説明

土壌または地下水の浄化方法、および微生物用栄養組成物の濃度確認方法

【課題】 さらなる微生物用栄養組成物の注入が必要かどうかを正確に判断することで効率的な浄化処理ができる土壌または地下水の浄化方法、および微生物用栄養組成物の濃度確認方法を提供する。
【解決手段】 地下水帯に、溶存オゾン水と、微生物用栄養組成物を含む注入水とを注入井戸より注入し、微生物により汚染物質を分解する土壌または地下水の浄化方法において、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸より注入し(S1)、浄化対象領域内における任意の位置において地下水中の安定同位体の濃度を測定し(S2)、測定工程での測定結果に基づいて、少なくとも微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入する(S3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物などの化学物質に汚染された土壌または地下水を浄化する土壌または地下水の浄化方法、および微生物用栄養組成物の濃度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物や油、シアン等の化学物質による土壌や地下水の汚染が問題となってきている。現在、これらの汚染の修復方法としては、揚水曝気と活性炭吸着との組合せ法、簡易的な揚水処理法、エアースパージング法等の物理的な修復方法が一般的に用いられている。また、最近では、これらの物理的な修復方法に加えて、微生物による汚染物質の分解を利用する生物学的な修復方法、すなわち、バイオレメディエーションによる浄化処理方法が検討されている。
【0003】
特に、汚染地下水を地上まで揚水せずに地下で処理する原位置処理としてのバイオレメディエーション(以下、「原位置バイオレメディエーション」という。)では、地下水中の汚染物質を原位置において恒久的に分解除去することを目指している。この方法は、揚水曝気と活性炭吸着との組合せ法のように、低濃度域になるまで修復が進んでから修復スピードが低下することが無く、また、エアースパージング法と比べてもより簡便なシステムで広い修復対象域をカバーできる点で優れている。
【0004】
ところで、原位置バイオレメディエーションでは、汚染箇所である地下領域に汚染物質の分解能力を持つ微生物を増殖させる必要があるため、微生物用栄養組成物を地上より注入井戸を通して地下水に注入する必要がある。
【0005】
しかし、微生物用栄養組成物を地下水に注入すると、注入地点に近接する位置ほど微生物の増殖が著しくなる。そのため、注入地点近傍では、増殖した微生物による土壌の目詰まり、いわゆるバイオファウリングが発生し、注入水の拡散が阻害されるという弊害が生じやすくなる。
【0006】
そこで、このような注入地点近傍での微生物の繁殖を抑えるため、微生物用栄養物質の溶液に加えて溶存オゾン水を注入し、栄養物質を遠方まで到達させる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1に記載された方法では、溶存オゾン水を注入することにより注入地点で微生物による酸素や微生物用栄養組成物の消費を押えられ、酸素や酸素以外の微生物用栄養組成物の遠距離到達性を高め、溶存酸素濃度および微生物用栄養組成物の濃度が、注入井戸から距離的に離れるにしたがって急速に低下することを防止する。
【0007】
ここで、地下へ微生物用栄養組成物を注入する際には、注入地点地下領域に流れる地下水の流向や流速等を考慮する必要がある。例えば、地下水汚染、土壌汚染の拡散状況を調べたり、微生物用栄養組成物等の添加剤注入による微生物の増殖効果を確認するためには、経路となる地下水の流れ方、すなわち、地下水の流向や流速等について詳細に調査することが重要となる。
【0008】
地下水の流向や流速を測定する方法としては、例えば、トレーサー方式がある。トレーサー方式とは、例えば、注入井戸等の孔からトレーサー物質を注入した後、注入したトレーサー物質が周辺の観測井戸等の孔に到達するまでの時間を測定する方法であり、実際の地下水の流向や流速を知るために有効な方法である。このトレーサー方式において、トレーサー物質としては、一般的に食塩等の電解質や染料等が用いられている。
【0009】
