説明

圧電アクチュエータの動作を監視及び評価するための方法及び装置

【課題】圧電アクチュエータの障害をできるだけ早く認識させることを可能にする、圧電アクチュエータの動作動力を監視及び評価するための方法及び装置を提供する
【解決手段】本発明は、圧電アクチュエータ10の動作を監視及び評価する方法に関するものである。この方法においては、圧電アクチュエータ10の放電プロセス及び充電プロセスを監視するとともに、放電プロセス及び充電プロセスの経時変化に基づいて圧電アクチュエータ10の動作を評価する。さらに、本発明は、上記の方法を実施するための装置に関するものでもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータの動作を監視及び評価するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータは一般に知られており、例えば、自動車などの燃焼機関の燃焼室内への燃料の供給を制御するための燃料噴射弁、いわゆる圧電インジェクタなどに広く用いられている。
【0003】
一般に知られている圧電アクチュエータは、圧電特性を有し相互に積層された、典型的には数百のセラミック層のパッケージを備えている。すべての個々のセラミック層は、対応する電荷を印加することにより十分の数マイクロメータだけ拡大ないしは伸長することができ、これにより圧電パッケージ全体は、相互に積層されたセラミック層の数に応じて、百分の数ミリメータだけ拡大ないしは伸長する。これは、圧電インジェクタのニードルバルブをバルブシートから上昇させて該圧電インジェクタを開弁させるのに十分なものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、損傷した圧電アクチュエータの検査には問題が多いということが判明している。なぜなら、圧電アクチュエータの不具合は、圧電アクチュエータに最終的な故障が生じた後でなければ認識することができないからである。
【0005】
圧電アクチュエータの最終的な故障は、しばしば、とくに不具合の発生源が存在する位置における局所的な熱の異常発生に起因して生じる。局所的な熱の発生に起因して、不具合が生じた部位と隣り合うセラミック層が溶融し、又は、圧電パッケージのジャケット及び/又はセラミック層の表面に設けられた保護層が炭化し、これにより不具合が生じた部位が全面的に破壊されるであろう。このようにして、圧電アクチュエータの故障の原因、すなわち元々の不具合についての情報だけでなく、損傷の経時的な進行についての詳細な情報も破壊される。熱の発生により破壊された圧電アクチュエータはさらに損傷され、該圧電アクチュエータの不具合がその表面で引き起こされたのかその内部で引き起こされたのかを決定することは、もはや不可能となるであろう。
【0006】
本発明の基本的な目的は、圧電アクチュエータの障害(error)をできるだけ早く認識させることを可能にする、圧電アクチュエータの動作能力を監視及び評価するための方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は独立形式の請求項に係る方法及び装置を提供する。
【0008】
本発明に係る、圧電アクチュエータ(piezoelectric actuator)の動作(operation)の監視(monitoring)及び評価(evaluation)を行うための方法においては、圧電アクチュエータの放電プロセス(放電過程の状態)及び充電プロセス(充電過程の状態)を監視するとともに、放電プロセス(discharging process)及び充電プロセス(charging process)の経時変化(time course)に基づいて、ないしはこれを参照して圧電アクチュエータの動作を評価する。
【0009】
監視された放電プロセス又は充電プロセスの、正常な圧電アクチュエータにおいて予測される放電プロセス又は充電プロセスからの逸脱ないしは偏倚(deviation)は、圧電アクチュエータにおける不具合ないしは欠陥(defect)の指標(indication)を与える。これらの不具合がすでに放電プロセス及び充電プロセスの経時変化に顕著な変化(modification)を生じさせていても、圧電アクチュエータに決定的な故障が生じる結果とならない、あるいは少なくともすぐには生じる結果とはならないということが、このプロセスにおいて見出された。
【0010】
