説明

圧電素子、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、および液体噴射装置

【課題】電極への応力を低減した信頼性の高い圧電素子を提供する。
【解決手段】第1電極20と、第1電極20の上方および側方に形成された第1圧電体層30と、第1圧電体層30の側面を覆って形成された多孔質体層50と、第1圧電体層30および前記多孔質体層50の上方に形成された第2電極40と、を含み、多孔質体層50は、第1圧電体層30を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、および液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電圧印加によりその形状を変化させる特性を有する素子であり、圧電体を電極で挟んだ構造を有する。圧電素子は、例えばインクジェットプリンターの液体噴射ヘッド部分や、各種アクチュエーターなど多様な用途に用いられている。
【0003】
圧電素子は、水分が圧電体に接触すると、例えば、2つの電極間に生じる漏れ電流が増加し、圧電素子の信頼性が低下することがある。圧電体と水分との接触を防ぐ方法としては、例えば、圧電体を上部電極で覆う構造が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−172878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電体を上部電極で覆う構造では、圧電体の側面と基板(例えば振動板)の上面との接続部分に応力が集中し、該接続部分を覆う上部電極にクラックが発生することがあった。その結果、圧電素子の信頼性が低下することがあった。
【0006】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、信頼性の高い圧電素子を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記圧電素子を含む圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、および液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る圧電素子は、
第1電極と、
前記第1電極の上方および側方に形成された第1圧電体層と、
前記第1圧電体層の側面を覆って形成された多孔質体層と、
前記第1圧電体層および前記多孔質体層の上方に形成された第2電極と、
を含み、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する。
【0008】
このような圧電素子によれば、第1圧電体層の側面と基板の上面との接続部分を、第2電極は覆っておらず、第2電極にクラックが生じることを防止することができる。したがって、このような圧電素子は、高い信頼性を有することができる。
【0009】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0010】
本発明に係る圧電素子において、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層に近づくにつれて、密度が大きくなることができる。
【0011】
このような圧電素子によれば、例えば基板が振動板を有する場合、振動板の変位しやすさは、第1圧電体層に近づくにつれて徐々に変化することができる。そのため、基板(振動板)の応力集中を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る圧電素子において、
前記多孔質体層と前記第2電極との間に形成された絶縁層を、さらに含むことができる。
【0013】
このような圧電素子によれば、第2電極の平坦性を高めることができ、例えば、第2電極の水分バリア機能を高めることができる。
【0014】
本発明に係る圧電素子において、
前記絶縁層のヤング率は、前記第2電極のヤング率より小さいことができる。
【0015】
このような圧電素子によれば、絶縁層の例えば角部を覆う第2電極に応力が集中することを抑制することができる。
【0016】
本発明に係る圧電素子において、
前記絶縁層の側面は、前記第1圧電体層の上面に対して、傾斜していることができる。
【0017】
このような圧電素子によれば、絶縁層の例えば角部を覆う第2電極に応力が集中することを抑制することができる。
【0018】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1圧電体層および前記多孔質体層と、前記第2電極との間に形成された第2圧電体層を、さらに含むことができる。
【0019】
このような圧電素子によれば、第2電極の平坦性を高めることができ、例えば、第2電極への応力を低減することができる。また、第2圧電体層は水分バリア層として機能することができ、高い信頼性を有することができる。
【0020】
本発明に係る圧電素子において、
前記第2圧電体層の材質は、前記第1圧電体層と同一であることができる。
【0021】
このような圧電素子によれば、前記1圧電体層と、前記第2圧電体層との結晶性の相違を低減し、高い信頼性を有することができる。
【0022】
本発明に係る圧電素子において、
前記多孔質体層の下方に、第3圧電体層を、さらに含むことができる。
【0023】
このような圧電素子によれば、第3圧電体層は、前記多孔質体層と、基板との密着層として機能することができる。
【0024】
本発明に係る圧電素子において、
前記第3圧電体層の材質は、前記第1圧電体層と同一であることができる。
【0025】
このような圧電素子によれば、前記第1圧電体層と、前記第3圧電体層との結晶性の相違を低減し、高い信頼性を有することができる。
【0026】
本発明に係る圧電素子は、
第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された第1圧電体層と、
前記第1電極の側面と前記第1電極の上面とによって形成された角部、および前記第1圧電体層の側面を覆って形成された多孔質体層と、
前記第1圧電体層の上方に形成された第3電極(以下「下側第2電極」という)と、
前記下側第2電極および前記多孔質体層の上方に形成され、前記下側第2電極と電気的に接続された第2電極(以下「上側第2電極」という)と、
を含み、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する。
【0027】
このような圧電素子によれば、第1電極の角部の電解集中による第1圧電体層の破壊を抑制することができる。
【0028】
なお、本発明に係る記載では、「電気的に接続」という文言を、例えば、「特定の部材(以下「C部材」という)に「電気的に接続」された他の特定の部材(以下「D部材」という)」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、C部材とD部材とが、直接接して電気的に接続されているような場合と、C部材とD部材とが、他の部材を介して電気的に接続されているような場合とが含まれるものとして、「電気的に接続」という文言を用いている。
