説明

圧粉磁心

【課題】鉄損値を低下するとともに、高い磁束密度を維持する圧粉磁心を提供する。
【解決手段】圧粉磁心は、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える軟磁性材料を用いてなり、密度が7.60g/cm3以上である。金属磁性粒子10の粒径は、106μm以下とすることが好ましい。圧粉磁心の直流磁束密度B100は1.5T以上、かつ鉄損値は100W/kg以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心に関し、たとえば電磁弁、モーターのコアおよび電源回路用のリアクトルなどとして用いられる圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁弁、モーター、または電源回路などを有する電気機器には、軟磁性材料を用いて製造された圧粉磁心が使用されている。この軟磁性材料は、複数の複合磁性粒子よりなっており、複合磁性粒子は金属磁性粒子と、その表面を被覆する絶縁被膜とを有している。絶縁被膜は、通常20nm〜40nmの厚みのものを用いている。
【0003】
この軟磁性材料を用いて圧粉磁心とするためには、軟磁性材料を加圧成形する。このときに、高い圧力を印加して成形する際に、軟磁性材料の粉末間の摩擦抵抗により、絶縁被覆がせん断破壊してしまう場合がある。絶縁被膜が破損した圧粉磁心を交流磁場で使用すると、鉄損と呼ばれるエネルギー損失が生じる。なお、鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損との和で表わされる。ヒステリシス損とは、軟磁性材料の磁束密度を変化させるために必要なエネルギーによって生じるエネルギー損失をいう。ヒステリシス損は作動周波数に比例するので、主に低周波領域において支配的になる。また、ここで言う渦電流損とは、主として軟磁性材料を構成する金属磁性粒子間を流れる渦電流によって生じるエネルギー損失をいう。渦電流損は作動周波数の2乗に比例するので、主に高周波領域において支配的になる。
【0004】
加圧成形時に絶縁被膜がせん断破壊することを防止するために、絶縁被膜の厚みを約4倍程度(たとえば80nm〜160nm)のものを用いることができる。このような厚みの絶縁被膜を有する軟磁性材料を用いて加圧成形すると、絶縁被膜の破損を防止できる。しかしながら、軟磁性材料に占める絶縁被膜の割合が大きくなりすぎるので、軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下してしまうという問題がある。
【0005】
圧粉磁心の磁束密度の低下という課題を解決するために、特開2005−232535(特許文献1)に、高磁束密度を有する圧粉磁心が開示されている。特許文献1に開示の圧粉磁心は質量%において、軟磁性材料を構成する金属磁性粒子の粒径を75μm以下のものを15%以下、75μmを超えて106μm以下のものを3〜20%、106μmを超えて150μm以下のものを10〜60%、150μmを超えて180μm以下のものを15〜60%、180μmを超えて1mm以下のものを40%以下としている。
【特許文献1】特開2005−232535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の圧粉磁心では、ある程度の高い磁束密度は維持できるものの、まだ鉄損値が高いという問題がある。具体的には、従来の圧粉磁心においては、磁束密度が1.5T以上かつ鉄損値が100W/kg以下とならなかったため、より高性能な製品の要求には対応出来なかった。
【0007】
それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、鉄損値を低下するとともに、高い磁束密度を維持する圧粉磁心を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、圧粉磁心における鉄損値が悪いという問題は、軟磁性材料に含まれる金属磁性粒子のうち、粒径が大きな金属磁性粒子を含んでいることに起因することを見出した。軟磁性材料に粒径が大きい金属磁性粒子が含まれていると、その金属磁性粒子の体積は大きく、金属磁性粒子の総表面積は低下する。そして、粒径の大きい金属磁性粒子は圧粉磁心の内部抵抗に悪い影響を及ぼす。その結果、圧粉磁心の鉄損値を悪くする。
【0009】
また、本願発明者は、圧粉磁心における鉄損値と、圧粉磁心を成形する材料である軟磁性材料に含まれる金属磁性粒子の粒径との間に相関があることを見出した。上述したように粒径の大きい金属磁性粒子が圧粉磁心の鉄損値を悪くしていることを見出したので、種々の粒径の金属磁性粒子を準備して、その金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心について鉄損値を測定して、金属磁性粒子の粒径と圧粉磁心の鉄損値との関係を鋭意研究した。その結果、用いる軟磁性材料の金属磁性粒子の粒径を小さくするほど、圧粉磁心の鉄損値を低下できることを見出した。そして、150μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心について、鉄損値を特に低下できることを見出した。
【0010】
そこで、本発明にしたがった一の局面における圧粉磁心は、粒径が150μm以下の金属磁性粒子と、金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜とを備え、密度は7.60g/cm3以上である。
【0011】
