説明

圧粉磁心用粉末の製造方法

【課題】大気圧下で浸珪処理をおこなった場合でも所望の珪素含有層を軟磁性金属粉末の表層に形成することができ、もって浸珪処理に要する時間を短縮しながら、高比抵抗な圧粉磁心を製造するための圧粉磁心用粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素元素を含む軟磁性金属粉末の表面に浸珪処理をおこない、次いで徐酸化処理をおこなうことにより、圧粉磁心用粉末を製造する方法であり、この浸珪処理は、軟磁性金属粉末(Fe−C合金粉末1)の表面に少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱処理することによって珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散させることで珪素含有層2を生成するものであり、この浸珪処理は、水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下で実施される方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末に浸珪処理を施してなる、圧粉磁心用粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟磁性金属粉末からなる圧粉磁心用粉末を加圧成形してできる圧粉磁心は、たとえば、車両の駆動用モータのステータコアやロータコア、電力変換回路を構成するリアクトルコアなどに適用されており、電磁鋼板を積層してなるコア材に比して、高周波鉄損が少ない磁気特性を有していること、形状バリエーションに臨機かつ安価に対応できること、材料費が廉価となることなど、多くの利点を有している。
【0003】
ところで、上記する圧粉磁心に関し、鉄損、特に渦損失を低減するためにその比抵抗を高めるべく、珪素やアルミニウム等と鉄からなる鉄合金を軟磁性金属粉末とし、この表層にシリカ(SiO)等の絶縁皮膜を形成して磁性粉末を生成し、この磁性粉末を加圧成形することで圧粉磁心を製造する方策がある。しかし、珪素やアルミニウム等が鉄粉中に均等に分散された鉄合金を使用して磁性粉末を生成した場合には、この硬度が高くなってしまい、これを加圧成形してなる圧粉磁心の高密度化が逆に阻害されてしまうという問題が生じる。圧粉磁心の密度を高くできないことは、圧粉磁心の高磁束密度化を図れないことに繋がってしまう。したがって、従来は、高密度かつ高比抵抗で、高磁束密度の圧粉磁心を製造することは困難であった。この課題に鑑みて、軟磁性金属粉末の表層の可及的に薄い範囲で比抵抗を高めるための珪素元素等を浸透させ、粉末内部では珪素元素等が存在しない、もしくは極めて少ない圧粉磁心用粉末を生成する方法が切望されている。
【0004】
上記課題に対して本発明者等は、軟磁性金属粉末の表面に少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱処理することによって珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散させる、浸珪処理の適用を鋭意研究している。その研究の結果の一つとして、珪素元素が脱離する反応生成速度が、珪素元素が軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散する拡散速度よりも速い脱離拡散雰囲気下で浸珪処理をおこなえばよいという知見に至っている。
【0005】
上記脱離拡散雰囲気を形成する要素として、軟磁性金属粉末中の炭素含有量の調整(炭素含有量を多くすること)、浸珪用粉末中の珪素含有量(または珪素化合物量)の調整(珪素含有量等を多くすること)、加熱処理温度の調整、珪素化合物粉末の微細化(たとえば、1μm以下の粉末径)、この粉末の微細化に伴う炭素元素と珪素化合物の接触数の増加、さらには、加熱処理容器内の真空度の調整(真空度を高めること)、浸珪処理によって生成された炭酸ガスなどの排気調整(排気を速やかにおこなうこと)、などがあることもまた本発明者等によって特定されている。
【0006】
上記する諸条件の中で、真空度の高い容器内で脱離拡散雰囲気を形成することは、以下の利点を有している。すなわち、固相反応による浸珪処理においては、反応副生成物として一酸化炭素が生成されるが、この固相反応を促進させる上で、生成された一酸化炭素を除去する必要があるため、従来の方法では減圧雰囲気下で浸珪処理をおこなうことが有効な方策であった。
【0007】
しかし、減圧下もしくは真空雰囲気下での浸珪処理には多くの時間を要することから、これを大気圧下でも十分に脱離拡散雰囲気を形成でき、効率的に浸珪反応を促進させる方法を本発明者等は鋭意研究し、本願発明に至っている。
