説明

圧電振動デバイスおよびその製造方法

【課題】環境問題に対応した気密封止構成を有し、製造コストを抑える。
【解決手段】ベース3上にキャップ4と接合するための接合領域33を設定する。そして、このベース3上の接合領域33に、接合材7を溶融して形成する(形成工程)。形成工程の後に、ベース3の所定の位置に水晶振動片2を配し、導電性接着剤8を用いてベース3に水晶振動片2を保持する(保持工程)。保持工程の後に、接合材7を介してベース3とキャップ4との接合を行なう(接合工程)。ここでいう接合工程では、ベース3の接合領域33を下方に向けて、キャップ4に対してベース3を上方から近づけて、キャップ4とベース3とを接合材7により接合し、パッケージ5の内部空間6を形成するとともに内部空間6を気密封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気密封止を必要とする電子部品の例として、水晶振動子、水晶フィルタ、水晶発振器等の圧電振動デバイスが挙げられる。これら各製品では、いずれも水晶振動片の主面に励振電極が形成され、この励振電極を外気から保護するために励振電極はパッケージにより気密封止されている。
【0003】
これら圧電振動デバイスでは、ベースとキャップとからパッケージが構成され、ベースとキャップとを接合材により接合することでパッケージの内部空間を形成するとともに内部空間を気密封止し、内部空間に圧電振動片を保持するものである。これら圧電振動デバイスは、現在、パッケージの内部空間の気密封止の向上を図るために、様々なベースとキャップとの接合方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に開示のパッケージは、水晶振動板(本明細書でいう圧電振動片)を収容する断面が凹形のセラミックパッケージ(本明細書でいうベース)と、このベースの開口部に接合する金属製のフタ(本明細書でいうキャップ)とからなる。ベースに金属層が形成され、かつ、キャップに半田層が形成されている。これら金属層および半田層を接合材として用い、これら金属層および半田層を介してベースとキャップとが接合されてパッケージが構成される。
【特許文献1】特開平11−307661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1のパッケージによれば、金属層および半田層の金属材料を接合材として用いている。特に、接合材に半田層、すなわち鉛を用いている。近年、鉛の使用は環境の面からみて好ましくなく、このパッケージは、近年の環境に対する情勢を考慮しない構成からなっている。
【0006】
また、金属材料は、製造コストの嵩む原因の一つとして挙げられており、金属材料以外の接合材が望まれている。
【0007】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、環境問題に対応した気密封止構成を有し、製造コストを抑える圧電振動デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる圧電振動デバイスの製造方法は、ベースとキャップとからパッケージが構成され、前記ベースと前記キャップとを接合材により接合することで前記パッケージの内部空間を形成するとともに前記内部空間を気密封止し、前記内部空間に圧電振動片を保持した圧電振動デバイスの製造方法において、前記ベース上に前記キャップと接合するための接合領域を設定し、前記接合材として鉛を含まないガラス材を用いて前記ベース上の前記接合領域に前記接合材を形成する形成工程と、前記形成工程の後に、前記ベースに、圧電振動片用接合材を用いて前記圧電振動片を保持する保持工程と、前記保持工程の後に、前記接合材を介して前記ベースと前記キャップとの接合を行なう接合工程と、を有し、前記接合工程では、前記ベースの前記接合領域を下方に向けて、前記キャップに対して前記ベースを上方から接合することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、前記形成工程と前記保持工程と前記接合工程とを有し、前記接合工程では、前記ベースの前記接合領域を下方に向けて、前記キャップに対して前記ベースを上方から接合するので、ベースとキャップとのそれぞれに接合材を形成してベースとキャップとの接合を行なう場合と比較して、製造コストの低減を図ることが可能となり、前記ベース側のみに前記接合材を形成した場合であっても、前記ベースと前記キャップとの接合強度の向上を図ることが可能となる。特に、前記ベースの自重により前記キャップへの前記接合材の接合強度の向上を図れる。なお、必要に応じて前記ベースに対して補助的な荷重を行ってもよい。このような補助的な荷重により効率的に前記ベースと前記キャップとの接合を行うことができる。また、本発明によれば、前記形成工程において前記キャップに前記接合材を形成しないため、前記キャップの前記ベースへの搭載位置および搭載方向に関係なく前記ベースと前記キャップとの接合を行なうことが可能となり、すなわち、前記キャップの表裏判定を行う必要がなくなり、その結果、当該圧電振動デバイスの生産性を向上させることが可能となる。
