説明

圧縮機

【課題】圧縮機の圧力脈動による騒音のレベルを低減する。
【解決手段】
圧縮機のシリンダヘッド104の外側周囲に形成された吐出室を、複数のリブ151を配設して周方向に複数の小室104a〜104gに区画すると共に、各リブ151に隣接する小室相互を連通する連通孔151a〜151gを配設し、かつ、これら連通路151a〜151gの駆動軸方向の位置が少なくとも1箇所で異なるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル式空調装置等に使用される圧縮機において、冷媒の圧力脈動による騒音のレベルを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動軸の周囲に配列されピストンが往復動自在に挿入された複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、前記シリンダブロックの端面に接合され、各シリンダボアと吸入弁機構を介して連通する吸入室、及び各シリンダボアと吐出弁機構を介して連通する吐出室を有するシリンダヘッドとを備え、吐出室を吸入室の外側周囲に形成した圧縮機が開示されている。
【0003】
そして、ノイズ騒音の要因となる圧力脈動を低減するため、吐出室を複数のリブによって周方向に複数の小室に区画し、これら小室相互をリブの突端とバルブプレート(吸入弁機構、吐出弁機構を備える)との間に形成した絞り通路を介して連通させている。
【0004】
これにより、シリンダボアから吐出された高圧冷媒は、小室内で膨張し、絞り通路を通過して収縮し、隣接する小室で再度膨張するというように、膨張と収縮を繰り返しながら減衰された後、圧縮機から外部の冷凍回路へ流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−233783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、リブとバルブプレートとの間にバルブプレート面に沿って形成された絞り通路を介して音波がシリンダヘッド内を1周してしまうため、圧縮機の固有振動数付近での共振を十分低減することができず、騒音レベルの悪化を招いていた。
【0007】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、圧縮機の圧力脈動による共振を低減して騒音レベルを十分低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、
駆動軸の周囲に配列されピストンが往復動自在に挿入された複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、シリンダブロックの端面に接合され、各シリンダボアと連通する吸入弁及び吐出弁を備えたバルブプレートと、該バルブプレートに接合され、各シリンダボアと吸入弁を介して連通する吸入室、及び各シリンダボアと吐出弁を介して連通する吐出室を有するシリンダヘッドとを備え、吸入室及び吐出室の一方が他方の外側周囲に形成された圧縮機において、以下の構成を備える。
【0009】
外側周囲に形成された吸入室または吐出室を、周方向に複数の小室に区画する複数のリブを配設すると共に、各リブに隣接する小室相互を連通する連通路を配設し、かつ、複数の連通路の駆動軸方向の位置が少なくとも1箇所で異なるようにした。
【発明の効果】
【0010】
複数の連通路の駆動軸方向の位置が少なくとも1箇所で異なることにより、ある連通路を経た音波は、該連通路とは駆動軸方向の位置が異なる連通路が形成されたリブで反射されるので、シリンダヘッド内を音波が1周することが回避され、共振が効果的に抑制されて騒音レベルを十分低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る弁装置を供えた可変容量圧縮機を示す縦断面図。
【図2】同上圧縮機のシリンダヘッドの横断面図。
【図3】同上シリンダヘッドのリブに形成される連通孔の高さを相違させた第1の実施形態を、機能と共に示す図。
【図4】同じく第2の実施形態を示す図。
【図5】同じく第3の実施形態を示す図。
【図6】本発明による騒音レベル低減効果を示す線図。
【図7】本発明において冷媒流量を維持できる作用を示す線図。
【図8】リブの連通孔形成の別の形態を示す斜視図。
【図9】同上の別の形態で形成した連通孔を用いた実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態における圧縮機を示し、この圧縮機は、車輌エアコンシステムに使用する斜板式可変容量型の往復動圧縮機100である。
【0013】
圧縮機100は、シリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端に連結したフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端にバルブプレート103を介して連結したシリンダヘッド104と、を備える。
