説明

土壌浄化方法および土壌浄化装置

【課題】 小規模で、汚染箇所が特定されている土壌を原位置浄化することができ、かつ後処理を必要としない方法および装置を提供する。
【解決手段】 本発明の土壌浄化装置は、揮発性有機塩素化合物(VOC)により汚染された箇所の土壌を浄化するための装置であり、汚染箇所に向けて土壌を掘削し、掘削孔を形成する掘削装置10と、170℃〜500℃の過熱蒸気を発生させる過熱蒸気生成装置11と、掘削孔に挿入され、汚染箇所に向けて過熱蒸気を噴射させる注入管12とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機塩素化合物(VOC)により汚染された箇所の土壌を浄化する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の洗浄やメッキ液の洗浄、ドライクリーニング等の油分を落とす洗浄剤や溶剤に、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のVOCが含まれるものが使用されていた。VOCは、強い洗浄力を有するものの、水に溶けにくい揮発性のある液体で、高温で分解して有毒で腐食性を有するホスゲンや塩化水素を発生し、光のもとで水分と徐々に分解して腐食性の塩酸を発生するといった問題があり、特に、土壌に浸透しやすく、地下水汚染の問題となっている。
【0003】
VOCにより汚染された土壌を浄化する方法および装置が数多く提案されている。例えば、汚染土壌に空気を吹き込み、あるいは撹拌して、酸素を供給し、VOCを分解する微生物の働きを促すことにより汚染土壌を浄化するとともに、汚染された地下水を揚水し、水処理装置によって浄化する揚水曝気法や、汚染土壌中のVOCを、真空ポンプ等を使用して吸引することにより浄化する土壌ガス吸引法がある。
【0004】
また、VOCにより汚染された土壌および地下水を浄化する方法として、土壌および地下水中に蒸気を注入して温度を上昇させ、VOCの気化を促進すると同時に、地下水の揚水を積極的に行い、その際の揚水した地下水の処理水を蒸気注入井戸に流入させて温水とし、その温水が地下水中を移動することにより、土壌や地下水自体の温度上昇と地下水の流動化を図る方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
これらの方法では、大型の真空ポンプや揚水ポンプ、水処理装置、空気圧縮機、撹拌装置が必要であり、これらの方法は、大規模で、汚染箇所が不特定な土壌を浄化するのに適している。これに対して、クリーニング店や小規模のメッキ工場では、VOCを含む洗浄剤や溶剤の使用によって特定箇所の土壌がVOCによって汚染されており、その特定箇所の土壌を浄化するための方法および装置が望まれている。
【0006】
小規模で、特定箇所が汚染された土壌を浄化する方法として、VOCにより汚染された土壌に注入井と抽出井とを形成し、注入井に水蒸気を加圧注入して地中に蒸気濃縮面を作り、さらに水蒸気を加え続けてその蒸気濃縮面を拡大し、この蒸気濃縮面で汚染物質を溶解および揮発させ、熱水とともに汚染物質を押しだし、負圧をかけた抽出井から汚染物質を含む液体およびガスを強力に吸い上げる方法が提案されている(非特許文献1および2参照)。
【0007】
この方法は、蒸気促進浄化法と呼ばれ、水の沸点(約100℃)で汚染物質を溶解および揮発させるという原理、すなわち共沸現象を利用するものである。VOCの1つであるテトラクロロエチレンは、沸点が約121℃であるが、水との共沸現象により溶解および揮発させることができる。
【0008】
この方法は、原位置浄化であるため、狙った地層を浄化することができ、注入井等を形成するのみであるため、掘削処理および搬出処理が少なくて済むという利点を有する。また、後処理の必要なものは汚染物質を吸着した活性炭等に限られ、廃棄物処理費を著しく削減できるという利点を有する。さらに、揚水曝気法や土壌ガス吸引法に比べて約1/3の期間で浄化することができ、揚水量も少ないため、水処理が容易となり、薬品を使用しないため、安全性が高く、環境にやさしいという利点を有する。
【0009】
しかしながら、この方法は、熱水に溶解させ、押し出すことにより、また、揮発させ、押し出すことにより、汚染土壌を浄化するものであるため、すべてを押し出すまでに時間を要し、また、押し出した後に処理する必要がある。したがって、小規模で、汚染箇所が特定されている土壌を原位置浄化することができ、後処理を必要としない方法および装置が望まれている。
