説明

圧力波過給機

【課題】ロータが熱によって伸びてもロータとハウジングとの接触を防止することが可能な圧力波過給機を提供する。
【解決手段】複数のセル13を有するロータ12を回転可能に収容する収容室21と、ロータ12の一方の端面12aが対向する吸気側壁面16aが設けられた固定ハウジング14と、ロータ12の他方の端面12bが対向する排気側壁面18aが設けられた可動ハウジング15とを有し、可動ハウジング15が固定ハウジング14に対して中心線CL方向に相対移動可能に設けられたハウジング11と、可動ハウジング15を中心線CL方向に駆動するアクチュエータ28とを備え、ロータ12と排気側壁面18aとの間の排気側クリアランスCeの大きさが判定値以下か否か判定し、排気側クリアランスCeの大きさが判定値以下と判定した場合は、吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離が拡げられるようにアクチュエータ28が駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内に設けたロータのセル内に吸気と排気とを交互に導入し、セル内に導入した排気の圧力波でそのセル内の吸気を加圧して過給を行う圧力波過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のセルを有するロータがハウジング内に回転自在に設けられ、各セル内に吸気と排気とを交互に導入して過給を行う圧力波過給機が知られている。この圧力波過給機ではハウジング内に排気を導入するので、排気の熱でハウジングやロータが伸びる。そこで、ロータを熱膨張係数が小さいセラミック製とした圧力波過給機が知られている(例えば、特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−159418号公報
【特許文献2】特開2001−515170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の過給機においてもロータを支持している軸が熱によって伸びるため、これによりロータとハウジングとの間のクリアランスの大きさが変化するおそれがある。そして、このクリアランスが小さくなった場合には、ロータとハウジングとが接触するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ロータが熱によって伸びてもロータとハウジングとの接触を防止することが可能な圧力波過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧力波過給機は、中心線方向に貫通する複数のセルを有する円筒状のロータと、前記ロータを前記中心線回りに回転可能に収容する収容室と、前記収容室に収容されているロータの一方の端面が対向する前記収容室の吸気側壁面が設けられた第1ハウジング部材と、前記収容室に収容されているロータの他方の端面が対向する前記収容室の排気側壁面が設けられた第2ハウジング部材と、を有し、前記第2ハウジング部材が前記第1ハウジング部材に対して前記中心線方向に相対移動可能に設けられたハウジングと、前記第2ハウジング部材及び前記第1ハウジング部材の少なくともいずれか一方を前記中心線方向に駆動する駆動手段と、前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが予め設定した所定の判定値以下か否か判定するクリアランス判定手段と、前記クリアランス判定手段によって前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが前記判定値以下と判定された場合に、前記吸気側壁面と前記排気側壁面との間の距離が拡げられるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の圧力波過給機によれば、第2ハウジング部材を第1ハウジング部材に対して中心線方向に相対移動させることができるので、吸気側壁面と排気側壁面との間の距離を適宜に変更することができる。そして、この圧力波過給機では、クリアランス判定手段によってロータと吸気側壁面との間のクリアランス及びロータと排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが判定値以下と判定された場合には吸気側壁面と排気側壁面との距離が拡げられる。そのため、排気の熱によってロータが中心線方向に伸びてロータと吸気側壁面との間及びロータと排気側壁面との間にそれぞれクリアランスを確保することができる。従って、ハウジングとロータとが接触することを防止できる。
【0008】
