説明

圧電共振器

【課題】 信頼性の高い圧電共振器を提供する。
【解決手段】 基板と、圧電膜と、前記圧電膜の厚み方向一表面上に少なくとも一部が積層される上部電極と、前記圧電膜の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される下部電極とを含んで構成され、前記基板の厚み方向一表面上に、前記基板との間に空隙を形成するように配置される共振器本体と、前記上部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第1保護膜と、前記第1保護膜と同じ材料からなり、前記下部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第2保護膜と、を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み縦振動モードを用いた圧電共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信および電気回路に用いられる電気信号の周波数の高周波化に伴い、高周波化された電気信号に対して用いられるフィルタについても高周波数に対応したものが開発されている。特に、無線通信においては2GHz近傍のマイクロ波が主流になりつつあり、また既に数GHz以上の規格策定の動きもあることから、それらの周波数に対応した高性能なフィルタが求められている。このようなフィルタとして、圧電性を示す圧電膜の厚み縦振動モードを用いた圧電共振器を用いたものが提案されている。
【0003】
圧電共振器は、SiやGaAsなどからなる基板と、基板表面上に形成される共振器本体と、基板および共振器本体で囲まれる空隙と、共振器本体を貫通し空隙と連通する貫通孔とを含んで構成される。そして、共振器本体は、圧電膜と、厚み方向の両側から圧電膜を挟む上部電極および下部電極とを含んで構成される。ここで、圧電共振器では、共振器本体を構成する圧電膜と上部電極と下部電極とが重なる部分のうち、空隙を臨む部分の内壁面によって共振部が形成されており、空隙が圧電膜の振動を可能にする共振領域であるキャビティとなっている。
【0004】
ここで、共振部を構成する各層は共振周波数等の共振特性を決定するため、その膜質等が変化することを抑制することが重要である。また、共振部への異物の付着も、共振特性を変化させるため防ぐ必要がある。以上より、共振部を保護するための保護膜を上部電極を覆うように設けた構成が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−172713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている圧電共振器では、下部電極側を保護することができず、その結果、共振部を構成する層の膜質が変質してしまう恐れがあった。これは、特に、共振部が基板上に空隙を介して配置される構成では顕著である。
【0006】
本発明は、上述の問題点を解決すべく案出されたものであり、その目的は、共振特性が変化することのない、信頼性の高い圧電共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧電共振器は、基板と、圧電膜と、前記圧電膜の厚み方向一表面上に少なくとも一部が積層される上部電極と、前記圧電膜の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される下部電極とを含んで構成され、前記基板の厚み方向一表面上に、前記基板との間に空隙を形成するように配置される共振器本体と、前記上部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第1保護膜と、前記第1保護膜と同じ材料からなり、前記下部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第2保護膜と、を含むものである。
【0008】
また、本発明の圧電共振器は、上記構成において、前記共振器本体の周縁端部における前記空隙を臨む部分の内壁面は、前記基板の厚み方向一表面とのなす角が鋭角となる傾斜面となっており、前記内壁面の前記傾斜面には、前記空隙に通じる貫通孔が設けられているものである。
【0009】
また、本発明の圧電共振器は、上記構成において、前記第1保護膜と前記第2保護膜とは、前記共振器本体の前記貫通孔に露出する面に延在し互いに接続されることで一体的に形成されているものである。
【0010】
また、本発明の圧電共振器は、上記構成において、前記傾斜面は、前記基板の厚み方向一表面とのなす角が異なる第1傾斜面と第2傾斜面とを有しているものである。