しかし、トレーサー物質として食塩等の電解質や染料等を用いた場合、トレーサー物質が微生物用栄養組成物と異なる挙動を示すことがある。そのため、上述した溶存オゾン水を用いたバイオレメディエーションによる浄化処理方法において、微生物用栄養組成物に混入するトレーサー物質として電解質や染料等を用いると、トレーサー物質と微生物用栄養組成物とが異なる挙動を示していた場合、注入した微生物用栄養組成物のうち、実際に吸着や消費によってどのくらいの量が減少して目的地点に到達したかを把握するのは非常に困難である。このように、従来の方法では、微生物用栄養組成物を遠距離まで拡散させることはできても、微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量等を正確に確認することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3458688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、微生物用栄養組成物の到達範囲やその到達量を正確に確認することができる土壌または地下水の浄化方法、および微生物用栄養組成物の濃度確認方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る土壌または地下水の浄化方法は、地下水帯に、溶存オゾン水と、微生物用栄養組成物を含む注入水とを浄化対象領域内に設けた注入井戸より注入し、微生物により汚染物質を分解する土壌または地下水の浄化方法において、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む上記注入水と上記溶存オゾン水とを上記注入井戸より注入する注入工程と、上記浄化対象領域内における任意の位置において上記地下水帯中の上記安定同位体の濃度を測定する測定工程とを有し、上記測定工程での測定結果に基づいて、少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入することを特徴とする。
【0013】
なお、本発明に係る土壌または地下水の浄化方法において、上記安定同位体は、15Nであることが望ましい。また、本発明に係る土壌または地下水の浄化方法は、上記測定工程で測定した上記安定同位体の濃度から、少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入する位置を決定する決定工程をさらに有し、該決定した位置に少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入することが望ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る微生物用栄養組成物の濃度確認方法は、地下水帯に、溶存オゾン水と、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む微生物用栄養組成物を含む注入水とを注入井戸より注入する注入工程と、上記浄化対象領域内における任意の位置において上記地下水帯中の上記安定同位体の濃度を測定する測定工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、地下水帯中の安定同位体の濃度を測定することによって、注入井戸から注入した微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量を確認し判定することができる。また、本発明によれば、上記判定の結果に基づいてさらなる微生物用栄養組成物などの注入が必要かどうかを正確に判断することができるため、効率的に微生物を増殖させて、汚染された地下水および汚染土壌を浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法に用いる浄化装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した土壌または地下水の浄化方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法によれば、例えば、汚染物質で汚染された地下水帯(以下、「汚染地下水帯」という。)に、溶存オゾン水と、微生物用栄養組成物を含む注入水とを注入井戸より注入し、微生物を活性化させることによって汚染物質を分解することができる。
【0019】
ここで、本実施の形態において浄化対象とする汚染物質は、特に限定されるものではないが、例えば、ガソリン、軽油、灯油、重油、原油、機械油、潤滑油、有機塩素系洗浄剤等の石油化学製品がある。これらの汚染物質には成分として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ケトン類などの非塩素系有機化合物、あるいは、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ダイオキシン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、PCP(ペンタクロロフェノール)等の塩素系有機化合物が含まれる。
【0020】