本発明の圧力波過給機の一形態においては、前記ロータの回転時に発生する音を検出する音圧検出手段をさらに備え、前記クリアランス判定手段は、前記音圧検出手段によって検出された音の音圧が予め設定した所定の判定圧以上の場合に、前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが前記判定値以下と判定してもよい(請求項2)。ロータと吸気側壁面との間のクリアランス又はロータと排気側壁面との間のクリアランスのいずれかのクリアランスが小さくなるとロータの回転時に発生する風切り音が大きくなる。一方、いずれのクリアランスも十分確保されていると風切り音は小さい。このようにロータと吸気側壁面との間のクリアランス及びロータと排気側壁面との間のクリアランスとロータの回転時に発生する風切り音は相関関係を有している。そのため、ロータの回転時に発生する音の音圧に基づいて吸気側壁面又は排気側壁面とロータとの間のクリアランスが判定値以下か否か判定することができる。
【0009】
本発明の圧力波過給機の一形態において、前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの一方のハウジング部材は、円筒状に形成されるとともに外周面に雄ネジ部が設けられており、前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの他方のハウジング部材は、円筒状に形成されるとともに内周面に前記一方のハウジング部材の前記雄ネジ部がねじ込まれる雌ネジ部が設けられ、前記第1ハウジング部材と前記第2ハウジング部材とは、前記一方のハウジング部材の雄ネジ部が前記他方のハウジング部材の雌ネジ部にねじ込まれることにより前記中心線方向に並ぶように組み合わされており、前記駆動手段は、前記一方のハウジング又は他方のハウジング部材のいずれか一方を前記中心線回りに回転駆動してもよい(請求項3)。この場合、一方のハウジング部材又は他方のハウジング部材のいずれか一方を回転させるのみで吸気側壁面と排気側壁面との距離を適宜に変更することができる。
【0010】
本発明の圧力波過給機の一形態において、前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの一方のハウジング部材には、前記中心線方向に突出する凸部が設けられ、前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの他方のハウジング部材には、前記中心線方向に凹んで前記一方のハウジング部材の前記凸部が挿入される凹部が設けられ、前記駆動手段として、前記凸部が挿入されることによって前記凹部内に形成される油圧室と、前記油圧室の油圧を調整可能な油圧調整手段とが設けられていてもよい(請求項4)。この形態では、油圧室がハウジングに設けられるので、駆動手段の一部をハウジングに内蔵させることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の圧力波過給機によれば、第2ハウジング部材を第1ハウジング部材に対して中心線方向に相対移動させることができるので、吸気側壁面と排気側壁面との間の距離を適宜に変更することができる。そして、ロータと吸気側壁面との間のクリアランス及びロータと排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが判定値以下と判定された場合には吸気側壁面と排気側壁面との間の距離が拡げられるので、ハウジングとロータとが接触することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の形態に係る圧力波過給機が組み込まれた内燃機関の概略を示す図。
【図2】圧力波過給機の断面を示す図。
【図3】圧力波過給機を図2の矢印III方向から見た図。
【図4】ECUが実行するアクチュエータ制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】ハウジングとロータとの間のクリアランスの大きさとロータの作動音の音圧との関係の一例を示す図。
【図6】本発明の第2の形態に係る圧力波過給機の断面を示す図。
【図7】図6において円で囲んだ部分を拡大して示す図。
【図8】第2の形態に係る圧力波過給機を図6の矢印VIII方向から見た図。
【図9】第2の形態に係る圧力波過給機の外観を示す図。
【図10】本発明の第3の形態に係る圧力波過給機の断面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る圧力波過給機が組み込まれた内燃機関の概略を示している。この内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるものであり、複数(図1では4つ)の気筒2aを有する機関本体2を備えている。各気筒2aには、それぞれ吸気通路3及び排気通路4が接続されている。この図に示すように吸気通路3には、吸気流れの上流側から順に圧力波過給機10Aの吸気側端部10aと、吸気を冷却するためのインタークーラ5と、吸気量を調整するための吸気制御弁6とが設けられている。排気通路4には、圧力波過給機10Aの排気側端部10bが設けられている。
【0014】