【特許文献1】特開2002−11456号公報
【非特許文献1】「土壌・地下水汚染浄化技術 蒸気促進浄化法」、[on line]、2004年9月2日、ライト工業株式会社、[平成18年1月12日検索]、インターネット<URL: http://www.raito.co.jp/construction/env/pdf/k-ser.pdf>
【非特許文献2】「土壌・地下水汚染の対策・措置 <蒸気促進浄化法>」、[on line]、2003年12月25日、ライト工業株式会社、[平成18年1月12日検索]、インターネット<URL: http://www.raito.co.jp/construction/env/env08_3.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、小規模で、汚染箇所が特定されている土壌を原位置浄化することができ、かつ後処理を必要としない方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、土壌の汚染箇所に向けて掘削孔を形成し、その掘削孔に注入管を挿入し、その注入管からその汚染箇所に向けて、高温の過熱蒸気をVOCに噴射することにより、注入管の注入孔の付近ではVOCは還元分解されて、二酸化炭素や水蒸気等となり、それより離れた位置では過熱蒸気によってVOCが揮発し、地面に向けて上昇し、地面上に設置した吸引管で吸引され、吸着塔へ送られ、吸着除去されることにより、土壌中のその汚染箇所のVOC濃度を環境基準値以下に低減させることができることを見出した。したがって、上記課題は、本発明の土壌浄化方法および土壌浄化装置を提供することにより達成される。
【0012】
本発明の土壌浄化方法は、土壌の汚染箇所に向けて掘削孔を形成し、掘削孔内に注入管を挿入する工程と、注入管内に170℃〜500℃の過熱蒸気を供給し、汚染箇所に向けて過熱蒸気を噴射する工程とを含む。
【0013】
上記注入管を挿入する工程は、汚染箇所の上部の地面に、注入管および吸引管が挿通可能な各穴を備えるシートを敷設し、シートの各穴を通して注入管および地面上に吸引管を設置する工程を含み、本発明の方法は、上記各工程に加え、過熱蒸気の噴射により揮発したVOCを地面とシートとの間に滞留させ、吸引管を通して吸引する工程をさらに含むことができる。
【0014】
上記過熱蒸気を噴射する工程の前に、注入管内に圧縮空気または水を供給し、圧縮空気または水を噴射する工程を含むことが好ましい。これは、土壌中に空隙を形成させ、後に供給される過熱蒸気を行き渡らせやすくし、浄化効率を向上させることができるからである。
【0015】
上記過熱蒸気を噴射する工程の後に、注入管内に鉄粉を含む圧縮空気または水を供給し、鉄粉を含む圧縮空気または水を噴射する工程をさらに含むことが好ましい。これは、鉄粉による還元反応により、より効果的に分解することができるからである。
【0016】
さらに、注入管内に固化材を含む圧縮空気または水を供給し、固化材を含む圧縮空気または水を噴射する工程を含むことができる。これは、上記過熱蒸気、上記圧縮空気や水の供給により、低下した地盤強度を向上させるためである。本発明では、上記鉄粉とこの固化材とを同時に供給することもできる。
【0017】
上記注入管を挿入する工程の前に、掘削孔内に、先端部に前記過熱蒸気を通すための複数の孔が設けられ、上記注入管が挿脱可能なケーシングを設置する工程を含むことができる。注入管を挿入しやすくするためである。
【0018】
本発明の土壌浄化装置は、汚染箇所に向けて土壌を掘削し、掘削孔を形成する掘削装置と、170℃〜500℃の過熱蒸気を発生させる過熱蒸気生成装置と、掘削孔内に挿入され、汚染箇所に向けて過熱蒸気を噴射させる注入管とを含んで構成される。また、上記シートと、上記吸引管とをさらに含んで構成することができる。
【0019】
上記掘削装置は、先端に削孔部材を備える棒状部材と、棒状部材を回転可能に支持する回転支持手段と、棒状部材を昇降可能にする昇降手段とを含む構成とすることができる。
【0020】