本発明の圧粉磁心によれば、150μm以下の小さい粒径の金属磁性粒子を用いているので、金属磁性粒子の総表面積が増加する。そのため、圧粉磁心の内部抵抗値を増加して、鉄損値を低下できる。また、圧粉磁心の密度を7.60g/cm3以上と大きくしているので、高い磁束密度を維持できる。よって、鉄損値を低下するとともに、高い磁束密度を維持する。
【0012】
上記圧粉磁心において好ましくは、金属磁性粒子の粒径は106μm以下である。これにより、圧粉磁心の鉄損値をより低下できる。
【0013】
上記圧粉磁心において好ましくは、絶縁被膜はリン酸塩からなる。これにより、金属磁性粒子の表面を覆う被覆層をより薄くすることができる。そのため、圧粉磁心の磁束密度をより大きくすることができ、磁気特性を向上することができる。
【0014】
本発明の他の局面における圧粉磁心は、直流磁束密度B100を1.5T以上、かつ鉄損値を100W/kg以下であることを特徴としている。
【0015】
本発明の他の局面における圧粉磁心によれば、高性能な製品の要求に対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の圧粉磁心によれば、金属磁性粒子の粒径を150μm以下の軟磁性材料を備える軟磁性材料を用いてなるので、圧粉磁心の鉄損値を低下できる。また、圧粉磁心の密度が7.60g/cm3以上であるので、磁束密度の低下を防止できる。よって、高い磁束密度を維持するとともに、鉄損値を低下できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態における圧粉磁心を示す拡大断面図である。図2は、本発明の実施の形態における軟磁性材料を示す拡大断面図である。図1および図2を参照して、本発明の実施の形態における圧粉磁心を説明する。本発明の実施の形態における圧粉磁心は、図1および図2に示すように、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える軟磁性材料を用いてなり、密度が7.60g/cm3以上である。なお、実施の形態における軟磁性材料は、図2に示すように、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える複数の複合磁性粒子を備えている。
【0019】
金属磁性粒子10の粒径は、150μm以下である。金属磁性粒子10の粒径は、106μm以下とすることが好ましい。粒径が150μmを超えると、その体積の大きさから圧粉磁心の鉄損値を悪化させてしまう。粒径を106μm以下とすることによって、圧粉磁心の鉄損値を向上できる。
【0020】
なお、金属磁性粒子10の粒径は、JIS Z 8801−1に定める篩を用いて、その篩を通過するものを篩の呼び寸法以下としている。たとえば、呼び寸法が150μmの篩を通過する金属磁性粒子10を、粒径が150μm以下としている。また、呼び寸法が106μmの篩を通過する金属磁性粒子10を粒径が106μm以下としている。また、呼び寸法が75μmの篩を通過する金属磁性粒子10を、粒径が75μm以下としている。
【0021】
金属磁性粒子10は、たとえば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金および鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などから形成されている。金属磁性粒子10はFeを主成分としていれば特に限定されないが、純鉄であることが好ましい。純鉄から形成されていると、圧粉磁心における飽和磁束密度などの磁気的特性を向上することができる。「純鉄」とは、Feの割合が99.5質量%以上であることを意味する。なお、金属磁性粒子10は、金属単体でも合金でもよい。
【0022】
絶縁被膜20は、金属磁性粒子10間の絶縁層として機能する。金属磁性粒子10を絶縁被膜20で覆うことによって、圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、金属磁性粒子10間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
【0023】
絶縁被膜20は、リン酸塩からなることが好ましい。絶縁被膜20は、たとえばリンと鉄とを含むリン酸鉄の他、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、またはリン酸アルミニウムなどを用いることができる。絶縁被膜20は、図中に示すように1層に形成されていても良いし、多層に形成されていても良い。
【0024】
また、絶縁被膜20は、特にこれに限定されない。たとえば、絶縁被膜20として、酸化物を含有する絶縁被膜20を形成してもよい。この酸化物を含有する絶縁被膜20としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムなどの酸化物絶縁体を使用することができる。
【0025】
絶縁被膜20の平均膜厚は、5nm以上1μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、絶縁被膜20の平均膜厚は、10nm以上150nm以下である。絶縁被膜20の平均膜厚を5nm以上とすることによって、トンネル効果による通電を抑制することができる。10nm以上とすることによって、トンネル効果による通電を効果的に抑制することができる。一方、絶縁被膜20の平均膜厚を1μm以下とすることによって、加圧成形時に絶縁被膜20がせん断破壊することを防止できる。また、圧粉磁心に占める絶縁被膜20の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。絶縁被膜20の平均膜厚を150nm以下とすることによって、磁束密度の低下をさらに防止できる。
