固相抽出前処理方法及び装置
【課題】固相抽出前処理において使用される固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥及び溶出において、極めて効率的且つコスト廉価な方法及び装置の提供を行う。さらに、脱水乾燥工程に続く必要成分溶出工程にも必要なバックフラッシュ工程を効率良く実施できる装置を提案する。
【解決手段】固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を、電磁弁を使用して間欠的に遮断開放等の作動により制御して供給することによりサンプル通水後の脱水乾燥を効率良く実施する。
【解決手段】固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を、電磁弁を使用して間欠的に遮断開放等の作動により制御して供給することによりサンプル通水後の脱水乾燥を効率良く実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出前処理方法及び装置に関し、特に効率的な抽出を行うための固相カートリッジカラムのサンプル通水後に行われる脱水乾燥、および溶出に有効な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固相抽出前処理は、クリーンアップ法や、濃縮法として広く普及している。特に、GC/MS分析の前処理では、広い対象範囲の化学物質を測定できる技術として利用価値が認められている。そのため固相抽出前処理は、装置による自動化が進められ、様々な固相抽出処理技術や新しい固相カートリッジが提案され、分析精度を高める試みが行われている。
【0003】
一方、水道水については、2003年に水道法の大改正が行われ、水質管理目標設定項目に農薬類が指定された。これらの農薬のうち68成分が、固相抽出で前処理を行った後に、GC/MS分析を行い、成分の定量を行う必要があるため、多成分多検体の効率的一斉分析が求められている。
【0004】
水の固相抽出前処理では、水サンプル溶液を通液した後に洗浄を行い、次に脱水乾燥を行う。この脱水乾燥工程が分析結果に大きな影響を与えることが知られており、固相を時間をかけ充分に乾燥させる、脱水乾燥工程後の溶出液に、無水硫酸ナトリウム(脱水剤)を加える、無水硫酸ナトリウムが充填されたDRYカートリッジを通す、或いは分離フィルターにより水を除去する、等の方法が脱水乾燥のために使用されている。
【0005】
また、自動化固相抽出前処理装置においては、脱水乾燥工程は、固相カートリッジに室内空気を通気する方法、吸引ポンプを用いて室内空気を吸引する方法、窒素を吹き付ける方法(特許文献1参照。)、窒素を吹き付けながら吸引ポンプで吸引する方法(ジーエルサイエンス社 AQUATRACE)などで従来行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3481705号公報
【0007】
上述した脱水乾燥工程の後には、必要な成分を溶出する溶出工程が行われる。この溶出工程は、分析する成分により、溶出液の流れを逆流させることによるバックフラッシュが必要になる。例えば、1,4ジオキサン、フェノール類などが定型的な成分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固相カートリッジ、固相カラムの乾燥には、上記の如く種々の方法が採られているが、未だ充分な成果を上げていない。
特に、固相を乾燥させる時には気化熱が必要であるが、室温が低い場合には、固相が冷えすぎ、乾燥するための熱エネルギーが充分に得られないことがある。この場合、装置が温度の低い所に設置されていたり、冬場であったりすると、固相の充分な脱水乾燥ができず、結果として分析結果が悪くなることが分かっている。
【0009】
そうなると、固相の乾燥のために固相処理時間がかかったり、吹き付け窒素ガスの使用量が増加したりするので、時間のロスやコスト増を来たすことになる。
また、脱水剤や水分離フィルター等を使用する場合には、それらは使い捨てであるため、固相前処理コストがかかる。
【0010】
従って、前述の如く室温の低い時、低い場所においては何らかの手段で固相を加熱し、乾燥時に起こる過冷却による乾燥効率の低下を防ぐ必要がある。その際の加熱温度は、固相カートリッジに保持された目的成分が分解しないよう、温度コントロールの必要性もある。
例えば、農薬等は温度が40℃以上では分解する可能性があるため、固相の温度を40℃以下に制御する必要がある。界面活性剤やPCBのように分解性の低い物質については、目的成分が固相から揮散しない程度にする必要がある。
【0011】
さらに、バックフラッシュ工程では、自動化装置と言えども、多成分の保持された多検体の固相カートリッジを効率的に溶出する仕組みがなかったため、乾燥工程の後、一旦自動処理をストップし、分析者が固相カートリッジを支持部であるホルダーから外し、180度向きを変えて液の入出口を通水時と逆にし、ホルダーに設置し直し、その後溶出の自動処理を再開する必要があった。
【0012】
本発明の目的は、固相カートリッジのサンプル通水後に行われる脱水乾燥が極めて容易、且つコスト廉価に出来る方法及び装置を提供することである。
また、本発明の他の目的は、バックフラッシュ溶出を極めて効率的に、しかも自動的に達成しうる方法、装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、効率的に脱水工程を行うことにより、固相カートリッジの乾燥が短時間で容易、且つコスト廉価に出来るようにしたもので、固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的になる如く制御して供給するか、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0014】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジを加熱する温度は、固相カートリッジの表面温度が40℃以下であることを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0015】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジとポンプ間の流路に電磁弁を設置し、電磁弁により間欠的に大気に開放した流路を遮断、開放を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0016】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