上記棒状部材は、先端に削孔部材と側面に注入孔とを備える外管と、外管に挿設され、注入孔に連続する注入管とから構成される二重管であることが好ましい。この構造の二重管を採用することで、土壌を掘削するとともに、過熱蒸気を供給、噴射させることができ、その他の装置および部材が不要となる。
【0021】
さらに、注入管に圧縮空気または水を供給するための圧縮空気供給装置または水供給装置を含むことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の土壌浄化方法および装置を提供することにより、小規模で、汚染箇所が特定されている土壌を原位置浄化することができ、後処理をする必要がなく、短期間に、かつ充分に浄化することができる。また、本発明の装置は、従来にはない小型の装置であり、天井の低い狭い屋内に配置して、その位置における汚染土壌を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の土壌浄化方法および土壌浄化装置は、クリーニング店や小規模メッキ工場等において、VOCで小規模に汚染された土壌を浄化するのに好適なものであり、ピンポイントでVOCを分解して土壌を浄化することができることを特徴とする。まず、図1を参照して本発明の土壌浄化装置を説明する。以下、本発明の装置および方法を、図面を参照して詳細に説明するが、本発明の装置および方法は、図面に示された実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の土壌浄化装置は、VOCで汚染されていると想定される汚染箇所に向けて、土壌を掘削し、掘削孔を形成する掘削装置10と、約170℃〜約500℃の温度の過熱蒸気を発生させる過熱蒸気生成装置11と、掘削孔に挿入され、汚染箇所に向けて過熱蒸気を噴射させる注入管12とを含んで構成される。
【0025】
掘削装置10は、掘削孔を形成するための装置である。掘削装置10は、図示しない掘削用の棒状部材であるロッドと、そのロッドを回転可能に支持する回転支持手段10aと、回転支持手段10aによって回転支持されたロッドを昇降可能にする昇降手段10bとを含んで構成される。図1では、すでに土壌が掘削されて掘削孔が形成され、ロッドに代えて注入管12が回転支持手段10aに取り付けられているのが示されている。
【0026】
図示しないロッドは、先端に掘削用のビット等の削孔部材が設けられ、また、先端部に圧縮空気または水を噴射しながら掘削できるように開口を備える内部が中空の管あるいは棒状の部材とされている。掘削時、圧縮空気または水を噴射することで、開口からの内部への土壌の流入を防止し、ビット等の削孔部材の焼き付きを防止し、ロッドを揺動させ、掘削を容易にすることができる。ロッドの長さは、土壌を掘削する深さに応じた長さとされる。ロッドは、連結部を備え、複数のロッドが連結可能にされていることが好ましい。これは、VOCによる汚染が土壌の深い範囲にまで達していて、屋内に設置して掘削する場合、1本の長いロッドではその屋内に入れることができないからである。ロッドの径は、形成する掘削孔の径に応じて適切な径とすることができ、例えば、0.05m〜0.15mとすることができる。
【0027】
回転支持手段10aは、ロッドを挟持して支持するとともに、ローラ等の回転手段によってロッドを回転可能にしている。回転支持手段10aは、駆動装置や変速装置を含むことができ、駆動装置によってロッドを回転させ、変速装置によって回転速度を変えることができる。昇降手段10bは、例えば、油圧式のリフト等とすることができる。ここで、掘削装置10によって土壌を掘削する場合、ロッドを回転支持手段10aによって回転させ、昇降手段10bによって降下させ、ロッドの先端の削孔部材によって土壌を掘削することにより、所定径で、所定深さの掘削孔を形成することができる。
【0028】
過熱蒸気生成装置11は、水および蒸気を加熱する加熱手段を含んで構成される。加熱手段は、電気を流すことで発熱する発熱体を備える電気ヒータや、燃料を燃焼することにより熱を与える、バーナーを備える燃焼装置、電磁誘導を利用して間接的に加熱する電磁誘導過熱装置等とすることができる。電磁誘導過熱装置は、中空の筒状体のものにコイルを巻き、通電することにより電磁誘導を起こさせ、発熱させるものとすることができる。この装置では、筒状体の内部に水を通すことで、水を蒸発させるとともに、さらに加熱して、過熱蒸気を生成させることができる。発熱体としては、例えば、鉄−クロム−アルミニウム金属発熱体、ニッケル−クロム金属発熱体、白金−モリブデン−タンタル−タングステン金属発熱体、炭化珪素−シリサイト非金属発熱体、炭化珪素−カーボン非金属発熱体、モリブデン−シリサイト非金属発熱体、モリブデン−カーボン非金属発熱体を挙げることができる。
