説明

在庫配置計画システム、在庫配置計画方法及びプログラム

【課題】ヤードに原材料や製品をブロック毎に配置する際に、配置計画の解が容易に且つ短時間で得られる在庫配置計画法を提供する。
【解決手段】ヤードの現在の配置状況と、原材料の入出荷情報とに基づいて、ヤードの制約条件を満足する配置計画の解を計算する。制約条件を満足する初期解が得られれば、その初期解から目的関数に従って最適解を得る。制約条件を満足する初期解が得られない場合には、制約条件を緩和して在庫配置の緩和解を求め、それに基づいて最適解を計算する。最適解の計算には、変数の数に依存して、混合整数計画法又は制約伝播法が採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在庫配置計画システム、在庫配置計画方法及びプログラムに関し、更に詳しくは、原材料や製品などの入出荷情報に基づいて、予め指定されたヤードへの複数の原材料や製品の在庫配置を計画する在庫配置計画システム、在庫配置計画方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原材料や製品などの在庫を保管する際に、その原材料や製品などの入出荷情報などに基づいて、予め指定された所定場所への効率的な在庫配置を計画する在庫配置計画方法が用いられている。従来の在庫配置計画方法では、予め設定した一定のルールに従って在庫配置を決定するルールベース手法が用いられていた。なお、本明細書では、原材料や製品などの物品の保管場所をヤードと称する。ルールベースを用いた在庫配置計画については、例えば特許文献1にその記載がある。しかし、この手法では、熟練者の知識を全てルール化する必要があり、また、ルールの優劣によって配置計画の良否が左右されるという問題がある。
【0003】
特許文献2には、ルールベースの使用に代えて、数式モデルを用いた在庫配置計画方法が記載されている。特許文献2に記載の在庫配置計画方法では、製品の受入れ計画や、製品の出荷計画、在庫計画、設備使用計画、設備修理計画、設備能力、設備現況など、在庫品や設備などに関する修理計画や現況を示す情報と、配置すべき空間であるヤードを小区分に分ける際の空間の単位を決める空間分割精度と、必要な配置計画の時間精度とを数式モデルに入力し、この数式モデルを、予め設定した評価関数(目的関数)を用いて最適化問題として解くことにより、所望の期間分の配置計画を求めている。
【特許文献1】特開平6−306493号公報
【特許文献2】特開2004−303176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の手法では、LP(線形計画法)、MIP(混合整数計画法)、QP(2次計画法)等の数理計画法と、GA(Genetic Algorithm)とを組み合わせることにより、目的関数に従って最適化問題を解き、受入れ場所、受入れ方向、受入れ量、払出し場所、払出し方向、払出し量などの配置計画を求めている。
【0005】
特許文献2に記載の在庫配置計画方法によると、最適化問題を解く際に一部をGAで解き、残りを線形計画法などで解くという手法を採用しているため、得られる最適解の精度が低いという問題がある。また、混合整数計画法を用いて最適化問題を解く手法も採用されているが、この場合には、精度が高い解が得られるものの、特に変数の数が多い場合には、必要な解を得るために多大の時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑み、特許文献2に記載の在庫配置計画方法を改良し、複数銘柄の原材料や製品などの在庫を保管する際に、考えられる全ての制約条件を入れて、効率的な在庫配置を計画する在庫配置計画システム、在庫配置計画方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の在庫配置計画システムは、ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力する初期配置計画計算部と、
前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記初期配置計画計算部が出力する解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求める緩和解探索処理部と、
