説明

固着剤及び注入式カートリッジ

【課題】熱硬化性ラジカル硬化樹脂を含有する主剤成分と有機過酸化物を含有する硬化剤成分からなる2液混合型固着剤およびそれを用いた注入型カートリッジにおいて、樹脂組成物中に含有される水分による強度低下の問題を解決すること。
【解決手段】熱硬化性ラジカル硬化樹脂を含有する主剤成分と有機過酸化物を含有する硬化剤成分とからなる樹脂組成物からなる2液混合型固着剤であって、吸水性化合物を含有することを特徴とる固着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば土木及び建築分野でコンクリート、岩盤等の母材に穿孔し、その穿孔のなかにアンカーボルトなどの固定部材を固定する為に用いられる、2液混合型固着剤及び注入式カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートや岩盤等の母材に対して穿孔した孔内にアンカーボルト等の固定部材を挿入した上で注入し固着する為に用いられる固着用の樹脂組成物として2液混合型接着剤が用いられている。2液混合型接着剤とは、例えば特許文献1に記載されているように、主剤と硬化剤がそれぞれの容器内に別々に収容されており、固着剤として使用する場合にそれらを混合して使用するものである。2液性の注入式カートリッジとは、主剤と硬化剤がそれぞれの容器内に別々に収容されて一体として組み合わせて作られたものであり、使用する際にはカートリッジにミキシングノズルを取り付け、カートリッジのピストンを加圧することにより主剤と硬化剤を吐出させ、ミキシングノズル内で2液を混合して吐出し、コンクリート等の母材に穿孔した孔の中に樹脂組成物を充填し、アンカーボルトを挿入した後、硬化させて、接着一体化するものである。
【0003】
これらの樹脂組成物をノズルから吐出して孔内で硬化させる場合、樹脂組成物中に含有される水分が、硬化反応を阻害する、水分が硬化物中に残留し、硬化した樹脂の物性を低下させる等の問題があることが知られている。
【0004】
樹脂組成物中への水分の含有は、原材料中への水分の混入、製品保管中の吸湿等により製品に含まれる場合、水中での施工、雨天時の施工、高湿度時の施工、コンクリート表面が結露した場合等、様々な場合に起こりうる現象である。
【0005】
この問題を解決するために、水の含有に対して硬化物の性能を維持する方法として、例えば特許文献2には界面活性剤の添加による強度の改良が提案されている。
【0006】
しかしながら、含有する水の量、水分の存在状態によっては、硬化物物性を維持することは困難な場合があった。
【特許文献1】特開2002−338818号公報
【特許文献2】特開平5−194934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱硬化性ラジカル硬化樹脂を含有する主剤成分と有機過酸化物を含有する硬化剤成分からなる2液混合型固着剤およびそれを用いた注入型カートリッジにおいて、含有される水分による、性能低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を続けた結果、主剤成分と硬化剤成分からなる、特定の組成を有する樹脂組成物、またはこれを含有する注入型カートリッジを使用することにより水分による性能低下を防ぐことが可能である事を見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は下記の通りである。
【0010】
1.熱硬化性ラジカル硬化樹脂を含有する主剤成分と有機過酸化物を含有する硬化剤成分とからなる樹脂組成物からなる2液混合型接着剤であって、吸水性化合物を含有することを特徴とる固着剤、
2.吸水性化合物が自重の10%以上の水を吸うことができ、平均粒径1μ〜500μの無機化合物であることを特徴とする請求項1の固着剤、
3.吸水性化合物が自重の10倍以上の水を吸うことのでき、平均粒径1μ〜500μの高吸水性樹脂であることを特徴とする請求項1の固着剤、
