説明

圧電素子駆動装置

【課題】マイグレーションの発生を十分に防止でき、しかも圧電素子のストロークを細かく制御できるようにする。
【解決手段】昇圧スイッチング回路5は電源電圧を昇圧して圧電素子4に印加する。降圧スイッチング回路7は電源電圧から負電圧を生成して圧電素子4に印加する。スイッチング素子S1は閉じることにより圧電素子4をGNDと接続する。スイッチング素子S2は閉じることにより圧電素子4を電源と接続する。PWM制御回路9は昇圧スイッチング回路5及び前記降圧スイッチング回路7にそれぞれデューティ比を可変してPWM制御信号を入力する。制御装置10はPWM制御回路9によるPWM制御信号のデューティ比を制御し、また、スイッチング素子S1,S2の開閉も制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を駆動する圧電素子駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に搭載するカメラレンズのオートフォーカス駆動用のレンズアクチュエータとして、圧電素子を使用することが知られている。
【0003】
図4は、従来の一般的な圧電素子駆動装置の概略構成を示す回路図である。この圧電素子駆動装置101は、所定の矩形波電圧を発生する任意波形発生装置102と、高圧電源を内蔵したアンプ103とからなり、任意波形発生装置102が発生する矩形波電圧をアンプ103で増幅して圧電素子104に印加することにより、圧電素子104を駆動するものである。
【特許文献1】特開2003‐158450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の従来の一般的な圧電素子駆動装置101においては、圧電素子104の電極の針状結晶の自然発生で短絡が生じる現象であるマイグレーションの発生を防止することができないという不具合がある。
【0005】
この場合に、マイナス電圧も圧電素子104に印加できるようにしてマイグレーションの発生を防止しようとすると、マイナス電圧を発生させるアンプが必要となり、回路規模が大きくなりすぎてしまうという不具合もある。
【0006】
また、圧電素子駆動装置101においては、電圧を印加しないことにより圧電素子104に延びが発生していない状態と、電圧を印加することにより圧電素子104に延びが発生した状態との2段階の状態にのみ圧電素子104を制御できるにとどまる。すなわち、圧電素子104を完全に延びきった状態ではなく、中間的な位置で圧電素子104の延びを停止させることはできない、つまり、圧電素子104のストロークを細かく制御することができないという不具合もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、比較的小型の回路によりマイグレーションの発生を十分に防止でき、しかも圧電素子のストロークを細かく制御できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電源電圧を昇圧して圧電素子に印加する昇圧スイッチング回路と、前記電源電圧から負電圧を生成して前記圧電素子に印加する降圧スイッチング回路と、前記昇圧スイッチング回路及び前記降圧スイッチング回路にそれぞれデューティ比を可変としてPWM制御信号を入力するPWM制御回路と、前記PWM制御回路による前記デューティ比を制御する制御手段と、を備えている圧電素子駆動装置である。
【0009】
この場合に、閉じることにより前記圧電素子をGNDと接続する第1スイッチング素子と、閉じることにより前記圧電素子を電源と接続する第2スイッチング素子と、をさらに備え、前記制御手段は、前記第1及び第2スイッチング素子の開閉も制御する、ようにしてもよい。
【0010】
さらに、この場合に、前記制御手段は、前記PWM制御回路により当該昇圧スイッチング回路に前記PWM制御信号を入力して前記圧電素子の電圧を昇圧する第1制御手段と、前記第1制御手段による制御に引き続いて前記第1スイッチング素子を閉じて前記圧電素子の電圧を降圧する第2制御手段と、前記第2制御手段による制御に引き続いて当該降圧スイッチング回路に前記PWM制御信号を入力して前記圧電素子を負電圧に降圧する第3制御手段と、前記第3制御手段による制御に引き続いて前記第1スイッチング素子を閉じて前記圧電素子の電圧を昇圧する第2制御手段と、を備えているようにしてもよい。
【0011】
