説明

圧縮機用ピストン

【課題】ピストンの接合の強度を安定させることのできる圧縮機用ピストンを提供することを目的としている。
【解決手段】圧縮機の駆動部に連結される連結部と、この連結部と一体に形成される結合部とで形成されたボディと、一側に前記ボディが接合される開口部が設けられた有底筒状のキャップとで形成され、前記キャップの周壁の開口部の端壁に、前記ボディの結合部の突当壁が当接すると共に、前記周壁の内周面に前記結合部の外周面が対向した状態で、前記端壁と前記突当壁との間が接合される圧縮機用ピストンであって、前記結合部の外周面と前記周壁の内周面のいずれか一方に溝部を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム溶接に係り、特に圧縮機用ピストンの溶接に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンのボディとキャップの接合方法として、特許文献1に示すように電子ビーム溶接が用いられている。この圧縮機用ピストンは、ボディ部品とキャップ部品とからなるピストン組立体を電子ビーム溶接によって周方向全域に亘って溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−153046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術は、電子ビーム溶接によってボディとキャップを溶接しているが、破壊試験によってピストンの強度を評価した結果、ボディとキャップとの接合部分の強度が安定しておらず、ボディとキャップの接合部分の境界近傍が破壊されるという課題があった。
【0005】
すなわち、ボディとキャップとを電子ビーム溶接によって溶接する際に、残留内部応力がキャップの外周端に生じるため、接合部分の強度を安定して維持することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、ピストンの接合の強度を安定させた圧縮機用ピストンの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明請求項1記載に係る発明は、圧縮機の駆動部に連結される連結部5と、この連結部5と一体に形成される結合部4とで形成されたボディ2と、一側に前記ボディ2が接合される開口部17が設けられた有底筒状のキャップ3とで形成され、前記キャップ3の周壁6の開口部17の端壁7に、前記ボディ2の結合部4の突当壁10が当接すると共に、前記周壁6の内周面8に前記結合部4の外周面13が対向した状態で、前記端壁7と前記突当壁10との間が接合される圧縮機用ピストン1であって、前記結合部4の外周面13と前記周壁6の内周面8のいずれか一方に溝部11を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の圧縮機用ピストン1であって、前記溝部11は、前記キャップ3の内周面8と対向する前記結合部4の外周面より軸方向内側に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の圧縮機用ピストン1であって、前記溝部11は、前記キャップ3の開口部17に嵌入される外周面13を縮径して形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧縮機用ピストン1であって、前記溝部11は、前記結合部4の前記突当壁10から先端部9までの間に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、結合部の外周面と周壁の内周面のいずれか一方に溝部を設けることにより、外周面と内周面との間に隙間を設けることができるため、電子ビーム溶接により溶融した溶融液が隙間に流れて溶接時に発生する残留内部応力が低下するので、ボディとキャップとの接合の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のピストンの概略全体断面図。
【図2】本発明のピストンのボディとキャップの分解概略断面図。
【図3】本発明のピストン接合部の拡大図。
【図4】ボディとキャップの間の隙間の大きさと強度の関係を示す図。
【図5】変形例を示すピストンの接合部拡大図。
【図6】変形例を示すピストンの接合部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
<実施例1>
図1〜4を用いて実施例1に係る圧縮機用ピストン1を説明する。
【0015】
図1に示ように圧縮機用ピストン1は、圧縮機の駆動部に連結される連結部5と、この連結部5と一体に形成される結合部4とで形成されたボディ2と、一側にボディ2が接合される開口部17が設けられた有底筒状のキャップ3とで形成されている。
【0016】
このキャップ3の周壁6の開口部17の端壁7に、ボディ2の結合部4の突当壁10が当接すると共に、周壁6の内周面8に結合部4の外周面13が対向した状態で、端壁7と突当壁10との間が接合されている。
【0017】
そして、結合部4の外周面13と周壁6の内周面8のいずれか一方に溝部11が設けられている。
【0018】
図1に示すように圧縮機用ピストン1は、一端側に断面L字状の連結部5を有し、他端側に結合部4を有するボディ2と、ボディ2の結合部4と溶接によって接合する有底筒状のキャップ3とで形成されている。
【0019】
ボディ2は、一端側を図示しない圧縮機に連結される略L字状の連結部5と、他端側を後述するキャップ3と電子ビーム溶接によって一体に接合される結合部4と、によって形成されている。このボディ2の一端側に連結部5が設けられており、図1及び図2に示すように、圧縮機に連結するための連結凹部5aが形成されている。この連結凹部5aには、図示しないピストンシューが摺動自在に配置され、圧縮機の駆動力をピストンシューを介してピストンに伝達している。