【0010】
前記方法において、前記圧電振動片用接合材として、シリコーンからなる材料を用いてもよい。
【0011】
ところで、前記接合材を介して前記ベースと前記キャップとの接合の際に、前記圧電振動片用接合材からガスが発生する。このガスは、例えば、本発明とは異なり前記キャップに前記接合材が形成している場合、前記ベースの前記接合領域に付して前記ベースと前記キャップとの接合に不具合が生じる原因となる。しかしながら、本発明では、前記圧電振動片用接合材のガスにより、前記ベースと前記キャップとの接合に不具合が生じることはない。このことは、前記ベースと前記キャップとの接合の前に前記ベースに前記接合材を形成していることに関係している。つまり、前記接合材を前記キャップではなく前記ベースに形成するので、前記ベースの前記キャップとの接合面である前記接合領域が上記した前記圧電振動片用接合材のガスによって覆われずに、前記ベースへの前記接合材の濡れ性が悪くならずに、前記ベースへの前記接合材の接合強度の低下を抑制することが可能となる。備考として、本発明では、前記接合材に鉛を含まないガラス材を用いている。この鉛を含まないガラス材の融解温度は、鉛を含んだガラス材と比べて高温であり、さらに、前記シリコーンからなる材料を用いた前記圧電振動片用接合材からガスを発生させる温度となっている。そのため、本発明では、前記接合材に鉛を含まないガラス材を用いているために生じる課題を解決している。
【0012】
前記方法において、前記形成工程において前記ベースに形成した前記接合材の一部は、前記接合工程において前記内部空間内に配してもよい。
【0013】
この場合、前記形成工程において前記ベースに形成した前記接合材の一部は、前記接合工程において前記内部空間内に配する。すなわち、前記接合工程で前記接合材を介して前記ベースに前記キャップを接合した際に前記接合材の一部が前記パッケージの前記内部空間に突出した状態となる。例えば、前記内部空間に前記接合材の一部をインナーメニスカス形成して配することが可能となる。そのため、当該圧電振動デバイスの機械的強度の向上を図ることが可能となる。この方法によれば、特に、当該圧電振動デバイスのねじれ強度の向上を図ることが可能となる。
【0014】
前記方法において、前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より少なくてもよい。
【0015】
この場合、前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より少ないので、前記接合工程にて前記ベースに前記キャップを前記接合材により接合した際に、前記内部空間内に配された前記接合材と、前記ベースに保持した前記圧電振動片の接触を防止して、前記圧電振動デバイスの特性を安定させることが可能となる。これは、特に、前記パッケージが低背化した際の前記接合材と前記圧電振動片との接触の防止に好ましい。
【0016】
前記方法において、前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より多くてもよい。
【0017】
前記圧電振動片を接合する前記圧電振動片用接合材の種類によっては、前記接合材による前記ベースと前記キャップとの接合に悪影響を与え、その結果、前記内部空間の気密性を損なうことがあるが、本発明によれば、前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より多いので、前記接合材による前記ベースと前記キャップとの接合による悪影響(前記接合材と前記圧電振動片用接合材や前記圧電振動片との接触など)を防ぎ、前記内部空間の気密性を保つことが可能となる。
【0018】
また、上記の目的を達成するため、本発明にかかる圧電振動デバイスは、上記した本発明にかかる圧電振動デバイスの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、上記した本発明にかかる圧電振動デバイスの製造方法によって製造されるので、上記した製造方法と同様の特徴的な作用効果を有する。