【0029】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1電極、前記第1圧電体層、および前記第2電極は、積層体をなし、
前記積層体は、複数設けられ、
複数の前記積層体は、前記第1電極の短手方向に沿って並んで配置され、
前記第1電極は、複数の前記積層体において個別電極であり、
前記第2電極は、複数の前記積層体において共通電極であり、
前記多孔質体層は、複数の前記積層体の間に形成されていることができる。
【0030】
このような圧電素子によれば、いっそう第2電極によって、第1圧電体層と水分とが接触することを抑制することができる。
【0031】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1圧電体層の材質は、チタン酸ジルコン酸鉛であることができる。
【0032】
このような圧電素子によれば、高い信頼性を有することができる。
【0033】
本発明に係る圧電アクチュエーターは、
本発明に係る圧電素子を含む。
【0034】
このような圧電アクチュエーターによれば、本発明に係る圧電素子を含むため、高い信頼性を有することができる。
【0035】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
本発明に係る圧電アクチュエーターと、
液体を吐出するノズル孔に連通した圧力室と、
を含み、
前記第1電極の短手方向に沿う前記圧力室の幅は、前記短手方向に沿う前記第1圧電体層の幅よりも大きく、
前記多孔質体層の少なくとも一部は、前記圧力室の上方に位置している。
【0036】
このような液体噴射ヘッドによれば、本発明に係る圧電アクチュエーターを含むため、高い信頼性を有することができる。
【0037】
本発明に係る液体噴射装置は、
本発明に係る液体噴射ヘッドを含む。
【0038】
このような液体噴射装置によれば、本発明に係る液体噴射ヘッドを含むため、高い信頼性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】第1実施形態に係る圧電素子を模式的に示す平面図。
【図3】第1実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】第1実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】第1実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】第1実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】第1実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】第2実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図9】第2実施形態に係る圧電素子を模式的に示す平面図。
【図10】第2実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図11】第2実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図12】第3実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図13】第3実施形態に係る圧電素子を模式的に示す平面図。
【図14】第3実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図15】第4実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図16】第4実施形態に係る圧電素子を模式的に示す平面図。
【図17】本実施形態に係る実験例のSEM観察結果。
【図18】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図19】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図20】本実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0041】
1. 圧電素子
1.1. 第1実施形態
1.1.1. 圧電素子
まず、第1実施形態に係る圧電素子について、図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る圧電素子100を模式的に示す断面図である。図2は、第1実施形態に係る圧電素子100を模式的に示す平面図である。なお、図1(A)は、図2のA−A線断面図であり、図1(B)は、図2のB−B線断面図である。
【0042】
圧電素子100は、図1および図2に示すように、基板1上に形成され、積層体10と、多孔質体層50と、絶縁層60と、配線層42と、を含むことができる。積層体10は、第1電極20と、第1圧電体層30と、第2電極40と、を含むことができる。
【0043】
基板1は、例えば、半導体、絶縁体で形成された平板である。基板1は、単層であっても、複数の層が積層された構造であってもよい。基板1は、上面が平面的な形状であれば内部の構造は限定されず、例えば、内部に空間等が形成された構造であってもよい。例えば、後述する液体噴射ヘッドのように、基板1の下方に圧力室等が形成されているような場合においては、基板1より下方に形成される複数の構成をまとめて一つの基板1とみなしてもよい。
【0044】
基板1は、例えば、可撓性を有し、第1圧電体層30の動作によって変形(屈曲)することのできる振動板を有していてもよい。この場合、圧電素子100は、振動板を含む圧電アクチュエーター102となる。圧電アクチュエーター102を液体噴射ヘッドに使用する場合、基板1(振動板)のたわみによって、圧力室の容積を変化させることができる。基板1が振動板を有する場合は、振動板の材質としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、窒化シリコン、酸化シリコンなどの無機酸化物、ステンレス鋼などの合金が挙げられる。振動板は、これら例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0045】
なお、基板1が振動板を有しておらず、第1電極20が振動板であってもよい。すなわち、第1電極20は、第1圧電体層30に電圧を印加するための一方の電極としての機能と、第1圧電体層30の動作によって変形することのできる振動板としての機能と、を有していてもよい。この場合においても、圧電素子100は、圧電アクチュエーター102となることができる。
【0046】
積層体10は、基板1上に形成されている。積層体10は、例えば複数設けられており、図1(A)および図2に示す例では3つ設けられているが、その数は特に限定されない。複数の積層体10は、互いに離間して設けられており、図2に示すように平面視において、第1方向(例えば、第1電極20の短手方向)に並んで配置されていてもよい。例えば、第1方向を、第1電極20の併設方向ということもできる。