4.主剤成分と硬化剤成分を収容してなる2液性の注入式カートリッジにおいて、主剤成分および硬化剤成分が請求項1、2または3に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする注入式カートリッジに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固着剤に吸水性化合物を添加することにより、水孔においても、乾孔と同等の強度が得られることが明らかとなった。このような方法により、水孔での強度上昇に限らず、主剤、硬化剤等に含まれる水分による強度低下を防ぎ、安定的に高強度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、特にその好ましい態様を中心に、詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いられる熱硬化性ラジカル樹脂としては、熱硬化性でラジカル反応で硬化する樹脂であればよく、エポキシアクリレート樹脂等のビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂等があげられる。一般的にコンクリート母材に施工されることが多く、耐アルカリ性に優れる樹脂が好ましい。耐アルカリ性評価として、JISのK6919の耐アルカリ性試験で重量変化±1%以下のものが好ましく、特に好ましくはエポキシアクリレート樹脂等のビニ ルエステル樹脂が挙げられる。
【0014】
また、上記熱硬化性ラジカル硬化樹脂とし ては、一般に反応性単量体で希釈されており、反応性単量体としては、スチレン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジメタクリレート、フタル酸ジアリル、トリメット酸トリアリル等があり、引火点100℃以上のメタクリレートモノマーが好ましい。また、反応性単量体の有害性等を評価して選定することが望まれる。
【0015】
これら反応性単量体は、単独で用いても良いし、混合して用いても良い。樹脂への反応性単量体の混合比率は、特に限定されないが、好ましくは30〜70wt%、最も好ましくは40〜60wt%である。
【0016】
本発明に用いられる熱硬化性ラジカル硬化樹脂は、一般に硬化性調整のために硬化促進剤及び重合禁止剤等を添加して用いられる。一般に用いられる樹脂の硬化促進剤としては、第3級芳香族アミン類ではN,N-ジメチルアニリン、N,N-ジヒドロキシプロピル-p-トルイジン、N-フェニルジエタノールアミン、 N-p-トリールジエタノールアミン、N,N-ビスヒドロキシブチル-p-トルイジン等があり、その添加量は0.3〜2wt%が好ましい。また、ナフテン酸コバルト等金属石鹸を促進剤として使用してもかまわない。添加量が0.3wt%未満の場合、硬化反応の進行が不十分となり、固着強度が十分発現しない場合がある。一方、添加量が2wt%を超える場合、シェルフライフが短くなり、使用前の保管中に樹脂の硬化反応が進み、使用できなくなる可能性がある。
【0017】
本発明に用いられる樹脂の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、フェノール類、クレゾール類、カテコール類、ベンゾキノン類等があり、例えば、ベンゾキノン、p-ベンゾキノン、p-トルキノン、p-キシロキノン、ナフトキノン、2,6-ジクロロキノン、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、カテコール、p-t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t- ブチルハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル等を必要量添加することができる。
【0018】
本発明に用いることのできる硬化剤としては、ジアシルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、ヒドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類及びパーオキシカーボネート類等の有機過酸化物であり、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等がある。好ましくは、安定性に優れるベンゾイルパーオキサイドが用いられる。また、この硬化剤は希釈剤で希釈して用いることができる。これらの硬化剤の配合量は、主剤中の熱硬化性ラジカル硬化樹脂と反応性単量体の合計重量に対し、0.01〜0.15倍とするのが好ましい。
硬化剤の配合量が0.01倍未満の場合は、硬化反応の進行が不十分となり、固着強度が十分発現しない場合がある。一方、0.15倍を超える場合、反応速度が速くなるため、アンカー施工終了前に硬化反応が進んでしまい、施工のトラブルとなる場合がある。
【0019】
