説明

圧壊抑制型コンクリート柱部材及びそれを用いた柱列

【課題】材軸に直交する断面形状が多角形状(多角柱状)をしたコンクリート柱部材が材軸に直交するせん断力を受けて下端面、もしくは上端面のいずれかの端面の回りに回転変形しようとするときに、多角形の稜線部分の圧壊を抑制する。
【解決手段】材軸に直交する断面形状が多角形状をし、材軸方向の少なくともいずれか一方の端面2から周面3のいずれかの稜線4にかけ、その稜線4を含む表面側の一部が除去された形状に柱部材1を形成する。
その除去部分を、前記稜線4上の1点と、前記端面2における前記稜線4に交わる2辺5、5上の各点を通る平面、もしくは曲面で切除された形状にする。
除去部分を隣接する前記稜線4、4を含む部分にも形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材軸に直交する断面形状が多角形状(多角柱状)をしたコンクリート柱部材が材軸に直交するせん断力を受けて下端面、もしくは上端面のいずれかの端面の回りに回転変形しようとするときに、多角形の稜線部分の圧壊を抑制する性能を持たせた圧壊抑制型コンクリート柱部材、及びそれを用いた柱列に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平面上、2方向に分散して配置されるコンクリート製、もしくはコンクリート造の柱部材が複数本、集合して上部構造の鉛直荷重と水平荷重を負担する架構においては、柱部材は上部構造に作用する水平荷重によって曲げモーメントとせん断力を受ける結果として、例えば下端部の柱脚部(下端面)の回りに回転変形、あるいは転倒しようとする。
【0003】
柱部材の回転変形、あるいは転倒に伴い、断面の圧縮側となるコンクリート部分には圧壊が生じようとする。特にその柱部材が上部構造から高い圧縮力(高軸力)を受ける場合、または部位である場合には小さな回転変形の発生時点から圧壊が生じようとする。従って、例えば図6−(a)に示すように柱部材が水平2方向に分散して配置され、中柱と側柱(隅柱を含む)の区別が付くような柱部材の配列では、柱頭側の上部構造が柱脚側の下部構造に対して相対変位を生じたときに、側柱や隅柱に中柱より高い圧縮力が作用するため、側柱や隅柱が中柱に比べて圧壊し易い。
【0004】
但し、図6−(a)に示す架構において、各柱部材の断面が正方形等、方形状である場合、平面図での長辺方向(X方向)と短辺方向(Y方向)のいずれかの方向の水平力を受けて辺の中間部位置が回転時の中心になるように柱部材が回転するときには、その辺が受ける損傷は一様であり、いずれかの角部(頂点、あるいは隅角部)に損傷が集中することはない。
【0005】
一方、図6−(a)に示すように長辺方向と短辺方向のいずれかに交差する方向の水平力(斜め方向加力)を受けたときには、断面上の回転中心からの距離は各辺の中間部と角部側とで相違し、角部で大きくなる。この関係で、柱部材が角部の回りに回転変形しようとするときには、角部が辺の中間部より柱部材の回転を阻害する状態にあるため、角部に回転変形の初期の段階から圧縮力が作用する結果、角部が辺の中間部位置より損傷し易い。特に水平力の風下(下流)側に位置する隅柱の、風下(下流)側の隅角部には中柱に比べて大きな圧縮力が働くため、より損傷が生じ易い。
【0006】
そこで、コンクリート製(造)の柱部材、または梁部材が端部において回転変形しようとするときに断面上の縁部が損傷を受ける可能性がある場合に備え、部材の端部が当接する箇所に衝撃を吸収する弾性体等の緩衝材を設置すれば、損傷を回避することは可能と考えられる(特許文献1、2参照)。しかしながら、これらの例は柱周辺の緩衝材の応力分担で外力に抵抗する機構であり、コンクリートの断面を著しく減少させているため、コンクリート自体の曲げ強度及び軸耐力を大きく喪失している。また衝撃の吸収を緩衝材に依存しているため、柱部材の角部(隅角部)に対する配慮もなされていない。
【0007】
この他、柱部材に相当する杭の頭部とフーチングの境界に位置する接続部の断面積を杭本体の断面積より縮小することで、接続部への過大な曲げモーメントの作用を回避する方法もある(特許文献3、4参照)。しかしながら、これらの例は曲げ耐力を低下させることで、接続する部材に入力する曲げモーメントの大きさを抑制する方法であり、断面積を大きく欠損しているため、曲げ強度及び軸耐力を大きく喪失する結果を招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−4417号公報(請求項1、請求項3、段落0022〜0030、図1〜図9)