【0047】
第1電極20は、基板1上に形成されている。図示はしないが、第1電極20と基板1との間には、例えば、両者の密着性を付与する層や、強度や導電性を付与する層が形成されてもよい。このような層の例としては、例えば、チタン、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属からなる層や、それらの酸化物からなる層を例示することができる。
【0048】
第1電極20の形状は、例えば、層状または薄膜状の形状である。第1電極20の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下である。第1電極20の平面形状は、第2電極40が対向して配置されたときに両者の間に第1圧電体層30を配置できる形状であれば、特に限定されないが、図2に示す例では長辺(長手方向の辺)と短辺(短手方向の辺)とを有する長方形である。したがって、図1(A)は、第1電極20の短手方向における断面図ともいえ、図1(B)は、第1電極20の長手方向における断面図ともいえる。
【0049】
第1電極20の材質としては、例えば、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムとの複合酸化物(SrRuO:SRO)、ランタンとニッケルとの複合酸化物(LaNiO:LNO)などを例示することができる。第1電極20は、これら例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0050】
第1電極20の機能の一つとしては、第2電極40と一対になって、第1圧電体層30に電圧を印加するための一方の電極(例えば、第1圧電体層30の下方に形成された下部電極)となることが挙げられる。第1電極20は、図1(A)および図2に示すように、複数の積層体10において個別電極であってもよい。より具体的には、複数の積層体10のうちの第1積層体12の第1電極20と、複数の積層体10のうちの第2積層体14の第1電極20とは、電気的に分離していてもよい。
【0051】
第1圧電体層30は、図1(A)に示すように、第1電極20上および第1電極20の側方に形成されている。第1圧電体層30の厚さは、例えば、300nm以上3000nm以下である。
【0052】
第1圧電体層30は、圧電材料によって形成される。そのため第1圧電体層30は、第1電極20および第2電極40によって電圧が印加されることで変形することができる。圧電素子100が圧電アクチュエーター102である場合は、この変形により振動板は変形(屈曲)することができる。
【0053】
第1圧電体層30の材質としては、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物(たとえば、Aは、Pbを含み、Bは、ZrおよびTiを含む。)が好適である。このような材料の具体例としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO)などが挙げられる。
【0054】
図1(A)に示す例では、第1圧電体層30の側面32は、基板1の上面2に対して傾斜しているが、特に限定されず、上面2に対してほぼ垂直に形成されていてもよい。また、第1圧電体層30の側面32は、微細な凹凸形状を有していてもよい。
【0055】
第2電極40は、第1圧電体層30上に形成されている。第2電極40は、第1電極20と対向して配置されている。第2電極40の形状は、例えば、層状または薄膜状の形状である。第2電極40の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下である。第2電極40の平面形状は、第1電極20に対向して配置されたときに両者の間に第1圧電体層30を配置できる形状であれば、特に限定されない。
【0056】
第2電極40の材質は、例えば、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムとの複合酸化物(SrRuO:SRO)、ランタンとニッケルとの複合酸化物(LaNiO:LNO)などを例示することができる。第2電極40は、これら例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0057】
第2電極40の機能の一つとしては、第1電極20と一対になって、第1圧電体層30に電圧を印加するための他方の電極(例えば、第1圧電体層30の上方に形成された上部電極)となることが挙げられる。第2電極40は、図1(A)および図2に示すように、複数の積層体10において共通電極であってもよい。より具体的には、第1積層体12の第2電極40と、第2積層体14の第2電極40とは、電気的に接続されていてもよい。図1に示す例では、第1積層体12の第2電極40と、第2積層体14の第2電極40とは、共通電極として一体的に形成されている。
【0058】
多孔質体層50は、図1(A)に示すように、基板1の上方であって、第1圧電体層30の側面32を覆って形成されている。多孔質体層50は、基板1の上面2および第1圧電体層30の側面32に接して形成されていてもよい。図1(A)に示す例では、多孔質体層50は、複数の積層体10の間に形成されている。より具体的には、多孔質体層50は、第1積層体12と、第1積層体12と隣り合う第2積層体14との間に形成されている。多孔質体層50の上面52は、例えば、第1圧電体層30の上面34と面一である。
【0059】
多孔質体層50の材質は、第1圧電体層30を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する。第1圧電体層30の材質がチタン酸ジルコン酸鉛である場合、多孔質体層50の材質は、例えば、鉛を主成分とする金属元素を含んだ酸化物である。多孔質体層50は、多数の微細な孔を有することができる。そのため、多孔質体層50の密度は、第1圧電体層30の密度より小さい。多孔質体層50は、積層体10に近づくにつれて、その密度が大きくなってもよい。
【0060】
絶縁層60は、多孔質体層50上に形成されている。図1(A)に示す例では、さらに、絶縁層60は、第1圧電体層30の上方の一部にも形成されている。絶縁層60の側面62は、図1(A)に示すように、第1圧電体層30の上面34に対して、傾斜していてもよい。すなわち、絶縁層60の幅(絶縁層60の厚み方向と直交する方向の大きさ)は、上方に向かうに連れて小さくなっていてもよい。
【0061】
絶縁層60の厚みは、例えば、50nm以上500nm以下である。絶縁層60のヤング率は、第2電極40のヤング率より小さくてもよい。すなわち、絶縁層60の材質は、第2電極40の材質よりやわらかくてもよい。絶縁層60の材質としては、例えば、感光性ポリイミド、感光性サイクロテン(BCB)を挙げることができる。
【0062】