【0026】
また、図2に示すように、軟磁性材料は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方からなる樹脂40を含んでいてもよい。また、樹脂40の代わりに、または樹脂40とともに潤滑剤(図示せず)を含んでいてもよい。
【0027】
また、図1に示すように、圧粉磁心において、複合磁性粒子30の各々の間には有機物50が介在していてもよい。複数の複合磁性粒子30の各々は、有機物50や、複合磁性粒子30が有する凹凸の噛み合わせなどによって接合されている。なお、有機物50は、軟磁性材料に含まれていた樹脂40や潤滑剤などが熱処理の際に変化したものである。
【0028】
圧粉磁心の密度は、7.60g/cm3以上である。圧粉磁心の密度は、7.65g/cm3以上であることが好ましく、7.70g/cm3以上であることがより好ましい。圧粉磁心の密度が7.60g/cm3未満であると、磁束密度が低下してしまう。圧粉磁心の密度を7.65g/cm3以上とすることによって、圧粉磁心の磁束密度をより高くできる。圧粉磁心の密度を7.70g/cm3以上とすることによって、圧分磁心の磁束密度をより一層高くできる。
【0029】
圧粉磁心の直流磁束密度B100は1.5T以上、かつ鉄損値は100W/kg以下である。これにより、高性能な製品に対応できる。
【0030】
次に、本発明の実施の形態における圧粉磁心の製造方法について図1〜図3を参照して説明する。なお、図3は、本発明の実施の形態における圧粉磁心を製造するためのフローチャートを示す図である。
【0031】
図3に示すように、まず、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10を準備する工程(S10)を実施する。この工程(S10)では、好ましくは粒径が106μm以下、さらに好ましくは粒径が75μm以下の金属磁性粒子10を準備する。具体的には、上述したように、呼び寸法が150μmの篩を通過する金属磁性粒子10を準備する。また、呼び寸法が106μmの篩を通過する金属磁性粒子10を準備することが好ましく、呼び寸法が75μmの金属磁性粒子10を準備することがさらに好ましい。
【0032】
次に、金属磁性粒子10を200℃〜500℃で熱処理する工程(S20)を実施する。熱処理前の金属磁性粒子10の内部には、多数の歪み(転位、欠陥)が存在している。そこで、金属磁性粒子10を熱処理する工程(S20)を実施することによって、この歪みを低減させることができる。なお、この工程(S20)は省略されてもよい。
【0033】
次に、金属磁性粒子10の各々の表面に絶縁被膜20を形成し、金属磁性粒子10の各々の表面に絶縁被膜20を形成する工程(S30)を実施する。この工程(S30)を実施すると、複合磁性粒子30の各々が得られる。絶縁被膜20は、たとえば金属磁性粒子10をリン酸塩化成処理することによって形成することができる。リン酸塩化成処理によって、たとえばリンと鉄とを含むリン酸鉄の他、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、またはリン酸アルミニウムなどよりなる絶縁被膜が形成される。
【0034】
また、工程(S30)では、絶縁被膜20として、酸化物を含有する絶縁被膜20を形成してもよい。この酸化物を含有する絶縁被膜20としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムなどの酸化物絶縁体を使用することができる。
【0035】
得られた複合磁性粒子30を乾燥する工程(S40)を実施する。この工程(S40)では、室温〜150℃で、複合磁性粒子30を3時間〜24時間乾燥させる。上記温度範囲を超える場合には、乾燥する工程(S40)は、空気中およびN(窒素)ガス等の不活性ガス雰囲気下のいずれかにより行なうことができる。金属磁性粒子10の酸化防止の観点から、Nガス等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。なお、この工程(S30)は省略されてもよい。
【0036】
なお、上記工程(S10〜S40)を実施する代わりに、金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える、市販の複合磁性粒子30を準備してもよい。
【0037】
次に、複合磁性粒子30と樹脂40とを混合する工程(S50)を実施する。この工程(S50)では、熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂の少なくともいずれか一方からなる樹脂40を混合することが好ましい。また、混合の際に、樹脂40の代わりに潤滑剤(図示せず)を混合してもよい。また、樹脂40を加える際に、潤滑剤をさらに加えてもよい。
【0038】
工程(S50)では、混合方法には特に制限はなく、たとえばメカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法またはゾル−ゲル法などのいずれを使用することも可能である。なお、この工程(S50)は省略されてもよい。
【0039】
以上の工程(S10〜S50)により、図1に示す実施の形態の軟磁性材料が得られる。圧粉磁心を製造するために、さらに以下の工程が行なわれる。
【0040】
次に、図3に示すように、得られた軟磁性材料の粉末を金型に入れ、たとえば686(MPa)から2500(MPa)までの圧力で加圧成形する工程(S60)を実施する。これにより、軟磁性材料が圧粉成形された成形体が得られる。樹脂40および潤滑剤の少なくとも一方を混合する工程(S50)を実施した場合には、有機物50が得られる。