、該流路の遮断、開放を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0017】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、固相カートリッジより流出する流路にはポンプを設け常時ポンプにより固相カートリッジを減圧させ、一方圧力ガスの供給を断続して行うことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0018】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジからの流路に電磁弁を介してポンプを設け、ポンプにより電磁弁に至る流路内を常時吸引しており、圧力ガスが常時供給される固相カートリッジを電磁弁の開放により減圧させる工程を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0019】
また、上記固相抽出前処理方法において、電磁弁と固相カートリッジ間にバッファーを設けることにより、固相カートリッジに対する大気又はガス流量を増すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0020】
また、固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスに加熱部を設置したことを特徴とする固相抽出前処理装置である。
【0021】
また、上記固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスを回転自在に設置するとともに、固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体に設けた接続部とを着脱自在とし、更に固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体下部のサンプル管とを着脱自在に構成したことを特徴とする固相抽出前処理装置である。
【発明の効果】
【0022】
本願発明によれば、固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的に制御して供給し、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることにより、各種の大気或いはガスの供給法に使用でき、且つ該供給法において極めて効率的な脱水効果が得られ、固相カートリッジの乾燥工程が確実に行われ、分析結果に好結果を齎すことが出来る。
【0023】
また、該手段に固相カートリッジに対する加熱手段を用いる際には、固相カートリッジの使用対象範囲を大幅に拡大し、且つ効率的な実行をコストがかからず実行出来る。
また、固相カートリッジボックスの回転機構を設置することは、バックフラッシュ方式採用の際に、極めて効率的なサンプル回収に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1乃至図5は、本発明の実施形態を図式化した説明図である。
図1の方式は、固相カートリッジ1の流路2下方に電磁弁3を介して吸引ポンプ4を設置する構成である。固相カートリッジ1の上方には、通液と、室内空気の導入のために流路6が、固相に密着するように構成されている。この方式において、ポンプ4を作動させ、電磁弁3との間の流路2を減圧する。その後、電磁弁3を開放し、大気を供給し、固相カートリッジ中を通過させる。
次いで、電磁弁3を閉じ、また電磁弁との間の流路2を減圧し、その後、電磁弁3を開放する。このように電磁弁3の間欠的開閉動作により、減圧、開放動作が繰り返され、圧力差が大きくなり、電磁弁を開放したときに、大気流が勢いよく固相カートリッジ1内を通過し、固相カートリッジ1の効率的な脱水を行うことが出来る。
【0025】
図2の方式は、固相カートリッジ1の下方は流路2に、上方は流路6に連通させ、流路6に電磁弁3を設置する構成である。
この方式においては、加圧ガス、例えば窒素ガスを、電磁弁3を有する流路6に流す。次に、電磁弁3を閉じ、流路6に加圧したガスを留め、さらに電磁弁3の開放により、固相カートリッジ1にガス圧力の上がったガスを勢いよく一気に供給する。この間欠的開閉動作により、固相カートリッジ1の効率的な脱水乾燥を行うことが出来る。
【0026】
図3の方式は、図2と同様の方式であるが、固相カートリッジ1の下流の流路2に、ポンプ4を設置する構成である。
この方式では、電磁弁3を閉じ、ポンプ4の作動により、流路2および6と、固相カートリッジ1内を常時減圧にし、次いで電磁弁3を開放して加圧ガスを固相カートリッジ1に勢いよく一気に供給する。この動作を電磁弁3の開閉により間欠的に繰り返し行う。この作動により、固相カートリッジ1の極めて効率的な脱水乾燥を行うことが出来る。
【0027】
図4の方式は、図3と同様の方式であるが、固相カートリッジ1とポンプ4間の流路2に電磁弁3を設置するもので、固相カートリッジ1上に流路6が連通してある。
固相カートリッジ1には、流路6より加圧ガス、例えば窒素ガスが供給されており、流路2はポンプ4により、吸引されて常時減圧されている。ここで電磁弁3を開放することにより、固相カートリッジ1内のガスは、一気に開放されて流路24に勢いよく供給される。
この固相カートリッジ1内には、加圧ガスが定常的に供給されるが、電磁弁3の開放により一気に減圧されるため、この間欠的開閉動作により脱水効果が上がる。この供給ガスは、加圧されたほうがより効率が良いことが確認されている。
【0028】
図5の方式は、さらに効率的な構造である。図3と同様の方式の構図に、さらに電磁弁3と固相カートリッジ1の間にバッファー5、例えば空容器を設けることで、ポンプ4により減圧される体積が増大し、間欠的開閉動作中の電磁弁3を開放した際、増大した体積に応じた流量で固相カートリッジ1にガスが流れ、効率的に脱水乾燥が行われる。
この方式では、図4の方式の供給ガスの加圧式に比し、ガス消費量も削減でき、効率的な脱水乾燥が行われることが確認されている。
【0029】
さらに、より効率的な脱水を行うためには、室温の低い時、低い場所において、乾燥時に起こる過冷却を防ぐための固相加熱を行う必要がある。加熱の一つの方法は、乾燥時に供給する大気または圧力ガスをあらかじめ加熱し、その加熱ガスにより、脱水乾燥も同時に行うものである。固相に接触しても簡単に熱が奪われ、表面温度が下がらないような充分な温度に制御する。
【0030】