絶縁層60上(多孔質体層50の上方)には、第2電極40が形成されていることができる。これにより、上述のように、複数の積層体10において、第2電極40を共通電極とすることができる。
【0063】
配線層42は、図1(B)に示すように、第1圧電体層30(より具体的には、電極20,40に挟まれていない部分の第1圧電体層30)に設けられたコンタクトホール36内に形成されている。配線層42は、例えば、第1電極20と電気的に接続されている。これにより、配線層42を介して、第1電極20に電界を印加することができる。配線層42の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下である。配線層42の材質は、例えば、第2電極40の材質と同じである。
【0064】
第1実施形態に係る圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0065】
圧電素子100によれば、第1圧電体層30の側面32を覆って多孔質体層50が形成されている。そのため、圧電素子100では、第1圧電体層30の側面32と基板1の上面2との接続部分を、第2電極40は覆っておらず、第2電極40にクラックが生じることを防止することができる。したがって、圧電素子100は、高い信頼性を有することができる。仮に、多孔質体層50にクラックが生じる場合があったとしても、多孔質体層50は、もともと多孔質であるため、圧電素子100の信頼性に与える影響は小さいといえる。さらに、圧電素子100では、第1圧電体層30および多孔質体層50の上方には第2電極40が形成されており、第2電極40によって、第1圧電体層30が水分と接触することを防止することができる。さらに、圧電素子100では、基板1上に形成されているのが多孔質体層50であるため、例えば基板1が振動板を有する場合、振動板の変位を妨げることを抑制することができる。仮に、基板上に形成されているのが圧電体と同程度の密度を有する物質である場合、該物質によって振動板の変位が妨げられることがある。
【0066】
圧電素子100によれば、多孔質体層50は、第1圧電体層30に近づくにつれて密度が大きくなることができる。そのため、例えば基板1が振動板を有する場合、振動板の変位しやすさは、第1圧電体層30に近づくにつれて徐々に変化することができる。仮に、多孔質体層の密度は均一であり圧電体の密度より小さいとすると、多孔質体層と圧電体とに密度の差が生じ、多孔質体層の下の振動板と、圧電体の下の振動板と、で変位のしやすさに差が生じてしまう。その結果、振動板(基板)に応力が集中する場合がある。圧電素子100では、このような問題を回避することができる。この多孔質体層50を設けることによる特徴は、他の実施形態にも同様である。
【0067】
圧電素子100によれば、多孔質体層50上に絶縁層60が形成されており、絶縁層60上に第2電極40を形成することができる。これにより、第2電極40の平坦性を高めることができ、例えば、第2電極40の水分バリア機能を高めることができる。仮に、多孔質体層上に直接第2電極を形成すると、多孔質体層の孔に第2電極が入り、第2電極の表面が凸凹になる場合がある。その結果、第2電極の水分バリア機能が低下する場合がある。なお、絶縁層60は、水分バリア機能を有することもできる。
【0068】
圧電素子100によれば、第1圧電体層30の上面32と多孔質体層50の上面52とは、面一であり、絶縁層60のヤング率を、第2電極40のヤング率より小さくすることができる。これにより、例えば、絶縁層60の角部を覆う第2電極40に応力が集中することを抑制できる。
【0069】
圧電素子100によれば、第1圧電体層30の上面32と多孔質体層50の上面52とは、面一であり、絶縁層60の側面62は、第1圧電体層30の上面34に対して傾斜していることができる。これにより、例えば、絶縁層60の角部を覆う第2電極40に応力が集中することを抑制できる。これらの絶縁層60を設けることによる特徴は、第4実施形態でも同様である。
【0070】
圧電素子100によれば、第1電極20を個別電極とし、第2電極40を共通電極とすることができる。これにより、いっそう第2電極40によって、第1圧電体層30と水分とが接触することを抑制することができる。この第2電極40を共通電極とすることの特徴は、他の実施形態にも同様である。
【0071】
1.1.2. 圧電素子の製造方法
次に、第1実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図3〜図7は、第1実施形態に係る圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。なお、図3〜図7において、(A)は図1(A)に対応するものであり、(B)は図1(B)に対応するものである。
【0072】
図3に示すように、基板1上に、第1電極20を形成する。第1電極20は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法により第1電極層(図示せず)を成膜し、該第1電極層をパターニングすることによって形成される。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。
【0073】
図4に示すように、基板1上であって、第1電極20を覆うように、第1圧電体層30aを成膜する。第1圧電体層30aは、例えば、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法により成膜される。
【0074】
次に、第1圧電体層30a上に所望の形状を有するレジストR1を形成する。レジストR1は、公知の方法により形成される。
【0075】
図5に示すように、レジストR1をマスクとして、露出している第1圧電体層30aを例えばウェットエッチングし、多孔質体層50を形成する。該ウェットエッチングによって、第1圧電体層30の形状が決定される。エッチング液は、少なくとも第1圧電体層30aを形成する一部の材料しか溶かさない溶液を用いることができる。また、結晶粒界のように、第1圧電体層30aのきちんとした結晶になっていない部分を選択的に溶かす溶液を用いることができる。このため、第1圧電体層30aは全て除去されず、溶解しない元素を含んだ酸化物やエッチング溶液の成分と反応した反応物が残り、これによって多孔質体層50が形成される。具体的にはエッチング液としては、例えば、10%フッ酸水溶液を用いることができる。
【0076】
ウェットエッチング後に、例えば公知の方法によりレジストR1を除去する。また、ウェットエッチング後は、水洗などエッチング液に適した後処理を行うことができる。
【0077】
上記のように、ウェットエッチングによって第1圧電体層30aをエッチングすると、例えば第1圧電体層30aの結晶性に依存して第1圧電体層30の側面32の表面粗さが大きくなる(荒れる)場合がある。しかしながら、圧電素子100では、第1圧電体層30の側面32に第2電極を形成しないので、仮に側面32が荒れていたとしても、信頼性が低下するということはない。そのため、側面32の表面粗さを調整する必要がないので、プロセスマージンを大きくすることができ、歩留まりを向上させることができる。さらに、エッチング液をフッ酸水溶液などの安価なものにすることができ、低コスト化を図ることができる。さらに、例えばイオンミリングを用いて圧電体層を加工する場合に比べて、スループットを向上させることができる。
