説明

圧縮機

【課題】取付足部等の寸法誤差によるシリンダボアの変形を防止すると共に、取付足部の剛性を確保した圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機1は、少なくともフロント側ハウジング2とリア側ハウジング3とを組み付けて構成するハウジング8を備え、ハウジング8に設けられた取付足部31を取付箇所にボルトによって締付けることで設置される。取付足部31は、フロント側ハウジング2とリア側ハウジング3とにそれぞれ設けられ、フロント側ハウジング2とリア側ハウジング3との少なくとも一方に圧縮機の上下方向に一対設けられている。取付足部31には、ボルトを挿通するボルト挿通孔32を形成し、その突出された先端部にボルトの挿通方向に対して垂直に形成された平坦面33を備え、平坦面33は、圧縮機1の上下方向に沿った平坦面33の巾が突出部31bの上下方向の巾より小さく、圧縮機1の前後方向に沿った平坦面33の巾より小さく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに設けられた取付足部を取り付けボルト等を用いて所定箇所に締付けて設置する圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される空調装置用の圧縮機は、複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロックと、シリンダブロックを貫通するように回転可能に設けられるシャフトと、このシャフトの回転に伴いシリンダボア内を往復動するピストンとを備えており、このシリンダブロック等の外周面に形成された複数の取付足部にボルト等を用いてエンジン等の所定の装着部材に固定するようにしている。
【0003】
この種の取付足部としては、例えば、圧縮機の本体外周に円柱状先端部を備えた取付足部を一体に形成し、この円柱状先端部に圧縮機本体の軸方向と直交する方向にボルト挿通孔を設け、エンジン外周の取付座に固定された取付ブラケットにボルト挿通孔を挿通した取付ボルトを締結することで取付足部を取付ブラケットに固定する構成が採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、上記の取付足部の接合面とエンジン側の装着部材の接合面とが均一に接触して締結可能にそれぞれ製造されるが、これらの部材の各々には、製造過程で所定の寸法誤差が生じる可能性がある。
このような寸法誤差が生じると、取付足部の接合面の一部が装着部材の接合面から離れた状態で接触したり、取付足部の接合面の角部(エッジ)でしか接触していない状態でボルトを締め付けることになる。このような状態でボルトの締付けを行うと、取付足部の接合面がボルトの締付け加重によって強制的にエンジン側の装着部材に密着させられるため取付足部が歪むことになる。さらには、このときに発生した応力が、例えば、ピストン型の圧縮機であればシリンダボアに伝播して真円度を悪化させ、ピストンがシリンダに接触したり、押し付けられたりすることで焼きつきを起こす不都合がある。
【0005】
そこで、このようなシリンダボアの変形を防止するため、取付足部の一部を低剛性にすることで取付面の寸法誤差を吸収し取付足部に応力を集中させてシリンダボアへの圧力の伝播を低減することが考えられている。例えば、特許文献2に示される往復動型圧縮機においては、取付足部を、シリンダブロックから延設した連結部と、連結部に続いて形成され締付け方向の片側又は両側に突設された突起部とを有して構成し、この突起部を、連結部よりも低剛性することが考えられている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−43478号公報
【特許文献2】WO2004/074683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の往復動型圧縮機においては、取付足部の突起部を低剛性にしているため、取付状態での共振点が低下し、より低いエンジン回転域において共振が発生しやくなり、車両における騒音不具合の原因となる恐れがある。