【0041】
次に、大気中で、加圧成形によって得られた成形体を300℃以上900℃以下の温度で熱処理する工程(S70)を実施する。加圧成形を経た圧粉成形体の内部には歪みや転位が多数発生しているので、熱処理によりこのような歪みや転位を取り除くことができる。
【0042】
以上に説明した工程により、図1に示す圧粉磁心が完成する。この圧粉磁心の密度は7.60g/cm3以上である。また、圧粉磁心の密度は、好ましくは7.65g/cm3以上であり、さらに好ましくは7.70g/cm3以上である。また、図1に示す圧粉磁心の直流磁束密度B100は1.5T以上、かつ鉄損値は100W/kg以下である。
【0043】
以上説明したように、本発明の実施の形態における圧粉磁心によれば、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える軟磁性材料を用いてなり、密度は7.60g/cm3以上である。本願発明者は、軟磁性材料が粗粒子を排除するほど、該軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心の鉄損値を下げることができることを見出した。特に150μmを超える金属磁性粒子10を排除した軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心は、鉄損値を大きく低減できることも見出した。実施の形態における圧粉磁心は、粒径が150μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料、すなわち粒径が150μmを超える粗粒子を含まない軟磁性材料を用いてなる。よって、圧粉磁心の鉄損値を低減できる。
【0044】
また、金属磁性粒子10は、鉄損値を悪化させる150μmを超える粗粒子を含まない。そのため、粉末状態の軟磁性材料の総表面積が増加かつ安定する。すなわち、軟磁性材料において、絶縁被膜20の量が一定化するため、軟磁性材料の内部抵抗が増加かつ安定して、鉄損値を低減かつ安定できる。なお、上述した特許文献1のように粗粒子を含む軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心は、粗粒子は体積が大きいため、軟磁性材料の内部抵抗に悪い影響を与える。また、粗粒子の金属磁粒子を含む軟磁性材料を用いてなる圧粉磁心の鉄損値は、そのロット内およびロット間で鉄損値は大きく、かつ鉄損値の大きさのばらつきが大きくなる。
【0045】
また、本願発明者は、圧粉磁心の密度を7.60g/cm3以上とすることによって、上述した鉄損値の低減とともに高い磁束密度を維持できることを見出した。よって、実施の形態における圧粉磁心は、鉄損値を低下できるとともに、高い磁束密度を維持できる。
【0046】
本発明の実施の形態における圧粉磁心は、直流磁束密度B100を1.5T以上、かつ鉄損値を100W/kg以下であることを特徴としている。これにより、従来実現できなかった材料となるため、本発明の圧粉磁心は高性能な製品に対応できる。
【0047】
本発明の実施の形態における圧粉磁心の製造方法によれば、粒径が150μm以下の金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを備える軟磁性材料を準備する工程(S10)と、軟磁性材料を加圧成形する工程(S60)とを備え、圧粉磁心の密度は7.60g/cm3以上としている。これにより、上述したような鉄損値を低下して、高い磁束密度を維持できる圧粉磁心を製造することができる。
【0048】
[実施例]
本発明の実施例では、150μm以下の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなり、密度が7.60g/cm3以上であることの効果を調べた。始めに、本発明例および比較例の各々の圧粉磁心を以下の方法により製造した。
【0049】
(実施例1)
図3に示す実施の形態の圧粉磁心の製造方法により圧粉磁心を製造した。具体的には、150μm以下の金属磁性粒子を準備した。具体的には、純度が99.98%以上の純鉄(ヘネガス社製の商品名「ソマロイ500」)よりなる複合磁性粒子のうち、呼び寸法が150μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。なお、本実施例で用いる複合磁性粒子を構成する金属磁性粒子の粒径は、絶縁被膜の厚みよりも十分大きいため、絶縁被膜の厚みは考慮する必要がなく、複合磁性粒子の粒径は、金属磁性粒子の粒径と近似できる。
【0050】
次に、得られた軟磁性材料を686〜1470Paで加圧成形して、成形体を得た。成形体の形状はリング片とした。リング片の外径を34mmとし、リング片の内径を20mmとし、全長5mmとした。作製した成形体を400℃の炉内にて1時間熱処理し、実施例1の圧粉磁心を得た。圧粉磁心の密度は7.70g/cm3とした。なお、密度はアルキメデス法により測定した。
【0051】
(実施例2)
実施例2の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、106μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点においてのみ異なる。具体的には、実施例2の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が106μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。
【0052】
(実施例3)