また、微生物用栄養組成物とは、従来から地下水汚染の微生物学的修復法に利用されている炭素系栄養成分以外の一般的な栄養組成物のことをいう。微生物用栄養組成物としては、例えば、窒素源やリン源となる無機化合物を含むアンモニウム塩や硝酸塩などの塩類、pH調節剤等が挙げられる。微生物としては、例えば、汚染地下水帯に生息し上述した汚染物質を分解する能力を持つ好気性微生物や嫌気性微生物が挙げられる。
【0021】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、このような微生物用栄養組成物を含む注入水に加えて、溶存オゾン水を浄化対象領域内に設けた注入井戸より汚染地下水帯に注入するが、溶存オゾン水を微生物用栄養組成物と併せて注入することにより、微生物用栄養組成物の注入地点での微生物の繁殖を抑え、微生物用栄養組成物を遠方まで到達させることができる。また、より確実に、効率的にこれらを達成するためには、地上部に溶存オゾン製造器を設置し、溶存オゾンが外気に逃げないように気密構造の送水設備を使用して注入井戸から注水するのが好ましい。なお、溶存オゾン製造器のオゾン発生方式としては、紫外線式、放電式、水電解式などがあるが、任意の方式を採用することができる。
【0022】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法を行うための浄化装置の一具体例として、微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸に注水する場合を図1に示す。
【0023】
図1に示す浄化装置1は、地下の不飽和帯水層A又は飽和帯水層Bに達する注入井戸2が設けられ、この注入井戸2に注入水および溶存オゾン水を注水する注水管3を挿入されている。
【0024】
また、地上には、微生物用栄養組成物等を溶解した注入水を調製し、この注入水を蓄える注入水貯溜槽4と共に、溶存オゾン製造器5と貯水槽6が設置されており、溶存オゾン水は、貯水槽6から供給した水に溶存オゾン製造器5で発生させたオゾンを溶存させて製造する。製造されたこれら注入水および溶存オゾン水は、各送水ポンプ7a、7bにより各送水管8a、8bを通って注水管3に供給され、注入井戸2から地下水中に注水される。なお、この浄化装置では、溶存オゾン水が通る送水管8b等の送水設備は、気密構造になっている。
【0025】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、上述したように、注入井戸より微生物用栄養組成物や酸素等とともに溶存オゾンを汚染地下水帯に注入することによって、注入地点から離れた領域でも溶存酸素濃度の低下を抑制する。
【0026】
一般的に、酸素を溶存させた注入水における溶存酸素濃度は、注入水が地中で拡散し、注入地点から離れるにしたがって減少する。
【0027】
しかし、溶存オゾン水を汚染地下水帯に注入した場合には、注入した溶存オゾン水の拡散に伴ってオゾンが徐々に酸素に分解生成されるため、上記酸素を溶存させた注入水のように、拡散によって一旦は溶存酸素が減少しても、このオゾン分解により生じた酸素で減少分は相殺される。
【0028】
このように、溶存オゾン水を汚染地下水帯に注入することで、注入地点から離れた周辺部であっても、溶存酸素濃度の低下が抑制され、溶存オゾン水を注入しない場合と比較して良好な溶存酸素分布状況を作り出すことができる。
【0029】
また、地下において所定濃度のオゾンが存在する範囲では、微生物は、オゾンの強い酸化作用の影響を受けて増殖活動が抑制され、その結果、窒素やリン等の栄養成分の摂取も抑えられる。この傾向は、溶存オゾンの拡散が少ないほど、すなわち、溶存オゾン水の注入地点に近い場所ほど大きくなり、注入地点の近くほど酸素および微生物用栄養組成物の消費が抑制されるため、結果的には消費されなかった酸素および微生物用栄養組成物が周辺に拡散され、微生物の増殖活動が活発化する範囲が拡大する。
【0030】
このように、微生物の増殖活動を意図的に制御することで、広い範囲に亘って均一に微生物を増殖することができる。
【0031】
なお、溶存オゾン水における溶存オゾン濃度と注入井戸へのオゾン注入量とを、浄化環境や浄化規模に応じて任意に変化させながら、注入井戸へ溶存オゾン水を注入すれば、酸素及び微生物用栄養組成物の拡散を促進させ、注入地点から離れた領域における微生物繁殖環境を最適化することができる。しかも、簡易かつより効率的に、微生物の増殖活動を活性化することができ、延いては微生物による汚染除去範囲の拡大を図ることができる。
【0032】
例えば、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物や油、シアン等の化学物質によって汚染された土壌や地下水を浄化するためには、初期溶存オゾン濃度が10〜20mg/Lの範囲である溶存オゾン水を、オゾン注入量が2.5g/hour以下となるように注入井戸へ注入するのが好ましい。
【0033】