【0020】
前記構成において、前記内部空間の隅部に前記接合材が配されてもよい。
【0021】
この場合、前記内部空間の隅部に前記接合材が配されるので、前記接合材の形成量を少なくした状態で、当該圧電振動デバイスの機械的強度の向上を図ることが可能となり、同時に製造コストの削減を図ることが可能となる。特に、当該圧電振動デバイスの複数方向に対する強度、すなわち、ねじれ強度の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる圧電振動デバイスおよびその製造方法によれば、環境問題に対応した気密封止構成を有し、製造コストを抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施例では、圧電振動デバイスとしてATカット水晶振動子に本発明を適用した場合を示す。
【0024】
本実施例にかかるATカット水晶振動子1(以下、水晶振動子という)は、図1に示すように、平面視矩形に成形されたATカット水晶振動片2(本発明でいう圧電振動片であり、以下、水晶振動片という)と、この水晶振動片2を保持するベース3と、ベース3に保持した水晶振動片2を気密封止するためのキャップ4とからなる。
【0025】
この水晶振動子1では、図1に示すように、ベース3とキャップ4とが接合されて筐体であるパッケージ5が構成され、このパッケージ5内に内部空間6が形成される。この内部空間6のベース3上に、水晶振動片2が保持されるとともに、パッケージ5の内部空間6が気密封止されている。この際、ベース3と水晶振動片2とは、接合材7を用いて接合されている(熱処理接合)。
【0026】
次に、この水晶振動子1の各構成について説明する。
【0027】
ベース3は、図1に示すように、セラミック材料からなる平面視矩形状の一枚板の底部31と、この底部31上に積層したセラミック材料の堤部32とから構成される箱状体に形成され、これら底部31と堤部32とが断面凹状に一体的に焼成されている。また、堤部32は、底部31の上面外周に沿って成形されている。この堤部32の上面(端面)は、キャップ4との接合領域33である。この接合領域33には、キャップ4と接合するために接合材7が、例えばペースト状の接合材をスクリーン印刷技術によりパターニング形成して焼き付ける等の手法により形成されている。なお、接合材7としてガラス材を用いることでベース3とキャップ4との接合強度を向上させることができる。また、このベース3の外周には、四隅にキャスタレーション34が形成されている。そして、このベース3の表面35には、水晶振動片2の励振電極23,24(下記参照)と電気的に接続する電極パッド361,362が形成されている。これら電極パッド361,362は、それぞれに対応した接続電極(図示省略)及びキャスタレーション34を介して、ベース3の裏面37に形成される端子電極(図示省略)に電気的に接続されている。これら端子電極から外部部品や外部機器と接続される。なお、これらの電極パッド361,362、端子電極、及び接続電極は、タングステン、モリブデン等のメタライズ材料を印刷した後にベースと一体的に焼成して形成される。そして、これら電極パッド361,362、端子電極、及び接続電極のうち一部のものについては、メタライズ上部にニッケルメッキが形成され、その上部に金メッキが形成されて構成される。
【0028】
キャップ4は、図1(b)に示すように、セラミック材料からなり、平面視矩形状の一枚板に成形されている。
【0029】
接合材7の材料には、酸化ビスマスを主成分とする鉛を含まないガラス材が用いられている。具体的に、本実施例では、接合材7に、酸化ビスマス75.0〜90.0質量%と、酸化亜鉛3.0〜10.0質量%と、酸化ホウ素3.0〜10.0質量%と、酸化バリウム2.0〜5.0質量%と、酸化銅1.0〜3.0質量%とを含むガラス成分に、該ガラス成分を100質量部としたときにフィラとしてコージェライト系化合物10.0〜30.0質量部を外添加して成るガラス材を用いている。また、図1に示すように、ベース3の接合領域33すべてに対してほぼ均一の量の接合材7が形成されている。また、この接合材7の一部71は、図1に示すように、ベース3とキャップ4とにより形成された内部空間6内に配されている。ここでいう接合材7の一部71を内部空間6内に配するとは、内部空間6内に接合材7の一部71を面するだけでなく、内部空間6内に接合材7の一部71を突出させた状態のことをいう。具体的に、接合材7の一部71がベース3の堤部32に対して内部空間6側にオーバーハングされた状態なっている。図1に示すように、ベース3の堤部32全域から接合材7の一部71が、内部空間6側にオーバーハングされている。