【特許文献2】特開2002−61282号公報(請求項1、段落0016〜0023、図1〜図5)
【特許文献3】特開2002−138469号公報(請求項1、段落0010〜0015、図1、図3、図5〜図7)
【特許文献4】特開2002−242207号公報(請求項1、段落0023〜0058、図1〜図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のように梁部材の上端部と下端部に対応した柱部材中に緩衝材を設置するか、梁部材の端部に緩衝材を設置した場合には、相対的に回転変形を生ずる梁部材の端部を保護することは可能である。但し、特許文献1は損傷の軽減対象が回転変形発生の方向が梁部材端部の上端か下端のいずれかに特定されている梁部材であるため、発生方向が特定されず、特に断面上の隅角部(角部)に損傷が集中し易い柱部材に適用したときに同等な効果を期待することは難しい。
【0010】
特許文献2のように塑性ヒンジの形成予定位置に緩衝材を配置すれば、緩衝材が収縮することで衝撃を緩和することが可能であるが、コンクリート自体の曲げ強度及び軸耐力を大きく低下させることになる。
【0011】
特許文献4のように杭頭部のフーチングとの接続部分を、その断面積が杭本体側からフーチング側へかけて低下する形状(テーパ状)にすれば、接続部分の損傷を低減できることは既に確認されている。しかしながら、断面積が次第に低下する形状に接続部分を形成した場合には、断面積の最も小さい部分の断面積が杭本体の断面積より極端に小さくなるため、前記の通り、杭の曲げ耐力と軸耐力が著しく低下する不利益を招く。
【0012】
本発明は上記背景より、断面上の隅角部に損傷が集中し易い断面形状を有する柱部材がその下端の回りに回転変形しようとするときに隅角部の損傷を回避、あるいは軽減することが可能な圧壊抑制型コンクリート柱部材及びそれを用いた柱列を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明の圧壊抑制型コンクリート柱部材は、材軸に直交する断面形状が多角形状をし、材軸方向の少なくともいずれか一方の端面から周面のいずれかの稜線にかけ、その稜線を含む表面側の一部が除去された形状をし、その除去部分が前記稜線上の1点と、前記端面における前記稜線に交わる2辺上の各点を通る平面、もしくは曲面で切除された形状であることを構成要件とする。
【0014】
「多角形状」とは、各辺が直線から構成される基本的な多角形の他、頂点を除き、少なくとも一部の辺が曲線から構成される形状(ルーローの多角形)も含まれる趣旨である。断面形状が「多角形状」であるから、柱部材は多角柱状になり、極端な例としては三角柱状も含まれる。
【0015】
「材軸方向の少なくともいずれか一方の端面」とは、柱部材の上端面と下端面の少なくともいずれか一方を指し、上端面と下端面の双方を含む場合もある。「端面から周面のいずれかの稜線にかけ、その稜線を含む表面側の一部」とは、柱部材が図1に示すように四角形(方形)等、多角形状の断面を持つ柱(多角柱)の場合に、その端面を形成する多角形のいずれかの隣接する2辺から、周面のいずれかの稜線を含む三角錐形状の部分を指し、その三角錐形状の部分が除去部分になる。柱部材が複数本、集合してピロティを形成するように、柱部材が上端面と下端面の双方において回転変形を起こし易い場合には、上端面と下端面の双方に除去部分が形成されることもある。
【0016】
「除去部分」とは、柱部材が角柱状に形成され、その柱部材を構成するコンクリートの一部を切断(除去)すると仮定したときに除去される部分を指す。「除去部分」は基本的には柱部材の構築時、あるいは製作時に型枠を存置しておくことによって形成されるが、柱部材を角柱状に製作等した後に切除することによって形成されることもある。全長に亘って多角柱状である柱部材本体の少なくともいずれか一方の端面側の、いずれかの隅角部(稜線を含む部分)が除去される結果として、すなわち除去部分の除去によって柱部材には「面取り部」が形成される。
【0017】
「稜線上の1点」は柱部材の端面を形成する多角形の頂点から稜線に沿って軸方向中間部側へ移動した点を指し、「端面における稜線に交わる2辺上の各点」は柱部材の端面を形成する多角形の頂点を挟む隣接する2辺上の2点を指す。この「多角形の頂点から軸方向中間部側へ移動した点」と「その頂点を挟む2辺上の2点」の3点を含む立体が除去部分としての三角錐形状の部分になる。
【0018】
