説明

圧着端子金具及び端子金具付き電線

【課題】細い電線であってもワイヤーバレルによって適切に圧着することができ、さらに軽量化が可能な圧着端子金具及び端子金具付き電線を提供する。
【解決手段】電線30の芯線31を圧着するワイヤーバレル21はアース端子11から連続して軸方向に延びる基板部23と、基板部23の両側から延出する一対の芯線圧着片25を備え、芯線圧着片25の少なくとも先端縁側には、基板部23の厚さよりも薄い厚さの薄肉部27が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着端子金具及び端子金具付き電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の配線には、電線の端末部に端子が圧着されている端子金具付き電線が多用されている。この金具部分である圧着端子金具としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。
【0003】
この圧着端子金具は、オープンバレル形状であって、電線の芯線を圧着するワイヤーバレル部と、電線の絶縁被覆部を圧着するインシュレーションバレル部とを備え、一枚の金属板からプレス加工によって製造されている。ワイヤーバレル部は一対の芯線圧着片を有し、それらの芯線圧着片によって電線の芯線群を圧着すると、各芯線圧着片が内側に屈曲しつつ芯線群を包み込むように変形し、先端が芯線間に分け入るように食い込んで圧着が完了する。
【0004】
ところで、この種の端子金具を製造するための金属板材の板厚は、その端子金具に求められる機械的強度から決定される。一方、端子金具に圧着される電線のサイズは電流容量から決定される。このため、比較的高い強度が要求されながら、電流容量が小さい場合には、電線サイズに比べて端子金具の板厚が相対的に過剰に厚いという結果になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録実用新案第3005065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、端子金具を構成する金属板材は均一厚さの材料が使用されている。このため、電線の細い芯線を相対的に厚いワイヤーバレルが圧着することになり、ワイヤーバレルの先端が芯線間に適切に食い込まず、電線との接触抵抗が高くなったり、電線保持力が低くなったりするといった問題があった。また、この圧着端子金具は、車一台当たりの使用数が非常に多いことから、車両全体の軽量化の一環として、更なる軽量化が望まれている。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、細い電線であってもワイヤーバレルによって適切に圧着することができ、さらに軽量化が可能な圧着端子金具及び端子金具付き電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧着端子金具は、基板部と、前記基板部の両側から延出する一対の芯線圧着片と、からなるワイヤーバレルを備えた圧着端子金具であって、前記芯線圧着片の少なくとも先端縁側に、前記基板部の厚さよりも薄い厚さの薄肉部が形成されている構成としたところに特徴を有する。
【0009】
このような構成によると、端子金具の強度に最も影響する基板部の厚さを変更することなく、電線の芯線部を圧着する芯線圧着片の板厚を薄くすることができるので、圧着端子金具そのものの強度を保ちつつ、細い電線との保持力を高め、芯線と圧着端子金具との間の接触抵抗を低く抑えることができる。また、芯線圧着片に薄肉部を設けることで、薄肉にした分を軽量化することができる。
【0010】
前記薄肉部は、前記圧着端子金具の製造工程において、金属材料板を部分的に押し潰して形成してもよい。このような製造工程によれば、従来と同様な均一厚さの材料を使用し、従来と同様なプレス工程の中で、本発明の圧着端子金具を低コストで製造できる。
【0011】
前記芯線圧着片には、前記基板部の厚さよりも薄い厚さの前記薄肉部が全域に形成されていてもよい。このような構成によれば、より広範囲を薄肉部とすることで、更なる軽量化を見込むことができる。
【0012】
前記薄肉部は、前記基板部側において、厚さが漸次増大する傾斜肉厚部を有していてもよい。肉厚を基板部側に向かって漸次増大させることによって、肉厚が急激に変化することによる応力集中部位の発生を抑えることができる。これにより、圧着端子金具の全体の強度を保つことができる。
【0013】