【0030】
水晶振動片2は、図1に示すように、ATカット水晶板(図示省略)からなり、平面視矩形上の一枚板の直方体に成形されている。この水晶振動片2の両主面21,22には、それぞれ励振電極23,24と、これらの励振電極23,24を外部電極(本実施例では、ベース3の電極パッド361,362)と電気的に接続するために励振電極23,24から引き出された引出電極25,26とが形成されている。これらの励振電極23,24及び引出電極25,26は、例えば、水晶振動板側からクロム、金の順に、あるいはクロム、金、クロムの順に、あるいはクロム、銀、クロムの順に積層して形成されている。そして、水晶振動片2の引出電極25,26とベース3の電極パッド361,362とが、圧電振動片用接合材(下記する導電性接着剤8参照)により接合され、図1に示すように、水晶振動片2はベース3に片保持されている。
【0031】
水晶振動片2をベース3に接合して搭載保持するための圧電振動片用接合材として導電性接着剤8が用いている。この導電性接着剤8の材料には、複数の銀フィラを含有したシリコーンからなる材料が用いられ、導電性接着剤8を熱硬化させることで、複数の銀フィラが結合して導電性物質となる。
【0032】
次に、上記した水晶振動子1のベース3とキャップ4との接合工程について、図2を用いて説明する。
【0033】
まず、図2(a)に示すように、セラミック材料からなる平面視矩形状の一枚板の底部31上に、セラミック材料の堤部32を一体的に焼成して、箱状体のベース3を成形する。また、このベース3の成形時に、ベース3の表面35に電極パッド361,362を形成する。
【0034】
箱状体のベース3を成形した後に、ベース3上にキャップ4と接合するための接合領域33を設定する。そして、このベース3上の接合領域33に、図2(b)に示すように、接合材7を溶融して形成する。(本発明でいう形成工程)。この図2(b)に示す接合材7の一部71は、堤部32からベース3の内側(パッケージ5の筐体内方)に突出された状態となっている。すなわち、接合材7の一部71がベース3の堤部32に対して、後に形成する内部空間6側にオーバーハングされた状態なっている。なお、ここでいう形成工程は、ベース3の接合領域33以外の領域をマスク材(図示省略)により被覆して、ベース3の一端381から他端382への一方向に沿って接合材7をベース3の接合領域33にスクリーン印刷して接合材7を接合領域33に塗布する。そして、その後に接合材7を溶融して、接合材7をベース3の接合領域33に形成する。この図2(b)に示す接合工程時における接合材7のベース3への接合によれば、図2(b)に示す接合工程時にベース3の接合領域33が鉛を含まないガラス材からなる接合材7により被覆されているので、環境問題に対応した気密封止構成を有し、製造コストを抑えることができ、さらに、ベース3の接合領域33にガスやゴミなどが付着するのを防止することができ、ベース3の接合領域33にガスやゴミなどが付着することによるベース3とキャップ4との接合強度の低下を抑制することができる。また、図2(b)に示す接合工程時に接合材7をベース3に接合することで、ベース3とキャップ4との接合時までの間、ベース3をガスやゴミなどが付着しない場所に保管しなくてもよく、水晶振動子1の製造工程の自由度を増やすことができる。
【0035】
形成工程の後に、図2(c)に示すように、ベース3の所定の位置に水晶振動片2を配し、導電性接着剤8を用いてベース3に水晶振動片2を保持する(本発明でいう保持工程)。なお、ここでいう保持工程では、導電性接着剤8を熱硬化させて後に形成される内部空間6内のベース3上に水晶振動片2を保持接合する。
【0036】
保持工程の後に、接合材7を介してベース3とキャップ4との接合を行なう(本発明でいう接合工程)。ここでいう接合工程では、図2(d)に示すように、ベース3の接合領域33を下方に向けて、キャップ4に対してベース3を上方から近づける。そして、キャップ4とベース3とが接合材7を介して接した後に、図2(e)に示すように、加熱炉等を用いた焼き付け加工等の手法によりベース3とキャップ4とを接合し、パッケージ5の内部空間6を形成するとともに内部空間6を気密封止する。そして、この内部空間6に水晶振動片2を気密保持する。なお、この接合工程により、図2(e)に示すように、形成工程においてベース3に形成した接合材7の一部71が内部空間6内に配された構成となっているので、加熱時に接合材7の一部71のガラス材がキャップ4に付着して、効率的にインナーメニスカス71aを形成する。