【0008】
なお、特許文献1には、窒化処理した鉄粉末(窒化処理鉄粉末)にSi粉末またはフェロシリコン粉末を添加・混合し、真空または水素雰囲気中で加熱することで、その内部にSi濃度勾配を有する鉄粉末を製造する方法が開示されている。しかし、この方法でも、原則的には真空雰囲気下で浸珪処理することとしており、大気圧下において十分に脱離拡散雰囲気を形成するまでには至らない。さらに、水素雰囲気中で加熱する、という方法の場合でも、どの程度の水素濃度雰囲気下で過熱処理するのが好ましいのかに関しては全く不明であり、したがって、所望の濃度勾配を有する圧粉磁心用粉末を効率的に生成できるか否かは当該文献の記載からは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−146254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、炭素元素を含む軟磁性金属粉末の表面に浸珪処理をおこなうことで圧粉磁心用粉末を製造する方法において、大気圧下で浸珪処理をおこなった場合でも所望の珪素含有層を軟磁性金属粉末の表層に形成することができ、もって浸珪処理に要する時間を短縮しながら、高比抵抗な圧粉磁心を得るための圧粉磁心用粉末を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による圧粉磁心用粉末の製造方法は、炭素元素を含む軟磁性金属粉末の表面に浸珪処理をおこない、次いで徐酸化処理をおこなうことにより、圧粉磁心用粉末を製造する方法において、前記浸珪処理は、軟磁性金属粉末の表面に少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱処理することによって前記珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散させるものであり、前記浸珪処理はさらに、水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下で実施されるものである。
【0012】
ここで、圧粉磁心用粉末は、たとえば炭素元素を微量含有する鉄系粉末等の軟磁性金属粉末から生成されるものであり、本発明の製造方法で使用される軟磁性金属粉末としては、鉄−炭素系合金のほかに、純鉄をもその対象としているが、この純鉄を使用する場合には、当該純鉄を浸炭処理して、炭素元素を含む軟磁性金属粉末である鉄を生成し、これを浸珪処理するのがよい。
【0013】
この軟磁性金属粉末に少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させて加熱処理することにより、珪素化合物から珪素が離脱し、離脱した珪素が軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散することで、軟磁性金属粉末表面に比較的高濃度の珪素含有層を形成し、その一方で、軟磁性金属粉末内部には珪素が含浸されない、もしくは含浸されたとしてもその量が極めて微量な圧粉磁心用粉末を生成するものである。より具体的には、浸珪用粉末を加熱することによって軟磁性金属粉末中の含有成分である炭素元素と浸珪用粉末とを酸化還元反応させ、生成された珪素元素を軟磁性金属粉末表面中に浸透拡散させるものであり、言い換えれば、珪素元素を軟磁性金属粉末表面の炭素元素と置換させるものである。ここで、少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末とは、二酸化珪素(シリカ)のほか、二酸化珪素の粉末と炭化珪素の粉末の混合粉末などを挙げることができる。
【0014】
本発明の製造方法では、上記する浸珪処理を減圧雰囲気でなく、大気圧雰囲気下でおこなった場合でも所望の浸珪反応速度を実現するべく、水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下でおこなうことを特徴とするものである。
【0015】
大気圧雰囲気下においても、上記水素濃度範囲において浸珪処理を実行することで、該浸珪処理後の軟磁性金属粉末の表層には、所望する珪素濃度の珪素含有層が形成できることが本発明者等によって特定されているが、真空雰囲気を含む減圧雰囲気下にて浸珪処理が実行されることを何等排除するものではない。
【0016】
最終的に得たい圧粉磁心用粉末は、上記する浸珪処理をおこなって軟磁性金属粉末の表層に所望濃度の珪素が含有された層を形成し、次いで、これを徐酸化処理することにより、表層の珪素の一部が酸化されてシリカ(SiO)からなる絶縁皮膜が形成される。