前記薄肉部の先端縁部には、面取り加工によって傾斜面が形成されていてもよい。これによれば、芯線圧着片の強度を保ちつつ、芯線への食い込みを調整できるから、ワイヤーバレルの芯線への過度の食い込みによる断線や、芯線圧着片を薄くすることによる強度不足に対処することができる。
【0014】
前記ワイヤーバレルの厚さは、前記基板部から前記薄肉部にかけて、漸次薄くなるように傾斜変化させてもよい。これにより、ワイヤーバレル部の一部の肉厚を局所的に薄くして薄肉部を形成するよりも、圧着端子金具としての強度を高めることができ、軽量化することが可能となる。
【0015】
前記ワイヤーバレルは、電線の芯線に接する内側面と、外部に露出される外側面と、を有し、前記内側面は平坦面とされる一方、前記外側面には前記薄肉部と、前記薄肉部に続く前記芯線圧着片又は前記基板部との境界部に、段差又は傾斜面を有していてもよい。内側面を平坦面とし、外側面の片面のみに段差又は傾斜面を設けることで、芯線圧着片が内側に屈曲しやすくし、電線に圧着しやすい構造とすることができる。
【0016】
本発明の端子金具付き電線は、上記の圧着端子金具と、端末において芯線が露出する電線とを備えた端子金具付き電線であって、前記圧着端子金具の前記芯線圧着片は、前記電線の端末の芯線を抱き込むように前記芯線に圧着されており、圧着後の前記芯線圧着片の厚さの平均厚さは、圧着後の前記基板部の厚さの平均厚さよりも、薄くなっていることに特徴を有する。
【0017】
これによれば、圧着された芯線圧着片の厚さの平均厚さが、基板部の厚さの平均厚さよりも薄くなっているから、必要な端子強度を確保しながら端子金具付き電線の軽量化を図ることができる。また、上記構造により端子金具付き電線は、端子金具付き電線そのものの機械的強度を確保し、電線と端子金具との間の保持力を向上させ、電線と端子金具間の接触抵抗を低く抑えることができる。
【0018】
ところで、基板部の厚さは、ワイヤーバレルの圧着条件によって変動を受けやすく、具体的には圧縮率を高くすることで薄くなりやすい。一方、芯線圧着片の厚さは、圧縮率を高めてもほとんど薄くなることはない。したがって、圧着前における芯線圧着片の厚さを基板部の厚さよりも薄く設定した場合でも、圧縮率を高めに設定することにより、圧着後に芯線圧着片の厚さと基板部の厚さとをほぼ同じにすることは十分に可能である。
ここで、圧着後のワイヤーバレルにおける芯線を取り囲む部分の厚さが均一でない場合、芯線に対して荷重が均等に伝わりにくくなることが予想される。特にヒートサイクルなどの耐久試験を行った場合、厚さが薄いところと、厚さが厚いところとでは、温度差に伴う板厚の伸縮量が大きく異なるため、荷重のバラツキが発生する。すなわち、接触抵抗の上昇につながりやすいことを意味している。このような点から、圧着後のワイヤーバレルにおける芯線を取り囲む部分の厚さは均一であることが望ましい。
【0019】
また、圧着前の芯線圧着片の厚さを薄くする方法としては、展開状態における芯線圧着片のみを押し潰す方法の他、芯線圧着片と基板部の双方を押し潰す方法が考えられる。しかしながら、芯線圧着片と基板部の双方を薄くしてしまうと、基板部の平坦度が低下し、基板部に対して端子先端部が上下方向に反る現象(ベンドアップやベンドダウンなどの名称で呼ばれる場合がある)が発生しやすくなる。したがって、圧着機の基台上に基板部を載せて圧着を行う際に位置ずれが発生しやすくなって圧着に支障を来すおそれがある。このような点から、基板部を叩くことなく芯線圧着片のみを押し潰すことが望ましい。
【0020】
これらの事情を勘案すると、本発明は、上記の圧着端子金具と、端末において芯線が露出する電線とを備えた端子金具付き電線であって、前記圧着端子金具の前記ワイヤーバレルは、前記電線の端末の芯線を囲むように前記芯線に圧着されており、圧着後の前記ワイヤーバレルにおける前記芯線を囲む部分の厚さは、全周方向において均一とされている構成としたところに特徴を有する。ここでいう均一とは、完全に均一である必要はなく、所望の厚さに対して±20%程度の誤差を含むことを意味している。
このような構成によると、圧着後のワイヤーバレルにおける芯線を取り囲む部分の厚さを均一にできるため、芯線に対して均等に荷重を与えることができる。これにより、耐久試験を行う前の初期状態で接触抵抗が安定することに加えて、耐久試験を行った後でも接触抵抗が安定することになる。
【0021】
また、圧着前の前記基板部は、両芯線圧着片を薄肉に成形したことに伴って前記両芯線圧着片の厚さよりも相対的に厚く形成されており、圧着前の前記基板部を圧着機の基台上に載せた後に、同基板部に対して圧着金型を下降させることで、圧着後の前記基板部と圧着後の前記両芯線圧着片が同じ厚さとなる構成としてもよい。