【0037】
上記したように、本実施例によれば、形成工程と保持工程と接合工程とを有し、接合工程では、ベース3の接合領域33を下方に向けて、キャップ4に対してベース3を上方から接合するので、ベース3とキャップ4とのそれぞれに接合材7を形成してベース3とキャップ4との接合を行なう場合と比較して、製造コストの低減を図ることができ、ベース3側のみに接合材7を形成した場合であっても、ベース3とキャップ4との接合強度の低下の抑制することができる。特に、ベース3の自重によりキャップ4への接合材7の接合強度の向上を図ることができる。なお、必要に応じてベース3に対して補助的な荷重を行ってもよい。このような補助的な荷重により効率的にベース3とキャップ4との接合を行うことができる。また、本実施例によれば、形成工程においてキャップ4に接合材7を形成しないため、キャップ4のベース3への搭載位置および搭載方向に関係なくベース3とキャップ4との接合を行なうことができる。すなわち、キャップ4の表裏判定を行う必要がなくなり、その結果、水晶振動片2の生産性を向上させることができる。
【0038】
ところで、水晶振動片2を保持する導電性接着剤は溶剤等を含んでいるため、加熱時にはガスが発生する。例えば、導電性接着剤を熱硬化させる際や、アニール等の熱安定化工程、あるいは接合材7を介してベース3とキャップ4との接合の際に、導電性接着剤8からガスが発生する。このガスは、例えば、本実施例とは異なりキャップ4に接合材7が形成している場合、ベース3の接合領域33に付してベース3とキャップ4との接合に不具合が生じる原因となる。しかしながら、本実施例では、導電性接着剤8のガスにより、ベース3とキャップ4との接合に不具合が生じることはない。このことは、ベース3とキャップ4との接合の前にベース3に接合材7を形成していることに関係している。つまり、接合材7をキャップ4ではなくベース3に形成するので、ベース3のキャップ4との接合面である接合領域33が導電性接着剤8のガスによって覆われずに、ベース3への接合材7の濡れ性が悪くならずに、ベース3への接合材7の接合強度の低下を抑制することができる。また、ベース3に形成される接合材7の表面にガスが付着することはあるが、キャップ4との加熱接合時に付着したガスの影響を減少させ、キャップ4とベース3との接合強度の低下を抑制することができる。備考として、本実施例では、接合材7に鉛を含まないガラス材を用いている。この鉛を含まないガラス材の融解温度は、鉛を含んだガラス材と比べて高温であり、さらに、シリコーンからなる材料を用いた導電性接着剤8からガスを発生させる温度となっている。そのため、本実施例では、接合材7に鉛を含まないガラス材を用いているために生じる課題を解決している。
【0039】
また、本実施例では、形成工程においてベース3に形成した接合材7の一部71を内部空間6内に配する。すなわち、接合工程で接合材7を介してベース3にキャップ4を接合した際に接合材7の一部71がパッケージ5の内部空間6(箱状体のベース3の平面視筐体内方)に突出した状態となる。例えば、図1(b)に示すように、内部空間6に接合材7の一部71をインナーメニスカス形成して配することができる。そのため、水晶振動子1の機械的強度の向上を図ることができる。この方法によれば、特に、水晶振動子1のねじれ強度の向上を図ることができる。
【0040】
また、上記したように本実施例にかかる水晶振動子1は、上記した本実施例にかかる水晶振動子1の製造方法によって製造されるので、上記した製造方法と同様の特徴的な作用効果を有する。
【0041】
また、図2(b)に示す鉛を含まないガラス材からなる接合材7の一部71が、堤部32から箱状体のベース3の平面視筐体内方(パッケージ5の内部空間6)に突出された状態となっているので、環境問題に対応した気密封止構成を有し、製造コストを抑えることができ、さらに、ベース3へのキャップ4の接合強度の低下を抑制することができる。
【0042】
なお、本実施例では、図1に示す形状のベース3とキャップ4とからパッケージ5を構成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、平面視矩形上の一枚板の直方体に成形されたベースと箱状体からなり断面逆凹状に成形されたキャップとからパッケージが構成されておよい。すなわち。ベース3上の接合領域33に接合材7が形成され、この接合材7を介してキャップ4とベース3とが接合されるものであれば、ベース3とキャップ4との形状は限定されるものではなく任意に設計可能である。
【0043】