除去部分が平面、もしくは曲面で切除された形状であることから、「除去部分」の除去によって残り、露出する柱部材の表面(「除去部分」除去後の面である上記「面取り部」)は平面か曲面になる。この「除去部分」除去後の面(面取り部)は稜線上の点と、頂点を挟む2辺上の2点を含む三角形状の面になる。
【0019】
図1に示すように端面が方形状である柱部材の四隅(全隅角部)の稜線が除去されれば、残った端面の形状は八角形になる。「除去部分」は多角形の頂点を挟む2辺と稜線を斜辺とする三角錐形状、あるいは多角形の頂点とその頂点を挟む2辺を含む面を底面とする三角錐形状になる。
【0020】
例えば四角柱状の柱部材が図6−(a)に示すような向きで、すなわち端面の2方向の辺がX方向とY方向を向いて配置された架構では、X方向とY方向の水平力(X方向加力とY方向加力)を受けたときに柱部材は辺の回りに回転しようとするから、コンクリートに発生する損傷の可能性は低い。これに対し、双方に交差する方向の水平力(斜め方向加力)を受けたときに、端面の隅角部がより損傷し易いから、「除去部分」(面取り部)は柱部材である多角柱の少なくともいずれか1本の稜線を含む部分に形成されればよい。
【0021】
また図6−(a)に示す柱部材の配置状態のとき、平面上の四隅の隅角部に位置する4本の隅柱の内、左下に位置する隅柱は右上から左下に向かう斜め方向加力の作用時に加力の下流側に位置する関係で、図6−(b)に示すように柱部材の下端面は圧縮力が集中する左下の隅角部において損傷を受け易い。その平面上、左下に位置する隅柱は左下から右上に向かう斜め方向加力の作用時には、加力の上流側に位置する関係で、左下の隅角部が左下に向かう斜め方向加力を受けたときの圧縮力程、下端面の右上の隅角部に圧縮力が大きく作用することがないため、必ずしも右上の隅角部に除去部分(面取り部)を形成する必要はない。
【0022】
そこで、図6−(a)における左下に位置する隅柱の下端面に除去部分(面取り部)を形成するとすれば、柱部材の端面は図4−(a)に示すような形状に形成されればよいことになる。図4−(a)は「除去部分が柱部材の端面における一稜線を含む部分にのみ形成されていること」を要件とする柱部材1を示している(請求項2)。この場合、除去部分の形成が柱部材の端面における一隅角部のみでよいことで、柱部材端面の面積の低減量が小さくて済むため、全隅角部(四隅)の少なくともいずれかの隅角部に除去部分(面取り部)を形成する場合の中では、柱部材の曲げ強度と軸耐力の低下を最小に抑えることができる利点がある。
【0023】
但し、柱部材が隅柱以外の側柱であって、加力の下流側に位置する場合には、例えば図4−(b)において外力(1)、または外力(2)に示す向きの水平力が作用したときに、端面上の下流側に位置する2箇所の隅角部は同等の圧縮力を受ける可能性があるため、この2箇所に除去部分(面取り部)を形成することが妥当な場合もある。
【0024】
図4−(b)は「除去部分が隣接する稜線を含む部分に形成されていること」を要件とする柱部材1を示している(請求項3)。除去部分は隣接する稜線を含む部分に形成されるため、一隅角部を除く三隅角部に除去部分を形成する場合と、全隅角部(四隅)に除去部分を形成する場合を含むが、除去部分の形成が図4−(b)に示すように柱部材の端面における隣接する二隅角部のみでよければ、全隅角部に形成される場合より面積の低減量が半分でよいため、柱部材の曲げ強度と軸耐力の低下は抑えられる。
【0025】
図4−(a)、(b)のいずれの場合も、柱部材の少なくとも一方の端面において、多角形の少なくとも一部の稜線部分が除去された形に柱部材が形成されることで、柱部材の端面は断面上の中心から縁(辺と頂点)までの距離の差が均される形状になるため、圧縮力の集中箇所が少なくなり、柱部材は損傷が生じにくい形状になる。
【0026】
図4−(a)に示す形態の柱部材は図7に示すように複数本の柱部材が平面上、2方向に配列した柱列の中で、X方向とY方向に傾斜した方向からの水平力(斜め方向加力)を受けたときに、加力の下流側に位置する隅柱、及び側柱としての使用に適する(請求項7)。隅柱の場合も側柱の場合も、柱部材は図7に示すように端面の四隅の内、加力の下流側に位置したときに、圧壊が発生し易い下流側の隅角部に除去部分(面取り部)が位置するように配置される。
【0027】
請求項7に記載の発明の圧壊抑制型コンクリート柱部材を用いた柱列は、複数本の柱部材が平面上、2方向に配列した柱列において、前記柱部材の内、平面上の隅角部、または平面上の隅角部を含む外周部に位置する柱部材に請求項2、請求項3、または後述の請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材が使用され、その圧壊抑制型コンクリート柱部材の除去部分は前記平面上の隅角部、または平面上の隅角部を含む外周部と同一位置にあることを構成要件とする。