【0011】
また、本発明の圧電共振器は、上記構成において、前記貫通孔は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面との境界部を跨ぐように形成されているものである。
【0012】
また、本発明の圧電共振器は、上記構成において、前記第1保護膜と前記第2保護膜とは、酸化ケイ素からなる、ものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部環境や空隙に曝される共振器本体を構成する上部電極および下部電極を保護膜が被覆していることにより、上部電極および下部電極の変質を防ぐことができ、その結果、安定した共振特性を得ることのできる、信頼性の高い圧電共振器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の一形態である圧電共振器1の構成を示す断面図である。なお、以下の図面においても同様だが、同様の箇所には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
圧電共振器1は、基板16と、基板16の厚み方向一表面上に形成される共振器本体17と、基板16および共振器本体17で囲まれる空隙15と、共振器本体17を貫通し、空隙15と連通する貫通孔14とを含んで構成される。基板16は、圧電共振器1のベース部材である。基板16は、略直方体形状を有し、厚みが0.05〜1.0mm程度に選ばれる。基板16は、Si(シリコン)、GaAs(ガリウムヒ素)などによって形成される。
【0016】
共振器本体17は、圧電膜11と、圧電膜11の厚み方向一表面上に少なくとも一部が積層される上部電極13と、圧電膜11の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される下部電極12とを含んで構成される積層体である。
【0017】
そして、圧電共振器1では、共振器本体17を構成する圧電膜11と上部電極13と下部電極12とが重なる部分のうち、空隙15に臨む部分の内壁面によって共振部18が形成される。共振部18の設計により、圧電共振器1の共振特性が決定される。
【0018】
ここで、共振器本体17の上部電極13のうち、圧電膜11と接する面と反対の面を被覆するように第1保護膜31が、共振器本体17の下部電極12のうち、圧電膜11と接する面と反対の面を被覆するように第2保護膜32が、それぞれ設けられている。このように、第1及び第2保護膜31,32により、上部電極13および下部電極12のうち共振部18を構成する部分は外部環境に露出することなく保護されている。これにより、上部電極13および下部電極12のうち共振部18を構成する部分を、外部からの衝撃や水分の浸入による変質,付着物による共振特性の変化等から保護することができるので、信頼性の高い圧電共振器を提供することができる。
【0019】
これら第1および第2保護膜31,32は、同じ材料からなり、外部環境に対して安定した特性を有し、各電極12,13を保護することのできる材料であれば特に限定はされないが、例えば、耐衝撃性,耐薬品性の点から酸化ケイ素等を用いることが好ましい。酸化ケイ素からなるときには、保護膜が温度補償膜としても機能するため、信頼性が高く、かつ温度特性の優れた圧電共振器を提供することができる。また、その他にも、水分から保護するために、窒化ケイ素を用いたり、生産性を考慮して各種樹脂材料を用いたりすることもできる。また、多層構造としてもよい。
【0020】
次に共振器本体17を構成する各層について説明する。
【0021】
圧電膜11は、ZnO(酸化亜鉛)、AlN(窒化アルミニウム)およびPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料からなり、上部電極13および下部電極12によって印加される高周波電圧に応じて伸縮し、電気的な信号を機械的な振動に変換する機能を有する。圧電共振器1が必要な共振特性を発揮するために、圧電膜11の厚みは、圧電膜11を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、圧電膜11を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。圧電膜11の最適な厚みは、圧電共振器1を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、後述する共振部18の設計寸法、圧電膜材料、電極材料によって異なるが、例えば、0.2〜3.0μm程度に選ばれる。