【0078】
なお、多孔質体層50は、図5(A)に示すように複数の第1圧電体層30の間と、図5(B)に示すようにコンタクトホール36となる部分と、に形成することができる。
【0079】
図6に示すように、多孔質体層50上および第1圧電体層30の一部の上に、絶縁層60を形成する。絶縁層60は、例えば、溶液塗布法で絶縁膜(図示せず)を成膜し、該絶縁膜をパターニングすることによって形成される。溶液塗布法によって成膜することにより、絶縁層60の表面の平坦性を高くすることができる。これにより、絶縁層60上に形成される第2電極40の平坦性も高くすることができる。例えば、スパッタ法などにより成膜すると、多孔質体層50の表面は微細な凹凸があるため、絶縁層60の平坦性が低くなる場合がある。
【0080】
また、絶縁膜として感光性有機材料(感光性ポリイミドや感光性サイクロテンなど)を用いた場合は、露光装置で保護膜を露光し、現像することでパターニングを行うことができる。すなわち、エッチング工程を削減することができ、低コスト化を図ることができる。露光条件や現像条件を変えることにより、絶縁層60の側面62の傾き角などを調整することができる。
【0081】
図7に示すように、例えばウェットエッチングによって、露出している多孔質体層50を除去し、コンタクトホール36を形成する。このとき、駆動部となる第1圧電体層30もエッチング液に曝される。そのため、多孔質体層50だけ選択的にエッチングできる溶液を使用することが望ましい。例えば、16%硝酸水溶液を用いると、主に多孔質体層50のみをエッチングすることができる。
【0082】
また、上記の保護膜のパターニングをドライエッチングで行った場合は、第1圧電体層30の表面(上面)もオーバーエッチングされてダメージを受ける場合がある。このような場合において、本工程のウェットエッチングによってダメージを受けた部分の第1圧電体層30の表面のみを除去することができ、特性を向上させることができる。
【0083】
なお、図示はしないが、コンタクトホール36を形成するためのレジストを別途形成し、該レジストをマスクとして圧電体層30aをパターニングして、コンタクトホール36を形成してもよい。
【0084】
図1に示すように、第1圧電体層30上および絶縁層60上に第2電極40を形成する。第2電極40は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法により第2電極層(図示せず)を成膜し、該第2電極層をパターニングすることによって形成される。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。なお、第2電極40の形成と同時に、配線層42を形成してもよい。
【0085】
以上の工程により、圧電素子100を製造することができる。
【0086】
圧電素子100の製造方法によれば、上記のとおり、ウェットエッチングによって、第1圧電体層30および多孔質体層50を形成することができるので、低コスト化やスループットの向上を図ることができる。
【0087】
1.2. 第2実施形態
1.2.1. 圧電素子
図8は、第2実施形態に係る圧電素子200を模式的に示す断面図である。図9は、第2実施形態に係る圧電素子200を模式的に示す平面図である。なお、図8(A)は、図9のA−A線断面図であり、図8(B)は、図9のB−B線断面図である。以下、第2実施形態に係る圧電素子200において、第1実施形態に係る圧電素子100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0088】
圧電素子200は、図8および図9に示すように、基板1上に形成され、積層体10と、多孔質体層50と、第2圧電体層64と、配線層42とを含むことができる。積層体10は、第1電極20と、第1圧電体層30と、第2圧電体層64と、第2電極40とを含むことができる。
【0089】
第2実施形態に係る圧電素子200が、第1実施形態に係る圧電素子100と相違する点は、図1(A)に示す絶縁層60の代わりに、図8(A)に示す第2圧電体層64を有することである。
【0090】
第2圧電体層64は、図8(A)に示すように、第1圧電体層30および多孔質体層50上に形成されている。第2圧電体層64の厚さは、例えば、50nm以上300nm以下である。
【0091】
第2圧電体層64は、圧電材料によって形成される。そのため第2圧電体層64は、第1電極20および第2電極40によって電圧が印加されることで変形することができる。
【0092】
第2圧電体層64の材質としては、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物(例えば、Aは、Pbを含み、BはZrおよびTiを含む。)が好適である。このような素材の具体例としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO)などが挙げられる。
【0093】
第2圧電体層64上には、第2電極40が形成されていることができる。これにより、複数の積層体10において、第2電極40を共通電極とすることができる。
【0094】
第2電極40の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下である。第2電極40の平面形状は、第1電極20に対向して配置されたときに両者の間に第1圧電体層30および第2圧電体層64を配置できる形状であれば、特に限定されない。
【0095】
第2実施形態に係る電圧素子200は例えば、以下の特徴を有する。
【0096】
電圧素子200によれば、第1圧電体層30および多孔質体層50の上方には第2圧電体層64が形成することができる。第2圧電体層64の上方に第2電極40を形成することで、第2電極40の平坦性を高めることができる。これにより、例えば、第2電極40への応力が低減されることができる。さらに、第1実施形態に係る絶縁層60を設けることによる特徴と、同様にして、第2電極の水分バリア機能を有することができる。また、第2圧電体層64が水分バリア機能を有することができる。
【0097】
1.2.2 圧電素子の製造方法
次に、第2実施形態に係る圧電素子200の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図3〜図5および図10〜図11は、第2実施形態に係る圧電素子200の製造工程を模式的に示す断面図である。なお、図3〜図5および図10〜図11において、(A)は図8(A)に対応するものであり、(B)は図8(B)に対応するものである。以下、第2実施形態に係る圧電素子200の製造方法において、第1実施形態に係る圧電素子100の製造方法と同様の製造方法である図3〜図5については、その詳細な説明を省略する。
【0098】