そのうえ、前記昇圧スイッチング回路は、前記PWM制御信号により開閉する第3スイッチング素子と、前記第3スイッチング素子が閉じることにより前記電源電圧によりエネルギーを蓄積し、前記第3スイッチング素子が開くことにより蓄積された前記エネルギーを前記圧電素子に印加する第1インダクタンス素子と、を備え、前記降圧スイッチング回路は、前記PWM制御信号により開閉する第4スイッチング素子と、一端がGND側に接続され他端が前記電源電圧側及び前記圧電素子側に接続されていて、前記第3スイッチング素子が閉じることにより前記電源電圧によりエネルギーを蓄積し、前記第3スイッチング素子が開くことにより蓄積された前記エネルギーを維持しようとして前記圧電素子をディスチャージする第2インダクタンス素子と、を備えているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、昇圧スイッチング回路及び降圧スイッチング回路のオン、オフ、PWM制御回路によるデューティ比を制御することにより、圧電素子の印加電圧を図3の横軸のように制御して、圧電素子のストロークを縦軸のように変化させることができるので、圧電素子にマイナス電圧を断続的に印加することでマイグレーションの発生を防止することができる。
【0013】
この場合に、マイグレーションの発生を降圧スイッチング回路により実現することができるので、比較的小型の回路でマイグレーションの発生を防止すると共に、入力時間に起因する結晶の成長時間を短くすることによるマイグレーションの防止効果をも得ることができる。
【0014】
また、PWM制御信号のデューティ比を可変することで圧電素子のストロークを無断階に変化させることができる。
【0015】
さらに、カメラレンズのオートフォーカス駆動用のレンズアクチュエータなどとして圧電素子を使用する場合に本装置を適用すれば、圧電素子にプラス電圧からマイナス電圧まで印加することで、圧電素子のストロークを図3の縦軸のように広範囲に変化させることができる。よって、このストロークの中間位置に駆動対象となるレンズを配置すれば、既存の回路を使用して圧電素子にプラス電圧のみ、又はマイナス電圧のみを印加することにより同様のストロークを実現する場合に比べて、消費電力をほぼ半分に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である圧電素子駆動装置の概略構成を示す回路図である。
【0018】
この圧電素子駆動装置1は、低圧電源2と、低圧電源2の出力する電源電圧を昇圧し、スイッチング素子S1を介して圧電素子4に印加する昇圧スイッチング回路5と、低圧電源2の出力する電源電圧から負電圧を生成してスイッチング素子S2を介して圧電素子4に印加する降圧スイッチング回路7と、いずれも半導体スイッチで構成されるスイッチング素子S1,S2を開閉駆動するスイッチング素子駆動回路8と、昇圧スイッチング回路5及び降圧スイッチング回路7にPWM制御信号をデューティ比可変でそれぞれ入力するPWM制御回路9と、マイクロコンピュータなどで構成され、スイッチング素子駆動回路8及びPWM制御回路9を制御する制御装置10と、を備えている。
【0019】
図2は、昇圧スイッチング回路5及び降圧スイッチング回路7の具体的な回路構成例を示す回路図である。
【0020】
昇圧スイッチング回路5は、2つのコイルが接続されたインダクタンス素子L1を備えている。インダクタンス素子L1の一方のコイルは一端が低電圧電源2側に接続され、他端がGND側に接続されている。インダクタンス素子L1の他方のコイルは一端がGND側に接続され、他端がスイッチング素子S1側(圧電素子4側)に接続されている。この2つのコイルとGNDとを接続するラインにはスイッチング素子S3が介装されている。また、インダクタンス素子L1とスイッチング素子S1を接続するラインには、カソード側を圧電素子4側としてダイオードD1が介装されている。PWM制御回路9から出力されるPWM制御信号はスイッチング素子S3に印加される。
【0021】
スイッチング素子S1を閉じた状態でPWM制御信号のオンによりスイッチング素子S3を閉じると、インダクタンス素子L1には電気エネルギーが蓄積され、次にスイッチング素子S3を開くと当該蓄積された電気エネルギーにより圧電素子4に電圧が印加される。このスイッチング素子S3の1回の開閉により印加される電圧ΔVにスイッチング素子の開閉の回数を乗算した電圧Vが圧電素子4への印加電圧となり、電圧ΔVの印加で拡大する圧電素子のストロークΔlは、電圧ΔVの大きさに比例する。また、電圧ΔVの大きさはスイッチング素子S3に入力されるPWM制御信号のデューティ比に比例する。
