説明

圧電超音波モーター

【課題】圧電超音波モーターの励起電圧の低下、機械的出力および信頼性の増加、モーター設計の単純化、製造コストの低減、およびモーターの構造的な取り扱いの改善を達成すること。
【解決手段】本発明は、長さLおよび高さHの圧電プレートの形の振動子、ならびに振動子に配置され、動かすべき部分の摩擦表面に対して弾性的に押し圧された1個または2個の摩擦要素を備える圧電超音波モーターに関する。本発明によれば、圧電プレートはより大きな表面に縦に展延する区画面によって2個の同一部分に分割され、これらの部分の少なくとも1個は非対称音響定在波の非対称的な発生器を含み、その起動によって非対称的な2次元定在波を発生するので、圧電プレートの長い端部面の中心に配置された摩擦要素は分割面に対して同一の傾きで運動を行い、動かすべき要素に運動エネルギーが伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアおよびロータリー圧電超音波モーターに関する。本発明は、設備技術の通常の位置決め装置ならびに精密位置決め装置の電動モーターとして利用することができる。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5,672,930号から、圧電素子が接着剤で取り付けられた金属製共鳴器を有する圧電超音波モーターが知られている。一方が金属製共鳴器および他方が圧電素子と熱膨張率が異なるため、これらのモーターでは高い機械的出力を得ることができないという欠点を有することが判明した。さらに、金属製共鳴器は受動体である。高速運動を達成するためには、比較的高い電圧によって圧電素子を励起することが必要である。これらの欠点はモーター動作の信頼性を低下させ、したがってそれらのモーターの応用分野を制限する。
【0003】
上述の圧電モーター以外に、モノリシック圧電セラミックプレートの形で音響共鳴器を備える圧電超音波モーターが主として知られており、その小さな端部面には衝撃要素が配置される。本明細書では例えば米国特許第5,453,653号または米国特許第5,616,980号について言及する。圧電セラミックプレートの大きな表面には、音響定在波発生器が配置され、これは定在波と縦波を同時に誘起する。2つの波が重なり合う結果、衝撃要素は楕円形の運動を行い、運動エネルギーを動かすべき要素に与える。
【0004】
この種のモーターでは、発生器との電気機械的結合係数の低い曲げ波がエネルギー伝搬波として用いられる欠点を有することが判明した。低い結合係数は共鳴器の励起電圧を著しく増加させ、モーターの効率低下を招き、ならびにその出力を制限する。それらのモーターでは、共鳴器のサイズを大きくすることによってモーターの機械的出力を増加させることは不可能である。圧電プレートの長さを長くすると、共鳴器の共鳴周波数が漸減的に低下し、その結果その特定の出力は低下する。例えば、Messrs Nanomotion製の標準的な超音波モーターはこの原理に基づいて作られており、共鳴器として1個だけの圧電セラミックプレートを備え、約0.4Wの機械的出力を有する。増加のためにはそれらの圧電起動器が8個まで筐体中に配置される(http://www.nanomotion.com/In2000index.htmlからの会社パンフレットを参照されたい)。この対策は駆動の構造全体をより複雑にし、その信頼性を低下させる。
【0005】
さらに、それらのモーターは、斜めに半田付けされた交差する導体による電気的接続を必要とする複雑な起動電極の系を備える。これは、超音波の使用がしばしば圧電プレートからの線を破断させるので、モーターの信頼性をさらに低下させる。
【0006】
特記すべき他の欠点は、それらのモーター構造の好ましくない取り扱いである。共鳴器またはアクチュエーターの長手軸は動かすべき要素に垂直に配置されなければならない。この配置はモーターが使用される駆動系のサイズの増加を招き、構造的な取り扱いを複雑にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記モーターの上述の欠点を全て取り除き、同時にモーターの励起電圧の低下、機械的出力および信頼性の増加、モーター設計の単純化、製造コストの低減、およびモーターの構造的な取り扱いの改善を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上に示した目的は、長さLおよび高さHを有する圧電プレートの形の振動子、ならびに振動子に配置されて動かすべき部分の摩擦表面に弾性的に押圧された1個または2個の摩擦要素を備える圧電超音波モーターにおいて、上記圧電プレートがより大きな表面に縦に展延する区画面によって2個の同一部分に分割され、これらの部分の少なくとも1個は、その起動によって非対称的な2次元定在波を発生する、非対称的音響定在波の非対称的な発生器を含み、圧電プレートの長い端部面の中心に配置された摩擦要素が分割面に対して同一の傾きで運動を行い、動かすべき要素に運動エネルギーを伝達することによって解決される。
