説明

土壌固化剤

【課題】発生土等の処理土壌を植物の生育に支障の生じないpHで迅速に固化することができ、しかも良好な品質安定性を有する土壌固化剤を提供すること。
【解決手段】土壌を固化させるための固化剤であって、酸化マグネシウム20〜80重量%と炭酸カルシウム80〜20重量%とからなり、所望により、硫酸カルシウム、スラグ、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムから選択される1種以上の強度向上剤、酸性剤、有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤を含有する土壌固化剤を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌固化剤に関し、詳しくは例えばシールド工法、地中連続壁工法、浚渫工法、表層及び深層地盤改良工法等の建設現場からの発生土のような土壌を植物の生育に支障のないpH範囲で迅速に固化させるために使用される土壌固化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場からの発生土のような土壌は、水分を多量に含み流動性があるため、そのままでは運搬、輸送が困難であり、再利用ができない。そこで、このような土壌に土壌固化剤を添加して固化させた上で、運搬、輸送する方法が考えられる。
【0003】
従来より、この種の土壌固化剤としては、セメント系固化剤、生石灰系固化剤、石膏系固化剤や有機高分子系凝集剤あるいは吸水性樹脂等が使用されている。
【0004】
上記セメント系固化剤や生石灰系固化剤は、土壌に対して通常30〜100重量部添加するが、このような添加量では処理土壌のpHが12以上になりアルカリ公害を惹き起こす。また、運搬、輸送が可能な程度に固化するまでに長時間を要するという問題もある。さらに、上記石膏系固化剤では、アルカリ公害のおそれはなく、また処理土は短時間で固化するが、水に接触すると固化剤が溶解して処理土壌が崩壊してしまい、また多量に水分を含む土壌の場合には固化不良を起こすおそれがあるので、多量に添加する必要がある。また、さらに上記有機高分子系凝集剤や上記吸水性樹脂でもアルカリ公害のおそれはなく、また固化時間が早いが、処理土壌は耐水性がなく、水に接触すると処理土壌が崩壊してしまい、また水分を多量に含む土壌の場合には、上記した有機高分子系凝集剤や吸水性樹脂の添加量が多くなり、処理土壌が弾性体となって、重機類で突き崩したり搬出したりする作業が困難となる。
【0005】
このような問題を解決するものとして、特許文献1(特開平10−316967号公報)には、酸化マグネシウム又は酸化マグネシウム含有物からなる土壌固化剤を提案している。しかし、酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムからなる土壌固化剤では、処理土壌の迅速で、強固な固化を得るには充分とはいえなかった。
【0006】
特許文献2(特開2002−249774号公報)には、酸化マグネシウム及び/又は酸化マグネシウム含有物と高炉スラグと燐酸成分を一定割合で含有する土壌固化剤が開示されている。このように、高炉スラグを主成分とした場合には、高炉スラグの成分によって、得られる土壌固化剤の品質が一定ではなく、品質安定性に欠けるという問題がある。
【0007】
また、特許文献3(特開2003−64361号公報)には、高炉スラグ、酸化マグネシウム及び/又は酸化マグネシウム含有物、カルシウム化合物、硫酸アルミニウム及び/又はポリ塩化アルミニウム及び/又は鉄塩を一定範囲で含有する土壌固化剤が開示されている。この特許文献3に記載の土壌固化剤も高炉スラグを主成分とするものであり、上述した特許文献2と同様に品質安定性に欠けるという問題がある。また、カルシウム化合物として炭酸カルシウムも例示されているが、特許文献3の土壌固化剤は、カルシウム化合物を主成分とするものではない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−316967号公報
【特許文献2】特開2002−249774号公報
【特許文献3】特開2003−64361号公報
【0009】
このように、発生土等の処理土壌を植物の生育に支障の生じないpHで迅速に固化することができ、しかも品質安定性を有する土壌固化剤は得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、発生土等の処理土壌を植物の生育に支障の生じないpHで迅速に固化することができ、しかも良好な品質安定性を有する土壌固化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、検討の結果、炭酸カルシウムと酸化マグネシウムを主成分とした土壌固化剤が上記目的を達成し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、土壌を固化させるための固化剤であって、
酸化マグネシウム20〜80重量%と炭酸カルシウム80〜20重量%とからなる土壌固化剤を提供するものである。
【0013】
本発明に係る上記土壌固化剤は、硫酸カルシウム、スラグ、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムから選択される1種以上の強度増強剤をさらに含有することが望ましい。総量に対して、5〜50重量%含有されることが好ましい。
【0014】
本発明に係る上記土壌固化剤は、酸性剤を含有していることが望ましい。上記酸性剤は、総量に対して、1〜50重量%含有されることが好ましい。
【0015】