【0022】
降圧スイッチング回路7は、一端が低電圧電源2側及びスイッチング素子S2側(圧電素子4側)に他端がGND側に接続されたインダクタンス素子L2と、低電圧電源2側とインダクタンス素子L2との間のラインに介装されたスイッチング素子S4と、インダクタンス素子L2のスイッチング素子S4側とスイッチング素子S2側とを接続するラインにアノード側を圧電素子4側として介装されたダイオードD2と、を備えている。PWM制御回路9から出力されるPWM制御信号はスイッチング素子S4に印加される。
【0023】
スイッチング素子S2を閉じた状態でPWM制御信号のオンによりスイッチング素子S4を閉じると、インダクタンス素子L2には電気エネルギーが蓄積され、次にスイッチング素子S4を開くとインダクタンス素子L2は当該電気エネルギーが蓄積された状態を維持しようとするので、圧電素子4側から電荷を引っ張ろうとして圧電素子4をディスチャージする。
【0024】
なお、図2に示す昇圧スイッチング回路5及び降圧スイッチング回路7の具体的な回路構成例は一例であって、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明の圧電素子駆動装置には様々な回路構成の昇圧スイッチング回路及び降圧スイッチング回路を適用することができる。
【0025】
次に、図1、図2に示す圧電素子駆動装置1の動作について説明する。
【0026】
図3は、圧電素子駆動装置1による圧電素子4への印加電圧と圧電素子4の1回分のストロークとの関係を示すグラフである。横軸は圧電素子4への印加電圧を示し、縦軸は圧電素子4のストロークを示している。ストロークがプラスであるときは圧電素子4に延びが発生していることを示し、ストロークがマイナスであるときは圧電素子4に縮みが発生していることを示している。
【0027】
次に、説明するPhase1〜Phase4は、圧電素子4の1回分のストロークの開始から終了までを順に分割して説明するものである。
【0028】
(1)Phase1
まず、低圧電源2からは一定の電圧Vinが供給される。制御装置10は、スイッチング素子S2,S4を開き、スイッチング素子S1を閉じる。また、スイッチング素子S3をPWM制御信号により所定の周波数で開閉動作する。これにより、昇圧スイッチング回路5から圧電素子4へ所定の電力供給が可能となり、このときの状態が図3のPhase1である。すなわち、圧電素子4への印加電圧が0、圧電素子4のストロークが0の状態から、圧電素子4への印加電圧が上昇して圧電素子4のストロークも上昇する。圧電素子4へ印加する電圧は、PWM制御信号のデューティ比で決まる。
【0029】
(2)Phase2
Phase1では、圧電素子4には既にある程度の電荷が蓄積された状態にあり、あるストロークを出力している状態にある。この後、スイッチング素子S1,S3,S4を開き、スイッチング素子S2を閉じる。これにより、圧電素子4がGNDに接続され、圧電素子4に蓄積された電荷が、スイッチング素子S2、ダイオードD2、インダクタンス素子L2を介して放出される。これがPhase2の状態である。
【0030】
(3)Phase3
Phase2の後、スイッチング素子S1,S3を開き、スイッチング素子S2を閉じた状態で、スイッチング素子S4をPWM制御信号により所定の周波数で開閉動作する。これにより、圧電素子4には、降圧スイッチング回路7によりマイナス電圧を印加することができる。よって、圧電素子4の電圧はマイナス電圧となり、圧電素子4のストロークは圧電素子4の電圧が0のときよりさらに小さくなる。このときの状態がPhase3である。圧電素子4へ印加する電圧は、PWM制御信号のデューティ比で決まる。
【0031】
(4)Phase4
Phase3により、圧電素子4は縮まっている状態にある。この状態から元のストロークが0の状態に戻すため、Phase4では、スイッチング素子S2,S3,S4を開き、スイッチング素子S1を閉じる。これにより、低圧電源2から一定のプラスの電圧Vinが供給され、圧電素子4への印加電圧が0、圧電素子4のストロークが0の状態である初期状態に戻る。
【0032】
以上説明した圧電素子駆動装置1によれば、低圧電源2の低い電源電圧を昇圧して圧電素子4に印加するので、例えば、携帯電話の端末装置に搭載されたカメラのフォーカシング機構などを、圧電素子4をアクチュエータとして駆動する場合でも、十分な電圧を圧電素子4に与えて的確に駆動することができる。
