説明

圧縮機

【課題】塩素原子を含まず地球温暖化係数の低い炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒とした冷凍装置の圧縮機において、耐摩耗性を向上し信頼性の高い圧縮機を提供すること。
【解決手段】密閉容器内にモータ及び前記モータの回転子で駆動される圧縮機構部を配し、圧縮機構部の摺動部材であるピストン9及びベーン10に耐フッ化水素金属を使用することにより、冷媒と水分や酸素と反応した場合に生成するフッ化水素による摩耗を防止でき、信頼性確保を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素原子を含まず地球温暖化係数の低い炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒を作動冷媒としたルームエアコン、冷蔵庫、空気調和装置に組み込まれる圧縮機の摺動面の耐摩耗性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍装置では、作動冷媒としてオゾン層破壊係数ゼロのHFC(ハイドロフルオロカーボン)系に移行してきているがこのHFC系冷媒は一方では地球温暖化係数が非常に高いため近年問題になってきている。そこで塩素原子を含まず地球温暖化係数の低い炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒とした冷凍装置が考えられて来ている。従来のHFC系冷媒に使用されているこの種のロータリ圧縮機のベーン材質およびピストン材質に関しては、信頼性を確保するために色々な工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1に記載された従来のHFC(ハイドロフルオロカーボン)系冷媒下で使用されるロータリ圧縮機の横断面図である。シリンダー31の内面にピストン33が挿入されシャフト32の回転と共に回転しベーン34で仕切られた吸入室37および圧縮室38で冷媒ガスを吸入および圧縮する構成になっている。ロータリ圧縮機の機構構成上摩耗の厳しいところはベーン34の先端とピストン33の外周との接触場所でありベーン34の背面より吐出圧力と吸入圧力の差圧により大きな力でベーン34先端がピストン33外周に押し付けられるため境界摩耗になっている。このため、ベーンに窒化処理を行ったり、その表面にCrNあるいはTiNイオンプレーティングを施して耐摩耗性を向上させて信頼性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−236890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塩素原子を含まず地球温暖化係数の低い炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒とした冷凍装置のロータリ圧縮機を考えた場合、前記冷媒と水分や酸素と反応した場合にフッ化水素を生成し特に摺動の厳しいベーンやピストンに対して摩耗を促進したり冷凍機油を劣化させたりして信頼性低下を招く課題があった。
【0006】
また、配管の長い冷凍装置では、ロータリ圧縮機より吐出された冷凍機油を回収するためには前記冷媒と相溶性のあるポリビニルエーテル類、ポリオールエステル類の冷凍機油を使用する必要があるが、前記冷凍機油には水分が含まれ易いためよりフッ化水素が発生し易いと言う課題があった。
【0007】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、耐フッ化水素金属をベーン等の圧縮機の摺動部材に使用し信頼性確保を行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の圧縮機は、炭素と炭素間に2重結合を有するハイ
ドロフルオロオレフィンの単一冷媒、又はハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒を作動冷媒として使用し、密閉容器内にモータ及び前記モータの回転子で駆動される圧縮機構部を配し、前記圧縮機構部の摺動部を構成する摺動部材を耐フッ化水素金属材としたことにより、前記冷媒と水分や酸素と反応した場合に生成するフッ化水素による摩耗を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧縮機は、摺動部材の材質を耐フッ化水素金属材とすることにより、作動冷媒と水分や酸素と反応した場合に生成するフッ化水素による摩耗を防止することが可能となり、塩素原子を含まず地球温暖化係数の低い炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒を使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるロータリ圧縮機の圧縮機構部の縦断面図
【図2】同ロータリ圧縮機の圧縮機構部の横断面図
【図3】2成分を混合した冷媒の混合比率による地球温暖化係数を示した特性図
【図4】従来例のロータリ圧縮機の圧縮機構部の横断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の発明は炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒、又はハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒を作動冷媒として使用し、密閉容器内にモータ及び前記モータの回転子で駆動される圧縮機構部を配し、前記圧縮機構部の摺動部を耐フッ化水素金属材としたことにより前記冷媒が分解してフッ化水素を発生させてもフッ化水素によるベーンの摩耗を押えることが出来る。