【0009】
さらに、圧電振動子は、動かすべき部分を逆に動かすために、分割面に対して対称に配置された2個の非対称定在波の非対称発生器を含むことができ、それらの選択的な起動によって、摩擦要素の動作路と分割面間の角度はその符号を変化させ、動かすべき要素を駆動する力の方向を変化させる。
【0010】
実施形態および図面を参照して本発明を以下でさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の圧電超音波モーターは、筐体2に配置された圧電振動子1、およびその上に摩擦片4が取り付けられた、動かすべき要素3を含む(図1参照)。摩擦要素5を備える圧電振動子1は圧力要素4によって摩擦片4に対して弾性的に押し付けられる。動かすべき要素3は矢8で示した方向に動くことができるように、モーター筐体2中のベアリング7に固定される。
【0012】
図2において、項目9、10は、それぞれ振動子1の平面図および底部図である。振動子1は長さL、高さH、および幅Bの圧電プレート11として構成され、分割面12によって2個の同一部分13、14に分割される。
【0013】
分割面12は振動子長さLの中心を通り、振動子の大きな側15に垂直である。分割面12の軌跡16は振動子1上に破線で示される。圧電プレートの長い端部面17に1個または2個の摩擦要素5(図には示されない)が振動子長さLの中心に配置される。
【0014】
考えている本発明のモーターの改良において、振動子1の部分13は非対称音響波の非対称発生器18を含む。非対称発生器は分極した圧電プレート11の大表面15上に配置された励起電極19および共通電極20によって形成される。プレート11の分極は電極に垂直に行われ、例えば図1では矢で示される。
【0015】
発生器18の非対称性は分割面12に対するその非対称的な位置、およびそれが励起されると振動子に非対称的な2次元定在波が発生することに起因する。波は一次、二次、三次、またはそれ以上の次数とすることができる。振動子の長さは、高さおよび励起された波の次数に対して、L=Knの関係を有する。Kは、それぞれ圧電材料の幅または種類に依存する係数である。K=0.5÷1である。nは波の次数、n=2、3、4、…である。
【0016】
モーターのこの改良において、振動子1の部分14は、励起電極22および共通電極20を備える非対称音響波の第2の自給式非対称発生器21を含むことができる。
【0017】
図3は振動子1を備える励起源23の電気回路を示す。回路図は切換えスイッチ24を含み、それによって源23は第1発生器18または第1発生器21に電気的に接続される。
【0018】
図4は、Messrs PI Ceramic GmbH製圧電セラミック材料PIC181から作られた寸法60×26×9mmの振動子1の電気入力インピーダンスの振幅−周波数応答を示す。共鳴点25は共鳴周波数fを示し、一次の非対称定在波に一致する。
【0019】
図5は、振動子高さに対する振動子長さの比がL/H=2.25で一定であり、同様に振動子幅に対する振動子長さの比がL/B=6で一定であるとき、振動子長さLの関数としての振動子の共鳴周波数f(図4における共鳴点25)の依存性を示す。
【0020】
図6中の項目26、27、28、29は一次非対称定在波が励起される際の振動子1のプレート11の変形を示す。
【0021】
図7は、一次非対称定在波が励起された際における、圧電プレート11の長い端部面17の点での振動の振幅(項目30)ならびに動作路(項目32)を示す。
【0022】
項目33は、衝撃要素が配置される領域を明らかにする。
【0023】
図8は本発明のモーターの機能を説明する。この図には、長い端部面17の点34の動作路32ならびに摩擦要素5の点36の動作路35が示される。
【0024】
図9の項目37、38は、二次非対称定在波が励起される振動子1を示す。この場合、発生器18、21は、各々振動子部分13、14に距離L/4で配置される2個の電極19、22を含む。
【0025】
図10は、電気的励起源23を備える本発明のモーターの、振動子1の回路を示す。
【0026】
図11の項目39、40は、本発明のモーターの構成の、他の有利な改良を示し、三次定在波が振動子1に励起される。この場合、発生器18、21は、各々振動子部分13、14に互いにL/6の距離で配置される3個の励起電極19を含む。
【0027】
図12は、電気的励起源23を備える本発明のモーターのこの改良の振動子1の回路を示す。
【0028】
図13は、Messrs PI Ceramic GmbH製圧電セラミック材料PIC 181から作られた60×26×9mmの振動子寸法を有する本発明のモーターの最も重要な特性を示す。項目41は機械的なワット−力特性を示し、項目42は速度−力特性を示し、項目43は効率−力特性を示す。
【0029】
一次非対称定在波が励起される振動子1、すなわち最小の長さL≫2Hの振動子を有するモーターを参照して動作を考察する。
【0030】
モーター(図3)を作動させるために、電気的励起源23によって励起電極19および共通電極20に交流電圧が印加される。電圧の周波数fは非対称定在波を励起することのできる振動子の共鳴周波数に一致する(図4参照)。さらに、fは圧電セラミック材料の種類よりも振動子の幾何形状に依存することに注目すべきである。
【0031】
図5は、圧電セラミック材料PIC 181から作られた振動子について、振動子高さHに対する振動子長さLの比がL/H=2.25で一定であり、同様に振動子幅Bに対する振動子長さLの比がL/B=6で一定であるとき、振動子長さLの関数としての振動子の共鳴周波数f(図4における共鳴点25)の実験的に記録された依存性を示す。この依存性については、振動子の長さと共鳴周波数の積Lは一定であり、本例の場合3911kHzmmになる。この定数は、振動子1の圧電プレート11の任意の寸法について、非対称定在波の共鳴周波数fの測定に用いることができる。図4のグラフ中、共鳴周波数fの近くに他の共鳴がないため、この定数が非対称定在波の周波数を唯一確定すると結論付けることができる。
【0032】
振動子1のプレート11に非対称二次元定在波が励起されると、プレートは図6に示すように変形する。4つの変形相(項目26、27、28、29)が振動子の振動期間の1/4の時間間隔で示される。
【0033】
振動子プレート11の非対称変形より、分割面12に対して振動子長さに沿う長い端部面17の点の振動の振幅が非対称に分布していることは自明である。図7の項目30はそれぞれXおよびZ方向の振動の振幅を示す。点は項目32に示した路31に沿って動く。動作路31は直線であり、位置によって振動子端部面17と異なる角度を形成し、それらは分割面12に対して非対称に位置する。振動子の長さに沿う振幅の分布の非対称性、ならびにそれから得られる動作路の空間位置における非対称性は、振動子に励起される定在波の非対称性に起因するものである。
【0034】
中心領域33に配置された摩擦要素5は、分割面12(図8参照)に対して傾斜している直線31(35)に沿って振動する。動かすべき要素3に向かってそれが動くと、摩擦要素5と摩擦片4の間に力Fが発生し、これは垂直成分Fと接線成分Fに分割することができる。垂直成分は摩擦力を与え、このため接線成分Fは動かすべき要素3に伝達される。摩擦要素5は力の衝撃を動かすべき要素に伝達し、これによって動かすべき要素は動く。摩擦要素5の戻り動作の間、力Fは消失する。摩擦要素5と動かすべき要素3の間の摩擦力は消滅する。その慣性によって、動かすべき要素3は次の衝撃まで動きを継続する。動きの方向は図8中に矢で示される。
【0035】
スイッチ24が切り換わると、分割面12に対する能動的な発生器の位置が変化する。これは振動子1の変形パターンを鏡像にする。XおよびZ方向の振幅は振動子の中心領域33では変化しない。2つの成分間の相だけが180°変化する。この領域の動作路と分割面12の間の角度はその符号を変える。これは動かすべき要素3に逆の動きをもたらす。
【0036】
二次、三次、およびより高次の非対称定在波(図9、10、11、12参照)を励起した振動子1はその中心領域に一次振動子と類似の変形を有する。それらの振動子を用いるモーターは類似の動作モードを有する。
【0037】
図13の項目41、42、43は、圧電セラミック材料PIC 181から作られた60×26×9mmの振動子寸法を有する、本発明の超音波モーターの実施形態の最も重要な特性を示す。ローターの最大速度は600mm/sであり、最大力は50Nであり、最大機械的ワットは15Wである。モーターの最大効率は約20%である。電気的励起電圧は200Veffである。
【0038】
