説明

圃場における光照射方法及び圃場用光照射システム

【課題】害虫を捕食する天敵昆虫の誘引光を照射する圃場内における光照射方法及び圃場用光照射システムにおいて、天敵昆虫による害虫駆除効果の向上を図る。
【解決手段】圃場用光照射システム1は、圃場F1内の複数の畝R1の各々の上方に設置され、誘引光を照射する照明器具列21と、照明器具列21を各列毎に点灯制御するコントローラ3とを備える。コントローラ3は、日の入り時刻を含む所定の点灯期間の開始時刻から終了時刻まで、照明器具列21を順次、点灯、消灯させる。これにより、日没前後に、照明器具列21による誘引光の照射空間を移動させることができる。従って、誘引光に誘引される天敵昆虫を移動させ、運動によりエネルギを消費させて空腹状態とすることができる。そのため、天敵昆虫の翌日以降の害虫捕食活動を活発化させることができ、結果として、害虫駆除効果の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を照射する圃場における光照射方法及び圃場用光照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圃場を取り囲むように複数の柱部材を立設し、それら各柱部材の上方に発光板体を設置し、日照不足時にそれら発光板体により圃場内の稲に光を照射する稲育成システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような稲育成システムにおける発光板体の替わりに、天敵昆虫の誘引光を発する照明器具を配設した圃場用光照射システムが考えられる。
【0004】
しかしながら、そのような圃場用光照射システムでは、圃場内に害虫が多く居た場合、天敵昆虫は害虫を十分に捕食すると捕食活動が低下してしまうので、害虫が残存していたとしても、それ以上の害虫駆除効果は望めなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−135861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、害虫を捕食する天敵昆虫の誘引光を照射する圃場における光照射方法及び圃場用光照射システムにおいて、天敵昆虫の害虫捕食活動を活発化させることにより害虫駆除効果の向上を図ることができる圃場における光照射方法及び圃場用光照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を照射する圃場における光照射方法において、日の入り時刻を設定する設定ステップと、前記設定ステップにより設定された日の入り時刻を含む時間帯に、圃場内の複数の位置に配置された誘引光を照射する照明器具のうち任意の器具を順次、点灯、消灯させる点灯ステップと、を有するものである。
【0008】
請求項2の発明は、害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を照射する圃場用光照射システムにおいて、前記誘引光を照射する照明器具と、前記照明器具を点灯制御する制御部と、日の入り時刻を記憶するソーラデータメモリ部と、前記日の入り時刻に基づいて設定され、該日の入り時刻を含む前記照明器具の点灯期間の開始時刻及び終了時刻を記憶する設定時刻メモリ部と、現在時刻を計時する計時部と、を備え、前記照明器具は、圃場内の複数の位置に配置されており、前記制御部は、前記計時部により現在時刻を計時し、前記点灯期間の開始時刻から終了時刻まで、前記照明器具のうちの任意の器具を順次、点灯、消灯させるものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載の圃場用光照射システムにおいて、前記ソーラデータメモリ部は、年間の日の入り時刻を記憶し、前記設定時刻メモリ部は、前記年間の日の入り時刻に基づいて設定される前記照明器具の日毎の点灯期間を記憶し、前記計時部は、現在日時を計時し、前記制御部は、前記計時部により計時された現在日に対応する日の点灯期間を前記設定時刻メモリ部を参照して認識するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、日没前後に、誘引光の照射空間を移動させることができるので、誘引光に誘引される天敵昆虫を移動させ、運動によりエネルギを消費させて空腹状態とすることができ、そのため、翌日以降の天敵昆虫の害虫捕食活動を活発化させることができ、従って、害虫駆除効果の向上を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、請求項1と同等の効果が得られる。
【0012】
請求項3の発明によれば、1年を通して毎日、所定の点灯期間に照明器具が自動点灯、消灯するので、害虫駆除効果を自動的に継続して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る光照射システムの斜視図。
【図2】上記システムの電気的ブロック図。
【図3】上記システムの制御部による光照射動作チャート。
【図4】上記制御部による光照射動作のフローチャート。
【図5】上記システムにおける照明器具の点灯パターンを示す平面図。
