説明

圧力強化抽出及び精製方法

【課題】生物学的物質の細胞溶解、精製を効果的に行う。
【解決手段】生物学的物質の細胞溶解および生成の方法であって、サンプルを高圧にすることを含む。さらに、この方法を実施する装置に特徴がある。少なくとも2つの電極20,30,70,80を含み、圧力チャンバ内に位置する相と接触する導電性の流体を収容し、前記電極を接続する導管40,60,75,90を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、1998年1月30日に出願された米国特許出願第09/016,062号の一部継続出願であり、この米国特許出願第09/016,062号は、1997年10月31日に出願された米国特許出願第08/962,280号の一部継続出願である。これらの両方の出願の全体を、ここに参照のために編入する。
【0002】
本発明は、混合物から化合物を単離し精製する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞溶解物や合成調製品などの混合物から生体分子を分離する方法の多くは、固体相によって満たされたカラムにサンプルを装填する方法に基づく。
【0004】
例えば核酸の場合固体相は、アニオン交換媒体又は樹脂を含むことができる。核酸の負の電荷を帯びたアニオンの燐酸バックボーンは、樹脂に結合することができ、それにより樹脂によって効果的に固定される。樹脂は、低塩溶液(例えば0.2Mの塩化ナトリウム)によって洗浄することができ、この低塩溶液は、核酸分子の固体相への結合を阻害することなく、元の混合物の中立(ニュートラル)成分、カチオン成分、及び電荷が少ないアニオン成分を洗い流す。
【0005】
次に、高塩緩衝液(例えば1Mの塩化ナトリウムを含む緩衝液)が使われ固体相から核酸分子を溶離する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高い塩濃度は、実験室や診療所などで例えば、診断学や法科学やゲノム分析などに通常使われる、質量分光や電気泳動や多くの下流での酵素による処理などと干渉する場合がある。したがって多くの場合、塩の少なくとも一部を核酸から除去する必要があり、この処理は追加の、しばしば時間のかかるステップによって行われる。脱塩は数々の方法の一つを用いて実行することができ、例えば、エタノール沈殿や透析及びガラス又はシリカビーズ又は樹脂からの精製などによって実行することができる。場合によっては、ヌクレアーゼ抑制剤を洗浄液及び緩衝液に足し、核酸の減成(デグラデーション:degradation)を防止する必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高圧重の静水圧が、周辺圧力での隔壁に比べて、生体分子の隔壁を特定の吸着相及び溶媒和相の間に可逆的に変化させるという発見に基づく。ここに記載される新方法及び装置は、この発見を使い、法科学(フォレンシック:forensic)サンプルや、血液又はその他の体液、及び培養された細胞などを含む広い分野のサンプルの種類から、非常に選択的にまた効率的に核酸を低塩単離及び精製する。
【0008】
一つの実施形態では、本発明は圧力調節装置を提供する。この装置は、少なくとも二つ(すなわち、2,3,4又はそれ以上)の電極を持つ電極アレイシステムと、電極を相互接続するコンジットと、を有する。コンジット(導管:conduit)は、圧力室に配置された相(相:phase)と接触する、導電性の流体を含む。相は、例えば結合媒体又は静止相であってもよい。相は、ゲル(例えば感圧性のゲル)、樹脂(例えば、イオン交換樹脂、疎水性樹脂、逆相樹脂、又は大きさ排除樹脂(size exclusion resin)など)、プラスチック、ガラス、ハイドロキシアパタイト、固定オリゴヌクリオチド、シリカ、イオン交換体、シリコン又は他の金属、アルミナ、沸石、セルロース、素粒子、微粒子、ナノ粒子(nanopartcile)、基板上の被覆、溶解質ポリマ、ミセル(micelle)、リポソーム、多孔性固体媒体、膜、圧力安定媒体(例えば、DEAE被覆されたガラス、水晶、熱可塑性ポリマ、ゲル、又は、表面が正の電荷に荷電され1から50μmのビーズから成る非孔性(ノンポーラス)樹脂など)又は相分離液の相、などであってもよい。電極は、保護被覆(例えばポリアクリルアミドのゲル)を含んでいてもよい。
【0009】
この装置はまた、圧力室(チャンバ)の温度を制御する手段を含んでいてもよい。
【0010】
この装置はまた、少なくとも一つ(すなわち、一つ、二つ、三つ、四つ、またはそれ以上)の貯蔵器(リザーバ)をコンジットと連絡させて備え、コンジットによって運搬(移送)される物質を含むようにしてもよい。貯蔵器もまた、圧力室に配置することができる。コンジットは、例えば、電気的不導体チューブであってもよい。装置はまた、圧力伝達装置(例えば、電歪装置や、磁歪装置などの電気的に媒介される圧力アクチュエータ、または形状記憶合金装置)を含んでいても良く、この圧力伝達装置は、圧力を圧力室へ、そして圧力室から伝達することができる。3つ以上の電極が存在する場合は、電極は直線状に構成されてもよく又は二以上(すなわち、2,3,4又はそれ以上)の軸を定義しても良い。コンジットは、電気泳動又は毛管(キャピラリー)電気浸透を備えていても良い。電極アレイシステムは、マイクロチップ上に構成されてもよい。
【0011】
本発明はまた、サンプルから核酸を精製する方法を提供する。この方法は、上述の装置の相とサンプルとを最初の圧力にて(すなわち、相がサンプルの核酸以外の成分よりも高い親和力をもって核酸に非特異的に結合する相である時に)接触させるステップと、非核酸成分の少なくとも一部を運搬(移送)する(例えば電気泳動的又は電気浸透的に)ステップ(例えば、一つの電極に向けてまたは核酸から遠ざけて)と、圧力を変更し、相への核酸の結合を阻害(破壊:disrupt)するために充分なレベルにするステップと、核酸を運搬(移送)する(例えば電気泳動的に又は電気浸透的に)ステップ(例えば第二の電極に向けて又は相から遠ざけて)と、を含む。もう一つの実施形態では、本発明は、サンプルから核酸を単離し精製するもう一つの方法を提供する。この方法は、サンプルを最初の圧力にて(すなわち、相がサンプルの核酸以外の成分よりも高い親和力をもって核酸に非特異的に結合する相である時に)相に塗布(適用:apply)するステップと、非核酸成分の少なくとも一部を相及び核酸から空間的に分離(例えば電気泳動的に又は電気浸透的に)するステップと、圧力を変更し、相への核酸の結合の少なくとも一部を阻害(破壊)するために充分なレベルにするステップと、変更された圧力において核酸を相から空間的に分離するステップと、を含む。少なくとも、「塗布(適用)」及び第一の「空間的な分離」のステップが、単一の反応容器内(例えば、圧力調節装置又は与圧容器)で実行される。
【0012】
第一の「空間的な分離」ステップは、非核酸成分を貯蔵器に運搬(移送)するステップを含んでいてもよい。貯蔵器は、結合物質を含んでいてもよく、この結合物質は、イオン交換体、脱塩(混合イオン交換)樹脂、非特異的定親和力樹脂、ポリスチレン樹脂、ガンマ照射ポリスチレン樹脂、電子対共有付着樹脂(例えばアルデヒドが豊富な表面、カルボジイミドが豊富な表面、O−メチルイソ尿素が豊富な表面、アミジンが豊富な表面、ジカルボニルが豊富な表面、ヒドラジドが豊富な表面、又はチノールが豊富な表面など)、樹脂又は異なる結合機能を持つ樹脂の組合わせ、または疎水性物質などである。その他に、アニオン交換体を正の電位を持つ一つ又はそれ以上の電極に配置することやカチオン交換体を負の電位を持つ一つ又はそれ以上の電極に配置することもできる。
【0013】
最初の圧力は、例えば周辺圧力であってもよく、変更された圧力は、高められた圧力であってもよい(例えば、100から200,000psi、500から100,000psi、1,000から50,000psi、または2,000から25,000psi)。核酸(例えばRNA)を、例えば零下(すなわち0℃以下)などの低い温度で単離したい場合は、最初の圧力及び/又は変更された圧力は、零下の温度でもサンプルが液体の状態を保っていられるために充分に高くてもよい。
【0014】
場合によっては、細胞がサンプルに含まれていることもあり、この方法が、細胞を溶解させるほどの高圧の圧力にサンプルをさらすステップを含むことになる。細胞は、外部膜及び核膜の両方を含んでいてもよく、高圧の圧力は、両方の膜を溶解させるために充分な場合もあり、もしくは、核膜は溶解させないが外部膜を溶解させるためには充分な場合もある。
【0015】
サンプルはまた、核酸結合プロテイン(例えばヌクレアーゼ酵素)を含むこともできる。したがって、方法は、核酸結合プロテインを不活性化するために充分な高圧の圧力にサンプルをさらすステップを含んでもよい。
【0016】
サンプルは、様々な大きさの核酸を含むことができる。変更された圧力レベルは例えば、比較的小さな核酸の相への結合のみを阻害(破壊)するために充分であってもよい。より大きな核酸の結合を阻害(破壊)するために、方法はまた、更に圧力を変更し、比較的大きな核酸の相への結合を阻害(破壊)するために充分なレベルにするステップと、更に変更された圧力において、核酸を相から空間的に分離させるステップとを含む。この方法によれば例えば、250塩基対核酸を500塩基対核酸から分離でき、1000塩基対核酸を2000塩基対核酸から分離でき、10,000塩基対核酸を20,000塩基対核酸から分離できる。
【0017】
サンプルは例えば、生物学的流体、血液全体、抗毒素、プラズマ、培養された細胞、腫瘍生検組織(チュモア・ビオプシィ・ティッシュー)、植物組織、又は生きてる組織(例えば、生物に関連する通常の処理の大半が行われている組織。生きている生物体から又は死んだ生物体からのどちらでもよい)であってもよい。
【0018】
核酸は、部分的に消化されている場合もあり、特定の大きさの分布の断片を回復することもできる(例えば、配列の決定又は交雑分析に使用するため)。核酸は、RNA(例えば、全体RNA(total RNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、ウィルスRNA、またはリポソームRNA(rRNA))又はDNA(例えば、染色体DNAやベクタ又はウィルスDNA)を含んでいてもよい。
【0019】
変更された圧力は、ベクタDNA(例えば通常、源にかかわらず5,000から20,000塩基対。例えば、消化された染色体DNAを含んでもよい)を溶離するために充分な圧力であり、染色体DNA(例えば通常、50,000塩基対もしくはそれ以上)を溶離するためには充分でない圧力であってもよい。この方法は例えば、相や温度、pHやイオン濃度などの性質にもよるが、15,000から30,000psiの範囲の圧力を必要とする。
【0020】
同様に、変更された圧力は、RNAを溶離するために充分であり、染色体DNAを溶離するためには充分でない圧力(例えば、相やその他の状態によるが、10,000から30,000psi)であってもよい。
【0021】
ジカルボニル化合物をサンプルに追加し、ヌクリアーゼなどの核酸結合プロテインを不活性化させることもできる。圧力は例えばジカルボニルとともに、プロテイン内のアルギニン残留物などのグアニジン半体(guanido moieties)の液化を加速することもできる。
【0022】
場合によっては、核酸は二つの膜の間に電気泳動によって凝縮(例えば高められた圧力下において)している時もあり、この場合、前記膜の一つが核酸に対して実質的に不浸透性であり、第二の膜は加えられた電位の下で、核酸に対して増加した浸透性を有する。その他の場合では、核酸を電気泳動によってフィルタに捕獲することができる。
【0023】
核酸は、分析器(例えばマトリクス援助レーザ吸着及びイオン化(matrix-assisted laser desorption and ionization(MALDI)質量分光計)に運ぶことができる。
【0024】
本発明はまた、上述の方法を実行する装置を提供する。この装置は、圧力調節装置と、相を含む与圧可能セルと、を含む。セルは、装置内に一致するように適合されている。
【0025】
さらにもう一つの実施形態では、本発明はサンプルに与圧する装置を提供する。この装置は、サンプル室と、装置の外の与圧媒体からサンプル室へと、媒体とサンプル室との間に流体を流れさせること無く、圧力を伝達する圧力伝達装置とを含む。
【0026】
装置はまた、オリフィス(orifice)を備える部屋を備えていてもよく、サンプル室及び圧力伝達装置がオリフィス内に構成される。圧力伝達装置は、例えば、形状記憶合金装置又は磁歪装置を含んでいてもよい。部屋は、円筒形(例えば、片方の端が密封され、片方の端が開いているプラスチックチューブ)をしていてもよく、圧力伝達装置はピストン(例えば、ゴムピストン又は注射器プランジャ)であってもよい。部屋はまた、ミクロタイタプレート(microtiter plate)内の井戸(ウェル:well)であってもよい。本発明はまた、細胞を浸透化(又は溶解)する方法を提供する。この方法は、上述の装置のサンプル室を最初の圧力にて細胞で満たすステップと、装置を圧力調節装置に差し込むステップと、圧力を一瞬の間変更し、少なくとも10,000psiにして細胞を浸透化させるステップと、を含む。細胞は例えば、イースト、バクテリア、動物、又は植物であってもよい。最初の圧力は、気圧よりも低くても同じでも高くてもよい。浸透化された細胞は、除去され電気泳動にかけられても電気的に精製されてもよい(例えば電気泳動洗浄又は電気浸透性の流れに動かされる流体による洗浄)。細胞には、圧力処理の前又は後で、洗剤が足されてもよい。サンプル室はまた、気体(例えば空気)によって満たされてもよい。さらに、電圧をサンプル室に加え、浸透化された細胞の少なくとも一部の成分を細胞の他の成分から空間的に分離することもできる。細胞はまた、凝固(凍結:frozen)されてもよい。
【0027】
さらに本発明のもう一つの実施形態では、イオン交換クロマトグラフィに使うために、高圧の圧力を使いイオン交換体(例えば、アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂)に関連する結合親和性を調節することに関する。これは、従来の又は毛管の(キャピラリー)クロマトグラフィを含んでもよく、クロマトグラフィの基盤は、核酸、プロテイン、炭水化物、または他の小さな分子を含んでもよい。この方法はまた、溶解法又は電気泳動法と一体化されることもできる。
【0028】
本発明のその他の実施形態は、細胞から分子を単離する方法である。この方法は、圧力室内で細胞を最低500psi(例えば、1000,2000,5000,10000,20000,30000,50000,または100000psi、またはそれ以上)の高められた圧力にさらし、溶解した細胞を形成するステップと、圧力室内で分子を細胞から分離するステップと、を含む。細胞の溶解を容易にするために、細胞は最低45℃(例えば、約50℃と90℃との間)の温度下で保持されてもよい。この方法は、一体化された装置(例えば、消耗できる使い捨てのカートリッジ)で行われてもよい。圧力は、高められた圧力と周辺圧力との間を、少なくとも二回(例えば、二回、三回、四回、またはそれ以上)パルスされる又は循環されてもよい。細胞は、例えば、イースト、バクテリア、菌類、動物細胞(例えば、人間の細胞などの哺乳類の細胞)、植物細胞、昆虫細胞、または原生動物の細胞であってもよい。
【0029】
分子は、流れる溶媒による溶離、電気泳動、電気浸透、吸収媒体への選択的な吸収、濾過、差異沈澱(差動沈殿:differential sedimentation)、揮発(蒸発)、蒸留、ガスクロマトグラフィ、または沈澱(precipitation)によって抽出されてもよい。分子は、細胞が高められた圧力にある時に抽出できる。圧力は1秒以内(例えば0.1秒以内)に、最終的な圧力値まで高めることができる。この方法はまた、例えば1秒以内(例えば0.1秒以内)で細胞を周辺圧力に戻すステップを含むこともできる。少なくとも一部の分子を、一体化された装置内で精製することができる。
【0030】
分子はまた、流れる溶媒による溶離、電気泳動、電気浸透、吸収媒体への選択的な吸収、濾過、差異沈澱、揮発、蒸留、ガスクロマトグラフィ、または沈澱によって精製されてもよい。精製ステップは例えば、圧力が少なくとも500psi変化することを必要とする。
【0031】
本発明はまた、生物学的組織を阻害(破壊)する、例えば、懸濁液中の又は組織の一部である細胞を溶解する方法を提供する。この方法は、(i)気圧下で、凝固した(凍結された)細胞のサンプルを提供するステップと、(ii)細胞を零下の温度で保持しつつ、圧力室内で細胞を、高められた圧力であって零下の温度において凝固した細胞を解凍できる圧力にさらすステップと、(iii)圧力室を減圧し、零下の温度で細胞を凝固させるステップと、(iv)さらすステップ及び減圧ステップを、細胞が溶解(lysed)するまで繰り返すステップと、を含む。「溶解(lysed)」とは、細胞の細胞膜及び/又は細胞壁が充分に阻害(破壊)され、望まれる細胞内の成分(例えば、プロテイン、核酸、または細胞小器官)が細胞外の空間に解放されることを指す。この方法では、零下の温度(すなわち0℃以下の温度)は、約−20℃かそれ以上であってもよく、高められた圧力は、約28psiと75000psiの間、例えば約500psi、又は20,30,40,50又は60kpsiであってもよい。圧力は、その最終値まで、10秒以内、例えば5秒、1秒、0.1秒以内に高めることができる。この方法は、細胞壁を持つ細胞又は細胞壁を持たない細胞を溶解することができ、このような細胞は、ここに挙げるものに制限されないが、バクテリア、菌類の細胞(例えばイースト細胞)、植物細胞(例えばトウモロコシの葉の細胞)、動物細胞(例えば人間の細胞などの哺乳類の細胞)、昆虫細胞、及び原生動物細胞を含む。
【0032】
本発明の範囲内にはまた、液体サンプルから生物学的な成分を単離する方法も含まれる。この方法は、(i)サンプルを圧力室内で、高められた圧力であって零下の温度でサンプルが液体状態を保つために充分な圧力にさらすステップと、(ii)高められた圧力を維持しつつサンプルの温度を零下の温度まで下げるステップと、(iii)高められた圧力及び零下の温度を維持しつつ、サンプルから生物学的な成分を単離するステップと、を含む。このように単離できる生物学的な成分は、ここに挙げるものに制限されないが、プロテイン、脂質、多糖類、核酸、及び細胞小器官(例えば核)を含む。この方法では、零下の温度は約−20℃以上でもよく、高められた圧力は、約28から75000psiの間(例えば、500psi、20,30,40,50、または60kpsi)であってもよい。
【0033】
