説明

土壌浄化方法及び振動付加装置

【課題】土壌からの汚染物質の排出を促進し、安価で、機動性に優れ、簡便に使用することが可能な土壌浄化方法及び振動付加装置を提供すること。
【解決手段】汚染された土壌を浄化する土壌浄化方法と土壌浄化方法で用いる振動付加装置。土壌浄化方法は、汚染地域に掘削され、内部に配置して井戸を形成する補強部材を介して土壌に振動を付加する工程と、付加した振動により土壌中の汚染物質を水と共に土粒子間から排出し、井戸内の不透水層上面に浸出した汚染物質を含む地下水を回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、土壌浄化方法及びこの浄化方法で用いる振動付加装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、汚染された土壌を浄化する土壌浄化方法として、例えば、揮発性有機塩素化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)で汚染された土壌に井戸を掘削し、井戸内に浸出したVOCを含む地下水を汲み上げて汚染物質処理装置で処理する地下汚染物質の除去方法及び除去装置に係る発明が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、井戸縦穴内に負圧を発生し、地下水面よりも下で井戸縦穴へ新鮮空気を供給することによって揮発し易い汚染物質を地下水から除去するものとして、井戸縦穴の周辺に設けた振動発生機により地層に分子液体運動を誘発する装置に係る発明が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−10130号公報(第7−8頁、図1,2)
【特許文献2】
特公平6−98346号公報(第2頁、図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、れきや砂等の土壌の場合、地下水の浸出速度は30リットル/分程度であるので、特許文献1の土壌浄化方法は有効な手段と言える。しかし、汚染地域の土壌が関東ローム層や粘土等の粘性土層の場合には、浸出速度が極端に遅くなり、れき等と同じ量の地下水が浸出するのに数年を要するという問題がある。この場合、汚染地域の土壌をそっくり掘削して回収したり、あるいは汚染地域の土壌全体に化学薬品を混入し、化学反応によって無害化する手段もある。しかしながら、これらの手段は多大な手間と労力を要することから、汚染地域当たり数10億円単位の莫大な処理費用がかかるという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2の装置においては、井戸縦穴内に負圧を発生するため、蓋で井戸縦穴の上部を閉鎖すると共に、井戸縦穴内の空気を外部へ排出する通風機を設け、地下水面の下へ新鮮空気を供給する空気導管を配管しなければならず、装置構成が複雑となって機動性に欠けると共に、簡便な使用が難しいという問題があった。
【0006】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、土壌からの汚染物質の排出を促進し、安価で、機動性に優れ、簡便に使用することが可能な土壌浄化方法及び振動付加装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明に係る土壌浄化方法は、汚染された土壌を浄化する土壌浄化方法であって、汚染地域に掘削され、内部に配置して井戸を形成する補強部材を介して土壌に振動を付加する工程と、付加した振動により土壌中の汚染物質を水と共に土粒子間から排出し、前記井戸内の不透水層上面に浸出した汚染物質を含む地下水を回収する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明によれば、土壌に振動を付加することで、地震時と同じ液状化現象を引き起こし、土粒子間に存在する軽い水等を汚染物質と共に土粒子間から排出させ、不透水層の上面に浸出してきた汚染物質を含む地下水を回収することで、汚染土壌を浄化している。
【0009】
また、請求項2の発明に係る土壌浄化方法は、上記の発明において、前記補強部材は、多数の孔を有する開孔管であることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明によれば、開孔管によって汚染物質を含む地下水が井戸に効率よく集まるようにしている。
【0011】
また、請求項3の発明に係る土壌浄化方法は、上記の発明において、前記開孔管は、前記井戸の壁との間に隙間があるときには、前記土壌と同一の振動特性を有する充填材が充填されることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明によれば、鉛直穴の井戸における土壌への振動の伝達効率を向上するようにしている。