米国特許第5,616,980号によるMessrs Nanomotion製のHR8型超音波モーターに比べて、上述の実施形態のモーターはローターの動作の2倍の速度、ならびに1.6倍の力を発生する。振動子の場の強度はMessrs Nanomotionのモーターの約1/4である。本発明の実施形態は3個の接続だけを含むが、HR8モーターの数は40である。これは、例えば本発明のモーターの信頼性を大きく向上させる。
【0039】
本発明のモーターの製造は明らかに簡単であり、これは製造コストを大きく低減する。さらに、本モーターの構造の実現は明らかにより簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のモーターの主要な改良を示す図である。
【図2】振動子の構造を示す図である。
【図3】励起源を備える振動子の電気回路を示す図である。
【図4】振動子の電気的入力インピーダンスの振幅−周波数応答を示す図である。
【図5】振動子長さによる振動子の共鳴周波数の依存性を示す図である。
【図6】振動子の変形を示す図である。
【図7】振動子の長い端部面の点の振幅と動作路を示す図である。
【図8】モーターの動作を説明する図である。
【図9】第二次の振動子の構造を示す図である。
【図10】励起源を備える第二次の振動子の電気回路を示す図である。
【図11】第三次の振動子の構造を示す図である。
【図12】励起源を備える第三次の振動子の電気回路を示す図である。
【図13】本発明のモーターの最も重要な特性を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 圧電振動子
2 筐体
3 動かすべき要素(ローター)
4 摩擦片
5 摩擦要素
6 圧力要素
7 ベアリング
8 動き方向の矢
9 一次振動子の平面図
10 一次振動子の底部図
11 振動子1の圧電プレート
12 分割面
13 振動子1の部分
14 振動子1の部分
15 振動子1の大きな表面
16 分割面12の軌跡
17 長い端部面
18 非対称音響定在波の自給式非対称発生器
19 発生器18の励起電極
20 共通電極
21 非対称音響定在波の第2非対称発生器
22 発生器21の励起電極
23 振動子1の励起源
24 切換えスイッチ
25 共鳴点
26 振動子の変形
30 プレート11の長い端部面17の点の振幅分布
31 プレート11の長い端部面17の点の動作路
32 プレート11の長い端部面17の複数点の動作路
33 衝撃要素5の領域
34 プレート11の端部面17の点
35 摩擦要素5の点36の動作路
36 摩擦要素5の点
37 二次振動子1の平面図
38 二次振動子1の底部図
39 三次振動子1の平面図
40 三次振動子1の底部図
41 機械的ワット−力特性
42 速度−力特性
43 効率−力特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さLおよび高さHを有する圧電プレートの形の振動子、ならびに振動子に配置され、動かすべき部分の摩擦表面に対して弾性的に押圧された1個または2個の摩擦要素を備える圧電超音波モーターであって、前記圧電プレートはより大きな表面に縦に展延する区画面によって2個の同一部分に分割され、これらの部分の少なくとも1個は非対称的な音響定在波の非対称的な発生器を含み、その起動によって非対称的な2次元定在波を発生することにより、圧電プレートの長い端部面の中心に配置された摩擦要素は分割面に対して同一の傾きで運動を行い、動かすべき要素に運動エネルギーが伝達されることを特徴とする圧電超音波モーター。
【請求項2】
前記圧電振動子が、前記動かすべき部分を逆に動かすために、分割面に対して対称に配置された2個の非対称性音響定在波の非対称振動子を含み、それらの選択的な起動によって、摩擦要素の動作路と分割面間の角度がその符号を変え、動かすべき要素を駆動する力の方向を変化させることを特徴とする請求項1に記載の圧電超音波モーター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公表番号】特表2007−538484(P2007−538484A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517057(P2007−517057)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005287
【国際公開番号】WO2005/114760
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(505257752)フィジック インストゥルメント(ピーアイ)ゲーエムベーハー アンド ツェーオー.カーゲー (11)
【Fターム(参考)】