図2は、圧力波過給機10Aの断面を示している。また、図3は、圧力波過給機10Aを図2の矢印III方向から見た図を示している。図2に示すように圧力波過給機10Aは、ハウジング11と、円筒状のロータ12とを備えている。ロータ12には、その中心線CL方向に貫通する複数のセル13が設けられている。ハウジング11は、第1ハウジング部材としての固定ハウジング14と、第2ハウジング部材としての可動ハウジング15とを備えている。各ハウジング14、15はそれぞれ円筒状に形成されている。この図に示すように固定ハウジング14は、可動ハウジング15よりも外径が小さい。固定ハウジング14は、機関本体2や車両の車体等に移動不能に固定されている。
【0015】
固定ハウジング14は、吸気側端部10aとなる円筒状の吸気側壁部16と、吸気側壁部16から中心線CL方向に延びる中空円筒状の内筒部17とを備えている。吸気側壁部16と内筒部17とは外径が略同じであり、吸気側壁部16と内筒部17とは同軸に設けられている。内筒部17は、その内径がロータ12の外径よりも若干大きくなるように形成されている。可動ハウジング15は、排気側端部10bとなる円筒状の排気側壁部18と、排気側壁部18から中心線CL方向に延びる中空円筒状の外筒部19とを備えている。排気側壁部18と外筒部19とは外径が同じであり、排気側壁部18と外筒部19とは同軸に設けられている。この図に示すように外筒部19は、小径部19aと、内径が小径部19aより大きい大径部19bとを備えている。小径部19aと大径部19bとは、排気側壁部18から小径部19a、大径部19bの順で中心線CL方向に並ぶように設けられている。また、小径部19aと大径部19bとは同軸に設けられている。小径部19aは、その内径が内筒部17の内径と同じになるように形成されている。大径部19bは、その内径が内筒部17の外径よりも大きくなるように形成されている。
【0016】
この図に示すように固定ハウジング14と可動ハウジング15とは同軸に組み合わされている。また、可動ハウジング15は、固定ハウジング14の内筒部17が外筒部19の大径部19b内に挿入されるようにして固定ハウジング14に組み付けられている。この際、可動ハウジング15は、中心線CL方向に移動可能なように固定ハウジング14に組み付けられている。そのため、ハウジング11は中心線CL方向に伸縮可能なように構成されている。外筒部19の大径部19bの内周面と内筒部17の外周面との間には、この隙間を塞ぐための複数のシール部材20が設けられている。
【0017】
このように固定ハウジング14と可動ハウジング15とを組み合わせることにより、ハウジング11内に収容室21が形成される。収容室21内には、ロータ12が固定ハウジング14及び可動ハウジング15とそれぞれ同軸になり、かつ中心線CL回りに回転可能なように収容されている。また、この図に示すようにロータ12は、一方の端面12aが収容室21の吸気側壁面16aと対向し、他方の端面12bが収容室21の排気側壁面18aと対向するように収容室21内に収容されている。
【0018】
吸気側壁部16には、吸気導入ポート22及び吸気吐出ポート23が設けられている。吸気導入ポート22は収容室21内と吸気通路3のうち圧力波過給機10Aよりも吸気の流れ方向上流側の区間3aとを接続し、吸気吐出ポート23は収容室21内と吸気通路3のうち圧力波過給機10Aよりも吸気の流れ方向下流側の区間3bとを接続している。排気側壁部18には、排気導入ポート24及び排気吐出ポート25が設けられている。排気導入ポート24は収容室21内と排気通路4のうち圧力波過給機10Aよりも排気の流れ方向上流側の区間4aとを接続し、排気吐出ポート25は収容室21内と排気通路4のうち圧力波過給機10Aよりも排気の流れ方向下流側の区間4bとを接続している。
【0019】
圧力波過給機10Aは、中心線CL回りに回転可能な回転軸26を備えている。回転軸26は、吸気側壁部16に回転可能に支持されている。また、回転軸26は、中心線CL上に配置されている。回転軸26の一端は、吸気側壁部16から収容室21内に突出している。その回転軸26の一端には、ロータ12が同軸に取り付けられている。回転軸26とロータ12とは、一体に回転するように連結されている。回転軸26の他端は、電動モータ27の出力軸と連結されている。
【0020】
図2及び図3に示すように圧力波過給機10Aには、駆動手段としての複数(図3では5つ)のアクチュエータ28が設けられている。これら複数のアクチュエータ28は、固定ハウジング13の吸気側壁部16の外周面に取り付けられている。また、複数のアクチュエータ28は周方向に所定の間隔で配置されている。図2に示すようにアクチュエータ28は、本体28aと、本体28aに往復動可能に支持されているピストンロッド28bとを備えている。本体28aには、ピストンロッド28bを駆動するための駆動機構(不図示)が設けられている。この駆動機構は、本体28aから突出するピストンロッド28bの長さを調整可能なように構成されている。このアクチュエータ28には、電動シリンダ、油圧シリンダ、又はエアシリンダ等の周知のアクチュエータが用いられる。そのため、詳細な説明は省略する。この図に示すように各アクチュエータ28は、ピストンロッド28aが中心線CL方向に往復動するように固定ハウジング13に設けられている。ピストンロッド28aの先端は、可動ハウジング15と連結されている。そのため、各アクチュエータ28のピストンロッド28bが往復動することにより、ハウジング11が中心線CL方向に伸縮される。