また、別の一つの方法は、固相カートリッジ表面全体から熱するものである。具体的には、一つ一つのカートリッジごとに行うのではなく、複数の固相カートリッジを支持するホルダーであるカートリッジボックスごと加熱するほうが効率的である。どちらの方法にしても、農薬を分析対象とする場合は、成分が分解しないように固相が40℃以上にならないように注意する。
さらに、この脱水乾燥工程に引き続き、溶出工程が行われる。中でも、バックフラッシュ溶出工程には、カートリッジボックスの回転がサンプル液の効率的な回収の役割を果たす上で重要である。
【0031】
以下に、カートリッジボックスについて図8を使用し詳述する。
10は、固相カートリッジ1,1…を収納するカートリッジボックスで、蓋体11を着脱自在に設けてある。固相カートリッジ1,1…は、所定間隔に適宜数、所定位置に挿入乃至装着自在に設置される如く構成してある。
カートリッジボックス10は、側板及び底板にてボックス状に構成され、一側板100を丁板等により開閉自在とするのが便である。これら側板の一の内側には、例えばラバーヒーターの如き発熱体を設け、カートリッジボックス10の内側を加熱でき、固相カートリッジを加熱することが出来る。場合により設置した固相カートリッジ1,1…に直接接触して加熱できるようにすることも可能である。一側板100の開閉自在とした構成は、使用済みの固相カートリッジ1,1…の交換の際、マグネットによる簡易的固定により開放が容易で、固相カートリッジ1の交換作業が容易である。
【0032】
また、固相カートリッジ1には、上下にはそれぞれアダプター12,13を設け、下部のアダプター13は、固相カートリッジ1に対応した厚さの台部131,132を設置して、それぞれ発条14を備えさせてある。
図6、図7では、大きさの異なる固相カートリッジを示すが、台部131と異なる台部132を使用することで、等高に構成し、1つのカートリッジフォルダに支持することが出来る。
【0033】
この固相カートリッジ1をカートリッジボックス10に収納し、蓋体11を被せる時には、固相カートリッジ1の上部のアダプター12は、蓋体11の天板に穿設した透孔15に入るが、頂部は出たままである。
そこで、蓋体11を一方に押すと、カートリッジボックス1の側面に張出した突起16,16に案内されて、蓋体11の側面に設けた屈曲した溝17,17に導かれて前進し、上部のアダプター12は前記透孔15に連通する小孔151に導かれ、下圧されて蓋体11下に押さえられる。
【0034】
このカートリッジボックス10は、自動固相抽出装置等の本体に回転自在に設けておくと、バックフラッシュ溶出の際に非常に便利である。即ち、本体或いはその張出体に設けた回転機構22により回転自在とすることが出来る。
その具体例たる図9により説明すると、モーターギヤ等の回転機構22により取り付け板18を回転自在としておく。取り付け板18には、カートリッジボックス10の側板に設けた貫通孔101,101,101に取り付け板18に突設した留め棒181,181,181を挿通させると共に、カートリッジボックス10の両端に設けたポールプランジャー102,103と、取り付け板18に設けた位置決め穴182,182を係合固定する。
【0035】
然る時、サンプル水、溶媒等の液を固相カートリッジ1,1…に通液するには、固相カートリッジ1,1…の上部に設けたアダプター12,12と本体に設けた接続部19,19…を接続して通液する。接続部19,19…は、上下機構により上部のアダプター12,12…に接続する。通液後の不要な水や溶媒は、排水ポート20で受け、その後系外に排出される。
【0036】
指定量のサンプル水、溶媒等の通液が終わると、回転機構22により取り付け板18を介して、カートリッジボックス10は180度回転し、通液時には下部に位置していたポート20は奥側に移動し、代わって溶媒受け21,21…が、下部に反転したアダプター12の眞下に位置される。図10に回転後の状態を示す。
溶媒受け21の下には、試験管などのサンプル管23を位置させ、バックフラッシュ溶出したサンプル液を受ける。その後、サンプル液は、次の工程である濃縮工程へと進行する。濃縮されたサンプル液は、メスアップされた後、GC/MSに導入され、定性と定量の分析が行われる。カートリッジボックス10が回転することにより、固相を一つずつ手で上下反転支持する手間が大幅に軽減されるとともに、完全自動化されることにより回収率への悪影響が緩和される。
【実施例1】
【0037】
以下、公定法である水道法の手順に従い、農薬成分のGC/MSによる分析を行った結果を説明する。
公定法実験条件:サンプル水 500mlを分取し、あらかじめコンディショニングした固相カートリッジに10〜20ml/minの流量でサンプル水を通液させる。
次に、30分以上加圧窒素導入を行い、固相カートリッジを脱水乾燥させた後、ジクロロメタン3mlを固相カラムに流し込み、溶出させる。この溶出液を窒素バージで0.8ml以下に濃縮した後、内部標準液を添加し、ジクロロメタンで1mlに定容する。この試験溶液をGC/MSにより測定する。
【0038】
脱水乾燥が不十分であると、カートリッジ内に水滴が残る、または、次工程の抽出液であるジクロロメタン中に混ざって溶出されるため、層または液滴として水が確認される。
そこで、図3の方式により、脱水乾燥工程の時間を公定法より短縮して15分に設定し、電磁弁3を開けたまま連続的に脱水乾燥を行った場合と、間欠的開閉動作を行った場合の状態を比較した。間欠的開閉動作は、開は1秒間、閉は5秒間とした。
連続的に脱水乾燥を行った場合には、ジクロロメタン中に水滴が確認され、脱水が不充分であることが示唆された。一方、間欠的開閉動作を行った場合は、水滴は確認されず、脱水が充分完了したものと思われた。
【0039】
前述の間欠的開閉動作を行い、得られた試験溶液をGC/MSにより測定したトータルイオンマスクロマトグラムを図11に示す。
実験条件は以下である。
GC・MS:QP‐2010GCMS(SHIMADZU)
Column:InertCap Pesticides
0.25mmI.D.×30m
OVEN:50℃(3min hold)‐10℃/min‐200℃‐3℃/‐230℃(5min hold)‐5℃/min‐300℃(8min hold)
Head Pressure:He100kPa
Injection Temperature:250℃
Injection Temperature:300℃
Injection:Splitless,1μL
【0040】
1のピークは、Dichlobenil(ジクロベニル)、2はEtridiazole(エトリジアゾール)、3はChloroneb(クロロネブ)、4はMolinate(モリネート)、である。
