利点を示している。水銀種の平衡化は、カラムにて、又は溶出ステップ中及び/又は抽出ステップ中に起こる。
【表2】
【0068】
抽出後、抽出物をSCFカラム(スパイクされていない)を通過させて、メチル水銀から無機水銀を分離した。本発明は、種分離目的のためにも同様に固相物質を用いることができ、二つの用途が可能であることを示している。溶離物(溶離物1はメチル水銀に対するもの、溶離物2は無機水銀に対するもの、EPA法3200プロトコル)は両方とも、HPLC-ICP-MSで分析した。デッドタイムと質量バイアスが校正された同位体比を決定し、従来のIDMSを用いて、前記同位体比から無機水銀及びメチル水銀の濃度を算出した。表1と表2は、前記2つの方法について、認証値と測定値との間に有意な違いはなかったことを示している。
【0069】
表2の結果から、この調査では統計学的に区別できないデータが得られたこと、その結果は、表1の95%信頼区間(CI)で認証値と重複していることが観察される。さらに、2つの調査で得られた結果は、認証値とも、また互いに対しても、統計学的に区別することができない。それゆえ、自然に豊富な水銀種と濃縮水銀種とのオンカラム平衡が実現可能であり、具体化されたことを結論づけることができる。この技術は、科学文献に記載された従来のIDMS及びSIDMSと同等で、バイアスがなく正確な結果をもたらす。しかしながら、濃度については溶液の安定度よりも低く、現場から遠隔の検査機関又は低濃度場所への物質の輸送が制限されるので、IDMSとSIDMSの両方を実施する上で、予めスパイクされた固相材料又は該固相材料に結合された濃縮種−同位体が有効な方法である。
【0070】
{標的分子としてのアルキル分子のGC-MSにおける固相スパイキング及び平衡化}
<現場IDMSでGC-MSによる固相安定同位体の例>
分析的プロセスの幾つかの態様は、現在利用可能な先進的検出技術への対応ができていない。それらの中でも主なものは、現場サンプリング(試料の収集)、流通過程の管理(検体の損失を最少にするか又はなくすことができる、試料の容器への格納、輸送及び保存)及び検査機関の分析(試料の調製)である。分析化学の進歩により、検出限界が水溶液標準の安定性よりもはるかに低い1兆分の1もの低さをもつ機器が開発されている。クロマトグラフ装置技術の多くは成熟し自動化されているが、試料の調製については、依然として、時間がかかり、大きな労働力を要し、検査機関のプロセスにおいて連続的に行われることもある。各々の分析のために、大量の試料を入手し処理することは、現在のやり方では、労力と時間を要し、費用が高く、迅速輸送及びハイスループット分析を実現することができない。濃縮スパイクを固相送達する本発明を適用すれば、工程数が低減され、水、空気、薬物、農産業試料、生物学的試料及び臨床試料の現場サンプリングを改善させることができる。
【0071】
固相抽出(SPE)カートリッジには、固相材料に予め吸着され、安定同位体で標識された種の類似体が詰め込まれている。修正された(modified)SPEカートリッジは、現地抽出用として設計され、特に、特定の被分析物グループ用に作られている。調製された抽出カラムは、適当な吸着剤、層深さ(bed depth)、校正されたリザーバ容積及び同位体標識類似体を以て作られる。現場抽出が可能で単純化されるので、試料の取扱いを最少にすることができる。現場抽出後、SPEカートリッジは検査機関に送られ、そこで、同位体標準及び被分析物は、有機溶媒を用いた溶出によって脱着される(desorbed)。この方法では、被分析物び同位体標準は、輸送及び保存中、マトリックス無しで固相媒体に固定化されるので、変性及び分解を受け難い。分析は、内部標準定量化を用いたGC-MS又は同位体希釈定量化によって行われる。このサンプリング及び抽出プロトコルは単純であるので、環境分析に対する効率的なアプローチが可能となり、安定性を向上させ、現場サンプリング及び分析の精度、正確性及び耐久性を高めることができる。品質保証及び品質管理レベルの向上は、全体的なプロセスにおいて得られる。
【0072】
現場(on-site)SPEは、経験の浅い者でも、現場及び検査機関において実行可能な抽出方法である。この方法は、抽出及び/又は固相に濃縮同位体種を用いることで、高度な訓練を行なうことなく、予めスパイクされたSPEカートリッジを用いて、安価に、比較的簡単に、手操作又は自動にて抽出を行なうことができる。例えば、現場担当者が分析用水試料を容器の中に入れて分析機関に送る代わりに、水試料は、SPEカートリッジに取り付けられた校正試料リザーバの中に入れられ、現場で固相カートリッジに同位体平衡が行われる。試料が加えられた後、正圧又は真空を利用してSPE媒体の中を通過させる。抽出プロセス中、有機分析物及び測定される種は、吸着剤媒体と有機分子との間の比較的強力な分子間力によって水から除去される。本質的に有機分析物を除去された水は、SPEカートリッジの中を通過する。SPEが実行された後、分析物検体と同位体標準は、水マトリックスなしで固相媒体に固定化されるので、水試料が検査機関へ輸送される間又は保管中に変性及び分解が起こり難くなる。
【0073】
現場SPEにより、時間及び資源の有意な節約と自動化に対する安定性がもたらされるが、それらについて、幾つかの供試例により明らかにする。固相樹脂における現場抽出及び平衡化試料が安定性が維持されることを示すために、現場抽出を行ない、試料をカートリッジ内の固相材料にて平衡化した後、方法を試験するためにカートリッジを郵送した。抽出され、オンカラム(on-column)で平衡化され固定化された試料を有するカートリッジを含有した試料キットを受け取った後、分析を行なう検査機関では、結合された試料を、カートリッジから容易に溶出することができる。分析は、どんな質量分析計によっても行なうことができる。供試例では、GC-MSを用いた。この発明は、簡易化され無駄のない試料調製方法であり、幾つかの操作が不要となり、被分析物の喪失、不完全な化学操作ステップ及びバイアスによって導入される可能性のある誤差を取り除くことができる。さらに、本発明は、時間、コストを節約することができ、自動化を可能にすることができる。
【0074】
<固相C-18カートリッジの中で予め吸着させた濃縮同位体での水抽出の例>
数種類の分子種について、予めスパイクされた安定同位体固相抽出(PSI-SPE)を行なった結果を示しており、その後のGC-MSの結果を図1に示している。PSI-SPEは、含酸素化合物、PAG-5化合物、モルヒネ化合物、1,4-ジオキサン化合物、1,2-ジクロロエタン化合物について行なった。これら化合物類は、環境法医学、環境健康及び毒物学における測定の典型的なものである。PSIを用いた全ての結果は、従来の実験室SPEを用いて得られた結果と統計的に区別ができないこと、及び、適用可能なEPA法仕様の許容範囲内にあることがわかった。
【0075】
<含酸素化合物の例>
含酸素化合物は、蒸留物の燃焼プロセスを高めるためにアンチノック剤として添加され、ガソリンの中にしばしば含まれる小さな極性化合物のリストである。化合物のこのリストには、tert-ブタノール(TBA)、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、エチル-t-ブチルエーテル(ETBE)、ジイソプロピルエーテル(DIIPE)及びt-アミルメチルエーテル(TAME)が挙げられる。MTBEは、環境的に健康問題を生じさせる可能性がある。これら化合物は、水と混和性であるため、特に問題である。精製ガソリン等の炭化水素が流出した場合、非極性石油蒸留ガソリンは水の表面に達するので除去可能であり、水に追随するのは殆どないので、大都市の川沿いにある飲料水ポンプ場は、ガソリンに汚染された水が通過するまで、一時的に操業停止することが行われている。これは、水に完全に可溶な含酸素化合物には当てはまらない。含酸素化合物は、地下水の中へ容易に進入するために、取り除くことは容易ではない。また、水試料について含酸素化合物の汚染濃度を分析しようとしても、水のサンプルを抽出することが困難であるという問題がある。極性の高い含酸素化合物は、従来の手段では、水のサンプルからの抽出が容易ではない。抽出効率を高めようとすると、サンプルはしばしば加熱される。これは、MTBEがTBAに分解することになり、SIDMSなしの結果は不正確なものとなる。MTBEはまた、輸送中、TBAに分解することもある。これは、抽出効率に悪影響を及ぼし、含酸素化合物の抽出中に分解する。この問題は、PSI-SPE法を用いて解消された。含酸素化合物でスパイクされた水試料の抽出結果は、図2に示されるように、良好であった。
【0076】
被分析物のPAG-5リストは、多くの環境機関が、ガソリンで汚染されたサイトを閉鎖又は監視するときに分析しなければならない毒素及び汚染物質である。この複合物(complex)リストは、含酸素化合物MTBE、揮発性単環式芳香族ベンゼン、エチルベンゼン、キシレンの他、ナフタレン、フルオレン及びフェナントレンの3種類の半揮発性被分析物を含んでいる。このリストの化合物を従来の方法で分析を行なうとき、揮発性成分に対してはEPA法8260、半揮発性成分に対してはEPA法8270の2種類の異なる試験方法を用いなければならない。PAG-5の被分析物の場合、単一分析で測定される単一グループとして、PSI-SPEが用いられていた。これは、試験費用を大きく低減する。PAG-5リストの被分析物についてPSI-SPEの結果が図6に示されている(PAG-5はPSI-SPEを使用。スペルコ製スチレンジビニルベンゼン/100mg。20ppbのPAG-5でスパイクされた試薬水。表示誤差は95%CL, n=5)。
【0077】
<モルヒネ>
モルヒネは、乱用薬物として一般的に知られている。前述した揮発性化合物とは異なり、モルヒネの含有量を求めるための試料マトリックスは、単純な水ではなく、非常に複雑な有機マトリックスである。GC-MSによる従来のモルヒネ量の抽出法は、非常に面倒である。抽出及び分析プロセスを迅速化する手段として、また、より日常的に再現可能な抽出法を提供する手段として、PSI-SPEが、同位体標識されたモルヒネに対して用いられている。図3に示されるように、SPEの結果は良好であった(SPEはAgilentのEvidexで、6ml, 0.5g、表示誤差は95%CL, n=4)。モルヒネはスパイクされた水及びウシ血清からうまく抽出された。
【0078】
<ジオキサン及びジクロロエタン>
小さな極性分子の他の例は、1,4-ジオキサンである。この化合物は、一般的には、殺菌剤として用いられている。抽出又は分析中に分解することは示されなかったが、含酸素化合物と同様、従来の手段を用いて水から抽出することは極めて困難である。しかしながら、SPEは、含酸素化合物分析と同じ要領で用いられることができ、非常に良好な結果が得られた(図4:1,4-ジオキサン及び1,4-ジクロロエタン。試薬水は、1,4-ジオキサン2ppb及び1,4-ジクロロエタン20ppbでスパイクされた。誤差は、90%CL,n=3で表示されている)。
【0079】
テトラクロロエタン(TTCE)化合物は、何年にも亘り、非常に一般的な脱脂溶剤であった。その使用例は、ステンレス鋼チュービングの製造である。チュービングは、製造中、中域炭化水素で潤滑される。この潤滑剤は、一般的には、TTCEを用いて除去される。TTCEが一旦環境に入り込むと、分解して1,2-ジクロロエタン(1,2-DCA)となり、これはTTCEよりも遙かに揮発性であり、水溶性である。通常、地下水の中で汚染物質として存在するのは、1,2-DCAであり、親のTTCEではない。1,2-DCAは、非極性芳香族BTEX、又は高極性含酸素化合物及びジオキサンとは構造的に非常に異なっている。1,2-DCAは、中間の極性であり、ハロゲン化化合物である(図4参照)。SPE条件が前述の非分析物の抽出と同じとき、1,2-DCAに対して良好な結果が得られることができる。
【0080】
従来のサンプリング及び分析方法を用いるときに起こる問題は、輸送中、微生物又は化学的分解による化合物の減量(losses)である。多くの微生物が食物源として汚染物質を消費することができる。これが試料の輸送中に起こると、被測定物の減量を測定することができず、測定精度が損なわれる。試料が抽出され、樹脂上で平衡にされた後、SPEカートリッジに分解が起こったかどうかを評価するための調査が行われた。観測井(monitoring well)から天然水試料を採取し、分析したところ、多くの汚染物質が含まれていることがわかった。試料を抽出し、SPE及びPSI-SPEにより0(ゼロ)日に分析した(0日とは、サンプリング事象と抽出及び測定との間の経過日数が0日であることを示している)。同じ試料の一部を室温の密封容器の中で14日間保持し、生物分解による減量が起こったかどうかを調べた。この同じ試料の一部についても0日で抽出したが、14日になるまでSPEカートリッジからの溶出はなく、一旦、被測定物及び微生物をそれらの水性環境から除去し、カートリッジに単離した後、密封容器の中で起こったものと同じ分解がカートリッジにも起こるかどうかを調べた。この調査結果を図5に示している(観測井試料における生物分解の効果。濃度は全てppbであり、表示した誤差は90%CL、n=3である)。
【0081】
図5に示されるように、0日で抽出及び分析を行なった汚染物質の初期濃度は、SPE又はPSI-SPEのどちらかを使用し良好な一致の範囲内である。試料を密封容器の中で14日間保持した後の分析では、MTBE以外の被分析物は完全な分解を示した。MTBEは、比較的少ない種類の微生物によって分解されることができるが、その分解は、この試料セットの中では見込まれなかった。0日に抽出された試料の分析は14日までカートリッジから溶出されず、対象化合物の分解は起こらなかったことを示している。この調査結果では、汚染物質が含まれる水試料は、試料マトリックスの中にサンプリングされ、いかなる追加ステップを行なうことなく保持されたときは分解を受けるが、分離してSPEカートリッジ上に保存するときは分解しないことを示している。これは、サイトでのPSI-SPEの他の利用例である。
【0082】
<予めスパイクされた同位体の固相での校正と比較>
従来の環境分析では、揮発性有機被分析物(VOA)及び半揮発性有機被分析物の両方に対して、SVOA分析(EPA法8260及び8270)は、校正標準(calibration standard)から生成した応答因子に基づいて定量が行われる。標準は、内部標準を用いて作られた既知濃度の被分析物と、試験される被分析物を使用する。この標準の溶媒は、溶出溶媒と同じである。校正標準を利用する方法では、試料混合物中の対象被分析物に対する抽出効率が100%未満であるとき、定量誤差が生じ、これは内部標準では修正されることができない。校正標準そのものは抽出プロセスを経ていないため、被分析物が非効率的であると、抽出されていない校正標準よりも信号の低下を招く。PSI法では、カラムに予め吸着された(presorbed)内部標準は、(1)抽出媒体に対して、抽出される非分析物と同程度までしっかりと結合されていないので(breakthrough)、濃度が偽上昇するか、(2)抽出媒体に対して、抽出される化合物よりもしっかりと結合されているので(retainment)、濃度が偽低下するか、の何れかである。この両方の誤差は、校正カートリッジを用いることによって解消されることができる。校正カートリッジは、試料カートリッジと同じ要領にて調製されたSPEカートリッジであり、固相材料に予め吸着された内部標準を有している。校正カートリッジを作成するには、クリーンな試薬水が、定量された校正化合物でスパイクされる。これは、試料の抽出時に、分析者によって行われ、校正溶液が入れられた密封ガラスアンプルを破壊し、これがクリーンな試薬水の中に加えられる。この校正試料は、ここでは、試料と同じ要領にて、PSI-SPEを用いて抽出される。このカートリッジが溶出されると、抽出物は校正標準として供される。この種の校正標準は対象試料と同じ抽出手順を経ているので、それから生じる応答は、抽出効率が100%未満のものに対しても修正されるので、よりすぐれたデータが得られる。従来の校正標準と校正カートリッジを用いた定量化の比較結果を図6及び図7に示している。
【0083】
<応答因子(response factor)の比較>
応答因子は、化合物の領域(area)とその同位体標識類似物(analog)の領域の比であり、所与の濃度である。抽出及び分析プロセス中、これら分析の両方に対する応答が同一である場合、領域カウントは同じはずであり、それゆえ応答因子は1に等しい。しかしながら、実際上の応答は、化合物に応じて僅かに異なるので、同位体が変更された類似物は、実際には、主として、標準を作製するときの非完全さにより、その応答因子は1.0に非常に近い。化合物に対する応答因子が1つの場合、又は1.0の値に十分近いと仮定した場合、定量化だけでなく分析までもが極めて容易になる。実際、応答因子が常に1.0であると仮定することができる場合、もはや、校正標準を作製して使用する必要はない。その場合には、分析が行われる方法は一挙に変化する。応答因子を用いて定量化したスパイク水試料の値が、1つの半揮発性化合物ナフタレンと1つの揮発性化合物ベンゼンに対する応答因子が1.0と仮定した定量に対してどれほどの近さであるかの比較を図8に示している(RF比較。RF=1に対するRFの校正。SPEはSupelcoのスチレンジビニルベンゼン/100mg。薬剤水は20ppbのPAG-5でスパイクした。表示誤差は95%CL, n=5。ナフタレン=1.036。RFフェナトレン=0.999)。比較結果は非常に良好であり、さらなる調査を行なうべきであることが十分に示唆されている。
【0084】
<自動化の可能性>
自動化可能な手段としてPSI-SPEを使用できるようにすることは、将来の機器システムの設計において、自動化特性の設計に影響を及ぼす。以下は幾つかの領域のサンプリングであり、ここでは、PSI-SPEを使用した1又は他の形態の自動化を用いられることができる。環境法医学及び環境健康モニタリングに対しては、この技術を適用するのに数多くの機会がある。汚染されていると判定された現場、又は定期的にサンプリングを行なって汚染を連続的にモニタリングする現場において、飲料水、新鮮水又は新鮮井戸をモニタリングすることは、これら固体相が予めスパイクされた材料の長期安定性によるサンプリングを自動化する全ての機会である。調製されたカートリッジが装填されたところでは、PSI-SPEが用いられることができ、及び/又は、マニホルドシステムで繰り返されることができる。ソレノイド、スイッチ弁及び標準自動化装置を用いることにより、サンプリングを予め定められた時間に定期的に行われることができる。試料採取したストリームからの流れは、適当な時間の間、カートリッジから方向転換され、次に試料の流れは、乾空気の流れと置換され、PSI-SPEが成分をサンプリングした後、残留水が除去される。抽出が完了すると、試料は長期間安定であり、直ちに取り除かれることができるので、試料カートリッジはサイトで分析され、輸送又は分析会社に郵送されることもできる。控え用試料は様々なMS分析のために分配されることができ、長期間の品質管理(QC)及び検証のために保管されることもできる。
【0085】
<食料、飲料及び消耗品の分析>
食品医薬品局(FDA)及び幾つかの独立した機関は、数多くのソフトドリンク及びフルーツ飲料の中に低レベルのベンゼンが含まれることを確認している。研究結果では、低pHでは、保存剤として使用されるベンゼンイオンはアスコルビン酸(ビタミンCが添加されている)と反応してベンゼンが生成される。ベンゼンは、発癌性物質として知られており、EPAによって規制されている。廃水中のベンゼン濃度が5ppbを超えると有害と考えられている。既存生成品について発明者ら自らの調査では、多くの飲料のベンゼン濃度は5ppbを超えていた。生成の機構はまだ十分に知られていないが、熱、光、ある種の微量金属、さらにはアスコルビン酸が、安息香酸イオンからベンゼンへの転換に関与しているものと思われる。FDAは、ボトルに充填された飲料が販売店に到着してからの保管期間及び温度条件によるという見解を示している。これは、PSI-SPE及び重水素化された安息香酸濃縮同位体標準の濃度が低すぎて液体標準形態では安定であることができないが、固相に予め吸着されたものは安定である例である。FDA又は国土安全局による分析が行われる他の薬剤及び標準形態についても、濃縮された同位体形態では予め吸着されることができ、定性的及び定量的分析に対する有用な新分析ツールとなる。それゆえ、ベンゼンを用いたこの例と同様、製造、品質管理において、また、国土安全局及び国土防衛局のシナリオにおいて、水、飲料、食品、薬剤及び他の試料の流れについて、汚染物質及び毒素を調べるために、迅速で、安価で、定期的にモニタリングを行なう方法を見出すことは重要である。完全に一体化され、自動化された分析測定システムのスタンドアロン型装置又はフロントエンドモジュールとして、自動化されたマニホルドシステムを用いるので、PSI-SPEの使用は費用効果にすぐれることになる。
【0086】
<通常の分析方法によるSPI-SPEの比較研究>
時間研究(time-study)を行ない、予めスパイクされた安定同位体固相抽出(PSI-SPE)を用いて実現することができる時間節約の例を提供する。この例では、決定方法としてEPA8270法、抽出方法としてEPA3510法を使用し、10の水試料について、半揮発性被分析物の分析を行なった。結果を表3に示している。
【表3】
【0087】
<経済的評価>
PSI-SPEを用いて実現することができる費用節約の基本的理解を得るための費用研究を行なった。この研究では、決定方法としてEPA8270法、抽出方法としてEPA3510法を使用し、10の水試料について、半揮発性被分析物の分析を行なった。結果を表4に示している。
【表4】
【0088】
前記のQCSでは、オンサイトでPSI-SPEを用いたものは、費用が有意に節約されることを示している。試料採取から最終結果までの処理費用は従来法よりも39%少なかった。本発明に基づく製品及び装置が大量生産されて市場に出回ると、経済規模が大きくなるため、この費用節約ははるかに大きなものとなる。
【0089】
<比較用に分けた試料の比較>
実在の試料を入手し、外部の検査機関で分けて検査を行ない、その結果を比較した。4つの試料は、ガソリン汚染物質の処理プロセス中の汚染現場から採取したものである。試料は、民間の検査機関に送られて、公知の分析を行なった。また、オンサイトでPSI-SPEを用いて処理を行なった。結果を表5に示している。
【表5】
【0090】
<予め吸着された安定同位体固相の実証結果>
予め吸着した安定同位体の固相抽出について実証したところ、試料の抽出及び平衡化の有効な方法であることが示された。PSI-SPEは、現在行われている検査の抽出方法に固有の誤差の多くの原因を取り除くことができるので、自動化の基礎として、新規で、効率的で、高信頼性で、迅速な試料調製装置及びシステムの設計が可能となる。
【0091】
{固相ELISA及びSELDI同位体希釈及び種分けされた同位体希釈質量分析}
<ELISA:最も一般的な免疫学的検定>