それゆえ、本発明に係る方法によれば、早期に圧電アクチュエータの障害又は欠陥を認識ないしは把握することができる。これにより、完全な破壊及び欠陥が生じる前に、不具合が生じている圧電アクチュエータの動作を停止させることができ、とくにその原因を詳しく分析ないしは解析することができる。これに対して代替的に又は付加的に、圧電アクチュエータの完全な破壊に至る不具合の経時的な進行(time development)を検査ないしは検証することができる。圧電アクチュエータの不具合の発生及び進行のこのタイプの詳細な検査ないしは検証は、将来において、このように発見された障害を確実に回避できるように圧電アクチュエータを改良する(modify)ことを可能にする。その結果、より高い信頼性とより長い寿命とをもつ圧電アクチュエータを提供することが可能となる。
【0011】
さらに、本発明に係る方法は、障害の分析ないしは解析に用いることができるだけでなく、その使用時において所望のときに圧電アクチュエータの監視に用いることもできる。圧電アクチュエータが自動車の燃焼機関ないしは内燃機関(combustion engine)の圧電インジェクタの部品である場合は、本発明に係る方法は、例えば、圧電アクチュエータないしは噴射弁が故障する前に、できるだけ早期に自動車の運転者に警告して適宜にこれを交換することを可能にするために用いることができる。
【0012】
本発明に係る方法のとくに有利な実施態様によれば、圧電アクチュエータにパルス電流(electric pulse current)を流し、圧電アクチュエータで降下する電圧の経時変化を示す電圧曲線(voltage curve)を決定し、決定された電圧曲線の波形を圧電アクチュエータの正常な動作(problem-free operation)において予測される望ましい波形と比較し、決定された電圧曲線の波形と望ましい波形との比較に基づいて圧電アクチュエータの動作を評価する。
【0013】
本願発明者らの研究によれば、圧電アクチュエータにおける不具合の発生は、一般に、決定された電圧曲線の波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚を生じさせる結果となるということが証明された。それゆえ、本発明の1つの態様においては、圧電アクチュエータの電圧降下の経時変化ないしはその形態を監視し、この経時変化を圧電アクチュエータの動作状態の指標(indicator)として用いる。このプロセスにおいては、決定された電圧曲線の波形が望ましい波形と一致する限り、圧電アクチュエータの動作は正常(defect-free)であると仮定する。他方、決定された電圧曲線の波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚は、圧電アクチュエータの不具合を伴った動作(defective operation)の発生を早期に示すもの(indication)であると評価する。
【0014】
圧電アクチュエータが故障(malfunction)していると決定したときには、直ちに、圧電アクチュエータへの電力供給を停止することができ、かくしてさらなる圧電アクチュエータの損傷を防止することができる。これは、この故障の原因に関して圧電アクチュエータの徹底的な検査を可能にし、状況に応じて、圧電アクチュエータを、例えば異常な熱の発生により完全に破壊される前に取り替えることを可能にする。
【0015】
この後にパルス電流を繰り返し流すことにより圧電アクチュエータの動作を継続し、記録された電圧をさらに観察するとともに圧電アクチュエータをさらに検査すれば、圧電アクチュエータの完全な破壊に至るまでの不具合ないしは欠陥の進行を分析ないしは解析することができる。
【0016】
圧電アクチュエータについての損傷のタイプないしは型(type)は、決定された電圧曲線の波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚の型から決定することができる。ここでは、特定の不具合は、圧電アクチュエータで降下する電圧の波形の特徴的な変化(modification)を生じさせるという事実を利用している。
【0017】
例えば、圧電アクチュエータにおける表面での電気的な短絡(short-circuit)及び内部での短絡は、圧電アクチュエータで降下する電圧の波形に異なる変化を生じさせる結果となる。一般に、表面での短絡又は内部での短絡のグループ内で異なる障害源を区別又は特定することは容易ないしは可能である。
【0018】
さらに、例えば細長い金属片(metal strip)の形態の圧電アクチュエータの外部電極の材料疲労(material fatigue)に起因する損傷を決定することも可能である。この種の材料疲労は、典型的には、圧電パッケージからの少なくとも部分的な電極の分離を生じさせる結果となり、これにより圧電アクチュエータは部分的にしか充電できなくなる。これに起因する圧電アクチュエータの容量(capacity)の減少は、充電速度の増加を引き起こす。充電速度の増加は、電圧変化が速いということを意味し、電圧パルスの側面(横面)ないしはフランク面(flank)のより急峻な勾配(steeper steepness)としてあらわれることになる。
【0019】