本発明のもう一つの実施形態では、細胞又は組織を阻害(破壊)し又は微生物を不活性化させ、例えば細胞又は微生物成分(例えば核酸やプロテイン)を単離し精製する方法を提供する。この方法は、サンプルを凝固させる(例えば、サンプルが固体になるまで温度を下げる)ステップと、サンプルを凝固した状態(すなわち固体相)に保ちつつ圧力を脈動させ、細胞、組織、または微生物を阻害(破壊)するステップと、を含む。
【0034】
本発明はまた、サンプル内のプロテイン(例えば、リボヌクレアーゼなどの酵素など)を不活性化させる方法を提供し、例えば、プロテインを不活性化させなければプロテインの存在によって悪影響を及ぼされるサンプル内の成分の単離及び精製を可能にする。この方法は、サンプルに一つ又はそれ以上の(例えば、1、2、3、またはそれ以上)試薬を追加し、反応混合物を形成するステップと、反応混合物に与圧しプロテインを不活性化させるステップと、を含む。追加される試薬は例えば、イソチオシアン酸塩、1,2−及び1,3−ジカルボニル化合物、メルイミド(maleimides)、スクシニミド(succimides)、スルフォニルクロリド、アルデヒド、ニンヒドリン、オルト−フタルアルデヒド(ortho-phthalaldehyde)、ヨードアセトアミド、β−メルカプトエタノール、架橋試薬(例えばグルタルアルデヒド)、又は、他の半体であって、アミン、チオル酸塩、カルボン酸塩、イミダゾール、またはプロテインによく見られる他の官能基と反応する他の半体であってもよい。
【0035】
特別に定義されない限りは、ここで使われる全ての技術的及び科学的な用語は、本発明が属する技術分野の知識を通常有する者が通常理解するものと同じ意味を持つ。ここに記載するものと同様又は同等の方法及び物質を本発明の実施又は試験に使うことができるが、以下では好適な方法及び物質を説明する。ここで引用される全ての出版物、特許出願、特許、及びその他の参照文献の全体を参照のために編入する。矛盾が存在する場合は、定義を含め本出願が優先される。これに加え、物質、方法、及び例は、例示するためのみであって、これにより本発明を制限する意図はない。
【0036】
新しい方法の重要な利点の一つとして、核酸の単離及び精製の両方に単一の溶媒を使用できる可能性があげられる。単一の溶媒は、1)核酸を含むサンプルを固定された固体相に装填するため、2)固定された核酸から非核酸不純物を洗浄するため、3)固体相から核酸を解離するため、に使うことができる。これに加え、もしサンプルが細胞を含むならば、装填、洗浄、及び解離に使われたものと同一の溶媒内で細胞を高圧の圧力で溶解することもできる。
【0037】
単一溶媒方法は、費用効果が良く、発生させる排出物が少なく、一般的に実施するのが容易である。更に溶媒は、下流の反応で使われるものと同一の緩衝液であってもよい。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に使われるマグネシウム塩や他の共同因子を含むあらかじめ一括された緩衝液を、新方法の装填、洗浄、及び溶離緩衝液として使用することができる。
【0038】
単一の低塩溶液を使うことにより、望まれない分子を電気泳動によって排出物容器に除去しつつ望まれる分子を固体相に吸着できる圧力においてのイオン交換マトリクスを通じた生体分子の電気泳動を可能にする。圧力は、望まれる分子を解放するように調節でき、この解放された分子は、電界を更に適用することによって、集めることができる。この方法は、大量製造の方法を使うことのできる、小型化された「バイオチップ」(biochip)装置と互換性がある。
【0039】
新方法のもう一つの利点として、生体分子成分へのダメージを最小化する溶媒の使用が挙げられる。サンプル内の細胞(もし存在すれば)の溶解を助けるために圧力を使うことができるため、しばしば大量に用いられ後に除去する必要のある刺激の強い溶解溶液(例えば、フェノール/クロロホルム、グアニジン塩、又はカオトロピック塩(chaotropic salt))の必要がない。また、生体分子の固体相への親和性を減少させるためにも圧力を使うことができるため、高塩溶離溶媒も必要ではない。
【0040】
圧力はまた、例えば、核膜を溶解せずに細胞壁又は外部壁を選択的に溶解するために使ってもよい。これは例えば、染色体DNAを残しつつ(すなわち核内に)細胞質からベクタDNAを単離する際に有効である。
【0041】
高塩溶離溶媒の必要を除去する結果、脱塩処理の必要性を回避できるという利点も得られる。脱塩は、例えば精製した核酸が、PCR、トランスフェクション、形質転換、電気穿孔法、電気泳動、質量分光、蛍光染料での数量化、インヴィトロ翻訳、緊縮交雑、シーケンスの決定、遺伝子工学、結紮、制限消化、ゲノムマッピング、臨床診断、または他の分子との交雑などの更なる反応又は処理で使われる場合に必要とされる。本発明の方法によれば、溶離された生体分子を含む溶液を脱塩する必要がない。新方法はまた、脱塩のための生物的溶媒内での沈澱又は核酸のシリコンまたはガラスビーズへの結合を必要としない。
【0042】
低塩緩衝液の使用により、新方法が物質の電気泳動的又は電気浸透的な転移と互換性を持つことを可能にする。これらの処理においては、塩によって余剰な熱が発生する場合がある。電気泳動装置は一般的には高価ではなく、他の装置に組み込むことができ、例えば、フラグメント化が少ない核酸(例えばフロー技術(flow technique)に比べて)の単離を可能にする。電気泳動はまた、核酸サンプルを凝縮する(すなわち電気凝縮(electroconcentration))ために使うこともできる。
【0043】
本発明の方法のもう一つの利点として、この方法が、ヌクレアーゼ抑制剤の使用を避けることが挙げられる。プロテインの大半は周辺温度及び中性pHの下で、100,000psi以下の圧力下では変性するが、核酸は、より大きな圧力にも耐えられると考えられている。pH又は温度を変化させることにより、プロテインの変性はさらに進められる。したがって、例えば、pHが4で25℃の状態での120,000psiの圧力パルスは、望まれる核酸に悪影響を及ぼすことなく、ヌクレアーゼの活動を効率的に不活性化させることができる。
【0044】
さらに、プロテインのアルギニン残留物は、フェニルグリオキサールなどの1,2−及び1,3−ジカルボニル化合物、2,3−ブタンジオン、及び1,2−シクロヘキサンジオンと反応し、ホウ酸塩イオンによって安定できる液化生成物を形成することが知られている(Creighton, TE, "Proteins: Structures and Molecular Properties", 1993, W.H. Freeman and Company: New York, pp 12-13及びこの文献に記されている参照文献)。固体サポートに取り付けられたジカルボニル化合物を使用することにより、ヌクレアーゼ及びヒストンなどの核酸結合プロテインを精製処理で保持することができる。電気泳動によって余分な試薬を除去できるので、ジカルボニル半体を有する帯電した分子は有用である。ジカルボニル化合物によるアルギニンの液化は、圧力によって加速することもできる。
【0045】
新方法のサンプルの処理では、遠心分離は避けられている。遠心分離は剪断力及び圧力の低下を生じ、多くの生体分子の完全性(integrity)を取り返しのつかないほど傷つけ、単離の収率及び質を低下させる場合があるため、この遠心分離を回避できることは利点の一つである。さらに、新方法は、生体分子を含む溶液の取り扱い及びピペットによる移動の多くを排除する。その結果、通常の取り扱い及びピペットによる移動では剪断されてしまう、より長いmRNAの鎖を無傷で単離することができ、より信頼性のあるcDNAのライブラリの形成を、低濃度又は低模写数で存在するmRNA分子であっても、容易にする。新方法は、高い純度と速度で、95%以上の収率を生じることができる。
【0046】
新方法のすべてのステップを一つの溶媒中で実施できるため、各ステップに先立って溶媒の準備のための余計な時間を必要としない。また、圧力の作用は極めて迅速に現れる。圧力は、音速にてサンプル中に伝達する。その結果、新方法は、サンプル組成物が空間的に分離するだけの時間しか必要としない。たとえば、核酸がアルコール内で沈降するのを待つ必要性などが回避される。
【0047】
また、一つの毛胞からのゲノムDNAの単離から、細菌の大量試料からのプラスミドの精製までの幅広いサンプルサイズに対して、新方法を拡大または縮小して適用できる。新方法は、1フェムトリットルほどの少量や5リットルほど(たとえば市販の核酸試料)の大量のサンプル量に対応できる。小規模の核酸単離は数秒で完了でき、大規模の単離には数分かかることがある。
【0048】
さらに、小分子の核酸(たとえば50bp未満)の単離にも、大分子の核酸(たとえば1,000,000bpより大きい)の単離にも、実質的に同じ方法を用いることができる。小分子はより低い圧力および低い塩濃度にて溶離するため、大分子の核酸と小分子の核酸の両者を含むサンプルから、小分子のみを別個に単離させることが可能である。
【0049】
新方法はまた、幅広いサンプルからの核酸の単離に好適である。それらのサンプルとは、血液、尿、精液、粘膜切屑、汗、毛髪、骨、膿、唾液、糞便物、生検組織、羊水、滑液、プラスマ、原核(たとえば細菌)または真核(たとえば植物組織、酵母、腫瘍細胞)培養物、ウイルス、ウイロイド、および血液染色物を含む(がそれらに限定されない)。圧力はさらに、核酸からの蛋白の解離を促進させることもできる。
【0050】
高圧力によって、核酸はコンパクトな立体配置になり、それにより剪断、ニッキング、および酵素分解に対するさらなる耐性が得られる。したがって、精製された核酸の質の向上が達成できる。
【0051】
高圧力の使用はまた、気泡形成を抑えることにより電気泳動および電気浸透の工程を改善する。気泡は、電界の伝達を阻害する可能性がある。
【0052】
新方法はさらに、自動化にも適する。新方法は、人による介入をほとんど必要とせず、通常は、核酸に対する追加のピペッティング、デカンティング、遠心分離、沈降、および再懸濁は必要でない。また新方法は極めて効率的であるため、費用対効果が高く、また高スループットのスクリーニング工程(たとえば遺伝子スクリーニング、薬物スクリーニング)に好適である。新方法は物理的工程に依存するため、異なる適用状況(すなわちサンプル試料)に合わせた調整は若干しか必要としない。
【0053】
高スループット方法の例では、複数カラムの列を用いる。そのような列は、ミクロ力価のプレート型装置に組込まれた96個のミニチュアカラムを含むことが考えられる。その各カラムは、フリットによって保持されるDEAEセルロースが充填されており、数百マイクロリットルの容積を有する。他の態様においてそのような列は、荷電グループを含むよう変性されたニュークレポア型(NUCLEPORE;登録商標)(粒状分離部門(Corning Separations Division)、アクトン、マサチューセッツ州)のトラックエッチング膜のパッチを含む。個別の各細孔は、約1フェムトリットルの容積を有し、イオン交換材料の「カラム」として効果的に作用する。数千のこのようなカラムが、各パッチに備えられることが可能である。分離材料およびカラムの壁は、同じ物質で構成できる。さらに他の態様では分離カラムを、横方向の寸法が数ミクロンしかないチップ上にミクロ的に製造できる。そのようなカラムは、充填材料を含むか、あるいはその装置の壁を分離材料として使用することが可能である。
【0054】
RNA精製のための従来の工程は、カオトロピック剤(たとえばグアニジウム塩類、ドデシル硫酸ナトリウム、サルコシル、尿素、フェノール、またはクロロフォルム)を用いた溶解(リーシス)を要する。カオトロピック剤は、形質膜および亜細胞小器官を阻害(破壊)し、リボヌクレアーゼを不活化する。あるいはそのような溶解には、形質膜のみを溶解するより弱い溶液(たとえば低張ノニデット(nonidet)P−40溶解緩衝剤)を用いる。後者の反応剤の場合は、さらにヌクレアーゼ阻害剤の添加が必要である。続いて有機溶剤抽出法またはシリカ膜吸収法を用いて、細胞溶解物からRNAを抽出する。以上とは異なり、圧力に基づく新方法では、細胞溶解およびRNA精製は一つの手順に合体できる。それにより、人による介入の低減、RNアーゼの混入の管理の改善、並びに処理速度の向上とそれによるRNA減成の低減という利点が達成できる。
【0055】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および上述した請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】圧力変調装置(圧力調整装置)に用いる樹脂充填カートリッジの図である。
【図2】圧力変調装置に用いる5つの電極を有するチップの図である。
【図3】圧力変調装置に用いる8つの電極を有するチップの図である。
【図4A】圧力を伝達するダイアフラムを含むチップを示す図である。
【図4B】圧力を伝達するダイアフラムを含むチップを示す図である。
【図4C】圧力を伝達するダイアフラムを含むチップを示す図である。
【図5A】圧力を伝達する疎水性弁を含むチップを示す図である。
【図5B】圧力を伝達する疎水性弁を含むチップを示す図である。
【図5C】圧力を伝達する疎水性弁を含むチップを示す図である。
【図6A】圧力を伝達する圧縮可能なピストンを含むチップを示す図である。
【図6B】圧力を伝達する圧縮可能なピストンを含むチップを示す図である。
【図6C】圧力を伝達する圧縮可能なピストンを含むチップを示す図である。
【図7】3つのサイズ、50bp(・・・)、4.6kb(−−−)、および48.4kb( )のDNAに関して、一定圧力における核酸の回収パーセント率を塩化ナトリウム濃度の関数として示すグラフである。
【図8】3つのサイズ、50bp(・・・)、4.6kb(−−−)、および48.4kb( )のDNAに関して、一定の塩化ナトリウム濃度における核酸の回収パーセント率を圧力の関数として示すグラフである。
【図9】加圧されるサンプル細胞の図である。
【図10A】高圧精製カートリッジを示す側面図である。
【図10B】高圧精製カートリッジを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
多様なサンプルから生体分子(たとえば核酸、蛋白、炭水化物、および小さな分子)を、極めて選択的且つ効率的に低イオン強度で単離および精製する方法並びに装置を説明する。低塩濃度においても圧力を使用すれば、核酸および他の生体分子を、それらが通常強く結合する固相(たとえばアニオン交換樹脂)から解離させることができるという観察結果に、本発明は基づく。
【0058】
全体的手順
通常は、精製すべき生体分子を含む溶液を、低圧(たとえば雰囲気圧)にて固相へ導入する。溶液中に存在する生体分子が固相に結合した状態でその固相を、緩衝剤で処理済みの第二の溶液で洗浄する。高圧下での洗浄の間、所望の生体分子は固相に結合したままであり、望ましくない混入物(たとえば蛋白および脂質)は固相から除去される。洗浄が完了した時点で、所望の生体分子が固相から解放されるよう十分に、圧力をさらに上昇させる。この上昇した圧力が維持されている間に、新たな低塩緩衝剤を用いて、解放された生体分子を固相から洗い出して収集容器内へ流し入れる。これらの手順は、完全に自動化できる。回収した生体分子は、高塩濃度に影響されていないため、下流にて酵素反応に使用できる。
【0059】
この手順で精製できる生体分子は、核酸(たとえば染色体DNA、ウイルスDNA、プラスミドDNA、ミトコンドリアDNA、DNAベクタ、オリゴヌクレオチド、mRNA、ミトコンドリアRNA、ウイルスRNA、または核酸の混合物)、蛋白(たとえば酵素、抗体、構造蛋白質、金属蛋白、ホルモン、糖蛋白、ムチン)、および炭水化物、並びに他の小さな分子(たとえば糖類、染料、合成薬物、補因子、アミノ酸)を含む。固相は、雰囲気圧にて所望の分子を選択的に結合させ、高圧力下でアフィニティが低減する物質であれば、たとえばアニオン交換カラム、オリゴ−dTカラム、または吸収性ポリマでコーティングした電極などのいずれの物質でもよい。
【0060】
所望の生体分子との結合の他に、固相は他の機能を有することもできる。たとえば固相は、生物学的サンプルを吸収するものであってもよい(たとえばスポンジ型ポリマ)。また固相は細胞の溶解を補助するものでもよく、たとえば固相材料をプロテアーゼ(たとえばペプシンまたはトリプシン)、リパーゼ、またはグリコシダーゼ(たとえばリソチーム)と混合することで、それぞれ蛋白質、脂質、および多糖類を消化させることが可能である。あるいは固相は、RNA精製のためにDNアーゼを含んでもよいし、DNA精製のためにRNアーゼを含んでもよい。固相によっては、核酸に結合するが所定の蛋白や脂質などの他のマイナス電荷の分子とは弱い相互作用しか示さないこともあり、あるいはその逆のこともある。
【0061】
生体分子サンプルの固相上への載置と、不純物の溶離と、生体分子の固相からの溶離とに、同じ溶液を用いてもよいし異なる溶液を使用することもできる。ただし、操作の簡便性および廃液の削減のためには、一つの緩衝剤を用いることが通常最も好ましい。溶液が洗浄緩衝剤として作用するか溶離緩衝剤として作用するかは、圧力に依存する。たとえば約25,000psiを越える圧力では、大分子の核酸(たとえば5,000bpより大きい)は低塩緩衝剤によって溶離できる。また25,000psiでは、サンガーの配列決定法で使用するような小分子の核酸を、さらに低い塩濃度にて溶離できる。しかし雰囲気圧では、大幅に高い塩濃度を有する溶離剤を使用する必要がある。高塩溶離剤は、下流での反応に干渉する可能性があり、核酸の操作(たとえば配列決定または増幅)に用いる酵素反応においては特にそうであり、その使用を回避することが理想的である。
【0062】
上述のとおり、低塩緩衝剤を効果的な溶離溶剤として作用させるには、固相の周辺において圧力を、多くの場合は雰囲気圧の数千倍まで大幅に上昇させなければならない。必要な圧力を生成するための適切な圧力変調(圧力調整)装置が、PCT出願番号US/96/03232号、PCT出願番号US/97/11198号、および米国出願第08/903,615号に記載されており、これらの出願をここに引用して援用する。たとえば、固相を収納したチップまたはカートリッジをそのような装置に挿入し、その装置内で精製を実施することができる。装置は、幅広いサンプルサイズに対応するために、多様な構成を有することができる。
【0063】
分離において重要な他の特性をも、圧力によって変化させることができる。それらの特性には、蛋白の変性および再生と、核酸の二本鎖状への会合(または一本鎖状への解離)とが含まれる。その両特性は、生体分子の濾過、沈降速度または沈降均衡、旋回半径、排除容積(exclusion volume)、電気泳動移動度、および/または化学的反応性に影響する。適切な条件を選択することによって、本明細書で説明する分離手法のいずれを使用しても、同程度の結果を得ることができる。