前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画する最適配置計画処理部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の在庫配置計画方法は、コンピュータを用いて、ヤードに在庫を配置する配置計画を立案する在庫配置計画方法であって、
前記コンピュータが、ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力するステップと、
前記コンピュータが、前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記出力された解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求めるステップと、
前記コンピュータが、前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画するステップとを有することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明のプログラムは、コンピュータを用いてヤードの在庫配置を計画するシステムのためのプログラムであって、前記コンピュータに、
ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力するステップと、
前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記出力された解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求めるステップと、
前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画するステップとを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の在庫配置計画システム、方法及びプログラムによると、コンピュータが、考えられる全ての制約条件を満足する解、又は、全ての制約条件を満足はしないが、緩和された制約条件を満足する緩和解を配置計画として求めるため、実行可能で、且つ、経済的な配置計画が容易に得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る在庫配置計画システムを含む工場の生産システムの全体構成を示している。生産システム10は、原材料や製品の入出荷情報を生成する生産管理システム11と、その入出荷情報及び現在のヤード配置情報に基づいて、例えば1週間毎のヤードの在庫配置計画を立案する在庫配置計画システム12と、立案された在庫配置計画に従って、ヤード内の在庫の保管/再配置/出荷の管理を実施し、現在のヤード配置情報を在庫配置計画システム12にフィードバックする操業管理端末13とから構成される。
【0012】
在庫配置計画システム12は、ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷開始時期、入荷可能期間、及び、入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷開始時期、出荷可能期間、及び、出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約などを含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、配置計画の解が存在する場合には、その解を出力する初期配置計画計算部14と、制約条件を満たす解が存在する場合には、配置計画部が出力する解を用いて材料の在庫配置を計画し、制約条件を満たす解が存在しない場合には、制約条件を緩和した緩和制約条件下で配置計画の緩和解を求める緩和解探索処理部15と、求められた制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画する最適配置計画処理部16とを備える。在庫配置計画システム12は、コンピュータによって構成され、コンピュータには、計算及び入出力処理を実行するコンピュータ本体と、計算や処理を実行するためのプログラムや、入力されたデータ、計算中のデータ、計算アルゴリズムなどを格納する情報記憶部と、データを入出力する入出力装置とが含まれる。
【0013】
図2は、在庫配置計画システム12に入力される情報と、在庫配置計画システム12が実施する処理と、在庫配置計画システム12が出力する情報とを一連の情報処理の流れとして線図で示している。在庫配置計画システム12に入力される情報は、生産管理システム11から逐次入力されるトランザクション情報C10と、在庫配置計画システム12内に予め入力・設定されているマスタ情報C20と、在庫配置計画システム12内での計算に使用される計算パラメータC30とが含まれる。
