説明

国内産小麦粉を用いた生うどん

【課題】国内産小麦粉を用いた場合でもオーストラリア産スタンダード・ホワイト小麦(ASW)の小麦粉を用いた場合と同様に色調の優れた生うどんを提供する。
【解決手段】生うどんの製造時にアスコルビン酸類を添加することによって国内産小麦粉を用いた場合でも色調の優れた生うどんを提供する。さらに、アスコルビン酸ナトリウムのようなアスコルビン酸類の塩類を併用することで保存期間中の色調の劣化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生うどんに関するものである。詳しくは国内産小麦粉を主原料とし、かつ色調に優れた生うどんに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生うどんは、小麦粉を主原料として、これに水又は塩水を加えて混練した後、延ばした麺帯を切刃又は包丁にて切り出し、適当な長さにカットした状態で茹でずに製品としたものである。生うどんは、消費者が自分で茹でる関係で、茹でたらすぐに食べるのが普通であり、美味しさの点で既に茹で処理を施した上で消費者に提供される茹でうどんより優れたものである。
【0003】
生うどんの主原料として小麦粉が用いられるが、工業的に大量に生産される生うどんに使用される小麦粉としてはカナダ・米国・オーストラリア等の外国産のものが利用されることが多い。特にオーストラリア産の小麦粉の中でもオーストラリア産スタンダード・ホワイト小麦はASWとも称され(以下、ASWという。)、胚乳部分がクリーミーで明るい色調を有しており、切り出し後の麺線において生うどんの色調として優れており汎用されている。
【0004】
この一方、近年、安全・安心の観点から国内産小麦粉が工業的な麺類の製造に用いられる場合が増加している。国内産小麦粉を利用しても食感等において優れた麺類を製造することは可能である。しかし、生うどんの様に混練・切り出し後の色調が消費者に直接に視認される場合においては外観の色調が商品価値に与える影響が大きい。この点、国内産小麦粉を用いて製造した場合には、ASWの小麦粉を用いて製造した場合に比べて、生うどんの色調はややくすんで暗い色調になるという傾向を有していた。そして、本傾向は生うどんの商品価値を低下させる原因にもなっていた(非特許文献1)。
【0005】
このような小麦粉についての色調に関する技術として小麦粉水溶液の色調についてその変色防止のためにアスコルビン酸(アスコルビン酸ナトリウム)を添加する方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、国内産小麦粉を生うどんに使用した場合のASW生うどんとの比較における色調劣位の問題点に着目し、これを改善することを目的とする方法は開示されていない。さらに、国内産小麦粉を用いた生うどんについてその製造直後のみならず、保存期間中を通じて明るい色調を維持できる方法についても未だに検討されていなかった。
【非特許文献1】「小麦粉ペースト色の経時変化と品種間差異」辻 孝子、吉田朋史、藤井潔ら、愛知農業総合試験研究報告37:1−4(2005)
【特許文献1】特開昭63-105647
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは国内産小麦粉を使用した場合においても、ASWの小麦粉を用いた場合と同様の明るい色調を得ることができるような生うどんを開発することを目的とした。さらに、製造直後のみならず、保存期間中においても明るい色調を維持できる生うどんを開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの鋭意研究の結果、生うどんの製造過程において、小麦粉を水又は塩水にて混練する際に、アスコルビン酸類を添加しておく方法が有効であることを見出した。すなわち、アスコルビン酸類を添加して製造した生うどんは、国内産小麦粉を使用した場合であってもASWの小麦粉を用いた場合と同様の明るい色調を有することができる。
すなわち、本願第一の発明は、
国内産小麦粉を主原料とし、アスコルビン酸類を添加することを特徴とする生うどん、
である。
【0009】
また、アスコルビン酸類の添加量は原料である小麦粉1kg当り0.03〜0.5gであることが好ましいことを見出した。
すなわち、本願第二の発明は、
アスコルビン酸類の添加量が原料小麦粉1kg当り0.03〜0.5gである請求項1記載の生うどん、
である。
【0010】
次に、アスコルビン酸類のみでは製造直後の色調をASWに近似させることはできるが、その後の保存期間において色調が劣化する。そこで、この点を研究し、アスコルビン酸類に加えて、アスコルビン酸類の塩類を併用させると保存中の経時的な変化においても、効果的に生うどんの明るい色調を維持できることを見出した。
すなわち、本願第三の発明は、
アスコルビン酸類の塩類をさらに添加する請求項1又は2に記載の生うどん、
である。
【0011】
また、アスコルビン酸類の塩類の添加量は原料である小麦粉1kg当り0.01〜1.0gであることが好ましいことを見出した。
すなわち、本願第四の発明は、
アスコルビン酸類の塩類の添加量が原料小麦粉1kg当り0.01〜1.0gである請求項3記載の生うどん、
である。