さらに、保持時間約22分には、その他の成分と重なってしまっているが、Pendimethalin(ペンディメタリン)が検出されている。ピーク5とする。これらの農薬成分は、脱水乾燥が充分でないと、定量結果に悪影響が出ることが知られている成分である。それぞれの添加回収試験による回収率は、(1)76.1%、(2)81.9%、(3)81.0%、(4)81.7%、(5)81.2%であった。
【0041】
同様の条件で、連続的に脱水乾燥を行った場合の各成分の回収率は、(1)70.8%、(2)71.3%、(3)77.9%、(4)76.5%、(5)74.6%と全ての成分で悪い結果となり、間欠的開閉動作が非常に効率的に脱水乾燥を行っていることが確認された。
【実施例2】
【0042】
図5の方式により、脱水乾燥を行った結果を下記に示す。
固相カートリッジ:Aqusis PLS‐3 200mg/6mL
固相カートリッジ中の固相のない部分の容量は、およそ1mLであるので、その容量の5倍である5mLのステンレス製空容器を電磁弁との間に設け、脱水乾燥時間をカートリッジの水滴で確認した。間欠的開閉動作は、開は1秒間、閉は5秒間とした。
空容器を設けない場合は、ほぼ13分で水滴が消失したが、空容器を設けた場合は、約10分で消失し、効率的な脱水乾燥が行われていることが確認された。
なお、容器の容量を大きくすればするほど、効果があることが消失時間により確認されたが、デッドボリュームの10倍程度の空容量が好適な容量と考えられる。
【実施例3】
【0043】
図3の方式による脱水乾燥を低温状態で行い、加熱の効果を確認した。
室温10℃
カートリッジボックス側板ラバーヒーター:45℃
他の実験条件は実施例2と同じとし、空容器は設けずに行った。固相カートリッジの表面温度は32℃であった。加熱をしない場合は、15分脱水乾燥工程を行っても水滴の消失が見られず、不充分な乾燥状態であったが、45℃にラバーヒーターを加熱した場合は、ほぼ13分で消失した。
【0044】
実施例1で使用した農薬成分ジクロべニルを前処理後、GC/MS分析したところ、その回収率は、加熱しない場合は68.5%、加熱した場合は98.5%であった。加熱による効果がはっきり現れているとともに、加熱しすぎによる成分の分解も防げたことが確認された。
【実施例4】
【0045】
更に、ラバーヒーター温度を50℃とし、実施例3と同様の実験を行なったところ、固相カートリッジの表面温度は40℃となり、水滴は消失しており、脱水乾燥が充分であることが確認された。実施例1で使用した農薬成分エトリジアゾールを前処理後、GC/MS分析したところ、その回収率は、加熱しない場合は75.0%、加熱した場合は102.3%であった。このことから、成分分解もおこらずに、加熱の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一概略説明図である。
【図2】本発明の一概略説明図である。
【図3】本発明の一概略説明図である。
【図4】本発明の一概略説明図である。
【図5】本発明の一概略説明図である。
【図6】本発明に使用されるカートリッジ一実施例正面図である。
【図7】本発明に使用されるカートリッジ一実施例正面図である。
【図8】本発明に使用される回転機構概略説明図である。
【図9】同上使用状態説明図である。
【図10】同上使用状態説明図である。
【図11】本発明を使用して得られたトータルイオンクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0047】
1 固相カートリッジ
2 流路
3 電磁弁
4 ポンプ
6 流路
24 流路
5 バッファー
10 カートリッジボックス
11 蓋体
100 一側板
12 アダプター
13 アダプター
131 台部
132 台部
14 発条
15 透孔
16 突起
20 排水ポート
17 溝
151 小孔
22 回転機構
18 取り付け板
101 貫通孔
181 留め棒
102 ポールプランジャー
103 ポールプランジャー
182 位置決め穴
19 接続部
23 サンプル管
24 溶媒受け
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出前処理方法及び装置に関し、特に効率的な抽出を行うための固相カートリッジカラムのサンプル通水後に行われる脱水乾燥、および溶出に有効な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固相抽出前処理は、クリーンアップ法や、濃縮法として広く普及している。特に、GC/MS分析の前処理では、広い対象範囲の化学物質を測定できる技術として利用価値が認められている。そのため固相抽出前処理は、装置による自動化が進められ、様々な固相抽出処理技術や新しい固相カートリッジが提案され、分析精度を高める試みが行われている。
【0003】
一方、水道水については、2003年に水道法の大改正が行われ、水質管理目標設定項目に農薬類が指定された。これらの農薬のうち68成分が、固相抽出で前処理を行った後に、GC/MS分析を行い、成分の定量を行う必要があるため、多成分多検体の効率的一斉分析が求められている。
【0004】
水の固相抽出前処理では、水サンプル溶液を通液した後に洗浄を行い、次に脱水乾燥を行う。この脱水乾燥工程が分析結果に大きな影響を与えることが知られており、固相を時間をかけ充分に乾燥させる、脱水乾燥工程後の溶出液に、無水硫酸ナトリウム(脱水剤)を加える、無水硫酸ナトリウムが充填されたDRYカートリッジを通す、或いは分離フィルターにより水を除去する、等の方法が脱水乾燥のために使用されている。
【0005】
また、自動化固相抽出前処理装置においては、脱水乾燥工程は、固相カートリッジに室内空気を通気する方法、吸引ポンプを用いて室内空気を吸引する方法、窒素を吹き付ける方法(特許文献1参照。)、窒素を吹き付けながら吸引ポンプで吸引する方法(ジーエルサイエンス社 AQUATRACE)などで従来行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3481705号公報
【0007】
上述した脱水乾燥工程の後には、必要な成分を溶出する溶出工程が行われる。この溶出工程は、分析する成分により、溶出液の流れを逆流させることによるバックフラッシュが必要になる。例えば、1,4ジオキサン、フェノール類などが定型的な成分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固相カートリッジ、固相カラムの乾燥には、上記の如く種々の方法が採られているが、未だ充分な成果を上げていない。