【0014】
トランザクション情報C10は、原材料や製品が入荷/出荷される際の入出荷開始時刻、入出荷可能期間、その原材料や製品の品目、及び、その入出荷数量を含む入出荷情報C11と、入出荷の作業を行うクレーンについて既に決定されている運転時間及び停止時間を含む装置の稼働日時情報C12と、ヤードの位置(識別情報)、毎日の情報である各ヤードに保管されている品目及び数量などのヤード初期情報C13とを含む。マスタ情報C20は、ヤード制約条件C21と、クレーン制約条件C22と、ヤード間の横持ち用搬送車制約条件C23とを含む。ヤード制約条件C21は、ヤード毎に異なる配置可能な品目、ヤード毎及びヤード内の各ブロック毎の保管数量の上限、複数の品目の混載が認められるか否か、及び、連続するブロックに存在する在庫品目を何れのブロックから受け払いするかなどを示す受け払い条件、並びに、異なる製品(品目)又は同種の製品間に許容される距離の下限などを示す情報を含む。
【0015】
クレーン制約条件C22は、各クレーンの積載限界荷重、走行速度などの能力上限、クレーが搬送可能なヤードの情報、クレーンが搬送可能なロットサイズなどの情報を含む。横持ち用搬送車制約条件C23は、横持ち用搬送車の能力上限、搬送可能なヤード、搬送可能なロットサイズなどの情報を含む。計算パラメータC30は、計算条件設定用パラメータC31を含み、これには計画対象期間、計算評価基準、及び、計算モードの情報が含まれる。計算評価基準には、例えば、処理日数、クレーンの稼働時間、或いは、ヤードの空きブロック数などが含まれる。計算モードの情報には、例えば、解の計算にあたって実行可能解でよいか、或いは、最適解が必要かの条件が含まれる。これらは、計算の都度、或いは、一連の計算に対して与えられる。
【0016】
在庫配置計画システム12による演算処理P10には、制約モデルの作成、計算アルゴリズムの指定、及び、計算実行処理が含まれる。在庫配置計画システムから出力される出力C40には、立案対象期間内の各ヤードの在庫配置、及び、各時間におけるクレーン毎の使用計画が含まれる。
【0017】
図3は、在庫配置計画システム12が計画立案の対象とする、複数のヤードY1〜Ynを含むヤードの全体構成を、その制約条件と共に例示している。n個のヤードY1〜Yn(図示の例ではn=4)は、輸送船から陸揚げされる原材料を一時的に保管するために用いられる。各ヤードY1〜Yn内では、種々の品目(M1〜M4)の原材料が、個々のブロックB1〜Bm(図示の例ではm=6)に保管される。ヤード領域内では、クレーンによる輸送船からヤードへの積み卸し、ヤード内又はヤード間の横持ち、及び、工場への出荷(払い出し)処理が、それぞれ入荷又は出荷用の専用クレーンや、横持ち用の専用クレーンなどを利用して行われる。また、一部の原材料は、トラックなどによる払い出しも可能である。クレーンは、1日の搬送能力や、積載限界荷重、走行速度などが、また、ヤード間又はヤード内で稼働可能なエリアが、それぞれ制約条件として定められている。
【0018】
本実施形態では、各ヤードY1〜Ynでは、例えば、同一品目の原材料は、同一のブロック又は隣接するブロックB1〜Bmに配置可能であるが、異なる品目の原材料は、原材料の混合を避けるために、隣のブロックには配置できないという制約条件がある。また、最後尾のヤードYnは、他の常用のヤードY1〜Yn−1に置けない場合など、緊急時に使用する予備のヤードとしてのみ用いるという制約条件がある。
【0019】
図4は、本実施形態に係る在庫配置計画システムの出力C40のうち、立案した配置計画のうちのヤード配置情報の内容を例示している。ヤード配置情報には、それぞれが1日単位として示される時間1〜時間p内における各ブロックの配置内容が記述されており、これら情報は単位時間毎に逐次出力される。図示の例では、各ヤードY1〜Ynについて、「block[t][y][b]」をヘッダとする情報が出力される旨が示されている。ここで、ヘッダにおいて、tは時間(時間1〜時間p)を、yはヤード番号(Y1〜Yn)を、bはブロック番号(B1〜Bm)をそれぞれ示している。これら時間、ヤード番号及びブロック番号をヘッダとする情報に含まれるデータには、そのブロックに保管されている原材料の品目番号_prodNo、入出荷製品品目番号_prodNo、数量_amount、使用されたクレーン番号_craneNo、製品変化(受け入れ)量_arrivalAmount、製品変化(払い出し)量_shipAmountが含まれる。
