説明

圧電超音波変換器を具えるフローセル

フローセルは、窓を提供する上側透明板(1)と上面(31)を抗体(32)で被覆された下側透明板(30)と共に、空洞(34)を有する。上板(1)は、向かい合う面の酸化インジウムスズの透明電極(21)及び(22)と共に、ニオブ酸リチウムのウェーハ(20)により形成された透明な圧電変換器(2)を支持する。変換器(2)からのエネルギーがセル内の液体(35)中での圧力の節を下板(30)の表面(31)に生じるように、空洞(34)の高さを選択する。セル中を流れる浮遊状態の粒子(36)は、圧力の節によって粒子が結合する抗体の被膜(32)に集中され、窓(1,2)を通して観察される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電変換器に関するものである。
【0002】
本発明は、特に限定されないが、フローセル用の圧電超音波変換器に関するものである。
【背景技術】
【0003】
浮遊状態における細胞等の生物学的粒子は、抗体又は該粒子が結合することになる他の物質で被覆した表面を有するフローセルを用いて検出できる。その被覆された表面は、該表面に結合した粒子の存在を測定するのため、光学的に観察される。その表面は、一般に抗体物質の複数の異なる領域で被覆されるため、その異なる領域を観察することによって、異なる形態の粒子の性質を決定することが可能である。フローセル装置の感度は、被覆された表面での粒子の濃度を増大することにより改良できる。これは、Gould,R.K.,Coakley,W.T.,1973「浮遊状態の小粒子への音響エネルギーの効果」流体中での有限振幅波の効果に関する1973シンポジウム会報,pp.252-257、Hawkes,J.J.,Groeschl,M.,Benes,E.,Nowotny,H.,Coakley,W.T.,2002「超音波エネルギー場を用いる液体中での粒子の位置決め」in Revista De Acustica,vol.33 no.3−4,ISBN 84-87985-06-8 paper PHA-01-007-IP及び国際公開第2004/024287号に記載されるように、音響エネルギー、特に超音波エネルギーを用いて行うことができる。しかしながら、フローセル内に超音波変換器を含有することで、被覆された表面の領域を観察することが困難になる場合がある。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/024287号パンフレット
【非特許文献1】Gould, R.K., Coakley, W.T., 1973“The effects of acoustic forces on small particles in suspension”in Proceedings of the 1973 Symposium on Finite Amplitude Wave Effects in Fluids, pp.252−257
【非特許文献2】Hawkes, J.J., Groeschl, M., Benes, E., Nowotny, H., Coakley, W.T., 2002“Positioning particles within liquids using ultrasound force fields”in Revista De Acustica, vol.33 no.3-4, ISBN 84-87985-06-8 paper PHA-01-007-IP
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、代わりの装置及び部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、圧電変換器が光学的放射に対し透明であることを特徴とする圧電変換器を提供する。
【0007】
上記変換器は、超音波変換器等の音響変換器が好ましく、ニオブ酸リチウムのウェーハと、向かい合う面の透明電極とを含むことができる。ウェーハは、厚み滑りモードで伝播するためにz-カットであることが好ましい。電極は、酸化インジウムスズの透明層により与えられてもよい。
【0008】
本発明の他の態様によれば、ニオブ酸リチウムのウェーハと、向かい合う面の酸化インジウムスズの電極とを含む圧電変換器を提供する。
【0009】
本発明の更なる態様によれば、本発明の上記一の態様又は他の態様に従う変換器を含む光学機器を提供する。
【0010】
本発明の第四の態様によれば、浮遊状態の粒子を含む流体を受けるための空洞と、該粒子が検出用に集められる第一表面と、該第一表面を光学的に観察することができる窓とを含むセルであって、前記窓が透明な音響変換器を含み、該音響変換器によって、音響エネルギーを空洞に当てて、第一表面上に粒子を集中させることができることを特徴とするセルを提供する。
【0011】
上記窓は、第一表面と平行していることが好ましい。第一表面が圧力の節に位置するように、第一表面と窓間の空洞の高さを選択することが好ましい。第一表面は、粒子と結合するために選択される抗体の被膜を有することが好ましい。第一表面は、透明板により与えられてもよく、そのセルは、光学的な放射線源と、該線源から透明板に放射線を伝播するための装置とを含む。放射線を伝播するための装置は、透明板の外面に取り付けたプリズムを含んでもよく、該プリズムは、第一表面を臨界角で照射する等、透明板の中に放射線を向けるように配置される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