特に、固相を乾燥させる時には気化熱が必要であるが、室温が低い場合には、固相が冷えすぎ、乾燥するための熱エネルギーが充分に得られないことがある。この場合、装置が温度の低い所に設置されていたり、冬場であったりすると、固相の充分な脱水乾燥ができず、結果として分析結果が悪くなることが分かっている。
【0009】
そうなると、固相の乾燥のために固相処理時間がかかったり、吹き付け窒素ガスの使用量が増加したりするので、時間のロスやコスト増を来たすことになる。
また、脱水剤や水分離フィルター等を使用する場合には、それらは使い捨てであるため、固相前処理コストがかかる。
【0010】
従って、前述の如く室温の低い時、低い場所においては何らかの手段で固相を加熱し、乾燥時に起こる過冷却による乾燥効率の低下を防ぐ必要がある。その際の加熱温度は、固相カートリッジに保持された目的成分が分解しないよう、温度コントロールの必要性もある。
例えば、農薬等は温度が40℃以上では分解する可能性があるため、固相の温度を40℃以下に制御する必要がある。界面活性剤やPCBのように分解性の低い物質については、目的成分が固相から揮散しない程度にする必要がある。
【0011】
さらに、バックフラッシュ工程では、自動化装置と言えども、多成分の保持された多検体の固相カートリッジを効率的に溶出する仕組みがなかったため、乾燥工程の後、一旦自動処理をストップし、分析者が固相カートリッジを支持部であるホルダーから外し、180度向きを変えて液の入出口を通水時と逆にし、ホルダーに設置し直し、その後溶出の自動処理を再開する必要があった。
【0012】
本発明の目的は、固相カートリッジのサンプル通水後に行われる脱水乾燥が極めて容易、且つコスト廉価に出来る方法及び装置を提供することである。
また、本発明の他の目的は、バックフラッシュ溶出を極めて効率的に、しかも自動的に達成しうる方法、装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、効率的に脱水工程を行うことにより、固相カートリッジの乾燥が短時間で容易、且つコスト廉価に出来るようにしたもので、固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的になる如く制御して供給するか、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0014】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジを加熱する温度は、固相カートリッジの表面温度が40℃以下であることを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0015】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジとポンプ間の流路に電磁弁を設置し、電磁弁により間欠的に大気に開放した流路を遮断、開放を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0016】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、該流路の遮断、開放を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0017】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、固相カートリッジより流出する流路にはポンプを設け常時ポンプにより固相カートリッジを減圧させ、一方圧力ガスの供給を断続して行うことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0018】
また、上記固相抽出前処理方法において、固相カートリッジからの流路に電磁弁を介してポンプを設け、ポンプにより電磁弁に至る流路内を常時吸引しており、圧力ガスが常時供給される固相カートリッジを電磁弁の開放により減圧させる工程を繰り返すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0019】
また、上記固相抽出前処理方法において、電磁弁と固相カートリッジ間にバッファーを設けることにより、固相カートリッジに対する大気又はガス流量を増すことを特徴とする固相抽出前処理方法である。
【0020】
また、固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスに加熱部を設置したことを特徴とする固相抽出前処理装置である。
【0021】
また、上記固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスを回転自在に設置するとともに、固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体に設けた接続部とを着脱自在とし、更に固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体下部のサンプル管とを着脱自在に構成したことを特徴とする固相抽出前処理装置である。
【発明の効果】
【0022】
本願発明によれば、固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的に制御して供給し、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることにより、各種の大気或いはガスの供給法に使用でき、且つ該供給法において極めて効率的な脱水効果が得られ、固相カートリッジの乾燥工程が確実に行われ、分析結果に好結果を齎すことが出来る。
【0023】
また、該手段に固相カートリッジに対する加熱手段を用いる際には、固相カートリッジの使用対象範囲を大幅に拡大し、且つ効率的な実行をコストがかからず実行出来る。
また、固相カートリッジボックスの回転機構を設置することは、バックフラッシュ方式採用の際に、極めて効率的なサンプル回収に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1乃至図5は、本発明の実施形態を図式化した説明図である。
図1の方式は、固相カートリッジ1の流路2下方に電磁弁3を介して吸引ポンプ4を設置する構成である。固相カートリッジ1の上方には、通液と、室内空気の導入のために流路6が、固相に密着するように構成されている。この方式において、ポンプ4を作動させ、電磁弁3との間の流路2を減圧する。その後、電磁弁3を開放し、大気を供給し、固相カートリッジ中を通過させる。