【0020】
ボディ2の他端側に結合部4が設けられており、後述するキャップ3が電子ビーム溶接によって接合されている。図3に示すように、ボディ2の端部には、先端部9が設けられている。先端部9の外周面13には、キャップ3が嵌入されてキャップ3の先端が突き当たる突当壁10を有するフランジ部14と、フランジ部14と連続して設けられる段差部12とが設けられている。また、外周面13の軸方向内側には、段差部12との間に全周に亘って溝部11が設けられており、嵌入されたキャップ3の内周面8との間に隙間Sを形成している。
【0021】
先端部9の内側には、内周壁が円錐状の斜面に形成される円錐面15が設けられている。
【0022】
ボディ2の先端部9の外周面13に嵌入するキャップ3は、有底筒状に形成されており、周壁6と底壁16とからなっている。周壁6の先端には、ボディ2の突当壁10に突き当たる端壁7が設けられている。
【0023】
次に、ボディ2とキャップ3の溶接方法について説明する。
【0024】
周壁6の先端の端壁7が、ボディ2の突当壁10に当接するように配置され、電子ビーム溶接によって、ボディ2とキャップ3が接合される。この溶接の際に、ボディ2のフランジ部14とキャップ3の端壁7の一部が溶融し、溶融した溶融液が、ボディ2の外周面13に形成された溝部11に流れ込み、溶接時に発生する残留内部応力が低下する。
【0025】
図4は、破壊試験によって得られた実験結果であり、ボディ2の外周面13に形成された溝部11とキャップ3の端壁7の内周面8との間の隙間Sの大きさと、電子ビーム溶接によって接合された圧縮機用ピストン1の強度を示している。
【0026】
図4に示すように、ボディ2の外周面13に形成された溝部11とキャップ3の端壁7の内周面8との間の隙間Sの大きさが大きいほど、接合した圧縮機用ピストン1の強度が高くなる傾向がある。
【0027】
本実施例では、ボディ2の結合部4の外周面13の軸方向内側に溝部11を設けることにより、外周面13と内周面8との間に隙間Sを設けることができるため、電子ビーム溶接によりボディ2のフランジ部14とキャップ3の端壁7の一部が溶融し、溶融した溶融液が溝部11に流れて、溶接時に発生する残留内部応力が低下するので、ボディ2とキャップ3との接合の強度を高めることができる。
【0028】
また、図5に示すように結合部4の変形例として、先端部20の先端まで溝部11を設け、段差部12にキャップ3の内周面8を嵌入することにより、ボディ2の先端部9とキャップ3の内周面8との間に隙間Sを大きく確保することができ、より強度の高い溶接をすることができる。
【0029】
また、図6に示すように結合部4の変形例として、ボディ2の先端部30の外周面13に段差部12を設けずに溝部11を形成している。段差部12を設けずに溝部11を形成することにより、ボディ2の外周面13とキャップ3の内周面8との間に隙間Sを大きく確保することができ、より強度の高い溶接をすることができる。
【0030】
なお、本実施例では、ボディの外周面に溝部を設けたが、キャップの内周面とボディの外周面との間に隙間Sを設ける構成であれば、どちらに溝部を設けても良い。
【0031】
また、溝部の深さは、ピストンに用いられる材質やピストンの形状によって、適宜変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電子ビーム溶接に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 圧縮機用ピストン
2 ボディ
3 キャップ
4 結合部
5 連結部
6 周壁
7 端壁
8 内周面
10 突当壁
13 外周面
17 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機の駆動部に連結される連結部(5)と、この連結部(5)と一体に形成される結合部(4)とで形成されたボディ(2)と、
一側に前記ボディ(2)が接合される開口部(17)が設けられた有底筒状のキャップ(3)とで形成され、
前記キャップ(3)の周壁(6)の開口部(17)の端壁(7)に、前記ボディ(2)の結合部(4)の突当壁(10)が当接すると共に、前記周壁(6)の内周面(8)に前記結合部(4)の外周面(13)が対向した状態で、前記端壁(7)と前記突当壁(10)との間が接合される圧縮機用ピストン(1)であって、
前記結合部(4)の外周面(13)と前記周壁(6)の内周面(8)のいずれか一方に溝部(11)を設けたことを特徴とする圧縮機用ピストン(1)。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮機用ピストン(1)であって、
前記溝部(11)は、前記キャップ(3)の内周面(8)と対向する前記結合部(4)の外周面(13)より軸方向内側に設けられていることを特徴とする圧縮機用ピストン(1)。
【請求項3】
請求項1記載の圧縮機用ピストン(1)であって、
前記溝部(11)は、前記キャップ(3)の開口部(17)に嵌入される外周面(13)を縮径して形成されていることを特徴とする圧縮機用ピストン(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧縮機用ピストン(1)であって、
前記溝部(11)は、前記結合部(4)の前記突当壁(10)から先端部(9)までの間に形成されていることを特徴とする圧縮機用ピストン(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−255387(P2012−255387A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129115(P2011−129115)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】