【0017】
既述するように、この絶縁皮膜は圧粉磁心用粉末の比抵抗特性に重要な皮膜であるが、本発明者等によれば、浸珪処理後の軟磁性金属粉末表層の珪素濃度が平均3質量%程度の場合に、高比抵抗の圧粉磁心を保障するための、圧粉磁心用粉末の表層に形成されるシリカ膜(絶縁皮膜)が安定的に得られることが実証されている。そして、軟磁性金属粉末表層の珪素濃度が3質量%よりも多くなったとしても、形成されるシリカ膜の膜厚に変化がないこともまた特定されている。
【0018】
なお、より詳細には、平均2質量%程度の珪素濃度の珪素含有層を粉末が有していれば、高比抵抗の圧粉磁心が得られることが分かっている。しかし、圧粉磁心を形成する軟磁性金属粉末間の微小な空隙等の存在により、その表層に平均2質量%程度の珪素濃度の珪素含有層を有する軟磁性金属粉末を製造し、これを使用して得られた圧粉磁心用粉末から圧粉磁心を製造した場合には、該圧粉磁心の高比抵抗を十分に保障できないこともまた、本発明者等によって特定されている。したがって、このような観点から、その表層に平均3質量%程度の珪素濃度の珪素含有層を有する軟磁性金属粉末を製造するのがよいとの結論に至っている。
【0019】
上記する浸珪処理は、1000℃程度の高温雰囲気で実施されるものであるが、本発明者等の検証によれば、950℃の場合、1100℃の場合のいずれの温度条件下においても、珪素濃度が平均2質量%〜3質量%程度となるまで形成される絶縁皮膜の膜厚は増加し、これらの質量%程度において、高比抵抗の圧粉磁心を保障する絶縁皮膜を有する軟磁性金属粉末が形成され、3質量%程度よりも多い珪素濃度となっても形成される絶縁皮膜の膜厚に変化がないことが実証されている。
【0020】
そして、高比抵抗の圧粉磁心を保障する絶縁皮膜、すなわち、珪素濃度が平均3質量%程度の珪素含有層を有する軟磁性金属粉末を浸珪処理にて生成するに際し、浸珪処理時の水素濃度雰囲気は空気中もしくはアルゴンガス等の不活性ガス中で10〜50体積%の範囲に調整されているのが望ましいことが実証されており、これが本発明の製造方法の特徴構成を規定する根拠となっているものである。
【0021】
なお、大気圧雰囲気においては、水素濃度が10体積%を下回る場合、および50体積%を上回る場合は、浸珪処理後の軟磁性金属粉末表層の珪素濃度が平均2質量%かそれ未満となり、高比抵抗の圧粉磁心を保障する軟磁性金属粉末を生成することができない。
【0022】
ここで、水素濃度が50体積%を上回る場合においても軟磁性金属粉末表層の珪素濃度が平均2質量%かそれ未満となる理由は、水素濃度が高いことで浸珪反応は促進されるものの、たとえば鉄粉内部の炭素元素が水素と直接反応してしまい、この反応によって、浸珪反応が逆に阻害されるためである。
【0023】
上記する本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法によれば、炭素元素を含む軟磁性金属粉末に浸珪処理を施し、次いで徐酸化処理を施して圧粉磁心用粉末を製造するに際し、所定濃度範囲の水素濃度雰囲気下であれば、大気圧雰囲気下で浸珪処理を実施した場合であっても、高比抵抗の圧粉磁心を保障する珪素濃度の珪素含有層を軟磁性金属粉末表層に形成することが可能となる。したがって、従来の製造方法のごとく、減圧雰囲気下での浸珪処理が不要となり、圧粉磁心用粉末の製造に要する時間を格段に短縮することができる。
【0024】
上記する製造方法で製造された圧粉磁心用粉末からなる高性能(高比抵抗)な圧粉磁心は、近時その生産が急増しており、その高性能化が研究/開発されている、ハイブリッド車や電気自動車の駆動用電動機を構成するステータコアやロータコア、電力変換装置を構成するリアクトル用のコア(リアクトルコア)などに好適である。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法によれば、大気圧下で浸珪処理を実施することにより、表面比抵抗が高い圧粉磁心用粉末を効率的かつ短時間で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法を説明したフロー図である。
【図2】(a)は、図1のステップS2の浸珪処理にて製造された粉末を模擬した図であり、(b)は、図1のステップS3の徐酸化処理にて製造された圧粉磁心用粉末を模擬した図である。
【図3】浸珪処理時の圧力と浸珪反応速度の関係を説明した図である。
【図4】浸珪処理後の軟磁性金属粉末表層の珪素濃度と、徐酸化処理後の圧粉磁心用粉末表層のシリカ皮膜の関係を説明したグラフである。