【0012】
さらに、アスコルビン酸類に加えて、さらにグルタチオンを併用させても保存中の経時的な変化においても、効果的に生うどんの明るい色調を維持できることを見出した。
すなわち、本願第五の発明は、
グルタチオンをさらに添加する請求項1乃至4のいずれかに記載の生うどん、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明を利用することにより、国内産小麦粉を用いた場合においてもASW小麦粉を用いた場合と同様の明るい色調の生うどんを製造することができる。さらに、保存中においてもその色調を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.生うどんの製造方法
本発明における生うどんとは、主原料として小麦粉(中力粉、準強力粉又は強力粉)、食塩、水を用いてこれらを混練・圧延・切り出し、必要に応じて打粉処理したものをいう。
但し、工業的に大量生産する場合においては、これらの主原料に加えて澱粉やアルコール、酸等の副原料や添加物が使用される場合がある。本発明はこれら澱粉等の副原料や添
加物を利用した場合でも適用できる。
【0015】
2.国内産小麦粉
本発明における国内産小麦粉とは日本国内を生産地とする小麦を製粉したものをいう。国内産小麦の種類としては、「強力小麦」「普通小麦」及び「種子小麦」があるが一般的には「普通小麦」である。具体的な銘柄としては、農林61号、ホクシン、チホクコムギ、シロガネコムギ、シラサギコムギ、キタカミコムギ、ナンブコムギ、セトコムギ、ニシカゼコムギ、ニシホナミ等が挙げられる。
【0016】
これらの国内産の小麦は産地や品種で品質差が大きいが、共通する性質として一般的には、製粉後の小麦粉の色にくすみがあり、食感も外国産小麦粉に比べて劣るものがある。
一方、日本めん(うどん等)用に使用され、国内産小麦に対比される外国産小麦としては、オーストラリア産スタンダードホワイト(ASW)がある。ASWの性質としては1.適度に弾力のあるおいしい麺をつくれる、2.品質が日本めん用として優れている、3.胚乳の色が冴えた明るい色である、という特性を有している。
【0017】
本発明はASWで製造した生うどんの色調を標準目標とし、国内産小麦粉を用いた場合でもASWで製造した生うどんと同様の色調を持たせることを目的とする。
尚、本発明において生うどんに使用する小麦粉は必ずしも国内産小麦粉が100%であること意味しない。国内産小麦粉の一部について外国産小麦粉をブレンドした小麦粉であっても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適用できる。
【0018】
3.アスコルビン酸類
本発明においてはアスコルビン酸類を必須とする。本発明にいうアスコルビン酸類とはアスコルビン酸(ビタミンC)、エリソルビン酸又はこれらの混合物をいうものとする。アスコルビン酸類の含有量としては、概ね原料小麦粉1kg当り0.01g以上であればよく特に限定されない。但し、効果の点から原料小麦粉1kg当り0.03g以上が好ましい。また、生うどんに自然感のある色調を付与する観点や、コスト等の問題から、概ね原料小麦粉1kg当り0.5g以下が好ましい。
【0019】
4.アスコルビン酸類の塩類
本発明においてはアスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸類の塩類を併用することができる。アスコルビン酸類の塩類を併用することで、生うどんの保存時におけるの色調の経時的な劣化を防止することができる。具体的には、アスコルビン酸類のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がある。すなわち、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸カルシウム等が挙げられる。
アスコルビン酸類の塩類の添加量はアスコルビン酸類が添加された状態で原料小麦粉1kg当り概ね0.01g以上であれば特に限定されない。但し、生うどんに自然感のある色調を付与する観点から概ね原料小麦粉1kg当り1.0g以下が好適である。
【0020】
5.グルタチオン
本発明においてはグルタチオンも併用することができる。グルタチオンは生体内に幅広く分布する抗酸化物質であり、グルタミン酸、システイン及びグリシンから成り、酵母・小麦胚芽等に多く含有されている。生体内の代表的な還元剤としてその作用部位であるチオール基によって種々の酸化還元的代謝による細胞防御、異物代謝、及び修復過程等に重要な役割を担っている。
【0021】
本発明者らの検討の結果、前記アスコルビン酸類とグルタチオンを併用することで、アスコルビン酸類の塩類を用いた場合と同様に、効果的に保存中に発生する色調の経時的な変化を防止することができることを見出した。
尚、酵母エキスやビール酵母はグルタチオンとして利用可能であり、これを生うどん原料に添加することができる。
【0022】
6.添加の方法
アスコルビン酸類、アスコルビン酸類の塩類、グルタチオンの添加方法は、製麺工程中の種々の時期を選択することができる。通常は、小麦粉に混合する練水(食塩、水等)に添加しておくのが一般的である。但し、小麦粉等の粉体に添加して混合しておいてもよい