【0029】
過熱蒸気は、170℃以上になることで、その特性を発揮する。その特性とは、還元作用として働くというものである。この過熱蒸気をVOCに接触させると、VOCは還元分解される。例えば、ジクロロメタンでは、過熱蒸気の還元作用によって、炭素同士をつなぐ二重結合、炭素−水素結合、炭素−塩素結合が断ち切られ、各原子に分離される。過熱蒸気は、酸化作用としては働かないため、各原子を酸化させることはないが、土壌中に含まれる空気によって、これら各原子は酸化され、二酸化炭素や水蒸気といった無害ガスとなる。塩素は、塩化水素や塩素ガスとして揮発し、また、土壌中の金属成分と反応して無機化される。
【0030】
本発明では、過熱蒸気は0.7MPa以下の圧力とされ、約170℃〜約500℃の温度が好ましい。0.7MPaを超える圧力であっても良いが、圧力が高いと、その圧力によって土壌を崩壊させ、地盤強度を著しく低下させるからである。なお、飽和蒸気は、温度の低い土壌と接触して液化し、また、還元作用として働かないため、VOCを分解することはできない。一般に、約300℃〜約400℃の温度で、酸素、炭素、塩素が存在すると、ダイオキシン類を生成すると考えられるが、約170℃の温度の過熱蒸気が存在する雰囲気中では、炭素、塩素は原子の状態で存在し、それ以下に冷却されたところで、上記のように酸化等されるため、ダイオキシン類が生成されることはない。
【0031】
図1に示す注入管12は、図2に拡大して示すように、先端が閉鎖され、側面に2つの注入孔13が設けられた構造のものとされている。地表面に対してほぼ垂直の掘削孔を形成し、この掘削孔内に注入管12を挿入した場合、側面に注入孔13が設けられているため、地表面に対して平行の、水平方向に過熱蒸気が噴射される。注入管12の他端は、過熱蒸気生成装置11に連結されるライン14に連結される。注入管12は、掘削装置10の回転支持手段10aによって支持されるが、過熱蒸気を噴射させる際に回転され、注入管12を中心として同心円状に噴射させてもよく、この場合、注入管12を回転可能にするため、ライン14との接続に、スイベルジョイント等の回転可能に連結する連結手段を用いることができる。また、注入管12は、昇降手段10bによって昇降可能にされているため、特定の深さに限らず、地表面からその深さまでの土壌を浄化することができる。
【0032】
注入管12に設けられる注入孔13は、1つに限らず、いかなる数設けられていてもよく、注入孔13の大きさは、土粒子等によって目詰まりせず、適切に過熱蒸気を噴射させることができる大きさとされる。例えば注入孔13に、ワイヤーメッシュやパンチングプレートを取り付け、過熱蒸気をミストとして噴射させることもできる。なお、ミストとして噴射させることにより、土壌中をより浸透しやすくなり、効果的にVOCを分解し、土壌を浄化させることができる。ライン14は、短いほうが好ましく、断熱材等で断熱されることが好ましい。また、図1に示す実施形態では、地面に、上記ロッド、注入管12を通す穴と吸引管を通す穴とが設けられたシート15が敷設された後に、シート15の穴を通してロッドを挿入し、回転させつつ降下することにより掘削孔が形成されている。その後、ロッドは上昇され、注入管12と交換される。注入管12が掘削孔に挿入された後、注入管12に過熱蒸気が供給され、土壌に向けて噴射される。注入管12の注入孔13付近の土壌に含まれるVOCは、この過熱蒸気によって還元分解され、その周囲の土壌に含まれるVOCは、過熱蒸気によって揮発し、地面に向けて上昇する。この揮発したVOCは、地面とシート15との間に滞留し、もう1つの穴に通された吸引管を通して吸引され、図示しない吸着塔へと送られ、吸着除去される。吸着塔に充填される吸着材は、VOCを吸着することができるものであればいかなるものであってもよく、活性炭等とすることができる。
【0033】