図10(A)、(B)に示すように、多孔質体層50上および第1圧電体層30上に、第2圧電体層64を形成する。第2圧電体層64は、例えば、溶液塗布法で圧電体膜(図示せず)を成膜する。溶液塗布法によって成膜することにより、第2圧電体層64の表面の平坦性を高くすることができる。スパッタ法などにより成膜すると、多孔質体層50の表面は微細な凹凸があるため、第2圧電体層64の平坦性が低くなる場合がある。また、図6(A)に示す第1実施形態の絶縁層60を形成する場合と比較して、図10(A)に示す第2圧電体層64のパターニングの工程は、省略することができる。
【0099】
図11(B)に示すようにコンタクトホール36は、図示はしないが、レジストを別途形成し、該レジストをマスクとして圧電体層30をパターニングして、形成される。
【0100】
図8に示すように、第2圧電体層64上に第2電極40を形成する。第2電極40は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法により第2電極層(図示せず)を成膜し、該第2電極層をパターニングすることによって形成される。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。なお、第2電極40の形成と同時に、配線層42を形成してもよい。
【0101】
以上の工程により、圧電素子200を製造することができる。
【0102】
なお、第2電極は電気的に共通であれば、多孔質層の上方に形成されていなくてもよい。
【0103】
1.3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る圧電素子300について、図面を参照しながら説明する。図12は、第3実施形態に係る圧電素子300を模式的に示す断面図である。図13は、第3実施形態に係る圧電素子300を模式的に示す平面図である。なお、図12(A)は、図13のA−A線断面図であり、図12(B)は、図13のB−B線断面図である。以下、第3実施形態に係る圧電素子300において、第1実施形態に係る圧電素子100および第2実施形態に係る圧電素子200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0104】
第3実施形態に係る圧電素子300は、図12(A)に示すように、多孔質体層50の下方に、第3圧電体層を有する。
【0105】
図12(A)に示すように、第3圧電体層54の上面56は、基板1の上面2に対してほぼ水平に形成されていてもよい。また、第3圧電体層54の上面56は、微細な凹凸形状を有していてもよい。
【0106】
第3圧電体層54の材質としては、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物(例えば、Aは、Pbを含み、BはZrおよびTiを含む。)が好適である。このような素材の具体例としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO)などが挙げられる。
【0107】
図14に示すように、第3圧電体層54の製造方法としては、例えば、多孔質層50を形成する際、第1圧電体層30を残すように、該ウェットエッチングの時間を調整することで形成することができる。第3圧電体層54の厚さは、例えば、50nm以上300nm以下である。
【0108】
圧電素子300によれば、第3圧電体54は多孔質体層50と基板1との密着層として機能することができ、高い信頼性を有することができる。
【0109】
1.4. 第4実施形態
第4実施形態に係る圧電素子400について、図面を参照しながら説明する。図15は、第4実施形態に係る圧電素子400を模式的に示す断面図である。図16は、第4実施形態に係る圧電素子400を模式的に示す平面図である。なお、図15(A)は、図16のA−A線断面図であり、図15(B)は、図16のB−B線断面図である。以下、第4実施形態に係る圧電素子400において、第1実施形態に係る圧電素子100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0110】
圧電素子400では、図15および図16に示すように、第2電極40は、下側第2電極440と、上側第2電極442と、を有する。
【0111】
下側第2電極440は、図15(A)に示すように、第1圧電体層30上に形成されている。下側第2電極440は、さらに、多孔質体層50上の一部に形成されていてもよい。第1積層体12の下側第2電極440と、第2積層体14の下側第2電極240とは、分離されている。下側第2電極440の材質および厚さは、例えば、第1圧電体層30との密着性、第1圧電体層30への拡散性などを考慮して選択される。より具体的には、下側第2電極440の材質としては、例えば、LNO(厚さ15nm程度)を列挙することができる。
【0112】
上側第2電極442は、下側第2電極440上および絶縁層60上に形成され、下側第2電極440と電気的に接続されている。第1積層体12の上側第2電極442と、第2積層体14の上側第2電極442とは、電気的に接続されている。図示の例では、上側第2電極442は、共通電極として一体的に形成されている。上側第2電極442の材質および厚さは、例えば、耐湿性(水分バリア性)、導電性などを考慮して選択される。より具体的には、上側第2電極442の材質としては、例えば、イリジウム(厚さ50nm程度)を列挙することができる。
【0113】
圧電素子400では、多孔質体層50は、第1電極20の側面22、および側面22と連続する第1電極20の上面24の一部を覆って形成されている。すなわち、多孔質体層50は、側面22と上面24とによって形成される角部を覆っている。
【0114】
さらに、多孔質体層50は、第1圧電体層30の側面32を覆って形成されている。多孔質体層50の一部は、図15(A)に示すように、第1電極20と下側第2電極442との間に形成されているともいえる。
【0115】
圧電素子400によれば、上記のとおり、多孔質体層50は、側面22と上面24とによって形成される角部を覆っている。これにより、第1圧電体層30は、該角部には形成されないので、例えば角部に電界集中が発生したとしても、第1圧電体層30の動作に影響を及ぼすことはない。すなわち、圧電素子400は、第1電極20の角部の電界集中による圧電体の破壊を抑制することができ、高い信頼性を有することができる。
【0116】
2. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によってなんら限定されるものではない。
【0117】
2.1. 試料の作製
シリコン基板上に、スパッタ法により、酸化シリコン(SiO)および酸化ジルコニウム(ZrO)をこの順で成膜し、基板を形成した。次に、スパッタ法によりイリジウムを成膜し、第1電極を形成した。次に、MOD法によりPZTを形成し、レジストをマスクとして、PZTをウェットエッチングして、多孔質体層および圧電体を形成した。ウェットエッチングは、10%フッ酸水溶液を用いて、2分で行った。
【0118】