【0021】
圧力波過給機10Aには、電動モータ27によってロータ12が回転駆動されているときに発生する作動音、具体的には風切り音を検出する音圧検出手段としてのマイク29が設けられている。
【0022】
複数のアクチュエータ28の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットであり、所定の制御プログラムに従って吸気制御弁6等の動作を制御することにより、エンジン1を目標とする運転状態に制御する。ECU30には、エンジン1の運転状態を判別するためにクランク軸の回転速度に対応した信号を出力するクランク角センサ31、吸入空気量に対応した信号を出力するエアフローメータ32等が接続されている。また、ECU30には、上述したマイク29も接続されている。この他にもECU30には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0023】
周知のように圧力波過給機10Aは、各セル13内に吸気と排気とを交互に導入し、排気の圧力波でセル13内の吸気を加圧してエンジン1の過給を行う。このようにハウジング11内には排気が導入されるので、ハウジング11及びロータ12が排気の熱で中心線CL方向に伸びる。この際にハウジング11の熱伸びよりもロータ12の熱伸びの方が大きいとロータ12と吸気側壁面16aとの間の吸気側クリアランスCi又はロータ12と排気側壁面18aとの間の排気側クリアランスCeが小さくなり、ロータ12がハウジング11に接触するおそれがある。ロータ12は排気が導入される側の方が高温になるため、吸気側クリアランスCiよりも排気側クリアランスCeの方が小さくなり易い。また、図2に示すように圧力波過給機10Aでは、ロータ12が固定側ハウジング14に支持されているので、ハウジング11を伸縮させた場合には排気側クリアランスCeが変化する。
【0024】
図4は、ECU30がハウジング11とロータ12との接触を回避するために実行するアクチュエータ制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、エンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンを実行することによりECU30が本発明の制御手段として機能する。
【0025】
この制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、エンジン1の回転数、及び吸入空気量等が取得される。また、この処理では、ロータ12の作動音も取得される。次のステップS12では、ロータ12が回転中か否か判定する。ロータ12が停止中と判定した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
一方、ロータ12が回転中と判定した場合はステップS13に進み、ECU30はロータ12の作動音の音圧APが予め設定した所定の判定圧APC以上か否か判定する。図5は、排気側クリアランスCeの大きさとロータ12の作動音(風切り音)の音圧APとの関係の一例を示している。この図に示すように排気側クリアランスCeが小さくなるほど作動音の音圧APが大きくなる。そこで、例えばロータ12が振動してもハウジング11とロータ12との接触を防止可能な最小の排気側クリアランスを実験等により求め、その最小の排気側クリアランスに対応する音圧を判定圧APCに設定する。この図では、破線を引いた位置の音圧が判定圧APCに設定される。そのため、最小の排気側クリアランスが本発明の判定値に対応する。なお、判定圧APCは、上述した最小の排気側クリアランスに対応する音圧に限定されない。この最小の排気側クリアランスに対応する音圧よりも大きめの値を設定するなど判定圧APCはハウジング11とロータ12との接触を回避可能なように適宜に設定してよい。この場合は、判定圧APCに対応する排気側クリアランスの大きさが本発明の判定値となる。なお、この処理を実行することによりECU30が本発明のクリアランス判定手段として機能する。
【0027】
作動音の音圧APが判定圧APC以上と判定した場合はステップS14に進み、ECU30はクリアランス拡大制御を実行する。このクリアランス拡大制御では、ハウジング11が中心線CL方向に予め設定した所定長さだけ伸びるように各アクチュエータ28の動作が制御される。すなわち、可動ハウジング15が図2の矢印R方向に所定長さだけ移動するように各アクチュエータ28の動作が制御される。これにより吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離が拡げられ、排気側クリアランスCeが拡げられる。この際、各アクチュエータ28はそれぞれのピストンロッド28bが同時に同じ長さで伸びるように制御される。所定長さとしては、例えば0.05mmが設定される。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