次いで、電磁弁3を閉じ、また電磁弁との間の流路2を減圧し、その後、電磁弁3を開放する。このように電磁弁3の間欠的開閉動作により、減圧、開放動作が繰り返され、圧力差が大きくなり、電磁弁を開放したときに、大気流が勢いよく固相カートリッジ1内を通過し、固相カートリッジ1の効率的な脱水を行うことが出来る。
【0025】
図2の方式は、固相カートリッジ1の下方は流路2に、上方は流路6に連通させ、流路6に電磁弁3を設置する構成である。
この方式においては、加圧ガス、例えば窒素ガスを、電磁弁3を有する流路6に流す。次に、電磁弁3を閉じ、流路6に加圧したガスを留め、さらに電磁弁3の開放により、固相カートリッジ1にガス圧力の上がったガスを勢いよく一気に供給する。この間欠的開閉動作により、固相カートリッジ1の効率的な脱水乾燥を行うことが出来る。
【0026】
図3の方式は、図2と同様の方式であるが、固相カートリッジ1の下流の流路2に、ポンプ4を設置する構成である。
この方式では、電磁弁3を閉じ、ポンプ4の作動により、流路2および6と、固相カートリッジ1内を常時減圧にし、次いで電磁弁3を開放して加圧ガスを固相カートリッジ1に勢いよく一気に供給する。この動作を電磁弁3の開閉により間欠的に繰り返し行う。この作動により、固相カートリッジ1の極めて効率的な脱水乾燥を行うことが出来る。
【0027】
図4の方式は、図3と同様の方式であるが、固相カートリッジ1とポンプ4間の流路2に電磁弁3を設置するもので、固相カートリッジ1上に流路6が連通してある。
固相カートリッジ1には、流路6より加圧ガス、例えば窒素ガスが供給されており、流路2はポンプ4により、吸引されて常時減圧されている。ここで電磁弁3を開放することにより、固相カートリッジ1内のガスは、一気に開放されて流路24に勢いよく供給される。
この固相カートリッジ1内には、加圧ガスが定常的に供給されるが、電磁弁3の開放により一気に減圧されるため、この間欠的開閉動作により脱水効果が上がる。この供給ガスは、加圧されたほうがより効率が良いことが確認されている。
【0028】
図5の方式は、さらに効率的な構造である。図3と同様の方式の構図に、さらに電磁弁3と固相カートリッジ1の間にバッファー5、例えば空容器を設けることで、ポンプ4により減圧される体積が増大し、間欠的開閉動作中の電磁弁3を開放した際、増大した体積に応じた流量で固相カートリッジ1にガスが流れ、効率的に脱水乾燥が行われる。
この方式では、図4の方式の供給ガスの加圧式に比し、ガス消費量も削減でき、効率的な脱水乾燥が行われることが確認されている。
【0029】
さらに、より効率的な脱水を行うためには、室温の低い時、低い場所において、乾燥時に起こる過冷却を防ぐための固相加熱を行う必要がある。加熱の一つの方法は、乾燥時に供給する大気または圧力ガスをあらかじめ加熱し、その加熱ガスにより、脱水乾燥も同時に行うものである。固相に接触しても簡単に熱が奪われ、表面温度が下がらないような充分な温度に制御する。
【0030】
また、別の一つの方法は、固相カートリッジ表面全体から熱するものである。具体的には、一つ一つのカートリッジごとに行うのではなく、複数の固相カートリッジを支持するホルダーであるカートリッジボックスごと加熱するほうが効率的である。どちらの方法にしても、農薬を分析対象とする場合は、成分が分解しないように固相が40℃以上にならないように注意する。
さらに、この脱水乾燥工程に引き続き、溶出工程が行われる。中でも、バックフラッシュ溶出工程には、カートリッジボックスの回転がサンプル液の効率的な回収の役割を果たす上で重要である。
【0031】
以下に、カートリッジボックスについて図8を使用し詳述する。
10は、固相カートリッジ1,1…を収納するカートリッジボックスで、蓋体11を着脱自在に設けてある。固相カートリッジ1,1…は、所定間隔に適宜数、所定位置に挿入乃至装着自在に設置される如く構成してある。
カートリッジボックス10は、側板及び底板にてボックス状に構成され、一側板100を丁板等により開閉自在とするのが便である。これら側板の一の内側には、例えばラバーヒーターの如き発熱体を設け、カートリッジボックス10の内側を加熱でき、固相カートリッジを加熱することが出来る。場合により設置した固相カートリッジ1,1…に直接接触して加熱できるようにすることも可能である。一側板100の開閉自在とした構成は、使用済みの固相カートリッジ1,1…の交換の際、マグネットによる簡易的固定により開放が容易で、固相カートリッジ1の交換作業が容易である。
【0032】
また、固相カートリッジ1には、上下にはそれぞれアダプター12,13を設け、下部のアダプター13は、固相カートリッジ1に対応した厚さの台部131,132を設置して、それぞれ発条14を備えさせてある。
図6、図7では、大きさの異なる固相カートリッジを示すが、台部131と異なる台部132を使用することで、等高に構成し、1つのカートリッジフォルダに支持することが出来る。
【0033】
この固相カートリッジ1をカートリッジボックス10に収納し、蓋体11を被せる時には、固相カートリッジ1の上部のアダプター12は、蓋体11の天板に穿設した透孔15に入るが、頂部は出たままである。
そこで、蓋体11を一方に押すと、カートリッジボックス1の側面に張出した突起16,16に案内されて、蓋体11の側面に設けた屈曲した溝17,17に導かれて前進し、上部のアダプター12は前記透孔15に連通する小孔151に導かれ、下圧されて蓋体11下に押さえられる。
【0034】
このカートリッジボックス10は、自動固相抽出装置等の本体に回転自在に設けておくと、バックフラッシュ溶出の際に非常に便利である。即ち、本体或いはその張出体に設けた回転機構22により回転自在とすることが出来る。
その具体例たる図9により説明すると、モーターギヤ等の回転機構22により取り付け板18を回転自在としておく。取り付け板18には、カートリッジボックス10の側板に設けた貫通孔101,101,101に取り付け板18に突設した留め棒181,181,181を挿通させると共に、カートリッジボックス10の両端に設けたポールプランジャー102,103と、取り付け板18に設けた位置決め穴182,182を係合固定する。
【0035】
然る時、サンプル水、溶媒等の液を固相カートリッジ1,1…に通液するには、固相カートリッジ1,1…の上部に設けたアダプター12,12と本体に設けた接続部19,19…を接続して通液する。接続部19,19…は、上下機構により上部のアダプター12,12…に接続する。通液後の不要な水や溶媒は、排水ポート20で受け、その後系外に排出される。
【0036】