【0014】
シリンダブロック101とフロントハウジング102とによりクランク室105が画成され、駆動軸106は、クランク室105内を横断するように、シリンダブロック101及びフロントハウジング102に対してラジアル方向及びスラスト方向のベアリング113,115,116を介して回転可能に支持される。
【0015】
駆動軸106の先端部は、フロントハウジング102のボス部102a内を貫通してフロントハウジング102の外部に突出し、この外部に突出した先端部に、車両のエンジンやモータなどの駆動源が動力伝達装置を介して連結される。
尚、駆動軸106とボス部102aとの間に軸封装置112を設け、フロントハウジング102の内部(クランク室105)を外部から遮断している。
【0016】
クランク室105内において、駆動軸106にはロータ108が固着され、このロータ108に対して連結部109を介して斜板107を取り付けてある。
斜板107は、その中心部に形成した貫通孔に駆動軸106が貫通し、駆動軸106と一体的に回転すると共に、駆動軸106の軸方向にスライド可能でかつ傾動可能に支持されている。また、ロータ108は、フロントハウジング102の前端側内壁に配設したスラストベアリング114によって回転可能に支持されている。
【0017】
ロータ108と斜板107との間には、斜板107の傾角を減少させる方向に向けて斜板107を付勢するコイルバネ110が装着され、また、シリンダブロック101と斜板107との間には、斜板107の傾角を増大させる方向に向けて斜板107を付勢するコイルバネ111が装着されている。
【0018】
シリンダブロック101には、駆動軸106を囲むように複数のシリンダボア101aが形成され、各シリンダボア101aには、ピストン117が駆動軸106の軸方向に往復動可能に収容されている。各ピストン117は、シュー118を介して斜板107の外周部に係合していて、斜板107が駆動軸106と共に回転すると、各ピストン117は、シリンダボア101a内を往復動する。
【0019】
シリンダヘッド104には、駆動軸106の軸線の延長線上に吸入室119が配設されると共に、吸入室119を環状に取り囲む吐出室120が配設される。吸入室119は、バルブプレート103に設けた連通孔103a及び吸入弁の弁体150aを介してシリンダボア101aと連通し、吐出室120は、吐出弁の弁体150b及びバルブプレート103に設けた連通孔103bを介してシリンダボア101aと連通している。
【0020】
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト140によって締結され、圧縮機ハウジングが形成される。
【0021】
また、シリンダブロック101の外側には、マフラ121を設けてある。マフラ121には、吐出室120に連通する連通路121aが、バルブプレートに形成した連通路103cと重合して形成されると共に、逆止弁200が内蔵される。逆止弁200は、上流側の吐出室120内の圧力が下流側圧力より所定以上高いときのみ開弁し、吐出室120から連通路103c、121aを介して流入した冷媒を、吐出ポート121bから吐出させるようになっている。
【0022】
シリンダヘッド104には、車輌エアコンシステムの吸入側冷媒回路(蒸発器)と接続される吸入ポート104aが形成されると共に、吸入ポート104aの下流側近傍に開度調整弁250が介装され、吸入側冷媒回路(蒸発器)から吸入ポート104a及び開度調整弁250を介して流量調整された冷媒が吸入室119に吸入されるようになっている。
【0023】
シリンダヘッド104には、容量制御弁300を取り付けてある。
容量制御弁300は、吐出室120とクランク室105とを連通する連通路125の開度を調整し、クランク室105への吐出冷媒の導入量を制御する。
【0024】
また、クランク室105内の冷媒は、ベアリング115,116と駆動軸106との隙間を抜け、シリンダブロック101に形成した空間127、更に、バルブプレート103に形成したオリフィス103dを介して吸入室119へ流入する。
【0025】
従って、容量制御弁300によりクランク室105への吐出冷媒の導入量を調整してクランク室105の圧力を変化させ、斜板107の傾斜角、つまりピストン117のストローク量を変化させることにより、圧縮機100の吐出容量を制御することができる。
【0026】
尚、容量制御弁300は、外部信号に基づいて内蔵するソレノイドへの通電量を調整し、連通路126を介して容量制御弁300の感圧室に導入される吸入室119の圧力が所定値になるように、圧縮機100の吐出容量を制御し、また、内蔵するソレノイドへの通電を遮断することにより、連通路125を強制開放して、圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