【0012】
第2の発明は第1の発明の摺動部材として耐フッ化水素金属材にニッケルクロム合金を主体とする材料を用いたものである。ニッケルクロム合金はフッ化水素と反応して不働皮膜を生成するためフッ化水素のそれ以上の腐食を防止することが出来る。
【0013】
第3の発明は第2の発明の摺動部材にガス窒化処理を行い硬度を上げてさらに耐摩耗性を向上したものである。
【0014】
第4の発明は第1〜第3の発明の圧縮機構部を、シリンダー内にシャフトにより偏心回転するピストンを配し、前記シリンダー内を吸入室と圧縮室に仕切り先端部が前記ピストンの外周に圧接するベーンとを有する構成としたものである。
【0015】
第5の発明は第4の発明のベーンを耐フッ化水素金属材としたことで、ベーンの摺動部の耐摩耗性が向上し、信頼性の高い圧縮機の提供が可能となる。
【0016】
第6の発明は第4の発明のピストンを耐フッ化水素金属材としたことで、ピストンとベーンとの摺動部の耐摩耗性が向上し、信頼性の高い圧縮機の提供が可能となる。
【0017】
第7の発明は、第1〜第6の発明において、摺動部を潤滑する冷凍機油に作動冷媒と相溶性のあるポリビニルエーテル類、ポリオールエステル類を用いるとしたことで、ロータリ圧縮機より冷媒といっしょに吐出された前記冷凍機油を容易に回収することができるのでロータリ圧縮機の信頼性を確保することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる圧縮機の縦断面図を示している。なお、本実施の形態においては、ロータリ圧縮機の場合について説明する。
【0020】
図1に示されるように、密閉容器1の上部にモータ2の固定子2aが固定され回転子2bで駆動されるシャフト4を有する圧縮機構部5が密閉容器1の下部に固定されている。圧縮機構部5のシリンダー6の上端に上軸受け7下端に下軸受け8がボルト等で固定されている。シリンダー6内にはシャフト4の偏心部4aにピストン9が挿入され偏心回転を行う。また、密閉容器1の底部には炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒と相溶性のあるポリビニルエーテル類あるいはポリオールエステル類の冷凍機油3が溜められている。
【0021】
図2は、本発明にかかるロータリ圧縮機の圧縮機構部5の横断面図である。図2に示されるように、シリンダー6のベーン溝6aにベーン10が挿入されベーン10の背面部10bにはベーンバネ11が設置されており、ベーン10の先端部10aをピストン9の外周に当接している。
【0022】
以上のように構成されたロータリ圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0023】
まず、シリンダー6に設けられた吸入口12より炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒ガスが吸入室13に吸入される。また、圧縮室14にある冷媒ガスはピストン9の左方向の回転(矢印方向)とともに圧縮され吐出切り欠き15を通って吐出口(図示せず)より吐出される。密閉容器1内に吐出された前記圧縮冷媒ガスはモータ2のすき間を通って密閉容器1の上部にある吐出管16より吐出される、その際まわりにある冷凍機油のミストも一緒に吐出される。
【0024】
ベーン10の背部10bにはベーンバネ11以外に高圧の吐出圧力がかかりシリンダー内の圧力との差圧による大きな力が働いているため、ベーン10の先端部10aとピストン9の外周との接触は境界摩擦となり高温の厳しい環境下にある。また、炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒ガスは水分や酸素と反応してフッ化水素を発生し高温の厳しい環境下にあるベーン10の先端部10aとピストン9の外周部に対して摩耗を促進してしまう。
【0025】
本発明ではこの厳しい環境下にあるベーンの信頼性を確保するために耐フッ化水素金属であるニッケルクロム合金を主体とする材料を用い不働皮膜を生成しフッ化水素による腐食を防止することが出来るのでフッ化水素の存在する環境下でもベーンの信頼性を確保することが出来る。さらにガス窒化処理を行っているため硬度を上げて耐摩耗性を向上している。また、ピストンに関しても耐フッ化水素金属であるニッケルクロム合金を主体とする材料を用い不働皮膜を生成しフッ化水素による腐食を防止することが出来るのでピストンの信頼性も確保することが出来る。また、冷凍機油として前記冷媒と相溶性のあるポリビニルエーテル類あるいはポリオールエステル類の冷凍機油を使用しているため、冷凍サイクルに出て行った冷凍機油をロータリ圧縮機に回収できるため信頼性の高いロータリ圧縮機を得ることが出来る。
【0026】
この冷凍装置に封入される冷媒は、ハイドロフルオロオレフィンである、例えばテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を基本成分にジフルオロメタン(HFC32)
とペンタフルオロエタン(HFC125)とのいずれか一方又は両方を、地球温暖化係数(GWP)が5以上で750以下、望ましくは5以上で300以下となるようにそれぞれ2成分混合もしくは3成分混合した冷媒である。または、ハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒(GWP=4)でも良い。
