圧電アクチュエーターおよびその製造方法、液体噴射ヘッド、液体噴射装置
【課題】固定端側からクラックの生じにくい圧電アクチュエーターおよびその製造方法、この圧電アクチュエーターを用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】振動板56の固定端57側に形成された圧電体70の厚みd2が、固定端57間の中央部73に形成された圧電体70の厚みd1よりも厚いので、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界を、中央部73と比較して固定端57側を弱くできる。したがって、固定端57側の変形量を、中央部73と比較して小さくでき、固定端57側とその近傍に加わる応力を低減でき、固定端57付近からクラックの生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【解決手段】振動板56の固定端57側に形成された圧電体70の厚みd2が、固定端57間の中央部73に形成された圧電体70の厚みd1よりも厚いので、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界を、中央部73と比較して固定端57側を弱くできる。したがって、固定端57側の変形量を、中央部73と比較して小さくでき、固定端57側とその近傍に加わる応力を低減でき、固定端57付近からクラックの生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーターおよびその製造方法、この圧電アクチュエーターを用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等に代表される結晶を含む圧電体は、自発分極、高誘電率、電気光学効果、圧電効果、焦電効果等を有しているため、圧電体素子等の広範なデバイス開発に応用されている。
圧電アクチュエーターは、圧電体素子が電圧の印加によって変形することを利用している。一般に、圧電アクチュエーターは、圧電体素子と固定端を有する振動板とを備えている。
圧電アクチュエーターが駆動すると、変形によって固定端付近に応力が集中し、圧電体素子および振動板にクラックが生じやすい。
【0003】
圧電体素子である圧電素子の長手方向に沿って複数の凹部を設け、長手方向の引張応力を緩和し、圧電体のクラックを防止するアクチュエーター、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−018551号公報(7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電アクチュエーターを構成する圧電体素子および振動板では、長手方向にかかわらず、固定端付近は他の部分と比較して応力が集中しやすく、固定端付近からクラックが生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
基板と、前記基板に固定された複数の固定端を有する振動板と、前記振動板上に形成された下電極と、前記下電極上に形成され、前記振動板の前記固定端側の厚みが、前記固定端間に形成された中央部の厚みよりも厚い圧電体と、前記圧電体上に形成された上電極とを備えたことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0008】
この適用例によれば、振動板の固定端付近に形成された圧電体の厚みが、固定端間の中央部に形成された圧電体の厚みよりも厚いので、下電極と上電極とに挟まれた圧電体に加わる電界は、中央部と比較して固定端側が弱い。したがって、固定端側の変形量は、中央部と比較して小さくなり、固定端側とその近傍に加わる応力が低減し、固定端側からクラックの生じにくい圧電アクチュエーターが得られる。
ここで、基板に固定された複数の固定端とは、振動板の外周部全体が基板に固定されている固定端も含む。
【0009】
[適用例2]
上記圧電アクチュエーターにおいて、前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、前記凹面は、滑らかに連続した曲面であることを特徴とする圧電アクチュエーター。
この適用例では、圧電体の上電極に対向する面が滑らかに連続した凹面なので、圧電体の厚みおよび電界が固定端付近から中央部にかけて滑らかに変化し、応力が集中する部分も少ない。また上部電極のカバレッジ(被覆率)が良いという特徴がある。したがって、クラックのより生じにくい圧電アクチュエーターが得られる。
【0010】
[適用例3]
上記圧電アクチュエーターにおいて、前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、前記凹面は、段差を有する階段状からなることを特徴とする圧電アクチュエーター。
この適用例では、凹面が段差を有する階段状からなるので、凹面を形成しやすい圧電アクチュエーターが得られる。この特徴であれば、中央部と固定端側との膜厚がより正確に調整可能となる。
【0011】
[適用例4]
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を備えた流路形成基板と、前記流路形成基板上に形成され、前記圧力発生室の一部を構成する上記圧電アクチュエーターとを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0012】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射ヘッドが得られる。
【0013】
[適用例5]
上記液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0014】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【0015】
[適用例6]
基板上に下電極を形成する下電極形成工程と、前記下電極に圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程と、前記圧電体膜から、前記下電極に接する面に対向する上面に凹面を形成して圧電体を得る圧電体形成工程と、前記圧電体の前記上面に上電極を形成する上電極形成工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【0016】
この適用例によれば、圧電体の上面に凹面を形成することにより、圧電体の外周部の厚さが、中央部の厚さと比較して厚くなり、下電極と上電極とに挟まれた圧電体に加わる電界は、中央部と比較して外周部で弱くなる。したがって、前述の効果を有する圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0017】
[適用例7]
上記圧電アクチュエーターの製造方法において、前記圧電体形成工程は、前記圧電体膜をパターンニングして加工圧電体を形成する圧電体膜加工工程と、前記加工圧電体をレジストで覆うレジスト膜形成工程と、前記加工圧電体の前記上面の中央部のレジストを取り除き、穴を形成するフォトリソ工程と、前記加工圧電体を前記穴から湿式エッチングするエッチング工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、エッチング当初、湿式エッチングで使用するエッチング液はレジストに形成された穴から露出した加工圧電体の部分を侵食する。エッチングが進むにつれ、エッチング液はレジストと加工圧電体との界面、隙間に入り込み、加工圧電体を侵食し、穴に相当する中央部から離れるほど、加工圧電体のエッチングの始まる時間が遅くなる。したがって、レジストに接した加工圧電体の表面が滑らかに連続してエッチングされ、最終的に圧電体の面に滑らかで連続した凹面が形成され、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0018】
[適用例8]
上記圧電アクチュエーターの製造方法において、前記圧電体形成工程は、第1の圧電体膜形成工程としての前記圧電体膜形成工程と、第1の圧電体膜をエッチングして段差を有する凹部を形成する圧電体膜エッチング工程と、前記凹部を埋めるように液相プロセスで、第2の圧電体膜を前記第1の圧電体膜に形成し、前記第2の圧電体膜に前記凹面を形成する第2の圧電体膜形成工程と、前記第1の圧電体膜および前記第2の圧電体膜を加工して前記圧電体を形成する圧電体膜加工工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、液相プロセスで、第1の圧電体膜に形成された凹部を埋めるように、原料溶液を塗布することにより、第1の圧電体膜に形成された凹部の段差部分に、表面張力によって滑らかに連続した凹面が原料溶液に生じ、予備加熱、結晶化アニールによって第2の圧電体膜の上面にも段差の少ない滑らかに連続した凹面が形成される。したがって、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態におけるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図。
【図3】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの部分平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの図3(a)におけるB−B概略部分断面図。
【図5】圧電アクチュエーターの製造方法を示すフローチャート図。
【図6】圧電アクチュエーターの製造方法を示す概略部分断面図。
【図7】実施形態における、(a)は圧電アクチュエーターの動作を示す概略部分断面図、(b)は電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図。
【図8】従来における、(a)は圧電アクチュエーターの動作を示す概略部分断面図、(b)は電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図。