一方、作動音の音圧APが判定圧APC未満と判定した場合はステップS15に進み、ECU30はクリアランス縮小制御を実行する。クリアランス縮小制御では、ハウジング11が中心線CL方向に予め設定した所定長さだけ縮むように各アクチュエータ28の動作が制御される。すなわち、可動ハウジング15が図2の矢印L方向に所定長さだけ移動するように各アクチュエータ28の動作が制御される。これにより吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離が縮められ、排気側クリアランスCeが縮められる。この際、各アクチュエータ28は、それぞれのピストンロッド28bが同時に同じ長さで縮むように制御される。所定長さには、上述したクリアランス拡大制御と同じ長さが設定される。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0029】
以上に説明したように、第1の形態に係る圧力波過給機10Aによれば、ハウジング11を中心線CL方向に伸縮させることができるので、吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離を適宜に変更することができる。そのため、排気側クリアランスCeの大きさを適宜に変更することができる。従って、ロータ12が排気の熱で中心線CL方向に伸びてもそれに応じてハウジング11を適切に伸縮させることにより、ハウジング11とローラ12との接触を防止することができる。
【0030】
上述したように排気側クリアランスCeとロータ12の作動音の音圧とは相関関係を有しているので、その作動音の音圧に基づいて排気側クリアランスCeが判定値以下か否か判定できる。作動音は圧力波過給機10Aの外面にマイク29を設けても検出可能である。そのため、圧力波過給機10Aにマイク29を設ける部分を新たに加工する必要がない。また、この場合、ロータ12とセンサとを接触させることなく排気側クリアランスCeが小さくなっているか否か判定できる。
【0031】
(第2の形態)
図6〜図9を参照して本発明の第2の形態に係る圧力波過給機10Bについて説明する。なお、この形態において第1の形態と共通の部分については同一の符号を付して説明を省略する。図6は、この形態に係る圧力波過給機10Bの断面を示している。図7は、図6において円で囲んだ部分Pを拡大して示している。図8は、圧力波過給機10Bを図6の矢印VIII方向から見た図を示している。図9は、圧力波過給機10Bの外観を示している。
【0032】
図6及び図7に示すように、この形態の圧力波過給機10Bでは、固定ハウジング14の内筒部17の外周面に雄ネジ部40が設けられている。なお、この形態においても固定ハウジング14は、機関本体2や車両の車体等に移動不能に固定されている。可動ハウジング15の大径部19bの内周面には、その雄ネジ部40がねじ込まれる雌ネジ部41が設けられている。これらの図に示すように雌ネジ部41は、外筒部19の先端部分に設けられている。内筒部17の外周面の先端部分には、シール部材20が配置されるシール部42が設けられている。雄ネジ部40は、そのシール部42よりも吸気側壁部16寄りに設けられている。
【0033】
図6に示すように固定ハウジング14と可動ハウジング15とは、内筒部17の雄ネジ部40が外筒部19の雌ネジ部41にねじ込まれることにより組み合わされている。この場合、可動ハウジング15を中心線CL回りに回転させることによりハウジング11を伸縮させることができる。
【0034】
図8及び図9に示すように圧力波過給機10Bは、駆動手段としての1つのアクチュエータ43を備えている。なお、このアクチュエータ43も第1の形態で示したものと同じであり、本体43aと、本体43aに往復動可能に支持されているピストンロッド43bとを備えている。ピストンロッド43bの先端は、可動ハウジング15の外周面と連結されている。このアクチュエータ43の本体43aは、機関本体2又は車両の車体に移動不能に固定されている。この際、本体43aは、ピストンロッド43bの往復動する方向が雌ネジ部41のネジ山と平行になるように固定される。そのため、アクチュエータ43は、ピストンロッド43bを往復動させることによって可動ハウジング15を回転駆動することができる。
【0035】
この形態においてもアクチュエータ43の動作は、ECU30に制御される。ECU30は、第1の形態と同様に図4の制御ルーチンを実行してアクチュエータ43の動作を制御する。すなわち、ECU30は、ロータ12の作動音の音圧APが判定圧APC以上の場合にはハウジング11が中心線CL方向に伸びるようにアクチュエータ43を制御し、作動音APの音圧が判定圧APC未満の場合にはハウジング11が中心線CL方向に縮むようにアクチュエータ43を制御する。
【0036】