哺乳類の免疫反応は、免疫系が、特定の特殊グループの細胞(B細胞)によって(抗原)認識することができない化合物を認識することによって開始する。次に、免疫系は、抗原特異性B細胞の産生を開始し、特異的特性を有する特殊蛋白質(抗体)を産生し、抗原に結合する。抗原に一旦結合されると、B細胞は、抗原をできるだけ早く排除することを目的とする一連の反応を促進する。免疫診断検定(免疫学的検定)はこの宿主防衛蛋白質(抗体)を利用して、ヒトの血液内に存在するウイルス抗原等の外来物質を直接検出する。免疫学的検定は、抗体の抗原識別特性が利用される高特異性蛋白質結合アッセイのグループである。今日用いられている最も一般的な免疫学的検定は、ELISA(酵素免疫測定法)である。全てのELISAシステムに対して重要なことは抗体の使用である。抗体は、動物内で、抗原刺激に応答して産生される。抗体は、それらの産生に用いられる特定抗原を検出するのに用いられる抗原に結合する特異的生化学である。このように結合が確認された抗体は、特定抗原を検出するのに用いられることができる。これとは逆に、特異性抗体は、確定抗原を用いて測定されることができ、これは、免疫化学研究及び診断生物学の分野において多くのアッセイの基礎をなすものである。
【0092】
定量化(quantitation)は、酵素を用いて作製された信号が、抗原の濃度に比例するか又は直線的関係を有することに基づいている。ELISAの利点は、簡易性、読み易さ(目又は装置による)、迅速性、感受性、試薬、キット及び機器のの商業的入手容易性、適用容易性、分析者及び検査機関の安全性、廃棄の安全性、標準化及び定量化の相対的容易性にある。
【0093】
レーザーイオン化を使用し、同位体を固相表面修正材料に組み入れることにより、直接及び定量的固相IDMS及びSIDMS質量分析測定が行われる。その結果、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)又はレーザー切断(LA)が、表面及び/又はマトリックスを除去し、被分析物の直接濃縮同位体比分析が行われる。このとき、他の次元の定量化が加えられるが、1つの追加の自由度は以前に存在しなかった。この最終の自由度は、表面固相平衡化システムの定量除去の代わりに、比を可能にして、IDMS及びSIDMSの数学的利点がもたらされる。重要な利点の1つは、最終的な定量化及び再現性を達成するために、修正された固相全体表面/マトリックス(同位体濃縮されたタグを含む)及び被分析物の除去を必要としないことである。IDMS及び/又はSIDMS条件の下では、修正された固相表面/マトリックス(同位体濃縮されたタグを含む)のいかなる部分も、校正曲線ではなく、同位体比に基づいて定量化が可能である。MALDI又はLAの他の形態では、定量化及び再現性を可能とするために表面を除去して校正曲線を作る必要があるのに対し、校正曲線なしで定量化を達成することは、IDMS及びSIDMSに固有である。それゆえ、平衡化した表面のどの部分も正確な定量化が得られ、通常は質量分析定量及びELISA定量の両定量化に伴う誤差をなくすことができる。一旦平衡化されると、マトリックス吸着及び除去効率の変化はもはや定量化の要因とはならない。イオンが質量分析計を通過する際の質量分析計の効率及び信号ドリフトは、IDMS及びSIDMS法では定量化の誤差原因として排除される。固相スパイキング(タグ付け)は、IDMS及びSIDMSに記載された直接の数学的定量化が可能であり、これはELISA及び/又は質量分析の分野ではこれまで適用されなかったものである。
【0094】
蛍光分析による定量化を用いたELISAの適用は、環境健康及び環境法医学の分野で最近始まった。ELISAは、トリジアン、スルホニル尿素、有機リン酸エステル、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、シクロジエン及びBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)の化学分析、並びにUS EPA及び環境契約者による廃棄物処理場の生物学的分析及び証明用の他の毒性物質の化学分析に用いられてきた。環境分野におけるELISAの広範囲に及ぶ使用を制限する課題の幾つかは、検出限界、校正曲線誤差及びマトリックス干渉である。環境健康及び法医学分野では、分析データは法的手続の専門家によって評価される場合がしばしばあり、これらの問題及び複数の誤差源は、環境健康及び法医学分野におけるELISA作成データの法的防御可能性を弱める。校正曲線なしでIDMS及び/又はSIDMSにより固相平衡化及び直接定量化を行なうことは、固相平衡化質量分析及び決定的な直接アルゴリズム定量化を用いた決定的定量方法であるので、法的防御可能性が飛躍的に改善される。マトリックス及び被分析物の不完全で部分的な回収、イオン化の変動、機器の非効率、性能低下及び他の試料操作又は機器指向性バイアスは、平衡化された同位体比を用いるので精度に対してあまり重要ではない。それゆえ、通常は存在するこれらのバイアスは、全てが同時に減少又は排除されるので、法廷におけるデータ防御に対してより強力な位置が可能となる。
【0095】
ELISAは、異なる形状及びパッケージで作られる様々な固体支持材料の幾つかのフォーマットで処理されることができる。最も一般的なELISAsは、固相として、8×12ウエルフォーマットのプラスチック製マイクロタイタープレートを用いる(図9参照)。
【0096】
有用なELISAを作るためには、3つの基準に適合しなければならない。
【0097】
<希釈直線性>
これは、次のステップの回収率と密接な関係がある。信号(ピーク面積として、ピーク面積又は強さとして表される)と希釈要因との関係をx−yチャート上にプロットしたとき、それは直線でなければならない。
【0098】
<回収率(recovery rate)>
これは、既知量の関係物質が評価反応に添加されたとき、評価後に観察される関係物質の割合である。回収率は、臨床的ルーチンワークの10%以内であるべきである。
【0099】
回収率%={(推定値)−(付加値)}/(付加値)×100
【0100】
<同時再現性(intraassay variation)及び日差再現性(interassay variation)>
同時再現性は、1つのELISAプレートにおける値を意味し、日差再現性は、通常は異なる日に実施される異なるプレート間の値を意味する。
【0101】
{ELISAの種類とシステム}
基本的に、ELISAには、競争(C-ELISA)と阻害(I-ELISA)の2つの種類がある。「競争(competition)」及び「阻害(inhibition)」という語は、測定が、予め滴定して設定されたシステムとの干渉能力による物質の定量に関係する評価を表している。システムは、抗体又は抗原のどちらかの測定にも用いられることができる。
【0102】
方法論の観点からは、3種類の基本的なELISAシステムがあり、全てのELISAテスト(C型及びI型の両方;直接又は間接)は次の3つのELISAに基づいている。
【0103】
<直接ELISA>
抗原が受動的吸着によって固相に付着される。洗浄後、酵素標識された抗体が加えられる。培養期間を経て洗浄した後、基質システムが加えられ、色を発現させることができる。
【0104】
<間接ELISA>
特定の生物学的種(biological species)由来の抗体は、固相に付着された抗原と反応する。どの結合性抗体も、酵素で標識された抗異種抗血清を加えることによって検出される。これは、臨床診断で広く用いられている。
【0105】
<サンドイッチELISA>
このシステムは、抗体又は固相材料に付着された捕獲抗原を用いる。
【0106】
<直接サンドイッチELISA>
システムが直接サンドイッチ法の場合、検出抗体は酵素で標識される。抗原は、該抗原に特異性の血清を用いて検出される。検出抗体は酵素で標識される。捕獲抗体及び検出抗体は、同じ種の同じ血清でもよいし、同じ種の異なる動物の血清でもよいし、異なる種の血清でもよい。直接サンドイッチ法における抗原は、2以上の抗原部位を有していなければならない。
【0107】
<間接サンドイッチELISA>
システムが間接サンドイッチ法の場合、抗原は固相結合抗体によって捕獲される。抗原は、次に、他の種に由来する抗体を用いて検出される。これは、抗異種複合体(antispecies conjugate)によって結合される。このように、コート抗体(coating antibodies)及び検出抗体に対する血清の種は相違していなければならず、抗異種複合体はコート抗体とは反応することができない。
【0108】
最も一般的に用いられる酵素は、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)とアルカリホスファターゼ(AP)である。他に、βガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ及びカタラーゼ等の酵素も用いることができるが、基質の選択を制限し、それらの広範な適用を制限する。検出酵素は一次抗体に直接結合させてもよいし、一次抗体を認識する二次抗体を通じて導入されることもできる。もし、一次抗体がビオチン標識されている場合、ストレプトアビジン等の蛋白質に結合させることもできる。基質の選択は、検出に必要な感受性レベル及び検出に利用可能な機器(分光光度計、蛍光光度計又は照度計)に依存する。全ての蛋白質標識化及び可視化技術の中で、小ビタミンのビオチンが、標識及び分光測定の簡易性並びにアビジン(は虫類及び両生類の卵の白身や組織に存在する糖蛋白質)の高特異性及び選択性であるため、ビオチン化が最も一般的なものとして十分に理解されている。アビジンとビオチンの反応は、生物学的検体を検出し標的するための評価システムにおいて最も結うようなツールである。アビジンのビオチンに対して非常に高い親和性を有するので、複合混合物中のビオチン含有分子を、アビジン複合体と別々に結合させることができる。
【0109】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた質量分析ELISAマイクロアレイチップ>
質量分析計及び同位体測定技術は、感受性が高く、干渉性が有意に低いという性質を具備しているため、免疫アッセイ検出システムへの適用は非常に好ましいけれども、ELISAの確定的定量検出器として使用するには多くの障害があって、これまでその適用は成功していない。その最も大きな理由は、質量分析計のコストが高いこと、質量分析計検出器信号の安定性が欠けること、生物分析分野における質量分析計の同位体分析及び比較的最近の評判に対する生物科学者の専門的知識が不足していることである。
【0110】
抗原部位又は抗体に類似する濃縮同位体タグ又は同位体濃縮合成ペプチドを使用することは、これらのペプチドがマイクロアレイプレートの中で結合抗原又は固定化抗体の列として用意された別々の試料スポットの中に配置されるとき、ELISA型アッセイに適している。マイクロアレイプレートは次に処理されて質量分析計に導入され、液体及び/又は気体イオン化並びに確定的定量質量分析が行われる。
【0111】
発酵中の媒体内の栄養物を通じて又は化学同位体タグ付けプロセスにより同位体標識が付された全細胞は、生きたものも減衰されたものも、固相マトリックスに固定化された缶(can)と共に細胞が固定化され抗原格子として供するときに使用可能である。このような細胞は、特別に設計されたマルチアレイチップの中に入れられ、別個の試料保持部位では、質量分析計の分析サイクル中、結合され生存能力がある細胞を保持する能力を有している。
【0112】
IDMS及びSIDMSの原理を用いた同位体分析法及びここに記載する発明は、レクチン等のリガンド、多糖類、ヌクレオチド、生体分子及び/又は天然源から単離されるか又は機能的アナログとして合成されることができ、他の生体分子に対して親和性を有する化学的毒性物質を固定化することにより、生体分子の捕獲及び分析に用いられる。濃縮同位体は、遺伝子チップマイクロアレイに固定化される何千もの分子プローブの各々を可視化するのに用いられることができる。
【0113】
表面が改質された固相物質に同位体標識された濃縮抗原の発明の実施例を図10、11及び12に示している。
【0114】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた質量分析SELDI分析>
臨床診断における分光分析の最近の適用例の1つに、SELDI(表面増強レーザ脱離イオン化)チップがあり、蛋白質の発現プロファイリングに用いられる蛋白質及びペプチドを固定化するために様々な異なる機能的表面を有している。これらのチップは、細胞試料源に由来する固定化バイオマーカーを利用しており、これらのバイオマーカーは、疾病の状態に反応して特異的に発現される。これまでの取組みは直接プロテオーム分析を利用してきたため、バイオマーカー分析及び蛋白質発現プロファイリングの全領域は、確定的直接定量化及び再現性の欠如によって妨げられており、それゆえ、確定的定量目的のためにどんな分子タグも用いられていない。濃縮同位体タグは、SELDI蛋白質チップ上で同位体標識されたバイオマーカー比を測定する手段を提供し、IDMS及び/又はSIDMS定量化を通じて定量化及び再現性を大いに向上させることにより、これらの制約を解消させるものである。図13、14及び図15を参照。
【0115】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた直接組織プロファイリング>
新規な分子プロファイリング技術は、低侵襲性バイオプシーによって得られた少数の病理学試料の分析に有用であり、予後診断、治療反応及び画期的な標的実証に関連する解剖病理学分析と相乗作用を有する重要なバイオマーカーの発見を可能にする。このように、健康及び病的状況における組織学的レベルでのプロテオーム解析は、臨床プロテオミクスの分野での主な問題である。直接の組織プロテオーム解析(DTPA)は、SELDI-MS技術の原適用であり、解剖病理学診断に対する補足として臨床プロテオミクスの使用を拡大することができる。DPTA法は、固有のハイスループット特性を提供し、大規模な患者集団におけるバイオマーカーに用いられることができる。
【0116】
DPTA法は、肺癌及び脳腫瘍等の病気の分類に用いられており、解剖病理学診断法を高めている。DPTAは、最近開発された、迅速で高感度な技術であり、臨床プロテオミクスにおける新たな見通しへの門戸を開くものである。この領域における現在の開発は、確定的定量化、再現性及び感受性の必要性に取り組んでおり、濃縮同位体タグの使用並びに固相表面が変異した又は未変異の媒体として導入されたIDMS及び/又はSIDMSの原理の適用を通じて達成される。
【0117】
<直接の数学的デコンボリューションが必要である。それは、直接の数学的解答だけが、具体例としての環境鑑識学、環境衛生及び国土安全の測定における被分析物の定量化が可能であるからである>
ヒト組織の水銀種で確認されているように、校正曲線は80%を超えるエラーを生じるので、定量化に用いることはできない。SIDMSの直接的濃縮計算だけが種転換の定量化と補正の両方を行なうことができる。IDMSとSIDMSは両方とも数学的アルゴリズムにより直接算出されなければならず、校正曲線は分析検査機関に共通のエラーを回避するために使用されるべきでなく、また、時間がかかり、環境鑑識学、環境衛生及び国土安全の測定等の重要な測定には受け入れられないことがわかった。
【0118】
対象とする被分析物の濃縮同位体類似体は、主な濃縮同位体から作られるか、購入されるか又は検査機関で合成される。ESI、DESI、ナノESI、ナノチップESI、DESI、MALDI、LA、SELDI、APCI、ICP、GC-ICP、GC-MS等の様々なイオン化方法に結合されたIDMS及びSIDMSの適用は本発明によって包含される。GC-ICP-MSとナノエレクトロスプレーの両方を実証する目的で、飛行時間質量分析が示される。飛行時間質量分析(ナノチップESI-TOF-MS)プラットフォームに結合されたナノチップESIによるGC-ICP-MS及びイオン化の両方の供試例は、国土安全、環境鑑識学及び産業的試料測定シナリオに適した供試例を実証するのに用いられる。毒性物質のデータは、水銀種、アジ化ナトリウム及びシアン化カリウムについて実証される。
【0119】
IDMS(同位体希釈質量分析)及びSIDMS(種別同位体希釈質量分析)に対するスパイキングを用いて標的被分析物種の定量決定に必要な数学的アルゴリズムは、直接数学的解によってのみ達成される従来の方法(及び数学的方法の新たな適用)とは異なる。純粋標準からの校正曲線は単一測定が可能でなく、全く用いられることができない。これらが具体的に開発され、直接的溶液イオン化及び表面吸着、結合、イオン交換、固相抽出測定及びその他多くのもの等、多くの種類の濃縮同位体試料調製に適用される。
【0120】
校正曲線によって定量化されることができない測定及びSIDMS測定を伴わなければならない測定の第1例は、メチル水銀及び無機水銀による血液試料で、エチル水銀に対してスパイクされたものである。この試料は、無機水銀、エチル水銀及びメチル水銀の別個の同位体類似体との平衡後、分離され、イオン化される。この例では、無機水銀Hg+2は、98%濃縮された無機水銀Hg+2-199でスパイクされ、メチル水銀(CH3Hg+)はメチル水銀CH3Hg+-202でスパイクされ、エチル水銀(C2H5Hg+)は、C2H5Hg+-201でスパイクされ、金属水銀種(HG0)は原試料の中にはないが、3種の水銀種を分離するために用いられるGCカラム中での熱分解によって生成される。ヒトの血液又は尿中の無機水銀、メチル水銀及び/又はエチル水銀が、4種(無機水銀、メチル、エチル及び金属水銀)の全てについて異なる割合で異なる量を生成し、両者を異なる量として用いることができず、未知の個々の試料に対する校正曲線が確立されていない場合、校正曲線は困難なものになるであろうことを図16は示している。そのような場合に定量化が可能なのは、SIDMS法による数学的デコンボリューションだけである。ヒトの髪の毛の上記供試例及びこの供試例に記載された6つの別個の形質転換(transformations)におけるように、金属水銀の第4の種の生成だけでなく、無機水銀、メチル水銀及びエチル水銀の形質転換によるこの第4の種への寄与に対して評価及び修正されなければならないのは少なくとも4種以上である。
【0121】
これらのケースは、マスタードガス、農薬及び農薬代謝産物、コカイン及び体内代謝産物であるモルヒネ等の反応性種の多くの分析において、考えられている以上に広まっており、一般的である。これらの分子シフトの多くは定量化される必要があるが、校正曲線が定量化に用いられる方法である場合、正確又は迅速な定量化を達成することができない。
【0122】
<IDMS、SIDMS及び直接的種アルゴリズムは生成される種に依存し、IDMS及びSIDMS分析に対して新たに導出された直接的数学アルゴリズムだけが動的システムの定量化に用いられることができる>
濃縮された安定同位体スパイク(単にスパイク)は、試料とは異なる同位体組成物を有しなければならないが、対象とする被分析物の化学的形態及び化学的性質は同じである。実際の試料及び正常な標準のマトリックス組成物は、同じものはめったになく、他の要素の組成物におけるどの違いも、ESI、ナノESI、ナノチップESI、MALDI、SELDI及びAPCI等のソフトイオン化法に発現される異なる同位体類似体に有用である。このように、どんな校正曲線も試料を正確に表すことはできない。アジ化ナトリウム及びシアン化カリウムについて供試例を示す。
【0123】
スパイクは、水溶液及び/又は酸溶液及び/又は有機溶媒溶液にて調製されるか、又は吸着、イオン交換又は結合によって表面に固着される。校正曲線を規定することによる校正は、ESI、ナノESI、DESI、MALDI及びSELDI等のソフトイオン化法やICP-MS等のハードイオン化法では、上記の水銀種の例の場合と同様、達成されることができない。ソフトイオン化法では、測定され定量化されるイオンは、実際の試料中に被分析物を有するマトリックスに依存し、標準によってシミュレートされることができず、マトリックス一致を図る標準でも同様である。イオンは,マトリックスの同時相互作用の産物である。被分析物は、質量分析計の中で表される多くの代表的分子イオン及びイオン種を有することがある。アジドは、マトリックス及び試料条件に基づく代表的な幾つかの例を示すための例として用いられる。各例は、IDMS及びSIDMSを直接使用し、異なる数学的定量化を必要とする。ソフトイオン化は、マトリックスから独立した分子イオンを生成しないが、分子イオン及び同位体濃縮類似体イオンが発現される濃度を変化させるマトリックスと環境を組み入れる。供試例を以下に示す。校正曲線及び標準のIDMS及びSIDMSの式は定量化に用いることはできず、定量化が可能なのは、ソフトイオン化からこれら同位体に対する新規な数学的アルゴリズムを用いる場合だけである。標準のIDMS式は、複数の発現並びに定量化のための同時かつ異なる同位体を説明するものではないことは理解されるであろう。
【0124】
IDMSにおける同位体比の定量決定のための一般的数学式は、式1に示されており、未知の試料の濃度を決定する数学的解を求める直接のアルゴリズムはこの式を最構成したもので、式2で示されている。この直接的な数学的解の個々の構成要素は式2の中に次のとおり与えられている。
【数1】
【数2】
上記式において、
Wx=試料の重量
Ws=同位体スパイクの重量
Cs=スパイク中の種の濃度(濃縮)
Cx=試料中の種の濃度(未知)
As=スパイク中の改変同位体(altered isotope)Aの原子分数(濃縮)
Ax=試料中の同位体Aの原子分数(天然)
Bs=スパイク中の改変同位体Bの原子分数(濃縮)
Bx=試料中の同位体Bの原子分数(天然)
Mx=試料中の種の平均原子質量
Ms=スパイク中の種の平均原子質量
Rm=同位体Aと同位体Bの同位体測定比(濃縮/天然)
【0125】
校正曲線の使用は、動的種(dynamic species)の濃度に依存する種の濃度をシフトするこによって妨げられ、標準の校正解によって複製される(duplicated)ことができない試料のマトリックスは別個に実行する。ESI、ナノESI、MALDI、APCI及びEI等のソフトイオン化法は、マトリックスなしでは標準解に複製されることができない複合的分子イオンに最も影響を受け易いこれらの分子ソフトイオン化源の幾つかの例である。動的種及びソフトイオン化法を用いて試料マトリックス自体によって決定される種は、ICP-MSのように全ての種を元素イオンにするハードイオン化法とは全く異なる数学的処理を必要とし、過酷なイオン化によりマトリックス効果及び分子情報が除去されるので校正曲線を用いることもできる。
【0126】
この適用は、ソフト及び複合的イオン化の分子イオンの様々な発現を定量化するのに適していない。この例では、アジドは、陽イオンモード及び陰イオンモードの両方に用いられる。ナトリウム(Na)イオンは、この純粋溶液の中で、Naが陽イオン作用物質として加えられたもので、陽イオンモードの種の1つに対して1:1、陰イオンモードでは1:2又は1:3で両方とも同時に発現される。イオンがどのように利用可能でKのように優性(dominant)であったとしても、その試料のマトリックス条件で実際の試料の中にのみ存在する分子イオンによって表される。校正解のマトリックス一致は、実際の試料の中にあるマトリックスイオンの正確な状態での濃度及び複雑さを正確に又は完全に説明することはできない。さらなるイオンモードは図17〜図24に示されている。この第1組の供試例におけるアジドを定量化するのに必要な多くのイオン発現について、複数のアルゴリズムだけがこれを説明することができる。陽イオンモードでは、1組の種のイオンが明らかにされ、陰イオンモードでは、比が明らかに異なる第2組が観察される(図17〜図20)。