【0064】
溶解、結合、溶離、および単離を含む、生体分子精製のすべてのステップを自動化することが可能である。また圧力を増大させることにより、累進的により大きい生体分子の溶離が可能になり、それによって特定サイズの分子を簡単に単離できる。圧力勾配(階段状または連続的)を、装置内に設定することもできる。たとえば圧力勾配(たとえば階段関数)を用いることで、サンプルを分別できる。分別を用いることによって、部分的に減成したサンプルまたは極めて多様なサンプル(たとえばcDNAライブラリ)から、特定のフラグメントを精製できる。
【0065】
圧力によって、核酸または蛋白などの高分子の有効流体力学的旋回半径を変化させることができる。通常はその変化によって、サイズ排除媒体(たとえばシリカ、ポリスチレンなどの硬質プラスチック、またはセファデックス(商標)およびセファロース(商標)(ファーマシア社)樹脂などの多孔性ヒドロゲル)における高分子の溶離位置(すなわちV、排除容積)が変更される。分子が樹脂に結合する必要はなく、分子が細孔内に進入する能力が、分離を実施する際の静水圧によって影響される。所定の分子が一つの圧力下では包有され他の圧力下では排除されるような細孔サイズを選択できると、より良好な分離が可能になる。詳細には、一つの圧力下で共に溶離する分子を、他の圧力で分離できるようになる。
【0066】
核酸
本方法の適用例としては、臨床または研究目的での血液、細胞培養(ゲノムまたは感染症)、または組織(たとえば腫瘍生検)からの核酸の精製、遺伝子またはバイオテクノロジー研究のための微生物DNAの精製、DNAの脱塩化、法医学的分析(たとえば犯行現場で発見された毛髪、血液、精液、または組織からのDNAの精製)、およびPCR製品の精製が含まれる。本発明の単離および精製手法は、天然核酸および人工核酸の両方に適用できる。人工核酸は通常、リボースまたはデオキシリボース、あるいはそれらの幾何学的アナログに基づく。人工核酸には、チオリン酸結合およびアミド結合を含む、天然のホスホジエステル結合以外の結合を使用できる。
【0067】
RNA分子のうち最も一般的な種類には、mRNA(メッセンジャーRNA)、tRNA(転移RNA)、rRNA(リボソームRNA)、ウイルスRNA,およびインビトロでDNAから転写されたRNAが含まれる。
【0068】
多くの適用例においては、染色体DNAを、もし環状であれば線形にし、操作を容易にするために小さい断片に切断する。切断は、非特異的に(たとえばエキソヌクレアーゼDNアーゼIを用いて、または超音波分解によって)実施してもよいし、酵素(「制限エンドヌクレアーゼ」)を用いた特異的切断によって実施してもよいし、化学的手段を用いてもよい。たとえばヘリカーゼ、トポイソメラーゼ、キナーゼ、および他の核酸特異的酵素を用いてもよく、それにより核酸の移動特性または吸収特性が変化される。それ以外の変更が加えられていない状態であれば、そのようなDNAであっても一般的に染色体DNAと呼ばれる。
【0069】
プラスミドは、細菌内に見られる、自律複製するDNAである。プラスミドは一般的に環状であり、バイオテクノロジーにおいて遺伝子の伝達にしばしば利用される。プラスミドDNAも同様に、通常は制限酵素を用いて、小さい断片に切断される。制限酵素によって生成したフラグメントはしばしば、DNAの「塩基対」または「塩基」に基づいた、見かけの分子量によって命名される。たとえば「4.6kB」DNAフラグメントは、長さが塩基約4,600個分であり、二本鎖の場合も一本鎖の場合もある。
【0070】
多くの蛋白(たとえばヌクレアーゼ)は、圧力によって阻害(破壊)される。たとえば120,000psiのパルスは、サンプル中のヌクレアーゼを非可逆的に変性させる。単離工程中にRNアーゼなどのヌクレアーゼを変性させることで、所望の核酸の減成を防止することは、実施しようとしているRNA単離において特に重要である。ここで、化学的阻害(破壊)剤の代わりに、圧力を用いることができる。場合によっては、ヌクレアーゼ変性と細胞溶解とを同時に達成できる。
【0071】
リボヌクレアーゼAを、高圧下で低温変性させる。還元剤の添加によってヌクレアーゼのジスルフィド結合を還元することで、非可逆的変性を容易にすることができる。すなわちたとえば、サンプルに10mMのβ−メルカプトエタノールを添加し、サンプルを−20℃に冷却し、圧力を60,000psiに上昇させることによって、ヌクレアーゼを非可逆的に変性できる。
【0072】
また、たとえば染色体DNAの抽出などの特定の適用例においては、RNアーゼの活性化が望ましい場合もある。この場合は、温度、pH、または圧力(たとえば、酵素活性を促進させるだけ十分に高いが酵素の変性に必要な圧力よりは低い圧力を用いる)の組み合わせにより、RNアーゼを活性化またはその活量を増進させる条件を達成できる。
【0073】
たとえば220MPa(約32,000psi)では、pH8.5の50mMのトリス−HCl緩衝剤を用いて、DEAEカラムから100%のラムダDNA(λDNA)を溶離できた。常圧(0.1MPa、または14psi)では通常、DEAE樹脂からDNAを溶離するには、より高塩濃度の緩衝剤(たとえば1Mの塩化ナトリウムトリス−HCl緩衝剤(sodium chloride Tris-HCl buffer))を必要とする。プラスミドDNAは、λDNAよりも低塩濃度および低圧で解離した。このように、低分子量のDNA分子は、高分子量の分子より低塩濃度および低圧で解離する。核酸フラグメントをサイズによって分離することが、サンプル分析および他の利用において有用な場合もある。
【0074】
新方法によって精製された真核発現ベクタを用いることによって、真核細胞はクローン化遺伝子を発現できる(一過性および安定的な異種発現)。クローン化された真核遺伝子の機能を分析および同定する際にはたとえば、対象の遺伝子を有する真核発現プラスミドを、哺乳類細胞内に導入するのに適した形態で取得する。特定の真核遺伝子の構造−機能研究の際には、多数の突然変異体のパネルを生成する必要がある場合が多い。したがって新方法は、そのような分析の迅速且つ簡便な方法を提供する。
【0075】
新方法によるDNAの単離は、数々の利用状況に適用できる。それらの利用状況とは、真核細胞における蛋白発現および蛋白構造機能の研究、サザンブロット分析、インビトロでの転写および連結反応および形質転換、細菌または酵母における異種蛋白発現、マイクロインジェクションの研究、PCR、DNA配列決定、ウイルスDNA検出、RFLP分析による実父確定検査、並びに、一本鎖高次構造多型(SSCP)または非同位体RNアーゼ卵割解析(NIRCA(商標);アンビオン、オースティン、テキサス州)による遺伝子スクリーニングを含む(がそれらに限定されない)。同様に、RNAの単離もさまざまな利用が可能である。それらの利用とは、遺伝子分析、cDNAライブラリ構築、卵母細胞へのマイクロインジェクション、ディファレンシャルディスプレイ(differential display)、ノーザンブロット分析、RNアーゼ保護解析、インビトロでの転写、復帰転写酵素PCR(RT−PCR)、並びにヒト血液中のウイルスRNA(たとえばHIV、C型肝炎、A型肝炎、およびHTLV−1)の検出を含む(がそれらに限定されない)。インビボで生成された核酸の単離には通常、その核酸を含む宿主細胞の溶解を必要とする。新方法と組み合わせていずれの細胞溶解方法を用いてもよいが、その溶解方法によって、その後の使用目的に適した量および質の核酸が得られなければならない。溶解は、加圧した装置または加圧可能な装置の内部あるいは外部で実施できる。
【0076】
溶解に対する耐性は、細胞によって異なる。たとえば、多くの動物細胞は、少量の洗剤または有機溶剤との接触を通じて溶解される。動物細胞は、形質膜およびそれに埋設された蛋白以外に、包囲構造をほとんど若しくはまったく有しない。細胞膜の溶解によって、細胞内容物がすべて溶解液中に拡散する。
【0077】
動物細胞はまた、溶液の浸透度を変化させる(たとえば、動物細胞の平常圧レベル約300mOsmから0〜10mOsmへ低下させる)ことによっても溶解できる。浸透圧溶解は、通常一定の平常浸透度の環境に存在するヒト組織などの細胞に対して、特に有効である。
【0078】
動物細胞はさらに、化学的方法、酵素による方法(たとえば核酸精製時に、薬品と共にプロテアーゼを用いて膜を溶解する)、または機械的方法によっても溶解できる。たとえば哺乳類組織は、溶液中にて、ダウンスホモジェナイザまたは料理用ブレンダによる粉砕および分散などによる強い機械的剪断によって溶解できる。
【0079】
ウイルスは通常、動物細胞の溶解に関して上述した条件に類似の条件下で溶解できる。ウイルスによっては、たとえばイオン条件(たとえば多価カチオンの除去)や温度の変化などの、より穏やかな条件下でも溶解できる。
【0080】
細菌細胞は、形質膜の他に、強く架橋結合した細胞壁を有することが多い。したがって細菌細胞は、動物細胞よりもその溶解が難しいことがある。細胞壁は通常、多くの洗剤および薬剤に対して耐性を有し、浸透度の変化による破壊に至らないよう形質膜を安定化させる。しかし、細胞壁の形成を阻害する抗生物質の存在下で細菌を培養することにより、動物およびウイルス細胞に関連して上述した手段によって細菌を簡単に溶解できる。
【0081】
酵母細胞、ほとんどの植物細胞、およびいくつかの昆虫細胞は、さらに堅固な細胞壁を有する。これらの細胞の溶解には、さらに強力な方法を要する。そのような方法は、上記のそれほど堅固でないタイプの細胞にも使用でき、高圧から常圧へ急激に減圧させることを含む。その減圧は、加圧したチャンバから細い針を通じて流出させること(すなわちフレンチプレス)によってしばしば実施される。堅固な細胞壁の破壊方法の代替案としては、激しく往復運動するシェーカ(たとえば「ノッサルシェーカ(Nossal shaker)」)で多くの場合に実施する、ガラスビーズによる細胞の破砕が挙げられる。細胞溶解後の酵素活性を阻害することが特に重要である場合は、細胞または組織を凍結し(たとえば液体窒素で)、凍結状態で破砕(凍結破砕)することも可能である。
【0082】
DNA精製方法の一つとして、高いカオトロピック塩(特にヨウ化ナトリウム)濃度中でシリカがDNAを吸収することに基づくものがある。典型的には、このような高塩濃度にてDNAをシリカ表面に吸収させ、アルコール/水の存在によって不純物(および過多のヨウ化物)を洗い出す。アルコール濃度が低下すると、DNAは解放される。この工程を、圧力応答的に実施できる(can be pressure-sensitive)。すなわち、高価なカオトロープ(たとえばヨウ化ナトリウム)の使用の代わりに、高圧下でDNAをシリカ樹脂に接触させることによって実施できる。あるいは溶離そのものを、圧力変調によって容易にすることができる。
【0083】
圧力で増強される、蛋白質の化学的な不活性化
圧力によって誘導される蛋白質の構造変化は、蛋白質や酵素の活性を保持したまま、埋没したアミノ酸(蛋白質や酵素の内部あるいは活性部位のアミノ酸)を標識する際に有用な手法となりうる。蛋白質と化学修飾剤との反応液に高圧力をかけて(それ自体または低温度、高温度、界面活性剤、他の変性剤との組み合わせで)、蛋白質の構造を混乱させることができることが知られている。化学修飾剤の例としては以下のものを挙げることができる。イソチオシアネート、1,2-または1,3-ジカルボニル化合物、マレイミド、スクシイミド、塩化スルホニル、アルデヒド、ニンヒドリン、オルトフタルアルデヒド、インドアセトアミド、β−メルカプトエタノール、グルタルアルデヒドのような架橋剤、アミン、チオール酸、カルボキシル酸、イミダゾール、あるいは蛋白質に特徴的な他の機能基と反応することがわかっている他の化合物。高圧力によって新しく露出した蛋白質残基と化学修飾剤が反応して、蛋白質を不活化する。
【0084】
この技術に独特な応用例としては、必要とするサンプルの組成物を壊してしまうような酵素の不活化が挙げられる。たとえば、この技術は、RNAのような所望の核酸化合物のサンプルに含まれる、リボヌクレアーゼのようなヌクレアーゼを効果的に不活化するのに用いることができる。核酸は、細胞またはウイルスに含まれる。細胞またはウイルスは圧力その他の方法で壊される。化学修飾剤としてはグルタルアルデヒドやビスジカルボニル化合物といった蛋白質の標識剤もしくは架橋剤として有用であることが知られている化合物が挙げられる。
【0085】
一例として、高圧(10,000〜150,000psi、あるいは80,000〜100,000psi)は、サンプル中のRNaseを可逆的に変性または解離させるのに使用される。一時的に変性あるいは解離したRNaseは、次に化学修飾剤(例えば上記のリスト中から選ばれたもの)と反応し、非可逆的に不活化される。
【0086】
高圧下の細胞溶解と抽出
細胞培養液や組織などの細胞から、生体分子を精製する際には、それが非分泌型である場合、サンプルを固相上にのせる前に、細胞を溶かすか、少なくとも浸透性にしなければならない。細胞を溶かす方法には多くのものが知られており、核酸の単離に関しては上述の通りである。その方法には、化学的な方法(フェノール/クロロホルム抽出、グアニジン塩、カオトロピック塩、ドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤、Proteinase Kのような酵素)と、物理的な方法(煮沸、フレンチプレス、ダウンシング、グラスビーズ存在下でのボルテックス、ソニケーション--Bollag et al., "Protein Method", 2nd Ed., 1996, pp. 27-56など参照)が含まれる。このような方法では、時間と温度によって結果が大きく左右されることが多い。
【0087】
他の好ましい方法は、高圧力によって細胞を溶かす方法である。高圧溶解は、あとで固相上にサンプルを添加するためのローディング緩衝液として使用する溶媒中か、あるいは別の溶媒中で行うことができる。さらに他の好ましい方法は、界面活性剤のような化学剤を圧力と組み合わせて使用する方法である。例えば、少量のカオトロピック塩は細胞溶解を誘起するので、カオトロピック剤で処理した細胞は、より低圧力で溶解させることができる。
【0088】
高圧溶解法は、通常用いられる溶解方法よりも穏やかである。RNAのような単鎖核酸や高分子核酸は容易に切断されてしまうが、高圧溶解法はそのような核酸を単離する際にとりわけ有用である。さらに、圧力を使用した溶解は、細胞の構成物を選択的に分画するのに用いることができる(例えば、核外の構成物を単離するために、核膜を維持したまま細胞壁や細胞膜を溶解する)。
【0089】
高圧細胞溶解法の形態の一つは、常圧と高圧との間のサイクルを繰り返すことからなる。例えば、酵母細胞に30,000psiで240サイクルかけると、細胞が断片化し、細胞内容物の少なくとも一部が放出される。この断片化の機構は、フレンチプレスのものとは異なっている。フレンチプレスでは、細胞を含む液を与圧して、明確な開口部から放出するが、その際の断片化には、一般的に、溶液中での急激な降圧と高い割合でのせん断の両方が必要とされる。新しい高圧溶解法では、せん断される必要がないので、細胞に対してより穏やかである。少なくともある場合には、この新しい方法では急激な降圧もまた不要である。必要ならば、溶解を助けるためにサンプルの温度を、例えば80℃に上げることができる(実施例16参照、後述)。そのような高温下では、およそ70,000〜80,000psiの間の圧力を2分間程度かけると、酵母細胞には十分である。高温でのRNAの分解を防ぐために、珪藻土(ベントナイト)を溶解緩衝液に加えることができる。
【0090】
あるいは、サンプルへの、またはサンプルに近接した、気体を含む加圧剤への加圧サイクルを調節することによって温度を調整することもできる。サンプル区画内、または加圧剤内の気体を圧縮および脱圧縮することにより、ジュール−トンプソン効果によって温度が調節される。
【0091】
圧力によって透過性にした細胞からも分子を抽出できるので、様々な支持体に直接、抽出液を適用することが可能である。圧力を基盤にした抽出法は、ここで述べる高圧法と容易に統合することができる。高圧下に細胞を曝すだけで、それ以上の処理をしなくても細胞は溶解あるいは透過化する。例えば、試験管内の細菌液に60,000psiの圧力をかけることができる。このような圧力下で、分子が細胞外に拡散する。核酸プラスミドのような比較的大きな分子でさえ、この条件で拡散する。加圧したサンプルに電場をかけることで抽出効率をさらに上げることができる。
【0092】
サンプルの完全性は分子の抽出中でも保持されるので、圧力を基盤にした新しい抽出法では、数千以上のサンプルを並行処理することが可能である。例えばサンプルはマイクロタイタープレート中にあってもよい。より少量ならば、細胞は吸水性濾材上の液滴中にあってもよい。疎水性の素材も液滴を分離するのに使用することができる。吸水性濾材は分離剤としても有用で、所望の分子を結合させ、後で溶出させることができる。透過化(または溶解)工程と分離工程をそれぞれ、高い平衡圧力下で行うことができる。それゆえ、吸水性濾材と分離剤からなり、かつ多数のサンプルのスポットをもつような多層状のアレイを作製することが可能である。流動体はそのようなアレイ内で、高圧下に処理されるが、その圧力は均衡に保たれるので、高圧下で扱われるアレイや、例えば機器は、圧力変化に対して完全に耐性である必要はない。それゆえ、例えば、湿らせた紙片上のDEAE膜に置いた細胞を、そのままの状態で加圧溶解し、「ブロット」して所望の分子を別の層へ移動させることができる(濡れている層が「上」に、乾いている層が「下」になる)。一方、細胞片や細胞外の分子は、そのまま残るか、他の層へ移動する。適切な装置を用いて、細胞由来分子の選択的な抽出と精製を実質的に自動化することができる。
【0093】
吸着した生体分子を圧力室へ運ぶように作られた装置内で、細胞を溶解させることができる。細胞溶解は、圧力を加える前、あるいは後に行われる。細胞片はろ紙のような素材でろ過することにより保持されるのに対し、生体分子を含む可溶性化合物は、圧力により誘起される緩衝液の流れによって、吸着性物質のもとへ運ばれる。生体分子は、圧力を変えることによって、あとで樹脂から解離させることができる。もしさらに精製が必要ならば、圧力により保持材から解離した生体分子を、他の樹脂などの素材に吸着させることができる。
【0094】
単離される核酸に対する、せん断力や酵素的な攻撃のようなパラメータを制御するために、予測をおこなうことができる。たとえば、もし所望の生体分子が、細菌由来の小さい二重鎖DNA分子(プラスミド、コスミド、ウイルスDNA)であれば、必ずしも細菌を完全に溶解させなくてもよい。原形質膜の溶解は、物理的処理と化学的処理のどちらかまたは両方(Proteinase K存在下での加熱など)によっておこなうが、これは、DNA分解酵素を不活化するとともに、小さい二重鎖DNA分子の単離を容易にするために、混入してくる細菌の染色体DNAを、細胞壁の内側にとどめておくための処理である。