指定量のサンプル水、溶媒等の通液が終わると、回転機構22により取り付け板18を介して、カートリッジボックス10は180度回転し、通液時には下部に位置していたポート20は奥側に移動し、代わって溶媒受け21,21…が、下部に反転したアダプター12の眞下に位置される。図10に回転後の状態を示す。
溶媒受け21の下には、試験管などのサンプル管23を位置させ、バックフラッシュ溶出したサンプル液を受ける。その後、サンプル液は、次の工程である濃縮工程へと進行する。濃縮されたサンプル液は、メスアップされた後、GC/MSに導入され、定性と定量の分析が行われる。カートリッジボックス10が回転することにより、固相を一つずつ手で上下反転支持する手間が大幅に軽減されるとともに、完全自動化されることにより回収率への悪影響が緩和される。
【実施例1】
【0037】
以下、公定法である水道法の手順に従い、農薬成分のGC/MSによる分析を行った結果を説明する。
公定法実験条件:サンプル水 500mlを分取し、あらかじめコンディショニングした固相カートリッジに10〜20ml/minの流量でサンプル水を通液させる。
次に、30分以上加圧窒素導入を行い、固相カートリッジを脱水乾燥させた後、ジクロロメタン3mlを固相カラムに流し込み、溶出させる。この溶出液を窒素バージで0.8ml以下に濃縮した後、内部標準液を添加し、ジクロロメタンで1mlに定容する。この試験溶液をGC/MSにより測定する。
【0038】
脱水乾燥が不十分であると、カートリッジ内に水滴が残る、または、次工程の抽出液であるジクロロメタン中に混ざって溶出されるため、層または液滴として水が確認される。
そこで、図3の方式により、脱水乾燥工程の時間を公定法より短縮して15分に設定し、電磁弁3を開けたまま連続的に脱水乾燥を行った場合と、間欠的開閉動作を行った場合の状態を比較した。間欠的開閉動作は、開は1秒間、閉は5秒間とした。
連続的に脱水乾燥を行った場合には、ジクロロメタン中に水滴が確認され、脱水が不充分であることが示唆された。一方、間欠的開閉動作を行った場合は、水滴は確認されず、脱水が充分完了したものと思われた。
【0039】
前述の間欠的開閉動作を行い、得られた試験溶液をGC/MSにより測定したトータルイオンマスクロマトグラムを図11に示す。
実験条件は以下である。
GC・MS:QP‐2010GCMS(SHIMADZU)
Column:InertCap Pesticides
0.25mmI.D.×30m
OVEN:50℃(3min hold)‐10℃/min‐200℃‐3℃/‐230℃(5min hold)‐5℃/min‐300℃(8min hold)
Head Pressure:He100kPa
Injection Temperature:250℃
Injection Temperature:300℃
Injection:Splitless,1μL
【0040】
1のピークは、Dichlobenil(ジクロベニル)、2はEtridiazole(エトリジアゾール)、3はChloroneb(クロロネブ)、4はMolinate(モリネート)、である。
さらに、保持時間約22分には、その他の成分と重なってしまっているが、Pendimethalin(ペンディメタリン)が検出されている。ピーク5とする。これらの農薬成分は、脱水乾燥が充分でないと、定量結果に悪影響が出ることが知られている成分である。それぞれの添加回収試験による回収率は、(1)76.1%、(2)81.9%、(3)81.0%、(4)81.7%、(5)81.2%であった。
【0041】
同様の条件で、連続的に脱水乾燥を行った場合の各成分の回収率は、(1)70.8%、(2)71.3%、(3)77.9%、(4)76.5%、(5)74.6%と全ての成分で悪い結果となり、間欠的開閉動作が非常に効率的に脱水乾燥を行っていることが確認された。
【実施例2】
【0042】
図5の方式により、脱水乾燥を行った結果を下記に示す。
固相カートリッジ:Aqusis PLS‐3 200mg/6mL
固相カートリッジ中の固相のない部分の容量は、およそ1mLであるので、その容量の5倍である5mLのステンレス製空容器を電磁弁との間に設け、脱水乾燥時間をカートリッジの水滴で確認した。間欠的開閉動作は、開は1秒間、閉は5秒間とした。
空容器を設けない場合は、ほぼ13分で水滴が消失したが、空容器を設けた場合は、約10分で消失し、効率的な脱水乾燥が行われていることが確認された。
なお、容器の容量を大きくすればするほど、効果があることが消失時間により確認されたが、デッドボリュームの10倍程度の空容量が好適な容量と考えられる。
【実施例3】
【0043】
図3の方式による脱水乾燥を低温状態で行い、加熱の効果を確認した。
室温10℃
カートリッジボックス側板ラバーヒーター:45℃
他の実験条件は実施例2と同じとし、空容器は設けずに行った。固相カートリッジの表面温度は32℃であった。加熱をしない場合は、15分脱水乾燥工程を行っても水滴の消失が見られず、不充分な乾燥状態であったが、45℃にラバーヒーターを加熱した場合は、ほぼ13分で消失した。
【0044】
実施例1で使用した農薬成分ジクロべニルを前処理後、GC/MS分析したところ、その回収率は、加熱しない場合は68.5%、加熱した場合は98.5%であった。加熱による効果がはっきり現れているとともに、加熱しすぎによる成分の分解も防げたことが確認された。
【実施例4】
【0045】
更に、ラバーヒーター温度を50℃とし、実施例3と同様の実験を行なったところ、固相カートリッジの表面温度は40℃となり、水滴は消失しており、脱水乾燥が充分であることが確認された。実施例1で使用した農薬成分エトリジアゾールを前処理後、GC/MS分析したところ、その回収率は、加熱しない場合は75.0%、加熱した場合は102.3%であった。このことから、成分分解もおこらずに、加熱の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一概略説明図である。
【図2】本発明の一概略説明図である。
【図3】本発明の一概略説明図である。
【図4】本発明の一概略説明図である。
【図5】本発明の一概略説明図である。
【図6】本発明に使用されるカートリッジ一実施例正面図である。
【図7】本発明に使用されるカートリッジ一実施例正面図である。
【図8】本発明に使用される回転機構概略説明図である。
【図9】同上使用状態説明図である。
【図10】同上使用状態説明図である。
【図11】本発明を使用して得られたトータルイオンクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0047】
1 固相カートリッジ
2 流路
3 電磁弁
4 ポンプ
6 流路
24 流路
5 バッファー
10 カートリッジボックス
11 蓋体
100 一側板
12 アダプター
