説明

圧力容器

【課題】繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えた圧力容器において、当該金属製ライナが座屈することを抑制ないし防止し得る構造を有する圧力容器を提供すること。
【解決手段】繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備え、金属製ライナは、シリンダ部と、シリンダ部の肉厚よりも厚い肉厚を有するドーム部と、シリンダ部とドーム部との間に設けた肉厚変化部を有し、シリンダ部と肉厚変化部との境界線が波形状を成している圧力容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器に係り、更に詳細には、繊維強化プラスチック層と金属製ライナを備えた圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の圧力容器の一部の断面形状を示す概略図である。同図に示す圧力容器100は、例えばヘリウムなどの気体を貯蔵するものであって、外側の繊維強化プラスチック(例えばカーボン繊維強化プラスチック)層120で強度を確保し、内側の金属(例えばアルミニウム合金)製ライナ110で気密性を得るようになっている。
【0003】
図4(a)は、従来の圧力容器の金属製ライナ110を展開した平面形状を示す概略図であり、また、同図(b)は同図(a)のZ−Zにおける断面形状を示す概略図である。
同図(a)に示すように、金属製ライナ110は肉厚が薄いシリンダ部112と、肉厚が厚いドーム部116と、シリンダ部112とドーム部116との間に設けた肉厚変化部114とを有している。また、シリンダ部112及びドーム部116のそれぞれと肉厚変化部114との境界線B,Bは圧力容器の周方向に全周に亘って直線状を成している。 なお、ドーム部116は、繊維強化プラスチックを厚くすることが成形上困難である等の理由により、一般的に強度を確保するために肉厚が厚くなっている(特許文献1〜4参照。)。
【特許文献1】特開平9−292026号公報
【特許文献2】特開平11−104762号公報
【特許文献3】特開2000−202552号公報
【特許文献4】特開2002−106787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような圧力容器100は、ガス充填による加圧(例えば28MPa程度)で膨張し、ガス放出に伴って収縮する。
このとき、金属製ライナ110は、膨張には良好に追従するものの、外側の繊維強化プラスチック層120に比べて収縮量が少ないため、全体が収縮した際に、圧力容器100の軸方向の圧縮力を受けることになる。
これにより、金属製ライナ110のシリンダ部112及びドーム部116と肉厚変化部114との境界線B,Bないしその近傍に応力が集中し、図5に示すように、特に肉厚が薄いシリンダ部112と肉厚変化部114との境界線Bないしその近傍において全周に亘って座屈が生じるおそれがあることが分かった。
なお、図5中の矢印Pは圧縮力の方向を示す。
【0005】
本発明は、このような技術知見に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えた圧力容器において、当該金属製ライナが座屈することを抑制ないし防止し得る構造を有する圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えた圧力容器において、シリンダ部と、シリンダ部の肉厚よりも厚い肉厚を有するドーム部と、シリンダ部とドーム部との間に設けた肉厚変化部を有し、シリンダ部と肉厚変化部との境界線が波形状を成している金属製ライナとすることなどにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の圧力容器は、繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えたものである。
そして、かかる金属製ライナは、シリンダ部と、シリンダ部の肉厚よりも厚い肉厚を有するドーム部と、シリンダ部とドーム部との間に設けた肉厚変化部を有し、シリンダ部と肉厚変化部との境界線が波形状を成しているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維強化プラスチックの内側に金属製ライナを備えた圧力容器において、当該圧力容器の膨張収縮により、内側の金属製ライナに軸方向の圧縮力が加わったとしても、当該金属製ライナが座屈することを抑制ないし防止し得る構造を有する圧力容器を提供することができる。また、金属製ライナ自体の厚みを増すことなく座屈を抑制ないし防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の圧力容器について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の圧力容器は、繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備え、金属製ライナは、シリンダ部と、シリンダ部の肉厚よりも厚い肉厚を有するドーム部と、シリンダ部とドーム部との間に設けた肉厚変化部を有し、シリンダ部と肉厚変化部との境界線が波形状を成しているものである。
なお、本発明においては、ドーム部と肉厚変化部との境界線を更に波形状を成すようにしてもよい。
【0010】
上述したような構造とすることにより、圧力容器の軸方向の圧縮力を受けた際、応力集中が生じ易い境界線ないしその近傍において、圧縮荷重が金属製ライナの境界線の接線方向に分散されるため、金属製ライナの座屈を抑制ないし防止することができる。また、金属製ライナ自体の厚みを増すことなく座屈を抑制ないし防止することができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の圧力容器について、若干の実施例を図面に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0012】
(実施例1)
図1(a)は、実施例1に係る圧力容器の金属製ライナ(ドーム部の主要部を除く)を展開した平面形状を示す概略図であり、また、同図(b)は同図(a)のX−Xにおける断面形状を示す概略図であり、同図(c)は同図(a)のX−Xにおける断面形状を示す概略図である。