【図9】変形例1における圧電アクチュエーターの製造方法を示すフローチャート図。
【図10】圧電アクチュエーターの製造方法を示す概略部分断面図。
【図11】変形例2における圧電アクチュエーターを示す概略部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、実施形態における液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1000の一例を示す概略図である。インクジェット式記録装置1000は、記録媒体である記録シートSに液体としてのインクを噴射して記録を行う装置である。
図1において、インクジェット式記録装置1000は、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を有する記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられている。
ここで、インクジェット式記録ヘッド1は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bの記録シートSと対向する側に設けられており、図1においては図示されていない。
【0021】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を吐出するものである。
【0022】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動する。
一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモーターの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0023】
以下、図2、図3および図4を参照して、インクジェット式記録ヘッド1について詳細に説明する。
図2は、インクジェット式記録ヘッド1の概略を示す分解斜視図であり、図3(a)は、インクジェット式記録ヘッド1の部分平面図、図3(b)は、(a)におけるA−A断面図である。また、図4には、図3(a)におけるB−B概略部分断面図を示した。
【0024】
図2、図3および図4において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と保護基板30とを備えている。
流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコンからなる、厚さ0.50μm〜2.00μmの弾性膜50が形成されている。
【0025】
シリコン単結晶基板を、弾性膜50が形成された面に対向する面側から異方性エッチングすることにより、この流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が複数並設されている。このとき、弾性膜50はエッチングストッパーとして働く。
また、圧力発生室12の並設方向(幅方向でY軸方向とする)とは直交する方向(長手方向でX軸方向とする)の一方の端部の外側には、保護基板30の後述するリザーバ部32と連通される連通部13が形成されている。また、この連通部13は、各圧力発生室12の長手方向一端部でそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0026】
また、流路形成基板10の弾性膜50が形成された面に対向する面側には、圧力発生室12を形成する際のマスク膜51が設けられており、このマスク膜51上には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
【0027】
一方、このような流路形成基板10とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.40μmの絶縁体膜55が形成され、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.20μmの下電極60と、平均の厚さが例えば、約0.80μmの圧電体70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極80とが積層形成されて、圧電体素子300を構成している。
【0028】
なお、圧電体素子300とは、下電極60、圧電体70および上電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電体素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。いずれの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。
【0029】
実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55および下電極60が振動板56として作用し、圧電体素子300の駆動により変形が生じる。
また、ここでは、圧電体素子300と圧電体素子300の駆動により変形が生じる部分を含む振動板56と振動板56とを合わせて圧電アクチュエーター310と称する。
ここで、下電極60だけで振動板を構成してもよい。この場合、圧電体素子300が圧電アクチュエーターとなる。
【0030】
振動板56を構成する弾性膜50および絶縁体膜55は、酸化シリコンのほかに、例えば、酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種の層、またはこれらの層の積層体とすることができる。
振動板56の外周部は、流路形成基板10に固定されている。したがって、実施形態では、外周部全体が固定端57となっている。
振動板56は、圧電体素子300が駆動することによって振動する機能を有する。振動板56は、圧電体素子300の動作によって変形し、圧力発生室12の体積を変化させる。インクが充填された圧力発生室12の体積が小さくなれば、圧力発生室12内部の圧力が大きくなり、ノズルプレート20のノズル開口21よりインク滴が噴射される。
【0031】
下電極60の材質は、導電性を有する限り特に限定されず、例えばニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。
下電極60は、上電極80と対になり、圧電体70を挟む一方の電極として機能する。下電極60は、例えば、複数の圧電体素子300の共通電極とすることができる。下電極60は、図示しない外部回路と電気的に接続されている。
【0032】
圧電体70の形状は、下電極60と接する面を底面71とする略台形状となっている。一方、上電極80に対向して接している面である上面72は、凹面に加工されている。凹面は滑らかに連続した曲面である。実施形態の図では、上面72が円弧状に描かれているが、滑らかに連続した曲面であれば、例えばバスタブ状であってもよい。
したがって、圧電体70の中央部73の厚みd1は、図3におけるX軸方向の外周部74の厚みd2および図4におけるY軸方向の外周部74の厚みd3よりも薄くなっている。厚みd2と厚みd3は同じ厚みであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
圧電体70としては、一般式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物を好適に用いることができる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、「PZT」と略す。)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下、「PZTN(登録商標)」と略すことがある。)、およびチタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)などが挙げられる。
圧電体70は、下電極60および、上電極80によって電界が印加されることで伸縮変形し、機械的な出力を行うことができる。圧電体70の材質としては、PZTおよびPZTN(登録商標)が、圧電性能が特に良好であるためより好ましい。
【0034】
上電極80は、圧電体70の上面72に形成されている。
上電極80の材質は、下電極60と同様に、例えばニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。
【0035】
以下に、圧電アクチュエーター310の製造方法について詳しく説明する。
図5は、圧電アクチュエーター310の製造方法を示すフローチャート図である。
圧電アクチュエーター310の製造方法は、圧電体膜形成工程であるステップ1(S1)と、圧電体膜加工工程であるステップ2(S2)と、レジスト膜形成工程であるステップ3(S3)と、フォトリソ工程としてのステップ4(S4)と、エッチング工程としてのステップ5(S5)と、レジスト剥離工程としてのステップ6(S6)と、上電極形成工程としてのステップ7(S7)とを含む。
圧電体形成工程は、圧電体膜加工工程(S2)と、レジスト膜形成工程(S3)と、フォトリソ工程(S4)と、エッチング工程(S5)とを含む。
【0036】
また、図6は、圧電アクチュエーター310の製造方法のうち、主に圧電体70の製造方法を示す概略部分断面図である。ここで、この概略部分断面図は、図3(a)におけるB−B断面に相当する。図3(b)におけるA−A断面に相当する概略部分断面図は図示しないが、圧電体70のY軸方向長さとX軸方向の長さが異なるものの、圧電体については同様の断面となる。
図6(a)は圧電体膜形成工程(S1)を、図6(b)は圧電体膜加工工程(S2)を、図6(c)はレジスト膜形成工程(S3)を、図6(d)はフォトリソ工程(S4)を、図6(e)はエッチング工程(S5)を、図6(f)はレジスト剥離工程(S6)を、図6(g)は上電極形成工程(S7)を図示している。
【0037】
図6(a)において、圧電体膜形成工程(S1)では、流路形成基板10上に形成された下電極60に、圧電体膜75を形成する。流路形成基板10には、弾性膜50および絶縁体膜55が形成されており、下電極60は、絶縁体膜55に形成する。ここでは、下電極60と弾性膜50と絶縁体膜55とで振動板56を構成している。
振動板56の一部である弾性膜50および絶縁体膜55は、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの方法で形成することができる。
【0038】
下電極60は、下電極形成工程によって形成する。下電極60は、弾性膜50および絶縁体膜55上の全面に、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの方法で導電体の層を形成した後、フォトリソグラフィー等によりパターニングして形成することができる。また、下電極は、印刷法などのパターニングが不要な方法によって形成してもよい。
下電極60の厚みは、例えば0.10nm〜0.30nmとすることができる。また、下電極60は、前述の材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0039】
圧電体膜75は、ゾルゲル法やCVD法などによって形成することができる。ゾルゲル法においては、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
例えば、PZTを形成する場合は、Pb,Zr,Tiを含むゾルゲル溶液を用いて、スピンコート法、印刷法などにより形成することができる。
圧電体膜75の厚みは、0.50μm〜1.50μmとすることができる。
【0040】
図6(b)において、圧電体膜加工工程(S2)では、圧電体膜75をパターニングして、加工圧電体76を形成する。
圧電体膜75のパターニングは、フォトリソ等の方法を用いマスク等を形成して行うことができる。またこの工程では、フォトリソ等を複数回行ってもよい。本工程のエッチングは、例えば乾式エッチング等の方法により行うことができる。
【0041】
図6(c)において、レジスト膜形成工程(S3)では、レジスト500を、加工圧電体76を覆うように形成する。
【0042】
図6(d)において、フォトリソ工程(S4)では、加工圧電体76の上面761の中央部762のレジスト500を取り除き、Y軸方向の外周部763のレジスト500を残し、穴510を形成する。
【0043】
図6(e)において、エッチング工程(S5)では、加工圧電体76の湿式エッチングをレジスト500に形成された穴510から行い、圧電体70を形成する。
例えば、圧電材料(PZT:ジルコン酸チタン酸鉛)の湿式のエッチングは、いろいろな酸の複合したもので行うことができる。例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、塩酸、酢酸、硝酸、塩化アンモニウム、緩衝酸化物エッチング溶液の混合物25%+水75%のエッチング液を用いて行う。
エッチングレートは特に限定はされないが、穴510に相当する中央部73で、例えば、0.20μm/min程度で行う。
【0044】
図6(f)において、レジスト剥離工程(S6)では、有機酸等を用いたウェットエッチングあるいは酸素プラズマで灰化して除去するドライエッチングによって、レジスト500を除去する。
【0045】
図6(g)において、上電極形成工程(S7)では、上電極80を、圧電体70の上面72に形成する。スパッタ法、真空蒸着等とフォトリソ工程を用いて上面72に形成することができる。上電極80の厚みは、例えば0.05μm〜0.50μmとすることができる。
以上説明した圧電体形成工程を含む工程により、圧電アクチュエーター310が得られる。
【0046】
ウェーハー状態で圧電体70、上電極80、リード電極90等の形成を行い、最終的にウェーハー状態から分割することによって、複数のインクジェット式記録ヘッド1、圧電体素子300、圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0047】
図2および図3において、圧電体素子300には、上電極80に電気的に接続するリード電極90が設けられている。例えば、リード電極90は、上電極80と電気的に接続し延出して設けることができ、リード電極90は、回路素子等に接続されている。
圧電体素子300が保護膜を有する場合は、保護膜にスルーホールを形成し、上電極80とリード電極90とを接続してもよい。
【0048】
流路形成基板10の圧電体素子300側には、圧電体素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電体素子保持部31を有する保護基板30が接着剤を介して接合されている。圧電体素子300は、この圧電体素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。
なお、圧電体素子保持部31は、空間が密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。
【0049】
また、保護基板30には、リザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、保護基板30の圧電体素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電体素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。
【0050】
さらに、このような保護基板30上には、封止膜41および固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0051】
このようなインクジェット式記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、図示しない駆動ICからの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極60と上電極80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極60および圧電体70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0052】
図7に、実施形態における、上面72に凹面が形成された圧電体70の場合の圧電アクチュエーター310を示した。(a)は概略部分断面図で、(b)は圧電アクチュエーター310が電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図を表している。
図8に従来の上面が凹面でない圧電体77の場合の圧電アクチュエーター320を示した。(a)は概略部分断面図で、(b)は圧電アクチュエーター320が電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図を表している。
ここで、概略部分断面図は図3(a)におけるB−B断面に相当する。
【0053】
図7(a)において、圧電体70の上面72が凹面の場合、中央部73における下電極60と上電極80との間の距離と比較して、外周部74における下電極60と上電極80との間の距離が長いため、電圧を印加した際に図中矢印で示したように、中央部73の電界が、外周部74と比較して大きくなる。
図7(b)において、圧電体70の中央部73の電界が大きく、外周部74の電界が小さいため、圧電アクチュエーター310の中央部73での変形が大きく、固定端57での変形が小さくなる。
【0054】
図8(a)において、圧電体77を有する圧電体素子305では、中央部73と外周部74とで下電極60と上電極80との間の距離が変わらないため、電圧を印加した際に図中矢印で示したように略均一な電界が圧電体77に印加される。
図8(b)において、圧電体77にわたって略均一な電界となるため、変形も均一に起こり、固定端321間で連続してなだらかに変形する。
【0055】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)振動板56の固定端57側に形成された圧電体70の厚みd2が、固定端57間の中央部73に形成された圧電体70の厚みd1よりも厚いので、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界は、中央部73と比較して固定端57側で弱くなる。したがって、固定端57側とその近傍の変形量を、中央部73と比較して小さくでき、固定端57側とその近傍に加わる応力を低減でき、固定端57側からクラックの生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0056】
(2)圧電体70の上電極80に対向する上面72が滑らかに連続した凹面なので、圧電体70の厚みおよび電界が固定端57側から中央部73にかけて滑らかに変化し、応力が集中する部分を少なくできる。したがって、クラックのより生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0057】
(3)前述の効果を有するインクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000を得ることができる。
【0058】
(4)圧電体70の上面72に凹面を形成することにより、圧電体70の外周部74の厚さd2,d3を、中央部73の厚さd1と比較して厚くでき、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界を、中央部73と比較して外周部74で弱くできる。したがって、前述の効果を有する圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0059】
(5)エッチング当初、湿式エッチングで使用するエッチング液はレジスト500に形成された穴510から露出した加工圧電体76の部分を侵食する。エッチングが進むにつれ、エッチング液はレジスト500と加工圧電体76との界面、隙間に入り込み、加工圧電体76を侵食し、穴510に相当する部分から離れるほど、加工圧電体76のエッチングの始まる時間を遅くできる。したがって、レジスト500に接した加工圧電体76の上面761が滑らかに連続してエッチングされ、最終的に圧電体70の上面72に滑らかで連続した凹面を形成でき、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0060】
(変形例1)
図9は、本変形例における圧電アクチュエーター310の製造方法を示すフローチャート図である。
圧電アクチュエーター310の製造方法は、第1の圧電体膜形成工程であるステップ11(S11)と、レジスト膜形成工程であるステップ12(S12)と、フォトリソ工程であるステップ13(S13)と、圧電体膜エッチング工程としてのステップ14(S14)と、レジスト剥離工程としてのステップ15(S15)と、第2の圧電体膜形成工程であるステップ16(S16)と、圧電体膜加工工程としてのステップ17(S17)と、上電極形成工程であるステップ18(S18)とを含む。
レジスト膜形成工程(S12)と、フォトリソ工程(S13)と、圧電体膜エッチング工程(S14)と、レジスト剥離工程(S15)と、第2の圧電体膜形成工程(S16)と、圧電体膜加工工程(S17)とを含む工程が、圧電体形成工程である。
【0061】
また、図10は、圧電アクチュエーター310の製造方法を示す概略部分断面図である。図10(a)は第1の圧電体膜形成工程(S11)を、図10(b)はレジスト膜形成工程(S12)を、図10(c)はフォトリソ工程(S13)を、図10(d)は圧電体膜エッチング工程(S14)を、図10(e)はレジスト剥離工程(S15)を、図10(f)は第2の圧電体膜形成工程(S16)を、図10(g)は圧電体膜加工工程(S17)を、図10(h)は上電極形成工程(S18)を図示している。
【0062】
図10(a)において、第1の圧電体膜形成工程(S11)では、実施形態の圧電体膜形成工程(S1)と同様に第1の圧電体膜75を形成することができるが、その厚みは実施形態よりは薄く形成する。
また、実施形態と同様に、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
【0063】
図10(b)において、レジスト膜形成工程(S12)では、レジスト500を第1の圧電体膜75に形成する。
【0064】
図10(c)において、フォトリソ工程(S13)では、後の工程で圧電体70が形成される第1の圧電体膜75の部分700の中心部のレジスト500を取り除き、穴520を形成する。圧電体70が形成される部分700の外周部702にはレジスト500を残す。
【0065】
図10(d)において、圧電体膜エッチング工程(S14)では、乾式エッチングによって、第1の圧電体膜75をエッチングし、段差のある凹部78を形成する。
【0066】
図10(e)において、レジスト剥離工程(S15)では、実施形態のレジスト剥離工程(S6)と同様に、レジスト500を剥離する。
【0067】
図10(f)において、第2の圧電体膜形成工程(S16)では、凹部78を埋めるように、第1の圧電体膜75に第2の圧電体膜79を形成する。ここで、第2の圧電体膜79は、液相プロセス、例えば、ゾルゲル法を用いて形成する。
本工程においても、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
【0068】
図10(g)において、圧電体膜加工工程(S17)では、第1の圧電体膜75および第2の圧電体膜79をパターニングして、第1の圧電体層750および最外圧電体層としての第2の圧電体層790からなる圧電体70を形成する。
第1の圧電体膜75および第2の圧電体膜79のパターニングは、フォトリソ等の方法を用いマスク等を形成して行うことができる。またこの工程では、フォトリソ等を複数回行ってもよい。本工程のエッチングは、例えばドライエッチング等の方法により行うことができる。
なお、第2の圧電体層790と下電極60との間には、圧電体層が複数形成されていてもよい。複数の圧電体層に異なる形状の凹部を形成することにより、第2の圧電体膜79の形状を調節することができる。
【0069】
図10(h)において、上電極形成工程(S18)では、実施形態における上電極形成工程(S7)と同様に、上電極80を、圧電体70の上面72に形成する。
【0070】
本変形例によれば、実施形態の効果に加えて以下の効果がある。
(6)最外圧電体層790と下電極60との間の第1の圧電体層750の凹部78に応じて最外圧電体層790の上電極80に対向する上面72に凹面が生じ、前述の効果を有する圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0071】
(7)液相プロセスで、第1の圧電体膜75に形成された凹部78を埋めるように、原料溶液を塗布することにより、第1の圧電体膜75に形成された凹部78の段差部分に、表面張力によって滑らかに連続した凹面が原料溶液に生じ、予備加熱、結晶化アニールによって第2の圧電体膜79の上面791にも段差の少ない滑らかに連続した凹面を形成できる。したがって、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0072】
(変形例2)
図11に、本変形例における圧電体素子330および圧電アクチュエーター340の図3(a)におけるB−B断面に相当する概略部分断面図を示した。
図11において、上電極81に対向する圧電体710の上面712は段差を有する階段状の凹面となっており、上面712には上電極81が形成されている。
段差は、実施形態の製造方法を用いる場合、多段階のエッチングによって形成することができる。また、変形例1の製造方法を用いる場合、第1の圧電体膜に階段状の凹部を設けて形成してもよい。
【0073】
本変形例によれば、実施形態の効果に加えて以下の効果がある。
(8)上面712が段差を有する階段状の凹面からなるので、凹面を形成しやすい圧電アクチュエーター340が得られる。
【0074】
上述した実施形態および変形例以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、圧電アクチュエーターの基板としては、流路形成基板10に限らず、例えば、半導体基板、樹脂基板などを用途に応じて任意に用いることができる。
また、振動板は、例えば、ステンレス鋼等の金属の層が積層されていてもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド1を挙げて説明したが、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用できる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0076】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、10…基板としての流路形成基板、12…圧力発生室、21…ノズル開口、56…振動板、57…固定端、60…下電極、70,77…圧電体、72,712,791…上面、73…中央部、74…外周部、75…圧電体膜または第1の圧電体膜、76…加工圧電体、78…凹部、79…第2の圧電体膜、80,81…上電極、300,330…圧電体素子、310,340…圧力発生手段としての圧電アクチュエーター、500…レジスト、510,520…穴、750…第1の圧電体層、761…加工圧電体の上面、762…加工圧電体の上面の中央部、763…加工圧電体の上面の外周部、790…最外圧電体層としての第2の圧電体層、1000…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーターおよびその製造方法、この圧電アクチュエーターを用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等に代表される結晶を含む圧電体は、自発分極、高誘電率、電気光学効果、圧電効果、焦電効果等を有しているため、圧電体素子等の広範なデバイス開発に応用されている。
圧電アクチュエーターは、圧電体素子が電圧の印加によって変形することを利用している。一般に、圧電アクチュエーターは、圧電体素子と固定端を有する振動板とを備えている。
圧電アクチュエーターが駆動すると、変形によって固定端付近に応力が集中し、圧電体素子および振動板にクラックが生じやすい。
【0003】
圧電体素子である圧電素子の長手方向に沿って複数の凹部を設け、長手方向の引張応力を緩和し、圧電体のクラックを防止するアクチュエーター、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−018551号公報(7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電アクチュエーターを構成する圧電体素子および振動板では、長手方向にかかわらず、固定端付近は他の部分と比較して応力が集中しやすく、固定端付近からクラックが生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
基板と、前記基板に固定された複数の固定端を有する振動板と、前記振動板上に形成された下電極と、前記下電極上に形成され、前記振動板の前記固定端側の厚みが、前記固定端間に形成された中央部の厚みよりも厚い圧電体と、前記圧電体上に形成された上電極とを備えたことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0008】
この適用例によれば、振動板の固定端付近に形成された圧電体の厚みが、固定端間の中央部に形成された圧電体の厚みよりも厚いので、下電極と上電極とに挟まれた圧電体に加わる電界は、中央部と比較して固定端側が弱い。したがって、固定端側の変形量は、中央部と比較して小さくなり、固定端側とその近傍に加わる応力が低減し、固定端側からクラックの生じにくい圧電アクチュエーターが得られる。
ここで、基板に固定された複数の固定端とは、振動板の外周部全体が基板に固定されている固定端も含む。
【0009】
[適用例2]
上記圧電アクチュエーターにおいて、前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、前記凹面は、滑らかに連続した曲面であることを特徴とする圧電アクチュエーター。
この適用例では、圧電体の上電極に対向する面が滑らかに連続した凹面なので、圧電体の厚みおよび電界が固定端付近から中央部にかけて滑らかに変化し、応力が集中する部分も少ない。また上部電極のカバレッジ(被覆率)が良いという特徴がある。したがって、クラックのより生じにくい圧電アクチュエーターが得られる。
【0010】
[適用例3]
上記圧電アクチュエーターにおいて、前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、前記凹面は、段差を有する階段状からなることを特徴とする圧電アクチュエーター。
この適用例では、凹面が段差を有する階段状からなるので、凹面を形成しやすい圧電アクチュエーターが得られる。この特徴であれば、中央部と固定端側との膜厚がより正確に調整可能となる。
【0011】
[適用例4]
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を備えた流路形成基板と、前記流路形成基板上に形成され、前記圧力発生室の一部を構成する上記圧電アクチュエーターとを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0012】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射ヘッドが得られる。
【0013】
[適用例5]
上記液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0014】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【0015】
[適用例6]
基板上に下電極を形成する下電極形成工程と、前記下電極に圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程と、前記圧電体膜から、前記下電極に接する面に対向する上面に凹面を形成して圧電体を得る圧電体形成工程と、前記圧電体の前記上面に上電極を形成する上電極形成工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【0016】
この適用例によれば、圧電体の上面に凹面を形成することにより、圧電体の外周部の厚さが、中央部の厚さと比較して厚くなり、下電極と上電極とに挟まれた圧電体に加わる電界は、中央部と比較して外周部で弱くなる。したがって、前述の効果を有する圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0017】
[適用例7]
上記圧電アクチュエーターの製造方法において、前記圧電体形成工程は、前記圧電体膜をパターンニングして加工圧電体を形成する圧電体膜加工工程と、前記加工圧電体をレジストで覆うレジスト膜形成工程と、前記加工圧電体の前記上面の中央部のレジストを取り除き、穴を形成するフォトリソ工程と、前記加工圧電体を前記穴から湿式エッチングするエッチング工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、エッチング当初、湿式エッチングで使用するエッチング液はレジストに形成された穴から露出した加工圧電体の部分を侵食する。エッチングが進むにつれ、エッチング液はレジストと加工圧電体との界面、隙間に入り込み、加工圧電体を侵食し、穴に相当する中央部から離れるほど、加工圧電体のエッチングの始まる時間が遅くなる。したがって、レジストに接した加工圧電体の表面が滑らかに連続してエッチングされ、最終的に圧電体の面に滑らかで連続した凹面が形成され、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【0018】
[適用例8]
上記圧電アクチュエーターの製造方法において、前記圧電体形成工程は、第1の圧電体膜形成工程としての前記圧電体膜形成工程と、第1の圧電体膜をエッチングして段差を有する凹部を形成する圧電体膜エッチング工程と、前記凹部を埋めるように液相プロセスで、第2の圧電体膜を前記第1の圧電体膜に形成し、前記第2の圧電体膜に前記凹面を形成する第2の圧電体膜形成工程と、前記第1の圧電体膜および前記第2の圧電体膜を加工して前記圧電体を形成する圧電体膜加工工程とを含むことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
この適用例では、液相プロセスで、第1の圧電体膜に形成された凹部を埋めるように、原料溶液を塗布することにより、第1の圧電体膜に形成された凹部の段差部分に、表面張力によって滑らかに連続した凹面が原料溶液に生じ、予備加熱、結晶化アニールによって第2の圧電体膜の上面にも段差の少ない滑らかに連続した凹面が形成される。したがって、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーターの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態におけるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図。
【図3】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの部分平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの図3(a)におけるB−B概略部分断面図。
【図5】圧電アクチュエーターの製造方法を示すフローチャート図。
【図6】圧電アクチュエーターの製造方法を示す概略部分断面図。
【図7】実施形態における、(a)は圧電アクチュエーターの動作を示す概略部分断面図、(b)は電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図。
【図8】従来における、(a)は圧電アクチュエーターの動作を示す概略部分断面図、(b)は電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図。
【図9】変形例1における圧電アクチュエーターの製造方法を示すフローチャート図。
【図10】圧電アクチュエーターの製造方法を示す概略部分断面図。
【図11】変形例2における圧電アクチュエーターを示す概略部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、実施形態における液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1000の一例を示す概略図である。インクジェット式記録装置1000は、記録媒体である記録シートSに液体としてのインクを噴射して記録を行う装置である。
図1において、インクジェット式記録装置1000は、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を有する記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられている。
ここで、インクジェット式記録ヘッド1は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bの記録シートSと対向する側に設けられており、図1においては図示されていない。
【0021】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を吐出するものである。
【0022】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動する。
一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモーターの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0023】
以下、図2、図3および図4を参照して、インクジェット式記録ヘッド1について詳細に説明する。
図2は、インクジェット式記録ヘッド1の概略を示す分解斜視図であり、図3(a)は、インクジェット式記録ヘッド1の部分平面図、図3(b)は、(a)におけるA−A断面図である。また、図4には、図3(a)におけるB−B概略部分断面図を示した。
【0024】
図2、図3および図4において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と保護基板30とを備えている。
流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコンからなる、厚さ0.50μm〜2.00μmの弾性膜50が形成されている。
【0025】
シリコン単結晶基板を、弾性膜50が形成された面に対向する面側から異方性エッチングすることにより、この流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が複数並設されている。このとき、弾性膜50はエッチングストッパーとして働く。
また、圧力発生室12の並設方向(幅方向でY軸方向とする)とは直交する方向(長手方向でX軸方向とする)の一方の端部の外側には、保護基板30の後述するリザーバ部32と連通される連通部13が形成されている。また、この連通部13は、各圧力発生室12の長手方向一端部でそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0026】
また、流路形成基板10の弾性膜50が形成された面に対向する面側には、圧力発生室12を形成する際のマスク膜51が設けられており、このマスク膜51上には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
【0027】
一方、このような流路形成基板10とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.40μmの絶縁体膜55が形成され、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.20μmの下電極60と、平均の厚さが例えば、約0.80μmの圧電体70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極80とが積層形成されて、圧電体素子300を構成している。
【0028】
なお、圧電体素子300とは、下電極60、圧電体70および上電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電体素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。いずれの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。
【0029】
実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55および下電極60が振動板56として作用し、圧電体素子300の駆動により変形が生じる。
また、ここでは、圧電体素子300と圧電体素子300の駆動により変形が生じる部分を含む振動板56と振動板56とを合わせて圧電アクチュエーター310と称する。
ここで、下電極60だけで振動板を構成してもよい。この場合、圧電体素子300が圧電アクチュエーターとなる。
【0030】
振動板56を構成する弾性膜50および絶縁体膜55は、酸化シリコンのほかに、例えば、酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種の層、またはこれらの層の積層体とすることができる。
振動板56の外周部は、流路形成基板10に固定されている。したがって、実施形態では、外周部全体が固定端57となっている。
振動板56は、圧電体素子300が駆動することによって振動する機能を有する。振動板56は、圧電体素子300の動作によって変形し、圧力発生室12の体積を変化させる。インクが充填された圧力発生室12の体積が小さくなれば、圧力発生室12内部の圧力が大きくなり、ノズルプレート20のノズル開口21よりインク滴が噴射される。
【0031】
下電極60の材質は、導電性を有する限り特に限定されず、例えばニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。
下電極60は、上電極80と対になり、圧電体70を挟む一方の電極として機能する。下電極60は、例えば、複数の圧電体素子300の共通電極とすることができる。下電極60は、図示しない外部回路と電気的に接続されている。
【0032】
圧電体70の形状は、下電極60と接する面を底面71とする略台形状となっている。一方、上電極80に対向して接している面である上面72は、凹面に加工されている。凹面は滑らかに連続した曲面である。実施形態の図では、上面72が円弧状に描かれているが、滑らかに連続した曲面であれば、例えばバスタブ状であってもよい。
したがって、圧電体70の中央部73の厚みd1は、図3におけるX軸方向の外周部74の厚みd2および図4におけるY軸方向の外周部74の厚みd3よりも薄くなっている。厚みd2と厚みd3は同じ厚みであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
圧電体70としては、一般式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物を好適に用いることができる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、「PZT」と略す。)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下、「PZTN(登録商標)」と略すことがある。)、およびチタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)などが挙げられる。
圧電体70は、下電極60および、上電極80によって電界が印加されることで伸縮変形し、機械的な出力を行うことができる。圧電体70の材質としては、PZTおよびPZTN(登録商標)が、圧電性能が特に良好であるためより好ましい。
【0034】
上電極80は、圧電体70の上面72に形成されている。
上電極80の材質は、下電極60と同様に、例えばニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。
【0035】
以下に、圧電アクチュエーター310の製造方法について詳しく説明する。
図5は、圧電アクチュエーター310の製造方法を示すフローチャート図である。
圧電アクチュエーター310の製造方法は、圧電体膜形成工程であるステップ1(S1)と、圧電体膜加工工程であるステップ2(S2)と、レジスト膜形成工程であるステップ3(S3)と、フォトリソ工程としてのステップ4(S4)と、エッチング工程としてのステップ5(S5)と、レジスト剥離工程としてのステップ6(S6)と、上電極形成工程としてのステップ7(S7)とを含む。
圧電体形成工程は、圧電体膜加工工程(S2)と、レジスト膜形成工程(S3)と、フォトリソ工程(S4)と、エッチング工程(S5)とを含む。
【0036】
また、図6は、圧電アクチュエーター310の製造方法のうち、主に圧電体70の製造方法を示す概略部分断面図である。ここで、この概略部分断面図は、図3(a)におけるB−B断面に相当する。図3(b)におけるA−A断面に相当する概略部分断面図は図示しないが、圧電体70のY軸方向長さとX軸方向の長さが異なるものの、圧電体については同様の断面となる。
図6(a)は圧電体膜形成工程(S1)を、図6(b)は圧電体膜加工工程(S2)を、図6(c)はレジスト膜形成工程(S3)を、図6(d)はフォトリソ工程(S4)を、図6(e)はエッチング工程(S5)を、図6(f)はレジスト剥離工程(S6)を、図6(g)は上電極形成工程(S7)を図示している。
【0037】
図6(a)において、圧電体膜形成工程(S1)では、流路形成基板10上に形成された下電極60に、圧電体膜75を形成する。流路形成基板10には、弾性膜50および絶縁体膜55が形成されており、下電極60は、絶縁体膜55に形成する。ここでは、下電極60と弾性膜50と絶縁体膜55とで振動板56を構成している。
振動板56の一部である弾性膜50および絶縁体膜55は、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの方法で形成することができる。
【0038】
下電極60は、下電極形成工程によって形成する。下電極60は、弾性膜50および絶縁体膜55上の全面に、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの方法で導電体の層を形成した後、フォトリソグラフィー等によりパターニングして形成することができる。また、下電極は、印刷法などのパターニングが不要な方法によって形成してもよい。
下電極60の厚みは、例えば0.10nm〜0.30nmとすることができる。また、下電極60は、前述の材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0039】
圧電体膜75は、ゾルゲル法やCVD法などによって形成することができる。ゾルゲル法においては、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
例えば、PZTを形成する場合は、Pb,Zr,Tiを含むゾルゲル溶液を用いて、スピンコート法、印刷法などにより形成することができる。
圧電体膜75の厚みは、0.50μm〜1.50μmとすることができる。
【0040】
図6(b)において、圧電体膜加工工程(S2)では、圧電体膜75をパターニングして、加工圧電体76を形成する。
圧電体膜75のパターニングは、フォトリソ等の方法を用いマスク等を形成して行うことができる。またこの工程では、フォトリソ等を複数回行ってもよい。本工程のエッチングは、例えば乾式エッチング等の方法により行うことができる。
【0041】
図6(c)において、レジスト膜形成工程(S3)では、レジスト500を、加工圧電体76を覆うように形成する。
【0042】
図6(d)において、フォトリソ工程(S4)では、加工圧電体76の上面761の中央部762のレジスト500を取り除き、Y軸方向の外周部763のレジスト500を残し、穴510を形成する。
【0043】
図6(e)において、エッチング工程(S5)では、加工圧電体76の湿式エッチングをレジスト500に形成された穴510から行い、圧電体70を形成する。
例えば、圧電材料(PZT:ジルコン酸チタン酸鉛)の湿式のエッチングは、いろいろな酸の複合したもので行うことができる。例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、塩酸、酢酸、硝酸、塩化アンモニウム、緩衝酸化物エッチング溶液の混合物25%+水75%のエッチング液を用いて行う。
エッチングレートは特に限定はされないが、穴510に相当する中央部73で、例えば、0.20μm/min程度で行う。
【0044】
図6(f)において、レジスト剥離工程(S6)では、有機酸等を用いたウェットエッチングあるいは酸素プラズマで灰化して除去するドライエッチングによって、レジスト500を除去する。
【0045】
図6(g)において、上電極形成工程(S7)では、上電極80を、圧電体70の上面72に形成する。スパッタ法、真空蒸着等とフォトリソ工程を用いて上面72に形成することができる。上電極80の厚みは、例えば0.05μm〜0.50μmとすることができる。
以上説明した圧電体形成工程を含む工程により、圧電アクチュエーター310が得られる。
【0046】
ウェーハー状態で圧電体70、上電極80、リード電極90等の形成を行い、最終的にウェーハー状態から分割することによって、複数のインクジェット式記録ヘッド1、圧電体素子300、圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0047】
図2および図3において、圧電体素子300には、上電極80に電気的に接続するリード電極90が設けられている。例えば、リード電極90は、上電極80と電気的に接続し延出して設けることができ、リード電極90は、回路素子等に接続されている。
圧電体素子300が保護膜を有する場合は、保護膜にスルーホールを形成し、上電極80とリード電極90とを接続してもよい。
【0048】
流路形成基板10の圧電体素子300側には、圧電体素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電体素子保持部31を有する保護基板30が接着剤を介して接合されている。圧電体素子300は、この圧電体素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。
なお、圧電体素子保持部31は、空間が密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。
【0049】
また、保護基板30には、リザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、保護基板30の圧電体素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電体素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。
【0050】
さらに、このような保護基板30上には、封止膜41および固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0051】
このようなインクジェット式記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、図示しない駆動ICからの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極60と上電極80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極60および圧電体70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0052】
図7に、実施形態における、上面72に凹面が形成された圧電体70の場合の圧電アクチュエーター310を示した。(a)は概略部分断面図で、(b)は圧電アクチュエーター310が電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図を表している。
図8に従来の上面が凹面でない圧電体77の場合の圧電アクチュエーター320を示した。(a)は概略部分断面図で、(b)は圧電アクチュエーター320が電圧の印加によって変形した場合の様子を示す模式図を表している。
ここで、概略部分断面図は図3(a)におけるB−B断面に相当する。
【0053】
図7(a)において、圧電体70の上面72が凹面の場合、中央部73における下電極60と上電極80との間の距離と比較して、外周部74における下電極60と上電極80との間の距離が長いため、電圧を印加した際に図中矢印で示したように、中央部73の電界が、外周部74と比較して大きくなる。
図7(b)において、圧電体70の中央部73の電界が大きく、外周部74の電界が小さいため、圧電アクチュエーター310の中央部73での変形が大きく、固定端57での変形が小さくなる。
【0054】
図8(a)において、圧電体77を有する圧電体素子305では、中央部73と外周部74とで下電極60と上電極80との間の距離が変わらないため、電圧を印加した際に図中矢印で示したように略均一な電界が圧電体77に印加される。
図8(b)において、圧電体77にわたって略均一な電界となるため、変形も均一に起こり、固定端321間で連続してなだらかに変形する。
【0055】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)振動板56の固定端57側に形成された圧電体70の厚みd2が、固定端57間の中央部73に形成された圧電体70の厚みd1よりも厚いので、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界は、中央部73と比較して固定端57側で弱くなる。したがって、固定端57側とその近傍の変形量を、中央部73と比較して小さくでき、固定端57側とその近傍に加わる応力を低減でき、固定端57側からクラックの生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0056】
(2)圧電体70の上電極80に対向する上面72が滑らかに連続した凹面なので、圧電体70の厚みおよび電界が固定端57側から中央部73にかけて滑らかに変化し、応力が集中する部分を少なくできる。したがって、クラックのより生じにくい圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0057】
(3)前述の効果を有するインクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000を得ることができる。
【0058】
(4)圧電体70の上面72に凹面を形成することにより、圧電体70の外周部74の厚さd2,d3を、中央部73の厚さd1と比較して厚くでき、下電極60と上電極80とに挟まれた圧電体70に加わる電界を、中央部73と比較して外周部74で弱くできる。したがって、前述の効果を有する圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0059】
(5)エッチング当初、湿式エッチングで使用するエッチング液はレジスト500に形成された穴510から露出した加工圧電体76の部分を侵食する。エッチングが進むにつれ、エッチング液はレジスト500と加工圧電体76との界面、隙間に入り込み、加工圧電体76を侵食し、穴510に相当する部分から離れるほど、加工圧電体76のエッチングの始まる時間を遅くできる。したがって、レジスト500に接した加工圧電体76の上面761が滑らかに連続してエッチングされ、最終的に圧電体70の上面72に滑らかで連続した凹面を形成でき、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0060】
(変形例1)
図9は、本変形例における圧電アクチュエーター310の製造方法を示すフローチャート図である。
圧電アクチュエーター310の製造方法は、第1の圧電体膜形成工程であるステップ11(S11)と、レジスト膜形成工程であるステップ12(S12)と、フォトリソ工程であるステップ13(S13)と、圧電体膜エッチング工程としてのステップ14(S14)と、レジスト剥離工程としてのステップ15(S15)と、第2の圧電体膜形成工程であるステップ16(S16)と、圧電体膜加工工程としてのステップ17(S17)と、上電極形成工程であるステップ18(S18)とを含む。
レジスト膜形成工程(S12)と、フォトリソ工程(S13)と、圧電体膜エッチング工程(S14)と、レジスト剥離工程(S15)と、第2の圧電体膜形成工程(S16)と、圧電体膜加工工程(S17)とを含む工程が、圧電体形成工程である。
【0061】
また、図10は、圧電アクチュエーター310の製造方法を示す概略部分断面図である。図10(a)は第1の圧電体膜形成工程(S11)を、図10(b)はレジスト膜形成工程(S12)を、図10(c)はフォトリソ工程(S13)を、図10(d)は圧電体膜エッチング工程(S14)を、図10(e)はレジスト剥離工程(S15)を、図10(f)は第2の圧電体膜形成工程(S16)を、図10(g)は圧電体膜加工工程(S17)を、図10(h)は上電極形成工程(S18)を図示している。
【0062】
図10(a)において、第1の圧電体膜形成工程(S11)では、実施形態の圧電体膜形成工程(S1)と同様に第1の圧電体膜75を形成することができるが、その厚みは実施形態よりは薄く形成する。
また、実施形態と同様に、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
【0063】
図10(b)において、レジスト膜形成工程(S12)では、レジスト500を第1の圧電体膜75に形成する。
【0064】
図10(c)において、フォトリソ工程(S13)では、後の工程で圧電体70が形成される第1の圧電体膜75の部分700の中心部のレジスト500を取り除き、穴520を形成する。圧電体70が形成される部分700の外周部702にはレジスト500を残す。
【0065】
図10(d)において、圧電体膜エッチング工程(S14)では、乾式エッチングによって、第1の圧電体膜75をエッチングし、段差のある凹部78を形成する。
【0066】
図10(e)において、レジスト剥離工程(S15)では、実施形態のレジスト剥離工程(S6)と同様に、レジスト500を剥離する。
【0067】
図10(f)において、第2の圧電体膜形成工程(S16)では、凹部78を埋めるように、第1の圧電体膜75に第2の圧電体膜79を形成する。ここで、第2の圧電体膜79は、液相プロセス、例えば、ゾルゲル法を用いて形成する。
本工程においても、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。
【0068】
図10(g)において、圧電体膜加工工程(S17)では、第1の圧電体膜75および第2の圧電体膜79をパターニングして、第1の圧電体層750および最外圧電体層としての第2の圧電体層790からなる圧電体70を形成する。
第1の圧電体膜75および第2の圧電体膜79のパターニングは、フォトリソ等の方法を用いマスク等を形成して行うことができる。またこの工程では、フォトリソ等を複数回行ってもよい。本工程のエッチングは、例えばドライエッチング等の方法により行うことができる。
なお、第2の圧電体層790と下電極60との間には、圧電体層が複数形成されていてもよい。複数の圧電体層に異なる形状の凹部を形成することにより、第2の圧電体膜79の形状を調節することができる。