【0127】
質量分析計により質量によって分離された同位体濃縮及び天然の毒性物質の複数の種の適切な定量化におけるバイアスなしの直接計算は、IDMS及びSIDMSの延長である。これは、種が同じ親の種とは異なる亜種(subspecies)であるからである。これらの場合では、デコンボリューションは形質転換する複数の種に関するものではなく、溶液又は固相中の同じ種から作られるか、又は固有の比及びパターンで発現される複数の種に関するものである。数学的には、定量化は、幾つかの種及びそれらの固有比を正確に考慮に入れて毒性物質が定量化される。図21は、電荷質量比(m/z)質量スペクトルの複数セクションを示しており、Naを有するこのマトリックスによって作られた固有種の中に12を超える確認率(confirmation ratios)が提供される。多くはKと他のイオンに分けられ、Kが試料内にあるときは、NaイオンとKイオンが生成される。この場合、Na4(N3)5-イオンはNa3K類似体、Na2K2類似体、NaK3類似体及びK4類似体も有することになる。これらの各々は、純粋な標準に対して行われた校正とは異なり区別されることができる。その場で実際に同位体標識されて作られた種に対して直接数学的解を適用することによってのみ、実際の試料は定量化される。試料及びその同位体類似体によって発現される実際の被分析物種については、マトリックス及び実際の試料なしでは正確な表現ができないので、用いられることができるのは直接数学的同位体比のみである。同位体比を用いると、正確な濃度は有効数字が2及び3まで可能であるが、有効数字が1よりも少ないものは、大部分のケースでシミュレートされた校正標準由来の複合マトリックスの中で作成されることができるので、これらは作業ベースでは実用的ではない。
【0128】
天然及び同位体濃縮種から生成されるこれらの複数関連種は、ナノESI及びMALDI等のソフトイオン化では一般に行われない。イオンの安定性によりハードイオン化では消失する。また、他の例として、毒性のシアン化カリウムの例を図24に示している。
【0129】
金属イオン(K、又はCN-キレートによってキレート化されるあらゆる金属イオン)について、他のあらゆる量又は混合物若しくは成分をもつマトリックスにおいて、スペクトル中にFe、Cu、Ni、Cd、Hgを発現するアニオンキレート剤は修正されて全く異なるものとなるので、現時点では理論的に予測することが不可能である。例えば、実際の試料は、化学的安定性を有する生成定数(formation constant)及び逐次的生成定数を有し、K1、K1K2、K1K2K3、K1K2K3K4のHg2+、Cd2+に対して、Hgイオン及びCdイオンのKsのLogに夫々、5.5、5.1、4.6、3.6及び10.0、16.7、3.8、3.0がシアン化物陰イオンに掛け算される。これらの全ては競合するので、計算不可能であり、予測不能の実際の試料を定量するために設定される校正曲線で測定されなければならない。これらの複合的ソフトイオン分子定量で唯一可能なのは、校正不要の直接数学的解だけである。水溶液の中で発現されることができるイオンの可能な組合せは80を超える。
【0130】
従来の校正曲線はこの語が通常有する意味でのものは適用することができない。校正曲線の使用、校正曲線又はこれらイオンに基づく校正曲線を用いた内部標準の使用は適当であり、実際の試料の未知のマトリックスの濃度を、純粋な校正標準から定量的に有意な方法で構成されることができる。カリウムイオン及びナトリウムイオン及び他のイオンが存在する場合、カリウム付加物、ナトリウム付加物及び他の金属付加物イオンが発現し、親毒性物質に関係あるが、質量分析計の中で独特の試料マトリックス、試料調製及びイオンに基づいて発現した新しい種である複合種が生成される。なお、既知の対の種を、定量を確実なものとするM+1類似体及びM+2類似体として同定することができる同位体類似体が存在する場合、同定はより確かなものとなる。
【0131】
本質的校正ステップを実行するための抽出前又は抽出中に、試料に添加され、及び/又は、固相中で平衡化された既知量の同位体濃縮種は、試料中の定量化されていない被分析物で発現される必要がある。従来の校正を適用することはできないので、被分析物を同定し定量化する方法で信頼性のある唯一の方法は、直接数学計算である。これはSIDMS及びIDMSの延長である。その理由は、新しい種は試料に添加された親種から作られ、被分析物を直接定性的及び定量的に処理するのに新しいアルゴリズムが必要であるからである。
【0132】
{マイクロ波印加平衡}
<種に対する平衡時間効果、IDMS及びSIDMS法を使用:従来の熱、超音波抽出とマイクロ波印加平衡との比較>
この例では、IDMS及びSIDMS法による水銀の種分け(speciation)を行なうのに、NIST標準参考材料(川の堆積物SRM2704及び土壌SRM2711)とヨーロッパIAEA CRM(ヒトの髪の毛IAEA-085)を用いた。SRM2704及びSRM2711は両方とも、所定量の同位体濃縮無機水銀(199Hg2+)でスパイクされた。この研究で評価した試料調製法は、EPA3052法、EPAドラフト3200法(マイクロ波アシスト抽出、MAE)及びEPA3200法(超音波アシスト抽出、UAE)である。EPA3052法とEPA3200法(MAE)を用いた場合、試料をスパイクした後、直ちに、当該方法に基づいて抽出又は分解(digestion)を行なった。しかし、3200法(UAE)については、試料をスパイクした後、異なる時間(1,3,6,12,24及び48h)で平衡化し、次に、この方法に基づいて抽出を行なった。
【表6】
【0133】
EPA3052法とEPA3200法(MAE)は高効率であるので、2種のSRMsからの全水銀の回収率100%が達成された(表6参照)。この場合、スパイクされた同位体は、抽出/分解中、10分未満で試料同位体と平衡になった。
【0134】
EPA3200法(UAE)は、無機水銀の抽出及び平衡の効率が低いため、回収率は、SRMsによって異なり、また時間の経過で異なる。SRM2704の回収率は24時間で約100%に達したが、SRM2711については48時間後でも定量的回収は得られなかった。3200法(UAE)の回収率データは、スパイクの試料との平衡が1h又は48hであろうと、回収はUAEを用いるときの試料マトリックスに依存することを示している。この具体化研究は、水性試料のIDMS分析に用いられた“スパイク同位体の試料同位体との平衡”が、全種類の抽出プロトコルの下では、複合体又は固体試料には当てはまらないことを結論として示している。イーストについて、前述したLu Yang, et al.のクロム種の分析では、12時間を超えるこの同時間依存性抽出は、組織試料の対流及び伝導加熱にも認められる。固体試料の場合、質量分析前の対象種に対して、効率的な抽出及び平衡方法が必要である。固体試料の抽出及び/又は分解及び平衡の方法が非効率であると、IDMS及びSIDMS分析の精度が低下する。
【0135】
SIDMSは、複数種の平衡化を同時に行なう必要があり、各々の種の最終濃度を校正するために種の転換を同定する必要がある。メチル水銀種と無機水銀種だけを含む良い試料として、ヒトの髪の毛の水銀種を用いると、EPA3200法では、MAEとUAEとでこれら種の抽出が比較される。表7の比較において、UAEでは正しい認証結果が得られないことを示しているが、これは、天然種と濃縮同位体種に対して、工程中に抽出と平衡化の合成が行われず、正しい解を得るのに不十分だからである。これに対し、MAEでは、マイクロ波を用いて2つの種の抽出と濃縮同位体種の平衡化を同時に行われる。MAEでは、UAEの例の半分より短い時間内で統計的有意性の範囲内の認証値が得られる。
【表7】
【0136】
<複数種のトランスフォーメーションと直接数学的決定が必要であり、これは校正曲線よりも優れている>
本発明の抽出及び平衡化方法のロバスト性(robustness)を明らかにするために、複数種のトランスフォーメーションと複数種の変換(conversion)mを評価する必要がある。現時点では、3種類の水銀種に対して認証された組織試料はないので、以前に認証された参考材料(ヒトの髪の毛CRM,IAEA-085)を第3の水銀種であるエチル水銀でスパイクした。エチル水銀は、チメロサールからヒト代謝水銀種で、ワクチンの水銀保存剤であると文献に記載されているので、これは論理的選択である。これら3種が存在すると、6種類の変換が計算されなければならない。数学的アルゴリズムがこの具体的目的のために開発され、3種のSIDMS測定及び試料調製中におけるそれらの変換のために用いられている。表8において、エチル水銀の80%を超える変換は、主として、エチル水銀から無機水銀への変換と、エチル水銀からメチル水銀への変換によるものであることが示されている。メチル水銀はまた、有意に変換され、エチル水銀の変換に由来するメチル水銀から独立し、区別して測定される。この測定は、全ての水銀種の抽出と平衡化を一体的に同時に行わなければ不可能である。
【表8】
【0137】
これらのデータは、3種の第1の適用例であって、マイクロ波抽出(EPA3200法)をIDMS/SIDMS(EPA6800法)法と共に用いた、3種及び中間種の全てのトランスフォーメーションを同時に校正するもので、エチル水銀の80%よりも多くがトランスフォーム又は破壊されても、正確で、迅速な同時測定は、SIDMS法の適用を通じてのみ可能であることを示している。これらの測定は、実証され、具体化されるが、精度は4%未満に維持される。
【0138】
IDMS及びSIDMSにおけるアルゴリズムは、種及び同位体濃縮種の発現に応じて、手操作にて又は動的に容易に調節可能である。しかしながら、校正曲線は調節することができない。校正曲線は、その都度、定期的に、比較的頻繁に作られなければならない。校正曲線は、複数種の分析に対して数学的に実行可能な代替物とはならない。それは、マトリックス試料にほんの僅かな変化が起こると、誤差及びシフトにより、それらの使用が妨げられるからである。それゆえ、定量化に唯一数学的に正確な方法は、同位体濃縮類似体についてIDMS及びSIDMS測定することである。国土安全及び国土防衛用途並びに品質保証測定では、偽陽性及び偽陰性は最も少なくなければならないため、これらに対して重要である。
【0139】
{セクションIII:現場で使用するために、完全自動化システムに組み込まれた例を記載する。例えば、国土防衛及び国土安全における例を以下に記載する}
暴力行為や食物の意図的汚染の可能性に対する脅威があるので、空気及び飲料水は、比較的稀であるが強毒性をもつ広範囲の化合物を最も正確な方法で調べるために、消失性物質を迅速に検出する必要がある。最も危険な製剤は非常に強力であるので、毒性物質検出器は、最も低い濃度レベルを正確にかつ高信頼性を以て検出できることが極めて望ましい。仕事のミッションクリティカル及び時間厳守の性質を考慮すると、サイクルタイム(試料の採取、試料の調製/操作及び分析)は、迅速になされなければならず、また、多くの異なる状況及び環境下でその精度及び感度を維持できる堅牢性(rugged)の現場展開可能(field-deployable)なシステムに従属的でなければならない。
【0140】
標準が用いられる場合はそれが望ましいが、標準(典型的には、高毒性物質の化学的類似体)を取り扱わないこともまた望ましい。それゆえ、これらの標準は、固相フィルター、ビーズで満たされたカラム、溶液は不安定であり頻繁に取り替える必要がある濃度で液体よりは遙かに安全に輸送されることができるカートリッジ及びその他小型で比較的安全な固相デバイスに固着される(secured)。現場又は遠隔地で採取された試料を検査機関へ輸送しなければならない場合、試料を固相容器の中へ取り入れることができ、安定(その化学的形態を維持する)で、加工、流通過程(試料をその源から取り出すステップから分析地点(典型的には専門の検査機関)へ送達するステップまで)の全体を通じて安全に取り扱うことができる。
【0141】
今日利用可能な最も高感度で有用な検出システムは、有用な検出器信号範囲を定めるために、また、試料が分析されるとき、検出器によって作られる検出器信号を算出するための基準として校正された範囲に依存できるように標準の構成方法を用いる。検査機関に勤務するどの化学者も校正曲線の使用に対して非常に精通している。しかしながら、校正曲線は潜在的に多くの誤差源を有するため、再校正のために試料分析サイクルがしばしば中断される。マトリックス(測定される被分析物が含まれている材料)の変化、被分析物抽出プロセスの変動は全て、校正曲線に基づく測定誤差を生じる。さらに、1兆分の1(parts per trillion)で分子を検出できる最も高感度の検出器である質量分析計が生成する信号は、ドリフトし、最後に作成された校正曲線を無効にする。質量分析計に対して新たな校正曲線を作成することは、試料の作製及び分析者による分析ステップに、手操作で面倒くさく時間のかかる数多くの作業が必要であることを意味する。校正曲線に関連する誤差源は全て、国土安全及び国土防衛目的のための既存の質量分析計の自動化の可能性を妨げる。
【0142】
IDMS及びSIDMSに関する前記発明及び特許は、引用を以てこの明細書の中へ含まれるものとし、この明細書に記載した発明はこれらの問題を解消するものである。濃縮同位体タグ及び濃縮標準類似体の使用は、一般的な発色性、蛍光性、化学発光性及びその他全ての視覚技術に基づく化学分野よりはむしろ、核分野での測定を行なう能力を提供する。これは、多くの干渉性及び安定性問題を排除することができる。IDMS及びSIDMSは、最終データを作成するのに数学的解を利用しており、校正曲線を不要にし、マトリックス変化及び抽出ステップ後の被分析物回収に関連する問題を排除するか又は最少にすることができる。IDMS及びSIDMSのプロトコルの下で質量分析計によって作成される分析データは、校正された非常に正確な結果である。この特許出願の時点で、IDMS及びSIDMSのプロトコルは、米国環境保護局(EPA)により、「6800法」という名称で国家的方法として承認されている。これはまた、EPA及び英国規格協会(BSI)でも認められており、公開されたコメント及び書類の中で、種分けされた元素分析に対して法的防御可能なデータを作成できる唯一の方法として記載されている。
【0143】
現在、分析前(初期段階)の試料の調製には、現場から試料を取り出すこと、測定する被分析物を抽出すること、被分析物を分離すること、濃縮同位体でスパイキング(タグ付け)すること必要とし、高い技能を有する分析者によって行われる一連の手操作が含まれる。このプロセスは、どこの場所でも、数時間乃至数日を要する。IDMS及びSIDMSが自動化されることができるまでは、時間の有意な短縮及び初期段階からの手操作省略を行なうことはどうしても必要なことであった。この発明は、これら初期段階の性能向上を正確に達成できるので、初期設定が不要な(turn-key)完全自動化が可能となる。
【0144】
この特許出願の時点で、発明者らは米国政府を代表して、「統合計器方法システム(Integrated Instrument Method System(IIMS))」と称される5相プログラムの開発に携わってきた。これは、軍部及び緊急時の第1応答者によって配備された現場にて化学的及び生物学的測定を行なうこを目標としている。質量分析計として自己校正及び現場配備可能にすることは、この発明に記載された自動化特徴の全てを含んでいる。
【0145】
環境への導入がテロリスト又は産業プロセスのどちらによる場合でも、毒性物質は、種分けされ複合的化学形態で存在し、従来の検査機関での自動化による分析では、検出及び測定ができないことがしばしばある。典型的には、長く、退屈な試料の調製ステップ及び校正ステップと、多くの検出スキームを用いなければならない。これらのスキームは、IIMS型の用途には全く不適である。
【0146】
自動化要請、安全及び検出性能問題に関する対処に関しては、多くのこと又は全てのことが具体化されている。例えば、Applied Isotope Technologies(AIT)社によるIDMS及びSIDMS製品は、環境検査機関、研究所、産業研究所、疾病管理センター等に販売され、水、土、髪の毛、組織、血液及び尿に元々含まれているか又は産業源に由来する毒性化学物質の測定に用いられている。AIT社の製品は、最終の数学的デコンボリューション及び計算を行なえるように、同位体スパイク、濃縮された標準類似体及びソフトウエアを含むIDMS及びSIDMSキットして販売されている。AIT社の製品は、エレクトロスプレーイオン化(液体−液体スプレー)及びガスイオン化(液体−気体)の態様を用いて、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)及びガスクロマトグラフィー(GC)に結合された質量分析計(飛行時間(TOF)及び誘導結合プラズマ(ICP)等)に用いられている。また、迅速なスパイキング及び平衡化並びに同時抽出、スパイキング及び平衡化に用いるために、固相媒体保持同位体タグ又は濃縮標準類似体等の追加の発明についても具体化されている。
【技術分野】
【0001】
この出願は、米国仮出願第60/873,383号、2006年12月7日出願、発明の名称「マイクロ波放射を用いた平衡化法」の優先権を主張する。その内容は本文での引用を以って本願に組み込まれるものとする。
本発明は、濃縮同位体種の固相固定化と、天然種及び標識同位体種の同位体の対象分析物種の平衡化(equilibration)とそれらの同時抽出(simultaneous extraction)、分離及び/又は選択とを用いて、濃縮同位体及び標識種及び天然同位体種の平衡化を改良する方法に関するもので、IDMS及びSIDMSの可搬性(portability)を改善し、効率、平衡化及び自動化を改善する他の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IDMS及びSIDMSは、濃縮同位体平衡に基づいて、種の被分析物(analyte)を正確に測定することができる。同位体希釈質量分析(IDMS)及び種別同位体希釈質量分析(SIDMS)を記載した特許として、例えば、米国特許第5414259号、米国特許第6790673B1号、米国特許第6974951B1号、米国特許第5883349号、米国特許第5830417号、米国特許第7005635B2号、米国特許第7220383号があり、また、米国特許公開第2002/0198230A1号は測定用試料を調製し、試料中に存在する化学種を測定する方法を開示しており、化学種のバルク化学濃度をオンラインで測定なし、感度、精度及び効率の向上が達成される。これら特許の開示は、明示的な引用を以て本願に組み込まれるものとする。
【発明の概要】
【0003】
質量分析を行なう前に、固相同位体比平衡及び測定を用いて濃縮同位体種及び天然同位体種を触媒平衡化(catalyzed equilibration)する方法を開示する。この発明は、対象分析物の確定的(definitive)、定性的(qualitative)及び定量的(quantitative)分析を行なうために、分子、原子及び種分けされた(speciated)試料を定量的及び定性的に調製することに基礎を置くものである。本発明の方法は、固相を利用することで平衡を改善するものであり、この固相は、同時平衡により、液相及び気相よりも多くの利点を有し、当該分野で既知のIDMS及びSIDMSの自動化を可能にする。特徴とする点は、固相を利用したことであり、固定化された濃縮同位体試薬(reagents)、同位体が濃縮された分子製造試薬、固相及び固定化相における平衡プロセスである。アルゴリズムを用いて、濃度が数学的に決定され、質量分析データに校正曲線(calibration curves)を適用しなくても、種のシフトは直接補正される。試料の調製は固相で行われるので、被分析物の平衡及び分離に必要な時間は、従来の液体/熱平衡及び分離プロトコルと比べて、有意に減少する。固相同位体のスパイキング及び平衡化のために作られた試薬及び生成物は、長い期間に亘って安定であるので、現場での試料調製(on-site sample preparation)が可能であり、保存又は輸送中における試薬及び/又は試料の劣化に関連する保管及び流通管理認証の問題が改善される。固相同位体のスパイキング及び平衡化により、試料の調製及び操作ステップの幾つかが排除されるので、現場作業者及び検査機関の分析者にとって、反応性・毒性物質の取扱いを、現場でスパイキング及び平衡化する態様で行なうことができるので、大量の試薬溶液として取り扱う場合よりも安全である。試料の被分析物と同位体が濃縮及び平衡化された試薬の標識は、液相及び/又は気相での分析において溶出するか、あるいは質量分析計への表面イオン化により固相中で直接分析される。固相同位体のスパイキング及び高速の平衡化により、コスト効率が高く、ハイスループットで高信頼性の試料調製並びに高レベルの自動化及びミニチュア化のサブシステムを含む分析システムを作製する能力が向上し、これにより、可搬性にすぐれ、現場配置が可能で、精度が高く、エラー率の少ない、実証的な分析及び検出システムの作製が可能となる。このように現場配置可能であることは、環境科学捜査、国家防衛、産業規制の遵守、生物化学、臨床研究及び臨床診断目的に極めて有用であろう。国家防衛及び安全への適用例として、消失性物質(fugitive agents)について複数地点で飲料水をネットワーク監視すること、軍隊の保護のために、戦場で大気/水/表面を分析することが挙げられる。これらのシステムはまた、人間の疾病の危険性を、環境からの工業的毒性物質及び食物に対する曝露の関数として評価するのに有用であり、これは環境衛生の成長分野である。最終的に、このようなシステムは、自閉症のような病気、幾種類もの癌、アルツハイマー、パーキンソン病及び糖尿病のような免疫変性疾患の発病を予測し、あるいは進行速度を遅らせるツールになるものと考える。上記の両概念を利用した最終的な研究について、以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、SPI-SPEによって平衡化及び分離された含酸素化合物(oxygenates)をGC-MSによって記載され分析された結果を示している。
【0005】
【図2】図2は、表示された含酸素化合物でスパイクされ、GC-MSによって記載され分析されたもので、カラム上で平衡化及び分離されたPAG-5カラムにおける結果である。
【0006】
【図3】図3は、Agilent Evidexを6ml、C-13の同位体的IDMSが予めスパイクされたモルヒネ0.5gを使用し、PSI-SPEカラムに試料モルヒネと平衡化された血清由来のモルヒネである。
【0007】