【0095】
凍結高圧細胞溶解
細胞溶解は、「凍結高圧」工程によっても可能である。この工程は細胞サンプルを高圧力と0℃以下に、順番にまたは同時に曝すことからなる。圧力は最低約1,000psi、あるいは5,000、20,000psiでよい。処理される細胞サンプルは低温と高圧に耐えうるチャンバに置かれなければならない。以後、便宜的にこのようなチャンバのことを「凍結高圧室」と呼ぶことにする。
【0096】
細胞を凍結高圧によって溶解するために、組織あるいは細胞懸濁サンプルを、常圧下でおよそ−20〜0℃で凍結する。0℃以下を保ったまま、凍結したサンプルを凍結高圧室内で高い圧力をかける。0℃以下でサンプルが融解するような圧力を選択する。サンプルが融解したら、再度凍結するまで凍結高圧室内の圧力を下げる。このような凍結-融解工程を、0℃以下で1回または5回、10回、50回、あるいは100回と繰り返し、細胞を充分に溶解させる。
【0097】
典型的な工程では、サンプルを常圧下、−20℃で凍結させ、ついで30,000psi(サンプルを融解させる)と14psi(サンプルを再び凍結させる)の圧力を交互に繰り返してかけ、サンプルを充分にこわす。酵母、細菌、植物細胞のように細胞壁を持つ細胞を溶解するには、もっと高い圧力を、繰り返しかける必要があるかもしれない。
【0098】
凍結高圧溶解は、生物学的に適した緩衝液や溶媒中で行うことができる。緩衝液や溶媒は、あとで細胞構成物を単離する際に使用するものと同じであっても異なっていてもよい。凍結サンプルを融かすために必要な圧力を下げるために、サンプル溶液の凝固点を下げる物質や、細胞膜の破壊を促進する物質を用いてもよい。そのような物質には以下のものが挙げられるが、これらに限られるものではない。界面活性剤、尿素やグアニジンとその塩のようなカオトロピック剤、硫酸アンモニウムのような離液系列剤、ホルムアミド、低級アルコール、グリコールのような生物学的に共存できる有機溶媒、糖、オリゴサッカライド、ポリサッカライドのような浸透圧保持剤、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、修飾セルロースのような水溶性の合成または半合成ポリマー。サンプル溶液には、抗酸化剤、スルフヒドリルを含む試薬、キレート剤、栄養剤のような活性保持に働く試薬が含まれていてもよい。所望の細胞構成物を選択的に結合する試薬も同様に含むことができる。例えば、シリカや珪藻土のような固形支持体をサンプル溶液に加えてもよく、溶解中に遊離する核酸を捕捉することができる。
【0099】
凍結高圧溶解法を行うために適した最小限の装置としては、冷却および加圧可能なチャンバと加圧を調節する手段とからなる。チャンバの冷却には、チャンバ外部に取り付けた冷却装置を用い、チャンバに含まれる気体の膨張、機械的な冷却、ペルチェ冷却器など、冷液体あるいは冷気体による外部冷却システムならば何を使用してもよい。典型的なチャンバには、ある程度の長さのチューブが器具とともに取り付けられているので、この装置を他の目的にも使用できる。凍結高圧装置には、処理したい物質をいれるための、挿入可能で、使い捨て可能な要素を自由に取り付けることができる。例えば、網や他の高度に多孔性の面をもった抽出はめ輪を、持続的な高圧に耐えうる抽出チャンバに取り付けてもよい。もしより少量であることが必要ならば、より小さなはめ輪を高多孔性の支持体に取り付けてもよい。このように、一つのチャンバを、様々な量の抽出可能な物質に適応させることができる。
【0100】
装置にはさらに、凍結高圧時、細胞溶解液が0℃以下で液相であるときに、細胞構成物を分離することができるような装置を付加してもよい(以下も参照のこと)。そのような装置としては、電気泳動、クロマトグラフィー、ろ過、遠心沈降、選択的溶媒抽出、蒸留など、技術的に既知のすべての分離手段が有用である。
【0101】
さらに、制御装置を取り付けてもよい。例えば、基本的な安全性(圧力安全弁や接地不良遮断回路)、望み通りの与圧や温度条件をプログラム可能な進行表、仕様外の条件やプログラムからの逸脱に対する警告、が制御される。また、特定の処理工程に対応して、手動または自動で立ち上がる機能も装備される。例えば、制御可能な弁は、外部リザーバと、装置の中心にある抽出チャンバとの間で、電圧と電流を監視しながら一定時間電気泳動を行うのに使用される。出力は表示、記録、分析され、他のプログラムを立ち上げる際の基礎として使用される。
【0102】
よく知られているように、水の状態が変化する際には、融解時には熱の吸収が、凍結時にはそれに対応した熱の解放が伴う。さらに、サンプル溶液に存在する様々な化学物質は、その溶液の束一的な性質(凝固点など)に影響を与える。そのため、凍結高圧工程において、正確な相境界は、知られている温度よりも2,3度異なっているかもしれない。そのような差異は、当業者によって速やかに決定される。
【0103】
ここで示している凍結高圧溶解法は、温度差ではなく圧力差による凍結融解に依存した方法である。その結果、細胞溶解の程度、速度、均一性を正確に制御することができるので、細胞溶解液から高品質の物質を確実に単離することができる。
【0104】
不安定な物質の凍結高圧精製
不安定な生体物質を精製する際に常に問題となるのは、出発材料に酵素や酸素のような、分解を促す物質が含まれていることである。多くの場合、精製のために粗出発材料を壊す際に、このような物質が遊離する。高圧力と低温度はともに、分解活性を阻害することができるので、不安定な生体物質を単離する際には、凍結高圧状態でおこなうほうが有利である。凍結高圧精製は、すでに述べた凍結高圧装置に分離手段を付加することで行うことができる。
【0105】
一連の例を挙げる。植物組織サンプルのような粗材料を、液体窒素を用いて低温(−77℃など)で凍結させ、常圧下で細かく砕く。凍結破砕した出発材料を、約−15℃にセットした凍結高圧チャンバ内に置く。チャンバ内の気圧を常圧から約25,000psiまで上げ、温度を約−20℃まで下げる。分離工程をチャンバ内で行う。この凍結高圧工程により、RNAや活性のある酵素のような生物学的物質は保護される。
【0106】
様々な分離工程を使用することができる。すでに述べた工程に加えて、以下の工程が適用できる。植物組織から細胞成分を単離するために、組織を凍結破砕し、凍結高圧チャンバ内に置く。このチャンバは、チャンバ内と同温度、同圧力の緩衝溶液と電極を含む凍結高圧リザーバに連結されている。凍結破砕した材料を、チャンバ内で融解させたあと電場におくことで、RNAのような高度に負荷電した物質をリザーバの一つに移動させることができる。
【0107】
上記工程では、チャンバとリザーバとの間に、微多孔性膜をおいてもよく、これにより巨視的な粒子や、より大きな分子集合体がリザーバに浸透してくるのを防ぐことができる。リザーバへの経路は、適切な時間が経過した後閉じられる。装置全体を常圧に戻し、そこからRNAや他の所望の細胞成分を回収し、必要に応じてさらなる精製に供する。
【0108】
選択的に吸着する物質や、特定の化合物(所望の分子、あるいは望ましくない分解促進物質)を吸着する物質もまた、リザーバに含まれる。例えば、通常の条件下で、特異性を有する樹脂を使用することができる。電気泳動的な分離が完了した後、電圧を0にし、特異的な成分を樹脂に結合させる。続いて洗浄液をリザーバに通し、非特異的な物質を除去したあと、所望の成分を樹脂から溶出する(望むなら凍結高圧条件下で)。溶出した所望の成分を最低0℃に戻し、圧力を常圧まで下げ、成分の液体サンプルを得るか、−20℃で常圧まで下げ、凍結サンプルを得る。
【0109】
同様の工程を、蛋白質、ポリサッカライドや代謝中間体の他、様々な出発材料からの生物学的分子の精製に用いることができる。さらにもし望むなら、凍結高圧条件は、米国特許出願第09/016,062号、および第08/962,280号に記載の工程にも適用可能である。
【0110】
凍結サンプルの圧力変化
上述のように、細胞溶解と組織破壊は、圧力を大きく変化させることで促進される。圧力を変化させると、固体から液体への相転移が低温で起きる。他の高圧溶解法あるいは、高圧破壊法は、サンプルを固相のままで圧力を変化させるものである。後者の技術の形態の特徴は、低温小さな圧力変化をかける点にある(常圧から2,000、10,000あるいは20,000psiまで、約−20℃から0℃で、好ましくは約−8℃で)。他の形態では、より大きな圧力変化をすばやいサイクルで行うために物質の大部分で固体から液体への相転移が起きない。第三の形態では、高圧氷を形成させ、ある高圧力からさらに別の高圧力へ変化させる。
【0111】
カートリッジ
単離装置の設計図の一つを図1に示した。この装置はカートリッジ10で、金属(チタン、ステンレス綱、アルミニウムなど)、プラスチック(ポリプロピレンやポリテトラフルオロエチレンのような耐熱プラスチックなど)、ガラス、石英、石材(サファイアなど)、あるいはセラミックから製造され、米国特許出願第96/03232号に記載されているような圧力調節装置に取り付けられるように加工してある。
【0112】
カートリッジは通常、筒状のカラムの形を取るが、他の設計も用いられる。形態に依らず、カートリッジには12と14の2つの開口部があり、12から液体が入り14から出ていく。2つの開口部間の、共通な経路16の途中に、固相剤18が詰め込まれている。固相はいかなる核酸結合剤でもよく、シリカゲル、ガラス、陰イオン交換樹脂(DEAEなど)、固定された特異的結合分子、が含まれる。適切な化学的あるいは物理的結合によって樹脂に結合するものとしては、ヌクレオチド、核酸、固定された蛋白質またはペプチド、ポリマー、DNA結合分子(エチジウムやアクリジニウムなど)、あるいは他の小さい分子(糖、ベンゾジアゼピン、薬剤など)が含まれる。固相としては、新しい方法で使用される高圧に耐え、長期にわたって変形や故障しないものが理想的である。それゆえに、より高い圧力に耐えうる固相であることが望ましい(DEAEをコートしたガラスは、ある場合にはシリカベースの樹脂よりも優れている)。
【0113】
カートリッジは、開口部が圧力調節装置の反応チャンバと直接連結するように設計されるか、あるいは、バルブとピストンの開閉によりカートリッジ内の圧力と液体の流れが調節される、閉じた系として設計される。後者の形態におけるバルブとピストンは、電気的あるいは機械的に制御される。
【0114】
細胞全体を溶解して得たサンプルを使用するように設計されたカートリッジは通常、フィルターあるいはメンブレン19を含む。このフィルターは、サンプルが固相上へ導入される前に、細胞片を除去するのに適したポアサイズをもつ。このフィルターの断面領域は、樹脂区画よりも大きいので、圧力こう配ができないようになっている。
【0115】
カートリッジの容量は様々である。例えば、カートリッジは、フェムトリットル(fl)から10mlの範囲か、それ以上(1μlから1mlなど)の内部容積を持つ。フェムトリットルという量は、100μm厚(4mil)のメンブレンを貫通する直径10μmのキャピラリーに適切な量である。分離剤の体積は、使用目的によってまちまちである。典型的には、固相はカートリッジの内部容積の約半分を占めるが、場合によっては容量一杯まで満たされることもあれば、ほんの10%のこともある。場合によってはカートリッジを再使用することができる。カラムにかけられる体積は任意であり、分離に際しての適切なカラムパラメーターはカラムの結合能である。
【0116】
カートリッジの典型的な使用例として、サンプルは低塩濃度の緩衝液中に溶解または懸濁され、開口部12から導入される。カートリッジ10は圧力調節装置内に配置されている。緩衝液を低圧で流し、サンプルをメンブレン19と固相18に通す。サンプル中の核酸は固相に結合し、素通りしたものは開口部14に現れる。場合によっては素通りしたものをサンプル出力チューブで取って検出装置(UV−可視光分光光度計など)の入力側に接続する。検出装置が何も洗い流されなくなることを示すまで緩衝液を低圧で流し続ける。素通りしたものは廃棄する。
【0117】
次いで圧力を500〜100,000psiに上げ、固相から核酸を遊離させる。さらに緩衝液を開口部12から導入し、開口部14から出てくる核酸を含むフロースルーを集める。このフロースルーをさらに検出装置に送液し、分析する。フロースルー中の核酸の検出値が、設定した閾値より下回るまで流し続ける。
【0118】
カートリッジは多数の区画を含むものであってよい。例えば、各区画が異なる固相剤を含んでいてもよい(陰イオン交換樹脂、シリカゲル、固定されたオリゴヌクレオチドなど)。反応をカートリッジ内で行わせることもできる。
【0119】
例えば、本発明のカートリッジはPCRの反応容器として使用できる。固相を洗浄して核酸以外の不純物を除去し、核酸を固相から、例えば、カートリッジ内の第二の区画内へ溶出した後に、温度サイクル装置に装着すればよい。
【0120】
多数の区画を持つカートリッジは、核酸の濃縮にも用いられる。そのようなカートリッジ内では、液体は流体力学的、あるいは電気的に、もしくは両方の作用で移動する。一例として、大容量のサンプル中のDNAを流体力学的に樹脂上に濃縮し、低分子の不純物は洗い流したあと、DNAを下流のカートリッジに電気泳動することができる。この工程をここでは電気濃縮とよぶ。
【0121】
他の2区画からなるカートリッジでは、核酸は第一の区画(陰イオン交換樹脂などを含む)から溶出され、圧力を用いて、第二の区画(シリカゲルなどを含む)で濃縮される。第二の区画では異なる溶出条件が必要とされる。このように、大量の不純物を含む希釈されたサンプルからでも核酸を濃縮することができる。さらに、溶出されたサンプルは自動的に別の装置に移すこともできる(ディスク、パッド、ビーズ、検出装置など)。
【0122】
シリカとガラスは核酸、とりわけ二重鎖DNA(dsDNA)の分離によく用いられる。高濃度の、NaI(ヨウ化ナトリウム)のようなカオトロピック塩存在下で、DNAはガラス表面に結合する。DNAをガラス上に保持させる溶液で不純物を洗い流す。この際、カオトロピック塩溶液あるいはアルコールのようなDNAを溶かさない溶媒を含んだ水溶液が使用される。次いで希釈緩衝液をカラムに通すことでDNAを解離させ、溶出する。この工程のいくつかは、高圧を用いて単純化できる可能性がある。
【0123】
多数の層状の樹脂を含むカートリッジもまた、請求の範囲に含まれる。陽イオン交換樹脂の層は、例えば、正に荷電した蛋白質をすべて捕捉するが、この中にはDNAに結合する蛋白質が含まれる可能性がある。疎水性(逆相など)樹脂はサンプル中の脂質と結合する。
【0124】
電気泳動あるいは電気浸透を使用した装置
他の単離装置の設計図を図2及び3に示す。この装置は、電極アレイを少なくとも2軸に沿って配置したチップの形態をとる。各電極は固相化剤でコートされている。場合によっては、すべての電極を同一材でコートしたり、各電極ごとにコーティングを変えたり、2つ以上の電極に連結したキャピラリーに沿ってコーティングの勾配をつけたりする。チップは質量分析計やキャピラリー電気泳動装置といった分析装置に接続してもよい。
【0125】
チップは様々に設計されるが、チップの操作はその設計に依らず似たようなものになる。もっとも単純に設計した例では(図2)、電極20、30、50、70、80は、それぞれ接点22、32、52、72、82と電気的に連結している。染色体DNAを含むサンプルを例に挙げると、サンプルを常圧で電極20に添加する。単離したい核酸に加えて、サンプルには塩(50〜350mMの塩化ナトリウムなど)や様々な夾雑物が含まれる。電極20はサンプルを吸着させるような材料(DEAEのような陰イオン交換樹脂など)でコートされている。
【0126】
チップ25は、接点22、32、52、72、82に切り替え可能な電圧を供給できるようにした圧力調節装置(米国特許出願第08/903,615号に記載の装置など)のサンプルチャンバ内に装着する。常圧下で、電極20と30の間に電位を供給する(例えば電極20が陽極で電極30が陰極)。電位によりサンプルはキャピラリー40の中を流れる。キャピラリー40にはサイズ排除ろ過材(0.5%から2%アガロースなど)が充填されており、大きな細胞片は保持されるが、核酸、蛋白質、脂質、他の小さな細胞成分は通り抜ける。
【0127】
フロースルーは電極50へと通過する。電極50は陰イオン交換樹脂でコートされている。分子中の核酸は電極50に捕捉される。一方、フロースルー中の他の成分はキャピラリー60内の水溶液へそのまま送られ、最終的に電極30まで送られる。電極30にはポリアクリルアミドなどの物質が含まれ、そこに到達した夾雑物を捕捉する。この時点で電極20と30の間の電位を止める。
【0128】
システム中の圧力をやや高いレベルまで上げる(500〜10,000psiなど)。電位を電極50(陽極)と電極80(陰極)の間に設定する。穏やかな圧力下では、もっとも小さい核酸(例えば5,000bp以下)が電極50で陰イオン交換樹脂から解離する。核酸は、電位によりキャピラリー90内の液相から、最終的に電極80まで運ばれる。電極80にはリザーバが含まれる。この時点で電位を止める。
【0129】
システム中の圧力を高いレベルまで上げる(12,000〜100,000psiなど)。電位を電極50(陽極)と電極70(陰極)の間に設定する。高圧力下では、残りの核酸が電極50で陰イオン交換樹脂から解離する。核酸は電位によりキャピラリー75内の液相から最終的に電極70まで運ばれる。電極70にはリザーバが含まれる。この時点で電位を止め、圧力を常圧まで下げてから、チップを圧力調節装置からとりはずす。大きなサイズの核酸画分には染色体DNAが含まれ、電極70から回収することができる。
【0130】
他の設計では(図3)、電極100、110、120、130、140、170、200、220は、それぞれ、接点102、112、122、132、142、172、202、222に電気的に連結されている。全血サンプルを、電極100に常圧下で導入する。電極100はサンプルを吸着する物質でコートされている。
【0131】