【0022】
下部電極12は、圧電膜11の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される。つまり、下部電極12は、積層体である共振器本体17において最下層となり、基板16の厚み方向一表面上に形成される。下部電極12は、圧電膜11に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)、Al(アルミニウム)およびCu(銅)などの金属材料を用いて形成される。また下部電極12は、電極としての機能と同時に、後述する共振部18を構成する機能も有するので、圧電共振器1が必要な共振特性を発揮するために、その厚みは、下部電極12を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、下部電極12を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。下部電極12の最適な厚みは、圧電共振器1を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、共振部18の設計寸法、圧電膜材料、電極材料によって異なるが、0.03〜1.0μm程度に選ばれる。上部電極13は、下部電極12とともに、圧電膜11に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、下部電極12と同様に構成される。
【0023】
空隙15は、基板16と共振器本体17とで囲まれる空洞であり、圧電膜11の振動を可能にする共振領域であるキャビティとなっている。空隙15を構成する共振器本体17の内壁面は、中央部において基板16の厚み方向一表面に対して間隙を有して平行な面となる空隙平坦面15aであり、周縁端部において基板16の厚み方向一表面とのなす角が鋭角となる傾斜面15bとなるように構成されている。共振器本体17を構成する圧電膜11、上部電極13および下部電極12のそれぞれの表面は、前述した空隙15を形成する内壁面の形状に応じて、起伏が形成される。
【0024】
空隙15を形成する共振器本体17の内壁面がその周縁端部において、基板16表面とのなす角が鋭角となる傾斜面15bとなるように構成される。一方、周縁端部において基板16表面に対して垂直となるように構成される場合がある。両者を比較すると、本実施形態の構成は、より周縁端部に対応する共振器本体17の圧電膜11、上部電極13および下部電極12のそれぞれには、過大な応力の蓄積と集中が発生するのが減少でき、破損の発生を抑制することができる。
【0025】
また、本実施の形態では、空隙15を形成する共振器本体17の内壁面において、空隙平坦面15aと基板16の厚み方向一表面との間隙は、2.6〜4.0μm程度に設定され、共振器本体17の内壁面の周縁端部における傾斜面15bと基板16表面とのなす角度θは1.14°以上56.3°以下に設定される。
【0026】
圧電共振器1では、共振器本体17を構成する圧電膜11と上部電極13と下部電極12とが重なる部分のうち、空隙15に臨む部分の内壁面によって共振部18が形成される
。共振部18の厚みは、おおむねλ/2(λは使用する信号の周波数での音響波の波長)となるように設計される。共振部18の厚み方向から見た形状、すなわち平面形状は、略矩形状である。なおスプリアス抑制のために共振部18の平面形状を非対称の形状にしてもよい。本実施の形態では、共振部18は直方体形状に形成される。また共振部18の厚み方向に垂直な断面における面積は、圧電共振器1のインピーダンスを決定する要素となるので、厚みと同様に精密に設計する必要がある。50Ωのインピーダンス系で圧電共振器1を使用する場合は、共振部18の電気的なキャパシタンスが、使用する信号の周波数でおおむね50Ωのリアクタンスを持つように選ばれる。本実施の形態では、共振部18の厚み方向に垂直な断面における面積は、たとえば2GHzの圧電共振器1の場合であれば、200μm×200μm程度に選ばれる。
【0027】