【図4】図4は、カラム上で天然種と平衡化された同位体濃縮PSI-SPEを用いた1,4-ジオキサン及び1,4-ジクロロエタンである。
【0008】
【図5】図5は、ウェル試料のモニタリングにおける生分解の結果を示している。全ての濃度はppbで表され、誤差は90%CL、n=3である。
【0009】
【図6】図6は、校正標準と校正カートリッジとの対比を示す。試薬水は2ppmでスパイクされ、誤差は95%CL、n=4である。
【0010】
【図7】図7は、校正標準と校正カートリッジとの対比を示す。
【0011】
【図8】図8は、RFの比較を示しており、校正RFとRF=1との対比である。
【0012】
【図9】図9は、マイクロタイタープレート(平面図)であり、8×12(96ウェル)型の質量分析(IDMS及び/又はSIDMS)ELISAであって、濃縮同位体修正された異なる2種類の結合抗原が交互に列をなしている。
【0013】
【図10】図10は、マイクロタイタープレートの表面修正された固相支持体(側面図)であり、濃縮同位体が結合された異なる2種類の抗原が交互に列をなしている。同位体濃縮抗原のうちの一方は、天然同位体試料を用いたELISAの実施に先立って、固体表面の一部として準備される。なお、同位体が予め装填された(preloaded)抗原が固相に存在していない場合は、濃縮抗原と非濃縮抗原は両方とも、ELISAの実施中、抗体に結合されたとき迅速に平衡化される。
【0014】
【図11】図11は、マイクロタイタープレートの表面修正された固相支持体(側面図)であり、抗体の一部には、同位体濃縮抗原が既に結合されている。ELISAの測定は、これら2組の抗原の比に応じて、試料中に存在する同位体濃縮抗原の結合度を測定することによって行われる。
【0015】
【図12】図12は、マイクロタイタープレートについて、サンドイッチシステムを用いて表面修正された固相支持体(側面図)であり、2種類の抗体と抗原の分析は、同位体濃縮抗原を使用し、2つの濃縮同位体スパイクの比を計測している。
【0016】
【図13】図13は、マイクロタイタープレートの表面修正されたSELDIプレート(側面図)を示しており、天然バイオマーカーと同位体濃縮されたバイオマーカーとが2つの分離した列をなしている。
【0017】
【図14】図14は、SELDI又はELISAに用いられた8ウェルの平面図である。
【0018】
【図15】図15は、固相表面修正されたプレートを示しており、該プレートには、結合蛋白質分析物バイオマーカー又はヌクレオチドプローブ(両方とも、濃縮された天然のもの)が高密度マイクロアレイフォーマットに交互に16列に配列されている。定量化は、多変量(multi-variant)バイオマーカー又はヌクレオチド(両方とも、濃縮された天然のもの)を使用し、IDMS及び/又はSIDMSの直接比アルゴリズムを適用することで行なわれる。
【0019】
【図16】図16は、質量分析の読出し図で、血液について、メチル水銀、エチル水銀、無機水銀及び金属水銀に対する、同位体濃縮された特定種のスパイキングを示している。
【0020】
【図17】図17は、質量分析の読出し図で、水試料は、ESI-TOF-MSのポジティブモードにて、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nを含有していることを示している。
【0021】
【図18】図18は、質量分析の読出し図で、水試料は、ESI-TOF-MSのネガティブモードにて、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nを含有していることを示している。
【0022】
【図19】図19は、ポジティブイオンモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3のアジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てがm/z88、同位体のピークは全てがm/z89である。
【0023】
【図20】図20は、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第1アジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てが107、混合物のピークは108、同位体のピークは全てが109であり、定量化のための比は1:2乃至1:3である。
【0024】
【図21】図21は、質量分析の読出し図で、分子種と定量化のこの組合せで表される多くの同時比率は、定量化のために複数の式と複数の比がが必要であることを示している。得られたグラフは、ネガティブモードで、DI H2O中、20ppmのNaN3と20ppmのNaNN15Nの値である。各グラフはアジドのピークが2以上ある。
【0025】
【図22】図22は、質量分析の読出し図で、天然アジドNa3(N3)4-(一番左のピーク)と、N15同位体及び比を種々変えたアジドNa3(N3)4-の類似体で3つの対応する同位体濃縮標識類似体との間での新たな比率関係と複数のピークを示している。このグラフは、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第3アジ化ナトリウムイオンの1つを拡大したもので、天然物のピークは全てが237であり、混合物のピークは238、239及び240であり、(2×15N)同位体のピークは241である。
【0026】
【図23】図23は、ネガティブモードで20ppmのNaNN15Nでスパイクされた20ppmのNaN3の第4アジ化ナトリウムイオンの1つについての質量分析の拡大図で、天然物のピークは全てが302であり、混合物のピークは303、304、305及び306であり、同位体のピークは全てが307である。
【0027】
【図24】図24は、ポジティブモードで100ppmのK13C15Nでスパイクされた100ppm(μg/g)のKCNの第4シアン化カリウム種イオンについて、ナノESI-TOF-MSによる拡張された質量分析の読出し図で、天然物のピークは全てが299であり、同位体濃縮シアン化カリウムのピークは301、303及び305であり、同位体のピークは全てが307であって、各々は同位体及び天然の炭素と窒素との混合が注釈されている。
【0028】
【図25】図25は、固相スパイキングと平衡を示すフローチャートである。
【0029】
【図26】図26は、濃縮同位体のスパイキングと平衡化の方法を示すフローチャートである。
【0030】
【図27】図27は、同位体の理論的オーバレイと、ESI-TOF-MSをm/z338(ESI-TOFによるメチル水銀とシステイン)で使用したメチル水銀のスペクトル測定値とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この明細書において、定量的に分析されるべき種を含む試料に関して「種(species)」という語が用いられるが、この語は、化学種、イオン種、分子種、有機種等の錯体種、有機金属種、金属含有蛋白質等の複合種、異質及び均質な炭素種の他、本発明の化学的定性的及び定量的種別分析に適した他の種を含むあらゆる種を意味するものとする。
【0032】
{課題及び解決に関する説明}
現在、試料の調製は、測定に先行して行われなければならない。IDMS及び/又はSIDMS(特定種同位体希釈質量分析計-SSIDMSを含む)のどれを使用する場合も、最初に、濃縮同位体種と被分析種の天然種との平衡化を達成することが必要である。もしこのステップに数日あるいは数時間かかり、機器分析及び自動化の時間がほんの数秒で済むのであれば、IDMS及び/又はSIDMSの自動化で使用することを妨げる時間差があるということである。もし試料を抽出、分離、あるいは操作をしなければならない場合、自動化可能な方法は、平衡化の速度を速めると共に抽出及び/又は分離を実行することが必要である。IDMS/SIDMSの平衡化及び自動化の促進により、効率の最適化、再現性及び時間節約がもたらされるが、前記の方法では、これまで具体的に達成されていない。本発明はこの課題に取り組んだ結果、毒性物質取扱いの安定性及び安全性を得ることができた。このことは、国土防衛、国土安全、環境及び環境科学捜査、生命科学並びに産業規則の遵守等の分野で適用する上で特に重要なことである。
【0033】
天然で安定な濃縮同位体種の類似体(さらには、放射性種についても)の平衡化は、同位体希釈(ID)と種別(speciated)同位体希釈(SID)を使用して、質量分析計で同位体比を求めるのに必要である。同位体希釈と種別同位体希釈を用いると、定性的及び定量的な質量分析を直接行なうことが可能となり、分析対象種について非常に正確な分析的定量分析を達成できる。このように、高精度で不変の同位体濃縮種及び天然同位体種の平衡化は、質量分析計による同位体希釈及び種別同位体希釈法の適用前に行われることが絶対的条件である。現在実施されている平衡化は、標準の熱的方法を用いて数時間あるいは数日を要する。これら従来法の例の幾つかを後で説明する。濃縮同位体溶液は、希薄であるため、安定性を有しないか、あるいは溶液中の複数種は使用前に濃縮同位体と相互作用する可能性がある。濃縮同位体は、安定した濃度で安全に輸送することはできない。本発明の前までは、IDMS及びSIDMS法は、高等教育を受け、技能及び経験を持つ一部の人々のための手段に過ぎなかった。経験や技術が不足する人々には、定量化を達成するためにどのようにして適切に種を抽出し、スパイク及び平衡化すればよいかが分からないことがある。経験不足の分析者にとって、輸送、保管、取扱い、現場での使用、検査機関(laboratory)での使用、量的移送、試料との平衡化、被分析物の抽出、被分析物又はマトリックスの分離、被分析物の濃度計算が問題になることがあった。本発明は、濃縮同位体スパイクの安定性、スパイクされた分析対象種、使い易さ、平衡化及び自動化を含む重要手順の信頼性を改善する方法を提供するものである。本発明により、最小限の技術しかもたない作業者でもIDMS及びSIDMSの使用が一般的に可能となり、大量の試料について、迅速かつ信頼性の高い分析がしばしば必要とされる民間検査機関のハイスループットな要請に応えるものである。
【0034】
マトリックスから被分析物を分離するのに固相吸着剤を使用することは、19世紀半ば頃に近代クロマトグラフ分析法が開発されて以降から知られている。この明細書に開示するように、濃縮された安定な同位体種を平衡化して、マトリックスと被分析物を分離するのに固相吸着剤を使用すると、IDMS及びSIDMSの適用性及び有用性を高めることができるが、これまで、このようなことは行われていなかった。本発明では、様々な異なる特性を有する固相材料を使用して、濃縮同位体種を保持し(hold)、保持された濃縮同位体種を試料の調製、保管あるいは安全目的のために検査機関や現場に送給するもので、スパイクは、操作を必要とする試薬溶液の中ではなく、固相中に既に存在している。濃縮同位体種を保持するのに用いられる固相は、被分析物種を抽出するのに用いられることもできる。
【0035】
本発明に用いられる固相は、イオン交換、吸着媒体、固相抽出樹脂、樹脂結合固相、表面改質フィルター、固定化液体抽出(ILE)に用いられる二状態液体(dual-state liquids)、そして固相マイクロ抽出(SPME)等によるファイバーからなる群から選択される。同位体濃縮分子あるいはイオン種は、固相、クロマトグラフィー又は抽出材料に対して、化学的又は物理的に、安定化され、又は捕獲され、又は保持される。分析対象の種が含まれる試料は、対象である天然試料材料と共に添加され、使用される媒体の適当な機構により、種は媒体に保持される。このプロセスは、平衡関係で溶出した濃縮種と天然種の両方の種と逆転されることができる。この場合、種は平衡化されるようになり、対象種が固定相又は固相抽出媒体若しくはクロマトグラフィー媒体から溶出されると、試料混合物は、ID及びSID質量分析に直ちに使用可能な平衡化同位体濃縮材料と天然同位体材料との複合物である。これらの場合、イオン化法は、溶液又は気相に対して特異的であり、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、ナノESI、大気圧化学イオン化(APCI)、電子衝撃(EI)、誘導結合プラズマ(ICP)、マイクロ波誘導プラズマ(MIP)及びその他のイオン化法がある。両方の種は、分子が同じで化学的性質及び親和性は同じであるが、同位体比が異なるので、本発明では、平衡化を遅延、抑制又は妨害するマトリックスを取り除き、平衡状態を作り出す両被分析物の固相媒体上に前記マトリックスを載置することにより、溶出した溶液中での平衡化速度を速めるものである。希薄すぎるため、固相支持材料がなければ輸送できないか又は不安定となるような少量又は低濃度の場合でも、本発明の一実施例では、現場又は現場に近い位置での使用が可能である。他の実施例において、濃縮同位体と天然のものが平衡化された被分析物は固相支持材料上に生成するから、固相上で平衡化された試料の種を分析現場へ輸送又は搬送することが可能である。被分析物は、ここでは、濃縮物及びニュートラルの両方とも平衡化されているが、将来のいつかに溶出されるか、又は後の分析のためにアーカイブとして保管される。この実施例は、輸送、貯蔵又はアーカイブ保管ができるように、安定状態で保存される平衡化スパイク及び天然試料を作るものである。
【0036】
他の実施例では、平衡化された被分析物に固相を利用し、対象とする濃縮及び天然の被分析物を表面イオン化することにより、直接、イオン化を誘起するものである。表面イオン化のためのイオン化法として、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、レーザー切断(LA)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、免疫化学的分析(ICA)、表面強化レーザー脱離イオン化(SELDI)がある。
【0037】
固相分離及びハイスループット自動化が行なわれる前に、溶液中の種の平衡化速度を速める方法は、マイクロ波強化化学的方法によるマイクロ波平衡化の促進であり、これは熱伝導法及び熱対流法とは対照をなす。例えば2450MHzのマイクロ波帯域から選択されるマイクロ波エネルギーは、あらゆるイオン及び永久双極子に分子回転及びイオン伝導をもたらして、表面からの脱離が速められ、天然種及び濃縮同位体種の類似体(analogues)のイオン平衡及び分子平衡が促進される。これらは、抽出及び分解等の試料調製ステップ中に実行される。このように複合化された試料調製処理により、種の一様な平衡化を、同時に、かつ、はるかに短い分析サイクル時間(試料の調製、操作、分析)にて実現できる。この同時抽出及び平衡化は、固相抽出での平衡化ステップ(上述)と組み合わせることで、両プロセスが促進される。分析サイクル時間が24時間から600秒より短い時間にまで短縮することできる例もいくつかある。この複合化された同時抽出・平衡化ステップは超高速反応を可能にし、これによって、病院、診療所及び民間検査機関におけるハイスループットな適用の自動化や、自国の安全保障・防衛等の設定において略リアルタイムの適用に必要な条件を充足させることができる。
【0038】
これらの新たな改善は、複数の実施例において具体化されており、それらをこの明細書の中に記載する。
【0039】
ここに開示する主たる方法は、濃縮同位体標識、濃縮同位体種−類似体、天然種−類似体について、予め吸収された固相固定化し、これを用いて、分析対象種の平衡化を迅速に行なうことであり、溶液中又は気相状態の同位体種について、マイクロ波印加により化学的有意に加速された平衡化を行うことである。
【0040】
固相分離とマイクロ波印加による化学的方法自体は既に知られているが、IDMS及びSIDMSを行なうために、平衡化、安定化、現場での使用、自動化、並びに平衡化された種の保管及び送給の効率を促進するために用いられたことはこれまでなかった。
【0041】
IDMS法及びSIDMS法は、同位体比の測定を利用するものであるから、校正曲線、機器の安定性及び検出器の信号ドリフトに関連する問題は排除される。それゆえ、これら2種類の同位体希釈法における重要なステップは、同位体濃縮スパイクと試料内に存在する被分析物の平衡である。平衡が達成されると、スパイクされた(同位体標識されるか又は濃縮された種−類似体)材料は、理想的標準として作用する。これは、同位体比だけが測定され、外部校正は必要でないことによる。これにより、標的被分析物について正確かつ再現可能な測定を常に確実に行なうことができる。IDMS及びSIDMSの理想標準としてのスパイク物質の役割は、質量分析検出中における機器ドリフト及びマトリックス効果に関連する問題を排除することでもある。種からの全ての同位体は全く同じ方法においてこれらの問題を抱えているからである[Ruiz Encinar, J.; Rodriguez-Gonzalez, P.; Garcia-Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Trenes in Analytical Chemistry, 2003, 22(2), 108-114を参照]。
【0042】
もしスパイクが試料と完全に平衡化されていなければ、そのスパイクに対しては抽出効率が異なることになり、測定誤差が生じる。液体試料の場合、平衡化の際に緩やかな撹拌で十分であるが、固体試料の場合は、被分析物は表面に吸収されると共に試料マトリクスの格子内部にも含まれることになるので、平衡化に問題のあることは分かっている。対象の種が固相試料中に存在し、添加されたスパイクが溶液中にある場合、同位体平衡化を確実に行う方法は、元の種を、固体から適当な溶媒へ定量的に抽出することであり、そこでは液体スパイクとの平衡化は単純である[Rodriguez-Gonzalez, P.; Marchante-Gayon, J.M.; Garcia-Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Spectrochimica Acta, Part B, 2005, 60, 151-207を参照]。
【0043】
Cloug,R.らは、スパイクと、全水銀及びメチル水銀の分析用試料との平衡化について、2種類の認証基準材料における時間効果を実施した。彼らの研究過程での観察結果によれば、スパイクを試料に添加して、高濃度の硝酸又は水:エタノールが50:50(v/v)で0.01%の2-メルカプトエタノールを用いて室温(25℃)で最大3000分間撹拌した場合は、平衡化プロセスが100%に達することは決してないということである。一方、平衡化の達成が可能であるのは、混合物が家庭用電子レンジで650Wで2分間加熱した場合のみである。しかしながらこの場合は、マイクロ波による分解及び/抽出前に平衡化できるように、スパイクされた試料は室温で24時間維持されることになる[Clough, R.; Belt, S.T.; Evans, E.H.; Fairman, B.; Catterick, T. Anal. Chim. Acta, 2003, 500, 155-170を参照]。
【0044】
Yang,Luらは、熱対流と熱伝導によるクロム種の平衡化には6時間以上を要するので、分析工程は1日遅延することを見い出した。彼らは、95℃でのアルカリ条件を用いているが、これは、EPA3060A抽出法と化学的に同じである。
【0045】
正確な同位体希釈分析には、スパイクと対象分析物との間で同位体平衡が必要である。スパイク及び被分析物、有機スズ及びモノメチル水銀について、迅速な可溶化及び安定化と迅速な平衡化を実現するために、生体試料に対して、焦点を絞った(open focused)マイクロ波支援抽出法が適用された。可溶化及び安定化は、70℃で5分以内に完了した。次に、GC-MSのキャピラリークロマトグラフィーカラムについて9分間の分離が行われた[Monperrus, M.; Rodriguez Martin-Doimeadios, R.C.; Scancar, J.; Amouroux, D.j Donard, O.F.X. Anal. Chem. 2003, 75, 4095-4102; Moreno, MJ.; Arjona, J.P.; Rodriguez-Gonzalez, P.; Homme, H.P.; Amouroux, D.; Donard, O.F.X. J. Mass Spectrom.2006, 41, 1491-1497を参照]。
【0046】
Rodriguez-Gonzalez,P.らは、例えば、マイクロ波支援抽出、機械振動(machine shaking)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)によるアルカリ加水分解、生体物質由来のブチルスズ化合物の酵素消化等の異なる抽出法に関する研究を行なっている。彼らにより、TMAH及び酵素消化について、広範囲に亘る種の分解と平衡不足が観察されている。また、酢酸メタノール混合物を用いたマイクロ波支援抽出が、分解の低さ、同位体平衡化の迅速性及び定量回収の点で最も良い結果が得られたことが報告されている。彼らはまた自身の研究の中で、必要とされる同位体平衡化の完全達成は、自然発生した有機スズ化合物が固体マトリクスから溶液に完全に放出された後にのみ実現されたことを報告している[Rodriguez-Gonzalez, P.; Garcia Alonso, JJ. ; Sanz-Medel, A. J. Anal. Atom. Spectrom. 2004, 19, 767-772を参照]。
【0047】
ムール貝(mussel)の組織の生体外(in vitro)での胃腸消化が、3種類のブチルスズ化合物に対する種特異性同位体希釈分析との組合せにおいて実施された。しかしながら、内因性種と濃縮同位体スパイク種との間で同位体平衡化の不足に由来するあらゆる問題を回避するために、同位体へのスパイクは消化プロセスの後に行われている[Rodriguez-Gonzalez, P.; Encinar, J.R.; Garcia Alonso, J.I.; Sanz-Medel, A. Anal. Bioanal. Chem. 2005, 381, 380-387を参照]。
【0048】
カワノらは、生体試料中のセレニウム測定において、スパイク平衡化に対して異なる加熱パラメータの研究を行なっている。彼らはスパイクを被分析物試料と平衡化するために熱分解段階直前に、インサイチュー溶解を行なっている[Kawano, T.; Nishide, A.; Okutsu, K.; Minami, H.; Zhang, Q.; Inoue, S.; Atsuya, I. Spectrochim. Acta, 2005, 6OB, 327-331を参照]。
【0049】
Valkiersらは、質量分析計による比の測定に際し、質量分析計内部の気相中の二酸化炭素ガス混合物における炭素及び酸素の同位体について研究を行なっている[Valkiers, S.; Varlam, M.; Rube, K.; Berglund, M.; Taylor, P.; Wang, J.; Milton, M.; De Bievre, P. International Journal of Mass Spectrometry, 2007, 263, 195-203を参照]。