パルス幅が変調ないしは調整された電流(pulse width modulated current)を圧電アクチュエータに流すのが好ましい。検査を目的とする圧電アクチュエータの動作においては、これは圧電アクチュエータの所望の使用で生じる電流/電圧の状態(condition)の正確なシミュレーションを可能にする。さらに、圧電アクチュエータに流す電流のパルス幅の変調ないしは調整は、正確に予め設定された数の個々の充電パッケージによる圧電アクチュエータの充電を可能にし、これにより圧電アクチュエータでの特定の電圧降下が実現される。充電パッケージの数と実現される電圧との間の関係の逸脱ないしは偏倚(deviation)は、圧電アクチュエータの不具合ないしは欠陥を示す。
【0020】
圧電アクチュエータは、まずパルス電流によって放電され、この後規定(予定)された態様で再び充電される。実施された充電は、2つのパルスの間に存在する時間は圧電アクチュエータ内に保持される。この充電状態においては、圧電パッケージは拡大ないしは伸長させられ、その結果、例えば噴射弁のニードルバルブは、これに対応するバルブシートの上に保持される。圧電アクチュエータは、2つのパルス電流の間では、すなわち圧電アクチュエータ内に電荷が蓄積されているときには、とくに敏感に不具合ないしは欠陥に反応する。
【0021】
2つのパルス電流の間において圧電アクチュエータで降下する電圧の変化は、圧電アクチュエータの自己放電又は電気短絡を示す。さらに、2つのパルス電流の間における目標電圧への到達に必要とされる充電パッケージの数の増加は、最後の充電動作の実行(charge movement event)からの圧電アクチュエータの自己放電又は電気短絡を示す。逆に、目標電圧への到達に必要とされる充電パッケージの数の減少は、圧電パッケージの一部分ないしは電極の少なくとも部分的な分離を示す。
【0022】
電圧曲線の監視に対して代替的又は付加的に、圧電アクチュエータの漏れ電流の経時変化(time development)を決定することができる。そして、増加した漏れ電流の周波数に基づいて圧電アクチュエータの動作を評価してもよい。
【0023】
経験によれば、漏れ電流もまた正常に動作する圧電アクチュエータで時々生じるということが確実に証明されている。しかしながら、圧電アクチュエータが不具合ないしは欠陥を有しているときには、漏れ電流の強度及び/又は周波数が増加するということが見出された。したがって、圧電アクチュエータの故障もまた、圧電アクチュエータの漏れ電流の大幅な増加及び/又は大幅な蓄積に基づいて決定することができる。
【0024】
不具合を早期に認識するとともに状況により容易かつ正確に確認することができる可能性は、圧電アクチュエータでの電圧降下及び漏れ電流を同時に監視することにより実質的に高められる。
【0025】
圧電アクチュエータにおいて決定された漏れ電流及び/又は決定された電圧の経時変化は、記憶媒体に格納するのが好ましい。このようにすれば、事後においてでも圧電アクチュエータにおける不具合の経時変化の詳細な分析ないしは解析を行うことが可能となる。
【0026】
さらにもう1つの実施態様によれば、決定された波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚の形態が予め設定された形態となり、及び/又は、圧電アクチュエータの増加した漏れ電流の強度及び/又は周波数が予め設定された値を超過したときには、警告信号を出力するようになっている。これは、圧電アクチュエータにおいて近い将来に起こる故障、ないしは差し迫った故障について早期に警告を出すことを可能にする。
【0027】
このプロセス(process)においては、結果的に警告のきっかけとなる、予め設定された漏れ電流の強度又は周波数、又は記録された波形の予め設定された逸脱ないしは偏倚は、不具合が生じている圧電アクチュエータを、これが完全に破壊される前に、その動作を停止させ及び/又は取り替えることができるように設定ないしは選択することができる。かくして、例えば、圧電アクチュエータが自動車の燃焼機関ないしは内燃機関の圧電噴射弁の部品である場合、自動車の運転者は適切な時期に不具合を知ることができ、これにより、燃焼機関ないしは内燃機関の性能に顕著な影響が及ぶ前に、圧電アクチュエータを取り替えることができる。
【0028】
本発明に係る装置は、本発明に係る方法を実施するのに役立つものであり、前記の利点ないしは効果を実現することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の有利な実施の形態ないしは好ましい実施の形態を、制限的なものではなく単に例示的なものとして説明する。
図1は、圧電アクチュエータ10の動作を監視及び評価するための、本発明に係る装置を示している。
【0030】