チップ190を、圧力調整調節装置のサンプルチャンバ内に取り付ける。圧力調節装置は、接点102、112、122、132、142、172、202、222で入切可能な電圧を供給できるようにしてある。常圧下で、電極100(陽極)と電極120(陰極)の間に電位を供給する。電位により、サンプルは、液体に満たされたキャピラリー105および125と電極110まで通過する。電極110とキャピラリー125の接合点で、フィルター114が全血細胞が通過するのを防ぐ。フィルターには、HEMAFILヌクレオポアメンブレン(Corning Separations Division, Acton, MA)が好適である。これはポアサイズ4.7〜5.0μmで高分子微多孔性の通り道がついたポリカーボネートである。このフィルターにより、白血球細胞は電極110で捕捉され、赤血球細胞は電極120まで運ばれる。圧力を瞬時に上げることで(80,000psiや120,000psiかそれ以上まで)、電極110および120において細胞が溶解し、細胞溶解液中のすべてのヌクレアーゼが不可逆的に不活化される。続いて圧力を常圧に戻す。電位を電極110(陽極)と220(陰極)との間にかける(100〜200V、または20〜40mAなどの定電流、あるいは500ワットなどの定電力)。キャピラリー115にはサイズ排除物質または陰イオン交換物質などが含まれる。そのような物質は、大きな細胞片は捕捉するが核酸や蛋白質、脂質、他の小さな細胞成分は通過させる。
【0132】
フロースルーはオリゴdTがコートされた電極140まで通過し、さらに陰イオン交換樹脂がコートされた電極170まで通過する。白血球細胞の溶解液中のRNAは電極140に捕捉され、白血球細胞溶解液中のDNAは電極170に捕捉される。一方、フロースルー中に残っている成分はキャピラリー176内の水溶液へそのまま送られ、最終的に電極220まで運ばれる。電極220にはそこに到達した不純物を捕捉するリザーバーが含まれる。
【0133】
電位を電極140(陽極)と電極130(陰極)の間にかける。RNAは電位により電極140で固相から解離し、キャピラリー144内の液相から最終的に電極130まで運ばれる。電極130にはRNAを捕捉するリザーバが含まれる。ここで電位を止める。
【0134】
システム中の圧力を高いレベルまで上げる(20,000〜100,000psiなど)。電位を電極170(陽極)と電極200(陰極)の間にかける。圧力により、DNAが電極170で固相から解離する。電位により、核酸はキャピラリー174内の液相から最終的に電極200まで運ばれる。電極200にはDNAが捕捉されるリザーバが含まれる。ここで電位を止めて、チップを圧力調節装置からとりはずす。精製された白血球細胞RNAは電極130から、精製された白血球DNAは電極200から、それぞれ回収できる。
【0135】
本装置や装置を使用する際の消耗品としては、適用例やサンプルの大きさに応じて最適化されたものがいくつもある。例えば、小型のものは、多サンプルを同時処理したり、下流のバイオチップに接続されたり、あるいはその両方が可能であったりする。サンプルの大きさの例としては、1fl、1pl、1nl、1μl、1ml、10ml、あるいはこれらの間であってもよい。
【0136】
チップは、適切な材料から製造され、平版状で、通常の工程で働く。基剤には、ポリプロピレンやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなプラスチック、シリカのような無機酸化物、ガラス、セラミック、金属、半導物質が含まれる。接点と電極は、金属(金、銀、銅、アルミニウム、鉄)、半導体、伝導性高分子、水溶液からなり、これらは織物やゲルのようなもので随意安定化される。
【0137】
チップは、キャピラリー中の液体が、圧力調節装置の反応チャンバで直接接触するように設計される。より好ましくは、チップは仕切り版(図4)、ピストン(図5)、あるいは疎水性バルブ(図6)からなり、反応チャンバからキャピラリーと電極へ圧力を中継する閉鎖系として設計される。
【0138】
図4Aから4Cに示したように、チップ240は、電極アレイを配置したくぼんだ領域242を含む。柔軟で弾力のあるメンブレン244で凹領域242を覆って仕切板を形成する。メンブレンの片面または両面は柔軟性がある。メンブレンは電極アレイへ外部圧力を伝達すると同時に、液体の移動を防ぐように密封する役割も持つ。
【0139】
図5Aから5Cに示したチップ250もまた、凹領域252を含み、そこに電極アレイが配置される。しっかりとしたふた254が凹領域にかぶせられる。経路256はチップの一方へ通じていて、凹領域252へと繋がる。経路256の内面は疎水性物質であらかじめコートしてあるので、常圧下では水や他の液体が経路256の長さを通過することができない。しかし、圧力の上昇に従って、液体は疎水性相互作用にうち勝って経路256を通過できるようになり、凹領域252内の圧力が調節されるようになる。
【0140】
図6Aから6Cに示した第三の設計では、チップ260は凹領域262を含み、そこに電極アレイが配置される。圧縮力のある弾性ピストン264が凹領域262にのせられる。反応チャンバ内の圧力が上昇したとき、ピストン264が圧縮されるので、反応チャンバと電極アレイの間で液体を移動させることなく電極アレイにおける圧力を上昇させることができる。
【0141】
加えて、狭いキャピラリー内の液体を保持させることが可能である。それには、直径10〜1000μmで、外部の支えを要さないキャピラリーを使用すればよく、そのようなキャピラリー表面に極性をもたせておけば(表面エネルギー)、液体がキャピラリー表面をぬらすことができる。もし開いたキャピラリーの上部の空間が流動体の気相で飽和されていれば、外部のカバーが必要ない、キャピラリーを埋め込んだキャピラリー内で処理を行うことができる。さらにまた、全く濡らすことのできない(疎水性または疎液性の)表面を、キャピラリーの上面を閉じるのに使用することができる。これにより、キャピラリー内に液体をもたないチップを積み重ねて、フィルムを濡らすことで、すべてのチップのキャピラリーにわたって液体を満たすことができる。この目的には、水溶液、ポリプロピレンやPTFEのシート、あるいは積み重ねたチップの隣のチップの背面のコーティングが使用される。
【0142】
使い捨て可能な2つのシリンジ装置
本発明のさらに他の形態の一例として、サンプルを第一の(ローディング)シリンジに注入する。シリンジは狭い出口を付したDEAE樹脂カートリッジを持つ。このシステムでは、高圧を生むために非常に小さい樹脂チャンバを持たなければならず、その材料は高圧に耐えなければならない。プランジャをゆっくりと押し下げ、大きな圧力勾配ができないようにする。サンプルが樹脂上にロードされたら、廃液を捨てる。10〜300mMなどの低塩濃度の緩衝液をシリンジ内に入れる。
【0143】
緩衝液には、マグネシウムなど続く酵素的技術に必要な補助因子が加えられる。DNA以外の混入物を除去するため、一定量の緩衝液(100μl〜10mlなど)を樹脂の洗浄に用いる。
【0144】
第二の(コレクション)シリンジを第一のシリンジに付加する。樹脂から核酸が解離するような圧力でローディングシリンジが動くように、第二シリンジのプランジャの抵抗を調節する。コレクションシリンジによる反発力を、シリンジとピストン内の低角度の経路により調節する。圧力を変えるように経路の角度を調節する。収量と精製度が一定であることが重要な場合には、加圧工程は、監視バルブ付きのチャンバのような、圧力と流速を一定に保つことができる機器により、あるいはその助けを借りて、行われる。
【0145】
このシステムの他の形態では、二つの反発しあうピストンに等しい力をかけ、(ずっと小さい力で)二つのシリンジを同時に動かして流れを起こす。他の形態では、二つのピストンは、その間の小さな圧力差とともに力を供給する。このシステムは、水のような加圧材中に沈めることができるので、耐圧材や使い捨て可能な部品内の小容量の樹脂を使用しなくてもよい。
【0146】
加圧用のサンプルセル
図9は圧力調節装置内の加圧のための筒状チャンバを示している。チャンバ300は、固定した閉鎖310、サンプルセル320、ピストン330からなる。ピストンはチャンバ300の外からサンプルセル320まで圧力を伝える。サンプルセル320は、固定端キャップ340、柔軟壁350、サンプル区画360からなる。固定端キャップ340は、柔軟壁350がピストン330と筒壁380との間の隙間370へ押し出されるのを防止する。柔軟壁350によりサンプルセル320が変形し、それによりサンプル区画360内のサンプルが圧縮される。
【0147】
以下の例は本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0148】
実施例1
陰イオン交換カートリッジ内でのDNAの単離と精製
DNAサンプルをQiagen DEAE陰イオン交換樹脂(Qiagen Inc., Santa Clarita, CA)を用いて、常圧下および高圧下で分離した。DEAE樹脂を9mm×内径4mm(外径5mm)のステンレス鋼の「半分に区切られたカラム」に充填した。カラムを2μmのポアサイズを持つチタン製フリット(Valco Instrument Company, Inc., Houston, TX)でキャップした。2つの、半分に区切られたカラムはそれぞれ、一方は樹脂を含み、もう一方は樹脂を含まずスペーサーとして働く。これらを、カラムホルダーに装着した。カラムホルダーは内径5mmの金属筒で、シリンジフィッティングが端に付いているので、液体はカラムを通過することができる。
【0149】
DNAの圧力溶出を、圧流装置を用いて行った。そのような装置は、米国特許出願第96/03232号に記載されているように、LABVIEWTMソフトウェアとともにマイクロコンピュータによって制御された(National Instruments,Austin, TX)。カラムを受けられるようにした圧力チャンバ内にカラムを挿入した。'232号出願に記載されているように、圧縮空気で動く一連のバルブとピストンを使用して、チャンバの液体を注入および除去した。これにより、カラムからのDNAの溶出を、カラム内を高圧に保ったままで行うことができる。
【0150】
DEAEカラムを、まず1mlの高塩濃度溶出緩衝液(1.25M塩化ナトリウム、50mM Tris-HCl, pH8.5、15%エタノール)にて洗浄し、1mlの平衡化緩衝液(750mM 塩化ナトリウム、50mM MOPS, pH7.0、15%エタノール、0.15% Triton X-100)にて平衡化した。ローディング緩衝液中(1M 酢酸カリウム、33mM NaCl、50mM Tris-HCl, pH5、8mM EDTA)の、21μg/mlのDNA約300μlを5分以上かけて、1分間隔で4回、充填されたカラムに注入した。1mlのMO洗浄緩衝液(1M塩化ナトリウム、50mM MOPS, pH7.0、15%エタノール)をホルダーを通じて注入して混入物を完全に除去した。溶出前に200μlの溶出緩衝液を、常圧または高圧下で注入して、MO洗浄緩衝液と置換した。DNA溶出工程で用いられる溶出緩衝液には、50mM Tris-HCl, pH8.5と、様々な濃度の塩化ナトリウムが含まれる。
【0151】
連続した4回の300μlの溶出画分を各実験ごとにあつめた。各フラクションは3分以上の間隔で集めた。溶出緩衝液100μlを用いた高圧洗浄工程を各時間ごとに行った。常圧下での実験も同一の溶出工程で行い、溶出塩溶液をカラムホルダーに送るためにシリンジを使用した。
【0152】
集めたサンプル中のDNAは、OliGreen DNA結合色素(Molecular Probes, Eugene, OR)にて定量した。バックグラウンドを下げて感度を上げるために、DNA測定溶液中の塩濃度をまずTE緩衝液(10mM Tris-HCl、1mM EDTA, pH7.5)で20〜200倍に希釈してからOliGreen色素と混合した(20,000:1 DNA:色素(体積))。DNA/OliGreen溶液の蛍光放射強度(λem=520nm、λex=480nm)を、ISS PCI分光光度計(ISS, Inc., Champaign, IL)にて、バックグラウンドを差し引かないで測定した。既知のDNA濃度から得た標準曲線と、測定値とを比較してDNAを定量した。溶出フラクション中の全DNA量をカラムに結合した全DNA量で割って、溶出フラクション中のDNAの回収率を求めた(ロードした全DNA−(フロースルー中のDNA+MO洗浄液中のDNA))。
【0153】
高圧下では、λDNA(Worthington Biochemical Company, Freehold, NJ)が低塩濃度の緩衝液でDEAE樹脂から解離した。これを表1に示した。表中の数字は、回収率%(実験回数)を示す。エラー範囲は2つ組のデータからおよそ5%と計算された。
【0154】
【表1】

【0155】
表1は圧力が高くなるほど解離に必要な塩濃度は低くなるという相互関係を示している。0.1MPa(常圧)では、1M塩化ナトリウムを用いてもほんのわずかの(10%以下)DNAしか溶出しなかった。90MPa(約12,500psi)でDNAはやや解離しやすくなり、170MPa(約24,000psi)では70%のλDNAが0.5M NaClで解離した。220MPa(約32,000psi)で100%のλDNAが0.25M NaClで解離した。興味深いことに、この圧力では塩濃度を上げるとDNAが溶出されにくくなった。これはおそらく、高塩環境で静電的な保護によりシリカレジン内での相転移によるものであろう。
【0156】
大きさの異なる3つのDNAで追試を行った。ヒト細胞から抽出した高分子量DNAであるK562(塩基数は不明、Pharmacia Biotech, Inc., Piscataway, NJ)とλDNA(〜48.4kb)は同じように振る舞った。170MPaにおいて、0.40M NaClのTris-HCl緩衝液でともに回収率25%であった。これに対して、pKK223-3(約4.6kb)は同じ条件で回収率100%であった。
【0157】
大きさの異なる3つの核酸(50bp、4.6kb、48.4kbなど)に対する塩濃度の効果を調べるために、圧力を23,600psiに保って塩化ナトリウム濃度を0から1Mまで上昇させた。核酸はカートリッジから溶出されてきたところで検出された。その結果を図7のグラフに示す。もっとも小さい、50bpの核酸のほとんどは、100mM塩化ナトリウムで溶出された(点線)。4.6kb断片は250mMで溶出された(破線)。実線は、もっとも大きい48.4kbの核酸を溶出するのに500mM塩化ナトリウムが必要であることを示している。このように、塩濃度を変えることによって大きさに基づいて核酸を分離することができる。
【0158】
同じ3つのDNA断片を用いて、圧力の効果を調べた。この実験では塩化ナトリウム濃度を250mMで一定に保って、圧力を14から40,000psiまで上昇させた。核酸はカートリッジから溶出されてきたところで検出された。その結果を図8のグラフに示す。もっとも小さい、50bpの核酸のほとんどは7,000psi付近で溶出された(点線)。4.6kb断片は約20,000psiで溶出された(破線)。実線は、もっとも大きい48.4kbの核酸を溶出するのに約32,000psiが必要であることを示している。このように、溶出圧力を変えることによって大きさに基づいて核酸を分離することができる。
【0159】
核酸に対するレジンの特異性を調べるために、ウシ血清アルブミン(BSA)をDEAEカラムにのせた。血清アルブミンは哺乳類の血液中でもっとも多い蛋白質であり、多価でたいへん吸着しやすい。血液からDNAを単離する際には、DNAとBSAとを分離できるようなDNA精製法であることが強く望まれる。確かに、蛋白質はすべてフロースルーとMO洗浄緩衝液に回収された。
【0160】
アガロースゲルを溶出液中のDNAの完全性を確かめるために使用した。分析するのに充分なDNAが回収された場合には、DNA分子が完全であることがわかった。それ以外の場合には、ゲル上で確かめられるほどDNAがなかった。二重鎖DNAに特異的な色素であるPicoGreen(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて、溶出液中のDNAを定量することも可能であった。この色素により、高塩濃度で圧力をかけてもなおDNAの大部分(約90%)が二重鎖であることがわかった。
【0161】
実施例2
脱塩なしでの溶出物の制限酵素消化
pCMV-SV40Tプラスミドを、JM109株の1.5ml一晩培養液からアルカリ溶解にて単離した(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press: Plainview, NY, 1989, pp. 1.25-1.26)。1.5ml一晩培養液をマイクロ遠心管に入れ、12,000gで30秒遠心した。培地を除き、細胞を100μlの溶液1に激しくボルテックスして懸濁した。溶液1は50mMグルコース、25mM Tris-HCl(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0)からなる。新しく作った0.2M NaOH(1%ドデシル硫酸ナトリウム、SDSを含む)を200μl加え、チューブを5回ひっくり返した。氷冷した溶液3(5M酢酸カリウム60ml、氷酢酸11.5ml、水28.5mlを混合して作製する)を150μl加え、サンプルを穏やかにボルテックスし、氷中に4分おいた。サンプルを12,000gで5分間遠心した。中和された清澄な上清を新しいチューブに移し、最終的に700μlになるように水を加えた。300μlのサンプルをQiagen #12129プラスミドキット(Santa Clarita, CA)を用いて精製した。最後のイソプロパノール沈殿は行わなかった。
【0162】
別の300μlのサンプルをカートリッジにロードし、実施例1で述べたように処理した。23,600psiにおいて400mM NaClでプラスミドを溶出した。精製したプラスミド溶液45μlと緩衝液(18mM Tris-HCl pH8.0、18mM MgCl、1.8mMジチオスレイトール、180μg/ml BSA)55μlと混合した。BamHI酵素(Promega, Madison, WI)を0.5μl(40ユニット)加え、37℃で1時間保温して制限酵素消化反応をおこなった。アガロースゲル電気泳動により結果を解析した。ゲルをSYBR1(Molecular Probes, Eugene, OR)にて染色した。Qiagenで精製したDNAは全く切断されなかった。一方、圧力で溶出したDNAには2本のバンドがみえたので、2つのBamHI部位でプラスミドが切断されていることがわかった。この結果は、これまでの核酸溶出方法とは対照的に、高圧力で溶出されたDNAを、沈殿操作や脱塩操作を行うことなく、反応緩衝液で1:1に希釈するだけで制限酵素で切断することが可能であることを示している。
【0163】
実施例3
高圧により単離精製したプラスミドDNAを用いた、動物細胞での蛋白質発現