【0027】
次に、圧力脈動による騒音のレベルを低減するため、吐出室120に配設された構成を説明する。
図2に示すように、シリンダヘッド104の外周壁104bと、吸入室119と吐出室120とを仕切る内周壁104cとの間に、駆動軸106を中心とする円の径方向に複数のリブ151を配設して、吐出室120内を、各シリンダボア101aの吐出側の連通孔103bと1個ずつ連通させた小室120a〜120gに区画する。このうち1個の小室(例えば小室120a)は、バルブプレート103の連通路103cと連通させている。
【0028】
また、各リブ151に小室120a〜120g相互を連通させる複数の連通孔(連通路)151a〜151gを、駆動軸106軸方向の位置(シリンダヘッド104端壁からの高さ位置、以下、連通孔の高さという)が少なくとも1つ異なるように形成する。
【0029】
図3〜図5は、連通孔151a〜151gの高さを少なくとも1つ異ならせた各種実施形態を、各小室120a〜120gを直線状に展開した状態で示したものである。
図3,図4の実施形態では、連通孔151a〜151gの高さを、周方向に1個置きに異ならせたものである。連通孔151a〜151gのいずれかを透過した音波は、その連通孔に隣接したリブ151壁面に当たって反射する。このように、音波がシリンダヘッド104を1周することを回避できる。
【0030】
このため、図6に示すように、圧縮機100の固有振動数付近(例えば、400〜500Hz周辺)での共振を、効果的に抑制することができ、騒音レベルを十分低減することができる。
【0031】
ところで、連通孔の高さを異ならせることにより冷媒の流動方向が波状に変化するため、流動抵抗の増大が考えられる。
しかし、本発明では、共振の抑制効果を高めることで騒音レベルを大きく引き下げることができるため、特許文献1のような連通路の開口面積を小さくして絞り、膨張、収縮の繰り返しによる騒音レベル低減機能を必要としないか、同機能の分担割合を少なくしても済む。したがって、連通孔の開口面積を大きくして冷媒の流動抵抗を減少させることができるので、特許文献1のように同一高さで小開口面積の連通路を設けた場合に比較しても、圧縮機の効率(成績係数COP)を同等以上に高めることも可能となる。
【0032】
因みに、連通孔の総開口面積が所定以上の場合、図7に示すように、連通孔の総開口面積を同一として、同一高さのものと、同一運転条件(同一吐出圧、同一吸入圧)で比較しても、冷媒流量は略同等に維持できることが確認された。
【0033】
一方、連通孔の開口面積を小さくして、膨張、収縮の繰り返しによる騒音レベル低減機能を併用して騒音レベル機能をより向上させることも可能である。
ただし、連通孔の開口面積を小さくしていくと、連通孔の高さを異ならせて冷媒の流動方向が波状に変化することによる流動抵抗の増大が無視できなくなり、冷媒流量に影響を生じると考えられる。
【0034】
そこで、連通孔の開口面積を所定より小さくした場合は、図3に比較して図4のように、冷媒出口(バルブプレート103の連通路103c)に隣接する直上流の連通孔151a、151bを冷媒出口の高さに近づける方が、冷媒流動方向の変化が小さくなって流動抵抗を減少できるため好ましい。
【0035】
また、図5のように、冷媒出口から上流側2つ目までの連通孔151a、151b、151c、151gを、冷媒出口の高さに近づけるようにすれば、流動抵抗をより減少できる。
【0036】
また、リブ151に形成する連通孔を、図8に示すように孔軸を斜め方向に形成してもよい。シリンダヘッド104に鋳造等でリブ151を一体成形する場合は、リブ151の厚み方向と平行な連通孔を加工することが難しいが、斜め方向加工とすれば、シリンダヘッド104を斜めにセットした状態で容易に加工することができる。特に、リブ151の連通孔以外でもシリンダヘッド104を斜めにセットした状態で加工する箇所があるので、これらと同時に効率良く加工することができる。
【0037】
さらに、連通孔を斜め方向に形成する場合は、図9に示すように、冷媒出口の直上流の連通孔151a、151bを、冷媒が冷媒出口に向かう方向に孔軸を設定したり、その他の連通孔も冷媒の流動方向に沿うように孔軸を設定したりすることにより、流動抵抗をより減少できる。
【0038】
一方、リブ151は、上記実施形態のようにシリンダヘッド104と一体成形されるものの他、シリンダヘッド104と別体の部材で形成することもできる。この場合は、リブ151を圧縮機運転時の温度状態に対して耐久性を有する樹脂で形成することもでき、圧縮機の軽量化を図れる。
【0039】
本発明は、以上示した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、シリンダヘッドの中心側に吸入室を有し、該吸入室の外側に吐出室を有した圧縮機に適用したが、シリンダヘッドの中心側に吐出室を有し、該吐出室の外側に吸入室を有した圧縮機もあり、この場合は、外側の吸入室に対して本発明を同様に適用することができ、吸気脈動による騒音レベルを低減することができる。