【0028】
請求項2に記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材は「除去部分が端面における一稜線を含む部分にのみ形成されていること」を要件とする圧壊抑制型コンクリート柱部材を指し(図4−(a))、請求項3に記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材は「除去部分が隣接する稜線を含む部分に形成されていること」を要件とする柱部材を指す(図4−(b))。「平面上の隅角部を含む外周部」とは、図6−(a)、図7に示すように平面上、2方向に配列した柱列の内、(中柱を除く)外周部に配置されている柱部材(隅柱と側柱)を指す。
【0029】
図4−(a)に示す柱部材の形状は柱部材が高い軸方向圧縮力(高軸力)を受ける場合、もしくは部位において、加力の下流側になることが想定される場合の除去部分(面取り部6)の形成例を示している。ここでは面取り部6の面と柱部材1の端面2との交わる線が直線である場合を示しているが、(b)に示すように曲線になることもある。
【0030】
面取り部6は柱部材1が圧縮力と水平力を受けることによって最も損傷を受け易い隅角部に優先的に形成され、場合により次に(2次的に)損傷を受ける可能性のある隅角部にも形成される。その場合、最も損傷の可能性のある面取り部6の面積を相対的に大きく、2次的な面取り部6の面積を相対的に小さく形成することで、柱部材1端面2の面積の縮小化を抑え、柱部材1の圧縮耐力の低下を抑えることができる。
【0031】
柱部材の端面2は隅角部(稜線4を含む部分)寄りの部分において除去されることに加え、図2−(a)に示すように柱部材の隣接する稜線4、4を含む部分と共に、この隣接する稜線4、4を含む除去部分間の、端面2の辺5を含む部分が更に除去された形状をしていることもある(請求項4)。
【0032】
請求項1では除去部分(面取り部6)が柱部材の端面2の隅角部に形成されることで、柱部材のコンクリートの損傷(圧壊)は端面2の隅角部で抑制されるが、請求項4では隅角部間の辺5の部分にも面取り部7が形成されることで、辺5の部分においても損傷が抑制される。従って結果的に隅角部(稜線部分)と辺5に連続して除去部分(面取り部7)が形成され、端面2の全周に連続して面取り部6と面取り部7が形成された場合にはその全周の損傷を抑制することが可能になる。
【0033】
除去部分が不在になった柱部材は鉄筋コンクリート造、もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造の柱として現場打ちコンクリート造で構築される他、プレキャストコンクリートで製作される。柱部材はプレストレストコンクリート造(製)の場合もあり、いずれの場合も、除去部分にその除去面を有する型枠を配置しておくことで、構築、もしくは製作される。
【0034】
柱部材内の柱主筋81、82は引張力に対する抵抗要素であるから、図3に示すように柱部材の表面寄りの範囲に、周方向に均等に配筋されるが、全柱主筋81、82の内、材軸に直交する断面上、稜線4を含む隅角部の前記除去部分(面取り部6)の領域に配筋される柱主筋82は原則として除去部分から突出させないために、除去部分に到達していない状態になり(請求項5)、柱主筋82の端部は図3−(a)に示すように除去部分の手前で止まる。
【0035】
但し、除去部分(面取り部6)の領域に配筋される柱主筋82の端部が除去部分(面取り部6)から突出(露出)しても柱部材の回転上、支障がなく、突出(露出)部分が平常時に何らかの部材によって保護された状態にあれば、柱主筋82の端部は面取り部6から突出することもある。
【0036】
全柱主筋は図5−(a)、(b)に示すように材軸に直交する断面上、前記除去部分(面取り部6)以外の領域に配筋されていることもある(請求項6)。この場合、柱部材内には除去部分(面取り部)がない場合と同数の柱主筋が配筋され、図3の場合のように隅角部寄りに配筋される柱主筋が柱部材の端面で止まることがなく、端面から突出して配筋されるため、柱部材が接合されるべきスラブや梁等の躯体に全柱主筋が定着されることになる。従って全柱主筋に柱部材と躯体との間で引張力を伝達する機能を期待することが可能である。
【発明の効果】
【0037】