【0033】
また、1回のストロークが発生してから終了するまでの動作で、圧電素子4にはプラス電圧を印加した後にマイナス電圧も断続的に印加するようにしているので、マイグレーションの発生を抑えることができる。
【0034】
この場合に、従来の圧電素子駆動装置とは異なり、降圧スイッチング回路7により圧電素子4へのマイナス電圧の印加を実現しているので、マイグレーションの発生を抑制しつつも、回路規模の拡大を防止することができ、しかも、入力時間に起因する結晶の成長時間を短くすることによるマイグレーションの防止効果をも得ることができる。
【0035】
さらに、マイナス電圧の印加で圧電素子4が縮むので、圧電素子4の1回のストロークの範囲を拡大することができる。
【0036】
そのうえ、圧電素子4へ印加する電圧をPWM制御するので、PWM制御信号のデューティ比を変えることで圧電素子のストロークを無段階に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態にかかる圧電素子駆動装置の概略構成を説明する回路図である。
【図2】圧電素子駆動装置の昇圧スイッチング回路、降圧スイッチング回路の回路構成例を示す回路図である。
【図3】圧電素子駆動装置による圧電素子の印加電圧と発生ストロークとの関係を説明するグラフである。
【図4】従来の圧電素子駆動装置の概略構成を説明する回路図である。
【符号の説明】
【0038】
1 圧電素子駆動装置
2 低圧電源
4 圧電素子
5 昇圧スイッチング回路
7 降圧スイッチング回路
8 スイッチング素子駆動回路
9 PWM制御回路
10 制御装置
S1〜S4 スイッチング素子
L1,L2 インダクタンス素子
D1,D2 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧を昇圧して圧電素子に印加する昇圧スイッチング回路と、
前記電源電圧から負電圧を生成して前記圧電素子に印加する降圧スイッチング回路と、
前記昇圧スイッチング回路及び前記降圧スイッチング回路にそれぞれデューティ比を可変としてPWM制御信号を駆動信号として入力するPWM制御回路と、
前記PWM制御回路による前記デューティ比を制御する制御手段と、
を備えている圧電素子駆動装置。
【請求項2】
閉じることにより前記圧電素子をGNDと接続する第1スイッチング素子と、
閉じることにより前記圧電素子を電源と接続する第2スイッチング素子と、
をさらに備え、
前記制御手段は、前記第1及び第2スイッチング素子の開閉も制御する、
請求項1に記載の圧電素子駆動装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記PWM制御回路により当該昇圧スイッチング回路に前記PWM制御信号を入力して前記圧電素子の電圧を昇圧する第1制御手段と、
前記第1制御手段による制御に引き続いて前記第1スイッチング素子を閉じて前記圧電素子の電圧を降圧する第2制御手段と、
前記第2制御手段による制御に引き続いて当該降圧スイッチング回路に前記PWM制御信号を入力して前記圧電素子を負電圧に降圧する第3制御手段と、
前記第3制御手段による制御に引き続いて前記第1スイッチング素子を閉じて前記圧電素子の電圧を昇圧する第2制御手段と、
を備えている請求項2に記載の圧電素子駆動装置。
【請求項4】
前記昇圧スイッチング回路は、
前記PWM制御信号により開閉する第3スイッチング素子と、
前記第3スイッチング素子が閉じることにより前記電源電圧によりエネルギーを蓄積し、前記第3スイッチング素子が開くことにより蓄積された前記エネルギーを前記圧電素子に印加する第1インダクタンス素子と、
を備え、
前記降圧スイッチング回路は、
前記PWM制御信号により開閉する第4スイッチング素子と、
一端がGND側に接続され他端が前記電源電圧側及び前記圧電素子側に接続されていて、前記第3スイッチング素子が閉じることにより前記電源電圧によりエネルギーを蓄積し、前記第3スイッチング素子が開くことにより蓄積された前記エネルギーを維持しようとして前記圧電素子をディスチャージする第2インダクタンス素子と、
を備えている、
請求項1〜3の何れかの一項に記載の圧電素子駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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