本発明の装置では、掘削用のロッドとしての機能と、注入管としての機能の両方を備える二重管を用いることもできる。図3(a)、(b)に、本発明の装置に用いることができる二重管を例示する。図3に示す二重管は、先端が開口30とされ、複数の削孔用のビット31が設けられ、側面に注入孔32が3つ設けられた外管33と、一端が注入孔32に連続し、他端が図1に示すライン14に接続される、図3(a)の破線で示される内管としての注入管34とから構成されている。図3に示す二重管は、先鋭なビット31によって土壌を掘削し、開口30から圧縮空気または水を噴射することができる。注入管34は、外管33の長さ方向に延び、側面に設けられる注入孔32のそれぞれに連続するように、分岐部および曲部を備え、外管33内に挿設されている。
【0034】
図3に示す実施形態では、注入孔32が同じ側に3つ設けられ、それに伴って注入管34が2つの分岐部と1つの曲部を備える形状とされているが、注入孔32は必要に応じた数、適当な位置に設けることができ、注入管34はそれに対応した形状で、必要な位置に分岐部等を備えるものとすることができる。
【0035】
本発明の装置では、さらに、ケーシングを含むことができる。ケーシングは、掘削孔を形成した後、掘削孔の壁面が崩壊する等して埋まらないよう、注入管を挿入する孔を確保するために設置されるものである。図4に、注入管12が挿入されるケーシングを例示する。ケーシング40は、掘削孔に挿入することができる径で、かつ注入管を挿入することができるように中空とされている。また、ケーシング40は、少なくとも、地表面から掘削深さまでの長さを有し、かつ、挿入された注入管の注入孔から噴射される過熱蒸気が土壌に供給されるように、複数の孔41が設けられている。ここで、複数の孔41とするのは、過熱蒸気を通過させるほか、外部の土壌が内部に容易に流入しないようにするためである。
【0036】
図4に示す実施形態では、注入管を上昇させつつ、過熱蒸気を噴射させるため、ケーシング全体に孔41が設けられた構造とされているが、特定の箇所のみに過熱蒸気を噴射させる場合には、先端部分のみに孔41が設けられた構造とすることもできる。この場合、所定径の鋼管に、ストレーナを接続したものをケーシングとして用いることができる。また、ケーシングの先端にビットを設け、掘削装置を用いてケーシングにより掘削孔を形成することもできる。この場合には、ケーシングを掘削孔に残し、必要に応じてバックホウ等を使用してケーシング内部の土壌を掘削した後、回転支持手段からケーシングを取り外し、その回転支持手段に注入管を取り付け、ケーシング内に挿入することができる。ケーシングは、鋼製のもののほか、過熱蒸気を噴射後に除去する必要のない、生分解性プラスチックから製造されたものを用いることもできる。
【0037】
次に、本発明の土壌浄化方法を、図1を参照しつつ、詳細に説明する。クリーニング店や小規模メッキ工場は、小規模であり、溶剤等を使用する場所が限定されていることから、ほぼピンポイントでVOCにより汚染される。溶剤等の使用によってVOCが土壌中を浸透し、VOCで汚染される範囲が拡大していくが、それでも汚染される範囲は限定的である。そのため、VOCで汚染されていると想定される箇所の特定は容易である。
【0038】
例えば、地表面から深さ5m〜8mにかけて、1ppmのトリクロロエチレン(TCE)で土壌が汚染されているものとする。まず、ロッドを回転支持手段10aに取り付け、その内部に、例えば0.7MPaの圧縮空気を供給し、先端の開口から噴射しつつ、回転支持手段10aによって回転させ、昇降手段10bによって降下させて土壌を掘削する。例えば、ロッドの回転数は、20〜25rpmとすることができる。また、降下速度は、毎秒2cm〜5cmとすることができる。噴射する空気流量は、毎分2m〜4mとすることができる。なお、掘削する前に、シート15を敷設し、ロッドを通すための穴を介して掘削することができる。
【0039】
掘削が完了したところで昇降手段10bによってロッドを引き上げ、回転支持手段10aからロッドを取り外し、注入管12に交換する。注入管12を昇降手段10bによって深さ8mまで降下させ、注入管12を回転支持手段10aによって回転させた後、注入管12内に過熱蒸気を供給し、注入孔13から噴射させる。例えば、0.7MPa、毎分2kg〜4kgの過熱蒸気を噴射させることができる。この場合、過熱蒸気生成装置11ではこの圧力、量の過熱蒸気が生成される。注入孔13から噴射された過熱蒸気は、注入孔13の近傍、具体的には注入孔13から約0.3m以内の土壌に含まれるTCEは還元分解され、それより遠い位置、すなわち注入孔13からの距離が約0.3mを超える土壌に含まれるTCEは、過熱蒸気とは接触するため、熱が与えられて揮発し、地面に向けて上昇する。ちなみに、注入孔13からの距離が約0.5mの範囲には過熱蒸気が噴射により到達し、注入管12は回転されるため、有効半径約1m内のTCEが揮発する。