圧電アクチュエータ10は、数百個のセラミック層14で形成された圧電パッケージ12(piezo package)を備えている。これらのセラミック層14は、図1では一例として7個しか示していないが、互いに積層された構造を有している。各セラミック層14は、2つの電極16を介して、2つの集電極18(collector electrode)に接続されている。これらの集電極18は、それぞれ順に圧電アクチュエータ10の外部との接続部20(external connection)に接続されている。
【0031】
圧電アクチュエータ10は、接続部20を介して、該圧電アクチュエータ10にパルス幅が変調ないしは調整された(modulated)パルス電流を供給する電源22に接続されている。
【0032】
自動車の燃焼機関ないしは内燃機関の圧電式の噴射弁に圧電アクチュエータ10を用いる場合は、パルス幅は、1サイクル時間の5%にあたるほぼ0.4ミリ秒(ないしは40ミリ秒)とすることができる。この場合、2つのパルス電流間の時間は、このサイクル時間の95%にあたるほぼ0.7秒(ないしは7ミリ秒)となる。
【0033】
圧電アクチュエータ10で降下する電圧(電圧降下)、とくに圧電パッケージ12で降下する電圧は、電圧測定装置24によって連続的に測定される。測定ないしは決定された電圧値は比較器ユニット26(comparator unit)に伝送される。この比較器ユニット26においては、測定された電圧値の経時変化、すなわち記録された電圧の波形が、圧電アクチュエータ10の正常な動作時に生じると予測される望ましい波形と比較される。この目的を達するため、比較器ユニット26は記憶ユニット(図示せず)を有している。この記憶ユニットには、圧電アクチュエータ10に流されたパルス幅が変調ないしは調整された各パルス電流の各場合について予測される、圧電アクチュエータ10で降下する電圧の波形が格納されている。
【0034】
記録された波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚(deviation)が比較器ユニット26によって検出されれば、直ちにないしは速やかに、比較器ユニット26は、これに対応する信号を評価ユニット28に出力する。この評価ユニット28は、記録された波形の望ましい波形からの逸脱ないしは偏倚の評価を、例えば逸脱ないしは偏倚の周波数、強度(strength)及び/又は型(type)に関連づけて行う。
【0035】
検出された逸脱ないしは偏倚が予め設定された重要なしきい値(significance threshold)を超えたときには、これに対応する警告信号が評価ユニット28によって出力され、圧電アクチュエータ10の不具合ないしは欠陥のある動作(defective operation)に注意を向けさせることができ、及び/又は、圧電アクチュエータ10の故障(failure)を警告することができる。
【0036】
図1に示すように、比較器ユニット26と評価ユニット28とは、1つの計算ユニットないしはコンピュータユニット30(computing unit)内において統合又は一体化され、あるいは組み合わせられている。しかしながら、一般的には、比較器ユニット26と評価ユニット28とを、場合ないしは事情に応じて、個別ないしは各別のユニットとすることも可能である。さらに、計算ユニット30は記憶媒体(図示せず)を備えている。この記憶媒体は、圧電アクチュエータ10で降下する電圧の経時変化を、予め設定された期間ないしは時間にわたって、例えば、圧電アクチュエータ10の全動作期間にわたって格納する。
【0037】
図2は、電源22によってパルス電流が出力されているときに、圧電アクチュエータ10で低下する電圧の波形32を示している。ここでは、測定された電圧は、時間の関数として示している。
【0038】
圧電アクチュエータ10は、まずパルス電流(電流パルス)によって放電され(波形32の左側の低下ないしは下降している側面(横面)ないしはフランク面34(flank))、次にある特定の時間だけ放電された状態が維持され(波形32の平坦部36(plateau))、この後再び充電される(波形32の右側の増加ないしは上昇している側面ないしはフランク面38)。したがって、電圧パルス40の形状は、電流パルスの形状に依存する結果となる。
【0039】
圧電アクチュエータ10の放電は、該圧電アクチュエータ10が拡大されていない通常の状態を採用ないしは選択する(adopt)ことができ、これにより、例えばニードルバルブをそのバルブシートから上昇させて燃焼室内への燃料の噴射を可能にするといった作用ないしは効果を生じさせる。これに続く圧電アクチュエータ10の充電は、圧電アクチュエータ10の新たな拡大を生じさせ、これによりニードルバルブは再びバルブシートに押し付けられ、燃料噴射は停止される。
【0040】