このような構成によると、基板部の平坦度を低下させないで済むため、圧着機の基台上に基板部を載せて圧着を行う際に位置ずれが発生することを回避できる。
【0022】
また、一方の前記芯線圧着片の外側面を延設した第1仮想平面に対して前記一方の芯線圧着片が外れた位置を第1基端部とし、他方の前記芯線圧着片の外側面を延設した第2仮想平面に対して前記他方の芯線圧着片が外れた位置を第2基端部とした場合に、圧着前の前記基板部は、前記両芯線圧着片が対向する幅方向において前記第1基端部と前記第2基端部の間に形成されている構成としてもよい。
このような構成によると、両芯線圧着片が対向する幅方向において第1基端部と第2基端部の外側に基板部が配置されないため、圧着の際に基板部の幅方向両端部が圧着金型と干渉することを回避できる。
【0023】
また、前記基板部の幅方向両側面は、幅方向と直交する上下方向に延びる形態とされている構成としてもよい。
このような構成によると、基板部の幅方向両側面と両芯線圧着片との屈曲部分の角度が180°に近づくため、両芯線圧着片を内側に曲げた際に当該屈曲部分に応力が集中して亀裂が生じるなどの事態を未然に回避できる。
【0024】
電線の絶縁被覆部を圧着するインシュレーションバレルを備え、このインシュレーションバレルは、基板部と、その両側縁から斜め上方に突出する一対の被覆圧着片とからなり、圧着前の両被覆圧着片は、両芯線圧着片を薄肉に成形したことに伴って圧着前の両芯線圧着片の厚さよりも相対的に厚く形成されている構成としてもよい。
細い電線に対応可能な圧着端子金具を提供するにあたって、ワイヤーバレルとインシュレーションバレルの双方を薄肉にしてしまうと、薄肉のインシュレーションバレルによって絶縁被覆部をそのまま圧着した場合に、絶縁被覆部に傷が付くことが予想される。
そこで、圧着前の両被覆圧着片を圧着前の両芯線圧着片よりも相対的に厚肉に形成したため、厚肉のインシュレーションバレルによって絶縁被覆部を圧着した際に、絶縁被覆部に傷が付きにくくなる。一方、薄肉のワイヤーバレルによって芯線を圧着できるため、絶縁被覆部に傷を付けることなく細い電線に対応可能な圧着端子金具を提供できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、細い電線であってもワイヤーバレルによって適切に圧着することができ、さらに軽量化が可能な圧着端子金具及び端子金具付き電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態1に係る圧着端子金具の展開図
【図2】同圧着端子金具の平面図
【図3】同圧着端子金具の側面図
【図4】図3のA−A断面図
【図5】本実施形態に係る端子金具付き電線のワイヤーバレル部の断面図
【図6】実施形態2に係る圧着端子金具の製造工程において、両芯線圧着片を押し潰して形成された薄肉部の位置を示す平面図
【図7】同製造工程において、両芯線圧着片を曲げ加工した後、個片に分割される前の圧着端子金具を示す平面図
【図8】図7における圧着端子金具を側方から見た側面図
【図9】図8におけるB−B線断面図
【図10】本実施形態に係る端子金具付き電線のワイヤーバレル部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図5によって説明する。
本実施形態の圧着端子金具10は、図1に示すように所定形状に打ち抜いた金属材料板に曲げ加工、切り起こし加工等を施して形成されたものである。さらに、後述する本実施形態の端子金具付き電線50は、この圧着端子金具10を電線30の端末部に圧着することにより形成されたものである。以下、図1の左右方向を前後方向として説明する。
【0028】
まず、圧着端子金具10は、図2、3に示すように、前半部分はオープンバレルタイプの電線圧着部20、後半部分は他の同種の圧着端子金具10と組み合わせて一体化されつつボルト挿通孔11に通したボルト(図示せず)によって例えば車両のボディーに固定されるアース端子部12となっている。電線圧着部20は、電線30の芯線31(図5参照)を圧着するためのワイヤーバレル21(図2参照)と、電線30の図示しない絶縁被覆部を圧着するインシュレーションバレル22(同図参照)とを備えている。
【0029】
インシュレーションバレル22は、電線30の図示しない絶縁被覆部が載せられる基板部23と、その両側縁から斜め上方に延出する一対の被覆圧着片24とからなる断面略U字状をなす周知の構成である。