【0023】
7.他の添加剤
製麺においては、小麦粉、塩、水の他に種々の添加物を用いることができる。具体的には、アルコール、酢酸、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなどの保存料や酸味料を添加することもできる。
尚、これらを添加しても本発明の色調改善や保存中の色調保持に対する影響はない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明を利用することで、生うどんにおいて国内産小麦粉を原料に用いた場合でもASW小麦粉を使った場合と同様の明るい色調を有する生うどんを製造することができる。これによって「生うどん」としての商品価値を高めることができる。また、製品保存期間中においてもその色調を維持できる。
【実施例】
【0025】
以下、本願発明の実施例を示すが、本願発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
<試験例1> アスコルビン酸類を用いた場合の効果
アスコルビン酸を用いて、国内産の小麦粉を用いた場合にその色調を変更できるかどうかを検討した。各試作品の製造方法は以下の通りである。
原料小麦粉としては、国内産小麦粉である北海道産小麦粉(品種:ホクシン)又は九州産小麦粉(品種:ニシホナミ)を用い、以下のように生うどんの製造を行った。水320gに食塩40gを溶解させた水溶液に、各々所定量のアスコルビン酸を溶解させておいた
練水を調製した。
【0027】
国内産小麦粉1kgに前記練水を添加して12分間混練した。混練後の小麦粉を複数回、圧延して麺厚1.8mmにしたものを切刃にて切り出して麺線とし、次いで打粉することにより生うどんを作製した。また、比較対照としては原料小麦粉として、ASW小麦粉を用いて、上記と同様に調製した。
【0028】
色調測定については色彩色差計(ミノルタ社製、タイプCR−400)を用いて測定した。測定は、L***の表色系にて表示した。
結果を表1に示す。尚、L*は明度、a*とb*は色相と彩度を表す。各測定値の内容は以下の通りである。
*は明度を表す。 (+)明 ⇔ 暗(−)
*は色相と彩度を表す。(+)赤 ⇔ 緑(−)
*は色相と彩度を表す。(+)黄 ⇔ 青(−)
【0029】
また、総合評価として、ASWを用いた生うどんの色調を基準として各試作品の色調を官能評価した。判断基準としては、ASWの場合を最高の10点として、他を対比してその優劣を10段階で目視比較評価した。尚、対照例1〜実施例9までは小麦粉として北海道産の「ホクシン」を用いた場合、対照例2及び実施例10は、九州産の「ニシホナミ」を用いた場合、対照例3及び4はASWを用いた場合を示す。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
比較対照であるASWで製造した生うどんの色調が標準的な色調を有するものとして比較した。従ってL*が概ね79.29〜83.66、a*が−1.86〜-1.32、b*が17.05〜19.64程度が標準的な状態といえる。評価基準として、L*は概ね77.0以上であって、a*が小さく、一方b*が大きいほど標準的な色調に接近するものと考えられた。試作品については、国内産小麦粉1kg当り、アスコルビン酸を0.01g以上を添加すると色調の改善効果が見られた。尚、好ましくは、国内産小麦粉1kg当り0.03〜0.5gであることが判明した。
【0032】
<試験例2> アスコルビン酸類を添加した場合の保存中の色調の経時変化
試験例1で示した試作品を4℃の条件下で保存し、経時的な色調の変化を測定し、かつ、目視総合評価を行った。試作品の製造方法は試験例1に示したものと同じである。結果
を表2及び表3に示す。
【0033】
【表2】