13 アダプター
131 台部
132 台部
14 発条
15 透孔
16 突起
20 排水ポート
17 溝
151 小孔
22 回転機構
18 取り付け板
101 貫通孔
181 留め棒
102 ポールプランジャー
103 ポールプランジャー
182 位置決め穴
19 接続部
23 サンプル管
24 溶媒受け
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的になる如く制御して供給するかし、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることを特徴とする固相抽出前処理方法。
【請求項2】
固相カートリッジを加熱する温度は、固相カートリッジの表面温度が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項3】
固相カートリッジとポンプ間の流路に電磁弁を設置し、電磁弁により間欠的に大気に開放した流路を遮断、開放を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項4】
固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、該流路の遮断、開放を繰り返すことを特徴とする請求項1から3のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項5】
固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、固相カートリッジより流出する流路にはポンプを設け常時ポンプにより固相カートリッジを減圧させ、一方圧力ガスの供給を断続して行うことを特徴とする請求項1から4のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項6】
固相カートリッジからの流路に電磁弁を介してポンプを設け、ポンプにより電磁弁に至る流路内を常時吸引しており、圧力ガスが常時供給される固相カートリッジを電磁弁の開放により減圧させる工程を繰り返すことを特徴とする請求項1から5のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項7】
電磁弁と固相カートリッジ間にバッファーを設けることにより、固相カートリッジに対する大気又はガス流量を増すことを特徴とする請求項1から6のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項8】
固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスに加熱部を設置したことを特徴とする固相抽出前処理装置。
【請求項9】
固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスを回転自在に設置するとともに、固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体に設けた接続部とを着脱自在とし、更に固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体下部のサンプル管とを着脱自在に構成したことを特徴とする請求項8に記載の固相抽出前処理装置。
【請求項1】
固相カートリッジを加熱するか、固相カートリッジに供給される大気或いはガスの通過量を間欠的になる如く制御して供給するかし、または両方法を用いて固相カートリッジを脱水乾燥させることを特徴とする固相抽出前処理方法。
【請求項2】
固相カートリッジを加熱する温度は、固相カートリッジの表面温度が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項3】
固相カートリッジとポンプ間の流路に電磁弁を設置し、電磁弁により間欠的に大気に開放した流路を遮断、開放を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項4】
固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、該流路の遮断、開放を繰り返すことを特徴とする請求項1から3のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項5】
固相カートリッジに至る流路に、圧力ガスを供給すると共に、該流路に電磁弁を設置し、固相カートリッジより流出する流路にはポンプを設け常時ポンプにより固相カートリッジを減圧させ、一方圧力ガスの供給を断続して行うことを特徴とする請求項1から4のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項6】
固相カートリッジからの流路に電磁弁を介してポンプを設け、ポンプにより電磁弁に至る流路内を常時吸引しており、圧力ガスが常時供給される固相カートリッジを電磁弁の開放により減圧させる工程を繰り返すことを特徴とする請求項1から5のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項7】
電磁弁と固相カートリッジ間にバッファーを設けることにより、固相カートリッジに対する大気又はガス流量を増すことを特徴とする請求項1から6のうち何れか1項に記載の固相抽出前処理方法。
【請求項8】
固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスに加熱部を設置したことを特徴とする固相抽出前処理装置。
【請求項9】
固相カートリッジに対するサンプル通水後の脱水乾燥機能を有する固相抽出前処理装置において、固相カートリッジを収納するカートリッジボックスを回転自在に設置するとともに、固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体に設けた接続部とを着脱自在とし、更に固相カートリッジと固相抽出前処理装置本体下部のサンプル管とを着脱自在に構成したことを特徴とする請求項8に記載の固相抽出前処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−17566(P2011−17566A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161245(P2009−161245)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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