【0050】
ChenZ,とその共働者達は、ヒト血清中のカルシウム同位体平衡化に対する時間と酸濃度の影響について研究を行なっている。この科学文献では、既知の試料を1時間以内で平衡化するには、少なくとも0.22モル/HNO3が必要であり、未知の試料の場合は、少なくとも6時間が好ましいことが報告されている[Chen, Z.; Griffin, IJ.; Kriseman, Y.L.; Liang, L.K.; Abrams, S.A. Clinical Chemistry, 2003, 49(12), 2050-2055を参照]。
【0051】
Hunkeler,D.とAravena,R.は、塩化メタン、エタン及び水性試料中のエタンにおける炭素同位体比の抽出及び平衡化のために、直接固相マイクロ抽出(dSPME)及びヘッドスペース・マイクロ抽出(hSPME)について研究を行なっており、炭素同位体比は、dSPMEとhSPMEにより、水性相及びSMPEファイバー上で少なくとも0.40外れることを明らかにした。一方、ヘッドスペース法の平衡化では、気相中の分子は水性相の分子と較べて最大1.46まで13C濃度が濃化された[Hunkeler, D.; Aravena, R. Environ. Sci. Technol. 2000, 34(13), 2839-2844を参照]。
【0052】
Crowther,John R.は、ELISAのガイドブックの中で、蛍光発光などの光学的方法によって、蛋白質、抗原及び抗体を同定し、それらを標準的な質量分析法で得られた結果と比較するために、ELISAの固定相をどのように使用すればよいかを明らかにしている。このガイドブックには、ELISA法について、同位体の質量分析法によって被分析物を測定することは一切記載されていない。文献には、ELISAと従来の質量分析との比較は一般的に行われているが、定量化のためにELISAのIDMSとSIDMSを用いることは行われていない[The ELISA Guidebook by John R. Crowther, Humana Press New Jersey, 2001を参照]。
【0053】
<発明の概要>
質量分析を行なう前に、固相同位体比平衡と測定を用いて、濃縮同位体種と天然同位体種の触媒平衡化を行なう方法について開示する。本発明が基礎とするのは、対象とする分析物について確定的、定性的及び定量的な分析を行なうための試料の調製であり、該試料は、分子であり、元素であり、種分けされ、定性的及び定量的である。この方法は、液相や気相よりも多くの利点をもつ固相を利用することにより、同時平衡化を通じて平衡化を改善するもので、当該分野で公知のIDMS及びSIDMS分析の自動化を可能にする。特徴とする点は、固相と固定化された同位体試薬、同位体濃縮分子で作製された試薬を使用することであり、固相及び固定化相での平衡化プロセスである。質量分析データに適用される校正曲線は用いずに、アルゴリズムを用いて、濃度を数学的に決定し、種のシフト校正を行なうものである。固相で試料の調製を行なうので、被分析物を平衡化し分離するのに要する時間は、従来の液体/熱平衡及び分離プロトコルと比べて有意に短縮される。固相同位体のスパイキング及び平衡化のために作られた試薬と製品は、より長時間にわたって安定である。従って、現場で試料調製を行なうことが可能であり、また、保管又は輸送過程における試薬及び/又は試料の劣化に関連する一連の管理保証(storage and chain of custody)問題が改善される。現場でスパイキング及び平衡化を行なう場合、現場作業者や検査機関の分析者達にとっては、固相同位体のスパイキングおよび平衡化を行なうことにより、試料の調製および操作ステップの幾つかを排除できるので、大量の試薬溶液の場合よりも、反応性・毒性物質の取扱いをより安全に行なうことができる。分析用試料と同位体が濃縮および平衡化された標識試薬は、溶出されて液相および/又は気相で分析が行われるか、あるいは質量分析計内の表面イオン化により固相中で直接分析される。固相同位体のスパイキングおよび高速平衡化により、コスト効率が向上し、ハイスループットで高信頼性の試料調製並びに高レベルの自動化およびミニチュア化のサブシステムを含む分析システムを作製する能力が向上し、これにより可搬性に優れ、現場配置が可能で、精度が高く、エラー率の少ない、実証的な分析および検出システムの作製が可能となる。このように現場配置が可能であることは、環境科学捜査、国家防衛、産業規制の遵守、生物化学、臨床研究および臨床診断目的に極めて有用であろう。国家防衛および安全保障への適用例として、消失性物質について複数地点で飲料水をネットワーク監視することや、軍隊の保護のために、戦場で大気/水/表面を分析することが挙げられる。これらのシステムはまた、人間の疾病の危険性を環境や食物からの工業的毒性物質に対する曝露の関数として判断するのに有用であり、これは環境衛生の成長分野である。最終的に、このようなシステムは自閉症のような病気、幾種類かの癌、アルツハイマー、パーキンソン病および糖尿病などの免疫変性疾患の発病を予測し、あるいは進行速度を遅らせるツールになるものと考える。上記の両概念を利用した最終的な研究について、以下に記載する。
【0054】
{発明の詳細な説明}
前記課題は、Luらの最近の文献の中に、酵母中のCr(VI)及びCr(III)に対する同位体平衡の時間が12時間以下であることが記載されている。このデータは、本発明の課題を直接解決することを示している。この文献は、同位体と天然種を平衡化するのにマイクロ波と標準熱方法を使用するときの差異が当業者には理解されていない、と記載している。この文献は、EPA方法6800の使用と成功を論じているが、発明者らはさらなる改善を加えるものである。
【0055】
さらなる適用例として、反応をスピードアップさせるために、マイクロ流体デバイスにマイクロ波を実装することが記載されており、これは、より短い時間枠及び高速反応による反応迅速化の要請と一致する。アジレント(Agilent)のチップキューブマイクロ流体デバイスを以下に示すが、これは、例えば、このデバイスのある部分に例えば同軸マイクロ波を放射することで、例えば反応速度、抽出及び/又は平衡を高めることができる。カラムが予め吸着されたスパイキング及び/又はマイクロ波強化を利用したマイクロ流体工学は全て、本発明に包含される。
【0056】
幾つかの元素種及び分子種は、試料のサンプリングから、貯蔵、校正及び測定プロセスの間に転換して他の種を生成する。即ち、劣化した種を他の種に転換する。ところが、これまでの校正は、これらのうちの多くの場合に不可能である。また、定量分析の精度は、例えば、内部標準、標準追加及び同位体希釈等のように用いられる校正プロトコルの種類に依存し、異なる校正技術の使用を通じて、固定誤差及びランダム誤差の両方が導入される。もし次の仮定が正しい場合、外部校正曲線を用いると正確な結果が得られる。その仮定とは、校正標準と試料とが同じマトリクスであること、校正が直線的であること、分析者が所定の誤差範囲内で正確に校正標準を調製したこと、誰が調製した場合でも標準の安定性が知られており、時間、マトリックス、濃度、温度/湿度及び容器材料についてこれら画定された制限内でのみ使用されること、校正の不確かさをさらに悪くするのは未知の測定だけであること、スペクトル及び/又は質量の干渉がないこと、分析用に調製された試料は正又は負の汚染誤差を含まず、サンプリング誤差がないこと、及び、内部標準は試料被分析物と全く同じように作用する(behave)ことである[Gonzalez-Gago A et al, J. Anal. At. Spectrom., 2007, DOI: 10. 103/b705035f; Brown R. J.C., et a], Anal. Chimica Acta, 2007, 587(21), 158-163を参照]。
【0057】
ICP-MSがもたらす結果は5〜10%の範囲で最大精度(即ち、複合マトリックス)である。外部校正に関連する主な問題は、溶液中の被分析物の安定性、試料調製の精度、校正標準の純度、内部標準の選択、機器の不適切なセットアップ、総溶解固形分、非スペクトル的干渉、マトリックスマッチング、標準添加、試料導入、クロマトグラフィー分離、機器の経時的ドリフト、噴霧効率、液滴サイズ、溶液の物理的特性、溶液中の酸分、分析者の知識/経験不足、バックグラウンド補正、質量バイアス、デッドタイム、同重体干渉、多原子干渉である[Vicki, B. Preparation of Calibration Curves: A guide to best practice, LGC, September 2003を参照]。
【0058】
信号強度の一時的変化並びに試料中の分析信号の体系的変化及びマトリクス効果による標準を効率よく補正するために、内部標準の物理的特性はそれらが適用される同位体の物理的特性と注意深く適合させなければならない[Hsiung Chiung-Sheng, et al, Clinical Chemistry, 1997, 43(12), 2303-2311; Entwisle, J. American Laboratory, March 2004, 11-14; Eickhorst, T.; Seubert, A. J. Chromatogr. A, 2004, 1050, 103-109を参照]。
【0059】
標準添加技術は、マトリックスが非常に変化しやすい場合および/又はプラズマ関連効果を補正する内部標準が存在しない場合に用いられる。標準添加技術は、プラズマ関連効果によるマトリックス干渉に対してよりすぐれた可能解決策にはなるが、この技術には線形応答を必要とする。それゆえ、被分析物の各々に対して線形範囲内で機能させることが極めて重要である[Bonnefoy, C. et al, Anal. Bianal. Chem. 2005, 383, 167-173; Melaku, S. et al, Can. J. Anal. Sic. Spectres., 2004, 49(6), 374-384; Panayot, K. et al, Spectrochim. Acta, Part B, 2006, 61, 50-57を参照]。
【0060】
蛋白質バイオマーカーは人間の疾病、特に癌に対する研究および臨床管理において多大な影響を及ぼしてきた。蛋白質バイオマーカー発見にプロテオミクスとゲノミクスを適用することで、何百ものバイオメーカーを1回の発見努力で同定することができた。しかしながら、これら発見ツールがこれまで期待通りに実現されていないのは、定量化と臨床検証が不十分なためである。機能的酵素結合免疫吸着法(ELISA)は、標的分析物の定量化に対する感度と特異性に極めて優れており、ハイスループットで用いられることができる。ELISAは現在、比色・蛍光リーダーを基づいて定量化が行われており、クロマトグラフィー及び質量分析と比較はされているが、これらと組み合わせられたことはない[Whiteaker, J.R.; Zhao, Lei; Zhang, H. Y.; Feng, L.C.; Piening, B.D.; Anderson, L.; Paulovich, A.G. Analytical Biochemistry, 2007, 362, 44-54を参照]。
【0061】
Martens-Lobenhoffer,J.らは、人間の血漿および血清サンプル中の非対称性ジメチルアルギニン濃度(ADMA)の測定に対する評価を、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC-MS)を用いて行ない、その結果を標準の比色ELISA法で得られた結果と比較した。この論文では、ELISAから得られた数値はLC-MSよりも高かったことが報告されており、ELISAはマトリックス依存性であると結論づけられている。彼らはまた、ELISAは血漿内のADMA濃度を2倍多く測定値として表れていたことを記載している[Martens-Lobenhoffer, J.; Westphal, S.; Awiszus, F.; Bode- Boger, S.M.; Luley, C. Clinical Chemistry, 2005, 51, 2188-2189を参照]。
【0062】
Charissou,A.らも、食物サンプル中のカルボキシメチルリジン(CML)の定量化におけるELISA法について検討し、その結果をガスクロマトグラフィー/質量分析(GC-MS)の結果との比較を行なっている。彼らの研究では、GC-MS定量化のために、従来の内部標準と同位体希釈内部標準の両方が使用され、標準のELISAとの比較が行われている。彼らの報告によれば、ELISAは迅速かつ低コストな方法あるが、粉末試料に用いられた場合はGC-MSと較べて検出限界が低いということである。また一方では、液体と加水分解された乳児用調製物のような複合マトリックスに両方の検出方法を用いると、ELISA法は特異性が不十分で、マトリックス干渉の危険性が高いことが示されている。その他の点では、二つの方法は粉末ミルクサンプルにおいて同様な結果を示した。彼らはまた、ELISA法では、肉製品や揚げ物などの高脂肪分含有サンプル中のCML濃度が過大に表れており、同じものが、GC-MS又はHPLCではCMLは全く含まれていないか、又は低濃度であったことを報告している。ELISAでは、脂質マトリックスについて非特異性干渉(unspecific interferences)である可能性がある[Charissou, A.; Ait- Ameur, L.; Birlouez-Aragon, I. J. Chromatogr. A, 2007, 1140, 189-194.]。同じような知見は、Scholl, P.F.らによっても報告されており、彼らは、人体中のアフラトキシンB1血清アルブミン付加物の測定を、同位体希釈質量分析法および従来のELISAにより行なっている。ELISAで測定したAF-アルブミン付加物の濃度と、IDMSで測定されたアルブミン2mg中のAFB1-リジン付加物の濃度とは親密な相関性があったことが報告されている。しかし、ELISAで測定されたAF-アルブミン付加物濃度はAFB1-リジン付加物濃度よりも平均で2.6倍も高かったのである。彼らはこの論文の中で、ELISAでは、AFB1-リジン以外の他のAF付加物についても測定されているのではないかとの仮説を立てている[Scholl, P.F.; Turner, P.C.; Sutcliffe, A.E.; Sylla, A.; Diallo, M.S.; Friesen, M.D.; Groopman, J.D.; Wild, CP. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006, 15(4), 823-826を参照]。
【0063】
Wolthers, B.G.らは、ヒトの尿からメタネフリン(MA)とノルメタネフリン(NMA)を測定するのにELISA法を使用し、その結果をGC-MSで得られた結果との比較を行なっており、GC-MSは、内部標準と校正曲線が用いられているが、IDMS分析としてのGC-MS内部標準は用いられていない。彼らは、ELISA法で尿内のMAを定量化することは可能であり、クロム親和性細胞種の診断に役立てることができると結論づけている。また彼らは、この簡便なELISA法はどの臨床検査室においても実施できることを提言し、やがては現在実施されている、より複雑なクロマトグラフ法にとって代わるであろうと期待を寄せている[Wolthers, B.G.; Kema, I.P.; Volmer, M.; Wesemann, R.; Westermann, J.; Manz, B. Clinical Chemistry, 1997, 43(1), 114-120を参照]。
【0064】
例示した文献を見ると、研究者らは、ELISAで調べた異なる試料を、多くの質量分析(例えば、GC-MS、HPLC又はIDMS)を含む他の検出法による結果との比較を行なってはいるが、ELISAを質量分析法に向けることについてはこれまで行われていなかったことが伺える。
【0065】
国家防衛及び国家安全保障又は環境科学捜査などに用いられることができる、完全統合された現場/検査機関の例は、別のセクションに記載し、これらの要素全てがどのように組み合わされるかについてはセクションIIIに記載する。
【0066】
{固相平衡、抽出及び分離方法}
<SCFカラムに結合された濃縮種>
発明者の1人は、EPA3200法の調製において、国際原子力機関(IAEA-085)から入手した髪の毛の水銀種の認証基準物質の試料を添加する前に、スルフヒドリル化コットンファイバー(SCF)固相カラムに吸着又は化学的に付着された同位体濃縮水銀種に関する調査を行なった。この調査結果のデータは、固相にスパイキング及び平衡化する発明及び新規な方法の有効性を明らかにする。結果について、SCF固相が異なる水銀種及びスルフヒドリル基と共有結合する前に溶液中で平衡化が行われる従来のIDMS及びSIDMS法と比較した。試料は、両方とも、抽出され、マイクロ波エネルギーでスパイク平衡され、次に、予め吸着された固相種同位体スパイキングと比較した。両方とも正確なデータであることがわかった。ここに記載した供試例は、2組のIAEA-085基準物質のヒトの髪の毛を同一資料として処理することを含んでいる。表1は、従来のEPA6800法SIDMSを実施したときのデータであり、試料は、マイクロ波エネルギーで抽出する前に、同位体濃縮メチル水銀でスパイクした。表2は、同じ標準試料(IAEA-085)からのデータであり、EPAマイクロ波抽出法であるEPA3200法を使用し、スパイクされることなく、第1の新規な方法で処理してメチル水銀を抽出し、次に、SCFカラムに加えたものである。ここでは、スパイクは、現在の技術水準の化学的手順で行われているように、溶液中ではなく、カラム中の流入媒体層(flow-through medium)として装填された固相内で平衡化させた。
【表1】
【0067】
誘導結合プラズマ質量分析計(HPLC-ICP-MS)と結合された高性能液体クロマトグラフィーを用いて分析及びデータ比較を行なった。両プロセスとも、回収率は100%であり、IAEA-085標準基準物質の認証値との比較において同じ精度を達成した。これらのデータは、濃縮同位体スパイク又は濃縮種類似体を送達するステップ、それらをIDMS及び/又はSIDMS用の種と平衡化するステップの重要なステップについて有意の促進を示し、本発明の利点を示している。水銀種の平衡化は、カラムにて、又は溶出ステップ中及び/又は抽出ステップ中に起こる。
【表2】
【0068】
抽出後、抽出物をSCFカラム(スパイクされていない)を通過させて、メチル水銀から無機水銀を分離した。本発明は、種分離目的のためにも同様に固相物質を用いることができ、二つの用途が可能であることを示している。溶離物(溶離物1はメチル水銀に対するもの、溶離物2は無機水銀に対するもの、EPA法3200プロトコル)は両方とも、HPLC-ICP-MSで分析した。デッドタイムと質量バイアスが校正された同位体比を決定し、従来のIDMSを用いて、前記同位体比から無機水銀及びメチル水銀の濃度を算出した。表1と表2は、前記2つの方法について、認証値と測定値との間に有意な違いはなかったことを示している。
【0069】
表2の結果から、この調査では統計学的に区別できないデータが得られたこと、その結果は、表1の95%信頼区間(CI)で認証値と重複していることが観察される。さらに、2つの調査で得られた結果は、認証値とも、また互いに対しても、統計学的に区別することができない。それゆえ、自然に豊富な水銀種と濃縮水銀種とのオンカラム平衡が実現可能であり、具体化されたことを結論づけることができる。この技術は、科学文献に記載された従来のIDMS及びSIDMSと同等で、バイアスがなく正確な結果をもたらす。しかしながら、濃度については溶液の安定度よりも低く、現場から遠隔の検査機関又は低濃度場所への物質の輸送が制限されるので、IDMSとSIDMSの両方を実施する上で、予めスパイクされた固相材料又は該固相材料に結合された濃縮種−同位体が有効な方法である。
【0070】
{標的分子としてのアルキル分子のGC-MSにおける固相スパイキング及び平衡化}
<現場IDMSでGC-MSによる固相安定同位体の例>
分析的プロセスの幾つかの態様は、現在利用可能な先進的検出技術への対応ができていない。それらの中でも主なものは、現場サンプリング(試料の収集)、流通過程の管理(検体の損失を最少にするか又はなくすことができる、試料の容器への格納、輸送及び保存)及び検査機関の分析(試料の調製)である。分析化学の進歩により、検出限界が水溶液標準の安定性よりもはるかに低い1兆分の1もの低さをもつ機器が開発されている。クロマトグラフ装置技術の多くは成熟し自動化されているが、試料の調製については、依然として、時間がかかり、大きな労働力を要し、検査機関のプロセスにおいて連続的に行われることもある。各々の分析のために、大量の試料を入手し処理することは、現在のやり方では、労力と時間を要し、費用が高く、迅速輸送及びハイスループット分析を実現することができない。濃縮スパイクを固相送達する本発明を適用すれば、工程数が低減され、水、空気、薬物、農産業試料、生物学的試料及び臨床試料の現場サンプリングを改善させることができる。
【0071】
固相抽出(SPE)カートリッジには、固相材料に予め吸着され、安定同位体で標識された種の類似体が詰め込まれている。修正された(modified)SPEカートリッジは、現地抽出用として設計され、特に、特定の被分析物グループ用に作られている。調製された抽出カラムは、適当な吸着剤、層深さ(bed depth)、校正されたリザーバ容積及び同位体標識類似体を以て作られる。現場抽出が可能で単純化されるので、試料の取扱いを最少にすることができる。現場抽出後、SPEカートリッジは検査機関に送られ、そこで、同位体標準及び被分析物は、有機溶媒を用いた溶出によって脱着される(desorbed)。この方法では、被分析物び同位体標準は、輸送及び保存中、マトリックス無しで固相媒体に固定化されるので、変性及び分解を受け難い。分析は、内部標準定量化を用いたGC-MS又は同位体希釈定量化によって行われる。このサンプリング及び抽出プロトコルは単純であるので、環境分析に対する効率的なアプローチが可能となり、安定性を向上させ、現場サンプリング及び分析の精度、正確性及び耐久性を高めることができる。品質保証及び品質管理レベルの向上は、全体的なプロセスにおいて得られる。
【0072】
現場(on-site)SPEは、経験の浅い者でも、現場及び検査機関において実行可能な抽出方法である。この方法は、抽出及び/又は固相に濃縮同位体種を用いることで、高度な訓練を行なうことなく、予めスパイクされたSPEカートリッジを用いて、安価に、比較的簡単に、手操作又は自動にて抽出を行なうことができる。例えば、現場担当者が分析用水試料を容器の中に入れて分析機関に送る代わりに、水試料は、SPEカートリッジに取り付けられた校正試料リザーバの中に入れられ、現場で固相カートリッジに同位体平衡が行われる。試料が加えられた後、正圧又は真空を利用してSPE媒体の中を通過させる。抽出プロセス中、有機分析物及び測定される種は、吸着剤媒体と有機分子との間の比較的強力な分子間力によって水から除去される。本質的に有機分析物を除去された水は、SPEカートリッジの中を通過する。SPEが実行された後、分析物検体と同位体標準は、水マトリックスなしで固相媒体に固定化されるので、水試料が検査機関へ輸送される間又は保管中に変性及び分解が起こり難くなる。