圧電共振器1に設けられる貫通孔14は、共振器本体17を、基板16表面に直交する方向に貫通し、空隙15を形成する共振器本体17の傾斜面15bに開口して形成される。そして、本実施の形態では、貫通孔14の孔径は、例えば10μm程度である。このように、貫通孔14が共振器本体17の傾斜面15bに開口するように設けられているので、空隙平坦面15aに開口するように設けられる場合に比べて、貫通孔14が共振部18に与える影響が小さい。それ故、共振特性に優れた圧電共振器1とすることができる。また、共振器本体17の空隙平坦面15aに開口するように設けられる場合に比べて、孔径は同じでも、貫通孔14の空隙15側の開口面積が大きなものとなる。詳細は後述するが、圧電共振器1は、空隙15に対応する部分に形成される犠牲層を、貫通孔14を介してエッチング剤によって除去して製造される。本実施形態の圧電共振器1は、貫通孔14の空隙15側の開口面積が大きいので、エッチング剤による犠牲層除去効率が向上し、空隙15内に犠牲層の一部が残留するのが抑制されたものとなる。そのため、圧電共振器1としての共振特性が損なわれるのが抑制され、優れた共振特性を有する圧電共振器1となる。特に、空隙15に露出する下部電極12は他の共振器本体17を構成する膜に比べて、エッチング剤の残渣等による影響で変質する可能性が高い。これに対して、本実施形態では、貫通孔14の開口面積を大きくすることで、エッチング残渣等の残留を大幅に抑制するとともに、第2保護膜32により下部電極12を保護することで、二重に下部電極12の変質が抑制され、信頼性の高い圧電共振器1となる。
【0028】
次に、図2は、本発明の圧電共振器の実施形態の他の例を示す断面図である。図2に示す圧電共振器2は、図1に示す圧電共振器1とは、第1および第2保護膜31,32が共振部18の貫通孔14に露出する面を覆い、一体的に形成されている点で異なる。
【0029】
このように、第1および第2保護膜31,32が、共振部18の貫通孔14に露出する面を覆い、一体的に形成されていることから、上部及び下部電極12,13の表面だけでなく、その側面も、外部環境に露出する圧電膜11の表面および側面も被覆することができる。すなわち、圧電共振器2の共振特性を決定する共振部18全面を被覆することができるので、より信頼性の高い圧電共振器を提供することができる。
【0030】
次に、図3は、本発明の圧電共振器の実施形態の更に他の例を示す要部拡大断面図である。具体的には、図1において破線で囲む部分に相当する部分を示している。図3に示す圧電共振器は、図1に示す圧電共振器1とは、共振器本体17の傾斜面の形状が異なる。
【0031】
具体的には、本実施の形態では、2つの傾斜面である第1空隙傾斜面15cと第2空隙傾斜面15dとを有する。第1空隙傾斜面15cは、第2空隙傾斜面15dよりも基板16の厚み方向一表面側に位置し、第1空隙傾斜面15cが基板16表面となす角度θ1は、第2空隙傾斜面15dが基板16表面となす角度θ2よりも小さく設定されている。このように、共振器本体17の構成部材に対する応力集中を減少させ、破損の発生を抑制するという観点からは、共振器本体17の内壁面の周縁端部における傾斜面は、基板16の厚み方向一表面とのなす角が異なる複数の傾斜面を有することが好ましい。なお、第1空隙傾斜面15cと基板16表面とのなす角度θ1は、1.14°以上26.5°未満に設定され、第2空隙傾斜面15dと基板16表面とのなす角度θ2は、26.5°以上56.3°以下に設定される。
【0032】
また、理由については後述するが、貫通孔14は、第1空隙傾斜面15cと第2空隙傾斜面15dとの境界部を跨ぐように形成されることが好ましい。
【0033】
次に、本発明における圧電共振器の製造方法の一例について説明する。図4は、図2に示す本発明の実施の一形態である圧電共振器2の製造方法を示す工程図である。圧電共振器2の製造方法は、半導体製造技術を利用するものであり、大きくは以下のように4つの工程からなる。
【0034】
[基板準備工程]
基板準備工程では、共振器形成用基板を準備する。準備する共振器形成用基板は、基板16表面上に、犠牲層と共振器本体17とが積層されたものである。
【0035】
(a)基板16の準備および犠牲層の形成工程
圧電共振器1に用いられる基板16は、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)などからなる板状部材であり、本実施の形態では、シリコン基板を用いた例について説明する。また、犠牲層は、製造する圧電共振器2の空隙15に対応する部分であり、本実施の形態では、共振器本体17の内壁面である空隙平坦面15a、傾斜面15bおよび基板16によって囲まれて形成される空隙15に対応して、犠牲層21を基板16表面上に形成する。
【0036】
まず、図4(a)に示すように、基板16の厚み方向一表面の全面にわたって犠牲層21を形成する。犠牲層21は、SiO(二酸化ケイ素)やPSG(リンドープガラス