以上に説明したように、この形態では、固定ハウジング14の雄ネジ部40が可動ハウジング15の雌ネジ部41にねじ込まれることによって固定ハウジング14と可動ハウジング15とが組み合わされている。そのため、可動ハウジング15を中心線CL回りに回転させるのみでハウジング11を中心線CL方向に伸縮させることができる。そして、これにより吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離を適宜に変更することができる。従って、ハウジング11とロータ12とが接触することを防止できる。
【0037】
この形態では、1つのアクチュエータ43で可動ハウジング15を中心線CL方向に移動させることができるので、コストを低減できる。また、この形態では、各ネジ部40、41のピッチを変更することにより可動ハウジング15を回転させたときに可動ハウジング15が中心線CL方向に移動する距離を容易に変更できる。なお、この形態ではアクチュエータ43の代わりに電動モータを設けて可動ハウジング15を回転駆動してもよい。
【0038】
(第3の形態)
図10を参照して本発明の第3の形態に係る圧力波過給機10Cを説明する。この図は圧力波過給機10Cの断面を示している。なお、この形態において上述した各形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この図に示すようにこの形態では、外筒部19の先端に中心線CL方向に突出するとともに径方向外側に延びる凸部としてのフランジ部50が設けられている。固定ハウジング14には、内筒部17の代わりに円筒状の円筒部51が設けられている。円筒部51は吸気側壁部16と同軸に設けられている。円筒部51の外径は、フランジ部50の外径よりも大きい。円筒部51には、外筒部19の小径部19aと同じ内径の貫通穴52が同軸に設けられている。貫通穴52の穴の周囲には、凹部としての溝部53が全周に亘って設けられている。溝部53は、中心線CL方向に凹むように設けられている。円筒部51は、溝部53の開口部が可動ハウジング15側を向くように吸気側壁部16に設けられている。この図に示すように溝部53は、その内部にフランジ部50を挿入することが可能なように形成されている。
【0039】
固定ハウジング14と可動ハウジング15とは、フランジ部50が溝部53内に挿入されるようにして同軸に組み合わされている。この図に示すように大径部19bの内周面及びフランジ部50の外周面には、それぞれシール部材20が設けられている。このようにシール部材20を設けることにより溝部53とフランジ部50とに囲まれた部分に油圧室54が形成される。油圧室54には、不図示のオイルポンプから吐出されたオイルを油圧室54に導入するためのオイル通路55が接続されている。オイル通路55には、油圧室54内の油圧を調整可能な油圧調整手段としての油圧バルブ56が設けられている。可動ハウジング15には、可動ハウジング15を固定ハウジング14側に付勢するスプリング57が取り付けられている。
【0040】
この圧力波過給機10Cでは、油圧室54の油圧を高めることによってフランジ部50をこの図の左側に移動させることができるので、ハウジング11を伸ばすことができる。一方、油圧室54の油圧を低下させた場合にはスプリング57によって可動ハウジング15がこの図の左側に移動するので、ハウジング11を縮めることができる。このようにこの形態の圧力波過給機10Cにおいてもハウジング11を伸縮させることができる。このように可動ハウジング15を動かすことにより、油圧室54及び油圧バルブ56が本発明の駆動手段に相当する。
【0041】
油圧バルブ56の動作は、ECU30によって制御される。ECU30は、上述した各形態と同様にこの形態においても図4に示した制御ルーチンを実行して油圧バルブ56の動作を制御する。この形態では、ロータ12の作動音の音圧APが判定圧APC以上の場合には油圧室54の油圧が上昇するように油圧バルブ56が制御され、作動音の音圧APが判定圧APC未満の場合には油圧室54の油圧が低下するように油圧バルブ56が制御される。
【0042】
以上に説明したように、この圧力波過給機10Cにおいてもハウジング11を中心線CL方向に伸縮させることができるので、吸気側壁面16aと排気側壁面18aとの間の距離を適宜に変更することができる。そのため、ロータ12が排気の熱によって中心線CL方向に伸びてもハウジング11を伸ばすことによりハウジング11とロータ12とが接触することを防止できる。また、この形態では、油圧室54の油圧で可動ハウジング15を駆動するので、可動ハウジング15の駆動機構の一部をハウジング11に内蔵させることができる。
【0043】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、ロータと排気側壁面との間のクリアランスが判定値以下か否か判定する方法は音圧に限定されない。ハウジング及びロータが排気の熱によって伸びる長さは、排気の温度に基づいて求めることができる。また、排気の温度は排気の流量及び内燃機関の回転数等と相関関係を有している。そこで、排気量又は内燃機関の回転数等に基づいてクリアランスが判定値以下か否か判定してもよい。この他にもロータと排気側壁面との間のクリアランスの大きさと相関関係を有する種々の物理量に基づいてそのクリアランスが判定値以下か否か判定してよい。