【図6】上記実施形態の一変形例に係る光照射システムにおける照明器具の点灯パターンを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る圃場における光照射方法及び圃場用光照射システムについて図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の圃場用光照射システム(以下、光照射システムという)の構成を示す。この光照射システム1は、害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を圃場F1内に照射するシステムである。光照射システム1は、圃場F1内の複数の位置に配置され、誘引光を照射する照明器具2と、これら照明器具2を点灯制御するコントローラ3とを備える。圃場F1内には互いに平行に畝R1が形成されており、その数及び配置は特に限定されない。各畝R1には複数株の植物P1が畝R1に沿って植えられている。
【0015】
照明器具2は、各畝R1に沿って上方に複数台、マトリクス状に離間して配置されている。ここで、1列に並んだ複数台の照明器具2を照明器具列21という。各照明器具列21は吊下部材22に吊り下げられており、圃場F1をその上方から照らす。照明器具2の数及び配置は任意である。照明器具2は、蛍光ランプ、LED又はHIDランプ等により構成できる光源を有する。この光源は例えば波長領域が略300〜380[nm]であり、誘虫効果が高い紫外線を主波長とするが、光源の分光特性はこれに限定されない。照明器具2は防水構造を有していることが望ましい。
【0016】
コントローラ3は、毎日、日の入り時刻を含む所定の点灯期間、照明器具列21を順次点灯、消灯させる。このような制御により、コントローラ3は誘引光の照射空間を移動させ、これにより、天敵昆虫を移動させて、天敵昆虫に運動によるエネルギ消費を促す。コントローラ3は制御信号を送出するための信号線4により各照明器具列21と繋がっている。
【0017】
図2は、光照射システム1の電気的構成を示し、図3は、コントローラ3による1日のうちの照明器具2の点灯期間を示す。コントローラ3は、年間の日の入り時刻tを記憶するソーラデータメモリ部31(以下、メモリ部31という)と、年間の日の入り時刻に基づいて設定される照明器具2の日毎の点灯期間Tの開始時刻t及び終了時刻tを記憶する設定時刻メモリ部32(以下、メモリ部32という)と、現在日時を計時する計時部33と、現在日時を計時し、現在日に対応する点灯期間Tの開始時刻tから終了時刻tまで照明器具列21を順次点灯させる制御部34とを有する。さらに、コントローラ3は、各種情報を入力するためのスイッチ、ボタン、タッチパネル等の入力I/F(インタフェース)35と、各種情報を表示する表示器等の出力I/F36とを有する。入力I/F35は各種情報を記憶した外部記憶装置との通信装置であってもよい。
【0018】
メモリ部31は、少なくとも1年間分の毎日の日の入り時刻tを予め記憶しており、国内外の複数地域の日の入り時刻tを記憶していてもよい。メモリ部32は、日の入り時刻tを基準として、その時刻tから、順次点灯を開始させる時刻までの時間xと、それを終了させる時刻までの時間yとを予め記憶している。これらの時間x、yと、日の入り時刻tとに基づいて点灯期間Tの開始時刻tと終了時刻tとが算出され、これらがメモリ部32に格納される。時間x、yは一年を通して一定であっても、又は日によって異なっていてもよい。メモリ部31、32は、ハードディスク、ROM又はRAM等の各種記憶媒体により構成できる。
【0019】
制御部34は、マイクロコンピュータにより構成でき、マイクロコンピュータのメモリに格納されたプログラムに従って、各照明器具列21との間に介在するリレースイッチ37をオン/オフさせることにより、各照明器具列21を点灯/消灯させる。また、制御部34は、入力I/F35により入力された情報のメモリ部31への格納、メモリ部31からの情報読み出し、メモリ部32への情報格納、メモリ部32からの情報読み出し、計時部33の日時設定、及び出力I/F36による情報出力の制御を行う。
【0020】
入力I/F35は、現在日時又はメモリ部31、32に記憶させる各種情報を入力することができる。出力I/F36は、現在日時、現在日の日の入り時刻t、点灯期間T、その開始時刻t又は終了時刻t等を表示する。
【0021】
図4は、制御部34による照明器具列21の点灯動作の手順を示す。まず、年間の日の入り時刻が入力I/F35により入力され、それらの情報が制御部34によりメモリ部31に格納される(S1、設定ステップ)。そして、点灯を開始する予定の時刻から日の入り時刻tまでの時間xと、日の入り時刻tから、点灯を終了する予定の時刻までの時間yも同様に入力され、それらの情報はメモリ部32に格納される(S2)。時間x、yは日没前後の天敵昆虫の捕食活動が低調になる時間帯を考慮して決められる。点灯開始は日没前の薄暮時が望ましい。S1とS2とにおける情報入力は製造段階で又はユーザにより工場出荷後に行われる。
【0022】
次に、メモリ部31、32に格納された日の入り時刻t及び時間x、yの情報が制御部34により読み出され、照明器具2の日毎の点灯期間Tの開始時刻tと終了時刻tとが算出され(S3)、メモリ部32に格納される(S4)。開始時刻tは日の入り時刻tから時間xを引くことにより求め、終了時刻tは日の入り時刻tに時間yを足すことにより求めることができる。開始時刻tと終了時刻tとの算出は1年分を纏めて行っても、又は日毎に行ってメモリ部32の所定領域に上書き保存してもよい。