【0013】
また、請求項4の発明に係る土壌浄化方法は、上記の発明において、前記井戸の振動影響範囲内に、補助井戸が掘削されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明によれば、補助井戸によって振動を付加した前記井戸における汚染物質を含む地下水の浸出を促進している。
【0015】
また、請求項5の発明に係る土壌浄化方法は、上記の発明において、高周波振動と低周波振動とを交互に繰り返すことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明によれば、振動を付加する効果を一層高めるようにしている。
【0017】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項6の発明に係る振動付加装置は、掘削穴内に補強部材を設けてなる井戸の内部に配置し、前記補強部材を介して土壌に振動を付加する振動付加装置であって、振動体に連結した連結部材に回動自在に取り付けられる振動伝達部材と、前記振動伝達部材の挿通を案内し、挿通方向先端に、前記振動伝達部材の回動を案内する案内部と、前記振動伝達部材の回動を許容する開口部とを有する案内部材とを備え、前記案内部によって回動した前記振動伝達部材が前記開口部から突出し、前記井戸の内面に当接することを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明によれば、案内部材に挿通して井戸内の所定位置に配置した振動伝達部材が、振動体の発する振動を井戸に付加している。
【0019】
また、請求項7の発明に係る振動付加装置は、上記の発明において、前記振動伝達部材は、一方に半球状の第1当接部が、他方に半円板状の第2当接部が、それぞれ形成され、前記第1当接部と第2当接部との間に設けられる回動中心が、前記第1当接部と第2当接部とを結ぶ中心線に対して偏倚していることを特徴とする。
【0020】
請求項7の発明によれば、第1当接部が案内部に当接したときの振動伝達部材の回動を円滑にしている。
【0021】
また、請求項8の発明に係る振動付加装置は、上記の発明において、前記案内部は、中央に配置される稜線の両側が平面あるいは曲面からなる傾斜面に成形されていることを特徴とする。
【0022】
請求項8の発明によれば、振動伝達部材の自重と案内部の傾斜面を利用して振動伝達部材を回動するようにしている。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して、この発明に係る土壌浄化方法及び振動付加装置の好適な実施の形態について説明する。
【0024】
(実施の形態1)
まず、この発明の土壌浄化方法及び振動付加装置に係る実施の形態1について説明する。図1は、この発明の実施の形態1である土壌浄化方法を示す断面図である。図1において、汚染地域に鉛直に掘削した井戸1は、直径10cm前後の小口径井戸で、内部には多数の孔2aを有するストレーナ管2が不透水層5まで埋設されている。汚染地域は、粘性土等からなる不透水層5の上に砂やシルト等の帯水層6及びローム層等の不飽和層7が堆積し、不飽和層7内に揮発性有機塩素化合物VOCによる汚染領域Apoが存在している。
【0025】
このとき、不飽和層7にストレーナ管2を介して振動を付加すると、地震時と同じ液状化現象が惹起され、図1に矢印で示すように、土粒子間に存在する軽い水等が土粒子間から排出される。このため、汚染領域Apoに存在するVOCが水と共に土粒子間から排出され、ストレーナ管2の多数の孔2aを通って井戸1内の不透水層5の上面に浸出してくる。この発明は、振動によって不透水層5の上面に浸出してきた汚染物質を含む地下水を吸引ホース9によって回収することで、汚染土壌を浄化するものである。回収した汚染物質を含む地下水は、浄化装置へ移送して浄化される。従って、実施の形態1にかかる土壌浄化方法は、土壌に振動を付加することで汚染物質の土壌からの排出を促進し、不透水層5の上面に浸出してきた汚染物質を含む地下水を回収すればよいので、安価で、機動性に優れ、簡便に使用することができる。また、井戸1は、振動によって排出された汚染物質を含む地下水が浸出すれば、内部に配置する補強部材は必ずしもストレーナ管2である必要はない。
【0026】
ここで、一般に、地層は水平に堆積していることが多い。このため、井戸1は、鉛直穴の場合が多いが、地層と平行に形成する場合には水平穴とし、地層が傾斜している等、場合によっては傾斜穴とする場合もある。但し、水平穴の場合、ストレーナ管2は、土壌の重量によって土壌と密着する。しかし、図1に示す井戸1のように、鉛直穴の場合や、傾斜穴の場合には、ストレーナ管2と土壌とが全体に亘って密着しない場合もある。このようにストレーナ管2と土壌との間に隙間がある場合、ストレーナ管2から振動の土壌への伝達効率が低下したり、振動が伝達できなくなったりする。このため、井戸1は、隙間がある場合には、ストレーナ管2と土壌との間に土壌と同一の振動特性を有する珪砂等を充填することが望ましい。