)からなり、単一の層でも、これらを順に積層したものでもよい。SiOからなる犠牲層21は、シリコン基板16の表面を加熱処理し、熱酸化させることで形成することができ、その厚みは、加熱処理の処理条件、加熱温度、加熱時間などにより制御することが可能であり、例えば0.1〜1.0μmに設定される。また、PSGからなる犠牲層21は、CVD(Chemical Vapor deposition)法によって形成することができ、その厚みは、CVD処理時の温度や時間などの処理条件により制御することが可能であり、例えば2.5〜3.0μmに設定される。このように比較的厚く形成しても、PSGはエッチング速度が速いため後述する犠牲層エッチング工程において比較的短時間でエッチングを行うことができる。また、犠牲層21の表面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)装置を用いて表面平滑化されてもよい。
【0037】
(b)犠牲層のパターニング工程
図4(b)に示すように、基板16の一表面の全面にわたって形成した犠牲層21を、パターニングにより空隙15に対応した形状にする。
【0038】
犠牲層21のパターニングは、半導体製造プロセスにおける酸化絶縁膜の公知のパターニング技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。パターニングの一例としては、犠牲層21上にポジレジストをスピンコートなどにより塗布し、露光、現像してレジストをパターンニングしてマスクを形成する。そののちフッ酸水溶液に浸漬して、空隙15に対応した形状を有する犠牲層21を得る。
【0039】
(c)積層体である共振器本体17の形成工程
図4(c)に示すように、空隙15に対応した形状を有する犠牲層21の上に、下部電極12、圧電膜11および上部電極13からなる共振器本体17を形成する。
【0040】
まず、基板16表面および犠牲層21表面の少なくとも一部に下部電極12を形成する。下部電極12は、スパッタリング法やCVD法などによって形成することができる。次に、基板16の厚み方向から平面視したときの全面、すなわち下部電極12表面、下部電極12が積層されていない犠牲層21表面、下部電極12および犠牲層21が積層されていない基板16表面のそれぞれを覆うように圧電膜11を形成する。圧電膜11は、スパッタリング法やCVD法などによって形成することができる。次に、圧電膜11表面の少なくとも一部に上部電極13を形成する。このとき、上部電極13は、少なくとも一部が、圧電膜11および下部電極12を介して犠牲層21と対向するように形成される。
【0041】
以上のようにして、基板準備工程では、基板16表面上に、犠牲層21、下部電極12、圧電膜11および上部電極13が積層された共振器形成用基板を準備する。
【0042】
[貫通孔形成工程]
貫通孔形成工程では、図4(d)に示すように、基板準備工程で準備した共振器形成用基板を構成する共振器本体17を、基板16表面に直交する方向に、犠牲層21の傾斜面まで到達する貫通孔14を形成する。貫通孔14の形成方法は、半導体製造プロセスにおけるビア形成技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。貫通孔14は、たとえば犠牲層21の平面形状が略正方形をなしている場合は、正方形の各頂点の近傍に、4箇所設けるようにすればよい。
【0043】
このとき、犠牲層21の傾斜面まで到達する貫通孔14を形成するので、形成された貫通孔14は、第2犠牲層22の平坦面まで貫通するように形成されたものよりも、孔径は同じでも、貫通孔14の犠牲層側の開口面積が大きなものとなる。
【0044】
[犠牲層エッチング工程]
犠牲層エッチング工程では、図4(e)に示すように、貫通孔14を介してエッチング剤によって犠牲層21を除去し、基板16と共振器本体17とで囲まれる空隙15を形成する。犠牲層21のエッチング除去は、半導体製造プロセスにおけるエッチング技術を利用することができ、犠牲層の材質に応じたエッチング剤を用いて容易に行うことができる。エッチング剤は、エッチング液またはエッチングガスで、種々のエッチング条件に応じてウェットエッチング、ドライエッチングのいずれかを選択すればよい。本実施の形態では、犠牲層21をウェットエッチングにより除去する。エッチング剤としてフッ酸水溶液をエッチング液として用い、所定の温度条件でエッチングを行う。
【0045】
このとき、前述したように、犠牲層21の傾斜面まで貫通するように形成された貫通孔14の犠牲層側の開口面積は、平坦面まで貫通するように形成された場合に比べて、孔径は同じでも、大きな開口面積となるので、貫通孔14を介してエッチング剤によって1犠牲層21を除去するときの犠牲層除去効率が向上されている。そのため、犠牲層21を効率よく完全にエッチング除去することができ、形成する空隙15内に犠牲層の一部が残留するのを抑制することができる。また、貫通孔14は、共振器本体17における周縁端部側に形成されているので、貫通孔14を流過して空隙15内に進入してきたエッチング剤には流れが生じる。このエッチング剤の空隙15内での流れによって、エッチング速度も向上する。