【0020】
図5は、在庫配置計画システムの出力C40のうち、立案したクレーンの稼働情報の内容を例示している。この情報は、各クレーン(及び搬送トラック)毎に、時間単位で行われる作業を示す稼働情報である。図示の例では、時間単位は1日であり、全体の出力は、各クレーンの1週間分の稼働内容を表形式で示している。クレーンの稼働情報は、各クレーンの稼働対象となる原材料の品目、積載される荷重、ヤード番号及びブロック番号を含む。
【0021】
図6は、在庫配置計画システム12による処理の全体をフローチャートで示し、図7は図6の制約伝播法による在庫配置計算処理ステップの詳細を示している。図6において、システムによる処理が開始すると、まず、制約伝播法を用いた在庫配置計算処理ステップS30が実行される。この計算処理は、図7にその詳細を示すように、各時間t(t1〜tn)におけるループ処理として行われ、ステップS1では、時間tにおけるループ処理が設定される。このループ処理には、各時間tにおけるヤードへの入荷品目及び数量の決定処理ルーチンと、各時間tにおける出荷品目及び数量の決定処理ルーチンとが含まれる。ループ処理内の各ステップでは、ヤードや、ブロック、クレーン、入出荷品目などの変数が1つ選択されて決定する毎に、制約伝播が実行され、その後の処理に関して制約が加算される。
【0022】
入荷品目及び数量の決定処理ルーチンでは、まず、入荷リスト中に含まれる未処理の品目で最も数量の大きな品目を選択する(ステップS2)。ステップS2で、1つの品目が選択されたら、対象とするヤード(Y1〜Yn)内で同じ品目のブロックが既に存在するか否かが判定される(ステップS3)。ステップS3で、同じ品目を保管するブロックが存在していなければ、ステップS4に進み、ヤード内に空きのブロックが存在するか否かが調べられる。ステップS4で空きブロックがあると判断されると、空きブロックの内で、ヤード番号が最も小さなヤードで、且つ、ブロック番号が最も小さなブロックが選定される(ステップS5)。ステップS4で空きブロックがないと判定されると、その時間(t)においては当該品目の入荷をしないと決定し(ステップS6)、ステップS13に進む。
【0023】
ステップS3で、ヤード内に同一品目の原材料を保管しているブロックが存在すると判定されると、ステップS7に進み、ヤード内に同一品目で保管限度容量に達していない原材料を保管しているブロックが存在しているか否かが判定される。ステップS7で、そのようなブロックが存在していないと判定されると、そのブロックに隣接する空きブロック又は最も近い空きブロックが選定される(ステップS8)。空きブロックは、例えばブロック番号の大きい方の隣のブロック又は近いブロックを探し、それが存在しない場合にはブロック番号の小さい方の隣のブロック又は近いブロックを選択する。ステップS7で該当するブロックが存在すると判定されると、ステップS9に進み、ヤード内で同一品目のブロックで且つ保管数量が最も少ないブロックが選択される。次いで、使用可能なクレーンの内で最も能力が高いクレーンが選択される(ステップS10)。次いで、選択されたブロック内に、保管可能な最大量の原材料が当該ブロックに搬入される(ステップS11)。その搬入後に、同一品目の原材料でまだ入荷していない数量が残っているか否かが判定され(ステップS12)、残っていればステップS9に戻り、ステップS9〜S12の処理を繰り返す。ステップS12で、その品目の全てが入荷し終わっていると判定されると、ステップS13に進み、全ての品目について入荷処理が終わっているか否かが判定され、別の品目がまだ残っていれば、ステップS2に戻り、ステップS2〜S12を繰り返す。その時間(t)に入荷可能な全ての品目の処理が終了していると判定されると、出荷品目及び数量の決定処理ルーチンに移行する。
【0024】