ここで、上記した条件が好適であるとしたのは、10mg/L以上の高濃度溶存オゾン水を2.5g/hourより多く注入すると、注入井戸付近の微生物の活動を低減させることによる。また、初期オゾン濃度が20mg/L以上となると、溶存オゾン水を注入直後、直ちに微生物活動が完全に停止してしまう恐れがあり、加えて、初期溶存オゾン濃度の設定を高めるほど、オゾン溶存水製造装置等関連する設備に要するコストが高くなり、経済性が失われてしまうためである。
【0034】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法によれば、上述したように、溶存オゾン水に由来する酸素と、注入水に含まれる微生物用栄養組成物との遠距離到達性を高めることによって、広い範囲で微生物を繁殖させ、微生物による汚染物質の分解を促進させることができる。
【0035】
また、より一層効率的に浄化処理を行うには、このように注入水に含まれる微生物用栄養組成物の遠距離到達性が高め、かつ注入した微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量を正確に把握できるようにすることが望まれる。
【0036】
そこで、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、上述したように溶存オゾン水を用いたバイオレメディエーションによる浄化処理を行う際、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸より地下水帯中に注入し、地下水中の安定同位体の濃度を測定することによって、さらに注入した微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量を確認することができるようにした。
【0037】
これにより、例えば、微生物用栄養組成物の注入効果、すなわち、微生物の繁殖状況などを確認して、さらなる微生物用栄養組成物などの注入が必要かどうかを正確に判断することができるようになったため、微生物による汚染物質の浄化処理が無駄なく効果的に行えることとなった。
【0038】
なお、上記安定同位体としては、微生物用栄養組成物の中に混合することができる、例えば、窒素、炭素、酸素などの元素が考えられ、炭素では、13C、窒素では、15N(重窒素)、酸素では、18Oなどがそれぞれ安定同位体として存在する。これらの元素の中では、15Nで標識されている化合物をトレーサーとして用いるのが好ましい。何故なら、15Nで標識された化合物は、分析精度の観点およびコスト面からトレーサーとして優れているからであり、以下にこの点について詳細に説明する。
【0039】
まず15Nと13Cとを比較すると、15Nは、天然存在比(一般環境中に存在する割合)が約0.3%であり、天然存在比が約1%である13Cよりも存在する割合が小さい。また、13Cは、汚染物質中に存在する量が多く、微生物により分解されてしまうおそれがある。そのため、15Nで標識されている化合物は、少ない添加量でも十分に有意差を測ることができる。
【0040】
次に15Nと18Oとを比較すると、18Oは、天然存在比が約0.2%であり、15Nの天然存在比とほぼ同等であるものの、18Oを地下に注入する場合には、安定性等の観点から、18Oを水の酸素成分として含ませるのが一般的となる。ここで、水と微生物用栄養組成物とでは、地下水中においてその拡散範囲や拡散速度が異なるため、18Oで標識された化合物は、微生物用栄養組成物と同一の挙動を示すとは限らない。
【0041】
したがって、15Nで標識された化合物は、分析精度の観点から、上記した他の安定同位体で標識された化合物と比較してトレーサーとして最も好ましい。
【0042】
また、炭素成分と窒素成分とで生物の必要量を比較すると、炭素成分の方が窒素成分と比べて生物体内に必要成分として取り込まれる量が多いことから、15Nで標識された化合物をトレーサーとして用いれば、13Cで標識された化合物をトレーサーとして用いた場合よりも添加量を少なくすることが可能であり、コストを抑えることができる。
【0043】
したがって、15Nで標識された化合物は、コスト面からも、上記した他の安定同位体で標識された化合物と比較してトレーサーとして最も好ましい。
【0044】
続いて、図2を参照しながら、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法の一例について説明する。
【0045】
本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸より注入(ステップS1)した後、浄化対象領域内における任意の位置において地下水中の安定同位体の濃度を測定(ステップS2)し、その測定によって得られた結果に応じて、溶存オゾン水または注入水とを注入(ステップS3)する。