また、往復動型縮機の共振点の低下を防止するためには取付足部に所定以上の剛性を確保しなければならないが、取付足部の剛性を高く維持したまま締付けを行うと、前述のように取付足部等の寸法誤差を吸収できなくなるためシリンダボアが変形する不都合がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、取付足部等の寸法誤差によるシリンダボアの変形を防止すると共に、取付足部の剛性を確保した圧縮機を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧縮機は、少なくともフロント側ハウジングとリア側ハウジングとを組み付けて構成するハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持されて外部の駆動力にて回転動するシャフトと、前記シャフトの回転動を作動流体の圧縮作用に変換する圧縮機構とを備え、前記ハウジングに設けられた取付足部を取付箇所にボルトによって締付けることで設置される圧縮機において、前記取付足部は、フロント側ハウジングとリア側ハウジングとにそれぞれ分けて設けられ、かつ、前記フロント側ハウジングとリア側ハウジングとの少なくとも一方に圧縮機の上下方向に一対設けられ、前記取付足部に、前記ボルトを挿通する挿通孔を形成し、また、前記ボルトの挿通方向に突出すると共に、その突出された先端部に前記ボルトの挿通方向に対して垂直に形成された平坦面を備える突出部を設け、前記平坦面は、圧縮機の上下方向に沿った当該平坦面の巾が前記突出部の上下方向の巾より小さく形成されると共に、圧縮機の前後方向に沿った当該平坦面の巾より小さく形成されることを特徴としている。
【0010】
これにより、上下の取付足部の相対位置精度に誤差が生じている場合であっても、取付足部の上下方向の巾が狭くなるように構成されているため、ひとつの取付足部における圧縮機軸周りの拘束力が抑えられ、取付足部の歪みを抑えたまま上下一対の取付足部により圧縮機を確実に固定することが可能になる。また、前後の取付足部の相対位置精度に誤差が生じている場合においては、それぞれの取付足部が別体のハウジングに分かれて設けられているため、ハウジング間の接合部でその誤差を吸収することができ、平坦面の前後方向の巾が上下方向の巾よりも相対的に大きくても、取付足部の歪みを抑えたまま、前後の取付足部によって圧縮機を確実に固定することが可能となる。
また、取付足部の一部を低剛性にすることなく寸法誤差を吸収することが可能となるため、取付足部の剛性を確保し、強固な固定状態を得ることが可能となる。
【0011】
また、前記平坦面の角部の稜線が前記挿通孔にかかっていることが望ましい。
平坦面の角部の稜線が挿通孔にかかっているので、角部の稜線が短くなり、平坦面全体が接触するまで取付足部が変形しても変形している絶対量が少なくなる(変形する部分が少なくなる)ため、ボルトの締付け加重を有効に圧縮機の固定に集中させることができ、シリンダボアに歪みを与えないで確実に圧縮機を固定することができる。
【0012】
さらに、前記突出部は、前記平坦面に対して所定の鈍角をもって連接すると共に前記シャフトに対して平行をなすテーパ面を備え、このテーパ面を、前記平坦面の前記シャフトを中心とする円周方向の両側に設けられることが好ましい。
このようなテーパ面を突出部に有することで、突出部の剛性を低下させることなく平坦面の上下方向の巾を突出部より小さくして、高剛性と低歪みを両立することができる。
【0013】
さらにまた、前記取付足部は、前記シリンダブロックの外周面において、前記シャフトの軸に対して略対称となる位置に設けられ、前記シャフトの軸方向の端部に設けてもよい。
【0014】
3箇所の取付足部で圧縮機が所定箇所に固定されることによって、三点支持による幾何学的な面の吸収構造が構成されるため、より安定した固定構造を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上本発明によれば、取付足部に、ボルトを挿通する挿通孔を形成し、また、ボルトの挿通方向に突出すると共に、その突出された先端部に前記ボルトの挿通方向に対して垂直に形成された平坦面を備える突出部を設け、前記平坦面は、圧縮機の上下方向に沿った当該平坦面の巾が前記突出部の上下方向の巾より小さく形成されると共に、圧縮機の前後方向に沿った当該平坦面の巾より小さく形成されるため、シリンダボアへの応力の伝播を最小限にして変形を防止することが可能となる。
また、取付足部は、フロント側ハウジングとリア側ハウジングとにそれぞれ分けて設けられ、かつ、前記フロント側ハウジングとリア側ハウジングとの少なくとも一方に圧縮機の上下方向に一対設けられることによって、上下の取付足部の相対位置精度に誤差が生じている場合であっても、取付足部の上下方向の巾が狭くなるように構成されているため、ひとつの取付足部における圧縮機軸周りの拘束力が抑えられ、取付足部の歪みを抑えたまま上下一対の取付足部により圧縮機を確実に固定することが可能になる。また、前後の取付足部の相対位置精度に誤差が生じている場合においては、それぞれの取付足部が別体のハウジングに分かれて設けられているため、ハウジング間の接合部でその誤差を吸収することができ、平坦面の前後方向の巾が上下方向の巾よりも相対的に大きくても、取付足部の歪みを抑えたまま、前後の取付足部によって圧縮機を確実に固定することが可能となる。