【0073】
現場SPEにより、時間及び資源の有意な節約と自動化に対する安定性がもたらされるが、それらについて、幾つかの供試例により明らかにする。固相樹脂における現場抽出及び平衡化試料が安定性が維持されることを示すために、現場抽出を行ない、試料をカートリッジ内の固相材料にて平衡化した後、方法を試験するためにカートリッジを郵送した。抽出され、オンカラム(on-column)で平衡化され固定化された試料を有するカートリッジを含有した試料キットを受け取った後、分析を行なう検査機関では、結合された試料を、カートリッジから容易に溶出することができる。分析は、どんな質量分析計によっても行なうことができる。供試例では、GC-MSを用いた。この発明は、簡易化され無駄のない試料調製方法であり、幾つかの操作が不要となり、被分析物の喪失、不完全な化学操作ステップ及びバイアスによって導入される可能性のある誤差を取り除くことができる。さらに、本発明は、時間、コストを節約することができ、自動化を可能にすることができる。
【0074】
<固相C-18カートリッジの中で予め吸着させた濃縮同位体での水抽出の例>
数種類の分子種について、予めスパイクされた安定同位体固相抽出(PSI-SPE)を行なった結果を示しており、その後のGC-MSの結果を図1に示している。PSI-SPEは、含酸素化合物、PAG-5化合物、モルヒネ化合物、1,4-ジオキサン化合物、1,2-ジクロロエタン化合物について行なった。これら化合物類は、環境法医学、環境健康及び毒物学における測定の典型的なものである。PSIを用いた全ての結果は、従来の実験室SPEを用いて得られた結果と統計的に区別ができないこと、及び、適用可能なEPA法仕様の許容範囲内にあることがわかった。
【0075】
<含酸素化合物の例>
含酸素化合物は、蒸留物の燃焼プロセスを高めるためにアンチノック剤として添加され、ガソリンの中にしばしば含まれる小さな極性化合物のリストである。化合物のこのリストには、tert-ブタノール(TBA)、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、エチル-t-ブチルエーテル(ETBE)、ジイソプロピルエーテル(DIIPE)及びt-アミルメチルエーテル(TAME)が挙げられる。MTBEは、環境的に健康問題を生じさせる可能性がある。これら化合物は、水と混和性であるため、特に問題である。精製ガソリン等の炭化水素が流出した場合、非極性石油蒸留ガソリンは水の表面に達するので除去可能であり、水に追随するのは殆どないので、大都市の川沿いにある飲料水ポンプ場は、ガソリンに汚染された水が通過するまで、一時的に操業停止することが行われている。これは、水に完全に可溶な含酸素化合物には当てはまらない。含酸素化合物は、地下水の中へ容易に進入するために、取り除くことは容易ではない。また、水試料について含酸素化合物の汚染濃度を分析しようとしても、水のサンプルを抽出することが困難であるという問題がある。極性の高い含酸素化合物は、従来の手段では、水のサンプルからの抽出が容易ではない。抽出効率を高めようとすると、サンプルはしばしば加熱される。これは、MTBEがTBAに分解することになり、SIDMSなしの結果は不正確なものとなる。MTBEはまた、輸送中、TBAに分解することもある。これは、抽出効率に悪影響を及ぼし、含酸素化合物の抽出中に分解する。この問題は、PSI-SPE法を用いて解消された。含酸素化合物でスパイクされた水試料の抽出結果は、図2に示されるように、良好であった。
【0076】
被分析物のPAG-5リストは、多くの環境機関が、ガソリンで汚染されたサイトを閉鎖又は監視するときに分析しなければならない毒素及び汚染物質である。この複合物(complex)リストは、含酸素化合物MTBE、揮発性単環式芳香族ベンゼン、エチルベンゼン、キシレンの他、ナフタレン、フルオレン及びフェナントレンの3種類の半揮発性被分析物を含んでいる。このリストの化合物を従来の方法で分析を行なうとき、揮発性成分に対してはEPA法8260、半揮発性成分に対してはEPA法8270の2種類の異なる試験方法を用いなければならない。PAG-5の被分析物の場合、単一分析で測定される単一グループとして、PSI-SPEが用いられていた。これは、試験費用を大きく低減する。PAG-5リストの被分析物についてPSI-SPEの結果が図6に示されている(PAG-5はPSI-SPEを使用。スペルコ製スチレンジビニルベンゼン/100mg。20ppbのPAG-5でスパイクされた試薬水。表示誤差は95%CL, n=5)。
【0077】
<モルヒネ>
モルヒネは、乱用薬物として一般的に知られている。前述した揮発性化合物とは異なり、モルヒネの含有量を求めるための試料マトリックスは、単純な水ではなく、非常に複雑な有機マトリックスである。GC-MSによる従来のモルヒネ量の抽出法は、非常に面倒である。抽出及び分析プロセスを迅速化する手段として、また、より日常的に再現可能な抽出法を提供する手段として、PSI-SPEが、同位体標識されたモルヒネに対して用いられている。図3に示されるように、SPEの結果は良好であった(SPEはAgilentのEvidexで、6ml, 0.5g、表示誤差は95%CL, n=4)。モルヒネはスパイクされた水及びウシ血清からうまく抽出された。
【0078】
<ジオキサン及びジクロロエタン>
小さな極性分子の他の例は、1,4-ジオキサンである。この化合物は、一般的には、殺菌剤として用いられている。抽出又は分析中に分解することは示されなかったが、含酸素化合物と同様、従来の手段を用いて水から抽出することは極めて困難である。しかしながら、SPEは、含酸素化合物分析と同じ要領で用いられることができ、非常に良好な結果が得られた(図4:1,4-ジオキサン及び1,4-ジクロロエタン。試薬水は、1,4-ジオキサン2ppb及び1,4-ジクロロエタン20ppbでスパイクされた。誤差は、90%CL,n=3で表示されている)。
【0079】
テトラクロロエタン(TTCE)化合物は、何年にも亘り、非常に一般的な脱脂溶剤であった。その使用例は、ステンレス鋼チュービングの製造である。チュービングは、製造中、中域炭化水素で潤滑される。この潤滑剤は、一般的には、TTCEを用いて除去される。TTCEが一旦環境に入り込むと、分解して1,2-ジクロロエタン(1,2-DCA)となり、これはTTCEよりも遙かに揮発性であり、水溶性である。通常、地下水の中で汚染物質として存在するのは、1,2-DCAであり、親のTTCEではない。1,2-DCAは、非極性芳香族BTEX、又は高極性含酸素化合物及びジオキサンとは構造的に非常に異なっている。1,2-DCAは、中間の極性であり、ハロゲン化化合物である(図4参照)。SPE条件が前述の非分析物の抽出と同じとき、1,2-DCAに対して良好な結果が得られることができる。
【0080】
従来のサンプリング及び分析方法を用いるときに起こる問題は、輸送中、微生物又は化学的分解による化合物の減量(losses)である。多くの微生物が食物源として汚染物質を消費することができる。これが試料の輸送中に起こると、被測定物の減量を測定することができず、測定精度が損なわれる。試料が抽出され、樹脂上で平衡にされた後、SPEカートリッジに分解が起こったかどうかを評価するための調査が行われた。観測井(monitoring well)から天然水試料を採取し、分析したところ、多くの汚染物質が含まれていることがわかった。試料を抽出し、SPE及びPSI-SPEにより0(ゼロ)日に分析した(0日とは、サンプリング事象と抽出及び測定との間の経過日数が0日であることを示している)。同じ試料の一部を室温の密封容器の中で14日間保持し、生物分解による減量が起こったかどうかを調べた。この同じ試料の一部についても0日で抽出したが、14日になるまでSPEカートリッジからの溶出はなく、一旦、被測定物及び微生物をそれらの水性環境から除去し、カートリッジに単離した後、密封容器の中で起こったものと同じ分解がカートリッジにも起こるかどうかを調べた。この調査結果を図5に示している(観測井試料における生物分解の効果。濃度は全てppbであり、表示した誤差は90%CL、n=3である)。
【0081】
図5に示されるように、0日で抽出及び分析を行なった汚染物質の初期濃度は、SPE又はPSI-SPEのどちらかを使用し良好な一致の範囲内である。試料を密封容器の中で14日間保持した後の分析では、MTBE以外の被分析物は完全な分解を示した。MTBEは、比較的少ない種類の微生物によって分解されることができるが、その分解は、この試料セットの中では見込まれなかった。0日に抽出された試料の分析は14日までカートリッジから溶出されず、対象化合物の分解は起こらなかったことを示している。この調査結果では、汚染物質が含まれる水試料は、試料マトリックスの中にサンプリングされ、いかなる追加ステップを行なうことなく保持されたときは分解を受けるが、分離してSPEカートリッジ上に保存するときは分解しないことを示している。これは、サイトでのPSI-SPEの他の利用例である。
【0082】
<予めスパイクされた同位体の固相での校正と比較>
従来の環境分析では、揮発性有機被分析物(VOA)及び半揮発性有機被分析物の両方に対して、SVOA分析(EPA法8260及び8270)は、校正標準(calibration standard)から生成した応答因子に基づいて定量が行われる。標準は、内部標準を用いて作られた既知濃度の被分析物と、試験される被分析物を使用する。この標準の溶媒は、溶出溶媒と同じである。校正標準を利用する方法では、試料混合物中の対象被分析物に対する抽出効率が100%未満であるとき、定量誤差が生じ、これは内部標準では修正されることができない。校正標準そのものは抽出プロセスを経ていないため、被分析物が非効率的であると、抽出されていない校正標準よりも信号の低下を招く。PSI法では、カラムに予め吸着された(presorbed)内部標準は、(1)抽出媒体に対して、抽出される非分析物と同程度までしっかりと結合されていないので(breakthrough)、濃度が偽上昇するか、(2)抽出媒体に対して、抽出される化合物よりもしっかりと結合されているので(retainment)、濃度が偽低下するか、の何れかである。この両方の誤差は、校正カートリッジを用いることによって解消されることができる。校正カートリッジは、試料カートリッジと同じ要領にて調製されたSPEカートリッジであり、固相材料に予め吸着された内部標準を有している。校正カートリッジを作成するには、クリーンな試薬水が、定量された校正化合物でスパイクされる。これは、試料の抽出時に、分析者によって行われ、校正溶液が入れられた密封ガラスアンプルを破壊し、これがクリーンな試薬水の中に加えられる。この校正試料は、ここでは、試料と同じ要領にて、PSI-SPEを用いて抽出される。このカートリッジが溶出されると、抽出物は校正標準として供される。この種の校正標準は対象試料と同じ抽出手順を経ているので、それから生じる応答は、抽出効率が100%未満のものに対しても修正されるので、よりすぐれたデータが得られる。従来の校正標準と校正カートリッジを用いた定量化の比較結果を図6及び図7に示している。
【0083】
<応答因子(response factor)の比較>
応答因子は、化合物の領域(area)とその同位体標識類似物(analog)の領域の比であり、所与の濃度である。抽出及び分析プロセス中、これら分析の両方に対する応答が同一である場合、領域カウントは同じはずであり、それゆえ応答因子は1に等しい。しかしながら、実際上の応答は、化合物に応じて僅かに異なるので、同位体が変更された類似物は、実際には、主として、標準を作製するときの非完全さにより、その応答因子は1.0に非常に近い。化合物に対する応答因子が1つの場合、又は1.0の値に十分近いと仮定した場合、定量化だけでなく分析までもが極めて容易になる。実際、応答因子が常に1.0であると仮定することができる場合、もはや、校正標準を作製して使用する必要はない。その場合には、分析が行われる方法は一挙に変化する。応答因子を用いて定量化したスパイク水試料の値が、1つの半揮発性化合物ナフタレンと1つの揮発性化合物ベンゼンに対する応答因子が1.0と仮定した定量に対してどれほどの近さであるかの比較を図8に示している(RF比較。RF=1に対するRFの校正。SPEはSupelcoのスチレンジビニルベンゼン/100mg。薬剤水は20ppbのPAG-5でスパイクした。表示誤差は95%CL, n=5。ナフタレン=1.036。RFフェナトレン=0.999)。比較結果は非常に良好であり、さらなる調査を行なうべきであることが十分に示唆されている。
【0084】
<自動化の可能性>
自動化可能な手段としてPSI-SPEを使用できるようにすることは、将来の機器システムの設計において、自動化特性の設計に影響を及ぼす。以下は幾つかの領域のサンプリングであり、ここでは、PSI-SPEを使用した1又は他の形態の自動化を用いられることができる。環境法医学及び環境健康モニタリングに対しては、この技術を適用するのに数多くの機会がある。汚染されていると判定された現場、又は定期的にサンプリングを行なって汚染を連続的にモニタリングする現場において、飲料水、新鮮水又は新鮮井戸をモニタリングすることは、これら固体相が予めスパイクされた材料の長期安定性によるサンプリングを自動化する全ての機会である。調製されたカートリッジが装填されたところでは、PSI-SPEが用いられることができ、及び/又は、マニホルドシステムで繰り返されることができる。ソレノイド、スイッチ弁及び標準自動化装置を用いることにより、サンプリングを予め定められた時間に定期的に行われることができる。試料採取したストリームからの流れは、適当な時間の間、カートリッジから方向転換され、次に試料の流れは、乾空気の流れと置換され、PSI-SPEが成分をサンプリングした後、残留水が除去される。抽出が完了すると、試料は長期間安定であり、直ちに取り除かれることができるので、試料カートリッジはサイトで分析され、輸送又は分析会社に郵送されることもできる。控え用試料は様々なMS分析のために分配されることができ、長期間の品質管理(QC)及び検証のために保管されることもできる。
【0085】
<食料、飲料及び消耗品の分析>
食品医薬品局(FDA)及び幾つかの独立した機関は、数多くのソフトドリンク及びフルーツ飲料の中に低レベルのベンゼンが含まれることを確認している。研究結果では、低pHでは、保存剤として使用されるベンゼンイオンはアスコルビン酸(ビタミンCが添加されている)と反応してベンゼンが生成される。ベンゼンは、発癌性物質として知られており、EPAによって規制されている。廃水中のベンゼン濃度が5ppbを超えると有害と考えられている。既存生成品について発明者ら自らの調査では、多くの飲料のベンゼン濃度は5ppbを超えていた。生成の機構はまだ十分に知られていないが、熱、光、ある種の微量金属、さらにはアスコルビン酸が、安息香酸イオンからベンゼンへの転換に関与しているものと思われる。FDAは、ボトルに充填された飲料が販売店に到着してからの保管期間及び温度条件によるという見解を示している。これは、PSI-SPE及び重水素化された安息香酸濃縮同位体標準の濃度が低すぎて液体標準形態では安定であることができないが、固相に予め吸着されたものは安定である例である。FDA又は国土安全局による分析が行われる他の薬剤及び標準形態についても、濃縮された同位体形態では予め吸着されることができ、定性的及び定量的分析に対する有用な新分析ツールとなる。それゆえ、ベンゼンを用いたこの例と同様、製造、品質管理において、また、国土安全局及び国土防衛局のシナリオにおいて、水、飲料、食品、薬剤及び他の試料の流れについて、汚染物質及び毒素を調べるために、迅速で、安価で、定期的にモニタリングを行なう方法を見出すことは重要である。完全に一体化され、自動化された分析測定システムのスタンドアロン型装置又はフロントエンドモジュールとして、自動化されたマニホルドシステムを用いるので、PSI-SPEの使用は費用効果にすぐれることになる。
【0086】
<通常の分析方法によるSPI-SPEの比較研究>
時間研究(time-study)を行ない、予めスパイクされた安定同位体固相抽出(PSI-SPE)を用いて実現することができる時間節約の例を提供する。この例では、決定方法としてEPA8270法、抽出方法としてEPA3510法を使用し、10の水試料について、半揮発性被分析物の分析を行なった。結果を表3に示している。
【表3】
【0087】
<経済的評価>
PSI-SPEを用いて実現することができる費用節約の基本的理解を得るための費用研究を行なった。この研究では、決定方法としてEPA8270法、抽出方法としてEPA3510法を使用し、10の水試料について、半揮発性被分析物の分析を行なった。結果を表4に示している。
【表4】
【0088】
前記のQCSでは、オンサイトでPSI-SPEを用いたものは、費用が有意に節約されることを示している。試料採取から最終結果までの処理費用は従来法よりも39%少なかった。本発明に基づく製品及び装置が大量生産されて市場に出回ると、経済規模が大きくなるため、この費用節約ははるかに大きなものとなる。
【0089】
<比較用に分けた試料の比較>
実在の試料を入手し、外部の検査機関で分けて検査を行ない、その結果を比較した。4つの試料は、ガソリン汚染物質の処理プロセス中の汚染現場から採取したものである。試料は、民間の検査機関に送られて、公知の分析を行なった。また、オンサイトでPSI-SPEを用いて処理を行なった。結果を表5に示している。
【表5】
【0090】
<予め吸着された安定同位体固相の実証結果>
予め吸着した安定同位体の固相抽出について実証したところ、試料の抽出及び平衡化の有効な方法であることが示された。PSI-SPEは、現在行われている検査の抽出方法に固有の誤差の多くの原因を取り除くことができるので、自動化の基礎として、新規で、効率的で、高信頼性で、迅速な試料調製装置及びシステムの設計が可能となる。
【0091】
{固相ELISA及びSELDI同位体希釈及び種分けされた同位体希釈質量分析}
<ELISA:最も一般的な免疫学的検定>
哺乳類の免疫反応は、免疫系が、特定の特殊グループの細胞(B細胞)によって(抗原)認識することができない化合物を認識することによって開始する。次に、免疫系は、抗原特異性B細胞の産生を開始し、特異的特性を有する特殊蛋白質(抗体)を産生し、抗原に結合する。抗原に一旦結合されると、B細胞は、抗原をできるだけ早く排除することを目的とする一連の反応を促進する。免疫診断検定(免疫学的検定)はこの宿主防衛蛋白質(抗体)を利用して、ヒトの血液内に存在するウイルス抗原等の外来物質を直接検出する。免疫学的検定は、抗体の抗原識別特性が利用される高特異性蛋白質結合アッセイのグループである。今日用いられている最も一般的な免疫学的検定は、ELISA(酵素免疫測定法)である。全てのELISAシステムに対して重要なことは抗体の使用である。抗体は、動物内で、抗原刺激に応答して産生される。抗体は、それらの産生に用いられる特定抗原を検出するのに用いられる抗原に結合する特異的生化学である。このように結合が確認された抗体は、特定抗原を検出するのに用いられることができる。これとは逆に、特異性抗体は、確定抗原を用いて測定されることができ、これは、免疫化学研究及び診断生物学の分野において多くのアッセイの基礎をなすものである。
【0092】
定量化(quantitation)は、酵素を用いて作製された信号が、抗原の濃度に比例するか又は直線的関係を有することに基づいている。ELISAの利点は、簡易性、読み易さ(目又は装置による)、迅速性、感受性、試薬、キット及び機器のの商業的入手容易性、適用容易性、分析者及び検査機関の安全性、廃棄の安全性、標準化及び定量化の相対的容易性にある。
【0093】
レーザーイオン化を使用し、同位体を固相表面修正材料に組み入れることにより、直接及び定量的固相IDMS及びSIDMS質量分析測定が行われる。その結果、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)又はレーザー切断(LA)が、表面及び/又はマトリックスを除去し、被分析物の直接濃縮同位体比分析が行われる。このとき、他の次元の定量化が加えられるが、1つの追加の自由度は以前に存在しなかった。この最終の自由度は、表面固相平衡化システムの定量除去の代わりに、比を可能にして、IDMS及びSIDMSの数学的利点がもたらされる。重要な利点の1つは、最終的な定量化及び再現性を達成するために、修正された固相全体表面/マトリックス(同位体濃縮されたタグを含む)及び被分析物の除去を必要としないことである。IDMS及び/又はSIDMS条件の下では、修正された固相表面/マトリックス(同位体濃縮されたタグを含む)のいかなる部分も、校正曲線ではなく、同位体比に基づいて定量化が可能である。MALDI又はLAの他の形態では、定量化及び再現性を可能とするために表面を除去して校正曲線を作る必要があるのに対し、校正曲線なしで定量化を達成することは、IDMS及びSIDMSに固有である。それゆえ、平衡化した表面のどの部分も正確な定量化が得られ、通常は質量分析定量及びELISA定量の両定量化に伴う誤差をなくすことができる。一旦平衡化されると、マトリックス吸着及び除去効率の変化はもはや定量化の要因とはならない。イオンが質量分析計を通過する際の質量分析計の効率及び信号ドリフトは、IDMS及びSIDMS法では定量化の誤差原因として排除される。固相スパイキング(タグ付け)は、IDMS及びSIDMSに記載された直接の数学的定量化が可能であり、これはELISA及び/又は質量分析の分野ではこれまで適用されなかったものである。
【0094】
蛍光分析による定量化を用いたELISAの適用は、環境健康及び環境法医学の分野で最近始まった。ELISAは、トリジアン、スルホニル尿素、有機リン酸エステル、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、シクロジエン及びBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)の化学分析、並びにUS EPA及び環境契約者による廃棄物処理場の生物学的分析及び証明用の他の毒性物質の化学分析に用いられてきた。環境分野におけるELISAの広範囲に及ぶ使用を制限する課題の幾つかは、検出限界、校正曲線誤差及びマトリックス干渉である。環境健康及び法医学分野では、分析データは法的手続の専門家によって評価される場合がしばしばあり、これらの問題及び複数の誤差源は、環境健康及び法医学分野におけるELISA作成データの法的防御可能性を弱める。校正曲線なしでIDMS及び/又はSIDMSにより固相平衡化及び直接定量化を行なうことは、固相平衡化質量分析及び決定的な直接アルゴリズム定量化を用いた決定的定量方法であるので、法的防御可能性が飛躍的に改善される。マトリックス及び被分析物の不完全で部分的な回収、イオン化の変動、機器の非効率、性能低下及び他の試料操作又は機器指向性バイアスは、平衡化された同位体比を用いるので精度に対してあまり重要ではない。それゆえ、通常は存在するこれらのバイアスは、全てが同時に減少又は排除されるので、法廷におけるデータ防御に対してより強力な位置が可能となる。