pCMV-SV40TAgベクターはSV40のラージT抗原(TAg)をコードしている。このベクターを細菌株JM109に形質転換し、基本的には実施例2に述べたような通常のアルカリ溶解法にて単離した。(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press: Plainview, NY, 1989)。サンプル1.0mlをQiagen #12129プラスミドキット(Santa Clarita, CA)を用いて精製した。サンプル1.0mlを3等分し、実施例1で述べたようにバッチで精製した。プラスミドは29,000psi、500mM NaClにて溶出した。精製されたpCMV-SV40TAgプラスミドをエタノール沈殿し滅菌水に溶解した。
【0164】
蛋白質の一過性発現分析を行い、高圧で精製した場合とQiagenのキットの場合とで、プラスミドの精製度と品質を比較した。TAg蛋白質の発現レベルを分析するために、サル腎臓セルラインBSC40に、圧力あるいはQiagenのキットで精製したpCMV-SV40TAgを通常のリン酸カルシウムトランスフェクション法にて一過性にトランスフェクトし(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; New York, 1987, pp 9.1.1-9.1.4)、ウェスタンブロット分析を常法に従って行った(同書pp. 10.2.1及び10.8.1)。この実験の結果、高圧で精製したpCMV-SV40TAg DNAでは、Qiagenキットで精製したものと比較して、3倍から5倍のTAg蛋白質の発現がみられた。これらの結果は、高圧により単離されたプラスミドDNAの品質と安定性を示している。
【0165】
実施例4
DEAE陰イオン交換カートリッジによる全RNAの単離
TAgを安定に発現するBSC40細胞をChomczynskiらの方法(Anal. Biochem., 162:156-159, 1987)で溶解した。1mlのRNA STAT-60TM(Tel-test, Inc., Friendswood, TX)を細胞に直接加えた。5分間室温に置いた後、細胞をプレートから剥がし、ピペッティングにより均質化し、滅菌したマイクロ遠心チューブに移した。クロロホルムを0.2ml加え、15秒間激しく混合し、遠心により上層の水相を分離した。イソプロパノール沈殿によって得られたマイクロ遠心チューブ中のRNAのペレットを、50μlのRNase不含滅菌水に溶解した。RNAサンプル10μlを平衡化緩衝液500μl(750mM塩化ナトリウム、50mM MOPS, pH7.0、15%エタノール、0.15%Triton X-100)と混ぜた。
【0166】
Qiagen陰イオン交換樹脂を実施例1で述べたように「半分に区切られたカラム」に充填し、平衡化緩衝液1mlで洗浄した。RNAサンプル300μlをDEAEカラムに3分以上かけて注入した。MO緩衝液1ml(1M塩化ナトリウム、50mM MOPS, pH7.0、15%エタノール)と、溶出緩衝液200μl(250mM塩化ナトリウム、50mM Tris-HCl, pH8.5)にてカラムを洗浄した。23,600psiにおいて、4つの100μlの溶出フラクションと3つの300μlの溶出フラクションを連続して集めた。DEAEカラムを圧流装置から取り外した後、カラムを高塩緩衝液1ml(1.25M塩化ナトリウム、50mM Tris-HCl, pH8.5、15%エタノール)にて洗浄した。
【0167】
集めたサンプル中のRNAを、OliGreen DNA結合色素で定量した。バックグラウンドシグナルを下げるために、RNA分析溶液を1200倍希釈したOliGreenを含むTE緩衝液(10mM Tris-HCl、1mM EDTA, pH7.5)で125倍に希釈した。蛍光放射強度(λexm=485nm、λem=580nm)を、FLUOROCOUNTTMマイクロプレート蛍光計(Packard Instrument Company, Meriden, CT)にて、バックグラウンドを差し引かないで測定した。既知のλDNA濃度から得た標準曲線と、測定値とを比較してRNAを定量した。溶出フラクション中の全RNA量をカラムに結合した全RNA量で割って、溶出フラクション中のRNAの回収率を求めた。
【0168】
23,600psiにおいては、最初の4つのフラクションに60%以上のRNAがDEAE樹脂から解離してくることがわかった。次の3つのフラクションには約40%が含まれていたので、100%の回収率が達成された。この結果を確かめるために、高塩洗浄溶液を分析したところ、確かにその後の高塩洗浄溶液中にはRNAは検出されなかった。単離したRNAの完全性と精製度を、高圧を用いたものと、もとのRNAサンプルとで比較するために、両方のサンプルを0.8%アガロースゲルで分析した。その結果、高圧でDEAE陰イオン交換カートリッジで単離したRNAでは28Sおよび18S rRNAの分解は全く起こっていなかった。これらの結果により、高圧法を用いることで、剪断や分解を起こすことなく効果的に全RNAを単離できることが示唆された。電気泳動の結果から見積もられるRNAの収量は、蛍光分析で見積もられたものと合致していた。高圧によってRNAは、より低い塩濃度においても、物理的な完全性を保ったままカラムから溶出されることがわかった。
【0169】
実施例5
真核細胞サンプルからのメッセンジャーRNA(mRNA)の精製
固相を含む2つのカートリッジを順番に接続して、第一のカートリッジからの溶出物が第二のカートリッジに注入されるようにする。第一のカートリッジには活性化済DEAE陰イオン交換樹脂を充填し、第二のカラムにはポリチミジン(poly-dT)を共有結合させた樹脂を充填する。
【0170】
標準となるmRNA(陽性対照)を、POLY(A)PURETMキット(Ambion, Austin, TX)を用いて常法にて精製する。poly-dA mRNAとpoly-dT樹脂が、常圧ではほとんど結合しないが高圧では強く結合するような塩濃度を(試行錯誤の末)見つける。100mM NaCl、10mM Tris-HCl(pH7.2)からなる緩衝液中、常圧下でサンプルをpoly-dT樹脂を含むカートリッジにロードする。次に、10mM Tris-HCl(pH8.0)、0〜100mM NaClからなる緩衝液300μlで、NaCl濃度を10mMずつ上げながらサンプルを溶出する。Macrocon-100TMスピンフィルター(Millipore)を用いて、10mM Tris-HCl(pH8.0)で2回洗浄してサンプルから塩を除去する。塩濃度の異なるサンプルごとに、29,000psiにて実験を繰り返す。常圧下でほとんど結合せず、高圧下で結合するような緩衝液を選択し、溶液Aとする。
【0171】
培地中で生育させたNIH3T3細胞を常法にて溶解し(Chomczynski et al.、前出)、実施例4で述べた方法でDEAEカラムで全RNAを単離する。細胞片を遠心にて除去する。サンプルを陰イオン交換/poly-dT二重カラムにのせる。カラムを300μlの溶液Aで洗浄する。次にカラムを25,000psiで300μlの溶液Aにて洗浄することで、mRNAを陰イオン交換樹脂からpoly-dT樹脂へ直接移動させる。圧力を常圧に下げ、樹脂を300μlの溶液Aまたは滅菌水で洗浄し、mRNAを回収する。特定の標的転写産物に対する逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、アガロースゲル電気泳動、UV分光、蛋白質結合色素分析にて、サンプルの精製度を分析する。この方法で単離されたmRNAの品質と完全性を決定するために、例えばβ-アクチンのmRNAをβ-アクチンのプライマーを用いてRT-PCRで増幅する(Promega, Madison, WI)。得られたDNA産物を1.0%アガロースゲルで分析し、陽性対照のmRNAのRT-PCRで得られたcDNA産物と比較する。これらの結果は、mRNAは、poly-dTカートリッジで効果的に単離され、25,000psiでpoly-dTカートリッジに移動し、続く分析のために効果的に回収されることを示している。
【0172】
実施例6
高圧で精製されたRNAを用いた、ヒト悪性腫瘍におけるp53変異の検出
実施例4で述べたようにChomczynskiらの方法(前出)と高圧DEAEカラム精製とを組み合わせて、腫瘍サンプルから全RNAを調製する。均質化したヒトサンプルを8M尿素、50mM Tris-Cl緩衝液(pH8.0)で溶解する。500μlの尿素溶液を、常圧下でカートリッジに充填した活性化済DEAE樹脂にロードする。全RNAは29,000psiで溶出される。p53のmRNAを、p53に特異的なプライマーを用いて、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)にて増幅する(Promega, Madison, WI)。得られたDNA産物の塩基配列をSequenase 2.0キット(United States Biochemicals)を用いたジデオキシ連鎖終結法にて決定し、p53の共通配列と比較することで変異分析を行う。このように、細胞からRNA分子を得る方法として、高圧RNA単離が効果的で単純な方法であるといえる。
【0173】
実施例7
ヒト全血からのRNA単離
ヘパリンなどの抗凝血剤を加えた全血300mlを、実施例1で述べたように、DEAE陰イオン交換カートリッジに3分以上かけてロードする。次にカラムを60,000psiに加圧して細胞を溶解し、核酸分子をDEAE樹脂に結合させる。続いて、実施例4で述べたようにRNAを29,000psiで溶出し、連続したフラクションを集め、イソプロパノールで沈殿させ、30mlのRNase不含水に溶解する。
【0174】
対照として、Chomczynskiの方法(Biotechniques, 15:532-536, 1993)によって全RNAを抽出する。全血300μlを赤血球細胞溶解液1.0ml(RBCS;40mM塩化アンモニウム、10mM水酸化カリウム、7.5mM酢酸カリウム、2.5mM重炭酸ナトリウム、0.125mM EDTA、0.1%氷酢酸)と混合する。4℃で10分間おき、残っている赤血球細胞を遠心して沈殿させる(12,000g、30秒)。ペレットに1.0mlのRBCSをあらためて加え、完全に混合する。再度同様に遠心する。上清を取り除き、白血球のペレットを白血球溶解液350μl(LLS;4Mイソチオシアン酸グアニジウム、0.1M β-メルカプトエタノール、10mMクエン酸ナトリウムpH7.0、0.5Mラウリルサルコシン、2.0% Triton X-100)に懸濁する。チューブを激しくボルテックスし、64%エタノールを350μl加える。
【0175】
カラムから溶出された全RNAの品質と完全性は、エチジウムブロマイド染色した未変性1.0%アガロースゲルで分析する。その結果、28Sおよび18S rRNAのきれいなバンドが見えた。さらに、実施例5で述べたようにRT-PCRを用いてβ-アクチンのmRNAの存在を調べた。その結果、精製した血液サンプル中にβ-アクチン由来の明確なシグナルがみられた。
【0176】
実施例8
イオン交換電気泳動における圧力の効果
384μMのローダミン標識デオキシオリゴヌクレオチド21量体5μlと、Qiagenシリカイオン交換樹脂100μlを、25mM TBE緩衝液中で混合した。樹脂や液体を扱うためのリザーバが4つ付いたアクリル製カートリッジに樹脂を入れた。各リザーバの底に電極をつけ、カートリッジの外につけたワイヤによってカートリッジのキャップに接続した。カートリッジをホウ酸緩衝液で満たす。Oリング付きのキャップは、カラム先端を密閉し、ピストンとして働く。カートリッジは加圧装置のキャップ内の4本の電線へと接続されるように設計された。シリコンオイルを加圧剤として用いる。
【0177】
対照として、1.2mAの電流を5,000psiにて15分間流したところ、何の効果もみられなかった。しかし、同じ電流を25,000psiで15分間流すと、標識オリゴヌクレオチドが、陰極側のチャンバから陽極と接しているチャンバへ移動していき、その結果陰極側のレジンが白くなる様子が観察された。電極の極性を逆にしたところ、色が反対側に移動していく様子が見られた。このことは、圧力によってイオン交換樹脂の結合性を調節できることを示している。これにより、核酸分子を、高圧力下、低塩緩衝液中、イオン交換材の中を電気的に移動させて、サンプルを濃縮することができる。
【0178】
実施例9
高圧力による浸透化と電気泳動による細胞やウイルスからの核酸の精製
pACYCプラスミドをもつ大腸菌を5ml培養液にて、100μg/mlのアンピシリンを加えたLuria液体培地(LB/amp)中で600nmにおける光学密度が0.6になるまで培養した。培養液1mlを10,000gで10分間遠心して細胞をペレットにした。上清を捨てて細胞を1mlの蒸留水に懸濁した。実施例8で述べたように、細胞懸濁液90μlと384μMのローダミン標識オリゴヌクレオチド21量体2μlとを高圧電気泳動カートリッジにアプライした。1%アガロースゲルをカートリッジ内の別の区画に作った。カートリッジを30,000psiまで加圧し、35Vで15分間電場をかけた。標識オリゴヌクレオチドがゲル中に移動するのが観察されたことから、DNAが移動するのに適切な電気的処理がなされたことがわかる。アガロース片を針で取り除き、平板アガロースゲルのウェル中に入れた。平板ゲルを、4つの対照とともに泳動する。1)純粋なプラスミド、2)未処理の細胞、3)常圧下のカートリッジ中で電気泳動した細胞、4)電気泳動しないで15分間30,000psiで加圧した細胞。その結果、高圧力による細胞壁と細胞膜の浸透化によってプラスミドDNAを遊離させることができることがわかった。この結果は、プラスミドDNAを一工程で精製できる可能性を示している。溶解、中和、精製といった別々の工程が必要ない。
【0179】
実施例10
変化圧力と一定圧力のどちらかまたは両方による、細胞溶解とRNA精製
マウスNIH3T3細胞を組織培養皿で常法に従って培養した。組織培養皿中の細胞を8mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、剥がしてから500mlのPBSに懸濁した。細胞懸濁液50μlをカプセル内に入れ、シリカ融点オイル(Sigma Chemicals, St. Louis, MO)で満たした圧力室内に挿入した。細胞液をいれたカプセルへの加圧と減圧を60回繰り返した。各サイクルにおいて、カプセルを30,000psiで1.25秒間加圧し、1.25秒間常圧に戻した。別の実験では、カプセルを10分間、60,000psiで一定に保った。
【0180】
細胞がどの程度溶解したかを調べるために、細胞溶解液の一部をカプセルから取り、オリンパス光学位相差顕微鏡にて観察した。加圧していない対照の細胞と比較して、加圧した細胞液には、変化のない細胞が大量に存在しているものの、断片化した細胞や細胞片が含まれていた。各サンプルのうち20μlをとって200μlのOliGreen溶液(1000倍希釈したもの)(Molecular Probes, Eugene, OR)と混ぜた。530nmにおける蛍光放射強度を励起波長485nmで検出した。その結果、加減圧を繰り返して溶解した細胞でも一定圧で溶解した細胞でもともに蛍光強度が10倍になっていた。細胞液中の核酸産物を、1%アガロースゲル電気泳動で調べた。その結果、28Sおよび18S rRNAがみられたことから、加圧された細胞の上清中に含まれる核酸の大部分はRNAであることがわかった。このことはQIAampをもちいた精製試験でも確認された。DNAはQIAampのメンブレンに結合するがRNAは結合しない。
【0181】
陽性対照として、変化圧力または一定圧力によってNIH3T3細胞から遊離してくる全RNAをRNeasyキット#74103(Qiagen, Santa Clarita)にて精製した。高圧精製またはRNeasyキットで単離したRNA産物を、アガロースゲル電気泳動にて分析した。その結果、変化圧力または一定圧力のどちらかまたは両方によって、細胞外膜が壊れていることがわかった。圧力溶解により遊離されるRNAと常法で遊離されるRNAとはよく似たものである。このように、RNA分子が加圧処理中に遊離するので、細胞溶解とRNA精製を同時に一つの処理工程で行うことが可能となる。
【0182】
実施例11
変化圧力と一定圧力のどちらかまたは両方による、細胞溶解と染色体DNA精製
実施例10で述べたような、高圧の変化と一定圧力の与圧のどちらかまたは両方をかけることによる細胞の破壊に加えて、Proteinase Kや界面活性剤といった試薬を加えてもよく、そうすることで核内のDNA/蛋白質複合体から染色体DNAを遊離させることができる。中性あるいは正に荷電した界面活性剤をテストしたが、このような化合物は後に行う高圧精製との同時使用が可能である。そのような界面活性剤としては、NP-40や塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTMA)が挙げられる。まず、DEAE樹脂を2%NP-40、100mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5で活性化し、50mM Tris-Cl、400mM NaCl、2%NP-40、pH8.5からなる緩衝液で平衡化する。次に、実施例1で述べたように、マウスNIH3T3細胞を8mlのPBSで2回洗浄し、剥がして1mlのPBSに懸濁し、DEAEカラム上にアプライする。実施例10で述べたように、高圧の変化と一定の与圧のどちらかまたは両方をカートリッジにかける。染色体DNAの溶出は、35,000psiで電気溶出することで行われる。量と品質の対照として、200μlのNIH3T3細胞液と200μlのスクロース緩衝液(1.28Mスクロース、40mM Trsi-Cl、20mM MgCl、4% Triton X-100、pH7.4)とを混合する。混合物を2,000rpmで15分間遠心し、上清を捨て、400μlの一般的な溶解緩衝液(0.8Mグアニジン塩酸、30mM Tris-HCl、30mM EDTA、5% Tween-20、0.5% Triton X-100、pH8.0)を加え、穏やかにボルテックスし、Proteinase K消化反応を55℃で1時間行う。消化後、溶解液を14,000rpmで10分間遠心する。200μlの上清を取ってQIAamp Tissue Kit #29304のプロトコルに従って核酸を精製する。精製された核酸を最終的に100μlの蒸留水で溶出する。この溶出液に含まれる核酸の内容を、OliGreenにて常法通り分析した。もし対照の蛍光強度が、加圧した細胞と同じくらいであれば、2つの加圧処理は常法と同じくらい効果的であるといえる。
【0183】