出荷品目及び数量の決定処理ルーチンでは、まず、出荷リスト中に含まれる未処理の品目で最も数量が小さな品目を選択する(ステップS14)。次いで、ヤード内にその品目を保管するブロックが存在するか否かが判定される(ステップS15)。ステップS15で、その品目を保管するブロックがなければ、ステップS16に進み、出荷なしと判定して、ステップS21に進む。また、ステップS15で、その品目を保管するブロックが存在すると判定されると、ステップS17に進み、ヤード内で同一品目を保管するブロック中で最も保管量が少ないブロックが選択される。次いで、使用可能なクレーンの内で最も能力が高いクレーンが選択され(ステップS18)、先に選択されたブロックから出荷できる最大数量の原材料が出荷される(ステップS19)。次いで、その品目で出荷すべき量がまだ残っているか否かが判定され(ステップS20)、残っていればステップS17に戻り、ステップS17〜S20を繰り返す。出荷すべき数量が残っていなければ、ステップS21に進み、その時間(t)に出荷可能な全ての品目で出荷処理が終わっているか否かが判定され、残っていればステップS14に戻り、ステップS14〜S21を繰り返す。出荷すべき品目が残っていなければ、ステップS22に進み、ループ処理の設定が終了される。このループ処理は、システムの1回の処理単位である時間t1〜tnの全て、例えば時間単位を1日としたときには、1週間分の処理について、連続して設定される。
【0025】
なお、上記処理では、説明を簡単にするために、全ての品目について入荷処理を終了してから、出荷処理に移行する例を示したが、この例には限定されない。例えば、1品目について入荷処理を行ってから、当該品目について引き続き出荷処理を行うことができる。また、ヤード使用の効率化のためには、出荷処理を行った後に、入荷処理を行ってもよく、その場合にも全品目の出荷処理の完了後に入荷処理に移行してもよく、或いは、1品目毎に出荷処理及び入荷処理を連続して行ってもよい。
【0026】
図6に戻り、ステップS30における制約伝播による在庫配置計算処理が終了すると、ステップS31で全ての制約条件を満たす解(初期解)が存在しているか否かが判定される。例えば、図7の入荷処理ルーチンに際して、計画中の時間t1〜tnの全てにおいて、ステップS6で「入荷しない」と判定された場合には、全ての制約条件を満たす解が存在しない。例えば、クレーンの能力によっては、所要時間の制約条件を満足する所望の解が得られないことなども考えられる。全ての制約条件を満たす解が存在すると、各変数の値を定めた1つの解が初期解として選定される。ステップS31で全ての制約条件を満たす初期解が存在しないと判定されると、緩和解探索処理ルーチンに移行する。
【0027】
まず、緩和条件案として、通常時に配置可能な常用ヤードY1〜Y3に、図3に示した予備ヤードYnを追加する案が示される(ステップS32)。この緩和条件案を含む制約条件下で、解が存在するか否かが判定され(ステップS33)、解が存在すると判定されると、その緩和条件案及びその案に基づいた緩和解1が採用され(ステップS34)、ステップS39に進む。また、ステップS33で上記の緩和条件案でも解が存在しないと判定されると、次の緩和条件案として、クレーン能力の上限が緩和される案が示される(ステップS35)。この緩和条件案を含む制約条件下で解が存在するか否かが判定され(ステップS36)、解が存在すると判定されると、その緩和条件案及びその案に基づく緩和解2が採用され(ステップS37)、ステップ39に進む。ステップ36で、その緩和条件下で解が存在しないと判定されると、全ての緩和条件下で解が存在しないと判定し(ステップS38)、緩和解探索処理ルーチンを終了し、全体の処理を終了する。
【0028】
緩和条件として、例えば、クレーン能力の上限が緩和された場合には、そのような能力を持つクレーンが、その入荷時点で間に合うように手配される。緩和可能な制約条件としては、他に、クレーン稼働時間の緩和(延長)、異なる2つの品目間の距離、横持ち用搬送車の能力、出荷日(延長)などが挙げられる。予備のヤードは、例えば対価を支払って借用するリースのヤードであってもよい。
【0029】
ステップS31で全ての制約条件を満たす初期解が存在すると、或いは、緩和解探索処理ルーチンで緩和解が探索されると、ステップS39に進み、最適化計算の選定処理が行われる。目的関数としては、例えば処理日数、クレーンの稼働時間、或いは、ヤードの空きブロック数が選定され、処理日数やクレーンの稼働時間の最小化、或いは、ヤードの空きブロックの最大化を与える最適解が計算される。本実施形態では、最適化計算は、制約伝播法又は混合整数計画法の何れかを選択して用いるハイブリッド方法が採用される。
【0030】
最適化計算法の選定に際しては、例えば、変数の数が所定のしきい値よりも大きいか否が判定され、最適化計算における計算の複雑さが判定される。この場合、例えば、ヤード数やブロック数、品目数などの合計がしきい値よりも大きいときには、計算が複雑であると判定される。計算が複雑であると判定されると、制約伝播法による計算が選択され、フラグ1が立つ。計算が比較的簡単であると判定されると、混合整数計画法による計算が選択され、フラグ2が立つ。フラグ1が立つ場合には、以下に述べるように、実行可能な近似解が短時間で得られ、フラグ2が立つ場合には、それほど長時間を要することなく最適解が得られる。何れの方法が採用される場合にも、必要な解を得るのに要する時間が平均化される。