圧電アクチュエータ10はその容量特性及び誘導特性により電気共振回路を形成する。このため、圧電アクチュエータ10の放電又は充電は、それぞれ、短いパルス電流(電流パルス)の形態で、圧電アクチュエータ10に対して、充電パッケージの放電と通電とを交互に生じさせることにより生じさせることができる。交互に行き来する(move to and fro)これらの充電パッケージ(charge package)は、記録された電圧の波形32の下降する側面(flank)と上昇する側面(flank)とにおいて重ね合わされた(superimposed)ノコギリ歯の形状であらわされる。
【0041】
圧電アクチュエータ10の動作の評価のために、電圧パルス40の下降する側面34又は上昇する側面38の急峻さ(steepness)に加えて、ノコギリ歯の形状を用いることができる。
【0042】
かくして、特定の目標電圧を達成するのに必要とされる充電パルスの数の増加は、最後の充電移動事象の後に生じた(occurred since the last charge movement event)電気的短絡又は漏れ電流を示唆するであろう。逆に、特定の目標電圧を達成するのに必要とされる充電パルスの数の減少は、圧電パッケージ12の残部からのセラミック層14の機械的な剥離を示すであろう。
【0043】
降下又は上昇する側面34、38の強い急峻さは、圧電アクチュエータ10の一部分のみが放電又は充電することにより生じる圧電アクチュエータ10の容量の低下を示す。圧電アクチュエータ10のこの部分的な放電又は充電は、例えば、材料疲労などに起因する1つ又は複数の電極16の損傷の結果として生じるものである。
【0044】
図3は、不具合が生じた圧電アクチュエータ10で降下する電圧の波形32を示している。この波形32は、矩形の放電及び充電と、これらに対応する電圧パルス40の降下する側面34及び上昇する側面38とを伴っている。
【0045】
しかしながら、電圧パルス40の直後、すなわち圧電アクチュエータ10が充電状態に置かれる期間の先頭で、一時的な電気的な落ち込みないしはブレークダウン42(electrical breakdown)が生じる。このブレークダウン42は、かなりの程度の短期間の電圧降下であらわされ、2つの電圧パルス40の間の期間に圧電アクチュエータ10の電圧の低下を生じさせる結果となる。充電された圧電アクチュエータ10の低下した電圧は、圧電アクチュエータ10の電気短絡又は漏れ電流を示す。
【0046】
圧電アクチュエータ10で降下する電圧の測定に対して付加的又は代替的に、圧電アクチュエータ10の漏れ電流の連続的な記録により、圧電アクチュエータ10の動作を監視するようにしてもよい。漏れ電流の測定は、図1中には示していない電流測定装置により行うことができる。
【0047】
図4は、圧電アクチュエータ10の漏れ電流の経時変化を示している。なお、図4は、856時間の動作の後において圧電アクチュエータ10が完全に破壊されるまでの動作についてのものである。
【0048】
図4に示すように、開始時点から480時間までの間の動作では、例えば30時間後、240時間後及び270時間後に、漏れ電流の単発的な個々の尖端ないしはピーク44(peak)のみが検出されている。これらの個々の漏れ電流のピーク44は、正常に動作している圧電アクチュエータ10でも生じる圧電アクチュエータ10の動作に障害を生じさせることはない普通のないしは自然的な自己放電である。
【0049】
ほぼ490時間の動作時間が経過した後においてのみ、測定ないしは決定することが可能な漏れ電流のピーク46の集中的な(accumulated)発生が認められる。さらに、これらの漏れ電流のピーク46は、正常に動作している圧電アクチュエータ10で生じる自然的な漏れ電流ないしは漏れ電力のピーク44に比べて、かなり高い電流強度を有している。高い漏れ電流のピーク46は、圧電アクチュエータ10の最終的な故障に至るまで次第に増加してゆく。したがって、490時間の動作時間が経過した後における高い漏れ電流のピーク46の重大な集中(significant accumulation)は、最終的には圧電アクチュエータ10の故障(failure)を生じさせる結果となる圧電アクチュエータ10における不具合ないしは欠陥(defect)の発生を示している。
【0050】
高い漏れ電流のピーク46の集中は、まだ直接的には圧電アクチュエータ10の破壊を生じさせる結果となる訳ではなく、圧電アクチュエータ10の完全な故障に至るまでの動作の徐々の悪化(worsening)を示すだけであるので、漏れ電流の監視はまた、圧電アクチュエータ10における欠陥ないしは不具合(defect)の検出にも適している。漏れ電流の監視は、電圧の監視と同様に、とくに早期の障害(error)の認識を可能にし、これにより圧電アクチュエータ10の故障の早期の警告及び/又は障害ないしは該障害の進行の正確な分析ないしは解析を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る、圧電アクチュエータの動作性能を監視及び評価するための装置の模式図である。