また、本実施例では、圧電振動片としてATカット水晶振動片2を用いているが、これに限定されるものではなく、音叉型水晶振動片であってもよい。
【0044】
また、本実施例では、上記した酸化ビスマスを主成分とする鉛を含まないガラス材を接合材7として用いているが、これに限定されるものではなく、鉛を含まないガラス材であれば他の材料であってもよく、例えばスズリン酸系ガラスや酸化ビスマス系ガラスや酸化バナジウム系ガラスなどであってもよい。
【0045】
また、本実施例では、上記した酸化ビスマスを主成分とする鉛を含まないガラス材を接合材7として用いている。この酸化ビスマスを主成分とする鉛を含まない接合材7とは、接合材7における酸化ビスマスの含有率が75.0質量%以上であり、鉛が元素換算(金属化合物を金属単体の質量に換算したもの)で0.1質量%以下のものをいう。
【0046】
また、本実施例では、導電性接着剤8を圧電振動片用接合材として用いているが、これに限定されるものではなく、接続バンプを圧電振動片用接合材として用いてもよい。圧電振動片用接合材として接続バンプを用いた場合、パッケージ5の小型化に好適である。
【0047】
さらに、本実施例は水晶振動片やIC等を一体的に収納した水晶発振器にも適用することができる。ICはダイボンディングやフェイスダウンボンディングに樹脂接合剤を用いるが、樹脂剤から生じるガスの悪影響を抑制することができる。
【0048】
また、本実施例では、導電性接着剤8として、シリコーンからなる材料を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、ポリイミド系やエポキシ系やウレタン系などからなる材料であってもよい。しかしながら、導電性接着剤8としてシリコーンからなる材料を用いた場合、本実施例の特徴的な作用効果がより顕著となる。
【0049】
また、本実施例では、図1(a)に示すようにベース3の接合領域33すべてに対して均一の量の接合材7が形成されているが、これに限定されるものではなく、接合材7の接合領域33への形成量は任意に設定可能である。
【0050】
例えば、図3(a)に示すように、保持工程においてベース3に保持した水晶振動片2の保持位置に近傍の接合材7の内部空間6に配する量(図3(a)に示す接合材7の一部71aの量)を、ベース3への水晶振動片2の保持位置から離反した位置の接合材7の内部空間6に配する量(図3(a)に示す接合材7の一部71bの量)より少なくしてもよい。この場合、接合工程にてベース3にキャップ4を接合材7により接合した際に、内部空間6内に配された接合材7と、ベース3に保持した水晶振動片2の接触を防止して、水晶振動子1の特性を安定させることができる。これは、特に、パッケージ5が低背化した際の接合材7と水晶振動片2との接触の防止に好ましい。
【0051】
また、例えば、図3(b)に示すように、保持工程においてベース3に保持した水晶振動片2の保持位置に近傍の接合材7の内部空間6に配する量(図3(b)に接合材7の一部71aの量)を、ベースへの水晶振動片の保持位置から離反した位置の接合材7の内部空間6に配する量(図3(b)に接合材7の一部71bの量)より多くしてもよい。水晶振動片2を接合する導電性接着剤8の種類によっては、接合材7によるベースとキャップとの接合に悪影響を与え、その結果、内部空間6の気密性を損なうことがあるが、本実施例によれば、保持工程においてベース3に保持した水晶振動片2の保持位置に近傍の接合材7の一部71aの量が、ベース3への水晶振動片2の保持位置から離反した位置の接合材7の一部71bの量より多いので、接合材7によるベース3とキャップ4との接合による悪影響(接合材7と、導電性接着剤8や水晶振動片2との接触など)を防ぎ、内部空間6の気密性を保つことができる。
【0052】
また、本実施例では、図1に示すようにベース3の接合領域33全てに対して均一の量の接合材7が形成され、ベース3に形成した接合材7の一部71が、接合工程において内部空間6内に配されているが、これに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、内部空間6の平面視隅部61(以下、隅部ともいう)に接合材7の一部71が配されてもよい。この場合、内部空間6の隅部61に接合材7が配されるので、接合材7の形成量を少なくした状態で、水晶振動子1の機械的強度の向上を図ることができ、同時に製造コストの削減を図ることができる。特に、水晶振動子1の複数方向に対する強度、すなわち、ねじれ強度の向上を図ることができる。
【0053】