【0046】
ステップS1において、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを汚染地下水帯に注水する場合、両者を同時に注水してもよいし、必要に応じて時間的に間隔を置き、交互に注水してもよい。
【0047】
また、注入ポイントが2箇所以上採れる場合には、溶存オゾン水と注入水とを別々の注入井戸から汚染地下水帯に注入してもよい。
【0048】
なお、溶存オゾン水と注入水とを分けて注水する場合には、汚染修復対象領域内において個々の注入物質が汚染地下帯の水層中で最適な混合状態を実現できるように、予め地下データの解析やシミュレーション等を行い、その結果を考慮した上で、注水間隔、注水量等の条件を決定するのが好ましい。
【0049】
ステップS2においては、安定同位体の濃度を測定するが、そのために行う地下水のサンプリング方法は、特に限定されず、例えば、注入井戸から離れた位置に複数の汲み揚げ用の井戸(観測井戸)を設け、各井戸で地下水をサンプリングする方法が挙げられる。
【0050】
また、上記安定同位体の濃度の測定は、例えば、質量分析、比重測定等の方法により行うことができる。
【0051】
このように、ステップS2では、注入井戸から離れた位置において地下水帯中の安定同位体の濃度を測定して、注入した微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量を判定し、さらに、これらから、例えば、微生物の繁殖状況を確認する。
【0052】
続いて、ステップS3においては、上述したステップS2で行われた測定の結果よって判定された微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量に基づき、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む微生物用栄養組成物または溶存オゾン水をさらに注入するか否かを判断し、必要に応じて追加注入を行う。
【0053】
このように、ステップS3では、ステップS2において判定結果に基づいて確認された微生物の繁殖状況などから、さらなる微生物用栄養組成物などの注入が必要かどうかを判断する。
【0054】
なお、本発明に係る土壌または地下水の浄化方法では、効果的に浄化処理を行うため、上記したように、ステップS3において、さらなる注入の要否を正確に判断し、その上で必要な場合には改めて注入位置を決定して、再びステップS1に戻り微生物用栄養組成物等の注入処理を行うが、ここで、図3を参照しながら、さらにステップS3における具体的な処理の一例について説明する。
【0055】
図3に示すステップS3−1では、ステップS2における測定結果により得られた微生物用栄養組成物の到達範囲およびその到達量データから、例えば、微生物用栄養組成物が到達していない位置または範囲を確認・特定する。そして、この不到達位置または範囲として特定された領域の分布状況等から、汚染修復対象領域内においてさらなる浄化処理が必要かどうかを判断する。
【0056】
なお、上記判断の結果、例えば、汚染修復対象領域内において微生物用栄養組成物が十分に到達しており、さらなる浄化処理は不要である場合には、一連の浄化処理を終了する。また、上記判断の結果、例えば、汚染修復対象領域内において微生物用栄養組成物の到達量または到達範囲が不十分であり、さらに微生物用栄養組成物等の注入等の浄化処理が必要と考えられる場合には、ステップS3−2の処理に進む。
【0057】
ステップS3−2においては、ステップS3−1で確認・特定した微生物用栄養組成物が到達していない位置または範囲、あるいはその周辺領域での到達状況等を基に、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含んだ微生物用栄養組成物または溶存オゾン水を注入する位置を決定する。
【0058】
具体的には、例えば、汚染修復対象領域内における複数の井戸で地下水中の安定同位体の濃度を測定した際、特定の井戸において、注入後所定の期間を経過しているにも拘わらずこの安定同位体の濃度が低い水準を維持したままである、または下降傾向にある場合には、改めてその井戸の位置または周囲を注入位置として定める。また、特定の井戸において測定された地下水中の安定同位体の濃度が上昇傾向にあるものの、上昇の度合いが少なく、変化が緩慢で乏しいため、それまでの経過や推移から判断して予定時期までに対象領域の浄化に必要とされる濃度水準にまでに達するのは困難と思われる場合も、同様にその井戸の位置または周囲を次期注入目標位置として定める。
【0059】