【0046】
[エッチング剤除去工程]
エッチング剤除去工程では、犠牲層エッチング工程において形成した空隙15内に残留するエッチング剤を、貫通孔14を介して除去する。まず、エッチング剤が残留する空隙15内に、貫通孔14を介して純水やIPA(イソプロパノール)などのリンス溶剤を充填し、これらのリンス溶剤で空隙15内部を洗浄する。空隙15内の洗浄が終了すると、乾燥機を用いてリンス溶剤を揮発させる。
【0047】
なお、犠牲層エッチング工程において、ドライエッチング法によって犠牲層をエッチング除去した場合には、エッチング剤であるエッチングガスが空隙15内から完全に排気されるように、真空排気を繰り返すようにすればよい。
【0048】
〔保護膜形成工程〕
保護膜形成工程では、図2(f)に示すように、第1および第2保護膜31,32を共振部18を覆うように形成する。具体的には、CVD法などにより上部電極13の上面および側面,下部電極12の下面および側面,貫通孔14に露出する共振部18の側面を覆い、一体的に形成する。ここで、貫通孔14は、共振器本体17における周縁端部側に形成されているので、貫通孔14を流過して空隙15内に進入してきたキャリアガスには流れが生じる。このキャリアガスの空隙15内での流れによって、下部電極12の下面側や、貫通孔14の側面などにも効率よく成膜することができる。
【0049】
以上のように、基板準備工程で基板16表面上に犠牲層21および共振器本体17が積層された共振器形成用基板を準備し、貫通孔形成工程で共振器形成用基板を構成する共振器本体17を、基板16表面に直交する方向に、犠牲層21の傾斜面まで貫通する貫通孔14を形成し、犠牲層エッチング工程で貫通孔14を介してエッチング剤によって第1犠牲層21および第2犠牲層22を除去して空隙15を形成し、エッチング剤除去工程で空隙15内に残留するエッチング剤を、貫通孔14を介してリンス溶剤によって除去し、リンス溶剤を揮発乾燥させて、保護膜形成工程で共振部18を覆う第1および第2保護膜31,32を形成することで、圧電共振器2を製造することができる。
【0050】
なお、図3に示すように、共振器本体17の傾斜面が複数の傾斜面を有する構成とする場合には、基板準備工程において、犠牲層21を材料の異なる2種類以上の層を積層させることで形成し、そのパターニング工程において、材料によるエッチング速度の違いを利用して、各層の側面の傾斜面の角度を異ならせればよい。
【0051】
さらに、図3に示すように、貫通孔14を、第1および第2傾斜面15c、dを跨ぐように形成すると、以下のような利点があるため好ましい。
【0052】
基板16表面とのなす角度が異なる傾斜面である犠牲層21の傾斜面の境界部を含む領域まで貫通するように形成された貫通孔14からは、境界部において干渉縞を視認することができる。すなわち、貫通孔14が犠牲層21に到達したときに干渉縞が顕在化される。これにより貫通孔14の底面に現れる干渉縞を確認することによって、貫通孔14が犠牲層21まで到達したことを簡単に確認することができる。従来のように平坦部分に貫通孔14を設けた場合、犠牲層に角度の異なる傾斜面がないため干渉縞が現れないか、現れたとしてもほとんど見えないため、貫通孔を目視や金属顕微鏡等により観察していても貫通孔14が犠牲層まで到達する前後でほとんど状態が変わらない。そのため、従来は貫通孔14が犠牲層まで到達したことを確認するには、大がかりな装置を用いたり、貫通孔14が犠牲層に到達する際の条件出しを行う必要があるなど圧電共振器の製造工程が複雑化し生産性向上の妨げとなっていた。また貫通孔14が犠牲層まで到達したか否かの確認作業を省いた場合や、貫通孔を形成する際の条件が変わった場合などは、貫通孔14が犠牲層まで到達していない状態でこの後に続く犠牲層のエッチングを行うことがあり、この場合は、犠牲層がうまく除去されないといった問題や犠牲層を完全に除去するのに非常に時間がかるといった問題が生じることとなる。
【0053】
これに対し貫通孔14を、第1および第2傾斜面15c、dを跨ぐように形成すると、角度の異なる犠牲層21の傾斜面の境界部を跨ぐ位置に貫通孔14を設けるようにしたことで、貫通孔14が犠牲層に到達した際に干渉縞を生じさせることができ、この干渉縞を利用することによって簡単かつ確実に貫通孔14を第2犠牲層21まで到達させることが可能となる。