実施例3の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、75μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点においてのみ異なる。具体的には、実施例3の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が75μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。
【0053】
(実施例4)
実施例4の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、圧粉磁心の密度が7.65g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例4の圧粉磁心の製造方法において、圧粉磁心の密度が7.65g/cm3となるように加圧成形した。
【0054】
(実施例5)
実施例5の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、圧粉磁心の密度が7.60g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例5の圧粉磁心の製造方法において、圧粉磁心の密度が7.60g/cm3となるように加圧成形した。
【0055】
(実施例6)
実施例6の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、106μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点および圧粉磁心の密度が7.65g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例6の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が106μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。また、圧粉磁心の密度が7.65g/cm3となるように加圧成形した。
【0056】
(実施例7)
実施例7の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、106μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点および圧粉磁心の密度が7.60g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例7の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が106μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。この複合磁性粒子は、篩によりそれぞれの粒径に分級し、上記割合になるように混合して得た。また、圧粉磁心の密度が7.60g/cm3となるように加圧成形した。
【0057】
(実施例8)
実施例8の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、75μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点および圧粉磁心の密度が7.65g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例8の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が75μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。また、圧粉磁心の密度が7.65g/cm3となるように加圧成形した。
【0058】
(実施例9)
実施例9の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、75μm以下の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点および圧粉磁心の密度が7.60g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、実施例9の圧粉磁心の製造方法において、呼び寸法が75μmの篩を通過した複合磁性粒子を準備した。また、圧粉磁心の密度が7.60g/cm3となるように加圧成形した。
【0059】
(比較例1)
比較例1の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、150μmを超える粒径の金属磁性粒子を含む軟磁性材料を用いてなる点においてのみ異なる。具体的には、比較例1の圧粉磁心の製造方法において、
呼び寸法が38μmの篩を通過しなかった複合磁性粒子を準備した。
【0060】
(比較例2)
比較例2の圧粉磁心は、基本的には実施例1の圧粉磁心と同様の構成を備えているが、圧粉磁心の密度が7.45g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、比較例2の圧粉磁心の製造方法において、圧粉磁心の密度が7.45g/cm3となるように加圧成形した。
【0061】
(比較例3)