【0040】
また、以上の実施形態のように、外側の吐出室又は吸入室に対し、シリンダボア数より少ない数の小室に区画形成してもよい。したがって、リブの個数は、2つ以上でよく、2つ以上のリブに形成される連通孔のうち、少なくとも1つの高さが相違していればよい。
【0041】
また、各リブに形成される連通孔の断面形状や断面積が相違していてもよく、リブ毎に連通孔を複数形成してもよい。また、連通孔の孔軸を斜め方向に形成する場合は、各連通孔の孔軸の方向を相違させてもよく、1個のリブに複数の連通孔を交差させて配設することもできる。
【0042】
また、リブで仕切られる各小室とバルブプレート面とは、完全にシールしてよいが、実質的に音波を遮断できる程度の隙間は有していてもよい。
また、複数のリブに形成される連通孔のうち、リブのバルブプレート側の突端に形成した凹溝とバルブプレート面との間に形成される連通孔を含んでいても、高さが相違する他の連通孔を有していればよい。
【符号の説明】
【0043】
100…圧縮機
101…シリンダブロック
101a…シリンダボア
103…バルブプレート
103a…バルブプレートの連通孔(吸入側)
103b…バルブプレートの連通孔(吐出側)
103c…バルブプレートの連通路(冷媒出口)
104…シリンダヘッド
104b…シリンダヘッドの外周壁
104c…シリンダヘッドの内周壁
106…駆動軸
119…吸入室
120…吐出室
120a〜120g…小室
151…リブ
151a〜151g…リブの連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の周囲に配列されピストンが往復動自在に挿入された複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、前記シリンダブロックの端面に接合され、前記各シリンダボアと連通する吸入弁及び吐出弁を備えたバルブプレートと、該バルブプレートに接合され、前記各シリンダボアと前記吸入弁を介して連通する吸入室、及び前記各シリンダボアと前記吐出弁を介して連通する吐出室を有するシリンダヘッドとを備え、前記吸入室及び吐出室の一方が他方の外側周囲に形成された圧縮機において、
前記外側周囲に形成された吸入室または吐出室を、周方向に複数の小室に区画する複数のリブを配設すると共に、前記各リブに隣接する小室相互を連通する連通路を配設し、かつ、前記複数の連通路の前記駆動軸方向の位置が少なくとも1箇所で異なるようにしたことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記連通路は、前記リブを斜め方向に貫通する孔で形成されることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記外側周囲に吐出室が形成される場合において、前記シリンダヘッドの周壁に前記吐出室の吐出口が形成され、該吐出口の前記駆動軸方向の位置と、前記吐出口に隣接するリブに配設される連通路の前記駆動軸方向の位置とは一致させることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記外側周囲に吐出室が形成される場合において、前記シリンダヘッドの周壁に前記吐出室の吐出口が形成され、該吐出口に隣接するリブに形成される前記連通路の孔軸の延長線上近傍に前記吐出口を有することを特徴とする請求項2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記外側周囲に吸入室が形成される場合において、前記シリンダヘッドの周壁に前記吸入室の吸入口が形成され、該吸入口の前記駆動軸方向の位置と、前記吸入口に隣接するリブに配設される連通路の前記駆動軸方向の位置とは一致させることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記外側周囲に吸入室が形成される場合において、前記シリンダヘッドの周壁に前記吸入室の吸入口が形成され、該吸入口に隣接するリブに形成される前記連通路の孔軸の延長線上近傍に前記吸入口を有することを特徴とする請求項2に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記リブは、シリンダヘッドと別体の部材で形成される請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184727(P2012−184727A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49266(P2011−49266)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】