【図2】パルス幅が変調ないしは調整された電流が印加された圧電アクチュエータにおいて降下する電圧の波形を示すグラフである。
【図3】パルス幅変調によって駆動される圧電アクチュエータにおいて降下する電圧の波形の自己放電効果を示すグラフである。
【図4】856時間の動作の後に故障した圧電アクチュエータの漏れ電流の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10 圧電アクチュエータ、12 圧電パッケージ、14 セラミック層、16 電極、18 集電極、20 接続部、22 電源、24 電圧測定装置、26 比較器ユニット、28 評価ユニット、30 計算ユニット、32 波形、34 低下している側面、36 平坦部、38 上昇している側面、40 電圧パルス、42 開口部、44 漏れ電流のピーク、46 漏れ電流のピーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータ(10)の動作を監視及び評価する方法であって、
圧電アクチュエータ(10)の放電プロセス及び充電プロセスを監視するとともに、放電プロセス及び充電プロセスの経時変化に基づいて圧電アクチュエータ(10)の動作を評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
圧電アクチュエータ(10)にパルス電流を流し、圧電アクチュエータ(10)で降下する電圧の経時変化を示す電圧曲線を決定し、決定された電圧曲線の波形(32)を圧電アクチュエータ(10)の正常な動作において予測される望ましい波形と比較し、決定された電圧曲線の波形(32)と望ましい波形との比較に基づいて圧電アクチュエータ(10)の動作を評価することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
決定された電圧曲線の波形(32)の望ましい波形からの逸脱の型から、圧電アクチュエータ(10)の損傷の型についての結論を導き出すことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
圧電アクチュエータ(10)の漏れ電流の経時変化を測定するとともに、増加した漏れ電流の周波数に基づいて圧電アクチュエータ(10)の動作を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
圧電アクチュエータ(10)の測定された漏れ電流及び/又は測定された電圧の経時変化を記憶媒体に格納することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
決定された電圧曲線の波形(32)の望ましい波形からの逸脱の形態が予め設定された形態となり、及び/又は、圧電アクチュエータ(10)の増加した漏れ電流の強度及び/又は周波数が予め設定された値を超過したときに警告信号を出力することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
パルス幅が調整された電流を圧電アクチュエータ(10)に流すことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
圧電アクチュエータ(10)の動作を監視及び評価する装置であって、
圧電アクチュエータ(10)にパルス電流を流すための電源(22)と、
圧電アクチュエータ(10)の漏れ電流の経時変化及び/又は圧電アクチュエータ(10)で降下する電圧の経時変化を測定するための測定装置(24)と、
測定された電圧の経時変化を示す電圧曲線の波形(32)と圧電アクチュエータ(10)の正常な動作において予測される波形との比較に基づいて、又は、漏れ電流の経時変化に基づいて、圧電アクチュエータ(10)の動作を評価するための評価ユニット(28)とを備えていることを特徴とする装置。
【請求項9】
電圧及び/又は漏れ電流の経時変化を格納する記憶媒体を備えていることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
決定された電圧曲線の波形(32)の望ましい波形からの逸脱の形態が予め設定された形態となり、及び/又は、圧電アクチュエータ(10)の増加した漏れ電流の強度及び/又は周波数が予め設定された値を超過したときに警告信号を出力する警告装置を備えていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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