【0030】
一方、ワイヤーバレル21は、図2,3に示すように、インシュレーションバレル22から軸方向に連続して延出していて電線30の芯線31が載せられる基板部23と、その基板部23の両側縁から斜め上方に立ち上げた一対の芯線圧着片25とを有し、やはり電線30の軸方向を横断する方向から見た断面が略U字形状をなしている。なお、芯線圧着片25の立ち上がり寸法は、被覆圧着片24の立ち上がり寸法よりも低く設定してある。
【0031】
また、ワイヤーバレル21において基板部23の内底面からこれに連なる芯線圧着片25の約半分の領域には、電線30の軸方向と直交する方向に延びる3本の凹条26が形成されており(図1,2参照)、これにて圧着した芯線31と基板部23との接触抵抗を低減できるようにしている。
【0032】
さて、芯線圧着片25について電線30の軸方向を横断する方向から見た断面は図4に示す通りで、芯線圧着片25の略全域が基板部23の肉厚よりも薄い薄肉部27となっている。なお、基板部23の厚さはその全域においてほぼ均一な厚さであり、芯線圧着片25の厚さもその全域においてほぼ均一な厚さである。そして、電線30の芯線31に接する内側面13は、平坦面になっていて、外部に露出される外側面14の、基板部23と芯線圧着片25との境界部分には、基板部23から薄肉部27にかけて漸次肉厚が薄くなる傾斜肉厚部28が形成されている。さらに、芯線圧着片25の外面側の先端縁には面取り部29が形成され、芯線圧着片25の先端面の厚さが、薄肉部27の厚さよりも一層薄くされている。
【0033】
なお、図1,2に示すキャリア40は、帯状の金属材料板から本実施形態の圧着端子金具10を製造する際に各圧着端子金具10を連ねておくためのものであり、この部分はプレス工程の最終段階で切り離される。
【0034】
本実施形態の圧着端子金具10は、銅合金等の均一厚さの金属材料板から図1のような展開形状となるように必要箇所を打ち抜きつつ、必要箇所を曲げ加工する周知の順送プレス工程により製造することができる。そのプレス工程中には、金属材料板のうち芯線圧着片25となる部分を、予め所定ギャップを構成する金型間に挟圧して押し潰して材料肉厚を薄くする薄肉化プレス工程を含んでおり、薄肉部27及び傾斜肉厚部28は、芯線圧着片25の芯線圧着側とは反対側の面である外側面14側から、押し潰すことによって形成されている。その後、芯線圧着片25の形状を金属材料板から切り離す剪断工程及び曲げ工程が行われる。
【0035】
上記のように製造された圧着端子金具10は、圧着工程を経て、電線30と圧着されることで端子金具付き電線50が製造される。その工程としては、図示しない圧着機の基台上に圧着端子金具10を固定し、図示しない周知の圧着金型を上方から下降させることで、電線30と、圧着端子金具10とを圧着させる。特に、ワイヤーバレル21においては、芯線圧着片25が、図示しない圧着治具によって圧着端子金具10の軸中心部へ導かれて内側にカールし、図5に示すように、芯線31群が基板部23及び芯線圧着片25によって包み込まれるようになる。そして、芯線圧着片25の先端は芯線31群の間に割り込むようになり、かつ、それらの面取り部29同士が密着するようになって圧着が完了する。
【0036】
このようにして電線30に圧着された圧着端子金具10では、圧着金型によって基板部23及び芯線圧着片25が押し潰されるように塑性変形するため、芯線圧着片25と基板部23との境界部分に圧着工程前に存在していた傾斜肉厚部28は、図5に示すように明瞭には観察できなくなり、圧着後の芯線圧着片25の全域(図5において領域Bにて示す)における平均的な肉厚(平均厚さ)は、圧着後の基板部23の全域(図5において領域Aにて示す)における平均厚さに比べて薄い状態となる。
【0037】
このような構造によれば、圧着端子金具10の強度に最も影響する基板部23の厚さを変更することなく、電線30の芯線31を圧着する芯線圧着片25の板厚を薄くすることができるので、圧着端子金具10そのものの強度を保ちつつ、電線30が細い場合にも、その電線30との保持力を高め、芯線31と圧着端子金具10との間の接触抵抗を低く抑えた圧着端子金具10及び端子金具付き電線50を提供することができる。
【0038】
加えて、従来の圧着端子金具の板厚が均一厚さだったのに対し、本発明では、基板部23に比べて肉厚を薄くした薄肉部27を芯線圧着片25に設けることで、肉厚を薄くした分の圧着端子金具10の軽量化を図ることができる。また、本実施形態では薄肉部27の先端縁に面取り部29を形成したことで、ワイヤーバレル21の両端が芯線31に食い込みやすくして、圧着端子金具10の電線保持力をさらに高くすることができる。