硬化剤の希釈剤としては、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーンオイル、流動パラフィン重合性モノマー、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールツ、ポリプロピレングリコール等が用いられる。また、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機物を併せて使用しても良い。更に、チクソトロピー化剤を添加して用いることが出来る。この場合、過酸化物の安定性を考慮して選択する。硬化剤の希釈剤の使用量は、硬化剤の重量に対し、0.5〜5倍とするのが好ましい。希釈剤の量が0.5以下では、衝撃、加熱等に対する危険性が高いため、保管、運搬等に特別な注意が必要となり、好ましくない。一方、5倍を超える場合には、硬化剤の濃度が低くなるため、硬化反応の進行が不十分となり、固着強度が十分発現しない場合がある。
【0020】
本発明の固着剤は、上記の成分に、吸水性化合物を添加したものである。ここで、吸水性化合物とは、固着剤に水が存在した場合に水を吸収することのできる化合物を意味する。ここで、水の存在状態としては、遊離した状態(すなわち樹脂と完全に相分離した状態)および、乳化状態、懸濁状態、溶解状態等各種の状態を意味し、吸水性化合物としては、これらの状態で存在している水を吸収し、反応して他の化合物に変化させるかまたはイオン的に結合して、固定化することのできる化合物を意味する。
【0021】
吸水性化合物の例としては、ゼオライト、シリカゲル、塩化カルシウム、生石灰、高炉スラッグのような無機化合物や、アクリル酸、メタクリル酸重合体ナトリウム塩、等の高吸水性樹脂等が挙げられる。
【0022】
これらの吸水性化合物は、主剤、硬化剤またはその両方に添加することができる。吸水性化合物の配合量は、主剤、硬化剤の合計重量に対し、0.002〜2倍とするのが好ましい。配合量が0.01倍以下の場合には十分な効果が得られず、本願の目的とする水孔での固着強度の改良ができない。一方、吸水性化合物の配合量が2倍を超える場合、樹脂成分の量が減少するため、固着強度が不十分となる場合がある。吸水性化合物の配合量はより好ましくは0.005〜0.5倍である。
【0023】
無機の吸水性化合物を使用する場合、吸水性化合物が自重の10%以上の水を吸うことができ、平均粒径1μ〜500μの無機化合物であるものを使用するのが好ましい。
【0024】
一方、有機の吸水性化合物を使用する場合、自重の10倍以上の水を吸うことのでき、平均粒径1μ〜500μの高吸水性樹脂であることがの好ましい。
【0025】
本発明の固着剤は、上述した成分に加えて、充填材、チクソトロピー化剤、顔料、界面活性剤、難燃化剤、ゲル化剤等の添加物を、主剤および/または硬化剤成分に添加することができる。
【0026】
本発明に用いることのできる充填材は、石英砂、硅砂、硅粉、セラミック粉、炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ミルコン、タルク、クレー、マイカ、火山灰、シラス、コンクリート粉、発泡コンクリート粉、ガラスフレーク、フライアッシュ、カーボンブラック、アルミナ、シリカ、ガラスマイクロバルーン、シリカバルーン、微粒シラスバルーン等がある。配合量は主成分である熱硬化性ラジカル硬化樹脂または有機過酸化物に対し20〜300wt%を目安とし、目的に応じて2種類以上を組み合わせて混合することができる。充填剤として、好ましくは、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、コロイド系炭酸カルシウム、針状炭酸カルシウム(ウイスカー)等の、炭酸カルシウムが用いられる。
【0027】
本発明に用いることのできるチクソトロピー化剤としては、コロイダルシリカ、微結晶シリカ、ホワイトカーボン、タルク、ベントナイト等がある。
【0028】
本発明に用いられる顔料の例としては、チタン白、亜鉛華、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、べんがら、黄鉛、黄土等が挙げられる。
【0029】
本発明に用いることのできる界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、ピリジニウム塩等の陽イオン界面活性剤、カルボキシベンダイン型、スルホベンダイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体等の両性界面活性剤、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等の非イオン界面活性剤がある。
【0030】