【0027】
図3は、テトラフルオロプロペンとジフルオロメタン又はペンタフルオロエタンとの2成分を混合した冷媒の混合比率による地球温暖化係数を示した特性図である。具体的には図3に示すように、2成分混合の場合にはテトラフルオロプロペンとジフルオロメタンとを混合してGWP300以下とするためにはジフルオロメタンを44wt%以下、テトラフルオロプロペンとペンタフルオロエタンとを混合してGWP750以下とするためにはペンタフルオロエタンを21.3wt%以下、さらにGWP300以下とするためにはペンタフルオロエタンを8.4wt%以下と混合することになる。
【0028】
また、冷媒をテトラフルオロプロペンの単一冷媒とした時にはGWP4となり極めて良好な値を示す。しかしながら、ハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒に比べて比容積が大きいことなどから冷凍能力が低くなるため、より大きな冷却サイクル装置が必要になる。換言すれば、炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンを混合した冷媒を用いれば、ハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒と比較して冷凍能力などの所定の特性を改善して冷媒として使用しやすくすることができる。従って、封入する冷媒において、単一冷媒を含めてテトラフルオロプロペンの割合をどれほどにするかは、圧縮機を組み込む冷却サイクル装置等の目的や上述したGWPの制限などの条件に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
これによって回収されない冷媒が大気に放出されても地球温暖化に対しその影響を極少に保つことができる。また前記比率で混合された混合冷媒は、非共沸混合冷媒にも関わらず温度差を小さくでき擬似共沸混合冷媒に挙動が近づくため、冷却サイクル装置の冷却性能や冷却性能係数(COP)を改善することができる。
【0030】
なお、本実施の形態においてはロータリ圧縮機を用いて説明したが、炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒、又はハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒を用いた圧縮機で、冷媒が圧縮される過程で摺動部付近が高温となるものについて効果を有することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述したように、本発明にかかる圧縮機は、炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒、又はハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒下でも圧縮機の信頼性を確保することができるため、給湯器用圧縮機、カーエアコン用圧縮機、冷凍冷蔵庫用圧縮機、除湿機用圧縮機等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 密閉容器
2 モータ
2a 固定子
2b 回転子
3 冷凍機油
4 シャフト
4a 偏心部
5 圧縮機構部
6 シリンダー
6a ベーン溝
7 上軸受け
8 下軸受け
9 ピストン
10 ベーン
10a 先端部
10b 背面部
11 ベーンバネ
12 吸入孔
13 吸入室
14 圧縮室
15 吐出切り欠き
16 吐出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンの単一冷媒、又はハイドロフルオロオレフィンを基本成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒を作動冷媒として使用し、密閉容器内にモータ及び前記モータの回転子で駆動される圧縮機構部を配し、前記圧縮機構部の摺動部を構成する摺動部材を耐フッ化水素金属材としたことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
耐フッ化水素金属材にニッケルクロム合金を主体とする材料を用いた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
摺動部材にガス窒化処理を行った請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
圧縮機構部は、シリンダー内にシャフトにより偏心回転するピストンを配し、前記シリンダー内を吸入室と圧縮室に仕切り先端部が前記ピストンの外周に圧接するベーンとを有する構成とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
ベーンを耐フッ化水素金属材としたことを特徴とする請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
ピストンを耐フッ化水素金属材としたことを特徴とする請求項4に記載の圧縮機。
【請求項7】
摺動部を潤滑する冷凍機油に作動冷媒と相溶性のあるポリビニルエーテル類、ポリオールエステル類を用いた請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate