説明

圧電発音体及び電子機器

【課題】
薄型化に伴う音響特性低下を抑制することができる圧電発音体及び電子機器を提供する。
【解決手段】
携帯電話の筐体10には、複数の放音孔12が形成されている。該放音孔12が設けられている部位の内側は、圧電発音素子20を取り付けるための受部16が形成された気室14となっている。圧電発音素子20は、振動板22の両面に圧電素子24及び26を貼り合わせたバイモルフ構造となっており、前記振動板22の周縁を、前記受部16に気密に固定することによってスピーカとして作用する。このような圧電発音体の音響特性は、空気の通路,すなわち、放音孔12の側面積の総和Sと関係しており、前記総和Sを、1.5mm以上,60mm以下とすることにより、共振周波数変動と音圧低下を防止し、薄型化を実現しながら必要な音響特性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話などの電子機器及びその音響部品として用いられる圧電発音体に関し、更に具体的には、薄型化に伴う音響特性低下の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電発音体(圧電スピーカなど)は、簡易な電気音響変換手段として広く利用されており、特に近年では、携帯電話などの分野で多用されている。一般的な圧電発音体は、金属板などの振動板の表面に圧電素子を貼り合わせたユニモルフ型又はバイモルフ型の圧電発音素子をケースなどに支持し、更に、該ケースの周縁を各種機器の筐体などに固定することによりスピーカとして利用される。この際、圧電発音素子の振動が筐体に必要以上に伝達するのを防止するため、ケースの周辺は、例えば、リング状のポロン(高密度マイクロセルポリウレタンフォーム)を介して取り付けられる。このような従来技術としては、例えば、以下の特許文献1に記載された圧電音響変換装置がある。当該背景技術によれば、圧電要素が取り付けられたケースは、ゴムリング等のクッション材を介してハウジングに取り付けられることとなっている。
【特許文献1】特開平7−107594号公報(第3頁及び第1図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、以上のような背景技術では、ポロンなどのクッション材を介して実装するための、実装高さが大きくなり、一層の小型化が求められる昨今の携帯機器においては不利となる。また、通常は、前記圧電発音素子を支持体(ケースなど)に支持させたものを筐体に取り付けることから、前記支持体の高さも薄型化を妨げる要因となる。従って、前記クッション材やケースを用いずに、圧電発音素子を直接筐体に支持させるようにすれば、薄型化自体は実現できることになる。しかしながら、上述したクッション材は、前記圧電発音素子の振動が必要以上に筐体に伝達するのを防止するものであるから、圧電発音素子や、それを支持したケースを直接筐体に取り付けると、音響特性が低下してしまうという不都合がある。
【0004】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、薄型化に伴う音響特性低下を抑制することができる圧電発音体及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明の圧電発音体は、振動板の少なくとも一方の面に圧電素子を貼り合わせた圧電発音素子の周辺を、少なくとも一つ以上の放音孔を有する筐体に、該筐体内面との間に気室を設けるように振動可能に支持した圧電発音体であって、前記放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする。
【0006】
他の発明の圧電発音体は、振動板の少なくとも一方の面に圧電素子を貼り合わせた圧電発音素子の周辺を、少なくとも一つ以上の放音孔を有する筐体に、該筐体内面との間に気室を設けるように振動可能に支持した圧電発音体であって、前記圧電発音素子を、緩衝体を介さずに前記筐体に固定するとともに、前記放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする。
【0007】
主要な形態の一つは、前記気室を、前記筐体の壁の厚み内部に設けたことを特徴とする。他の形態は、前記筐体に、前記圧電発音素子の振動板の周辺を直接支持するための受部を設けること,あるいは、前記圧電発音素子を支持体によって振動可能に支持するとともに、該支持体の周辺を前記筐体に固定したことを特徴とする。他の形態は、前記支持体の主面に、少なくとも一つ以上の放音孔を設けるとともに、該放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする。更に他の形態は、前記放音孔が、略筒状であることを特徴とする。
【0008】
本発明の電子機器は、前記いずれかの圧電発音体を筐体に備えたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、振動板の少なくとも一方の面に圧電素子を貼り合わせた圧電発音素子の周辺を、少なくとも一つ以上の放音孔を有する筐体に、該筐体内面との間に気室を設けるように振動可能に支持した圧電発音体において、前記圧電発音素子を前記筐体に固定するとともに、前記放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下とすることで、共振周波数変動及び音圧低下を抑制し、必要な音響特性を確保できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
最初に、図1〜図4を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1(A)は、本実施例の主要端面図,図1(B)は筐体の放音孔を拡大して示す図である。本実施例は、本発明の圧電発音体を、携帯電話のスピーカとして適用したものである。図1に示すように、携帯電話の筐体10には、複数の放音孔12が設けられている。また、該放音孔12が設けられている部位の内側は、圧電発音素子20を取り付けるための受部16が形成された気室14となっている。このような筐体10の材質としては、例えば、厚さ1〜2mm程度のアルミニウムなどが用いられる。
【0012】
前記圧電発音素子20は、金属などの振動板22の両面に、圧電素子24及び26を貼り合わせたバイモルフ型であって、前記圧電素子24及び26は、圧電体と電極層を交互に重ね合わせた積層構造となっている。なお、図示の例では、バイモルフ型としたが、振動板22のいずれか一方の面に圧電素子24又は26を設けたユニモルフ型としてもよい。このような圧電発音素子20は、振動板22の周辺を、前記筐体10の受部16に接着剤18などの適宜手段を利用して貼り合わせることによって気密に固定される。このとき、振動板22の表面と気室14の上面との間隔Iは、圧電発音素子20の厚み方向の振幅に近くなるように、例えば、850μm以下,好ましくは、300μm以下となるように設定する。なお、上述した圧電体,電極層,接着剤としては、公知の各種のものが適用可能である。
【0013】
一方、圧電発音体においては、その音響特性は、空気の流れと接触する面積,すなわち、放音孔12の側面積との関連が重要となる。従って、前記放音孔12の側面積を適切な値となるように規定することにより、必要とする音響特性が得られると考えられる。本実施例では、放音孔12が複数設けられているため、それらの側面積の総和Sが音響特性に与える影響を検討する。なお、側面積の総和Sは、筐体10の厚み、放音孔12の径,放音孔12の数によって決定されるものである。以下、前記側面積の総和Sと、音圧,共振周波数f,Q値(共振周波数近傍で3dB上昇したときの周波数差の逆数)との関係について順に説明する。なお、ここでは、振動板22の可動部の径D,すなわち、図1(A)の断面における受部16間の距離を、18mm,21mm,23mmとした3種類の試作品について各特性値の測定を行った。
【0014】
図2は、放音孔12の側面積の総和Sと音圧の関係を示す図であり、横軸は、側面積の総和S(mm),縦軸は音圧(dB)をそれぞれ表している。なお、横軸は、対数目盛となっている。図2に示すように、放音孔12の側面積の総和Sが大きいほど音圧は高くなる。必要とする音響特性条件が、音圧(SPL:Sound Pressure Level)が90dB以上であることを考慮すると、いずれの径Dにおいても、側面積の総和Sが約0.3mm以上であればよいことがわかる。なお、放音孔12の側面積の総和Sと、振動板の可動部の径Dの積をとり、各音響特性を比較すると、可動部の径Dによらず一致することが確認されている。
【0015】
図3は、前記側面積の総和Sと共振周波数fの関係を示す図であり、横軸は、側面積の総和S(mm),縦軸は共振周波数f(Hz)である。横軸は、対数目盛である。図3に示すように、放音孔12の側面積の総和Sが小さいほど、共振周波数fが高周波側へ推移することが確認される。必要とする音響特性条件が、共振周波数fが1000Hz以上であることを考慮すると、いずれの径Dにおいても、側面積の総和Sが1.5mm以上であればよいことが分かる。
【0016】
図4は、前記側面積の総和SとQ値の関係を示す図であり、横軸は、側面積の総和S(mm2),縦軸はQ値(共振周波数近傍で3dB上昇したときの周波数差の逆数)(dB/Hz)である。横軸は、対数目盛である。図4に示すように、放音孔12の側面積の総和Sが小さいほど、Q値が低くなることが確認される。必要とする音響特性条件として、Q値が0.005以下であることを考慮すると、いずれの径Dにおいても、側面積の総和Sが60mm以下であればよいことがわかる。
【0017】
以上の結果をまとめると、側面積の総和Sは、
(1)音圧の観点から考慮すると、0.3mm以上,
(2)共振周波数の観点から考慮すると、1.5mm以上,
(3)Q値の観点から考慮すると、60mm以下,
であればよいことが分かる。従って、側面積の総和Sは、共振周波数により下限が決定され、Q値によって上限が決定されることから、1.5mm≦側面積の総和S≦60mmを満たすようにすると、必要な音響特性を確保することができる。筐体10の厚み,放音孔12の数,放音孔12の径などを調整することにより、側面積の総和Sを上述した範囲内に設定することが可能となる。
【0018】
このように、実施例1によれば、振動板22の両面に圧電素子24及び26を貼り合わせた圧電発音素子20を、緩衝体(クッション材)を介さずに筐体10に固定するとともに、前記筐体10に形成された放音孔12の側面積の総和Sが、1.5mm以上,60mm以下となるように設定することとしたので、実装時の薄型化を実現しながら、共振周波数変動及び音圧低下を抑制し、必要な音響特性を確保できるという効果がある。
【0019】
更に、
(1)側面積の総和Sを7mm以上とすると、100dB以上の高い音圧を得ることができるとともに、共振周波数も800Hz台に抑えることができる。
(2)側面積の総和Sを15mm以下とすると、Q値を0.004以下とすることができる。従って、より好ましいSの範囲は、
(1)7mm≦側面積の総和S≦60mm
(2)1.5mm≦側面積の総和S≦15mm
(3)7mm≦側面積の総和S≦15mm
となる。
【0020】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状・大きさ・材料は一例であり、側面積の総和Sが上述した範囲内に設定されていれば、必要に応じて適宜変更してよい。
【0021】