【0023】
制御部34は、計時部33を用いて現在日を計時し、現在日に対応する日の点灯期間Tの開始時刻tと終了時刻tとをメモリ部32を参照して認識する(S5)。制御部34は、計時部33を用いて現在時刻を計時しつつ、上述の開始時刻tとなったときに(S6でYes)、照明器具列21の順次点灯、消灯を開始する(S7)。開始時刻tとなるまでは待機状態となる(S6でNo)。順次点灯開始後、終了時刻tとなったときには(S8でYes)、順次点灯が終了され(S9)、終了時刻tまでは(S8でNo)、任意の照明器具列21の順次点灯、消灯が繰り返される(点灯ステップ)。
【0024】
図5は、照明器具列21の点灯パターンを示す。この点灯パターンにおいては互いに隣り合う照明器具列21が交互に点灯する。詳しくは、まず図中左端から奇数列目の照明器具列21が所定時間だけ点灯し、その間、偶数列目は消灯する。この時間は、天敵昆虫が、点灯する照明器具方向への移動するのに必要な時間以上とし、例えば1分以上10分以下の程度とする。上述の時間が経過した後、偶数列目の照明器具列21が先ほどと同じ時間だけ点灯し、その間、奇数列目は消灯する。そして、このような点灯が繰り返される。
【0025】
上記のように構成された光照射システム1においては、日没前後に、照明器具列21による誘引光の照射空間を移動させることができるので、誘引光に誘引される天敵昆虫を移動させ、運動により体内のエネルギを消費させて空腹状態とすることができる。そのため、翌朝以降、消費したエネルギを補填しようとする天敵昆虫の害虫捕食活動を活発化させることができる。従って、害虫駆除効果の向上を図ることができる。また、1年間を通して毎日、点灯期間Tに照明器具列21が自動点灯、消灯するので、害虫駆除効果を自動的に継続して得ることができる。
【0026】
また、点灯期間Tの開始時刻tと終了時刻tとを日毎に算出してメモリ部32の所定領域に上書きする場合、1年分を纏めて算出して保存する場合と比べ、メモリ部32のメモリ使用量を減らすことができる。
【0027】
図6は、上記実施形態の一変形例に係る光照射システム1における照明器具列21の点灯パターンを示す。本変形例の点灯パターンは送り点灯パターンであり、この点灯パターンでは、まず、図中左端から1列目とそれから2列置いて4列目の照明器具列21が所定時間だけ点灯し、その他は消灯する。次に、2列目と2列置いて5列目の照明器具列21が所定時間だけ点灯して他は消灯し、次いで、3列目と6列目の照明器具列21が点灯して他は消灯する。点灯する照明器具列21の間に在る消灯した照明器具列21は3本以上であってもよい。送り点灯は図中左端の照明器具列21から1列ずつ順に点灯するものであってもよい。本変形例においても上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものでなく、使用目的に応じ、様々な変形が可能である。例えば、照明器具列21の順次点灯は毎日ではなく複数日のうち1日だけ行われ、また、1日1回ではなく1日に複数回行われてもよい。また、照明器具列21が所定の点灯パターンでもって順次点灯するのではなく、ランダムに点灯しても構わない。また、互いに隣り合う複数列が一纏まりとなって順次点灯してもよい。また、照明器具2の点灯期間は、日の入り時刻を含まず、日の入り時刻の直前又は直後に設定されていても構わない。
【符号の説明】
【0029】
1 光照射システム
2 照明器具
21 照明器具列
31 ソーラデータメモリ部
32 設定時刻メモリ部
33 計時部
34 制御部
F1 圃場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を照射する圃場における光照射方法において、
日の入り時刻を設定する設定ステップと、
前記設定ステップにより設定された日の入り時刻を含む時間帯に、圃場内の複数の位置に配置された誘引光を照射する照明器具のうち任意の器具を順次、点灯、消灯させる点灯ステップと、を有することを特徴とする圃場における光照射方法。
【請求項2】
害虫を捕食する天敵昆虫を誘引する誘引光を照射する圃場用光照射システムにおいて、
前記誘引光を照射する照明器具と、
前記照明器具を点灯制御する制御部と、
日の入り時刻を記憶するソーラデータメモリ部と、
前記日の入り時刻に基づいて設定され、該日の入り時刻を含む前記照明器具の点灯期間の開始時刻及び終了時刻を記憶する設定時刻メモリ部と、
現在時刻を計時する計時部と、を備え、
前記照明器具は、圃場内の複数の位置に配置されており、
前記制御部は、前記計時部により現在時刻を計時し、前記点灯期間の開始時刻から終了時刻まで、前記照明器具のうちの任意の器具を順次、点灯、消灯させることを特徴とする圃場用光照射システム。
【請求項3】
前記ソーラデータメモリ部は、年間の日の入り時刻を記憶し、
前記設定時刻メモリ部は、前記年間の日の入り時刻に基づいて設定される前記照明器具の日毎の点灯期間を記憶し、
前記計時部は、現在日時を計時し、
前記制御部は、前記計時部により計時された現在日に対応する日の点灯期間を前記設定時刻メモリ部を参照して認識することを特徴とする請求項2に記載の圃場用光照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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