【図5】浸珪処理時の水素濃度と、軟磁性金属粉末表層の珪素濃度の関係を説明したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法を説明したフロー図であり、図2aは、図1のステップS2の浸珪処理にて製造された粉末を模擬した図であり、図2bは、図1のステップS3の徐酸化処理にて製造された圧粉磁心用粉末を模擬した図である。
【0028】
本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法では、まず、炭素元素を含む軟磁性金属粉末として、Fe−C合金粉末を用意する(ステップS1)。ここで、このFe−C合金粉末は、純鉄を浸炭処理することで当該合金を生成する方法であってもよい。また、このFe−C合金粉末の粒径としては、たとえば150〜212μm程度のものを使用することができる。
【0029】
次いで、用意された所定量のFe−C合金粉末を、空気中の水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下で、かつ、大気圧雰囲気下において、さらには、処理温度:1000℃程度の高温雰囲気下で、浸珪処理を実施する(ステップS2)。
【0030】
この浸珪処理に要する時間は、たとえば1時間〜4時間程度の時間範囲であるが、具体的な所要時間は一度に浸珪処理される粉末量等に依存している。
【0031】
浸珪処理を実施することにより、図2aで示すように、Fe−C合金粉末1の表層には、珪素の平均濃度:3質量%程度の珪素含有層2が形成されて、圧粉磁心用粉末を製造するための中間粉末10が製造される。
【0032】
このステップS2において、水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下で、かつ、大気圧雰囲気下で浸珪処理が実施されることで、従来の製造方法にて減圧雰囲気下で浸珪処理を実施していた場合と同程度の浸珪反応速度が得られることが、本発明者等によって特定されている。
【0033】
図3は、浸珪処理時の圧力と浸珪反応速度の関係を説明した図であり、本発明者等による実測結果に基づいた関係グラフである。
【0034】
同図において、ラインXは、従来の製造方法における浸珪処理時の処理圧力と浸珪反応速度の関係を示したものであり、大気圧雰囲気である、およそ10Pa程度の圧力雰囲気下においては、浸珪反応がほとんどおこなわれず、10−1Pa以下(好ましくは10−3Pa程度)の減圧雰囲気下において、浸珪反応速度が所望する0.8%/hr程度となる。
【0035】
これに対して、同図における領域Aは、本発明の製造方法における浸珪処理時の目標とする圧力−浸珪反応速度領域であり、本発明者等の検証によれば、空気中もしくは不活性ガス中の水素濃度が10〜50体積%の範囲で浸珪処理を実施することで、領域Aの範囲、すなわち、大気圧雰囲気程度の圧力条件下で0.8%/hr程度の浸珪反応速度を実現できる範囲、を充足可能であることが実証されている。なお、図中のP点は、一つの実測点を示しており、大気圧雰囲気下において、0.8%/hr程度の浸珪反応速度が得られていることを示す点である。
【0036】
上記濃度範囲の水素濃度雰囲気中で浸珪反応速度が促進される理由として、一酸化炭素が水素と反応してCHやCOに変化し、当該一酸化炭素を化学的に除去できることが挙げられる。
【0037】
図1に戻り、ステップS2で得られた中間粉末10に対し、徐酸化処理を実施することで圧粉磁心用粉末が製造される(ステップS3)。
【0038】
ここで、「徐酸化処理」とは、中間粉末を収容したチャンバー内にたとえば酸素を徐々に供給して、粉末の表面に酸化膜を形成して安定化させる処理のことであり、本製造方法においては、中間粉末10の表層の珪素含有層2中の珪素が酸化され、その表層に絶縁皮膜であるシリカ皮膜が形成されることを示すものである。なお、図2bには、製造された圧粉磁心用粉末20を示しており、Fe−C合金粉末1の表層に珪素含有層2が形成され、この一部の珪素が酸化されて、その最外層にシリカ皮膜3が形成されて粉末20を成している。このシリカ皮膜3は、たとえばその径が50nm程度のシリカ同士が多数密着固定した態様で形成される。
【0039】
図1に戻り、製造された圧粉磁心用粉末20を不図示の成形型内に収容し、加圧成形することで、所望形状および寸法の圧粉磁心が得られる(ステップS4)。
【0040】
製造された圧粉磁心は、その形成素材である圧粉磁心用粉末20がその表層にシリカ皮膜3を具備していることにより、高比抵抗の圧粉磁心となる。
【0041】
しかも、その製造過程における浸珪処理の際に、粉末を減圧雰囲気下に置く必要が一切ないことから製造時間を格段に短縮でき、減圧雰囲気形成用の設備が不要であることから製造設備も廉価となる。