【0054】
さらに境界部において顕在化する干渉縞は、犠牲層エッチング工程において、犠牲層エッチング終点をモニタする指標として利用することができる。このような干渉縞32を検出する方法としては、目視でもよいし、金属顕微鏡などの光学検出装置を用いて検出することもできる。
【0055】
なお、本願発明の圧電共振器は、上述の実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
【0056】
例えば、図1〜3では、貫通孔14は、共振器本体17の傾斜面15bに形成されている場合を例に説明したが、空隙平坦面15aに設けてもよい。また、空隙15は、共振器本体17が空隙平坦面15aを傾斜面15bが持ち上げるよう支えて、基板16に対して上に凸の形状を構成することで形成されている場合を例に説明したが、基板16に凹部を設け、それを塞ぐように平坦な共振器本体17を配置することで形成してもよいし、基板16上にスペーサー等を介して平坦な共振器本体17を配置することで形成してもよい。
【0057】
また、図1,図2,図4では、貫通孔14は、基板16の表面と直交する方向に形成された例を用いて説明したが、貫通孔14は空隙15と共振器本体17の上面とが連通するように設けられていればよく、貫通孔14の形状や角度は適宜自由に設定できる。
【0058】
また、図4において、犠牲層21上に下部電極12を成膜するための下地層を設けてもよい。その場合には、第2保護膜32と下部電極12との間に下地層が介在していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の一形態である圧電共振器の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施のほかの形態である圧電共振器の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施のさらにほかの形態である圧電共振器の構成を示す要部拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の一形態である圧電共振器1の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0060】
1 圧電共振器
11 圧電膜
12 下部電極
13 上部電極
14 貫通孔
15 空隙
15a 空隙平坦面
15b 傾斜面
15c 第1空隙傾斜面
15d 第2空隙傾斜面
16 基板
17 共振器本体
18 共振部
21 犠牲層
31 第1保護膜
32 第2保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
圧電膜と、前記圧電膜の厚み方向一表面上に少なくとも一部が積層される上部電極と、前記圧電膜の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される下部電極とを含んで構成され、前記基板の厚み方向一表面上に、前記基板との間に空隙を形成するように配置される共振器本体と、
前記上部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第1保護膜と、
前記第1保護膜と同じ材料からなり、前記下部電極の前記圧電膜と接する面と反対側の面を被覆する第2保護膜と、
を含む圧電共振器。
【請求項2】
前記共振器本体の周縁端部における前記空隙を臨む部分の内壁面は、前記基板の厚み方向一表面とのなす角が鋭角となる傾斜面となっており、
前記内壁面の前記傾斜面には、前記空隙に通じる貫通孔が設けられている、請求項1記載の圧電共振器。
【請求項3】
前記第1保護膜と前記第2保護膜とは、前記共振器本体の前記貫通孔に露出する面に延在し互いに接続されることで一体的に形成されている、請求項2記載の圧電共振器。
【請求項4】
前記傾斜面は、前記基板の厚み方向一表面とのなす角が異なる第1傾斜面と第2傾斜面とを有している請求項2または3記載の圧電共振器。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面との境界部を跨ぐように形成されている請求項4記載の圧電共振器。
【請求項6】
前記第1保護膜と前記第2保護膜とは、酸化ケイ素からなる、請求項1乃至5のいずれかに記載の圧電共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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