さらに、取付足部の一部を低剛性にすることなく寸法誤差を吸収することが可能となるため、取付足部の剛性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例1にかかる圧縮機の外形を示す側面図である。
【図2】図2は、本発明にかかる圧縮機を示す断面図であり、図3(b)のX−X線上で切断した場合を示す。
【図3】図3は、図1で示す圧縮機のリア側シリンダブロックを示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は、リア側シリンダヘッド側から見た端面を示す図である。
【図4】図4は、取付足部の構成例を示す図であり、(a)は、取付足部の拡大図であり、(b)は、取付足部の側面図である。
【図5】図5は、ボルト挿通孔の径と平坦面の巾との大きさが異なる取付足部の取付状態を示した図であり、(a)は、ボルト挿通孔の径よりも平坦面の巾が大きい取付足部を示し、(b)は、平坦面の巾がボルト挿通孔の径よりも小さい取付足部を示したものである。
【図6】図6は、本発明の実施例2にかかる圧縮機の外形を示す側面図である。
【図7】図7は、実験例におけるそれぞれの圧縮機の斜視図であり、(a)は、取付足部に加工がされていない従来の圧縮機の斜視図を示し、(b)は、取付足部の剛性を弱めた従来の圧縮機の斜視図を示し、(c)本発明の圧縮機の斜視図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の圧縮機を往復動型圧縮機に実施した形態ついて図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
本願発明の実施形態にかかる往復動型圧縮機1は、図1乃至図3において、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに用いられるもので、フロント側シリンダブロック(フロント側ハウジング)2と、このフロント側シリンダブロック2に組み付けられるリア側シリンダブロック(リア側ハウジング)3と、フロント側シリンダブロック2のフロント側(図1及び図2中、左側)にバルブプレート4を介して組み付けられたフロント側シリンダヘッド5と、リア側シリンダブロック3のリア側(図1及び図2中、右側)にバルブプレート6を介して組み付けられたリア側シリンダヘッド7とを有して構成されているもので、フロント側シリンダヘッド5、フロント側シリンダブロック2、リア側シリンダブロック3、及び、リア側シリンダヘッド7は、図示しない締結ボルトにより軸方向に締結され、圧縮機全体のハウジング8を構成している。
【0019】
フロント側シリンダブロック2及びリア側シリンダブロック3のそれぞれには、後述するシャフト9を回転自在に支持するシャフト支持孔10と、このシャフト支持孔10に対して平行に、且つ、シャフト9を中心とする円周上に等間隔に配された複数の(5つの)シリンダボア11と、このシリンダボア11と平行に設けられた2つの吐出通路12と、低圧の作動流体が流通する吸入通路13とが形成されている。それぞれの吐出通路12は、案内路12aを介して連通すると共に、後述するフロント側シリンダヘッド5に形成された吐出室14とリア側シリンダヘッド7に形成された吐出室14とに連通している。また、一方の吐出通路12にあっては、バルブプレート6などに形成された通孔15を介して外部サイクルへ作動流体を吐出する吐出口16に接続されている。また、吸入通路13は、下記する斜板収容室21に接続され、この斜板収容室21を介して各シリンダヘッド5,7の吸入室17と連通する低圧通路18に接続されている。そして、それぞれのシリンダボア11内には、両頭ピストン19が摺動可能に挿入されている。尚、締結ボルトを挿着するボルト挿着孔20が隣り合うシリンダボア11間に設けられている。
【0020】
フロント側シリンダブロック2とリア側シリンダブロック3の内部には、それぞれのシリンダブロックを組み付けることによって画設される斜板収容室21が形成され、この斜板収容室21には、フロント側シリンダブロック2及びリア側シリンダブロック3に形成されたシャフト支持孔10に挿入されると共に、一端がフロント側シリンダヘッド5から突出して図示しない電磁クラッチのアマチュアに固定されるシャフト9が配設されている。
【0021】