【0044】
上述した各形態では、ハウジングを構成する2つのハウジング部材のうち吸気側に設けられるハウジング部材を移動不能に固定し、排気側に設けられるハウジング部材を移動可能としたが、これらは逆でもよい。すなわち、吸気側に設けられるハウジング部材を移動可能とし、排気側に設けられるハウジング部材を移動不能に固定してもよい。
【0045】
本発明では、ハウジングの伸縮を制御する際に参照するクリアランスは排気側クリアランスに限定されない。吸気側クリアランス及び排気側クリアランスの両方に基づいてハウジングの伸縮を制御してもよいし、吸気側クリアランスに基づいてハウジングの伸縮を制御してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10A、10B、10C 圧力波過給機
11 ハウジング
12 ロータ
12a 一方の端面
12b 他方の端面
13 セル
14 固定ハウジング(第1ハウジング部材)
15 可動ハウジング(第2ハウジング部材)
16a 吸気側壁面
18a 排気側壁面
21 収容室
28 アクチュエータ(駆動手段)
29 マイク(音圧検出手段)
30 エンジンコントロールユニット(クリアランス判定手段、制御手段)
40 雄ネジ部
41 雌ネジ部
50 フランジ部(凸部)
53 溝部(凹部)
54 油圧室
56 油圧バルブ(油圧調整手段)
CL 中心線
Ci ロータと吸気側壁面との間のクリアランス
Ce ロータと排気側壁面との間のクリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線方向に貫通する複数のセルを有する円筒状のロータと、
前記ロータを前記中心線回りに回転可能に収容する収容室と、前記収容室に収容されているロータの一方の端面が対向する前記収容室の吸気側壁面が設けられた第1ハウジング部材と、前記収容室に収容されているロータの他方の端面が対向する前記収容室の排気側壁面が設けられた第2ハウジング部材と、を有し、前記第2ハウジング部材が前記第1ハウジング部材に対して前記中心線方向に相対移動可能に設けられたハウジングと、
前記第2ハウジング部材及び前記第1ハウジング部材の少なくともいずれか一方を前記中心線方向に駆動する駆動手段と、
前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが予め設定した所定の判定値以下か否か判定するクリアランス判定手段と、
前記クリアランス判定手段によって前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが前記判定値以下と判定された場合に、前記吸気側壁面と前記排気側壁面との間の距離が拡げられるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備えている圧力波過給機。
【請求項2】
前記ロータの回転時に発生する音を検出する音圧検出手段をさらに備え、
前記クリアランス判定手段は、前記音圧検出手段によって検出された音の音圧が予め設定した所定の判定圧以上の場合に、前記ロータと前記吸気側壁面との間のクリアランス及び前記ロータと前記排気側壁面との間のクリアランスの少なくともいずれか一方のクリアランスの大きさが前記判定値以下と判定する請求項1に記載の圧力波過給機。
【請求項3】
前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの一方のハウジング部材は、円筒状に形成されるとともに外周面に雄ネジ部が設けられており、
前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの他方のハウジング部材は、円筒状に形成されるとともに内周面に前記一方のハウジング部材の前記雄ネジ部がねじ込まれる雌ネジ部が設けられ、
前記第1ハウジング部材と前記第2ハウジング部材とは、前記一方のハウジング部材の雄ネジ部が前記他方のハウジング部材の雌ネジ部にねじ込まれることにより前記中心線方向に並ぶように組み合わされており、
前記駆動手段は、前記一方のハウジング又は他方のハウジング部材のいずれか一方を前記中心線回りに回転駆動する請求項1又は2に記載の圧力波過給機。
【請求項4】
前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの一方のハウジング部材には、前記中心線方向に突出する凸部が設けられ、
前記第1ハウジング部材及び前記第2ハウジング部材のうちの他方のハウジング部材には、前記中心線方向に凹んで前記一方のハウジング部材の前記凸部が挿入される凹部が設けられ、
前記駆動手段として、前記凸部が挿入されることによって前記凹部内に形成される油圧室と、前記油圧室の油圧を調整可能な油圧調整手段とが設けられている請求項1又は2に記載の圧力波過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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