柱部材の少なくとも一方の端面において、材軸方向の少なくともいずれか一方の端面から周面のいずれかの稜線にかけ、その稜線を含む表面側の一部が除去された形に柱部材を形成することで、柱部材の端面が、断面上の中心から縁(辺と頂点)までの距離の差が均される形状になるため、柱部材が回転変形するときの圧縮力の集中箇所が少なくなる。この結果、柱部材は損傷が生じにくい形状になるため、柱部材が下端面、もしくは上端面の回りに回転変形するときの稜線部分における損傷(圧壊)の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】材軸方向の両端部を除く本体部分が四角柱状である場合に、端面の四隅位置(全隅角部位置)に除去部分(面取り部)を形成した場合の柱部材の製作例を示した斜視図である。
【図2】端面の辺部分にも除去部分(面取り部)を形成した場合の例を示した斜視図である。
【図3】(a)は柱部材内の柱主筋の配筋状態を示した縦断面図、(b)は(a)のx−x線断面図、(c)は(a)のy−y線断面図である。
【図4】(a)は柱部材の端面の内、一隅角部にのみ面取り部を形成した場合の柱部材の製作例を示した端面図、(b)は隣接する二隅角部に曲面をなす面取り部を形成した場合の柱部材の製作例を示した端面図である。
【図5】(a)は図4−(a)に示す製作例の場合の柱主筋の配筋例を示した軸方向の断面図、(b)は四隅に曲面をなす面取り部を形成した場合の柱主筋の配筋例を示した軸方向の断面図である。
【図6】(a)は複数本の柱部材が平面上、2方向に配列して構成される架構と水平力の作用方向を示した平面図、(b)は(a)において斜め方向に水平力が作用したときに、左下に位置する柱部材が回転変形を起こしたときの様子を示した斜視図である。
【図7】柱部材が水平2方向に配列した図6−(a)に示す柱列において、方形状断面の四隅の中で、加力の下流側に位置する隅角部に除去部分(面取り部)が位置するように隅柱と側柱を配置した場合の配列状態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0040】
図1は材軸に直交する断面形状が多角形状をし、材軸方向の少なくともいずれか一方の端面2から周面3のいずれかの稜線4にかけ、その稜線4を含む表面側の一部が除去された形状をした圧壊抑制型コンクリート柱部材(以下、柱部材)1の製作例を示す。柱部材1は建築構造物における柱としての他、橋脚、橋台等、橋梁等の土木構造物における柱としても使用される。
【0041】
除去部分は図1に示すように稜線4上の1点と、柱部材1の端面2における前記稜線4に交わる2辺5、5上の各点を通る平面、もしくは曲面で切除された形状をし、柱部材1は少なくとも一方の端面2側が除去部分の切除によって面取り部6が形成された形状をしている。柱部材1の端面2は柱部材1の上端面と下端面のいずれか、もしくは双方を指す。図1は端面2の四隅(全隅角部)を除去して面取り部6を形成した場合を示しているが、面取り部6は四隅の内、一隅角部にのみ形成されることもある他、一隅角部を除く三隅角部に形成されることもある。
【0042】
面取り部6は例えば図6−(a)に示す配列状態にある複数本の柱部材1の組み合わせの中で、柱部材1の平面上の配置位置、例えば中柱であるか側柱であるか、または隅柱であるか、あるいは柱部材1の列が支持する架構の形態、例えば壁(耐震壁)付きの架構であるか、壁なしの架構であるか等に応じて柱部材1の下端面と上端面の少なくともいずれか一方、または双方に形成される。
【0043】
面取り部6は図4に示すように多角形をした平面(断面)上の、少なくともいずれかの稜線4を含む範囲に形成されればよく、上記の通り、必ずしも全稜線4を含む範囲に形成される必要はない。図4−(a)、図5−(a)は柱部材1の端面2(断面)が方形(四角形)状である場合に、4箇所ある稜線4の内の1箇所の稜線4を含む範囲にのみ、面取り部6を形成した場合を示す。
【0044】
図4−(a)、図5−(a)は図6−(a)に示すように2方向に、格子状に配列する柱部材1の内、右上から左下に向かう斜め方向加力を受けたときに、加力の下流側である左下に位置する柱部材1の端面2(断面)内で、下流側に位置する隅角部(左下の隅角部における稜線を含む範囲)にのみ、面取り部6を形成した場合を示す。
【0045】
図6−(a)において左下に位置する柱部材1は逆向きの左下から右上に向かう斜め方向加力を受けたときには加力の上流側に位置することで、面取り部6を形成した隅角部の、断面上の中心を挟んだ反対側の隅角部が受ける圧縮力が過大になることがないため、この隅角部(右上の隅角部)には面取り部6を形成していない。