このように、ステップS3−2において次の注入位置を決定した後、図1に示すステップS1の処理に進む。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法によれば、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸より注入し、浄化対象領域内における任意の位置において地下水帯中の安定同位体の濃度を測定し、この測定結果に基づいて、注入した微生物用栄養組成物の到達範囲や到達量を判定し、微生物の繁殖状況などを確認できるため、さらなる微生物用栄養組成物などの注入が必要かどうかを正確に判断することができる。
【0061】
また、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、測定した安定同位体の濃度から、次に微生物用栄養組成物を含む注入水等を注入する位置を決定し、この決定した位置に上記注入水または溶存オゾン水を注入する。汚染修復対象領域内において、微生物用栄養組成物が十分な量到達していない位置または範囲を注入位置として特定して上記注入水等を注入し、さらに浄化効果を活性化させることで、浄化処理を効率的に、また確実に進めることができる。
【0062】
このように、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法を用いれば、例えば、汚染修復対象領域が広く、多段的なバイオレメディエーションによる浄化処理方法を適用する必要がある場合であっても、浄化処理を効率的に行うことができる。
【0063】
また、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、安定同位体として15Nを用い微生物用栄養組成物を標識し、これを含む注入水と溶存オゾン水とを注入井戸より注入するため、上述したように、分析精度が向上し、微生物用栄養組成物の注入効果を正確に確認できる。これにより、得られた注入効果に基づいて、効率的にさらなる浄化処理を行うことができる。
【0064】
さらに、微生物用栄養組成物を標識する安定同位体として15Nを用いることから、上述したように、他の安定同位体を用いた場合と比べ、微生物用栄養組成物へ添加する量を少なくすることができ、よって浄化処理コストを抑えることができる。
【0065】
なお、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、微生物用栄養組成物の拡散状態をより正確に判定するために、安定同位体の濃度を測定した場所において、さらに地下水中の微生物濃度を測定してもよい。
【0066】
例えば、浄化処理を行う範囲において、微生物用栄養組成物の濃度が低い場所であったとしても、浄化処理に必要な微生物が存在する場合には、さらなる微生物用栄養組成物の注入処理等が不要なこともあるからである。
【0067】
なお、微生物濃度の測定は、例えば、溶存オゾン水と注入水とを注入する前後において、上述した観測井戸から採取した地下水を10倍の段階希釈を行い、各希釈倍率を地下水を標準寒天培地塗布し、寒天上に発生したコロニー数を計測する希釈平板法により行うことができる。
【0068】
このように、測定した微生物濃度と安定同位体の濃度とに基づいて、微生物用栄養組成物の拡散が十分でない位置を特定することによって、より正確に、さらなる微生物用栄養組成物等の注入が必要かどうかを判断することができる。
【0069】
また、本実施の形態に係る土壌または地下水の浄化方法では、安定同位体の濃度等によって決定した位置の観測井戸に、15Nで標識されている微生物用栄養組成物を含む微生物用栄養組成物または溶存オゾン水を注入すると説明したが、この例に限定されるものではない。
【0070】
例えば、汚染修復対象領域内における微生物用栄養組成物の到達範囲またはその到達量の程度に応じて、さらなる浄化処理を行うべく、微生物用栄養組成物を含む注入水のみあるいは溶存オゾン水のみを注入したり、微生物用栄養組成物を含む注入水と溶存オゾン水とを交互にまたは同時に、あるいは微生物用栄養組成物と溶存オゾンとを併せて含む注入水を調整し注入するようにしてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0072】
揮発性有機塩素化合物によって地下3mの帯水層部分が汚染されているサイトにおいて、以下のような実験を行った。
【0073】
微生物用栄養組成物として15Nを含んだ窒素分およびリンを含む無機塩類を所定濃度で添加した注入水を調製し、この注入水にさらにオゾンを溶存させた上で、汚染源の中心部に設置した注入井戸から連続的に注水し、微生物学的修復による地下水汚染の浄化を試みた。
【0074】
注入水の組成は、溶存オゾン濃度が初期濃度で12mg/L、微生物用栄養組成物としての硝酸カリウム濃度が25mg/L(うち安定同位体で標識された化合物としての15N硝酸カリウム1mg/L)、リン酸水素二カリウム濃度が40mg/Lとした。
【0075】