【0039】
さらに、芯線圧着片25の芯線31への圧着側である内側面13とは反対側の、外側面14にのみ肉厚が傾斜する傾斜肉厚部28を設けたことで、芯線圧着片25が芯線31側にカールしやすいようになっている。また、傾斜肉厚部28によって肉厚を漸次増大させることで、肉厚の変わり目に応力集中部位が発生するのを防ぎ、薄肉部27の強度を保つことができる。
【0040】
<実施形態2>
本発明の実施形態2を図6ないし図10によって説明する。なお、本実施形態において実施形態1と対応する構成については、実施形態1の符号を表す数字に100を加えた数字からなる符号を用いるものとする。また、実施形態1と対応する構成、作用、および効果のうち重複するものについては、その説明を省略するものとする。
【0041】
図5と図10を比較すればわかるように、本実施形態の圧着端子金具110は、実施形態1の圧着端子金具10とは異なり、基板部123と芯線圧着片125がほぼ同じ厚さとされている。また、図4と図9を比較すればわかるように、本実施形態では、基板部123の周辺の厚肉部分の領域が実施形態1よりも小さめとされている。
【0042】
圧着端子金具110は、所定形状に打ち抜いた金属材料板に曲げ加工、切り起こし加工等を施して形成されたものである。さらに、後述する本実施形態の端子金具付き電線150は、この圧着端子金具110を電線30の端末部に圧着することにより形成されたものである。
【0043】
圧着端子金具110は、図7に示すように、ボルト接続孔111を有するアース端子部112を備えている。このアース端子部112は、角部が丸みを帯びた略方形の外形を有している。ボルト接続孔111にスタッドボルト(図示せず)を通してナット(図示せず)を締め込むことで圧着端子金具110がスタッドボルトに固定されて導通可能にアース接続されるようになっている。
【0044】
アース端子部112の前方(図7における図示左方)には、ワイヤーバレル121が形成され、このワイヤーバレル121の前方には、インシュレーションバレル122が形成されている。ワイヤーバレル121は、基板部123と、一対の芯線圧着片125とからなる一方、インシュレーションバレル122は、基板部123と、一対の被覆圧着片124とからなる。すなわち、両バレル121,122は、共通の基板部123を有している。ワイヤーバレル121の両芯線圧着片125は、圧着端子金具110の母材となる金属材料板(例えば厚さ0.6mm)を押し潰すことによって薄肉部127(例えば厚さ0.4mm)として形成されている。一方、インシュレーションバレル122の両被覆圧着片124は、押し潰すことなくそのまま成形されているため、金属材料板と同じ厚さである。このため、両被覆圧着片124は、両芯線圧着片125よりも相対的に厚く形成されている。
【0045】
具体的には図6に示すように、圧着端子金具110の展開状態においてワイヤーバレル121の両芯線圧着片125に対応する部分を押し潰して薄肉に形成した後に、外周加工を施すことで薄肉部127が形成されている。ただし、図6では便宜上、両芯線圧着片125の表面側(芯線31と接触する面側)に網掛けを施しているものの、実際には、両芯線圧着片125の裏面側から叩くことで薄肉に形成されている。
【0046】
図8は、図7における圧着端子金具110を側方から見た図である。アース端子部112は、ほぼ平面形状をなしている。また、ワイヤーバレル121の底部を構成する基板部123は、アース端子部112に対してフラットに連なる形態をなしている。図9は図8におけるB−B線断面図であって、ワイヤーバレル121の縦断面を示した図である。ワイヤーバレル121の基板部123の全域は、芯線圧着片125の厚さよりも厚い厚肉部として形成されている。これは、両芯線圧着片125に薄肉部127が形成されたことで基板部123が両芯線圧着片125よりも相対的に厚くなったためである。
【0047】
薄肉部127は、両芯線圧着片125のみに形成されており、基板部123に形成されていない。このため、基板部123の平坦度が低下することはなく、基板部123を圧着機の基台上に載置したときに、基板部123の位置ずれが発生しにくくなっている。一方、両芯線圧着片125は、先端部に面取り部129が形成されており、圧着時に面取り部129が圧着機の圧着金型の型面に沿って内側に案内されるため、平坦度の影響を受けにくくなっている。したがって、圧着時に基板部123の位置ずれを回避するという点では、薄肉部127を両芯線圧着片125のみに形成することが好ましい。