【0046】
図6−(a)に示す配列状態にある2方向の柱部材1が右上から左下に向かう斜め方向加力を受けたとき、右上に位置する柱部材1の加力方向下流側には複数の柱部材1が存在することで、その右上に位置する柱部材1の端面2内での左下の隅角部が受ける圧縮力は過大にはならない。それに対し、左下に位置する柱部材1の加力方向下流側には柱部材1が存在しないため、同じ向きの加力を受けたときに、端面2内での左下の隅角部が受ける圧縮力が過大になり、圧壊が発生し易い。
【0047】
このように2方向の柱部材1の配列状態と加力方向の向きによって各柱部材1の端面2における各隅角部が受ける圧縮力の程度に差があり、圧壊の可能性にも差があるから、各柱部材1のいずれの隅角部に面取り部6を形成するかは、2方向の柱部材1の配列状態とその中での特定の柱部材1の配置位置によって決まる。
【0048】
図4−(b)は図7に示すように斜め2方向の外力(1)、(2)を受けたときに、下流側に位置する2箇所の隅角部(稜線を含む範囲)に面取り部6を形成した場合、図5−(b)は全隅角部に面取り部6を形成した場合を示す。図4−(b)、図5−(b)では特に面取り部6の表面である切除面が曲面である場合を示している。
【0049】
図2は隣接する隅角部間の辺5、5の部分にも、両隅角部における面取り部6、6に跨る面取り部7を形成した場合を示す。面取り部7を形成する場合は、端面2のいずれかの辺5にのみ形成することも、四辺に形成することもある。
【0050】
図3−(a)は柱部材1が下端面において下階側の躯体9の上端面に接合されている状態を示す。柱部材1の断面上は表面寄りに柱主筋81、82が配筋される。躯体9は主にスラブ、梁であるが、柱部材1の設置場所によっては基礎(フーチング)等の場合もある。
【0051】
図3−(a)に示すように柱部材1の断面上、稜線4を含む隅角部の除去部分(面取り部6)以外の領域に配筋される柱主筋81は除去部分(面取り部6)から突出し、下階側の躯体9に到達した状態で配筋されるのに対し、除去部分(面取り部6)の領域に配筋される柱主筋82は除去部分(面取り部6)に到達しない、あるいは面取り部6から突出しない状態で配筋されている。柱主筋81、82はフープ、スパイラル筋等の主筋拘束筋83によって包囲される。
【0052】
柱部材1と躯体9との間での引張力の伝達は面取り部6以外の領域に配筋される柱主筋81が行い、面取り部6の領域に配筋される柱主筋82は柱部材1の内部に生ずる引張力に対する抵抗要素として機能する。
【0053】
図3は柱部材1の断面上、隅角部の除去部分(面取り部6)の領域に面取り部6から突出しない柱主筋82を配筋した場合を示しているが、図5−(a)、(b)は面取り部6の領域に柱主筋82を配筋せず、面取り部6に配筋されるべき柱主筋82を面取り部6より断面上の中心寄りに配置した場合の柱主筋81、82の配筋例を示す。
【0054】
図5−(a)、(b)の場合、断面上、面取り部6に連続する稜線4に最も近い位置に配筋される柱主筋81が面取り部6に配筋されるべき柱主筋82に該当する。但し、この面取り部6に配筋されるべき柱主筋82はそれ以外に配筋される柱主筋81と共に面取り部6以外の範囲に位置することで、柱部材1の端面2から突出して配筋されるため、柱部材1と躯体9との間で引張力を伝達する機能を発揮する。
【0055】
図7は方形状の断面を有する複数本の柱部材1が平面上、2方向(X方向とY方向)に配列した柱列において、2方向の斜め方向加力(図4−(b)における外力(1)、(2))を受けたときに、断面上の四隅(全隅角部)の内、各方向の下流側に位置する隅角部に除去部分(面取り部6)が位置するように隅柱と側柱を配置した場合の配列状態を示す。
【0056】
例えば左上に配置された柱部材1(隅柱)は右下から左上に向かう斜め方向加力を受けたときに、加力の下流側に位置する関係で、断面上の四隅(全隅角部)の内、下流側の隅角部である左上の隅角部が軸方向圧縮力を受けながら、柱部材1がその隅角部の回りに回転変形しようとするから、その左上の隅角部が損傷を受け易い状態にあるため、左上の隅角部には除去部分(面取り部6)が形成されている。逆に、同じ左上に配置された柱部材1(隅柱)において、加力の上流側の隅角部である右下の隅角部は左上の隅角部程の軸方向圧縮力を受けることがなく、圧壊の可能性が低いため、右下の隅角部には除去部分(面取り部6)が形成されていない。
【0057】