【0095】
ELISAは、異なる形状及びパッケージで作られる様々な固体支持材料の幾つかのフォーマットで処理されることができる。最も一般的なELISAsは、固相として、8×12ウエルフォーマットのプラスチック製マイクロタイタープレートを用いる(図9参照)。
【0096】
有用なELISAを作るためには、3つの基準に適合しなければならない。
【0097】
<希釈直線性>
これは、次のステップの回収率と密接な関係がある。信号(ピーク面積として、ピーク面積又は強さとして表される)と希釈要因との関係をx−yチャート上にプロットしたとき、それは直線でなければならない。
【0098】
<回収率(recovery rate)>
これは、既知量の関係物質が評価反応に添加されたとき、評価後に観察される関係物質の割合である。回収率は、臨床的ルーチンワークの10%以内であるべきである。
【0099】
回収率%={(推定値)−(付加値)}/(付加値)×100
【0100】
<同時再現性(intraassay variation)及び日差再現性(interassay variation)>
同時再現性は、1つのELISAプレートにおける値を意味し、日差再現性は、通常は異なる日に実施される異なるプレート間の値を意味する。
【0101】
{ELISAの種類とシステム}
基本的に、ELISAには、競争(C-ELISA)と阻害(I-ELISA)の2つの種類がある。「競争(competition)」及び「阻害(inhibition)」という語は、測定が、予め滴定して設定されたシステムとの干渉能力による物質の定量に関係する評価を表している。システムは、抗体又は抗原のどちらかの測定にも用いられることができる。
【0102】
方法論の観点からは、3種類の基本的なELISAシステムがあり、全てのELISAテスト(C型及びI型の両方;直接又は間接)は次の3つのELISAに基づいている。
【0103】
<直接ELISA>
抗原が受動的吸着によって固相に付着される。洗浄後、酵素標識された抗体が加えられる。培養期間を経て洗浄した後、基質システムが加えられ、色を発現させることができる。
【0104】
<間接ELISA>
特定の生物学的種(biological species)由来の抗体は、固相に付着された抗原と反応する。どの結合性抗体も、酵素で標識された抗異種抗血清を加えることによって検出される。これは、臨床診断で広く用いられている。
【0105】
<サンドイッチELISA>
このシステムは、抗体又は固相材料に付着された捕獲抗原を用いる。
【0106】
<直接サンドイッチELISA>
システムが直接サンドイッチ法の場合、検出抗体は酵素で標識される。抗原は、該抗原に特異性の血清を用いて検出される。検出抗体は酵素で標識される。捕獲抗体及び検出抗体は、同じ種の同じ血清でもよいし、同じ種の異なる動物の血清でもよいし、異なる種の血清でもよい。直接サンドイッチ法における抗原は、2以上の抗原部位を有していなければならない。
【0107】
<間接サンドイッチELISA>
システムが間接サンドイッチ法の場合、抗原は固相結合抗体によって捕獲される。抗原は、次に、他の種に由来する抗体を用いて検出される。これは、抗異種複合体(antispecies conjugate)によって結合される。このように、コート抗体(coating antibodies)及び検出抗体に対する血清の種は相違していなければならず、抗異種複合体はコート抗体とは反応することができない。
【0108】
最も一般的に用いられる酵素は、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)とアルカリホスファターゼ(AP)である。他に、βガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ及びカタラーゼ等の酵素も用いることができるが、基質の選択を制限し、それらの広範な適用を制限する。検出酵素は一次抗体に直接結合させてもよいし、一次抗体を認識する二次抗体を通じて導入されることもできる。もし、一次抗体がビオチン標識されている場合、ストレプトアビジン等の蛋白質に結合させることもできる。基質の選択は、検出に必要な感受性レベル及び検出に利用可能な機器(分光光度計、蛍光光度計又は照度計)に依存する。全ての蛋白質標識化及び可視化技術の中で、小ビタミンのビオチンが、標識及び分光測定の簡易性並びにアビジン(は虫類及び両生類の卵の白身や組織に存在する糖蛋白質)の高特異性及び選択性であるため、ビオチン化が最も一般的なものとして十分に理解されている。アビジンとビオチンの反応は、生物学的検体を検出し標的するための評価システムにおいて最も結うようなツールである。アビジンのビオチンに対して非常に高い親和性を有するので、複合混合物中のビオチン含有分子を、アビジン複合体と別々に結合させることができる。
【0109】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた質量分析ELISAマイクロアレイチップ>
質量分析計及び同位体測定技術は、感受性が高く、干渉性が有意に低いという性質を具備しているため、免疫アッセイ検出システムへの適用は非常に好ましいけれども、ELISAの確定的定量検出器として使用するには多くの障害があって、これまでその適用は成功していない。その最も大きな理由は、質量分析計のコストが高いこと、質量分析計検出器信号の安定性が欠けること、生物分析分野における質量分析計の同位体分析及び比較的最近の評判に対する生物科学者の専門的知識が不足していることである。
【0110】
抗原部位又は抗体に類似する濃縮同位体タグ又は同位体濃縮合成ペプチドを使用することは、これらのペプチドがマイクロアレイプレートの中で結合抗原又は固定化抗体の列として用意された別々の試料スポットの中に配置されるとき、ELISA型アッセイに適している。マイクロアレイプレートは次に処理されて質量分析計に導入され、液体及び/又は気体イオン化並びに確定的定量質量分析が行われる。
【0111】
発酵中の媒体内の栄養物を通じて又は化学同位体タグ付けプロセスにより同位体標識が付された全細胞は、生きたものも減衰されたものも、固相マトリックスに固定化された缶(can)と共に細胞が固定化され抗原格子として供するときに使用可能である。このような細胞は、特別に設計されたマルチアレイチップの中に入れられ、別個の試料保持部位では、質量分析計の分析サイクル中、結合され生存能力がある細胞を保持する能力を有している。
【0112】
IDMS及びSIDMSの原理を用いた同位体分析法及びここに記載する発明は、レクチン等のリガンド、多糖類、ヌクレオチド、生体分子及び/又は天然源から単離されるか又は機能的アナログとして合成されることができ、他の生体分子に対して親和性を有する化学的毒性物質を固定化することにより、生体分子の捕獲及び分析に用いられる。濃縮同位体は、遺伝子チップマイクロアレイに固定化される何千もの分子プローブの各々を可視化するのに用いられることができる。
【0113】
表面が改質された固相物質に同位体標識された濃縮抗原の発明の実施例を図10、11及び12に示している。
【0114】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた質量分析SELDI分析>
臨床診断における分光分析の最近の適用例の1つに、SELDI(表面増強レーザ脱離イオン化)チップがあり、蛋白質の発現プロファイリングに用いられる蛋白質及びペプチドを固定化するために様々な異なる機能的表面を有している。これらのチップは、細胞試料源に由来する固定化バイオマーカーを利用しており、これらのバイオマーカーは、疾病の状態に反応して特異的に発現される。これまでの取組みは直接プロテオーム分析を利用してきたため、バイオマーカー分析及び蛋白質発現プロファイリングの全領域は、確定的直接定量化及び再現性の欠如によって妨げられており、それゆえ、確定的定量目的のためにどんな分子タグも用いられていない。濃縮同位体タグは、SELDI蛋白質チップ上で同位体標識されたバイオマーカー比を測定する手段を提供し、IDMS及び/又はSIDMS定量化を通じて定量化及び再現性を大いに向上させることにより、これらの制約を解消させるものである。図13、14及び図15を参照。
【0115】
<IDMS及び/又はSIDMSを用いた直接組織プロファイリング>
新規な分子プロファイリング技術は、低侵襲性バイオプシーによって得られた少数の病理学試料の分析に有用であり、予後診断、治療反応及び画期的な標的実証に関連する解剖病理学分析と相乗作用を有する重要なバイオマーカーの発見を可能にする。このように、健康及び病的状況における組織学的レベルでのプロテオーム解析は、臨床プロテオミクスの分野での主な問題である。直接の組織プロテオーム解析(DTPA)は、SELDI-MS技術の原適用であり、解剖病理学診断に対する補足として臨床プロテオミクスの使用を拡大することができる。DPTA法は、固有のハイスループット特性を提供し、大規模な患者集団におけるバイオマーカーに用いられることができる。
【0116】
DPTA法は、肺癌及び脳腫瘍等の病気の分類に用いられており、解剖病理学診断法を高めている。DPTAは、最近開発された、迅速で高感度な技術であり、臨床プロテオミクスにおける新たな見通しへの門戸を開くものである。この領域における現在の開発は、確定的定量化、再現性及び感受性の必要性に取り組んでおり、濃縮同位体タグの使用並びに固相表面が変異した又は未変異の媒体として導入されたIDMS及び/又はSIDMSの原理の適用を通じて達成される。
【0117】
<直接の数学的デコンボリューションが必要である。それは、直接の数学的解答だけが、具体例としての環境鑑識学、環境衛生及び国土安全の測定における被分析物の定量化が可能であるからである>
ヒト組織の水銀種で確認されているように、校正曲線は80%を超えるエラーを生じるので、定量化に用いることはできない。SIDMSの直接的濃縮計算だけが種転換の定量化と補正の両方を行なうことができる。IDMSとSIDMSは両方とも数学的アルゴリズムにより直接算出されなければならず、校正曲線は分析検査機関に共通のエラーを回避するために使用されるべきでなく、また、時間がかかり、環境鑑識学、環境衛生及び国土安全の測定等の重要な測定には受け入れられないことがわかった。
【0118】
対象とする被分析物の濃縮同位体類似体は、主な濃縮同位体から作られるか、購入されるか又は検査機関で合成される。ESI、DESI、ナノESI、ナノチップESI、DESI、MALDI、LA、SELDI、APCI、ICP、GC-ICP、GC-MS等の様々なイオン化方法に結合されたIDMS及びSIDMSの適用は本発明によって包含される。GC-ICP-MSとナノエレクトロスプレーの両方を実証する目的で、飛行時間質量分析が示される。飛行時間質量分析(ナノチップESI-TOF-MS)プラットフォームに結合されたナノチップESIによるGC-ICP-MS及びイオン化の両方の供試例は、国土安全、環境鑑識学及び産業的試料測定シナリオに適した供試例を実証するのに用いられる。毒性物質のデータは、水銀種、アジ化ナトリウム及びシアン化カリウムについて実証される。
【0119】
IDMS(同位体希釈質量分析)及びSIDMS(種別同位体希釈質量分析)に対するスパイキングを用いて標的被分析物種の定量決定に必要な数学的アルゴリズムは、直接数学的解によってのみ達成される従来の方法(及び数学的方法の新たな適用)とは異なる。純粋標準からの校正曲線は単一測定が可能でなく、全く用いられることができない。これらが具体的に開発され、直接的溶液イオン化及び表面吸着、結合、イオン交換、固相抽出測定及びその他多くのもの等、多くの種類の濃縮同位体試料調製に適用される。
【0120】
校正曲線によって定量化されることができない測定及びSIDMS測定を伴わなければならない測定の第1例は、メチル水銀及び無機水銀による血液試料で、エチル水銀に対してスパイクされたものである。この試料は、無機水銀、エチル水銀及びメチル水銀の別個の同位体類似体との平衡後、分離され、イオン化される。この例では、無機水銀Hg+2は、98%濃縮された無機水銀Hg+2-199でスパイクされ、メチル水銀(CH3Hg+)はメチル水銀CH3Hg+-202でスパイクされ、エチル水銀(C2H5Hg+)は、C2H5Hg+-201でスパイクされ、金属水銀種(HG0)は原試料の中にはないが、3種の水銀種を分離するために用いられるGCカラム中での熱分解によって生成される。ヒトの血液又は尿中の無機水銀、メチル水銀及び/又はエチル水銀が、4種(無機水銀、メチル、エチル及び金属水銀)の全てについて異なる割合で異なる量を生成し、両者を異なる量として用いることができず、未知の個々の試料に対する校正曲線が確立されていない場合、校正曲線は困難なものになるであろうことを図16は示している。そのような場合に定量化が可能なのは、SIDMS法による数学的デコンボリューションだけである。ヒトの髪の毛の上記供試例及びこの供試例に記載された6つの別個の形質転換(transformations)におけるように、金属水銀の第4の種の生成だけでなく、無機水銀、メチル水銀及びエチル水銀の形質転換によるこの第4の種への寄与に対して評価及び修正されなければならないのは少なくとも4種以上である。
【0121】
これらのケースは、マスタードガス、農薬及び農薬代謝産物、コカイン及び体内代謝産物であるモルヒネ等の反応性種の多くの分析において、考えられている以上に広まっており、一般的である。これらの分子シフトの多くは定量化される必要があるが、校正曲線が定量化に用いられる方法である場合、正確又は迅速な定量化を達成することができない。
【0122】
<IDMS、SIDMS及び直接的種アルゴリズムは生成される種に依存し、IDMS及びSIDMS分析に対して新たに導出された直接的数学アルゴリズムだけが動的システムの定量化に用いられることができる>
濃縮された安定同位体スパイク(単にスパイク)は、試料とは異なる同位体組成物を有しなければならないが、対象とする被分析物の化学的形態及び化学的性質は同じである。実際の試料及び正常な標準のマトリックス組成物は、同じものはめったになく、他の要素の組成物におけるどの違いも、ESI、ナノESI、ナノチップESI、MALDI、SELDI及びAPCI等のソフトイオン化法に発現される異なる同位体類似体に有用である。このように、どんな校正曲線も試料を正確に表すことはできない。アジ化ナトリウム及びシアン化カリウムについて供試例を示す。
【0123】
スパイクは、水溶液及び/又は酸溶液及び/又は有機溶媒溶液にて調製されるか、又は吸着、イオン交換又は結合によって表面に固着される。校正曲線を規定することによる校正は、ESI、ナノESI、DESI、MALDI及びSELDI等のソフトイオン化法やICP-MS等のハードイオン化法では、上記の水銀種の例の場合と同様、達成されることができない。ソフトイオン化法では、測定され定量化されるイオンは、実際の試料中に被分析物を有するマトリックスに依存し、標準によってシミュレートされることができず、マトリックス一致を図る標準でも同様である。イオンは,マトリックスの同時相互作用の産物である。被分析物は、質量分析計の中で表される多くの代表的分子イオン及びイオン種を有することがある。アジドは、マトリックス及び試料条件に基づく代表的な幾つかの例を示すための例として用いられる。各例は、IDMS及びSIDMSを直接使用し、異なる数学的定量化を必要とする。ソフトイオン化は、マトリックスから独立した分子イオンを生成しないが、分子イオン及び同位体濃縮類似体イオンが発現される濃度を変化させるマトリックスと環境を組み入れる。供試例を以下に示す。校正曲線及び標準のIDMS及びSIDMSの式は定量化に用いることはできず、定量化が可能なのは、ソフトイオン化からこれら同位体に対する新規な数学的アルゴリズムを用いる場合だけである。標準のIDMS式は、複数の発現並びに定量化のための同時かつ異なる同位体を説明するものではないことは理解されるであろう。
【0124】
IDMSにおける同位体比の定量決定のための一般的数学式は、式1に示されており、未知の試料の濃度を決定する数学的解を求める直接のアルゴリズムはこの式を最構成したもので、式2で示されている。この直接的な数学的解の個々の構成要素は式2の中に次のとおり与えられている。
【数1】
【数2】
上記式において、
Wx=試料の重量
Ws=同位体スパイクの重量
Cs=スパイク中の種の濃度(濃縮)
Cx=試料中の種の濃度(未知)
As=スパイク中の改変同位体(altered isotope)Aの原子分数(濃縮)
Ax=試料中の同位体Aの原子分数(天然)
Bs=スパイク中の改変同位体Bの原子分数(濃縮)
Bx=試料中の同位体Bの原子分数(天然)
Mx=試料中の種の平均原子質量
Ms=スパイク中の種の平均原子質量
Rm=同位体Aと同位体Bの同位体測定比(濃縮/天然)
【0125】
校正曲線の使用は、動的種(dynamic species)の濃度に依存する種の濃度をシフトするこによって妨げられ、標準の校正解によって複製される(duplicated)ことができない試料のマトリックスは別個に実行する。ESI、ナノESI、MALDI、APCI及びEI等のソフトイオン化法は、マトリックスなしでは標準解に複製されることができない複合的分子イオンに最も影響を受け易いこれらの分子ソフトイオン化源の幾つかの例である。動的種及びソフトイオン化法を用いて試料マトリックス自体によって決定される種は、ICP-MSのように全ての種を元素イオンにするハードイオン化法とは全く異なる数学的処理を必要とし、過酷なイオン化によりマトリックス効果及び分子情報が除去されるので校正曲線を用いることもできる。
【0126】
この適用は、ソフト及び複合的イオン化の分子イオンの様々な発現を定量化するのに適していない。この例では、アジドは、陽イオンモード及び陰イオンモードの両方に用いられる。ナトリウム(Na)イオンは、この純粋溶液の中で、Naが陽イオン作用物質として加えられたもので、陽イオンモードの種の1つに対して1:1、陰イオンモードでは1:2又は1:3で両方とも同時に発現される。イオンがどのように利用可能でKのように優性(dominant)であったとしても、その試料のマトリックス条件で実際の試料の中にのみ存在する分子イオンによって表される。校正解のマトリックス一致は、実際の試料の中にあるマトリックスイオンの正確な状態での濃度及び複雑さを正確に又は完全に説明することはできない。さらなるイオンモードは図17〜図24に示されている。この第1組の供試例におけるアジドを定量化するのに必要な多くのイオン発現について、複数のアルゴリズムだけがこれを説明することができる。陽イオンモードでは、1組の種のイオンが明らかにされ、陰イオンモードでは、比が明らかに異なる第2組が観察される(図17〜図20)。
【0127】
質量分析計により質量によって分離された同位体濃縮及び天然の毒性物質の複数の種の適切な定量化におけるバイアスなしの直接計算は、IDMS及びSIDMSの延長である。これは、種が同じ親の種とは異なる亜種(subspecies)であるからである。これらの場合では、デコンボリューションは形質転換する複数の種に関するものではなく、溶液又は固相中の同じ種から作られるか、又は固有の比及びパターンで発現される複数の種に関するものである。数学的には、定量化は、幾つかの種及びそれらの固有比を正確に考慮に入れて毒性物質が定量化される。図21は、電荷質量比(m/z)質量スペクトルの複数セクションを示しており、Naを有するこのマトリックスによって作られた固有種の中に12を超える確認率(confirmation ratios)が提供される。多くはKと他のイオンに分けられ、Kが試料内にあるときは、NaイオンとKイオンが生成される。この場合、Na4(N3)5-イオンはNa3K類似体、Na2K2類似体、NaK3類似体及びK4類似体も有することになる。これらの各々は、純粋な標準に対して行われた校正とは異なり区別されることができる。その場で実際に同位体標識されて作られた種に対して直接数学的解を適用することによってのみ、実際の試料は定量化される。試料及びその同位体類似体によって発現される実際の被分析物種については、マトリックス及び実際の試料なしでは正確な表現ができないので、用いられることができるのは直接数学的同位体比のみである。同位体比を用いると、正確な濃度は有効数字が2及び3まで可能であるが、有効数字が1よりも少ないものは、大部分のケースでシミュレートされた校正標準由来の複合マトリックスの中で作成されることができるので、これらは作業ベースでは実用的ではない。
【0128】
天然及び同位体濃縮種から生成されるこれらの複数関連種は、ナノESI及びMALDI等のソフトイオン化では一般に行われない。イオンの安定性によりハードイオン化では消失する。また、他の例として、毒性のシアン化カリウムの例を図24に示している。
【0129】
金属イオン(K、又はCN-キレートによってキレート化されるあらゆる金属イオン)について、他のあらゆる量又は混合物若しくは成分をもつマトリックスにおいて、スペクトル中にFe、Cu、Ni、Cd、Hgを発現するアニオンキレート剤は修正されて全く異なるものとなるので、現時点では理論的に予測することが不可能である。例えば、実際の試料は、化学的安定性を有する生成定数(formation constant)及び逐次的生成定数を有し、K1、K1K2、K1K2K3、K1K2K3K4のHg2+、Cd2+に対して、Hgイオン及びCdイオンのKsのLogに夫々、5.5、5.1、4.6、3.6及び10.0、16.7、3.8、3.0がシアン化物陰イオンに掛け算される。これらの全ては競合するので、計算不可能であり、予測不能の実際の試料を定量するために設定される校正曲線で測定されなければならない。これらの複合的ソフトイオン分子定量で唯一可能なのは、校正不要の直接数学的解だけである。水溶液の中で発現されることができるイオンの可能な組合せは80を超える。
【0130】
従来の校正曲線はこの語が通常有する意味でのものは適用することができない。校正曲線の使用、校正曲線又はこれらイオンに基づく校正曲線を用いた内部標準の使用は適当であり、実際の試料の未知のマトリックスの濃度を、純粋な校正標準から定量的に有意な方法で構成されることができる。カリウムイオン及びナトリウムイオン及び他のイオンが存在する場合、カリウム付加物、ナトリウム付加物及び他の金属付加物イオンが発現し、親毒性物質に関係あるが、質量分析計の中で独特の試料マトリックス、試料調製及びイオンに基づいて発現した新しい種である複合種が生成される。なお、既知の対の種を、定量を確実なものとするM+1類似体及びM+2類似体として同定することができる同位体類似体が存在する場合、同定はより確かなものとなる。
【0131】
本質的校正ステップを実行するための抽出前又は抽出中に、試料に添加され、及び/又は、固相中で平衡化された既知量の同位体濃縮種は、試料中の定量化されていない被分析物で発現される必要がある。従来の校正を適用することはできないので、被分析物を同定し定量化する方法で信頼性のある唯一の方法は、直接数学計算である。これはSIDMS及びIDMSの延長である。その理由は、新しい種は試料に添加された親種から作られ、被分析物を直接定性的及び定量的に処理するのに新しいアルゴリズムが必要であるからである。