この注入水を毎分2Lの速度で、注入井戸より地下3mの帯水層内に連続的に注入し、注入井戸周辺に設置した複数の観測井戸から定期的に地下水を採水して各注入成分の拡散の程度を観測した。
【0076】
なお、注入前の地下水中の溶存酸素濃度は、平均で0.8mg/Lであった。また、注入井戸内および観測井戸内における好気性従属栄養細菌数については、それぞれの井戸からサンプル水を採取して別途行った標準寒天培地による平板希釈培地法により計測した。
【0077】
水平距離で注入井戸からそれぞれ半径1m、3m、6m離れた地点に3つの観測井戸を設け、実験(注入水注入)開始前に各観測井戸の地下3mにおいて計測した総好気性従属栄養細菌数は、表1に示すように、いずれも1mLあたり10の3乗個台で一致していた。
【0078】
【表1】

【0079】
実験の結果、各観測井戸(i),(ii),(iii)での総好気性従属栄養細菌数は、それぞれ1mLあたり10の6乗個台、10の8乗個台、10の4乗個台であった。また、地下水中の15Nの濃度は、同様にそれぞれ1.1mg/L、1.0mg/L、0.3mg/Lであった。さらに、観測井戸(i),(ii),(iii)における溶存酸素濃度は、それぞれ4.0mg/L、4.5mg/L、4.0mg/Lで、ほぼ同じであった。
【0080】
以上の結果から、溶存オゾン水は、注入井戸から半径6m離れた地点にある観測井戸(iii)にまで到達しているものの、微生物用栄養組成物は、注入井戸から半径3m離れた地点にある観測井戸(ii)にまでにしか到達していないことが分った。
【0081】
そこで、微生物用栄養組成物のみを注入井戸から半径6m離れた地点にある観測井戸(iii)から再度前回と同量注入したところ、微生物による汚染物質の分解は、汚染領域全体で均等に進行した。
【0082】
このように、本発明によれば、各観測井戸において、地下水中に注入された15Nの濃度および総好気性従属栄養細菌数を測定することにより、微生物用栄養組成物の到達範囲あるいはその到達量を判定し、好気性従属栄養細菌の繁殖状況を確認できる。
【0083】
また、上記判定に基づいてさらに微生物用栄養組成物または溶存オゾンを注入すべき領域を特定し、これらをその特定された領域に注入すれば、その領域内の微生物を効率的に増殖させ、活性化させることができ、汚染浄化作用を確実に高めることができるため、汚染された土壌または地下水を修復し清浄な状態に戻すことができる。
【符号の説明】
【0084】
1 浄化装置、2 注入井戸、3 注入管、4 注入水貯留槽、5 溶存オゾン製造器、6 貯水槽、7a、7b 送水ポンプ、8a、8b 送水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水帯に、溶存オゾン水と、微生物用栄養組成物を含む注入水とを浄化対象領域内に設けた注入井戸より注入し、微生物により汚染物質を分解する土壌または地下水の浄化方法において、
安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む上記注入水と上記溶存オゾン水とを上記注入井戸より注入する注入工程と、
上記浄化対象領域内における任意の位置において上記地下水帯中の上記安定同位体の濃度を測定する測定工程とを有し、
上記測定工程での測定結果に基づいて、少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入することを特徴とする土壌または地下水の浄化方法。
【請求項2】
上記安定同位体が、15Nであることを特徴とする請求項1記載の土壌または地下水の浄化方法。
【請求項3】
上記測定工程で測定した上記安定同位体の濃度から、少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入する位置を決定する決定工程をさらに有し、該決定した位置に少なくとも上記微生物用栄養組成物を含む注入水または上記溶存オゾン水を注入することを特徴とする請求項1又は2記載の土壌または地下水の浄化方法。
【請求項4】
地下水帯に、溶存オゾン水と、安定同位体で標識されている微生物用栄養組成物を含む微生物用栄養組成物を含む注入水とを注入井戸より注入する注入工程と、
上記浄化対象領域内における任意の位置において上記地下水帯中の上記安定同位体の濃度を測定する測定工程と
を有することを特徴とする微生物用栄養組成物の濃度確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−173037(P2011−173037A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37177(P2010−37177)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】