シャフト9には、斜板収容室21内において、該シャフト9と一体に回転する斜板22が固装されている。この斜板22は、フロント側シリンダブロック2及びリア側シリンダブロック3に対してスラスト軸受23を介して回転自在に支持されており、周縁部分が前後に設けられた半球状のシュー24を介して両頭ピストン19の中央部に形成されたシューポケット25に係留されている。したがって、シャフト9が回転して斜板22が回転すると、その回転運動がシュー24を介して両頭ピストン19の往復直線運動に変換され、この両頭ピストン19の往復動により、シリンダボア11内においてピストン19とバルブプレート4,6との間に形成された圧縮室26の容積が変更されるようになっている。
【0022】
それぞれのバルブプレート4,6には、各シリンダボア11に対応して吸入孔27と吐出孔28とが形成され、また、フロント側とリア側のシリンダヘッド5,7には、圧縮室26に供給する作動流体を収容する吸入室17と、圧縮室26から吐出された作動流体を収容する吐出室14とが画設されている。吸入室17は、バルブプレート4,6に形成された吸入孔27を介して圧縮室26と連通可能となっており、吐出室14は、吸入室17の周囲に連続的に形成され、バルブプレート4,6に形成された吐出孔28を介して圧縮室26と連通可能となっている。
【0023】
そして、吸入孔27は、バルブプレート4,6のシリンダブロック側端面に設けられた吸入バルブ29によって開閉され、また、吐出孔28は、バルブプレート4,6のシリンダヘッド側端面に設けられた吐出バルブ30によって開閉されるようになっている。
【0024】
したがって、ピストン19の往復動に伴い圧縮室26の容積が増大する吸入行程においては、吸入室17から吸入孔27及び吸入バルブ29を介して作動流体が圧縮室26に吸入され、圧縮室26の容積が減少する圧縮行程においては、圧縮室26で圧縮された作動流体が、吐出孔28及び吐出バルブ30を介して吐出室14に吐出し、吐出通路12を介して吐出口16から圧縮機外部へ圧送される。
【0025】
上述したそれぞれのシリンダブロック2,3の外周面には、シャフト9に対して略対称的な位置(図中においては上下の位置)に、往復動型圧縮機1をエンジンルーム等に設けられた取付箇所に設置するための一対の取付足部31が、一体又は一体的に連結されて複数箇所に設けられており、本実施例においては、シャフト9の前後方向にずらして計4箇所に設けられている。
【0026】
この取付足部31は、シリンダブロック2,3から略径方向に延設された連結部31aと、この連結部31aに続いてシャフト9と直交する方向に突出された突出部31bとを有して構成されている。
【0027】
突出部31bは、連結部31aに続いて直径m(22mm程度)の略円状に形成されているもので、図4(a)及び(b)に示すように、シャフト9と平行に延設された矩形状の平坦面33と、この平坦面33のシャフト9を中心とする円周方向の両側に形成されたテーパ面(図中において取付方向の上方向に形成された上部テーパ面34aと、取付方向の下方向に形成された下部テーパ面34bと)とを有して構成されている。両テーパ面34a,34bは、平坦面33に対して所定の鈍角をもって連接すると共にシャフト9に対して平行をなして形成されている。
【0028】
平坦面33は、その中央に取付箇所に設けられた取付孔と螺合する取付ボルト(図示せず)を挿通させるための直径s(8.5mm程度)のボルト挿通孔32が連結部31aを挿通するように形成されている。また平坦面33のその延設方向に対して垂直で、且つ、ボルトの挿通方向に対して垂直となる方向の巾(往復動圧縮1の上下方向に沿った)lは、往復動型圧縮機1の前後方向に沿った巾よりもやや短く(6mm程度)形成される。
ここで、ボルトの挿通方向に対して垂直となる方向の巾lは、ボルト挿通孔32の直径sよりも大きく形成されてもよい。
【0029】
上部テーパ面34a及び下部テーパ面34bは、シャフト9の軸に対して略対称設けられる2つの取付足部31の距離(120mm程度)に対して、一方の取付足部31の組付け方向の寸法誤差(0.2mm程度)を許容することが可能になるテーパ角度を有して形成されている。
【0030】
以上で説明した往復動型圧縮機1を車両のエンジン等の取付面に取り付ける場合には、突出部31bが形成された側から取付ボルトをボルト挿通孔32に挿通し、この取付ボルトを取付箇所に設けられた取付孔に螺合して取付足部31を締付けることによって行う。
【0031】