例として添付の図面を参照して本発明に従うフローセル装置を説明するが、添付の図面は、該セルの模式的な側面図であり、縮尺どおりに示されていない。
【0013】
上記セルは、光学的に透明な上側窓1をBK7ガラスの薄板の形態で含む。圧電音響変換器2は、窓と音響的に結合させるため、窓1の上面に結合している。変換器2は、厚さ1.2mmのニオブ酸リチウムのウェーハ20を具え、該厚さは、例えば3MHzの変換器(物質中の音速は7260m/sである)を用いた場合の半波長に等しい。ウェーハ20はz-カットであるので、電気的に励起されると、それが厚み滑りモードで伝播し、バルク超音波を生じる。ニオブ酸リチウムが圧電物質として機能し、また光学的に透明で、一部の用途で利益を与えることを見出した。この物質は、以前にUS4446395及びGB2214031において超音波変換器用に提案されていたが、透明な電極ではなかった。
【0014】
本明細書において、「光学的な」又は「光学的に」の用語は、可視光線に限定されず、赤外線から紫外線まで全ての波長を含む。更に、「透明な」又は「透明性」は、完全な透明性に限定されず、変換器が使用される目的において十分であれば、わずかな割合の放射線のみを伝播する限定的な透過性をも含む。
【0015】
また、変換器2は、その上部に電極21及び22と、20オーム/スクエアに相当する厚さに被覆した酸化インジウムスズの透明な薄層により形成される下面とを含む。電極21及び22は、駆動回路23と電気的に接続され、該駆動回路によって、電力が変換器2に供給され、その共振周波数で励起を生じる。
【0016】
窓1の真下に平行して、厚さ約1mmの顕微鏡用スライド等の透明なソーダガラスの下板30がある。板30の上面31は、検出される粒子と結合するために選択された抗体の一つ以上の領域32で被覆される。下板30の上面31と窓1の下面との間の間隔dは125μmである。図面に示される下板30と窓1間の間隔は、明確にするために誇張され、装置の他の部分と同一の縮尺比でないことが理解できる。下板30と窓1間の間隔は、入口及び出口(どちらも図示せず)に通じている空洞34を形成し、該入口及び出口によって、浮遊状態の(細胞等を含む)粒子36を含む流体35、典型的には水が空洞に入れられる。
【0017】
ドーブプリズム40は、厚さが9.3mmであり、下板30の下面37とオプティカルコンタクトで結合している。プリズム40は、光を光源41から下板30の中に向けて、該下板の上面を臨界角で照射するのに役立つ。
【0018】
上記装置は、上板1の真上に上板1及び下板30と垂直な軸で取り付けられ、該下板の上面31にある抗体の被膜32に焦点を合わせた、カメラ50等の光学的な観察手段によって完成される。カメラの代えて、該観察手段としては、目視による直接観察用の顕微鏡対物レンズ又は同様のルーペを含んでもよい。
【0019】
セルの寸法は、セル内部の全ての層(変換器2、窓1、空洞34、下板30及びプリズム40の厚さ等)を合わせるように、即ち、それぞれが四分の一波長か半波長のいずれかの倍数であるように選択される。例えば、空洞34の深さdは125μmであるが、これは、空洞34内の水中での音速150m/s及び周波数3MHzが与えられると、波長λは0.5mmであり、dが波長の四分の一であることを意味する。セル内部の各層は、懸濁液中に生じる圧力の節が、下面と、遠く離れた空気との界面、即ち、プリズム40の下側の外面42に位置するように合わせられる。窓1の厚さは1.5mmであるが、これは、ガラス物質中での音速が5872m/sである場合の周波数3MHzにおける0.75λと等しい。ソーダガラスの下板30は厚さ1mmであり、その物質中での音速が5600m/sである場合の3MHzにおける0.5λと等しい。プリズム40の厚さは、プリズムの物質中での音速が5872m/sである場合の5λと等しい。特に、セルの構成は、圧力の節が下板30の抗体が被覆された面31に生じるような構成である。これは、定常波が空洞34内に生じることを確実にし、浮遊状態の粒子36に放射力を経験させる。放射力が粒子36の運動を操作する結果、粒子は、抗体が被覆された面31付近の圧力の節に集中する。
【0020】
体積Vcのセルについて圧力の節から距離zでの放射力(Fr)は、
【数1】

[式中、P0は音圧のピーク振幅であり、λは水性懸濁相中での音の波長である]によって与えられる(Gould&Coakley,1973)。「音響コントラスト係数」φ(β,ρ)は、
【数2】

[式中、βc,βwは圧縮性であり、ρc,ρwはそれぞれ粒子36と流体又は懸濁相35の密度である]によって与えられる。粒子36が節面に達すると、粒子は、それらを凝集するように作用できる該面と平行して働く弱い放射力を経験する。超音波共振器がλ/4と等しい深さを有する場合、懸濁液中の圧力の節だけがリフレクタの表面に生じるように、該共振器の他の層の厚さを選択することができる(Hawkes et al.,2002)。従って、粒子は、その表面に近づかせるべきである。
【0021】