また、本実施例では、図1,4に示すように、ベース3の堤部32の接合領域33全体に接合材7が形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば図5に示すように、ベース3の堤部32の接合領域33の一部331に接合材7が形成されていない水晶振動子1も本願発明の範疇である。すなわち、内部空間6の気密性を確保できるように接合材7によりベース3とキャップ4とが接合されていればよい。なお、図5に示すベース3の堤部32の接合領域33の一部331に接合材7が形成されていない状態は、接合工程においてベース3とキャップ4とを接合材7により接合している際に、水晶振動片2をベース3に保持している導電性接着剤8からガスが発生し、このガスにより接合材7が内部空間6外に押し出されることによって生じる。
【0054】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、圧電振動デバイスに適用でき、特に水晶振動子などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1(a)は、本実施例にかかる、キャップを外した状態の水晶振動子の概略平面図である。図1(b)は、図1(a)のA−A線断面図である。
【図2】図2(a)〜図2(e)は、本実施例にかかる水晶振動子のベースとキャップとの接合工程を示した工程図である。
【図3】図3(a),図3(b)は、それぞれ異なる本実施の他の例にかかる、図2(c)に示す水晶振動子のベースとキャップとの接合工程における水晶振動子の概略断面図である。
【図4】図4は、本実施の他の例にかかる、キャップを外した状態の水晶振動子の概略平面図である。
【図5】図5は、図4に示す水晶振動子の他の形態を示した図である。
【符号の説明】
【0057】
1 水晶振動子(圧電振動デバイス)
2 水晶振動片(圧電振動片)
3 ベース
33 接合領域
4 キャップ
5 パッケージ
6 内部空間
61 隅部
7 接合材
71 接合材の一部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとキャップとからパッケージが構成され、前記ベースと前記キャップとを接合材により接合することで前記パッケージの内部空間を形成するとともに前記内部空間を気密封止し、前記内部空間に圧電振動片を保持した圧電振動デバイスの製造方法において、
前記ベース上に前記キャップと接合するための接合領域を設定し、前記接合材として鉛を含まないガラス材を用いて前記ベース上の前記接合領域に前記接合材を形成する形成工程と、
前記形成工程の後に、前記ベースに、圧電振動片用接合材を用いて前記圧電振動片を保持する保持工程と、
前記保持工程の後に、前記接合材を介して前記ベースと前記キャップとの接合を行なう接合工程と、を有し、
前記接合工程では、前記ベースの前記接合領域を下方に向けて、前記キャップに対して前記ベースを上方から接合することを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記圧電振動片用接合材として、シリコーンからなる材料を用いることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記形成工程において前記ベースに形成した前記接合材の一部は、前記接合工程において前記内部空間内に配することを特徴とする請求項1または2に記載の圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より少ないことを特徴とする請求項3に記載の圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記保持工程において前記ベースに保持した前記圧電振動片の保持位置に近傍の前記接合材の前記内部空間に配する量は、前記ベースへの前記圧電振動片の保持位置から離反した位置の前記接合材の前記内部空間に配する量より多いことを特徴とする請求項3に記載の圧電振動デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれかに記載の圧電振動デバイスの製造方法によって製造されたことを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項7】
前記内部空間の隅部に前記接合材が配されたことを特徴とする請求項6に記載の圧電振動デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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