【0040】
例えば、深さ8mから5mまで昇降手段10bで段階的に上昇させたところで、再び深さ8mまで降下させ、過熱蒸気の噴射を繰り返すことができる。汚染濃度の濃い場所が広範囲にわたる場合には、上記有効半径がオーバーラップするように掘削し、注入管12を挿入し、過熱蒸気を噴射させることができる。
【0041】
本発明の方法では、注入管12を掘削孔内に挿入した後で、過熱蒸気を供給する前に、空気圧縮装置から圧縮空気、あるいは、ポンプ等の水供給装置から高圧の水を注入管12に供給し、土壌に向けて噴射することが好ましい。これは、土壌中に空隙や通路を予め形成し、土壌を軟らかくし、過熱蒸気を行き渡らせやすくするためである。これにより、低圧の過熱蒸気であっても、VOCの分解効率を向上させることができる。なお、掘削時、水を噴射させつつ土壌を掘削した場合には、地盤強度が低下しており、さらに水を噴射することは地盤強度を大きく低下させることになるため、圧縮空気を噴射するほうが好ましい。
【0042】
また、本発明では、注入管12の注入孔13から過熱蒸気を噴射した後、圧縮空気中に鉄粉を分散させたガス、あるいは、水に鉄粉を分散させた液を注入管12に供給し、注入孔13からそれらを噴射させることがより好ましい。これは、鉄粉の還元作用により、VOCの分解をさらに高め、汚染土壌を浄化するための期間をより短くすることができるからである。なお、VOCの分解においては、鉄粉に限られるものではなく、酸化鉄粉であってもよい。
【0043】
さらに、本発明では、過熱蒸気の供給、圧縮空気あるいは高圧の水を供給、鉄粉の供給によって低下する地盤強度を所定の強度に向上させるため、過熱蒸気の供給あるいは鉄粉の供給が終了した後、固化材を供給することができる。固化材としては、セメントミルク、水ガラス、石膏等を挙げることができる。これらの固化材は、圧縮空気や水に分散させる等して供給することができる。
【0044】
また、鉄粉と固化材とを別個に供給するのではなく、同時に供給することもできる。この場合も、圧縮空気や水を使用して供給することができる。1ppmのTCEで汚染された土壌を浄化する場合、酸化鉄粉のみで浄化するには汚染土壌1mに対し、90kg必要であるが、本発明では、過熱蒸気により浄化されるため、これより少ない量の酸化鉄粉とすることができる。これらをスラリーとして送る場合、質量比で、水:石膏:酸化鉄粉は、例えば、1:0.5〜1:0.05〜0.1とすることができ、圧力は約15MPa〜20MPaで供給することができる。また、流量は、毎分約20L〜約40Lで供給することができる。
【0045】
これまで図面を参照して本発明の方法および装置を詳細に説明してきたが、本発明の方法および装置は、図面に示された実施形態に限定されるものではなく、掘削装置は、土壌を掘削し、所定径の掘削孔を形成することができるものであればいかなる装置であってもよく、過熱蒸気生成装置は、過熱蒸気を生成させることができるものであれば、電気ヒータ、バーナー、電磁誘導過熱装置以外の装置を用いることもできる。また、過熱蒸気、圧縮空気、水、鉄粉、固化材の供給量、圧力は、分解に必要な適切な量、地盤強度の低下を抑制しつつ、適切に供給することができる圧力とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の土壌浄化装置を例示した図。
【図2】本発明の土壌浄化装置に用いることができる注入管を例示した図。
【図3】本発明の土壌浄化装置に用いることができる二重管を示した図。
【図4】本発明の土壌浄化装置に用いることができるケーシングを例示した図。
【符号の説明】
【0047】
10…掘削装置、10a…回転支持手段、10b…昇降手段、11…過熱蒸気生成装置、12、34…注入管、13、32…注入孔、14…ライン、15…シート、30…開口、31…ビット、33…外管、40…ケーシング、41…孔




【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機塩素化合物(VOC)により汚染された箇所の土壌を浄化する方法であって、