同じことは図7において2方向の四隅に配置された他の柱部材1(隅柱)にも当てはまるため、右上の柱部材1(隅柱)には右上の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成し、左下と右下の柱部材1(隅柱)にはそれぞれ左下と右下の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成している。
【0058】
図7において上側の列に位置する側柱(X方向の中間部に位置する2本の柱部材1)の左上と右上の隅角部はそれぞれ右下から左上に向かう斜め方向加力と左下から右上に向かう斜め方向加力を受けたときに加力の下流側になるから、この両隅角部が圧縮力を受けながら回転変形しようとするため、この左上と右上の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成している。
【0059】
同様に下側の列に位置する側柱(X方向の中間部に位置する2本の柱部材1)の左下と右下の隅角部はそれぞれ右上から左下に向かう斜め方向加力と左上から右下に向かう斜め方向加力を受けたときに加力の下流側になるから、この両隅角部が圧縮力を受けながら回転変形しようとするため、この左下と右下の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成している。
【0060】
また図7において左側の列に位置する側柱(Y方向の中間部に位置する1本の柱部材1)の左上と左下の隅角部はそれぞれ右下から左上に向かう斜め方向加力と右上から左下に向かう斜め方向加力を受けたときに加力の下流側になるから、この左上と左下の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成している。
【0061】
同様に右側の列に位置する側柱(Y方向の中間部に位置する1本の柱部材1)の右上と右下の隅角部はそれぞれ左下から右上に向かう斜め方向加力と左上から右下に向かう斜め方向加力を受けたときに加力の下流側になるから、この右上と右下の隅角部にのみ除去部分(面取り部6)を形成している。
【符号の説明】
【0062】
1……柱部材、2……端面、3……周面、4……稜線、5……辺、
6……面取り部、7……面取り部、
81、82……柱主筋、83……主筋拘束筋、
9……躯体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
材軸に直交する断面形状が多角形状をし、材軸方向の少なくともいずれか一方の端面から周面のいずれかの稜線にかけ、その稜線を含む表面側の一部が除去された形状をし、その除去部分は前記稜線上の1点と、前記端面における前記稜線に交わる2辺上の各点を通る平面、もしくは曲面で切除された形状であることを特徴とする圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項2】
前記除去部分が前記端面における一稜線を含む部分にのみ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項3】
前記除去部分が隣接する稜線を含む部分に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項4】
前記隣接する稜線を含む除去部分間の、前記端面の辺を含む部分が更に除去された形状をしていることを特徴とする請求項3に記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項5】
全柱主筋の内、材軸に直交する断面上、前記稜線を含む隅角部の前記除去部分の領域に配筋される柱主筋が前記除去部分に到達していないことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項6】
全柱主筋が材軸に直交する断面上、前記除去部分以外の領域に配筋されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材。
【請求項7】
複数本の柱部材が平面上、2方向に配列した柱列において、前記柱部材の内、平面上の隅角部、または平面上の隅角部を含む外周部に位置する柱部材に請求項2乃至請求項6のいずれかに記載の圧壊抑制型コンクリート柱部材が使用され、その圧壊抑制型コンクリート柱部材の除去部分は前記平面上の隅角部、または平面上の隅角部を含む外周部と同一位置にあることを特徴とする圧壊抑制型コンクリート柱部材を用いた柱列。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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