【0048】
次に、基板部123の配設領域について図9を参照しながら説明する。まず、前提条件として、図9における左側の芯線圧着片125の外側面114を延設した場合における第1仮想平面F1に対して同芯線圧着片125が外れた位置を第1基端部125Aとする。一方、図9における右側の芯線圧着片125の外側面114を延設した場合における第2仮想平面F2に対して同芯線圧着片125が外れた位置を第2基端部125Bとする。さらに、第1基端部125Aを上下方向に通る左側境界線をP1とし、第2基端部125Bを上下方向に通る右側境界線をP2とする。左側境界線P1と右側境界線P2とによって幅方向(図9における図示左右方向であって上下方向と直交する方向)に挟まれた領域をRとする。このような前提条件の下、基板部123は、領域Rの内部に配設されている。
【0049】
また、基板部123の左右両側面123A,123Bは、いずれも上下方向に延びる形態をなしている。すなわち、基板部123の左側面123Aは、左側境界線P1に平行をなし、かつ、左側境界線P1のやや右側に配置されている。一方、基板部123の右側面123Bは、右側境界線P2に平行をなし、かつ、右側境界線P2のやや左側に配置されている。つまり、左右両側面123A,123Bは、左右両側境界線P1,P2を超えて左右両側に突出することはなく、ワイヤーバレル121の圧着時に左右両側面123A,123Bが圧着金型と干渉することはない。
【0050】
また、基板部123の左右両側面123A,123Bと両芯線圧着片125との屈曲部分(すなわち両基端部125A,125B)の角度は、180°に近い角度となっているため、両芯線圧着片125を内側に曲げた際に当該屈曲部分に応力が集中して亀裂が生じることを回避できる。
【0051】
圧着端子金具110は、圧着工程を経て、電線30と圧着されることで端子金具付き電線150が製造される。その工程としては、図示しない圧着機の基台上に圧着端子金具110を載置して固定し、図示しない周知の圧着金型を上方から下降させることで、電線30と、圧着端子金具110とを圧着させる。特に、ワイヤーバレル121においては、芯線圧着片125が、図示しない圧着治具によって圧着端子金具110の軸中心部へ導かれて内側にカールし、図10に示すように、芯線群(複数の芯線31からなり、互いの境界部分が明瞭になっていない状態)が基板部123及び両芯線圧着片125に囲まれる。そして、芯線圧着片125の先端は芯線群の間に割り込んだ状態となり、かつ、面取り部129同士が密着する状態となって圧着が完了する。一方、インシュレーションバレル122においては、両芯線圧着片125よりも厚肉に形成された両被覆圧着片124によって絶縁被覆部を圧着しているため、絶縁被覆部に傷が付いたりすることを規制できる。
【0052】
実施形態2の圧着端子金具110の圧着は、実施形態1の圧着端子金具10の圧着よりも高い圧縮率で行われている。このため、基板部123の一部は、両芯線圧着片125側に逃げたり、あるいは、ワイヤーバレル121の前後両側に逃げたりする。したがって、圧着後の基板部123の厚さは、圧着前の基板部123の厚さよりも薄くなり、圧着後の両芯線圧着片125の厚さとほぼ同じになる。換言すると、圧着後のワイヤーバレル121における芯線31を囲む部分の厚さは、全周方向においてほぼ均一となり、芯線31に対して均等に荷重を与えることができる。よって、耐久試験を行う前の初期状態で接触抵抗が安定することに加えて、耐久試験を行った後でも接触抵抗が安定することになる。
【0053】
以上のように本実施形態によると、圧着後に、ワイヤーバレル121における芯線31を囲む部分の厚さが全周方向に亘って均一となるようにしたから、初期状態および耐久試験後における接触抵抗を安定させることができる。また、両芯線圧着片125に薄肉部127を形成したから、両芯線圧着片125によって0.5sq(mm)〜2sq程度の芯線31を有する細い電線30をかしめ付けることが可能である。ここで、両芯線圧着片125のみを叩くなどして薄肉部127を形成したから、基板部123の平坦度が維持され、圧着時に基板部123が位置ずれすることを回避できる。
【0054】