比較例3の圧粉磁心は、基本的には実施例1と同様の構成を備えているが、上記特許文献1に開示の粒径の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなる点および圧粉磁心の密度が7.60g/cm3である点においてのみ異なる。具体的には、比較例3の圧粉磁心の製造方法において、75μm以下のものを15%以下の範囲内の10.2%、75μmを超えて106μm以下のものを3〜20%の範囲内の11.4%、106μmを超えて150μm以下のものを10〜60%の範囲内の59.6%、150μmを超えて180μm以下のものを15〜60%の範囲内の15.6%、180μmを超えて1mm以下のものを40%以下の範囲内の3.2%としている。また、圧粉磁心の密度を7.60g/cm3となるように成形した。
【0062】
(評価方法)
得られた圧粉磁心について、それぞれ磁束密度および鉄損を以下のように測定した。リング状の圧粉磁心に関し、一次300巻、二次20巻の巻き線を施し、磁気特性測定用試料とした。これらの試料にて、BHカーブトレーサ(理研電子株式会社製の商品名「BHS−40S10K」)を用いて磁気特性を測定した。具体的には、まず、100(Oe:エルステッド)の磁場を印加して、その時の直流磁束密度B100を測定した。そして、励起磁束密度を2.5kG(=0.25T(テスラ))、測定周波数を1kHzにて、フルループ(BH曲線)を描いた時の鉄損(コアロス)を測定した。測定結果は、各圧粉磁心の1kg当たりの鉄損値(W/kg)とした。これらの結果を下記の表1、図4および図5に示す。なお、図4は、圧粉磁心の密度と磁束密度との関係を示す図である。図4において、縦軸は圧粉磁心の磁束密度(単位:T)を示し、横軸は圧粉磁心の密度(単位:g/cm3)を示す。図5は、圧粉磁心の密度と鉄損との関係を示す図である。図5において、縦軸は圧粉磁心の鉄損値(kW/m3)を示し、横軸は圧粉磁心の密度(単位:g/cm3)を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1、図4、および図5に示すように、実施例1〜9の圧粉磁心は、粒径が150μm以下の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなり、密度は7.60g/cm3以上であるため、高い磁束密度を維持するとともに、鉄損値を低減できた。特に、粒径が106μm以下の金属磁性粒子を備える軟磁性材料からなる実施例2、6、7は、鉄損値を大きく低減でき、粒径が75μm以下の金属磁性粒子を備える軟磁性材料からなる実施例3、8、9は鉄損値をさらに大きく低減できた。また、密度が7.65g/cm3の実施例4、6、8は高い磁束密度を得られ、密度が7.70g/cm3の実施例1〜3は、さらに高い磁束密度を得ることができた。
【0065】
一方、密度は高いが粒径が150μmを超える金属磁性粒子を含む軟磁性材料を用いてなる比較例1および、上記特許文献1に開示の粒径の金属磁性粒子を用いてなる比較例3は、磁束密度は維持できるものの、150μmを超える粒径の金属磁性粒子を含んでいる軟磁性材料を用いてなるため、鉄損値が非常に悪かった。また、150μm以下の粒径の小さい金属磁性粒子を含む軟磁性材料を用いてなるが、密度の低い比較例2は、鉄損値は低いものの、磁束密度が低かった。
【0066】
以上説明したように、実施例によれば、粒径が150μm以下の金属磁性粒子を備える軟磁性材料を用いてなり、密度は7.60g/cm3以上である圧粉磁心は、鉄損値を低くでき、高い磁束密度を維持できることがわかった。また、圧粉磁心は、直流磁束密度B100を1.5T以上、かつ鉄損値を100W/kg以下にできることがわかった。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の圧粉磁心は、たとえば、モーターコア、電磁弁、リアクトルもしくは電磁部品一般に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態における圧粉磁心を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における軟磁性材料を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における圧粉磁心を製造するためのフローチャートを示す図である。
【図4】圧粉磁心の密度と磁束密度との関係を示す図である。
【図5】圧粉磁心の密度と鉄損との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 金属磁性粒子、20 絶縁被膜、30 複合磁性粒子、40 樹脂、50 有機物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が150μm以下の金属磁性粒子と、前記金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜とを有する軟磁性材料を用いてなり、
密度は7.60g/cm3以上である、圧粉磁心。
【請求項2】
前記金属磁性粒子の粒径は106μm以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記絶縁被膜はリン酸塩からなる、請求項1または2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
直流磁束密度B100は1.5T以上で、かつ鉄損は100W/kg以下であることを特徴とする、圧粉磁心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−41685(P2008−41685A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209703(P2006−209703)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】