前記汚染箇所に向けて掘削孔を形成し、前記掘削孔内に注入管を挿入する工程と、
前記注入管内に170℃〜500℃の過熱蒸気を供給し、前記汚染箇所に向けて前記過熱蒸気を噴射する工程とを含む土壌浄化方法。
【請求項2】
前記注入管を挿入する工程は、前記汚染箇所の上部の地面に、前記注入管および吸引管が挿通可能な各穴を備えるシートを敷設し、前記シートの前記各穴を通して注入管および前記地面上に吸引管を設置する工程を含み、前記方法は、前記過熱蒸気の噴射により揮発した前記VOCを前記地面と前記シートとの間に滞留させ、前記吸引管を通して吸引する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記過熱蒸気を噴射する工程の前に、前記注入管内に圧縮空気または水を供給し、前記圧縮空気または前記水を噴射する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記過熱蒸気を噴射する工程の後に、前記注入管内に鉄粉を含む圧縮空気または水を供給し、前記鉄粉を含む圧縮空気または水を噴射する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記注入管内に固化材を含む圧縮空気または水を供給し、前記固化材を含む圧縮空気または水を噴射する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記過熱蒸気を噴射する工程の後に、前記注入管内に鉄粉と固化材とを含む圧縮空気または水を供給し、前記鉄粉と固化材とを含む圧縮空気または水を噴射する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記注入管を挿入する工程の前に、前記掘削孔内に、前記過熱蒸気を通すための複数の孔が設けられ、前記注入管が挿脱可能なケーシングを設置する工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
VOCにより汚染された箇所の土壌を浄化するための装置であって、
前記汚染箇所に向けて前記土壌を掘削し、掘削孔を形成する掘削装置と、
170℃〜500℃の過熱蒸気を発生させる過熱蒸気生成装置と、
前記掘削孔内に挿入され、前記汚染箇所に向けて前記過熱蒸気を噴射させる注入管とを含む土壌浄化装置。
【請求項9】
前記汚染箇所の上部の地面に敷設され、前記注入管および吸引管が挿通可能な各穴を備えるシートと、前記シートの前記穴を通して前記地面上に設置される吸引管とをさらに含み、前記過熱蒸気の噴射により揮発した前記VOCは、前記地面と前記シートとの間に滞留し、前記吸引管を通して吸引される、請求項8に記載の土壌浄化装置。
【請求項10】
前記掘削装置は、先端に削孔部材を備える棒状部材と、前記棒状部材を回転可能に支持する回転支持手段と、前記棒状部材を昇降可能にする昇降手段とを含む、請求項8または9に記載の土壌浄化装置。
【請求項11】
前記棒状部材は、先端に前記削孔部材と側面に注入孔とを備える外管と、前記外管に挿設され、前記注入孔に連続する前記注入管とから構成される二重管であることを特徴とする、請求項10に記載の土壌浄化装置。
【請求項12】
前記掘削孔内に設置され、前記注入管が挿脱可能なケーシングを含み、前記ケーシングは、前記注入管から噴射された前記過熱蒸気が前記汚染箇所に向けて噴射されるように、前記過熱蒸気を通すための複数の孔が設けられていることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の土壌浄化装置。
【請求項13】
さらに、前記注入管に圧縮空気または水を供給するための圧縮空気供給装置または水供給装置を含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の土壌浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−296409(P2007−296409A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45182(P2006−45182)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【Fターム(参考)】