このとき、突出部31bに製造時の寸法誤差が生じていると、突出部31bの平坦面33は取付箇所の取付面に対して必ずしも平行でなくなる。この場合、取付足部31は、シャフト9を中心として回動するように取付面にあてがわれるが、突出部31bにはシャフト9に沿って延設された平坦面33が形成されているので、平坦面33の上下いずれかの側縁が取付面に対して線接触に近い状態で当接することにより、この状態で締め付けられることになる。
【0032】
具体的には、図5(a)に示されるように、平坦面33において往復動型圧縮機1の上下方向に沿った巾が、突出部31bの上下方向の巾よりも小さく形成されると共に、往復動圧縮機1の前後方向に沿った平坦面33の巾よりも小さく形成される場合には、取付箇所の取付面60に対して平坦面33が傾斜していると、取付面60と接触する平坦面33からテーパ面34aへの移行部分(平坦面33とテーパ面34a,34bとが交差する部分)に形成される角部35がボルト挿通孔32の中心からボルト挿通孔32の半径よりも上方又は下方に位置する部位となり、ボルトの締付け代kが残っている状態となる。この締付け代kは、平坦面33の往復動型圧縮機1の上下方向に沿った巾が狭くなる(角部35の稜線が挿通孔32の中心に近づく)につれて短くなる。
特に、図4、図5(b)に示されるように、平坦面33がボルト挿通孔32より巾狭に形成されて、角部35の稜線がボルト挿通孔32にかかっている(角部35がボルト挿通孔32を過ぎるように形成されている)場合には、角部35がボルト挿通孔32の内側に位置する部位となり、図5(a)に示した締付け代kよりも短い締付け代jが残っている状態となる。
【0033】
この状態でボルトをさらに締め付けると、取付足部31を変形させながら平坦面33が取付面60に接触するまでボルトが締め付けられることになる。平坦面33の面全体が取付面60に接触してからさらにボルトを規定トルクになるまで締め付けることにより、取付足部31の全面が確実に取付面60に密着する。
【0034】
このとき、平坦面33が突出部31bの面積と同等に形成されている従来のものよりも締付け代(取付足部31の変形を要する大きさ)が小さいため、取付足部31の歪みを少なくして、シリンダボア11への応力の伝播を抑えることが可能となる。
【0035】
特に、平坦面33の角部35の稜線がボルト挿通孔32にかかって短くなっている場合には、締付け代が小さくなっていることに加えて、平坦面33の全面が取付面60に接触するまで変形させられる体積の絶対量が少なくなることから、ボルトの締付け加重が少なくても取付足部31の寸法誤差を倣わせることができるようになり、取付足部31の歪みをさらに小さくしてシリンダボア11の変形を防止することが可能となる。
【0036】
また、上下の取付足部31の相対位置精度に誤差が生じている場合であっても、取付足部31の上下方向の巾が狭くなるように構成されているため、ひとつの取付足部31における圧縮機軸周りの拘束力が抑えられ、取付足部31の歪みを抑えたまま上下一対の取付足部31により圧縮機を確実に固定することが可能になる。
さらに、前後の取付足部31の相対位置精度に誤差が生じている場合においては、それぞれの取付足部31がフロント側シリンダブロック2とリア側シリンダブロック3とに分かれて設けられているため、両部材間の接合部でその誤差を吸収することができ、平坦面33の前後方向の巾が上下方向の巾よりも相対的に大きくても、取付足部31の歪みを抑えたまま、前後の取付足部31によって往復動型圧縮機1を確実に固定することが可能となる。
さらにまた、本発明の往復動型圧縮機1は、取付足部31に低剛性部材を用いないため、剛性を保持したまま取り付けることができ共振点の低下を防止することが可能となる。
【実施例2】
【0037】
上述した往復動型圧縮機1は、取付足部31がシリンダブロック2,3の外周面に4箇所形成されるものであったが、3箇所に形成されるものでもよい。以下、本実施例の具体的内容を示すが、実施例1と同様の部分には同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
図5に示すように、取付足部31は、シリンダブロック2の外周面上においてシャフト9の軸方向に対して上下方向の略対称位置に1箇所ずつ設けられると共に、シリンダブロック3の外周面状においてシャフト9の軸方向の端部に1箇所設けられている。
【0039】
このように、3箇所の取付足部31でエンジンブロック側の取付面に固定されることにより、三点支持による幾何学的な面による締付け加重を吸収する構造が形成され、より安定した固定構造を得ることができる。
【実験例】
【0040】
以下の3種類の往復動型圧縮機について、締付けによるシリンダボア11の変位量及び応力について測定した。また、図7及び表1に記載の(a)〜(c)の圧縮機は下記の(a)〜(c)の圧縮機に相当する。すなわち、