本例の金属製ライナ10は、アルミニウム合金製であって、肉厚が薄いシリンダ部12と、肉厚が厚いドーム部の一部であるドーム端形成部16と、シリンダ部12及びドーム端形成部16の間に設けた肉厚変化部14とを有する。
そして、金属製ライナ10の内面において、シリンダ部12の内面と肉厚変化部14の内面との境界線Bが波形状を成している(Bは直線状である。)。
【0013】
境界線を波形状とする際には、圧力容器の軸方向及び径方向の圧縮力に対する強度性能向上の観点から、波形状の周期に対して振幅を大きくする方が効果的であるが、加工上の観点から現実的な形状が取られる。また、波形状は正弦波のような滑らかな形状である必要はなく、矩形であってもよい。
【0014】
金属製ライナ10をロール加工し、波形状を成す境界線Bが連続する状態にして金属製ライナ10の両辺を溶接で接合し、その開放端部に別途成形したドーム状金属製ライナ(図示略)を接合して、シリンダ部12、ドーム端形成部16を含むドーム部及び肉厚変化部14を有する形態を形成する。
金属製ライナ10の外側面に、例えばフィラメントワインディング法に基づいてプリフォームを形成し、このプリフォームを硬化処理して繊維強化プラスチック(例えばカーボン繊維強化プラスチック)層とする。
これにより、繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えた圧力容器(図3参照)が完成する。なお、圧力容器の製造方法は、上記方法に限られるものではない。
【0015】
上記構成を備えた圧力容器は、ガスの充填・放出に伴って膨張・収縮することとなり、このとき、外側の繊維強化プラスチック層に比べて内側の金属製ライナの収縮量が少なく、金属製ライナに圧力容器の軸方向の圧縮力が加わることになるが、肉厚変化部の境界線Bが周方向に波形状を成すようにすることによって、応力集中が生じ易い境界線ないしその近傍において、圧縮荷重が金属製ライナの境界線の接線方向に分散されるため、金属製ライナが座屈することを抑制ないし防止することが可能となった。
【0016】
(実施例2)
図2(a)は、実施例2に係る圧力容器の金属製ライナ(ドーム部の主要部を除く)を展開した平面形状を示す概略図であり、また、同図(b)は同図(a)のY−Yにおける断面形状を示す概略図であり、同図(c)は同図(a)のY−Yにおける断面形状を示す概略図である。
本例の金属製ライナ10は、アルミニウム合金製であって、肉厚が薄いシリンダ部12と、肉厚が厚いドーム部の一部であるドーム端形成部16と、シリンダ部12及びドーム端形成部16の間に設けた肉厚変化部14とを有する。
そして、金属製ライナ10の内面において、シリンダ部12及びドーム端形成部16の内面と肉厚変化部14の内面とのそれぞれの境界線B及びBがともに波形状を成している。
【0017】
そして、波形状を成す境界線B及びBが連続する状態にして金属製ライナ10の両辺を溶接で接合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより、シリンダ部12、ドーム端形成部16を含むドーム部及び肉厚変化部14を有する形態を形成する。
【0018】
本例においては、同図に示すように、肉厚変化部の境界線B及びBが周方向に波形状を成すようにすることによって、境界線Bによって境界線Bと同様の作用効果が得られるため、金属製ライナが座屈することをより一層抑制ないし防止することができる。
【0019】
なお、図示しないが、当該金属製ライナにおいてシリンダ部及びドーム部の一方又は双方と肉厚変化部とが、滑らかな曲面により連結されている場合も本発明の範囲に含まれる。
この場合、境界線自体はなくなるが、シリンダ部及びドーム部と肉厚変化部とが連結する部分において、任意の肉厚となる部分を境界線と解釈することができる。
また、境界線B及びBは同位相であっても、同位相でなくてもよい。
更に、上記実施例では、金属製ライナの内面側に境界線を設けた場合を示したが、境界線は金属製ライナの外面側又は両面側にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係る圧力容器の金属製ライナ(ドーム部の主要部を除く)を展開した平面形状を示す概略図及びその断面形状を示す概略図である。
【図2】実施例2に係る圧力容器の金属製ライナ(ドーム部の主要部を除く)を展開した平面形状を示す概略図及びその断面形状を示す概略図である。
【図3】従来の圧力容器の一部の断面形状を示す概略図である。
【図4】従来の圧力容器の金属製ライナ(ドーム部の主要部を除く)を展開した平面形状を示す概略図及びその断面形状を示す概略図である。
【図5】従来の圧力容器の金属製ライナの座屈の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
,B,B 境界線(波形状)
10 金属製ライナ
12 シリンダ部
14 肉厚変化部
16 ドーム端形成部(ドーム部)
100 圧力容器
110 金属製ライナ
112 シリンダ部
114 肉厚変化部
116 ドーム部
120 繊維強化プラスチック層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック層の内側に金属製ライナを備えた圧力容器において、
金属製ライナは、シリンダ部と、シリンダ部の肉厚よりも大きい肉厚を有するドーム部と、シリンダ部とドーム部との間に設けた肉厚変化部を有し、
シリンダ部と肉厚変化部との境界線が波形状を成していることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
ドーム部と肉厚変化部との境界線が波形状を成していることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−336839(P2006−336839A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165963(P2005−165963)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)
【Fターム(参考)】