本発明に係る上記土壌固化剤は、有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤をさらに含有していることが望ましい。上記有機高分子凝集剤及び/又は上記吸水剤は、総量に対して、0.1〜5.0重量%含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る土壌固化剤は、炭酸カルシウムと酸化マグネシウムとを併用するものであり、処理土壌に添加した場合に、そのpHが中性域であることから植物の生育を阻害することがなく、かつ迅速に高い固化強度が得られる。また、本発明に係る土壌固化剤は、炭酸カルシウムと酸化マグネシウムを主成分とするので良好な品質安定性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良形態について説明する。
【0018】
(本発明に係る土壌固化剤)
本発明の土壌固化剤は、酸化マグネシウム及び炭酸カルシウムを主成分とするものであり、この酸化マグネシウムと炭酸カルシウムと土壌との固化反応によって土壌が固化せしめられる。
【0019】
本発明に係る土壌固化剤に用いられる酸化マグネシウムは、低温焼成品と高温焼成品とがあるが、反応性の点からみて低温焼成品(仮焼マグネシア)が好ましい。特に海水酸化マグネシウム及び天然炭酸マグネシウムを700〜900℃で焼成して得られ、純度80%以上、かつ粒度の細かい(例えばブレーン値2000cm/g以上)ものが好ましい。
【0020】
本発明に係る土壌固化剤に用いられる炭酸カルシウムは、塗料、製紙、食品で通常使用されるものが使用される。例えば天然方解石を粉砕して得られ、粒度の細かい(例えばブレーン値2000cm/g以上)ものが望ましい。
【0021】
本発明に係る土壌固化剤において、上記酸化マグネシウムと上記炭酸カルシウムの含有割合は、酸化マグネシウム20〜80重量%、好ましくは40〜60重量%、炭酸カルシウム80〜20重量%、好ましくは60〜40重量%であり、この含有割合で処理土壌の迅速な固化がなされる。酸化マグネシウムの含有割合が20重量%未満では、固化強度が弱く、80重量%を超えると、pHが高くなる。
【0022】
本発明に係る土壌固化剤は、強度向上剤をさらに含有することができる。強度向上剤は、固化反応における固化時間を短縮させることができ、処理土壌を短時間で搬出したい場合に、処理土壌の取り扱い作業上、支障の無い流動化しない強度を出すために含有される。このような強度向上剤としては、硫酸カルシウム(石膏)、スラグ、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムから選択される1種以上である。石膏には、無水石膏、半水石膏、2水石膏があるが、それ自体が短時間で固化する半水石膏の使用が好ましいスラグとしては、高炉スラグが一般的に用いられ、特に高炉スラグセメントに使用されるグレードの高炉水砕スラグが好ましい。
【0023】
強度向上剤の含有量は、総量に対して、5〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。強度向上剤の含有量が5重量%未満では、強度向上効果がなく、50重量%を超えると、強度向上効果がなくなる。
【0024】
本発明に係る土壌固化剤は、酸性剤をさらに含有することができる。酸性剤は、処理土壌のpHを植物の生育に支障のない範囲に調整するために含有され、pH10以下、望ましくは5〜9、さらに望ましくは5.8〜8.6に調整する。このような酸性剤としては、例えば粉末硫酸、硼酸、スルファミン酸等の粉末状の無機酸、あるいは蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸等の粉末状の有機酸、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アンモニウム、ミョウバン、塩化アンモニウム、硫酸第1鉄、塩化第2鉄、ベンゼンスルホン酸アンモニウム等の強酸と弱塩基との粉末状の塩等が使用される。特に硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アンモニウム、ミョウバン、硫酸第1鉄、塩化第2鉄等は、本発明に係る土壌固化剤の固化能力に影響を与えることなく、固化を助けるので好ましい。
【0025】
酸性剤の含有量は、総量に対して、1〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がさらに好ましい。酸性剤の含有量が1重量%未満では、pH調整効果がなく、50重量%を超えると、固化強度が弱くなる。
【0026】
本発明に係る土壌固化剤は、さらに有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤を含有することができる。有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤を含有することによって、処理土壌の含水比が100%以上の高含水の場合に、処理土壌中のフリー水分を吸収して、又は処理土壌が凝縮して処理土壌中のフリー水分を排除し、処理土壌の固化強度の向上や土壌固化剤の添加量を減らすことができる。上記有機高分子凝集剤としては、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、アクリル酸ソーダ−アクリルアミド共重合体、ポリエチレンオキサイド等の合成高分子凝集剤やグアガム、キサンタンガム、アルギン酸等の天然高分子凝集剤が挙げられ、上記吸水剤としては、例えば下水焼却灰、木炭、活性炭、シリカゲル等が挙げられる。
【0027】
有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤の含有量は、処理土壌の水分含有量に応じて適宜選択されるが、総量に対して、0.1〜5.0重量%が好ましく、2.0〜3.0重量%がさらに好ましい。有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤の含有量が0.1重量%未満では、含有効果がなく、5.0重量%を超えると、固化強度の点で好ましくない。
【0028】
