説明

圧力センサ素子

【課題】圧力センサ素子を構成する水晶結晶内に双晶が生じた場合、そのような結晶により構成されている圧力センサ素子では、圧力感度,振動特性及び周波数温度特性等の諸特性が、双晶の生成により所望の特性値(双晶が結晶内に生じる前の特性値)から変化してしまい、センサ素子として不具合が生じる恐れがある。
【解決手段】水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度がφ、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転したときのZ軸とY′′軸とが成す方位角度がθであり、X′軸,Y′′軸及びZ′軸の各方向を各辺成分とする矩形状の水晶板から形成されている圧力センサ素子において、ギブスの自由エネルギー差ΔGが0又は正となるような方位角度φ及び方位角度θとして切り出された水晶板より形成されていることを特徴とする圧力センサ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力センサ素子に関し、特に高温高圧化においても特性が良好な圧力センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電素子に水晶を用いた圧力センサ素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような圧力センサ素子は、その素子表面(以下、「主面」という。)に圧力がかかると歪みが生じ、その歪みによって生じる電荷を検出することによって圧力を測定している。
【0003】
ここで、圧力センサ素子は、人工水晶又は天然水晶から切り出され、例えば、いわゆるATカットやXカットと呼ばれるカットアングルで切り出された水晶素板から形成されている。更に、圧力センサ素子に用いられるような短円柱状の水晶材等の表裏円状の主面上には、通常この水晶材を励振させたり、或いは振動している圧電材より信号を取り出たしたりするため電極膜が形成されており、この電極膜はワイヤボンディングや導電性接合材等で外部の電子回路網に電気的に接続されている。又、水晶からなる圧電素子を用いた圧力センサ素子を用いた場合、所定の温度環境下で、所定の圧力をかけた場合に素子結晶中に双晶が生じることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
尚、このような圧力センサ素子については、以下のような先行技術文献が公知となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−85237号公報
【特許文献2】特公平7−69273号公報(段落0002〜段落0006)
【0006】
なお、出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、圧力センサ素子を構成する水晶結晶内に双晶が生じた場合、そのような結晶により構成されている圧力センサ素子では、圧力センサ素子としての圧力感度,振動特性及び周波数温度特性等の諸特性が、双晶の生成により所望の特性値(双晶が結晶内に生じる前の特性値)から変化してしまい、センサ素子として不具合が生じる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、あらゆる環境下においても、素子を構成する結晶内に双晶を生じなくすることにより、諸特性が極めて安定した圧力センサ素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は成されたものであり、水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度がφ、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転したときのZ軸とY′′軸とが成す方位角度がθであり、X′軸,Y′′軸及びZ′軸の各方向を各辺成分とする矩形状の水晶板から形成されている圧力センサ素子において、
ギブスの自由エネルギー差ΔGの結晶方位依存性を求める次式
【数2】

でΔGが0又は正となるような方位角度φ及び方位角度θとして切り出された水晶板より形成されていることを特徴とする圧力センサ素子である。
【0010】
又、水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度が、28度以上30度以下,90度以上92度以下又は148度以上150度以下であり、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度が90度以上92度以下であり、回転したX′軸方向及びZ′軸方向のどちらかが長さ方向又は幅方向のうちの一辺となり、且つY′′軸方向が厚み方向となるように切り出した矩形状の水晶板から、この水晶板の厚み方向を素子の厚み方向とするように形成されていることを特徴とする圧力センサ素子である。
【0011】
更に、水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度が、30度以上32度以下,88度以上90度以下又は150度以上152度以下であり、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度が88度以上90度以下として回転した、X′軸方向及びZ′軸方向のどちらかが、長さ方向又は幅方向のうちの一辺となり且つY′′軸方向が厚み方向となるように切り出した矩形状の水晶板から、この水晶板の厚み方向を素子の厚み方向とするように形成されていることを特徴とする圧力センサ素子である。
【発明の効果】
【0012】
上記記載の本発明の圧力センサ素子によれば、上記数式によるΔGが0又は正となるような方位角度φ及びθで回転した回転結晶軸に各辺が沿った形態で水晶結晶体より切り出した矩形状の水晶板より形成された圧力センサ素子により、圧力センサ素子に所定の温度及び圧力がかかっても、素子結晶中に双晶を生じることが極めて少なく、因って諸特性が極めて安定した圧力センサ素子を提供することが可能となる効果を奏する。
【0013】
又、上記記載の本発明の圧力センサ素子によれば、上記数式によるΔGが0又は正となるような方位角度φ及びθのうち、特定の角度の組み合わせにおいて、圧力センサ素子の感度を比較的高くすることが可能となり、上記効果に加えて更に圧力感度が高い圧力センサ素子を提供することも可能となる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明における圧力センサ素子の外観を示した斜視図、及び素子の結晶軸方向を示す方位指標である。図2は図1に開示した圧力センサ素子を形成するための水晶板を示した斜視図、及び素子の結晶軸方向を示す方位指標である。図3は本発明における一水晶板の切り出す切断角度を説明する図である。
尚、各図において、本説明に必ずしも必要としない部品又は構造体は図示していない。又、各図を明確にするために一部部品又は構造体を誇張して図示してある。
【実施例】
【0015】
図1に示す圧力センサ素子10において、圧力センサ素子10は外形形状が短円柱形状の水晶基体11の表裏円形状の両主面の全面に電極膜12がそれぞれ形成されている。この水晶基体11は、同図に記載の方位指標に表した結晶軸方向に示したように、表裏両主面の法線方向を、水晶結晶軸の電気軸であるX軸から後述する所定の角度で1回回転させたX′軸とし、水晶基体11の側面方向を、水晶結晶軸の機械軸であるY軸から後述する所定の角度で2回回転させたY′′軸、及び水晶結晶軸の光軸であるZ軸から角度αで1回回転させたZ′軸となるように形成されている。通常、外部からの圧力は短円柱状の表裏両主面に作用するように圧力センサを形成するので、圧力センサ素子10としては各結晶軸のうち最も圧力に対する感度が高いX(X′)軸方向に主面が形成されるようにする。
【0016】
この水晶基体11を形成する水晶板22の結晶軸方位を、図3を用いて説明する。水晶結晶体(図示なし)の各結晶軸のうち、光軸であるZ軸を基軸として反時計回りに電気軸であるX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度をφ、このX′軸を基軸として時計回りにZ軸が角度α回転したときのZ軸と機械軸であるY軸が2回回転したY′′軸とが成す方位角度をθとする。尚、図3に図示した水晶板は回転角度を明りょうにするために図示したものであり、実際に切り出す水晶板は図2に示したような方位形態の水晶板22である。
【0017】
このとき、本発明の要旨である水晶基体11を構成する結晶内に双晶を生じることが極めて少ない水晶基体11を得るために、次式の
【数3】