【0031】
ステップS39で、求める変数の数が多くフラグ1が立った場合には、ステップS40に進み、先に求められた変数の初期解又は緩和解によって得られる目的関数の初期解Einiが計算される。次に、目的関数の初期解Einiからの改善率α(0<α<1.0)が選定される。次いで、下記制約式
Enext<α×Eini
を用い、制約伝播法を用いて次の解を探索する(ステップS40)。目的関数の初期解Einiは、例えば目的関数がリードタイムであれば、「リードタイム=30日」などとして得られる。所定の繰り返し回数、又は、所定の計算時間内で連続して、目的関数であるリードタイムが短縮可能な解を逐次探索する。ステップS41で、所定回数若しくはタイムアウトが検出されると、又は、それ以前に最適解が見つかると、それまでに得られた解を記憶し探索処理を終了してステップS43に進む。制約伝播法を用いて解を探索すると、変数の数が多くても、比較的短時間で最適解の近似値が得られる。初期解、改善率及び制約式は、条件毎に予め設定されて、記憶装置に記憶されている。
【0032】
ステップS39で、求める変数の数が少なくフラグ2が立った場合には、ステップS42に進み、混合整数計画法を採用して最適解を探索する。混合整数計画法によると一般に探索時間が長くなるが、この場合には変数の数が少ないため、それほど長時間を要することなく、最適解が得られる。
【0033】
ステップS41又はステップ42で最適解又はその近似解が探索されると、その探索された解が最適解として採用され(ステップS43)、在庫配置計画処理を終了する。得られる在庫配置計画は、図4及び図5にそれぞれ示した、時間1〜時間nにおけるヤードの在庫配置状況及びクレーンの稼働状況である。図1の操業管理端末13は、在庫配置計画システム12から立案された配置計画を受け取ると、その計画情報を必要な部署に配布する。また、その後は操業状況を管理し、且つ、その操業によって得られた配置結果の情報を、在庫配置計画システム12にフィードバックする。
【0034】
上記実施形態では、例えば費用や時間コストを削減できる全ての制約条件を設定し、その全ての制約条件を満足する解が存在しない場合には、緩和条件下で緩和解を探索する処理を行う計算手順を採用した。このため、全ての制約条件を満たす解が存在する通常時には、費用や時間コストが節約され、経済的な在庫配置が可能になる。一方、全ての制約条件を満足する解が存在しない場合には、その制約条件を緩和することによって、得られた緩和解を基に管理者が現実的な対応をとることなどで、必要な解が常に得られる利点がある。また、制約伝播法又は混合整数計画法の何れかを、必要に応じて選定することによっても、最適解又はその近似解が制約時間内で得られる利点がある。
【0035】
なお、上記実施形態では、緩和解探索処理に続いて最適解を求める例を示したが、場合によっては、最適解を求めることなく、緩和解を一旦そのまま出力してもよい。その場合には、例えば、その時点で管理者による判断が入力される。
【0036】
また、上記実施形態では、制約伝播法又は混合整数計画法の何れかを選択して用いるハイブリッド方法を採用したが、それらの内の一方のみ、或いは、他の公知の手法を採用してもよい。
【0037】
更に、上記実施形態では、緩和する制約条件としては、緩和することによって、費用や時間コストが幾らか増大する制約条件が選定された。しかし、緩和する制約条件には、費用や時間コストを左右する条件には特に限定されず、例えば、その制約条件を守ることによって好ましい結果が得られる制約条件であって、且つ、緩和することによっても大きな不利益が生じない制約条件が選定される。
【0038】
更に、上記実施形態では、ヤードにおける原材料の在庫を配置する例を示したが、本発明は、ヤード内にコンテナなどを配置する配置計画にも適用可能である。この場合、コンテナに収容される内容物が同じコンテナのみが同一のブロックに配置できるなどの制約条件が付される。或いは、これに代えて、コンテナ自体を1つのブロックとして、その内容物を個別に入出荷することなども可能である。
【0039】