このような加圧溶解法は、酵母(S. cerevisiae)にも適用することができる。まず、酵母細胞を一晩または3時間液体培養した。培養液1mlの細胞を1mlのTN緩衝液(20mM Tris-HCl、pH7.4、100mM NaCl)で2回洗浄し、ペレットを1mMのEDTAを含むTN緩衝液(TNE緩衝液)1mlに懸濁した。TNE緩衝液中の酵母を50μl取り、カプセルに入れて30,000psi、2.5秒間の加減圧工程を240回繰り返した。あるいは、60,000psiの一定圧力を10分間かけた。加圧により遊離したDNAの量を調べるために、OliGreen分析を行った。その結果、加圧した酵母では、未処理の細胞に比べて蛍光が2〜4倍になっていた。溶解の効率を上げるために、グラスビーズ(300μl)を酵母TNE液に加え、2分間ボルテックスをかけてから、高圧溶解工程を行った。しかしながら、核酸の収量には目立った変化がなかった。上述のNIH3T3細胞に用いた溶解法では、界面活性剤を添加することで核が破壊され、染色体DNAが遊離した。陽性対照として、リティケースとProteinase Kによる通常の酵素的溶解法(Qiagen Genome DNA Purification Manual, Santa Cliarita,CA)を用いて酵母細胞を壊した。核酸をQAamp Tissue Kit #29304(Qiagen, Santa Cliarita,CA)により精製した。核酸の量を知るために、アガロースゲル電気泳動とOligreen結合分析を行った。その結果、対照の方法と圧力溶解法とで、核酸の収量は変わらなかった。
【0184】
実施例12
植物RNAの分析のためのサンプルからRNaseを不活化する
0.1gのトウモロコシ葉片を、ホルムアルデヒドとCHES緩衝液(pH9)を含む適切な緩衝液中に置く。サンプルを柔軟な密閉チューブに入れ、−10℃に冷却する。温度が平衡に達したら、サンプルを70,000psiで5分間加圧する。サンプルを処理してRNAを回収する。RNAはブロッティングやRT-PCRで検出できる。
【0185】
実施例13
陰イオン交換カートリッジ中での精製
ランダムに切断された様々な長さのDNA断片を(染色体DNAなどから)得るために、陰イオン交換クロマトグラフィーを基盤にした方法を行うことができる。迅速なDNA断片化は、精製された生物学的なサンプルから出発して、高圧陰イオン交換の繰り返しとDNase I消化との組み合わせにより行われる。ヒト血液を溶解し、実施例7で述べたように、陰イオン交換カートリッジ中で精製する。染色体DNAは、100mM NaCl、50mM Trs-Cl、pH7.4からなる緩衝液中、45,000psiでカラムから溶出される。次にこの溶出液とDNase I(Pharmacia, Piscataway, NJ)とを混合し、37℃で様々な時間で保温する。DNase Iを不活化するために、反応液を90℃に3分間おくか、EDTAを最終濃度25mMになるように加える。あるいは、DNase Iを不活化しないままのDNA反応液を、新しいDEAEカートリッジにかけて次の精製段階に進んでもよい。熱処理あるいはEDTA処理した溶液を、新しいDEAEカラムにかける(染色体DNAの精製に用いるものと同じものでよい)。消化されたDNA断片を、100mM NaCl、50mM Tris-Cl、pH7.0からなる緩衝液100μlで、40,000psiにて溶出する。得られたDNAのサイズの分布を、アガロースゲル電気泳動で調べる。このようなサンプル調整法は、DNAハイブリダイゼーションチップに組み込まれていてもよいので、サンプル調製とそれに続くハイブリダイゼーション分析を単一の工程で行うことが可能となる。1%アガロースゲル電気泳動がDNA断片のサイズ分布を確かめるのに使用される。
【0186】
実施例14
圧力による細胞溶解と核酸の精製を統合するためのカートリッジ
設計されたカートリッジは、図10Aおよび10Bに示したように、必須な区画を望み通りに作製することができる。出発材料(細胞液や細胞溶解液など)を区画390にロードする。区画395は(460と470とに二分されている)、固形支持体上のDEAEのようなイオン交換樹脂で満たされ、核酸精製に使用される。この区画には4つの電極410、420、430、440、を取り付けることができる。電極はポリアクリルアミドゲルで保護されている。電極410と420は溶出前の精製に使用され、比較的低い圧力で夾雑物が除かれる(蛋白質、ポリサッカライド、脂質など)。電極430と440は核酸産物を高圧で精製する際に使用される。すべての電極は、実施例10及び11で述べたように、溶解工程において使用される。区画395はプラスチック壁450で隔てられており、核酸分子が460から470まで移動できるようになっていて、クロマトグラフィーの効果で解像度が改善するようになっている。高解像度を得るためには、核酸の荷電と大きさの両方を考慮しなければならない。大きいDNAは樹脂から解離するのにより高い圧力を必要とするので、適切な圧力下では、相対的に小さなDNA分子が最初に溶出される。クロマトグラフィーによる効果により、DNAの大きさの分離度が増す。区画400は吸着物質の層からなる(セルロースベースのフィルターメンブレン、シリカゲル、CaO、綿など)。吸着物質の層は多くの液体を吸着するので、比較的大量の溶液をカートリッジにかけることができ、産物の収量が改善する。区画405と、区画395および400とは核酸浸透膜480によって仕切られており、低塩緩衝液を含む(50mM NaCl、50mM Tris-HCl、pH8.5など)。区画405は物理的に区画390と仕切られているが、その間の障壁490は針を使って穴をあけることができるので、その穴から区画405にある核酸産物をシリンジで集めることができる。
【0187】
カートリッジを扱う際には、血液、細胞培養液、植物あるいは組織培養液を均質化したものなどの生物学的サンプルを区画390に注入する。次に、カートリッジを圧力調節装置内へ移動させる。圧力調節装置内では、電極410、420、430、440が電源に接続され、電圧変化はコンピュータで制御される。圧力は60,000psiまで上昇する。このような圧力では、区画395および400にある樹脂や吸着剤が細胞液によって満たされると同時に、細胞が溶解し、核酸が樹脂に結合する。短時間高圧を保った後、圧力を10,000psiまで下げ、電極410及び420をオンにする。このような圧力下では、樹脂に結合しない蛋白質や他の夾雑分子は電極に移動し、電極を取り囲むポリアクリルアミドゲルに捕捉される。精製が完了したら、チャンバー内の圧力を上げて核酸産物を集め始める。例えば、RNAサンプルを回収するには23,000psiまで、プラスミドの回収には35,000psiまで、染色体DNAの回収には45,000psiまで、それぞれ圧力を上昇させる。電極430および440をオンにすることにより核酸産物を区画405に集める。溶出が完了したら、圧力を下げ、カートリッジを圧力調節装置からはずす。針で穴をあけた区画405から、シリンジで核酸を集めて回収する。
【0188】
実施例15
高圧空気の出し入れを利用した細胞溶解
酵母細胞の一晩培養液50μlを500mlカラムにロードした。ピストンをカラム内に挿入し、外部からの圧力がカラム内に伝わるようにした。カラムを圧力調節装置へ移し、60,000psiで5分間加圧した。減圧し、常圧下で1分間おいてから、再度加圧した。さらに2回減圧と加圧を繰り返し、常圧下で細胞液をカラムより回収した。顕微鏡下での判定を行い、さらに核酸含有量を蛍光色素結合分析で決定した。その結果、高圧空気の出し入れにより、高圧パルスによるものと同等の細胞溶解を起こすことができることがわかった。
【0189】
実施例16
RNA/DNA混合物からRNAの分離
Torula酵母(IV型)の全RNAをSigma(St. Louis, MO)より購入した。pKK223-3(Pharmacia, Piscataway, NJ)をDNA対照として用いた。RNAとDNAをNTM緩衝液(pH7.0)中で混合した(NTM:175mM NaCl、35mM Tris、0.5mM MgCl)。混合物をまず、ステンレス綱カートリッジ内のQiagen DEAE樹脂に結合させた。0.4mlのRNA/DNA液を、活性化済DEAE樹脂をを含むカートリッジに注入したあと、200μlのNTM緩衝液(pH8.5)で洗浄した。23,600psi、NTM緩衝液(pH8.5)での1200μlの溶出フラクションを集めた。カートリッジを1mlの高塩緩衝液(1.25M NaCl、50mM Tris-HCl, pH8.5、15%エタノール)で洗浄した。溶出物をOriGreen蛍光アッセイで分析した。残りの溶出フラクションと高塩緩衝液での洗浄液をエタノール沈殿し、20μlの再蒸留水に溶解した。これらをアガロースゲル電気泳動で確認した。その結果、RNAが完全にDNAから分離されており、RNAが精製されたことがわかった。DNAは高塩洗浄工程で回収されるが、その際わずかにRNAが混入した。このように、高圧力を利用した精製により、RNA/DNA混合物からRNAを分離することができる。
【0190】
実施例17
高温高圧下での酵母細胞の溶解
酵母細胞を高温と高圧のどちらかまたは両方に曝すことで、細胞が溶解するか否かを調べるために、Sigma(St Louis,MO)より取得したパン酵母細胞を12.5mlのYPD液体培地にて30℃で一晩培養した。1.5ml中の1.5×10細胞を10,000rpm、1分間の遠心でペレットにした。細胞を1mlのPBS(pH6)に懸濁し、再度ペレットにした。細胞ペレットは使用するまで氷中に保存した。使用前に細胞を0.5mlのPBS由来の溶解液に懸濁した(77mM NaCl、1.5mM KCl、2.4mM NaHPO、0.8mM KHPO、10%ベントナイト(10mM NaOAc(pH6.0)に溶解)、1% SDS、10mM DTT)。
【0191】
常圧下、25,000psi、40,000psi、60,000psi、82,000psiの圧力と25℃、48℃、86℃の温度の組み合わせで細胞を曝した。各加圧処理は、まず2分間室温で平衡にした後、2分間、それぞれの圧力をかけた。処理が完了したら、細胞サンプルを10,000rpmで1分間遠心した。
【0192】
次に、加圧処理中に細胞から遊離した核酸の量を決定するために上清を調べた。上清中の核酸の量は溶解の程度を反映している。上清50μlと、20mg/mlのProteinase K溶液(BMB)2μlを混合し、45℃に30分間おいた。反応液の10μlを0.8%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色してゲル中の核酸を可視化した。
【0193】
陽性対照として、通常の方法も用いた。1.5×10の酵母細胞を120μlの界面活性剤溶解液(2% Triton X-100、1% SDS、100mM NaCl、10mM Tris-Cl(pH8)、1mM EDTA)に懸濁した。細胞懸濁液を120μlのPCI(フェノール、クロロホルム、イソアミルアルコールを25:24:1の割合で混合した溶液)および直径210〜300μmのクラスビーズ(Sigma)約180mgと混合した。混合液を3〜4分間ボルテックスしたあと、120μlのTEを加え、10,000rpmで5分間遠心した。水相を新しいチューブに移し、660μlのエタノールを加え、チューブをひっくり返して混合した。溶液を12,000rpmで2分間遠心した。ペレットを240μlのTEと2μlのRNase(Ambion)に懸濁し、37℃に5分間おいて細胞由来のRNAを分解した。反応液と6μlの4M NHAcおよび660μlのエタノールとを混合し、2分間遠心した。染色体DNAを含むペレットを500μlのTEに懸濁した。DNA溶液の一部を0.8%アガロースゲルで電気泳動して調べた。
【0194】
その結果、高圧により、25℃および48℃で酵母細胞が溶解することがわかった。同じ圧力では、25℃よりも48℃の方がより完全に細胞が溶解した。86℃での細胞溶解に対しては、圧力の効果はあまりなかった。さらに、細胞溶解における温度の効果は、圧力の効果よりも顕著であった。25℃から48℃に温度を上げることによる溶解の程度の違いは、常圧から82,000psiに圧力を上げたときの違いよりも明らかに大きかった。この結果から、充分な細胞溶解は、細胞を高温と高圧の両方に曝すことで達成されることが示唆された。
【0195】
実施例18
酵母細胞の凍結加圧溶解(1)
1.5×108のパン酵母細胞を洗浄し、前の実施例で述べた、ベントナイトを含むPBS由来の溶解緩衝液に懸濁した。細胞懸濁液のうちの200μlを、10分間の加圧処理にかけた。この加圧処理は−18℃で行われ、常圧と、20,000psi、35,000psi、50,000psi、65,000psiそれぞれとの間の5回サイクルからなる。各サイクルの最終圧力で1分間保たれる。例えば、常圧から50,000psiまで圧力を変化させるサイクルでは、常圧で1分間保ち、50,000psiでさらに1分間保った。80,000psiの圧力まで上昇させ、維持する処理も加えられた。
【0196】
陽性対照として、グラスビーズによる通常の溶解法を、一晩培養液または新鮮な培養液からの細胞を溶解するのに用いた。新鮮な培養液は、0.25mlの一晩培養液を10mlのYPD培地に希釈し、30℃で4時間培養して作製した。
【0197】
前の実施例で述べたように、核酸含有量を決定するために細胞溶解液の上清を調べた。アガロースゲル電気泳動の結果から、ライセートに遊離した染色体DNAの量により、−18℃における細胞溶解の程度を推定した。その結果、常圧から20,000psiまたは35,000psiの間のサイクルで加圧したときの方が、常圧から50,000psiまたは65,000psiの間のサイクルの場合よりも、−18℃での細胞溶解の程度が大きいことがわかった。また、ライセートに遊離されたRNAはほとんど分解していないことがわかった。
【0198】
実施例19
酵母細胞の凍結加圧溶解(2)
パン酵母を12.5mlのYPD培地にて、30℃で一晩培養した。およそ10の細胞を10,000rpmで10分間遠心した。ペレットを1%SDS、10mM DTTを含むPBS由来の溶解液(pH6.0)に懸濁した。次に細胞を5分間の加圧処理にかけた。この処理は、−15℃にて、常圧と37,000psiのサイクルを5回繰り返すものである。
【0199】
陽性対照として、通常のグラスビーズ法にて細胞を溶解した。これは実施例17で述べた。陰性対照として、細胞を常温常圧で溶解液中に5分間おいた。
【0200】
処理後、各サンプルを10,000rpmで10分間遠心し、遊離した核酸と、細胞片及び壊れていない細胞とを分離した。実施例16で述べたように、上清とペレットをそれぞれProteinase Kで処理し、ゲル電気泳動にて分析した。
【0201】
陰性対照のサンプルでは、ほんのわずかな量のトランスファーRNAが上清中に検出されることが、アガロースゲル電気泳動の結果からわかった。一方、陽性対照の上清には、リボソームRNAおよびトランスファーRNAと同様に、染色体DNAが含まれていた。圧力をかけた細胞の上清には、染色体DNA、リボソームRNA、トランスファーRNAが、ほぼ同量ずつ検出された。
【0202】
重要なことに、常圧下で、−15℃と25℃の間の温度サイクルに曝したサンプルでは、−15℃で、同じ回数の圧力サイクルに曝したサンプルに比べて、細胞はあまり溶解していなかった。この発見は、圧力による凍結融解は、温度による凍結融解よりも細胞を効果的に破壊することを示している。
【0203】
実施例20
凍結サンプルの圧力変化
Saccharomyces cerevisiae(パン酵母)をYPD培地にて30℃で一晩培養し、細胞密度を光学顕微鏡にて測定した。10,000gで1分間遠心して酵母を沈殿させ、PBSにて洗浄した。上清を捨て、ペレットを270μlの溶解緩衝液(2%Triton X100、1% SDS、100mM Tris-HCl(pH8)、1mM EDTA)に懸濁した。酵母サンプルは使用するまで−20℃で保存した。酵母サンプルを、加圧装置にかけた。加圧装置はエチレングリコールで満たし、−5℃に制御した。2000psiで5分間、常圧で5分間、圧力を上下させた。サンプルを穏やかにボルテックスし、10,000gで1分間遠心して細胞片を除去した。上清を集め、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出にて精製して、DNAをPicoGreen蛍光色素(Molecular Probes, WA)にて定量した。収量を対照サンプルと比較した。対照サンプルは、溶解緩衝液中でグラスビーズとともにボルテックスして壊した(Rose, Winston and Hieter, "Methods in Yeast Genetics")。2000psiに加圧したサンプルの収量は、陽性対照のDNA量の50%であった。一方、15,000psiに加圧したサンプルの収量は、対照の10%にすぎなかった。
【0204】
他の形態
上の記述から、当業者は本発明の本質的な特徴を確かめることが可能である。また、本発明の意図および範囲から逸脱しない限りにおいて、種々の使用法および条件に適合するように、種々の変更及び変形を本発明に加えることも可能である。
【0205】
本発明について詳細な記述とともに述べてきたが、上記の記述は、説明を意図したものであって、添付した請求の範囲を制限するものではない、ということは言うまでもない。他の態様、優位性および変形は、以下に続く請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力調整装置であって、
少なくとも2つの電極を含む電極アレイシステムと、
圧力チャンバ内に位置する相と接触する導電性の流体を収容し、前記電極を接続する導管と、
を含む圧力調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記導管と接続され導管によって移送される物質を収容する少なくとも1つのリザーバをさらに含む装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、
前記リザーバは、前記圧力チャンバ内に位置する装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置において、
前記導管は、非導電体のチューブを含む圧力調整装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置において、
前記圧力チャンバからまたは圧力チャンバへ圧力を伝達する圧力伝達装置をさらに有する装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置において、
少なくとも3つの電極を含む装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、
前記電極は、少なくとも2つの軸を規定する装置。
【請求項8】
サンプルから核酸を精製する方法であって、
サンプルと、前記請求項1の装置の相であって核酸をサンプルの非核酸物質を結合させるより大きな親和力で核酸を非特異的に結合させる相と、を初期圧力において接触させ、 少なくともいくつかの非核酸物質を前記電極の1つに向けて移送し、