【0027】
また、井戸1は、図2乃至図8に示すように、地表における汚染源Spoの面積が大きく、地中の汚染領域Apoが広範囲に亘る場合には、複数設けると共に、各井戸1の周囲に一定間隔で補助井戸3を設ける。補助井戸3は、井戸1の点線で示す振動影響範囲Avr内に設ける。ここで、図2は、汚染領域が広範囲に亘る場合における井戸の配置の一例を示す平面図である。また、図3,5,7は、図2のC1−C1線に沿った断面図である。図4,6,8は、図2のC2−C2線に沿った断面図である。
【0028】
このとき、図3及び図4に示すように、各井戸1において、ストレーナ管2を介して土壌に振動を付加すると、対応する振動影響範囲Avr内の土粒子間から振動によって排出された汚染水が、井戸1や補助井戸3に白抜きの矢印で示すように集まってくる。このため、井戸1及び補助井戸3は、浸出した汚染物質を含む地下水を揚水ポンプPによって揚水し、浄化するための揚水井戸として利用することができる。また、図5及び図6に示すように、井戸1は、ストレーナ管2を介して土壌に振動を付加すると共に、浸出した汚染物質を含む地下水を揚水ポンプPによって揚水する揚水井戸として利用し、補助井戸3は、土壌からの汚染物質の排出を促進する水や薬液を注入する注入井戸として利用してもよい。さらに、図7及び図8に示すように、井戸1は、ストレーナ管2を介して土壌に振動を付加すると共に、上述の水や薬液を注入する注入井戸として利用し、補助井戸3は、振動によって浸出した汚染物質を含む地下水を揚水ポンプPによって揚水し、浄化するための揚水井戸として利用してもよい。
【0029】
ここで、土壌に付加する振動は、土壌が硬い場合は高周波数、柔らかい場合は低周波数とする。但し、地層は平面的にも鉛直的にも、硬質あるいは軟質の土壌が混在するため、加える振動は高周波と低周波を交互に繰り返す等、適宜組み合わせることが好ましい。一方、振動を付加する位置(深さ)は、井戸1を掘削するボーリングの際に得られる土壌サンプルに基づいて決める。
【0030】
次に、この振動を付加するための振動付加装置10は、井戸1を構成するストレーナ管2内に配置され、図9に示すように、振動伝達部材11と案内部材15とを備えている。
【0031】
振動伝達部材11は、連結部材12を介して図10に示すバイブレータ13と連結され、バイブレータ13が発生した振動をストレーナ管2を介して土壌に付加する。振動伝達部材11は、連結部材12に回動自在に取り付けられ、図9及び図11に示すように、一方に半球状の第1当接部11aが、他方に半円板状の第2当接部11bが、それぞれ形成され、第1当接部11aと第2当接部11bとの間にピン孔11cが設けられている。ピン孔11cは、振動伝達部材11の長手方向の中央に設けられているが、中心である回動中心Cは、第1当接部11aと第2当接部11bとを結ぶ中心線Lcに対して僅かに偏倚して形成されている。
【0032】
連結部材12は、図9及び図12に示すように、一方にバイブレータ13の端部と嵌合される嵌合部12aが、他方に振動伝達部材11を連結する連結部12bが、それぞれ設けられ、連結部12bにはピン孔11cと対応する位置にピン孔12cが設けられている。連結部材12は、ピン孔11c,12cを利用してピン12d(図14参照)によって振動伝達部材11が回動自在に取り付けられる。このとき、振動伝達部材11は、回動中心Cが僅かに偏倚してはいるが、自重によって長手方向が連結部材12の長手方向と略一致して連結部材12に支持される。
【0033】
バイブレータ13は、図10に示すように、偏心モータを内蔵した振動部13aがホース13bを介して外部コード13cと接続され、外部コード13cの端部には、インバータと接続するコネクタ13dが設けられている。ここで、バイブレータ13は、前述のように土壌に対して高周波及び低周波の双方の周波数の振動を付加できるものが好ましいが、本発明ではエクセン株式会社製のインナバイブレータHC111(RC)(周波数240Hz),HC230(周波数100〜240Hz)を用いた。
【0034】
案内部材15は、ストレーナ管2内に配置して振動伝達部材11の挿通を案内するパイプで、図9及び図13に示すように、挿通方向先端に、振動伝達部材11の回動を案内する案内部15aと、振動伝達部材11の回動を許容する開口部15bとを有し、先端側は補強板15cで補強されている。案内部材15は、案内部15aと開口部15bとを有する先端側以外は、通常のパイプを連結して使用してもよい。案内部15aは、円板状の板を稜線となる直径上で折り曲げ、図13(a)に示すように、僅かな角度θだけ水平面に対して下方へ傾斜している。開口部15bは、第1当接部11a及び第2当接部11bを突出させ、振動伝達部材11の連結部材12に対する回動を許容する。ここで、案内部15aは、中央に配置され、稜線となる直径の両側が曲面からなる傾斜面に成形されていてもよい。