【0132】
{マイクロ波印加平衡}
<種に対する平衡時間効果、IDMS及びSIDMS法を使用:従来の熱、超音波抽出とマイクロ波印加平衡との比較>
この例では、IDMS及びSIDMS法による水銀の種分け(speciation)を行なうのに、NIST標準参考材料(川の堆積物SRM2704及び土壌SRM2711)とヨーロッパIAEA CRM(ヒトの髪の毛IAEA-085)を用いた。SRM2704及びSRM2711は両方とも、所定量の同位体濃縮無機水銀(199Hg2+)でスパイクされた。この研究で評価した試料調製法は、EPA3052法、EPAドラフト3200法(マイクロ波アシスト抽出、MAE)及びEPA3200法(超音波アシスト抽出、UAE)である。EPA3052法とEPA3200法(MAE)を用いた場合、試料をスパイクした後、直ちに、当該方法に基づいて抽出又は分解(digestion)を行なった。しかし、3200法(UAE)については、試料をスパイクした後、異なる時間(1,3,6,12,24及び48h)で平衡化し、次に、この方法に基づいて抽出を行なった。
【表6】
【0133】
EPA3052法とEPA3200法(MAE)は高効率であるので、2種のSRMsからの全水銀の回収率100%が達成された(表6参照)。この場合、スパイクされた同位体は、抽出/分解中、10分未満で試料同位体と平衡になった。
【0134】
EPA3200法(UAE)は、無機水銀の抽出及び平衡の効率が低いため、回収率は、SRMsによって異なり、また時間の経過で異なる。SRM2704の回収率は24時間で約100%に達したが、SRM2711については48時間後でも定量的回収は得られなかった。3200法(UAE)の回収率データは、スパイクの試料との平衡が1h又は48hであろうと、回収はUAEを用いるときの試料マトリックスに依存することを示している。この具体化研究は、水性試料のIDMS分析に用いられた“スパイク同位体の試料同位体との平衡”が、全種類の抽出プロトコルの下では、複合体又は固体試料には当てはまらないことを結論として示している。イーストについて、前述したLu Yang, et al.のクロム種の分析では、12時間を超えるこの同時間依存性抽出は、組織試料の対流及び伝導加熱にも認められる。固体試料の場合、質量分析前の対象種に対して、効率的な抽出及び平衡方法が必要である。固体試料の抽出及び/又は分解及び平衡の方法が非効率であると、IDMS及びSIDMS分析の精度が低下する。
【0135】
SIDMSは、複数種の平衡化を同時に行なう必要があり、各々の種の最終濃度を校正するために種の転換を同定する必要がある。メチル水銀種と無機水銀種だけを含む良い試料として、ヒトの髪の毛の水銀種を用いると、EPA3200法では、MAEとUAEとでこれら種の抽出が比較される。表7の比較において、UAEでは正しい認証結果が得られないことを示しているが、これは、天然種と濃縮同位体種に対して、工程中に抽出と平衡化の合成が行われず、正しい解を得るのに不十分だからである。これに対し、MAEでは、マイクロ波を用いて2つの種の抽出と濃縮同位体種の平衡化を同時に行われる。MAEでは、UAEの例の半分より短い時間内で統計的有意性の範囲内の認証値が得られる。
【表7】
【0136】
<複数種のトランスフォーメーションと直接数学的決定が必要であり、これは校正曲線よりも優れている>
本発明の抽出及び平衡化方法のロバスト性(robustness)を明らかにするために、複数種のトランスフォーメーションと複数種の変換(conversion)mを評価する必要がある。現時点では、3種類の水銀種に対して認証された組織試料はないので、以前に認証された参考材料(ヒトの髪の毛CRM,IAEA-085)を第3の水銀種であるエチル水銀でスパイクした。エチル水銀は、チメロサールからヒト代謝水銀種で、ワクチンの水銀保存剤であると文献に記載されているので、これは論理的選択である。これら3種が存在すると、6種類の変換が計算されなければならない。数学的アルゴリズムがこの具体的目的のために開発され、3種のSIDMS測定及び試料調製中におけるそれらの変換のために用いられている。表8において、エチル水銀の80%を超える変換は、主として、エチル水銀から無機水銀への変換と、エチル水銀からメチル水銀への変換によるものであることが示されている。メチル水銀はまた、有意に変換され、エチル水銀の変換に由来するメチル水銀から独立し、区別して測定される。この測定は、全ての水銀種の抽出と平衡化を一体的に同時に行わなければ不可能である。
【表8】
【0137】
これらのデータは、3種の第1の適用例であって、マイクロ波抽出(EPA3200法)をIDMS/SIDMS(EPA6800法)法と共に用いた、3種及び中間種の全てのトランスフォーメーションを同時に校正するもので、エチル水銀の80%よりも多くがトランスフォーム又は破壊されても、正確で、迅速な同時測定は、SIDMS法の適用を通じてのみ可能であることを示している。これらの測定は、実証され、具体化されるが、精度は4%未満に維持される。
【0138】
IDMS及びSIDMSにおけるアルゴリズムは、種及び同位体濃縮種の発現に応じて、手操作にて又は動的に容易に調節可能である。しかしながら、校正曲線は調節することができない。校正曲線は、その都度、定期的に、比較的頻繁に作られなければならない。校正曲線は、複数種の分析に対して数学的に実行可能な代替物とはならない。それは、マトリックス試料にほんの僅かな変化が起こると、誤差及びシフトにより、それらの使用が妨げられるからである。それゆえ、定量化に唯一数学的に正確な方法は、同位体濃縮類似体についてIDMS及びSIDMS測定することである。国土安全及び国土防衛用途並びに品質保証測定では、偽陽性及び偽陰性は最も少なくなければならないため、これらに対して重要である。
【0139】
{セクションIII:現場で使用するために、完全自動化システムに組み込まれた例を記載する。例えば、国土防衛及び国土安全における例を以下に記載する}
暴力行為や食物の意図的汚染の可能性に対する脅威があるので、空気及び飲料水は、比較的稀であるが強毒性をもつ広範囲の化合物を最も正確な方法で調べるために、消失性物質を迅速に検出する必要がある。最も危険な製剤は非常に強力であるので、毒性物質検出器は、最も低い濃度レベルを正確にかつ高信頼性を以て検出できることが極めて望ましい。仕事のミッションクリティカル及び時間厳守の性質を考慮すると、サイクルタイム(試料の採取、試料の調製/操作及び分析)は、迅速になされなければならず、また、多くの異なる状況及び環境下でその精度及び感度を維持できる堅牢性(rugged)の現場展開可能(field-deployable)なシステムに従属的でなければならない。
【0140】
標準が用いられる場合はそれが望ましいが、標準(典型的には、高毒性物質の化学的類似体)を取り扱わないこともまた望ましい。それゆえ、これらの標準は、固相フィルター、ビーズで満たされたカラム、溶液は不安定であり頻繁に取り替える必要がある濃度で液体よりは遙かに安全に輸送されることができるカートリッジ及びその他小型で比較的安全な固相デバイスに固着される(secured)。現場又は遠隔地で採取された試料を検査機関へ輸送しなければならない場合、試料を固相容器の中へ取り入れることができ、安定(その化学的形態を維持する)で、加工、流通過程(試料をその源から取り出すステップから分析地点(典型的には専門の検査機関)へ送達するステップまで)の全体を通じて安全に取り扱うことができる。
【0141】
今日利用可能な最も高感度で有用な検出システムは、有用な検出器信号範囲を定めるために、また、試料が分析されるとき、検出器によって作られる検出器信号を算出するための基準として校正された範囲に依存できるように標準の構成方法を用いる。検査機関に勤務するどの化学者も校正曲線の使用に対して非常に精通している。しかしながら、校正曲線は潜在的に多くの誤差源を有するため、再校正のために試料分析サイクルがしばしば中断される。マトリックス(測定される被分析物が含まれている材料)の変化、被分析物抽出プロセスの変動は全て、校正曲線に基づく測定誤差を生じる。さらに、1兆分の1(parts per trillion)で分子を検出できる最も高感度の検出器である質量分析計が生成する信号は、ドリフトし、最後に作成された校正曲線を無効にする。質量分析計に対して新たな校正曲線を作成することは、試料の作製及び分析者による分析ステップに、手操作で面倒くさく時間のかかる数多くの作業が必要であることを意味する。校正曲線に関連する誤差源は全て、国土安全及び国土防衛目的のための既存の質量分析計の自動化の可能性を妨げる。
【0142】
IDMS及びSIDMSに関する前記発明及び特許は、引用を以てこの明細書の中へ含まれるものとし、この明細書に記載した発明はこれらの問題を解消するものである。濃縮同位体タグ及び濃縮標準類似体の使用は、一般的な発色性、蛍光性、化学発光性及びその他全ての視覚技術に基づく化学分野よりはむしろ、核分野での測定を行なう能力を提供する。これは、多くの干渉性及び安定性問題を排除することができる。IDMS及びSIDMSは、最終データを作成するのに数学的解を利用しており、校正曲線を不要にし、マトリックス変化及び抽出ステップ後の被分析物回収に関連する問題を排除するか又は最少にすることができる。IDMS及びSIDMSのプロトコルの下で質量分析計によって作成される分析データは、校正された非常に正確な結果である。この特許出願の時点で、IDMS及びSIDMSのプロトコルは、米国環境保護局(EPA)により、「6800法」という名称で国家的方法として承認されている。これはまた、EPA及び英国規格協会(BSI)でも認められており、公開されたコメント及び書類の中で、種分けされた元素分析に対して法的防御可能なデータを作成できる唯一の方法として記載されている。
【0143】
現在、分析前(初期段階)の試料の調製には、現場から試料を取り出すこと、測定する被分析物を抽出すること、被分析物を分離すること、濃縮同位体でスパイキング(タグ付け)すること必要とし、高い技能を有する分析者によって行われる一連の手操作が含まれる。このプロセスは、どこの場所でも、数時間乃至数日を要する。IDMS及びSIDMSが自動化されることができるまでは、時間の有意な短縮及び初期段階からの手操作省略を行なうことはどうしても必要なことであった。この発明は、これら初期段階の性能向上を正確に達成できるので、初期設定が不要な(turn-key)完全自動化が可能となる。
【0144】
この特許出願の時点で、発明者らは米国政府を代表して、「統合計器方法システム(Integrated Instrument Method System(IIMS))」と称される5相プログラムの開発に携わってきた。これは、軍部及び緊急時の第1応答者によって配備された現場にて化学的及び生物学的測定を行なうこを目標としている。質量分析計として自己校正及び現場配備可能にすることは、この発明に記載された自動化特徴の全てを含んでいる。
【0145】
環境への導入がテロリスト又は産業プロセスのどちらによる場合でも、毒性物質は、種分けされ複合的化学形態で存在し、従来の検査機関での自動化による分析では、検出及び測定ができないことがしばしばある。典型的には、長く、退屈な試料の調製ステップ及び校正ステップと、多くの検出スキームを用いなければならない。これらのスキームは、IIMS型の用途には全く不適である。
【0146】
自動化要請、安全及び検出性能問題に関する対処に関しては、多くのこと又は全てのことが具体化されている。例えば、Applied Isotope Technologies(AIT)社によるIDMS及びSIDMS製品は、環境検査機関、研究所、産業研究所、疾病管理センター等に販売され、水、土、髪の毛、組織、血液及び尿に元々含まれているか又は産業源に由来する毒性化学物質の測定に用いられている。AIT社の製品は、最終の数学的デコンボリューション及び計算を行なえるように、同位体スパイク、濃縮された標準類似体及びソフトウエアを含むIDMS及びSIDMSキットして販売されている。AIT社の製品は、エレクトロスプレーイオン化(液体−液体スプレー)及びガスイオン化(液体−気体)の態様を用いて、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)及びガスクロマトグラフィー(GC)に結合された質量分析計(飛行時間(TOF)及び誘導結合プラズマ(ICP)等)に用いられている。また、迅速なスパイキング及び平衡化並びに同時抽出、スパイキング及び平衡化に用いるために、固相媒体保持同位体タグ又は濃縮標準類似体等の追加の発明についても具体化されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同位体希釈質量分析試料を平衡化する方法であって、
a)固相担持体及びマイクロ波可能な溶液からなる群から選択される媒体に、所定量又は所定濃度の同位体標識された被分析物類似体を添加するステップ、
b)前記媒体に、前記同位体標識された被分析物類似体に相当する対象被分析物を含むか又は含むと推測される試料を添加するステップ、
c)前記媒体との平衡化ステップを実行するステップであって、a)固相担持体及び試料を1秒〜24時間インキュベートすること、及びb)マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を1秒〜1時間照射すること、からなる群から選択されるステップを実行して、同位体標識された被分析物類似体が含まれる平衡化された試料を作製し、
d)同位体標識された被分析物類似体が含まれる平衡化された試料を、直接イオン化し、分析を行なうために質量分析計へ移送するステップ、を含んでいる方法。
【請求項2】
固相担持体は、表面改質及び/又は官能化されたイオン交換媒体、吸着媒体、固相抽出樹脂、樹脂結合固相、吸着剤、ソリッド及び/又は多孔質ビーズ、表面活性化ビーズ、混合ベッド媒体、フィルター、固定化液体抽出に用いられる2段液体、充填カラムにパッケージされたファイバー、マイクロタイタープレート、プレート、マイクロアレイ、ボトル、チューブ、キャップ、ELISAにおける隔膜及びピペットチップ、SELDI、マイクロアレイ及び液化可能な固相ゲル、並びに免疫測定固相媒体担持体からなる群からさらに選択される請求項1の方法。
【請求項3】
同位体希釈質量分析試料は、種別同位体希釈質量分析試料である請求項1の方法。
【請求項4】
同位体希釈質量分析試料は、種特異性同位体希釈質量分析試料である請求項1の方法。
【請求項5】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、1〜600秒の時間範囲で平衡を達成する請求項1の方法。
【請求項6】
固相担持体及び試料をインキュベートするステップは、1〜600秒の時間範囲で平衡を達成する請求項1の方法。
【請求項7】
被分析物は、同位体変化が自然界に起こるあらゆる要素を含む化合物又は組成物からなる群から選択される請求項1の方法。
【請求項8】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、1010〜1013ヘルツの範囲内で行われる請求項7の方法。
【請求項9】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、約2450メガヘルツで行われる請求項7の方法。
【請求項10】
被分析物は、国土安全、国土防衛、環境優先毒性物質、環境鑑識種、環境保健及び工業化学物質用化合物又は組成物からなる群から選択される請求項7の方法。
【請求項11】
被分析物は、水銀、tert-ブタノール、メチル-t-ブチルエーテル、エチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-アミルメチルエーテル、モルヒネ、ジオキサン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、ナフタレン及びフェナントレンを含む化合物又は組成物からなる群から選択される請求項7の方法。
【請求項12】
試料中の被分析物の濃度は、同位体標識された被分析物類似体に対する質量分析によって決定された被分析物全体の比に基づいて算出される請求項7の方法。
【請求項13】
被分析物の濃度は、校正曲線を適用せず、種の同位体比に基づく濃度及び/又は分解調節の数学的計算を用いて直接算出される請求項7の方法。
【請求項14】
固相及び/又はマイクロ波平衡は、IDMS及び/又はSIDMS質量分析を自動化するのに用いられる請求項7の方法。
【請求項1】
同位体希釈質量分析試料を平衡化する方法であって、
a)固相担持体及びマイクロ波可能な溶液からなる群から選択される媒体に、所定量又は所定濃度の同位体標識された被分析物類似体を添加するステップ、
b)前記媒体に、前記同位体標識された被分析物類似体に相当する対象被分析物を含むか又は含むと推測される試料を添加するステップ、
c)前記媒体との平衡化ステップを実行するステップであって、a)固相担持体及び試料を1秒〜24時間インキュベートすること、及びb)マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を1秒〜1時間照射すること、からなる群から選択されるステップを実行して、同位体標識された被分析物類似体が含まれる平衡化された試料を作製し、
d)同位体標識された被分析物類似体が含まれる平衡化された試料を、直接イオン化し、分析を行なうために質量分析計へ移送するステップ、を含んでいる方法。
【請求項2】
固相担持体は、表面改質及び/又は官能化されたイオン交換媒体、吸着媒体、固相抽出樹脂、樹脂結合固相、吸着剤、ソリッド及び/又は多孔質ビーズ、表面活性化ビーズ、混合ベッド媒体、フィルター、固定化液体抽出に用いられる2段液体、充填カラムにパッケージされたファイバー、マイクロタイタープレート、プレート、マイクロアレイ、ボトル、チューブ、キャップ、ELISAにおける隔膜及びピペットチップ、SELDI、マイクロアレイ及び液化可能な固相ゲル、並びに免疫測定固相媒体担持体からなる群からさらに選択される請求項1の方法。
【請求項3】
同位体希釈質量分析試料は、種別同位体希釈質量分析試料である請求項1の方法。
【請求項4】
同位体希釈質量分析試料は、種特異性同位体希釈質量分析試料である請求項1の方法。
【請求項5】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、1〜600秒の時間範囲で平衡を達成する請求項1の方法。
【請求項6】
固相担持体及び試料をインキュベートするステップは、1〜600秒の時間範囲で平衡を達成する請求項1の方法。
【請求項7】
被分析物は、同位体変化が自然界に起こるあらゆる要素を含む化合物又は組成物からなる群から選択される請求項1の方法。
【請求項8】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、1010〜1013ヘルツの範囲内で行われる請求項7の方法。
【請求項9】
マイクロ波可能な溶液にマイクロ波を照射するステップは、約2450メガヘルツで行われる請求項7の方法。
【請求項10】
被分析物は、国土安全、国土防衛、環境優先毒性物質、環境鑑識種、環境保健及び工業化学物質用化合物又は組成物からなる群から選択される請求項7の方法。
【請求項11】
被分析物は、水銀、tert-ブタノール、メチル-t-ブチルエーテル、エチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-アミルメチルエーテル、モルヒネ、ジオキサン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、ナフタレン及びフェナントレンを含む化合物又は組成物からなる群から選択される請求項7の方法。
【請求項12】
試料中の被分析物の濃度は、同位体標識された被分析物類似体に対する質量分析によって決定された被分析物全体の比に基づいて算出される請求項7の方法。
【請求項13】
被分析物の濃度は、校正曲線を適用せず、種の同位体比に基づく濃度及び/又は分解調節の数学的計算を用いて直接算出される請求項7の方法。
【請求項14】
固相及び/又はマイクロ波平衡は、IDMS及び/又はSIDMS質量分析を自動化するのに用いられる請求項7の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2010−512515(P2010−512515A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540500(P2009−540500)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/086795
【国際公開番号】WO2008/112032
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509158901)アプライド アイソトープ テクノロジーズ,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED ISOTOPE TECHNOLOGIES,INC.
【出願人】(309039406)
【氏名又は名称原語表記】KINGSTON,Howard M.
【出願人】(309039417)
【氏名又は名称原語表記】RAHMAN,Mizanur
【出願人】(309039428)
【氏名又は名称原語表記】LINEMAN,David
【出願人】(309039439)
【氏名又は名称原語表記】PAMUKCU,Mehmet
【上記1名の代理人】
【識別番号】100066728
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 敏之
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/086795
【国際公開番号】WO2008/112032
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509158901)アプライド アイソトープ テクノロジーズ,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED ISOTOPE TECHNOLOGIES,INC.
【出願人】(309039406)
【氏名又は名称原語表記】KINGSTON,Howard M.
【出願人】(309039417)
【氏名又は名称原語表記】RAHMAN,Mizanur
【出願人】(309039428)
【氏名又は名称原語表記】LINEMAN,David
【出願人】(309039439)
【氏名又は名称原語表記】PAMUKCU,Mehmet
【上記1名の代理人】
【識別番号】100066728
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 敏之
【Fターム(参考)】
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