核酸の相との結合を破壊するのに十分なレベルに圧力を調整し、
核酸を第2の前記電極に向けて移送する方法。
【請求項9】
請求項1に記載の装置において、
前記導管は、電気泳動性の毛管を含む装置。
【請求項10】
サンプルから核酸を精製する方法であって、
サンプルと、前記請求項9の装置の相であって核酸をサンプルの非核酸物質を結合させるより大きな親和力で核酸を非特異的に結合させる相と、を初期圧力において接触させ、 少なくともいくつかの非核酸物質を核酸から電気泳動的に分離し、
核酸の相との結合を破壊するのに十分なレベルに圧力を調整し、
調整された圧力で、核酸を相から電気泳動的に分離する方法。
【請求項11】
請求項1に記載の装置において、
前記導管は、電気浸透性の毛管を含む圧力調整装置。
【請求項12】
サンプルから核酸を精製する方法であって、
サンプルと、前記請求項11の装置の相であって核酸をサンプルの非核酸物質を結合させるより大きな親和力で核酸を非特異的に結合させる相と、を初期圧力において接触させ、
少なくともいくつかの非核酸物質を核酸から電気浸透的に分離し、
核酸の相との結合を破壊するのに十分なレベルに圧力を調整し、
調整された圧力で、核酸を相から電気浸透的に分離する方法。
【請求項13】
請求項1に記載の装置において、
前記電極アレイシステムは、マイクロチップ上に構成されている装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置において、
前記相は、ヒドロキシアパタイトを含む装置。
【請求項15】
請求項1に記載の装置において、
前記相は、固定化された核酸分子を含む装置。
【請求項16】
請求項1に記載の装置において、
前記相はシリカを含む装置。
【請求項17】
請求項1に記載の装置において、
前記相はアニオン交換樹脂を含む装置。
【請求項18】
サンプルから核酸を精製する方法であって、
サンプルを、サンプルの非核酸物質を結合させるより大きな親和力で核酸を非特異的に結合させる相に対し、初期圧力において加え、
少なくともいくつかの非核酸物質を相および核酸から空間的に分離し、
核酸の相との結合を破壊するのに十分なレベルに圧力を調整し、
調整された圧力で、核酸を相から空間的に分離し、
前記サンプルを加えるステップおよび第1の空間的な分離ステップは、単一の反応槽内で行われる方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記第1の空間的分離ステップは、非核酸物質をリザーバへ移送することを含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
前記リザーバは結合物質を含む方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法において、
前記第1の空間的な分離ステップは、電気的泳動を含む方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法において、
前記第1の空間的な分離ステップは、電気的浸透を含む方法。
【請求項23】
請求項18に記載の方法において、
前記初期圧力は、大気圧であり、前記調整された圧力は、上昇された圧力である方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、
前記上昇された圧力は500〜100,000psiである方法。
【請求項25】
請求項18に記載の方法において、
前記サンプルは、細胞を含み、
サンプルを細胞が溶解するに十分な高圧とすることをさらに含む方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、
前記細胞は、外側膜および核膜を含み、
前記高圧は、外側膜を溶解させるのに十分であるが、核膜を溶解させるには不十分である方法。
【請求項27】
請求項18に記載の方法において、
前記サンプルは、核酸結合蛋白を含み、
サンプルを核酸結合蛋白を不活性化するのに十分な高圧とすることをさらに含む方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、
核酸結合蛋白はヌクレアーゼ酵素を含む方法。
【請求項29】
請求項18に記載の方法において、
前記サンプルは、
種々のサイズの核酸を含み、
前記調整された圧力レベルは、比較的少量の核酸を相との結合を破壊し、
さらに、
調整された圧力を比較的多くの核酸と相との結合を破壊するのに十分なレベルのさらに調整された圧力とし、
このさらに調整された圧力において、核酸を相から空間的に分離する方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは、生物学的流体を含む方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは、全血を含む方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは、血清および血漿を含む方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは、培養された細胞を含む方法。
【請求項34】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは腫瘍生検組織を含む方法。
【請求項35】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは植物組織を含む方法。
【請求項36】
請求項25に記載の方法において、
前記サンプルは生きている組織を含む方法。
【請求項37】
請求項18に記載の方法において、
前記核酸は、DNAを含む方法。
【請求項38】
請求項18に記載の方法において、
前記核酸は、RNAを含む方法。
【請求項39】
請求項18に記載の方法において、
前記核酸は、メッセンジャーRNAを含む方法。
【請求項40】
請求項18に記載の方法において、
前記核酸は、ウィルス性のRNAを含む方法。
【請求項41】
請求項37に記載の方法において、
前記DNAは、染色体DNAを含む方法。
【請求項42】
請求項37に記載の方法において、
前記DNAは、ベクタを含む方法。
【請求項43】
請求項37に記載の方法において、
前記DNAは、ウィルス性DNAを含む方法。
【請求項44】
請求項18に記載の方法において、
前記調整された圧力はベクタDNAを溶離するのに十分であるが、染色体DNAを溶離するの十分なほど高くない方法。
【請求項45】
請求項18に記載の方法において、
前記調整された圧力はベクタRNAを溶離するのに十分であるが、染色体DNAを溶離するの十分なほど高くない方法。
【請求項46】
請求項18に記載の方法において、
ジカルボニル物質をサンプルに添加し核酸結合蛋白を不活性化する方法。
【請求項47】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、ヒドロキシアパタイトを含む方法。
【請求項48】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、固定化された核酸分子を含む方法。
【請求項49】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、シリカを含む方法。
【請求項50】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、アニオン交換樹脂を含む方法。
【請求項51】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、圧力感応ゲルを含む方法。
【請求項52】
請求項18に記載の方法において、
前記相は、圧力安定媒体を含む方法。
【請求項53】
請求項52に記載の方法において、
前記圧力安定媒体は、正に帯電した表面を有する1〜50μmのビーズを含む多孔でない樹脂である方法。
【請求項54】
請求項18に記載の方法において、
前記膜の1つは、実質的に核酸が非透過であり、第2の膜は電気的ポテンシャルに印加において増加された透過性を有し、
前記核酸を2つの膜の間に電気泳動で濃縮することを含む方法。
【請求項55】
請求項54に記載の方法において、
前記濃縮は、前記調整された圧力において、行われる方法。
【請求項56】
請求項18に記載の方法において、
電気泳動によってフィルタ中に空間的に分離された核酸をトラップすることをさらに含む方法。
【請求項57】
請求項18に記載の方法において、
空間的に分離された核酸を分析機器に移送することをさらに含む方法。
【請求項58】
請求項57に記載の方法において、
前記分析機器は、マトリックス・アシステッド・レーザ・デソープションおよびイオナイザーション(Matrix-assisted Laser Desorption and Ionization(MALDI)質量分析計である方法。
【請求項59】
請求項18に記載の方法を実行する装置であって、
圧力調整装置と、
前記細胞は前記装置内に適用されるセルであって、前記相を含む加圧可能セルと、
を含む装置。
【請求項60】
サンプルを加圧する装置であって、
サンプル室と、
流体を媒体およびサンプル室の間に流し、外部の加圧媒体からサンプル室に圧力を伝達する圧力伝達装置と、
を含む装置。
【請求項61】
請求項60に記載の装置において、
前記サンプル室および圧力伝達装置が内部に形成されたオリフィスを有するチャンバをさらに有する装置。
【請求項62】
請求項60に記載の装置において、
前記圧力伝達装置は、形状記憶合金装置を含む装置。
【請求項63】
請求項60に記載の装置において、
前記圧力伝達装置は、磁歪装置を含む装置。
【請求項64】
請求項61に記載の装置において、
前記チャンバは、シリンダーを含み、前記圧力伝達装置はピストンを含む装置。
【請求項65】
請求項64に記載の装置において、
前記シリンダーは、シールされた端部および開放された端部を有するプラスチックチューブを含み、前記ピストンはゴムのピストンを含む装置。
【請求項66】
請求項60に記載の装置において、
前記チャンバは、微量滴定(マイクロティター)プレートのウェルを含む装置。
【請求項67】
細胞を透過化(permeabilizing)させる方法であって、
請求項60の装置のサンプル室に初期圧力で細胞を充填し、
少なくとも10,000psiに圧力を瞬間的に上昇し、細胞を透過化させる方法。
【請求項68】
請求項67に記載の方法において、
前記サンプル室は、ガスも充填される方法。
【請求項69】
請求項67に記載の方法において、
電圧をサンプル室に印加し、透過化された細胞の少なくともいくつかの物質を細胞の物質から空間的に分離する方法。
【請求項70】
請求項67に記載の方法において、
細胞を凍結することをさらに含む方法。
【請求項71】
改良されたイオン交換クロマトグラフィー方法であって、
高圧を利用してイオン交換物質との結合親和力を調整することを含む方法。
【請求項72】
細胞から分子を分離する方法であって、
細胞を圧力チャンバ内で、少なくとも500psiの上昇された圧力にさらし、細胞を溶解させ、
前記圧力チャンバ内で、分子を細胞から分離する方法。
【請求項73】
請求項72に記載の方法において、
上昇された圧力と大気圧と間の圧力のサイクルを少なくとも2回行う方法。
【請求項74】
請求項72に記載の方法において、
前記分子は、流れている溶媒への溶離、電気泳動、電気浸透、吸着媒体への選択的吸着、ろ過、差動沈殿(differential sedimentation)、蒸発、蒸留、ガスクロマトグラフィーまたは沈殿(precipitation)によって、抽出される方法。
【請求項75】
請求項72に記載の方法において、
前記圧力は、1秒以内に最終的な値に上昇される方法。
【請求項76】
請求項72に記載の方法において、
前記圧力は、0.1秒以内に最終的な値に上昇される方法。
【請求項77】
請求項72に記載の方法において、
前記分子は、細胞が前記上昇された圧力にある時に抽出される方法。
【請求項78】
請求項72に記載の方法において、
セルを大気圧に戻すことをさらに含む方法。
【請求項79】
請求項72に記載の方法において、
少なくともに部分的に分子を前記圧力チャンバ内で精製する方法。
【請求項80】
請求項79に記載の方法において、
前記分子は、流れている溶媒への溶離、電気泳動、電気浸透、吸着媒体への選択的吸着、ろ過、差動沈殿(differential sedimentation)、蒸発、蒸留、ガスクロマトグラフィーまたは沈殿(precipitation)によって、抽出される方法。
【請求項81】
請求項79に記載の方法において、
前記精製ステップは、少なくとも500psiの圧力における変化を必要とする方法。
【請求項82】
請求項72に記載の方法において、
前記セルは、酵母、細菌、真菌(ファンジャイ:fungi)、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞および原生動物細胞の群から選ばれたものである方法。
【請求項83】
請求項78に記載の方法において、
前記細胞は、1秒またはそれ以下で、大気圧に戻される方法。
【請求項84】
請求項78に記載の方法において、
前記細胞は、0.1秒またはそれ以下で、大気圧に戻される方法。
【請求項85】
細胞を溶解させる方法であって、
凍結された細胞を大気圧下で提供し、
細胞を零下の温度に維持しながら、圧力チャンバ内において零下の温度で凍結された細胞が溶けるのに十分な上昇された圧力下にさらし、
圧力チャンバの圧力を減少させて零下の温度で細胞を凍結し、
前記さらす工程と、圧力を減少させる工程を細胞が溶解するまで繰り返す方法。
【請求項86】
請求項85に記載の方法において、
前記零下の温度は、ほぼ−20℃またはそれ以上であり、前記上昇された圧力は、ほぼ28psiと75,000psiの間である方法。
【請求項87】
請求項85に記載の方法において、
前記上昇された圧力は、最終的な値まで、10秒以内に上昇される方法。
【請求項88】
請求項85に記載の方法において、
前記上昇された圧力は、最終的な値まで、1秒以内に上昇される方法。
【請求項89】
請求項85に記載の方法において、
前記細胞は、細菌、真菌細胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞または原生動物細胞である方法。
【請求項90】
請求項85に記載の方法において、
前記細胞は、酵母細胞である方法。
【請求項91】
生物学的成分を液体サンプルから分離する方法であって、
圧力チャンバ内において、サンプルを零下の温度において液体状態に維持するのに十分な上昇された圧力にさらし、
上昇された圧力を維持する一方、サンプルの温度を零下に下降させ、
上昇された圧力および零下の温度を維持している間にサンプルから生物学的成分を分離する方法。
【請求項92】
請求項91に記載の方法において、
前記零下の温度は、ほぼ−20℃またはそれ以上であり、前記上昇された圧力は、ほぼ28psiと75,000psiの間である方法。
【請求項93】
圧力調整装置であって、
少なくとも2つの電極を含む電極アレイシステムと、
圧力チャンバ内に位置する相と接触する導電性の流体を収容し、前記電極を接続する導管と、
前記圧力チャンバ内の温度を制御する手段と、
を含む圧力調整装置。
【請求項94】
請求項93に記載の圧力調整装置であって、
前記導管と接続され導管によって移送される物質を収容する少なくとも1つのリザーバをさらに含む装置。
【請求項95】
液体サンプルから核酸を精製する方法であって、
サンプルと、前記請求項93の装置の相であって核酸をサンプルの非核酸物質を結合させるより大きな親和力で核酸を非特異的に結合させる相と、を初期圧力において接触させ、
少なくともいくつかの非核酸物質を前記電極の1つに向けて移送し、
核酸の相との結合を破壊するのに十分なレベルに圧力を調整し、
核酸を第2の前記電極に向けて移送し、
かつ、前記初期圧力または調整された圧力または両方は、サンプルを零下の温度で液体状態に維持するのに十分な圧力である方法。
【請求項96】
請求項95に記載の方法において、
前記核酸は、RNAである方法。
【請求項97】
請求項96に記載の方法において、
前記調整された圧力はRNAを溶離するのに十分であるが、染色体DNAを溶離するの十分なほど高くない方法。
【請求項98】
細胞から分子を分離する方法であって、
圧力チャンバ内において、細胞を少なくとも45℃の温度、少なくとも500psiの圧力にさらし、溶解された細胞を形成し、
圧力チャンバ内で、溶解された細胞から分子を分離する方法。
【請求項99】
請求項98において、
前記温度は、ほぼ50℃からほぼ90℃の範囲にある方法。
【請求項100】
細胞または組織を破壊、または微生物を不活性化する方法であって、
サンプルを凍結し、
サンプルを凍結状態に維持しつつ圧力を脈動させ、細胞、組織、または微生物を破壊する方法。
【請求項101】
サンプル中の蛋白を不活性化する方法であって、
サンプルに、イソチオシアン酸塩(isothiocyanates)、1,2−および1,3−ジカルボニル化合物(dicarbonyl compounds)、マレイミド(maleimides)、スクシンイミド(succinimides)、スルフォニルクロライド(sulfonyl chlorides)、アルデヒド(aldehydes)、ニンヒドリン(ninhydrin)、オルトフタルアルデヒド(ortho- phthalaldehyde)、ヨードアセタミド(iodoacetamide)、β−メルカプトエタノール(β−mercaptoethanol)、
および架橋物質の群から選択された1以上の試薬を添加し、反応混合物を形成し、
反応混合物を加圧し、蛋白を不活性化する方法。
【請求項102】
請求項101に記載の方法において、
前記蛋白は、リボヌクレアーゼ酵素である方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2009−254384(P2009−254384A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181058(P2009−181058)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【分割の表示】特願2000−518788(P2000−518788)の分割
【原出願日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(500063055)ビービーアイ バイオセック インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】