におけるギブスの自由エネルギー差ΔGが、0又は正となるような方位角度φ及びθで回転した角度で切り出した水晶板21より水晶基体11を形成する。
【0018】
但し、水晶基体11の表裏主面の法線方向がX軸方向から大きく回転してずれてしまうと、水晶基体11の表裏主面による圧力の感度が低くなってしまうので、できるだけX軸方向近傍に水晶基体11の主面法線方向を設定することが望ましい、本実施例においては、前述した各条件を満たす方位角度のうち、方位角度φが28度以上30度以下,90度以上92度以下又は148度以上150度以下の場合に、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度θを90度以上92度以下とする場合、及び方位角度φが30度以上32度以下,88度以上90度以下又は150度以上152度以下の場合に、このX′軸を基軸として反時計回りにZ軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度θを88度以上90度以下とする条件で切り出した水晶板21を用いる。上記各方位角で作成した水晶板21から、水晶板21の厚み方向を水晶基体11の厚み方向として短円柱形状の水晶基体11を形成した場合に、上記数式を充たす他の方位角で形成した場合に比べて、圧力に対する感度を高くすることができる。
【0019】
上記の方位角度で切り出した水晶板21から図2のように、複数個の短円柱状の水晶基体11を形成し、個片化した水晶基体11の表裏円形状主面に電極膜12を形成し圧力センサ素子を成し、この素子をセンサパッケージ等に設置して圧力センサとして用いる。
【0020】
尚、本実施例では水晶基体11の形状を短円柱形状としたが、本発明は水晶基体11の形状をこれに限定するものではなく、他に短角柱形状や短円筒形状(主面形状がリング形状)のものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明における圧力センサ素子の外観を示した斜視図、及び素子の結晶軸方向を示す方位指標である。
【図2】図2は図1に開示した圧力センサ素子を形成するための水晶板を示した斜視図、及び水晶板の結晶軸方向を示す方位指標である。
【図3】図3は本発明における一水晶板の切り出す切断角度を説明する図である。
【符号の説明】
【0022】
10・・・圧力センサ素子
11・・・水晶基体
12・・・電極膜
21・・・水晶板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度がφ、該X′軸を基軸として反時計回りに該Z軸が角度α回転したときのZ軸と2回回転したY′′軸とが成す方位角度がθであり、X′軸,Y′′軸及びZ′軸の各方向を各辺成分とする矩形状の水晶板から形成されている圧力センサ素子において、
ギブスの自由エネルギー差ΔGの結晶方位依存性を求める次式
【数1】

でΔGが0又は正となるような該方位角度φ及び該方位角度θとして切り出された水晶板より形成されていることを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項2】
水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度が、28度以上30度以下,90度以上92度以下又は148度以上150度以下であり、該X′軸を基軸として反時計回りに該Z軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度が90度以上92度以下であり、回転したX′軸方向及びZ′軸方向のどちらかが長さ方向又は幅方向のうちの一辺となり、且つY′′軸方向が厚み方向となるように切り出した矩形状の水晶板から、該水晶板の厚み方向を素子の厚み方向とするように形成されていることを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項3】
水晶結晶体の各結晶軸のうち、Z軸を基軸として反時計回りにX軸が回転したX′軸とX軸とが成す方位角度が、30度以上32度以下,88度以上90度以下又は150度以上152度以下であり、該X′軸を基軸として反時計回りに該Z軸が角度α回転した時のZ軸とY′′軸とが成す方位角度が88度以上90度以下であり、回転したX′軸方向及びZ′軸方向のどちらかが長さ方向又は幅方向のうちの一辺となり、且つY′′軸方向が厚み方向となるように切り出した矩形状の水晶板から、該水晶板の厚み方向を素子の厚み方向とするように形成されていることを特徴とする圧力センサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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