【0035】
以上のように構成される振動付加装置10は、以下のようにして井戸1におけるストレーナ管2の所望位置に設置される。
【0036】
先ず、案内部15aが予め設定した深さの位置となるように、井戸1内に案内部材15を挿入し、位置決め後、三脚等の固定具を利用して固定する。つぎに、井戸1から延出した案内部材15に、バイブレータ13の外部コード13cを持って連結部材12を介してバイブレータ13と連結された振動伝達部材11を挿入する。
【0037】
そして、振動伝達部材11が案内部15aに到達し、半球状の第1当接部11aが案内部15aに当接すると、第1当接部11aが自重によって案内部15aの傾斜面に案内されて移動するのに伴い、図14に示すようにピン12dを中心として回動する。このとき、振動伝達部材11は、回動中心Cが、第1当接部11aと第2当接部11bとを結ぶ中心線Lcに対して僅かに偏倚しているため、円滑に回動する。
【0038】
このようにして、案内部15aに当接した振動伝達部材11が自重によって回動する結果、図15に示すように、第1当接部11aと第2当接部11bがストレーナ管2の内壁に当接し、予め設定した深さの位置に振動伝達部材11がセットされる。この状態で、バイブレータ13のスイッチをオンすれば、バイブレータ13が発生した振動が土壌に付加され、汚染物質の土壌からの排出が促進される。
【0039】
一方、振動付加装置10は、バイブレータ13の外部コード13cを引き上げると、振動伝達部材11が逆方向に回動して第1当接部11aと第2当接部11bがストレーナ管2の内壁から外れ、振動伝達部材11のセットが解除される。そして、そのまま外部コード13cを引き上げれば、振動伝達部材11がバイブレータ13と共に、案内部材15から引き出される。そして、案内部材15を井戸1から引き抜き、井戸1に挿入した吸引ホース9によって地下水を回収する。また、引き出した振動付加装置10は、再び他の井戸に簡単にセットすることができる。従って、振動付加装置10は、井戸への取り付けや取り外しが簡単で、非常に機動性に優れている。なお、振動付加装置10は、井戸1が水平穴あるいは傾斜穴の場合であっても、ストレーナ管2内の所望の位置にセットして土壌に振動を付加すれば、土壌中の土粒子間から汚染物質を含む地下水を排出させることができる。
【0040】
ここで、汚染地域に掘削した井戸1において、振動付加装置10を用いて土壌に振動を付加し、不透水層5の上面に浸出してきたVOCを含む地下水を採取し、その濃度変化を調べる試験を6日間に亘って行った。このとき、井戸1は、深さが8.0mで、地下水を採取した深さは7.0m、振動を付加した深さは5.64mであった。また、振動は、2時間に亘って周波数100Hzの振動と周波数240Hzの振動を10分間隔で交互に付加した。VOCとしては、1,1−ジクロロエチレン(1,1−DCE),トランス−1,2−ジクロロエチレン(t−DCE),シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE),1,1,1トリクロロエタン(MC),トリクロロエチレン(TCE)及びテトラクロロエチレン(PCE)の6種類について濃度(mg/L)を測定した。その結果を、時間を分単位に換算して表1に示す。
【0041】
【表1】



表1に示す結果から、井戸1に振動を付加することにより、1,1−DCE,t−DCE,c−DCE及びTCEについては、地下水への浸出が促進されていることが分かった。従って、この汚染地下水を回収すれば、汚染土壌を浄化することができる。但し、振動による汚染物質の地下水への浸出効果は、物質毎に異なっていることが分かった。この場合、1,1−DCE,t−DCE,c−DCE及びTCEは、振動を付加することによって、振動停止後、時間経過に伴って地下水中へ浸出する量が増加している。特に、TCEは、振動を付加している間の濃度が減少しているが、気化によって地下水中の濃度が低下しているものと思われ、振動終了後の1403分における約4倍という顕著な濃度増加がこの推測を裏付けている。一方、MCとPCEは、対象汚染地域では検出されないか(ND)、検出限界以下(Tr)であった。
【0042】
次に、異なる汚染地域において、井戸1と井戸1の近傍に設けた補助井戸3の双方においてVOCの濃度変化を調べると共に、振動付加の影響の有無を明確に確認するため、振動開始の1日以上前から濃度を測定した。ここで、井戸1及び補助井戸3は、深さ8.0m、地下水の採取深さは7.0m、振動を付加した深さは5.70mであった。その結果を、表1と同様にして表2に示す。
【0043】
【表2】