以上、本発明をその好適な実施態様に基づいて説明したが、本発明の在庫配置計画システム、在庫配置計画方法及びプログラムは、上記実施態様の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施態様の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る在庫配置計画システムを含む工場の生産システムのブロック図。
【図2】図1の在庫配置計画システムで使用されるデータ及び処理を示す線図。
【図3】図1の在庫配置計画システムが対象とするヤードの配置状況を示す平面図。
【図4】図1の在庫配置計画システムの出力データの一部内容を示す線図。
【図5】図1の在庫配置計画システムの出力データの一部内容を示す線図。
【図6】図1の在庫配置計画システムにおける全体処理を示すフローチャート。
【図7】図6のフローチャートにおけるステップ30の詳細を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0041】
10:生産システム
11:生産管理システム
12:在庫配置計画システム
13:操業管理端末
14:初期配置計画計算部
15:緩和解探索処理部
16:最適配置計画処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力する初期配置計画計算部と、
前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記初期配置計画計算部が出力する解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求める緩和解探索処理部と、
前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画する最適配置計画処理部とを備えることを特徴とする在庫配置計画システム。
【請求項2】
前記制約条件が、ヤード内の複数のブロック毎に収容可能な在庫量に関する制約と、品目が異なる材料の同一ブロックへの収容を禁止する制約と、ヤード内で材料を搬送するクレーンの能力に関する制約とを含む、請求項1に記載の在庫配置計画システム。
【請求項3】
前記最適配置計画処理部は、求める解に含まれる変数の数に基づいて、制約伝播法又は混合整数計画法の何れかを用いて、前記初期配置計画計算部又は緩和解探索処理部が出力する解を目的関数に従って最適化処理を行う、請求項1又は2に記載の在庫配置計画システム。
【請求項4】
コンピュータを用いて、ヤードに在庫を配置する配置計画を立案する在庫配置計画方法であって、
前記コンピュータが、ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力するステップと、
前記コンピュータが、前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記出力された解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求めるステップと、
前記コンピュータが、前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画するステップとを有することを特徴とする在庫配置計画方法。
【請求項5】
コンピュータを用いてヤードの在庫配置を計画するシステムのためのプログラムであって、前記コンピュータに、
ヤードにおける現在の在庫配置情報と、ヤードに入荷する材料の品名、入荷時期及び入荷数量を含む入荷計画情報と、ヤードから出荷する材料の品名、出荷時期及び出荷数量を含む出荷計画情報とに基づいて、ヤードに材料を配置する際の配置制約を少なくとも含む制約条件を満たす配置計画を求める計算を実施し、該配置計画の解が存在する場合には、その解を出力するステップと、
前記制約条件を満たす解が存在する場合には、前記出力された解を用いて材料の在庫配置を計画し、前記制約条件を満たす解が存在しない場合には、前記制約条件を緩和した緩和制約条件下で在庫配置の緩和解を求めるステップと、
前記制約条件を満たす解又は緩和解を用いて材料の在庫配置を計画するステップとを実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−150147(P2008−150147A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338789(P2006−338789)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】