次に、表2の続きを表3に記載する。
【0034】
【表3】

【0035】
アスコルビン酸を添加した場合、ASWに近似する色調を呈することができた。しかし、保存期間中において色調がASWに比べて劣化する現象が見られる場合があった。
【0036】
<試験例3> アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムの併用効果
試験例2の結果のように、アスコルビン酸のみでは、生うどんの製造直後であれば、色調は大幅に改善されるものの、保存期間が長くなると保存中の色調の劣化が発生した。そこで、保存中の経時的な色調の劣化を防止する方法として、アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムの併用方法を実施した。試験の方法は以下の通りである。各試作品の製造方法は試験例1に示したものと同様である。また、国内産小麦粉として九州産のニシホナミを用いた。結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
アスコルビン酸にアスコルビン酸ナトリウムを併用した場合には、生うどんの製造直後のみならず、保存中における経時的な色調の劣化を抑制することができた。アスコルビン酸ナトリウムも併用することで、保存中の色調の劣化についてもASWに遜色の無い生うどんを製造することができることが判明した。
【0039】
<試験例4>アスコルビン酸ナトリウムの添加量を変えた場合の相乗効果
アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムを併用させると保存中の色調の変化を抑制できることが判明した。そこで、アスコルビン酸の添加量を一定にし、これにアスコルビン酸ナトリウムの添加量を変え、その最適な量を検討した。各試作品の製造方法は、試験例1に示したものと同様である。尚、国内産小麦粉としては北海道産の「ホクシン」を用いた。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
アスコルビン酸ナトリウムの添加量は特に限定されないが、前記アスコルビン酸ナトリウムの含有量が小麦粉1kg当り0.01〜1.0gであると好適であることが判明した。
【0042】
<試験例5>アスコルビン酸とグルタチオンの相乗効果
アスコルビン酸ナトリウム以外に相乗効果のあるものを検討した結果、グルタチオンがアスコルビン酸ナトリウムと同様に保存期間中の色調の劣化を防止することが判明した。色調測定結果及び目視総合評価の結果を表6に示す。尚、グルタチオンは、酵母エキス(協和発酵工業株式会社、品名:グルタルイーストエキスN、グルタチオン含有率9.3%)を用いた。
試作品の調製方法は試験例1に記載したものと同様である。尚、グルタチオンは、アスコルビン酸と同様に練水添加して調製したものを使用した。
【0043】
【表6】

【0044】
グルタチオンを用いることで、アスコルビン酸ナトリウムを用いた場合と同様に保存時の色調の劣化を抑制することができた。
【0045】
<試験例6> アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを用いた場合の生うどんの
麺質改良の効果
アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムを用いた場合について食感に対する影響について検討した。試作品の製造方法は、試験例1に示したものと同じである。尚、アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムの添加量は小麦粉1kgあたり、それぞれ0.03g及び0.05gとした。得られた生うどんを約1Lのお湯にて茹でた後、冷水にて麺の表面のぬめりを除去し皿に移して評価した。評価は熟練のパネラー10人で行った。結果を表7に示す。尚、評価は、食感、風味の点について行った。評価は◎(良)、〇(やや良)、△(普通)、×(やや不良)、××(不良)の5段階で行った。
【0046】
【表7】

【0047】
国内産小麦粉を用いた場合においてアスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを添加すると、食感のうち、ツルミとネバリが向上することが判明した。一方、ASWはこのような効果が見られなかったことから、食感のうち、ツルミ・ネバリの向上は国内産小麦粉を用いた生うどんに固有の効果であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
国内産小麦粉を主原料とし、アスコルビン酸類を添加することを特徴とする生うどん。
【請求項2】
アスコルビン酸類の添加量が原料小麦粉1kg当り0.03〜0.5gである請求項1記載の生うどん。
【請求項3】
アスコルビン酸類の塩類をさらに添加する請求項1又は2に記載の生うどん。
【請求項4】
アスコルビン酸類の塩類の添加量が原料小麦粉1kg当り0.01〜1.0gである請求項3記載の生うどん。
【請求項5】
グルタチオンをさらに添加する請求項1乃至4のいずれかに記載の生うどん。