(2)上述した実施例1では、圧電発音素子20の振動板22を、直接、筐体10に取り付けることとしたが、図5(A)に示す例のように、段差状の受部32を備えた支持体30に圧電発音素子20を取り付けてモジュール34を作製し、該モジュール34の周辺を筐体10の内側に取り付けるようにしてもよい。この場合は、背景技術と比べて、ポロンなどの緩衝材の厚みの分だけ薄型化が実現できる。また、支持体30の底面に、上述した実施例1の放音孔12と同様に側面積が規定された放音孔36を設けるようにしてもよい。更に、前記実施例では、気室14に段差状の受部16を設けることとしたが、これも一例であり、図5(D)に示す例のように、気室14の周縁に、振動板22の周辺を接着剤18などで直接固定するようにしてもよい。
【0022】
(3)放音孔12の数や配置も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。また、前記実施例1では、放音孔12を略筒状としたが、図5(B)に示す放音孔12Aのように、筐体10の外側へ向けて径が大きくなるようにしてもよいし、図5(C)に示す放音孔12Bのように、筐体10の内側へ向けて径が大きくなるようなものでもよい。実際は、製造方法の関係で、図5(B)や(C)に示すようなテーパが形成されることが多いと考えられる。いずれにしても、多少の傾斜であれば、放音孔の側面積の総和が上述した範囲を満たすものであれば、前記実施例1と同様の効果が得られると考えられる。
【0023】
(4)前記実施例の圧電発音素子20も一例であり、ユニモルフ型としてもよい。また、圧電素子24や26における圧電体と電極層の積層数も任意であり、必要に応じて適宜増減してよい。
(5)本発明の圧電発音体の用途も一例であり、各種の電子音響機器,通信機器,電子機器や、それらの部品として適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、圧電発音素子を筐体に取り付けるとともに、前記筐体に形成する少なくとも一つ以上の放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下に設定して、共振周波数変動と音圧低下を抑制し、必要な音響特性を確保することとしたので、圧電発音体の用途に適用できる。特に、実装時の薄型化が必要とされる各種携帯機器などの電子機器やその部品の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1を示す図であり、(A)は本実施例の主要端面図,(B)は筐体の放音孔を拡大して示す斜視図である。
【図2】前記実施例1の放音孔側面積の総和と音圧の関係を示す図である。
【図3】前記実施例1の放音孔側面積の総和と共振周波数の関係を示す図である。
【図4】前記実施例1の放音孔側面積の総和とQ値の関係を示す図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10:筐体
12,12A,12B:放音孔
14:気室
16:受部
18:接着剤
20:圧電発音体
22:振動板
24,26:圧電素子
30:支持体
32:受部
34:モジュール
36:放音孔
D:振動板の可動部の径
I:振動板と筐体間の距離
S:放音孔の側面積の総和

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の少なくとも一方の面に圧電素子を貼り合わせた圧電発音素子の周辺を、少なくとも一つ以上の放音孔を有する筐体に、該筐体内面との間に気室を設けるように振動可能に支持した圧電発音体であって、
前記放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする圧電発音体。
【請求項2】
振動板の少なくとも一方の面に圧電素子を貼り合わせた圧電発音素子の周辺を、少なくとも一つ以上の放音孔を有する筐体に、該筐体内面との間に気室を設けるように振動可能に支持した圧電発音体であって、
前記圧電発音素子を、緩衝体を介さずに前記筐体に固定するとともに、
前記放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする圧電発音体。
【請求項3】
前記気室を、前記筐体の壁の厚み内部に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の圧電発音体。
【請求項4】
前記筐体に、前記圧電発音素子の振動板の周辺を直接支持するための受部を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧電発音体。
【請求項5】
前記圧電発音素子を支持体によって振動可能に支持するとともに、該支持体の周辺を前記筐体に固定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧電発音体。
【請求項6】
前記支持体の主面に、少なくとも一つ以上の放音孔を設けるとともに、該放音孔の側面積の総和を、1.5mm以上、60mm以下としたことを特徴とする請求項5記載の圧電発音体。
【請求項7】
前記放音孔が、略筒状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の圧電発音体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の圧電発音体を筐体に備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−165701(P2006−165701A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350467(P2004−350467)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】