(a):取付足部100に加工がされていない従来の圧縮機
(b):取付足部200の剛性を弱めて突起部を設けた従来の圧縮機
(c):実施例1に記載の本発明の圧縮機
とするものである。
【0041】
表1の「取付足部の変位量」は、同条件の圧力を(b)と(c)との往復動型圧縮機に与えた場合の3方向(アキシャル、バーチカル、ホライゾナル)のそれぞれの取付足部200,31の変位量を示したものであり、(b)の圧縮機の変位量を1としたときに、(c)の圧縮機の変位量が0.76であった。
すなわち、(b)の圧縮機は、その取付足部の剛性を低く構成することで、シリンダボア11の歪を防止するものであるから、当然その剛性は他の往復動型圧縮機(a)及び(c)と比較して低く、(c)の圧縮機の取付足部の方が剛性が高いことが示された。この変位量については、(a)の圧縮機においては取付足部に剛性を弱めるような構成を有していないので、少なくとも(b)の圧縮機よりも取付足部の剛性が高いことが予測される。
【0042】
表1の3段目のシリンダボア11が受ける圧力を面積比で示したシリンダボア11の応力は、(b)の圧縮機と(c)の本発明の圧縮機とは、ほぼ同一の数値で、(a)の圧縮機のボア応力と比較して1/4以下の数値を示した。
すなわち、表1の最下段に示す対シリンダボアの歪に示すように、(b)の圧縮機と(c)の本発明の圧縮機とは、同等にシリンダボアに与える応力を軽減し、シリンダボアの歪の防止に有効であることを示している。
【0043】
【表1】

【0044】
以上の実験例で示したように、本発明の往復動型圧縮機1は、取付足部31の剛性を高く維持すると共に、シリンダボア11の変形の防止に有効であることが示された。
【0045】
なお、上述の実施例では、往復動型圧縮機を例にして説明したが、特に限定されることなく例えば、ベーン型やスクロール型などの他の形式の圧縮機でもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 往復動型圧縮機
2,3 シリンダブロック
9 シャフト
11 シリンダボア
31 取付足部
31b 突出部
33 平坦面
34a 上部テーパ面
34b 下部テーパ面
35 角部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフロント側ハウジングとリア側ハウジングとを組み付けて構成するハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持されて外部の駆動力にて回転動するシャフトと、前記シャフトの回転動を作動流体の圧縮作用に変換する圧縮機構とを備え、前記ハウジングに設けられた取付足部を取付箇所にボルトによって締付けることで設置される圧縮機において、
前記取付足部は、フロント側ハウジングとリア側ハウジングとにそれぞれ分けて設けられ、かつ、前記フロント側ハウジングとリア側ハウジングとの少なくとも一方に圧縮機の上下方向に一対設けられ、
前記取付足部に、前記ボルトを挿通する挿通孔を形成し、また、前記ボルトの挿通方向に突出すると共に、その突出された先端部に前記ボルトの挿通方向に対して垂直に形成された平坦面を備える突出部を設け、
前記平坦面は、圧縮機の上下方向に沿った当該平坦面の巾が前記突出部の上下方向の巾より小さく形成されると共に、圧縮機の前後方向に沿った当該平坦面の巾より小さく形成されることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記平坦面の角部の稜線が前記挿通孔にかかっていることを特徴とする請求項1に記載の型圧縮機。
【請求項3】
前記突出部は、前記平坦面に対して所定の鈍角をもって連接すると共に前記シャフトに対して平行をなすテーパ面を備え、このテーパ面を、前記平坦面の前記シャフトを中心とする円周方向の両側に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記取付足部は、前記シリンダブロックの外周面において、前記シャフトの軸に対して略対称となる位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記取付足部は、前記シャフトの軸方向の端部にも設けられていることを特徴とする請求項4に記載の圧縮機。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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