表2に示す振動付加の前後におけるVOCの濃度変化から明らかなように、振動付加による汚染物質の地下水への浸出促進効果が認められた。但し、表2に示す結果に基づき、井戸1と補助井戸3のそれぞれにおける、c−DCEとTCEの測定濃度に関する経時変化をプロットした図16(a),(b)に示すように、c−DCEは、振動の付加による濃度変化は井戸1では見られたが、補助井戸3では殆ど見られなかった。一方、TCEは、井戸1では振動を付加することにより、地下水への浸出量が12倍まで増加し、浸出効果が認められた。これに対し、補助井戸3では、元々の存在量が多かったものの、1072分以降に振動を付加することによる増加が認められた。
【0044】
(実施の形態2)
次に、この発明の振動付加装置に係る実施の形態2について説明する。図17は、この発明の実施の形態2である振動付加装置20を示す。この発明の実施の形態1である振動付加装置10は、直径10cm前後の小口径井戸で使用するものであったのに対し、実施の形態2の振動付加装置20は、直径30cm前後の大口径井戸で使用するものである。
【0045】
振動付加装置20は、図17及び図18に示すように、直径30cm前後のストレーナ管4内に配置され、鉛直方向に配置される3つの振動付加装置10が、開口21aを有するリング状の支持板21によって周方向に等間隔に支持されると共に、防振ゴム22aを有する3つのダンパ22により互いに振動から遮断されている。各ダンパ22は、図18に示すように、防振ゴム22bを介して支持板21に支持されている。ここで、振動付加装置10は、案内部材15の案内部15dが、案内部15aと異なり、円板状の板を折り曲げることなく、僅かな角度だけ半径方向外方へ傾斜させて先端に設けられている。
【0046】
振動付加装置20は、振動付加装置10と同様にしてストレーナ管4内の予め設定した深さの位置に配置し、各振動付加装置10の案内部材15にバイブレータ13の振動伝達部材11を挿入する。そして、半球状の第1当接部11aが案内部15dに当接すると、各振動付加装置10においては、振動伝達部材11が案内部15dによって回動され、図17に示すように、第1当接部11aが半径方向外方へと突出する。これにより、振動付加装置20は、3つの第1当接部11aがストレーナ管4の内壁に当接し、3点でストレーナ管4に安定して支持される。従って、この状態で各振動付加装置10のバイブレータ13をオンすれば、バイブレータ13が発生した振動がストレーナ管4を介して土壌に付加され、汚染物質の土壌からの排出が促進される。このとき、振動付加装置20は、3つの振動付加装置10を高周波あるいは低周波、各振動付加装置10の周波数を互いに異ならせる等、適宜組み合わせて振動を付加する。
【0047】
振動付加装置20は、大口径のストレーナ管4に配置して土壌に振動を付加する。このため、振動付加装置10においては、地下水を回収する際に、小口径のストレーナ管4から引き抜いて、吸引ホース等を挿入しなければならなかったが、振動付加装置20においては、予めストレーナ管4にポンプを配置しておくことにより、振動の付加並びに汚染物質を含む地下水の回収を並行して行うことができる。このとき、ポンプの汲み上げる地下水を導く回収ホースは、支持板21の開口21aから井戸の外部へと引き出せばよい。
【0048】
なお、振動付加装置20は、各振動付加装置10においてバイブレータ13の外部コード13cを引き上げると、振動伝達部材11が逆方向に回動して第1当接部11aとストレーナ管4との当接が解除されるので、外部コード13cを案内部材15と共に引き上げれば、ストレーナ管4から引き出され、引き出した振動付加装置20を他の井戸のストレーナ管4に挿入すれば、再び簡単にセットすることができる。従って、振動付加装置20は、振動付加装置10と同様に井戸への取り付けや取り外しが簡単で、非常に機動性に優れている。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、土壌からの汚染物質の排出を促進し、安価で、機動性に優れ、簡便に使用することが可能な土壌浄化方法及び振動付加装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1である土壌浄化方法を示す断面図である。
【図2】汚染領域が広範囲に亘る場合における井戸の配置の一例を示す平面図である。
【図3】井戸及び補助井戸の用途を示す図2のC1−C1線に沿った断面図である。
【図4】井戸及び補助井戸の用途を示す図2のC2−C2線に沿った断面図である。
【図5】井戸及び補助井戸の他の用途を示す図2のC1−C1線に沿った断面図である。
【図6】井戸及び補助井戸の他の用途を示す図2のC2−C2線に沿った断面図である。
【図7】井戸及び補助井戸のさらに他の用途を示す図2のC1−C1線に沿った断面図である。
【図8】井戸及び補助井戸のさらに他の用途を示す図2のC2−C2線に沿った断面図である。