【0042】
[浸珪処理後の軟磁性金属粉末表層の珪素濃度と、徐酸化処理後の圧粉磁心用粉末表層のシリカ皮膜の関係を求めた実験、および、浸珪処理時の水素濃度と、軟磁性金属粉末表層の珪素濃度の関係を求めた実験と、それらの結果]
本発明者等は、高比抵抗の圧粉磁心を得るに必要な圧粉磁心用粉末を形成するシリカ皮膜の形成に際し、浸珪処理後の中間粉末の珪素含有層中の珪素濃度を変化させて、シリカ皮膜が安定的に形成される珪素濃度を特定する実験をおこなった。
【0043】
その際、浸珪処理の際の処理時間は4時間、水素濃度は10〜50体積%の範囲(その露点は0℃)とし、処理温度を950℃、1100℃の2種条件において、それぞれの珪素濃度−シリカ皮膜の膜厚に関する関係を測定した。その結果を図4に示している。
【0044】
同図より、950℃、1100℃のいずれの処理温度条件においても、珪素濃度の増加に伴ってシリカ皮膜の厚みも増加し、珪素濃度が平均2質量%程度でともに最大の膜厚に達し(950℃の場合は70nm程度、1100℃の場合は150nm程度)、平均2質量%以上の範囲ではシリカ皮膜の膜厚はほぼ一定の値を示すことが特定された。
【0045】
この実験より、高比抵抗の圧粉磁心を得るための条件、すなわち、浸珪処理温度に応じた最大のシリカ皮膜の厚み(温度によって最大の皮膜厚が変化する)を保障するための、中間粉末における珪素含有層中の珪素濃度は、平均2質量%以上であることが特定された。
【0046】
さらに、本発明者等による検証によれば、圧粉磁心を形成する圧粉磁心用粉末間の微小な空隙等の存在により、その表層が平均2質量%程度の珪素濃度である軟磁性金属粉末を製造し、これを使用して得られた圧粉磁心用粉末から圧粉磁心を製造した場合には、該圧粉磁心の高比抵抗を十分に保障できないことが経験則から特定されている。
【0047】
以上の検証結果および経験則に基づき、浸珪処理後の中間粉末の表層には、平均3質量%程度の珪素濃度の珪素含有層を形成するのが好ましいと結論付けることができた。
【0048】
次に、上記で決定された中間粉末表層の珪素含有層中の平均珪素濃度:3質量%を満足する、浸珪処理時の水素濃度範囲を特定するための実験結果を図5に示している。
【0049】
この実験は、浸珪処理時の水素濃度(空気中もしくはアルゴンガス等の不活性ガス中の水素濃度)を変化させ、当該水素濃度ごとに得られた中間粉末表層の珪素含有層中の平均珪素濃度を測定したものである。
【0050】
同図より、浸珪処理時の水素濃度が30体積%付近で珪素濃度が最大の5質量%程度を示し、水素濃度が10質量%以上で50質量%以下の範囲において、上記する、平均珪素濃度:3質量%を確実に担保できることが実証された。
【0051】
本実験に基づき、Fe−C合金粉末を浸珪処理する際の水素濃度は、10〜50体積%の範囲に規定することとした。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1…Fe−C合金粉末(軟磁性金属粉末)、2…珪素含有層、3…シリカ皮膜(絶縁皮膜)、10…中間粉末、20…圧粉磁心用粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素を含む軟磁性金属粉末の表面に浸珪処理をおこない、次いで徐酸化処理をおこなうことにより、圧粉磁心用粉末を製造する方法において、
前記浸珪処理は、軟磁性金属粉末の表面に少なくとも珪素化合物を含む浸珪用粉末を接触させ、該浸珪用粉末を加熱処理することによって前記珪素化合物から珪素元素を脱離させ、該脱離した珪素元素を前記軟磁性金属粉末の表層に浸透拡散させるものであり、
前記浸珪処理はさらに、水素濃度が10〜50体積%の範囲の水素濃度雰囲気下で実施される、圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記軟磁性金属粉末が鉄−炭素系合金である、請求項1に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
純鉄を浸炭処理して、炭素元素を含む軟磁性金属粉末である鉄を生成し、これを浸珪処理する、請求項1に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−63824(P2011−63824A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213064(P2009−213064)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】