また、基端部123の全域を厚肉部として形成し、この基端部123を領域Rの内部に配設したから、基板部123の左右両側面123A,123Bが両境界線P1,P2をはみ出して左右両側に突出することがなく、圧着時に左右両側面123A,123Bが圧着金型と干渉することを回避できる。さらに、基板部123の左右両側面123A,123Bが上下方向に延びる形態としたから、両基端部125A,125Bにおける屈曲角度を180°に近づけることができ、両基端部125A,125Bに応力が集中して亀裂が生じることを規制できる。これらに加えて、厚肉のインシュレーションバレル122で絶縁被覆部を圧着するようにしたから、絶縁被覆部に傷が付くことを防ぎつつ、薄肉のワイヤーバレル121で芯線31を圧着することで、細い電線に対応可能な圧着端子金具110を提供することができる。
【0055】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
(1)上記実施形態では、一定の厚さの板材を打ち抜いてワイヤーバレル21、121を成形し、その後押し潰すことで薄肉部27、127を形成していたが、これに限らず、例えば金属原料板は異形材であってもよい。予め薄肉部27、127となる箇所の板厚が薄い形状をした異形材を用いれば、押し潰して薄肉部27、127を形成する工程が不要となり、生産効率を向上させることができる。
【0057】
(2)実施形態1では、薄肉部27の厚さは傾斜肉厚部28と面取り部29のように漸次厚さが変化する部分と、基板部23よりも薄い均一の厚さである部分とから構成したが、これに限らず、基板部23は金属材料板の本来の厚さ寸法を残したままとしつつ、芯線圧着片25の少なくとも先端縁側に基板部23の厚さよりも局部的に薄くなる凹部を散点状に多数形成してその領域を薄肉部27とした構成でもよい。
【0058】
(3)上記実施形態では、ワイヤーバレル21、121のみに薄肉部27、127が設けられているが、これに限らず、例えば、インシュレーションバレル22、122にも薄肉部27、127が設けられていてもよい。これにより、圧着端子金具10、110の更なる軽量化ができる。
【0059】
(4)実施形態1では、ワイヤーバレル21において基板部23の内底面から芯線圧着片25の一部領域にかけて3本の凹条26を形成したが、これは凹条26に限らず、多数の矩形状凹部を散点状に形成したものであってもよい。すなわち、実施形態2のように、綾目のローレット状をなすセレーション126を形成してもい。
【0060】
(5)上記実施形態では、基板部23と芯線圧着片25との境界部には、肉厚が連続的に変化する傾斜肉厚部28を設けるようにしたが、これに限られず、境界部分において肉厚が不連続に変化して階段状となっている段差を設けてもよい。また、傾斜肉厚部28や段差は、ワイヤーバレル21の外側面14に形成してワイヤーバレル21の内側面13は平坦面としたが、これに限らず、内側面13側にのみ、基板部と薄肉部との境界部に傾斜肉厚部28又は段差部を形成してもよいし、内側面13と外側面14の両面に傾斜肉厚部28又は段差部を形成してもよい。
(6)実施形態2では、基板部123の全域を厚肉部として形成しているものの、本発明によると、基板部123の一部を厚肉部として形成してもよい。また、実施形態2では、圧着時に基板部123の一部が両芯線圧着片125側や前後両側に逃げるものを例示しているものの、本発明によると、圧着時に両芯線圧着片125の一部が基板部123側や前後両側に逃げるものとしてもよい。この場合、両芯線圧着片125を厚肉部として形成すればよい。
【0061】
(7)実施形態2では、両被覆圧着片124を両芯線圧着片125よりも相対的に厚肉に形成しているものの、絶縁被覆部に傷が付くなどの支障がない場合には、両被覆圧着片を両芯線圧着片125と同じ厚さとなるように薄肉に形成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10、110…圧着端子金具
12…アース端子
20…電線圧着部
21、121…ワイヤーバレル
22、122…インシュレーションバレル
23、123…基板部
24、124…被覆圧着片
25、125…芯線圧着片
27、127…薄肉部
30…電線
31…芯線
50、150…端子金具付き電線
123A…左側面
123B…右側面
125A…第1基端部
125B…第2基端部
F1…第1仮想平面
F2…第2仮想平面
P1…左側境界線
P2…右側境界線
R…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板部と、前記基板部の両側から延出する一対の芯線圧着片と、からなるワイヤーバレルを備えた圧着端子金具であって、
前記芯線圧着片の少なくとも先端縁側に、前記基板部の厚さよりも薄い厚さの薄肉部が形成されていることを特徴とする圧着端子金具。
【請求項2】