本発明に係る土壌固化剤は、処理土壌に添加する前に全成分を混合し、その後、処理土壌に添加してもよく、また各成分を個々に処理土壌に添加してもよい。さらに、成分のうちの2種以上を予め混合しておいて処理土壌に添加してもよい。また、本発明に係る土壌固化剤は、粉末状で処理土壌に添加してもよく、また水等の溶媒に溶解してスラリー状にして処理土壌に添加してもよい。
【0029】
本発明に係る土壌固化剤の処理土壌に対する添加量は、土質、含水量等によって適宜調節される。一般に有機質を多く含む土質の場合には、添加量は多くする必要があり、有機質の少ない土質の場合には、添加量は少なくてよい。また、含水量の多い処理土壌の場合には、添加量を多くする必要があり、含水量の少ない処理土壌の場合には、添加量は少なくてよい。一般的に言えば、含水比100%未満の処理土壌の場合には、本発明に係る土壌固化剤は、処理土壌1m当たり、30〜100kg程度添加され、含水比100〜400%の処理土壌の場合には、本発明に係る土壌固化剤は、処理土壌1m当たり、50〜300kg程度添加される。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
火山灰土壌(含水比89%、含土率53%、密度1.49g/cm、粗粒分37.3%、強熱減量7.5%、pH6.6)1mに、下記組成の土壌固化剤100kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0032】
(土壌固化剤の組成)
酸化マグネシウム 40重量%
炭酸カルシウム 60重量%
【実施例2】
【0033】
実施例1で用いたのと同様の土壌1mに、下記組成の土壌固化剤70kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0034】
(土壌固化剤の組成)
酸化マグネシウム 50重量%
炭酸カルシウム 30重量%
半水石膏 20重量%
【実施例3】
【0035】
実施例1で用いたのと同様の土壌1mに、下記組成の土壌固化剤150kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0036】
(土壌固化剤の組成)
酸化マグネシウム 35重量%
炭酸カルシウム 50重量%
高炉スラグ 10重量%
硫酸アルミニウム 5重量%
【実施例4】
【0037】
実施例1で用いたのと同様の土壌1mに、下記組成の土壌固化剤100kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0038】
(土壌固化剤の組成)
酸化マグネシウム 40重量%
炭酸カルシウム 49重量%
硫酸アルミニウム 10重量%
クエン酸 1重量%
【実施例5】
【0039】
有機質粘土(含水比270.1%、含土率27.8%、密度1.235g/cm、強熱減量26.7%、pH6.2)1mに、下記組成の土壌固化剤200kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(土壌固化剤の組成)
酸化マグネシウム 35重量%
炭酸カルシウム 40重量%
半水石膏 17重量%
硫酸アルミニウム 7重量%
高分子凝集剤 1重量%
【比較例】
【0041】
実施例5で用いたのと同様の土壌1mに、普通ポルトランドセメント100kgを添加し、攪拌、混合して供試体とし、強度の経時変化(1日後及び7日後の強度)を測定すると共に、処理固化土のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5は、処理土壌が迅速に固化され、高い固化強度を有する。また、処理土壌のpHも好ましい中性域である。これに対し、比較例は、処理土壌は固化されず、処理土壌のpHもアルカリ域である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る土壌固化剤は、酸化マグネシウム及び炭酸カルシウムとを主成分として併用するものであり、被処理土壌に添加した場合に、処理土壌は中性域のpHを有し、かつ迅速な固化がなされ、高い固化強度を有する。また、本発明に係る土壌固化剤は、酸化マグネシウム及び炭酸カルシウムとを主成分とするものであるから、品質安定性にも優れる。
従って、本発明に係る土壌固化剤は、粉末状又はスラリー状で各種土壌用の固化剤として、地盤改良等の種々の用途に好適に用いられる。そして、処理土壌は、土壌材料としてリサイクル使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を固化させるための固化剤であって、
酸化マグネシウム20〜80重量%と炭酸カルシウム80〜20重量%とからなる土壌固化剤。
【請求項2】
硫酸カルシウム、スラグ、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムから選択される1種以上の強度増強剤をさらに含有する請求項1記載の土壌固化剤。
【請求項3】
上記強度増強剤の含有量が、総量に対して、5〜50重量%である請求項2記載の土壌固化剤。
【請求項4】
酸性剤をさらに含有する請求項1、2又は3記載の土壌固化剤。
【請求項5】
上記酸性剤の含有量が、総量に対して、1〜50重量%である請求項4記載の土壌固化剤。
【請求項6】
有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤をさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載の土壌固化剤。
【請求項7】
上記有機高分子凝集剤及び/又は吸水剤の含有量が、総量に対して、0.1〜5.0重量部である請求項6記載の土壌固化剤。

【公開番号】特開2008−255193(P2008−255193A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97605(P2007−97605)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(500518201)松田技研工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】