本発明において、注入型カートリッジに用いるカートリッジの容器は、運搬又は保管時には破損せず、主剤成分及び硬化剤成分の漏れがないように封入できるものであればよく、材質としては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、テフロン(登録商標)等の合成樹脂成型体または、合成樹脂製フィルム、紙、金属等を用いることが出来、合成樹脂/金属のラミネートフィルム等の2種類以上の材料からなる積層品を用いることができる。好ましくは合成樹脂の成型体のカートリッジが用いられる。
【0031】
以下、実施例により本発明を説明 する。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂にメタクリル酸を付加したエポキシアクリレート樹脂に、反応性単量体としてジエチレングリコールジメタクリレートを重量比3:7で混合し、粘度1PSを(25℃、E 型粘度計)にした樹脂100gに、高炉スラッグ(粒径10μ、吸水能力80%)30g、炭酸カルシウム150g、アエロジル200 を2.5gを添加後、30分 混合・撹拌し、モルタル状の主剤成分を調製した。
【0033】
過酸化ベンゾイルをシリコンオイルで希釈混合し、その濃度が40%になるように調合した後、アエロジル200を1%添加して、硬化剤成分を調製した。
【0034】
つぎに、ミックスパック社製の500cc用カートリッジに主剤成分と硬化剤成分の体積比10:1で主剤と硬化剤をそれぞれ区分して充填し封止しカートリッジを試作した。
【0035】
サイズ500×500×1000mm、圧縮強度21N/mm2のコンクリートブロックに、穿孔径25mm、穿孔長180mmの孔を穿孔し、ブロワーとナイロンブラシを用いて孔内清掃を行った後、上記の固着剤を孔内に充填し外径22mmの全ネジボルト(材質SNB7)を挿入して固着させた。
【0036】
25℃で24時間、硬化させた後固着強度を測定した結果、最大引張強度は16.7Tonであった。
【0037】
また、固着剤を充填する前に、穿孔した孔内に孔口から溢れるまで水を注入した後に固着剤を孔内に充填し、同様にボルトを固着させた。
【0038】
25℃で24時間、硬化させた後固着強度を測定した結果、最大引張強度は16.5Tonであり、乾孔と水孔で強度の差は殆どなかった。
【0039】
[実施例2]
高炉スラッグ30gの代わりに高吸水性樹脂(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、吸水能力300倍、平均粒径30μ)1gを添加し、実施例1と同様に充填、ボルト固着、固着強度測定を行った。乾孔での最大引張強度は15.8Ton、水孔での最大引張強度は15.9Tonであり、乾孔と水孔で強度の差は殆どなかった。
【0040】
[実施例3]
高炉スラッグ30gの代わりに生石灰、(吸水能力120%、平均粒径50μ)20gを添加し、実施例1と同様に充填、ボルト固着、固着強度測定を行った。乾孔での最大引張強度は16.1Ton、水孔での最大引張強度は16.0Tonであり、乾孔と水孔で強度の差は殆どなかった。
【0041】
[比較例1]
高炉スラッグ添加せずに樹脂を調整し、実施例1と同様に充填、ボルト固着、固着強度測定を行った。乾孔での最大引張強度は16.2Ton、水孔での最大引張強度は11.7Tonであり、水孔強度は乾孔に比較して大きく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性ラジカル硬化樹脂を含有する主剤成分と有機過酸化物を含有する硬化剤成分とからなる樹脂組成物からなる2液混合型固着剤であって、吸水性化合物を含有することを特徴とる固着剤。
【請求項2】
吸水性化合物が自重の10%以上の水を吸うことができ、平均粒径1μ〜500μの無機化合物であることを特徴とする請求項1の固着剤
【請求項3】
吸水性化合物が自重の10倍以上の水を吸うことができ、平均粒径1μ〜500μの高吸水性樹脂であることを特徴とする請求項1の固着剤。
【請求項4】
主剤成分と硬化剤成分を収容してなる2液性の注入式カートリッジにおいて、主剤成分および硬化剤成分が請求項1、2または3に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする注入式カートリッジ。

【公開番号】特開2007−191536(P2007−191536A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9627(P2006−9627)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】