前記薄肉部は、前記圧着端子金具の製造工程において、金属材料板を部分的に押し潰して形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の圧着端子金具。
【請求項3】
前記芯線圧着片には、前記基板部の厚さよりも薄い厚さの前記薄肉部が全域に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧着端子金具。
【請求項4】
前記薄肉部は、前記基板部側において、厚さが漸次増大する傾斜肉厚部を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の圧着端子金具。
【請求項5】
前記薄肉部の先端縁部には、面取り加工によって傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の圧着端子金具。
【請求項6】
前記ワイヤーバレルの厚さは、前記基板部から前記薄肉部にかけて、漸次薄くなるように傾斜変化することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の圧着端子金具。
【請求項7】
前記ワイヤーバレルは、電線の芯線に接する内側面と、外部に露出される外側面と、を有し、
前記内側面は平坦面とされる一方、前記外側面には前記薄肉部と、前記薄肉部に続く前記芯線圧着片又は前記基板部との境界部に段差又は傾斜面を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の圧着端子金具。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の圧着端子金具と、端末において芯線が露出する電線とを備えた端子金具付き電線であって、
前記圧着端子金具の前記芯線圧着片は、前記電線の端末の芯線を抱き込むように前記芯線に圧着されており、
圧着後の前記芯線圧着片の厚さの平均厚さは、圧着後の前記基板部の厚さの平均厚さよりも、薄くなっていることを特徴とする端子金具付き電線。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の圧着端子金具と、端末において芯線が露出する電線とを備えた端子金具付き電線であって、
前記圧着端子金具の前記ワイヤーバレルは、前記電線の端末の芯線を囲むように前記芯線に圧着されており、
圧着後の前記ワイヤーバレルにおける前記芯線を囲む部分の厚さは、全周方向において均一とされていることを特徴とする端子金具付き電線。
【請求項10】
圧着前の前記基板部は、両芯線圧着片を薄肉に成形したことに伴って前記両芯線圧着片の厚さよりも相対的に厚く形成されており、
圧着前の前記基板部を圧着機の基台上に載せた後に、同基板部に対して圧着金型を下降させることで、圧着後の前記基板部と圧着後の前記両芯線圧着片が同じ厚さとなることを特徴とする請求項9に記載の端子金具付き電線。
【請求項11】
一方の前記芯線圧着片の外側面を延設した第1仮想平面に対して前記一方の芯線圧着片が外れた位置を第1基端部とし、他方の前記芯線圧着片の外側面を延設した第2仮想平面に対して前記他方の芯線圧着片が外れた位置を第2基端部とした場合に、圧着前の前記基板部は、前記両芯線圧着片が対向する幅方向において前記第1基端部と前記第2基端部の間に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の端子金具付き電線。
【請求項12】
前記基板部の幅方向両側面は、幅方向と直交する上下方向に延びる形態とされていることを特徴とする請求項11に記載の端子金具付き電線。
【請求項13】
前記電線の絶縁被覆部を圧着するインシュレーションバレルを備え、
このインシュレーションバレルは、基板部と、その両側縁から斜め上方に突出する一対の被覆圧着片とからなり、
圧着前の両被覆圧着片は、両芯線圧着片を薄肉に成形したことに伴って圧着前の前記両芯線圧着片の厚さよりも相対的に厚く形成されていることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか一項に記載の端子金具付き電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−44423(P2011−44423A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119642(P2010−119642)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】