【0069】
図10(h)において、上電極形成工程(S18)では、実施形態における上電極形成工程(S7)と同様に、上電極80を、圧電体70の上面72に形成する。
【0070】
本変形例によれば、実施形態の効果に加えて以下の効果がある。
(6)最外圧電体層790と下電極60との間の第1の圧電体層750の凹部78に応じて最外圧電体層790の上電極80に対向する上面72に凹面が生じ、前述の効果を有する圧電アクチュエーター310を得ることができる。
【0071】
(7)液相プロセスで、第1の圧電体膜75に形成された凹部78を埋めるように、原料溶液を塗布することにより、第1の圧電体膜75に形成された凹部78の段差部分に、表面張力によって滑らかに連続した凹面が原料溶液に生じ、予備加熱、結晶化アニールによって第2の圧電体膜79の上面791にも段差の少ない滑らかに連続した凹面を形成できる。したがって、前述の効果をより達成できる圧電アクチュエーター310の製造方法を得ることができる。
【0072】
(変形例2)
図11に、本変形例における圧電体素子330および圧電アクチュエーター340の図3(a)におけるB−B断面に相当する概略部分断面図を示した。
図11において、上電極81に対向する圧電体710の上面712は段差を有する階段状の凹面となっており、上面712には上電極81が形成されている。
段差は、実施形態の製造方法を用いる場合、多段階のエッチングによって形成することができる。また、変形例1の製造方法を用いる場合、第1の圧電体膜に階段状の凹部を設けて形成してもよい。
【0073】
本変形例によれば、実施形態の効果に加えて以下の効果がある。
(8)上面712が段差を有する階段状の凹面からなるので、凹面を形成しやすい圧電アクチュエーター340が得られる。
【0074】
上述した実施形態および変形例以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、圧電アクチュエーターの基板としては、流路形成基板10に限らず、例えば、半導体基板、樹脂基板などを用途に応じて任意に用いることができる。
また、振動板は、例えば、ステンレス鋼等の金属の層が積層されていてもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド1を挙げて説明したが、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用できる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0076】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、10…基板としての流路形成基板、12…圧力発生室、21…ノズル開口、56…振動板、57…固定端、60…下電極、70,77…圧電体、72,712,791…上面、73…中央部、74…外周部、75…圧電体膜または第1の圧電体膜、76…加工圧電体、78…凹部、79…第2の圧電体膜、80,81…上電極、300,330…圧電体素子、310,340…圧力発生手段としての圧電アクチュエーター、500…レジスト、510,520…穴、750…第1の圧電体層、761…加工圧電体の上面、762…加工圧電体の上面の中央部、763…加工圧電体の上面の外周部、790…最外圧電体層としての第2の圧電体層、1000…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に固定された複数の固定端を有する振動板と、
前記振動板上に形成された下電極と、
前記下電極上に形成され、前記振動板の前記固定端側の厚みが、前記固定端間に形成された中央部の厚みよりも厚い圧電体と、
前記圧電体上に形成された上電極とを備えた
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターにおいて、
前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、
前記凹面は、滑らかに連続した曲面である
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターにおいて、
前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、
前記凹面は、段差を有する階段状からなる
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項4】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を備えた流路形成基板と、
前記流路形成基板上に形成され、前記圧力発生室の一部を構成する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の圧電アクチュエーターとを備えた
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
基板上に下電極を形成する下電極形成工程と、
前記下電極に圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程と、
前記圧電体膜から、前記下電極に接する面に対向する上面に凹面を形成して圧電体を得る圧電体形成工程と、
前記圧電体の前記上面に上電極を形成する上電極形成工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記圧電体形成工程は、
前記圧電体膜をパターンニングして加工圧電体を形成する圧電体膜加工工程と、
前記加工圧電体をレジストで覆うレジスト膜形成工程と、
前記加工圧電体の前記上面の中央部のレジストを取り除き、穴を形成するフォトリソ工程と、
前記加工圧電体を前記穴から湿式エッチングするエッチング工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記圧電体形成工程は、
第1の圧電体膜形成工程としての前記圧電体膜形成工程と、
第1の圧電体膜をエッチングして段差を有する凹部を形成する圧電体膜エッチング工程と、
前記凹部を埋めるように液相プロセスで、第2の圧電体膜を前記第1の圧電体膜に形成し、前記第2の圧電体膜に前記凹面を形成する第2の圧電体膜形成工程と、
前記第1の圧電体膜および前記第2の圧電体膜を加工して前記圧電体を形成する圧電体膜加工工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板に固定された複数の固定端を有する振動板と、
前記振動板上に形成された下電極と、
前記下電極上に形成され、前記振動板の前記固定端側の厚みが、前記固定端間に形成された中央部の厚みよりも厚い圧電体と、
前記圧電体上に形成された上電極とを備えた
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターにおいて、
前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、
前記凹面は、滑らかに連続した曲面である
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターにおいて、
前記圧電体の前記上電極に対向する面が凹面を有し、
前記凹面は、段差を有する階段状からなる
ことを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項4】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を備えた流路形成基板と、
前記流路形成基板上に形成され、前記圧力発生室の一部を構成する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の圧電アクチュエーターとを備えた
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
基板上に下電極を形成する下電極形成工程と、
前記下電極に圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程と、
前記圧電体膜から、前記下電極に接する面に対向する上面に凹面を形成して圧電体を得る圧電体形成工程と、
前記圧電体の前記上面に上電極を形成する上電極形成工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記圧電体形成工程は、
前記圧電体膜をパターンニングして加工圧電体を形成する圧電体膜加工工程と、
前記加工圧電体をレジストで覆うレジスト膜形成工程と、
前記加工圧電体の前記上面の中央部のレジストを取り除き、穴を形成するフォトリソ工程と、
前記加工圧電体を前記穴から湿式エッチングするエッチング工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターの製造方法において、
前記圧電体形成工程は、
第1の圧電体膜形成工程としての前記圧電体膜形成工程と、
第1の圧電体膜をエッチングして段差を有する凹部を形成する圧電体膜エッチング工程と、
前記凹部を埋めるように液相プロセスで、第2の圧電体膜を前記第1の圧電体膜に形成し、前記第2の圧電体膜に前記凹面を形成する第2の圧電体膜形成工程と、
前記第1の圧電体膜および前記第2の圧電体膜を加工して前記圧電体を形成する圧電体膜加工工程とを含む
ことを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−40515(P2011−40515A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185494(P2009−185494)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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