2.2. SEM観察結果
図17は、上記のように作製した試料のSEM観察結果である。図17より、多孔質体層の密度は、圧電体の密度より小さいことがわる。さらに、多孔質体層は、圧電体に近づくにつれて、その密度が大きくなっていることがわかる。
【0119】
3.液体噴射ヘッド
次に、本実施形態にかかる圧電素子(圧電アクチュエーター)の用途の一例として、これらを有する液体噴射ヘッド600について、図面を参照しながら説明する。図18は、液体噴射ヘッド600の要部を模式的に示す断面図であって、図1(A)に対応するものである。図19は、液体噴射ヘッド600の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0120】
液体噴射ヘッド600は、上述の圧電素子(圧電アクチュエーター)を有することができる。以下では、基板1(上部に振動板1aを含む構造体)の上に圧電素子100が形成
され、圧電素子100と振動板1aとが圧電アクチュエーター102を構成している液体
噴射ヘッド600を例示して説明する。
【0121】
液体噴射ヘッド600は、図18および図19に示すように、ノズル孔612を有するノズル板610と、圧力室622を形成するための圧力室基板620と、圧電素子100と、を含む。さらに、液体噴射ヘッド600は、図12に示すように、筐体630を有することができる。なお、図19では、圧電素子100を簡略化して図示している。
【0122】
ノズル板610は、図18および図19に示すように、ノズル孔612を有する。ノズル孔612からは、インクが吐出されることができる。ノズル板610には、例えば、多数のノズル孔612が一列に設けられている。ノズル板620の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。
【0123】
圧力室基板620は、ノズル板610上(図19の例では下)に設けられている。圧力室基板620の材質としては、例えば、シリコンなどを例示することができる。圧力室基板620がノズル板610と振動板1aとの間の空間を区画することにより、図19に示すように、リザーバー(液体貯留部)624と、リザーバー624と連通する供給口626と、供給口626と連通する圧力室622と、が設けられている。この例では、リザーバー624と、供給口626と、圧力室622とを区別して説明するが、これらはいずれも液体の流路であって、このような流路はどのように設計されても構わない。また例えば、供給口626は、図示の例では流路の一部が狭窄された形状を有しているが、設計にしたがって任意に形成することができ、必ずしも必須の構成ではない。リザーバー624、供給口626および圧力室622は、ノズル板610と圧力室基板620と振動板1aとによって区画されている。
【0124】
リザーバー624は、外部(例えばインクカートリッジ)から、基板1に設けられた貫通孔628を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。リザーバー624内のインクは、供給口626を介して、圧力室622に供給されることができる。圧力室622は、振動板1aの変形により容積が変化する。圧力室622はノズル孔612と連通しており、圧力室622の容積が変化することによって、ノズル孔612からインク等が吐出される。なお、リザーバー624を、マニホールドと呼ぶこともできる。
【0125】
圧電素子100は、圧力室基板620上(図19の例では下)に設けられている。圧電素子100は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。振動板1aは、第1圧電体層30の動作によって変形し、圧力室622の内部圧力を適宜変化させることができる。
【0126】
図11に示す例では、第1電極30の短手方向に沿う圧力室622の幅は、第1電極30の短手方向に沿う圧電体40の幅よりも大きく、多孔質体層50の一部は、圧力室622の上方に位置している。すなわち、圧電体40の側面は、圧力室622の側面(圧力室622を区画する圧力室基板620の側面ともいえる)よりも内側に位置している。これにより、効果的に圧力室622の内部圧力を変化させることができる。
【0127】
筐体630は、図19に示すように、ノズル板610、圧力室基板620、および圧電素子100を収納することができる。筐体630の材質としては、例えば、樹脂、金属を挙げることができる。
【0128】
液体噴射ヘッド600は、上述した信頼性の高い圧電素子100を有する。したがって液体噴射ヘッド600は、高い信頼性を有することができる。
【0129】
なお、ここでは、液体噴射ヘッド600がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本実施形態の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0130】
4.液体噴射装置
次に、本実施形態にかかる液体噴射装置について、図面を参照しながら説明する。液体噴射装置は、上述の液体噴射ヘッドを有する。以下では、液体噴射装置が上述の液体噴射ヘッド600を有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図20は、本実施形態にかかる液体噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0131】
液体噴射装置700は、図20に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。液体噴射装置700は、さらに、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0132】
ヘッドユニット730は、上述した液体噴射ヘッド600から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッドおよびインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0133】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0134】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0135】
なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド600および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる液体噴射装置の例を示しているが、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッド600および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であればよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0136】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0137】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752aおよび駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0138】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0139】
液体噴射装置700は、信頼性の高い液体噴射ヘッド600を有する。したがって、液体噴射装置700は、高い信頼性を有することができる。
【0140】
なお、上記例示した液体噴射装置700は、1つの液体噴射ヘッド600を有し、この液体噴射ヘッド600によって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液体噴射ヘッドを有してもよい。液体噴射装置が複数の液体噴射ヘッドを有する場合には、複数の液体噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液体噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0141】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしての液体噴射装置700を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0142】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0143】
1 基板、1a 振動板、2 基板の上面、10 積層体、12 第1積層体、
14 第2積層体、20 第1電極、22 第1電極の側面、24 第1電極の上面、
30 第1圧電体層、 30a 第1圧電体層、32 第1圧電体層の側面、
34 第1圧電体層の上面、36 コンタクトホール、40 第2電極、
42 配線層、50 多孔質体層、52 多孔質体層の上面、54 第3圧電体層、
56 第3圧電体層の上面、60 絶縁層、62 絶縁層の側面、64 第2圧電体層、66 第2圧電体の上面、100 圧電素子、102 圧電アクチュエーター、
200 圧電素子、300 圧電素子、400 圧電素子、440 下側第2電極、
442 上側第2電極、600 液体噴射ヘッド、610 ノズル板、
612 ノズル孔、620 圧力室基板、622 圧力室、624 リザーバー、
626 供給口、628 貫通孔、630 筐体、700 液体噴射装置、
710 駆動部、720 装置本体、721 トレイ、722 排出口、
730 ヘッドユニット、731 インクカートリッジ、732 キャリッジ、
741 キャリッジモーター、742 往復動機構、743 タイミングベルト、
744 キャリッジガイド軸、750 給紙部、751 給紙モーター、
752 給紙ローラー、752a 従動ローラー、752b 駆動ローラー、
760 制御部、770 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極の上方および側方に形成された第1圧電体層と、
前記第1圧電体層の側面を覆って形成された多孔質体層と、
前記第1圧電体層および前記多孔質体層の上方に形成された第2電極と、
を含み、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層に近づくにつれて、密度が大きくなる、圧電素子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記多孔質体層と前記第2電極との間に形成された絶縁層を、さらに含む、圧電素子。
【請求項4】
請求項3において、
前記絶縁層のヤング率は、前記第2電極のヤング率より小さい、圧電素子。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記絶縁層の側面は、前記第1圧電体層の上面に対して、傾斜している、圧電素子。
【請求項6】
請求項1または2において
前記第1圧電体層および前記多孔質体層と、前記第2電極との間に形成された第2圧電体層を、さらに含む、圧電素子。
【請求項7】
請求項6において、
前記第2圧電体層の材質は、前記第1圧電体層と同一である、圧電素子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、
前記多孔質体層の下方に、第3圧電体層を、さらに含む、圧電素子。
【請求項9】
請求項8において、
前記第3圧電体層の材質は、前記第1圧電体層と同一である、圧電素子。
【請求項10】
第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された第1圧電体層と、
前記第1電極の側面と前記第1電極の上面とによって形成された角部、および前記第1圧電体層の側面を覆って形成された多孔質体層と、
前記第1圧電体層の上方に形成された第3電極と、
前記第3電極および前記多孔質体層の上方に形成され、前記第3電極と電気的に接続された第2電極と、
を含み、
前記多孔質体層は、前記第1圧電体層を構成する少なくとも一つの金属元素を含有する、圧電素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、
前記第1電極、前記第1圧電体層、および前記第2電極は、積層体をなし、
前記積層体は、複数設けられ、
複数の前記積層体は、前記第1電極の短手方向に沿って並んで配置され、
前記第1電極は、複数の前記積層体において個別電極であり、
前記第2電極は、複数の前記積層体において共通電極であり、
前記多孔質体層は、複数の前記積層体の間に形成されている、圧電素子。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、
前記第1圧電体層の材質は、チタン酸ジルコン酸鉛である、圧電素子。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の圧電素子を含む、圧電アクチュエーター。
【請求項14】
請求項13に記載の圧電アクチュエーターと、
液体を吐出するノズル孔に連通した圧力室と、
を含み、
前記第1電極の短手方向に沿う前記圧力室の幅は、前記短手方向に沿う前記第1圧電体層の幅よりも大きく、
前記多孔質体層の少なくとも一部は、前記圧力室の上方に位置している、液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求項14に記載の液体噴射ヘッドを含む、液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−33866(P2012−33866A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60616(P2011−60616)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】