【図9】この発明の実施の形態1である小口径井戸用の振動付加装置を示す斜視図で、(a)は振動伝達部材11が回動する前の状態を、(b)は振動伝達部材11が回動した状態を、それぞれ示す図である。
【図10】振動付加装置の振動伝達部材に連結部材を介して連結されるバイブレータの概略構成を示す斜視図である。
【図11】振動付加装置の振動伝達部材を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図12】振動付加装置の連結部材を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図13】振動付加装置の案内部材を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図14】振動付加装置において、振動伝達部材が案内部材の案内部に当接し、自重によって回動する様子を示す正面図である。
【図15】回動した振動伝達部材が井戸に設けた開孔管の内面に当接する様子を示す断面正面図である。
【図16】汚染地域に掘削した井戸と補助井戸のそれぞれにおける振動付加の前と後における地下水中における汚染物質の濃度変化の一例を示す図である。
【図17】この発明の実施の形態2である大口径井戸用の振動付加装置を示す正面図である。
【図18】図17に示す振動付加装置を下方から見た底面図である。
【符号の説明】
1 井戸
2a 孔
2,4 ストレーナ管
3 補助井戸
5 不透水層
6 帯水層
7 不飽和層
9 吸引ホース
10 振動付加装置
11 振動伝達部材
11a 第1当接部
11b 第2当接部
11c ピン孔
12 連結部材
12a 嵌合部
12b 連結部
12c ピン孔
12d ピン
13 バイブレータ
13a 振動部
13b ホース
13c 外部コード
13d コネクタ
15 案内部材
15a,15d 案内部
15b 開口部
15c 補強板
20 振動付加装置
21 支持板
21a 開口
22a,22b 防振ゴム
22 ダンパ
Apo 汚染領域
Avr 振動影響範囲
C 回動中心
Lc 中心線
Spo 汚染源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された土壌を浄化する土壌浄化方法であって、
汚染地域に掘削され、内部に配置して井戸を形成する補強部材を介して土壌に振動を付加する工程と、
付加した振動により土壌中の汚染物質を水と共に土粒子間から排出し、前記井戸内の不透水層上面に浸出した汚染物質を含む地下水を回収する工程と
を含むことを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項2】
前記補強部材は、多数の孔を有する開孔管であることを特徴とする請求項1に記載の土壌浄化方法。
【請求項3】
前記開孔管は、前記井戸の壁との間に隙間があるときには、前記土壌と同一の振動特性を有する充填材が充填されることを特徴とする請求項2に記載の土壌浄化方法。
【請求項4】
前記井戸の振動影響範囲内に、補助井戸が掘削されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の土壌浄化方法。
【請求項5】
高周波振動と低周波振動とを交互に繰り返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の土壌浄化方法。
【請求項6】
掘削穴内に補強部材を設けてなる井戸の内部に配置し、前記補強部材を介して土壌に振動を付加する振動付加装置であって、
振動体に連結した連結部材に回動自在に取り付けられる振動伝達部材と、
前記振動伝達部材の挿通を案内し、挿通方向先端に、前記振動伝達部材の回動を案内する案内部と、前記振動伝達部材の回動を許容する開口部とを有する案内部材と
を備え、
前記案内部によって回動した前記振動伝達部材が前記開口部から突出し、前記井戸の内面に当接することを特徴とする振動付加装置。
【請求項7】
前記振動伝達部材は、一方に半球状の第1当接部が、他方に半円板状の第2当接部が、それぞれ形成され、前記第1当接部と第2当接部との間に設けられる回動中心が、前記第1当接部と第2当接部とを結ぶ中心線に対して偏倚していることを特徴とする請求項6に記載の振動付加装置。
【請求項8】
前記案内部は、中央に配置される稜線の両側が平面あるいは曲面からなる傾斜面に成形されていることを特徴とする請求項6または7に記載の振動付加装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2004−97912(P2004−97912A)
【公開日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−261919(P2002−261919)
【出願日】平成14年9月6日(2002.9.6)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】