約100ミクロンの空洞深さを有する通常のフローセルにおいては、抗体で被覆された面への約2ミクロンより近い粒子のみを採取すると、わずか5%であった。抗体に結合することにより採取される粒子の全てが検出されるわけではないだろう。超音波の定常波を用いることにより、抗体で被覆された面31に隣接するように選択された小さな領域に粒子を集中させるので、本発明の配置は、粒子36を高い割合で採取することが可能である。
【0022】
音響変換器と粒子が採取されることになる表面間の近接した間隔は、通常の光学的に不透明な変換器を用いると、光学的な観察が非常に困難になる。本発明においては、変換器2の透明性が、興味のある部位を、変換器そのものを通して観察することを可能とし、それによって、障害なしに標準的な角度での観察を可能にする。
【0023】
ニオブ酸リチウムと同様に、透明で且つ同様な用途に用い得る他の圧電物質でもよい。
【0024】
圧電変換器が使用される用途は多く存在し、これらの一部について、変換器自体が透明であることが有利な場合があるので、本発明は、細胞等を採取することに限定されない。例えば、通常の適応光学は、大気を通過することによって生じる放射線に対する歪曲収差等の収差を補正するため、圧電効果を利用し、リフレクタの領域を偏光させる。透明な変換器では、透過性の適応光学を提供する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に従うフローセル装置の模式的な側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 窓
2 変換器
20 ウェーハ
21,22 電極
23 駆動回路
30 板
34 空洞
35 流体
36 粒子
41 光源
50 カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電変換器(2)が光学的放射に対し透明であることを特徴とする圧電変換器(2)。
【請求項2】
前記変換器(2)が音響変換器であることを特徴とする請求項1に記載の変換器。
【請求項3】
前記変換器(2)が超音波変換器であることを特徴とする請求項2に記載の変換器。
【請求項4】
前記変換器(2)が、ニオブ酸リチウムのウェーハ(20)と、向かい合う面の透明電極(21及び22)とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の変換器。
【請求項5】
前記ウェーハ(20)が、厚み滑りモードで伝播するためにz-カットであることを特徴とする請求項4に記載の変換器。
【請求項6】
前記電極(21及び22)が、酸化インジウムスズの透明層により与えられることを特徴とする請求項4又は5に記載の変換器。
【請求項7】
ニオブ酸リチウムのウェーハ(20)を含む圧電変換器(2)において、
前記ウェーハ(20)が、向かい合う面の酸化インジウムスズの電極(21及び22)を有することを特徴とする圧電変換器(2)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の変換器を含む光学機器。
【請求項9】
浮遊状態の粒子(36)を含む流体(35)を受けるための空洞(34)と、該粒子(36)が検出用に集められる第一表面(31)と、該第一表面(31)を光学的に観察することができる窓(1,2)とを含むセルにおいて、
前記窓が透明な音響変換器(2)を含み、該音響変換器によって、音響エネルギーを空洞(34)に当てて、第一表面(31)上に粒子(36)を集中させることができることを特徴とするセル。
【請求項10】
前記窓(1,2)が第一表面(31)と平行していることを特徴とする請求項9に記載のセル。
【請求項11】
前記第一表面(31)が圧力の節に位置するように、第一表面(31)と窓(1,2)間の空洞(34)の高さ(d)を選択することを特徴とする請求項9又は10のセル。
【請求項12】
前記第一表面(31)が、粒子(36)と結合するように選択される抗体(32)の被膜を有することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のセル。
【請求項13】
前記第一表面(31)が透明板(30)により与えられ、更に放射線源(41)と、該線源(41)から透明板(30)に放射線を伝播するための装置(40)とを含むことを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のセル。
【請求項14】
前記放射線を伝播するための装置が、透明板(30)の外面に取り付けたプリズム(40)を含み、更に、第一表面(31)を臨界角で照射する等、透明板(30)の中に放射線を向けるように、前記プリズム(40)を配置することを特徴とする請求項13に記載のセル。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−501330(P2009−501330A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520942(P2008−520942)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002540
【国際公開番号】WO2007/007070
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】